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[論文] コンクリート境界部で腐食した 鋼構造部材の疲労寿命評価・予測式の提案 細 見 直 史 貝 沼 重 信 ** 博(工) 技術本部 技術研究所 構造技術グループ グループ長 ** 博(工) 九州大学大学院 工学研究院社会基盤部門 准教授 概 要 下路トラス橋の斜材や道路標識柱などの鋼製支柱において,鋼構造部材がコンクリートとの境界部 近傍で局部腐食し,その腐食孔により鋼構造部材に高い応力集中が生じることで,疲労き裂が発生・ 進展し,部材が破断に至った事例が報告されている.これまで,著者らはコンクリート境界部におけ る鋼部材の腐食特性を明らかにするために,モデル試験体の腐食促進試験を行なった.また,構造物 の供用年数に相当する経時腐食表面性状を評価・予測するための空間統計数値シミュレーションの手 法を提案した.また,腐食した鋼部材の疲労挙動を明らかにするため,腐食させたモデル試験体の疲 労試験を行った.さらに,任意の板厚の鋼部材における腐食表面性状の応力集中係数を定量的に明ら かにするために,腐食させたモデル試験体,および空間統計数値シミュレーションによる腐食表面性 状を対象とした有限要素応力解析を実施した.本研究では,これらの結果に基づき,コンクリート境 界部で腐食した様々な板厚の鋼構造部材に対する応力集中係数の評価手法を提案し,腐食した鋼構造 部材の疲労寿命を評価・予測した. 1.はじめに 下路トラス橋の斜材や道路標識柱などの鋼製支柱など, コンクリート境界部を有する鋼部材では,雨水や凍結防 止剤により,厳しい腐食環境に曝されることが少なくな 1) .これまで,この腐食が特に著しい場合には,腐食 孔による応力集中が原因となって,疲労き裂が発生・進 展することで斜材が破断した事例が報告されている 2 コンクリート境界部に位置する塗膜は,一様には劣化し ないが,腐食環境が他の部位に比べて厳しいために,境 界部の一部に塗膜劣化が生じると比較的早期に境界部全 周に塗膜劣化が進行する場合が多い. 同様の部位は,波形鋼板ウェブPC 橋(波形鋼板ウェ ブ埋込みタイプ)や複合トラス橋などの鋼とコンクリー トを用いた橋梁に用いられている.これらの構造物にも, 将来的にトラス橋の斜材と同様な損傷が生じることが懸 念される.そこで,著者らはモデル試験体の腐食促進試 験結果に基づき,コンクリート境界部における鋼部材の 経時腐食挙動の評価手法 3) ,および腐食表面性状の経時 性を予測するための空間統計数値シミュレーション手法 4を提案した.また,腐食させたモデル試験体の疲労試験 結果に基づき,板厚9mmの部材の経時腐食を考慮した疲 労寿命の評価・予測手法 5) を提案した.さらに,腐食促 進試験後のモデル試験体,および空間統計数値シミュレ ーションにより生成した腐食表面モデルに対して,有限 要素応力解析を行なうことで,腐食した構造部材の任意 の板厚に対する応力集中係数の評価手法 6) を提案した. 本研究では,これらの結果に基づき,コンクリート境界 部で腐食した様々な板厚の鋼構造部材に対する応力集中 係数を疲労設計曲線へ適用することで,腐食した鋼構造 部材の疲労寿命を評価・予測した. 2.腐食促進試験と空間統計数値シミュレーショ ンの概要 2.1 腐食促進試験の概要 3) 腐食促進試験は 図-1 に示す無塗装の試験体(板厚 9mmJIS G 3106 SM490 )を用いて,塩水噴霧複合サイ クル試験機で実施した.腐食サイクルにはS6-cycle を適 用し,その繰返し回数を 600cycle 毎に 600cycle 2,400cycle とした. S6-2400cycle は凍結防止剤が散布さ れる下路トラス橋斜材の塗膜劣化後の12 年程度の供用期 間に相当する. 図-1 試験体の形状および寸法 (単位:mm) シリコン樹脂による コーティング面 90 60 90 60 下面 上面 65 720 40 100 110 R25 90 上側 下側 コンクリート 側面 板厚:9mm 日本ファブテック技報 No.1 41

コンクリート境界部で腐食した R/Q H.-P. Andrä 鋼構造部材の ...1) Fritz Leonhardt et al.: Neues, vorteilhaftes Verbundmittel für Stahlverbund-Tragwerke mit hoher

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  • 存のH.-P. Andrä の疲労強度と比較すると,R/Quが50~65%の試験体では,従来のPBLよりも高い疲労強度を有していることがわかる.なお,支間を6mとするパイプスラブの設計作用力(76kN/2孔)を静的試験から算出する応力範囲に相当させると5%程度であり,今回の試験は厳しい条件下で実施したことがわかる. 5.設計せん断耐力式の提案 5.1 静的強度 式(3)は,長孔形状および鋼管断面をパラメータとし

    た回帰式である.将来的な性能照査型設計法への移行を

    視野に入れた鋼管ジベルの設計せん断耐算定式を提案す

    るため,下限値に補正した回帰式を算出し,長孔形状別

    におけるコンクリートの設計圧縮強度とせん断耐力との

    関係式を誘導する.下限値に補正した回帰式を式(4)に示す.

    32212 106.79'd1.75 2 stcuu ffQ (4)

    式(4)より,長孔形状φ85×150mm の場合における設

    計せん断耐力式の誘導を以下に示す.

    3222 106.797004.18'6.488575.1 cuu fQ 335136'8510 cuf

    ここで,設計せん断耐力式の単位を kN とし,ずれ止

    めの部材係数を考慮すると式(5)が得られる.

    bcuu fQ 1.335'51.8 (5)

    ここに, :鋼管ジベルの設計せん断耐力(kN) :コンクリートの設計圧縮強度(N / mm2) :ずれ止めの部材係数(=1.3)

    同様に長孔形状がφ70×125mm の場合の設計せん断

    耐力式を誘導すると式(6)が得られる.

    bcuu fQ 1.335'44.4 (6)

    なお,試験結果より,鋼管径はφ48.6(板厚t=1.8mm~

    2.3mm),コンクリートの設計圧縮強度は30~40N/mm2

    を適用範囲とした. 5.2 疲労強度

    疲労を考慮する場合のせん断耐力式は図-3に示すよ

    うに,試験結果の下限値を用いて回帰分析により算出し

    た.試験結果より算出した疲労強度式を式(7)に示す.

    106log649.3 NQR u (7)

    ここに, :疲労を考慮する場合の設計せん断耐力(kN)

    :繰り返し回数(回) 6.まとめ 鋼管ジベルの静的押し抜き試験および定点押し抜き疲

    労試験を実施して得られた結果を以下に示す. 1)孔形状の比較を行った結果,長孔構造はせん断耐

    力およびじん性が丸孔構造と同等以上となる構

    造であることを確認した. 2)鋼管の有無について比較を行った結果,鋼管ジベ

    ルは,せん断耐力およびじん性が長孔構造より

    向上する構造であることを確認した. 3)今回実施した2種類の鋼管ジベルのせん断耐力は

    鋼管をφ48.6mmに統一した場合においても,大きな差はみられなかった.また,試験値と評価

    式による比較により,丸孔構造と同等以上のせ

    ん断耐力を有し,かつ終局に至るまでじん性の

    高い構造であることを確認した. 4)本構造の疲労性能は,従来のPBLよりも高い疲労

    強度を有していることを確認した. 5)静的押し抜き試験および定点疲労試験結果より鋼

    管ジベルの設計せん断耐力式を検討した.その

    結果,将来的な性能照査型設計法への移行を視

    野に入れた鋼管ジベルの設計せん断耐算定式を

    提案することができた. 参考文献

    1) Fritz Leonhardt et al.: Neues, vorteilhaftes Verbundmittel für Stahlverbund-Tragwerke mit hoher Dauerfestigkeit, Beton-und Stahlbetonbau, 1987 .

    2) 保坂鐵矢,光木香,平城弘一,牛島祥貴,橘吉宏,渡辺滉:孔あき鋼板ジベルのせん断特性に関する

    試験的研究, 構造工学論文集, Vol.46A, pp.1593-1604,2000.3.

    3) 田中正明,中本啓介,大久保宣人,栗田章光:鋼板リブと鋼管を用いたずれ止めに関する研究,第

    5 回複合構造の活用に関するシンポジウム講演論文集,pp.251~pp.256,2003.11.

    4) 大久保宣人,中本啓介,田中正明,松井繁之:鋼管ジベルを用いた鋼・コンクリート合成床版に関

    する試験的研究,第 3 回道路橋床版シンポジウム講演論文集,pp.97-102,2003.6.

    5) 日本鋼構造協会:頭付きスタッドの押し抜き試験方法(案)とスタッドに関する研究の現状,JSSC テクニカルレポート,No.35,1996.1.

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    [論文] コンクリート境界部で腐食した

    鋼構造部材の疲労寿命評価・予測式の提案

    細 見 直 史*

    貝 沼 重 信**

    * 博(工) 技術本部 技術研究所 構造技術グループ グループ長

    ** 博(工) 九州大学大学院 工学研究院社会基盤部門 准教授

    J-FaB 技報 No.1 (1)

    概 要

    下路トラス橋の斜材や道路標識柱などの鋼製支柱において,鋼構造部材がコンクリートとの境界部

    近傍で局部腐食し,その腐食孔により鋼構造部材に高い応力集中が生じることで,疲労き裂が発生・

    進展し,部材が破断に至った事例が報告されている.これまで,著者らはコンクリート境界部におけ

    る鋼部材の腐食特性を明らかにするために,モデル試験体の腐食促進試験を行なった.また,構造物

    の供用年数に相当する経時腐食表面性状を評価・予測するための空間統計数値シミュレーションの手

    法を提案した.また,腐食した鋼部材の疲労挙動を明らかにするため,腐食させたモデル試験体の疲

    労試験を行った.さらに,任意の板厚の鋼部材における腐食表面性状の応力集中係数を定量的に明ら

    かにするために,腐食させたモデル試験体,および空間統計数値シミュレーションによる腐食表面性

    状を対象とした有限要素応力解析を実施した.本研究では,これらの結果に基づき,コンクリート境

    界部で腐食した様々な板厚の鋼構造部材に対する応力集中係数の評価手法を提案し,腐食した鋼構造

    部材の疲労寿命を評価・予測した.

    1.はじめに 下路トラス橋の斜材や道路標識柱などの鋼製支柱など,

    コンクリート境界部を有する鋼部材では,雨水や凍結防

    止剤により,厳しい腐食環境に曝されることが少なくな

    い1).これまで,この腐食が特に著しい場合には,腐食

    孔による応力集中が原因となって,疲労き裂が発生・進

    展することで斜材が破断した事例が報告されている2).

    コンクリート境界部に位置する塗膜は,一様には劣化し

    ないが,腐食環境が他の部位に比べて厳しいために,境

    界部の一部に塗膜劣化が生じると比較的早期に境界部全

    周に塗膜劣化が進行する場合が多い. 同様の部位は,波形鋼板ウェブPC橋(波形鋼板ウェ

    ブ埋込みタイプ)や複合トラス橋などの鋼とコンクリー

    トを用いた橋梁に用いられている.これらの構造物にも,

    将来的にトラス橋の斜材と同様な損傷が生じることが懸

    念される.そこで,著者らはモデル試験体の腐食促進試

    験結果に基づき,コンクリート境界部における鋼部材の

    経時腐食挙動の評価手法3),および腐食表面性状の経時

    性を予測するための空間統計数値シミュレーション手法4)

    を提案した.また,腐食させたモデル試験体の疲労試験

    結果に基づき,板厚9mmの部材の経時腐食を考慮した疲労寿命の評価・予測手法5)を提案した.さらに,腐食促

    進試験後のモデル試験体,および空間統計数値シミュレ

    ーションにより生成した腐食表面モデルに対して,有限

    要素応力解析を行なうことで,腐食した構造部材の任意

    の板厚に対する応力集中係数の評価手法6)を提案した.

    本研究では,これらの結果に基づき,コンクリート境界

    部で腐食した様々な板厚の鋼構造部材に対する応力集中

    係数を疲労設計曲線へ適用することで,腐食した鋼構造

    部材の疲労寿命を評価・予測した.

    2.腐食促進試験と空間統計数値シミュレーショ

    ンの概要 2.1 腐食促進試験の概要3)

    腐食促進試験は図-1に示す無塗装の試験体(板厚

    9mm,JIS G 3106 SM490)を用いて,塩水噴霧複合サイクル試験機で実施した.腐食サイクルにはS6-cycleを適用 し , そ の 繰 返 し 回 数 を 600cycle 毎 に 600cycle ~2,400cycleとした.S6-2400cycleは凍結防止剤が散布される下路トラス橋斜材の塗膜劣化後の12年程度の供用期間に相当する. 図-1 試験体の形状および寸法 (単位:mm)

    シリコン樹脂による コーティング面 90

    60

    90

    60 下面 上面

    65

    720

    40

    100 110

    R25

    90 上側 下側

    コンクリート

    側面 板厚:9mm

    日本ファブテック技報 No.140 日本ファブテック技報 No.1 41

  • (2) J-FaB 技報 No.1

    コンクリートとさび除去後の試験体表面は,レーザー

    フォーカス深度計(スポット径: 30m,分解能:0.1m)で測定した.腐食表面性状と板幅方向の平均腐食深さdcの例を図-2に示す.dcは試験体の長手方向の測定ピッチ(0.1mm)毎の板幅方向の平均腐食深さから算出した.この試験体の全面腐食による腐食深さは,

    0.15mm程度であるものの,局部腐食による最大腐食深さは,約2.1mmであり,境界線近傍で著しい腐食が生じている.同様の傾向の試験体は,20体中の10体であった.

    2.2 空間統計数値シミュレーションの概要4) 著しい局部腐食が生じた10体の試験体を対象に,空間

    統計数値シミュレーションを実施した.数値シミュレー

    ションにより,腐食深さの経時性と空間的自己相関を考

    慮した腐食表面性状を生成した.文献4)では,腐食促進試験後の試験体の腐食表面性状を回帰樹分析により,一

    般部の全面腐食,境界部および中間部の局部腐食領域の

    3領域に分類し,各々の確率場のバリオグラム分析により,腐食表面性状の各統計量(平均腐食深さ,レンジお

    よびシル)を求めた.次に,それらの統計量と腐食サイ

    クル数との相関を検討し,経時性を定式化した.この経

    時統計量に基づいて,空間的自己相関構造を有する正規

    乱数を発生させ,平均腐食深さを考慮することで,各腐

    食領域の腐食表面性状を生成した.最後に,各腐食領域

    の確率場を合成することで,各腐食サイクル数に相当す

    る腐食表面性状の腐食データを生成した.シミュレーシ

    ョ ン は 600cycle 毎 に S6-4800cycle ま で 行 い , S6-4800cycle以降は1200cycle毎にS6-9600cycleまで行なった.なお,シミュレーションは各サイクルで11回,計132回行った.本研究では,文献4)の数値シミュレーションにより生成した腐食表面データを用いて板幅方向の

    平均腐食深さを算出した.また,腐食表面性状の有限要

    素応力解析を行なった.

    3.疲労試験と有限要素応力解析の概要5) 疲労試験は腐食試験終了後の試験体を用いて,下限荷

    重を5kN,上限荷重を77kNとした片振り引張繰返し荷重により実施した.なお,これらの荷重範囲は,腐食前の

    断面の応力範囲(以下,総断面公称応力範囲gと呼

    ぶ.)が200MPaに相当する. 腐食させた試験体3)および数値シミュレーションの腐

    食表面性状4)の応力分布を求めるため,汎用応力解析コ

    ードMarc 2003を用いて有限要素応力解析を行なった.解析モデルは疲労試験で破断した全試験体がコンクリー

    ト境界線から上方に40mmの範囲内で疲労破断したため,この範囲をモデル化した.要素には8節点ソリット要素を用いた.最小要素寸法については,全面腐食による腐

    食表面性状を適正にモデル化できる寸法であれば,全面

    腐食に比して表面凹凸の大きい局部腐食を十分にモデル

    化できると考えて検討した.その結果,S6-600cycleの腐食孔の影響範囲を示すレンジ値が0.6mm以下になるように,最小要素寸法を0.4×0.4×0.4mmとした.

    腐食サイクル数S6-600cycleでは,1体のみ側面に生じた腐食孔の底部から疲労き裂が発生・進展した.それ以

    外の試験体には,疲労き裂は発生しなかった. S6-1200cycle以降の試験体については,腐食サイクル数や腐食特性によらず全て表面の端部,中央あるいは側面に生

    じた局部腐食孔の底部から疲労き裂が発生し,複数の小

    さなき裂が合体することで進展した. 有限要素応力解析で求めた最大応力範囲maxで整理

    したS-N線図を図-3に示す.図中には日本鋼構造協会の疲労設計指針7)(以下,JSSC指針と呼ぶ.)のA~Hの疲労強度等級を示している.疲労き裂の発生起点によ

    らず,強度等級はA等級を上回っている.したがって,本解析の最小要素寸法による最大応力範囲を用いれば,

    疲労強度をA等級で評価できると言える.JSSC指針では直応力が作用する場合,疲労設計曲線の傾きを3としている.そこで,S-N線図の傾きを3として,試験データを回帰した.その結果を図中の実線および次式で示す.な

    お,図中に*印で示すプロットは,き裂が中央部から発生したものである.端部あるいは側面から発生する場合

    の破断繰返し回数Nfは,疲労き裂が試験体中央部から発生する場合に比べ,板厚貫通までに要するき裂進展の繰

    返し回数が短くなるため,これらを直接的に比較できな

    い.そこで,き裂が中央部から発生した試験体データに

    ついては,回帰解析に用いず,参考値として図中に示す

    こととした.

    133 10115 .NσΔ fmax (1)

    ただし,回帰式の傾きは3に固定して回帰.

    max:最大応力範囲 (MPa) Nf:破断繰返し回数 (回)

    図-2 腐食性状と板幅方向の平均腐食深さ

    単位

    境界線からの距離 X (mm)

    材端

    から

    距離

    Y (mm)

    :板幅方向の平均 :全領域の平均

    平均

    腐食

    深さ

    dc (mm)

    境界線 S6-2400cycle

    最大腐食深さ 2.1mm

    0.15

    (3) J-FaB 技報 No.1

    4.応力集中係数の評価手法6)

    ここでは,まず,板厚減少を考慮しない最大応力集中

    係数Kt(g),max(以下,総断面の最大応力集中係数と呼ぶ.)と,板厚減少を考慮した最大応力集中係数Kt(n),max(以下,純断面の最大応力集中係数と呼ぶ.)を定義する.次に,

    平均腐食深さが応力集中係数に及ぼす影響を検討した後,

    板厚6~100mmの部材を対象に腐食表面性状および残存板厚が応力集中係数に及ぼす影響を検討する.最後に平

    均腐食深さによる応力集中係数の評価方法を検討する.

    4.1 応力集中係数

    応力集中係数は一般的に基準応力に対する最大応力の比

    で定義される8).有限要素応力解析の結果を用いて,基準

    応力に腐食による板厚減少を考慮する場合としない場合で,

    腐食表面の発生応力に及ぼす影響を検討する.

    (1) 総断面の最大応力集中係数 腐食孔底部の発生応力には,腐食表面形状と残存板厚に

    よる応力集中と板厚減少による応力増加の影響が含まれる.

    そこで,腐食前の総断面における公称応力を基準応力とし

    て,双方を考慮した応力集中係数を検討する.総断面の最

    大応力集中係数Kt(g),maxは,次式のように,総断面の長手方向の公称応力gに対する有限要素応力解析から求めた長手

    方向の最大応力maxの比で定義できる.

    ( )g

    maxmax,gt σ

    σK = (2)

    Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数 max:FEM応力解析による長手方向の最大応力 g:総断面の長手方向の公称応力

    (2) 純断面の最大応力集中係数

    板厚減少による公称応力の増加の影響を除去するため,

    腐食後の純断面の公称応力を基準応力と定義する.純断面

    の最大応力集中係数Kt(n),maxは,純断面の長手方向の公称応力nに対する有限要素応力解析から求められる長手方向の

    最大応力maxの比で定義できる.また,Kt(n),maxは腐食前後の板幅が変化しないと仮定すると,総断面の最大応力集中係

    数Kt(g),maxと腐食前後の板厚を用いて算出できる.

    ( )

    n

    maxmax,nt σ

    σK =

    ( )0

    •=tt

    K dmax,gt (3)

    Kt(n),max:純断面の最大応力集中係数 Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数 max:FEM応力解析による長手方向の最大応力 n:純断面の長手方向の公称応力 td:腐食後の板厚 (mm) t0:腐食前の板厚 (mm)

    4.2 最大応力集中係数と板厚との関係

    腐食表面に生じる最大応力集中係数に着目し,空間統計

    数値シミュレーションによる腐食表面データを用いて,板

    厚が最大応力集中係数に及ぼす影響を検討する.総断面の

    最大応力集中係数Kt(g),maxと腐食前の板厚t0の関係を図-4(a)に示す.Kt(g),maxは板厚が薄くなるにしたがい増加する傾向にある.また,腐食サイクル数ncが大きくなるに伴い著しく増加している.しかし,腐食量が最も多い9600cycleについては,板厚が増加するにしたがって,Kt(g),maxが他の試験体よりも減少し,2400cycleの場合より小さくなっている.これは,腐食の進行に伴ない腐食孔が成長・合体し,板厚

    が増加するほど表面凹凸が相対的に滑らかになるため,応

    力集中係数が小さくなったと考えられる. 総断面の応力集中係数 Kt(g),max が板厚に反比例する傾向にあることから,Kt(g),max を腐食前の板厚 t0 の逆数で整理した.その結果を図-4(b)に示す.nc が 2400cycle では,腐食前の板厚の逆数 1/t0 の増加に伴って,Kt(g),max がほぼ線形増加の傾向を示している.しかし,nc が大きくなるにしたがって Kt(g),maxの傾きが大きくなっている.

    以上から,Kt(g),max は腐食前の板厚に反比例して増加する傾向にあり,腐食量が大きい場合に,板厚が小さくな

    るにしたがって断面減少による公称応力の増加量が大き

    くなると言える.そのため,腐食が進行するほど板厚の

    違いが応力集中係数に及ぼす影響が大きくなると考えら

    れる.

    図-3 最大応力範囲で整理した S-N 線図

    104 105 106 107 108101

    102

    103

    JSSC-ABCDEFGH最

    大応力範囲

    破断繰返し回数 Nf (回)

    600120018002400

    S6-cycle

    max

    (MPa

    )

    max3 Nf = 5.11×10

    13

    **

    *:中央部からき裂発生

    日本ファブテック技報 No.142 日本ファブテック技報 No.1 43

  • (2) J-FaB 技報 No.1

    コンクリートとさび除去後の試験体表面は,レーザー

    フォーカス深度計(スポット径: 30m,分解能:0.1m)で測定した.腐食表面性状と板幅方向の平均腐食深さdcの例を図-2に示す.dcは試験体の長手方向の測定ピッチ(0.1mm)毎の板幅方向の平均腐食深さから算出した.この試験体の全面腐食による腐食深さは,

    0.15mm程度であるものの,局部腐食による最大腐食深さは,約2.1mmであり,境界線近傍で著しい腐食が生じている.同様の傾向の試験体は,20体中の10体であった.

    2.2 空間統計数値シミュレーションの概要4) 著しい局部腐食が生じた10体の試験体を対象に,空間

    統計数値シミュレーションを実施した.数値シミュレー

    ションにより,腐食深さの経時性と空間的自己相関を考

    慮した腐食表面性状を生成した.文献4)では,腐食促進試験後の試験体の腐食表面性状を回帰樹分析により,一

    般部の全面腐食,境界部および中間部の局部腐食領域の

    3領域に分類し,各々の確率場のバリオグラム分析により,腐食表面性状の各統計量(平均腐食深さ,レンジお

    よびシル)を求めた.次に,それらの統計量と腐食サイ

    クル数との相関を検討し,経時性を定式化した.この経

    時統計量に基づいて,空間的自己相関構造を有する正規

    乱数を発生させ,平均腐食深さを考慮することで,各腐

    食領域の腐食表面性状を生成した.最後に,各腐食領域

    の確率場を合成することで,各腐食サイクル数に相当す

    る腐食表面性状の腐食データを生成した.シミュレーシ

    ョ ン は 600cycle 毎 に S6-4800cycle ま で 行 い , S6-4800cycle以降は1200cycle毎にS6-9600cycleまで行なった.なお,シミュレーションは各サイクルで11回,計132回行った.本研究では,文献4)の数値シミュレーションにより生成した腐食表面データを用いて板幅方向の

    平均腐食深さを算出した.また,腐食表面性状の有限要

    素応力解析を行なった.

    3.疲労試験と有限要素応力解析の概要5) 疲労試験は腐食試験終了後の試験体を用いて,下限荷

    重を5kN,上限荷重を77kNとした片振り引張繰返し荷重により実施した.なお,これらの荷重範囲は,腐食前の

    断面の応力範囲(以下,総断面公称応力範囲gと呼

    ぶ.)が200MPaに相当する. 腐食させた試験体3)および数値シミュレーションの腐

    食表面性状4)の応力分布を求めるため,汎用応力解析コ

    ードMarc 2003を用いて有限要素応力解析を行なった.解析モデルは疲労試験で破断した全試験体がコンクリー

    ト境界線から上方に40mmの範囲内で疲労破断したため,この範囲をモデル化した.要素には8節点ソリット要素を用いた.最小要素寸法については,全面腐食による腐

    食表面性状を適正にモデル化できる寸法であれば,全面

    腐食に比して表面凹凸の大きい局部腐食を十分にモデル

    化できると考えて検討した.その結果,S6-600cycleの腐食孔の影響範囲を示すレンジ値が0.6mm以下になるように,最小要素寸法を0.4×0.4×0.4mmとした.

    腐食サイクル数S6-600cycleでは,1体のみ側面に生じた腐食孔の底部から疲労き裂が発生・進展した.それ以

    外の試験体には,疲労き裂は発生しなかった. S6-1200cycle以降の試験体については,腐食サイクル数や腐食特性によらず全て表面の端部,中央あるいは側面に生

    じた局部腐食孔の底部から疲労き裂が発生し,複数の小

    さなき裂が合体することで進展した. 有限要素応力解析で求めた最大応力範囲maxで整理

    したS-N線図を図-3に示す.図中には日本鋼構造協会の疲労設計指針7)(以下,JSSC指針と呼ぶ.)のA~Hの疲労強度等級を示している.疲労き裂の発生起点によ

    らず,強度等級はA等級を上回っている.したがって,本解析の最小要素寸法による最大応力範囲を用いれば,

    疲労強度をA等級で評価できると言える.JSSC指針では直応力が作用する場合,疲労設計曲線の傾きを3としている.そこで,S-N線図の傾きを3として,試験データを回帰した.その結果を図中の実線および次式で示す.な

    お,図中に*印で示すプロットは,き裂が中央部から発生したものである.端部あるいは側面から発生する場合

    の破断繰返し回数Nfは,疲労き裂が試験体中央部から発生する場合に比べ,板厚貫通までに要するき裂進展の繰

    返し回数が短くなるため,これらを直接的に比較できな

    い.そこで,き裂が中央部から発生した試験体データに

    ついては,回帰解析に用いず,参考値として図中に示す

    こととした.

    133 10115 .NσΔ fmax (1)

    ただし,回帰式の傾きは3に固定して回帰.

    max:最大応力範囲 (MPa) Nf:破断繰返し回数 (回)

    図-2 腐食性状と板幅方向の平均腐食深さ

    単位

    境界線からの距離 X (mm)

    材端

    から

    距離

    Y (mm)

    :板幅方向の平均 :全領域の平均

    平均

    腐食

    深さ

    dc (mm)

    境界線 S6-2400cycle

    最大腐食深さ 2.1mm

    0.15

    (3) J-FaB 技報 No.1

    4.応力集中係数の評価手法6)

    ここでは,まず,板厚減少を考慮しない最大応力集中

    係数Kt(g),max(以下,総断面の最大応力集中係数と呼ぶ.)と,板厚減少を考慮した最大応力集中係数Kt(n),max(以下,純断面の最大応力集中係数と呼ぶ.)を定義する.次に,

    平均腐食深さが応力集中係数に及ぼす影響を検討した後,

    板厚6~100mmの部材を対象に腐食表面性状および残存板厚が応力集中係数に及ぼす影響を検討する.最後に平

    均腐食深さによる応力集中係数の評価方法を検討する.

    4.1 応力集中係数

    応力集中係数は一般的に基準応力に対する最大応力の比

    で定義される8).有限要素応力解析の結果を用いて,基準

    応力に腐食による板厚減少を考慮する場合としない場合で,

    腐食表面の発生応力に及ぼす影響を検討する.

    (1) 総断面の最大応力集中係数 腐食孔底部の発生応力には,腐食表面形状と残存板厚に

    よる応力集中と板厚減少による応力増加の影響が含まれる.

    そこで,腐食前の総断面における公称応力を基準応力とし

    て,双方を考慮した応力集中係数を検討する.総断面の最

    大応力集中係数Kt(g),maxは,次式のように,総断面の長手方向の公称応力gに対する有限要素応力解析から求めた長手

    方向の最大応力maxの比で定義できる.

    ( )g

    maxmax,gt σ

    σK = (2)

    Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数 max:FEM応力解析による長手方向の最大応力 g:総断面の長手方向の公称応力

    (2) 純断面の最大応力集中係数

    板厚減少による公称応力の増加の影響を除去するため,

    腐食後の純断面の公称応力を基準応力と定義する.純断面

    の最大応力集中係数Kt(n),maxは,純断面の長手方向の公称応力nに対する有限要素応力解析から求められる長手方向の

    最大応力maxの比で定義できる.また,Kt(n),maxは腐食前後の板幅が変化しないと仮定すると,総断面の最大応力集中係

    数Kt(g),maxと腐食前後の板厚を用いて算出できる.

    ( )

    n

    maxmax,nt σ

    σK =

    ( )0

    •=tt

    K dmax,gt (3)

    Kt(n),max:純断面の最大応力集中係数 Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数 max:FEM応力解析による長手方向の最大応力 n:純断面の長手方向の公称応力 td:腐食後の板厚 (mm) t0:腐食前の板厚 (mm)

    4.2 最大応力集中係数と板厚との関係

    腐食表面に生じる最大応力集中係数に着目し,空間統計

    数値シミュレーションによる腐食表面データを用いて,板

    厚が最大応力集中係数に及ぼす影響を検討する.総断面の

    最大応力集中係数Kt(g),maxと腐食前の板厚t0の関係を図-4(a)に示す.Kt(g),maxは板厚が薄くなるにしたがい増加する傾向にある.また,腐食サイクル数ncが大きくなるに伴い著しく増加している.しかし,腐食量が最も多い9600cycleについては,板厚が増加するにしたがって,Kt(g),maxが他の試験体よりも減少し,2400cycleの場合より小さくなっている.これは,腐食の進行に伴ない腐食孔が成長・合体し,板厚

    が増加するほど表面凹凸が相対的に滑らかになるため,応

    力集中係数が小さくなったと考えられる. 総断面の応力集中係数 Kt(g),max が板厚に反比例する傾向にあることから,Kt(g),max を腐食前の板厚 t0 の逆数で整理した.その結果を図-4(b)に示す.nc が 2400cycle では,腐食前の板厚の逆数 1/t0 の増加に伴って,Kt(g),max がほぼ線形増加の傾向を示している.しかし,nc が大きくなるにしたがって Kt(g),maxの傾きが大きくなっている.

    以上から,Kt(g),max は腐食前の板厚に反比例して増加する傾向にあり,腐食量が大きい場合に,板厚が小さくな

    るにしたがって断面減少による公称応力の増加量が大き

    くなると言える.そのため,腐食が進行するほど板厚の

    違いが応力集中係数に及ぼす影響が大きくなると考えら

    れる.

    図-3 最大応力範囲で整理した S-N 線図

    104 105 106 107 108101

    102

    103

    JSSC-ABCDEFGH最

    大応力範囲

    破断繰返し回数 Nf (回)

    600120018002400

    S6-cycle

    m

    ax (M

    Pa)

    max3 Nf = 5.11×10

    13

    **

    *:中央部からき裂発生

    日本ファブテック技報 No.142 日本ファブテック技報 No.1 43

  • (4) J-FaB 技報 No.1

    4.3 腐食表面形状と残存板厚による最大応力

    集中係数

    総断面の応力集中から平均腐食深さの影響を除去す

    るため,純断面の最大応力集中係数 Kt(n),max を腐食後の板幅方向平均板厚の逆数 1/td で整理する.その結果に基づき,腐食表面形状と残存板厚の 2 種類の応力集中係数を提案する.

    (1) 腐食表面形状による最大応力集中係数

    図-5(a)は Kt(n),max と 1/td の関係を示している.図中の実線は,1/td と Kt(n),max の回帰直線である. Kt(n),maxは,腐食後の板幅方向平均板厚に反比例して増加して

    いる.また,Kt(n),max は,それぞれ一定の傾きで増加していることから,残存する平均板厚に応じて Kt(n),max が増加すると考えられる.さらに,図中の回帰直線の切

    片は,板厚が無限大の場合の Kt(n),max に相当することから,残存板厚の影響を受けない腐食表面の凹凸のみに

    よる応力集中係数(以下,腐食表面形状による最大応

    力集中係数 Kt(gcp),max と呼ぶ.)を表すと考えられる.

    (2) 残存板厚による最大応力集中係数 図-5(a)に示す Kt(n),max を Kt(gcp),max(回帰式の切片)

    で除することで,残存板厚による最大応力集中係数

    Kt(pt),max を求めた.Kt(pt),max と腐食後板幅方向平均板厚の逆数 1/td の関係を図-5(b)に示す.図中の実線は,1/td と Kt(gcp),max の回帰直線である.回帰直線の係数(以下,残存板厚係数と呼ぶ.)は,Kt(pt),max を定める定数を表すものと考えられる.残存板厚係数は腐食サイ

    クル数 nc が増加するとともに大きくなっている.そのため,は腐食の程度により異なり,腐食が著しいほど

    (a) 腐食前の板厚 (b) 腐食前の板厚の逆数

    図-4 総断面の応力集中係数と腐食前の板厚の関係

    0 20 40 60 80 100

    4

    8

    12

    16

    総断

    面の

    最大

    応力集

    中係

    数 K

    t(g),m

    ax

    腐食前の板厚 t (mm)

    腐食サイクル数

    2400(S6- cycles)

    72004800 9600

    0 0.05 0.1 0.15

    4

    8

    12

    16

    総断

    面の

    最大

    応力

    集中

    係数

    Kt(g

    ),max

    腐食前の板厚の逆数 1/t (mm- 1)

    腐食サイクル数

    2400

    (S6- cycles)

    72004800 9600

    t0 1/t0

    (a) 純断面の最大応力集中係数 (b) 残存板厚による最大応力集中係数

    図-5 最大応力集中係数と腐食後の平均板厚の逆数との関係

    0.05 0.10 0.15 0.20 0.250

    1

    2

    3

    4

    残存

    板厚に

    よる

    最大

    応力

    集中

    係数

    Kt(p

    t),m

    ax

    腐食後の板幅方向平均板厚の逆数 1/td (mm- 1)

    腐食サイクル数

    2400

    (S6- cycles)

    7200

    4800 9600Kt(pt),max=12.0/td+1

    Kt(pt),max=2.02/td+1 (R=0.99)

    Kt(pt),max=4.52/td+1 (R=0.99)

    Kt(pt),max=7.33/td+1 (R=0.99)

    (R=0.99)

    0.05 0.10 0.15 0.20 0.250

    4

    8

    12

    16

    純断

    面の最

    大応

    力集

    中係

    数 K

    t(n),m

    ax

    腐食後の板幅方向平均板厚の逆数 1/td (mm- 1)

    腐食サイクル数

    2400

    (S6- cycles)

    7200

    4800 9600 Kt(n),max=28.4/td+2.36

    Kt(n),max=28.5/td+2.35 (R=0.99)

    Kt(n),max=14.7/td+3.25 (R=0.99)

    Kt(n),max=23.7/td+3.23 (R=0.99)

    (R=0.99)

    K

    K 4.75

    (5) J-FaB 技報 No.1

    増加する可能性がある.これは腐食が進行することで

    腐食孔底部の残存板厚が減少するためと考えられる.

    Kt(pt),max は,Kt(n),max と Kt(gcp),max により次式で表すことができる.

    max,pttmax,gcptmax,nt KKK (4)

    1 dmax,ptt tαK

     1-0 cdtα (5)

    Kt(n),max:純断面の最大応力集中係数 Kt(gcp),max:腐食表面形状による最大応力集中係数 Kt(pt),max:残存板厚による最大応力集中係数 :残存板厚係数

    td:腐食後の板幅方向の平均板厚 (mm) t0:腐食前の板厚(両面腐食の場合 t0/2)(mm) dc:板幅方向の平均腐食深さ (mm)

    (3) 総断面の最大応力集中係数

    これまで,純断面の最大応力集中係数 Kt(n),max を腐食表面形状による最大応力集中係数 Kt(gcp),max と残存板厚による最大応力集中係数 Kt(pt),max から求めた.ここでは,総断面の最大応力集中係数 Kt(g),max の評価方法について検討する.Kt(g),max は式(3)により Kt(n),max を用いて求められる.式(3)に式(4)を代入すると,Kt(g),max は以下のように表すことができる.

    ( )( ) ( )

    0-1×

    =tdKK

    Kc

    max,pttmax,gcptmax,gt (6)

    Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数 Kt(gcp),max:腐食表面形状による最大応力集中係数 Kt(pt),max:残存板厚による最大応力集中係数 dc:板幅方向の平均腐食深さ (mm) t0:腐食前の板厚(両面腐食の場合 t0/2)(mm)

    腐食鋼板のKt(g),maxは,腐食表面形状による最大応力集中係数Kt(gcp),maxと残存板厚による最大応力集中係数Kt(pt),maxの積を残存断面の比率で除することで算出できる.なお,腐食初期の段階では,Kt(gcp),maxが支配的になるものの,腐食が進行するにしたがって板幅方向の平均腐食深

    さdcによる断面欠損の影響が大きくなる.これは式(5)および式(6)に示すように,dcがKt(pt),maxと公称応力の増加の両方に影響するためと考えられる.

    4.4 最大応力集中係数と平均腐食深さの関係

    式(6)の総断面の最大応力集中係数Kt(g),maxを算出するためには,板幅方向の平均腐食深さdcを求める必要がある.ここでは,最大応力集中係数と板幅方向の平均腐食深さの

    最大値との関係を検討することで,この指標によるKt(g),maxの評価を考える.

    (1) 板幅方向の平均腐食深さの最大値

    板幅方向の平均腐食深さの最大値dc,maxの経時性は,腐食サイクル数ncと線形増加の傾向にあった.また,境界部を有する鋼部材の腐食は,腐食位置が限定されるため,

    dc,maxの位置と疲労き裂が生じた断面の位置がほぼ一致した試験体は15体中11体であった.そのため,境界部に局部腐食が生じる場合,dc,maxは平均腐食深さの特性値として,応力集中係数の評価に適用できると考えられる.そ

    こで,最大応力発生位置のdc,pとdc,maxの関係を検討する. 図-6(a)に dc,p と dc,max の関係を示す.腐食促進試験

    0 1 2 3 4

    5

    10

    15

    20

    総断面

    の最

    大応力

    集中

    係数

    Kt(g

    ),max

    板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max (mm)

    腐食促進試験 Kt(g),max(t)

    シミュレーション Kt(g),max(s)

    Kt(g),max(s)=2.86dc,max +1

    Kt(g),max(t)=2.70dc,max +1

    (R=0.93)

    (R=0.94)

    (a) 最大応力発生位置との関係 (b) 総断面の最大応力集中係数との関係

    図-6 板幅方向の平均腐食深さの最大値

    0 1 2 3 4

    1

    2

    3

    4

    板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max (mm)

    腐食促進試験

    シミュレーション

    R=0.97

    最大応力発生位置の

    板幅方向

    の平均腐

    食深さ

    dc (

    mm

    )

    t0=9mm

    d c,p

    (m

    m)

    日本ファブテック技報 No.144 日本ファブテック技報 No.1 45

  • (4) J-FaB 技報 No.1

    4.3 腐食表面形状と残存板厚による最大応力

    集中係数

    総断面の応力集中から平均腐食深さの影響を除去す

    るため,純断面の最大応力集中係数 Kt(n),max を腐食後の板幅方向平均板厚の逆数 1/td で整理する.その結果に基づき,腐食表面形状と残存板厚の 2 種類の応力集中係数を提案する.

    (1) 腐食表面形状による最大応力集中係数

    図-5(a)は Kt(n),max と 1/td の関係を示している.図中の実線は,1/td と Kt(n),max の回帰直線である. Kt(n),maxは,腐食後の板幅方向平均板厚に反比例して増加して

    いる.また,Kt(n),max は,それぞれ一定の傾きで増加していることから,残存する平均板厚に応じて Kt(n),max が増加すると考えられる.さらに,図中の回帰直線の切

    片は,板厚が無限大の場合の Kt(n),max に相当することから,残存板厚の影響を受けない腐食表面の凹凸のみに

    よる応力集中係数(以下,腐食表面形状による最大応

    力集中係数 Kt(gcp),max と呼ぶ.)を表すと考えられる.

    (2) 残存板厚による最大応力集中係数 図-5(a)に示す Kt(n),max を Kt(gcp),max(回帰式の切片)

    で除することで,残存板厚による最大応力集中係数

    Kt(pt),max を求めた.Kt(pt),max と腐食後板幅方向平均板厚の逆数 1/td の関係を図-5(b)に示す.図中の実線は,1/td と Kt(gcp),max の回帰直線である.回帰直線の係数(以下,残存板厚係数と呼ぶ.)は,Kt(pt),max を定める定数を表すものと考えられる.残存板厚係数は腐食サイ

    クル数 nc が増加するとともに大きくなっている.そのため,は腐食の程度により異なり,腐食が著しいほど

    (a) 腐食前の板厚 (b) 腐食前の板厚の逆数

    図-4 総断面の応力集中係数と腐食前の板厚の関係

    0 20 40 60 80 100

    4

    8

    12

    16

    総断

    面の

    最大

    応力集

    中係

    数 K

    t(g),m

    ax

    腐食前の板厚 t (mm)

    腐食サイクル数

    2400(S6- cycles)

    72004800 9600

    0 0.05 0.1 0.15

    4

    8

    12

    16

    総断

    面の

    最大

    応力

    集中

    係数

    Kt(g

    ),max

    腐食前の板厚の逆数 1/t (mm- 1)

    腐食サイクル数

    2400

    (S6- cycles)

    72004800 9600

    t0 1/t0

    (a) 純断面の最大応力集中係数 (b) 残存板厚による最大応力集中係数

    図-5 最大応力集中係数と腐食後の平均板厚の逆数との関係

    0.05 0.10 0.15 0.20 0.250

    1

    2

    3

    4

    残存

    板厚に

    よる

    最大

    応力

    集中

    係数

    Kt(p

    t),m

    ax

    腐食後の板幅方向平均板厚の逆数 1/td (mm- 1)

    腐食サイクル数

    2400

    (S6- cycles)

    7200

    4800 9600Kt(pt),max=12.0/td+1

    Kt(pt),max=2.02/td+1 (R=0.99)

    Kt(pt),max=4.52/td+1 (R=0.99)

    Kt(pt),max=7.33/td+1 (R=0.99)

    (R=0.99)

    0.05 0.10 0.15 0.20 0.250

    4

    8

    12

    16

    純断

    面の最

    大応

    力集

    中係

    数 K

    t(n),m

    ax

    腐食後の板幅方向平均板厚の逆数 1/td (mm- 1)

    腐食サイクル数

    2400

    (S6- cycles)

    7200

    4800 9600 Kt(n),max=28.4/td+2.36

    Kt(n),max=28.5/td+2.35 (R=0.99)

    Kt(n),max=14.7/td+3.25 (R=0.99)

    Kt(n),max=23.7/td+3.23 (R=0.99)

    (R=0.99)

    K

    K 4.75

    (5) J-FaB 技報 No.1

    増加する可能性がある.これは腐食が進行することで

    腐食孔底部の残存板厚が減少するためと考えられる.

    Kt(pt),max は,Kt(n),max と Kt(gcp),max により次式で表すことができる.

    max,pttmax,gcptmax,nt KKK (4)

    1 dmax,ptt tαK

     1-0 cdtα (5)

    Kt(n),max:純断面の最大応力集中係数 Kt(gcp),max:腐食表面形状による最大応力集中係数 Kt(pt),max:残存板厚による最大応力集中係数 :残存板厚係数

    td:腐食後の板幅方向の平均板厚 (mm) t0:腐食前の板厚(両面腐食の場合 t0/2)(mm) dc:板幅方向の平均腐食深さ (mm)

    (3) 総断面の最大応力集中係数

    これまで,純断面の最大応力集中係数 Kt(n),max を腐食表面形状による最大応力集中係数 Kt(gcp),max と残存板厚による最大応力集中係数 Kt(pt),max から求めた.ここでは,総断面の最大応力集中係数 Kt(g),max の評価方法について検討する.Kt(g),max は式(3)により Kt(n),max を用いて求められる.式(3)に式(4)を代入すると,Kt(g),max は以下のように表すことができる.

    ( )( ) ( )

    0-1×

    =tdKK

    Kc

    max,pttmax,gcptmax,gt (6)

    Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数 Kt(gcp),max:腐食表面形状による最大応力集中係数 Kt(pt),max:残存板厚による最大応力集中係数 dc:板幅方向の平均腐食深さ (mm) t0:腐食前の板厚(両面腐食の場合 t0/2)(mm)

    腐食鋼板のKt(g),maxは,腐食表面形状による最大応力集中係数Kt(gcp),maxと残存板厚による最大応力集中係数Kt(pt),maxの積を残存断面の比率で除することで算出できる.なお,腐食初期の段階では,Kt(gcp),maxが支配的になるものの,腐食が進行するにしたがって板幅方向の平均腐食深

    さdcによる断面欠損の影響が大きくなる.これは式(5)および式(6)に示すように,dcがKt(pt),maxと公称応力の増加の両方に影響するためと考えられる.

    4.4 最大応力集中係数と平均腐食深さの関係

    式(6)の総断面の最大応力集中係数Kt(g),maxを算出するためには,板幅方向の平均腐食深さdcを求める必要がある.ここでは,最大応力集中係数と板幅方向の平均腐食深さの

    最大値との関係を検討することで,この指標によるKt(g),maxの評価を考える.

    (1) 板幅方向の平均腐食深さの最大値

    板幅方向の平均腐食深さの最大値dc,maxの経時性は,腐食サイクル数ncと線形増加の傾向にあった.また,境界部を有する鋼部材の腐食は,腐食位置が限定されるため,

    dc,maxの位置と疲労き裂が生じた断面の位置がほぼ一致した試験体は15体中11体であった.そのため,境界部に局部腐食が生じる場合,dc,maxは平均腐食深さの特性値として,応力集中係数の評価に適用できると考えられる.そ

    こで,最大応力発生位置のdc,pとdc,maxの関係を検討する. 図-6(a)に dc,p と dc,max の関係を示す.腐食促進試験

    0 1 2 3 4

    5

    10

    15

    20

    総断面

    の最

    大応力

    集中

    係数

    Kt(g

    ),max

    板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max (mm)

    腐食促進試験 Kt(g),max(t)

    シミュレーション Kt(g),max(s)

    Kt(g),max(s)=2.86dc,max +1

    Kt(g),max(t)=2.70dc,max +1

    (R=0.93)

    (R=0.94)

    (a) 最大応力発生位置との関係 (b) 総断面の最大応力集中係数との関係

    図-6 板幅方向の平均腐食深さの最大値

    0 1 2 3 4

    1

    2

    3

    4

    板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max (mm)

    腐食促進試験

    シミュレーション

    R=0.97

    最大応力発生位置の

    板幅方向

    の平均腐

    食深さ

    dc (

    mm

    )t0=9mm

    d c,p

    (m

    m)

    日本ファブテック技報 No.144 日本ファブテック技報 No.1 45

  • (6) J-FaB 技報 No.1

    とシミュレーションのデータの傾向は,良く一致して

    いる.また,dc,p は dc,max と同様の傾向にある.そこで,dc,maxによる総断面の最大応力集中係数 Kt(g),maxの評価方法について検討する. dc,max と Kt(g),max の関係を図-6(b)に示す.促進試験お

    よびシミュレーションによるデータのばらつきは小さ

    い.dc,max は Kt(g),max と高い相関にあることから,Kt(g),max の評価の際に有効な指標になると考えられる.Kt(g),maxと dc,maxの関係は,次式で表すことができる.

    1862 max,cmax,gt d.K (t0=9mm) (7)

    Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数 dc,max:板幅方向の平均腐食深さの最大値 (mm) t0:腐食前の板厚 (mm)

    4.5 平均腐食深さによる応力集中係数の評価・

    予測

    ここでは,板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max による任意の板厚を有する鋼部材の最大応力集中係数の評

    価・予測方法を検討する. (1) 腐食表面形状による最大応力集中係数

    腐食表面形状による最大応力集中係数 Kt(gcp),max とdc,max の関係を図-7(a)に示す.シミュレーションの結果は,腐食促進試験結果の傾向と良く一致している.図

    中に実線で示す対数回帰直線は,シミュレーションと腐

    食促進試験結果の傾向を良く表しており,相関係数も高

    くなっている.そのため,Kt(gcp),max は dc,max を用いて次式

    で評価できると考えられる.

    mmax,gcptK ln576.0   732.d max,c (8)

      5102 .KK mmax,gcptsmmax,gcpt (9)

    Kt(gcp),max(m):腐食表面形状による最大応力集中係数

    の平均値 Kt(gcp),max(m+2s):腐食表面形状による最大応力集中

    係数の最大値 dc,max:板幅方向の平均腐食深さの最大値 (mm)

    (2) 残存板厚係数

    板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,maxと残存板厚係数の関係を図-7(b)に示す.腐食促進試験およびシミュ

    レーション結果のばらつきは dc,maxが増加するにしたがって大きくなっている.dc,max をで線形回帰した結果を図中に実線で示す.は dc,max と次式のように表すことができる.

    max,cm d.α 162 (10)

     msm α.α 712 (11)

    (m):残存板厚係数の平均値 m+2s:残存板厚係数の最大値 dc,max:板幅方向の平均腐食深さの最大値 (mm)

    (a) 腐食表面形状 (b) 残存板厚係数

    図-7 最大応力集中係数と板幅方向の平均腐食深さの関係

    10-2 10-1 100 1011

    2

    3

    4

    腐食

    表面

    性状

    によ

    る応

    力集

    中係

    数 K

    t(gcp

    )

    板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max (mm)

    シミュレーション

    促進試験

    Kt(gcp),(m) = 0.576ln( dc,max ) + 2.73(R=0.89)m m-2sm+2s

    Kt(gcp),(m+2s)

    = 0.576ln( dc,max ) + 3.24

    *

    **:中央部

    0 1 2 3 4

    5

    10

    15

    残存

    板厚

    係数

    板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max (mm)

    シミュレーション

    促進試験

    m

    m+2s

    m-2s

    (m+2s)= 3.65dc,max

    (m) = 2.16dc,max

    (7) J-FaB 技報 No.1

    5. 腐食した鋼構造部材の疲労寿命の評価・予測

    5.1 応力集中係数による疲労寿命の評価

    総断面の最大応力集中係数 Kt(g),max を疲労設計曲線へ適用することを考える.式(1)に式(2)を代入すると疲労設計曲線は Kt(g),maxを用いて次式のように表すことができる.

    3133 10115 max,gtfg K.NσΔ (12)

    g:総断面公称応力範囲 (MPa) Nf:破断繰返し回数 (回) Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数

    Kt(g),max で整理した S-N 線図を図-8に示す.コンクリート境界部の鋼部材の腐食後における疲労強度は,

    Kt(g),maxが 3 では D 等級程度であるが,7 程度になると H等級まで低下している.

    5.2 断面欠損率による応力集中係数の評価・予測

    ここでは,対象部材の疲労寿命の評価・予測方法と

    して,腐食深さを用いた方法を検討する.

    (1) 断面欠損率

    4.4で前述したように,総断面の最大応力集中係

    数は板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max により評価できる.ここでは,腐食前の板厚 t0 に対する板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max の比(以下,断面欠損率と呼ぶ.)を用いることで,腐食後の疲労寿命の評

    価・予測を行う. 残存断面を簡便に求めるため,板幅方向の断面欠損

    は考慮しないと仮定すると,は dc,max と次式の関係にある.

    1000

    tdβ

    η max,c (13)

    :断面欠損率 (%) :片面腐食=1,両面腐食=2 dc,max:板幅方向の平均腐食深さの最大値 (mm) t0:腐食前の板厚 (mm)

    (2) 板厚を考慮しない最大応力集中係数 板厚を考慮した応力集中係数の推定結果と比較・検討

    するため,図-6(b)に示す板厚 9mm を対象とした総断面の最大応力集中係数 Kt(g),max を断面欠損率に基づいて整理する.Kt(g),max は式(7)に式(13)を代入し,を用いて表すことができる.

    110862 02- t.K max,gt (t0=9mm) (14)

    Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数 t0:腐食前の板厚 (mm) :断面欠損率 (%) :片面腐食=1,両面腐食=2

    (3) 板厚を考慮した最大応力集中係数

    ここでは,板厚を考慮した総断面の最大応力集中係数

    Kt(g),max をにより評価する.腐食表面形状による最大応力集中係数 Kt(gcp),maxおよび残存板厚係数は,4.5に示す式(8)および式(10)に式(13)を代入することで,腐食前の板厚 t0 と断面欠損率を用いて表すことができる.また,板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max は,式(13)から次式の関係にある.

    mmax,gcptK    08.0ln576.0 0 t (15)

    50 t 

      021016.2 tm (16)

    1000 td max,c (17)

    Kt(gcp),max(m):腐食表面形状による最大応力集中係数の平均値

    t0:腐食前の板厚 (mm) :断面欠損率 (%) :片面腐食=1,両面腐食=2 m:残存板厚係数の平均値 dc,max:板幅方向の平均腐食深さの最大値 (mm)

    図-8 総断面の応力集中係数で評価した S-N 線図

    104 105 106 107 108101

    102

    103

    JSSC- ABCDEFGH総

    断面公

    称応力

    範囲

    破断繰返し回数 Nf (回)

    g (M

    Pa) g

    3 Nf = 5.11×1013(Kt(g,max))

    - 3

    2

    3

    57

    Kt(g,max)

    総断面の応力集中係数

    1

    10

    Kt(g),max

    ・Kt(g),max

    日本ファブテック技報 No.146 日本ファブテック技報 No.1 47

  • (6) J-FaB 技報 No.1

    とシミュレーションのデータの傾向は,良く一致して

    いる.また,dc,p は dc,max と同様の傾向にある.そこで,dc,maxによる総断面の最大応力集中係数 Kt(g),maxの評価方法について検討する. dc,max と Kt(g),max の関係を図-6(b)に示す.促進試験お

    よびシミュレーションによるデータのばらつきは小さ

    い.dc,max は Kt(g),max と高い相関にあることから,Kt(g),max の評価の際に有効な指標になると考えられる.Kt(g),maxと dc,maxの関係は,次式で表すことができる.

    1862 max,cmax,gt d.K (t0=9mm) (7)

    Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数 dc,max:板幅方向の平均腐食深さの最大値 (mm) t0:腐食前の板厚 (mm)

    4.5 平均腐食深さによる応力集中係数の評価・

    予測

    ここでは,板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max による任意の板厚を有する鋼部材の最大応力集中係数の評

    価・予測方法を検討する. (1) 腐食表面形状による最大応力集中係数

    腐食表面形状による最大応力集中係数 Kt(gcp),max とdc,max の関係を図-7(a)に示す.シミュレーションの結果は,腐食促進試験結果の傾向と良く一致している.図

    中に実線で示す対数回帰直線は,シミュレーションと腐

    食促進試験結果の傾向を良く表しており,相関係数も高

    くなっている.そのため,Kt(gcp),max は dc,max を用いて次式

    で評価できると考えられる.

    mmax,gcptK ln576.0   732.d max,c (8)

      5102 .KK mmax,gcptsmmax,gcpt (9)

    Kt(gcp),max(m):腐食表面形状による最大応力集中係数

    の平均値 Kt(gcp),max(m+2s):腐食表面形状による最大応力集中

    係数の最大値 dc,max:板幅方向の平均腐食深さの最大値 (mm)

    (2) 残存板厚係数

    板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,maxと残存板厚係数の関係を図-7(b)に示す.腐食促進試験およびシミュ

    レーション結果のばらつきは dc,maxが増加するにしたがって大きくなっている.dc,max をで線形回帰した結果を図中に実線で示す.は dc,max と次式のように表すことができる.

    max,cm d.α 162 (10)

     msm α.α 712 (11)

    (m):残存板厚係数の平均値 m+2s:残存板厚係数の最大値 dc,max:板幅方向の平均腐食深さの最大値 (mm)

    (a) 腐食表面形状 (b) 残存板厚係数

    図-7 最大応力集中係数と板幅方向の平均腐食深さの関係

    10-2 10-1 100 1011

    2

    3

    4

    腐食

    表面

    性状

    によ

    る応

    力集

    中係

    数 K

    t(gcp

    )

    板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max (mm)

    シミュレーション

    促進試験

    Kt(gcp),(m) = 0.576ln( dc,max ) + 2.73(R=0.89)m m-2sm+2s

    Kt(gcp),(m+2s)

    = 0.576ln( dc,max ) + 3.24

    *

    **:中央部

    0 1 2 3 4

    5

    10

    15

    残存

    板厚

    係数

    板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max (mm)

    シミュレーション

    促進試験

    m

    m+2s

    m-2s

    (m+2s)= 3.65dc,max

    (m) = 2.16dc,max

    (7) J-FaB 技報 No.1

    5. 腐食した鋼構造部材の疲労寿命の評価・予測

    5.1 応力集中係数による疲労寿命の評価

    総断面の最大応力集中係数 Kt(g),max を疲労設計曲線へ適用することを考える.式(1)に式(2)を代入すると疲労設計曲線は Kt(g),maxを用いて次式のように表すことができる.

    3133 10115 max,gtfg K.NσΔ (12)

    g:総断面公称応力範囲 (MPa) Nf:破断繰返し回数 (回) Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数

    Kt(g),max で整理した S-N 線図を図-8に示す.コンクリート境界部の鋼部材の腐食後における疲労強度は,

    Kt(g),maxが 3 では D 等級程度であるが,7 程度になると H等級まで低下している.

    5.2 断面欠損率による応力集中係数の評価・予測

    ここでは,対象部材の疲労寿命の評価・予測方法と

    して,腐食深さを用いた方法を検討する.

    (1) 断面欠損率

    4.4で前述したように,総断面の最大応力集中係

    数は板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max により評価できる.ここでは,腐食前の板厚 t0 に対する板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max の比(以下,断面欠損率と呼ぶ.)を用いることで,腐食後の疲労寿命の評

    価・予測を行う. 残存断面を簡便に求めるため,板幅方向の断面欠損

    は考慮しないと仮定すると,は dc,max と次式の関係にある.

    1000

    tdβ

    η max,c (13)

    :断面欠損率 (%) :片面腐食=1,両面腐食=2 dc,max:板幅方向の平均腐食深さの最大値 (mm) t0:腐食前の板厚 (mm)

    (2) 板厚を考慮しない最大応力集中係数 板厚を考慮した応力集中係数の推定結果と比較・検討

    するため,図-6(b)に示す板厚 9mm を対象とした総断面の最大応力集中係数 Kt(g),max を断面欠損率に基づいて整理する.Kt(g),max は式(7)に式(13)を代入し,を用いて表すことができる.

    110862 02- t.K max,gt (t0=9mm) (14)

    Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数 t0:腐食前の板厚 (mm) :断面欠損率 (%) :片面腐食=1,両面腐食=2

    (3) 板厚を考慮した最大応力集中係数

    ここでは,板厚を考慮した総断面の最大応力集中係数

    Kt(g),max をにより評価する.腐食表面形状による最大応力集中係数 Kt(gcp),maxおよび残存板厚係数は,4.5に示す式(8)および式(10)に式(13)を代入することで,腐食前の板厚 t0 と断面欠損率を用いて表すことができる.また,板幅方向の平均腐食深さの最大値 dc,max は,式(13)から次式の関係にある.

    mmax,gcptK    08.0ln576.0 0 t (15)

    50 t 

      021016.2 tm (16)

    1000 td max,c (17)

    Kt(gcp),max(m):腐食表面形状による最大応力集中係数の平均値

    t0:腐食前の板厚 (mm) :断面欠損率 (%) :片面腐食=1,両面腐食=2 m:残存板厚係数の平均値 dc,max:板幅方向の平均腐食深さの最大値 (mm)

    図-8 総断面の応力集中係数で評価した S-N 線図

    104 105 106 107 108101

    102

    103

    JSSC- ABCDEFGH総

    断面公

    称応力

    範囲

    破断繰返し回数 Nf (回)

    g (M

    Pa) g

    3 Nf = 5.11×1013(Kt(g,max))

    - 3

    2

    3

    57

    Kt(g,max)

    総断面の応力集中係数

    1

    10

    Kt(g),max

    ・Kt(g),max

    日本ファブテック技報 No.146 日本ファブテック技報 No.1 47

  • (8) J-FaB 技報 No.1

    総断面の最大応力集中係数 Kt(g),max は,はじめに,式(16)から残存板厚係数を求める.次に,式(17)から算出した dc,max を式(5)の板幅方向の平均腐食深さ dc に代入して残存板厚による最大応力集中係数 Kt(pt),max を求める.最後に,式(15)から腐食表面形状による最大応力集中係数Kt(gcp),maxを算出し,式(6)に代入することで求められる.

    Kt(g),max との関係を図-9に示す.図中の実線は式(6)から算出した Kt(g),max であり,破線は式(14)により求めたKt(g),max を示している.実線と破線はが 10~25%程度の範囲において良く一致しているため,式(8)の評価式は,この範囲内では妥当であると言える.なお,図中の太実

    線は片面腐食であり,細実線は両面腐食である.疲労強

    度が H 等級を下回る際のは,板厚 9mm の部材が片面腐食した場合には約 25%である.また,両面腐食ではは40%程度であり,板厚が 16mm の場合には,30%程度となっている.したがって,を用いた疲労寿命の評価には

    板厚を考慮する必要があると考えられる.

    7. まとめ 本研究では,腐食促進試験したモデル試験体,およ

    び数値シミュレーションによる腐食表面モデルの FEM

    応力解析を行なうことで,腐食表面性状が応力性状に及

    ぼす影響を明らかにした.また,腐食損傷した鋼構造部

    材の任意の板厚に対する応力集中係数を評価する方法を

    提案した.さらに,コンクリート境界部で腐食した鋼構

    造部材の疲労寿命を断面欠損率に基づいた定量的かつ簡

    便な評価・予測手法を提案した.本研究で得られた主な

    結果を以下に示す. (1) 腐食表面形状と残存板厚による最大応力集中係数

    を提案することで,腐食損傷した鋼構造部材の最

    大応力集中係数の評価手法を提案した.

    ( )( ) ( )

    0-1×

    =tdKK

    Kc

    max,pttmax,gcptmax,gt

    ( ) ( )  1+-= 0 cmax,ptt dtαK

    Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数 Kt(gcp),max:腐食表面形状による最大応力集中係数 Kt(pt),max:残存板厚による最大応力集中係数 dc:板幅方向の平均腐食深さ (mm) t0:腐食前の板厚 (mm) :残存板厚係数

    (2) 総断面の最大応力集中係数を用いて腐食後の疲労寿命を簡便に評価・予測する方法を提案した.

    3-133 10115 max,gtmfg K.N

    g:総断面公称応力範囲 (MPa) Nf(m):破断繰返し回数の平均値 (回) Kt(g),max:総断面の最大応力集中係数

    (3) コンクリート境界部で腐食した鋼構造部材(板厚:6mm~100mm)の疲労寿命を腐食促進倍率および断面欠損率から推定する方法を提案した.

    参考文献 1)土木学会鋼構造委員会,鋼橋の余寿命評価小委員

    会:鋼橋における劣化現象と損傷の評価(鋼構造シ

    リーズ7),丸善,1996. 2)山田健太郎:国道23号木曽川大橋の斜材の破断,橋

    梁と基礎,Vol.41,No.9,2007. 3)貝沼重信,細見直史,金仁泰,伊藤義人:鋼板のコ

    ンクリート境界部における経時的な腐食挙動に関す

    る研究,土木学会論文集,No.780/I-70,pp.97-114,2005.

    4)貝沼重信,細見直史:鋼構造部材のコンクリート境界部における経時的腐食表面性状の数値シミュレー

    ション,土木学会論文集A,Vol.62,No.2,pp.440-453,2006.

    5)細見直史,貝沼重信:コンクリート境界部で腐食した鋼構造部材の疲労挙動に関する基礎的研究,土木

    学会論文集A,Vol.64,No.2,pp.333-349,2008. 6)細見直史,貝沼重信:コンクリート境界部で腐食し

    た鋼構造部材の応力集中係数の評価・予測手法,土

    木学会論文集A, Vol. 66, No.4, pp.613-630, 2010. 7)(社)日本鋼構造協会:鋼構造物の疲労設計指針・同解

    説,技報堂出版,1993. 8)西田正孝:応力集中 増補版,森北出版,2000.

    0 10 20 30 40 50

    2

    4

    6

    8

    10

    総断

    面の

    最大

    応力

    集中係

    断面欠損率   (%)

    Kt(g

    ),max

    ABCD

    E

    F

    G

    H

    JSSC-

    H

    t=6mm

    t=9mm

    片面腐食 t=50 16 9 6mm

    式(11)

    式(20)

    両面腐食

    t=16mm

    図-9 断面欠損率と総断面の応力集中係数の関係

    式(6)

    式(14)

    t0

    t0

    t0

    t0

    [報告] 鋼・PC 混合橋他の設計と施工 -新名神高速道路 池底高架橋他2橋(鋼上部工)工事-

    三 輪 拓 也*

    宮 澤 智 明**

    * 橋梁事業本部 設計本部 橋梁設計部 設計一課 係長

    ** 橋梁事業本部 工事本部 計画技術部 計画技術課 副部長

    J-FaB 技報 No.1 (1)

    1.はじめに 本工事は,新名神高速道路のうち,鋼・PC混合橋の池

    底高架橋(上下線),細幅箱桁橋の池底橋(上下線)の

    詳細設計,製作および現場施工を行うものである.また,

    そこから5km離れた場所に位置する東海環状自動車道路

    と接続される新四日市JCTの一部である新名神高速道路

    本線を跨ぐ北山城橋(以降,受注時名称であるDランプ

    橋)の製作および現場施工が含まれている.

    ① 池底高架橋は,一連の橋梁としては,上り線が21径間の連続桁,下り線が20径間の連続桁である.その

    うち上り線はA1~P2,P20~A2,下り線はA1~P1,

    P19~A2が鋼桁となっており,それ以外の径間はPRC

    桁で構成される鋼・PC混合橋である.架橋位置は起

    点側の鋼桁区間が県道と町道の交差点を跨ぎ,終点

    側の鋼桁区間が河川を跨いでいる.そのため,スパ

    ン割の関係から両端部に鋼桁が採用された.起点側

    の鋼桁は少数I桁,終点側の鋼桁は細幅箱桁を採用し

    ている.

    ② 池底橋は,鋼2径間連続細幅箱桁橋である. ③ 図-1に示すDランプ橋は,逆台形形状となる単純鋼箱

    桁であり平面線形R=140m,縦断勾配5.5%というジャ

    ンクション橋特有の線形を有する.

    本稿では,図-2に示す池底高架橋と池底橋の設計と,

    Dランプ橋も含めた3橋の現場施工について報告する.

    2.池底高架橋の設計 本橋は,20径間を超える連続桁の鋼・PC混合橋であり,

    次のように行った.

    2-1 全体解析

    本工事における設計所掌範囲は,鋼桁区間のみとなっ

    ており,PRC桁区間は含まれていない.また,PRC桁区間

    の工事は未発注の状態であり,同時に設計を進めること

    ができなかった.このため,PRC桁区間のプロポーショ

    ンは基本設計を踏襲して全体解析を行い,鋼桁設計断面

    力を算出した.特に,混合橋設計での留意点は,PRC桁

    によるクリープ・乾燥収縮およびプレストレス2次力に

    よる不静定力が鋼桁設計に大きな影響を及ぼすことであ

    る.この影響は,PRC桁の施工ステップにより大きく変

    化するため,本橋では鋼桁と隣接するPRC桁区間を最後

    に施工するものとして設計した.

    不静定力の算出は,PRC桁と鋼桁とを含めた全体モデ

    ルによる解析を実施しなければならない.図-3に鋼桁の

    図-1 D ランプ橋 構造一般図

    500500300300

    橋 長 68500 (CL上)

    平 面 図L1

    S1

    L2

    GLUGLL

    CL

    GRLGRU

    R2R1

    G1

    8700

    4457810

    445

    1555

    4700

    1555

    850

    3000850

    12801720

    220

    桁 長 67900 (CL上)

    支 間 長 66900 (CL上)

    格点間隔 10x5600=56000 (CL上)

    5450 5450

    C1C2

    C3C4 C5 C6 C7

    C8C9

    C10C11

    S2

    A1

    GE1 GE2

    A2

    R=14

    0000

    巻き立てコンクリート 巻き立てコンクリート

    アウトリガー部

    アウトリガー部

    A1

    A2

    E

    E

    2850

    2850

    2.402%巻き立てコンクリート 巻き立てコンクリート

    5.500%

    ○:支承位置

    側 面 図No.7

    +19.0

    No.6+50

    .5

    500 支間長 66900 (CL上) 500

    300 300

    橋 長 68500 (CL上)

    桁 長 67900 (CL上)

    断 面 図

    中間部

    4451555 1555

    2130 2570L1L2

    R1R2

    CL

    150

    150

    900

    690

    180

    30

    アスファルト舗装 t=80mm

    場所打ちPC床版 t=270mm

    8%

    150015003000850 8502000 2000

    GLU GLL G1 GRUGRL

    8700

    220

    4700445 7810

    122

    01000

    20120

    020

    2850

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