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サイバネティックスに関する一考察 §0レサイバネティックスヘのアプロ'―チ サイバネティックス(Cybernetics)とは何か? 卜・ 1) そオ七はNorbert Wiener の著書『Cybernetics』によれば「動物と機械 における階御と通信; Control and Communication in the Animal and the machine」の科学である. WienerぱCybernetics'ということばを, 科学者がよくするように,ギリシア語の「舵手」(Kubernetes ; llリβepv- VTr]<s)ということばからひ古だしたバ調速器(governer : ガバナー)も同 じ語源をもうノ彼は「われわれの状況に関する二つの変量かおるものとし て,その一方はわれわれには制御できないもの,他の一方はわれわれに調 節できるものとしよう。そのとき制御できない変量の過去から現在にいた るまでの値にもとづいて,調節できる変量の値を迪当に定め,われわれに 最もつごうのよい状況をもたらせたいという望みがもたれる。それを追成 する方法がCyberneticsにほかならないのである。」と日本譜版に際して 述べている。彼の著書が1948年にアメリカで出版されて以来“Cybern- etics"はいちゃく脚光をあびることになった。 1)NトWiener : Cybernetics or Control and communication in the animal and the machine, 1st Edition John Wiley & Sons, Now York, (1948); 2nd Edition(1961) 池原止才失に弥永呂吉,室行三郎,戸田謙訳:サイバネティックスー動物と朧 械における制御と通信c第2版)岩波書店(1962) -164 -

サイバネティックスに関する一考察 真 庭 · 2012-07-10 · サイバネティックスに関する一考察 真 庭 §0レサイバネティックスヘのアプロ'―チ

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サイバネティックスに関する一考察

真 庭

§0レサイバネティックスヘのアプロ'―チ

 サイバネティックス(Cybernetics)とは何か?

        卜・  ‥             1) そオ七はNorbert Wiener の著書『Cybernetics』によれば「動物と機械

における階御と通信; Control and Communication in the Animal and

the machine」の科学である. WienerぱCybernetics'ということばを,

科学者がよくするように,ギリシア語の「舵手」(Kubernetes ; llリβepv-

VTr]<s)ということばからひ古だしたバ調速器(governer : ガバナー)も同

じ語源をもうノ彼は「われわれの状況に関する二つの変量かおるものとし

て,その一方はわれわれには制御できないもの,他の一方はわれわれに調

節できるものとしよう。そのとき制御できない変量の過去から現在にいた

るまでの値にもとづいて,調節できる変量の値を迪当に定め,われわれに

最もつごうのよい状況をもたらせたいという望みがもたれる。それを追成

する方法がCyberneticsにほかならないのである。」と日本譜版に際して

述べている。彼の著書が1948年にアメリカで出版されて以来“Cybern-

etics"はいちゃく脚光をあびることになった。

1)NトWiener : Cybernetics or Control and communication in the animal

 and the machine, 1st Edition John Wiley & Sons, Now York, (1948); 2nd Edition(1961)

  池原止才失に弥永呂吉,室行三郎,戸田謙訳:サイバネティックスー動物と朧

 械における制御と通信c第2版)岩波書店(1962)

                 -164 -

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           サイバネティクスに関する一考察

 科学としてのCyberneticsは,彼の苦書から判断すれば,そオ七は少な

くとも次のものを含んでいる。

                                 2) 1)情報理論(通信理論; Communication theory)に関するもの。

 2)波の平滑化,雑音の浦過,信号の検出I,予測の理論と呼べるもの。

    にれは一般に雑背のあるところで,信号の存在を検出して,その

  将来を予測することを扱うものである。)

 3)ネガティブ・フィード・バック:(Negative Feedback)と,サー

  ボ機構(servomechanism)に関するもの. (Automation System にお

  けるFeedbackの考え方をとり入れて,人間社会の径済機構を解明し,

  あるいは,在庫管理法を考究する行き方は,全く直接にサイバネティ

  ックスにおける制御理論の適用である。)

                                3) 4)オートマトン(Automaton)とそれに類する複雑な自動機械。

    にれにはComputerの設計とプロミラミングが含まれる。)

 5)以上のなかのどれかに似ているか,または類似の過程を体現してい

2)情報理論(Infromation Theory)は大きくわけて二つの分野があると考えら

 れる.それは, N. Wiener, C. E. Shannon, R. M. Fanoなどによってい

 る通信政論(Communication Theory)を中心とするものと,今日のMIS

 (Management Infromation System)を中心とする狭義の特報言論とてある.

 前者はとくにInfromationを送受するChannelの問題をあつかい,後者は情

 報の貫と量をあつかうと考えられる.まこと,通信理論は,通信に関する技術を

 問題にしているのに対してノilf報理論は情報内容そのものを問題にしている.

3)オートマトン(Automaton)は思想的にはギリシア時代の「オルガノン」に

 までさかのぼることがで吉よう.「ニュートン時代の自動機械は,爪先でぎこち

 なく回転をする人形を上.部につけた時計じかけの音楽箱であった. 19世紀の自衛

 機械は人間の筋肉内のグリコーゲンのかわりに焼刈居燃やして動fi;する名誉ある

 熟機関であった.最後に現代の自動機械は,光電管でドアー剖則き,あるいはレ

 ーダーの電波ビームがとらえた敵機の位置に大砲を向け,あるいは微分方程式の

 解を計算するのである.」(サイバネティックス p. 49).オートマトンの発展は

 「Turing計算機」(仮想的な計算機:頭(head)とよばれる部分は有限N佃の

 内部状態qi,qs…………, 柚をもつ有限オートマトンである.また,テープと

 よばれる部分には有限M任Siの文字Si, S2,…………, S。のうちどれか一往が

 書き込まれる.)によっている.

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           サイバネティクスに関する一考察

           D  るあらゆる生命現象.

 このようなcyberneticsの効用を有効に実現するためには,あらゆる種

顛の科学の総合がなければならない.

 筆者は,何もここで,サイバネティックスの自然科学的な側面ばかりを

扱おうというわけではない.むしろ自然科学の分野の成果を社会科学の分

野に,とりわけて,経済や径営のフィールドに導入しようと試みるもので

ある.

 一部の人々のように,コンピュートピアの到来によって,あらゆるもの

が人間の手を離れて,オートメーション装置におきかえられるであろうと

いうよう仏 ファンタジックな,あるいは,ヒューマノイド的な思考方法

をもって,現在の多排化している経済や径営の諸問題を,また,社会問題

を一義的に考えてはならない.

 単に新技術の発明・発見や, ComputerのManagement sideへの応用

              5)などによって,現代を技術革新の時代であるといっているわけではない.

まこと,それは技術革新を形づくっている下部楷造としての経済に規定さ

れている.

 筆者は「情報と制御Infromation and Control」という一つのファンデ

ーをもって,けじめに生産のための機械としての凧械系,とくに,オート

メーションを取り扱う.次にCyberneticeの生体系のバイオ・サイバネテ

ィックスを取扱う.

4)この分野の研究は主としてバイオニクス(Bionics : Biocybernetics)におっ

 ている. WienerはドCommunication and Control" を通じて,動物(人間

 を含めて)と願荒との関係を統一した叫論としてCyberneticsを思考している.

5)技術革新は,はじめて. \郎口31年度の経済自書かシュンペーターの"Innova-

 tion"の訳として用いた. Innovationの本来の意味は「革新」ということであ

 り,シュンペーターの言う“Innovation"は白書の言う「技術革新」そのもの

 ではない・

  しかしながら,曰本の戦後の急迫で,尚度な径済成長の一要囚をこの言菜はと

 らえてはなさない.

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          サイバネティクスに関する一考察

その次には「情報と制御」のうち,とくに通信ii論について考える.

§工 機械系:オートターン。ツ

 機械は人力にかわるものとして,人間の文化にきわめて重大な影物をも

たらしたことは言うまでもない.作業機の発明は,歴史上{産業革}ル:

Industrial Revolution」と名づけられている一大転機をもたらした.産業

革命による機械の導入はこの時代とそれ以前の時代とを画する分岐点であ

る.

 人類がはじめて火を利用し,道具を使用するようになった時代を,ギリ

シア神話の火と道具の神の名にちなんで,プロメテウス時代と呼ぶとすれ

ば,現代はまさに「新プロメテウス時代」である.それは現代が,自濁制

御によるメカニカル・オートメーションやコンピューターに象徴される新

しい産業革介の出発点に立っているからである.新しい産業革命は情報革

命(Information Revolution)をたずさえてお久資本主義的な生産様式

を必然的に変革せざるをえないような「第2次産業革命」である.

 こんにち,機械は人間の頭脳にかわる働きを備えるようになり,ある種

のComputerは「人工頭脳:Giant Brain」と呼ばれている.この人工頭

脳がオートメーション・システムに欠くことのできないものとなってきた.

オートメーションの特徴は,機柵出の発展段階のうち,機械休系の有機化

1)ある人は,産業革命の最大の担い手として, J. Wattの“Steam I-ingine"

 をあげる, しかし,それべ=ま,単に脱力(Engine)の変革である,脱力の変化は

 人力づ脱物の力≒水力・風カ―> Steam Engine と発展していくか,それは同時

 にエネルギーの効水化の方向でもある.

  第一一次産業革命の推進の良い手は,ジョン・ケイ(John Kay)の「飛びおさ」

 の発明(1733年)にまでさかのぼることができる.このように,その本石は作業

 機または道jH:機の発明にある,

  当時の作笑機としての紡繊機がすべて自説織既であるところに,「道具の時代」

 から「機械の時代」への転換点かおる,それは,首さに,人間を筋肉労働から解

 放するものであった.

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サイバネティクスに関する一考宗

にある.ここで有機化とは,自己制御(Self-Control)ができるという意

   2)味である.

 生産の機械化は(1)万能機械→(2川1能機械→(3)オートメーションという三

つの段階を経て発展する.第2の段階では全休が一つの原動機によって動

かされているが,コントロールの而は人問の労働によっている.

 作業機におけるコントロールが自動化(フィード・バックによる自動制

御)されてはじめて,機械の自説体系;オートメーションが実現する.

 「オートメーション」という言葉は,いろいろに用いられており,厳密に

定義することはできないが,生産過程における労働力を排除する方向にあ

るという点では一致している.

 またオートメーションは大量生息方式の碓立があってはじめて可能とな

る.第1に制御を人間労働によって行なう方式が,オートメーションに比

べてコスト安であれば,オートメーションは行なわれない.オートメーシ

ョンの方が割安であるということになって,はじめてオートメーション化

か行なわれる. 第2にオートメーションは生産過程の規格化が不可欠であ

るが,規格化には大量生産方式が前提とされる.第3に人量生産方式にと

もなう生産のラインに付随して,動作の分解と総合が研究される.

 オートメーションはメカニカル・オートメーション(たとえばbelレ

conveyer, Ford-system, transfer machine などによる自動車工業,電気

機器工業などの組立工業),プロセス・オートメーション(たとえば製鉄

工業,石油工業,化学繊維工業,化学肥料・工業,製紙工業,フィルムエ某,

セメントエ業などの装置工業),ビジネス・オーメーションに大別される.

ここではビジネス・オートメーションについて考えてみよう.

 事務的操作(Office Work)は企画,立案などの仕事と,記録,分類,

2)自己組織系(self-organizing system)においては,自己制御の思考が有効

 である. N. WienerはCyberneticsの第2版で,「学習する機械,坦順する機

 械(On Learning and Self-Reproducing Machines)」とrf脳波とPill組織

 系(Brain Waves and Sel卜Organizing System)」について述べている.

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サイバネティクスに関する一考察

計算などの仕事からなっている.事務における機械化は後者について行な

われる.これまでは, Office Work は一般にオートメーション化できな

いものと考えられていたし,その技術的構成比は低いもめである.

 そのOffice Work に機械が導入されていくことは頭脳労働と筋肉労働

との違いを消していくばかりでなく,企画,立案といった人間本来の労働

へと近づいていく可能性を与えている.そこでは,情報が記録され,分類

され,第2次情報,第3次情報が生産され,流通されていく.とくに事務

労働は企画,立案と結びついて管理のための情報処理となっている点に特

徴かおる.

 近年,事務合理化の名のもとに,タイム・レコーダー,タイプライター

複写機,印刷機,卓上計算機,レジスターなどが導入されたが,それらは

労働者の補助として用いられるのみであって,筝務作業の主要な面は人間

の労働に依存していた.この場合,機械化されているといっても,オート

メーション化されているとは言えない.情報処死にあたっては,情報の自

動制御がなくてはオートメーションとはいえない.検算,記録,分類のほ

かoutputを検出して分類や棄却,適当な動作の選択や補正がなされなけ

ればならない.この意味での事務のオートメーション化はまだまだ不完全

図1・1事務回路のサイバネティクス・パターン

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サイバネティクスに関する一考宗

であるが,電子計算機の発達はその方向を示している.

 事務のシステムは図1 ■1のような機械的な回路として認識される.外

部から収集された情報は符号化されて各部の計画を通じて決定にいたる.

この符号化から決定にいたる回路を電子計算機におきかえることによって,

情報処理効率(事務能率)が飛躍的に向上する.それは形式的MIS (経営

情報システム)への指向でもある.

§2 生体系; バイオユクス

 バイオニクス(Bionics, Biocj'bernetics)はサイバネティックスから派

生したものである.後者が非常に多くの学問分野にまたがるひとつの総合

的な思想というべきものであるのに対して,前者は生体を対象とした工学

の一分野である.バイニクスの特徴は「情報」とい引乱べからの生体機能

へのアプローチにある.したがって,バイオニクスのおもな関心は生体に

おける情報の流れ,その処理,その働乱 あるいは外界との情報のやりと

りといった問題に笑中する.

 バイオニクスの内容はy大別すると,神経サイバネティデクス(neuro

cybernetics)と医学サイバネティックス(medical cyberntics)とてあ

る.神経サイバネティックスでは感覚器,ニューロン,効果器を通じての

アクションの諸経路に関心をもつ.医学サイバネティックスでは,ホメオ

スタシス(homeostasis)すなわち,恒常的な内部環境条件の保持という

問題におもな関心かおる.

 動物性機能は半獣神経系(somatic nervous system)によって支配され

ている執休性枡l経系は図2 ・ 1のように,感覚器からの信号を脳へ送り

こむ感覚神径系と脳からの運動の命令を筋肉へ送り出す迎動神経系およ

び,この二つを連絡する脳,それに脊髄からたっている.

 感見神径系から送られる感覚の情報を脳で処理し,これを運勁神経を介

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サイ゛ネティクスに関する一考宗

PFMPFM

感覚器感覚神経系

 脳

Brain 袱勣紬好系筋 肉

sensory nervous system motor nervous system

(受容器receptor)(効果器effector)

図2・ 1

して,筋肉運勁によって行勁(Behavior)として実現するさいに,脳で言

なまれる情報処理のプロセスがすなわち「心の勁き」であり「精神活動」

とよばれるものである.

 オートメーションにおいて中心的な働きをする自勁機械・Automation

とは体性神経系と同じような機能を備えた機械のことであるが,脳におけ

る情報処理はけ現在の電子計算機が苦手とする総合的な判断をうまく処理

するための原理を示唆するかもしれない.またある種の勁物のもつきわめ

て鋭敏な感覚器は,新しい計算器のアイディアを提供するだろうし,動物

連勁器官の柔軟で融通性に富んだ働きは将来の制iSll機器にとってよい参考

となるであろう.

 神経系を構成する基本的な単位は神経細胞(ニューロンneuron)であ

る.ニューロンは (a)|.ilJ経細胞体と(b)t4i径繊維('Pill索)と(c)神経突起

 (樹状突起)とからなっている(1閃2 ・2 ).

 神経繊維の先端はふくらんでシナプス(synapse)とよばれる構造があ

って,他のニューロンに接着している.140億もの脳神経細胞は複雑にか

らみあって,利I経回路綱をつくる.

 生体における情報は,すべて刺激として受容器(receptor)によってと

らえられ,その刺激はインパルス(impulse,電気的パルス)にかえられて

求心性神縫に沿って中枢神経系にはいる.inputとして中枢神経系にはい

った感覚情報はシナプスを経て,神経回路綱で複雑な情報処理を受けて

outputとして遠心性神経に出される.

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サイバネティクスに関する一考察

            図2・2神経細胞のモデル

 この小論の中の図版,図2・ 1, 図2・2, I図2・3は南雲仁一編「バイオニクス」,

情報科学講座B 9・L共立出版,1966によっている.

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サイバネティクスに関する一考祭

 inputには,興復性と抑討匪とがあって入力の刺激の総和がある一定値

 (=閥値, Threshold)をこえると,神経細胞は興復して電気的変化を生

ずるが,闇値に達しないときは興薔しない.これを“all-or-nothing law”

(全てか無の法則, 悉無律)という(図2・3).

 神経繊維の波形の整形作朋(Wave shaping action)および.閥作用

(threshold action)は神経繊維における信号伝送をきわめて信頼性の高い

ものにしている.そしてこの信号伝送は非線型性(non-linearity)を示す.

パルスの高さ

図2・3神経繊維における盤形作用と閥作用

 次に神経繊維の働きをモデル化した神経回路網のうち,能動線路につい

て述べることにする.この能勁線路には理論的に2種類が考えられる.そ

れらはT接続S接続とよばれる.脳における情報処理は基本的には

“AND”と“0R”と“NOT”の論理回路で示される.

 このような理論的なものを扱うものとしては,プール代数がある.

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サイバネティクスに関する一考察

§ 3 情 報 理 論

               1)情報理論は通信理論とも言われる.それは通信が情報輸送のためのー一つ

                   2)の形態であることによる. C. E. Shannonかわたしたちに与えたCommu-

nicationの一般理論は,電気通信の諸問題の研究から生れた。モールスは

アルファベットの文字を「トン・ツー」によって表現する問題をとりあげ

た。彼は賢明にもひんぱんに使われる文字をトンとツーの短い組み合わせ

で表現し,まれな文字を長い組み合わせで表現した。このことは通信文を

電気信号に変換する方法がいかに重要であるかという問題であると同時に

通信理論の中心的課題なのである。

 これ以後通信文の高能率な社号化か研究された. 陪報理論は]ミとして情

報の伝達に関する基本的な性質を解明するものであって,確率過程の概念

を用いて,情報源の構造を明らかにし,情報量を表現するために,エンド

  3)ロビー(eiiti"op\'; 情報の価値をはかる尺度)という概念を導入し,雑膏

のある通信路において,高信頼性の通イ言(情報伝達)を行なうためのもの

である。

 すべての通信系は,図3 ■1に示すように,五つの部分からなっている。

1)N. Wienerの研究およびそれに端を発している通信理論の一分野は,自動制

 御(automatic control) においてあらわれるフィルター(㈲波; filtering)と

 予測の問題に対して,とくに有刑である,一方, S. E. Shannonの研究および

 それに対応する通信理論の分野は,通信路(channel)の効果的な利用に関述し

 てとくに重要なものである.

  (Robert M. Fano, "Transmission of Information, A StatisticalTheory

 Communications" (1963)

2)Claude E. Shannon, "A mathematical Theory of communication,'

 Bell System Tech. J., 27, p.379, 623, 1948.

  “Communication in the Presence of Noise," Proc. I. R、E., 37, p. 10,

 1949.

3)ある系の情組址はその組成性の度合(a measure of its degree of organiza-

 tion)を表わす測度である・ ある系のエントロピー(entropy)とは無組織性の,

 度合の測度(a measure of its degree of disorganization)といえる.

  (N. Wiener, Cybernetics, p.11, 1948.)

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サイバネティクスに関する一考祭

情報は伝達にあたって何んらかの形態(色,音,光,形など)の符号に変

換される。伝送されるのはこの符号(これをとくに信号という)なのであ

る。

source

情報源

encoder

送信器

rliannftl

通信路

decoder

受信器

user

受信者

通信文

message

送信信号

signal

受信信号

signal解読文

message

雑  音

 noise

図3 ・1 通信系のモデル

 情報源(source)のボックスは伝送されるべき情報を発生する人または

装置のモデルである.通信路(Channel)のボックスは伝送に利用される

物理的手段を,また,受信者(user)のボックスは情報を受取る人または装

置をモデル化したものである.送信器(encoder)は情報源符号器 (source

encoder)と通信路符号器(channel encoder)とからなっており.情報源

からの出力を,指定された通信路を通じて,伝送するのに適した信号

(signal)に変換する装置である.これに対応して,受信器(decoder)は

通信路復号器(channel decoder)と,情報源復号器(source decoder)か

らなっており,通信路の出力から,目的とする情報を再生するために用い

られるユニット(unit)である.

 図3 ・1に示されているような通信系の目的は, R.M. Fanoによれば.

                           4)「ユーザーによって定められた忠実度基準(fidelity criterion)にしたがっ

て,情報源出力を再生することである.」このとき,重要なことは伝送過

4)受容性基準ともいう

no -

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サイバネティクスに関する一考宗

程という鎖の環が,あらかじめ指定された通信器によって構成されていな

ければならない. til報源の出力を完全な形式で再生することは,けっして

期待できるものではない.それは通信路において, ノイズ(noise,雑音)

が発生することにある.このような通信系において期待できるのは,ある

特定の目的に対してならば満足できるものとして受けいれられるような再

生である.したがって,「伝送されるものは情報源のみに目有なものでは

なくて,情報源一使用者(sorce-user)の組に対して固有なものである.

これを伝送される情報(Infomation)」と呼んでいる.

 通信手段は通信路(channel)としるされたボックスによって表わされ

ている.通信手段の最初の形態は「ものまね」や「擬声語」にみることが

できる.前者か主として動作によっているのに対して,後者は音声あるい

は言語によっている.この場合メッセンジャーの信号とレシーバーの信号

                          5)とが一対一対応することによって通信の目的か果される.まこと,通信の

本質は一対一対応にあるので,通信手段はこの一対一対応の有機的な方法

の活用にある.少なくとも,通信の進歩は通信手段の発展の主方向にむい

                          6)ている.また,通信手段の方向はエネルギー伝搬の効率化の方向にある.

 情報伝達で示されるのは色や形の「パターン」(pattern)であることあ

ら情報伝達をパターン認識とみることもできる.

 すべて情報を送るということは二つのことがら(yes or no)のなかの

どちらか一つを送ることをくりかえすという見方もある.可能な通信文の

集まりの全体(母集団)を考慮に入れ,個々の通信文をこの集まり全体か

5)たとえば,簡単なモデルを示すならば,交通信号の場合は赤,青,黄の各シグ

 ナルに対して,各アクションが対応している。手旗信号やモールス信号も同じよ

 うに一つのパターンが送信者と受信者とで一致している。

6)従来の通信形式は使用者か機械であるよりは,むしろ大問であるという事実に

 よって特徴づけられる。すなわち,そオtらは電信(telegraph),電話(tele-

 phone),テレビジョン(television)という名が示すように,いわば人同の感覚

 の範l用を拡張する手段としで5I艇してきたといえよう. (R。M.ファノ(情報理

 論J p.19)

-176-

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サイバネティクスに関する一考察

ら抽出されたサンプルとしてあつかう。これについては情報量(amount

of information)を明らかにしなければならない。

 そのためには,yes or no の二者択一を何回かくりかえす。これによっ

て情報が得られる. 1回の二者択一で得られる情報の量が情報量の単位!

          7) (ビット)なのである.

 Fiの出現頻度をもつn個のシンボルの情報源の情報量Hは一般に次式

で示される.

  B.=-ΣpiiogPi  ビット/シンボル     I-1

 Shannonはこれを情報のエントロピーと呼んでいる。このことは次の

ことを意味する。

 (1)Hは各シンボルの出現確率Piに関し連続であること。

 (2)P|=P2…P。= l/nのときnが大きくなればHは単調に増加すること。

 (3) 各シンボルはその構成過程に無関係であり, Piのみ依存するべ図3,2)

図3 ・2 エントロピーのモデル

 図3・2で明らかなように,A, B,Cは双方とも同じ確率で現われるか

ら,これら三つのシンボルのもつ情報量は同じである.

 たとえば,電信符号のパルスのように,パルスのプラス・マイナスによ

7)北川敏男編r回報科学への道J p. 24,共立出版,1966.

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サイ゛ネティクスに関する一考察

つて情報を伝達するとき,その出現確率が等しければ情報のエントロピー

 ''-(A………lOg2-し十万iogシ)=i  ビット/パルス

となる.

 エントロピーは各シンボル出現の無秩序性を示す別の尺度でもある.

 すなわち,無秩序性が大きくなるほど,エントロピーは増大する.

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