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<研究ノート(Research Note)> ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理と ケアプラン作成における課題(ニーズ)の焦点性についての一考察 泉 賢祐 要 旨 ケアプランという概念は,高齢者の介護分野はもとより,障害者分野,児童分野,医療分野等で広汎に使用されてい る.ケアマネジメントに関連するケアプランの概念について整理すると,在宅サービスにおけるケアマネジメント技法を用い た「サービスパッケージプラン」とそれと連携して作成される「サービス別ケアプラン」 … ,施設サービスにおいて施設内部で 一体的に作成される「施設内ケアプラン」の 3 種類があると考えられる. そして,対象者の実像を,アセスメントというレンズを使って,集められた諸情報をもとに課題(ニーズ)を焦点化し, 明確にして,その実像に対応したケアプランの作成を,チームの力を使って行っていくことが必要である.さらに,在宅生 活と施設生活は「在宅生活継続可能限界線」によって区切られ,それを確定するにはケアチーム(サービスチーム)による 適切な判断が求められる. Keywords:サービス パッケージ チームアプローチ アセスメント 在宅生活継続可能限界線 1.はじめに 現在,ケアプランという概念は,人々の生活支援におけるさまざまな場面において,いろいろな使い方をされてい る.高齢者の介護分野はもとより,障害者分野,児童分野,医療分野等,その使用範囲は広汎なものがある.しかし, ケアプランの概念は使う場面によって異なっており,その場面に応じた適切な使い方が必要とされる.特に,介護保 険制度における在宅ケアプランと施設ケアプランは,使用する場面が違うにもかかわらず,同じように考えられ,現 場の混乱の一因となっている.そしてそのような混乱は,障害者分野などケアプランという概念を使用する全ての分 野についても懸念される. 本稿では,ケアマネジメント技術に関連するケアプラン概念の整理とケアプラン作成における課題(ニーズ)の焦 点性について考察を試みる. 2.ケアマネジメントの概念について ケアマネジメントの定義について,白澤政和は「ケースマネジメントの基本的要件は,要援護者と適切なサービス を接合すること」であり「対象者の社会生活上での複数のニーズを充足させるため適切な社会資源と結びつける手続 きの総体」としている. (1)(2) また,橋本泰子は,「複合的なサービスニーズを持つ利用者が,安全で安定した自分らしい日常生活を自宅で長期 的に維持できるよう,利用者一人一人のためのケア態勢をマネジメントする地域ケアの技術」としている. (3) 筆者は,前述の定義等を基盤として,ケアマネジメントを「複雑及び複数のニーズを持つ対象者が,在宅で自分ら しい生活が継続できるよう,社会資源を効率的に組織して結びつける技術」と考えている. (4) さらに,ケアマネジメントの適応範囲について白澤政和は,「①複数の,または複雑な身体的・精神的不全 (impairment)を抱えている要援護者」「②複数のサービスを必要としている,あるいは受けている要援護者」「③施 設入所が検討されている要援護者」「④サービスが十分に提供されていない要援護者」「⑤受けているサービスが不適 切である要援護者」「⑥世話すべき家族員がいない,あるいは十分世話ができていない要援護者」「⑦家族員のみでみ ている要援護者」「⑧行政サービス以外のインフォーマルな支援(例えば,近隣やボランティア)を必要としている ―…9…保健医療経営大学紀要 № 5 9~ 16(2013)

ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理 …...<研究ノート(Research Note)> ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理と

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Page 1: ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理 …...<研究ノート(Research Note)> ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理と

<研究ノート(Research Note)>

ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理とケアプラン作成における課題(ニーズ)の焦点性についての一考察

泉 賢祐

要 旨

 ケアプランという概念は,高齢者の介護分野はもとより,障害者分野,児童分野,医療分野等で広汎に使用されている.ケアマネジメントに関連するケアプランの概念について整理すると,在宅サービスにおけるケアマネジメント技法を用いた「サービスパッケージプラン」とそれと連携して作成される「サービス別ケアプラン」…,施設サービスにおいて施設内部で一体的に作成される「施設内ケアプラン」の3 種類があると考えられる. そして,対象者の実像を,アセスメントというレンズを使って,集められた諸情報をもとに課題(ニーズ)を焦点化し,明確にして,その実像に対応したケアプランの作成を,チームの力を使って行っていくことが必要である.さらに,在宅生活と施設生活は「在宅生活継続可能限界線」によって区切られ,それを確定するにはケアチーム(サービスチーム)による適切な判断が求められる.

  Keywords:サービス パッケージ チームアプローチ アセスメント 在宅生活継続可能限界線

1.はじめに 現在,ケアプランという概念は,人々の生活支援におけるさまざまな場面において,いろいろな使い方をされている.高齢者の介護分野はもとより,障害者分野,児童分野,医療分野等,その使用範囲は広汎なものがある.しかし,ケアプランの概念は使う場面によって異なっており,その場面に応じた適切な使い方が必要とされる.特に,介護保険制度における在宅ケアプランと施設ケアプランは,使用する場面が違うにもかかわらず,同じように考えられ,現場の混乱の一因となっている.そしてそのような混乱は,障害者分野などケアプランという概念を使用する全ての分野についても懸念される. 本稿では,ケアマネジメント技術に関連するケアプラン概念の整理とケアプラン作成における課題(ニーズ)の焦点性について考察を試みる.

2.ケアマネジメントの概念について ケアマネジメントの定義について,白澤政和は「ケースマネジメントの基本的要件は,要援護者と適切なサービスを接合すること」であり「対象者の社会生活上での複数のニーズを充足させるため適切な社会資源と結びつける手続きの総体」としている.(1)(2)

 また,橋本泰子は,「複合的なサービスニーズを持つ利用者が,安全で安定した自分らしい日常生活を自宅で長期的に維持できるよう,利用者一人一人のためのケア態勢をマネジメントする地域ケアの技術」としている.(3)

 筆者は,前述の定義等を基盤として,ケアマネジメントを「複雑及び複数のニーズを持つ対象者が,在宅で自分らしい生活が継続できるよう,社会資源を効率的に組織して結びつける技術」と考えている.(4)

 さらに,ケアマネジメントの適応範囲について白澤政和は,「①複数の,または複雑な身体的・精神的不全(impairment)を抱えている要援護者」「②複数のサービスを必要としている,あるいは受けている要援護者」「③施設入所が検討されている要援護者」「④サービスが十分に提供されていない要援護者」「⑤受けているサービスが不適切である要援護者」「⑥世話すべき家族員がいない,あるいは十分世話ができていない要援護者」「⑦家族員のみでみている要援護者」「⑧行政サービス以外のインフォーマルな支援(例えば,近隣やボランティア)を必要としている

―…9…―

保健医療経営大学紀要 № 5 9~ 16(2013)

Page 2: ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理 …...<研究ノート(Research Note)> ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理と

要援護者」「⑨行動や態度が他人の耐えうる範囲を越えている要援護者」「⑩何度も入退院を繰り返している,あるいは自分自身の健康管理ができない要援護者」「⑪自己の問題点やニーズについての判断力の曖昧である要援護者」「⑫金銭管理ができない,あるいは行政サービスを申請するのに手助けがいる要援護者」「⑬個人的な代弁者が必要な要援護者」をあげている.(5)

 つまり,後述するように,ケアマネジメントの対象については,個別アプローチではなく,チームアプローチが必要なケースが想定されている.

3.ケアマネジメントの内容とチームアプローチについて ケアマネジメントの過程について,D.P. マクスリーは,アセスメント(assessment)→計画策定(planning)→介入(intervention)→モニタリング(monitoring)→評価(evaluation)のプロセスを反復するものとしている.(6)

 同じように,橋本泰子は,ケアマネジメントの過程について,①受付,②簡単な調査,③スクリーニング,④調査,⑤アセスメントの実施(Ⅰ)と支援計画(ケアプラン)の作成(Ⅰ),⑥アセスメントの実施(Ⅱ)と支援計画(ケアプラン)の作成(Ⅱ),⑦支援の実施,⑧モニタリング,⑨評価,⑩評価の結果,の十段階に分けて説明している.このうち,「⑥アセスメントの実施(Ⅱ)と支援計画(ケアプラン)の作成(Ⅱ)」の段階は,「一人の担当者が行ったアセスメントと支援計画の作成を利用者とチーム(異なる機関に属する多くの関係者で構成されている)の構成員全員で検討し,必要があれば修正して,全員で支援の方針と計画を一致させる過程」のことであり,いわゆるチームによるカンファレンスの実施である.(7)

 また,ケアマネジメントの構成要素について,白澤政和は,①対象者(要援護者),②社会資源,③ケアマネジャー,④ケアマネジメントの過程,の四つをあげている.(8)

 同じく,橋本泰子は,①利用者,②複合的なサービスニーズ,③サービス資源,④支援者チーム,④ケアマネジャー,⑥過程,の六つをあげている.(9)

 これについては,白澤政和のいう構成要素をよりくわしくしたものが橋本泰子の提示した構成要素と考えることができる. また,橋本泰子は,「④支援者チーム」について,「構成員は,すべて対等な関係で,利用者の生活障害を解決するために必要な情報を提供し合って情報を共有しなければならない」「チームの構成員は,全員でアセスメントし,これに基づいて支援計画を作成し,ニーズを解決するための役割分担を明確にし,それぞれ分担したサービスを提供する」ものであるといっている.(10)

 つまり,ケアマネジメントにおいては,複数の在宅サービス事業者から成る異業種(多職種)ケアチームを組織し,そのチームを運用するためのサービスのパッケージプランを,ケアマネジメントの過程に沿って,ケアマネジャーをコーディネーターとして,チーム全体で作成するのである.

4.ケアプランについて さて,ケアプランの類型の一つとして,ケアマネジメントにより作成されるケアプランがあることが確認できた.これ以外のケアプランについてはどのようなものがあるであろうか. ところで,白澤政和は,「施設のなかで作成され,実施されるケアプランのことを,諸外国では『ケアマネジメント』とは決していわない」といっている.(11)

 さらに,「ケアマネジャーがつくるケアプランの内容は,それぞれのサービス提供者が,どのような役割を果たすかを明記したに過ぎない」「個々のサービス提供者が,どういう手順でサービスを実施していくのかについては,それぞれのサービス提供者が独自で要援護者に対するアセスメントを行い,個別援助計画を立てなければならない」といっている.(12)

 これは,ケアマネジメント技法を用いて作成されるサービスのパッケージプランは,ケアプランの全てを包括するものでなく,さらに,複数の在宅サービス事業者から成る異業種ケアチームがそれぞれ作成する「サービス別ケアプラン」や「施設内ケアプラン」等とは性格が異なることを示唆している.

5.ケアプランの種類について 橋本泰子は,ケアプランの種類について,四つの類型に整理している.(図 1)

―…10…―

泉   賢 祐

Page 3: ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理 …...<研究ノート(Research Note)> ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理と

 それによると,ケアプランは二つのレベルに分かれており,Ⅰのレベルは「どの(what)サービスを提供するか」というサービスを選択するレベルであり,Ⅱのレベルは「どのように(how)サービスを実施するか」というサービスの内容(ケア)を選択するレベルである.さらにその二つのレベルはそれぞれ自宅(在宅)の部分と入所型施設部分に分かれている. そして,自宅でサービスを選択するケアプランを「A」…,自宅でサービスの内容(ケア)を選択するケアプランを「a」とし,入所型施設のサービスを選択するケアプランを「B」…,入所型施設でサービスの内容(ケア)を選択するケアプランを「b」としている.(13)

 「A」のケアプランは,「日常生活上の問題を解決して自宅で暮らしを続けるため,どのようなサービスを利用するかというサービス利用計画(サービスのパッケージプラン)」であり,ケアマネジメント技法により作成するケアプランのことである. 「a」のケアプランは,「A の計画の中で利用することが計画された個々のサービス(中略)の実施計画(以下略)」のことであり,「サービスパッケージプラン」と連携して作成される「サービス別ケアプラン」のことである. 「B」のケアプランは,「どのような入所型施設を利用するか(中略)というサービス利用計画」であり,入所型施設を選択し,そこで作成される「施設内ケアプラン」の大枠を規定するものである. 「b」のケアプランは,「B の計画によって,利用することになった施設内におけるサービスの実施計画」であり,施設内で一体的に作成されるケアプランのことである. つまり,自宅(在宅)においては「A」の「サービスパッケージプラン」のもとに「a」の「サービス別ケアプラン」が連携するものとして作成され,入所型施設においては「B」と「b」は一体のものとして作成されることになる.要するに,アセスメント過程及びプランニング過程において,在宅生活が可能と判断されれば「A」を選択し,ケアプランは「A」と「a」の組み合わせとなり,在宅生活が不可能と判断されれば「B」を選択し,「B」と「b」の組み合わせとなる.「B」について,介護保険制度で考えるなら,医学的管理やリハビリテーションの必要性が高いもの

図 1 ケアプランのタイプと内容

スを提供する」ものであるといっている.(10) つまり,ケアマネジメントにおいては,複数の在宅サービス事業者から成る異業種(多職種)ケアチームを組

織し,そのチームを運用するためのサービスのパッケージプランを,ケアマネジメントの過程に沿って,ケアマ

ネジャーをコーディネーターとして,チーム全体で作成するのである. 4.ケアプランについて

さて,ケアプランの類型の一つとして,ケアマネジメントにより作成されるケアプランがあることが確認でき

た.これ以外のケアプランについてはどのようなものがあるであろうか. ところで,白澤政和は,「施設のなかで作成され、実施されるケアプランのことを、諸外国では『ケアマネジメ

ント』とは決していわない」といっている.(11) さらに,「ケアマネジャーがつくるケアプランの内容は、それぞれのサービス提供者が、どのような役割を果た

すかを明記したに過ぎない」「個々のサービス提供者が、どういう手順でサービスを実施していくのかについては、

それぞれのサービス提供者が独自で要援護者に対するアセスメントを行い、個別援助計画を立てなければならな

い」といっている.(12) これは,ケアマネジメント技法を用いて作成されるサービスのパッケージプランは,ケアプランの全てを包括

するものでなく,さらに,複数の在宅サービス事業者から成る異業種ケアチームがそれぞれ作成する「サービス

別ケアプラン」や「施設内ケアプラン」等とは性格が異なることを示唆している. 5.ケアプランの種類について

橋本泰子は,ケアプランの種類について,四つの類型に整理している.(図 1)

段階

生活の場

プランの内容自宅 入所型施設

Ⅰ どの(what)サービスを提供(利用)するか A B

Ⅱ どのように(how)サービスを実施するか a b

プランのタイプ

プランの内容

A 日常生活上の問題を解決して自宅で暮らし続けるため、どのようなサービスを利用するかというサービス利用計画(サービスのパッケージプラン)

a Aの計画の中で利用することが計画された個々のサービス(例えば、ホームヘルプサービスやデイ

サービスなど)の実施計画(例えば、どのようにホームヘルプサービスを行なうかという具体的な計画)

B どのような入所型施設を利用するか(例えば、特別養護老人ホームか、介護老人保健施設か、療養病床か)というサービス利用計画

b Bの計画によって、利用することになった施設内におけるサービスの実施計画

ケアプランのタイプと内容

(引用~橋本泰子:福祉士養成委員会編『新版社会福祉士養成講座9社会福祉援助技術論Ⅱ』中央法規2007年 t340 を一部改編)

(1)ケアプランの種類(タイプ)

(2)タイプ別ケアプランの内容

図 1 ケアプランのタイプと内容 それによると,ケアプランは二つのレベルに分かれており,Ⅰのレベルは「どの(what)サービスを提供する

か」というサービスを選択するレベルであり,Ⅱのレベルは「どのように(how)サービスを実施するか」とい

―…11…―

ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理とケアプラン作成における課題(ニーズ)の焦点性についての一考察

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は老人保健施設を選択し,そうでなければ特別養護老人ホームを選択することになる. さらに,たとえば「在宅生活継続可能限界線」というようなものが仮にあるとして,それよりも上であれば在宅生活が可能で,下であれば在宅生活が困難で施設生活が適切であるとすると,「A」と「B」はその「在宅生活継続可能限界線」を挟んで存在することになる. そして,その「在宅生活継続可能限界線」は,対象者の心身の状況等の他に,家族等の外部環境や本人の意志等の諸条件によって上下することが考えられ,それを確定するにはケアチームによる適切な判断が求められる.(図 2)

 したがって,ケアマネジメントに関連するケアプランの概念について整理すると,在宅サービスにおけるケアマネジメント技法を用いた「サービスパッケージプラン」とそれと連携して作成される「サービス別ケアプラン」…,施設サービスにおいて施設内部で一体的に作成される「施設内ケアプラン」の 3 種類があると考えることができる.さらに,「サービスパッケージプラン」…と…「サービス別ケアプラン」及び「施設内プラン」の内容の例についてあげておく.両作成例とも実例ではなく諸資料をもとに筆者が作成したものである. 前出のⅠのレベル「どの(what)サービスを提供するか」のケアプランである「サービスパッケージプラン」の例として「在宅ケアプラン作成例(部分)」を作成した.(図 3) また,Ⅱのレベル「どのように(how)サービスを実施するか」のケアプランである「サービス別ケアプラン」及び「施設内プラン」の例として「施設ケアプラン作成例(部分)」を作成した.(図 4)

<パッケージ例>

在宅生活開始継続

どのサービスを、どのような組合せで、どれだけ利用するか、というサービスのパッケージプラン(居宅サービス計画)(A)

訪問介護 訪問介護実施計画

訪問入浴 訪問入浴実施計画

通所介護 通所介護実施計画

福祉用具貸与 福祉用具貸与実施計画

住宅改修 住宅改修実施計画

短期入所 短期入所実施計画

訪問看護 訪問看護実施計画

通所リハビリ 通所リハビリ実施計画

在宅生活か施設利用かの検討

※ひとつひとつが「個々のサービスの実施計画」(a)

施設入所

⇒どのような施設を利用するかの選択案(B)

施設内で提供される包括的な生活支援実施計画(b)

ケアプラン作成の流れ

(2008 保健医療経営大学 泉作成)

(図1をもとに泉が作成)

(在宅生活継続可能限界線)

図 2 ケアプラン作成の流れ したがって,ケアマネジメントに関連するケアプランの概念について整理すると,在宅サービスにおけるケア

マネジメント技法を用いた「サービスパッケージプラン」とそれと連携して作成される「サービス別ケアプラン」,

施設サービスにおいて施設内部で一体的に作成される「施設内ケアプラン」の 3種類があると考えることができ

る. さらに,「サービスパッケージプラン」と「サービス別ケアプラン」及び「施設内プラン」の内容の例について

あげておく.両作成例とも実例ではなく諸資料をもとに筆者が作成したものである. 前出のⅠのレベル「どの(what)サービスを提供するか」のケアプランである「サービスパッケージプラン」

の例として「在宅ケアプラン作成例(部分)」を作成した.(図 3)

図 2 ケアプラン作成の流れ

―…12…―

泉   賢 祐

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生活全般の解決すべき課題(ニーズ)

長期目標 期間 短期目標 期間 サービス内容サービス種別

具体的なサービス提供者等

提供頻度 管理期間

自宅で、できるだけ自分の力で入浴できるよ

うになりたい

家族の見守りを受け安全に入浴できるようになる

1年

ホームヘルパーの介助を受け安全に入浴できるよう

になる

6ヶ月自宅で入浴するためホームヘルパーによる入浴介助を行う

訪問介護B指定訪問介護

事業所週3回 3ヶ月

生活全般の解決すべき課題(ニーズ)

長期目標 期間 短期目標 期間 サービス内容サービス種別

具体的なサービス提供者等

提供頻度 管理期間

自宅で、できるだけ自分の力で入浴できるよ

うになりたい

家族の見守りを受け安全に入浴できるようになる

1年

ホームヘルパーの介助を受け安全に入浴できるよう

になる

6ヶ月

自宅で入浴するためホームヘルパーによる

入浴介助を行う訪問介護

B指定訪問介護事業所

週3回 3ヶ月

自宅で入浴するため入浴補助具(バスグリップ、バスボード)を使

用する

福祉用具購入

C介護ショップ 早急に 3ヶ月

在宅ケアプラン作成例(部分)

(2008 保健医療経営大学 泉作成)

(1)ニーズ及び目標・サービス内容の記入例

(2)サービスを組み合わせた例

図 3 在宅ケアプラン作成例(部分) また,Ⅱのレベル「どのように(how)サービスを実施するか」のケアプランである「サービス別ケアプラン」

及び「施設内プラン」の例として「施設ケアプラン作成例(部分)」を作成した.(図 4)

図 3 在宅ケアプラン作成例(部分)

図 4 施設ケアプラン作成例(部分)

―…13…―

ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理とケアプラン作成における課題(ニーズ)の焦点性についての一考察

Page 6: ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理 …...<研究ノート(Research Note)> ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理と

… 両者を比較すると,特に「サービス内容」以後の部分で顕著だが,「在宅ケアプラン作成例(部分)」では,どのサービス事業者がどのようなサービスを実施するかについて記述されており,「施設ケアプラン作成例(部分)」では,どの担当者がどのようなケアを行うかについて記述されている. つまり,「A」と「a」及び「B」と「b」は,常にセットで作成され運用されなければならない.

6.ケアプラン作成における課題(ニーズ)の焦点性について さて,以上のようなケアプランの概念の違いを押さえたうえで,ケアプランの作成に,どのように取り組めばよいのであろうか. 取り組みについては,諸々の問題が考えられるが,現実にあるものとして,対象者個人とそれを取り巻く環境は現実に一つしかないのに,それに取り組むケアマネジャー及びケアチームの視点等の違いによって,アセスメントの結果やそれによって作成されるケアプランが大幅に異なっているという問題が指摘されている. そこで,ここでは,それに関わる概念として,ケアプラン作成における課題(ニーズ)の焦点性について考察する.(図5)

対象者

の実像

現実に合っ

た支援計画

情報収集・心身、環境等情報の確認。・意志の確認。

課題分析・意思を中心に心身、環境等情報を論理的

に解釈する。

アセスメント過程 プランニング過程

目標設定・到達目標・短期目標

内容設定

担当設定

期間設定

課題(ニーズ)の確認

課題(ニーズ)の焦点性

(2008 保健医療経営大学 泉作成)

ひとりひとり違う実像

ひとりひとり違うプラン

アセスメント(チームが協力)により、クライエントの実像を確認する。

心身、環境等の援助に必要な情報の収集。

情報を整理し、課題を明らかにする。

本人の意志を中心に置き、環境を考慮しながら、本人と関係者みんながよりよいと考える支援プランを練り上げる。

到達可能な目標の設定と、そこに至る段階的目標の設定。

目標を達成するための内容の設定。

担当者の設定と期間の設定。

誰が作っても同じような

プラン

図 5 課題(ニーズ)の焦点性 「サービスパッケージプラン」の作成においても「サービス別ケアプラン」や「施設内ケアプラン」の作成に

おいても,事前評価(アセスメント)を実施し,対象者の持つ課題を確認するという点では同じである. 「サービスパッケージプラン」においては「どのようなサービスを提供するか」というレベルにおけるアセス

メント及び課題の焦点化とそれに基づくプランニングを行い,ケアプランを作成する. 「サービス別ケアプラン」においては,「サービスパッケージプラン」による他の「サービス別ケアプラン」と

の連携を考慮しながら,担当範囲におけるアセスメント及び課題の焦点化とそれに基づくプランニングを行い,

ケアプランを作成する. 「施設内ケアプラン」においては,当該施設で実施可能な範囲でのアセスメント及び課題の焦点化とそれに基

づくプランニングを行い,ケアプランを作成する. その際,注意すべきなのは,「課題はあるが実質的な問題は発生しないというケース」があることである.例え

ば、下肢が変形して自宅の小さな段差で転倒の危険があるが,施設内では段差がないので転倒の危険はない,つ

まり,下肢の変形による転倒の危険という課題を持っているが環境的条件が整っている施設内ではその問題が生

じないということである.つまり,「条件によって問題が発生あるいは消滅する課題(ニーズ)」が存在し,その

ような課題についても丁寧に確認しておく必要がある. さて,ケアプラン作成における課題(ニーズ)の焦点性についてであるが,そもそも,対象者は個人であり実

像は一つである.そして,その実像(本人及び生活環境)について,さまざまな方法によって情報収集(心身及

び生活環境、本人の意思等)を行い,集めた情報を分析してそこに存在する課題(ニーズ)を明確にする(課題

分析).それは,アセスメントというレンズを使って,集められた諸情報をもとに課題(ニーズ)を焦点化し,明

らかにしていく作業と考えることができる. そして,課題(ニーズ)が焦点化され,明確にされれば,それを解決するための方法を検討することが可能と

なる.まず,到達可能な目標(到達目標)を検討・設定し,必要に応じてそれに至る途中目標(短期目標)を検

討・設定する.次に,その目標に到達するための方法(「どのサービスを使うか」或いは「どのようにケアを行う

か」)と,その内容を検討・設定し,その担当者(「サービス事業者」或いは「ケア担当」)と管理期間を検討・設

図 5 課題(ニーズ)の焦点性

 「サービスパッケージプラン」…の作成においても…「サービス別ケアプラン」や「施設内ケアプラン」の作成においても,事前評価(アセスメント)を実施し,対象者の持つ課題を確認するという点では同じである. 「サービスパッケージプラン」においては「どのようなサービスを提供するか」というレベルにおけるアセスメント及び課題の焦点化とそれに基づくプランニングを行い,ケアプランを作成する. 「サービス別ケアプラン」においては,「サービスパッケージプラン」による他の「サービス別ケアプラン」との連携を考慮しながら,担当範囲におけるアセスメント及び課題の焦点化とそれに基づくプランニングを行い,ケアプランを作成する. 「施設内ケアプラン」においては,当該施設で実施可能な範囲でのアセスメント及び課題の焦点化とそれに基づくプランニングを行い,ケアプランを作成する.

―…14…―

泉   賢 祐

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 その際,注意すべきなのは,「課題はあるが実質的な問題は発生しないというケース」があることである.例えば,下肢が変形して自宅の小さな段差で転倒の危険があるが,施設内では段差がないので転倒の危険はない,つまり,下肢の変形による転倒の危険という課題を持っているが環境的条件が整っている施設内ではその問題が生じないというケースである.したがって,「条件によって問題が発生あるいは消滅する課題(ニーズ)」が存在し,そのような課題についても丁寧に確認しておく必要がある. さて,ケアプラン作成における課題(ニーズ)の焦点性についてであるが,そもそも,対象者は個人であり実像は一つである.そして,その実像(本人及び生活環境)について,さまざまな方法によって情報収集(心身及び生活環境,本人の意思等)を行い,集めた情報を分析してそこに存在する課題(ニーズ)を明確にする(課題分析).それは,アセスメントというレンズを使って,集められた諸情報をもとに課題(ニーズ)を焦点化し,明らかにしていく作業と考えることができる. そして,課題(ニーズ)が焦点化され,明確にされれば,それを解決するための方法を検討することが可能となる.まず,到達可能な目標(到達目標)を検討・設定し,必要に応じてそれに至る途中目標(短期目標)を検討・設定する.次に,その目標に到達するための方法(「どのサービスを使うか」或いは「どのようにケアを行うか」)と,その内容を検討・設定し,その担当者(「サービス事業者」或いは「ケア担当」)と管理期間を検討・設定する. つまり,プランニングは,対象者の持つ諸課題を解決するための方法を組み込んだ対象者の生活実像を再構成するものである. また,ここで留意しなければならないのは,ケアプランの作成において,中心に置かなければならないのは,対象者本人の「意志」であるということである.対象者本人が一人の人間として,生活者として,周囲と助け合いながらも自立して生きていくという人間本来の姿を実現させるためには,本人の「意志」の確認とその正確な理解は極めて重要なものである. そのような意味で,ケアチームの個々にメンバーには,本人の「意志」を正しく理解する能力と,カンファレンスによって適切な判断を導き出す力量が求められる. それから,本人の意志が明確でない場合や確認できない場合も考えられるが,そのような場合でも,ケアチームは,ケアプランの中に本人が意志を明確にできるような働きかけや,意思を確認する方策等を加えるなどして対応していくことが求められる. さらに,ケアチーム(或いはサービスチーム)の重要性についても考察しておきたい.ケアマネジメントはチームアプローチであるといわれる.(14)経営学でいう「マネジメント」という言葉自体に,“目的に向かって,組織をいかにうまく動かして,成果を手にしていくか”という意味が含まれていることからも,ケアマネジメントがチームケアによって対象者にアプローチしていく方法であることが理解できる. つまり,ケアマネジャーと複数のサービス事業者から成るケアチームのメンバーは,協働してアセスメントを行い,

「サービスパッケージプラン+サービス別ケアプラン」を作成して,効率的なケアの実施とサービスの提供を実現することになる.その際,単にケア行為を適切に行うというだけではなく,協働する複数異業種それぞれの視点による共同作業によって,より妥当な判断や行動を導き出せることも重要な点である.また,体制や構成は異なるが,施設内ケアチームにおいても同様なことがいえると考えられる. したがって,ケアプランを作成する上でのチームの協働の重要性は,極めて大きいと言える. 対象者個人とそれを取り巻く環境は刻々と変化し,その実像を把握してケアチームで共有することは難しいことである.しかし,その実像を把握しなければ,課題(ニーズ)を明確にすることができず,課題(ニーズ)が明らかでなければ,解決策としてのケアプランを立案することができない.つまり,完全に実像を把握することができなくても最低限の実像は把握し共有しなければならないのである.そのためには,実像に関する適切なアセスメントと課題(ニーズ)の焦点化,そしてその実像に対応したケアプランの作成を,チームの力を使って行っていくことが必要なのである.

7.おわりに 本稿では,ケアマネジメント技術に関連させて,現場で混乱しがちなケアプラン概念の整理と,ケアプラン作成のための対象者の実像の把握の考え方について考察した. ケアプラン概念は,在宅サービスにおけるケアマネジメント技法を用いた「サービスパッケージプラン」とそれと連携して作成される「サービス別ケアプラン」…,施設サービスにおいて内部で一体的に作成される「施設内ケアプラン」の 3 種類があることが確認できた.

―…15…―

ケアマネジメントに関連するケアプラン概念の整理とケアプラン作成における課題(ニーズ)の焦点性についての一考察

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 また,「B」のケアプランについては,「B」と「b」を一体のものとして「施設内ケアプラン」と考え,これは介護保険制度の「施設ケアプラン」に該当するものとして考えている. さらに,ケアプラン作成のための対象者の実像の把握は極めて重要であり,課題(ニーズ)の焦点性の考え方とチームの力を活用して,対象者の実像に基づく適切なケアプランを作成することが肝要であると考えている. 今後も,現場の動向や諸研究を踏まえながら,ケアマネジメント技法に関係するケアプランについての検討を進めたい.

<引用文献>

⑴白澤政和『ケースマネジメントの理論と実際』中央法規 1992 年 P11⑵「ケースマネジメント」と「ケアマネジメント」及び「ケアコーディネーション」は,日本においては同義として

扱われている.⑶橋本泰子:福祉士養成講座編集委員会編『社会福祉士養成講座 9 社会福祉援助技術論Ⅱ』中央法規 2001 年 P315⑷泉賢祐「高齢者のケアマネジメント実践における生活状況の把握と生活支援に関する一考察」西九州大学大学院健

康福祉学専攻科 2002 年 P3⑸白澤政和編著『ケアマネジャー養成テキストブック』中央法規 1996 年 P6⑹ D.P. マクスリー著 野中猛・加瀬裕子監訳『ケースマネジメント入門』中央法規 1994 年 P13 ~ P16⑺橋本泰子:福祉士養成講座編集委員会編『新版社会福祉士養成講座9社会福祉援助技術論Ⅱ』中央法規 2007 年 

P337 ~ P338⑻白澤政和『ケースマネジメントの理論と実際』中央法規 1992 年 P17 ~ P18⑼橋本泰子:福祉士養成講座編集委員会編『新版社会福祉士養成講座9社会福祉援助技術論Ⅱ』中央法規 2007 年 

P331 ~ P336⑽橋本泰子:福祉士養成講座編集委員会編『新版社会福祉士養成講座9社会福祉援助技術論Ⅱ』中央法規 2007 年 

P333⑾白澤政和『生活支援のための施設ケアプラン-いかにケアプランを作成するか-』中央法規 2003 年 P43⑿白澤政和・橋本泰子・竹内孝仁監修『ケアマネジメント講座第 1 巻ケアマネジメント概論』中央法規 2000 年 

P86⒀橋本泰子:福祉士養成講座編集委員会編『新版社会福祉士養成講座9社会福祉援助技術論Ⅱ』中央法規 2007 年 

P340⒁白澤政和・橋本泰子・竹内孝仁監修『ケアマネジメント講座第 1 巻ケアマネジメント概論』中央法規 2000 年 

P216

<参考文献>

⑴白澤政和・橋本泰子・竹内孝仁監修『ケアマネジメント講座第 1 巻ケアマネジメント概論』中央法規 2000 年⑵白澤政和『ケースマネジメントの理論と実際』中央法規 1992 年⑶福祉士養成講座編集委員会編『社会福祉士養成講座 9 社会福祉援助技術論Ⅱ』中央法規 2001 年⑷泉賢祐「高齢者のケアマネジメント実践における生活状況の把握と生活支援に関する一考察」西九州大学大学院健

康福祉学専攻科 2002 年⑸白澤政和編著『ケアマネジャー養成テキストブック』中央法規 1996 年⑹ D.P. マクスリー著 野中猛・加瀬裕子監訳『ケースマネジメント入門』中央法規 1994 年⑺白澤政和『生活支援のための施設ケアプラン-いかにケアプランを作成するか-』中央法規 2003 年⑻バーバラ .J. ホルト著 白澤政和監訳『相談援助職のためのケースマネジメント入門』中央法規 2005 年⑼浅井春夫監修 水野喜代志編著『これからの高齢者福祉論-高齢者一人ひとりを大切にするために-』保育出版社

2004 年⑽白澤政和監修『介護支援専門員のためのスキルアップテキスト 専門研修課程Ⅰ対応版』中央法規 2010 年⑾白澤政和・福富昌城監修『介護支援専門員のためのスキルアップテキスト 専門研修課程Ⅱ対応版』中央法規

2010 年

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泉   賢 祐