33
平成 16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~ 富山大学 人文学部 国際文化学科 比較社会論コース 4 学籍番号 0110020350 温井 万梨

コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

  • Upload
    others

  • View
    4

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

平成 16年度卒業研究論文

コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か

~富山市を事例に~

富山大学 人文学部 国際文化学科

比較社会論コース 4年

学籍番号 0110020350

温井 万梨

Page 2: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

目次

序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

第 1 章 富山市中心市街地の概要と現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

第 2 章 中心市街地活性化へ向けての取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・9

第 1 節 国の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

第 2 節 富山市の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

第 3 節 他の自治体の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

第 3 章 コンパクトシティについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

第 1 節 コンパクトシティの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

第 2 節 コンパクトシティのメリットとデメリット・・・・・・・・・・18

第 3 節 欧米と日本のコンパクトシティの違い・・・・・・・・・・・・19

第 4 章 富山市が進めるコンパクトシティ・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

第 1 節 正橋市政の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

第 2 節 森市政の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

第 5 章 なぜ中心市街地が必要か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

第 6 章 コンパクトシティを用いた中心市街地活性化・・・・・・・・・・・・・25

結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

参考文献、参考資料一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

巻末資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

1

Page 3: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

序論

地方の中心市街地が衰退していると言われて久しい。中心市街地内の商店街では、閉店

してシャッターが下りたままのところもあり、「シャッター通り」と呼ばれることもある。

このような状態になった背景にはいろいろな理由が考えられる。まず、中心市街地の人口

が減少したのが大きな理由であろう。富山市では中心市街地に住んでいた若い世代が郊外

へと移り、郊外では今も新しい住宅地(ニュータウン)がどんどん開発されている。また、

自動車の普及率も昔と比べるとかなり高い。ちなみに富山県は持ち家世帯率、自動車保有

率ともに全国トップレベルの水準である。今や郊外には無料の駐車場を備えた大型小売店

が相次いで出店し、平日休日問わず大勢の人々が訪れている。一方で中心市街地では歩行

者通行量が毎年減少し、以前は中心商店街内にあった店舗が郊外へと移る例もいくつか見

られる。 そのような状況を打開し、中心市街地を活性化させようと行政はいろいろな取り組みを

行っている。市民を巻き込んだイベントも開催されるが、一過性のイベントではなかなか

人を集め、活性化につなげることはできない。これは筆者自身の体験から感じたことであ

る。 小さい頃から親しんできた街が変わっていく姿に危機感を覚え、また客観的に街の現状

を理解するためにも、このテーマを卒業研究で扱うことにした。 中心市街地の活性化はまず人がいなければ成り立たない。そこで、人を中心市街地に集

めるような都市政策、まちづくりは活性化に有効なのではないかと考えた。 本論文では、郊外に広がった中心市街地の機能や人口を中心部に戻す“コンパクトシテ

ィ”を主に取り上げる。欧米諸国で環境政策の一環として始まったコンパクトシティは地

球環境問題の解決策となるだけではなく、都市中心部の活気の維持にもつながるのではな

いかと期待されている。このコンパクトシティが果たして富山市中心市街地の活性化に有

効に働くのかを本論文で調査していきたいと思う。 まず、富山市中心市街地の現状を明らかにした上で、中心市街地活性化策にはどのよう

なものがあるのかを列挙していく。そして活性化策の一つ、コンパクトシティについて理

解し、富山市が進めるコンパクトシティも参考にした上で、果たしてそれが富山市中心市

街地の活性化に有効かどうかを検証していく。 調査を進めるにあたって、主に文献や新聞を利用した。また、国や富山市が発行してい

る冊子や、ウェブサイトなども参考にした。

2

Page 4: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

第 1章 富山市中心市街地の概要と現状

ここではまず、富山市中心市街地の位置を確認した上で、中心市街地で起きている変化

を見ていく。 富山市中心市街地の位置は以下の通りである。(図 1参照)都心地区の中で、富山駅周辺と中心商店街を含む商業・業務・居住・文化・情報などの多様な都市機能を含む区域が中

心市街地として設定されている。また、中でも中心商店街及びその周辺は活力の低下が見

られ、重点的かつ緊急に整備を進める必要があることから、重点区域として位置づけられ

ている1。 図 1 富山市都心地区の構成図

出典:富山市企画管理部企画調整室『富山市総合計画新世紀プラン きらりと輝く・人・まち・

とやま』富山市企画管理部企画調整室、2001年、93ページより転載。

1 富山市企画管理部企画調整室『富山市総合計画新世紀プラン きらりと輝く・人・まち・とやま』富山市企画管理部企画調整室、2001年、92ページ。

3

Page 5: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

参考に、約 20年前の 1980年と現在の中心商店街(総曲輪、中央通り、西町)の地図を比較してみると、富山市民病院が郊外(富山市今泉)へ移転していることがわかる。また、

以前は店舗や家だった場所が今は駐車場になっているところが多く見られる。加えて、食

料品関係の店舗の減少が著しく、衣服や雑貨を扱う店舗、特に若者向けの店舗が増加して

いる。(巻末資料参照) 中心商店街及びその周辺の活力低下の原因として、人口減少と郊外化が考えられる。 以下、人口減少と郊外化についてそれぞれ現状を見ていく。 1.人口減少について

中心市街地に住む住民、利用者は年々減っている。住民である若い世代が郊外へ移り、

高齢者だけが中心市街地に残ることが多い。(図 2参照) 図 2 都心部における年齢 3区分別人口割合推移

0% 20% 40% 60% 80% 100%

2002年

2001年

2000年

1999年

1998年

1997年

0~14歳

15~64歳

65歳以上

出典:住宅・都市問題研究所(富山市が委託)「街のデータ 年齢 3区分別人口割合推移」

http://www.toyama-toshin-monogatari.net/data/img/data_02.pdf(2005年 1月 14日確認)

をもとに筆者作成。 そのため子どもの数も減少し、富山市中心部の小学校の統合が進んでいる。(図 3参照)

2003 年 7 月に星井町小学校、五番町小学校、清水町小学校の統合が決まり、2004 年 4 月には星井町小学校と五番町小学校が先行統合している。また、2004年 2月に総曲輪小学校、愛宕小学校、八人町小学校、安野屋小学校の統合が決まり、2005年 4月には総曲輪小学校、八人町小学校が先行統合する予定2である。 清水町小学校を除く 6校は 1学年 1学級であり、刺激の少ない学校生活が予想される3と

2「総曲輪・八人町 先行統合を」『北日本新聞』2004年 10月 21日付朝刊、第 3面。 3「愛宕小校区も統合OK」『北日本新聞』2004年 2月 17日付朝刊、第 25面。

4

Page 6: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

保護者の間で指摘されていた。 図 3 富山市中心部の小学校

出典:「愛宕小校区も統合 OK」『北日本新聞』2004年 2月 17日付朝刊、第 25面より転載。 また、富山駅周辺、中心商店街地区における地区別歩行者通行量の推移を見てみると、

どちらも年々歩行者通行量は減少している。(図 4参照)10年前と比べると、特に日曜日の中心街の落ち込みが激しい。後で述べるように、相次ぐ大型小売店の郊外進出が多少なり

とも影響しているのではないだろうか。 図 4 歩行者通行量の推移

出典:富山市・富山商工会議所『平成 16年度 歩行者通行量調査結果』富山市・富山商工会議

所、2004年、7ページより転載。

5

Page 7: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

2.郊外化について

前述したように、富山市民病院が郊外へ移っているほか、郊外や近隣市町村では新しい

大型小売店や住宅地が増加している。ここ数年で、婦中町に“ファボーレ”、高岡市に“イ

オン”が進出し、そして数年後には滑川市や入善町にも大型小売店が建設される予定であ

る。こういった郊外化の動きが中心市街地の衰退に拍車をかけているといった意見もよく

聞かれるため、ここで郊外化の動きについて触れることにする。 表 1で最近の大型小売店の出店状況をまとめてみた。 表 1 大型小売店出店状況 店名 開設年月 店舗面積 場所 立地タイプ フューチャーシテ

ィ ファボーレ(ア

ルプラザ富山)

2000年 10月 34,954㎡ 婦負郡婦中町下轡田 郊外道路

PLANT-3滑川店 2000年 11月 11,660㎡ 滑川市上島 郊外道路 イオン高岡ショッ

ピングセンター(ジ

ャスコ高岡南店)

2002年 8月 54,200㎡ 高岡市下伏間江 郊外道路

イ ー タ ウ ン

OHSHIMA 2004年 8月 14,761㎡ 射水郡大島町本開発 郊外道路

出典:東洋経済新報社『全国大型小売店総覧 2005』東洋経済新報社、2004年、836~847

ページをもとに筆者作成。

上記の表からわかるように、どの店舗も郊外に立地し、店舗面積がかなり広い。 ちなみに、富山市中心商店街に立地する大和富山店と富山西武については表 2 の通りである。特に大和富山店は昔からある建物であり、老朽化が進んでいる。後で述べるが、数

年後には移転する予定である。 表 2 大型小売店出店状況 店名 開設年月 店舗面積 場所 立地タイプ 大和富山店 1943年 12月 14,804㎡ 富山市西町 商店街 富山西武 1976年 7月 13,008㎡ 富山市総曲輪 商店街 出典:東洋経済新報社『全国大型小売店総覧 2005』東洋経済新報社、2004年、830ページを

もとに筆者作成。

6

Page 8: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

今後、郊外で出店計画があるものをいくつか挙げてみる。 ○イオングループのショッピングセンター4

・滑川市稲泉で 2006年 9月に開業予定。 ・地元業者にもテナント入居を呼び掛ける。 ○イオングループのショッピングセンター5

・入善町上飯野、東狐で 2006年 9月に開業予定。 ・地元業者にもテナント入居を呼び掛け、農産物などの地場産品の販売にも取り組む。 ○大規模商業ゾーン6

・高岡市下伏間江のイオン高岡ショッピングセンター(SC)隣接地で 2007 年春にオープン予定。 ・県外資本のディスカウントショップを核に、イオン高岡 SCと異なる業種の店舗を配置する方針。実現すれば北陸最大級の商業集積地になる。 郊外に大型小売店が進出することで、中心商店街の売り上げにも変化が出てくる。イオ

ン高岡SCの年間売上高は約 240億円で、週末には 1日約 5万人が訪れる。高岡商工会議所が 2004年 5 月にまとめた調査では、高岡市内小売業の約 7割が「同SCの出店で売り上げが減少した」と回答7した。富山市についても高岡市と同様だと考えるが、それを示すデー

タを見つけられなかったのが残念である。 次に、住宅地の郊外化についてのデータを見てみる。 富山市に隣接する婦中町や舟橋村では、ここ数年人口が増加している。婦中町は2002年、人口増加数が県内で最も多く、382人であった。ちなみに 2003年は大島町で 331人となっている8。婦中町、大島町ともに新しい住宅地が増えている場所である。舟橋村は、富山市

に隣接する立地のよさ、市街化調整区域(市街化を抑制すべき区域)の除外に伴う住宅団

地の造成などで、10年前には約 1400人だった村の人口は 2687人(2004年 12月 1日現在)と激増した。新しい村民には初めて家を購入する若い世代が多く、65 歳以上の高齢人口が15.5%(県内平均 22.7%)なのに対し、15 歳未満の年少人口は 22.2%(同 13.6%)9とな

っている。

4 「滑川で大型SC計画」『北日本新聞』2004年 11月 5日付朝刊、第 1面。 5 「入善で大型SC計画」『北日本新聞』2004年 11月 13日付朝刊、第 38面。 6 「高岡に大規模商業ゾーン」『北日本新聞』2004年 12月 9日付朝刊、第 1面。 7 「富山・金沢からも誘客」『北日本新聞』2004年 12月 9日付朝刊、第 5面。 8 富山県統計調査課「人口と世帯/市町村別人口」 http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/index2.html、2005年 1月 14日確認。 9 「舟橋 金森村政スタートへ」『北日本新聞』2004年 12月 12日付朝刊、第 20面。

7

Page 9: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

これまで挙げたデータを見てみると、郊外化が進むと同時に、中心市街地では人口の減

少が進んでいるが、その一方、高層マンションの建設計画が増えている。富山市建築指導

課には、2004年 4月以降賃貸 6件、分譲 1件のマンション建設計画が寄せられている。その背景には地価低下がある10。 2004年 3月 22日発表の地価公示を受けて、翌日の北日本新聞は、「郊外型の大型店進出に押され、中心商店街の土地需要が減少。空き店舗が増加し、下落幅を拡大する悪循環が

続いている。富山市は、駅前でリニューアルオープンしたCiCの影響で一部下落幅が縮小しているが、下落は止まらない。」と指摘している。商業地で 10 年連続最高価格となった富山市桜町「ブレイン桜ビル」(富山駅前)でも 2003年に比べ、15.7%マイナスとなった11。

このような地価低下に後押しされ、バブル期を上回る、高層マンションの建設計画ラッシ

ュとなっている。 また最近、中心商店街では、再開発も進んでいる。 ○2005年 4月に全面開業(一部既に完成、開業)の西町・総曲輪地区再開発事業 ○2005年に完成予定の堤町通り 1丁目地区(西町スクランブル交差点角)優良建築物等整備事業 ○2006年に完成予定の総曲輪通り南地区再開発事業(富山大和の移転) などが計画され、富山市の予算にも大きく組み込まれている。詳細は次章の「富山市の取

り組み」で述べる。また、次章では富山市だけではなく、国や他の自治体が中心市街地の

活性化にどのように取り組んでいるのかも見ていく。

10 「高層マンション計画ラッシュ」『北日本新聞』2004年 7月 31日付朝刊、第 39面。 11 「商業地 下落底見えず」『北日本新聞』2004年3月 23日付朝刊、第 10面。

8

Page 10: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

第 2章 中心市街地活性化へ向けての取り組み

前章では富山市中心市街地の現状を見てきた。中心市街地では人口の減少が進み、郊外

では大型小売店や住宅地の建設が相次ぎ、郊外化が進んでいる。 ではいったい、中心市街地活性化のためにどのような対策がとられているのか。 ここでは、活性化へ向けての国の取り組みと地方(富山市と他の自治体)の取り組みを

見ていく。他の自治体としては、石川県金沢市を取り上げた。 まず、国、富山市、金沢市が中心市街地活性化をどのように定義しているのかを見た上

で、各取り組みについて紹介していく。 第 1節 国の取り組み

中心市街地活性化関係府省庁連絡協議会12発行のパンフレット『中心市街地活性化のすす

め 2004年度版』では、中心市街地活性化について「これからの時代のニーズに対応した地域コミュニティの中心として、すなわち人が住み、育ち、学び、働き、交流する場とし

て再生すること13」と記述してある。だが、具体的な数値や目標などは見つけることができ

なかった。 次に、中心市街地活性化のために国が取り組んでいる“歩いて暮らせるまちづくり”を

紹介する。歩いて暮らせるまちづくりは 1999年 11月 11日の経済新生対策(経済対策閣僚会議決定)において、望ましい都市社会を構築していく基本的な方策として位置づけられ

た構想である。そして翌月 12月には歩いて暮らせるまちづくり推進要綱が定められ、全国20 ヵ所でのモデルプロジェクトが実施された14。富山市もモデルプロジェクトの一つとな

っている。 歩いて暮らせる街づくりの意義として以下のような点15が挙げられている。

○郊外への拡大から「既成市街地の再生」へ ○車依存の街づくりから「徒歩圏の街づくり」へ ○ハード重視から「ソフト重視の街づくり」へ ○行政主導型から「公民協働による街づくり」へ ○大量に資源エネルギーを消費する都市から「持続可能な都市」へ 12 経済産業省・国土交通省・総務省・農林水産省・警察庁・文部科学省・厚生労働省・内閣府から成る。 13 中心市街地活性化関係府省庁連絡協議会『中心市街地活性化のすすめ 2004年度版』中心市街地活性化関係府省庁連絡協議会、2004年、3ページ。 14 国土交通省 都市・地域整備局都市総合事業推進室 住宅局市街地建築課監修、歩いて暮らせる街づくり研究会編『歩いて暮らせる街づくり テクニカルガイド』ぎょうせい、2003年、4ページ。 15 歩いて暮らせる街づくり研究会、前掲書、10ページ。

9

Page 11: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

つまり歩いて暮らせる街づくりは ○少子高齢化社会に対応した街づくり ○環境問題に対応した街づくり ○都市の拡大圧力の減少及び投資余力の減少に対応した街づくり であり、その効果が期待されている。上記のような点だけではなく、街の魅力の低下にも

対応した街づくりであり、必要な機能をコンパクトに集約化することによって、多様な人

が集い、街なかのにぎわいの創出につながる16と期待されている。 国土交通省(以下国交省)は 2003年 12月に「都市ビジョン」をまとめた。これには福祉、商業、医療、文化などの施設を駅周辺や市役所などを中心に集約した、歩いて暮らせ

るまちづくりなどの行動計画が盛り込まれている。国交省は「中心市街地や都心に、人や

業務機能を集積させるコンパクトなまちづくりを進める。市街地の周辺部は緑豊かな自然

に戻す。」という意見であり、都市の拡大一辺倒だった政策を見直すようになってきた17。 第 2節 富山市の取り組み

富山市中心市街地活性化基本計画18(1999年 9月策定)では、活性化の目標19として、 ○広域都心と生活都心の調和する賑わいあふれる中心市街地の再生 ○自然と歴史、伝統に育まれた新たな富山文化の創造 の 2点を挙げている。また、中心市街地の将来像20として、 ○広域中心の顔としてふさわしい広域的な都市機能を有する中心市街地 ○立山の眺望と水と緑を活かした潤いのある中心市街地 ○人が交流し、賑わいのある中心市街地 16 歩いて暮らせる街づくり研究会、前掲書、12ページ。 17「歩いて暮らせるまちを」『北日本新聞』2003年 12月 4日付朝刊、第 6面。 18 中心市街地活性化基本計画:国の基本方針などをふまえ、一定の条件を満たす区域を「中心市街地」として定めるとともに、中心市街地の活性化のための方針や目標、実施する事業に関す

る基本的な事項等を内容とする。 中心市街地活性化推進室「制度の概要」http://chushinshigaichi-go.jp/frame/f-outline.htm、 2005年 1月 14日確認。 19 富山市役所中心市街地活性化推進室「富山市中心市街地活性化基本計画(概要)中心市街地活性化の基本方針」

http://www.city.toyama.toyama.jp/contents/7d291a111e0203e/7d291a111e0203e7.html、 2005年 1月 14日確認。 20 富山市役所中心市街地活性化推進室「富山市中心市街地活性化基本計画(概要)中心市街地の将来像」 http://www.city.toyama.toyama.jp/contents/7d291a111e0203e/7d291a111e0203e8.html、 2005年 1月 14日確認。

10

Page 12: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

○人に優しい、安全・快適・便利な中心市街地 ○富山の歴史と文化を活かした都市型観光に対応する中心市街地 の 5 点を挙げている。これらの目標、将来像は次節で取り上げる金沢市中心市街地活性化基本計画と比較すると、目標値などがないため具体性に欠けている。 次に、富山市が中心市街地活性化のために取り組んでいる事業として、 ○都心居住の推進 ○再開発ビルの建設 ○公共交通の整備 ○各種イベントの実施 などが挙げられる。以下で簡単に内容を紹介していく。 ○都心居住の推進 ・中教院モルティの建設 2002年 8月、中心商店街内の中央通りさんぽーろと中教院モールの交差点角に建設された。1階に店舗、2~9階は富山市が買い取り、2階に創業者支援のインキュベータ・オフィス、2階の一部から 9階に公共住宅(高齢者用、ファミリー用、単身者用)計 51戸を整備している。入居申し込みは、高齢者用 20戸に対し 50件が集中。ファミリー用 20戸は 5件、単身者用 11戸は 10件で定員に達していなかった21。 ・都心居住に関するワークショップやシンポジウム開催 2003 年 8 月から 11 月にかけて都心居住ワークショップ(共同研修)が開催された。また、2004 年 8 月 28 日には「まちなかに暮らそう 富山市まちなか居住シンポジウム」が開催された。 ・“まちなか居住推進委員会”の発足 この委員会は 2004 年に発足し、「富山市まちなか居住推進計画」を作成している。この計画の中ではまちなか居住推進施策として、購入費用に関する借入金の一部の助成、家賃

の一部の助成、建設費の助成などが挙げられている。「富山市まちなか居住推進計画」は富

山市のウェブサイト上で公開されており(2005年 1月 14日現在)、富山市は市民からの意見を求めている。 21 「中心部に“人口回帰”」『北日本新聞』2004年 8月 3日付朝刊、第 3面。

11

Page 13: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

○再開発ビルの建設(図 5参照) ・2005年 4月に全面開業(一部既に完成、開業)の西町・総曲輪地区再開発事業 8階建ての大型駐車場棟と、商業棟を備えた再開発ビル。全面開業は 2005年 4月だが、 商業棟内ではすでに開業している店舗も多い。以前からその場所にあった店舗だけでなく、

中央通りから移ってきている店舗や新規出店の店舗なども入っている。 ・2005年に完成予定の堤町通り 1丁目地区(西町スクランブル交差点角)優良建築物等整備事業 マンションを主体にした 13階建ての再開発ビル建設が計画されている。低層階の一部には商業施設が入る見通し22。 ・2006年に完成予定の総曲輪通り南地区再開発事業(富山大和の移転) 富山大和移転後の跡地利用として、富山市立図書館も含めた 19階建ての複合(商業ゾーン・公共施設スペース・住宅スペース)ビル建設案23と、低層階をバスターミナルとする複

合(商業ゾーン・公共施設スペース・温泉施設)ビル建設案24が出ている。 図 5 富山市中心部の再開発ビル 出典:「再開発 3事業が本格始動」『北日本新聞』2004年 2月 24日付朝刊、第 5面より転載。

22 「西町交差点に新再開発ビル」『北日本新聞』2003年 12月 11日付朝刊、第 1面。 23 「富山大和跡に市立図書館」『北日本新聞』2004年 8月 11日付朝刊、第 37面。 24 「バスターミナルビル低層階に」『北日本新聞』2004年 10月 21日付朝刊、第 3面。

12

Page 14: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

○公共交通の整備 ・おでかけバス 富山市に住んでいる 65歳以上の人が対象で、2004年 5月 1日から 2005年 3月 31日まで実施される。おでかけ定期券を持っていれば、富山市内各地‐富山市中心市街地間の運

賃が 100 円になる。また、中心商店街の一部店舗では、定期券を持っている人に対して、割引サービスなども行っている。おでかけバスは中心市街地の活性化と公共交通利用促進

を図ることを目的としており、高齢者の交通手段にも役立つ施策とされている。 ・電動スクーター 長時間の歩行に不安を抱える高齢者や障害者の移動を支援するもの。街のバリアフリー

化につながることも期待されている。2003年 9月、2004年 9月から 11月にかけて電動スクーターの試乗体験会、試行実験が行なわれた。2005年度からの本格導入を目指している。 その他、まちづくりとやま25が運営するコミュニティバス“まいどはや”など。 ○各種イベントの実施 ・オープンカフェ 2003 年 8 月から 10 月にかけて、富山市駅北のブールバール(オーバードホール、カナルパークホテル富山前の公共空間)でオープンカフェを試験的に実施した。富山市は歩道

や広場などの公共空間でもオープンカフェやイベントが定期的にできるよう、条例の制定

を目指している。 その他、毎月 2 回日曜日に行われる越中大手市場や、認定を受けたパフォーマーが街なかで弾き語りや大道芸を披露する街角パフォーマンスなどの取り組みがある。

25 富山市中心市街地活性化基本計画に基づき、中心市街地における商業集積を一体的かつ計画的に管理・運営を行うタウンマネージメント機関(TMO)が必要であることから、商店街振興組合、地元商業者等を中心に、富山商工会議所、市も出資する第 3セクターの株式会社として2000年に設立。 まちづくりとやま「会社案内」http://www.tmo-toyama.com/kaisha/index.html、 2005年 1月 14日確認。

13

Page 15: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

第 3節 他の自治体の取り組み

ここでは、石川県金沢市の取り組みを紹介する。石川県は富山県の隣県であり、特に県

庁所在地である金沢市は筆者もよく行く都市である。そのため、現状をつかみやすく、ま

た資料も手に入りやすいことから金沢市を選んだ。 金沢市中心市街地活性化基本計画(2004年度~2008年度)では、整備目標26として、 ○重点整備地区人口の社会動態(増減差)をプラスに転じさせる ○まちなか区域の新規着工住宅戸数 今後 5年間で累計 2500戸(年間 500戸)をめざす ○主要商店街の歩行者通行量をプラスに転じさせる ○まちなかの主要公共施設 延べ入場者数 300万人達成 の 4点を挙げている。ちなみに、1998年度から 2003年度の基本計画の整備目標27は、 ○「伝統・文化を磨き高める」まちづくりを推進する ○定住人口の増加を図る ○歩行者通行量の増加を図る というものだった。 金沢市の整備目標は、具体的な目標値が明らかになっているのが特徴である。前述のパ

ンフレット『中心市街地活性化のすすめ 2004年度版』の中でも、客観的な目標を定めたモデルケースとして金沢市が紹介されている。 次に、金沢市の現状と活性化へ向けての取り組みを見ていく。 金沢市は富山市に比べると兼六園などの観光スポットも多く、観光客も多いのだが、富

山市と同じように郊外化も進んでいる。西は野々市町、松任市など、北は内灘町、津幡町

などまで、切れ目なく住宅地や郊外商業集積が続くようになった。業務機能も駅西区画整

理地区や国道 8 号線バイパス沿いへの流出が目立つ。金沢市には多くの大学もあるが、金沢城跡から南東丘陵部へと移転した金沢大学を筆頭に全て郊外に位置している。また、2003年には、都心に位置していた県庁が駅西区画整理地区に移転した28。

26 金沢市役所「金沢市中心市街地活性化基本計画(平成 16年度~平成 20年度) 整備目標」 http://www.city.kanazawa.ishikawa.jp/kasseika/index.htm、2005年 1月 14日確認。 27 金沢市役所「金沢市中心市街地活性化基本計画(平成 10年度~平成 15年度) 目標」 http://www.city.kanazawa.ishikawa.jp/kasseika/old/01keikaku/theme.htm、 2005年 1月 14日確認。 28 日本政策投資銀行地域企画チーム編『中心市街地活性化のポイント~まちの再生に向けた 26 事例の工夫~』ぎょうせい、2001年、36ページ。

14

Page 16: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

金沢市を取り巻く状況は厳しいが、2004 年 10 月、金沢市中心部(金沢市広坂、金沢市役所隣)に“21 世紀美術館”がオープンした。この美術館は「まちに開かれた公園のような美術館」をコンセプトにしており、街なかの景観を損ねることなく、雰囲気にあった建

築になっている。また、円形・ガラス張りの建物となっており、正面や裏側といった区別

がない。展示室の営業は 10時から 18時まで(金曜日、土曜日は 20時まで)、レストランや市民ギャラリーは 22時までと、比較的遅くまで営業しているのも特徴である。 美術館オープン 1 週間で約6万 8 百人が訪れており、美術館近くの商店街にも人の流れができている。広坂振興会の和田健嗣理事は「休日だけでなく平日でも多くの人が商店街

を歩くようになった」29と話している。この美術館は、文化から経済を活性化させるという

理想も掲げており、今後の人の流れが注目される。また、美術館から金沢駅までの道を“ア

ートアベニュー”と名づけ、道沿いのショーウィンドーを金沢美術工芸大学の学生らがア

ート装飾する取り組みなども行っている。美術館をメインに置き、それに関連した取り組

みも積極的に行っている。 また、美術館だけでなく、街なかに映画を取り戻そうとする動きも見られる。2004年 11月 5日から 14日まで“金沢コミュニティ映画祭”が開催された。これは 2003年度から始まった映画祭であり、金沢市、金沢コミュニティシネマ推進委員会30が主催している。今年

は金沢市中心部の映画館でたくさんの韓国映画が上映された。映画祭に合わせ、シンポジ

ウムや 1000人分のビビンバの無料配布も行なわれた。この映画祭は金沢市・全州市(韓国)姉妹都市交流事業の一つでもある。 以上より金沢市では都心居住に加え、美術や映画などの文化による活性化の取り組みが

見られることがわかった。これらの文化が中心市街地の魅力を高めていくのではないだろ

うか。 一方富山市では、ガラス工芸の地場産業化に力を入れている。だが、富山ガラス工房は

富山市古沢(ファミリーパーク横)にあり、中心市街地とは離れた場所にある。また、中

心商店街や富山駅前にはガラス作品がいくつかオブジェとして展示されているが、実際に

ガラス作品制作を体験できる場所や購入できる店はまだまだ少ない。このガラス工芸をも

う少しまちづくりに生かす余地はあるように思われる。

29 「『市民無料デー』にぎわいさらに」『北陸中日新聞』2004年 10月 16日付朝刊、第 7面。 30 「より多様な映画を街中で楽しんでもらい、中心街の活性化を促すとともに、金沢の映画文化の振興を図るために必要な、コミュニティシネマ(市民映画館)の設立を目指し、様々な活動

をしている。」金沢コミュニティ映画祭 2004パンフレットより。

15

Page 17: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

ここまでをまとめると、中心市街地活性化の状態やイメージ、目標を具体的に提示した

ものはなかなか見つからなかった。これに関しては、総務省からも改善事項として勧告31が

出ている。2004 年 9 月 15 日に総務省が出した、中心市街地の活性化に関する行政評価・監視結果に基づく勧告として、 1.基本計画の的確な作成 2.事業の着実な実施 3.基本計画の見直し 4.基本計画の的確な評価 以上 4点が挙げられている。その中の、基本計画の的確な作成については、「数値目標設定の有効性や中心市街地の区域設定の要件について具体的内容を明示すること」との指摘が

ある。 また、研究者の文献調査をしてみても、中心市街地活性化に関して「過去の栄華を取り

戻すのではなく、これからの時代に対応して新たな繁栄を目指す姿勢が必要である32」とい

った意見はいくつかあったが、明確な定義は見つけることができなかった。 また、国、富山市、金沢市の事例を見てみると、いずれも都心居住をはじめとしたコン

パクトなまちづくり、歩いて暮らせるまちづくりを進めようとしていることがわかった。 次章では、コンパクトなまちづくり“コンパクトシティ”の考え方を見ていく。コンパ

クトシティが中心市街地活性化策となりうるかについては、まだまだ議論がしつくされて

いない状態である。それを踏まえた上で話を進めていきたい。

31 総務省「報道資料 2004年9月」 http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/pdf/040915_1_1.pdf、 2005年 1月 14日確認。 32 日本政策投資銀行地域企画チーム、前掲書、14ページ。

16

Page 18: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

第 3章 コンパクトシティについて

ここでは、まずコンパクトシティがどういうものかを説明した上で、メリット・デメリ

ット、欧米と日本のコンパクトシティの違いを挙げていく。 第 1節 コンパクトシティの概要

コンパクトシティは、サスティナブルな都市の空間形態として提起されたEU諸国で推進されている都市政策モデルであり、都市空間の概念である33。この言葉は 1990年代から使われ始めた。サスティナブルとは持続可能性のことである。この持続可能性は、“環境と開

発に関する世界委員会”による報告書「Our Common Future(我ら共有の未来)」で以下のように定義されている。 「将来の世代が自らの欲求を充足する能力を損なうことなく、今日の世代の欲求を満た

すような開発34」 日経産業消費研究所の定義を用いると、コンパクトシティは「モータリゼーションの進

展によるスプロール化35に歯止めをかけるため、住宅や商業など既に様々な機能を持つ中心

部など既存市街地の集積を高めながら、市街地と郊外間の均衡ある発展を目指す都市空間

36」である。「市街地と郊外間の均衡ある発展」に関して言えば、弘前大学教授の北原啓司

氏は「コンパクトシティは、そこに本来のライフスタイルが共存する余地を再度見出そう

とするものであり、郊外に広がったライフスタイルの単純な否定ではない。中心市街地で

成立するライフスタイルの確立、言い換えれば、中心市街地内に多様なライフスタイルの

選択肢がしっかりと用意されるためのまちづくり37。」と述べている。

33 以下この章は、海道清信『コンパクトシティ‐持続可能な社会の都市像を求めて』学芸出版社、2001年、24~225ページを参考に記述する。 34 大西隆「欧米諸国におけるまちづくり思想の新潮流」、伊藤滋・小林重敬・大西隆監修、財団法人民間都市開発推進機構都市研究センター編『欧米のまちづくり・都市計画制度‐サスティナ

ブル・シティへの途‐』ぎょうせい、2004年、330ページ。 35 スプロール現象:都市外縁部が主に鉄道交通の駅等を中心に宅地化・市街化され、結果として無秩序に開発、蚕食されていく現象。 森岡清美・塩原勉・本間康平編集代表『新社会学辞典』有斐閣、2002年、819ページ。 36 日経産業消費研究所『地方都市再生への戦略‐コンパクトシティを目指して』日本経済新聞社、2002年、はじめに。 37 中出文平・地方都市研究会編『中心市街地再生と持続可能なまちづくり』学芸出版社、2003年、25ページ。

17

Page 19: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

都市計画を専門としている名城大学教授の海道清信氏は、著書『コンパクトシティ 持

続可能な社会の都市像を求めて』の中で、コンパクトシティについて次のように述べてい

る。

街の顔であり、かつてもっとも栄えた場所であった都市のセンターの衰退化、地

球環境問題の深刻化やエコロジーへの関心の高まり、本格的な高齢社会への対応と

の関連でも、コンパクトな都市をつくることが期待されている。 コンパクトシティの基本的な特性は以下の9点である。 1. 人口密度や住宅密度が高い。 2. 一定の生活圏の中で、複合的な土地、建物利用が行なわれている。 3. 自動車交通への依存度が低い。 4. 年齢、社会階層、性別、家族形態、就業など、居住者とその暮らし方の多様さ、建物や空間の多様さがある。

5. 地域の中に、歴史や文化を伝えるもの、他にないものが継承され、他とは違う独特な雰囲気をもっている。

6. 物理的に明快な境界があり、田園地域や緑地に拡散的に、あいまいに市街地が広がっていない。

7. 年齢、所得、性別、社会階層、人種、自動車利用、身体機能などいろいろな特徴を持った人々が、公平に生活できる条件が確保される。

8. 徒歩や自転車で移動可能な範囲に、日常生活に必要な生活機能が配置され、地域的自足性がある。

9. そこに住む市民や住民の交流が盛んでコミュニティが形成され、主体的に参加できる地域自治がある。

第 2節 コンパクトシティのメリットとデメリット

コンパクトシティのメリットとしては、以下の点が挙げられる。 ○自動車交通への依存度が低くなるため、化石燃料の使用量が減少する。また、大気汚染

や騒音、交通事故の危険も減少する。 ○密度が高ければ、公共交通の必要性と成立可能性が高まる。 ○都市の郊外開発を抑制することにより、農地や農村景観、自然環境を保全できる。 ○郊外に立地する商業施設などを抑制することにより、都市のセンター地区の商業その他

の活性化を維持増進できる可能性が高まる。 ○密度が高まると、都市の基盤施設(インフラ)を整備・管理するための公共投資の費用

18

Page 20: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

効率が高まる。 ○年齢や所得などで自動車を利用できない人々にも居住可能な都市、地域を実現できる。 デメリットとしては以下の点が挙げられる。 ○高い人口密度によって交通渋滞や混雑が発生する。 ○密度が高まると、オープンスペースや緑地が失われて環境が悪化する。 ○経済活動などの集中に伴い、地価が高騰する。 以上、コンパクトシティのメリットとデメリットを挙げてきたが、実現可能性という点

では難しい都市政策であることも確かである。コンパクトシティの課題としては次のよう

な点が指摘されている。 ○コンパクトシティの定義、実現方法が明確でない。 ○コンパクトシティは郊外居住指向の強さと対立しており、人々の支持を得られない。 ○自動車の利便性をすべて公共交通や徒歩が代替できるわけではない。 ○都心部と郊外を調和させるには多くの費用を必要とする。 第 3節 欧米と日本のコンパクトシティの違い

欧米と日本では、コンパクトシティに関していくつか違った面が見られる。 欧米では政府の戦略としてコンパクトシティを位置づけているが、日本ではまだその段

階までは至っていない。一部の自治体レベルの計画にとどまっている。 欧州におけるコンパクトシティは、地球環境問題に対応するため、自動車から排出され

る二酸化炭素を削減することを大きな狙いとして始まった。また、都市の活性化の維持と

再生、田園や自然環境の保全などもあわせて達成しようとしている。 一方日本では、人口の減少や高齢化社会への対応、国や地方公共団体の財政難が特有の

問題意識となっている。加えて、日本でコンパクトシティへの関心が高まっている一つの

理由として、中心市街地の活性化問題がある。 また、日本の住宅地は十分にコンパクトであり、ある程度のコンパクト化はすでに成し

遂げられている38との指摘もある。

38 伊藤滋「ヨーロッパの都市計画から学ぶ」宇沢弘文・國則守生・内山勝久編『21世紀の都市を考える‐社会的共通資本としての都市 2‐』東京大学出版会、2003年、33ページ。

19

Page 21: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

第 4章 富山市が進めるコンパクトシティ

ここでは、富山市がコンパクトシティをどう政策に取り入れているのかを見ていく。 第 1節 正橋市政の取り組み

2001年に富山市が発行した『富山市総合計画新世紀プラン』には、既成市街地の再整備によるコンパクトな都市構造への再編が必要と記されている。コンパクトな都市構造とは、

「さまざまな都市機能が一定のまとまりある範囲に集積しているまち。市街地を分散させ

ないで、居住や就業、公共施設など高い生活水準を維持しながら、廃棄物の処理や日常の

交通需要などに関しても、エネルギーや資源の節約になり環境負荷を小さくすることがで

きる39。」と定義している。 正橋市政(1986 年 1 月~2002 年 1 月)の具体的な取り組みまでは調べることができなかったが、この頃すでに、コンパクトシティに対する意識が高まっていたのがわかる。 第 2節 森市政の取り組み

現富山市長である森雅志氏(2002年 1月より現職)は、2002年 10月、北日本新聞社のインタビューで、富山市中心市街地の現状に関して以下のように述べている。 交通手段が車に特化した社会が形成され、人口が広く薄く拡散している。かつて

都心部にあった病院が次々と郊外に出て、球場や運動公園、図書館などの施設も市

内各地に整備された。地域の均衡ある発展を図るためには必要なことだったが、結

果として近隣市町村を含む郊外に人の移動が起きた。今後、超高齢化社会の到来で

社会資本投資の負担が重くなり、都市としての成長が難しくなる恐れがある。もう

一度人口を中心部に凝縮し、コンパクトなまちづくりを進めなければならない40。 富山市役所では、2002 年 11 月から、公募等の職員で構成された“コンパクトなまちづくり研究会”でコンパクトシティについて検討を始めている。この研究会は、コンパクト

なまちづくりとは何か、なぜ必要なのか、それは、富山市においてどのような姿のまちな

のかについて検討している。その検討結果が 2004年 3月に取りまとめられた。以下は富山

39 富山市企画管理部企画調整室、前掲書、200ページ。 40 「『歩きたくなる』街に」『北日本新聞』2002年 10月 14日付朝刊、第 21面。

20

Page 22: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

市役所企画調整課のウェブサイト41に掲載された検討結果を筆者がまとめたものである。 富山市は、市街地の拡散が都市の持続可能性をおびやかしていると考えている。そこで、

コンパクトなまちづくりを目指すことを重要な課題と位置づけた。市街地の拡散が与える

影響には以下のようなものが挙げられる。 ○自動車を運転できない高齢者等にとって暮らしにくい状況となる。 ○自動車交通の増加は、二酸化炭素の排出など環境にも負荷を与えている。 ○道路等都市施設の整備・維持管理費用や、ごみ収集・除雪・介護サービス等の確保に係

る費用が増加する。 ○都心の空洞化により、新幹線の開通を前にして富山市の「顔」が失われつつある。 富山市が目指すコンパクトなまちとして、以下の点が挙げられている。 ○歩いて暮らせる市街地環境の形成 ・徒歩で利用可能な範囲に身近な交通手段があり、基礎的な生活サービスが確保された、

歩いて暮らすことができる市街地環境づくり ○中心市街地の再構築、地域生活交流拠点の育成、形成 ・商業、業務、文化、観光交流等の機能誘導 ・商業集積地区相互を連絡する交通環境の充実 ・商店街の再編と、まちなか居住への転換、複合化を誘導 ○田園地域における定住環境の形成 ・多様な居住地の選択肢を提供するため ・無秩序な市街地の拡大を抑制し、田園環境への影響を最小限に留めることが前提 コンパクトなまちを実現するための施策として、 ○中心市街地などに建物を立地することが有利になるよう、奨励策を与える。 ○都市機能を受け入れる中心市街地などで、社会的なインフラやシステムを整備する。 ○市民の合意形成を築き、連携しながらコンパクトなまちを実現していく組織を整備する。 上記の三つを提案している。 以上より富山市のコンパクトシティは、環境問題に対応したものというよりは、少子高

齢化問題、中心市街地活性化問題に対応したものと言えるだろう。 また、富山市は 2003年度、コンパクトな街づくり研究事業として 1,415万円の予算を割り当てている。

41 富山市役所企画調整課「富山市コンパクトなまちづくり」 http://www3.city.toyama.toyama.jp/public/report/200406/compact/comtop.htm、 2005年 1月 14日確認。

21

Page 23: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

第 5章 なぜ中心市街地が必要か

第 3章、第 4章では、中心市街地活性化策としてのコンパクトシティについて見てきた。中心市街地の活性化はよく言われることであり、その活性化策は議論されることが多い。

だが、なぜ中心市街地が必要なのかということは議論されることが少ないように思う。こ

こで改めて中心市街地の必要性について考えてみたい。 以下で中心市街地の必要性を訴える研究者の意見をいくつか紹介する。 《中心市街地は「地域の顔」「まちの顔」であるという観点から》 「地域の顔」が豊かな地域生活には必要である。余所にはない、その地域らしさを具現化

した空間の存在が、地域住民としてのアイデンティティを認識させ、地域の一体感、コミ

ュニティ意識の高揚につながるものと考えられる42。 中心市街地や商店街は「まちの顔」といわれるだけに、・・・(以下中略)・・・外からま

ちを訪れた人にさびしい印象を与えることで、地域にはかりしれない悪影響をもたらす43。 《国や地方公共団体の財政の観点から》

上下水道や道路などのすでに整備された中心市街地のインフラが活用されず、他方で、

ニュータウンなどのための追加的なインフラ整備が必要となり、二重の意味で公共投資の

不効率が発生する44。 今後の人口減少・高齢化社会において、道路・上下水道など大規模なインフラ整備が必要

とされる郊外開発は、その維持・更新に多大なコストを要し、国や地方公共団体の財政を

圧迫する可能性もある45。 42 日本政策投資銀行地域企画チーム、前掲書、10~11ページ。 43 まちづくり条例研究センター監修、柳沢厚・野口和雄編著『まちづくり・都市計画なんでも質問室』ぎょうせい、2002年、146ページ。 44 柳沢・野口、前掲書、146ページ。 45 日本政策投資銀行地域企画チーム、前掲書、12ページ。

22

Page 24: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

《地域環境保全の観点から》 二酸化炭素の抑制など地域環境保全の観点や、エネルギー多消費型社会からの脱却という

観点から自動車利用を前提とする郊外開発をこれ以上進めるのは問題があるとの指摘がな

されている46。

《アクセスのしやすさから》

家族と一緒には動きたくない年頃の子どもたちや、年寄りにとって(中心市街地)は、

公共輸送機関でアクセスできる47。 公共交通のサービスの恩恵を受けている高齢者や運転免許のない若年層にとっては、自

動車を使わなければ生活できないような街は、住みにくい48。 このように中心市街地の必要性を訴える人がいる一方で、郊外を居住地として選択する

人は多い。都市計画に詳しい渡會清治氏、岡部重雄氏は、居住者が郊外に期待するものは

自然的な環境と空間的なゆとり49だと指摘している。特に富山県は持ち家世帯比率 1 位(79.3%)、乗用車保有台数 1世帯当り 2位(1.71台、ちなみに 1位は福井県で 1.72台)50

と、ともに高い水準であり、郊外でのライフスタイルが確立していると考えられる。 そして住宅地だけでなく商業、業務、公共施設も、自動車でのアクセスが容易で将来的

な拡張余地も残っている郊外へと進出する。だが、中央大学教授細野助博氏は、郊外の同

じ大きさの店舗では全国どこへ行っても「画一的な商品しか店頭に並ばない」、「面白さに

欠ける」という印象だけが残る51と指摘している。 46 日本政策投資銀行地域企画チーム、前掲書、12ページ。 47 蓑原敬・河合良樹・今枝忠彦『街は要る 中心市街地活性化とは何か』学芸出版社、2000年、42ページ。 48 海道、前掲書、199ページ。 49 渡會清治・岡部重雄「人口減少社会で郊外はどう変わるべきか」 NPO法人日本都市計画家協会編著『都市・農村の新しい土地利用戦略 変貌した線引き制度の可能性を探る』学芸出版社、2003年、50ページ。 50 東洋経済新報社『都市データパック 2004年版』東洋経済新報社、2004年、481ページ。 51 細野助博『スマートコミュニティ 都市の再生から日本の再生へ』中央大学出版部、2000年、40ページ。

23

Page 25: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

自動車社会や人々のマイホーム志向を考えると、郊外を居住地、または商業地として選

択する人たちがいて当然である。だが、自動車を持たない人は郊外を利用できない、また

は利用しづらいのも確かである。 一方中心市街地は昔から都市の顔であり、伝統を受け継いできた場所でもある。また、

公共交通が整備されているため、自動車を持たない人でも利用しやすい。また、今の時代

が抱える問題(国や地方公共団体の財政難、地球環境問題)を解決できる可能性も秘めて

いる。 以上から、中心市街地は必要であると言えるのではないだろうか。

24

Page 26: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

第 6章 コンパクトシティを用いた中心市街地活性化

ここでは、今までの記述を踏まえた上で、コンパクトシティが富山市中心市街地の活性

化に有効かどうかを考えてみたい。 第 3 章で述べたように、コンパクトシティの特性の一つは、人口密度や住宅密度が高いという点である。つまり、コンパクトシティは都心に居住する人口と交流人口を増加させ、

中心市街地に活力を呼び戻す52可能性がある。にぎわいの創造には、その「まちを利用する

人」や「まちで活動する人(訪れる人、住む人、働く人)」を増やしていくことが必要であ

る53。よって、人口の増加は中心市街地活性化の第一歩となると考える。中心市街地に、歩

いて暮らせる環境が整っていれば、一時的ではなく、持続的な人口増加が期待できる。特

に富山市では中心市街地の人口が減少しているため、コンパクトシティによる人口の増加

は考えられる。 またコンパクトシティは国や地方公共団体の財政難や地球環境保全、高齢化社会などの

問題に対応できる可能性も秘めている。中心市街地の活性化だけではなく、これらの様々

な問題に対応できる点がコンパクトシティのメリットである。 だが、人口が広く薄く拡散している富山市では、コンパクトシティによる中心市街地活

性化の実現は難しい。全国トップレベルの水準である持ち家世帯率、自動車保有率が大き

な壁となっている。そこで、今後は中心市街地へどのようにして人口を集めるかが課題と

なる。 高齢化社会が進む今、都心居住については高齢者のニーズはあると考えられる。事実、

第 2 章で紹介した中教院モルティは高齢者用住宅の申し込みがファミリー用、単身者用に比べて多かった。今後は若い世代に都心居住のよさをどう働きかけていくかが重要になっ

てくるだろう。居住人口を増加させる場合、街の便利さ、賑わいと同時に、居住環境とし

ての静けさ、土や水、緑が身近に存在するような住宅地54にすることもポイントになる。今

の中心市街地で考えると、松川やいたち川、延命地蔵水など、中心市街地にも生かされる

べき自然は残っている。 また、 ○中心市街地固有の魅力を発掘し強化すること ○市民の誇りや愛着を醸成すること が、歴史や風景を共有しつつ、住みやすく快適な定住環境を形成する上で不可欠である55。

上記の 2 点は、居住者だけでなく、街を訪れる人、利用者を増やすためにも必要なことで 52 海道、前掲書、225ページ。 53 財団法人東北産業活性化センター『コミュニティ再生のまちづくり戦略』日本地域社会研究所、2003年、126ページ。 54 蓑原・河合・今枝、前掲書、235ページ。 55 蓑原・河合・今枝、前掲書、121ページ。

25

Page 27: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

ある。 それには、第 2 章で紹介した富山市や金沢市の取り組みがポイントになる。金沢市のように美術や映画などの文化を中心市街地の魅力とし強化していくことが、今後中心市街地

にどのような影響をもたらすのか、注目すべき点である。

26

Page 28: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

結論

富山市中心市街地では人口、特に若い世代の人口が減少し、それによって小学校の統

合が進んでいる。また、年々中心市街地の歩行者通行量も減少している。 一方郊外では、中心市街地にあった病院が移転し、大型小売店が相次いで出店してい

る。また、ニュータウンも続々と建設されている。 人口が減り、衰退していると言われる中心市街地を活性化させるために様々な取り組

みが行われている。国は「歩いて暮らせるまちづくり」を推進し、富山市や金沢市は都

心居住を進めている。それに加え、富山市、金沢市ともに、中心市街地に人を呼ぶため

のイベントなども開催している。今、既成市街地を再生し、活用するコンパクトシティ

が中心市街地活性化策として注目されている。 コンパクトシティとは既成市街地の集積を高めるものであり、中心市街地の衰退だけ

でなく、地球環境問題や高齢化社会にも対応できると期待されている。欧米で始まった

この取り組みは、日本ではまだ議論しつくされておらず、実現方法など明確になってい

ない部分も多い。富山市もコンパクトシティについて研究を進めており、コンパクトな

まちづくりを目指すことを重要な課題と位置づけている。 コンパクトシティは既成市街地の集積を高めるため、人口を中心市街地に集めること

ができる。人口の増加は中心市街地に活力を呼び戻すには欠かせない。その点ではコン

パクトシティは中心市街地活性化への第一歩になると考えられる。だが、人口が既に薄

く広く拡散した富山市では、コンパクトシティによる中心市街地活性化の実現は難しい。

また、持ち家世帯率、自動車保有率も全国トップレベルであり、それも実現に対しての

大きな壁となっている。 今後は中心市街地へどのようにして人口を集めるかが問題になってくる。現在、都心

居住に対しての高齢者のニーズは高いと考えられる。都心居住のよさを若い世代にどの

ように働きかけていくかが今後、重要になる。また、中心市街地の魅力を発掘し強化す

ること、市民の誇りや愛着を醸成することも欠かせない。本論では取り上げることがで

きなかったが、観光地としての魅力を高め、観光客の増加による活性化を図るのも一つ

の方法である。 これは調査をして気づいたことだが、中心市街地活性化問題は活性化した状態のイメ

ージや目標とする姿をあいまいにしたまま、活性化の手段や方法についての議論を進め

ているように思う。富山市がどのような中心市街地を目指すのか、それをはっきりと示

した上でまちづくりを進めていってもらいたい。

27

Page 29: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

おわりに

2005年 1月 2日、私は富山市中心商店街へ足を運んだ。この日はどの店舗も初売りを行っており、かなりの人で街は賑わっていた。あれほど多くの人を見たのは久しぶりである。

このようなテーマで卒業研究を進めてきた私にとってはうれしい出来事であった。 私は旅行が趣味だが、旅行の楽しみと言えば、その街の文化や雰囲気を味わうことであ

る。日本全国どこへ行っても同じ大型小売店が並んでいて、街並みが変わらないのでは寂

しいものがある。その都市の顔である中心市街地。富山市がこれからどのように中心市街

地活性化を図っていくのか、特に近隣市町村(大沢野町・大山町・八尾町・婦中町・山田

村・細入村)と合併した後の取り組みについても注目していきたい。 自分の興味・関心を論文にしたため、1年以上、この問題について取り組むことができた。だが、コンパクトシティを本論文でどのように扱うかでかなり悩んだ。うまく扱いきれな

かった感じもする。今回はコンパクトシティの定義から、活性化に有効かどうかを分析し

たが、コンパクトシティを実際に政策に取り入れている都市を事例に挙げることができれ

ば、もう少し現実味のある話ができたように思う。また、当初は都市計画法などについて

も調査し言及する予定だったが、そこまで手を広げることができなかったのは残念な点で

ある。 最後になったが、ここまで論文を執筆することができたのは、比較社会論コースの竹村

先生、林先生、人文地理学コースの大西先生、そして比較社会論コースの皆さんのアドバ

イスがあったからだと思う。この場を借りて感謝したい。ありがとうございました。

28

Page 30: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

参考文献、参考資料一覧

青木仁『日本型魅惑都市をつくる』日本経済新聞社、2004年 五十嵐敬喜『都市はどこへ行くのか』建築資料研究社、2000年 伊藤滋・小林重敬・大西隆監修、財団法人民間都市開発推進機構都市研究センター編 『欧米のまちづくり・都市計画制度‐サスティナブル・シティへの途‐』ぎょうせい、 2004年 宇沢弘文・國則守生・内山勝久編『21世紀の都市を考える‐社会的共通資本としての 都市 2‐』東京大学出版会、2003年 NPO法人日本都市計画家協会『都市・農村の新しい土地利用戦略 変貌した線引き制度の可能性を探る』学芸出版社、2003年 大熊喜昌・伊達美徳執筆代表『建築計画・設計シリーズ 20 街なみ・街づくり』 市ヶ谷出版社、1998年 海道清信『コンパクトシティ‐持続可能な社会の都市像を求めて』学芸出版社、2001年 国土交通省 都市・地域整備局都市総合事業推進室 住宅局市街地建築課監修、 歩いて暮らせる街づくり研究会編『歩いて暮らせる街づくりテクニカルガイド』 ぎょうせい、2003年 財団法人東北産業活性化センター『コミュニティ再生のまちづくり戦略』 日本地域社会研究所、2003年 中心市街地活性化関係府省庁連絡協議会『中心市街地活性化のすすめ 2004年度版』 中心市街地活性化関係府省庁連絡協議会、2004年 東洋経済新報社『全国大型小売店総覧 2005』東洋経済新報社、2004年 東洋経済新報社『都市データパック 2004年版』東洋経済新報社、2004年 富山市企画管理部企画調整室『富山市総合計画新世紀プラン きらりと輝く・人・まち・

とやま』富山市企画管理部企画調整室、2001年 富山市・富山商工会議所『平成 16年度 歩行者通行量調査結果』富山市・富山商工会議所、2004年 中出文平・地方都市研究会編『中心市街地再生と持続可能なまちづくり』学芸出版社、 2003年

29

Page 31: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

日経産業消費研究所『地方都市再生への戦略‐コンパクトシティを目指して』 日本経済新聞社、2002年 日本政策投資銀行地域企画チーム『中心市街地活性化のポイント~まちの再生に向けた 26事例の工夫~』ぎょうせい、2001年 細野助博『スマートコミュニティ 都市の再生から日本の再生へ』中央大学出版部、 2000年 まちづくり条例研究センター監修、柳沢厚・野口和雄編著『まちづくり・都市計画 なんでも質問室』ぎょうせい、2002年 松原青美監修、都市再生ビジョン研究会編『市街地縮小時代のまちづくり ‐都市再生ビジョンを読む‐』ぎょうせい、2004年 蓑原敬・河合良樹・今枝忠彦『街は要る 中心市街地活性化とは何か』学芸出版社、 2000年 三船康道・まちづくりコラボレーション著『まちづくりキーワード事典 第二版』 学芸出版社、2002年 金沢市役所ウェブサイト http://www.city.kanazawa.ishikawa.jp/ 総務省ウェブページ「報道資料 2004年 9月」 http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/pdf/040915_1_1.pdf 中心市街地活性化推進室ウェブサイト http://chushinshigaichi-go.jp/ 富山市役所ウェブサイト http://www3.city.toyama.toyama.jp/ とやま統計ワールドウェブサイト http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/index2.html まちづくりとやまウェブサイト http://www.tmo-toyama.com/

30

Page 32: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

巻末資料

31

Page 33: コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~ …平成16 年度卒業研究論文 コンパクトシティは中心市街地の活性化に有効か ~富山市を事例に~

32