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アクティブラーニングを目指した授業実践と課題
情報学部 髙橋 等
ラーニングメソッド研究会 2016.1.27
アクティブラーニングの導入
・ アクティブラーニングって何なの?
・ アクティブラーニングが叫ばれはじめた背景は何なの?
「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。」(中教審2012)
【初等・中等教育】1998 「総合的な学習の時間」 探求的な学習が推進され始める。2002 「ゆとり教育」で学力が下がったと言われる。2004 「PISAショック」 判断思考や読解能力が低い。2008 「たしかな学力」 知識・技能を活用する「思考力・判断力・表現力等」。2012 「PISA回復」 テスト順位は回復するも学びへの興味関心低順位。・・2020 「アクティブラーニング」 21世紀に生きる子供たちの資質を育成。
・学習と社会のつながりを体験 ・ICTの活用
【高等教育】
2004 就職基礎能力(厚労省) 能力証明書(2009事業終了)
2006 社会人基礎力(経産省) 3つの社会人基礎力の核
「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」
2008 学士力(文科省)ポートフォリオ導入
2012 学士力(文科省)アクティブラーニング導入
・ アクティブラーニングが叫ばれはじめた背景は何なの?
小学校・中学校の方が、早くからアクティブラーニングに取り組んでいる
・ 初等・中等教育の実践から学ぶこと
【アクティブラーニングは当たり前】
小学生の集中力は15分 あの手この手で能動的な活動をさせている
【一部では活動そのものが目的になってしまった(行動主義)】
児童生徒の活動 = 能動的な学習 ではない。
【号令をかけてもICT化は進まない】
ICT機器、ICT操作サポート、ICT化の意義理解、ICT化の実利
が無いと、教師のICT活用は進まない。
【求められる学力の変化を受け入れることが大切】
知識や技能など従来的能力 → アクティブラーニングでも育成できる。
新たな課題を解決する能力 → アクティブラーニングでしか育成できない。
【できることから即実践する】
方法論はいろいろあるが、目的が授業改善なので何でもトライする。【そもそも基礎学力が無いとアクティブラーニングはできない】(基礎を)教えて、考え(問題解決)させる。逆はできない。(4)
アクティブラーニングの実践
1 クリッカーの利用(情報と職業:3・4年生70人-高橋)
目的 ・学生の意思表明による授業参加・インタラクティブな思考を要する授業の展開・授業分析データの取得
教具 クリッカーシステム(s-clicker:自作)スマホ(ブラウザ)から回答入力グラフで結果表示
内容 ・授業の途中で質問をしてクリッカーで回答させる。・回答結果をグラフで示しながら、解説、さらに質問をする。
質問例技術部門の副社長であるルンドは,上司である上級副社長のメイソンに「技術者の帽子を脱いで経営者の帽子をかぶれ」といわれ,打ち上げに同意しました。もしあなたが,打ち上げの危険性を知りながら,ルンドの立場にいたらどうしますか?(技術者倫理 スペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故)回答 1 同意しない 2 同意する 3 意思を示さない
4 その他
結果と課題・学生は積極的に回答してくれる。しかし、学生の興味は授業内容ではなく、クリッカーシステム自体にもある。・クリッカーを有効に使用するためには、学生が興味を引く質問、学生の予測とは異なる回答結果になり、更に関心を持たせる質問など、綿密な授業計画が必要。・スマホを持たない学生やパケ代負担を気にする学生がいる。・回答ログによる授業分析は今後の宿題。
2 マシュマロチャレンジ(基礎ゼミ:PBL入門1:全1年生-全教職員)
目的 他の授業においてグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・
ワーク等のアクティブ・ラーニングを実施したり、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習などのPBLを実施するために必要な基礎的な知識、技能、態度を育成する。・共同作業に必要な協調性、責任感、リーダシップなどの育成・コミュニケーション能力の育成・プロジェクトマネジメントの基礎理解
教材 マシュマロチャレンジ
内容 1チーム4人程度で、スパゲッティ、マスキングテープ、ひも、マシュマロを使ってタワーを作り、高さを競うゲーム。
スケジュール
時間 内容
10分 概要説明とチーム分け
20分(製作18分) 製作(1回戦)10分 計測、写真撮影、集計
20分 TEDビデオ視聴マシュマロチャレンジ解説
20分(製作18分) 製作(2回戦)
10分 計測、写真撮影、集計
10分 結果発表・振り返り・まとめ
片付け
計測方法
測定値は、タワーの基底部からマシュマロの最高点までの垂直距離。メジャーを使い目視で0.5cm単位まで計測する。計測は1回のみ。(何回か測定して一番良い結果を取ることはできない。)他チームのメンバーが立ち会い、計測値の確認をし合う。
マシュマロチャレンジのポイント
チームで議論しながらスパゲティでタワーを建てる。そして、最後にその先端にマシュマロを乗せる。
しかし、予想よりマシュマロは重く、スパゲッティはその重さで曲がってしまい、タワーは壊れてしまう。
・初めての物事に対応する場合、プロトタイプ(試作)、試行の大切を知る。・プロジェクトは、限られた時間、資材、人材で実施されるため、メンバーはそれぞれの役割を的確に果たす必要があることを知る。
マシュマロチャレンジはチームビルディングの演習として、TEDカンファレンスでトム・ウージェックが紹介した。以来数多くの、学校や会社の新入社員研修や、システム開発系会社のプロジェクトの研修で実施されている。学校や新入社員研修では、初めて出会った同士が交流して信頼し、チームとして仕事に取りくむためのチームビルディングを目的として実施されいる。
TED:トム・ウージェック「塔を建て、チームを作る」まとめ (1)
・ビジネススクールの生徒より、子供のほうが高いタワーを建てる
・ビジネススクールの生徒は、適切なプランを見つけだそうとする。そしてプラ
ン通りに実行しようとする。そしてマシュマロを載せたときに危機を初めて知る。
【机上の空論、現場を知らないことの危険性、先見の重要性】
・子供はマシュマロをのせ、プロトタイプを作りながらマッシュアップしていく
【試作の重要性、反復型開発・アジャイル開発の意義、試作による課題・状況
の明確化】
・CEOたちのグループに、プロセスを管理する人を加えると成績は高くなる。【適切なプロジェクト管理者の必要性】
・高額の賞金をつけると、全チーム失敗したことがある
【欲望、ハイリスクハイリターンの心理】
・インセンティブ+ロースキル≠成功・インセンティブ+ハイスキル=成功
【スキルがないと成功しない】
結果と課題
・初対面の学生同士でも、積極的に協力しあいながら作業ができた。
・対戦チーム数が多い方が盛り上がるので、次回は実施方法を検討する。
・このゲームの目的はTEDビデオを使用して教えた。目的を確実に教えるために、説明の工夫が必要。
・他のPBLや製作系の授業で、マシュマロチャレンジの経験を活かしてもらえることを期待。
3 ブレインライティング(基礎ゼミ:PBL入門2 :全1年生-全教職員)
目的 各授業においてグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・
ワーク等のアクティブ・ラーニングを実施したり、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習などのPBLを実施するために必要な基礎的な知識、技能、態度を育成する。・問題解決のための発想方法、情報の整理方法の習得・コミュニケーション能力の育成・意見発表に臨む態度や言葉遣いなどの習得
教材 ブレインライティング
問題を解決すのには、まず、たくさんのアイデアを出して、その中から実現可能な方法を選択していく。この、最初に行う「アイデア出し」がとても重要だが、短時間に多くのアイデアを出すことは容易ではない。そこで、開発されたのが「ブレインライティング」と言う手法。KJ法に似ているが、短時間でより多くのアイデアを出すことができ、カードが不要なため、実施しやすい。
ブレインライティング授業計画
1 ブレインライティングの説明 (10分)2 1回目 ブレインライティング入門編・ブレインライティング (15分)・集約作業 ( 5分)・発表 ( 5分)
3 2回目 ブレインライティング実践編・ブレインライティング (25分)・集約作業 (10分)・発表 ( 5分)
4 まとめ ( 5分)
ブレインライティングシート
ブレインライティングの手順
1 1グループ5~6人です。シートを配布します。
2 テーマを決定して、シートに書きます。
テーマ(ファミレスの集客アップ作戦)
3 シートの最上列のマス3つへ、5分以内にアイデアを書きます。
1目の前でシェフが料理を作ってくれること
2大きな看板を目立つ場所(通り)に出すこと
3フリードリンクサービス券を広告チラシにつけること
4 5分経ったら、左の人にシートを渡します。
5 2段目の3マスへ5分以内に、新しいアイデアを書きます。
1目の前でシェフが料理を作ってくれること
2大きな看板を目立つ場所(通り)に出すこと
3フリードリンクサービス券を広告チラシにつけること
4メニューが他の店よりも多いこと
5バイキングスタイルで食べられること
6他の店の調査をすること
6 シートが埋まるまで、ローテーションを繰り返します。
3(列)×5(行)×5(人)=75(アイデア)
7 各自、自分のシートを持ちます。 8 良いと思うアイデア8件程度に星マークを付けます。
1目の前でシェフが料理を作ってくれること ★
2大きな看板を目立つ場所(通り)に出すこと
3フリードリンクサービス券を広告チラシにつけること
4メニューが他の店よりも多いこと
5バイキングスタイルで食べられること
6他の店の調査をすること ★
9 星マークを記入したら、シートを左の人に渡します。
10 全てのシートを見るまで、ローテーションします。
1目の前でシェフが料理を作ってくれること ★
2大きな看板を目立つ場所(通り)に出すこと ★
3フリードリンクサービス券を広告チラシにつけること
4メニューが他の店よりも多いこと★
5バイキングスタイルで食べられること
6他の店の調査をすること ★ ★
11 星の付いたアイデアを切り取ります。
1目の前でシェフが料理を作ってくれること ★
2大きな看板を目立つ場所(通り)に出すこと ★
3フリードリンクサービス券を広告チラシにつけること
4メニューが他の店よりも多いこと★
5バイキングスタイルで食べられること
6他の店の調査をすること ★ ★
1目の前でシェフが料理を作ってくれること ★
2大きな看板を目立つ場所(通り)に出すこと ★
6他の店の調査をすること ★ ★
12 似たアイデア同志をグループにします。
1目の前でシェフが料理を作ってくれること ★
2大きな看板を目立つ場所(通り)に出すこと ★
6他の店の調査をすること ★ ★
13 それぞれのグループからベストアイデアを決めます。
14 発表70個のアイデアから、魅力的なアイデアが数個抽出できました。グループごとに発表しましょう。
結果と課題
・多くのアイデアを出すことに苦労するが、多くの学生は予定数を出した。
・一部の学生はアイデアを出すこと(考えること)が辛いと感じている。
・アイデアが文章ではなく、単語の学生が多い。指導が必要。
・代表者の結果発表では、堂々と礼儀正しく行える学生がいる。最初に、良い発表を行うと、それに続く学生もまね(学習)して発表をする。良い発表の方法は、教師から学ぶだけでなく、学生同士の実践から学習することが分かる。優秀な学生の活用方法を探りたい。
5 反転学習(コンピュータリテラシ演習:全1年生-小林健、永田、内藤、高橋)
目的 コンピュータの基本操作についてレディネスの差が大きいので、一斉授業ではコンピュータリテラシの高い学生は授業の必要性を感じず不満が大きい。反転学習によりレディネスの差に対応できる授業を展開する。また、ソフトウェアの技術や技能の習得だけではなく、新たな問題に対して自ら解決していく能力の育成を目指す。
反転授業の展開と内容
Web上のe-Learning で事前に学習する
授業開始時に課題Aまたは課題Bを選択する。
課題Aは解説をしない。完成した学生から退出して良い。【学習経験者へのプライオリティ】課題Bは解説を聞きながら完成させる。【未経験者の学習を担保する】
課題Aを提出した数で成績を決める。【学習経験者へのプライオリティ】
e-Learningの一場面(表計算)
コンテンツ制作:渡邉、永田、高橋 システム:WebClass 日本データパシフィック株式会社
結果 反転授業と課題選択制の評価
ワープロより表計算を事前学習している
e-Learning は学習に役立つと半数が評価一方で一割は評価しない
7割が課題Aを選択
自分の能力より難しそうな課題に挑戦している
個の能力に合わせた課題に好意学習意欲を高めた学習経験の無い学生にも受け入れられた
アンケート調査結果
完成者から退出可能な決まりは好感
演習中は半分の学生は資料を必要としていない
ヘルプ機能よりWebを頼る傾向がある
結果と課題
・反転学習によりレディネスの差が少なくなり、授業への不満が少なくなった。
・授業では、不得意な学生には基本的な課題を、得意な学生には発展的な課題を提示でき、より実践的な学習ができた。
・授業が進むにつれて、反転学習に取り組む時間が少なくなった。課題に慣れたあるいは飽きたためであると考えられるので、課題や反転学習の管理について見直す必要がある。
・e-Learning と LMS は、ここ数年継続して使用しているものであり、使用方法に慣れていて使いやすい。学生1人あたり600円の費用が掛かるが、良いシステムには毎年予算を付けて欲しい。
アクティブラーニング展開への一案
アクティブラーニングの実施理由は、新しい学力(能力)の習得。ならば・・・授業の計画(設計)と評価も新しくしないの?
1 逆向き設計論より(2)(3)
問題解決 コミュニケーション 国際感覚・・・・求められる結果(目標)の熟考・再考
パフォーマンス評価 ポートフォリオ ルーブリック
目標達成を評価する方法の検討と決定
アクティブラーニング PBL インターンシップ・・・目標達成のための授業計画の策定
どのような能力を身につけさせたいのか、どのような人材を育てたいのか目標から考え始める
2 知の構造より(2)(3)
事実的知識
ベネッセ情報流出事件
事実的知識
VW排ガス偽装事件
個別的スキル
事象の情報収集
個別的スキル
事象の客観的評価
転移可能な概念
法令や技術を無視した結果
複雑なプロセス
事象の背景の理解や推察
原理や一般化
法令遵守・人命第一(技術者倫理)
筆記テスト○○事件はいつか
実技テスト○○事件をWebで調べなさい
本質的な問
どうして倫理は守られないのか、どうすれば守られるのかパフォーマンス課題
新聞記者となって、○○事件を、□□さんの目から記事を書きなさい
高いレベルの知の評価は、ポートフォリオやルーブリックなどを持ちいてパフォーマンス評価を行う。
永続的理解キーコンピテンシーポータブルスキル
グループディスカッションディベート調査学習他・・・・
参考・引用文献等
(3) 『理解をもたらすカリキュラム設計――「逆向き設計」の理論と方法』G・ウィギンズ/J・マクタイ、西岡加名恵訳(日本標準)
(2) 10月23日カリキュラムの「逆向き設計」~パフォーマンス課題、ルーブリックなど西岡加名恵准教授 http://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/03-faculty-of-education-jp/13-9234001/video1023京都大学 オープンキャンパスウェア
(1) TED:トム・ウージェック「塔を建て、チームを作る」まとめVideo on TED.com http://www.ted.com/talks/lang/ja/tom_wujec_build_a_tower.html
(4) 「教えて考えさせる授業」を創る基礎基本の定着・深化・活用を促す「習得型」授業設計市川伸一(東京大学大学院教授・中教審教育課程部会委員) 編
(5)アクティブラーニング失敗事例ハンドブック愛知産業大学、椙山女学園大学、中部大学、豊橋創造大学、豊橋創造大学短期大学部、名古屋商科大学、三重大学、文部科学省 「産業界ニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」中部圏の地域・産業界との連携を通した教育改革力の強化平成26年度東海 A(教育力)チーム成果物