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眼視観測による国際宇宙ステーション(ISS)の移動速度の測定 -第 3 回 2011 年 2 月観測のまとめ- 東京工業大学附属科学技術高等学校 科学部 北川翔太 1.目的 ISS の移動速度を、作図と球面三角法を用いて求める。 2.観測方法 私たち科学部が主催するISS観測イベント“きぼう、みーつけた!”では、全国の観測者から報告された ISSの目撃報告を集めている。2011年2月20, 22日には、専門観測を呼びかけ、ISSを目撃した「日時」・ 「都道府県」・「方角」に加え、観測点の緯度・経度、ISSが子午線を通過する時刻の秒単位の観測を依頼 した。この結果寄せられたデータを用いて、前回実施した作図と球面三角法を用いた計算方法 〔1〕 で、ISS の速度を求める。 2つの観測点のISSの子午線通過位置に、北極を加えた3つの地点で球面の三角を構成する(図1)。 図1 球面三角図 ここに球面三角法の余弦法則を適用し、変形すると、下の式1となる。 ここで、観測当日(2月20、22日)のISSの高度h=351 [km] 〔2〕 であり、地球の半径R=6356 [km]とする。 cosθ=cos{cos(90-φ1)×cos(90-φ2) +sin(90-φ1)×sin(90-φ2)×cos(λ1-λ2)} ・・・式1 また、次の式により、速度が求められる。 観測者 1 1 1 ) 観測者 2 2 2 )

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眼視観測による国際宇宙ステーション(ISS)の移動速度の測定

-第 3回 2011 年 2 月観測のまとめ-

東京工業大学附属科学技術高等学校 科学部 北川翔太

1.目的

ISS の移動速度を、作図と球面三角法を用いて求める。

2.観測方法

私たち科学部が主催するISS観測イベント“きぼう、みーつけた!”では、全国の観測者から報告された

ISSの目撃報告を集めている。2011年2月20, 22日には、専門観測を呼びかけ、ISSを目撃した「日時」・

「都道府県」・「方角」に加え、観測点の緯度・経度、ISSが子午線を通過する時刻の秒単位の観測を依頼

した。この結果寄せられたデータを用いて、前回実施した作図と球面三角法を用いた計算方法〔1〕で、ISS

の速度を求める。

2つの観測点のISSの子午線通過位置に、北極を加えた3つの地点で球面の三角を構成する(図1)。

図1 球面三角図

ここに球面三角法の余弦法則を適用し、変形すると、下の式1となる。

ここで、観測当日(2月20、22日)のISSの高度h=351 [km]〔2〕であり、地球の半径R=6356 [km]とする。

cosθ=cos{cos(90-φ1)×cos(90-φ2)

+sin(90-φ1)×sin(90-φ2)×cos(λ1-λ2)} ・・・式1

また、次の式により、速度が求められる。

観測者 1

(λ1,φ1) 観測者 2

(λ2,φ2)

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なお、ISS に働く万有引力が向心力であるから、円運動の方程式により、ISS の軌道上での移動速度

V′は、

この V′を参照値とし、今回の計算結果と比較する。

7.70[km/s]

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3.結果と考察

〔1〕2月20日

表1の通り、4名の観測者から報告があり、有効なデータは「つばささん」、「加茂昭さん」の2件であった。

また表1の通り、それぞれの観測点をA、Bとする。

表 1 2010 年 2 月 20 日 専門報告データ

観測地点 観測点

記号 観測者

子午線

通過時刻 方角

緯度 経度 都道府県

― 前女「も」 ― (天候不良) ― ― 群馬県

― 東工大附

科学部員 ― (天候不良) ― ― 東京都

A つばさ 19時 01分 32秒 北側 北緯 34度 48分 24秒 東経 135度 29分 2秒 大阪府

B 加茂 昭 19時 01分 47秒 北側 34.219度 135.180度 和歌山県

A,B とも北側に ISS を見ているため、ISSの対地軌道図〔3〕を用いた作図により、実際にISSが通過した位

置の緯度データを計測する(図 2)。

図 2 2 月 20 日の ISS 対地軌道図〔3〕

©Heavens-Above GmbH

A:ISS 通過地点

36.5 ° N

135.484°E

B:ISS 通過地点

36.5 ° N

135.180°E

A・B:

ISS 観測地

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対地軌道図から読みとった通過点の緯度は、表 2の通りである。

表 2 通過点の緯度

通過点 観測点

記号 観測者

子午線

通過時刻 方角

緯度 経度 都道府県

A つばさ 19 時 01 分 32 秒 北側 φ1=36.5° N λ2=135.484° E 大阪府

B 加茂 昭 19 時 01 分 47 秒 北側 φ2=36.5° N λ1=135.180° E 和歌山県

この作図により求めた緯度の値で、速度をもとめると、

速度 V=1.906[km/s]

となり、参照値 V´=7.70[km/s]に比べ 5.79 [km/s]の大きな差がでた。

誤差には2つの原因が考えられる。それは、経度の値がとても近いことと、作図による緯度の決定

の精度が低いことである。この計算方法では、少なくとも2つの観測点間の経度の差が0.5°以上離れ

ている必要がある。なぜなら、図2の通り、2点の経度がともに0.5°の範囲内にある場合、作図の精度

の関係で緯度が全く同じものとなってしまうからである。以上の理由により、今回は2地点の経度差が

0.5°以内であったために、大きなずれが生じてしまったと分かる。

今回の結果と前回の結果〔4〕から、この作図を用いた計算方法には、観測点間の距離が近いと速度

を求めることができないという欠点があるとはっきりした。作図の精度を上げる必要がある。

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〔2〕 2月22日の結果と考察

表1の通り、9名の観測者から報告があり、有効データはA1~A4、B1~B4の8件である。

表 1 2010 年 2 月 22 日 専門報告データ

観測地点 観測点

記号 観測者 子午線通過時刻 方角

緯度 経度 都道府県

A1 (名無しさん) 18 時 19 分 41 秒 北側 緯度 36.39 度 経度 139.06 度 群馬県

埼玉県立蕨高校 A2

地学部

18 時 19 分 51 秒 北側 緯度:35 度 49 分 58 秒 経度:139 度 40 分 27 秒 埼玉県

東京工業大学 A3

附属高校科学部

18 時 19 分 44 秒 北側 北緯:35 度 38 分 40 秒 西経:139 度 44 分 50 秒 東京都

A4 梅下 18 時 19 分 31 秒 北側 北緯 35 度 43 分 5 秒 東経 139 度 33 分 29 秒 東京都

B1 つばさ 18 時 18 分 29 秒 北側 北緯 34度 47分 57.08秒 東経 135 度 44 分 0.45 秒 大阪府

B2 B_Albireo 18 時 18 分 38 秒 北側 B:34°44’41.4691 L:135°24’38.7807 兵庫県

B3 三田祥雲館 18 時 18 分 35 秒 北側 34 度 54 秒 36 秒 135 度 9 分 38 秒 兵庫県

B4 加茂 昭 18 時 18 分 48 秒 北側 34.219 度 135.180 度 和歌山県

― 篠原 学 天候

不良 鹿児島県

今回の観測者は全員、北側に ISS を見ているため、ISS の対地軌道図〔3〕を用いた作図により、実際に通

過した位置の緯度データを計測する(図 2)。対地軌道図から読みとった通過点の緯度は、表 2の通りで

ある。

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図 3 2 月 20 日の ISS 対地軌道図〔5〕

表 2 通過点の緯度

観測地点 観測点

記号 観測者 子午線通過時刻 方角

緯度 経度 都道府県

A1 (名無しさん) 18 時 19 分 41 秒 北側 φ1=37.5°N λ1=139.06°E 群馬県

A2 埼玉県立蕨高校

地学部 18 時 19 分 51 秒 北側 φ1=37.5°N λ1=139.712°E 埼玉県

A3 東京工業大学

附属高校科学部 18 時 19 分 44 秒 北側 φ1=37.5°N λ1=139.817°E 東京都

A4 梅下 18 時 19 分 31 秒 北側 φ1=37.5°N λ1=139.598°E 東京都

B1 つばさ 18 時 18 分 29 秒 北側 φ2=40.0°N λ2=135.734°E 大阪府

B2 B_Albireo 18 時 18 分 38 秒 北側 φ2=40.0°N λ2=135.465°E 兵庫県

B3 三田祥雲館 18 時 18 分 35 秒 北側 φ2=40.0°N λ2=135.213°E 兵庫県

B4 加茂 昭 18 時 18 分 48 秒 北側 φ2=40.0°N λ2=135.18°E 和歌山県

2 月 20 日の結果より、この作図法では 2 地点間の経度差が小さいと速度を求めることができない。した

がって、計算は距離の離れたA群と B群(表 2参照)を組み合わせて行う。速度は表 3のとおりに求める

ことができた。

A1・A2・A3・A4:ISS 通過地点

緯度

φ1=40.0°

B1・B2・B3・B4:ISS 通過地点

緯度

φ2=37.5°

©Heavens-Above GmbH

A1・A2・A3・A4:

ISS 観測地点

B1 ・ B2 ・ B3 ・

B4:

ISS 観測地点

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表 3 離れた 2地点間の速度

2 つの観測

点 速度 [km/s]

2 つの観測

点 速度 [km/s]

A1×B1 5.853 A3×B1 6.314

A1×B2 6.975 A3×B2 7.471

A1×B3 6.922 A3×B3 7.417

A1×B4 8.663 A3×B4 9.183

A2×B1 5.684 A4×B1 7.388

A2×B2 6.650 A4×B2 9.003

A2×B3 6.631 A4×B3 8.849

A2×B4 8.038 A4×B4 11.58

参照値 V′=7.70 [km/s]に一番近い値は、A3×B2 の、7.471 [km/s]である。また、最大値は 11.58

[km/s]、最小値は 5.684 [km/s]であった。

A3×B2 の値が一番参照値に近く、また、A3×B3 が近い値を出している。この日、私達科学部(A3)は

考案した子午線表示器具を使用している。この装置の使用により、時刻の観測精度が向上した結果と考

えている。

また、表 2 より、A4 の観測時刻は、経度の近い他のA群のものに比べ時刻のずれを記録している。B

1,B4 も同様である。原因は、緯度経度データ、もしくは観測時刻のずれが考えられるが、緯度経度デー

タは報告された都道府県と一致しているので、観測時刻に原因がある可能性が高い。時刻観測の精度

を上げる必要がある、と分かった。

[謝辞]

2 月 20 日、天候が悪い中でもあきらめず ISS 観測を行って下さった前女「も」さん、つばささん、加茂昭さ

ん本当にありがとうございました。

また、2 月 22 日には、こんなにもたくさんの報告で研究を行えました。「名無しさん」、「埼玉県立蕨高校

地学部さん」、「梅下さん」、「つばささん」、「B_Albireo さん」、「三田祥雲館さん」、「加茂 昭さん」、「篠原

学さん」、こ皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。

[参照]

〔1〕 「第一回眼視観測による ISS の移動速度の測定」 東京工業大学附属科学技術高等学校科学部

http://www1.hst.titech.ac.jp/club/sci_club/astronomy/happyou/2010/ISSsokudo1-Kitagawa2010.pdf

〔2〕・〔3〕・〔4〕・〔5〕ドイツ航空宇宙センター Heavens- Above! ホームページ

http://www. heavens-above. com/

〔2〕“Height of the ISS”より 2 月 20、22 日の ISS の高度

〔3〕“Ground Track” より 2 月 20 日の対地軌道図

〔4〕“Ground Track” より 2 月 22 日の対地軌道図