4
ヘルムホルツ共鳴器を用いた薄型吸音パネルの開発研究 川口卓郎 1. はじめに 近年、一般家庭にもシアタールームやリスニングルー ムが普及しつつある。このような小空間では低音が不 快に響くブーミングという音響障害が発生しやすい。し かし、一般的に用いられるグラスウールなどの多孔質 材で低音を吸音するには大きな背後空気層を設ける必 要があり、施工が大掛かりで壁も厚くなってしまう。そ こで、本研究室ではヘルムホルツ共鳴器に着目し、低 音を広帯域で吸音する薄型吸音構造について検討して いる。これまで、共鳴器の頸部を胴部内に延長すること で厚さを変えずに共鳴周波数を低域へ移せること 1) 2 3 個の共鳴器を連立させることで共鳴周波数を増や し吸音域を広域化できること 2) を示し、それらを利用 した吸音構造を提案してきたが、周波数ごとの吸音率 の差や共鳴器の厚みに課題が残り実用化には至ってい ない。そこで本研究では、低音を広帯域で滑らかに吸 音する薄型吸音パネルの開発を目的として、まず、薄く した 2 連立共鳴器の第 2 共鳴器を 4 つに増やした共鳴 周波数の異なる 3 種類の共鳴器を組み合わせた、大き 921 mm × 627 mm × 27 mm のパネル (Panel A) を製 作した。このパネルの残響室法吸音率を測定した結果、 250 500 Hz で吸音率 0.4 程度の性能となったが、形状 が複雑なため共鳴周波数の調節が難しく不均一な吸音 特性となってしまった。次に、形状を単純化し滑らかな 吸音特性とするため、頸部を胴部内に延長することで共 鳴周波数が 100 630 Hz 1/3 オクターブバンド系列 の値となるように調節した 9 種類の薄型単一共鳴器を 組み合わせた、大きさ 1149 mm × 584 mm × 25 mm パネル (Panel B) を製作した。このパネルの残響室法吸 音率を測定した結果、250 500 Hz で吸音率 0.2 0.3 程度と性能が低下してしまった。 以上を踏まえて本梗概では、形状を単純化し滑らか な吸音特性としつつ吸音性能を向上させることを目的 として、新たなパネルの形状について検討する。 2. 吸音特性の解析方法 吸音特性の解析には時間領域差分法 (以下 FDTDM と表記) 5) を用いた。-1 に示すような音響管を模し た音場を想定し、“Sound Source” の位置で平面波を初 期音圧として与え、“Recieve Point”(16 ) における インパルス応答を左端に共鳴器を設置する場合としな い場合それぞれについて求め、そのエネルギー比から 垂直入射吸音率 α 0 を求めた。計算条件は解析周波数 を考慮し、空間離散幅 2 mm、時間離散幅 0.001 ms し、無反射端には Adaptive PML 6) を設定した。ま た、多孔質材を設置する場合の吸音モデルは Rayleigh モデル 7) を採用した。共鳴器内部には単位面積流れ抵 56,960 N·s/m 4 の多孔質材 (密度 96 kg/m 3 のグラス ウールに相当、図中では省略) を設置した。 Adaptive PML Sound Source Receive Point Helmholz Resonator 200 250 250 1600 2300 -1 解析音場 3. 2 連立共鳴器を用いた薄型吸音パネル 3.1 パネル形状の検討方法 Panel A の結果から、共鳴周波数を調節し滑らかな 吸音特性とするには共鳴器の形状は単純であることが 望ましいが、Panel B の結果から、共鳴周波数が1つ である単一共鳴器を多数並べた場合、それぞれの吸音 率が平均化され値が小さくなってしまうことが推測さ れる。そのため本検討におけるパネルでは、形状は共 鳴周波数が 2 つである 2 連立共鳴器、共鳴器の種類は 2 つまでとして 125 500 Hz を滑らかに吸音すること を目的とする。 3.2 2 共鳴器に必要な頸部長さ 既往の研究から、第 2 共鳴器の頸部長さが短いと共 鳴周波数が複数にならないことが推測される 1) 。そこ で、2 連立共鳴器が共鳴周波数を 2 つ確保するには第 2 共鳴器の頸部長さ l 2 はどの程度必要か検討するために、 -2 に示すような大きさ 100 mm × 100 mm × 22 mm 2 連立共鳴器の l 2 4 mm(Case 1)108 mm(Case 2) とした場合の吸音特性を比較した。 結果を-3 に示す。Case 1 の場合は共鳴周波数は 1 つ、Case 2 の場合は 2 つとなっている。なお、Case 2 2 つの共鳴周波数のうち、低域側が頸部の長い第 2 共鳴器によるものと考えられる。以上から、大きさ 100 mm × 100 mm × 22 mm 2 連立共鳴器では、l 2 108 mm あれば 2 つの共鳴周波数が出現することが分 かった。 3.3 2 共鳴器頸部の幅 共鳴周波数を 125 Hz まで低域に移すためには l 2 より長くする必要があるが、延長できる長さには限界 がある。そこで、可能な限り頸部を延長できるように するため、-4 に示すように、Case 2 2 連立共鳴器 の第 2 共鳴器頸部の幅を 20 mm から 10 mm に狭くし た場合 (Case 3)、吸音特性がどのように変化するか調 べた。 結果を-5 に示す。Case 3 では、低域側の共鳴周波 数における吸音率が Case 2 に比べて小さくなっている ものの、共鳴周波数は 2 つ出現しそれぞれの吸音率は 0.6 程度となっている。また、第 2 共鳴器の共鳴周波数 43-1

ヘルムホルツ共鳴器を用いた薄型吸音パネルの開発研究...ヘルムホルツ共鳴器を用いた薄型吸音パネルの開発研究 川口卓郎 1. はじめに

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Page 1: ヘルムホルツ共鳴器を用いた薄型吸音パネルの開発研究...ヘルムホルツ共鳴器を用いた薄型吸音パネルの開発研究 川口卓郎 1. はじめに

ヘルムホルツ共鳴器を用いた薄型吸音パネルの開発研究

川口卓郎

1. はじめに近年、一般家庭にもシアタールームやリスニングルー

ムが普及しつつある。このような小空間では低音が不快に響くブーミングという音響障害が発生しやすい。しかし、一般的に用いられるグラスウールなどの多孔質材で低音を吸音するには大きな背後空気層を設ける必要があり、施工が大掛かりで壁も厚くなってしまう。そこで、本研究室ではヘルムホルツ共鳴器に着目し、低音を広帯域で吸音する薄型吸音構造について検討している。これまで、共鳴器の頸部を胴部内に延長することで厚さを変えずに共鳴周波数を低域へ移せること 1)や2 ∼ 3個の共鳴器を連立させることで共鳴周波数を増やし吸音域を広域化できること 2)を示し、それらを利用した吸音構造を提案してきたが、周波数ごとの吸音率の差や共鳴器の厚みに課題が残り実用化には至っていない。そこで本研究では、低音を広帯域で滑らかに吸音する薄型吸音パネルの開発を目的として、まず、薄くした 2連立共鳴器の第 2共鳴器を 4つに増やした共鳴周波数の異なる 3種類の共鳴器を組み合わせた、大きさ 921mm×627mm×27mmのパネル (Panel A)を製作した。このパネルの残響室法吸音率を測定した結果、250 ∼ 500Hzで吸音率 0.4程度の性能となったが、形状が複雑なため共鳴周波数の調節が難しく不均一な吸音特性となってしまった。次に、形状を単純化し滑らかな吸音特性とするため、頸部を胴部内に延長することで共鳴周波数が 100 ∼ 630Hzの 1/3オクターブバンド系列の値となるように調節した 9種類の薄型単一共鳴器を組み合わせた、大きさ 1149mm× 584mm× 25mmのパネル (Panel B)を製作した。このパネルの残響室法吸音率を測定した結果、250 ∼ 500Hzで吸音率 0.2 ∼ 0.3

程度と性能が低下してしまった。以上を踏まえて本梗概では、形状を単純化し滑らか

な吸音特性としつつ吸音性能を向上させることを目的として、新たなパネルの形状について検討する。

2. 吸音特性の解析方法吸音特性の解析には時間領域差分法 (以下 FDTDM

と表記) 5) を用いた。図-1に示すような音響管を模した音場を想定し、“Sound Source”の位置で平面波を初期音圧として与え、“Recieve Point”(16 点) におけるインパルス応答を左端に共鳴器を設置する場合としない場合それぞれについて求め、そのエネルギー比から垂直入射吸音率 α0 を求めた。計算条件は解析周波数を考慮し、空間離散幅 2mm、時間離散幅 0.001msとし、無反射端には Adaptive PML 6) を設定した。また、多孔質材を設置する場合の吸音モデルは Rayleigh

モデル 7)を採用した。共鳴器内部には単位面積流れ抵抗 56,960N·s/m4の多孔質材 (密度 96 kg/m3のグラスウールに相当、図中では省略)を設置した。

AdaptivePML

Sound Source Receive Point

Helmholz Resonator

200 250 250 1600

2300

図-1 解析音場

3. 2連立共鳴器を用いた薄型吸音パネル3.1 パネル形状の検討方法

Panel Aの結果から、共鳴周波数を調節し滑らかな吸音特性とするには共鳴器の形状は単純であることが望ましいが、Panel Bの結果から、共鳴周波数が1つである単一共鳴器を多数並べた場合、それぞれの吸音率が平均化され値が小さくなってしまうことが推測される。そのため本検討におけるパネルでは、形状は共鳴周波数が 2つである 2連立共鳴器、共鳴器の種類は2つまでとして 125 ∼ 500Hzを滑らかに吸音することを目的とする。

3.2 第 2共鳴器に必要な頸部長さ既往の研究から、第 2共鳴器の頸部長さが短いと共

鳴周波数が複数にならないことが推測される 1)。そこで、2連立共鳴器が共鳴周波数を 2つ確保するには第 2

共鳴器の頸部長さ l2はどの程度必要か検討するために、図-2に示すような大きさ 100mm × 100mm × 22mm

の 2連立共鳴器の l2 を 4mm(Case 1)、108mm(Case

2)とした場合の吸音特性を比較した。結果を図-3 に示す。Case 1 の場合は共鳴周波数は

1つ、Case 2の場合は 2つとなっている。なお、Case

2の 2つの共鳴周波数のうち、低域側が頸部の長い第2共鳴器によるものと考えられる。以上から、大きさ100mm× 100mm× 22mmの 2連立共鳴器では、l2が108mmあれば 2つの共鳴周波数が出現することが分かった。

3.3 第 2共鳴器頸部の幅共鳴周波数を 125Hzまで低域に移すためには l2 を

より長くする必要があるが、延長できる長さには限界がある。そこで、可能な限り頸部を延長できるようにするため、図-4に示すように、Case 2の 2連立共鳴器の第 2共鳴器頸部の幅を 20mmから 10mmに狭くした場合 (Case 3)、吸音特性がどのように変化するか調べた。結果を図-5に示す。Case 3では、低域側の共鳴周波

数における吸音率がCase 2に比べて小さくなっているものの、共鳴周波数は 2つ出現しそれぞれの吸音率は0.6程度となっている。また、第 2共鳴器の共鳴周波数

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20 20 3838 4

100

l2=4mm

2

20

80

100

Case 1

22

20 20 20 3616 4 4

100

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20

20

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l2=108mm

Case 2

図-2 l2 の異なる 2連立共鳴器

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図-3 l2 による吸音特性の違い

が低域に移っているが、これは開孔面積が小さくなった影響と考えられる。以上から、2連立共鳴器の第 2共鳴器頸部の幅を狭くした場合、吸音率は多少低下するものの、共鳴周波数は 2つ出現し、第 2共鳴器の共鳴周波数は低域に移ることが分かった。

3.4 第 2共鳴器の頸部延長3.3では第 2共鳴器の共鳴周波数が低域に移ったも

のの、目標の 125Hzには達していない。そこで、共鳴周波数をさらに低域に移すため、図-6に示すように、Case 3の l2 を 212mmまで延長した場合 (Case 4)の吸音特性を調べ、Case 3と比較した。結果を図-7に示す。低域側の共鳴周波数はほとんど

変化がない。これは、頸部延長によって胴部体積が減少したためと考えられる。以上から、第 2共鳴器の頸部を延長しても胴部体積が減少してしまうため、共鳴周波数は低域に移りにくいことが分かった。

22

20

10

20 10 4616 4 4

100

2

10

10

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100

Case 3

図-4 第 2共鳴器頸部の幅を狭くした形状

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図-5 頸部の幅による吸音特性の変化

22

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2

10

10

80

100

l2=212mm

Case 4

図-6 l2 を延長した形状

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図-7 l2 の延長による吸音特性の変化

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20 20 10 10 6850 4 44

170

2

10

10

80

100

Case 5

図-8 胴部体積を増加させた形状

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図-9 胴部体積の増加による吸音特性の変化

3.5 胴部体積の増加頸部延長だけでは胴部体積の不足により共鳴周波数

を低域に移すことができなかった。そこで、図-8に示すように、大きさが 100mm×170mm×22mmとなるよう胴部体積を増加させて共鳴周波数 125Hzを狙った共鳴器 (Case 5)の吸音特性を調べ Case 4と比較した。結果を図-8に示す。Case 5では低域側の共鳴周波数

は 125Hzとなり目標を達成している。また、同時に高域側の共鳴周波数も 500Hz付近まで低くなり、目標周波数の上限を達成している。以上から、胴部体積を増加することで 2つの共鳴周波数が低域へ移動し、目標としていた周波数 125 ∼ 500Hzの上限値と下限値を吸音する性能を持たせることができた。

3.6 胴部体積や頸部長さによる共鳴周波数の調節目標周波数 125 ∼ 500Hz の上限値と下限値を達成

できたので、次に、共鳴周波数がその間となる 250Hz

付近となるようにしたい。そこで、Case 5の共鳴周波数の低域側を高域へ、高域側を低域へ移すため、図-10

に示すように、第 1共鳴器の胴部体積を増加させ、第2共鳴器の胴部体積を減少させた場合 (Case 6)と、胴部体積と同時に l2を 108mmに短くした場合 (Case 7)

の 2ケースの吸音特性を調べ、Case 5と比較した。結果を図-11に示す。高域側の共鳴周波数は大きく

変化していないが、低域側は高域に移り、特に Case 7

では 250Hz付近で吸音率 0.6以上となっている。以上から、胴部体積や頸部長さを変化させることで低域側の共鳴周波数を高域に移せることが分かり、Case 7では目標の 250Hz付近を吸音する性能を持たせることができた。

22

20 20 10 10 2098 4 44

170

2

10

10

80

100

Case 6

22

20 20 10 20112 44

170

2

10

10

80

100

l2=108mm

Case 7

図-10 胴部体積や頸部長さを変化させた形状

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図-11 胴部体積や頸部長さによる吸音特性の変化

3.7 薄型吸音パネルの製作3.5と 3.6の結果を基に、Case 5と Case 7の共鳴

器を 12個ずつ用いて図-12に示すような薄型吸音パネル (Panel C)を設計した。パネル 1枚の寸法は、縦横が枠材を入れて 959mm× 693mm、厚さが表面材と裏面材を入れて 25mmとなっている。なおパネル製作の都合上、第 1共鳴器の頸部を含む表面材の厚さを 2mm

から 2.5mmへ、第 2共鳴器の頸部を構成している仕切りの厚さを 4mmから 15mmへ、また、仕切りに合わせて胴部の横幅を 170mmから 203mmへ変更した。製作したパネルを図-13に示す。枠材や仕切りは木材、表面材と裏面材はMDFを用い、各共鳴器の胴部には吸音率向上を目的として多孔質材 (ポリウール 8))を胴部体積の半分程度設置した。

3.8 薄型吸音パネルの残響室法吸音率九州大学残響室 9)において、Panel Cの残響室法吸音

率を JIS A1409に基づいて測定した。結果を FDTDM

による垂直入射吸音率の計算値とともに図-14に示す。縦軸は左側が吸音率、右側がパネル 1枚あたりの等価吸音面積を表している。残響室法吸音率では 250 ∼ 500Hz

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959

693

20

20

図-12 Panel Cの形状

図-13 製作した Pabel C

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図-14 薄型吸音パネルの吸音特性

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図-15 残響室法吸音率の比較

において吸音率0.3 ∼ 0.4となっている。また、FDTDM

による計算値に比べ 250 ∼ 4, 000Hzにおいて吸音率が0.2程度上昇している。これは、FDTDMでは再現できていない開孔部における摩擦エネルギーと、胴部内に設置した多孔質材によるものと推測される。なお、125Hz

の測定結果は測定に用いた残響室の室容積が JISの規格を満たしていないことから参考値とする。

3.9 Panel Cと他のパネルとの性能比較Panel Cの残響室法吸音率をPanel AとPanel B、市

販されている既存のパネル (Panel Y)と比較した結果を図-15に示す。Panel Aと比べると 250Hzでは吸音率が 0.1程度低くなっているものの、500 ∼ 4, 000Hz

では全体的に吸音率が向上している。Panel Bと比較すると全周波数において吸音率が向上している。Panel

Yと比較すると 1, 000 ∼ 2, 000Hzでは吸音率が 0.1程度低くなっているものの、目標としていた周波数のうち 250 ∼ 500Hzにおいては上回っている。

4. まとめ小空間に適用する薄型吸音構造の開発を目指して、

形状は単純ながらも低音域を滑らかに吸音する薄型吸音パネルについて検討した。その結果、共鳴周波数が125 ∼ 500Hz である 2 種類の 2 連立共鳴器を並べることで 250 ∼ 500Hz における吸音率が 0.3 ∼ 0.4 となる薄型吸音パネル (Panel C)を実現した。このパネルは、Panel Aよりも形状が単純でありながら性能は250Hz以外では上回り、Panel Bと比べると全周波数において吸音率が向上している。また、市販されている既存のパネル (Panel Y)と比べると厚さは 3mm薄くなり、吸音性能は滑らかさでは劣るものの低周波数の 250 ∼ 500Hzにおいては上回る結果となった。以上から、小空間に適用する薄型吸音構造として、既存のものと比べ低音域における性能が向上した薄型吸音パネルの開発を行うことができた。今後の課題としては、小空間におけるブーミングを解消する効果があるか検証を行う必要がある。

参考文献

1) 金子芳人, 川上徹晃, 川口卓郎, 藤本一寿: ヘルムホルツ共鳴器の頸部延長による低音域用薄型吸音構造, 九州大学大学院人間環境学研究院紀要 第 24 号, pp.73–77, 2013 年 7 月

2) 川上徹晃, 川口卓郎, 藤本一壽: 共鳴器の多段化と共鳴器内部への多孔質材の設置, 九州大学大学院人間環境学研究院紀要 第26 号, pp.55–63, 2014 年 7 月

3) 坂本慎一, 橘秀樹: 差分法による 2 次元音場の過渡応答の数値計算, 日本建築学会講演梗概集 (環境工学), pp.1757–1758,1994 年 9 月

4) 坂本慎一: 音波の進行方向に適応した PML 無反射境界, 日本音響学会研究発表会講演論文集 (秋), pp.909–910, 2005 年 9月

5) John William Strutt, Baron Rayleigh: Theory of Sound,Vol.II, The Macmillan Company, 1929

6) 藤本一壽, 穴井謙, 古賀新一: ポリエステル不織布を用いた吸音材の開発, 九州大学大学院人間環境学研究院紀要 第 9 号,pp.67–74, 2006 年 1 月

7) 加来哲彦, 藤本一寿, 坂田展甫: 吊り下げ板による残響室の拡散性能改善に関する検討, 日本建築学会中国・九州支部研究報告 第 5 号, pp.93–96, 1981 年 3 月

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