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1 2006 年度東京学芸大学教育学部 久保知一研究室第 1 期卒業論文 コンビニエンス・ストア日販の規定要因分析 ―消費者欲求と財務指標、システム間の関係性― 萠出大輔 <要旨> 流通研究の中でもコンビニエンス・ストアに関する研究は以前から数多く行われてきた分野で ある。その多くはコンビニエンス・ストア日販の規定要因をシステム優位との関係から解明する ものであった。本論はコンビニエンス・ストア日販の規定要因をシステム優位との関係からだけ ではなく、消費者欲求や財務指標という新たな側面にも焦点を当てて分析したものとなっている。 本論の目的は、消費者ニーズに対応させるためにコンビニがどのような流通サービスを提供して きたか、またそれが日販にどのような影響を与えているのかを解明し、さらに企業が持っている 総資産が、利益獲得のためにどれだけ有効活用されているのかという点を踏まえて、システム面 との関わり合いの中から日販を規定する要因を明らかにするモデルの提唱を行うことである。分 析の結果、店舗数とドミナント出店の程度、売上高利益率が日販に影響を与えていることが明ら かになった。 <キーワード> コンビニ、日販、流通効用、消費の即時化、供給連鎖、規模の経済、速度の経済、総資本利益 1.はじめに 1-1 問題意識 本論ではコンビニエンス・ストアにおいて持続的に高い店舗業績をあげているセブン-イレブン・ジャ パン(以下、セブン-イレブン)と他のコンビニエンス・ストアとの差異、また日販を規定する要因を明 らかにし、現在のコンビニ不振を脱却するカギを提示することを目的としている。 2005 年度はコンビニエンス・ストア各社の成s長鈍化が顕著になった。成長性を示す全店売上高の伸び 率を前回調査と比較すると、最大手のセブン-イレブン・ジャパンが 1.8 ポイント低下して 2.4%。成長性 でトップだったファミリーマートも 3.3%と、前回から 1.3 ポイント低下した 1 。次の表は 2002 年から 2005 年度までの当期純利益をグラフにしたものである。 1 『日経 MJ トレンド情報源 2007』日本経済新聞社、63

コンビニエンス・ストア日販の規定要因分析c-faculty.chuo-u.ac.jp/~tomokazu/kubo_seminar_student/moide.pdf · 図表1-1 2002-2005 年度 コンビニ・チェーン5

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1

2006 年度東京学芸大学教育学部

久保知一研究室第 1 期卒業論文

コンビニエンス・ストア日販の規定要因分析 ―消費者欲求と財務指標、システム間の関係性―

萠出大輔

<要旨>

流通研究の中でもコンビニエンス・ストアに関する研究は以前から数多く行われてきた分野で

ある。その多くはコンビニエンス・ストア日販の規定要因をシステム優位との関係から解明する

ものであった。本論はコンビニエンス・ストア日販の規定要因をシステム優位との関係からだけ

ではなく、消費者欲求や財務指標という新たな側面にも焦点を当てて分析したものとなっている。

本論の目的は、消費者ニーズに対応させるためにコンビニがどのような流通サービスを提供して

きたか、またそれが日販にどのような影響を与えているのかを解明し、さらに企業が持っている

総資産が、利益獲得のためにどれだけ有効活用されているのかという点を踏まえて、システム面

との関わり合いの中から日販を規定する要因を明らかにするモデルの提唱を行うことである。分

析の結果、店舗数とドミナント出店の程度、売上高利益率が日販に影響を与えていることが明ら

かになった。

<キーワード>

コンビニ、日販、流通効用、消費の即時化、供給連鎖、規模の経済、速度の経済、総資本利益

1.はじめに

1-1 問題意識

本論ではコンビニエンス・ストアにおいて持続的に高い店舗業績をあげているセブン-イレブン・ジャ

パン(以下、セブン-イレブン)と他のコンビニエンス・ストアとの差異、また日販を規定する要因を明

らかにし、現在のコンビニ不振を脱却するカギを提示することを目的としている。

2005 年度はコンビニエンス・ストア各社の成s長鈍化が顕著になった。成長性を示す全店売上高の伸び

率を前回調査と比較すると、最大手のセブン-イレブン・ジャパンが 1.8 ポイント低下して 2.4%。成長性

でトップだったファミリーマートも 3.3%と、前回から 1.3 ポイント低下した1。次の表は 2002 年から 2005

年度までの当期純利益をグラフにしたものである。 1 『日経 MJ トレンド情報源 2007』日本経済新聞社、63 頁

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図表 1-1 2002-2005 年度 コンビニ・チェーン 5 社当期純利益

2002-2005年度 大手コンビニ・チェーン純利益     (上場企業)

-20000

0

20000

40000

60000

80000

100000

2002 2003 2004 2005

年度

百万円

セブン-イレブン

ローソン

ファミリーマート

ミニストップ

スリーエフ

(出所) 有価証券報告書2より著者作成。

コンビニエンス・ストア店舗数が 4 万店を超えて店舗の飽和率が強まるなか、全体収益の拡大を前提と

する成長戦略は限界に差し掛かっている。大手各社は「生鮮コンビニ」3などの新業態で市場の拡大を目指

す一方、既存店では粗利益率の高いファストフードやメーカーと組んで PB 商品を増やすなど、利益重視

の姿勢を強めている。このようなコンビニエンス・ストアの業態多様化に対し、業界トップのセブン-イ

レブン・ジャパンは新業態を設けることには慎重な姿勢を見せている。同質化を避けながらも、同社が創

業後 30 年経過した今なお他チェーンを凌ぐ高い店舗業績をあげている要因は何なのであろうか。分析結果

を元に本論ではそのモデルを構築、提示する。

1-2 定義

コンビニエンス・ストア(convenience store)とは、年中無休で長時間の営業を行い、小さなスペース

でありながら多数の品種を扱う形態の小売店である。多くの場合、大手資本によるチェーン店舗として展

開されている。経済産業省の商業統計での業態分類としての「コンビニエンス・ストア」の定義は、飲食

料品を扱い、売り場面積 30 平方メートル以上 250 平方メートル未満、営業時間が 1 日で 14 時間以上のセ

ルフサービス販売店を指す。本論では、「小さな商圏の中で生活必需品をセルフサービス方式で販売する長

時間営業の小売店舗」という矢作(1994)の提唱したコンビニエンス・ストア(以下、コンビニ)の定義を

採用し、以下の論議を進めていく4。

2 2007 年 1 月 20 日現在。 3 「SHOP99」(九九プラス)、「ローソン STORE 100」(ローソン)など、生鮮商品を含む生活用品を 100 円前後の一

律価格で販売する業態。 4 矢作(1994)『コンビニエンス・ストア・システムの革新』日本経済新聞社、45 頁。

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コンビニの店舗業績はさまざまな指標で測定することができる。日販をはじめとし、売上高や営業利益

などが挙げられる。しかし、本論では、その中で日販を店舗業績の指標とする。それは、以下で説明する

理由による。売上高などを店舗業績の指標とすると、店舗数が多いほうが当然売上高は高くなる。この場

合、コンビニ間の差異はもとより、店舗業績を規定する要因は店舗数だけで決まってしまうこととなる。

コンビニ間の差異や店舗業績を明らかにすることを目的とした場合、売上高や営業利益ではなく日販を店

舗業績の指標とすることでこの問題は解決できる。つまり、日販を店舗業績の指標とすることで経験デー

タに裏付けられた議論を展開することが可能になるのである。以上の理由で、本論では、店舗業績を日販

の数字に限定して議論することとする。

1-3 本論の構成

本論の構成は次の通りである。まず本節では、本稿が扱う問題と意識、その背景について提示した。

第 2 節では、コンビニエンス・ストア・システムに関する先行研究とその内容を紹介する。また、セブ

ン-イレブンが他の大手チェーンよりシステム優位に立っている点を提示しながら、本論の位置付けを示

す。第 3 節では、研究の概念枠組を提示し、それに基づいて仮説を設定する。第 4 節においては、実証分

析の流れについて説明する。また、用いるデータがどのようなもので、出所はどこかを説明する。さらに

どのような分析技法、ソフトウェアを用いたかを記す。第 5 節では、データから実証分析を行い、結果を

図表などによって示すとともに、多変量解析の結果を報告する。第 6 節では、分析の要約、コンビニ政策

や戦略へのインプリケーション、今後への課題、また限界などを述べる。

2.先行研究のレビュー

本論で取り組む問題に関連している研究事例について以下で紹介する。コンビニエンス・ストア・シス

テム全体を対象とした分析を行ったのは矢作(1994)であり、下位システムを対象とした分析を行ったの

は尾崎(1998)と金(2001)である。

2-1 コンビニエンス・ストア・システム ―矢作、尾崎、金の研究―

矢作は従来の研究で調査されてきた「コンビニエンス・ストア」ではなく、「コンビニエンス・ストア・

システム」そのものに焦点をあてた。流通イノベーションの観点から「コンビニエンス・ストア・システ

ム」の全体像を描くために、過去・現在の事実を的確に把握する目的で、ヒアリング調査やフィールド調

査を行った。その調査に基づき、矢作はコンビニエンス・ストア・システムを分析するための小売業務シ

ステム、商品開発・商品供給システム、組織という三つの基本構成要素とそれぞれの相互関係の枠組みを

提示し、同システムが業態として競争優位性を発揮していることの論理を明らかにした。また各要素での

革新が連鎖的に反応し、流通サービス水準を引き上げ、コンビニの競争優位に繋がったと著書で主張して

いる5。

5 矢作(1994) 『コンビニエンス・ストア・システムの革新』日本経済新聞社、16 頁。

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図表 2-1 コンビニエンス・ストア・システムのイノベーション 3 要素

尾崎(1998)は、コンビニと川上業者との関係に焦点を当て、そこでの両者間の関係のあり方について分

析した。戦略提携という場合の『戦略』の内容が戦略目標の共有ということであるとするなら、現実の企

業間の提携のかなりの部分が戦略提携という概念の中には入らないとして、戦略的提携をその一形態とす

るチャネル・パートナーシップという概念を採用している6。また、尾崎(1998)はチャネル・パートナー

シップを「一定の目標を共有し、その実現のためにロジスティクスや商品開発等の領域で協働する独立企

業間の双務的かつ対等な協調関係」と定義し、コンビニ業界でパートナーシップを成功させる要因を明示

した7。それは以下の 4 点である。

① 川上業者の協力を最大限に引き出す。

② パートナーシップ参加メーカーと他のコンビニ・チェーンとの間にコンフリクトを発生させない。

③ 製品特性の点で、顧客にとって鮮度が重要となる。

④ 市場構造で、売手側の上位集中度が低く比較的小規模のメーカーが多数乱立しているか、買手側の

上位集中度が高く当該コンビニ・チェーンがその上位に位置している。

また、上記の成功要因を上手く制御してパートナーシップを構築・運営していても、商品の革新水準が

競合チェーンに劣る場合、そのパートナーシップは不安定化すると主張した。

日本のコンビニエンス・ストア業界の躍進は著しい。高い利益率や継続的システム・イノベーションな

6 尾崎久仁博(1998)『流通パートナーシップ論』中央経済社、109 頁。 7 尾崎久仁博(1998)『流通パートナーシップ論』中央経済社、110 頁。

消費者欲求

小売業務

商品供給 組織構造

・多品種少量在庫販売

・年中無休 長時間営業

・短リード小ロット

・生産・販売統合

・商品の共同開発

・情報ネットワーク

・同盟関係

・FC

競争優位

流通サービス水準

(出所)矢作(1994) 『コンビニエンス・ストア・システムの革新』日本経済新聞社、17 貢。

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ど、その発展の基盤はどこにあるのか。金(2001)はその源泉をフランチャイズ・チェーンにおける「粗利

益分配方式」に求め、業態革新の本質に鋭く迫った。

フランチャイズ・チェーンにおけるロイヤリティ額の決定方法は次の 3 方法である。定額法、売上高分

配法に比べ、荒利分配方式は加盟店が利益を出すことが本部の利益に直接繋がる。他の方式に比べ、荒利

分配方式は「共存共栄」という理念を最も良く反映しているといえる。その理念のもと、加盟店と本部は

それぞれが独立した対等の立場で役割分担をしながら、共同事業として店舗経営に取り組んでいくことが

できるため、質の高い店舗支援、店舗サービスが可能になり日販の向上に繋がる。この論理より、荒理分

配方式を採用しているチェーンの日販は高いと金は主張している。

図表 2-2 ロイヤリティの種類と特色

ロイヤリティ額の決定方法

契約内容・特色

店舗の業績に関わらず、定期的に一定の金額を加盟店が本部に

支払う。

ロイヤリティが一定なので、本部は個店の経営成果を引き上げ

ることではなく、店舗数を拡大することを目標とする。

売上げに対する一定の率をかけた金額を定期的に本部に支払

う。

店舗の売上向上が本部収益の拡大に繋がるため、本部は個々の

店舗収益を軽視してでも店舗売上の拡大を目標とする。

店舗で実現された粗利益に対して一定の率をかけた金額を本

部に支払う。

加盟店の利益が本部の利益へと繋がるため、本部は店舗業務に

関する高い統制度を確保することが可能である。

売上高分配法

定額法

荒利分配方式

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図表 2-3 コンビニエンス・ストア・システムに関する先行研究

2-2 日販の差の規定要因 ―小川・水野の研究―

矢作や尾崎、金などの研究で明らかにされたシステムを活用して、それぞれのコンビニ・チェーンは店

舗業績を向上させるべく努めてきた。その結果として、各チェーン間に日販の差が生じることとなったと

小川は述べる。この差はどのような要因によって生じているのであろうか。この点について考察したのが

小川・水野(2004)である。尾崎や金などの研究を踏まえた既存のコンビニ研究では、以下の 7 つの要因

が日販を高めるものとして挙げられる8。

① チェーン内 24 時間営業店占有率

② チェーン内免許店占有率

③ ドミナント出店の程度

④ 荒利分配方式の採用

⑤ 店舗指導員当たりの担当店舗数

⑥ トップ・役員と店舗指導員との直接対話頻度

⑦ 配送頻度

小川・水野は、上記の要因が本当に店舗業績向上に貢献してきたかどうかを調べるため、実証分析を行

った。さらに上記の要因に、小川・水野が日販向上に貢献すると考えた「チェーン規模」を加えた 8 要因

と日販との関係について相関分析を行った。その結果は、以下の通りである。 8 小川進 (2004)、「コンビニエンス・ストアにおけるシステム優位」、『流通研究』(日本商業学会)第 7 巻第 2 号、7 頁

研究内容・要旨

コンビニエンス・ストア・システム全体に関する体系的

かつ実証データに富んだ研究を行う。

セブン-イレブンの日米の歴史より、コンビニエンス・

ストア・システム全体に迫る。

コンビニと川上業者との関係に焦点を当て、そこでの両

者間の関係のあり方について分析。

著者・著書名

矢作(1994)

『コンビニエンス・ストア・システムの革新』

川辺(1994,2004)

『セブン-イレブンの経営史』

『新版 セブン-イレブンの経史』

尾崎(1998)

『流通パートナーシップ論』

コンビニ業態の革新が起こった理由は「本部・加盟店間

のフランチャイズ契約における荒利分配方式の採用」で

あると主張。

セブン-イレブンの成功要因は、出店の展開方式(ドミ

ナント出店)であると言及。

先行研究で述べられた幾つかの要因が実際に日販の向上

に貢献しているかどうかを検証。

金(2001)

『コンビニエンス・ストア業態の革新』

緒方(2003)

『セブン-イレブン 創業の奇蹟』

小川・水野(2004)

『検証 コンビニ神話』

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図表 2-4 小川・水野による実証分析結果

この実証結果によると、それまで日販を向上させるものとして考えられてきた要因のほとんどが日販と

相関した結果にはならなかった。日販との相関に統計的有意性が見られた要因は以下の 3 要因であった。

① チェーン内 24 時間営業店占有率

② 荒利分配方式の採用

③ チェーン規模(96 年当時で 1000 店舗以上展開)

2-3 セブン-イレブンのシステム優位

以上の結果を受けて、小川はセブン-イレブンが創業後 30 年たった今においても他チェーンを圧倒する

日販をなぜ実現できているのかを明らかにするために調査を行った。次の図表は小川が大手チェーン間の

事業モデルの比較について調査をしたものである。

図表 2-5 大手チェーン間の事業モデルの比較

チェーン名 セブン-イレブン ローソン ファミリーマート サークルK サンクス24時間化率(%) 99.1 98.1 95.6 98.4 97.3ロイヤリティ方式 荒利分配 荒利分配 荒利分配 荒利分配 荒利分配情報システム・ベンダー NEC+東芝TEC NEC 東芝TEC NEC NECFFの配送頻度(日) 3便 4便 5便 6便 7便問屋政策 取組型 取組型 取組型 取組型 取組型FF比率(%) 30.2 33.7 NA 34.3 30.7

(出所) 小川進 (2004)、「コンビニエンス・ストアにおけるシステム優位」、『流通研究』(日本商業学会)

第 7 巻第 2 号、8 頁。

なお、2002 年から 2005 年までのコンビニ日販は以下の通りである。

要因

チェーン内 24 時間営業店占有率

チェーン内免許店占有率

ドミナント出店の程度

荒利分配方式の採用

店舗指導員当たりの担当店舗数

トップ・役員と店舗指導員との直接対話頻度

配送頻度

チェーン規模

統計的有意性

×

×

×

×

×

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8

図表 2-6 2002-2005 年度 大手コンビニエンス・ストア・チェーン日販

2002-2005年度 大手コンビニ・チェーン日販        (上場企業)

0

10

20

30

40

50

60

70

2002 2003 2004 2005

年度

万円

セブン-イレブン

ローソン

ファミリーマート

ミニストップ

スリーエフ

(出所) 有価証券報告書9より著者作成。

図表 2-5 より、ほとんどの項目について大手チェーンはセブン-イレブンと同様の活動を行っている。

では、セブン-イレブンと他の大手チェーンの間に存在する日販の差はなぜ生じているのか。小川による

と、セブン-イレブンが他の大手チェーンより秀でている点は以下の 3 点である。

① FF 分野での工場・メーカーの完全専用化

② 単品管理の高い実行水準

③ コンビニ最大の店舗数の展開

以上の 3 点でセブン-イレブンは他のチェーンに比べ競争優位を発揮しているが、そこでのポイントが

「事業システムの量的側面というよりも質的側面にあったという点が重要である」10と小川は指摘している。

ドミナント出店と FF 分野の政策との連動。発注制度や企画制度の向上を目的とした商品横断的あるいは

企業外情報と連結した形での POS データ分析。川上の優良資源を吸引するためのコンビニ最大の店舗数。

こうした事業システム運用における他チェーンとの質的内容の差がセブン-イレブンの競争優位に貢献し

てきたと小川は述べる11。

2-4 本論の位置づけ

以上で紹介したように流通研究分野においてセブン-イレブンやコンビニの仕組みについてこれまで優

れた研究がいくつもなされてきた。しかし、コンビニエンス・ストアにおけるシステム優位と日販の関係

は明らかにされてはきたが、「消費者ニーズ」という視点から日販の動向に迫ってみようという試みは現在

まで本格的になされてこなかった。コンビニを利用する消費者のニーズがわからなければ、真に日販を規

9 2007 年 1 月 20 日現在。 10 小川進 (2004)、「コンビニエンス・ストアにおけるシステム優位」、『流通研究』(日本商業学会)第 7 巻第 2 号、14頁。 11 同上。

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9

定する要因はわからないのではないだろうか。

次の図表はコンビニ利用者に対する調査結果である。

図表 2-7 コンビニの利用目的

食品や日用品購入のため

雑誌や本購入のため

雑誌や本を読むため

サービスを利用するため

特に用事はないがなんとなく

全体(N=3317) 83.7 28.5 18.4 39.5 7.7男性(n=1579) 85.3 32.9 22.7 27.4 7.8女性(n=1738) 82.2 24.5 14.4 50.5 7.5

男性10歳代(n=101) 89.1 48.5 53.5 23.8 10.920歳代(n=305) 85.9 50.5 43.9 34.1 11.830歳代(n=386) 86.8 37.8 25.4 24.6 7.540歳代(n=315) 87.0 28.3 14.9 26.0 7.650歳代(n=255) 82.4 18.0 6.3 26.3 3.960歳代(n=217) 81.1 16.1 4.6 27.6 6.0

女性10歳代(n=96) 87.5 43.8 44.8 28.1 26.020歳代(n=311) 88.1 43.1 34.4 47.3 12.530歳代(n=467) 87.2 25.5 14.6 51.0 7.340歳代(n=323) 79.3 19.2 5.9 56.7 3.750歳代(n=330) 74.8 14.8 2.4 55.5 4.560歳代(n=211) 76.3 9.5 2.4 46.9 2.8

図表 2-8 利用店舗の選択理由

家や職場、学校から近い

弁当や総菜が充実している

品ぞろえが豊富 酒・たばこが買える

駐車場がある 目的の商品を探しやすい

店員の応対がよい 雑誌が充実している

 全体(N=3317) 82.0 28.1 27.1 24.9 17.6 16.8 15.5 14.7男性(n=1579) 78.0 28.9 27.0 34.1 21.4 16.8 13.7 17.7

女性(n=1738) 85.7 27.3 27.2 16.6 14.1 16.7 17.0 12.0男性10歳代(n=101) 90.1 25.7 46.5 5.0 3.0 28.7 20.8 40.6

20歳代(n=305) 84.3 30.5 33.1 39.3 20.3 14.8 17.0 33.130歳代(n=386) 81.3 32.9 30.1 40.9 29.5 13.2 14.0 20.240歳代(n=315) 74.6 30.5 24.1 37.1 25.1 15.2 13.3 10.850歳代(n=255) 71.4 21.2 18.4 35.7 19.6 19.6 9.4 7.160歳代(n=217) 70.5 28.1 18.4 21.7 13.8 19.8 11.1 3.2

女性10歳代(n=96) 94.8 32.3 55.2 6.3 2.1 25.0 18.8 35.420歳代(n=311) 89.7 32.8 40.2 19.9 17.7 18.0 19.6 26.730歳代(n=467) 87.8 28.3 32.1 20.3 20.8 17.6 20.1 10.740歳代(n=323) 83.6 30.7 25.1 16.1 14.6 15.2 20.7 8.450歳代(n=330) 83.0 18.8 11.8 14.8 10.0 14.5 10.3 3.960歳代(n=211) 78.2 22.7 11.8 11.4 5.2 14.7 10.4 0.9

(出所) 読売 AD レポート http://adv.yomiuri.co.jp/ojo/02number/200104/04data.html

図表 2-7、2-8 から性別・年代に関わらず、コンビニの利用目的では「食品や日用品購入のため」という

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10

理由が、また利用店舗の選択理由では「家や職場、学校から近い」という理由が他の理由の選択肢よりも

圧倒的に多いことがわかる。

本論はコンビニエンス・ストアにおけるシステム優位との関係からだけではなく、消費者欲求という新

たな側面にも焦点を当てたいと考えている。消費者ニーズに対応させるために、コンビニがどのような流

通サービスを提供しているか、またそれが日販にどのような影響を与えているのか。さらに、企業が持っ

ている総資産が、利益獲得のためにどれだけ有効活用されているのかという点も踏まえて、システム面と

の関わり合いの中から日販を規定する要因を明らかにするモデルの提唱を行う。

3.仮説の提唱

3-1 研究の概念枠組

仮説の設定にあたって、まずはその仮説に基づく研究の概念枠組を提示する。本論では、消費者欲求と

いう側面に焦点を当て、消費者ニーズに対応させるためにコンビニがどのような流通サービスを提供して

いるか、またそれが日販にどのような影響を与えているのかという点を明らかにするものである。以下で

は消費者欲求を中心とした概念枠組を提示する。

3-1-1 流通効用

通常、生産と消費を結ぶ流通の役割は、流通効用(marketing utilities) と呼ばれる。コンビニが生み出

す流通サービス水準は流通効用を業態効用に置き換えると、形態(form)、時間(time)、場所(place)、所有

(possession)といった 4 つの効用から測定できる12。

図表 3-1 流通効用と 4 効用

(出所)矢作(1994)『コンビニエンス・ストア・システムの革新』日本経済新聞社、46 貢より著者作成。

①形態効用

形態効用面での最大の特徴は高付加価値商品の販売である。これに加えて、形態効用には少量サイズ

商品の販売、食料品の納入・販売期限の短縮化による商品の鮮度維持といった特徴がある。製品の加工度

12 矢作(1994)『コンビニエンス・ストア・システムの革新』日本経済新聞社、46 頁。

生産 消費 流通効用

形態 時間

場所 所有

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11

やロット・サイズ、品質等に関する生産と消費の間のギャップが流通段階でどの程度埋められているかに

よって消費者の効用の程度が判断される。製品が上流から下流に流れる過程で流通ロットが小さくなり、

消費ロットに近づくと、形態効用は大きくなる。

自宅近くのコンビニで一本単位で購入する冷えたビールと、スーパーで購入するメーカー・ケース・ロ

ットの常温のビールとでは、消費者が購入する流通サービスとコストは全く異なる。また「素材」そのも

のよりも、「おかず」や「食事」という高付加価値商品の販売をコンビニでは競争差別化の手段としている。

今回調査したチェーン 5 社を比べてみると、直営店・フランチャイズ店共に売上構成比の 68~87%は「食

事」に相当する FF 商品(米飯商品、中華まん、フランクなど)、「おかず」に相当する惣菜・その他日配

食品(加工食品、チルド食品など)で占められていた。消費者は「おかず」「食事」「冷えたビール」を購

入することで、「素材」を買い家庭内で調理加工する労力を省いているといえる。

図表 3-2 2005 年度 コンビニ 5 社 直営店売上構成比

加工食品 ファストフード 日配食品 非食品 食品セブン-イレブン 28.7 30.6 13.2 27.5ローソン 47.3 24.4 11.2 17.1ファミリーマート - 3.9 - 31.3 64.8ミニストップ 48.9 26.0 11.3 13.8スリーエフ 33.3 28.2 8.9 29.6

図表 3-3 2005 年度 コンビニ 5 社 フランチャイズ店売上構成比

加工食品 ファストフード 日配食品 非食品 食品セブン-イレブン 31.0 29.2 12.9 26.9ローソン 50.2 22.3 11.1 16.4ファミリーマート - 3.1 - 31.8 65.1ミニストップ 51.1 24.7 11.5 12.7スリーエフ 34.0 25.6 8.6 31.8

(出所) 有価証券報告書より著者作成13。

②時間効用

時間効用の流通サービス水準は、購買需要の発生から購買行動の完了までの買物所要時間で判定される

14。.買物所要時間が短く、買物可能時間が長いほど、ある小売業態の流通サービス水準は高くなる。

コンビニは年間休日数が少なく、営業時間が長い。図表 2-1 からもわかるように 24 時間化率も 9 割を超

えている。そのため、購買行動の時間的制約が極端に少なく、購買需要の発生から購買行動への移行がす

みやかに進められる。

③場所効用

場所効用は店舗分散度で決定される。店舗の数が多ければ、消費者の利便性は増し、買物所要時間の短

縮につながる。また、買い物所要時間が短縮すると時間効用の流通サービス水準が高くなる。

13 2007 年 1 月 20 日現在 14 矢作(1994)『コンビニエンス・ストア・システムの革新』日本経済新聞社、50 頁。

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④所有効用

所有効用は品揃え形成によりサービス水準が決定される。品揃え形成は在庫投資によって進められ、在

庫投資は取扱品目数と品目あたりの在庫量で決定される。多様な消費者ニーズに適合した在庫投資が行わ

れることが流通サービス水準を引き上げることになる。

コンビニは多品種少量在庫販売という品揃え形成の方針を採用している。単位面積あたりの店頭陳列商

品数が多いばかりではなく、品切れの防止、商品の品質管理といった流通サービス基準も高いといえる。

以上の 4 効用を見てみると、図表 2-2、2-3 の結果との関連性に気付くことができる。

3-1-2 消費の即時化

消費の即時性とは「消費の緊急性に対応した時間的な流通サービス水準の高さ」15と定義できる。消費需

要の発生からその充足までの所要時間が短い消費活動を指す。

我々の日常生活では生活スタイルにより家庭内に在庫を持たない、または持つのに制約がかかり在庫を

持てないことがある。そのため、我々の消費活動は小売店の在庫機能に依存しながら営まれており、即時

性ニーズが顕在化する。

消費の即時性ニーズは次の三つに集約できる。

①不確実性ニーズ

我々消費者は通常、予測に基づく消費者行動を行う。しかし、予測した通り需要が行われることはまず

有り得ない。例えば、不意の来訪者や商品の劣化、破損などである。このような不測の事態がしばしば起

こるのが我々の日常生活の状態である。そのような際、コンビニは時間効用の流通サービス基準が高いた

め、購買行動の時間的制約が極端に少なく、購買需要の発生から購買行動への移行がすみやかに進められ

る。社会生活の活発化と消費生活の個別化、多様化が消費の不確実性ニーズを増大させている。

②高付加価値ニーズ

生活スタイルとして在庫を持たずに、生産・流通加工度の高い商品の供給を小売店に依存するケースで

ある。コンビニは形態効用の流通サービス水準が高いため、消費者は素材を買い家庭内で調理加工する労

力を省くことが可能である。所得水準の向上、都市生活者と単独世帯の増加、生活様式の変化が高付加価

値ニーズを生み出している。

③在庫代替ニーズ

日常生活に必要な商品の中には、家庭内在庫が不可能な商品が少なからず存在する。例えば商品劣化が

早い米飯食品や週刊誌等がそれに当たる。形態効用や時間効用が高いコンビニは在庫代替ニーズを充足さ

せることが可能である。

このようにコンビニによる「消費の即時化」は消費生活の時間的制約を大幅に取り除き、家庭内在庫に

依存しない消費活動を可能にしたといえる。消費者の求める流通サービス基準は高く、コンビニはその要

求に応えるためのシステムを創りあげたといえる。消費者の求める流通サービス水準の違いは以下の図表

の通りである。社会生活の活発化と消費生活の個別化、多様化、また所得水準の向上、都市生活者と単独

世帯の増加、生活様式の変化が物的流通サービス水準の上昇を生み出している。なお、ここで言う「伝統

15 矢作(1994) 『コンビニエンス・ストア・システムの革新』日本経済新聞社、59 頁。

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的小売業者」とはスーパーを含めた小売業者である。

図表 3-4 消費者の求める物的流通サービス水準

(出所)矢作(1994) 『コンビニエンス・ストア・システムの革新』日本経済新聞社、98 頁より著者

編集

3-1-3 供給連鎖の経済性

供給連鎖(supply chain)とは生産から販売にいたる円滑なモノの流れを首尾一貫して作り上げるための

統合化されたロジスティクス・システムのことである。中でもコンビニの商品供給システムは供給連鎖に

高い物的流通サービスを求めており、小売業者主導で構築された完成度の高い供給連鎖となっている。

コンビニが供給連鎖に高い物的流通サービスを求めるのは、消費者のニーズを充足させるために、市場

リスクと物的リスクという 2 つのリスク管理が戦略的な意義を持っていることに起因している16。市場リ

スク管理と物的リスク管理については次の図表の通りである。市場リスク管理は在庫圧縮と在庫切れ防止

を高い次元で同時に解決し、物的リスク管理は高い品質管理水準を保つことで、消費者が求める即時的な

消費に対応できる。2 つのリスク管理を同時に行うことによって、消費者の求める流通サービスに応える

ことができる。

16 矢作(1994) 『コンビニエンス・ストア・システムの革新』日本経済新聞社、98 頁。

買い手にとっての同サービスの価値

物的流通サービスの水準 低 高

コンビニ

伝統的小売業者

・在庫切れ

防止

・在庫軽減

・品質向上

例 ・長リードタイム ・短リードタイム

・大ロット ・小ロット

・温度・時間管理小 ・温度・時間管理大

消費者が求めるサービス

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図表 3-5 2 つのリスク管理

供給連鎖の経済性は、規模の経済、範囲の経済、速度の経済、統合の経済の四つの論理に集約できる17。

商品流通の視点から見た規模の経済は、商品の流通量が増大したとき、単位当たりの流通費用が下落す

ることから発生する。このとき、規模が大きくなればなるほど 1 単位当たりの費用が低下する。コンビニ

側の条件から見ると、一定地域の店舗密度が高く、一店当たりの販売量が多い場合に規模の経済が働く。

加えて、他の条件が一定であれば、すでに述べたように取扱商品の数と仕入先の数が絞り込まれていれば

いるほど、流通ロットは大規模となり、規模の経済が働く。

範囲の経済は、違う事業をうまく組み合わせることによって有効性と効率性を高めることであり、シナ

ジ-効果(相乗効果)によりプラス α の付加価値が生じることである。コンビニの ATM もその例の一つ

である。セブン-イレブンの事例では、配送センター、納品車両を同じ温度帯の多様な品種、商品部門に

多角的に使用する場合に範囲の経済が典型的に働いている。

規模の経済は単位あたりの固定費削減を考えることであり、範囲の経済は変動費削減を考えることであ

る。この2つの概念は同時に存在することが可能である。

しかし、規模の経済や範囲の経済は速度の経済が働いてこそ十分な経済性を発揮する。単に規模や範囲

が拡大しても、時間単位で見たモノの流れが効率的でないと、費用は低下しないからである。流通過程で

の速度の経済は普通、在庫回転率が尺度となる。在庫回転を基準とした速度は、コンビニエンス・ストア・

システムにおいて以下のような意味を持つ。

①在庫回転率の向上による在庫費用の節減

コンビニでは多品種少量在庫販売を行っている。店頭での少量在庫販売に合わせて、工場や配送セン

ター段階での在庫が短サイクルで回るようになれば、それだけ資産投資効用は改善される。

②速度による小売競争優位

品質の高い製品を消費者は求めている。米飯商品をはじめとしたコンビニの主力商品は品質劣化の程

度が激しいため、生産から販売までのサイクルを短くすることが必要となる。速度の向上が供給連鎖

の品質管理機能を高めるという側面を持つ。

③短サイクル化による経営の不確実性の削減

売れ残りが多いと廃棄リスクが増し、店舗経営を圧迫する。販売予測をより確実にするためには、短

サイクル化によって発注のための販売予測期間を短くすることが必要である。その結果、店頭、中間

17 矢作(1994) 『コンビニエンス・ストア・システムの革新』日本経済新聞社、123 頁。

市場リスク管理

・ 小刻みな発注 ・専用在庫管理方式

・ 迅速な納品 ・配送の定時化

在庫圧縮と在庫切れ防止を高い次元で同時に

解決。

物的リスク管理

・ 品揃え形成の適正化

・ 品質管理の徹底

高い品質管理水準を保つことで、消費者が求める

即時的な消費に対応。

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流通段階での品揃えが適正化され、売れ残りや廃棄のリスクが減少する。

④店頭品揃えの弾力化

小刻みな発注は、市場の動向に合わせた商品の入れ替えや新製品の投入を可能にさせる。消費者の求

める店頭品揃えの達成は、発注の短サイクル化による迅速な商品の出し入れなしには実現しない。

3-1-4 総資本利益率

総資本利益率(return on assets : ROA)とは企業が持っている総資産が、利益獲得のためにどれだけ有効

活用されているかを図表す財務指標である。企業の収益効率を判定する指標として、ROE(株主資本利益

率)18と並んでよく使用される。ROA には自己資本(株主資本)だけでなく負債の要素が含まれており、経

済活動において、他人資本を使うことで、自己資本に対する利益率を高めることを意識した指標で、企業

規模(バランスシート)に見合った利益を上げているかを判定するものといえる。

基本的な計算方法は以下の式となる。

分子の利益は当期純利益を用いるのが一般的だが、営業利益や経常利益が使われる場合もある。分母の

総資本は通常、貸借対照図表上の総資産で計算する。それぞれ総資本(総資産)純利益率、総資本(総資

産)営業利益率、総資本(総資産)経常利益率と呼ばれる。また、上記の基本式は次のように分解できる。

ここから、ROA は「売上高利益率×総資本回転率」であることが分かる。売上高利益率は“収益性”を

示す指標であり、総資本回転率は“効率性”の指標である。すなわち、ROA は収益性と効率性を同時に示

す指標であって、ROA を向上するためにはこのどちらかあるいは両方を高める必要がある。

さらに、売上高資本率と総資本回転率は次のように分解することができる。

よって、ROA は以下のようにも図表すことができる。

非在庫資本回転率+

商品回転率

粗利益率-営業経費率=

11ROA

18 ROE(return on equity)企業が株主から調達した資金(資本)をどれだけ効率的に使っているかを示す財務指標。

当期純利益÷株主資本×100 で求められる。

ROA=利益÷総資本×100

利益÷総資本=(利益÷売上高)×(売上高÷総資本)

(1)=売上高利益率 (2)=総資本回転率

(1) (2)

売上高資本率=利益÷売上高=粗利益率-営業経費率

総資本回転率=売上高÷総資本=商品(在庫)回転率+非在庫資本回転率

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16

以下の分析では、収益性の指標である「売上高利益率」と効率性の指標である「総資本回転率」を変数

として使用する。

3-2 仮説の設定

以上の概念枠組に基づいて、以下のように仮説を設定する。

Ⅰ.ドミナント出店、店舗数に関する仮説

Ⅱ.総資本利益率に関する仮説

上記の仮説に加えて、著者が日販に影響を与えると考える以下の仮説を設定する。

Ⅲ.設備投資、FC 店舗率に関する仮説

設備投資は高密度集中出店(ドミナント出店)方式の強化を図表るため、店舗の開設及び改装・情報システ

ム関連の設備の拡充を中心に投資されている。そのため、設備投資額が増えることによって規模の経済や

場所効用がより働くと考えられる。

FC 店舗率は荒利分配方式を採用していることによる。定額法、売上高分配法に比べ、荒利分配方式は加

盟店が利益を出すことが本部の利益に直接繋がるため、加盟店は本部指導をより重視するようになり、本

部は個々の店舗業務に関して高い統制を保つことができる。FC 店舗率が高いことによって、そのチェーン

は質の高い店舗支援、店舗サービスが可能になり日販の向上に繋がると考えられることから以上の仮説を

設定した。

回帰分析.Ⅰ

仮説 1-1:店舗数は日販に正の影響を与える。

仮説 1-2:出店都道府県あたりの平均出店数は日販には正の影響を与える。

回帰分析.Ⅱ

仮説 2-1:売上高利益率は日販に正の影響を与える。

仮説 2-2:総資本回転率は日販に正の影響を与える

回帰分析.Ⅲ

仮説 3-1:設備投資額は日販に正の影響を与える。

仮説 3-2:FC 店舗率は日販に正の影響を与える。

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4.分析手順とデータ

4-1 データと変数

データは有価証券報告書(2007 年 1 月 20 日現在)を中心に上場しているコンビニ 5 社(セブン-イレブ

ン、ローソン、ファミリーマート、ミニストップ、スリーエフ)について収集した。2002 年から 2006 年

までのデータを収集し(半期データを含む)、プールデータとして使用した。サンプル・サイズは 38 であ

る。なお、データは付録として本論の最後に収録している。

分析で使用する変数を以下のように設定する。

上記の変数と第 3 節で述べたキーワードとの対応は以下の通りである。

また、各変数の算出方法は次の通りである。

Y=年間売上高÷365÷全店舗数

X2=全店舗数÷出店都道府県数

X3=当期純利益÷売上高×100

X4=売上高÷総資産

X6=FC 店舗数÷全店舗数×100

Y:日販(万円)

X1:全店舗数(店)

X2:出店都道府県あたりの平均出店数(店)

X3:売上高利益率(%)

X4:総資本回転率(回)

X5:設備投資額(百万円)

X6:FC 店舗率(%)

D1:セブン-イレブン・ダミー

D2:ローソン・ダミー

D3:ファミリーマート・ダミー

D4:ミニストップ・ダミー

キーワード

時間効用

規模の経済

速度の経済

変数名

X1:全店舗数

X2:出店都道府県あたりの平均出店数

X5:設備投資額

X1:全店舗数

X2:出店都道府県あたりの平均出店数

X5:設備投資額

X4:総資本回転率

X3:売上高利益率

X4:総資本回転率 総資本利益率

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4-2 実証分析の流れ

まず、重回帰分析でのマルチコを回避するために、独立変数間の相関関係をチェックする。その際、相

関が高い独立変数を間引く。次にコンビニの日販に影響を与えると考えられる変数がもたらす効果を吟味

する。従属変数と独立変数の因果関係を解明するため、重回帰分析を行う。分析手順を以下で示す。

分析フローチャート

(分析技法) (把握内容)

計算された統計量が有意かどうか調べる。

p 値

独立変数間の相関の強さを測定。

相関係数

相関分析

SPSS 相関が高い独立変数を間引く。

マルチコ

求めた回帰モデルに意味があるか検定。

F 検定

モデルの説明力を調べる。

自由度調整済み決定係数

それぞれの独立変数が有意かどうか調べる。

t 検定

それぞれの独立変数が従属変数に与える効果を測定。

標準化係数

モデルの全体的評価

モデルの部分的評価

SPSS

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5.実証分析

5-1 相関分析

重回帰分析でのマルチコを回避するために、独立変数間(X1~X6)の相関関係をチェックするため、デ

ータ(n=38)を入手し相関分析を行った。

相関係数

X1 X2 X3 X4 X5 X6X1 相関係数 1 0.749 0.817 -0.633 0.722 0.723

有意確率 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000N 38 38 38 38 38 38

X2 相関係数 0.749 1 0.780 -0.174 0.586 0.175有意確率 0.000 0.000 0.295 0.000 0.295N 38 38 38 38 38 38

X3 相関係数 0.817 0.78 1 -0.584 0.651 0.526有意確率 0.000 0.000 0.000 0.000 0.001N 38 38 38 38 38 38

X4 相関係数 -0.633 -0.174 -0.584 1 -0.403 -0.857有意確率 0.000 0.295 0.000 0.012 0.000N 38 38 38 38 38 38

X5 相関係数 0.722 0.586 0.651 -0.403 1 0.513有意確率 0.000 0.000 0.000 0.012 0.001N 38 38 38 38 38 38

X6 相関係数 0.723 0.175 0.526 -0.857 0.513 1有意確率 0.000 0.295 0.001 0.000 0.001N 38 38 38 38 38 38

1%水準で有意(両側)5%水準で有意(両側)

相関分析結果より、相当数の独立変数同士が相関していることがわかる。この状態のまま重回帰分析を

行うとマルチコが生じてしまい、t 検定が不安定になる。そのため、いくつかの変数を分析からはずす必要

がある。本分析では、相関が高い変数の中でも特に著者が重要だと考える変数 X1~ X4を残して重回帰分析

を行うこととする。

5-2 回帰分析

5-2-1 日販に影響をあたえる規定要因

コンビニの日販に影響を与えると考えられる変数がもたらす効果を吟味するために、データ(n=38)を

入手して回帰分析を行った。まず、モデルの全体的評価を行う。F 検定の結果、F 値は 94.92、p 値は.00

であり、0.1%水準で有意であった。これより算出されたモデルには意味があるものと判断できる。また、

このモデルの決定係数は.92、自由度調整済み決定係数は.91 であった。それゆえ、このモデルは従属変数

の変動のうち 91%を説明でき、モデルの説明力は極めて高いものだと主張できる。モデルが全体として信

頼できることがわかったので、続いてモデルの部分的評価を行う。

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非標準化パラメータは定数項 α は 37.84 であり、その t 値は 41.26 でその p 値は.00 であり、0.1%水準

で有意であった。以上の分析結果より、変数 X1、X2、X3の効果は統計的に有意であり、回帰係数の解釈を

行ってもよいと判断できる。

非標準化係数を用いて、説明のためのモデルを以下のように表現する。

・X1は-0.00098 であり、X1が 1 単位増加すると、Y が 0.00098 減少すると主張できる。よって、

仮説 1-1 は支持されなかった。

・X2は 0.065 であり、X2が 1 単位増加すると、Y が 0.065 増加すると主張できる。よって、仮

説 1-2 は支持された。

・X3は 0.15 であり、X3が 1 単位増加すると、Y が 0.15 増加すると主張できる。よって、仮説

2-1 は支持された。

また、仮説 2-2、3-1 は棄却された。

5-2-2 コンビニ・チェーンの強さ

個々のコンビニの強さを測るため、新たにダミー(D1~ D4)を変数に加えて回帰分析を行った。まず、

モデルの全体的評価を行う。F 検定の結果、F 値は 389.67、p 値は.00 であり、0.1%水準で有意であった。

これより算出されたモデルには意味があるものと判断できる。また、このモデルの決定係数は.98、自由度

調整済み決定係数は.98 であった。それゆえ、このモデルは従属変数の変動のうち 98%を説明でき、モデ

ルの説明力はダミーを変数に入れる前よりも高くなったと主張できる。モデルが全体として信頼できるこ

とがわかったので、続いてモデルの部分的評価を行う。

非標準化パラメータは定数項 αは 47.80 であり、その t 値は 139.56 でその p 値は.00 であり、0.1%水準

で有意であった。以上の分析結果より、変数 D1、D2、D3、D4 の効果は統計的に有意であり、回帰係数の

解釈を行ってもよいと判断できる。

非標準化係数を用いて、説明のためのモデルを以下のように表現する。

Y = 37.84 - 0.00098***X1+ 0.065*** X2 + 0.15*** X3 * (-4.83) (6.54) (5.77)(41.26)

ただし、***:0.1%水準で有意。カッコ内は t 値。

全店舗数

出店都道府県あたりの平均出店数

売上高利益率

日販 0.79***

0.66***

-0.56***

ただし、***:0.1%水準で有意。

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・ D1は 15.09 であり、D1が 1 単位増加すると、Y が 15.09 増加すると主張できる。

・ D2は-2.22 であり、D2が 1 単位増加すると、Y が 2.22 減少すると主張できる。

・ D3は-1.77 であり、D3が 1 単位増加すると、Y が 1.77 減少すると主張できる。

・ D4は-2.86 であり、D4が 1 単位増加すると、Y が 2.86 減少すると主張できる。

6.本論の知見、及びインプリケーション

本研究によって、日販を規定する要因が明らかになった。まずはそれぞれの分析結果を踏まえて知見を

述べることとする。

5-2-1 の回帰分析からは日販を規定する要因は「店舗数」と「出店都道府県あたりの平均出店数(ドミナ

ント出店の程度)」、そして「売上高利益率」であるということが明らかになった。また店舗数が増加する

と日販は減少するが、出店都道府県あたりの平均出店数の増加は日販の増加に貢献する。また、売上高利

益率の増加は日販の増加につながり、売上高利益率は出店都道府県あたりの平均出店数よりも日販に対す

る正の影響力が大きいという結果が出た。

この結果が示唆することは、店舗数を単にやみくもに増やすという戦略では、日販に対しては全く逆の

効果を与えてしまうということである。設備投資額により店舗数が増加、FC 店舗率の増加につながると考

えられる。店舗数、FC 店舗率の増加によって企業全体の「収益性」は良くなるが、一方の「効率性」は悪

化してしまう。効率性を示す指標である総資本回転率は在庫回転率と非在庫資本回転率に分解できること

から、効率性が悪化してしまう要因は店舗数が増えることによって在庫回転が悪化することだと考えられ

る。また、店舗の中には採算の取れない店舗も少なからず存在するはずである。店舗数をただ漫然と増や

すことは不採算店を増やす危険性を孕んでいる。全国展開にこだわるチェーンも存在するが、ただ店舗を

増やすのではなく、ドミナント出店を考慮に入れた出店計画を立てることが重要だと私は考える。店舗数

の増加による在庫回転率の悪化を防ぐ方法を見出し、収益性と効率性の両立を達成することが、現在のコ

ンビニ不振を脱するカギとなるのではないだろうか。

本分析より、日販を増加させるためには第一に既存店舗の収益性を今まで以上に高め、第二に新規出店

の際にはドミナント出店を考慮に入れることが必要であると主張できる。

5-2-2 の回帰分析では D1 のみが有意となった。D1 はセブン-イレブン・ダミーであり、D1 が 1 単位増加

すると、日販が 15.09 増加するという結果になった。また D2が 1 単位増加すると日販は 2.22 減少、D3が

1 単位増加すると 1.77 減少、D4が 1 単位増加する 2.86 減少するという結果も出た。この結果が示唆する

ことは、他のコンビニ・ダミーが全てマイナスになったことからも、セブン-イレブンが他のどのコンビ

ニ・チェーンよりも日販の点で圧倒しているということである。

次の図表は日販と店舗数、出店都道府県あたりの平均出店数(ドミナント出店の程度)、そして売上高利

Y = 47.80 + 15.09***D1- 2.22*** D2 - 1.77*** D3 - 2.86*** D4 (139.55) (28.85)

ただし、***:0.1%水準で有意。カッコ内は t 値。

(-4.58) (-3.66) (-5.90)

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益率の関係性をグラフにしたものである。

図表 6-1 日販と店舗数の関係性

日販と店舗数の関係性

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000

店舗数         (店)

日販     (万円)

図表 6-2 日販とドミナント出店の関係性

日販とドミナント出店の関係性

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

0 100 200 300 400

出店都道府県あたりの平均出店数   (店)

日販     (万円)

ミニストップ

セブンーイレブン

他チェーン

セブンーイレブン

ローソン ファミリーマート

スリーエフ

ミニストップ

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図表 6-3 日販と売上高利益率の関係性

日販と売上高利益率の関係性

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

0.00 20.00 40.00 60.00 80.00 100.00 120.00

売上高利益率     (%)

日販     (万円)

(出所)有価証券報告書19より著者作成。

上記のグラフを見てもわかるように日販に影響を与える要因全てにおいて、セブン-イレブンは他のチ

ェーンを大きく引き離している。日販に負の影響を及ぼす「店舗数」も多いが、それはドミナント出店に

繋がっていることから、負の影響を正の影響に置換できているといえる。

以上のように本論では2つのモデルを提示した。しかし、本論で構築されたモデルには幾つかの限界が存

在する。第一に相関分析において、全ての独立変数でマルチコが生じていることが挙げられる。独立変数

同士が相関してしまう今回の場合では、どちらのパラメータに重みをおいても従属変数の変動をうまく表

現できてしまい、パラメータの値が1つに定まらなくなってしまう。本論では相関分析後、著者が必要だと

考える変数(X1~ X4)を残し強制投入法によって回帰分析を行った。一方、機械的にマルチコをなくした

場合の結果を調べるために段階的回帰分析法で分析を行ったところ、X1、X2、X3、が変数に残った。この

点より、X4の有無がその後の分析結果に影響を及ぼしたと考えられる。

第二にサンプル数 38 に対して、独立変数の数が多いことが挙げられる。自由度を考えると、n=38 では

十分とは言えず、分析結果の信頼性が希薄になってしまう。効率性を示す総資本回転率が有意な結果にな

らなかったのも、このことが要因となっているのかもしれない。これらの限界を超えたとき、コンビニの

日販を規定する要因が今より鮮明に明らかになるのではないだろうか。

本論ではコンビニエンス・ストアの日販規定要因をコンビニエンスストア・システムのみにとどまらず、

19 2007 年 1 月 20 日現在。

セブンーイレブン

他チェーン

スリーエフ

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財務諸表データや消費者ニーズといった視点も取り入れて分析し、モデルを提示した。このような試みは

おそらく今までにない試みであり、今後のコンビニ研究に一石を投じるものになるのではないだろうか。

特に今回の分析では、効率性を示す総資本回転率が有意にならなかったことが興味深いといえる。効率性

と収益性の両立をいかにして成し遂げるかが今後の課題となろう。本論が今後のコンビニ研究の糧となる

ことを切に願ってやまない。

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付録:データセット

日販 店舗数 出店都道府県あたりの平均出店数 当期純利益 総資産 総資本利益率 売上高 売上高利益率 総資本回転率 設備投資額 FC店舗率セブン-イレブン 63.9 9060 292 83209 798121 10.43 72934 114.09 0.09 54730 0.94

62.3 9690 303 86547 855483 10.12 92893 93.17 0.11 62030 0.9262.3 10303 322 91475 894460 10.23 119178 76.75 0.13 60233 0.9364.2 10559 330 51593 945961 5.45 63267 81.55 0.07 8312 0.9361.8 10826 338 92891 948488 9.79 121308 76.57 0.13 68519 0.9362.9 10985 343 55185 940243 5.87 67698 81.52 0.07 7904 0.93

ローソン 45.4 7734 165 16714 338518 4.94 98836 16.91 0.29 39149 0.9346.4 7625 162 10263 338221 3.03 79034 12.99 0.23 39221 0.9645.0 7821 166 19018 349328 5.44 65694 28.95 0.19 36846 0.9646.4 7909 168 11438 362104 3.16 32731 34.95 0.09 8403 0.9645.1 8077 172 20585 350180 5.88 63801 32.26 0.18 28827 0.9646.4 8218 175 12949 384392 3.37 32196 40.22 0.08 9587 0.9644.6 8366 187 22707 368276 6.17 62274 36.46 0.17 43996 0.9745.4 8455 180 12140 411721 2.95 32938 36.86 0.08 10856 0.95

ファミリーマート 46.6 5287 160 9676 227432 4.25 33433 28.94 0.15 32291 0.9645.6 5593 165 12621 236278 5.34 31055 40.64 0.13 24187 0.9745.3 5770 165 13709 291669 4.70 33596 40.81 0.12 23303 0.9647.2 5844 158 8452 275139 3.07 19798 42.69 0.07 13723 0.9645.6 5994 158 12961 267771 4.84 39030 33.21 0.15 26623 0.9546.8 6122 149 9123 292679 3.12 22451 40.64 0.08 13517 0.9545.0 6284 150 10365 282202 3.67 43643 23.75 0.15 29490 0.9546.1 6412 149 9661 295757 3.27 25464 37.94 0.09 17524 0.94

ミニストップ 44.1 1410 67 3496 67079 5.21 21927 15.94 0.33 2905 0.8944.1 1523 69 4926 71349 6.90 22988 21.43 0.32 6302 0.8944.4 1566 71 3491 88180 3.96 22801 15.31 0.26 9041 0.9146.6 1589 69 2606 81026 3.22 10916 23.87 0.13 1876 0.9044.2 1634 74 3712 79174 4.69 21677 17.12 0.27 10300 0.9046.0 1673 70 1783 83259 2.14 12416 14.36 0.15 1758 0.9045.5 1641 68 2948 84111 3.50 23308 12.65 0.28 11088 0.9544.7 1763 73 2291 87900 2.61 12102 18.93 0.14 2110 0.90

スリーエフ 49.2 637 159 585 18109 3.23 21342 2.74 1.18 2521 0.7847.9 663 166 366 18442 1.98 21971 1.67 1.19 2778 0.7948.8 627 157 -537 18221 -2.95 17775 -3.02 0.98 1480 0.8447.8 631 158 707 17822 3.97 15275 4.63 0.86 1480 0.8649.0 628 157 482 19301 2.50 8443 5.71 0.44 629 0.8445.8 649 162 395 17709 2.23 13660 2.89 0.77 1504 0.8347.9 636 159 430 19306 2.23 6760 6.36 0.35 497 0.8646.0 653 163 51 20803 0.25 8642 0.59 0.42 763 0.82

平均 48.74 5022.55 168.41 18447.74 295953.00 4.34 39875.13 31.92 0.29 18850.08 0.91標準偏差 6.35 3651.58 77.49 27197.83 295199.71 2.67 30981.88 28.13 0.30 19514.36 0.05

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参考文献

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金顕哲 (2001)、『コンビニエンス・ストア業態の革新』、有斐閣。

緒方知行 (2003)、『セブン-イレブン 創業の奇蹟』、講談社+α文庫。

小川進 (2004)、「コンビニエンス・ストアにおけるシステム優位」、『流通研究』(日本商業学会)、第 7 巻

第 2 号、1-18 頁。

尾崎久仁博 (1998)、『流通パートナーシップ論』、中央経済社。

セブン-イレブン・ジャパン (1991)、『セブン-イレブン・ジャパン 1973-1991』、(社史)。

セブン-イレブン・ジャパン (2003)、『セブン-イレブン・ジャパン 1991-2003』、(社史)。

矢作敏行 (1994)、『コンビニエンス・ストア・システムの革新性』、日本経済新聞社。

参考資料

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『日経 MJ トレンド情報源 2007』、日本経済新聞社、2006 年。

商業統計図表(経済産業省)(http://www.meti.go.jp/statistics/data/h2sc000j.html)。2006 年 12 月 20 日

現在。

読売 AD レポート(http://adv.yomiuri.co.jp/ojo/02number/200104/04data.html)