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慢性障害 76%90件) 急性外傷 24%28件) われわれは、2008年より競技スポーツとしてのサーフィンの医科学研究を開始し、日本プロサーフィン連盟(JPSA)の公式戦をはじめ、多くのプロ・サー ファーのメディカル・サポートを行ってきた。昨年の本学会において、プロ・サーファーでは骨折や靭帯損傷などの急性外傷より、慢性障害が多いと報告し た。そうした中で、JPSAショートボード公認プロ・サーファーのサーフィン中に受傷した中足部靭帯損傷の2例を経験したので報告する。 背景 結語 症例 考察 (医)南洲会勝浦整形外科クリニック / (株)国際スポーツ医科学研究所 プロ・サーファーの中足部靭帯損傷に関する検討 松本悠市 1 、稲田邦匡 1,2 、有馬三郎 1,2 、祢津雅彦 1,2 、木原隆徳 1 、金成仙太郎 2 、八亀康次 2 1 医療法人社団南洲会 勝浦整形外科クリニック 2 株式会社 国際スポーツ医科学研究所 症例1 17男性 身長160cm 体重58kg 2010年史上最年少プロ公認 レギュラースタンス(左足が前足) 現病歴 平成26420日、サーフィン中にエアリアルの着水時に受傷。 同年424日、当院初診。 治療経過 左足(前足 )の中間・外側楔状骨間靭帯損傷と診断。 保存療法の適応となり理学療法開始。 アイシング、電気療法にて炎症の消退と疼痛のコントロールを図り、 一般的な足趾や足関節の機能訓練、バランス訓練を実施。 受傷後2週、サーフィンを想定した運動療法開始 テイクオフ動作、基本姿勢、ライディング動作など 4週、サーフィン部分復帰 5週、完全復帰しエアリアル成功 7週、海外での世界レベルの大会に出場 症例2 23男性 身長173cm 体重60kg 2006年プロ公認 グーフィースタンス(右足が前足) 現病歴 平成2666日、サーフィン中にエアリアルの着水時に受傷。 同日に当院初診。 治療経過 右足(前足 )の内側楔状骨骨折を伴ったリスフラン靭帯損傷と診断。 不安定性を認めたため、610CCSによる関節固定術を施行。 翌日より理学療法開始。 術後早期は、炎症の消退と疼痛のコントロールを中心に実施。 術後2週間免荷とした 2週、ヒール付きギプスにて踵荷重歩行開始 4週、アーチサポートにて部分荷重開始 8週、全荷重歩行開始 13週、CCS抜去 荷重制限なし 16週、インソールを使用しウォーキング開始 17週、サーフィン用ブーツとアーチサポートを併用しサーフィン部分復帰 18週、Jog、ジャンプ動作開始 20週、エアリアル以外のサーフィンの基本的な演技可能 ③サーフィンによる中足部靭帯損傷の受傷機転 エアリアル着水時、前足のMTP過伸展位での足部への軸圧で受傷 着水時の身体重心の前方偏位 海面という不安定なコンディションでの 前足の着地 波からサーフボードを介して受ける 足部への外力 エアリアルの際は前足からの着水が多いため、 エキスパート・サーファーならではの本外傷発生リスクが示唆される。 サーフィンは裸足で行うため、他の競技と比べて足部の外傷を起こし やすく、さらに外傷が発生すれば復帰までに期間を要する。 プロ・サーファーの中足部靱帯損傷の2症例を報告した 保存および手術例ともに、受傷直後の正確な診断とサーフィンを想定した運動療法が重要と考えられた 外傷のさらなる原因追究のため、高難度の演技による外傷歴の調査が必要と考えられた ④サーフィンにおける前足の中足部靭帯損傷の予防 サーフィンの基本姿勢の修得が重要 サーフィン先進国のオーストラリアでは、後ろ足荷重での基本姿勢を推奨 しており、サーフィン専門コーチやトレーナーによる指導がされている。 前足荷重による本外傷の予防として、後ろ足荷重の意識付けが重要 と考えられる。 波の上という不安定な環境 特異な競技姿勢 パフォーマンス(演技系)競技 上達するほど効率が上がり、 外傷も減る可能性 ②サーフィンの障害と外傷 膝関節 39%11件) 足・足関節 25%7件) 頭・頭部 11%3 件) 上肢 (肩、肘) 7%2件) 胸腰部 7%2件) その他(大 腿、顎部、 口腔) 11%3件) 昨年の本学会において プロ・サーファーらの傷病の多くは急性外傷より慢性障害 が多い 外傷では、膝関節、足・足関節が多い ①サーフィンの競技特性 エアリアル(海面から空中へ飛び出し、再び海面に着水する演技) 初診時 立位単純X線像 MRI AXI初診時 立位単純X線像 MRI AXI術直後 CCS抜去後 T1 WI T2 WI T1 WI T2 WI

プロ・サーファーの中足部靭帯損傷に関する検討katsuura-seikei.or.jp › report › rinspo20141108matsumoto.pdf · 慢性障害 76%(90件) 足・足関節 急性外傷

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Page 1: プロ・サーファーの中足部靭帯損傷に関する検討katsuura-seikei.or.jp › report › rinspo20141108matsumoto.pdf · 慢性障害 76%(90件) 足・足関節 急性外傷

慢性障害

76%(90件)

急性外傷

24%(28件)

われわれは、2008年より競技スポーツとしてのサーフィンの医科学研究を開始し、日本プロサーフィン連盟(JPSA)の公式戦をはじめ、多くのプロ・サーファーのメディカル・サポートを行ってきた。昨年の本学会において、プロ・サーファーでは骨折や靭帯損傷などの急性外傷より、慢性障害が多いと報告した。そうした中で、JPSAショートボード公認プロ・サーファーのサーフィン中に受傷した中足部靭帯損傷の2例を経験したので報告する。

背景

結語

症例

考察

(医)南洲会勝浦整形外科クリニック / (株)国際スポーツ医科学研究所

プロ・サーファーの中足部靭帯損傷に関する検討

松本悠市1 、稲田邦匡1,2、有馬三郎1,2、祢津雅彦1,2 、木原隆徳1 、金成仙太郎2、八亀康次2

1 医療法人社団南洲会 勝浦整形外科クリニック 2 株式会社 国際スポーツ医科学研究所

症例1 17歳 男性 身長160cm 体重58kg 2010年史上最年少プロ公認

レギュラースタンス(左足が前足)

現病歴

平成26年4月20日、サーフィン中にエアリアルの着水時に受傷。

同年4月24日、当院初診。

治療経過

左足(前足)の中間・外側楔状骨間靭帯損傷と診断。

保存療法の適応となり理学療法開始。

アイシング、電気療法にて炎症の消退と疼痛のコントロールを図り、

一般的な足趾や足関節の機能訓練、バランス訓練を実施。

受傷後2週、サーフィンを想定した運動療法開始

テイクオフ動作、基本姿勢、ライディング動作など

4週、サーフィン部分復帰

5週、完全復帰しエアリアル成功

7週、海外での世界レベルの大会に出場

症例2 23歳 男性 身長173cm 体重60kg 2006年プロ公認

グーフィースタンス(右足が前足)

現病歴

平成26年6月6日、サーフィン中にエアリアルの着水時に受傷。

同日に当院初診。

治療経過

右足(前足)の内側楔状骨骨折を伴ったリスフラン靭帯損傷と診断。

不安定性を認めたため、6月10日にCCSによる関節固定術を施行。 翌日より理学療法開始。

術後早期は、炎症の消退と疼痛のコントロールを中心に実施。 術後2週間免荷とした 2週、ヒール付きギプスにて踵荷重歩行開始

4週、アーチサポートにて部分荷重開始

8週、全荷重歩行開始

13週、CCS抜去 荷重制限なし

16週、インソールを使用しウォーキング開始

17週、サーフィン用ブーツとアーチサポートを併用しサーフィン部分復帰

18週、Jog、ジャンプ動作開始 20週、エアリアル以外のサーフィンの基本的な演技可能

③サーフィンによる中足部靭帯損傷の受傷機転

エアリアル着水時、前足のMTP過伸展位での足部への軸圧で受傷

着水時の身体重心の前方偏位

海面という不安定なコンディションでの

前足の着地

波からサーフボードを介して受ける

足部への外力

• エアリアルの際は前足からの着水が多いため、

エキスパート・サーファーならではの本外傷発生リスクが示唆される。

• サーフィンは裸足で行うため、他の競技と比べて足部の外傷を起こし

やすく、さらに外傷が発生すれば復帰までに期間を要する。

プロ・サーファーの中足部靱帯損傷の2症例を報告した

保存および手術例ともに、受傷直後の正確な診断とサーフィンを想定した運動療法が重要と考えられた

外傷のさらなる原因追究のため、高難度の演技による外傷歴の調査が必要と考えられた

④サーフィンにおける前足の中足部靭帯損傷の予防

サーフィンの基本姿勢の修得が重要

サーフィン先進国のオーストラリアでは、後ろ足荷重での基本姿勢を推奨

しており、サーフィン専門コーチやトレーナーによる指導がされている。

前足荷重による本外傷の予防として、後ろ足荷重の意識付けが重要

と考えられる。

波の上という不安定な環境

特異な競技姿勢

パフォーマンス(演技系)競技

上達するほど効率が上がり、

外傷も減る可能性

②サーフィンの障害と外傷

膝関節

39%(11件)

足・足関節

25%(7件) 頭・頭部

11%(3

件)

上肢

(肩、肘)

7%(2件)

胸腰部

7%(2件)

その他(大

腿、顎部、

口腔)

11%(3件)

昨年の本学会において

プロ・サーファーらの傷病の多くは急性外傷より慢性障害が多い

外傷では、膝関節、足・足関節が多い

①サーフィンの競技特性

エアリアル(海面から空中へ飛び出し、再び海面に着水する演技)

初診時 立位単純X線像 MRI AXI像

初診時 立位単純X線像 MRI AXI像 術直後 CCS抜去後

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