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プレキャストコンクリート製品の活用と効果 土田 稔 1 ・澤山 雅則 1 ・加藤 耕一郎 1 ・高橋 大輔 1 1 企画部 技術管理課(〒950-8801 住所 新潟市中央区美咲町1-1-1建設現場の生産性向上を目指して、i-Constructionの取り組みを進めているが、その3つの柱 の一つとして、コンクリート工の効率的な工法による省力化と工期短縮を図るため、規格の標 準化を進め現場打ちの効率化とプレキャストの進化がテーマとなっている。今回の報告は、こ のうちこれまで北陸地整が推進してきたプレキャストコンクリート製品の更なる活用を図るた め、これまでの事例から活用の効果や経済性について取りまとめた結果を報告するものである。 キーワード 通年施工 i-Construction 生産性向上 1. はじめに 北陸地方の多くは積雪寒冷地を多くかかえており、冬 期の作業条件が厳しい状況である。 そのため、従来から公共事業の平準化(通年施工)、 省力化、省人化を目的として、コンクリート構造物のプ レキャスト化・プレハブ化、プレキャスト製品の長尺化、 大型化にいち早く取り組み、標準化(規格化)を図って きたところである。 その結果、比較的小型な擁壁や、ボックスカルバート、 法留基礎などはプレキャスト製品の使用が一般化し、プ レキャスト製品の使用が現場打ちに比べ直接的な経済性 で劣る大型構造物では、個々の現場条件により間接的な 仮設費用や直接的な経済性以外の効果を検討し、プレキ ャスト製品の活用を進めてきている。 最近では、今後の現場作業における技能者不足などの 懸念により、さらなる生産性の向上や担い手確保の観点 から作業現場の安全性向上などのための環境改善が求め られている。これらを解決するため国土交通省は、平成 2712月に「i-Construction」の推進を打ち出し、その中 でコンクリート工の「規格の平準化」に取り組む方針と している。 北陸地方整備局では、これまでに北陸地方でプレキャ スト製品を活用した事例を参考に、その具体的な活用効 果事例と河川・道路構造物工事に比較的多く採用されて いるプレキャスト製品の活用にあたってのコスト比較や 採用根拠等の事例をまとめた、事例集を作成したので、 その内容ついて報告する。 -1 北陸地方のプレキャストコンクリート製品活用事例 2. プレキャストコンクリート製品の活用効果 (1) 構造物の品質向上 工場で製造管理されているため、品質にバラツキが少 なく緻密な構造物となり、また、高強度のコンクリート を使用するため耐久性が向上する。 さらに、現場における施工管理(品質管理、写真管理 等)が軽減できる効果もある。 北陸地方では、学識経験者、行政、北陸土木コンクリ

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プレキャストコンクリート製品の活用と効果

土田 稔1・澤山 雅則1・加藤 耕一郎1・高橋 大輔1

1企画部 技術管理課(〒950-8801 住所 新潟市中央区美咲町1-1-1)

建設現場の生産性向上を目指して、i-Constructionの取り組みを進めているが、その3つの柱

の一つとして、コンクリート工の効率的な工法による省力化と工期短縮を図るため、規格の標

準化を進め現場打ちの効率化とプレキャストの進化がテーマとなっている。今回の報告は、こ

のうちこれまで北陸地整が推進してきたプレキャストコンクリート製品の更なる活用を図るた

め、これまでの事例から活用の効果や経済性について取りまとめた結果を報告するものである。

キーワード 通年施工 i-Construction 生産性向上

1. はじめに

北陸地方の多くは積雪寒冷地を多くかかえており、冬

期の作業条件が厳しい状況である。 そのため、従来から公共事業の平準化(通年施工)、

省力化、省人化を目的として、コンクリート構造物のプ

レキャスト化・プレハブ化、プレキャスト製品の長尺化、

大型化にいち早く取り組み、標準化(規格化)を図って

きたところである。 その結果、比較的小型な擁壁や、ボックスカルバート、

法留基礎などはプレキャスト製品の使用が一般化し、プ

レキャスト製品の使用が現場打ちに比べ直接的な経済性

で劣る大型構造物では、個々の現場条件により間接的な

仮設費用や直接的な経済性以外の効果を検討し、プレキ

ャスト製品の活用を進めてきている。 最近では、今後の現場作業における技能者不足などの

懸念により、さらなる生産性の向上や担い手確保の観点

から作業現場の安全性向上などのための環境改善が求め

られている。これらを解決するため国土交通省は、平成

27年12月に「i-Construction」の推進を打ち出し、その中

でコンクリート工の「規格の平準化」に取り組む方針と

している。 北陸地方整備局では、これまでに北陸地方でプレキャ

スト製品を活用した事例を参考に、その具体的な活用効

果事例と河川・道路構造物工事に比較的多く採用されて

いるプレキャスト製品の活用にあたってのコスト比較や

採用根拠等の事例をまとめた、事例集を作成したので、

その内容ついて報告する。

図-1 北陸地方のプレキャストコンクリート製品活用事例

2. プレキャストコンクリート製品の活用効果

(1) 構造物の品質向上 工場で製造管理されているため、品質にバラツキが少

なく緻密な構造物となり、また、高強度のコンクリート

を使用するため耐久性が向上する。

さらに、現場における施工管理(品質管理、写真管理

等)が軽減できる効果もある。

北陸地方では、学識経験者、行政、北陸土木コンクリ

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ート製品技術協会による「製造管理技術委員会」におい

て、公共工事に使用するコンクリート製品の製造工場の

検査を行い、製作工場の管理体制の向上と製品の品質向

上を図っており、現場での立会確認の省力化が図れてい

る。

図-2 製造工場の検査実施フロー

図-3 検査状況

(2) 設計・工事の効率化

プレキャストコンクリート製品を活用することにより、

規格化(標準設計化)が促進され、効率的な設計や工事

発注ができる。

北陸地方整備局では昭和59年より産学官からなる「土

木用コンクリート製品評価委員会」で、新たに開発され

た公共事業に使用するコンクリート製品を評価し、管内

での使用実績があり複数会社で製造されている規格化さ

れたコンクリート製品を集約的に紹介する「土木用コン

クリート製品設計便覧」を監修することにより、設計の

合理化を図っているところである。

さらに、使用頻度の多いコンクリート製品を「標準設

計」に取りまとめ、効率的な設計や工事発注が可能とな

っている。

図-4 効率化イメージ

図-5 製品の申請手続きの流れ

製造管理技術委員会で年1回の頻度で行う製造工場の

確認検査では、管理体制、材料管理、工程管理、製造設

備管理、製造品質検査を行い、確認したコンクリート製

品(13種77製品)については、委員会から「製造品質認

定書」を発行することにより、各工事において、この認

定書を提示することにより、コンクリート製品関係の提

出書類等の簡素化を図れ、現場での書類作成時間の削減

が図れる。

図-6 製造品質認定書イメージ

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(3) 施工期間の短縮

構造物の現場施工期間が短縮されるため、全体供用ス

ケジュールや個々の工事の施工期間に制約がある場合に

は、供用スケジュールや工期を満たすことができるよう

になる。 施工期間が短縮されることにより、仮設費用(水替え

工、土留め矢板損料、交通規制費用)におけるコスト縮

減が可能となる。 現道を切り回しながらボックスカルバート(B5,000×H3,100)を分割施工するケースで、現場打ちとプレ

キャストで比較検討を行った結果、約80日間の工期短縮

が可能と試算された。

図-7 ボックスカルバート工 工程表

(4) 安全性の向上

土木工事において、一般的に施工期間が長くなると工

事事故の発生率が高くなる傾向があるが、プレキャスト

コンクリート製品の活用により、施工期間を短縮するこ

とで工事事故の減少が期待できる。

さらに、現道等の交通規制を伴う工事については、交

通規制に伴う交通渋滞や交通事故の発生を抑えることも

期待できる。 現場における設置、組立等の作業が機械化され、高齢

化対策、省人化になることで安全性の向上になる。 擁壁工を例にみると、現場打ちに比べプレキャストコ

ンクリート製品は、作業員も少なく高所作業に伴う足場

が不要となるため、熟練工が少なくなっている現状では、

工事事故が発生する恐れのある状況を減少できる可能性

がある。

図-8 工事事故発生状況(工期分け)

図-10 擁壁工の作業構成

(5) 維持補修性の向上

部分的な更新や補修等において、現場打ちの構造では、

大掛かりな補修工事が必要となるが、プレキャストコン

クリート製品であれば、細かなスパンでの補修等が可能

となる。

また、取り替え作業に伴う仮設工(土留め矢板、水替

え工等)の施工延長や設置期間も短縮が可能となる場合

が考えられる。

図-11 現場打ち擁壁工の補修イメージ

図-12 プレキャスト擁壁工の補修イメージ

多(75人/30m当り) 少 (7人/30m当り)

有 無

有 有

有 無

長 短

多 少

有 無

有 無

ひび割れや強度等の確認

規格 現場打逆T式擁壁 プレキャスト擁壁工

作業員

高所作業

建設機械

工期

運搬

現場養生

品質確認

足場

クレーン

ポンプ車

現場

鉄筋・型枠・足場・コンクリート

鉄筋・型枠・足場・コンクリート 基礎コンクリート・製品

基礎コンクリートのみ

基礎コンクリート・据付

鉄筋・型枠・足場 据付

鉄筋・型枠・足場 据付

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3. プレキャストコンクリート製品の活用事例

下記に主な活用事例を紹介する。事例集としては下記

の他、法留め用コンクリート基礎、鋼矢板基礎、ボック

スカルバート(小型)、大型ボックスカルバート(Ⅲ

型)、大型L型擁壁(H=4m)、消雪パイプの全9工

種を紹介している。

また、表中にあるコスト縮減額とは仮設費用(足場・

支保工、水替え工、土留め矢板損料、交通規制費用)、

冬期施工(雪寒仮囲い、特殊養生費用)、構造物詳細設

計に係る費用等を見込んでおり、材料+設置のみの費用

ではなくトータル的な要素を考慮した上でコスト比較を

行っている。 (1) 大型張りブロック、隔壁・巻止ブロック

大型張りブロック等は、プレキャスト製品を活用する

ことによるコスト縮減額を見込むと経済性的に同程度と

なるケースが多く、工期短縮や出水へのリスク軽減も期

待できることからプレキャスト製品を活用している場合

がある。

表-1 大型張りブロック コスト比較

図-13 大型張りブロック 施工イメージ

(2) 大型ボックスカルバート(Ⅰ型)

大型ボックスカルバート(Ⅰ型)は、プレキャスト製

品を活用することによるコスト縮減額を見込むと経済的

に同程度となり、さらに冬期施工を考慮すると安価とな

るケースもあり、経済性以外の効果(工期短縮、現道交

通の安全確保)も十分期待できるケースでプレキャスト

製品を活用している場合がある。

表-3 大型ボックスカルバート(Ⅰ型) コスト比較

図-15 大型ボックスカルバート(Ⅰ型) 施工イメージ

(3) 小型L型擁壁(H=2m)

小型L型擁壁(H=2m)は、プレキャスト製品が経

済的に安価となるケースが多く、さらには経済性以外の

効果も期待できることからプレキャスト製品を活用して

いることが多い。

表-2 小型L型擁壁(H=2m) コスト比較

図-14 小型L型擁壁(H=2m) 施工イメージ

4. おわりに

コンクリート構造物の構築にあたっては、それぞれの

現場条件などに応じて現場打ちとプレキャストそれぞれ

のメリットを活かし、適材適所で活用していくことが大

切である。

北陸地方整備局では、約40年前の設計基準で省力化工

法としてプレキャストコンクリート製品を推進している。

さらに、平成4年度版の設計要領〔共通編〕時点で既

に『コンクリート製品類の大型化、プレハブ・プレキャ

スト化、機械化・ロボット化、施工渡しの採用』を労働

者不足に対する省力化や工事の平準化のために使用の推

進することを明記されている。労働者不足に対する省力

化や工事の平準化は現在も課題として残っており、プレ

キャストコンクリート製品の使用を引き続き推進してい

く必要がある。今後も事例の収集を行い、本事例等のさ

らなる充実に努めていきたい。

なお、この「プレキャストコンクリート製品の活用事

例」については北陸地方整備局のホームページにて公開

されているため参照されたい。

http://www.hrr.mlit.go.jp/gijyutu/index.html#seisan

今日のプレキャストコンクリート製品の活用は、先達の

取り組みによる賜物であり、感謝する。