7
Page 8 エネルギア総研レビュー No.37 研究レポート ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討 エネルギア総合研究所 土木担当 河内 友一 1 まえがき ダムには一般的に,ダム上流面の点検,修理時な どに貯水池水位を低下させるダム排水設備が設けら れている。ダム排水設備は,図1に示すように呑口 スクリーン,排水管,排水バルブ等で構成されてい る。バルブはダム内部に設けられた空間に設置され ており,特に弁そのものであるバルブリーフ(弁体, ゲートリーフとも呼ばれる)は排水管内に入らなけ れば点検できない場所に設置されている。バルブリー フの破損は大きな事故に繋がり得ることから,定期 点検により変状が見られた場合や,操作性に変化が 見られた場合には,補修,取り替えなどの対策を講 ずることとなる。バルブリーフは円形や角型のスキ ンプレートに補強桁を加えた複雑な形をしているが, 建設時の設計では,かなり簡略化したモデルにより 応力状態を評価している。一方,今後の老朽化の進 展に伴う取り替え判断には,実態に応じた精度の高 い評価が必要とされる。 バルブリーフは鋳鋼,鋼などで製作されているが, 特に1950年代~1960年代に製作され50年以上経過 したものには鋳鋼製が多く,鋼製に比べて厚肉であ るなど形状およびその物性が異なるため,安全性の 評価を行う上での留意点を把握しておく必要がある。 本報告では,排水設備として設置されているバル ブリーフを対象として,その腐食実態の調査と有限 要素法による応力解析を実施したので,その結果と 得られた知見について述べる。 2 バルブリーフの製作と腐食実態 (1)水力発電所水路設備のバルブリーフ形状 排水・排砂・バイパス用の各種バルブは,図2に示 すように,バルブリーフが上下に移動して止水・通 水の制御を行うスルース型の構成が一般的である。 形状は種々あり,設置する現地状況に応じて選択さ れている。図3は鋳鋼製の円形バルブリーフを例示し たものであるが,“バルブ桁”,“スキンプレート”と 呼ばれる部位を示している。形状寸法としては,外 径60~120cm程度のものが多く,作用水圧は2~10 気圧程度が多い。 洪水吐ゲート 排水バルブ・バイパスバルブ 配水管 呑口スクリーン 図1 ダム排水設備の配置とバルブ設置箇所 図2 排水・排砂・バイパス用バルブ(スルース型)の 一般形状と腐食表面の状態 電磁ブレーキ 上流側から見た弁体 スキンプレート 鉄管内面 ケージング内面 上流 下流

ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討...Page 8 エネルギア総研レビュー No.37 研究レポート ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討...Page 8 エネルギア総研レビュー No.37 研究レポート ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討

Page 8 エネルギア総研レビュー No.37

研究レポート

ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討

エネルギア総合研究所 土木担当 河内 友一

1 まえがき

 ダムには一般的に,ダム上流面の点検,修理時などに貯水池水位を低下させるダム排水設備が設けられている。ダム排水設備は,図1に示すように呑口スクリーン,排水管,排水バルブ等で構成されている。バルブはダム内部に設けられた空間に設置されており,特に弁そのものであるバルブリーフ(弁体,ゲートリーフとも呼ばれる)は排水管内に入らなければ点検できない場所に設置されている。バルブリーフの破損は大きな事故に繋がり得ることから,定期点検により変状が見られた場合や,操作性に変化が見られた場合には,補修,取り替えなどの対策を講ずることとなる。バルブリーフは円形や角型のスキンプレートに補強桁を加えた複雑な形をしているが,建設時の設計では,かなり簡略化したモデルにより応力状態を評価している。一方,今後の老朽化の進展に伴う取り替え判断には,実態に応じた精度の高い評価が必要とされる。 バルブリーフは鋳鋼,鋼などで製作されているが,特に1950年代~1960年代に製作され50年以上経過したものには鋳鋼製が多く,鋼製に比べて厚肉であるなど形状およびその物性が異なるため,安全性の評価を行う上での留意点を把握しておく必要がある。  本報告では,排水設備として設置されているバルブリーフを対象として,その腐食実態の調査と有限要素法による応力解析を実施したので,その結果と得られた知見について述べる。

2 バルブリーフの製作と腐食実態

(1)水力発電所水路設備のバルブリーフ形状 排水・排砂・バイパス用の各種バルブは,図2に示すように,バルブリーフが上下に移動して止水・通水の制御を行うスルース型の構成が一般的である。形状は種々あり,設置する現地状況に応じて選択されている。図3は鋳鋼製の円形バルブリーフを例示したものであるが,“バルブ桁”,“スキンプレート”と呼ばれる部位を示している。形状寸法としては,外径60~120cm程度のものが多く,作用水圧は2~10気圧程度が多い。

洪水吐ゲート

排水バルブ・バイパスバルブ

配水管呑口スクリーン

図1 ダム排水設備の配置とバルブ設置箇所

図2 排水・排砂・バイパス用バルブ(スルース型)の一般形状と腐食表面の状態

電磁ブレーキ

上流側から見た弁体

スキンプレート

鉄管内面 ケージング内面

上流 下流

Page 2: ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討...Page 8 エネルギア総研レビュー No.37 研究レポート ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討

Page 9エネルギア総研レビュー No.37

ダ ム の バ ル ブ リ ー フ を 対 象 と し た 応 力 解 析 に 関 す る 検 討

 スルース型のバルブリーフは大きな水圧が作用する可動部材であるが,点検が容易でない腐食環境に設置されるため,十分な安全性をもって製作されている。 バルブリーフが鋳鋼製の場合,鋳型に流し込んで作るために製作可能な形状に制約がある上に,曲げ変形に対する高い剛性が求められるため,図3に示すように円形,馬蹄形,角形がほとんどであり,高い剛性をもたせるために補強桁が設けられている。 これまでに,鋳鋼製バルブリーフが水圧で破壊した例は報告されていないが,既に60年以上経過したバルブリーフは多数供用されており,図2に示したように腐食による鋼表面の凹凸が顕著である。保守点検工事は20年を経過した設備について6年ごとに定期診断し,外観や腐食状況を調査するとともに上下流面の塗装を行っている。

(2)既設バルブリーフの設計計算式 バルブリーフの形状および荷重特性から見れば,静水圧を受ける補剛板であるが,有限要素解析が現在ほど普及していなかった頃は,はり構造へのモデ

ル化により、バルブ桁とスキンプレートに対する設計計算が行われていた。現時点においても,通常時の点検,調査で応力チェックを行う際に,設計計算と同じ方法が用いられている。

a.バルブ桁(水平桁) 水平に配置された複数のバルブ桁について,各々の水圧と受圧面積から総水圧を求め,設計するバルブ本体の形状で,許容応力およびたわみ制限を満たすことを確認する。ローラーゲートなどと同様に,水平配置された桁のみで分担領域の水圧を受けられるように設計し,鉛直桁やスキンプレートとの協働効果を無視しているので,かなり安全側の設計と言える。

 ここに,ρ:水の密度,g:重力加速度,A:受圧面積,H:水深,M:バルブ桁に生じる最大曲げモーメント,P:総水圧, ℓ:径間長,σa:許容応力度, Z :所要断面係数,Ⅰ:所要断面2次モーメント, δ/ℓ:たわみ制限(<1/1000)

b.スキンプレート 次に示すL. V. Bachの式により,桁間の距離を辺長として所要の板厚を算出している。本式は鋳鋼製平板を用いた実験式で,四辺単純支持された平板に圧力が作用した場合の必要板厚を定める式であり,昭和40年当時までのスキンプレートの設計に多く用いられていた。なお,その後は種々の境界条件への対応が容易なことから,Timoshenkoの理論式が用いられるようになり,現在に至っている1),2)。

 ここで,t:所要板厚,a, b:長辺,短辺,μ :係数(= 0.8),P:水圧,σa:許容応力度

(3)バルブリーフの腐食実態 ダム排水設備において供用中の各種バルブの諸元

(a)円形バルブリーフの桁とスキンプレート

a)馬蹄形 b)角形

図3 バルブリーフの形状

Page 3: ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討...Page 8 エネルギア総研レビュー No.37 研究レポート ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討

Page 10 エネルギア総研レビュー No.37

を表1に示す。各種用途のバルブがあり,形状・製造方法も多様である.材質で分類すると鋳鋼(SC41,SC46,SC55)と鋼(SM41,SS41,S25C)である。鋳鋼製は1960年代までであり,1970年代以降は主として鋼製である。 鋳鋼製バルブの腐食実態は周辺環境(特に湿度,漏水等)により異なるが,0.07㎜/年~0.15㎜/年の腐食速度で減厚が進行している。建設時の塗膜は10~20年で劣化し,全体的に塗膜が失われ,孔食跡(1.0mm~1.6mm)が点在し発錆している状況である(写真1)。

3 バルブリーフの解析手法と解析モデル

(1)解析手法 鋳鋼製の場合,溶接施工された薄板構造よりやや厚肉であり,安全性の評価上,板曲げ,板の圧縮座屈,せん断座屈よりは,形状と水圧荷重に起因した

b) No.12 Ⅰ地点 排砂バルブ弁体下流面(左)とスキンプレート面腐食状況(右)

c) No.13 A地点 排水バルブ弁体下流面(左)とスキンプレート面腐食状況(右)

写真1 約50年経過したバルブリーフの腐食状況

No. 地点 機器名 設置年(経過年) 材質 形状

設計水深(m)

径(mm)

1 A 排水バルブ 1952(61)

鋳鉄FC25 円形 23.0 1,200

2 B 排水バルブ 1953(60)

鋳鋼SC41 円形 20.0 700

3 C 取水口バイパスバルブ

1956(57)

鋳鋼SC46 円形 33.0 600

4 D 排砂バルブ 1956(57)

鋳鋼SC41 角形 50.0 1,200

5 C 排砂バルブ 1956(57)

鋼SS41 角形 55.0 1,200

6 E 排砂バルブ 1956(57)

鋼SS41 角形 30.0 1,000

7 F 排水副バルブ

1959(54)

鋳鋼SC41 円形 43.5 500

8 F 排水正バルブ

1959(54)

鋳鋼SC41 角形 43.5 500

9 G 排水バルブ 1961(52)

鋳鋼SC41 円形 8.75 500

10 H 排水副バルブ

1961(52)

鋳鋼SC55 円形 40.0 600

11 H 排水正バルブ

1961(52)

鋳鋼SC55 角形 40.0 600

12 I 排砂バルブ 1965(48)

鋳鋼SC46 円形 22.0 700

13 A 排水バルブ 1967(46)

鋳鋼SC46 馬蹄形 23.0 870

14 J 排水副バルブ

1968(45)

鋳鋼SC46 円形 67.0 1,200

15 J 排水正バルブ

1968(45)

鋼SM41 馬蹄形 67.0 1,200

16 K 排水副バルブ

1968(45)

鋼SM41 円形 30.9 600

17 K 排水正バルブ

1968(45)

鋼SM41 馬蹄形 30.9 600

18 L 排水正副バルブ

1976(37)

鋼S25C 角形 88.0 500

19 M 排水正副バルブ

1976(37)

鋼S25C 角形 77.0 300

20 M 予備バルブ 1976(37)

鋼S25C 角形 77.0 300

21 M 排水正副バルブ

1976(37)

鋼SM41 角形 77.0 1,200

22 N 排水正バルブ

1986(27)

鋼SM41C 角形 90.4 500

23 O 排水正バルブ

1992(21)

鋼S25C 角形 30.0 350

表1 ダム排水設備として供用中の各種バルブ

(中国電力㈱が保有するハイダムに設置されている排水・排砂機能を持つ主要なスルース型のバルブで,20年以上経過したもの)

研究レポート

a)No.2 B地点 排水バルブ弁体下流面(左)とスキンプレート面腐食状況(右)

Page 4: ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討...Page 8 エネルギア総研レビュー No.37 研究レポート ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討

Page 11エネルギア総研レビュー No.37

応力集中が重要である。このため,やや厚肉な形状から判断してバルブリーフは図4に示すとおり3次元ソリッド要素でモデル化した。解析仕様は以下のとおりである。なお,本解析においては,解析コードADINA, ver.8.9を使用した3)。 a.使  用  要  素:8節点ソリッド要素 b.材 料 非 線 形 性:バイリニア c.降  伏  条  件:Misesの降伏条件 d.流   れ   則:J2流れ則 e.硬   化   則:等方硬化 f.幾何学的非線形性:考慮 g.評  価  応  力:Mises応力

(2)解析モデル 計算機能力が発達した現在では,維持管理に市販ソフトウェアによる有限要素法を利用する場合には,解析時間よりも,モデル作成作業が最も時間を要する。モデル作成作業を効率化するために,以下のバルブリーフ解析モデルの作成プログラムを開発した。開発したプログラムは円形,馬蹄形,角形や桁の位置,本数などを入力条件として自動でバルブリーフの解析モデルを作成できる。開発したバルブの解析モデル作成プログラムの処理手順は以下の通りである。a.空間に格子状に格子点を配置し,円形,馬蹄形,角形のそれぞれのバルブ形状に従ってバルブに含まれるか否かを判定し,バルブに含まれる点のみを解析モデルの節点として節点番号を付与する。

b.8節点ソリッド要素を構成できる節点の揃った領域には,要素を発生させ,要素番号を付与する。

c.荷重条件は上流側から面に直交方向に静水圧を作用させる。

d.境界条件は外周部外枠の下流面板厚の外側半分を上下流方向固定とし,下流側外周面で左右対称軸線上は水平方向固定,上下対称軸線上は鉛直方向固定とした。

e.水平桁,鉛直桁と外枠の交わる部分は段差があるが,応力集中箇所であるため,図面通りの曲率をもって交わるようにモデル化した。

(3)解析モデルの主要諸元と解析パラメータ 実態に応じた解析的検討を行うため,表1中のC地点のバイパスバルブを基に,形状,桁配置,板厚を変え応力変化を考察した。主要諸元,解析パラメータ,評価に用いる値は以下の通りである。〔主要仕様〕 ・型  式:鋳鋼製スライドゲート ・円形の径:φ600mm ・水  深:33.0m

上流側

上流側

上流側

下流側

下流側

下流側

真横

真横

真横

(a)円形バルブリーフ

(b)馬蹄形バルブリーフ

(c)角形バルブリーフ

ダ ム の バ ル ブ リ ー フ を 対 象 と し た 応 力 解 析 に 関 す る 検 討

図4 バルブリーフの解析モデル

Page 5: ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討...Page 8 エネルギア総研レビュー No.37 研究レポート ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討

Page 12 エネルギア総研レビュー No.37

〔腐食速度〕 元板厚と現在の測定板厚の差と経過年数から,以下の腐食速度を算出した.点在する孔食深さは,(腐食速度×年数)よりも更に大きな値となる. ・バルブ桁(上流面):0.12mm/年 ・スキンプレート  :0.07mm/年 ・バルブ桁(下流面):0.09mm/年〔解析パラメータ〕 ・形状:①円形,②馬蹄形,③角形 ・バルブ桁数:①水平4,鉛直1, ②水平3,鉛直2・板厚:図9の設計板厚,測定板厚(現在)および上

記腐食速度に基づく20, 40年後の推定板厚〔評価に用いる値〕 ・許容応力:75.0 N/㎟(SC46, 曲げ引張)・評価応力:各板厚において各水平桁,鉛直桁に生

じる最大応力(Mises応力)・限界状態:測定板厚における耐荷力と破壊モー

ド,最大応力発生個所と最大応力値(Mises応力)

(4)解析ケース 維持管理の実態に即した検討となることを重視して,図5 a), b)に示す桁配置の異なる2種類の解析モデルⅠ,Ⅱを定め,解析ケースを表2のように設定した。

4 バルブリーフの解析結果と考察

(1)解析結果 現状の板厚における円形(ケース2),馬蹄形(ケース6),角形(ケース10)の表面に発生する応力分布を各々,図6,図7,図8に示す。 円形(ケース4),馬蹄形(ケース8),角形(ケース12)の最大水圧および終局状態は図9~図11に示す。

(2)考察a.発生応力分布と応力集中個所 バルブリーフの応力分布はかなり複雑で,設

a)解析モデルⅠの形状と寸法

b)解析モデルⅡの形状と寸法

図5 パラメータ解析に用いる2種類の解析モデル(円形,馬蹄形,角形の縦横寸法は全て同じ)

表2 解析ケース一覧解析ケース

形状桁数 板厚 解析内容

解析モデルⅠ

1

円形(4,1)

設計板厚 設計水圧による応力解析

2 測定板厚(現在) 設計水圧による応力解析

3 推定板厚(20年後) 設計水圧による応力解析

4 推定板厚(40年後) 設計水圧による応力解析および,水圧上昇による終局状態解析

5

馬蹄形(4,1)

設計板厚 設計水圧による応力解析

6 測定板厚(現在) 設計水圧による応力解析

7 推定板厚(20年後) 設計水圧による応力解析

8 推定板厚(40年後) 設計水圧による応力解析および,水圧上昇による終局状態解析

9

角形(4,1)

設計板厚 設計水圧による応力解析

10 測定板厚(現在) 設計水圧による応力解析

11 推定板厚(20年後) 設計水圧による応力解析

12 推定板厚(40年後) 設計水圧による応力解析および,水圧上昇による終局状態解析

解析モデルⅡ

13

円形(3,2)

設計板厚 設計水圧による応力解析

14 測定板厚(現在) 設計水圧による応力解析

15 推定板厚(20年後) 設計水圧による応力解析

16 推定板厚(40年後) 設計水圧による応力解析

17

馬蹄形(3,2)

設計板厚 設計水圧による応力解析

18 測定板厚(現在) 設計水圧による応力解析

19 推定板厚(20年後) 設計水圧による応力解析

20 推定板厚(40年後) 設計水圧による応力解析

21

角形(3,2)

設計板厚 設計水圧による応力解析

22 測定板厚(現在) 設計水圧による応力解析

23 推定板厚(20年後) 設計水圧による応力解析

24 推定板厚(40年後) 設計水圧による応力解析

研究レポート

注)桁数の括弧内数字は,(水平桁数,鉛直桁数)

Page 6: ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討...Page 8 エネルギア総研レビュー No.37 研究レポート ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討

Page 13エネルギア総研レビュー No.37

計計算式の前提と大きく異なる。表2に示した解析ケースの3種類の形状に関する限り,形状に無関係にバルブリーフ中央部に大きな曲げ応力が発生し,水平桁,鉛直桁の交叉部および各桁の端部に応力集中が生じている。桁端部と外周部の連結部で,桁高に曲率を持たせて接続する形状は,応力集中を緩和する上で重要である。

b.有限要素法の解析結果と設計計算値の比較 有限要素法による解析結果は設計計算値の1/3~1/2程度と小さい。これは,有限要素法では,水平桁と鉛直桁の荷重分担やスキンプレートとの協働作用などを考慮することができるためと考えられる。

c.形状による違い 形状による違いに注目すると,同じ桁厚およびスキンプレート板厚にかかわらず,外周部外枠の剛性および全水圧の違いに起因して,発生応力にかなり違いがみられる。円形,馬蹄形,角形の順で局部的な発生応力が高くなる。

d.桁配置による違い デルⅠ,Ⅱにおいて,水平桁+鉛直桁の数は同じ5本で,バルブリーフ全体の重量に違いはなく,モデルⅠ,Ⅱの配置であれば,発生応力に大きな差はない。

e.スキンプレートの応力 鋳鋼製バルブリーフのスキンプレートの応力は,補強桁に発生する応力と比較してかなり小さい。

f .腐食の影響 供用期間の長いバルブリーフの腐食は,洪水吐きゲートや水圧鉄管より顕著であり,腐食を考慮した解析の応力は16%~20%程度増加している。ただし,かなり余裕をもって製作されているため,単に年数のみで補修・補強,取り替え等を検討する必要はなく,現状から20年後,40年後においてもなお使用に耐える状態にあると言える。注意すべき点は,腐食部位が局所的になり,腐食形状に起因した応力集中が顕著になることである。点検時においては,水平桁と鉛直桁の交差部,各桁と外周部の接続する箇所における顕著な腐食あるいはクラックの発生に注意を払う必要がある。

g.最大水圧と破壊モード ケース4,8,12では,作用水圧を設計水圧よりも仮想的に大きくし,終局状態を把握するため

ダ ム の バ ル ブ リ ー フ を 対 象 と し た 応 力 解 析 に 関 す る 検 討

a)上流側

a)上流側

a)上流側

b)下流側

b)下流側

b)下流側

(単位:N/㎟)

図6 解析ケース2の発生応力分布(単位:N/㎟)

図7 解析ケース6の発生応力分布(単位:N/㎟)

図8 解析ケース10の発生応力分布(単位:N/㎟)

図9 ケース4の終局状態(鉛直桁の端部に過大な引張応力が生じ破断)(変形を7倍に拡大表示)

Page 7: ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討...Page 8 エネルギア総研レビュー No.37 研究レポート ダムのバルブリーフを対象とした応力解析に関する検討

Page 14 エネルギア総研レビュー No.37

研究レポート

ダ ム の バ ル ブ リ ー フ を 対 象 と し た 応 力 解 析 に 関 す る 検 討

の解析を実施した。最終的な破壊という視点では,形状がいわゆる薄板構造に比べて厚肉であることから,容易に不安定現象を生じることはない。従って,一部が塑性領域に入っても応力が上昇範囲にある限り,耐力は上昇することになる。ケース4,8,12の終局状態を図9~図11に示す。解析的には,最終的破壊形状は水圧により中央部が下流側に大きく変形し,桁端部と外周部の接合箇所に引張強さ相当の大きな応力が生じる。腐食形状は部材ごとに均一腐食としているので,応力集中箇所以外の塑性領域は部材表面に広く分布する傾向にある。 最大水圧で見れば,40年後の板厚であっても,スキンプレートとすべての桁が降伏する状態で,解析上は,設計荷重の20倍程度まで耐えることになる。ただし,経年劣化はバルブリーフ各部位において,一様に進行するわけではないので,局所的な劣化進行が限界状態を支配することになる。局所的な腐食とクラック発生は維持管理上の留意点である。

5 ま と め

 供用期間40~50年を経過した鋼構造物の性能低下は社会的に重要課題となっており,長寿命化対策が求められている。本検討では,水力発電施設の一部である鋳鋼製バルブに注目し,その腐食実態の把握と解析的検討を行った。得られた結論は以下の通りである。(1)鋳鋼製バルブの腐食は周辺環境により異なるが,0.07㎜/年~0.15㎜/年の腐食速度で減厚が進行している。建設時の塗膜は10~20年で劣化し,全体的に塗膜が失われ,孔食跡(1.0mm~1.6mm)が点在し発錆している。

(2) 従来の鋳鋼製バルブリーフの設計計算は構造を簡略化して実施されており,かなり安全側の値を与える。一方,バルブリーフの発生応力分布は複雑であり,設計計算式で考慮されていない部位に応力集中が生じることもある。バルブリーフ中央部で有限要素法による解析応力値は設計計算値の1/3~1/2程度である。一方,設計計算で考慮されていない水平桁と鉛直桁の交差部および各桁と外周部の交点は応力集中個所であり,中央部以上の応力が生じる可能性がある。

(3)バルブ形状による応力分布の違いは特にないが,縦,横が同じ寸法であれば,受圧面積の違いにより,円形→馬蹄形→角形の順で発生応力は大きくなる。また,桁配置に関しては,極端に偏らない限り,応力分布に大きな違いはない。

(4)作用水圧を設計水圧よりも仮想的に大きくした解析結果から,バルブリーフの最終的な破壊形態は,バルブリーフの桁端部の圧潰,破断であることがわかった。最大水圧は設計水圧よりかなり大きな値が期待できる。

(5)今後の維持管理における留意点としては,腐食進行を抑制すること,桁端部他の応力集中箇所における局所的な腐食状態,クラックの発生に注意した点検を実施することがあげられる。

(単位:N/㎟)

(単位:N/㎟)

図10 ケース8の終局状態(鉛直桁の端部に過大な引張応力が生じ破断)(変形を5倍に拡大表示)

図11 ケース12の終局状態(鉛直桁の端部に過大な引張応力が生じ破断)(変形を3倍に拡大表示)

[参考文献]1) (社)水門鉄管協会:水門鉄管技術基準(初版) pp.13-

16,1960.2) (社)水門鉄管協会:水門鉄管技術基準-水圧鉄管・鉄

鋼構造物編-, pp.29-34, pp.122-123, 2007.3) ADINA R & D, Inc.: ADINA Theory and Modeling

Guide Volume I.: ADINA, 2011.