8
新商品・ソリューション・サービス解説 126 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 人材開発支援クラウドサービス「SkyDesk Mixed Learning」 SkyDesk Mixed Learning: A Cloud-Based Human Resource Development (HRD) Support Service 富士ゼロックスは、人材開発の強化に長年取り組んでおり、特 に2002年以降は「eラーニング」と「集合研修」を組み合わせる ことによって、一般知識、課題解決能力、専門知識の強化において 大きな成果を出している。「SkyDesk Mixed Learning」は、試行 錯誤を経て培ってきた当社の人材開発システムをベースに開発し た、クラウド環境を活用した人材開発支援サービスである。主な機 能は①学習情報管理とコース作成を行う「人材開発支援システ ム」、②簡単にeラーニングコンテンツが作成できる「簡単キャプ チャーツール」、③当社で活用し効果を上げた「研修コンテンツ」、 ④複合機と連携してテストやアンケートなどの紙文書をスキャン し登録/配信する「紙電子文書連携」である。このサービスは、利 便性の高い機能を提供し、企業の存続および成長に向けて最も重 要な人材開発の支援を目的としている。本稿ではこの「SkyDesk Mixed Learning」の各機能や今後の展望について紹介する。 Abstract At Fuji Xerox, we have been working to enhance our human resource development (HRD) for a long time. Especially since 2002, we have been making great strides in increasing the general knowledge, problem solving abilities, and technical knowledge of training participants through the integration of e-learning and classroom training. This achievement was made possible with our own original HRD support system, which we created through trial and error. Based on this system, we have developed SkyDesk Mixed Learning, a cloud-based HRD support service. The main features of SkyDesk Mixed Learning are as follows: (1) the HRD support system, with which participants’ learning can be managed and administrators can create courses, (2) an easy authoring tool which allows administrators to create e-learning content, (3) our training courses, which have offered our employees practical knowledge that can be utilized in their work, and (4) the integration of paper and digital documents, which allows paper documents such as tests and surveys to be scanned, registered to the service, and distributed to participants via MFPs. By providing this service equipped with such useful features, Fuji Xerox aims to support HRD, which is of utmost importance for a company’s survival and growth. This paper describes each feature as well as our future plans for SkyDesk Mixed Learning. 執筆者 篠崎謙吾(Kengo Shinozaki夏目真吾(Shingo Natsumeクラウド&メディア事業開発部 事業開発センター Business Development Center, Cloud & Mobile Business Development【キーワード】 クラウド、人材開発、eラーニング、LMS、研修 内製化、アクティブラーニング、反転授業 Keywordscloud, human resource development, e-learning, LMS, creating training programs in-house, active learning, flipped classroom

新商品・ソリューション・サービス解説 人材開発支 …...and administrators can create courses, (2) an easy authoring tool which allows administrators to create

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 新商品・ソリューション・サービス解説 人材開発支 …...and administrators can create courses, (2) an easy authoring tool which allows administrators to create

新商品・ソリューション・サービス解説

126 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017

人材開発支援クラウドサービス「SkyDesk Mixed Learning」 SkyDesk Mixed Learning: A Cloud-Based Human Resource Development (HRD) Support Service

要 旨

富士ゼロックスは、人材開発の強化に長年取り組んでおり、特

に2002年以降は「eラーニング」と「集合研修」を組み合わせる

ことによって、一般知識、課題解決能力、専門知識の強化において

大きな成果を出している。「SkyDesk Mixed Learning」は、試行

錯誤を経て培ってきた当社の人材開発システムをベースに開発し

た、クラウド環境を活用した人材開発支援サービスである。主な機

能は①学習情報管理とコース作成を行う「人材開発支援システ

ム」、②簡単にeラーニングコンテンツが作成できる「簡単キャプ

チャーツール」、③当社で活用し効果を上げた「研修コンテンツ」、

④複合機と連携してテストやアンケートなどの紙文書をスキャン

し登録/配信する「紙電子文書連携」である。このサービスは、利

便性の高い機能を提供し、企業の存続および成長に向けて最も重

要な人材開発の支援を目的としている。本稿ではこの「SkyDesk

Mixed Learning」の各機能や今後の展望について紹介する。

Abstract

At Fuji Xerox, we have been working to enhance our humanresource development (HRD) for a long time. Especially since2002, we have been making great strides in increasing the generalknowledge, problem solving abilities, and technical knowledge oftraining participants through the integration of e-learning and classroom training. This achievement was made possible with ourown original HRD support system, which we created through trialand error. Based on this system, we have developed SkyDeskMixed Learning, a cloud-based HRD support service. The main features of SkyDesk Mixed Learning are as follows: (1) the HRDsupport system, with which participants’ learning can be managedand administrators can create courses, (2) an easy authoring toolwhich allows administrators to create e-learning content, (3) our training courses, which have offered our employees practicalknowledge that can be utilized in their work, and (4) the integrationof paper and digital documents, which allows paper documentssuch as tests and surveys to be scanned, registered to the service, and distributed to participants via MFPs. By providing this serviceequipped with such useful features, Fuji Xerox aims to supportHRD, which is of utmost importance for a company’s survival andgrowth. This paper describes each feature as well as our future plans for SkyDesk Mixed Learning.

執筆者 篠崎謙吾(Kengo Shinozaki) 夏目真吾(Shingo Natsume) クラウド&メディア事業開発部 事業開発センター (Business Development Center, Cloud & Mobile Business

Development)

【キーワード】

クラウド、人材開発、eラーニング、LMS、研修

内製化、アクティブラーニング、反転授業

【Keywords】

cloud, human resource development, e-learning, LMS, creating training programs in-house, active learning, flipped classroom

Page 2: 新商品・ソリューション・サービス解説 人材開発支 …...and administrators can create courses, (2) an easy authoring tool which allows administrators to create

新商品・ソリューション・サービス解説

人材開発支援クラウドサービス「SkyDesk Mixed Learning」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 127

1. はじめに

近年、企業の経営課題において、人材開発が最重要項目の一

つになっている。特に製造業では、人材開発につながる“技術

伝承”が大きな課題となっている。またグローバル化が進む中、

現地/現場での人材開発も課題となっている。

しかし、経営課題に「人材開発」を挙げていながら、現実的

には、予算不足や人材開発する社内人材不足により現場の教育

が進まないため、「増力化」や「販売力強化」が図れないという

企業が少なくない。さらに、ビジネスシーンの移り変わりが激

しい昨今、事業の発展および維持に直結する人材開発は、ます

ます重要になっている。

このような状況において、人材開発の現場では次の課題が存

在する。

・今後どのような人材が必要かわからない

・どこにどのような人材が何名存在するかわからない

・自分がどう成長できるのかわからない

・人材開発をどのように進めればいいかわからない

(仕組みがない)

・匠の技を伝承する術がない

・人材開発の成果をどう把握していいかわからない

(成果の可視化)

・質の高い研修を簡単に設計できない

・研修コンテンツを簡単に作製できない

・学習管理システムが高価で容易に導入できない

これらの課題を解決するためには、①人材開発の可視化、②

人材開発計画に基づいた仕組み作り、③研修内製化を進めて

「組織」「個」の成長や伝承の場の実現という3点が必要である。

そこで当社では、それら課題に対応したシステムと解決手法の

検討を行ってきた。

本稿では、当社が2016年2月より提供している、インター

ネット上のクラウドサーバーを使った人材開発支援クラウド

サービス「SkyDesk Mixed Learning」の機能や活用方法につ

いて述べる。

2. 当社の人材開発とeラーニングの歩み

2.1 当社の人材開発の歩み

人材開発のさまざまな課題に対して、当社は長年試行錯誤を

繰り返しながら、強化を続けてきている。当社の人材開発の歩

みについては、具体的に次の4つのフェーズ(期)で構成され

ている。

図1に示すように、第1期は、当社はeラーニングというWeb

上で研修が受講できる教育システムを自社開発し、コース数を

拡大した時期である。第2期は、受講者数を拡大して、eラーニ

ングのシステムを継続的に改善した時期である。第3期は、現

場の社員が簡単に「質」の高い教育コースを作ることができる

「コース設計手法」と、教育コースの成果を可視化する「成果

把握手法」を開発した。

そして現在は、第4期に入り、「人材育成のグランドデザイ

図1 当社における人材開発の歩み

Page 3: 新商品・ソリューション・サービス解説 人材開発支 …...and administrators can create courses, (2) an easy authoring tool which allows administrators to create

新商品・ソリューション・サービス解説

人材開発支援クラウドサービス「SkyDesk Mixed Learning」

128 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017

ン」という事業戦略の実現を検討しており、人材の可視化、成

長の可視化に取り組んでいる。

第1期から第3期までの成果は、人材開発を支援する環境を

整えることで人材開発現場の課題である人材開発を可視化、人

材開発計画に基づいた仕組み作り、および研修内製化を進める

こと、ができたことである。これにより当社の新卒や階層別教

育、技術教育、営業教育に対して、集合教育とeラーニングを約

900講座提供し、述べ128万名の従業員が受講した。次に第1

期から第3期までにおける当社の人材開発課題と、その対応策

について述べる。

2.2 当社の人材開発の課題と対応

図2に示すように、①現場の人材課題が把握できていない、

②簡単に質の高い人材開発教育コースを内製化できない、③人

材開発教育を行っても何の能力がどのようによくなるのか見

えない、④人材開発の生産性の向上、の4つの課題が挙げられ

た。それぞれの課題対応策について説明する。

① 現場の人材課題が把握できていない課題

現場の人材課題が把握できていない要因として、人材課題を

把握する場がないことと、注目すべき人材課題が明確になっ

ていないことが挙げられる。これら課題を解決するため、「現

場と育成をつなぐ場」の構築に取り組み、「人材育成推進会」

を立ち上げた。この「人材育成推進会」では、スキルの高い

社員が、他の社員に教えるという「社員講師制度」を採用す

ることで、スキル伝承を実現した。次に、「人材課題の可視

化」を実現するために、各社員の各能力を定量化して登録す

る「スキルのものさし(スキル辞書)」を定義した。このシ

ステムを用いて、現場の人材課題を抽出できるスキル開発プ

ロセスの構築を実現した。

② 簡単に質の高い人材開発教育コースを内製化できない課題

質の高い教育コースを内製化するには、ノウハウが必要であ

るが、それには暗黙知が存在するため、それらを可視化する

必要があった。その「内製化ノウハウの可視化」を実現する

ために、研修内製化手法の開発と設計標準プロセスの構築を

行った。研修内製化手法の開発では、デザインガイドライン

を定め、マニュアル、コーステンプレート、チェックリスト、

事例集を準備するなど、設計標準プロセスの構築も同時に

行った。これらを用いることで、誰でも簡単に質の高い研修

が内製化できるようになっている。

図2 当社における人材開発の課題の整理

図3 当社の人材開発環境の特徴

Page 4: 新商品・ソリューション・サービス解説 人材開発支 …...and administrators can create courses, (2) an easy authoring tool which allows administrators to create

新商品・ソリューション・サービス解説

人材開発支援クラウドサービス「SkyDesk Mixed Learning」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 129

③ 人材開発教育を行っても何の能力がどのようによくなるの

か見えない課題

人材開発教育による能力の向上を把握するレベルを定義し

た。このレベルを用いることで、現場の課題の現状と目標レ

ベルを決定し、人材開発教育による改善レベルを確認するこ

とで、成果を可視化できるようになっている。

④ 人材開発の生産性向上における課題

「効率的な人材育成」を実現するために、人材開発の課題対

応活動を支えるインフラとして、学習管理システムとスキル

開発システムを開発した。

この活動は、学習支援システムなどの機能価値を提供する

「モノ(ツール)」の導入だけではなく、現場の課題解決に役立

つ仕組みを検討し、さらに研修内製化手法などのプロセス価値

を提供する「コト(手法)」を開発し、確実に成果へつなげる人

材開発を実施し定着させる「場(時空間)」を提供することを可

能とした(図3)。

このように当社は、「魅力的、効果的、効率的」な質の高い人

材開発を実現するために、「モノ、コト、場」の3つの要素を融

合したシステムを構築し、人材開発を行っている。

これらの活動は、2002年には能力開発優秀企業賞特別賞や、

2005年度に日本e-Learning大賞(経済産業大臣賞)を受賞し

たように、外部でも評価されている。

3. 「SkyDesk Mixed Learning」とは

3.1 商品概要

「SkyDesk Mixed Learning」は、人材開発において、当社

がこれまで試行錯誤を経て培ってきた「実践知」から生まれた、

人材開発支援クラウドサービスである。本サービスの特徴は、

人材開発の可視化と人材開発計画に基づいた仕組みを作り、研

修内製化を進められることである。具体的には、ユーザー管理

と学習管理機能を有する「人材開発支援システム」、簡単に教育

コンテンツを内製化できる「簡単キャプチャーツール」、当社が

現場で実践しているノウハウを活用した「研修用コンテンツ」、

テストやアンケートなどの紙文書を複合機でスキャンするこ

とで電子化し、関係者に自動配信する機能を有する「紙電子文

書連携」の4つの機能を提供する。

これらの機能を活用することで、人材戦略の策定、教育の実

行、業務遂行、成果把握という人材開発サイクルを回すことが

できる。また本サービスは、「モノ、コト、場」を融合した環境

を作ることで質の高い人材開発が可能となり、企業および社員

の成長の実現を支援することができる(図4)。

次に「SkyDesk Mixed Learning」を構成する「人材開発支

援システム」、「簡単キャプチャーツール」、「研修用コンテンツ」

「紙電子文書連携」の機能について、詳しく述べる。

3.2 人材開発支援システム

eラーニングを活用した人材開発を行うにあたり、教育コー

スの学習管理システムであるLMS(Learning Management

Systemの略。以下、LMS)は必須である。LMSの環境を構築

するには通常、サーバーの購入手配や構築作業、アプリケー

ションのインストールが必要である。これらにかかる導入準備

工数やリードタイム、そして初期投資がLMS導入の第1の課題

となる。

これらの課題を解決するために「SkyDesk Mixed Learning」

では、「人材開発支援システム」をクラウドサービスとして提供

している。クラウドサービスとして提供することで、アプリ

ケーションもプレインストールが可能となり、サーバーの購入

手配や構築作業を不要とした。そのため、短期間でかつ初期投

資を抑えてサービスを開始することを実現している。

この「人材開発支援システム」は、ユーザー認証と管理を行

うポータルと、学習管理システムで構成されている。学習管理

システムは、コース設計や受講管理のほか、コースの開催決定、

受講申込/承認、合否決定、受講歴確認、アンケートや満足度

集計、閲覧機能などの幅広い機能を提供している。またeラーニ

ングだけでなく、集合教育の受講履歴の管理も可能である。

「人材開発支援システム」の具体的な機能について、次に示す。

● マルチデバイス対応とシンプルユーザーインターフェイス

「人材開発支援システム」は、パソコンやタブレット、スマー

トフォンのいずれのデバイスでも利用できるマルチデバイ

ス対応となっている。タブレットやスマートフォンでの操作

画面は、直感的に操作できるように、シンプルなユーザーイ

ンターフェイスとなっている(図5)。

図4 「SkyDesk Mixed Learning」のコンセプト

Page 5: 新商品・ソリューション・サービス解説 人材開発支 …...and administrators can create courses, (2) an easy authoring tool which allows administrators to create

新商品・ソリューション・サービス解説

人材開発支援クラウドサービス「SkyDesk Mixed Learning」

130 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017

● アドミン機能と閲覧ログ表示機能

アドミン機能として、管理者がコース設定や利用状況の把握

を可能とする機能を有している。

また、閲覧ログ表示機能を有し、コース別、コンテンツ別、

受講者別の受講状況をリアルタイムで確認できる。この機能

では、結果をCSVファイルに出力できるため、データ分析に

活用することも可能である。

● ユーザー登録機能と管理機能

管理者がユーザーを登録することで、個々の受講管理と役割

を設定できる。役割は、テナント管理者やコース管理者、グ

ループ管理者の権限がある。またユーザーを、一括登録、変

更、削除も可能である。

● 教育コースの作成機能

管理者がコース名、期間、目的、対象者、コンテンツを登録

するだけで、容易に教育コースの作成が可能である。コンテ

ンツは、講義ビデオ(講義スライド+音声)、テスト、アン

ケート、フォルダーなど幅広く登録ができる。

● お知らせ機能と受講案内メール

コースの開講情報などを、受講対象者全員のホーム画面に表

示できるお知らせ機能を有する。また、受講対象者に対して

一括で案内メールを配信することができる受講案内メール

機能を有する。メールは「対象者全員」、「受講中」、「受講中」、

「未受講者」、「不合格者」のような受講ステータス別に配信

することもできる。

● 受講履歴管理

受講者は、過去の受講履歴を一覧表示で確認できる。グルー

プ管理者は、権限のあるグループの受講対象者数/受講修了

者/未受講者の管理ができる。

● テストと分析

テストは、「単一選択」、「複数選択」、「自由記載」および「穴

埋め」の出題が可能である。ランダム出題、時間制限、およ

び質問数の設定ができる。テスト結果は、受講者ごとや出題

ごとに集計や分析ができる。

● アンケートと分析

管理者は、アンケートを作成し、受講者の満足度や役立ち度

を自動で集計や分析ができる。

● 集合教育の受講管理

管理者は、集合教育のコースを作成し、受講者/受講状況/

終了日を一括で登録することで、e-ラーニングだけでなく集

合教育の受講管理ができる。さらにeラーニングコースと集

合教育コースの受講履歴の管理もまとめてできる。

この「人材開発支援システム」は、これらの機能を用いて、

コースの企画/製作(Plan)~受講支援(Do)~運用支援およ

び分析(Check)~改善(Action)のサイクルを回すことが可

能である(図6)。これらのPDCAサイクルを回すことで、人材

開発プロセスのさらなる改善を図ることができる。

3.3 簡単キャプチャーツール

eラーニングでコースを作成する場合には、講義ビデオが必要

な場合が多い。講義ビデオの製作は、工数がかかるため、コース

作成者には大きな負荷となる。そのため、講義ビデオ製作が、e

ラーニングにおけるコース作成の阻害要因の一つとなっている。

講義ビデオの製作は、ビデオカメラで撮影する方法が一般的

であるが、次のような課題がある。

・ ビデオカメラや三脚などの機材が必要なうえ、場合によって

は専用のスタジオが必要。

・ ビデオのデータ量が大きいため、編集するには十分な性能を

有するパソコンが必要。また配信/閲覧には、強力なサー

バー/ネットワーク回線が必要。

・ ビデオのデータ量を減らすために画像を圧縮すると、画質が

劣化する。

・ ビデオの編集や撮り直しには、多大な手間や時間がかかる。

・ ビデオの編集には、スキルが必要とされることが多い。

これらの課題を解決するため「SkyDesk Mixed Learning」

は、講義ビデオを短時間で簡単に製作できる「簡単キャプ

図5 人材開発支援システムの画面イメージ

図6 人材開発支援システムの提供機能とPDCAサイクル

Page 6: 新商品・ソリューション・サービス解説 人材開発支 …...and administrators can create courses, (2) an easy authoring tool which allows administrators to create

新商品・ソリューション・サービス解説

人材開発支援クラウドサービス「SkyDesk Mixed Learning」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 131

チャーツール」を提供している(図7)。

「簡単キャプチャーツール」とは、パソコン画面と音声を同

期して記録し、紙芝居のような講義ビデオを作成するシステム

である。講義ビデオ製作者は、パソコンを用いてプレゼンテー

ションを行うだけでよい。パソコンでのプレゼンテーション画

面の変化を、本ツールが自動的に検知して画像をキャプチャー

すると同時に、マイクから入力された音声をキャプチャー画像

と同期して記録する。このようにして紙芝居風の講義ビデオが

作成される。

提供する具体的な機能について次に示す。

● 収録機能

パソコンにスライド画像を表示し、音声をマイク入力しなが

らその上でマウスを動かすことで、スライド画像と音声と

カーソルを同時にキャプチャーした動画コンテンツが容易

にかつ即時に作成できる。

● 収録コンテンツの編集機能

作成した収録コンテンツには、ページごとの順番変更/削除

/挿入/再生などの編集機能も用意されている。

● 配信機能

作成した動画コンテンツの配信機能である。配信された動画

コンテンツは、「早送り」、「巻き戻し」、「5秒前に戻る」、「1.5

倍速」での視聴が可能である。

● 閲覧履歴管理機能

管理者が、作成した動画コンテンツについて、「誰に、いつ、

どのくらい視聴されているか」をリアルタイムに確認できる

閲覧履歴管理機能を有する。

「簡単キャプチャーツール」は、パソコン画面をキャプ

チャーするもので、録画するアプリケーションソフトに依存し

ないため、講義ビデオ製作の自由度が高い。またパソコンとマ

イクという簡易な装置で記録が可能である。「簡単キャプ

チャーツール」で作成した講義ビデオは、静止画で記録される

ため、画質の劣化が少なく視認性にも優れている。ファイルサ

イズは、通常の講義ビデオに比べて数分の一程度で小さく、ス

マホを利用した場合などの通信速度が遅い回線でも、快適に視

聴が可能という特徴もある。

3.4 研修用コンテンツ

人材開発においては、学習する環境(モノ)だけでなく講座

ビデオ、テスト、アンケートなどの「研修用コンテンツ(コト)」

の「質」が重要である。

LMSの環境を用意しても、「研修用コンテンツ」の「質」が

伴わなければ、成果は期待できない。

そのため、「SkyDesk Mixed Learning」では、容易に質の

高い「研修用コンテンツ」を作成するために、その模範事例コ

ンテンツ、および研修内製化手法を提供している。

「研修用コンテンツ」の模範事例としては、当社がこれまで

に社内で用いた900コースから、効果の高かったよりすぐりの

8コースを、eラーニングコンテンツとして無償提供している。

具体的には、問題解決型コース設計手法として、「現場で実践し

ている問題解決手法(紹介編)」と「現場で実践している問題解

決手法(入門編)」がある。これらは、当社が長年培った問題解

決のコンセプト(基本的な考え方と進め方)と問題解決手法を

紹介するコンテンツである。具体事例を用いた問題解決を疑似

体験し、問題解決のフレームワークを学習できる。

研修内製化手法については、当社が長年にわたり研修を内製

化してきたノウハウのまとめを提供している。具体的には、技

術伝承の実践例の紹介として、「簡単に作れる社内研修を目指

して」と「簡単に作れる社内研修(設計編)」である。これらは、

当社の技術伝承の実践事例から生まれた、効果的な「研修内製

化」の概要紹介と研修内製化手法のコンセプト(基本的な考え

方と進め方)を解説している。これにより、簡単に研修内製化

を実現するための具体的な進め方と当社が実践している研修

コースのデザインガイドライン(マニュアル、コーステンプ

レート、チェックリスト)を学習できる。

上記以外にも、「簡単プロジェクトマネジメント入門」とい

うプロジェクトの進め方の基本的な理解と、プロジェクトマネ

ジメントの狙い、概要、有用性、進め方などを紹介した研修コ

ンテンツや、従業員のコンプライアンス違反を未然に防止する

ためにどのような教育を行っているかという、コンプライアン

ス教育コースの設計手法を学習できる「コンプライアンス意識

向上への取り組み」を提供する。

これらのコンテンツを使って学習することで、質の高い「研

修用コンテンツ」の企画~設計~展開を行うことを可能にする。

3.5 紙電子文書連携機能

学 習 シ ー ン に は 、 多 く の 紙 文 書 が 使 用 さ れ て い る 。

「SkyDesk Mixed Learning」では、テストやレポート、出席

票などに使われてきた紙文書のハンドリング性や手書きのし

図7 簡単キャプチャーツールの概要

Page 7: 新商品・ソリューション・サービス解説 人材開発支 …...and administrators can create courses, (2) an easy authoring tool which allows administrators to create

新商品・ソリューション・サービス解説

人材開発支援クラウドサービス「SkyDesk Mixed Learning」

132 富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017

やすさ、安価などの利点を活かし、電子文書と紙文書を混在し

て管理する仕組みである「紙電子文書連携機能」を提供する。

「紙電子文書連携機能」とは、複合機と連動してテストやレ

ポートなどの紙文書をスキャンして、登録および配信する機能

である。次に、この機能を実現したMISTCODE文書とスキャ

ン文書自動配布機能の詳細について述べる。

● MISTCODE文書®

MISTCODE文書とは、電子透かしのような低視認性のコー

ドが埋め込まれた紙文書のことで、プリント時に文書と受講

者を特定するIDを埋め込むことができる。これをテスト用紙

などに用い、コース管理者は回収したテスト用紙を複合機で

スキャンすることで、紙文書を電子文書として登録し、

MISTCODE文書で特定した各々の受講者に対応した電子

文書を登録および配信することが可能となる。

● スキャン文書自動配布機能

管理者は、回収したテストなどの紙文書を複合機でスキャン

することで、一括してスキャン文書を登録し、各々の受講者

に配信することができる。

● 紙電子文書連携機能の活用例

たとえば、MISTCODE文書とスキャン文書自動配布機能を

組み合わせることで、紙文書を通じてコース管理者と受講者

とのやり取りを、次のように円滑に行うことができる。(図

8)。

① コース管理者がMISTCODE付きの文書(アンケート/レ

ポート)を準備

② 複合機で出力し、受講者に紙文書として配布

③ 受講者は手書きでアンケート/レポートを記入

④ コース管理者は回収して添削や採点

⑤ 紙文書を複合機でスキャン/各々の受講者に配信ならび

に保管

⑥ 受講者はコース管理者のフィードバック結果を確認

このように、「紙電子文書連携機能」を用いることで紙文書

の管理を効率化し、フィードバックを迅速に行うことは、受講

者のモチベーション向上につなげられる。

4. 「SkyDesk Mixed Learning」の活用のイ

メージ

近年、新しい学習スタイルとして「アクティブラーニング/

反転授業(ブレンデットラーニング)」が注目されている。

アクティブラーニングとは、これまでの受身的学習とは異な

り、図9に示すように、受講者が主体的に問題発見/解決を実

現する能動的学習である。講師は、あらかじめeラーニング教材

を開発して、受講者に提供する(図9-①)。受講者は、eラーニ

ング教材による事前学習(予習)で知識を習得する(図9-②)。

実際の授業(集合教育)では、受講者は「グループワーク」を

行い、事前学習内容を教え合い、主体的に問題発見と解決に取

り組み、講師は「ファシリテーション役」に徹する(図9-③)。

最後のステップでは、事前学習やグループワークの成果をテス

トで確認し、講師は採点後に集計するという流れになる(図9-

④)。

一方、反転授業とは、従来行われていた授業スタイルの順番

を反転するという意味を持っている。従来の授業は、「授業(集

合教育)」の中で講師が知識を教えて、「宿題」として演習を実

施するというスタイルであった。反転授業は、これを逆のプロ

セスにして、「宿題」の中で知識部分を事前学習し、授業(集合

教育)の中で演習を実施する方式である。この方式は、基本的

にはアクティブラーニングと同等となる。

人材開発には、「一般な知識の習得」と「知識を実践知に結び

つけていく」という2つの要素が存在する。この2つの要素の両

立は、グループワークという場でそれを実践知に変えていく

「アクティブラーニング」と、eラーニングにより事前の知識を

習得できる「反転授業」を組み合わせることで解決できる。

このような学習スタイルは、システムの提供(モノ)のみな

らず、活用方法(コト)や研修(場)を組み合わせることによっ

て、人材開発のさらなる効果向上を期待できると考えている。

「SkyDesk Mixed Learning」は、一般的な学習支援システ

ムの機能に加え、グループワーク/集合研修などの場の連携が

図8 紙電子文書連携機能の活用事例

図9 「アクティブラーニング/反転授業

(ブレンデットラーニング)」の学習フロー

Page 8: 新商品・ソリューション・サービス解説 人材開発支 …...and administrators can create courses, (2) an easy authoring tool which allows administrators to create

新商品・ソリューション・サービス解説

人材開発支援クラウドサービス「SkyDesk Mixed Learning」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.26 2017 133

可能であり、「アクティブラーニング/反転授業」での活用を目

指している(図10)。

5. おわりに

「SkyDesk Mixed Learning」は、当社が人材開発について

長年積み上げた「実践知」を商品化したものである。人材開発

支援クラウドサービスであることにより、初期投資を抑えるこ

とが可能で、お客様の企業の存続および成長に必要不可欠な人

材開発に向けた研修内製化においても、活用できるものである。

人材開発は、システム導入やコンサルタント活用、研修の提供

だけでは十分な効果を得ることはできない。「SkyDesk Mixed

Learning」は、システムの提供(モノ)のみならず、活用方法

(コト)や研修(場)を組み合わせることで人材開発効果の向

上が期待できることから、各種ノウハウを含めて提供している。

研修用コンテンツは、たいへん重要な要素であり、「質」の高

い研修を行うためには研修内製化が望ましい。「SkyDesk

Mixed Learning」が提供する「簡単キャプチャーツール」は、

コンテンツの作成および編集を簡単にでき、データ容量が軽く、

かつ学習履歴を細かく把握できる。そのため、研修内製化に深

く寄与する。そして、簡単に「質」の高い研修を設計できるこ

とで、より効果的な人材開発が可能となる。

当社は、今後も人材開発の課題を解決するソリューション・

サービスを提供および改善し、お客様の人材開発を支援する所

存である。

商標について

MISTCODEは、富士ゼロックス株式会社の日本およびその他の国における

登録商標または商標です。

�その他の商品名、会社名は、一般に各社の商号、登録商標または商標です。

参考文献

1) 田丸恵理子 ほか: “音声同期スクリーンキャプチャシステムを用いた学生の

主体性を引き出す反転授業の試み”, 富士ゼロックステクニカルレポート,

No.23, pp.43-52, (2014).

http://www.fujixerox.co.jp/company/technical/tr/2014/s_05.html ( 参 照 日 :

2017.01.01)

2) SkyDesk Mixed Learning:

https://www.fujixerox.co.jp/solution/skydesk/skydesk_mixed_learning/ (参照

日: 2017.01.01)

3) 佐藤悦志, 榎本尚之 ほか: “授業支援ボックス:お客様との共創開発により

実現した紙とLMSの連携ソリューション”, 富士ゼロックステクニカルレ

ポート, No.24, pp.157-185, (2015).

http://www.fujixerox.co.jp/company/technical/tr/2015/p_05.html ( 参 照 日 :

2017.01.01)

筆者紹介

篠崎謙吾 クラウド&メディア事業開発部 事業開発センターに所属

専門分野:新規事業開発、新規技術企画、新規サービス企画、クロ

スメディア技術開発、ユニバーサルデザイン

夏目真吾 クラウド&メディア事業開発部 事業開発センターに所属

専門分野:新規事業開発、新規技術企画、新規サービス企画、新規

サービス開発

図10 SkyDesk Mixed Learningの活用イメージ