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ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プロジェクト評価(事後)報告書 (案) 平成20年3月 産業構造審議会産業技術分科会 第2回 ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発・ 低エネルギー消費型環境負荷物質処理技術研究開発 プロジェクト評価(事後)検討会 資料2-①

ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プ …...ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プロジェクト評価(事後)報告書

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Page 1: ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プ …...ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プロジェクト評価(事後)報告書

ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発

プロジェクト評価(事後)報告書

(案)

平成20年3月

産業構造審議会産業技術分科会

評 価 小 委 員 会

第2回 ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発・

低エネルギー消費型環境負荷物質処理技術研究開発

プロジェクト評価(事後)検討会

資料2-①

Page 2: ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プ …...ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プロジェクト評価(事後)報告書

はじめに

研究開発の評価は、研究開発活動の効率化・活性化、優れた成果の獲得や社会・経済へ

の還元等を図るとともに、国民に対して説明責任を果たすために、極めて重要な活動であ

り、このため、経済産業省では、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成 17 年 3

月 29 日、内閣総理大臣決定)等に沿った適切な評価を実施すべく「経済産業省技術評価指

針」(平成 17 年 4 月 1 日改定)を定め、これに基づいて研究開発の評価を実施している。

経済産業省において実施した「ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発」プロ

ジェクトは、化学プロセスにおける省エネルギー、環境負荷低減を図るため、(1)省エ

ネルギー型グリーンプロセス技術開発(2)革新的化学プロセス技術開発(3)高効率冷

媒合成・利用技術の開発に取り組み、各研究開発では現行方法と比べて 10%以上のエネル

ギー節減を可能とする基盤技術の開発を目標として、平成 14 年度から平成 18 年度まで実

施したものである。

今回の評価は、この「ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発」の事後評価で

あり、実際の評価に際しては、省外の有識者からなる「ミニマム・エナジー・ケミストリ

ー技術研究開発・低エネルギー消費型環境負荷物質処理技術研究開発」プロジェクト評価

(事後)検討会(座長:中尾 真一 東京大学工学系研究科化学システム工学専攻教授)

を開催した。

今般、当該検討会における検討結果が評価報告書の原案として産業構造審議会産業技術

分科会評価小委員会(小委員長:平澤 泠 東京大学名誉教授)に付議され、内容を審議

し、了承された。

本書は、これらの評価結果を取りまとめたものである。

平成20年3月

産業構造審議会 産業技術分科会 評価小委員会

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産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会

委 員 名 簿

小委員長 平澤 泠 東京大学名誉教授

池村 淑道 長浜バイオ大学バイオサイエンス学部教授

伊澤 達夫 NTTエレクトロニクス株式会社相談役

菊池 純一 青山学院大学法学部・大学院法学研究科ビジネス法務専攻

教授

鈴木 潤 芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授

冨田 房男 放送大学北海道学習センター所長

畑村 洋太郎 工学院大学国際基礎工学科教授

山地 憲治 東京大学大学院工学系研究科教授

吉本 陽子 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

経済・社会政策部経済・産業調査グループ主任研究員

(敬称略:五十音順)

事務局:経済産業省 産業技術環境局 技術評価調査課

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ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発・

低エネルギー消費型環境負荷物質処理技術研究開発

プロジェクト評価(事後)検討会

委員名簿

座 長 中尾 真一 東京大学 工学系研究科 化学システム工学専攻 教授

委 員 上野 潔 国際連合大学 プログラムアドバイザー

委 員 上村 茂弘 有限責任中間法人 オゾン層・気候保護産業協議会

事務局長

委 員 染宮 昭義 財団法人 化学技術戦略推進機構 常務理事

委 員 野尻 直弘 元 日本化成株式会社 常務取締役

委 員 水野 彰 豊橋技術科学大学 エコロジー工学系 教授

委 員 水野 哲孝 東京大学大学院 工学系研究科 応用化学専攻 教授

(敬称略:五十音順)

事務局:経済産業省 産業技術環境局 技術振興課 産業技術総合研究所室

独立行政法人 産業技術総合研究所 評価部

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ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発

プロジェクトの評価に係る省内関係者

【事後評価時】

産業技術環境局 技術振興課

産業技術総合研究所室長 都筑 秀明(事業担当室長)

産業技術環境局 技術評価調査課長 本橋 克広

【中間評価時】

産業技術環境局 技術振興課

産業技術総合研究所室長 倉田 健児(事業担当室長)

産業技術環境局 技術評価調査課長 陣山 繁紀

【事前評価時】(事業初年度予算要求時)

産業技術環境局 技術振興課

産業技術総合研究所チーム長 伊藤 毅志(事業担当チーム長)

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ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発

プロジェクト評価(事後)

審 議 経 過

○第 1 回事後評価検討会(平成 19 年 12 月 12 日)

・評価の在り方及び評価の手順等について

・評価報告書の構成(案)、評価コメント、評点法等について

・プロジェクトの概要説明について

・要素技術の詳細説明について

・質疑応答

○第 2 回事後評価検討会(平成 20 年 2 月 5 日)

・報告書(案)について

・質疑応答

○産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会(平成 20 年 3 月○○日)

・報告書(案)について

・質疑応答

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目 次

はじめに

産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会委員名簿

ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発・

低エネルギー消費型環境負荷物質処理技術研究開発プロジェクト評価(事後)検討会 委

員名簿

ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発プロジェクトの評価に係る省内関係者

ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発プロジェクト評価(事後)審議経過

事後評価報告書概要 ---------------------------------------------------- ii

第1章 評価の実施方法

1.評価目的 ------------------------------------------------------ 2

2.評価者 -------------------------------------------------------- 2

3.評価対象 ------------------------------------------------------ 3

4.評価方法 ------------------------------------------------------ 3

5.プロジェクト評価における標準的な評価項目・評価基準 ------------ 3

第2章 プロジェクトの概要

1.事業の目的・政策的位置付け ------------------------------------ 7

2.研究開発等の目標 ---------------------------------------------- 9

3.成果、目標の達成度 -------------------------------------------- 12

4.事業化、波及効果について -------------------------------------- 29

5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等 ---------------- 30

第3章 評価

1.事業の目的・政策的位置付けの妥当性 ---------------------------- 38

2.研究開発等の目標の妥当性 -------------------------------------- 40

3.成果、目標の達成度の妥当性 ------------------------------------ 42

4.事業化、波及効果についての妥当性 ------------------------------ 44

5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等の妥当性 -------- 46

6.総合評価 ------------------------------------------------------ 48

7.今後の研究開発の方向等に関する提言 ---------------------------- 50

(個別要素技術に関するコメント) ---------------------------------- 53

第4章 評点法による評点結果

1.趣旨 ---------------------------------------------------------- 79

2.評価方法 ------------------------------------------------------ 79

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3.評点結果 ------------------------------------------------------ 80

参考資料

資料A.研究開発実施者提供資料

資料B.研究開発実施者補足説明資料

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事後評価報告書概要

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ii

事後評価報告書概要

プロジェクト名 ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発

上位施策名 省エネルギーの推進

(省エネルギー技術開発プログラム 平成 14 年度~平成 17 年度)

事業担当課 経済産業省 産業技術環境局 技術振興課 産業技術総合研究所室

プロジェクトの目的・概要

化学プロセスにおける省エネルギー、環境負荷低減を図るため、(1)省エネルギー型グリー

ンプロセス技術開発、(2)革新的化学プロセス技術開発、(3)高効率冷媒合成・利用技術の開

発に取り組む。各研究開発では現行方法と比べて 10%以上のエネルギー節減を可能とする基

盤技術の開発を目標とする。

予算額等 (単位:千円)

開始年度 終了年度 中間評価時期 事後評価時期 事業実施主体

平成 14 年度 平成 18 年度 平成 16 年度 平成 19 年度 独立行政法人

産業技術総合研究所

H18FY 予算額 H17FY 予算額 H16FY 予算額 総予算額 総執行額

259,999 284,461 404,721 2,048,565 1,901,346

目標・指標及び成果・達成度

(1) 全体目標に対する成果・達成度

高選択触媒と水素選択透過膜の組み合わせにより、プロピレンオキシドを高収率・高選択

率で得る技術開発、膜型反応器と新規膜基材の組み合わせにより、フェノール類を一段で合

成する手法の技術を開発し、化学産業における 10%以上の省エネルギーを実現する技術を開

発することができた。

要素技術ごとの目標に対する成果・達成度は、以下のとおりである。

要素技術 目標 目標の達成度を測定す

る指標及び目標値 成果

達成

省エネルギ

ー型グリー

ンプロセス

技術開発

①高選択性酸化

触媒の研究開発

(1)PO 合成技術

・気相一段エポキシ化によ

るプロピレン転化率 10%以

上、PO 選択率 90%以上

・10%以上の省エネルギー

・ 初 期 性 能 で は 転 化 率

(10%)、選択率(90%)とも

達成

・分離精製工程等を含むト

ータルプロセスでも 10%

以上の省エネ効果を達成

可能

達成

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iii

①高選択性酸化

触媒の研究開発

(2)アジピン酸合

成技術

・過酸化水素を用いるシク

ロヘキセンからのアジピン

酸合成で 1kg スケールで収

率 80%以上、過酸化水素効

率 80%以上

・アジピン酸合成:10 倍活

性向上

・10%以上の省エネルギー

・ 100gスケールで収率

80%以上を達成

・過酸化水素効率は 80%以

・10 倍以上の活性向上を達

・分離精製工程等を含むト

ータルプロセスでも 10%

以上の省エネ効果を達成

可能

一部

達成

②ホスゲン代替

としての二酸化

炭素利用技術

・炭酸ジメチル合成の生産

性 250g/L・day 以上

・世界 高の生産性を達成

(300g/L・day 以上) 達成

③新規材料を用

いた分離・濃縮技

術の研究開発

(1)水素分離

・H2 透過流束が世界トップ

(20NmL/cm2・min)の Pd 系

金属膜の開発

・分離エネルギー10%以上の

省エネルギー化

・H2透過流束が世界トップ

の 43NmL/cm2・min を達成

( 2010 年 NEDO 目 標 :

40NmL/cm2・min at 500℃,

ΔP=0.1MPa をクリアー)

・加減圧 20 回以上の安定

性を確認

10%以上の省エネ効果を

達成可能

達成

③新規材料を用

いた分離・濃縮技

術の研究開発

(2)酸素分離

・高生産性の空気分離膜(市

販ポリイミド膜の 2 倍の O2

生産性)

・分離エネルギー10%以上の

省エネルギー化

・カーボン膜で 1.5 倍の分

離係数で同等の O2 透過速

度(1.5 倍の O2生産性)を

達成

・分離エネルギーの 10%省

エネ化は可能

一部

達成

③新規材料を用

いた分離・濃縮技

術の研究開発

(3)吸着剤

・気体分離用吸着剤として

粒子径が 10ミクロン以下で

粒度分布の標準偏差が 20%

以下

・分離エネルギー10%以上の

省エネルギー化

・粒子径を 1-10 ミクロン

で制御し、標準偏差が 15%

以下の気体分離用吸着剤

を開発

・圧力損失の減少により分

離エネルギー10%以上の省

エネルギー効果を達成可

達成

④省エネ型光漂

白技術の研究開

・現行プロセスに比べて単

位面積当たり 20%の省エネ

ルギー化

・79%の省エネルギー化が

可能な光酸化漂白法を開

達成

革新的化学

プロセス技

術開発

①膜型反応器の

開発

(1)一段階水酸基

導入

・Pd 膜型反応器による芳香

族化合物への1段水酸基導

入反応技術として、ベンゼ

ンからフェノールへの1段

転化率 10%以上

・芳香族基準 90%以上の選

択率で、空時収率 1kg/kg 触

媒・時間以上

・ベンゼンで 10%以上の一

段反応転化率を達成

・ 適化した条件におい

て、選択率 90%以上、空時

収率 2kg/kg 触媒・時間 以

上を達成

達成

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iv

①膜型反応器の

開発

(2)Pd 及び Pd 合

金膜

・水素選択性、透過性に加

えて、室温から 600℃で安定

に動作し、600℃で 90 時間

以上の耐久性を有する新規

高性能・高耐久性 Pd 構造膜

及び Pd-Ag 合金膜の開発

・Pd を支持体内部に埋設し

た新規構造膜及び Pd-Ag合

金膜を開発し、水素選択透

過 性 に 加 え 、 室 温 か ら

600℃における安定動作、

600℃で 90時間以上の動作

を確認

達成

①膜型反応器の

開発

(3)シール材

・耐熱、耐薬品性、ガス密

閉性、柔軟性に優れたシー

ル材の作製:耐熱性>600℃、

耐腐食ガス性、水素気体透

過度(<0.1cm3 m-2 day-1)、マ

ンドレル試験において 6mm

直径曲げ可能

・耐熱性>600℃、耐腐食ガ

ス試験結果良好、水素気体

透 過 度 ガ ス (<0.1cm3 m-2

day-1)、マンドレル試験に

おいて 6mm直径曲げ可能な

性能を有する実用レベル

のガスバリア膜を開発

達成

②超臨界-膜ハイ

ブリット型反応

システム

・膜素材用単分散ナノ粒子

合成技術の開発:膜作製素

材として YSZと γAl2O3の粒

子径 10nm以下のシングルナ

ノ粒子合成

・シングルナノ粒子である

YSZ(4-6nm) 、

γAl2O3(5-8nm)の連続合成

に成功

達成

高効率冷媒

合成・利用

技術

高 効 率 冷 媒 合

成・利用技術

・低地球環境負荷、省エネ

ルギー性の高い大型冷凍機

用冷媒候補を選定

(・冷凍エネルギー効率の

高い冷媒候補化合物を 3 つ

程度選択

・代替技術として検討中の

吸収式冷凍機に比べて 10%

の省エネルギー効果)

・HFC-134a(大気寿命 13.8

年 )よりも大気寿命が短

く、冷凍サイクル計算によ

る成績係数から HFC-134a

より約 10%エネルギー効

率の良い、ターボ式冷凍機

用冷媒候補 3化合物を選定

達成

超臨界流体

利用環境負

荷低減技術

超臨界流体利用

環境負荷低減技

・瞬間昇温(400℃まで 0.05

秒以内)、耐圧強度(200MPa)

の超臨界水-マイクロリア

クターシステムの開発

・反応時間の大幅な短縮(超

臨界水で 1 分以内、超臨界

二酸化炭素で 120 分以内)

・反応の効率化並びに溶媒

除去・精製分離不要により

10%以上の省エネルギー化

・システムの改良により、

瞬間昇温(400℃/数 msec

以内)、耐圧強度(200MPa)、

高 精 度 の 温 度 制 御 ( ±

0.5℃)の性能を有する超

臨界水-マイクロリアクタ

ーシステムを開発

・反応時間の大幅な短縮(超

臨界水で 1 分以内、超臨界

二酸化炭素で 120 分以内)

を達成

・反応の効率化並びに溶媒

除去・精製分離不要によ

り、大多数の反応で 10%以

上の省エネルギー化を達

成(ベックマン転位では

30%以上)

達成

(2) 目標及び計画の変更の有無

本事業は平成 14 年度に開始した。以来、環境問題や地球温暖化問題を背景とした化学プロ

セスの低環境負荷型へのシフトや温暖化効果ガスの排出削減、そしてそれを達成する有効手

段としての化学プロセスのグリーン化、省エネルギー化への要求は年々強まっている。かか

る状況下、本事業の基本計画・実施計画・目標・運営体制などは基本的に開始当初から大き

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v

く変更していない。

一方、現在は回復したものの長期的に低迷した経済再生の起爆剤として、新規技術研究開

発への期待が大いに高まった。例えば、平成 14 年度に経済産業省が発足させた「フォーカス

21」では、研究開発成果が実用化へと至るリードタイムを短縮させるべく様々な制度設計が

組み込まれた。かかる状況下、本事業も当初目的である「省エネルギー、有害化学物質削減

に貢献する大型プロジェクトの先導」を見失わない範囲で、早期実用化に目指して柔軟な執

行を心がけた。

<共通指標>

要素技術

論文

の被

引用

度数

特許等件

数(出願

を含む)

特許権

の実施

件数

ライセ

ンス供

与数

取得ライ

センス料

国際標

準への

寄与

①省エネルギー型グリーンプロ

セス技術開発 91 523 66 0 0 0 0

②革新的化学プロセス技術開発 48 92 28 3 3 100 万円* 0

③高効率冷媒合成・利用技術 13 10 5 0 0 0 0

④超臨界流体利用環境負荷低減

技術 94 428 68 2 6 150 万円** 1***

計 246 1,053 167 5 9 250 万円 1

*実施料の収入は H19 年度の見込み値

**H15-H21 年度までの不実施契約前払金収入

***国際標準への寄与:1 件 AIST-RIO-DB:超臨界流体データベース

評価概要

1.事業の目的・政策的位置付けの妥当性

化学プロセスにおける省エネルギー、環境負荷低減は今後の政策として極めて重要である。

対象とした課題は、民間の企業では手が出しにくいが、出来たら素晴らしいという、魅力的

ではあるがリスクの高いものであり、国のプロジェクトとして妥当である。

なお、実用化を視野に入れながら推進するためには、民間企業との協力が重要である。

2.研究開発等の目標の妥当性

目標設定に際しての考察と設定値は妥当であり、明確な数値目標を設定して到達イメージ

を明確にしたことは評価できる。一方で、実用化に向けたものとなるよう目標設定に際して

は内部評価だけでなく(秘密保持協定を結んだ上で)業界団体や関連のトップ企業、ユーザ

ー企業の意見なども取り込んで、より広い視野から考察されることが望まれる。

3.成果、目標の達成度の妥当性

発表論文数、特許出願件数ともに充分であり、大きな成果を得たと言える。また、目標は

ほとんどの項目が「達成」されており、妥当と言える。実用化に向けては、今後、要素技術

開発のみならずプロセス技術開発が期待される。

4.事業化、波及効果についての妥当性

成果については、事業化に向けた 9 件の「NEDO 等プロジェクト」、37 件の民間企業との資

金付き共同研究としての実用化研究へと発展しており、事業化の見通しは立っていると言え

る。また、波及効果も大きいと考えられる。なお、事業化へのシナリオについて、具体的な

検討と詳細な分析をすることが重要である。

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vi

5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等の妥当性

研究に投入した要員数・費用に照らして、得られた成果は高い。合金膜型反応器、水素選

択分離膜、アスベスト代替シール材など当初想定していなかった領域に展開するなど、成果

の実現に向けてのマネジメント努力は高く評価できる。

一方、産業技術総合研究所の特徴の一つは総合力にあるので、より広い分野との連携、共

同作業が積極的に行なわれれば、更なる成果が期待できるテーマもあったように思われる。

6.総合評価

政策との適合性、目標値の設定、開発途中での軌道修正などが適切に為され、概ね高い成

果が得られた。また、実用化に向けた次の段階に複数のテーマが進んでおり、先導的な役割

は十分に果たしたと評価できる。今後は、顧客(企業、工業団体など)との情報交換を密に

して、実用化・事業化への具体的なシナリオを検討することで、早急な成果の普及が期待さ

れる。

7.今後の研究開発の方向等に関する提言

技術開発成果を社会に定着させるには、顧客ニーズ(顕在化していないウォンツ)を目標

に反映させることが重要で、顧客との不断のコミュニケーションが不可欠である。情報チャ

ンネルの維持と一層の拡大に注力することを期待する。

開発技術のより多くの実用化に向け、積極的な民間企業との連携、共同開発の実施、ある

いはこのための仕組みの構築が望まれる。実用化にあたっては、経済性、安全性等の様々な

課題があり、民間企業の活用が望まれる。早期の実用化による省エネルギーの推進が必要で

あり、そのための具体的方法の検討をさらに進めることが、成果の普及にとって重要である。

評点結果

(各項目:3点満点)

3.00

2.14

2.43 2.14

2.71 2.71

1.事業の目的・政策的位置付けの妥当性

2.研究開発等の目標の妥当性

3.成果、目標の達成度の妥当性

4.事業化、波及効果についての妥当性

5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等の妥当性

6.総合評価

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

3.50

4.00

平 均 点

標準偏差

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1

第1章 評価の実施方法

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2

第1章 評価の実施方法

本プロジェクト評価は、「経済産業省技術評価指針」(平成 17 年 4 月 1 日改定、

以下「評価指針」という。)に基づき、以下のとおり行われた。

1.評価目的

評価指針においては、評価の基本的考え方として、評価実施する目的として

(1)研究開発に対する経済的・社会的ニーズの反映

(2)より効率的・効果的な研究開発の実施

(3)国民への施策・事業等の開示

(4)資源の重点的・効率的配分への反映

(5)研究開発機関の自己改革の促進等

を定めるとともに、評価の実施にあたっては、

(1)透明性の確保

(2)中立性の確保

(3)継続性の確保

(4)実効性の確保

を基本理念としている。

プロジェクト評価とは、評価指針における評価類型の一つとして位置付けられ、

プロジェクトそのものについて、同評価指針に基づき、事業の目的・政策的位置付

けの妥当性、研究開発等の目標の妥当性、成果、目標の達成度の妥当性、事業化、

波及効果についての妥当性、研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等の

妥当性の評価項目について、評価を実施するものである。

その評価結果は、本プロジェクトの実施、運営等の改善や技術開発の効果、効率

性の改善、更には予算等の資源配分に反映させることになるものである。

2.評価者

評価を実施するにあたり、評価指針に定められた「評価を行う場合には、被評価

者に直接利害を有しない中立的な者である外部評価者の導入等により、中立性の確

保に努めること」との規定に基づき、外部の有識者・専門家で構成する検討会を設

置し、評価を行うこととした。

これに基づき、評価検討会を設置し、プロジェクトの目的や研究内容に即した専

門家や経済・社会ニーズについて指摘できる有識者等から評価検討会委員名簿にあ

る 7 名が選任された。

なお、本評価検討会の事務局については、指針に基づき経済産業省産業技術環境

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3

局技術振興課産業技術総合研究所室及び独立行政法人産業技術総合研究所評価部

が担当した。

3.評価対象

ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発(実施期間:平成 14 年度から

平成 18 年度)を評価対象として、研究開発実施者(独立行政法人産業技術総合研

究所)から提出されたプロジェクトの内容・成果等に関する資料及び説明に基づき

評価した。

4.評価方法

第 1 回評価検討会においては、研究開発実施者からの資料提供、説明及び質疑応答、

並びに委員による意見交換が行われた。

第 2回評価検討会においては、それらを踏まえて「プロジェクト評価における標準的

評価項目・評価基準」、今後の研究開発の方向等に関する提言等及び要素技術について

評価を実施し、併せて 4段階評点法による評価を行い、評価報告書(案)を審議、確定し

た。

また、評価の透明性の確保の観点から、知的財産保護、個人情報で支障が生じると認

められる場合等を除き、評価検討会を公開として実施した。

5.プロジェクト評価における標準的な評価項目・評価基準

評価検討会においては、経済産業省産業技術環境局技術評価調査課において平成

19 年 6 月 1 日に策定した「経済産業省技術評価指針に基づく標準的評価項目・評価

基準について」の「プロジェクト評価」の「中間・事後評価」に沿った評価項目・

評価基準とした。

1.事業の目的・政策的位置付けの妥当性

(1)国の事業として妥当であるか、国の関与が必要とされる事業か。

・国民や社会のニーズに合っているか。

・官民の役割分担は適切か。

(2)事業目的は妥当で、政策的位置付けは明確か。

・事業の政策的意義(上位の施策との関連付け等)

・事業の科学的・技術的意義

(新規性・先進性・独創性・革新性・先導性等)

・社会的・経済的意義(実用性等)

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2.研究開発等の目標の妥当性

(1)研究開発等の目標は適切かつ妥当か。

・目的達成のために具体的かつ明確な研究開発等の目標及び目標水準を設定し

ているか。特に、中間評価の場合、中間評価時点で、達成すべき水準(基準

値)が設定されているか。

・目標達成度を測定・判断するための適切な指標が設定されているか。

3.成果、目標の達成度の妥当性

(1)成果は妥当か。

・得られた成果は何か。

・設定された目標以外に得られた成果はあるか。

・共通指標である、論文の発表、特許の出願、国際標準の形成、プロトタイプ

の作製等があったか。

(2)目標の達成度は妥当か。

・設定された目標の達成度(指標により測定し、中間及び事後評価時点の達成

すべき水準(基準値)との比較)はどうか。

4.事業化、波及効果についての妥当性

(1)事業化については妥当か。

・事業化の見通し(事業化に向けてのシナリオ、事業化に関する問題点及び解

決方策の明確化等)は立っているか。

(2)波及効果は妥当か。

・成果に基づいた波及効果を生じたか、期待できるか。

・当初想定していなかった波及効果を生じたか、期待できるか。

5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等の妥当性

(1)研究開発計画は適切かつ妥当か。

・事業の目標を達成するために本計画は適切であったか(想定された課題への

対応の妥当性)。

・採択スケジュール等は妥当であったか。

・選別過程は適切であったか。

・採択された実施者は妥当であったか。

(2)研究開発実施者の実施体制・運営は適切かつ妥当か。

・適切な研究開発チーム構成での実施体制になっているか、いたか。

・全体を統括するプロジェクトリーダー等が選任され、十分に活躍できる環境

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が整備されているか、いたか。

・目標達成及び効率的実施のために必要な、実施者間の連携/競争が十分に行

われる体制となっているか、いたか。

・成果の利用主体に対して、成果を普及し関与を求める取組を積極的に実施し

ているか、いたか。

(3)資金配分は妥当か。

・資金の過不足はなかったか。

・資金の内部配分は妥当か。

(4)費用対効果等は妥当か。

・投入された資源量に見合った効果が生じたか、期待できるか。

・必要な効果がより少ない資源量で得られるものが他にないか。

(5)変化への対応は妥当か。

・社会経済情勢等周辺の状況変化に柔軟に対応しているか(新たな課題への対

応の妥当性)。

・代替手段との比較を適切に行ったか。

6.総合評価

7.今後の研究開発の方向等に関する提言

(個別要素技術に関するコメント)

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6

第2章 プロジェクトの概要

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7

第2章 プロジェクトの概要

1.事業の目的・政策的位置付けの妥当性

(1) 事業に対する国の関与

経済産業省(旧通商産業省)は 1974 年発足の「サンシャイン計画」以来、1993

年発足の「ニューサンシャイン計画」に至るまで、多くの新エネルギー技術・省エ

ネルギー技術研究開発制度を実施してきた。また、産業技術を対象とする化学産業

に焦点を合わせた取組としては、「産業科学技術開発制度」では、1995 年から化学

産業を対象として「次世代化学プロセス技術開発」(通称「シンプルケミストリー」)

などを実施してきた。2001 年の省庁再編後、上述の研究開発の大凡については、新

エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という。)が主体となって主と

して複数民間企業の集中共同研究プロジェクトの形式で実施している。

本事業は、上述の「ニューサンシャイン計画」、「産業科学技術開発制度」など

の大型プロジェクトのための先導的研究開発と位置付けられ、主として化学産業に

関わる技術を対象として、有害化学物質・廃棄物の削減及び省エネルギーに効果的

な未踏革新技術の研究開発を行うために発足した。

化学産業はオイルショック以降 も迅速かつ大幅な省エネルギー化を進め、10 年

間でエネルギー原単位を半減させることに成功した。しかしながら、 近 20 年間

は製品の中心が相対的にエネルギー消費の大きいファインケミカルズへ移行しつ

つあること、民間企業が独自に実施可能な省エネルギー技術が大凡導入され尽くし

たことなどにより足踏み状態となっている。かかる状況下、長期に渡る研究開発を

必要とする抜本的な省エネルギー技術、化学プロセスの効率化技術の開発は、民間

企業独自では困難であり、主として公的研究機関がリスクの高い研究開発の先導役

を担うことが必至の状況となっている。

具体的には、1)「省エネルギー型グリーンプロセス技術開発」では、有害廃棄

物源となるハロゲンを使用せず同時に現行の製造工程におけるエネルギー消費量

を 10 %以上低減することが可能な研究開発課題として、エポキシ化反応用高性能触

媒の開発、ホスゲン不使用炭酸ジメチル合成技術の開発などを取り上げた。例えば、

プロピレンのエポキシ化触媒はこれまで高活性触媒がほとんど報告されておらず、

本開発は世界初の本格的触媒開発プロジェクトと考えられる。また、2)「革新的

化学プロセス技術開発」では、反応効率の抜本的効率化により現行の製造工程にお

けるエネルギー消費量を 10%以上低減することが可能な研究開発課題として膜型反

応器の開発を取り上げた。膜型反応器は化学平衡の限界をうち破る革新的技術とし

て期待されているものの、膜材料、膜シール技術等が十分に検討されていない。本

開発では膜反応器技術に加えてこれまで検討されていない周辺技術の開発を行う

ことにより、従来技術のブレークスルーの見通しをつけることを図った。そして 3)

「高効率冷媒合成・利用技術」として、民間企業単独での取組が期待できないもの

の、地球環境負荷の少ない冷媒開発が強く期待されている大型冷凍機用冷媒の候補

化合物選定を課題として取り上げた。さらに、4)「超臨界流体利用環境負荷低減

技術」では、環境負荷が大きい有機溶媒に代わり、超臨界水、超臨界二酸化炭素等

を特異反応場媒体として用いる新しい環境調和型省エネルギー反応プロセスの開

発を課題とした。

以上、本事業の課題は、エネルギー使用が多大な化学産業における省エネルギー

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技術の開発を行うものであり、いずれも技術的ブレークスルーによる省エネルギー

効果、環境負荷低減効果は大きいものの、その技術の確立までに長期間を要し、研

究開発に伴うリスクが大きく、民間で取り組むことが非常に困難であるため、国主

導のもとに研究開発を総合的に推進することが必要である。

(2)事業目的・政策的位置付け

①目的

化学産業は我が国全体の約 13 %のエネルギーを消費するエネルギー多消費型産業

である。13 %の内訳は、半分強の約 7 %が純エネルギー使用によるものであり、い

わゆる省エネルギー技術導入の対象となっている。残り 6%は石油化学の原料ナフサ

相当分であり、各種化成品の原料資源として使用される分である。すなわち、化学

産業の大幅な省エネルギーのためには、化学プロセスの省エネルギー化に加えて反

応効率の向上、廃棄物の極小化による原料ナフサの使用量低減が有効で不可欠であ

る。また、同時に環境意識の高まりを考慮し、今後の化学プロセスでは有害化学物

質排出リスクの低減に貢献することも必要である。

本事業では、上述の観点から、触媒あるいは単位操作の単なる改良ではなく、新

規なエネルギー媒体、反応場、分離技術等とを組み合わせたプロセスを開発し、化

学産業における抜本的な省エネルギーを実現することを目的とする。

②政策的位置付け

地球温暖化防止への対応については、気候変動枠組条約締結国会議の結果(京都

議定書, 1997 年)を受けて国が策定した「2010 年に 1990 年の 6%削減」計画におい

て、化学産業(日本化学工業協会)は「2010 年度のエネルギー原単位を 1990 年比

10 %削減、CO2総排出量は 2010 年度には 90 年度比 11 %削減」とすることを目標と

して定めている。現在、気候変動枠組条約締結国会議では「ポスト京都議定書」に

ついての議論が進められている。本事業で対象とする技術は 2015~2030 年の間に

実用化の対象となることから、中長期の地球温暖化効果ガス排出削減に貢献すると

ともに、ポスト京都議定書の計画策定の基礎資料としても活用されることが期待さ

れる。

本事業開始時は、「技術マップ」の考え方は導入されていないが、省エネルギー

技術に係わる「『総合エネルギー効率の向上』に寄与する技術の技術マップ」及び

「『総合エネルギー効率の向上』に向けた導入シナリオ」における位置付けはそれ

ぞれ図 1,図 2 の赤丸で示すとおりである。また、「有害化学物質リスク低減技術」

等の視点では、既存マップの開発課題に以下のとおり位置付けることができる。さ

らに、平成 19 年度以降「グリーンサステイナブルケミストリープロセスの体系化」

として当該分野に関わる総合的な技術マップが検討される予定となっている。

1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

①高選択性酸化触媒の研究開発

環境・エネルギー分野、化学物質総合管理分野(リスク削減技術)「ハロゲン、

シアン、ホスゲン化合物を用いないクリーン化」及び「新酸化法によるノンハロゲ

ン化」

②ホスゲン代替としての二酸化炭素利用技術

同分野、同上課題及び「CO2、DME 等を利用した化成品製造プロセス」

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③新規材料を用いた分離・濃縮技術の研究開発

同分野「機能性膜、炭素性繊維膜、吸着剤による選択・分離プロセス」

④省エネ型光漂白技術の研究開発

同分野「ハロゲン、シアン、ホスゲン化合物を用いないクリーン化」

2)革新的化学プロセス技術開発

①膜型反応器の開発

同分野「融合反応場を利用したプロセスのグリーン化、シンプル化」

②超臨界-膜ハイブリット型反応システム

同分野、同上課題

3)高効率冷媒合成・利用技術

環境・エネルギー分野、脱フロン対策分野「業務用、家庭用冷凍空調・給湯シス

テムに関する技術」

4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

環境・エネルギー分野、「融合反応場を利用したプロセスのグリーン化、シンプ

ル化」

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出所:技術戦略マップ2007

図 1.「総合エネルギー効率の向上」に寄与する技術の技術マップ(整理図)

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出所:技術戦略マップ 2007

図 2.「総合エネルギー効率の向上」に向けた導入シナリオ

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2. 研究開発等の目標の妥当性

(1) 研究開発目標

化学産業における抜本的な省エネルギーを実現するためには、触媒あるいは単位

操作の単なる改良ではなく、新規なエネルギー媒体、反応場、分離技術等とを組み

合わせたプロセスを開発する必要がある。そこで本事業では、例えば、高選択触媒

と水素選択透過膜の組み合わせにより、プロピレンオキシドを高収率・高選択率で

得る技術開発、膜型反応器と新規膜基材の組み合わせにより、フェノール類を一段

で合成する手法の技術開発等に取り組んだ。

具体的な研究課題とその目標(下線部)については、以下のとおりである。

1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

①高選択性酸化触媒の研究開発

汎用化成品の製造技術として 大割合(20 %以上)を有し、また原子利用効率が

低く多量の廃棄物を生ずる酸化プロセスを対象として、10%以上の省エネルギー化

を目標とする。具体的には、(1)国内生産 35 万トンと生産量が多いプロピレンオキ

シド(PO)製造プロセスのための気相酸素一段選択酸化触媒とそれを用いた製造プ

ロセスの開発を行う。その目標としては、類似のエポキシ化反応であるエチレンオ

キサイド(EO)の工業プロセスの条件を基に、プロピレン転化率 10%以上、PO 選択

率 90%以上を設定した。また、(2) アジピン酸合成プロセスとして、亜酸化窒素を

副生する現行プロセスに代わるクリーンな酸化剤過酸化水素を用いるシクロヘキ

センからのアジピン酸合成触媒・プロセスを開発する。その目標として、1kg スケ

ールでの一般的な酸化反応の目標値を参考に収率 80%以上、過酸化水素効率 80%

以上、アジピン酸合成、10 倍活性向上を設定した。

②ホスゲン代替としての二酸化炭素利用技術

著しく毒性の強い合成試薬であるホスゲンを二酸化炭素で代替する合成プロセ

スを開発する。二酸化炭素を炭酸ジメチル等の炭酸エステルに変換することにより

ホスゲン代替として使用する。ホスゲンの用途はポリカーボネート合成、ポリウレ

タン合成等多岐にわたっており、ポリカーボネートの国内生産量は約 40 万トン/年

で、9 割以上がホスゲンを原料とし、塩化メチレン及び水を反応溶媒とする方法で

ある。これに対して、当該開発プロセスはホスゲン代替として無毒で安価な二酸化

炭素を使用し、かつ塩化メチレンも不要である。二酸化炭素を原料とする炭酸ジメ

チル合成を工業化するための開発目標は生産性の向上であり、工業的に妥当な生産

性の目途として 10 m3 の反応器で年産約 1000 トンを可能とする 250g/L・day 規模

の製造技術開発を目標とした。

③新規材料を用いた分離・濃縮技術の研究開発

エネルギー消費量の大きい汎用ガスの分離工程を省エネルギー性の高い分離・濃

縮方法への変換するための新規な分離膜や吸着剤を開発し、分離エネルギーを 10%

以上節減することを目標とする。

具体的には、現行の深冷分離法や PSA 吸着分離法に優る膜分離法を実現するため

の水素分離膜、空気分離膜及び PSA 吸着法の高効率化を可能にする吸着剤の開発を

行う。(1)水素分離膜に関しては世界トップレベルの水素透過速度を有する膜の開

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発を目標とした。(後に、より具体的に設定された NEDO のロードマップ目標値に

変更)。(2)空気分離膜に関しては、プロセス計算を基に現行の深冷分離法による

酸素製造と比較して 20%の省エネルギー化が可能となる膜性能(市販ポリイミド膜

の 2 倍の O2生産性)を目標とした。(3)吸着剤開発としては圧力損失の小さいガス

分離用吸着塔の開発を目的にして、シリカやカーボンのエアロゲルで粒子径が 10

ミクロン以下でかつ粒度分布の標準偏差が 20%以下と粒度をそろえた吸着剤の調整

法の開発を目標とした。

④省エネ型光漂白技術の研究開発

現在のハロゲン系薬剤による綿布、パルプ等のセルロース系天然高分子材料の漂

白法は、環境負荷が大きく、また利用困難な大量の低品位廃熱を副生する問題があ

る。そこで、このハロゲン系薬剤による漂白に代わる新規な省エネルギー型光漂白

技術を開発する。分野別国家産業技術戦略(繊維産業)においても、2010 年にハロ

ゲンフリープロセスの実用化、及び光エネルギー技術利用による低エネルギー・低

負荷型の生産・加工に関する基本技術確立が目標とされている。これらを基に、従

来法とは異なる原理(光漂白)を利用したプロセスを開発し、現行プロセスに比べ

て単位面積当たり 20%の省エネルギー化を可能とする完全ハロゲンフリー光漂白技

術の開発を目標とした。

2)革新的化学プロセス技術開発

①膜型反応器の開発

膜型反応器の開発により省エネルギー効果の大きな革新的化学プロセスを開発

することを目的とした。具体的には、(1)芳香族化合物への一段階水酸基導入反応

の実現を目指し 10%以上の転化率、芳香族基準 90%以上の選択率で、空時収率

1kg/kg 触媒・時間以上を目標とした。これは現行の水酸基導入反応(クメン法)に

比較して 50%以上の省エネルギー効果をもたらす転化率として設定した。併せて、

(2)膜型反応器の要素技術として必要不可欠な、高性能かつ高耐久性(600 oC, 90 時

間以上)を有する Pd 膜・Pd 合金膜の作製技術の開発、(3)耐熱性(600 oC)・耐薬品

性・ガス密閉性( < 0.1 cm3 m-2 day-1)・柔軟性に優れたシール材の開発を行う。

②超臨界-膜ハイブリット型反応システム

環境負荷の大きな有機溶媒に代わる新規な媒体として二酸化炭素や水等の超臨

界流体を利用した単分散ナノ粒子合成技術を開発する。具体的には、膜反応器の素

材や触媒担体として有用な無機系シングルナノ粒子合成法を開発する。

3)高効率冷媒合成・利用技術

地球環境負荷が少なく省エネルギー性に優れた大型冷凍機用の冷媒候補化合物

を評価し、冷媒候補を選択する。これまでに使われている冷媒、CFC-11、HCFC-123

はオゾン層破壊係数を持ち、HFC-134a は冷凍のエネルギー効率が低いという問題点

がある。このため、オゾン層破壊係数がなく、HFC-134a より温暖化効果が小さく、

冷凍エネルギー効率の高い冷媒候補化合物を 3 つ程度選択し、代替技術として検討

中の吸収式冷凍機に比べて 10%の省エネルギーを目標とした。

4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

環境負荷が大きい有機溶媒に代わり、超臨界水、超臨界二酸化炭素等を特異反応

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場媒体として用いる各種ファインケミカルズ製品の環境負荷低減型反応プロセス

(無触媒転位・アルキル化反応、二酸化炭素固定化反応、重合反応、水素化反応等)

の開発及びその要素技術としての超臨界流体特性の解明を行う。本特異反応場を用

いることにより、従来の多段反応から一段反応で合成する各種合成反応の開発、反

応時間の大幅な短縮(超臨界水で1分以内、超臨界二酸化炭素で 120 分以内)、反

応選択性 90%以上、従来技術に比べ 10%以上の省エネルギーを目標とした。具体

的な例として、シクロヘキサノンオキシムから 6 ナイロン原料であるε-カプロラ

クタム(国内生産量 54 万t/年)へのベックマン転位反応の場合においては、無

触媒、反応時間1秒、反応選択性 95%以上を目標とした。

以上の目標値を表 1 にまとめる。

表 1.要素技術ごとの目標

目標 指標及び目標値 妥当性・設定理由・根拠等

1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

①高選択性

酸化触媒の

研究開発

(1)PO 合 成

技術

・プロピレン転化率 10%

以上、PO 選択率 90%以上

の気相一段エポキシ化に

よるプロピレンオキシド

(PO)の合成技術

・10%以上の省エネルギー

工業化のための触媒性能を類似のエポキ

シ化反応であるエチレンオキサイド(EO)の

工業合成プロセスの条件(転化率 10%、選択

率 88%)を基に設定。

本合成反応は、現行反応(クロルヒドリン

法;シェア約 50%)に比べ約 40%の省エネ効

果。分離精製工程を含むプロセス全体でも現

行プロセスより、10%以上の省エネ効果を達

成可能。

①高選択性

酸化触媒の

研究開発

(2)アジピン

酸合成技術

・1kg スケールで収率 80%

以上、過酸化水素効率 80%

以上のシクロヘキセンか

らのアジピン酸合成技術

(アジピン酸合成:10 倍

活性向上)

・10%以上の省エネルギー

セミプラントへつなげるためには 20kg ス

ケールでの反応データ取得が必要。その基礎

となる 1kg スケールで一般的な酸化反応の目

標値を設定。

本合成反応は現行のファインケミカルズ

合成反応(硝酸酸化法など)に比べ約 50%の

省エネ効果。分離精製工程を含むプロセス全

体でも現行プロセスより、10%以上の省エネ

効果を達成可能。

②ホスゲン

代替として

の二酸化炭

素利用技術

・250g/L・day 以上の生産

性を有する、CO2 からの一

段炭酸ジメチル合成技術

工業的に妥当な生産性の目途:10 m3 の反

応器で年産約 1000 トンに相当。研究開始時

のチャンピオンデータの 50 倍。炭酸ジメチルを原料

とするポリカ製造プラントは一基で 10 万ト

ン規模以上。新法はプロセスがシンプル(一

段法)で大きな省エネ効果が期待でき、かつ、

原料や廃棄物に毒物を含まず環境的メリッ

トも大きい。

③新規材料

を用いた分

離・濃縮技術

の研究開発

(1)水素分離

・H2透過流束が世界トップ

(20NmL/cm2 ・min)の Pd

系金属膜の開発

・分離エネルギー10%以上

の省エネルギー化

一段の分離操作で高純度水素が製造でき

る Pd 系金属膜は現行の PSA 吸着法による水

素製造に比べ 10%以上の省エネルギーが可

能。トータルコストの削減をもたらすために

膜透過速度の向上を図り、世界トップの H2透

過流束を目指す。

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15

③新規材料

を用いた分

離・濃縮技術

の研究開発

(2)酸素分離

・市販ポリイミド膜の 2 倍

の O2 生産性の分離膜の開

・分離エネルギー10%以上

の省エネルギー化

酸素富化空気製造への膜分離法の普及拡

大のために市販膜の中で も分離性に優れ

るポリイミド膜の 2 倍(酸素/窒素の分離係

数 10)の O2生産性を設定した。現行の深冷分

離法と比較すると、この膜性能での理論的計

算では 20%以上の省エネルギーが見積もれ

る。スケールアップ等による効率低下を見込

んでも実用プラントでは 10%以上の省エネ効

果を達成可能。

③新規材料

を用いた分

離・濃縮技術

の研究開発

(3)吸着剤

・粒子径が 10 ミクロン以

下で粒度分布の標準偏差

が 20%以下の気体分離用吸

着剤の開発

・分離エネルギー10%以上

の省エネルギー化

微粒子の単分散化で基材への均一な塗布

が容易になり、圧力損失減少で分離エネルギ

ーを 10%以上省エネルギー化する気体分離用

吸着塔の開発が可能。

④省エネ型

光漂白技術

の研究開発

・現行プロセスに比べて単

位面積当たり 20%省エネル

ギーの光漂白技術

現在、高い白度を得るためには塩素系薬剤

を用いる高温、長時間の処理を必要とする。

本プロセスは室温での光化学反応により

完全ハロゲンフリープロセスで漂白を行う。

これは従来にない新たな原理による漂白技

術であり、大きな省エネルギー効果が得られ

る。

2)革新的化学プロセス技術開発

①膜型反応

器の開発

(1) 一 段 階

水酸基導入

・一段転化率 10%以上の芳

香族化合物への水酸基導入

反応技術

・芳香族基準 90%以上の選

択率で、空時収率 1kg/kg 触

媒・時間以上

現行の水酸基導入反応(クメン法)は多段

階プロセスかつ過酸化物中間体を経由する

など理由から、単流収率は 5%程度が限界とさ

れる。

膜型反応器で 10%の一段転化率を目標とし

た場合、現行法と比較して水酸基導入反応の

部分で 37%の省エネルギー化(計算値)、さ

らに精製工程が不必要となりその分を加え

ると 50%の省エネルギー効果が得られる。

① 膜 型 反

応 器 の 開

(2)Pd 及び

Pd 合金膜

・高性能・高耐久性(600℃、

90 時間以上)の Pd 膜及び

Pd 合金膜の作製

燃料電池実用化戦略研究会報告(資源エネ

ルギー庁、2001 年)では、定置用改質器とし

て、改質温度 600℃以上の耐久性が必要とし

ている。本膜型反応器では水素と酸素の爆鳴

気雰囲気下での使用となることから、より緻

密で高耐久性を有する Pd 系薄膜の開発を目

標とした。

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16

①膜型反応

器の開発

(3) シ ー ル

・耐熱(600℃)、耐薬品性、

ガ ス 密 閉 性 (<0.1cm3 m-2

day-1)、柔軟性に優れたシー

ル材の開発

現在、化学プラントにおいてはシール材と

して有害なアスベストが使用されているが、

国の指針として 2008 年までにアスベスト製

品の全廃目標が掲げられている。アスベスト

に替わる高耐久、高耐熱、無害なシール材の

開発が急務である。Pd 膜の耐久性目標である

600℃の耐熱を持たせる。化学反応で劣化し

ない耐薬品性、現状のハイガスバリア材料同

等以上のガス密閉性、シール材として必要で

ある柔軟性の付与を目標とする。

②超臨界 -

膜ハイブリ

ット型反応

システム

・膜反応器素材用単分散シ

ングルナノ粒子(10nm 以下)

合成

膜型反応器の高収率化には、薄膜化及び反

応断面積の増大が必要であり、膜素材の粒子

径が 10nm 以下になると表面反応の促進によ

る触媒作用の向上が図られる。本研究では膜

反応器素材や触媒担体として有用なアルミ

ナ・ジルコニア粒子を対象とした。

3)高効率冷媒合成・利用技術

高 効 率 冷

媒 合 成 ・

利用技術

・低地球環境負荷、省エネ

ルギー性の高い大型冷凍機

用冷媒候補の選定

(冷凍エネルギー効率の高

い冷媒候補化合物を3つ程

度選択、代替技術として検

討中の吸収式冷凍機に比べ

て 10%の省エネルギー効

果)

従 来 使 わ れ て き た 大 型 冷 凍 機 用 冷 媒

CFC-11 はオゾン層を破壊するとして全廃さ

れ、これに替わる HCFC-123 もモントリオー

ル議定書で将来全廃される。これら以外に

HFC-134a が用いられているが、冷凍のエネル

ギー効率が低い。このため、地球環境負荷が

低く、省エネルギー性の高い候補の選定を目

標とした。

4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

超 臨 界 流

体 利 用 環

境 負 荷 低

減技術

・超臨界水-無触媒ベックマ

ン転位反応プロセスの開発

(瞬間昇温(400℃まで 0.05

秒 以 内 ) 、 耐 圧 強 度

(200MPa))

・10%以上の省エネルギー

(反応時間1秒以内の高速

化)

2000 年に化学技術戦略推進機構は「化学

技術戦略・2025 年」を策定し、エネルギー

使用量を 1/2 へ、副生成物の 終処分量を

1/10 に低減下する技術開発が重要と報告し

ている。濃硫酸を用いる従来のベックマン

反応では、大量の硫安が産廃として副生す

るため、副生成物の発生が全くない無触媒

反応を、また、高速反応プロセスを用いる

ことにより、当該研究終了時(2004 年)にお

ける 10%の省エネルギー化を目標として設

定した。

3.成果、目標の達成度の妥当性

上述の目標の下、平成 14 年度から平成 18 年度の 5 年間に(1)に示す成果を得る

とともに、(3)に示すとおり、概ね初期の目標を達成した。

この成果は、論文発表 246 件、口頭発表 504 件、特許出願 167 件として公表した。

また、成果の波及として 9 件の NEDO プロジェクト等及び約 37 件の実用化研究(民

間企業との資金付き共同研究)へと発展している。

Page 31: ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プ …...ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プロジェクト評価(事後)報告書

17

(1) 成果

(1-1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

①高選択性酸化触媒の研究開発

(1)PO 合成技術

従来、プロピレンと塩素を原料として合成されていたプロピレンオキシド(PO)を

プロピレンの気相酸素による気相一段酸化により合成する触媒系の探索を行い、気

相酸素/水素系による金ナノ粒子触媒を 終候補として選定した。金ナノ粒子触媒

は開発当初より、PO 選択率は目標性能を達成しており、プロピレン転化率と水素利

用効率、及び触媒寿命の向上が課題であった。触媒担体であるチタノシリケート構

造の 適化、担体表面の改質による疎水化処理、助触媒物質の添加、反応ガス中へ

の反応促進剤の添加により、初期活性として当初目標であるプロピレン転化率 10 %

以上で選択率90 %以上を達成した。また、触媒寿命とプロセス効率の向上を目指し、

酸素/水素/プロピレン反応系実用化の障害となる爆発限界回避と収率向上のた

めに、水素を別の導入ラインから水素選択透過膜を介して触媒反応部に供給する触

媒膜反応プロセスを開発した。

(2)アジピン酸合成技術

従来硝酸酸化法が用いられ、副生する地球温暖化効果の大きい亜酸化窒素が問題

となっているアジピン酸を過酸化水素酸化により製造するプロセスを検討した。過

酸化水素を用いるシクロヘキセンからアジピン酸の合成においては、硫酸水素テト

ラへキシルアンモニウムとタングステン酸ナトリウム及び微量のタングステン酸

を加える触媒系に、リン酸水素ナトリウムを加えると触媒活性が飛躍的に向上する

ことを見出した(初年度比で 50 倍)。その結果 100 g スケールの反応で収率 80%

以上、過酸化水素効率 80%以上でアジピン酸を得ることに成功した。

②ホスゲン代替としての二酸化炭素利用技術

二酸化炭素から塩素化合物を用いることなく炭酸エステル及びウレタンの合成

を検討した。その結果、脱水剤としてのアセタール存在下、主触媒に対し少量の酸

性助触媒を添加することで炭酸ジメチルの生産性 300 g/L・day 以上の世界 高値

を達成した。この値は、本研究開始時点の炭酸ジメチル生産性の数十倍であり、3

年間で飛躍的な進歩を遂げた。また、触媒活性を下げることなく反応条件を穏和に

することにも成功した。研究のポイントは、触媒開発と脱水方法の開発であった。

前者に関しては、新たにチタンアルコキシドとクラウンエーテル類、及びスズアル

コキシドとトリフラート塩からなる触媒系が優れていることを見いだし、後者に関

してはジアルキルアセタール類を脱水剤とする手法が大規模工業化に適している

と判断した。

③新規材料を用いた分離・濃縮技術の研究開発

(1)水素分離

水素分離膜の研究開発ではパラジウム系合金膜素材の水素選択透過性能を 大

限に引き出すための薄膜化と、その性能を維持する長期安定性の両立を目指した。

その結果、新規な有機・無機複合調製プロセスにより、基材との界面に極薄い応力

緩和空間層を設けることに成功し、均一合金薄膜(膜厚:0.5~5 ミクロン程度)の水素

選択透過性能の向上と長期安定性の両立が可能となった。

(2)酸素分離

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18

酸素分離膜の研究開発では、安価なポリフェニレンオキシド(PPO)誘導体を用

いたカーボン膜の開発に成功した。また、カルボキシル基修飾によって実用型の非

対称構造を有するカーボン膜が得られることを見出し、市販ポリイミド膜の 1.5 倍

の分離係数(酸素/窒素比)で同等の酸素透過速度を有するカーボン膜を開発する

ことに成功した。

(3)吸着剤

気体分離用吸着剤については、細孔構造を制御したカーボンクライオゲルが市販

の分子篩炭素と同等以上の酸素/窒素分離性能を有することを実証し、さらにセラ

ミック基材へのカーボンクライオゲル担持による気体分離モジュールの開発を目

的として、その吸着性能を維持したまま粒子径が 1-10 ミクロンで標準偏差が 15%

以下の微粒子吸着剤の製造方法を確立した。シリカ系吸着剤については、細孔構造

を制御したメソ多孔質シリカが自重の 30%以上と大きな水蒸気吸着量を示すことと、

その吸脱着特性に注目した民間企業とデシカント空調用途での共同研究に発展し

た。

④省エネ型光漂白技術の研究開発

セルロース系天然高分子の漂白を対象とする、ハロゲン系薬剤を用いない新しい

環境調和型省エネルギー光漂白技術を検討した。まず、新たな原理による綿布の光

漂白法を開発しこれを改良することにより、実験室レベルの非塩素系薬剤を用いた

室温光照射により、光還元漂白では 92%、酸化漂白では 79 %の省エネルギー率で(従

来法の 8%と 21 %のエネルギー消費量)従来法以上の白色度を持つ綿布を得ること

に成功した。同様にパルプの光漂白について検討し、実験室レベルの非塩素系薬剤

を用いた室温光照射により、従来法以上の白色度を持つパルプを得ることに成功し

た。

(1-2)革新的化学プロセス技術開発

①膜型反応器の開発

(1)一段階水酸基導入

省エネルギー効果の大きな革新的化学プロセスの確立を目標とし、芳香族化合物

への水酸基導入を一段反応で可能にする効率的な膜反応プロセス(一段反応転化率

10%以上)を検討した。また、その要素技術である膜型反応器の開発では、水素選

択透過性(対窒素で分離係数 1,000 以上)や高温耐久性(600℃にて 90 時間以上)

に優れた Pd 膜材料の作製技術、膜反応器の実用化に不可欠な配管接続部のシール・

漏洩防止技術(水素気体透過度ガス<0.1cm3 m-2 day-1)などの研究開発を併せて実

施した。

(2)Pd 及び Pd 合金膜

Pd 膜材料の研究開発では、水素脆性による高温耐久性の劣化を克服するため、パ

ラジウムと銀の同時めっきによる Pd-Ag 合金膜及び Pd をセラミック支持体の空隙

に埋め込んだ新規構造の pore-filling 膜を開発し、600℃にて 90 時間以上の高温

耐久性を達成した。また、水素透過性に関しては、膜基材に安定化ジルコニア(YSZ)

を用いる水素分離膜材料を開発した。この材料の水素透過性は、高温になるほど増

加し、600 ℃においても H2/N2分離係数 1,000 以上の高い分離性能を示した。

(3)シール材

膜型反応器用シール・漏洩防止技術の研究開発では、層状ケイ酸塩を主成分とし、

その層間に高分子を閉じこめた複合材料の開発を検討した。複合化することにより、

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19

高耐熱性(>600 ℃)・水素ガスバリア性(<0.1 cm3 m-2 day-1))・柔軟性を有す

るシール材を開発した。機械的強度については、引張強さが 19.2 MPa、曲げ反発性

試験が 2.0 mN を示し、ハンドリング可能なレベルを達成した。

上述の要素技術により開発した Pd 膜型反応器を用いて、水酸基導入反応の鍵と

なる活性酸素種の効率的生成方法を種々検討し、 適膜反応条件を導いた。その結

果、現行のクメン法プロセスの単流収率である 5%を大きく上回る 10%以上の一段フ

ェノール収率を実現した。さらに、本反応プロセスの他の芳香族化合物への適用を

実証した(トルエンからクレゾール、安息香酸メチルからサリチル酸メチル等)。

このことから、本技術は単一の反応に限定されるものではなく、芳香核への水酸基

導入に汎用的に用いることが出来ることを示した。

②超臨界-膜ハイブリット型反応システム

超臨界水中では誘電率の低下に伴い、金属酸化物の溶解度は著しく減少し、高い

過飽和度を与える。この特性を利用することにより、膜反応器素材や触媒担体とし

て有用な無機系シングルナノ粒子(< 10 nm)の合成を検討した。流通式超臨界水

− 水熱反応装置を改良し、種々の反応条件を検討することにより、γ アルミナナノ

粒子(5 – 8 nm)、及びその高分散性のアルミナゾル、並びに安定化ジルコニア(4 – 6 nm)、の一段階連続合成に成功した。

(1-3)高効率冷媒合成・利用技術

大型のターボ式冷凍機は従来 CFC-11 を冷媒として使用していたが、オゾン層破壊

効果が大きいことから全廃され、代替冷媒が検討されてきた。この結果、現在では、

CFC-11 代替冷媒としては、HCFC-123、HFC-134a、NH3 などが用いられている。しか

し、HCFC-123 は CFC-11 よりも小さいもののオゾン層破壊効果をもつ。HFC-134a は

効率が CFC-11 や HCFC-123 より低く、省エネルギー性が劣る。また、NH3には毒性

や燃焼性を有する問題がある。すなわち、いずれの冷媒も問題点があり、持続可能

社会構築の総合的観点から十分に優れているわけではない。本研究開発では、大型

冷凍機用冷媒として環境に優しい化合物を総合的観点から代替冷媒として選択す

ることを目指した。

具体的には、既存のデータを元にして評価対象とする化合物を選び、これらにつ

いての環境影響評価、燃焼性評価、毒性評価、合成法、また必要に応じて評価に必

要な測定手法、計算化学的予測手法の開発を行い、得られた知見を下に候補化合物

の絞り込みを進めた。

まず、当所の持つ HFC、HFE を中心としたフッ素化合物データベースを用い、現在

の大型冷凍機冷媒と比較的近い沸点範囲(50℃以下)の含フッ素化合物の検索を行

い、ヒットした約 180 化合物についての物性、毒性、環境影響データ等の収集を行

った。次に、熱物性推算ソフトを用いてこれらの化合物すべてについて冷凍サイク

ル計算を行い、冷媒性能を評価するために必要な成績係数(COP)等の推算を行っ

た。評価対象化合物の選定に当たっては、冷凍機の効率が高い、オゾン層を破壊し

ない、基本的には低圧の冷凍機に用いる(すなわち、CFC-11、HCFC-123 と物性が近

い化合物)という観点から、特に COP が大きく、沸点が 10~40℃で塩素を含まない

ことを条件とした。さらに、燃焼性、安定性、毒性等を考慮して 19 化合物を評価

対象化合物として選定した。この 19 化合物について、さらに詳細な検討を進めた。

環境影響評価として、代替候補化合物と OH ラジカルとの反応速度について測定及

び理論的推算を行い、代替候補化合物の大気寿命評価を進めた。評価対象化合物に

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20

は環状化合物が含まれていることから、これまでにはほとんど知られていなかった

含フッ素環状化合物と OHラジカルとの反応速度について理論的推算方法を開発し、

この方法を用いて 11 化合物について OH ラジカルとの反応速度を推算した。また、

実測による評価では、原理の異なる絶対速度法及び相対速度法の2種の測定法を用

い、8 化合物について反応速度の温度依存性や不純物の影響といった詳細なデータ

を得た。これらの結果から、11 化合物について大気寿命を求めた。

安全性に関して、燃焼性と毒性の評価を行った。燃焼性評価としては、理論計算

により候補化合物の生成熱及び燃焼熱を求めるとともに、肉厚ガラス製の 12L 球形

容器を用いる ASHRAE 法で 8 化合物の燃焼限界の測定、6 化合物の燃焼速度の測定を

行った。また、化合物の毒性については調査及び Ames 試験を行い、9 化合物の毒性

情報を得た。

また、対象化合物の合成法について調査を行い、製造コストを試算するとともに、

合成法開発も行った。特に、従来ほとんど検討されていなかった環状骨格をもつ化

合物について合成法を検討し、有力候補である環状フッ素化合物について安価な工

業原料から効率よく合成することに成功した。

これらの評価データを基に候補化合物を選択した。省エネルギー性に関して上述

のように冷凍サイクル計算によって得た COP 値から絞り込み、環境影響に関しては

大気寿命が短い化合物は地球温暖化への影響がより小さいと判断した。さらに、大

型冷凍機用冷媒は生産量や使用量が大きいことから製造法と安全性に重点を置き、

大規模生産可能、適度な製造コスト、Ames 試験による毒性評価が陰性、燃焼範囲が

狭く燃焼速度が小さい、という観点から絞込みを進めた。その結果、有力候補化合

物として 3 化合物を選択した。これらの化合物の大気寿命は数年程度であり、冷媒

などに用いられている HFC-134a(大気寿命 13.8 年)よりも大気寿命は短く、温暖

化に与える影響もより小さいといえる。また、COP 値から HFC-134a より約 10%エ

ネルギー効率が良いと見込まれる。

さらに、候補化合物の実用化に向け、選択された 3 化合物について蒸気圧等の基

礎物性データを取得するとともに、そのうち 1 化合物については P-V-T 関係及び飽

和蒸気圧データの測定を行い、熱力学特性データも取得した。

(1-4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

常温から超臨界水状態まで瞬間的(0.05 秒)に昇温でき、反応後、速やかに冷却

できる超臨界水-マイクロリアクターシステム(内径:0.5mm、反応管長:1m、耐圧

強度:200MPa)の開発並びにその応用を検討した。開発した装置を用いα-ヒドロ

キシ酸からα-アミノ酸、並びにシクロヘキサノンオキシムからε-カプロラクタム

等の無触媒一段合成反応を試み、反応時間1秒以下、反応選択性 90%以上で目的物

を得ることに成功した。ε-カプロラクタムの場合においては、システムの改良に

より 終的には初期目標以上である 30%の省エネルギー効果が見込まれることが

確認された。また、二酸化炭素を合成原料並びに反応媒体として用いる超臨界二酸

化炭素中における環状カーボネート合成では、希土類系触媒やイオン液体存在下で

の反応を検討した。その結果、超臨界二酸化炭素− イオン液体の二相反応系におい

ては、従来の反応時間が大幅に短縮され、例えば、プロピレンカーボネートの合成

では 100℃の低温、反応時間5分で、ほぼ 100%の収率で目的物を得ることに成功

した。

(2)成果の普及・広報

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21

(2-1-1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

(イ) 論文発表

・“Trimethlyamine as a Gas-Phase Promoter: Highly Efficient Epoxidation of Propylene over Supported Gold Catalysts”, B. Chowdhury, J.J. Bravo-Suarez, M. Date, S. Tsubota and M. Haruta, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 412-415,

2005.12

他 90 件

(ロ)特許

・「相間移動反応用触媒」,佐藤 一彦、川村 真人,特願 2007-035119、2007/02/15

他 65 件

(ハ)口頭発表

・“Asymmetric Carbon Molecular Sieve Membranes Based on Poly(phenylene oxide)

for Gas Separation ”, 吉宗美紀、原谷賢治,AIChE 2006 Annual Meeting, San

Francisco (USA), 2006.11

他 205 件

(2-1-2)革新的化学プロセス技術開発

(イ)論文発表

・“Direct Hydroxylation of Aromatic Compounds by a Palladium Membrane Reactor”, K.Sato, T. Hanaoka, S.Niwa, C. Stefan, T. Namba, F. Mizukami, Catal. Today,

104 260 (2005)

他 47 件

(ロ)特許

・「粘土配向膜及びその製造方法」、蛯名武雄,水上富士夫, 特許第 3855003 号、

2006.9

他 27 件

(ハ)口頭発表

・“Effect of Preparation Method of Pd Membrane for Direct Synthesis of Phenol from Benzene”, 9th International Conference on Inorganic Membranes, K. Sato, S. Hamakawa, T. Hanaoka, P. A. Tanaka, T. M. Suzuki, F. Mizukami,

Lillehammer (Norway), 2006. 6

他 73 件

(2-1-3)高効率冷媒合成・利用技術

(イ)論文発表

・ "Rate Constants of Gas-phase Reactions of trans-cyc-CF2CF2CHFCHF- and

cyc-CF2CF2CH2CHCl- with OH Radicals at 253-328 K", Liang Chen, Junji

Mizukado, Shuzo Kutsuna, Kazuaki Tokuhashi, Akira Sekiya, Chemical Physics

Letters, vol.418, pp.519-523, 2006.02.

他 12 件

(ロ) 特許

・「トランス-1,1,2,2,3,4-ヘキサフルオロシクロブタンの製造方法」、水門潤治、

田村正則、関屋章、特願 2005-039382、2005.2.16.

他 4 件

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22

(ハ)口頭発表

・"Kinetics and Mechanism of CF3CHFOCH3, CF3CHFOC(O)H, and FC(O)OCH3 Reaction

with OH Radicals", 陳亮, 忽那周三, 徳橋和明, 関屋章, Joint CACGP/IGAC/WMO

Symposium(南アフリカ, ケープタウン), 2006.09.18

他 13 件

(2-1-4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

(イ)論文発表

・“Cyclic carbonate synthesis from supercritical carbon dioxide and epoxide over lanthanide oxychloride”, H. Yasuda, L.-N. He, and T. Sakakura, J. Catal.,209,547 (2002). 2002.7. 他 93 件

(ロ)特許

・「高温高圧流体の製造法及び高温高圧反応システム」,畑田清隆,佐藤修,生島豊,

鳥居一雄,特願 2002-284540,2002/09/27

他 67 件

(ハ)口頭発表

・ “Kinetics of methylation of hydroquinone and aniline in supercritical methanol without catalyst”, Takebayashi, Y.; Yoda, S.; Sugeta, T.; Otake, K., 10th Congress of the Asian Pacific Confederation of Chemical Engineering

(APCChE), 2004.10.

他 209 件

(2-2)共通指標の一覧表

表 2.共通指標の一覧表

要素技術

論文

の被

引用

度数

特許等件

数(出願

を含む)

特許権

の実施

件数

ライセ

ンス供

与数

取得ライ

センス料

国際

標準

への

寄与

①省エネルギー型グリーンプ

ロセス技術開発 91 523 66 0 0 0 0

②革新的化学プロセス技術開

発 48 92 28 3 3 100 万円* 0

③高効率冷媒合成・利用技術 13 10 5 0 0 0 0

④超臨界流体利用環境負荷低

減技術 94 428 68 2 6 150 万円** 1***

計 246 1,053 167 5 9 250 万円 1

*実施料の収入は H19 年度の見込み値

**H15-H21 年度までの不実施契約前払金収入

***国際標準への寄与:1件 AIST-RIO-DB:超臨界流体データベース

(3) 目標の達成度

高選択触媒と水素選択透過膜の組み合わせにより、プロピレンオキシドを高収

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23

率・高選択率で得る技術開発、膜型反応器と新規膜基材の組み合わせにより、フェ

ノール類を一段で合成する手法の技術を開発し、化学産業における 10%以上の省エ

ネルギーを実現する技術を開発することができた。

なお、個別要素技術ごとの目標に対する成果・達成度は、表 3 のとおりである。

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24

表 3.目標に対する成果・達成度の一覧表

要素技術 目標 目標の達成度を測定する指標及び目標値 成果 達成度

①高 選 択 性 酸 化 触 媒

の研究開発

(1)PO 合成技術

・気相一段エポキシ化によるプロピレン転化

率 10%以上、PO 選択率 90%以上

・10%以上の省エネルギー化

・初期性能では転化率(10%)、選択率(90%)

とも達成

・分離精製工程等を含むトータルプロセスでも

10%以上の省エネ効果を達成可能

達成

①高 選 択 性 酸 化 触 媒

の研究開発

(2)アジピン酸合成技術

・過酸化水素を用いるシクロヘキセンからの

アジピン酸合成で 1kg スケールで収率 80%

以上、過酸化水素効率 80%以上

・アジピン酸合成:10 倍活性向上

・10%以上の省エネルギー化

・100gスケールで収率 80%以上を達成

・過酸化水素効率は 80%以上

・10 倍以上の活性向上を達成

・分離精製工程等を含むトータルプロセスでも

10%以上の省エネ効果を達成可能

一部

達成

②ホスゲン代替としての

二酸化炭素利用技術

・炭酸ジメチル合成の生産性 250g/L・day

以上

・世界 高の生産性を達成

(300g/L・day 以上) 達成

③新規材料を用いた分

離・濃縮技術の研究開

(1)水素分離

・H2 透過流束が世界トップ(20NmL/cm2・

min)の Pd 系金属膜の開発

・分離エネルギー10%以上の省エネルギー

・H2 透過流束が世界トップの 43NmL/cm2・min

を達成 (2010 年 NEDO 目標:40NmL/cm2・

min at 500℃, ΔP=0.1MPa をクリアー)

・加減圧 20 回以上の安定性を確認

10%以上の省エネ効果を達成可能

達成

省 エ ネ ル

ギー型グリ

ーンプロセ

ス 技 術 開

③新規材料を用いた分

離・濃縮技術の研究開

(2)酸素分離

・高生産性の空気分離膜(市販ポリイミド膜

の 2 倍の O2 生産性)

・分離エネルギー10%以上の省エネルギー

・カーボン膜で 1.5 倍の分離係数で同等の O2

透過速度(1.5 倍の O2 生産性)を達成

・分離エネルギーの 10%省エネ化は可能

一部

達成

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25

③新規材料を用いた分

離・濃縮技術の研究開

(3)吸着剤

・気体分離用吸着剤として粒子径が 10 ミク

ロン以下で粒度分布の標準偏差が 20%以

・分離エネルギー10%以上の省エネルギー

・粒子径を 1-10 ミクロンで制御し、標準偏差が

15%以下の気体分離用吸着剤を開発

・圧力損失の減少により分離エネルギー10%

以上の省エネルギー効果を達成可能

達成

④省エネ型光漂白技術

の研究開発

・現行プロセスに比べて単位面積当たり 20%

の省エネルギー化

・79%の省エネルギー化が可能な光酸化漂白

法を開発 達成

①膜 型 反 応 器 の開 発

(1)一段階水酸基導入

・Pd 膜型反応器による芳香族化合物への1

段水酸基導入反応技術として、ベンゼンか

らフェノールへの1段転化率 10%以上

・芳香族基準 90%以上の選択率で、空時

収率 1kg/kg 触媒・時間以上

・ベンゼンで 10%以上の一段反応転化率を達

・ 適化した条件において、選択率 90%以

上、空時収率 2kg/kg 触媒・時間 以上を達成

達成

①膜 型 反 応 器 の開 発

(2)Pd 及び Pd 合金膜

・水素選択性、透過性に加えて、室温から

600℃で安定に動作し、600℃で 90 時間以

上の耐久性を有する新規高性能・高耐久

性 Pd 構造膜及び Pd-Ag 合金膜の開発

・Pd を支持体内部に埋設した新規構造膜及

び Pd-Ag 合金膜を開発し、水素選択透過性

に加え、室温から 600℃における安定動作、

600℃で 90 時間以上の動作を確認

達成

①膜 型 反 応 器 の開 発

(3)シール材

・耐熱、耐薬品性、ガス密閉性、柔軟性に

優れたシール材の作製:耐熱性>600℃、耐

腐食ガス性、水素気体透過度(<0.1cm3 m-2

day-1)、マンドレル試験において 6mm 直径

曲げ可能

・耐熱性>600℃、耐腐食ガス試験結果良好、

水素気体透過度ガス(<0.1cm3 m-2 day-1)、マ

ンドレル試験において 6mm 直径曲げ可能な

性能を有する実用レベルのガスバリア膜を開

達成

革 新 的 化

学プロセス

技術開発

②超臨界-膜ハイブリ

ット型反応システム

・膜素材用単分散ナノ粒子合成技術の開

発:膜作製素材として YSZ と γAl2O3 の粒子

径 10nm 以下のシングルナノ粒子合成

・ シ ン グ ル ナ ノ 粒 子 で あ る YSZ(4-6nm) 、

γAl2O3(5-8nm)の連続合成に成功 達成

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26

高 効 率 冷

媒合成・利

用技術

高効率冷媒合成・利用

技術

・低地球環境負荷、省エネルギー性の高い

大型冷凍機用冷媒候補を選定

(・冷凍エネルギー効率の高い冷媒候補化

合物を3つ程度選択

・代替技術として検討中の吸収式冷凍機に

比べて 10%の省エネルギー効果)

・HFC-134a(大気寿命 13.8 年)よりも大気寿

命が短く、冷凍サイクル計算による成績係数

から HFC-134a より約 10%エネルギー効率の

良い、ターボ式冷凍機用冷媒候補3化合物を

選定

達成

超 臨 界 流

体 利 用 環

境 負 荷 低

減技術

超臨界流体利用環境負

荷低減技術

・瞬間昇温(400℃まで 0.05 秒以内)、耐圧

強度(200MPa)の超臨界水-マイクロリアクタ

ーシステムの開発

・反応時間の大幅な短縮(超臨界水で1分

以内、超臨界二酸化炭素で 120 分以内)

・反応の効率化並びに溶媒除去・精製分離

不要により 10%以上の省エネルギー化

・システムの改良により、瞬間昇温(400℃/数

msec 以内)、耐圧強度(200MPa)、高精度の

温度制御(±0.5℃)の性能を有する超臨界水

-マイクロリアクターシステムを開発

・反応時間の大幅な短縮(超臨界水で1分以

内、超臨界二酸化炭素で 120 分以内)を達成

・反応の効率化並びに溶媒除去・精製分離不

要により、大多数の反応で 10%以上の省エネ

ルギー化を達成(ベックマン転位では 30%以

上)

達成

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27

4.事業化、波及効果についての妥当性

(1) 事業化について

本事業は1.で述べたとおり、長期にわたる研究開発を要する開発リスク

の高い研究課題を対象とすることから、当初目的に添った内容の事業化には

時間を要すると考えられる。一方、一部の成果については、事業化の検討が

開始されている。例えば、膜型反応容器開発における要素研究の一つである

無機ガス遮蔽材料(ガスバリア膜)は、高い耐熱性や柔軟性を持つことから、

プラントのガスケットとしての実用化検討が行われた結果、各種化学プラン

ト用アスベスト代替ガスケット材料としての事業化が決定し、本年中に市販

品が生産される予定である(特許権の実施:特許第 3855003 号、他 2 件)。

その他の成果についても、多くが以下のような展開へと進んでおり、2015

~2030 年には事業化されると期待している。

1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

①高選択性酸化触媒の研究開発

(1)PO 合成技術

気相一段プロピレン選択酸化プロセス技術に関しては、PO製造メーカーを

主として国内外化学メーカーから技術的問い合わせがあった。

事業化のためには、触媒寿命と水素利用効率の向上のための開発研究が必要

である。今後、本成果の事業化を目指した企業と共同研究を実施することによ

って、2015~2020 年までには事業化が可能と思われる。

(2)アジピン酸合成技術

過酸化水素酸化によるアジピン酸合成に関しては、国内化学メーカーや自動

車メーカーから問い合わせがあった。今後、反応スケールアップや触媒の回収・

再使用性向上が図られた場合、2015~2020 年までには事業化が可能と思われる。

②ホスゲン代替としての二酸化炭素利用技術

CO2 を利用した高生産性の一段炭酸ジメチル合成技術に関しては、ポリカ

ーボネート樹脂の市場は伸びが大きいため、新設のプラントが必要であり、

新技術が導入される可能性が高い。また、世界で消費されているホスゲンの

量(約 800 万トン)は日本国内でポリカーボネート製造に用いられる量の約

50 倍にものぼり(出典:Chemtech 誌、アメリカ化学会, 1997)、二酸化炭

素法で置き換えられれば長期的に大きな波及効果が期待できる。

本事業で開発された触媒技術は世界 高の性能であるが、事業化には、触

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28

媒活性の一層の向上及び、生成物の分離・精製、触媒のリサイクル等のプロ

セス的検討が必要であり、さらに 5 年程度の研究開発が必要である。

③新規材料を用いた分離・濃縮技術の研究開発

(1)水素分離

開発した Pd 系金属膜は、その高流束水素透過性と安定性が注目され、半

導体製造用や燃料電池システム用の高純度水素製造プロセスへの適用技術

として期待され、Pd 系膜製造法及びその利用技術に関して外部の研究員と

共同で 3 年ほどの実用化研究を経てベンチャー企業の設立が計画されてい

る。

(2)酸素分離

空気分離用を目指したカーボン膜開発は、水蒸気等小さいサイズの気体分

子の高い除去性能が注目され、5 年後の実用化を目指して製膜法、モジュー

ル化技術及び膜モジュールの利用技術に関して、それぞれ民間企業との共同

研究が開始されている。

(3)吸着剤

吸着剤の開発については、シリカ系吸着剤で早々にデシカント空調機への

応用としての実用化研究が民間企業と共同で行われており、現在、企業側で

フィールドテストを行う段階に達している。

④省エネ型光漂白技術の研究開発

綿布の光漂白については、別途、地域新生コンソーシアム研究開発制度

(H16-17 年度)でプロトタイプ装置の製作と試運転を行い、問題点はほぼ

解決されており、繊維機械メーカーが実装置を製作販売することはすぐにで

も可能である。しかしながら、繊維メーカーがその装置を導入して自社の生

産に利用するためには、自社製品漂白プロセスの 適化とノウハウの確立が

必要となるので、本格的な事業化には装置導入後 1、2 年を要すると考えら

れる。パルプの漂白は実機のプロトタイプの製作、運転から始める必要があ

るので、プロトタイプの試験に 2、3 年、その後の事業化のための実生産プ

ロセスの 適化に 3、4 年要すると考えられる。

2)革新的化学プロセス技術開発

①膜型反応器の開発

(1)一段階水酸基導入

本研究開発の主体となるフェノールの一段合成法に関しては、現行行われ

ているクメン法と比較し、省エネプロセスであるとともに、副生成物として

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29

大量に得られるアセトンを併産しないというメリットを有する。しかしなが

ら、近年におけるベンゼン原料価格の高騰に伴い、海外大型製造拠点への合

弁集約化や、国内既存設備の有効利用が検討されており、設備更新による代

替には 2030 年を目安とする長期の時間が必要と考えられる。

(2)Pd 及び Pd 合金膜

本技術開発で作製したパラジウム薄膜は高水準の水素透過性・耐熱性能を

持つことから、粗製水素の精製・高純度化や、リフォーミング反応器との複

合化による水素製造器としての利用が可能である。本水素製造器は家庭用燃

料電池等への応用が期待され、現在、NEDO プロジェクトにおいて LP ガスや

都市ガスの改質による分散型水素製造システムとしての実用化検討を行っ

ている。

(3)シール材

ガスバリア膜材料の開発については、高い耐熱性能を有する無機―有機複

合材料開発(H18 年度 NEDO プロ等)へと発展し、H19 年度より、民間企業か

ら各種化学プラント用アスベスト代替ガスケット材料として上市されてい

る。なお、アスベスト代替ガスケット材料は国内市場規模 33 億円/年が見込まれ

ている。

②超臨界-膜ハイブリット型反応システム

本研究開発で作製したアルミナシングルナノ粒子は、触媒膜素材(担体)

の用途の他に、光学材料としての用途が期待されており、H18 年度より民間

企業との共同研究において実用化検討を行っている。また、単分散ナノ粒子

の合成技術は、迅速かつ効率的なナノ粒子(色素増感太陽電池用)製造技術と

して、H18 年度戦略的基盤技術高度化支援事業に展開し、量産化への技術的

課題の検討を行っている。

3)高効率冷媒合成・利用技術

本研究で冷媒化合物を検討して得られた知見は、NEDO プロジェクト(ノン

フロン型省エネ冷凍空調システム開発)や民間企業との共同研究に展開され

ている。本研究で選択した冷媒候補化合物は、工場などでの空調に用いられ

ている大型ターボ式冷凍機の冷媒として実用化されることが期待される。実

用化に至るまでには、圧縮特性、潤滑油試験など、冷媒として使用するため

の各種の特性試験や、実機モデル試験を行う必要がある。また、化合物自身

の事業化のために、化合物の化審法の適用や、大規模製造の検討、プラント

設立なども必要である。このため、事業化には今後さらに数年から 10 年程

度要すると思われる。

Page 44: ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プ …...ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プロジェクト評価(事後)報告書

30

4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

超臨界水-マイクロリアクターシステムを用いるε-カプロラクタムの製

造法に関しては、濃硫酸を用いる現行法と比較し 30%以上の省エネプロセ

スであるとともに、副生成物として大量に得られる硫安を併産しないという

メリットを有する。しかしながら、この数年、バイオエタノール産業が世界

的に急拡大したことから、研究開発当時の事情は様変わりとなり、発展途上

国における硫安需要が急増する結果となった。したがって、硫安生成を伴う

現行プラントの更新による代替は 2030 年以降を目安とする長期の時間が必

要と考えられる。

また、当プロジェクトにおける高温高圧場計測技術に関する特許は、既に

H15 年から民間企業との実施契約がなされており、市場規模は研究開発用で

あることから小さいものの、150 万円のライセンス収入(H15− H21 不実施契

約前払金として)を得ている。

なお、NEDO プロジェクト及び当プロジェクトにおいて集約された「超臨

界データベース(材料腐食データベースを含む)」は、当初、事業化につい

ても検討されたが、超臨界流体を利用する際の基礎基盤に関するデータであ

ることから、H17 年度から産総研 RIO-DB として Web 上で公開されており、

アクセス数は1万件/年以上と国内外で広く利用されている。

(2) 波及効果

本事業における研究成果は表 4 に示すように、NEDO 等における 9 件の産

学官連携プロジェクトへと展開している。さらに、(1-1)①高選択性酸化触

媒で研究開発を進めた過酸化水素利用酸化技術の一部は、平成 20 年度発足

のプロジェクト候補として検討されており、今後も本事業の成果が産学官連

携プロジェクトへと展開する可能性は高いと考えている。また、本事業の成

果がより実用化に近づいた研究フェーズの例としては、表 5 のとおり、約

40 件が民間企業から資金提供を受ける共同研究へと展開している。一方、

NEDO 産業技術助成制度においても、「ナノ構造制御カーボンによる次世代

型 VOC 除去モジュール」、「電場印加液相プロセスによる規則性メソ多孔体

の三次元集積化・高機能モジュール化技術の開発」(以上、1)③新規材料

を用いた分離・濃縮技術の研究開発(3)吸着剤)、「低環境負荷、高洗浄性

能、安全性を兼ね備えた工業洗浄剤の開発研究」(3)高効率冷媒合成・利

用技術)などへと展開し新たな研究シーズ創出にも貢献したと考えられる。

要素技術ごとの代表的な波及効果は、以下のとおり。

Page 45: ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プ …...ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プロジェクト評価(事後)報告書

31

1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

・過酸化水素利用酸化技術(①高選択性酸化触媒の研究開発(2)アジピン

酸合成技術)の成果は NEDO 有害化学物質リスク削減基盤技術研究開発「非

フェノール系樹脂原料を用いたレジスト材料の開発」プロジェクトに展開し

た。電子材料用レジスト(エポキシ樹脂)の場合、ごく微量のハロゲン混入

が絶縁性能低下の大きな原因となる。従来技術ではエポキシ原料としてハロ

ゲン化合物の使用が不可欠であったため、樹脂の長期絶縁安定性に問題があ

った。本研究で開発した過酸化水素酸化技術を基に、レジスト原料シクロヘ

キセン誘導体のハロゲンフリーエポキシ化に成功し、昭和電工(株)と共同

で電子材料の小型軽量化、高性能化、長寿命化に貢献する革新的絶縁材料(レ

ジスト)を開発した。現在大手電機メーカーからの仮受注を受け、本格生産

へ向けて準備中である。さらに NEDO プロジェクトの成功を受けて、産総研

「過酸化水素酸化プロセス」と東大「アクアプロセス」からなる「グリーン・

サスティナブル・ケミカルプロセスの創造的共通基盤技術開発」が総合科学

技術会議でS評価を受け、H20 年度国プロジェクト(8 年間)として選定さ

れた。

・空気分離用を目指して開発したカーボン膜(③新規材料を用いた分離・

濃縮技術の研究開発(2)酸素分離)は除湿性能の高さを利用してガソリンベ

ーパーの脱水用途で NEDO プロジェクトに発展した。VOC排出削減の観点

から給油所(ガソリンスタンド)から排出されている 12 万トン/年のガソ

リンベーパーの回収が強く望まれている。膜分離法の適用により回収するこ

とが欧米を中心に検討されてきたが、従来の膜法ではガソリンと水分の混合

体として回収することになり湿度の高い日本ではほとんど行われていない。

本研究開発の「新規材料を用いた分離・濃縮技術の研究開発」で酸素分離用

に開発研究した炭素中空糸膜が、湿りガソリンベーパーからの除湿性能に優

れていることを見出し水分フリーのガソリンとして回収できる見通しが立

った。現在 NEDO プロジェクトで回収装置の開発研究を行っており数年後を

目指している。

気体分離用吸着剤(③新規材料を用いた分離・濃縮技術の研究開発(3)吸

着剤)については、本研究開発で開発したカーボンクライオゲル微粒子吸着

剤を用いた気体分離用モジュールの開発が民間企業1社との共同研究を視

野にモジュール開発のための実用化研究を実施中である。また、シリカ系吸

着剤の研究はマイクロ反応場利用技術として NEDO プロジェクトへと発展し

ている。

・我が国では年間180万トン以上の繊維製品が廃棄されているが、その

大きな原因は混紡繊維の分離技術が無い為でこの技術の開発は業界の長い

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32

間の懸案となっていた。本技術研究開発の(④省エネ型光漂白技術の研究開

発)において薬剤と照射波長の組み合わせにより綿布の強度低下が起こるこ

とを見出し、この現象を混紡繊維の分離技術に適用することを考え研究を行

った結果、容易に混紡の分離を行う技術を見出した。現在大手化学繊維会社

と大型試験設備を用いる混紡分離の共同研究を行っており、この技術を用い

ることにより上記廃棄繊維のうち80万トン以上を占めるポリエステル綿

混紡繊維のリサイクルが可能となる。

2)革新的化学プロセス技術開発

本研究でフェノール一段合成に用いられる水素透過膜の製造技術(①膜型反

応器の開発(2)Pd 及び Pd 合金膜)は、NEDO プロジェクトへと発展し、LP ガ

ス利用の家庭用燃料電池等に利用可能な高純度水素分離膜としての応用が検討

されている。また、膜型反応器開発における要素研究の一つである無機ガス遮

蔽材料(①膜型反応器の開発(3)シール材)は、ガスバリア膜としての利用のみ

ならず、今後、様々な分野(薄膜化電子デバイスや不燃材等)への応用が期待

されている。現在、複数の民間企業との共同研究によりその実用化が検討され

ており、その波及効果は極めて大きいと考えられる。

3)高効率冷媒合成・利用技術

・冷凍機用冷媒の候補として検討した化合物のさらなる応用展開として、

環境負荷の低い新規洗浄剤の開発・検討が進んでいる。

・工業用洗浄剤として、水系、炭化水素系、塩素系などの化合物が用いられ

ているが、省エネルギー性、安全性等に問題が残されている。ミニマム・エナ

ジー・ケミストリ技術研究開発において、含フッ素環状化合物に環境影響、安

全性、省エネルギー性に優れた化合物の可能性を見いだしたことから、含フッ

素環状化合物を対象に新たな工業用洗浄剤の開発を行う。この開発により、洗

浄分野における環境保全性を高め、省エネルギー化が期待される。

4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

超臨界水-マイクロリアクターシステムに関しては、高圧デバイス部品、

超臨界水製造装置及び超臨界水反応装置としての利用(市場規模:数億円/

年)を目的とした民間企業との共同研究に発展し、2007 年度までの実用化

を目指している。また、超臨界二酸化炭素利用技術に関しては、NEDO 有害

化学物質リスク削減プロジェクトへと発展し、トルエン・シンナー等の有機

溶媒の大幅な削減(2 万トン/年)が可能となる革新的二酸化炭素塗装装置

(市場規模 200 億円/年)に取り組んでおり、2010 年の上市を目指してい

Page 47: ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プ …...ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プロジェクト評価(事後)報告書

33

る。

表 5.民間企業との共同研究への発展

目標 共同研究名称 実施

年度

1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

①高選択性酸化触媒の研究開

(2)アジピン酸合成技術

過酸化水素による植物油酸化技術の開発、

他8件

H17-19

表 4.産学官プロジェクト研究への発展

目標 プロジェクト名 実施年度・制度

1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

①高選択性酸化触媒の研

究開発

(2)アジピン酸合成技術

非フェノール系樹脂原料を用いた

レジスト材料の開発

H16-18 年度 NEDO

プロジェクト

③新規材料を用いた分

離・濃縮技術の研究開発

(2)酸素分離

デュアルメンブレンシステムによ

るガソリンベーパー回収装置の開

H18-20 年度 NEDO

プロジェクト

③新規材料を用いた分

離・濃縮技術の研究開発

(3)吸着剤

革新的マイクロ反応場利用部材技

術開発

H18-22 年度 NEDO

プロジェクト

④省エネ型光漂白技術の

研究開発

光を利用した省エネルギー型ハロ

ゲンフリー布帛漂白装置の開発

H16-17 年度地域新生

コンソーシアム制度

2)革新的化学プロセス技術開発

①膜型反応器の開発

(2)Pd 及び Pd 合金膜

高耐久性メンブレン型LPガス改

質装置の開発

H18-20 年度 NEDO

プロジェクト

①膜型反応器の開発

(3)シール材

高温用非アスベストガスケット・パ

ッキンの開発

H18 年度 NEDO

プロジェクト

3)高効率冷媒合成・利用技術

ノンフロン型省エネ冷凍空調シス

テム開発

H17-20 年度 NEDO

プロジェクト

高効率冷媒合成・利用技

次世代断熱発泡剤の研究開発 H19-22 年度 NEDO

プロジェクト

4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

超臨界流体利用環境負

荷低減技術 革新的マイクロ反応場利用部材技

術開発、有害化学物質リスク削減プ

ロジェクト

H18-22 年度 NEDO

プロジェクト

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34

②ホスゲン代替としての二酸

化炭素利用技術

CO2 を利用した炭酸ジアルキルを合成する

触媒開発、他1件

H18-19

③新規材料を用いた分離・濃

縮技術の研究開発

(1)水素分離

特殊ガス分離回収用ガス分離膜、他2

H18-19

④省エネ型光漂白技術の研究

開発

回収綿の高付加価値化に関する研究、他2

H18-19

2)革新的化学プロセス技術開発

①膜型反応器の開発

(3)シール材

ガスバリア複合部材の開発、他 3 件 H17-19

3)高効率冷媒合成・利用技術

高効率冷媒合成・利用技術 フッ素とアンモニア等の水素化物との反

応性に関する研究、他 2 件

H17-19

4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

超臨界流体利用環境負荷低減

技術 環状カーボネート製造方法に関する研究、

超臨界流体エンジニアリングに関する研

究、

他 12 件

H16-19

上述の波及効果のうち、高選択酸化技術、光漂白技術などは本事業の研究

成果が直接発展したものである。特に、高選択酸化反応技術に関する成果は、

共同研究の多さが裏付けるように、開発した酸化反応技術が、反応効率の高

さ、省エネルギー性に加えて、コストの観点からも高いレベルにあることを

裏付けている。ホスゲン代替二酸化炭素利用は基礎化学品合成に関する技術

であることから、民間企業を交えての継続的な研究開発により将来の展開を

目指している。本事業で得られた冷媒の環境影響評価、燃焼性評価技術は、

民間企業が開発した各種新材料の評価に利用され始めている。

一方、本事業が基盤的・先導的であることから、当初想定しなかった研究

開発へと展開した例も多い。例えば、光漂白技術研究開発の一部は、中途か

ら漂白技術ではなく、ポリエステル綿混紡の分離技術へと展開し、民間企業

との共同研究へと発展した。また、空気からの酸素分離を(空気分離)目指

した分子ふるい炭素膜は空気分離よりも早く水蒸気分離や特殊ガス分離へ

の応用が検討され始めた。Pd 系の水素透過膜は燃料電池等に利用可能な高

純度水素の精製用分離膜として検討されている。さらに、冷凍機用冷媒の候

補として検討した化合物は環境負荷の低い新規洗浄剤としての開発検討が

進んでいる。

以上、本事業の成果は本来目的とする技術にとどまらず、周辺技術領域を

含めて幅広い波及効果を生じている。

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5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等の妥当性

(1)研究開発計画

本事業の 5 年間の開発実施計画は、図 3 のとおりである。

要素技術名 平成

14 年度

平成

15 年度

平成

16 年度

平成

17 年度

平成

18 年度

1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

①高選択性酸化触媒の研究開発

・気相一段エポキシ化

・アジピン酸の直接合成

②ホスゲン代替としての二酸化炭素利用技術

③新規材料を用いた分離・濃縮技術の研究開発

・ガス分離膜技術

・高効率 PSA 吸着技術

④省エネ型光漂白技術の研究開発

2)革新的化学プロセス技術開発

①膜型反応器の開発

②超臨界-膜ハイブリット型反応システム

3)高効率冷媒合成・利用技術

・評価法の検討と種々の化合物の評価

・計算機科学による評価

・合成法の検討

・総合的評価と代替物の選択

4)超臨界流体利用環境負荷低減技術 ・超臨界流体による特異的有機合成反応

・超臨界流体を用いる新規反応・材料プロセス

執 行 額 (千円) 604,500 405,417 377,658 263,642 250,129

綿布漂白 パルプ漂白

分子ふるい炭素膜、Pd 系合金膜

カーボンエアロゲルの調製と成形

過酸化水素活性化触媒調製と合成実験

金触媒等の設計・調製と合成実験

触媒開発と脱

水法の開発

ナノ粒子作成

要素因子の

検討、抽出評価データ蓄積

精度向上、

高速化 反応性、物性

の予測 新規反応の検討 合成の効率化

指標の確立と総合評価

透過膜の開発、シール技術、

ガス透過試験

芳香環への水酸基導入反応、酸素導入

マイクロリアクター装置の開発

特異場反応の検討

特異場反応機構の検討

超臨界流体溶媒特性

の検討

図 3.研究開発計画

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36

(2) 研究開発実施者の実施体制・運営

本事業は民間企業の実施が困難な基盤的・先導的研究課題であることから、

「ニューサンシャイン計画」、「産業科学技術開発制度」の多くの研究開発

プロジェクトに参画し、特にその先導フェーズで大きな実績をあげている産

業技術総合研究所(産総研)に直接委託した。産総研は、特に、触媒、分離

技術等、本事業の主要研究開発要素について幅広いポテンシャルを有してお

り、「C1 化学プロジェクト」、「高温水素分離膜プロジェクト」等で大き

な成果をあげている。事業の運営にあたっては、広範囲にわたる研究開発を

効率的に運営・推進するため、プロジェクトリーダーのもと、要素技術ごと

にテーマリーダーを配置し、研究開発を実施(図 4 研究体制図参照)した。

具体的には以下のとおりである。

○プロジェクトリーダー(PL)

プロジェクト遂行の中心として位置付け、所内的な連携、所外的な調整、

提出書類の取りまとめなどの管理を行った。

○テーマリーダー(TL)

プロジェクトリーダーをサポートするとともに、各テーマを取りまとめ、

円滑な開発業務の遂行を図った。また、研究開発も実施した。

○主任研究員、研究員

テーマリーダーをサポートするとともに、研究開発を実施した。

(3) 資金配分

PL のもとに研究推進の円滑かつ効率的推進が図られるよう PL と TL の十

分な意志疎通の下、資金配分を決定した。基本的には開発に時間がかかる基

盤的研究にはコンスタントな資金配分を、成果が上がりつつあるテーマには

増額配分し、成果が共同研究や NEDO プロジェクトに発展したテーマは減額

配分するか新たな課題を起こして配分するなど、柔軟な運営とテーマごとの

適切な資金の配分を行った。各課題の年度別配分額は、表 6 のとおりである。

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37

表 6.実施内容に応じた資金の年度配分表(執行額 単位:千円)

要素技術 平成 14

年度

平成 15

年度

平成 16

年度

平成 17

年度

平成 18

年度 合計

1)省エネルギー型グリ

ーンプロセス技術開発 176,745 123,769 138,806 129,509 125,066 693,895

①高選択性酸化触媒

の研究開発 85,733 59,242 55,528 48,728 45,237 294,469

②ホスゲン代替として

の 二 酸 化 炭 素 利 用

技術

- - 22,799 26,016 29,566 78,380

③新規材料を用いた

分離・濃縮技術の研

究開発

45,506 33,135 31,057 28,258 25,132 163,088

④省エネ型光漂白技

術の研究開発 45,506 31,391 29,422 26,507 25,132 157,958

2)革新的化学プロセス

技術開発 172,922 102,457 88,530 109,572 101,011 574,492

①膜型反応器の開発 172,922 102,457 88,530 72,500 62,530 498,939

②超臨界-膜ハイブ

リット型反応シス

テム

- - - 37,072 38,481 75,553

3)高効率冷媒合成・利

用技術 63,708 44,907 40,329 24,561 24,052 197,557

4)超臨界流体利用環

境負荷低減技術 191,125 134,284 109,993 - - 435,402

計 604,500 405,417 377,658 263,642 250,129 1,901,346

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38

超臨界流体利用環境

負荷低減技術

テーマリーダー:島田広

環境化学技術研究部門

テーマリーダー:水上富士夫

コンパクト化学プロセス研究セ

ンター

テーマリーダー:関屋

環境化学技術研究部門

省エネルギー型

グリーンプロセス

革新的化学

プロセス技術開発

高効率冷媒合成・

利用技術

島田広道

環境化学技術研究部門部門長

(~H16 春田正毅 環境調和技術研究部門

プロジェクトリーダー

産業技術総合研究

経済産業省

[1] [2] [3] [4]

図4.研究体制

委託

テーマリーダー:新井

邦夫

超臨界流体研究センタ

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39

(4) 費用対効果

本事業では当初計画した目標をほぼ達成できているが、実用化には時間を要する

と予想される。例えば、費用対効果の一つの指標として 2030 年での本事業開発技

術の実用化による省エネルギー量の試算を行ったところ、表 7 にまとめたように、

全事業が実用化した場合の省エネルギー可能量は 133 万 kL/年となる(参考:化学

産業全体の原油換算エネルギー消費量は約 6,200 万 kL/年、この内消費エネルギー

分は 3,340 万 kL/年)。

本事業に要した直接費用 20 億円の効果としては、成功率を 10 %とした場合(13

万 kL/年)でも著しく大きい(\15,000/kL)が、研究開発成果を実用化するためのコ

ストが含まれていないため、本事業の費用対効果を ESCO など他の省エネルギー事

業と比較することは適当ではない。

したがって、本事業の費用対効果についての評価は実用化が見込まれる 2015~

2030 年に行うことが適当と考えられる。

表 7.省エネルギー量試算のまとめ

要素技術 省エネ効果の由来

2030 年省

エネ量

(万 kL/

年)

1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

①高選択性酸化触媒の研究開発

・PO 合成技術

(プロピレンオキシドの製造)

反応プロセスの効率化による製造過程

の省エネ 17

・アジピン酸合成技術

(ファインケミカルズの製造)〃 34

②ホスゲン代替としての二酸化

炭素利用技術 無溶媒化による製造過程の省エネ 5

③新規材料を用いた分離・濃縮

技術の研究開発

・水素分離(ガス製造技術)

・酸素分離(ガス製造技術)

分離に必要なエネルギー削減によるガ

ス製造過程の省エネ

18

・吸着剤(空調機技術) 空調機使用時の電力節減による省エネ 10

④省エネ型光漂白技術の研究開

・綿布等漂白技術

光エネルギーの使用による漂白過程の

低温化による省エネ 3

・パルプ漂白技術 〃 10

2)革新的化学プロセス技術開発

①膜型反応器の開発

・一段階水酸基導入

(フェノール製造技術)

反応プロセスの効率化による製造過程

の省エネ

6

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40

・Pd 及び Pd 合金膜

(ファインケミカルズ製造技

術)

1

・シール材

(KA オイル製造技術)

3

3)高効率冷媒合成・利用技術

・高効率冷媒合成・利用技術 冷媒の成績係数向上による冷凍機使用

時の省エネ 12

4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

・超臨界流体利用環境負荷低減

技術

反応プロセスの効率化、並びに溶媒除

去・精製分離不要による製造過程の省エ

14

合 計 133

なお、上述の各要素技術の省エネルギー量試算の根拠は末尾に参考資料として添

付した。

(5) 変化への対応

本事業は平成 14 年度に開始した。以来、環境問題や地球温暖化問題を背景とし

た化学プロセスの低環境負荷型へのシフトや温暖化効果ガスの排出削減、そしてそ

れを達成する有効手段としての化学プロセスのグリーン化、省エネルギー化への要

求は年々強まっている。かかる状況下、本事業の基本計画・実施計画・目標・運営

体制などは基本的に開始当初から大きく変更していない。

一方、現在は回復したものの長期的に低迷した経済再生の起爆剤として、新規技

術研究開発への期待が大いに高まった。例えば、平成 14 年度に経済産業省が発足

させた「フォーカス 21」では、研究開発成果が実用化へと至るリードタイムを短縮

させるべく様々な制度設計が組み込まれた。かかる状況下、本事業も当初目的であ

る「省エネルギー、有害化学物質削減に貢献する大型プロジェクトの先導」を見失

わない範囲で、早期実用化に目指して柔軟な執行を心がけた。各要素技術の具体例

は、以下のとおりである。

1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

①高選択性酸化触媒の研究開発

アジピン酸合成技術については 100g スケールで当初目標値を達成した。一方、

産業界では硝酸酸化法で副生する亜酸化窒素除去技術の導入傾向が認められたた

め、過酸化水素酸化法の実用化には時期尚早と判断して、1kg 規模へのスケールア

ップ検討を中断し、選択性・過酸化水素効率の向上を主たる検討対象へと転換した。

この結果、選択性向上のためのキーテクノロジーで大きなブレークスルーを達成し、

表 4、表 5 に示すような波及効果が得られた。

③新規材料を用いた分離・濃縮技術の研究開発

カーボン膜は空気分離用を目指して開発を行ってきたが、大規模酸素製造プラン

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41

トへの膜分離技術の導入には時期尚早と判断し、酸素分離に限らず、幅広くカーボ

ン膜の応用技術を検討した。その結果、高い除湿性能を持つことを見出し、ガソリ

ンベーパー脱水用途への応用(表 4)に発展した。

2)革新的化学プロセス技術開発

膜型反応器はフェノール類の水酸基化を中心として、効率的化学反応への応用を

検討したが、化学品製造プラントの更新が国内では進みにくい状況から、本研究開

発の実用化には長期を要すると判断し、Pd 膜材料、膜シール材料の研究開発にも併

せて注力した。その結果、Pd 膜材料、膜シール材料技術ともに当初の想定を上回る

成果が得られ、表 4、表 5 に記述した波及効果が得られた。

3)高効率冷媒合成・利用技術

当初計画のとおり、冷媒の総合評価を実施し、優れた冷媒として 3 化合物を選定

した。このうち、特に本研究開発で新たに見出した環状化合物については、これま

でにほとんど検討例がないことから、合成法も含めて他化合物にも増して、幅広く

検討を進めたところ、冷媒以外の用途にも優れた性能を有することを見出した。こ

の結果、表 4 及び NEDO 産業技術助成制度での新シーズへと発展した。

4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

超臨界水-マイクロリアクターシステムに関しては、当初計画の省エネルギー効

果を達成した。一方、産業界からは生産効率の向上、より過酷な反応条件下での使

用が求められていることから、ナンバリングアップによる大量合成法(10~15 kg/h)、

装置材料の探索・改造(高耐食性のインコネル、ハステロイ)、更には高圧マイク

ロ熱交換器の開発を検討し、高精度の温度制御(±0.5℃)や急速加熱(400℃/数

msec)を可能とした。その結果、さらなる省エネルギー効果が認められるとともに、

表 4、表 5 に記述した波及効果が得られた。

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(参考資料)

省エネルギー量試算根拠

1)省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

①高選択性酸化触媒の研究開発

○PO 合成技術(プロピレンオキサイド製造技術)

本技術開発における代表的かつ生産量の多いプロピレンオキサイド(国内生産 35

万トン)についての省エネ効果を計算する。現行の生産法は、クロロヒドリン法、

過酸化物法(PO/SM 併産法等)により、そのシェアは以下のとおり。

会社名 生産量 シェア 製造プロセス

日本オキシラン 17 万トン (49%) PO/SM 併産法

旭硝子 10.5 万トン (30%) クロロヒドリン法

トクヤマ 7.5 万トン (21%) クロロヒドリン法

(現行プロセス):電気分解による塩素を使用するクロロヒドリン法

プロピレンオキサイド 1 トン当たり塩素 1.2 トンが必要。原油に換算すると 0.98

kL(石油化学プロセスハンドブック及び類似反応からの推算)

(開発プロセス):一段階・直接酸化によるプロピレンオキシド合成プロセス

開発プロセスでは塩素を用いず、塩化物の副生成がないため、 終の精製工程等

に係わるエネルギー消費は現行プロセスよりも小さいが、比較のためにここでは精

製工程等は同一条件と仮定する。したがって、開発プロセスの省エネルギー量は

0.98 kL/トン-プロピレンオキサイド。

現行プロセスのうち環境負荷が高く旧式プラントである塩素を用いるクロロヒ

ドリン法に対して、気相一段合成反応で効率の高い本開発プロセスが約 50%置き換

わるとして、省エネルギー量を計算する。大型化学設備の減価償却に係わる耐用年

数は 10~12 年であり、償却後にも同程度の期間の使用が見込まれる。このため、

現行設備の置き換えについて、2010 年ではプロピレンオキサイド合成への導入率は

0%、2030 年に導入可能設備が旧式のクロロヒドリン法にほぼ置き換わるとすると

導入率は 50%。以上より省エネルギー量は、

2010 年 35 万トン/年 x 0.98 kL/年 x 0% = 0 万 kL/年

2030 年 35 万トン/年 x 0.98 kL/年 x 50% = 17 万 kL/年

○アジピン酸合成技術(ファインケミカルズ製造技術)

現行で塩化物等を用いる他のファインケミカルズでは個々の省エネ効果はさら

に大きいものの、平均生産量がプロピレンオキサイドに比べて 2 桁程度小さい。一

方、これらの生産プラントは規模が小さく、プラント設備の更新に大規模な資金を

必要とするプロピレンオキサイドより容易である。2010 年ではプロピレンオキサイ

ドの合成には導入されないが、年間の生産量が 1000~10 万トン程度の比較的生産

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43

規模の大きなファインケミカルズ 5 種程度の合成に本技術が先行して導入され、そ

の生産量は平均 3,500 トン(プロピレンオキサイドの 100 分の1規模)とした。

(現行プロセス):

必要な原油量は、上述のプロピレンオキサイドの場合と同程度であると推定され、

0.98 kL/トンである。

(開発プロセス):

省エネルギー量は、上述のプロピレンオキサイドの場合と同程度であると推定さ

れ、0.98 kL/トンである。

塩化物を使用せず他は同一条件として、2010 年ではファインケミカルズの5種の

合成に、2030 年にはファインケミカルズ 100 種の合成に本技術が導入されるとする

と、省エネルギー量は、

2010 年 3500 トン x 5 x 0.98 kL/トン = 1.7 万 kL/年

2030 年 3500 トン x 100 x 0.98 kL/トン = 34 万 kL/年

②ホスゲン代替としての二酸化炭素利用技術

二酸化炭素は炭酸ジメチル等に変換することによりホスゲン代替として使用可

能。ホスゲンの用途はポリカーボネート合成、ポリウレタン合成等多岐にわたるが、

ここでは主にポリカーボネート合成への応用を想定して記述する。ポリカーボネー

トの国内メーカーは三菱化学エンジニアリングプラスチック、帝人、出光石油化学、

住化ダウ、日本GEポリマー等であり約 40 万トン/年の生産能力を有し、9 割以上

(約 36 万トン)が塩素を原料とするホスゲン法(出典:化学工業統計年報、経済

産業調査会, 2001;

http://kaznak.web.infoseek.co.jp/japan/pc.htm)。

(現行プロセス):

塩化メチレン溶媒中でホスゲンを原料とするポリカーボネート合成プロセス塩

化メチレン及び水を反応溶媒として気体であるホスゲンを反応させる。反応後、蒸

留による塩化メチレン分離及び水相からの塩化メチレン除去のために(注:廃水中

の塩化メチレン排出基準は 0.2ppm)、ポリカーボネート1万トン当たり 0.261 万

kL の原油が必要(出典:化学便覧)。

(開発プロセス):

炭酸エステルを無溶媒で反応させるポリカーボネート合成プロセス

開発プロセスは、CO2 から得られる炭酸エステルを無溶媒で反応させるため塩化

メチレンの分離・除去工程が不要。一方、ポリカーボネート 1 万トン当たり、CO2

とメタノールからの炭酸エステル合成に原油 0.122 万 kL が必要(出典:IHI 技術

評価資料, 2004)。比較のために他の条件はホスゲン法と同一とすると、ポリカー

ボネート 1 万トン当たり原油 0.261 - 0.122 = 0.139 万 kL の省エネルギーとなる。

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ポリカーボネート樹脂の世界需要は 1999 年ベースで約 150 万トンと 5 大汎用エ

ンプラの中でも飛び抜けている。また、ポリカーボネート市場は 1997~2001 年の 5

年間で年平均 6%という高い成長率を示している(出典:化学工業統計年報, 2001)。

特に光学用途は世界的に 25%程度伸長している (出典:日刊ケミカルニュース

2000/1/17)。このように市場の伸びが大きいため、置き換えだけでなく、新設のプ

ラントが必要であり、新技術が導入される可能性が高い。さらに、世界で消費され

ているホスゲンの量(約 800 万トン)は日本国内でポリカーボネート製造に用いら

れる量の約 50 倍にものぼり(出典:Chemtech 誌、アメリカ化学会, 1997)、長期

的に二酸化炭素法で置き換えられれば大きな波及効果が期待できる。2010 年では、

開発プロセスによる新プラント 1 基(5 万トン規模)が稼働し、2030 年には市場の

規模が現在の 2 倍に拡大(年率 3.5%の伸び)。また、既設プラントは老朽化のた

め 2030 年までにすべて設備更新され、新設及び設備更新のうちの 50%に開発プロセ

スが採用されるとすると、省エネルギー量は、

2010 年 (0.261 万 kL/万トン - 0.122 万 kL/万トン) x (5 万トン/年) = 0.7

万 kL/年

2030 年 (0.261 万 kL/万トン - 0.122 万 kL/万トン) x (36 万トン/年) = 5 万

kL/年

③新規材料を用いた分離・濃縮技術の研究開発

○水素分離、酸素分離(ガス製造技術)

本開発技術の直接的な応用はガス-ガス分離であり、代表的な例としては水素製

造プロセスや空気からの酸素製造・窒素製造プロセスでの分離・濃縮工程への適用

となる。これらの代表的なガス製造について省エネ効果を計算する。統計上の年間

生産量は 220 億 Nm3(水素:1.3、酸素:107、窒素:105、アルゴン 2、炭酸ガス 4.1)

であるが(2002 年度:14504 の化学商品、化学工業日報社(2004)より)、自家消

費の多い水素については 100 倍以上の 163 億 Nm3が生産されていると推定されてい

る(2000~2050 年の日本の水素需要量推定値から)。そこで、220 - 1.3 + 163 = 381.7

億 Nm3に、他種ガスの分も含めて 400 億 Nm3のガスの製造に本技術を適用する。

(現行プロセス):

深冷分離法での酸素分離の分離エネルギー原単位 0.35 kWh/Nm3(高純度化技術

体系第 3 巻高純度物質製造プロセス、フジテクノシステム(1997)から)を代表値

とし、原油換算係数 0.254 kL/MWh を用いて計算すると、必要な原油量は、

400 億 Nm3/年 x 0.35 kWh/Nm3 x 0.254 kL/MWh ÷ 1000 = 356 万 kL/年

(開発プロセス):

本開発技術での分離エネルギー原単位はプロセスシミュレーションの結果から

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45

0.28 kWh/Nm3となるので、必要な原油量は、

400 億 Nm3/年 x 0.28 kWh/Nm3 x 0.254 kL/MWh ÷ 1000 = 284 万 kL/年

ガス製造設備の減価償却に係わる耐用年数は 8~12 年であり、償却後にも同程度の期

間の使用が見込まれる。そこで 25 年で全設備の更新が完了すると考えると、2010 年で

20%、2030 年で 100%の設備が更新対象になる。また、本開発技術は中・小規模製造設

備から適用されると予想されるので、更新時の導入率を 25%とする。

以上より省エネルギー量は、

2010 年 (356 万 kL/年 – 284 万 kL/年) x 20 % x 25 % = 3.6 万

kL/年

2030 年 (356 万 kL/年 – 284 万 kL/年) x 100 % x 25 % = 18 万 kL/年

○吸着剤(空調機技術)

本開発技術による吸着材を空調機に応用した場合の省エネ効果を計算する。

(現行プロセス):

家庭用デシカント式空調では、ゼオライト等の既存材料を用いており、水分脱着

には約 600W のヒーター電力を必要としている(デシカントとは、米国エンゲルハ

ード社により開発されたゼオライト系の吸着剤の名称。省エネ効果及び快適性が高

く、将来のエアコンの主力になるとされている)。冷暖房合わせて年間平均 1 日 5

時間使用とすると、ヒーター電力に消費されている 1 台当たりのエネルギー量は、

600 W x 5 時間 x 365 日 = 1 MWh

(開発プロセス):

本開発技術による新規吸着材では、水分脱着に必要な熱量を大気中に捨てられて

いるエアコン室外機の暖風熱でまかなうことが可能になり、上述のヒーター電力が

不要となる。

新規材吸着材の採用を共同研究中である三菱電機の現状市場シェア 15%が将来

も変わらず、三菱電機はデシカント空調に産総研開発の当該材料を採用すると仮定。

また、2003 冷凍年度(2002 年 10 月~2003 年 9 月)家庭用エアコンの出荷量約 680

万台(日本冷凍空調工業会)をベースとして、今後の家庭用デシカント式空調の普

及を 2010 年度 10%(68 万台)、2030 年度 40%(270 万台)とする。なお、この普

及率は家庭用空調機の更新インターバルを 5 年として、5 年で 10%が入れ替わると

した。原油換算係数 0.254 kL/MWh を用いると、以上より省エネルギー量は

2010 年 68 万台/年 x 15% x 1 MWh/台 x 0.254 kL/MWh = 2.6 万 kL/年

2030 年 270 万台/年 x 15% x 1 MWh/台 x 0.254 kL/MWh = 10 万 kL/年

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46

④省エネ型光漂白技術の研究開発

○綿布等漂白技術

本技術開発における繊維工業分野で も生産量の多い綿布(国内生産量 2.82 x

109 m2、2002 年度)について省エネ効果を計算する。

(現行プロセス):塩素系薬剤等を用いる長時間高温プロセス

生産される綿布の 80%が漂白にかけられ(日本染色協会資料)、綿布 1 m2 当た

り原油 0.038 L が必要(日本染色協会資料)。したがって、必要な原油量は、

(0.038 x 10-3 kL/m2) x (2.82 x 109 m2 ) x 0.8 = 8.6 万 kL/年

(開発プロセス):

ハロゲンフリー漂白剤とブラックライト光照射による室温プロセス

生産される綿布の 80%が漂白にかけられ(日本染色協会資料)、綿布 1 m2 当た

り原油 8.65 x 10-7 kL(8 kcal/m2の実験データより算出)が必要。ブラックライ

トの電気-光変換効率は 18%(ブラックライト生産企業のデータ)。実験室レベル

から生産レベルへの移行に伴う効率低下係数を 0.45 と見積もると、必要な原油量

は、

(8.65 x 10-7 kL/m2)÷0.18 x (2.82 x 109 m2 ) x 0.8÷0.45 = 2.4 万 kL/年

現行、漂白装置の耐用年数は 10~15 年だが、漂白剤として過酸化水素使用の場

合及び塩素系漂白剤使用の場合は 10 年未満(日本染色協会による)であるため、

2010 年までには約 50%の装置が耐用年数を迎え、2030 年までにはすべての装置が

耐用年数を迎える。2002 年度の漂白等を行っている綿加工主体の染色企業黒字率が

約 50%であるので(日本染色協会業態調査)、導入率は 2010 年までに黒字企業の

半数に導入されると 25%、2030 年までに黒字企業すべてに導入されると 50%とな

る。以上により省エネルギー量は、

2010 年 (8.6 万 kL/年 – 2.4 万 kL/年) x 25% = 1.5 万 kL/年

2030 年 (8.6 万 kL/年 – 2.4 万 kL/年) x 50% = 3 万 kL/年

○パルプ漂白技術

本技術開発における製紙工業分野におけるパルプの漂白(国内生産 827 万トン、

2000 年度)について省エネ効果を計算する。

(現行プロセス):塩素を含む薬剤を用いる長時間高温プロセス

パルプ 1トン当たり原油 0.1595 kL 必要(電力:175kWh、蒸気:1.25 トン、日本製

紙連合会による)。したがって、必要な原油量は、

0.1595 kL/トン x 8270000 トン = 132 万 kL/年

(開発プロセス):ハロゲンフリー漂白剤と光照射による室温プロセス

綿布の実験室レベルの実験と同等の漂白効率が得られるとすると、実験データよ

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47

りエネルギー削減係数は 0.12。実験室レベルから生産レベルへの移行に伴う効率低

下係数を 0.5 と見積もると必要な原油量は、

132 万 kL/年 x 0.12÷0.5 = 32 万 kL/年

漂白塔の法定耐用年数は 10 年(日本製紙連合会による)であり、漂白塔が 15 年

ごとにリプレースされるとすると 2010 年は 0%、2030 年は 100%のリプレース率と

なる。現在の国内大手製紙会社は 5 社で製紙工場は約 90 あり、その生産量は上位 2

社がそれぞれ 1/3、下位 3~5 社の合計が 1/3 である。2030 年までにリプレースさ

れる漂白塔の内、上位 2 社が各 3 工場、下位 3 社がそれぞれ 1 工場に本技術を導入

すると導入率は 10%となる。以上により省エネルギー量は、

2010 年 (132 万 kL/年 – 32 万 kL/年) x 0% = 0 万 kL/年

2030 年 (132 万 kL/年 – 32 万 kL/年) x 10% = 10 万 kL/年

2)革新的化学プロセス技術開発

①膜型反応器の開発

○一段階水酸基導入(フェノール製造技術)

本技術開発における代表的かつ も生産量の多いフェノールについて省エネ効

果を計算する。国内メーカー別の生産量及び製造プロセスは、以下に示すとおりと

なる。(国内生産 84 万トン、2005 年)生産量としてこの値をもとに算出する。

会社名 生産量 シェア 製造プロセス

三井化学 39 万トン (46%) クメン法

三菱化学 25 万トン (30%) クメン法

千葉フェノール 20 万トン (24%) クメン法 (三井・出光合弁)

(現行プロセス):クメン法と呼ばれる3段階合成プロセス

フェノール 1 トン当たり、原油 0.479 kL が必要(石油化学プロセスハンドブッ

クから推算)。以上により必要な原油量は、

84 万トン/年 x 0.479 kL/トン = 40 万 kL/年

(開発プロセス):一段階・直接酸化によるフェノール合成プロセス

開発プロセスでは副生成物が少ないために、 終の精製工程等に係るエネルギー

消費は現行プロセスよりも小さいが、比較のためにここでは精製工程等は同一条件

とする。開発プロセスは 1 段階・常圧で反応が完了することから中間での分離・精

製が不要であり、必要な分離工程は原料ベンゼンとの蒸留分離のみと考えられる。

フェノール収率を 10%(開発目標値)とし、蒸留・分離プロセスに必要なエネルギ

ーを計算すると、原油 0.3 kL/トン-フェノールと推定される。以上により必要な

原油量は、

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48

84 万トン/年 x 0.3 kL/トン = 25 万kL/年

次に、現行プロセスに対する本開発プロセスの 終的な導入可能率を約 39%と試

算した。この数値を用いて省エネルギー量を計算する。導入の速度については、大

型化学設備の減価償却に係わる耐用年数は 10~12 年であること、償却後にも同程

度の期間の使用が見込まれることから、現行設備の更新インターバルを 15~20 年

程度とし、2010 年ではフェノール合成への導入率は 0%、2030 年に導入可能設備が

ほぼ置き換わったとする。以上により省エネルギー量は、

2010 年 (40 万 kL/年 - 25 万 kL/年) x 0% = 0 万 kL/年

2030 年 (40 万 kL/年 – 25 万 kL/年) x 39% = 6 万 kL/年

○Pd 及び Pd 合金膜(ファインケミカルズ製造技術)

ファインケミカルズ分野では製品が極めて多種にわたり、個々の製品の製造プロセス

に関する省エネルギー量を直接算出することは困難である。本製造技術は、一般的なフ

ァインケミカルズ製品のうちで、水酸基のついた芳香環を構造に持つ化合物群全体の製

造に適用可能な汎用技術である。このため、この構造を持ち一般的にファインケミカル

ズといえる、年間生産量が 1 万トン以下の製品 48 種類のリストを作成(化学工業日報

「14102 の化学商品」による。生産量は同書及び「12595 の化学商品」、NEDO 資料

(http://www.nedo.go.jp/iinkai/hyouka/bunkakai/14h/18_19/2/2-3.pdf)による。)

し、これら全体での省エネルギー量を試算した。その総生産量は、おおよそ 6.8 万ト

ン/年であり、これらの製品への水酸基導入反応のほぼすべてのケースに本開発技術が

適用可能と考える。

(現行プロセス):

水酸基化プロセスに必要な原油量は、上述のフェノールの場合と同程度であり

0.479 kL/トンである。

(開発プロセス):

必要な原油量は、上述のフェノールの場合と同程度であるため、0.3 kL/トンで

ある。

有機化学品製造装置の減価償却は法定で 8~12 年であり、平均してこの 2 倍の装

置寿命が想定される。このため、15 年程度の更新インターバルで本開発技術に転換

されるため、2010 年には 48 種類 x 1/2 x 5/15 = 8 種類、2030 年にはほぼすべて

の 48 種類の製品生産製造設備に導入されると考えられる。以上により省エネルギ

ー量は、

2010 年 6.8 万トン/年 x (8 種/48 種) x (0.479 kL/トン – 0.3 kL

/トン) = 0.2 万 kL/年

2030 年 6.8 万トン/年 x (48 種/48 種) x (0.479 kL/トン – 0.3 kL

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/トン) = 1 万 kL/年

○シール材(KA オイル製造技術)

ナイロン 66 やナイロン 6 の合成原料として使われる KA オイルは、国内生産量が約

58 万トン程度(化学工業日報「14102 の化学商品」及び石油学会編「石油化学プロセス」、

プラスチック生産統計、触媒誌 p 574(2003)から推計。アジピン酸向け:約 12 万トン、

ε-カプロラクタム向け:約 46 万トン)であるが、ほぼ全量が自家消費である。また、

主なメーカーは宇部興産、旭化成、住友化学、三菱化学、本州化学、東亞合成等である。

(現行プロセス):

フェノール生産プロセスにおけるエネルギー消費の比較であり、 0.479 kL/ト

ンである。

(開発プロセス):

必要な原油量は、上記のフェノールの場合と同様に 0.3 kL/トンである。

KA オイルの製造では、a)シクロヘキサン酸化プロセス、b)シクロヘキセン水和プロ

セス、c)フェノールの水素化プロセスの 3製造法が確立されている。これらはプロセス

中の自家消費であり、フェノールを経由する場合でも前々項で記載したフェノール生産

量には含まれていない。これらのKAオイル製造メーカー上位3社で推定生産量が約70%、

残り 30%を下位 4 社が占めている。第 2 位の旭化成はシクロヘキセンを原料とするプ

ロセスを独自に開発しており、製造プロセスの変更は困難。他の 6社は、シクロヘキサ

ン酸化プロセス及びフェノールの水素化プロセスであるが、前者はスケールメッリトが

特に著しいプロセスであり、中~小規模の設備を持つ下位メーカーは製法転換の可能性

がある。このため、製造スケールの比較的小さな下位 4 社のシェア合計である約 30%

分については、フェノールの利用プロセスへの転換が可能な部分、又は現在すでにフェ

ノールを原料とする部分であり、必要なフェノールはクメン法によって生産されている。

これらのフェノール生産量については現行クメン法からの新製造法への転換が可能で、

2010 年の導入率は 0%、2030 年に導入可能設備がほぼ置き換わったとすると、省エネ

ルギー量は、

2010 年 58 万トン/年 x 0% x (0.479 kL/トン – 0.3 kL/トン) = 0

kL/年

2030 年 58 万トン/年 x 30% x (0.479 kL/トン – 0.3 kL) = 3 万

kL/年

3)高効率冷媒合成・利用技術

本開発技術により冷媒特性のよい代替物が開発されれば、HFC-134a ではなくこの

新規冷媒を用いた冷凍機が導入される。冷媒の特性を表す指標として COP値があり、

装置自体の効率が同じであれば、この値は使用するエネルギーに対する冷凍能力の

比を表す。つまり、装置自体の効率が同じであれば、COP 値が高い冷媒を使うほど

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冷凍機のエネルギー効率が向上する。本開発により、HCFC-123 に近い性能をもつ冷

媒の開発が見込まれ、その COP 値は 4.88 である。一方、HFC-134a の COP 値は 4.28

である。したがって、同じ冷凍能力を得るために必要なエネルギーは、HFC-134a 冷

媒の冷凍機を 1 とすれば、開発した冷媒の冷凍機は 4.28/4.88 でよい。これによ

り、開発した冷媒を用いた冷凍機 1 台当たりのエネルギー消費量は、

274 kL/台・年 x 4.28/4.88 = 240 kL/台・年

HCFC-123 は、モントリオール議定書により先進国では 2010 年に製造の制限が進

むと考えられている。さらに、2020 年には補充用以外は生産が中止され、2030 年

には補充用も含めて廃止される。このスケジュールから、2010 年には HCFC-123 代

替冷媒の導入が始まり約 10%、2020 年から HCFC-123 が使用できなくなることを考

えると冷凍機の寿命は約 20 年であるため、10 年後の 2030 年には 50%の置き換え

が進むと見込まれる。以上により省エネルギー量は、

2010 年 (274 kL/台・年 - 240 kL/台・年) x 7000 台 x 10% = 2.4 万 kL/年

2030 年 (274 kL/台・年 - 240 kL/台・年) x 7000 台 x 50% = 12 万 kL/年

4)超臨界流体利用環境負荷低減技術

超臨界二酸化炭素中での水素化反応として、シトラールからのゲラニオール合成

のデータに基づき、モノテルペン類合成の省エネ効果を計算する。

(現行プロセス):シトラールの水素化によりゲラニオールを合成する一段階プロ

セス(溶媒:エタノール、触媒:Pt/ZnO)

加温・溶媒除去・精製分離を含めてゲラニオール 1 トン当たり、原油 3.0 kL が

必要(構造式からの推定比熱、反応温度、精製温度から計算)。

(開発プロセス):シトラールの水素化によるゲラニオール合成(溶媒:超臨界二

酸化炭素、触媒:膜型 Pt/MCM41)

開発プロセスでは、収率 99%, 転化率 100%と副生成物は全く生成せず、溶媒除去

は圧力除去だけであるためエネルギーをほとんど必要としない。したがって、溶媒

除去、精製分離に必要な原油はゼロであり、加温に原油 0.2kL が必要。

ゲラニオール 1 トン当たり 3.0 - 0.2 = 2.8 kL の省エネとなるが、開発プロセ

スは汎用性があるため、ゲラニオール以外のモノテルペンにも適用可能であり、こ

の値を用いてテルペン類合成の省エネ効果を試算する。テルペン類の市場は 2010

年では市場規模 6.3 万トン、2030 年には 10 万トンと推定される(Freedonia Press

Release 2004)。また、現行プロセスに対する本開発プロセスの普及率は、国内で

の置き換え及び生産量の拡大が進展すれば 2010 年に 10%と推定される。現行設備の

更新インターバルは 15~20 年程度であり、国内での優位性が認められれば 2030 年

の国内生産は世界シェアの 大 50%には拡大すると推定される。以上により省エネ

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ルギー量は、

2010 年 6.3 万トン/年 x 2.8 kL/年 x 10% = 1.8 万 kL/年

2030 年 10 万トン/年 x 2.8 kL/年 x 50% = 14 万 kL/年

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第3章 評価

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第3章 評価

1.事業の目的・政策的位置付けの妥当性

化学プロセスにおける省エネルギー、環境負荷低減は今後の政策として極めて

重要である。対象とした課題は、民間の企業では手が出しにくいが、出来たら素

晴らしいという、魅力的ではあるがリスクの高いものであり、国のプロジェクト

として妥当である。

なお、実用化を視野に入れながら推進するためには、民間企業との協力が重要

である。

【肯定的意見】

○国のプロジェクトとして妥当である。

○国の主導するプロジェクトとして妥当である。

国が主導すべき内容とは、国際規制の動向を先取りすることであり、我が国

の規制政策の先取りプロジェクトである。その意味で位置付けは妥当である

○地球温暖化防止等に係る国の政策、省エネルギーに対する社会ニーズに合致

している。

この分野は一企業では資源、リスクの点で取組が難しいが、一方、成果のイ

ンパクトは極めて大きく、国の事業として適切である。

成果の実用化努力も多々なされており、経済的意義が大きい。

○化学プロセスにおける省エネルギー、環境負荷低減は今後の政策として極め

て重要である。

○概ね高い成果をあげており、NEDOプロジェクトへの進展など、先導研究とし

ての成果は高く評価される。目標設定時の考察や研究開発途中段階での重点

配分修正など、マネジメントも適切であった。

○民間の企業では手が出しにくいが、出来たら素晴らしいという、魅力的では

あるがリスクの高いテーマに取り組んだ意欲と先見性は評価できる。そのテ

ーマそのものまたはその応用テーマが実用性を持ち得ることは確かである。

○省エネルギーの推進は喫緊の課題であり、ニーズは高いが実用化するための

ハードルは高く、国の研究費で開発を行うことは妥当と考えられる。

【問題点・改善すべき点】

●このような技術開発は、常に実用化を視野に入れながら推進されるべきもの

であるが、民間企業が参加せずに進められている。産業技術総合研究所のプ

ロジェクトということでやむをえないのかもしれないが、開発効率がよいと

はいえない。

●民間が出来ない大きな理由は「コスト」である。その意味で5年間で20億円

とは余りにも少ないのではないか?

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ちなみに、類似プロジェクトの世界の民間会社の研究開発費と比較すること

も世論への説得になると思う。

●設備の新設や大きな改造など設備費負担が大きいと考えられるテーマ(例え

ば、フェノールの一段合成)の目標設定に際しては、イニシァルコストの目

標、もしくはそれも考慮した設定が望ましい。

●小項目の相互関連性がやや低く相乗効果が期待しにくい点が見受けられる。

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2.研究開発等の目標の妥当性

目標設定に際しての考察と設定値は妥当であり、明確な数値目標を設定して到達

イメージを明確にしたことは評価できる。一方で、実用化に向けたものとなるよう

目標設定に際しては内部評価だけでなく(秘密保持協定を結んだ上で)業界団体や

関連のトップ企業、ユーザー企業の意見なども取り込んで、より広い視野から考察

されることが望まれる。

【肯定的意見】

○詳細な目標が設定されており、よく検討された目標である。 ○設定目標に対する説明は詳細であり、妥当である。

○概ね具体的に目標設定、評価指標設定がなされている。

○具体的かつ明確に目標及び達成技術が設定されている。

○目標設定に際しての考察と設定値は妥当であり、明確な数値目標を設定して

到達イメージを明確にしたことは評価される。

○世界の 高レベルを追い越そうとの意欲的な目標設定がなされていた。

○個別目標値の設定は概ね妥当であったと評価できる。

【問題点・改善すべき点】

●5年の期間があるのであれば、実用化に向けての実証研究が設定されている

べきである。

●「NEDOプロジェクト化」「事業化研究」のみでは、本来の成果とはいえない

。その後プロジェクトや事業化研究が「縮小」「中止」になっていないか追

跡評価が必要である。

目標設定の基準は「世界のトップレベル」に対してであろう。「一律10%」

にしたのではないかと思われない数値上の工夫が必要である。

●当初目標のレベルは、従来からみて、あるいは世界的にみてどうなのかとい

った見方(記述)があれば分かりやすいように思われる。(追加資料で頂い

たような)。

●目標は目指すゴールの表現にした方がよいように思われる。(単なる技術名

では分かりにくい)

●研究テーマ具現化の姿に応じて目標をきめ細かく吟味することが望ましい。

また、目標設定は内部評価だけでなく(秘密保持協定を結んだ上で)業界団

体や関連のトップ企業、ユーザー企業の意見なども取り込んで、より広い視

野から考察されることが望ましい。

●ベンチマークとの比較では明確な設定がなされていたが、実用レベルの可否

判断が直接できるような指標、目標が必ずしも設定されていないテーマがあ

った。

●実用化に移行するには反応過程の簡素化、装置コスト並びにランニングコス

トの低減、副産物処理などのファクターもあり、これらも可能な範囲で見え

る形で目標設定されるとさらに良かったと思われる。

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3.成果、目標の達成度の妥当性

発表論文数、特許出願件数ともに充分であり、大きな成果を得たと言える。また、

目標はほとんどの項目が「達成」されており、妥当と言える。実用化に向けては、

今後、要素技術開発のみならずプロセス技術開発が期待される。

【肯定的意見】

○多くの目標が「達成」されており、妥当である。

○目標はほとんどの項目が「達成」されており、妥当と言える。

○多岐にわたる成果が得られており、達成度は良好である。

実用化研究への移行、特許出願、論文発表も十分に行われている。

○学術的論文、特許も出ており、目標も達成されている。

○実現時期を考察して重点を移すなど適切な研究開発マネジメントが実施さ

れ、これが後続のNEDOプロジェクトに展開されたことを高く評価する。

また、フェノールの一段合成は夢のプロセスに向けて突破口を拓いたと高く

評価する。今後設備費や固定費を含めて現行の50%以下に改善されることを

期待する。

○・全体的には目標以上の成果が得られた。この成果を引き継いだテーマの数,波

及テーマの数の多さもそれを裏書している。

・発表論文数、特許出願件数ともに充分である。論文の引用回数が多い事は

本研究が注目され成果が大きかった事を裏書している。

○当初設定した目標値を概ね達成した点は評価できる。また論文発表及び特許

の申請件数も評価できる。

【問題点・改善すべき点】

●分離膜は膜性能だけで技術開発成果が評価されがちであるが、実用化におい

ては大面積製膜技術やモジュール化技術等も極めて重要である。この点につ

いての検討が不足している。

要素技術開発成果のみが前面に出てきているが、プロセス技術開発ではプロ

セスシステムの設計、 適化技術の確立も不可欠である。この点が弱い。

●「目標未達」と記述することに大きな抵抗があることは理解するが、「一部

達成」ではなく全ての項目に対し、達成率を表現するのは難しいだろうか?

10%削減目標に対し、20%削減であれば200%達成でよい。

80%以上であれば「達成」でよい(目標が甘かったなどとは言わせないよう

にするのが事前評価、中間評価の本来の努めである)。

●1テーマに10人以上が係る体制は企業研究で言えば応用開発段階(ベンチ規

模~パイロット規模)であり、より大きなスケールでの実証まで至ったので

はないかと思われる。

●実用化にさらに長期間の研究が必要な場合が多く、その期間を短縮するため

の方法に関する見通しの説明が少し欠けているように思われる。

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4.事業化、波及効果についての妥当性

成果については、事業化に向けた 9 件の「NEDO 等プロジェクト」、37 件の民間

企業との資金付き共同研究としての実用化研究へと発展しており、事業化の見通し

は立っていると言える。また、波及効果も大きいと考えられる。

なお、事業化へのシナリオについて、具体的な検討と詳細な分析をすることが重

要である。

【肯定的意見】

○事業化の一歩手前として9件の「NEDO等プロジェクト」や、37件の民間企業

との資金付き共同研究としての実用化研究へと発展しており、事業化の見通

しは立っている。

○企業からの問い合わせも多く、特許など具体的な成果もあり事業化、波及効

果については妥当と認められる。

○既に事業化が近い技術もあり、全般的に事業化に対する見通しの検討がなさ

れている。

基盤技術であるので、波及効果は単なる省エネルギーだけでなく、環境負荷

低減のための種々の技術への展開が期待できる。

○事業化への課題、達成技術と既存技術との比較もされている。また、成果の

波及として9件のNEDOプロジェクト及び約40件の実用化研究へと発展してい

る。さらにガスバリア膜は、平成19年度中に市販品が生産される予定である

○要素技術の横展開を含めて、事業化に向けてのシナリオは妥当である。

○企業が実際に実用化に興味を示すような成果が得られており、波及効果の点

でもその影響力は大であった。

○当初目標が概ね達成されており、事業化の可能性が示されている。また波及

効果も期待できる。

【問題点・改善すべき点】

●事業化への道筋を非公開でよいのでもっと具体的に示して欲しかった。これ

だけの成果が上がっているのであれば、早急に事業化を進めるべきである。

●自画自賛ととられぬよう、事業化については可能な限り企業名など具体的報

告が欲しい。

事業化については事業規模も重要である。(操業度、シェアなど)

追跡評価を期待する。

●目標設定段階から技術開発途中段階を含め、より広い情報を不断に収集・活

用することが望まれる。

●実用化評価のためにはもう一段の検討が必要なテーマもあり、その検討終了

後にも実用性が見込めるテーマがいくつあるかにはやや疑問がある。それだ

け難しいテーマにチャレンジしているのであるから、目標値もより高い設定

が必要だったのではないか。

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●事業化までの期間を短縮する具体的方法と見通しをもっと詳しく分析すると

、さらに本研究で得られた成果の波及を促進できると思われる。

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5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等の妥当性

研究に投入した要員数・費用に照らして、得られた成果は高い。合金膜型反応器、

水素選択分離膜、アスベスト代替シール材など当初想定していなかった領域に展開

するなど、成果の実現に向けてのマネジメント努力は高く評価できる。

一方、産業技術総合研究所の特徴の一つは総合力にあるので、より広い分野との

連携、共同作業が積極的に行なわれれば、更なる成果が期待できるテーマもあった

ように思われる。

【肯定的意見】

○適正な予算配分がなされており妥当と認められる。

○技術の先進性、先導性、陣容からみて、産業総合技術研究所で実施されたの

は極めて合理的であり、計画、実施体制、アプローチ、運営も的確である。

○マネジメント、体制、資金配分はバランスよく行われており適切である。

○研究に投入した要員数・費用に照らして、得られた成果は高い。合金膜型反

応器、水素選択分離膜、アスベスト代替シール材など当初想定していなかっ

た領域に展開するなど、成果の実現に向けてのマネジメント努力を高く評価

する。

○・途中プロジェクトリーダーの交代もあったが、適切な指導がスムースに継

続された。特に成果の波及応用を上手く進めており関連プロジェクトを多数

立ち上げ成功させている。

・提案されたテーマは、それぞれその分野のトップを走っている部隊からの

提案であり、妥当な人選がなされていると言える。

○研究開発計画、実施体制は的確であり、多くの論文発表などにより成果の普

及を実施しており、投入された資源量に見合った成果であると評価できる。

【問題点・改善すべき点】

●4つのテーマが単に並列に走っているだけという印象を受ける。相互の関連

が理解できない。別々に研究開発が進められているのであるなら、何故4つ

集めて1つのプロジェクトにする必要があるのか理解できない。

●プロジェクトリーダー、テーマリーダーの役割が不明である。マネジメント

に徹しているのかプレイングマネージャーなのか?

報告書への具体的記述は難しいと思うが存在感を見せて欲しい。

●各部隊は自分たちの使命を果たすために全力投球をしているようであるが、

産業技術総合研究所の特徴の一つは総合力にある。より広い分野との連携、

共同作業がもっと積極的に出来れば更に良い成果が期待できるテーマもあ

るように感じた。

●実用化への期間短縮に関しては中間評価時からの進展が多少遅いように思

われる。

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6.総合評価

政策との適合性、目標値の設定、開発途中での軌道修正などが適切に為され、概

ね高い成果が得られた。また、実用化に向けた次の段階に複数のテーマが進んでお

り、先導的な役割は十分に果たしたと評価できる。

今後は、顧客(企業、工業団体など)との情報交換を密にして、実用化・事業化

への具体的なシナリオを検討することで、早急な成果の普及が期待される。

【肯定的意見】

○社会のニーズに合致したテーマで、よい成果が多数得られている。

○5年間は、今の時代長いプロジェクトである。「変化」が認められること自体

が評価に値し、実際の変化への対応も妥当である。

○化学産業が置かれている立場及び環境問題に対する社会的ニーズからみて、

事業目的は極めて納得性があり、多岐の成果が得られている。

また、開発された技術の種々の展開も大いに期待がもてる。大型プロジェク

トとして、実施体制、期間、アプローチ法も適切と思われる。

○事業全体として妥当な成果が得られている。

○政策との適合性、目標値の設定、開発途中での軌道修正などが適切に為され

、概ね高い成果が得られた。実用化に向けた次の段階に複数テーマが進んで

おり、先導的な役割は十分に果たしたと評価する。顧客(企業、工業団体な

ど)との情報交換を密にして、実用化シナリオの実現を期待する。

○産業技術総合研究所の合成反応を中心とした部門が長年培ってきた力を一

気に開花させた感がある。総合的に大きな成果を得たプロジェクトであった

と総括できる。

○省エネルギーのニーズは極めて高く、その推進は喫緊の課題である。論文等

の発表件数も多く、初期目標を概ね達成できたことは評価に値する。

【問題点・改善すべき点】

●実用化への具体的な道筋が不明確である。記述どおりのよい成果が得られて

いるのであるなら、民間企業の参加を得て早急に実用化を進めるべきである

。そのために未だリスクが残っているようであるなら、国は積極的に資金補

助をすべきである。

●他方で、変化への対応が予算の範囲で行われるのでは効果は限定される。変

化に対応して「大幅予算追加」もあれば、「研究中止」も同時に存在する。

国(研究管理者)は変化に対応できる「リスクマネー」を用意すべきであろ

う。

●事業化の具体的道筋をさらに検討することで、早く成果が普及できるものと

期待できる。

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61

7.今後の研究開発の方向等に関する提言

技術開発成果を社会に定着させるには、顧客ニーズ(顕在化していないウォンツ)

を目標に反映させることが重要で、顧客との不断のコミュニケーションが不可欠で

ある。情報チャンネルの維持と一層の拡大に注力することを期待する。

開発技術のより多くの実用化に向け、積極的な民間企業との連携、共同開発の実

施、あるいはこのための仕組みの構築が望まれる。実用化にあたっては、経済性、

安全性等の様々な課題があり、民間企業の活用が望まれる。早期の実用化による省

エネルギーの推進が必要であり、そのための具体的方法の検討をさらに進めること

が、成果の普及にとって重要である。

【各委員の提言】

◇多くの優れた成果が得られており、高く評価できるプロジェクトである。

ただし、特に事業化については。もう一歩踏み込んだ展開を示して欲しかっ

た。「特許」があっても、「企業との共同研究」があっても、それだけでは事

業化への道筋にはならない。

ここまで国費をつぎ込んだのであるから、実用化に向けてもう一歩国費をつ

ぎ込むべきである。それだけの成果が得られている。

◇・事業化、波及効果についての評価は 終的には「有効な特許」と「企業によ

る事業化」である。

・「問い合わせ」、「事業化可能と思われる」「波及効果が期待できる」だ

けでは評価されない。このプロジェクトの終了と同時に「事業化」「波及効

果」への努力が消滅してしまう懸念がある。「成果を利用した」企業へのボー

ナスなどポストリサーチのフォローが大切である。これが「追跡評価」であ

ろうが、管理部門の重要な仕事でもある。

・このプロジェクトで、新たに「学位」を取得できたとしたらそれも成果であ

る。

・大学に「転職」、企業に「出向」「就職」すればそれも大きな成果である。

・事後評価資料のフォーマット自体が定型化して書きにくいのではないか?

評価資料作成に費やした労力がしのばれる。評価者は「専門家」であるから

公開された「研究報告書」「論文」などのブッキングと報告会用のPPT資料の

みで十分ではないか?

◇開発技術のより多くの実用化に向け、積極的な民間企業との連携、共同開発

の実施、あるいはこのための仕組みの構築が望まれる。実用化にあたっては

、経済性、安全性等の様々な課題があり、民間企業のもつノウハウが有用で

ある。

◇ここでの提案課題は極めて重要であるので、今後とも継続して国の政策とし

て支援していただきたい。

◇・技術開発成果を社会に定着させるには、顧客ニーズ(顕在化していないウ

ォンツ)を目標に反映させることが重要で、顧客との不断のコミュニケーシ

ョンが不可欠である。情報チャンネルの維持と一層の拡大に注力することを

Page 76: ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プ …...ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プロジェクト評価(事後)報告書

62

期待する。

・破壊型技術開発のケース(PO合成、フェノールの一段合成、ジメチルカー

ボネートなど)では、変動費だけでなく設備費なども考慮した目標設定が必

要である。テーマの性格に応じて、(一律にエネルギー消費だけでなく)考

慮するべき要素をきめ細かく想定することが望まれる。

・技術開発テーマには破壊型と改善型の2種類があり、これらの適切な配分が

重要である。産業技術総合研究所が破壊型テーマに挑戦したことを高く評価

する。

・実証規模として、ベンチレベル(数 Kg)からパイロットレベル(数 10Kg~

トン)で技術開発することが望ましい。この規模であれば量産化に向けたノ

ウハウ的な要素も備わって、実用化に向けた FS 評価精度、設備費想定や原価

推定精度も高めうる。結果として共同開発の機会を飛躍的に高め、更にベン

チャー独立の機会も高め得ると期待される。

◇・研究には種まきの時期と刈入れの時期がある。本プロジェクトは刈入れの

プロジェクトの色彩が強かったと考える。その点で大きな成果が顕在化した

がそのためにはその前の種まきの時期が必要であった。今後のためにも種ま

きの研究も是非継続して保持していただきたい。

・産業技術総合研究所の研究は基盤的な研究が主である。したがって、その

成果は汎用的な広がりを持つ。是非今回のよう様に成果を波及させるような

工夫、努力を期待したい。

◇繰り返しになるが早期の実用化による省エネルギーの推進が必要であり、そ

のための具体的方法の検討をさらに進めることが、成果の普及にとって重要

であると思われる。超臨界マイクロリアクターはかなり先進的な技術である

が、2007 年度の実用化が考えられている。実用レベルの処理量の装置コスト、

ランニングコストなどもさらに詳細に検討頂き、既存技術に対する競争力が

あることを示していただきたい。それ以外の技術に関しても、次に続くプロ

ジェクト研究になっているものに関しては、実用化を早めるための検討、並

びにその観点からの評価をしつつ進めていただきたい。

Page 77: ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プ …...ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発 プロジェクト評価(事後)報告書

63

(個別要素技術に関するコメント)

①省エネルギー型グリーンプロセス技術開発

【成果に対する評価】

ニーズの高いテーマであり、少数の例外を除き計画以上の成果が出ている。初期値

としては実用レベルに近いものが幾つかある。

【事業化の見通しに関する評価】

民間企業との共同研究、特許など事業化に必要な準備はできている。達成技術は、

実際の実用化に至るまでには寿命やコスト面で今後詳細な検討が必要である。

<成果に対する評価:各委員のコメント>

◇ニーズの高いテーマに対しよい成果が多数得られている。

◇企業側の成果に対する評価は短期的であるがそれだけに成果の意義は大き

い。他方で学際的な成果は評価に時間がかかる。本テーマは両面があり、提

案者の焦点の当て方が上手いと思われる。

◇目標値は達成され、基礎的にも重要な成果が得られている。

◇計画に対して概ね達成されているが、設備費負担などを考慮すると 50%以上

の省エネを目指してほしい。多くの特許出願を評価する。

◇少数の例外を除き計画以上の成果が出ている。初期値としては実用レベルに

近いものが幾つかある。

◇当初研究計画の目標値を概ね達成しており、省エネルギー技術として将来実

用化され、産業界に寄与することが期待できる成果が挙がっている。

<事業化の見通しに関する評価:各委員のコメント>

◇民間企業との共同研究、特許など事業化に必要な準備はできている。しかし

ながら、本事業の中では実用化に向けての実証研究が不足している。5 年の

プロジェクトであるので、この点も考慮すべきであった。

◇民間企業との共同研究、秘密保持契約の件数が多数紹介されている。成果の

公開方法や打診方法などプロジェクトとしての進めかたを高く評価したい。

◇PO合成技術に関しては、H2利用効率の向上、アジピン酸合成技術に関しては

、H2O2の価格低下が必要である。また、ポリカーボネート樹脂の市場は伸び

が大きく新設プラントの必要性も高く新技術の導入がされている可能性も

ある。

◇変動費(エネルギー消費)だけでなく固定費も考慮して評価することにより、

現実化の可能性を高めうると期待する。

◇達成技術は、実際の実用化に至るまでには寿命やコスト面で今後詳細な検討

が必要であるが、初期レベルとしては実用化が期待できる成果を得ているも

のが幾つかある。またそのもの自体の直近の実用化は無理なものも、波及効

果としての応用展開に可能性が見えており楽しみである。

◇研究終了から実用化までの期間が長すぎるように思われる。実用化までの期間

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を短縮できるかどうかの検討をもう少し厳密に行い、具体的方針を明確にされ

ることを期待したい。

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②革新的化学プロセス技術開発

【成果に対する評価】

従来興味を持たれながら実用レベルから遠かった技術について、実用性を考えるレ

ベルに引き上げるという非常に優れた成果が得られている。

【事業化の見通しに関する評価】

成果である代替ガスケットは既に上市(33億円/年)されているが、論文段階のも

のもある。膜型反応器は今後実用化が大いに期待される新技術であり、基礎研究は世

界の中でも我が国が大きくリードしている。今後、本プロジェクトの成果を生かして

早急に実用化を進めるべきである。

<成果に対する評価:各委員のコメント>

◇目標は全て達成されており、また、目標、成果が数値で定量的に記述されて

いるので評価がしやすい。非常に優れた成果が得られている。

◇目標は全て達成されている。また、成果が定量的であるので評価がしやすい。

◇目標値は達成され、基礎的にも重要な成果が得られている。

◇PO の酸素酸化一段合成、フェノールの一段合成は大変魅力あるテーマであり、

その端緒を切り拓いた功績が大きい。業界の反応を分析して、膜やシール材

の横展開に注力して、実用化や次の段階に結びつけるなどの適切な修正を高

く評価する。

◇従来興味を持たれながら実用レベルから遠かった技術を実用性を考えるレ

ベルに引き上げた成果を得た。

◇当初目標値を概ね達成しており、論文発表等とも併せて研究成果を評価でき

る。

<事業化の見通しに関する評価:各委員のコメント>

◇膜型反応器は今後実用化が大いに期待される新技術であり、基礎研究は世界

の中でも我が国が大きくリードしている。今後、本プロジェクトの成果を生

かして早急に実用化を進めるべきであり、国はもう一期、5 年程度の実用化

推進のためのプロジェクトを是非とも実施すべきである。これにより、我が

国の膜反応器技術は世界をリードするものとなるであろう。

◇成果である代替ガスケットは既に上市(33億円/年)されている。

他方、論文段階のものも多数ある。プロジェクト終了に伴い、手離れ(中止)

するか継続提案するか、事業化の見通しと内部の専門家による判断が重要で

ある。

◇報告書の分析どおり現行設備の廃棄段階にならないと採用困難と思われ、イ

ニシァルコストや今後強化されると思われる環境制約など多方面から有意

性を立証することが期待される。

◇特に本技術の応用展開の事業化に顕著な成果が出ている。

◇Pdなど貴金属の高騰、並びに燃料電池の開発状況と併せ、膜分離システムの実

用化への検討がさらに必要に思われる。また、マイクロリアクターで処理量を

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現在の実用装置と同程度にする場合コスト比較がなされていると成果の説得

力が増すと考えられる。

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③高効率冷媒合成・利用技術

【成果に対する評価】

高効率冷媒合成・利用技術は、環境問題の観点からも極めて重要なテーマであり、

世界の超大手化学企業の重要戦略開発テーマである。必要な技術開発は実施され、目

標が達成されたことは高く評価される。本研究によって蓄積された冷媒の評価(環境

影響、安全性等)、選択技術は、対象としている大型機器だけでなく、中小型分野で

の冷凍空調機器にも適用が可能であり、さらに、冷媒以外の分野にも技術、データの

活用が期待される。

【事業化の見通しに関する評価】

事業化を検討するに当たっては、早い段階から日本の冷媒メーカーとの共同開発が

必要であり、国際競争力の維持のために特許戦略を考えるべきである。

<成果に対する評価:各委員のコメント>

◇高効率冷媒は環境問題の観点からも極めて重要なテーマである。目標成果が

達成できた点は高く評価される。

◇高効率冷媒合成・利用技術は、世界の超大手化学企業の重要戦略開発テーマ

である。競争澪激しくこの分野の遅れは日本の空調産業界にとって極めて影

響が大きい。他方で、成果の具体的な公表は、国の金を使って世界の巨大企

業を利することにもなる。

研究担当者はそのことも十分認識していると思われる。

◇必要な技術開発は実施されており、この研究によって蓄積された冷媒の評価

(環境影響、安全性等)、選択技術は対象としている大型機器だけでなく、

中小型分野での冷凍空調機器にも適用が可能。さらに、冷媒以外の分野にも

技術、データの活用が期待できる。

◇目標値は達成されている。

◇改善型テーマであり、エネルギー効率の良い冷媒種を見い出した意義は大き

い。本開発の成果は、代替材料選定支援システムとして一般公開されること

を期待する。

◇目的とした冷媒候補を 3 候補選定し得た。本アプローチ法はユニークで有用

なものであり、今後も大きな財産として活用が図られることを期待している。

◇当初計画の目標値を達成しており、省エネルギーの推進に寄与できる成果が

得られていると評価できる。

<事業化の見通しに関する評価:各委員のコメント>

◇事業化を検討するに当たっては、早い段階から民間企業との共同開発が必要

である。この方向で行くのか、特許戦略で行くのかは判断が難しいが、国費

を使った技術開発では、やはり成果は早急に民間企業により実用化されるべ

きである。その上で国際競争力の維持のために特許戦略を考えるべきである。

◇事業化については早い段階から日本の冷媒メーカーとの共同が必要である。

産業技術総合研究所としては、基本から応用まで幅広い特許取得戦略を強化

すべきであろう。

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◇物質の絞り込みがなされ、量産技術確立、実機評価の段階に入っているが、

実用化する側とのより深い連携が望まれる。また、実用化途上で、この研究

によって培われた基本的な技術の異分野での応用展開が期待できる。

◇本テーマは実用化の可能性は大きいと期待される。

◇選定候補につき既に実用化を意識したプロジェクトが進行している。

◇冷媒は使用条件によっては潤滑油の混入などで性能が劣化することもあり、

実際の使用時を想定した評価も進めていただきたい。

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④超臨界流体利用環境負荷低減技術

【成果に対する評価】

目標値は達成され、企業との共同研究(12件)の多さも評価され、基礎研究として

の成果は高く評価できる。

また、超臨界水利用技術のマイクロリアクター系への適用技術を開発し、多くの特

許を出願したことや企業との共同開発に進展したことも評価できる。

【事業化の見通しに関する評価】

一部事業化が進められていることは評価される。一方で、基本的に製造システムの

転換を要する技術開発では、品質や操業の安定性・コストへの不確定要素を考慮する

と、30%程度の省エネ効果だけで前に進むことは困難である。

また、超臨界合成プラントレベルのアウトカムが(~2030)とは先が長すぎると思

われる。5年前後レベルでの国内外の事業化ニーズを調査することが必要である。

<成果に対する評価:各委員のコメント>

◇成果は十分に達成されていると評価するし、民間企業との共同研究も評価に

値するが、そもそもマクロリアクターは実用性があるのか評価者は疑問であ

る。

基礎研究としては成果は高く評価できる。

◇成果が十分に達成されていることを評価する。企業との共同研究(12件)は

立派であるが、企業の研究のテーマはプロジェクトの目的と一致しているこ

とを期待したい。6-ナイロンのケミカルリサイクルの社会的ニーズはあるの

だろうか?PRE-CONSUMERリサイクルであれば企業の原価低減であり、post-c

onsumerであれば、回収システムも並行して検討する必要がある。

◇目標値は達成され、基礎的にも重要な成果が得られている。

◇超臨界水利用技術のマイクロリアクター系への適用技術を開発し、多くの特

許出願をしたことや企業との共同開発に進展したことを評価する。

◇目標を充分に達成している。反応の空時収量の値を見てその反応速度の速さ

を実感し驚きを覚えた。

◇当初目標値を上回る成果が得られており、実用化が期待される。

<事業化の見通しに関する評価:各委員のコメント>

◇一部事業化が進められていることは評価に値する。しかしながら、二酸化炭

素を用いた超臨界反応時間は大幅に短縮したとはいえ、実用的に利用するに

は未だ長すぎるのではないか。

◇2008年に成果の適用部品が上市されることを高く評価する。しかし超臨界合

成プラントレベルのアウトカム(~2030)とは先が長すぎないか?過去、未

来の5年レベルでの国内外の事業化ニーズを調査することが必要であろう。

◇バイオエタノール産業の世界的拡大のための硫安需要急増のため、企業化は

まだ先である。

◇基本的に製造システムの転換を要する技術開発では、品質や操業の安定性・

コストへの不確定要素を考慮すると、30%程度の省エネ効果だけで前に進む

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ことは困難である。

◇今後超臨界流体反応の後継プロジェクトの実用化研究にも期待するが、その

応用展開の早期の実用化に現実味があり注目される。

◇実用化に際しては、実用レベルの処理量でのコスト比較・評価を判りやすく

示していただきたい。

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第4章 評点法による評点結果

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第4章 評点法による評点結果

「ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発」に係るプロジェクト評価の

実施に併せて、以下に基づき、本評価検討会委員による「評点法による評価」を実

施した。その結果は「3.評点結果」のとおりである。

1.趣 旨

評点法による評価については、産業技術審議会評価部会の下で平成 11 年度に評

価を行った研究開発事業(39 プロジェクト)について「試行」を行い、本格的導入

の是非について評価部会において検討を行ってきたところである。その結果、第 9

回評価部会(平成 12 年 5 月 12 日開催)において、評価手法としての評点法につい

て、

(1)数値での提示は評価結果の全体的傾向の把握に有効である、

(2)個々のプロジェクト毎に評価者は異なっても相対評価はある程度可能である、

との判断がなされ、これを受けて今後のプロジェクト評価において評点法による評

価を行っていくことが確認されている。

また、平成 17 年 4 月 1 日に改定された「経済産業省技術評価指針」においても、

プロジェクト評価の実施に当たって、評点法の活用による評価の定量化を行うこと

が規定されている。

これらを踏まえ、プロジェクトの中間・事後評価においては、

(1)評価結果をできる限りわかりやすく提示すること、

(2)プロジェクト間の相対評価がある程度可能となるようにすること、

を目的として、評価委員全員による評点法による評価を実施することとする。

本評点法は、各評価委員の概括的な判断に基づき点数による評価を行うもので、

評価報告書を取りまとめる際の議論の参考に供するとともに、それ自体評価報告書

を補足する資料とする。また、評点結果は分野別評価、制度評価にも活用する。

2.評価方法

・各項目ごとに 4 段階(A(優)、B(良)、C(可)、D(不可)<a,b,c,d も同様>)で

評価する。

・4 段階はそれぞれ、A(a)=3 点、B(b)=2 点、C(c)=1 点、D(d)=0 点に該当する。

・評価シートの記入に際しては、評価シートの《判定基準》に示された基準を参

照し、該当と思われる段階に○を付ける。

・大項目(A,B,C,D)及び小項目(a,b,c,d)は、それぞれ別に評点を付け

る。

・総合評価は、各項目の評点とは別に、プロジェクト全体に総合点を付ける。

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3.評点結果

評点法による評点結果

「ミニマム・エナジー・ケミストリー技術研究開発」

評 価 項 目 平 均 点 標準偏差

1.事業の目的・政策的位置付けの妥当性 3.00 0.00

2.研究開発等の目標の妥当性 2.14 0.69

3.成果、目標の達成度の妥当性 2.43 0.53

4.事業化、波及効果についての妥当性 2.14 0.69

5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等の妥当性 2.71 0.49

6.総合評価 2.71 0.49

(各項目:3点満点)

3.00

2.14

2.43 2.14

2.71 2.71

1.事業の目的・政策的位置付けの妥当性

2.研究開発等の目標の妥当性

3.成果、目標の達成度の妥当性

4.事業化、波及効果についての妥当性

5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等の妥当性

6.総合評価

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

3.50

4.00

平 均 点

標準偏差

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参考資料 A

(研究開発実施者提供資料)

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参考資料 B

(研究開発実施者補足説明資料)