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システムデザイン・ロボット分野 1.水上浮遊物回収ロボットの開発 Development of a Floating Aquatic Litter Collecting Robot 2.単一モータでかじ取りと駆動を行う探索ロボットの製作 Development of a Single-motor Search Robot 3.ライントレース機能付き電動車椅子の製作と評価 Making and Evaluation of an Electric Wheelchair with Line-Tracing Function 4.圧縮空気を動力とする自動車の製作と評価 Productions and Evaluation of Compressed Air Car 5.複数の回収機構をもつロボットアームの製作・評価 Evaluation of the Robot Arm with Exchangeable Endeffectors 6.リアクションホイールを用いた潜水機内蔵型姿勢制御モジュールの開発 Development of Attitude Control Module based on Reaction Wheel for ROV SGH課題研究 7.電池選別機による電池処理の簡略化 Simplification of the Dealing Battery by Using Battery Sorter 8.自動式ペットボトル処理機の開発 Development of an Automatic Plastic-bottles Processor 9.自作オムニホイールを用いた乗車型体重移動用ロボットの製作と評価 Production and Evaluation of Riding Type Weight Moving Robot Using Self-made Omni Wheel 【要旨著者において】 * 生徒,科学・技術科システムデザイン・ロボット分野 第3学年 ** 教員,科学・技術科システムデザイン・ロボット分野

システムデザイン・ロボット分野archives/Project_study_files/...システムデザイン・ロボット分野 8 表1 速度検証の 結果 単位 [s/5 m] 長方形型

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システムデザイン・ロボット分野

目 次

1.水上浮遊物回収ロボットの開発

Development of a Floating Aquatic Litter Collecting Robot 2.単一モータでかじ取りと駆動を行う探索ロボットの製作

Development of a Single-motor Search Robot 3.ライントレース機能付き電動車椅子の製作と評価

Making and Evaluation of an Electric Wheelchair with Line-Tracing Function

4.圧縮空気を動力とする自動車の製作と評価

Productions and Evaluation of Compressed Air Car 5.複数の回収機構をもつロボットアームの製作・評価

Evaluation of the Robot Arm with Exchangeable Endeffectors 6.リアクションホイールを用いた潜水機内蔵型姿勢制御モジュールの開発

Development of Attitude Control Module based on Reaction Wheel for ROV

SGH課題研究 7.電池選別機による電池処理の簡略化

Simplification of the Dealing Battery by Using Battery Sorter 8.自動式ペットボトル処理機の開発

Development of an Automatic Plastic-bottles Processor 9.自作オムニホイールを用いた乗車型体重移動用ロボットの製作と評価

Production and Evaluation of Riding Type Weight Moving Robot Using Self-made Omni Wheel

【要旨著者において】 * 生徒,科学・技術科システムデザイン・ロボット分野 第3学年 ** 教員,科学・技術科システムデザイン・ロボット分野

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8 枚 16 枚 8 枚 16 枚 長方形型 ダ・ヴィンチ型

図 2 水車

水上浮遊物回収ロボットの開発

Development of a Floating Aquatic Litter Collecting Robot

伊藤 翔 *,佐治 公寛 *,下田 玲央 *,橋場 貴生 *,柳田 敏輝 *,山口 正勝 **

1 緒言

プールや池などの浮遊物は,景観を損なう上に,

虫が発生する原因にもなる。しかし,人の手でこ

れを回収する場合,大きな労力が必要となってし

まう。また,プール清掃用ロボットは多くの企業

が開発しているが,そのほとんどがプールの側

面・底面の清掃を目的としており,水面の浮遊物

は回収されない。そこで私達は,水上を走行して

浮遊物を回収するロボットの開発を目的としてい

る。 2 仮説

水上を走行するロボットにより水上浮遊物の回

収を行うことにより,作業者に与える労力・負担

を軽減することができる。 3 研究概要

3.1 開発したロボット3.1.1 本体概要

図 1 に,開発した

ロボットの外観を示

す。機体前方に回収

用のカゴを設置し,

機体が前進すること

で浮遊物を回収する。

推進装置には「浮遊

物が詰まりづらい」「モータが水中に沈まない」と

いう理由から,外輪式水車を使用した。浮力材に

は「破損した場合取り替えが容易」「浮力の調節が

容易である」という理由から,ペットボトルを使

用した。本体内部にはマイクロコンピュータ,バ

ッテリー,電池,ギアボックス,超音波センサ,

GPS を搭載している。また,カゴはモータによっ

て上げ下げができるようになっている。 可能な範囲で浮遊物の高回収能力を実現させる

ために,機体の移動速度と時間当たりの回収量の

関係を調べる必要があると考えた。図 2 に示すよ

うに,羽根の形状は一般的な長方形型とダ・ヴィ

ンチ型(1)とし,各羽根の枚数は 8枚と 16枚として,

計 4 種類を採用した。材料は,加工性を考慮して,

アクリル板とし,レーザー加工機で加工した。 3.1.2 動作の仕組み

前後の水車は,独立して駆動する。前方の外輪

は左右を一軸で接続され,ひとつのモータで前進

後進を司る。後方外輪は,左右が独立に駆動し,

旋回・方向転換を司る。

3.1.3 動作方法浮遊物の回収は,無線制御及び自律制御で行う。

無線制御では,PlayStation4 のコントローラを使

用して「前進・後進」「右折・左折」「カゴの上げ

下げ」「移動速度の変更」を行うことができる。自

律制御では,前進→壁などの障害物を検知→停止

→カゴの上昇→ランダムな角度に回転→カゴの降

下→前進という動作を繰り返し,水上を無作為に

走行して浮遊物を回収する。障害物の検知には超

音波センサを使用する。浮遊物回収後 GPS 機能

で動作開始地点へ戻るが,GPS の認識範囲には誤

差があった場合は,無線制御で動作開始地点まで

移動させて誤差修正する。 3.2 実験・検証3.2.1 実験方法 実験 1:プールの5m 四方の所定の位置に 50個のランダムに浮遊物を配置し,実際に人の手で

回収する。その後,同じ条件で浮遊物を配置し,

機体を自律走行させて浮遊物を回収する。 実験 2:直線走行試験において,初速度 0 m/s

で5m 地点までは加速度運動し,以降は等速運動

をすることを計測して確認済みであることを踏ま

えて,本検証では5m を単位直線距離として移動

(加速度直線運動)にかかった時間の測定(単位

を〔s/5 m〕とする)を行う。

図 1 機体の外観

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システムデザイン・ロボット分野

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表 1 速度検証の結果 単位[s/5 m] 長方形型 ダ・ヴィンチ型

8 枚 16 枚 8 枚 16 枚 第 1 回 40.88 44.32 42.98 42.31 第 2 回 40.32 42.41 44.69 43.47 第 3 回 42.31 43.88 43.78 41.47 第 4 回 40.67 43.55 43.34 42.05 平均 41.05 43.54 43.70 42.33

分散比 9.0885 > F 境界値 3.4903

表 2 回収量の実験の結果 単位[個]

長方形型 ダ・ヴィンチ型 8 枚 16 枚 8 枚 16 枚

第 1 回 9 8 10 9 第 2 回 10 10 10 10 平均 9.5 9 10 9.5

分散比 0.4444 < F 境界値 6.5913

実験 3:水車が生み出す波が浮遊物を移動させ

ることによる回収のエラーを測るため,機体前方

に浮遊物を 10 個配置して直進をさせた時の回収

量〔個数〕の測定を行う。これを「部分回収能力」

と定義する。 実験2及び3において,各水車で 4 回ずつ,計

16 回の検証を行う。 3.2.2 検証方法

実験 1 については,定性的評価を行う。実験 2及び 3 においては,帰無仮説「羽根の形状及び枚

数について速度及び回収量の平均に差はない」を

立て,検証による結果について F 検定(一元配置

法)(2)を用いて平均値の差が有意であるかどうか

判定する。帰無仮説が棄却されれば有意差がある

と判定され,製作した水車について相関を調べる

ことができる。 4 結果

4.1 実験 1 について 作業者による回収は,水中に人が入って回収す

る方法と水上から網等の器具を使用して回収する

方法の 2 種類を行った。水中で回収する方法につ

いては,水位や水温などが作業者に影響を及ぼし,

また,網などの器具を使用する方法については,

網の水中での抵抗や網の重さ・長さなどが影響し,

回収できない浮遊物も存在した。以上から,被験

者への身体的な労力は大きく,多大な負荷が加わ

ることが分かった。 また,同じ条件でロボットに自律走行をさせた

ところ,壁を検知して範囲内をランダムに走行し

て,浮遊物を回収できていることを確認できた。 4.2 実験 2 について

実験 2 で得た速度の検証結果を表 1 に示す。

測定結果について有意水準 5 %で分散分析すると

分散比が F 境界値よりも大きいため,帰無仮説の

うち,速度に関して棄却され,平均値の差には有

意差があると判定された。以上から,8 枚の長方

形羽根の水車が最も移動速度が速いと判断できる。 4.3 実験 3 について

部分回収能力の実験結果を表 2 に示す。検定の

結果,有意差はなかった。

5 結言

実験 1 により定性的ではあるものの,開発した

ロボットを用いることで,人的負担を軽減できる

ことが確認できた。よって,仮説は立証された。 また,実験 2 より 8 枚長方形が最速の水車であ

ることが分かり,実験 3 よりどの水車も部分回収

能力に差が無いことが分かった。したがって,8枚長方形が,最も回収能力が高いと言える。 6 今後の課題

平成 29 年 9 月 26 日現在で,4 種類の水車に対

して速度及び部分回収能力の検証を行い,F検定

を用いてデータの平均値の有意差を確認し,相関

を調べ,製作した 4 種の水車から最も回収効率が

良いものを判定することができている。ロボット

に搭載した GPS による緯度経度の位置情報の受

信は可能だが,自律制御の原点(スタート地点)復帰のプログラムにバグがあるため修正を加える。 7 今後の展望

本研究では,GPS の搭載は使用者のロボット収

容時における原点復帰を目的としている。自律制

御走行において,現在ランダム走行を可能として

いるが,GPS を利用してロボットをトレースし,

回収を行っていない範囲を認識して移動させるこ

とが実現できれば,理論的には全範囲を少なくと

も 1 回は通ることになり,ランダム走行よりも確

実に浮遊物を回収することが可能と考えている。

参考文献(1)レオナルドの科学技術|美術情報2017

http://kousin242.sakura.ne.jp/wordpress013 /美術評論/265-2/レオナルドの科学技術/[参照2017/04/06]

(2)分散分析http://www.geisya.or.jp/~mwm48961/statistics/bunsan2.htm[参照2017/09/07]

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単一モータでかじ取りと駆動を行う探索ロボットの製作

Development of a Single-motor Search Robot

菊池 遼*,武田 収司*,馬汗 アブドゥラ*,辰巳育男**

1 背景・目的

現在実用化されている探索ロボットには,

様々な移動手段が用いられている。移動の基

本である平面移動において,代表的なものは

左右のタイヤそれぞれに動力を搭載するもの

とステアリング機構という,ともに 2 つの動

力を用いるものである。しかし我々は必要で

ある平面移動を単一モータで再現することが

可能ではないかと考え,新たな機構を用いた

単一モータによる平面移動に挑戦した。 2 アプローチ

2.1 平面移動

一般に平面移動とは「直進」と「回転」の二つ

の動作によって表すことができる。このことから,

一つの動力から「直進」または「回転」を任意に

出力ことができれば,単一動力での平面移動を可

能にできるという仮説を立てた。 2.2 動力の出力と平面移動

一般的に探索ロボットは動力にモータを使用し

ている。よって我々は入力される電流の向きによ

って出力軸が「正転」「逆転」と回転方向が変わる

D.C モータを使用することにした。さらに我々は

モータの「正転」「逆転」をそれぞれ平面移動の「直

進」「回転」に割り当てることで単一モータでの平

面移動にアプローチした。

3 方法

3.1 動作の割り当て

我々はモータの出力軸の回転方向とロボットの

移動動作を表 1 のように割り当てた。

この表ではさらに,それぞれの移動における左右

のタイヤの回転方向も示している。そして我々は

表からあることに気づいた。右タイヤはモータと

同じ回転方向に出力しているが,左タイヤはモー

タからの入力に関係なく常に正転している。この

発見により,さらに具体的なアプローチが可能に

なった。つまり, 入力軸の回転方向に関係なく常

に一定の回転方向に出力することができれば,単

一動力での平面移動は可能になる。

3.2 ワンウェイクラッチ

入力軸の回転方向に関係なく常に一定の回転方

向に出力できる機構を製作するにあたって,我々

が注目したのは,「ワンウェイクラッチ」という「一

方向だけに駆動し,逆方向には空転する機構を持

った動力伝達装置であり,駆動と空転を切り替え

ることが可能な部品」である。(図 2)

3.3 入力軸の回転方向に関係なく常に一定方向

に出力する機構

ワンウェイクラッチをそのまま使用しただけで

は一方の回転を伝えもう一方の回転は伝えない,

ということしかできないので,常に一定方向に回

転させるには工夫が必要となる。そこで,二つの

それぞれ逆向きの回転をする入力軸をもった図 3

のような機構を製作した。それぞれの入力軸と出

力軸の間に同じ方向に駆動,空転するワンウェイ

クラッチを搭載することで,常に一定方向に出力

表 1 動作の割り当て

動作 モータ 左タイヤ 右タイヤ

直進 正転 正転 正転 回転 逆転 正転 逆転

図 2 ワンウェイクラッチの機構

図 1 探査ロボットの動作

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システムデザイン・ロボット分野

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することが可能となった。

4 単一モータでかじ取りと駆動を行う探索

ロボット

4.1 前提条件

二つの入力軸には図 4 のようにモータの動力を

それぞれに正転または八の字に交差させ逆転の回

転を伝えられるようベルトを巻き付け,動力軸と

同じ回転を受ける入力軸 A を右タイヤの出力軸 R

とし左タイヤの出力軸 L はワンウェイクラッチの

干渉を受けるように設計する。

4.2 直進

モータを正転させた場合,右タイヤは正転し,

交差するベルトと接触した入力軸Bのワンウェイ

クラッチは空転の方向へ回転するため左タイヤと

接触した出力軸 L は内部のワンウェイクラッチが

入力軸 A によって駆動の方向へ回転させられる。

よって左右のタイヤはともに正転し直進する。

4.3 旋回

モータを逆転させた場合,右タイヤは逆転し,

交差するベルトと接触した入力軸Bのワンウェイ

クラッチは駆動の方向へ回転するため左タイヤと

接触した出力軸 L は内部のワンウェイクラッチが

入力軸 A によって空転の方向へ回転させられるた

め,右タイヤは逆転,左タイヤは正転し旋回する。

コントロールは,スイッチによるモータの正転逆

転の制御によるものや,手回し発電機の回転方向

による制御を用いたものなど単一モータのメリッ

トを活かしたシンプルなものになっている。

図 5 完成図

5 機構の応用

今後の課題としてこの機構の様々な分野への

応用を考える。

5.1 平面移動+階段昇降

既存の車体にアルキメディアンスクリューと呼

ばれるねじのような構造をしたスクリューを取り

付ける。階段の段差にねじの山が引っかかるよう

にし、スクリューを回転させることによって徐々

に上ってゆく。 5.2 水陸両用化

モータが一つであるため防水加工や手入れ簡単

になる。さらに,上で述べたアルキメディアンス

クリューをフロートにすることで,陸上だけでな

く水上でも推力を得ることが出来る。 5.3 ペダルを漕いで移動する乗り物

実際に人が乗ってモータの正転,逆転の代わり

にペダルによる正転,逆転を行い人力で動かす。 5.4 原発ロボット

放射線などの影響による無線を用いたコントロ

ールが不可能になる場合に備え,たわみ軸を使い

有線で操作する。モータが一つであるというこの

機構の特徴と自在に回転できる軸を用いることに

よって,コードの絡まりなどの制限がかけられづ

らく,探索の幅が広がる。 参考文献

(1) クラッチ総合カタログ,入手先

<http://www.ntn.co.jp/japan/products/catalog/pdf/2

900.pdf>

(2) Endless-sphere.com,available from

<https://endless-sphere.com/forums/viewtopic.php

?f=28&t=74884

入力軸B

→出力軸 L

入力軸A

→出力軸 L

図 4 動力の伝達

図 3 考案した機構

動力軸

モータ

入力軸 A,出力軸 R 出力軸 L

入力軸 B

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ライントレース機能付き電動車椅子の製作と評価

Making and Evaluation of an Electric Wheelchair with Line-Tracing Function

後藤 優斗*,平出 一真*,福田 真弘*,本多 龍之介*,美崎 悠人*,岩城 純**

1 課題設定の背景と研究の目的

現在の日本では高齢化が進み,車椅子の使用者

数は増加していくと考えられる。それに伴い,自

らの力を使わずして動くことのできる電動車椅子

の需要も高くなっていくと予想される。現在の電

動車椅子は,ジョイスティック等の入力デバイス

を手で操作することによって制御するものがほと

んどである。しかし,入り組んだ場所や狭い場所

の走行では,その操作が難しかったり,面倒であ

ったりすることがあり,これは使用者にとって負

担となる。この問題点を解決するために,ライン

トレースのシステムを用いた自動走行機能付きの

電動車椅子を製作することにした。

2 仮説

我々は「ライントレースによる自動走行が移動

をより楽に,快適にする」を本研究の仮説とし,

この仮説の検証を研究の最終目標に設定した。

3 研究の概要・構想

我々は,研究課題にあるような電動車椅子を設

計段階から自作することにし、全体的な構想を行

うことから研究を始めた。このとき,自動走行す

るにあたり,安全性を確保するために,自動ブレ

ーキを実装したいと考え,ライントレースに使用

するラインセンサだけでなく,超音波測距センサ

やバンパー(接触センサ)も搭載することにした。

また,ライントレースの有用性を検証するには,

マニュアル操作と比較する必要があるため,ジョ

イスティックも搭載することにした。また,これ

らの機能を使いやすく

するため,操作盤もあ

わせて製作した。

4 機体の設計・製作

4.1 3D CAD の使用

機体の大まかな設計

には,3D CAD ソフト

である「Fusion 360」

を用いた。これにより

立体的でわかりやすい

設計を行うこ

とができた(図

1)。

4.2 フレーム

フレームの

材料には,十分

な強さと締結

のしやすさを

兼ね備えた鉄

アングル材を

選び,特に強度

が必要である部分には角パイプを使用した。締結

には主に M6 ボルトを使用し,強度が必要となる

前輪のキャスターとの接合部のみアーク溶接を用

いた。

4.3 動力と軸

12 V バッテリー2 つを電源として,24 V DC ギ

ヤードモ―ターを動かし動力源とした。モーター

の動力をチェーンとスプロケットを用いてタイヤ

が取り付けられた車軸に伝達する。この車軸は

SS400 を材料として,荷重による曲げモーメント

と動力によるねじりモーメントを同時に受ける軸

として,軸径を計算した。製作時には,左右の車

軸に対して,旋盤で適切な太さになるまで切削し

た後に,一方にはフライス盤でキー溝を作り,も

う一方にはボール盤で止めねじ用の穴をあけると

いう加工を施すことで,タイヤを取り付けられる

ようにした。

4.4 バンパー

マイクロスイッチとばね丁番を用いて,壁や段

差との衝突を検出する機構を設計し製作した。衝

撃によるスイッチの破損を防ぐため,バンパーが

押されていない通常の状態ではスイッチは押され

ていて,バンパーが押された際にスイッチが押さ

れなくなるような機構にした。

4.5 ラインセンサ持ち上げ機構

ラインセンサは地面に近づけなければならな

いので,マニュアル操作で平たんではない場所を

図2 製作した電動車椅子

図1 3D CAD データ

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システムデザイン・ロボット分野

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走行する場合は接触による破損の恐れがある。そ

こで,リンク機構を応用しライントレースをしな

い際にそのセンサを持ち上げて地面から離す機構

を製作した。

4.6 レーザー加工

ラインセンサのフレームや操作盤,タイヤの回

転数を測るロータリーエンコーダのスリット円盤

は,アクリル板にレーザー加工を施して製作した。

5 電子回路の設計・製作

5.1 モータードライバー

使用モーター(24 V 定格 5.4 A)による人を乗せ

た走行を低コストで実現するため,NchFET フル

ブリッジモータードライバーを設計し,自作した。

5.2 ラインセンサ

ライントレースの際,なめらかな制御をして乗

り心地を良くするために,ラインセンサとして赤

外線センサ 24 個を 1 列に並べたものを用いた。

マイコンボードの使用ピン数を少なくする工夫と

して,AD コンバータ IC を使用した。

6 プログラミング

全体的な制御にはマイコンボード Arduino を

用い,Arduino 言語でプログラミングを行った。

6.1 マニュアル操作

平成 23 年度の本校の電気電子分野による研究

(2)を参考に,マニュアル操作が直感的で微調節が

可能となるようにプログラミングした。

6.2 ライントレース

ラインセンサに接続された AD コンバータ IC

の信号から,各赤外線センサの状態を把握し,ラ

インが機体の中心からどれくらいずれているかを

計算するプログラムを作成した。その情報を P 制

御によって処理し,モーターの出力を求めること

でライントレースを実現した。また,ラインがほ

ぼ直角に折れ曲がっている場合に,スムーズにト

レースできるようなプログラムも作成した。さら

にラインの交差も検出できるようにし,このとき

床にあらかじめ貼っておいた IC カードの情報を

読み込むことで,どの交差点をどの向きに入った

かを判断できるようにした。これにより,複数の

地点からある地点を目的地として選択すれば,交

差点でその目的地に到達できる方向に動くことが

可能となる。これは,ある目的地まで自動で走行

するシステムの実現につながる。

6.3 自動ブレーキ

超音波測距センサがある距離以下を示したとき

と,バンパーのスイッチが押されなくなったとき

に,モータードライバーをブレーキモードにする

ことで,自動ブレーキを実現した。

7 仮説の検証

7.1 方法

平成 29 年 9 月 21 日,本校の機械システム分野

の生徒と教員 14 人を対象に,あらかじめ設定し

たコースを

マニュアル

操作とライ

ントレース

の 2 通りで

走行しても

らい,乗り心

地と操作の

楽さについてアンケートをとった(図3)。

7.2 結果・考察

14 人全員が,ライントレースによる自動走行の

ほうがマニュアル操作による走行よりも乗り心地

が良く,操作も楽だと答えた。ライントレースに

よる自動走行において,対象者が走行中に全く操

作をしなかったことが、操作が楽になった理由だ

と考えられる。

8 本研究の利用可能性について

本研究では自動走行の実現の手段として,ライ

ントレースを選択した。ライントレースはその原

理上,専用のラインが引かれていない現状の社会

において汎用性が低いため,実用化するとすれば,

住居や病院等での使用に限られるだろう。

しかし,我々が製作した「大きな物をライント

レースにより確実に自動走行させる」「交差点を自

動で曲がり,目的地に自動で到達する」「自動でブ

レーキをかける」などの技術は,車椅子だけでは

なく,公共施設での案内ロボットや荷物運搬ロボ

ットにも応用可能だと考える。この点においても,

我々はこの研究は社会に貢献できると考えている。

参考文献

(1) 東京工業大学附属科学技術高等学校 システムデザイン・ロボット分野:平成19年度 課題研究報告書 『電動車椅子の製作と研究』

(2) 東京工業大学附属科学技術高等学校 エレクトロニクス・エネルギー・通信分野:平成23年度 課題研究報告書 『電動車椅子の製作』

(3) 林 洋次ほか:『機械設計1』 『機械設計2』,実教出版,『機械設計1』102ページ(2016)

(4) 近畿高校土木会 編:『解いてわかる構造力学』,オーム社(2012)

図3 検証での走行の様子

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圧縮空気を動力とする自動車の製作と評価

Productions and Evaluation of Compressed Air Car

大泉 尊*,渡部 健志*,辰巳 育男**

1 背景・目的

本研究は実用的なエンジンの一種として圧縮空

気エンジンを製作し,一人乗りの自動車に搭載す

ることで,その評価を行うことを目的とする。圧

縮空気エンジンは従来の充電式電気自動車に対し,

以下の 2 点において優位性があると考えられる。

第一に,エネルギー保存のために空気ボンベを用

いることで,希少金属を使用せず,製造時の環境

負担も軽減できる。第二に,単純な構造の空気ボ

ンベとコンプレッサーの組み合わせは,充電池の

ような経年劣化の問題や,技術力の乏しい発展途

上国において優位性を期待できる。

また,本研究において製作する空気エンジン

は,エアコンのコンプレッサーをリサイクルした

ものであり,リサイクルの一提案としての意義も

目的の一つとして付加したい。

2 概要

2.1 空気エンジン

2.1.1 空気エンジン本体

空気エンジンとは圧縮空気を利用して動力を得

るエンジンである。私たちはエアコンのコンプレ

ッサーを改造して空気エンジンを製作した。これ

はエアコンのコンプレッサーが軸をモータで回し

て圧縮空気を生成するという仕組みを逆利用した

ものである。ここでの逆利用とは,コンプレッサ

ーに空気を送り込んで軸

を回すということであ

る。

2.1.2 各部品の説明

2.1.2.1 本体

エアコン用コンプレッ

サーから外装と軸に取り

付けてあったコイルを取

り除いたもの。

2.1.2.2 フライホイール

軸のみでは回転エネル

ギーが小さすぎたため回

転力を保持するために

取り付けたものである。

2.1.2.3 スプロケット

軸の動力をタイヤに伝えるために軸に取り付け

たものである。取り付けるに際しスプロケットの

穴の経が軸の直径よりも大きかったため,円柱に

スプラインを入れたジョイント部品を製作した。

2.1.3 改良

私たちが空気エンジンにエアコン用のコンプレ

ッサーを使用したため空気エンジンとして使うに

は不要な穴が開いていた。この穴をふさぐことで

より多くの空気を動力として出力できるようにし

た。

2.2 車体

2.2.1 使用した車体について

平成8年まで課題研究“低燃費自動車”で使用

されていた車体を流用した。流用する際に、不要

な外装の一部とガソリンエンジンを取り外し,ハ

ンドルと空気エンジンを取り付けた。

2.2.2 改造前後の変化

改造前後での重量の変化を表1に示す。課題研究

“低燃費自動車”では車体の名称を実施した年度

の西暦下2桁からとって96型としていたためこれ

にならい本研究での機体の名称を17型とした。

表 1 重量の比較 単位[kg]

機体名

比較項目

改造前

(96 型)

改造後

(17 型)

車体 15.22 26.40

エンジン 11.56 3.95

全体 26.78 30.35

2.3 操作の把握

空気エンジン車は研究資料が皺めて少なくさら

に,本校では本研究が空気エンジン車についての

初めての試みであったため適切な操作方法を,実

走試験を通して経験則から見つけ出した。

3 方法

本研究では、過去に製作された車体を流用して

研究を行った。その際、空気エンジン車向けに改Figure 1

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システムデザイン・ロボット分野

- 2 -

造した。空気エンジンはエアコン用のコンプレッ

サーを加工して本体を製作した。その後フライホ

イールと,スプロケット固定用ジョイント,スプ

ロケットを取り付けて完成させた。最後に車体に

空気エンジンを搭載して完成させた。実験は2段

階に分かれていて,第1段階の実験では空気エン

ジン車が動く条件を調べるために自動車の起動方

法にいくつかのパターンを用意して走行できたか

否かを記録した。第2段階では同一の起動方法で

何回か同一のテストコースを走行したときの初速

度,平均の速さ,走行時間を記録し,平均の速さ

と走行時間から走行距離を求めこれらのデータを

もとに考察した。

4 結果と考察

4.1 第1段階

4.1.1 実験の概要

第1段階では空気エンジン車の起動の仕方を8

パターン用意してどの方法が最も確実に走行でき

るかの実験である。用意したパターンを以下に示

す。

4.1.2 結果

結果を以下表1に示す。また⑦と⑧では⑧の方

が,成功率が高く確実に走行できた。

表 1 各パターンと結果 結果

パターン 結果

①クラッチ使用,はずみなし,助走なし 走行不可

②クラッチ使用,はずみあり,助走なし 走行不可

③クラッチ使用,はずみなし,助走あり 走行不可

④クラッチ使用,はずみあり,助走あり 走行不可

⑤クラッチ固定,はずみなし,助走なし 走行不可

⑥クラッチ固定,はずみあり,助走なし 走行不可

⑦クラッチ固定,はずみなし,助走あり 走行可

⑧クラッチ固定,はずみあり,助走あり 走行可

4.1.3 考察

⑦と⑧のみが成功し⑧の方がより確実に成功し

たことも加えて空気エンジン車が走行するにはク

ラッチを固定して助走をつけることが必須であり

はずみもつけることがより望ましいと分かる。こ

れはクラッチを使用するとつなぐときにエンジン

の回転数とタイヤの回転数の差が開きすぎている

ため空気エンジンが止まってしまうことと空気エ

ンジン車の静止摩擦力に対して空気エンジンの出

力が足りていないためであると考えられる。

4.2 第2段階

4.2.1 実験の概要

第2段階では第1段階の結果から⑧の起動方法

を用いて同一コースを何度か走行して初速度,平

均の速さ,走行時間,走行距離の具体的な数値を

求めて考察するための実験である。走行距離は平

均の速さと走行時間の積から求めた。

<実験の条件>

・測定コース:2号館と1号館の間の中庭

・助走:スタート後3m空気エンジン車後方から

8.7±0.5km/hの速度で班員が押す。

・圧縮空気の圧力:1.0MPa

4.2.2 結果

結果を以下表2に示す。ⅰ~ⅴは実験の通し番

号である。

表 2 実験毎の各データ

データ

実験

初速度

(km/h)

平均の

速さ

(km/h)

走行

時間

(s)

走行距

(m)

ⅰ 8.5 4.6 37 47

ⅱ 9.1 4.1 41 47

ⅲ 8.4 4.6 40 51

ⅳ 8.9 4.7 39 51

ⅴ 9.1 4.6 41 52

平均 8.8 4.5 40 50

4.2.3 考察

条件を合わせて実験を行えばほぼ同じ速度で走

行できることが分かった。

5 今後の課題

今回のテストコースは路面の凹凸が多かったの

で,より平坦な道でテスト走行する必要がある。

また,空気エンジンへの負荷を減らすために現在

かなり重量が大きいハンドル部分の軽量化や走行

距離,走行時間を伸ばし空気エンジンのトルクも

大きくするためにより大きい空気タンクの設置と

より高い圧力の空気をためることも必要である。

この他に空気エンジンの初動をセルモータにより

自動で行えるようにすること,空気の入力量を数

値化してより効率の良い空気の使い方を考えるこ

と,より多くの人が使いやすいように操作を簡略

化することも課題として挙げられる。

参考文献

(1) 平成8年度 課題研究報告書 機械科

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複数の回収機構を持つロボットアームの製作・評価

Evaluation of the Robot Arm with Exchangeable Endeffectors

井口 慶祐*,井上 叡*,尾上 拓馬*,田中 博務*,南 昂汰*,坂田 充弘 **

1 背景・目的

今日の社会では、産業用ロボットアームが多く

の工場で人間の代わりに生産ラインを回している。

また,運送会社での商品の仕分けや梱包にもロボ

ットアームが用いられている。しかし,一般に普

及している産業用ロボットアームの大半は同じよ

うな形状や材質といった特徴をもつ物品しか扱う

ことができない。

そこで,私たちは取り扱う物品の特徴に応じた

ロボットアームのエンドエフェクタを複数作成し、

取り扱う対象物によって取り換えることの出来る

ロボットアームを用いて、現在のものよりもさら

に複雑な仕事を担うことを可能にすると同時に,

コストやスペースの削減を目指すことを目的とし

て研究・製作を行った。

2 実験装置の概要

2.1 エンドエフェクタ

エンドエフェクタとは,「ロボットが作業対象に

直接働きかける機能を持つ部分(1)」であり,具体

的にはものを掴む,ねじを締める等の機能を有す

るものである。エンドエフェクタを交換するにあ

たって,アームとエンドエフェクタの締結部分を

閂状にすることで、容易に交換できるようにした。

また,今回の研究では 2 種類のエンドエフェク

タを製作し,研究を行った。

2.1.1 吸着型エンドエフェクタ

吸着型エンドエフェクタ(以下 吸着型 と記述)

は,エアコンプレッサーと真空発生装置を用いて

対象を吸着することで

取り扱う。今回作成し

たものは吸着パッドを

2つ用いることで安定

して対象を把持するこ

とを目指した(図1)。

吸着型が取り扱う対

象は,表面が滑らかであり形状が変化し得るゴム

ボールと,レトルトパウチの食品などを想定して

いる。

2.1.2 グリッパ型エンドエフェクタ

グリッパ型エンドエフェクタ(以下 グリッパ型

と記述)は,DC モータの回転運動をギアボック

スにより左右の開閉運動へと変換し,対象物を挟

みつかみ,取り扱う(図 2)。

今回作成したグリッパ型は市販されていた開閉

機構を持つギア

ボックスにリン

ク機構を用いた

爪を装着し,平

行に開閉する動

作を可能にして

いる。

このエンドエフェクタが取り扱う対象は,吸着

型では取り扱うことが難しいと考えられるネジや

消しゴムといった吸着パッドより表面積の小さい

物品を想定している。

2.2 ロボットアーム本体

本研究では、アーム全体を左右に旋回させる軸、

腕を上下に振る2つの軸、手首を旋回させる軸、

手首を上下に振る軸の計5軸の垂直多関節ロボッ

トアームを製作した(図3)。

荷 重 が か か り ,

360°の回転が要求さ

れる本体を旋回させ

る関節と手首の回転

部,大きなモーメント

のかかる腕を上下に

振る関節の動力には

大きなパワーを持つ

DC モータを用い,特

に精度の要求される手首の上下への振りにはサー

ボモータを用いている。各部の操作はコントロー

ラのジョイスティックを用いて行う。

3 検証方法

検証は各対象物での「回収の容易さ」と「把持

力」という2項目に関して,2種のエンドエフェク

タを比較する形でデータを収集する。そして,そ

図 1 吸着型の外観

図 2 グリッパ型の外観

図 3

ロボットアームの外観

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システムデザイン・ロボット分野

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のエンドエフェクタに優位性があるのか検証する

ことで,それを交換できるこのロボットアームの

有用性の有無を検証する。

3.1 検証に用いる対象物について

この検証では,異なる特徴を持つ複数の対象物

を用意し、それを用いて検証を行う。今回用意し

た対象物は「空箱,消しゴム,ゴムボール,ぬい

ぐるみ,レトルトパウチ,CD,M6ネジ」の7つで

ある。

3.2 「回収の容易さ」に関する検証について

この検証において「回収の容易さ」は物品を掴

む際に要求される「位置決め精度」によって表す。 具体的には位置決めの際に物品の周囲縦横何

mm 以内に移動させれば掴むことが出来るのかを

調べ、その面積で比較する。

3.3 「把持力」に関する検証について

この検証においての「把持力」とは,「振り下ろ

しや急停止のような衝撃にさらされても対象物を

把持し続ける能力」のことを指す。

具体的な検証方法としては,基礎部の回転や各

関節の振り動作を一定回数行い,対象物を落とし

てしまうまでの振りもしくは回転の回数を記録す

る。この試行をそれぞれのエンドエフェクタごと

に3回ずつ行い,それを表にまとめる。このデータ

から各対象物において,エンドエフェクタに優位

性が認められるかを検証する。

4 結果・考察

結果をページ下の表 1 及び表 2 まとめる。この

結果より,2 種のエンドエフェクタについて,表

3 及び表 4 のような特性が得られた。

このことより,2種のエンドエフェクタを交換

することによって特徴の異なる対象物を把持する

ことが可能になったので,交換機能を有するロボ

ットアームの優位性は示すことができると考えら

れる。

5 今後の展望

検証の中で,ぬいぐるみはどちらのエンドエフ

ェクタでも把持することが不可能であった。この

ような布製品は、通気性がありかつ形状が変化す

るため既存の2種のエンドエフェクタでは対応し

きれない。そこで新たなエンドエフェクタとして、

人間の手のように5本の指で対象物を把持する

「多指ハンド」が有効ではないかと考えている。

今後もこれ以外の対象物の特性に合わせて,エン

ドエフェクタの種類を増やしていきたい。

また,今回はエンドエフェクタを交換する作業

は私たちが行っているが,マシニングセンタに搭

載されている機能であるツールマガジンから自動

で工具を交換する「自動工具交換装置(ATC)」の

ようにエンドエフェクタを数種類保管しておくス

ペースを作り、エンドエフェクタの自動交換機能

の実現を目指したい。 参考文献

(1) JIS. B. 0134.:2015 ロボット及びロボットハンドデバイス‐用語

〈http://kikakurui.com/b0/B0134-2015-01.html〉 [参照2017/09/23]

表 3 吸着型の特性

・吸着パッドのサイズ以上のものならば

球面や形が多少変化するものでも適応し

て把持できる。

・掴む際の位置決め範囲が広い。

・吸着パッドより小さいもの(ネジ等)は

把持できない。

・滑らかでないものは把持できない。

表 4 グリッパ型の特性

・小さいものでも把持できる。

・掴む際に力の調整ができる。

・把持可能範囲が狭い。

・爪の限界開閉幅(45mm)より大きなも

のは把持できない。

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17

リアクションホイールを用いた

潜水機内蔵型姿勢制御モジュールの開発

Development of Attitude Control Module based on Reaction Wheel for ROV

荒川結*,田中友章*,玉井隼*,坪井丈一郎*,長谷部允則*,岩城純**

1 緒言

現在運用されている遠隔操作型水中ロボット

(Remotely Operated Vehicle 以下,ROV)の姿勢制御にはスクリューやラダーが用いられている。

これらの機構は流体を介した制御を行うため,複

雑な潮流変化による水の抵抗により制御不能・機

体破損を引き起こす。本研究ではこれらの機構に

代わる姿勢制御機構として宇宙機の姿勢制御に用

いられる機構の一つであるリアクションホイール(1)に着目した。この機構は機体外部に露出しない

ため,機体の表面積を抑え,機体付近で発生する

乱流と水の抵抗力を軽減できると考えた。

2 研究内容

2.1 研究概要

本研究の目的はリアクションホイールを用いた

姿勢制御モジュールの製作,製作したモジュール

の ROVへの搭載及び評価である。 研究内容は以下の 2段階に分かれる。 *STEP1…姿勢制御モジュールの機能実証 *STEP2…STEP1に基づく ROVの製作・評価 2段階に分けた動作試験の結果から,製作した

ROV のヨーイング性能を評価した。尚,本研究は1 軸方向への姿勢制御のみを目的とした試験的運用であり,ROV のピッチング及びローリングは実験結果に基づく本研究の展望に示す。 2.2 姿勢制御モジュール

リアクションホイールとは,電動モータとその

シャフトを回転軸とするフライホイールから構成

される機構である。フライホイールの回転数変化

によって発生する反作

用トルクを機体に伝達

することで回転体の姿

勢制御を行う。図 1 は

リアクションホイール

と機体の加速度方向の

関係を表している。

(2)式よりホイールを

加速させると機体にモーメントが加わり,機体が

ホイールと逆方向に加速することがわかる。よっ

て,ホイールの回転速度を調節することでリアク

ションホイールによる機体姿勢の制御が可能とな

る。

慣性モーメント I1,12,角速度 ω1,ω2,角加速度 α1, α2,

角運動量 L1,L2,モーメント N1,N2より 二物体の角運動量保存則は

L1 = I1ω1 = I2ω2 = L2 (1) (1)式を時間微分し,

N1 = I1α1 = I2α2 = N2 (2)

本研究ではリアクション ホイールを立方体状にモ ジュール化することで姿 勢制御装置の汎用性の向 上を試みた。 2.3 機体設計

リアクションホイールを ROV に転用する上で,研究背景から,既存の ROVより乱流の発生を抑えた機体設計を採用する必要がある。そこで,

CAD(計算機支援設計)を用いて作成した機体

の 3Dモデリングデータを CFD(数値流体力学)解析にかけ,一定の潮

流発生環境下にお

いて ROV付近で発生する水流の形状を比較した。図 3に比較対象として使用した既存機体のモデリングデータを示

す。図 4は機体左側面から 100cm/s(約 2knot)の水流中における機体周辺の水の流れを流線を用い

て表したものである。これより,設計した機体は

既存機体に比べて機体付近で発生する乱流を軽減

していることがわかる。 流体解析結果から採用した設計に基づき,図 5 の

機体を製作した。表1に機体使用を示す。

図 2 製作したモジュール

図 3 比較した既存の ROV

図 1 角運動量保存則における 二物体の加速度方向

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3 動作試験・考察

3.1 リアクションホイールの機能実証実験

水中に比べて作用する外力が小さい”地上”において,製作したモジュールの機能実証実験をおこ

なった。2種類の動作試験を実施し,製作したモ

ジュールが姿勢制御装置として機能するかを調査

した。図 6・図 7は動作試験時のホイールの角加速度,機体の角度,時間の関係を表す。 3.1.1 旋回・停止動作

任意角度に対するモジュールの旋回・静止動作

の可不可を検証する。(2)式より,ホイールの加速度変化 α2によって機体に I2α2[N・m]のモーメントが加えられ,α2の I2/I1倍[rad/s2]の角加速度が生じることが分かる。モジュール内のジャイロセ

ンサから返される機体角度と目標角度(90°)とを比較し,差異に応じてホイールの回転数を増減す

る事で前述の角加速度の操作を行う。 3.1.2 機体姿勢のズレ修正動作

静止中のモジュールに外力が加わった際,モジ

ュールが機体角度を元の状態(90°)に戻すことができるかを検証する。ジャイロセンサから返され

る機体の加速度に応じてホイールの回転数を変化

させ,二物体のモーメントを釣り合わせる。 機能実証実験の結果(図 6・7)より,フライホ

イールの回転速度を制御することで機体姿勢を任

意の角度に変更していることがわかる。よって,

製作したモジュールがリアクションホイールによ

る姿勢制御装置として機能していると言える。こ

のことから,製作したモジュールを ROVに搭載する姿勢制御装置として採用する。

3.2 ROV の動作試験

前述のモジュールを搭載した機体が ROV として

機能するかを検証する。水中における ROV の基本

機能として以下の5つの動作を設定し,定義に基

づき可不可を判別した。動作試験の結果,設定し

た動作に対して表2の結果が得られた。

また今回の実験においてローリング・ピッチング

動作は,フライホイールがヨー軸以外に搭載され

ていないため前提として不可能であった。

4 結言

リアクションホイールを ROVの姿勢制御装置として使用することにより,水中において乱流の

発生を軽減したヨーイング動作が可能となった。 しかし,水中では水の抵抗を受けるため旋回時に

ホイールを加速させ続けなければならない。よっ

て,ホイールの回転数が上限に達すると,さらな

る旋回が不可能となる。この課題を改善するため

に,”アンローディングによる飽和した角運動量の消去”や”Control Momentam Gyroとよばれる機構を用いた出力トルクの増大”を考えている。参考文献

(1)井澤克彦,市川信一郎:高速回転ホイール開発を通しての知見,宇宙航空研究開発機構研究開発報告(オンラ

イン),入手先〈http://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20170924013617.pdf?id=ART0008937872〉 [参照 2017/9/24]

図 5 製作した ROV

表2 基本性能の可不可

1. 前進 2. 後退 3. ヨーイング

可能 可能 可能

4. ローリング 5. ピッチング 旋回可能角度

不可能 不可能 3.32 rad

図 4 流体解析結果(左:既存機体 右:設計した機体)

図 7 ズレ修正試験時のデータ

図 6 旋回・静止試験時のデータ

全長 400 mm

幅 150 mm

速力 0.35 kt

推力 25.0 N

表1 機体仕様

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電池選別機による電池処理の簡略化

Simplification of the Dealing Battery by Using Battery Sorter

石関 康汰*,伊勢 拓哉*,江原 卓都*,神戸 佑介*,山中 一智也*,坂田 充弘**

1 背景・目的

現代のエネルギー問題として,電池に残量があ

るのに捨てられてしまう無駄な処分が挙げられる。

しかし,現在ひとつひとつの電池の電圧を測るこ

とができる「電池チェッカ」や,ごみ処理場に置

かれている大型選別機は存在しているが,多くの

電池を処理できる電気店や家庭に置けるような小

型の選別機は存在していない。そこで,我々はこ

の小型の電池選別機を製作した。

2 概要

2.1 選別装置と処理内容

上で示した背景の通り,電池選別機には電池の

電気の残量による仕分けと大きさによる仕分けが

求められる。そのため今回製作した選別機(図 1)

は,一般に出回っているアルカリ乾電池の単一か

ら単四の 4 種類を大きさと電圧によって選別する。

電気屋などに

設置して使用

することを想

定に入れてい

るため,装置

の 大 き さ は

550*550*570

mm となって

いる。

2.2 電圧測定による選別

電池は装

置の中にある

ベルトコンベ

アによって運

ばれ(図 2),

ベルトの上に

搭載されてい

る電圧測定ア

ームによって電

池の電圧値が測定される(図 3)。アームの両端の

ケーブルにはマイコンボードが取り付けられてお

り,それによって電圧値を読み取る。このマイコ

ンは 5 V で動作しておりアナログ入力は 10 ビッ

トの分解能を持っているので,この装置は 0.005

V 単位の精度で電圧を読み取れる。また接続部分

には全波整流回路を用いており,アームで挟まれ

た電池の向きに寄らず電圧を測定できるようにな

っている。

読み取った電圧値により,電池の電気残量によ

って 3 段階に分ける。この装置で扱う電池はアル

カリ乾電

池の単一

から単四

までの 4

種類なの

で,最大

電圧値は

1.5 V で

ある。こ

れらの電池を 0 ~ 0.5,0.5 ~ 1.0,1.0 ~ 1.5 V の 3

段階に分ける。

2.3 大きさによる選別

この部分は電圧の大きさで分けた電池を, 単 1

〜4 形に仕分けるレール(図 4) である。電圧の大

きさを 3 段階に分けたものをさらに大きさ別に分

けるので, 同じ形の装置を 3 つ用意した。この装

置はレールを

縦向きに滑っ

てくる電池に

突起物を当て

ることによっ

て分けるもの

である。その

ためこのレー

ル上で電池の

極同士が通電してしまわないよう,3D プリンタ

と木材で製作されている。

左から単二, 四, 三, 一形の順に分けられる。

図 4 仕分けレール

図 1 電池選別機

図 3 電圧測定アーム

図 2 ベルトコンベア

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システムデザイン・ロボット分野

- 2 -

そのため,最終的には電池を 12 のグループに仕

分ける。

3 評価方法

電池選別機の選別能力を評価するために,装置

が仕分けた電池の結果が正しいのかを確かめた。

次に選別機による選別速度を評価するために,

装置による選別と人間による選別,それぞれに要

した時間を計測した。

単一から単四までの電池がそれぞれ 1 つずつの

合計 4 個の電池を選別する場合と,単一から単四

までそれぞれの電池を無作為に合計 20 個の電池

を選別する場合の 2 通りの実験を行った。

選別機による電池選別にかかる時間の測定方法

は,はじめの一個を入口に置いたときから計測を

始め,その後は,電池を入口に 1 つずつ絶え間な

く置いていき,最後の電池が選別された瞬間に計

測を終えた。

人間による測定方法は,電圧測定器(テスタ)

を用意し,それを用いて電圧を測定してもらい自

分で箱に電圧と大きさで分けてもらった。計測開

始の合図とともに選別を始めてもらい,最後の電

池を箱において選別がされた瞬間に計測を終えた。

4 結果と考察

装置の選別結果では,電池 20 個中 12 個を正確

に選別することができ,全体の 60%の量を選別で

きる性能を示した。

次に選別速度を比較した実験で,人間と装置が

それぞれ電池 1 個あたりの選別に要した時間を以

下にまとめた(表 1)。

大きさのそれぞれ異なる 4 個の電池を選別した

場合は,装置の方が人間に対して選別速度で電池

1 個あたり 1.35 秒の遅れをとった。

また,20 個の電池を選別した場合は 0.76 秒の遅

れをとった。

この表の結果から,少ない数の電池を選別する

時よりも,より多くの電池を選別する時の方が電

池の処理速度が上がることがわかった。よって,

多くの電池を選別する時にこの装置は有利に働く

ことが考えられる。

実際に使用を想定していた電気屋などでは,こ

れらの結果より,多く電池が回収されているので

そのような場面での利用で効果が出ると想定され

る。

5 今後の課題

今回製作した装置は,単一電池や単四電池の選

別において選別される成功率が低かった。また,

電圧測定アームによる電圧測定時に稀に不正確な

値を表示することがあった。このことから,今後

電圧測定アームとベルトコンベアの改良を行い,

誤作動や不正確な選別を減らせるようにしていき

たい。 参考文献

三蓉エンジニアリング株式会社 SP型電池選別機 <http://biomass-hasaiki.jp/index.php/2013-08-20-05-10

-48/sp.html> [参照2017/9/25]

電池の個数

選別方法 4 個の場合 20 個の場合

装置の

選別速度 8.35 6.77

人間の

選別速度 7.00 6.01

表 1 電池処理速度の比較 単位 [sec/個]

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3

自動式ペットボトル処理機の開発

Development of an Automatic Plastic-bottles Processor

川口 康太 *,杉本 正登 *,高松 颯大 *,長坂 丈 *,吉田 悠太郎 *,山口 正勝 **

1 緒言

PET ボトルリサイクル協議会によるとペットボトルを廃棄する際,資源循環型社会形成及びリ

サイクルセンターでの行程の負荷,負担の軽減の

ためボトルとキャップの分別回収を推進している(1)。しかし,現在そのルールを認識している消費

者は多くなくリサイクルセンターの負担は大きい(2)。また,大抵の使用されている装置は一台あた

り数千万円と非常に高額(3)であり,本校が保有し

ているマシニングセンタよりも大型(4)である。そ

のため廃棄する際に,キャップとボトルの分別,

ボトルの洗浄及び圧縮を同時にできる装置を開発

し,分別によるリサイクルへの貢献と圧縮による

一度の回収量の増大を図る。及び自らでそれぞれ

の装置の設計,開発を行い現存の装置に比べ低価

格化と小型化を図る。

2 仮説

PET ボトルリサイクル協議会が設けているルールを認識していない人が多くペットボトルの処

理の際にリサイクルセンターでの負担が大きいと

いう問題に対し,この装置を自らで開発すること

によりリサイクルセンターでの負担の軽減及び現

存の装置と比べ小型化と低価格化が見込まれる。

3 研究概要

3.1 機体の概要3.1.1 キャップ外し装置 キャップ外し装置を図1に示す。この装置はキ

ャップを外し,キャップのみ回収を行うと共に,後

工程の洗浄時に必要な穴をボトルに開けることが

可能である。装置はボトル固定部,キャップ外し部,

キャップ押し

出し部の3つ

の装置で構成

されている。

具体的な動作

の流れは,て

この原理を利

用したボトル

固定部でペットボトルを固定し,キャップ外し部

の円錐型のゴムを回しゴムとペットボトルに働く

摩擦力によってキャップを外す機構となっている。

てこ部には,先端を針のように加工した金具を取

り付けており固定と同時に,ペットボトルに穴を

開ける仕組みになっている。取り外したキャップ

はゴムからクランク機構を用いた棒で押し出して

回収される。

3.1.2 キャップ有無識別装置

キャップがきつく閉められていた場合はキャ

ップ外し装置でキャップを外すことができない

ことがある。キャップが外れていないと次行程に

支障をきたすため,このことを想定しキャップ有

無識別装置を設置している。この装置は,フォト

リフレクタを用いてペットボトルにキャップが

付いているかどうか識別する。キャップの有無の

識別は次工程での洗浄時において,水をボトル内

に入れなくてはならないために必要な工程とな

る。装置にはサーボモーターで動くカゴが設置さ

れており,それにより次工程へペットボトルを送

る。キャップが付いていると識別された場合はキ

ャップをユーザーに緩めてもらうために本体外

に排出し,キャップが付いていない場合は洗浄装

置へ送る。

3.1.3 ボトル洗浄装置

この装置では,ボトルを塩化ビニルパイプ内に

設置したカゴに入れ,

パイプ内の水にカゴご

と沈めてボトル内部の

洗浄を行う。装置の概

略は図2に示す。ペッ

トボトルはキャップ外

し装置で穴を開けてお

り,パイプ内のカゴは

アルミパンチングボー

ドでできているため,

ほとんど浮力を気にす

ることなく沈められる

図1 キャップ外し装置

図2 ボトル洗浄装置

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システムデザイン・ロボット分野

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仕組みになっている。パイプの上部には図2に示

すよう電動ウィンチが設置しており,このウィン

チによりカゴの上下を行う機構となっている。洗

浄後,ボトルをパイプの背面に設置した L 字金具で押し出し次工程へ送る。

3.1.4 ボトル圧縮装置

ボトルの圧縮には本校が保有していた装置を用

いる。この装置は,複数のカムによって揺動運動を

起こし二つの金属の板によってボトルを潰す仕組

みになっている。

3.2 装置の動作 装置はボトル圧縮機を除き,全て Arduino を用いて制御される。処理の順序は,キャップ外し,ボ

トルの穴開け,キャップの回収→キャップの識別

→ボトルの洗浄→ボトルの圧縮→ボトルの回収で

ある。装置にペットボトルが入れられると,キャッ

プ外し装置のホルダー部に落下し,取り付けられ

た距離センサーによりペットボトルが投入された

と認識する。ペットボトルは,図1でのラックギア

によりキャップ外し部にボトルを押し込み,サー

ボモーターでてこ部を動かしてペットボトルの固

定を行う。この時,てこ部に取り付けられた金具で

ボトルに穴を開ける。キャップはキャップ外し部

のゴムとの間に働く摩擦で外す。取り外したキャ

ップはクランク機構を持つ押し出し部によって装

置から外して回収を行う。キャップを外されたボ

トルは,ホルダー部に取り付けられた押し出し機

構で,キャップ有無識別装置へ送られる。キャップ

有無識別装置では,フォトリフレクタによってキ

ャップの有無を識別し次の工程を決定する。キャ

ップが付いていると識別された場合はキャップを

ユーザーに緩めてもらうために本体外に排出し,

キャップが付いていない場合は洗浄装置へ送る。

装置には LCD(液晶ディスプレイ)を設置し,ボトルを排出した際は緩めてもらうよう表示を出す。

洗浄装置に送られたボトルは装置内のカゴに入れ

られ,カゴごと装置に取り付けられた電動ウィン

チで上下して水中に沈められて洗浄される。洗浄

後は,装置の背部に取り付けられた L 字型の金具でボトルを装置から押し

出し,圧縮装置へ送る。

3.3 検証・評価 図3は,キャップ外し

装置のキャップ外し部に

おいて検証をしている様

子である。炭酸飲料や清涼飲料水,水を含む6種類

のペットボトルにおいてキャップが外せた割合,

ゴムからキャップが取り外せた割合の検証を行っ

た。検証結果を表1に示す。

炭酸では 67 %,清涼飲料水では 100 %,水では17 %の割合でキャップを外すことができた。この検証より,炭酸はキャップが硬いもの水のペットボトルはキャップが特殊な形であり今現在の装置

では外すのが困難である,という結論が得られた。また,キャップ外し機において現存の装置「とるぞうくん」の 18 万円よりも材料費で考えると大幅に安く製作できたため,今回の研究の目的である装置の低価格化は実現できたと評価できる。

4 今後の展望

それぞれの装置は完成しているが装置同士の連

携,自動化ができていない。そのため,装置同士の

連携が行えるように一つのシステムとして組み立

て,各部を微調整し目標としているボトルの回収

から圧縮までを自動化する。装置が一つのシステ

ムとして完成したら,当初に掲げた「圧縮した場合

の回収量の差」の検証し,リサイクルセンターの負

担の軽減に貢献できているか評価を行う。また,

今回の検証より対応できないペットボトルがある

ことが判明したため,さらに検証を重ね現状より

多くのペットボトルに対応する。

参考文献

(1) PETボトルリサイクル協議会:分別排出のルール(消費者),入手先<http://www.petbottlerec.gr.jp/more/rule.html> [参照 2017/3/17]

(2) Stone Washer’s Journal:ペットボトルとキャップを分別する本当の理由,プラスチックリサイクルの意外な真実,入手先<http://stonewashersjournal.com/2015/10/05/petbbottle/>[参照 2017/3/17]

(3) 環境機器・サービス WEBカタログ:ペットボトル専用キャップはずし機,入手先<http://www.fjtex.co.jp/kankyo/products/sorter/petbottle/126> [参照 2017/3/17]

(4) 環境機器・サービス WEBカタログ:PETボトル粉砕 洗浄 脱水機,入手先<http://www.fjtex.co.jp/kankyo/products/mill/pet/17> [参照 2017/9/26]

表 1 検証結果

種類 回 炭① 炭② 炭③ 清① 水① 水②

1 ○ ○ × ○ × ×

2 ○ ○ △ ○ △ △

3 ○ ○ △ ○ △ ○

図3 検証の様子

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自作オムニホイールを用いた乗車型体重移動用ロボットの製作と評価

Production and Evaluation of Riding Type Weight Moving Robot Using Self-made Omni Wheel

金澤 悠介*,清水 裕太*,鈴木 篤*,関根 公平*, 松田 将希*, 辰巳育男**

1 背景・目的

昨年度の課題研究「メカナムホイールを用いた

体重移動による全方向移動車の製作」(1)によって,

①体重移動は子どもから高齢者まで誰でも簡単に

操作出来ること, ②模型による実証実験の限界と

乗車型車体の製作の必要性が実証された。そこで

私たちは機体に自作オムニホイールを用いること

で人の乗車を可能にし, 体重移動操作を実用化す

ることで,社会貢献を果たすことを目標に研究を

行った。

2 機体の概要

2.1 ホイール

オムニホイール(写真 1)とは、車輪本体の回転

方向に対し, 垂直な方向に小さな車輪(フリーロ

ーラーという)がついたホイールである。メカナ

ムホイールは 8 方向と回転の動きのみであり、完

全な全方位制御はできないという限界がある。ま

た,昨年度使用したメカナムホイールは主軸と各

フリーローラーの軸方向がねじれているのに対し,

オムニホイールの場合は垂直であるため, 乗車の

剛性を保った製作が比較的容易であることからオ

ムニホイールを選択した。

六角柱の軟鋼を中心

軸にし, 各面にタップ

でめねじを立てた。そこ

に市販されているキャ

スターをネジで接合し,

これでフリーローラー

部分を再現した。次に,

同じもの二つを 30°ず

らしてアーク溶接した。

またこのとき六角柱二つ

の間にキーを入れて位置

合わせとねじり強さの剛

性を確保した。

2.2 ボード部

人が乗るボード部の

材料には加工性と軽さに

対する強度から木材を使

用した。また, 二層構造

にして制御系部品を内部

に搭載した。(写真 3)

2.3 ソフトウェア

体重移動の感知には昨年同様 Wii バランスボー

ドを使用した。Wii バランスボードには四隅にひ

ずみセンサが搭載されており、各位置にかかる重

さの測定が可能である。ボードの中心を原点とし

た座標平面(図 1)を設定し,物理の剛体分野で

習った重心の式(1)(2)を用いて重心の位置を xy 座

標で表す。

∙∙∙

∙∙∙ (1)

⋅⋅⋅

⋅⋅⋅ (2)

ここで原点を始点,

重心を終点とするベ

クトル(以下,重心

ベクトル)をとる。

重心ベクトルの長さを進みたい速さと考え,設定

した 大の長さとの割合を PWM 制御の 255 段階

のモーター出力に変換する。ただし,このとき人の

わずかなぐらつきに反応させないように, ベクト

ルの長さの範囲を決めた。進行方向は式(3)を使う

ことで, x 軸の正の向きとなす角をラジアンで算

写真 3 機体本体部

写真 1

自作オムニホイール

図3Wii ボード上の座標平面の設定

写真 2 正面図

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システムデザイン・ロボット分野

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出する。

tan 2 , (3)

算出した出力の割合, 進行方向は以下三角関数の

式(2) 式(4)(5)(6)に代入し各モーターの回転割合を

求める。

sin 30° (4)

sin 150° (5)

sin 270° (6)

※P:重心ベクトルの長さの 大の値との割合

を用いて進行方向に対する3つのモーターの出力

の比を対応させた。例えば真っすぐ前進したいと

きは以下のように計算される。(図 2)

図 2 実際の動き方の例

3 機体の評価

製作した機体は, 直径 54 cm, 重量 30 kg, 地

面からの高さ 21 cm である。機体の能力について

は【表 1】のとおりである。

許容荷重に関しては, 身近の自分と関わる人全

員が乗れることを目標に 「クラス全員が乗車, 操

作出来る」と設定した。これは重さによって方向

の切り替えが遅くなる, 進行速度が小さくなる等

の差異はあるが概ね達成した。

動き方については, 操作者が進みたい方向に全

方向直進することは可能である。しかし, 進行方

向と操作者が向く方向が一致せず, 操作者がボー

ド上で顔の向きを変える必要があるので, やや不

便に感じた。また, カーブ走行は自動車のように

内側の回転数を下げてなめらかに曲がることは不

可能である。 操作者が少しずつ重心を移動させる

必要があり, 操作が難しいと感じた。(図3)

表1 機体の現状と当初の目標との比較

4 今後の展望

起動時に Wii バランスボードの裏のスイッチを

逐一押す必要があるため, 起動スイッチの改良を

行う。またプログラムの各関数の範囲の調節と電

源の改良からスピードアップを実現する。人が機

体に足を置いた瞬間に動作が行われるので乗り降

り時に動かないようにする。以上のような改善点

を克服し、少しでも、社会貢献できるような機体

を作り上げていきたい。 参考文献

(1) 2016 年度課題研究資料 「メカナムホイールを用い

た体重移動による全方向移動車の製作」[参照

2017/09/26]

(2) Yuki’s Panic World!!

http://yukispanicworld.tumblr.com/poSt/10605319

1409 三角関数を使ったオムニホイールの制御方法

[参照 2017/9/26]

当初の目標 現状

許容荷重 クラス全員が

乗車可能

達成

(90kg 重)

進行速度 133cm/s(google

Map の歩行速度)

3.32cm/s

動き 体重移動の仕方で ,

操作者の望む動きを

すべて表現可能

360°全方向進行

可能。旋回, 車と

同じ移動が不可

操 作 難 易

度・疲労度

文化祭でのアンケー

トで 5 段階評価中平

均 4 以上

横への反応が悪く

やや不自由

揺れ 特に設定なし

安心して乗車できる

ようにする

コップの中身がこ

ぼれない程度

図3 動き方