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データインテグリティ対応...データインテグリティ問題の本質と今後の展望を探る の対応策について議論していただき,DIに取り組む多く

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Page 1: データインテグリティ対応...データインテグリティ問題の本質と今後の展望を探る の対応策について議論していただき,DIに取り組む多く

ファームテクジャパン 第34巻第4号 平成30年3月20日発行ファームテクジャパン 第34巻第4号 平成30年3月20日発行ファームテクジャパン 第34巻第4号 平成30年3月20日発行ファームテクジャパン 第34巻第4号 平成30年3月20日発行ファームテクジャパン 第34巻第4号 平成30年3月20日発行ファームテクジャパン 第34巻第4号 平成30年3月20日発行ファームテクジャパン 第34巻第4号 平成30年3月20日発行

Vol.34 No.4 2018 臨時増刊号

データインテグリティ対応―現場レベルで実行可能な具体策―

実践 !発行所

じほう

(株)

〒  

 東京都千代田区猿楽町一│五│一五 猿楽町SSビル

TEL

03│

3233│

6364(編集)3233│

6336(購読)

3233│

6341(広告営業)

101-8421

平成二十九年九月二十日発行

定価(本体四、三〇〇円+税)

©

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DI対応へのバックグラウンド

【荻原】本日の司会を仰せつかりました,株式会社シー・キャストの荻原です。本日はよろしくお願いします。本日は,『データインテグリティ問題の本質と今後の展望を探る』と題して,参加の皆さまとディスカッションさせていただきます。少し大げさなタイトルなので身がまえてしまいそうですが,皆さまが日ごろ思うところ,忌憚のない意見をいただければ幸いです。データインテグリティ(DI)の問題は,例えばマンションのくい打ちデータの改ざんや自動車の燃費データ改ざん,あるいは政務活動費の偽装,大手鉄鋼メーカーによる製品データ改ざんなど,大げさですが国内外,政治・経済を問わずに大きな社会問題となっています。一方,残念ながら医薬品業界でも,製造データや臨床データの改ざんなど同様の問題を抱えています。2015年3月に,英国当局(MHRA)からDIに関するガイダンスが発行されたことに端を発し,FDAやWHO,そしてわが

国も加盟しているPIC/Sからも同様のガイダンスが発行されています。短期間に同じテーマで一斉にガイダンスが発行されたことは,かつてなかったと思います。それだけDIの問題は重要なテーマであると考えられます。本日は,内資,外資,ジェネリック等,それぞれの品質部門の方,製薬企業のIT部門の方,それから行政の立場の方にお集まりいただき,現状の問題点の共有と今後

データインテグリティ問題の本質と今後の展望を探る

参加者

医薬品医療機器総合機構 川北 弘之 氏武田テバファーマ株式会社 合津 文雄 氏MSD株式会社 佐々木 聡 氏Meiji Seika ファルマ株式会社 蛭田 修 氏富田製薬株式会社 的場 文平 氏株式会社シー・キャスト 荻原 健一氏(司会)

第1章

座談会

荻原 健一 氏

 ● Vol.34 No.4(2018)6(642)

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データインテグリティ問題の本質と今後の展望を探る

の対応策について議論していただき,DIに取り組む多くの企業の方に少しでも参考になる情報が提供できればと考えております。本日は,よろしくお願いいたします。

それでは,まずはご参加の皆さんに簡単に自己紹介をお願いいたします。それでは,川北さん,お願いします。 【川北】製薬会社数社で製剤開発・品質保証などを経験してきました。PMDAには2015年に入り,GMP調査を担当しております。今回のテーマのDIに関してはPIC/Sの査察ガイドライン制定に関するワーキンググループに所属しております。 【荻原】ありがとうございます。では,続いて合津さん,お願いします。 【合津】内資の製薬企業に36年ほどおりました。多くはITに関わる仕事で,いまは武田テバファーマに所属しています。現在も,以前の会社にいた際とほとんど同じ業務内容です。所属部署の名前に「CS-QA」という文言が入っていますが,これは“computerized system”の“quality assurance”という意味で,品質保証,クオリティの視点からcomputerized systemに関するアドバイスをしたり,さまざまな社内のルールづくりなどに関係するというような立場です。

これまでの経験としては,ラボのデータ収集をコンピュータで行う業務に携わっていました。日本にはまだパーソナルコンピュータがなかった時代に,アメリカの雑誌を見て,「こんなものが売っているらしい」と情報を得て,それを輸入して使うというようなことから,ラボのデータ収集というようなところにまでどんどん手を広げていくという経験を積んできました。ラボにいながら

“IT”のメンバーで,ただ厳密には“IT”だけではなく,“QA”のような立場でもありながら“QA”でもない,そういった立ち位置で業務に携わってきました。 【荻原】ありがとうございます。それでは,佐々木さん,お願いします。 【佐々木】入社後,最初は工場のQC,QA業務を行っていました。その後,本社に異動し,現在に至るまでGQPの品質保証部門を担当しております。DI関連の業務としては主にGQPの立場でCMO関連のDI管理に関与しています。

また,業界活動としまして製薬協の品質委員会GMP部会に参加しており,DIプロジェクトのプロジェクトリーダーを担当しております。 【荻原】ありがとうございます。続いて蛭田さん,お願いします。 【蛭田】明治製菓に入社後,当初は研究所で主に原薬のスケールアップの研究を行っていました。その後2003年に本社の信頼性保証部という部門に異動し,申請資料のQAの仕事に携わりました。

コンピュータ化システムとの関係でいいますと,当時は文書管理やERPシステムなど,GxPに関わる大きなコンピュータ化システムの導入があり,システムのバリデーションの監査が必要となりました。実は荻原さんの講義も何回も聞きに行ったりして,実務に応用していった経験があります。

申請資料のQA業務で覚えているのは,GLPや信頼性基準試験,たとえば薬理試験などは,いまで言うDIの考え方がしっかりしていたように思います。一方,一変申請等でGMPのデータ等を監査してみると,DIという考えが弱いという印象を持ったように記憶しています。その後,品質保証部門に異動し,GQP関連業務に携わりながら現在に至っております。 【荻原】ありがとうございます。蛭田さんとは,厚生労働省のコンピュータ化システム適正管理ガイドラインを3年半ご一緒に検討させていただいて,毎月議論した仲です。本日もよろしくお願いします。

それでは的場さん。的場さんはPMDAにおられたということもあって,IT部門のみならず幅広い状況もご存じだと思います。 【的場】わたしは2017年の5月から,内資系の製薬企業で

佐々木 聡 氏

 ● Vol.34 No.4(2018) 7(643)

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第1章 座談会

ある富田製薬の原薬/製剤工場の品質管理部門の分析機器付属PCについて,FDA査察のデータインテグリティ関係の指摘事項の改善作業に関与しています。特別顧問という立場なのですが,実質的にはIT担当者のような形で仕事をしております。

その前はPMDAのIT部門にいたのですが,社内SEでしたので特に品質システムに関わるということはございませんでした。さらにその前を申しますと,外資系の製薬企業のIT部門ですとか,外資系のコンピュータベンダーのコンサルティング部門,さらにもっと前には,MESのパッケージを販売する業務や鉄鋼会社の研究所で鉄鋼材料の分析方法の研究開発に従事していたこともあります。こうしてみると,ラボに関してはなじみのある世界であったといえます。 【荻原】ありがとうございます。それでは最後にわたしから自己紹介させていただきます。

わたしは横河電機に入社しDCS(制御システム)の開発に携わっていました。その後,DCSの大きなユーザーである石油精製のシステムエンジニアを経て医薬分野を担当しました。ちょうどFDAからPart 11が出た頃で,横河のシステムやプロダクトもPart 11対応をしなくてはならず,「全社Part 11プロジェクト」を立ち上げ,リーダーを務めました。それを契機にPart 11の支援依頼が多くの会社さんから寄せられ,Part 11コンサルティングのようなこともやりました。

その後,野村総合研究所がヘルスケア本部を立ち上げる際に声をかけていただき,事業戦略研究室というとこ

ろで研究員や,コンサルティングを行っていました。現在は株式会社シー・キャストでCSV,ERES,そして最近ではDIの支援をさせていただいております。

業界活動としては,厚生労働省のコンピュータ化システム適正管理ガイドラインの検討委員や,GAMPフォーラム日本支部の立ち上げなどに参画しました。的場さんともその頃,一緒に活動させていただきました。本日は知り合いも多くいますので,心強いところです。

ではさっそく本題に入ります。まずは企業の皆さまから,DIに対してどのような取り組みを進めてこられたのかご紹介いただきたいと思います。それでは,佐々木さんからお願いしたいと思います。

企業によって異なる取り組み体制

【佐々木】弊社は米国メルク社の完全子会社でありまして,DIの活動はグローバル主導で進めております。グローバル全体としてDIを専門に管理するような部署を設置しておりまして,そこが新しいレギュレーション等の情報を管理し,各製造所,各国に対して,取るべき対策を発布するイニシアチブをとっています。この部署はクオリティーコンプライアンス部門に属しております。 【荻原】それはDIの問題が大きくなったので,一時的に設置した組織ということでしょうか? 【佐々木】部署が設置されてもう数年になると思いますが,規模は徐々に大きくなっているような印象です。当初は特定の人をDIオフィサーに任命していたと思いますが,現在はチーム・組織として機能しております。

弊社におけるDI関連の取り組み方法は大きく2つに分けられると思います。1つは自社工場の中でのものです。DIに関するリスクアセスメントのプロトコルやDI活動を管理するためのマスタープランを作成し,単に機器のアセスメントだけではなくて,DIに関する文化をどうやって従業員に落とし込んでいくかといったコミュニケーションプランなども検討しています。

もう1つの取り組みは,委託製造所さまに対する取り組みです。自社工場とまったく同じレベルというわけではないですが,委託製造所さまにおいてもDIアセスメントに協力いただき,サプライチェーン全体を通じたリス的場 文平 氏

 ● Vol.34 No.4(2018)8(644)

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はじめに

近年,データインテグリティ(DI)の重要性がクローズアップされるに伴い,さまざまなガイドラインが発出され,医薬品査察協定及び医薬品査察協同スキーム(PIC/S)からも査察当局向けガイダンス案が提示されている。しかし,DIは新しい概念ではなく,GMPにおけるデータマネジメントの要求として,すでに多くの条文や解説に記述されている。コンピュータ化システムが汎用されるようになったため,既存の要求事項を整理し,電子データでの対応も含めて解説したのが上記のガイドラインである。本稿では,企業においてライフサイクルを通したDIの管理を実効的に実施するために,医薬品品質システム(PQS)と統合したデータガバナンスの設計を考察する。

データインテグリティとは1

(1)データインテグリティの定義DIに関しては英国医薬品庁(MHRA),世界保健機関

(WHO),アメリカ食品医薬品局(FDA),PIC/Sなどがガイドラインや質疑応答を提示している。その中でデータおよびDIの定義が示されているので図1に示した。それらの意味するところは共通であるが,WHOの定義が最も具体的に記述されているので,それに従うと,データとは“GXP活動の実施時点で生成または記録され,GXP活動の完全かつ包括的な再構成と評価を可能にするようなすべての原データおよび原データの正式な複写を意味し,ソースデータとメタデータ,およびそれらのデータへの後からの変更や報告すべてを含む”とある。また,DIは“どの程度までデータが完全性,一貫性,正確性,信頼性,確実性を備えているか,そして,そのようなデータ特性が,どの程度までデータライフサイクル全体を通じて維持されているかを言い表す”とされ

データガバナンスの品質システムへの統合The integration of Data Governance with Quality System

品質マネジメントアドバイザー

松村行栄TAKAYOSHI MATSUMURA

Quality Management Advisor

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第3章

データインテグリティ確保に向けた必須事項

 ● Vol.34 No.4(2018)54(690)

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1 データガバナンスの品質システムへの統合

ている。これらを踏まえ,本稿ではDIは,“すべてのデータが

ライフサイクルを通して,データの作成,変更(修正・削除)などのすべての活動の再構成が可能で,評価できるように維持されること”であると定義する。

(2)すべてのデータとはでは,ここで言う“再構成のために必要なすべてのデータ”とは何かを,HPLC分析関連データを例に検証する。医薬品製造施設では試験検体がサンプリングされ,試験室に持ち込まれる。そのときにサンプリング記録とリンクしたサンプル受入記録(ログ)が作成される。試験室では受け入れたサンプルの試験指示が出され,分析が実

ガイダンス 定義

米国FDA 定義ナシ

MHRA参照または分析のため,ともに収集された事実および統計値

PIC/S参照または分析のため,ともに収集された事実,数値および統計値

WHO

GXP活動の実施時点で生成または記録され,GXP活動の完全かつ包括的な再構成と評価を可能にするようなすべての原データおよび原データの正式な複写を意味し,ソースデータとメタデータ,およびそれらのデータへの後からの変更や報告すべてを含む

ガイダンス 定義

米国FDAデータが全部揃い,一貫性があり,正確であることを指す

MHRA,PIC/S

すべてのデータがデータのライフサイクルを通して完全で,一貫して,正確である程度

WHO

どの程度までデータが完全性,一貫性,正確性,信頼性,確実性を備えているか,そして,そのようなデータ特性が,どの程度までデータライフサイクル全体を通じて維持されているかを言い表す

すべてのデータがライフサイクルを通して,データの作成,変更(修正・削除)などのすべての活動の再構成が可能で,評価できるように維持されること

データ データインテグリティ

図1 データとデータインテグリティ

分析用サンプルの入手サンプル受入記録

試験指示

定量試験の指示 その他の試験指示

対応が大切

実験(ノート/ワークシート)データの属性:実験日,実験者,実験項目,実験場所,

実験目的,実験方法 

HPLC記録

表示可能なデータ

ソースデータ:時間および電圧/電流値

演算データ

バリデーション・キャリブレーション記録

HPLC・カラム使用記録

保守点検・修理記録

秤量に関するデータ HPLCに関するデータ

解析データ

実験(ノート/ワークシート)データの属性:実験日,実験者,実験項目,実験場所,

実験目的,実験方法 

天秤記録ソースデータ:電圧/電流値

解析処理

バリデーション・キャリブレーション記録

天秤使用記録

表示可能なデータ(ディスプレイ)

図2 分析のデータ(例)

 ● Vol.34 No.4(2018) 55(691)

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第3章 データインテグリティ確保に向けた必須事項

施される。ここで受入記録(データ)がないとサンプリング活動(サンプルの属性データ)と試験活動の関連が再構成できない(図2)。試験指示に定量試験などのHPLC分析が含まれる場合に,HPLC分析が開始される。HPLC分析の始まりは検体の秤量である。ではまず,秤量に関するデータを検証する。

<秤量に関するデータ>(図3)

秤量に関するデータには数値データとメタデータがあ

る。数値データとは天秤から作成される数値で,メタデータとは数値データの属性を示すデータである。天秤から自動生成される秤量時間もメタデータとなる。数値データは天秤装置の中で秤量時に検体重量に相応した電圧/電流値が生成され,解析処理がなされ,数値として作成され表示される。天秤記録の場合は,この解析処理に作業者が介入する機会が少ないので,動的な電子データをプリントアウトして静的な紙データとしたものを原データとすることが許容される。また,この数値データの正確性を保証するためにはバリデーションや

実験(ノート/ワークシート)データの属性:実験日,実験者,実験項目,実験場所,

実験目的,実験方法 

天秤記録ソースデータ:電圧/電流値

解析処理

バリデーション・キャリブレーション記録

天秤使用記録

表示記録(秤量データ)

試験課題 A123検体番号 X789採取日 30/06/14時間 14:56 INR  mg分析者:J スミス    01/07/14

3.5

原データとしてもよい

数値データとメタデータ

静的動的表示可能なデータ(ディスプレイ)

:通常は紙:電子

プリントアウト

時計

図3 秤量に関するデータ

実験(ノート/ワークシート)データの属性:実験日,実験者,実験項目,実験場所,

実験目的,実験方法 

HPLC記録

表示可能なデータ

ソースデータ:時間および電圧/電流値

演算データ

バリデーション・キャリブレーション記録

HPLC・カラム使用記録

保守点検・修理記録

解析データ 表示記録クロマトグラム

演算結果解析条件 等

:通常は紙:電子

プリントアウト

分析手順および規格

図4 HPLC分析に関するデータ

 ● Vol.34 No.4(2018)56(692)

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はじめに

Data integrity(データインテグリティ)は,「データ保全性」,「データの信頼性」等と訳され,Integrity of Data

(データの完全性)とは厳密に言えば異なる。Data integrityとは,WHO(世界保健機関)のテクニ

カルレポート1),MHRA(イギリス:医薬品・医療製品規制庁)2)や米国FDA(食品医薬品局)4)やPIC/S(医薬品査察協定及び医薬品査察協同スキーム)5)のガイダンスに記載されていることを総合して,「データが,データライフサイクルを通じて,完全・一貫性,正確である程度」ということができる。

Data integrityに関する規制が制定される発端となったのは,2001年2月に発覚したシェリングプラウ社の組織的・大々的なQCデータの改ざんにより,2003年米国FDAがPart 11を改訂したことである。さらに2005年にAble Laboratories社(米国ジェネリックメーカー)で見つかったGMP違反(コンピュータ化システムの不備(分

析実験室にあった紙の資料と電子データ上の記録の不一致))を受けて,2007年3月 第31回 国際GMP会議(ギリシャ・アテネ)において,FDA事前承認査察オフィスチーフ(Edwin Rivera Martinez氏(現:サノフィ))によるプレゼンテーション「データインテグリティと不正-新たに迫りくる危機か?」では,FDAがData integrityに対する危機感をあらわにした。その後,各国規制当局によるData integrityのトレー ニングを経て,2015年から2016年にかけてガイドライン等がドラフトとしてまとめられた。2015年3月にMRHAがガイダンス 2)を発出し,さらにTGA(豪州:保健省薬品・医薬品行政局)3),米国FDA4),WHO,EMA(欧州医薬品庁),PIC/S5)が相次いでガイダンスをまとめた。このうち,WHOのAnnex 5,Technical Report Series;No 996“Guidance on Good Data and Record Management Practices,”(2016年3月)およびEMAのAnnex 11,Q&A - GMP Data integrity

(2016年8月)は施行されているが,その他のガイダンスは現時点(2017年12月)ではドラフト状態である。

サノフィにおけるデータインテグリティへの取り組み-内部監査を通して-Activities to address Data integrity in Sanofi - Through internal audit

サノフィ株式会社 グローバル品質監査部門

森 一史HITOSHI MORI

Sanofi KK / Global Quality Audit

3

第4章

製薬企業におけるデータインテグリティ確保への視点

 ● Vol.34 No.4(2018) 107(743)

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第4章 製薬企業におけるデータインテグリティ確保への視点

当社では,全世界へ製品供給を行っているため,ほぼ日常的に各国規制当局の査察を受けている。その中で2015 年 に 米 国 FDA に よ り, 複 数 の サ イ ト で Data integrityに関する指摘(Form 483)を受けたことに鑑み,グローバルトップマネジメントから内部監査を行うグローバル品質監査部門(Global Quality Audit)に対して,内部監査の強化が指示された。本稿では,内部監査を行っている立場から,当社のData integrityに関する取り組みをご紹介する。

Data integrityに関するグローバル品質文書1

当社では,グローバルな書類体系として,品質ポリシーおよび品質マニュアルの下に,全世界的に統一された品質基準としてGlobal Quality Directives(QGQD),Operational Quality Standards(QOQS)およびOperational Quality Guidances(OQOG)を定めている。

現在,Data integrityに関する社内品質基準として,QGQDが11文書,QOQSが19文書,QOQGが9文書あり,システムとしては品質マネジメントシステム,製造,メディカルおよび臨床,ラボ,コンピュータ化システムに関連するものが制定されている。

QOQSの1つである「Data integrity(QOQS-014090)」では各国規制当局(EMA,米国FDA,MHRA,OECD(経済協力開発機構)6)およびPIC/S)のガイドまたはガイダンスに基づいて,一般的な要件,データの信頼性,組織的な管理,技術的な管理および作業上の要因について記述されている。

(1)Data reliability (データの信頼性)デー タの信 頼 性は,Data integrityの原 則である

ALCOA(Attributable( 帰 属 性 ),Legible( 判 読 性 ),Contemporaneous(同時性),Original(原物),Accurate

(正確さ))に加えてEMAの電子データに関するConcept paper7)およびGCP査察ガイダンス8)に基づくCompleteness

(完成・完全性),Consistency(一貫性),Traceability(トレーサビリティ:追跡可能な),Trustworthiness(信頼性)を加えたALCOA+が記述されている。

データの信頼性は,Data integrityのカギとなる要素

であり,コンピュータ化システムにおける電子データ管 理とともに紙ベー スのデー タ管 理においてもGood Documentation Practice(優良な文書化の実践)を定めている。その中には,Raw data(生データ)の取扱いに始まり,記録,サイン(署名),修正(訂正)方法,禁止事項,コピーなど詳細に記述されている(詳細は後述)。

(2)Data integrityへの取り組み当社のData integrityへの取り組みとしてQOQS-14090

に記述されている「組織的な管理」,「技術的な管理」および「作業上の要因」の側面から紹介する。

①組織的な管理

組織的な管理としては,以下のように記述されている。● すべてのGxP業務に従事する従業員がData integrity

の重要性とData integrityの問題が及ぼす患者の安全性,製品品質,製品供給への影響を明確に理解すること(この管理の取り組み例として,e-learning

(イーラーニング)を後ほど紹介)● 品質マネジメントシステムは,以下のような内容を

含むこと GxP文書および記録の管理 Good Documentation Practice( 優 良な文 書

化の実践)(詳細は後述) GxPデータを取り扱う従業員がData integrity

の要求事項を理解していることの保証 GxPデータを扱うコンピュータ化システムは,

用途に合致していることの保証● 品質監査と自己点検は,GxP監査の重要なエリアと

してData integrityに焦点を当てること(この取り組み例を後ほど紹介)

● GxP Data integrity違反を防止,検知,上申する適切な仕組みがあること

(技術的な管理で述べる内部監査や自己点検も仕組みの1つ)

● 外部業者との品質協定書は,Data integrityの要求事項を考慮すること

(当社が管理する外部業者に対しても要求事項としている)

 ● Vol.34 No.4(2018)108(744)