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日皮会誌:95 (11), 1153-1157, 1985 (昭60)
抗毛ケラチソ単クローソ抗体(HKN-5, HKN-6, HKN・7
およびHKN-8)による正常ヒ,ト成長期毛組織の
免疫組織化学的研究
田沢
伊藤
敏男
薫
伊藤
佐藤
要 旨
hair fibrous proteinに対する単クローン抗体
(HKN・5, HKN-6, HKN・7およびHKN・8)を作製し,
正常ヒト成長期毛組織を免疫組織化学的に検索した.
これらの抗体の反応性から成長期毛組織各層のケラチ
ソ線維の免疫学的性格を明らかにした.すなわち,毛
髄質,毛皮質,毛小皮と内毛根鞘は免疫学的に類似し
たケラチソ形成を示し,外毛根鞘の最内層細胞はその
他の外毛根鞘細胞とは異ったケラチソ形成を示すこと
を明らかにした.
緒 言
ケラチンは上皮細胞に特異的に存在するinter-
mediate filamentである1)が,各上皮細胞において
異ったポリペプタイド構成が知られている町ケラチ
ンに対して作製された単クローン抗体として,広く上
皮細胞と反応する抗体3)4)のほか,特定の上皮細胞のみ
を識別する抗体5)6)が報告されている.皮膚では従来,
毛ケラチンは表皮ケラチンと生化学的にかなり異ると
されている7).著者らはすでに毛ケラチソ線維性蛋白
に対して作製した単クローン抗体(HKN-2)により,
正常ヒト皮膚組織の免疫組織化学的研究を報告し
た4)8)9)今回,毛組織と特異的に反応する抗毛ケラチソ
単クローン抗体(HKN-5, HKN-6, HKN-7および
HKN-8)を用いてヒト成長期毛組織を免疫組織化学的
に検索し,毛および毛包の各層のケラチソ線組の形成
新潟大学医学部皮膚科学教室(主任 佐藤良夫教授)
Toshio Tazawa, Masaaki Ito, Naoya Shimizu,
Kaoru Ito and Yoshio Sato : An immunohisto-
chemical study on the norma! human anagen hair
and hair follicleusing anti-hair keratin mono-
clonal antibodies (HKN-5, HKN-6, HKN・7 and
HKN-8)
昭和60年1月14日受付,昭和60年5月29日掲載決定
別刷請求先:(〒951)新潟市旭町通1番町 新潟大学
医学部皮膚科学教室 田沢敏男
雅章
良夫
清水 直也
に関して新しい知見を得たので報告する.
実験材料および方法
毛ケラチソ線維性蛋白の抽出法:すでに報告した方
法9)で行った.ヒト正常毛の8M尿素, 0.8M 2-mer-
captoethanol含有Tris-NaOH緩衝液(pH 10.5)に
可溶性の成分にmonoiodoacetate solutionをpH 8.0
の条件下で反応させ, S-carboxymethylationを行い,
sodium acetate buffer(pH4.0)に対して透析し,析
出不溶性成分(low sulfur fraction)を精製し,凍結
乾燥し用いた.この分画がhair fibrous proteinであ
る7).
単クローン抗体の作製法:すでに報告した方法で
行った9).hairfibrous protein で免疫したBALB/cマ
ウスの牌細胞とマウス骨髄腫細胞(Sp2/O-Agl4)を
50% polyethyleneglycol 4000 (Merck,ドイツ)を用
いて細胞融合を行った.マウス腹腔マクロファージを
加えたHAT培地で培養し, enzyme・linked im-
munosorbent assay (ELISA)でその培養上清中に
hair fibrous proteinに対する特異抗体を産生してい
る細胞を同定した.その細胞をさらにIimting dilution
によりクローニングを行い,単クローソ性のハイブリ
ドーマを得た.腹水として抗体を回収した.抗体の免
疫グロブリン・サブクラスはELISAで決定した.
間接蛍光抗体法:4μmの正常ヒト皮膚の未固定凍
結切片およびエタノール固定脱パラフィソ切片を用
い,各抗体の組織反応特異性を検索した.一次抗体と
してHKN-5, HKN-6, HKN-7およびHKN・8,二次抗
体としてFITC標識ヤギ抗マウスlgG抗体(Cappel,
U.S.A.)をPBSで希釈し,室温,30分間反応させた.
Zeiss Standard 18FL蛍光顕微鏡で観察した.
結 果
単クローソ抗体の免疫グロブリン・サブクラス:
HKN-5, HKN-6, HKN-7およびHKN-8はマウス免疫
グロブリンIgG 1であった.
間接蛍光抗体法所見:HKN-5は毛母には反応せず,
1154 田沢 敏男ほか
図卜A 毛球部のHKN-5蛍光抗体法所見.毛皮質
(Co),毛小皮(C),外毛根鞘最内層細胞(大矢印)
に強い反応がみられ,内毛根鞘(I)に弱い反応が
みられる.毛母(M),外毛根鞘最内層細胞以外の外
毛根鞘細胞には反応はみられない.P,毛乳頭;小
矢印,基底膜.
図卜B ヘソレ層が角化するレベルの毛組織の
HKN・5蛍光抗体法所見.毛皮質(Co),毛小皮(C)
に強い反応がみられる.内毛根鞘(I)では弱い反
応がみられるが,角化したヘソレ層(矢尻)では反
応がみられない.外毛根鞘では最内層細胞(大矢阻)
に強い反応がみられ,その外側の細胞には反応はみ
られない.小矢印,基底膜.
角化帯の毛髄質,毛皮質,毛小皮に強く反応し,鞘牛
皮,ハックスレー層,ヘンレ層に弱く反応した.しか
し,それぞれ角化した部位ではまったく反応がみられ
なかった.外毛根鞘では,毛球部から下部毛包では,
ヘソレ層に接する一一層の扁平な外毛根鞘最内層細胞に
HKN-5に対する強い反応性がみられた昿その他の外
毛根鞘細胞には反応はみられなかった(図∩.やや上
方で毛狭部に近くなると反応する最内層細胞はほぼ立
方形となり,さらに毛狭部では外毛根鞘性角化後の角
質層の表面を一層の細胞層として覆うようにHKN-5
陽性蛍光がみられた(図2). HKN-6, HKN-7および
HKN-8は,毛母には反応せず,角化帯の毛髄質,毛皮
質,毛小皮,鞘牛皮,ハックスレー層,ヘソレ層には
HKN-5と同様に反応した(図3, 4).ただし毛皮質と
内毛根鞘の反応様式は,各抗体間で差異がみられた(図
3).また,それぞれ角化した部位にはやはり反応がみ
られなかった,しかしながらHKN-5とは異り,外毛根
鞘には,その最内層細胞を含めてまったく反応しな
かった(図4).これらの抗体はいずれ乱表皮,脂腺,
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41
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図2-A 毛皮質,ハックスレー層が角化するレベルの
毛組織のHKN,5蛍光抗体法所見.毛髄質(m),毛
皮質(C)に強く,内毛根鞘(I)のハックスレー
層に弱い反応がみられるが,角化した部位(*)に
は反応がみられない.外毛根鞘(O)では最内層細
胞(大矢印)に強い反応がみられるが,その外側の
細胞には反応はみられない.小矢印,基底膜.
図2-B 拡大図.最内層細胞(大矢印)はこの部位で
は立方形を呈する.0,外毛根鞘;小矢印,基底膜.
図2-C 外毛根鞘性角化を示すレベルの毛組織の
HKN-5蛍光抗体法所見.外毛根鞘性角化を示す細胞
(*)の表面に角化した外毛根鞘最内層細胞(大矢印)
の強い反応を認める.0,外毛根鞘;小矢印,基底
膜.
汗腺には反応性を示さなかった(図5).
考 按
従来, simple epithelia のみを認識する抗ケラチソ単
クローソ抗体が報告されている5)6)が,毛組織に特異的
な抗体は報告されてトない.今回のヒト正常皮膚にお
ける蛍光抗体法所見より, HKN-5, HKN-6, HKN-7お
よびHKN-8は,いずれも毛組織に特異的に反応する
抗体であるといえる. intermediate filament の分子構
造は互いに類似している1o)が,毛および表皮ケラチン
のアミノ酸配列には共通した部分と異った部分とかあ
り,まったく同一ではないことが明らかにされてい
る11)おそらく今回作製したこれらの抗体は,ケラチソ
単クローソ抗体(HKN-5,HKN-6,HKN-7およびHKN-8) 1155
図3-A 毛組織のHKN-6蛍光抗体法所見.角化帯の
毛皮質(C),毛小皮,内毛根鞘(i)に強い反応が
みられ,内毛根鞘(i)では角化直前のヘソレ層お
よびハックスレー層の反応が強い.
図3-B 毛組織のHKN-7蛍光抗体法所見.角化帯の
毛皮質(C),毛小皮,内毛根鞘O)に全体に強い
反応がみられる.
図3-C 毛組織のHKN-8蛍光抗体法所見.角化帯の
毛皮質(C),毛小皮に弱く,内毛根鞘(i)では角
化直前にヘソレ層およびハックスレー層に強い反応
がみられる.
図4-A 毛球部のHKN-6蛍光抗体法所見.毛皮質(Co),毛小皮(C),内毛根鞘(I)
に強い反応がみられる.毛母(M),外毛根鞘には反応はみられない.P,毛乳頭;
小矢印,基底膜.
図4-B ヘソレ層が角化するレベルの毛組織のHKN-6蛍光抗体法所見.毛皮質(Co),
毛小皮(C),内毛根鞘(I)に強い反応がみられる.角化したヘソレ層(矢尻)で
は反応がみられないが,角化直前の細胞の反応が強い.外毛根鞘(O)には反応は
みられない,
図4-C ハックスレー層が角化するレベルの毛組織のHKN-6蛍光抗体法所見.毛皮
質(Co),毛小皮(C),内毛根鞘(I)のハックスレー層に強い反応がみられるが,
角化した内毛根鞘(*)には反応がみられない.外毛根鞘(O)には反応はみられ
ない.
1156 田沢 敏男ほか
図5:正常皮膚のHKN-7蛍光抗体法所見.角化帯の
毛皮質(*),毛小皮,内毛根鞘に全体に反応がみら
れる.表皮(E),脂腺(S),外毛根鞘(O)に反
応はみられない.
のポリペプタイドのうち毛ケラチンに特異的に存在す
る部分を認識しているものと考えられる.
毛組織の各層におけるケラチソ線組形成の異同に関
してはほとんど知られていない.毛髄質,毛皮質,毛
小皮,内毛根鞘の細胞は,これらの抗毛ケラチソ単ク
ローソ抗体のいずれと乱 その角化帯において反応を
示し,毛母細胞および角化した細胞は反応しないとい
う同様の反応性を示す.したがって,これら各層にお
けるケラチソ形成はかなり質的に類似していると考え
られる.しかし,抗体によりこれら各層の反応様式に
差異がみられることから,それぞれの抗体が認識する
ケラチンの構成要素に関しては多少の差異があると推
測される.
外毛根鞘のHKN-5に対する反応性から,ヘソレ層
に接する一層の外毛根鞘最内層細胞には,それ以外の
外毛根鞘細胞に存在せず,毛髄質,毛皮質,毛小皮,
内毛根鞘細胞と類似したケラチソ線組が形成されると
いえる.一方,外毛根鞘最内層細胞は, HKN-6, HKN-
7およびHKN-8では認識されないことから,毛髄質,
毛皮質,毛小皮,内毛根鞘とは明らかに区別される.
また,すでに報告した8)9) HKN-2は,同様にhair
fibrous protein に対する単クローソ抗体であり,毛皮
質や内毛根鞘などの他に外毛根鞘平表皮にも反応す
る.このHNK-2の反応性からは,各層に共通するケラ
チンの要素が存在しているといえる.従来,形態学的
には外毛根鞘最内層細胞は外毛根鞘の一部として,他
の外毛根鞘細胞とは特に区別されていない.しかし,
この最内層細胞は,毛球部,毛包下部においては,そ
の扁平な形態から明らかに形態学的にもその外側の外
毛根鞘細胞と区別され,しだいに立方形の形態となり,
毛狭部では外毛根鞘性角化の表面を覆っている.した
がって,外毛根鞘最内層細胞は,外毛根鞘性角化に到
る外毛根鞘細胞とは別に,毛球部からヘソレ層と並ん
で分化するものと考えられる.
以上,抗毛ケラチソ単クローソ抗体HKN-5, HKN-
6, HKN-7およびHKN-8による免疫組織化学的倹素に
より,毛組織の各層のケラチソ線組の分化を明らかに
することができた.特に,外毛根鞘最内層細胞が,他
の外毛根鞘細胞とは異った分化をすることが示され
た.
本論文の要旨は第83回日本皮膚科学会学術大会「シンポ
ジウムII」(昭和59年6月)および第48回日本皮膚科学会東
目本学術大会(昭和59年11月)で発表した.
単クg-ソ抗体(HKN-5, HKN-6, HKN-7およびHKN-8)
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