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して して - 事 例 に 学 ぶ 顧 客 満 足 度( C S ) の 高 め 方 - 2013.2- No.377 はじめに サービスの原点は、お客様の期待に応えることで す。お客様の期待をいち早くつかむことこそが、成功 の扉を開く「魔法の鍵」なのです。そのため、各社と も「お客様の声」を上手にキャッチし、製品の改良や 新サービスの開発に結び付けようと躍起になってい るわけです。今回は、魔法の鍵で開いた扉の先にある お客様の声を「宝の山」に変えるポイントについて、 ご紹介します。 Point1 「的確に伝える」が基本 ある住宅メーカーから、「社員が聞いたお客様の声 を活用したい」という依頼を受けました。早速、声の 記録をたどってみると、保守担当者 A が受けたお客 様からの意見に目が留まりました。記録用紙には、「1 階にいると2階の音が響いて気になる」と書かれてあ ります。開発担当者Bに確認すると、「まあ、気になる 人には気になりますから……」という程度で、重要な 声とは認識していない様子です。とはいえ、見過ごす わけにはいきません。詳しく確認するため、記録を残 した社員にあらためて尋ねてみると、実際のお客様の 声は、「話し声やテレビの音は気にならないんだけど、 椅子などをちょっと動かすと、引きずるような音が響 いて気になる」というものでした。これを聞いた開発 担当者 B は、「ということは、空気中を伝わる間接的 な音は防げているが、直接的な振動や音は防げていな いことになる」と、何かに気づいた様子です。つまり、 保守担当者の書き方では、活用側から見ると大事な情 報が抜けてしまっていたわけです。本当は価値ある お客様の声も、どう記録し、どう伝えるかで、活きる か活きないかが左右されてしまう典型的な事例です。 Point 2 「声なき声」を引き出す ある自動車メーカーから、「お客様の声を開発・改 良に活かしたいので、アドバイスしてほしい」と依頼 されました。お客様相談室に蓄積されたお客様の声 に目を通してみると、「これではどう活かせばよいの か分からない」という声の記録が幾つも見つかりまし た。例えば、「車種○△の最低地上高に関するご質問 を受けたので、カタログを確認して 14 c mですとお 伝えしました。以上」といった具合です。これでは、 お客様の真意が分からないので、開発・改良に活かす ことは困難です。もし、相談室のスタッフが「あのー、 どのような理由で最低地上高をお知りになりたいの でしょうか。他にもお役に立てる情報があるかもし れないので、お聞かせいただけますでしょうか」など 江渡 康裕 株式会社日本能率協会 コンサルティング チーフ・コンサルタント 第9回 と、インタビューをしていたらどうでしょう? お客 様から「コインパーキングの段差が○cmだから」と か、「家の敷地と歩道の段差が12cmあるから気にな って」とか、「他社の□□という車種は12cm だから」 といった理由が分かれば、開発の検討やカタログの変 更などに結び付いたはずです。このように、お客様は、 企業の役に立つために質問をするわけではありませ ん。ですから、企業側が「本当は何に困っているのだ ろうか」「どんな背景があるのだろうか」と、当たり前 の光景の疑問点を意識する“疑問意識力”を持つ必要 があるのです。一歩踏み込んでインタビューをする かどうかで、お客様の声がお宝に化けたり、紙屑に終 わってしまうわけです。 Point 3 高価な「一言」に着目 聞かれれば、多くの企業が、「当社はお客様の声を 大事にしている」と言うでしょう。しかし、シンプル に「この1年でお客様の声を活用して、何を改善・改 良しましたか?」と問うと、ほとんどの経営者が口ご もってしまいます。マーケティングや C S の担当者か らは、「お客様の声を主管部門に上げていますが、主管 部門からは何人のお客様がそういう意見を持ってい るのか、少数意見なら改善できないと突き放され、な かなか改善が進まないのです」と、諦めの声さえ聞こ えてきます。しかし、本当に価値があり、時代を先取 りした製品やサービスは、ほんの一握りのお客様の発 想や疑問から生み出されることがあるのです。また、 多数のお客様の意見になってしまってからでは、他社 に出遅れてしまうはずです。「お客様の声は宝の山」 というのであれば、本来は「たった一言」でも大切に するべきでしょう。それが、自社の方向性を左右した り、商品開発や改良のヒントに結び付くかもしれない のですから……。アンケートなどで、お客様に「声を お聞かせください」とお願いする前に、たった一言で も重く受け止め、改革に取り組む覚悟と体制が整って いるかどうかを再確認するべきではないでしょうか。 〈お客様の声を宝の山にするためのポイント〉 ■今回ご紹介した3つのポイント ■より効果的な取り組みの ために必要な要素 声を宝の山に変え、活用につなげる 伝わるライティング 活用側から考えて、 お客様の真意を伝えるよう 記録・表現する 引き出すインタビュー お客様の質問や要望の 背景にある問題や実感・ 実態を引き出す 価値ある一言への着目 声を元に先進的な改革や 先取りの開発に踏み出す 体制と覚悟を整える 声を聞くチャネル 声を聞くべきお客様の、 聞くべき声を収集する仕組み 声から「気づく」力 声の背景にある真のニーズや 問題を想像し検証する体制 改革実行力 課題化し対策を立てて やりとげる組織力

と、インタビューをしていたらどうでしょう? お客 お客様の声 ... · 2017-09-28 · るわけです。今回は、魔法の鍵で開いた扉の先にある

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Page 1: と、インタビューをしていたらどうでしょう? お客 お客様の声 ... · 2017-09-28 · るわけです。今回は、魔法の鍵で開いた扉の先にある

青 い 鳥 を 探 し て青 い 鳥 を 探 し て-事 例 に学 ぶ 顧 客 満 足 度( C S) の 高 め方-

2013.2-  No.377

はじめにサービスの原点は、お客様の期待に応えることで

す。お客様の期待をいち早くつかむことこそが、成功の扉を開く「魔法の鍵」なのです。そのため、各社とも「お客様の声」を上手にキャッチし、製品の改良や新サービスの開発に結び付けようと躍起になっているわけです。今回は、魔法の鍵で開いた扉の先にあるお客様の声を「宝の山」に変えるポイントについて、ご紹介します。

Point1 「的確に伝える」が基本ある住宅メーカーから、「社員が聞いたお客様の声

を活用したい」という依頼を受けました。早速、声の記録をたどってみると、保守担当者Aが受けたお客様からの意見に目が留まりました。記録用紙には、「1階にいると2階の音が響いて気になる」と書かれてあります。開発担当者Bに確認すると、「まあ、気になる人には気になりますから……」という程度で、重要な声とは認識していない様子です。とはいえ、見過ごすわけにはいきません。詳しく確認するため、記録を残した社員にあらためて尋ねてみると、実際のお客様の声は、「話し声やテレビの音は気にならないんだけど、椅子などをちょっと動かすと、引きずるような音が響いて気になる」というものでした。これを聞いた開発担当者Bは、「ということは、空気中を伝わる間接的な音は防げているが、直接的な振動や音は防げていないことになる」と、何かに気づいた様子です。つまり、保守担当者の書き方では、活用側から見ると大事な情報が抜けてしまっていたわけです。本当は価値あるお客様の声も、どう記録し、どう伝えるかで、活きるか活きないかが左右されてしまう典型的な事例です。

Point2 「声なき声」を引き出すある自動車メーカーから、「お客様の声を開発・改

良に活かしたいので、アドバイスしてほしい」と依頼されました。お客様相談室に蓄積されたお客様の声に目を通してみると、「これではどう活かせばよいのか分からない」という声の記録が幾つも見つかりました。例えば、「車種○△の最低地上高に関するご質問を受けたので、カタログを確認して14cmですとお伝えしました。以上」といった具合です。これでは、お客様の真意が分からないので、開発・改良に活かすことは困難です。もし、相談室のスタッフが「あのー、どのような理由で最低地上高をお知りになりたいのでしょうか。他にもお役に立てる情報があるかもしれないので、お聞かせいただけますでしょうか」など

江渡 康裕

株式会社日本能率協会コンサルティングチーフ・コンサルタント

第 9回

お客様の声を“宝の山”にするアプローチ

と、インタビューをしていたらどうでしょう? お客様から「コインパーキングの段差が○cmだから」とか、「家の敷地と歩道の段差が12cmあるから気になって」とか、「他社の□□という車種は12cmだから」といった理由が分かれば、開発の検討やカタログの変更などに結び付いたはずです。このように、お客様は、企業の役に立つために質問をするわけではありません。ですから、企業側が「本当は何に困っているのだろうか」「どんな背景があるのだろうか」と、当たり前の光景の疑問点を意識する“疑問意識力”を持つ必要があるのです。一歩踏み込んでインタビューをするかどうかで、お客様の声がお宝に化けたり、紙屑に終わってしまうわけです。

Point3 高価な「一言」に着目聞かれれば、多くの企業が、「当社はお客様の声を

大事にしている」と言うでしょう。しかし、シンプルに「この1年でお客様の声を活用して、何を改善・改良しましたか?」と問うと、ほとんどの経営者が口ごもってしまいます。マーケティングやCSの担当者からは、「お客様の声を主管部門に上げていますが、主管部門からは何人のお客様がそういう意見を持っているのか、少数意見なら改善できないと突き放され、なかなか改善が進まないのです」と、諦めの声さえ聞こえてきます。しかし、本当に価値があり、時代を先取りした製品やサービスは、ほんの一握りのお客様の発想や疑問から生み出されることがあるのです。また、多数のお客様の意見になってしまってからでは、他社に出遅れてしまうはずです。「お客様の声は宝の山」というのであれば、本来は「たった一言」でも大切にするべきでしょう。それが、自社の方向性を左右したり、商品開発や改良のヒントに結び付くかもしれないのですから……。アンケートなどで、お客様に「声をお聞かせください」とお願いする前に、たった一言でも重く受け止め、改革に取り組む覚悟と体制が整っているかどうかを再確認するべきではないでしょうか。

〈お客様の声を宝の山にするためのポイント〉■今回ご紹介した3つのポイント

■より効果的な取り組みの ために必要な要素

声を宝の山に変え、活用につなげる

伝わるライティング活用側から考えて、

お客様の真意を伝えるよう記録・表現する

引き出すインタビューお客様の質問や要望の背景にある問題や実感・実態を引き出す

価値ある一言への着目声を元に先進的な改革や先取りの開発に踏み出す体制と覚悟を整える

声を聞くチャネル声を聞くべきお客様の、

聞くべき声を収集する仕組み

声から「気づく」力声の背景にある真のニーズや問題を想像し検証する体制

改革実行力課題化し対策を立ててやりとげる組織力