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- 41 - プロジェクト IRC:多読授業における社会文化的アプローチの効果 Project IRC: Effects of the Sociocultural Approach in Extensive Reading Classrooms 水 野 邦太郎 MIZUNO Kunitaro 福岡県立大学 Fukuoka Prefectural University 東 矢 光 代 TOYA Mitsuyo 琉球大学 University of the Ryukyus 川 北 直 子 KAWAKITA Naoko 宮崎県立看護大学 Miyazaki Prefectural Nursing University 西 納 春 雄 NISHINOH Haruo 同志社大学 Doshisha University Abstract This paper reports on Project IRC, which was conducted in the Fall 2011 semester at multiple universities. IRC, or Interactive Reading Community, is specically designed for extensive reading classrooms. It enables students to share their reading experiences in an online community. The website itself as well as classes utilizing the IRC are designed based on the sociocultural approach to foreign language acquisition. The effects of classroom teaching were examined with a questionnaire conducted in ve different universities. The analyses of data from 434 students, more than 70% of whom had rather negative attitudes toward studying English, revealed that IRC- based teaching produced remarkably positive effects such as reducing negative feeling towards learning English and nourishing greater condence in nding reading materials that are appropriate for their English prociency and personal interests. Related to those results, descriptors that are closely tied to the sociocultural approach were marked high in the questionnaire. The results were also compared among different universities, where subtle differences in teaching styles and classroom policies as well as students’ characteristics unique to each school may have led to different results. An example of a case in which there were difculties in using IRC is also reported with further words of suggestions.

プロジェクトIRC:多読授業における社会文化的アプローチの …そしてIRC というウェブサイト(文化的道具)を開発し、2つの大学で IRC

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    プロジェクト IRC:多読授業における社会文化的アプローチの効果

    Project IRC: Effects of the Sociocultural Approach in Extensive Reading Classrooms

    水 野 邦太郎

    MIZUNO Kunitaro

    福岡県立大学

    Fukuoka Prefectural University

    東 矢 光 代

    TOYA Mitsuyo

    琉球大学

    University of the Ryukyus

    川 北 直 子

    KAWAKITA Naoko

    宮崎県立看護大学

    Miyazaki Prefectural Nursing University

    西 納 春 雄

    NISHINOH Haruo

    同志社大学

    Doshisha University

    Abstract

    This paper reports on Project IRC, which was conducted in the Fall 2011 semester at multiple universities. IRC,

    or Interactive Reading Community, is specifi cally designed for extensive reading classrooms. It enables students

    to share their reading experiences in an online community. The website itself as well as classes utilizing the

    IRC are designed based on the sociocultural approach to foreign language acquisition. The effects of classroom

    teaching were examined with a questionnaire conducted in fi ve different universities. The analyses of data from

    434 students, more than 70% of whom had rather negative attitudes toward studying English, revealed that IRC-

    based teaching produced remarkably positive effects such as reducing negative feeling towards learning English

    and nourishing greater confi dence in fi nding reading materials that are appropriate for their English profi ciency

    and personal interests. Related to those results, descriptors that are closely tied to the sociocultural approach

    were marked high in the questionnaire. The results were also compared among different universities, where

    subtle differences in teaching styles and classroom policies as well as students’ characteristics unique to each

    school may have led to different results. An example of a case in which there were diffi culties in using IRC is

    also reported with further words of suggestions.

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    1. はじめに Zuengler and Miller (2006)は、Larsen-Freeman (1991)による 1970 年から 1990 年にかけての第二言

    語習得 (SLA) 研究のレヴューを踏まえ、“The SLA process was considered, almost unanimously, to be an

    internalized, cognitive process” (p. 36) とコメントしている。そしてその後の 15 年間の動向を振り返り、

    “Writing as we are, 15 years later, the cognitive continues to dominate SLA” (p. 36)と述べ、SLA研究にお

    いて「認知的」側面が「主流」であることを指摘している。Firth and Wagner (1997, 2007)は同様の指

    摘をしながらも、1997 年から 2007 年までの 10 年間で、言語習得の「社会文化的」な側面、すなわ

    ち、言語習得が「他者」や「道具」に媒介され発達するという視点からの SLA研究が増えてきてい

    る (Firth and Wagner, 2007)と述べている。そして、認知的アプローチと社会文化的アプローチの両面

    からバランスのとれた研究が必要であるという意識が、SLAの分野でも高まってきているとしてい

    る。その流れは、Zuengler and Miller (2006)が、社会文化的なアプローチを含め多くの観点から SLA

    を捉え、様々な理論が検討されることが健全であると主張しているのと一致している。

     翻って「多読」という教授法の授業形態においても、このような SLA研究における潮流のなかで、

    認知的アプローチが主流を占めてきたと言えよう。Krashen (1985)が「インプット仮説」を立て、言

    語能力習得という目的を達成するには「理解できるインプットを大量に脳に入力する」ことを提示し

    た。そのための方法として Free Voluntary Reading(以下 FVR) (Krashen, 1993)が提案された。Mason

    and Krashen (1997)は、FVRクラス(読書と教師による語り聞かせの授業)と精読クラス(文法訳読

    の授業)の読解力の伸びを、一年後クローズテストで調査し、FVRクラスに比べて精読クラスの得

    点の伸びは半分であったと報告している。また、FVRによる「読書」を中心に置いた授業が、読解

    力だけでなく単語力、文法力、作文力にも効果があり、TOEFL や TOEICの点数が上昇したことが

    Mason (2006, 2011)で報告されている。その一方で、酒井・神田(2005)はインプットする量として

    「100 万語を読む」という 1つの指標を示した。100 万語多読の教室で、生徒は「多読三原則(1. 辞書

    は引かない、2. わからないところは飛ばす、3. 進まなかったらやめる)」によって 100 万語の読破を

    目指す。そして教師は「多読授業三原則(1. 教えない、2. 押しつけない、3. テストしない)」に基づ

    き「読書が授業」を実践する。このような「英語多読人口」について高瀬(2010)は、2003 年から

    2008 年にかけての年ごとの推移を地図で表しており(pp. 14-15)、その 6年間で小学校から大学まで、

    多読の授業が全国に急速に広まったことが伺える。

     FVRや 100 万語多読授業が「理解できるインプットを大量に脳に入力する」ことを端的に目的と

    して掲げていることから、両者には共通して認知的アプローチに基づいた学習観、すなわち、学習を

    個人の頭の中の情報処理、認知的な過程として捉える考え方が背景にあることがわかる。しかしなが

    ら、そのような個人主義的、認知主義的な学習観は、発達心理学や教育学における学習論の議論にお

    いては「個体能力主義」(石黒 , 1998)と呼ばれ批判されている。そして、学習を社会文化的な視点

    から、すなわち、他者や環境との相互作用の視点から関係論的に捉えることの重要性が指摘されてい

    る。本研究は、「個体能力主義」からの脱却をめざし、社会文化的アプローチの観点からデザインし

    試みた洋書の多読授業プロジェクト「プロジェクト IRC」(IRC = Interactive Reading Community)の実

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    践と教育的効果を報告し、その教育的価値を考察する。

    2. 社会文化的アプローチから捉えた多読授業のデザインと研究の目的 社会文化的アプローチは Vygotsky (1978)の理論に源流をもち、その立場から捉えた学習観の特徴

    を Van Patten and Benati (2010)は次のように説明している。

    The major or central construction in Sociocultural Theory is mediation. Mediation refers to the idea

    that humans possess certain cultural tools, such as language, literacy, numeracy, and others, that they

    purposefully use to control and interact with their environment. In other words, these tools mediate

    between individuals and the situations in which they fi nd themselves.

    Another major construct within Sociocultural Theory is the Zone of Proximal Development (ZPD). ...the

    ZPD refers to the distance between a learner’s current ability to use tools to mediate his or her environment

    and the level of potential development. In short, the ZPD is a metaphor to describe development

    situationally. (p. 152. 下線は著者による)

     すなわち、人間の発達と環境の間は文化的道具 (cultural tools)によって「媒介 (mediation)」されて

    おり、道具の使用が発達の最近接発達領域 (ZPD: Zone of Proximal Development)において重要な役割

    を果たす。したがって、社会文化的アプローチの観点から洋書を読む授業をデザインするには、「学

    習者 ― 道具 ― 洋書読書」の三項関係をセットにして捉え、どのような文化的道具を創造できるか、

    またその道具をいかに使用しながら洋書を読む状況を創出できるかが を握ることになる。

     そのような課題を真正面に据え、洋書を読む活動を認知的側面と社会文化的側面の両面から捉

    え、両者が交わる場として授業をデザインし実践してきたのが「プロジェクト IRC 」である(水野 ,

    2005; 水野・川北・東矢・西納 , 2011)。水野(2005)では多読の授業においてどのような「文化的道

    具」が必要かを考察した。そして IRCというウェブサイト(文化的道具)を開発し、2つの大学で

    IRC を利用した多読授業を行い、「学びの共同体」(佐藤 , 1991)「正統的周辺参加」 (Lave & Wenger,

    1991) の観点からその教育的効果を考察した。水野他(2011)では、水野 (2005) の IRCより格段に改

    善された「IRCウェブサイト (Version 4)」(以下 IRC Version 4)を利用して、4つの大学で IRC を利

    用した多読授業の実践報告を行った。本プロジェクトはこれらの先行実践を踏まえ、5つの大学での

    共通のアンケート調査を通じて「他者」や「道具」に媒介された多読授業の特質を浮彫りにし、「社

    会文化的アプローチ」に則った多読授業の教育的効果と教育的価値をより客観的に考察する。

     水野他(2011)では「プロジェクト IRC」の参加者が IRCを軸にどのような道具に媒介され、他

    者との関係を編みながら読書活動を行うかを可視化するため、エンゲストローム(1999)の「活動シ

    ステム」の枠組みを援用した。そして「プロジェクト IRC」の構造を図 1のように示した。

     エンゲストロームの「活動システム」は、人間の社会的活動を①主体、②文化的道具、③対象 /目

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    的、④コミュニティ(共同体)、⑤ルール、⑥分業からなるシステムとして捉える。このシステムか

    ら見た IRC の活動において、①主体(学生)は③対象(洋書の読書)に直接向かう(①→③)ので

    はなく、②文化的道具に「媒介」された洋書読書活動を行う(①→②→③)。さらに、①主体(学生)

    は④コミュニティ(教室と IRCウェブサイトにおける「他者」との関わり)を持ちながら洋書を読

    む(①→④→③)。そして、④コミュニティに参加する際には⑤ルールが存在し、①主体(学生)は

    ⑤ルールに従って④コミュニティと関わる(①→⑤→④の左下の三角形)。また、④コミュニティを

    構成するメンバーは各自⑥分業を果たしながら同一の③対象に向かう(④→⑥→③の右下の三角形)。

    ■洋書(GR,絵本,児童書,漫画)

    ■付箋 ■教室 ■図書館

    ■3つの心理的欲求 ■英語・日本語

    ■学びの共同体 ■マルチ・コンピタンス

    ■PC ■Internet

    ■IRC ■Amazon.co.jp, Amazon.com

    <物理的道具>

    ④【コミュニティ】⑤【ルール】

    ①【主体】

    ②【文化的道具】

    ③【対象】

    ⑦【成果】

    ⑥【分業】

    IRC

    <心理的道具> <テクノロジー>

    ■ 読書コミュニティの創出と拡張

    ■ 英語力・日本語力の向上

    ■授業のデザイン(教師) 

    ■本の紹介(学生,教師,図書館)

    ■本の出版・紹介(出版社,書店)

    ■本の購入・管理(図書館)

    ■サイトの管理・改善(企業)  ■IRCに参加する教員・学生 ■他大学

    ■出版社 ■書店 ■図書館 ■e-Learningの企業

    ■授業外読書

    ■1冊/週

    ■IRC への投稿

    ■教室での本の紹介

    ■学生

    ■洋書の読書

    図1. 活動システムの枠組みで可視化したプロジェクト IRCの特徴と構造 (水野他 , 2011)

     図 1の関係構造において、上部の三角形(①→②→③)と逆三角形(①→④→③)に焦点を当て

    (破線矢印部分)、それぞれの三角形の構造とプロセスの特徴を以下の視点から考察する。社会文化的

    アプローチに則したこの活動システムの特徴として、①主体(学生)が③対象(洋書の読書)に向か

    う際には、それを媒介する②文化的道具が存在する(①→②→③)。これは、主体である学生と対象

    となる読書だけで学習を捉える認知的アプローチとは、大きく異なっている点である。プロジェク

    ト IRCでは、インターネット上に創られた IRCというウェブサイトが②文化的道具と見なされるこ

    とから、①主体(学生)が洋書の読書活動を行う際にその IRCがどのような役割を果たし、IRCと

    いう②文化的道具を使うことで、①主体(学生)はどのような読書活動を創出するかについて調べる

    こととした。また①と③の間には④コミュニティも存在する。それが①→④→③と向かう逆三角形で

    あり、ここでは②文化的道具である「教室」と「IRCウェブサイト」を媒介とした、④コミュニティ

    (他者との関わり)を通して洋書を読むことが、①主体(学生)の読みの質や読書の動機にどのよう

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    な影響を及ぼすか、が焦点となる。以上の問いに対し、「②文化的道具と④コミュニティに「媒介」

    された状況の中で創り出される洋書の読書活動の特質」を、調査を通して浮彫りにし、その教育的効

    果と教育的価値を考察することが、本研究の目的である。

    3. 文化的道具としての IRCの機能と特徴 本節では①主体(学生)が洋書を読む活動を促進し支援するために開発された IRC Version 4の機

    能と特徴を説明する。

    3.1 各本専用の電子掲示板(RR: リアクションレポート) 3,200 冊の洋書一冊一冊に、各本専用の電子掲示板 (BBS: Bulletin Board System)が設置されてい

    る。BBSにはその本の紹介と感想を含むリアクションレポート(以下 RR)が投稿される。RR は日

    本語で、量は自由、本からの「引用」を必ず行う。過去に投稿されたRRを読めば、その本が自分に

    とって興味・関心のある本かどうかを知ることができ、未知の洋書と出会うきっかけが得られる。ま

    た、RRにはコメントをつけることができ、参加者同士が時空を越えて本を媒介としたコミュニケー

    ションを行うことができる。コメントを受けた参加者はコメントの数の多い者から順に Comment

    Olympicsというページにランキング形式で表示される。

     RR やコメントを「書く」ことは、自分の「読み」を振り返らせ、物事に対する見方、感じ方、価

    値観の形成を助ける。そのような思考活動を促進するため、学習言語(英語)ではなく、母語である

    日本語(心理的道具)を使わせており、洋書読書を通じて外国語と母語を抱合した multicompetence

    (Cook, 2008) を高めることにつながると期待できる。

    3.2 検索機能 各本の BBSには「表紙の画像」、「Amazon.co.jpのページへのリンク」、「あらすじ」、「読破距離

    数(400 語= 1kmで換算)」、「ジャンル」、「EPER (Edinburgh Project on Extensive Reading) levels: X, A,

    B - G」、「これまでにその本を読んだ学生が感じた読みやすさのレベルの平均 (very easy, easy, normal,

    slightly diffi cult, very diffi cult)」、「これまでにその本を読んだ学生たちの本の内容に対する評価の平均

    (☆の数で示され、最高は 5つ)」が掲載されている。これらの情報をもとに、自分の好みの本を自由

    に検索し探索することができる。

    3.3 IRC Dictionary of Quotations IRCでは、RRを書く際に、本の中から「お気に入りの英文 (Quotation)」を選び、紹介する IRC

    Dictionary of Quotationsというページがあり、「RRのタイトル」、「氏名・学校名」、「本の画像」、「本

    のタイトル」、「本からの引用」、「自分の解釈を十分に反映させた自然な日本語訳」、「引用文について

    の解説」のセットが時系列順に表示されていく。このページ上で、IRCの参加者たちがクラス・大学

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    を越えて一斉に出会うことができ、また、本からの引用文の紹介を通じて様々なジャンルの本と出会

    うきっかけを得ることができる。

    3.4 読書量の可視化 (Reading Marathon, Reading Stars) 学生たちの読書を促進するための工夫として、400 語を1kmと見立てた各本の読破距離数が、各

    本の BBSに表示されている。読んだ本の BBSに RRを投稿すると、読破距離数が自動的に加算さ

    れ、Reading Marathonというページに氏名と読破距離数が☆で示される仕掛けになっている(☆=

    10km)。また、Reading Starsというページには、参加者の読破冊数がランキング形式で示される。

    3.5 Reading Fan Club IRCでは、「Aという人が aという本を読み、それを読んだ際の感想がその本の BBSに投稿され、

    Bという人に伝わり、Bが aを読むきっかけになる」というような「読者の輪 (Reading Circle)」が創

    られていくことを目指している。そのため、1人ひとりが参加者の中から「お気に入りの人」をマー

    クし合い、最近読んだ本のタイトルと RRやコメントがお互いにすぐに分かる Reading Fan Clubとい

    う機能が実装されている。

    3.6 My Page IRCに投稿した RRおよびコメントと、それらに対するスレッドは一覧としてMy Pageに表示され

    る。自らの読書の軌跡と学びの履歴が記されていくことで達成への動機を高め、読書活動の省察を促

    す効果を狙っている。

    4. IRCを使用した5大学での多読授業の取り組み IRCは過去 14 年間に 14 の大学の参加を得て、様々な多読授業に利用されてきた。本プロジェクト

    では、異なる特性を持つ学生を対象とした 5つの大学の教員による取り組みを中心に調査を行なっ

    た。各大学の 2011 年度の取り組みを一覧にまとめたのが表 1である。

    表1

    5 大学での多読授業の取り組み対象者 多読授業概要 IRCの利用

    A大学

    1 年生。必修。週1回90 分。人間社会学部 (人社): 3 クラス。1 クラス 60名程度。通年授業。看護学部(看護): 2 クラス。1 クラス 46 名。半期授業。

    人社・看護共通 : 読書は授業外。教室では本を紹介し語り合うことが中心。本の紹介の仕方について考える。人社 : 単位取得条件は 10 冊または 100km(かつ 8 冊)以上、A取得には13 冊または 130km(かつ 10 冊) 以上読破する。看護 : 最低 14 冊読む。

    人社 : 前期・後期。看護 : 後期。人社・看護共通 : 授業外。原則として毎週 1冊の RRを投稿。学期中に 2から 5 つの RRにコメントを投稿(コメントする相手は自由、できるだけ学外の参加者へ)。

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    対象者 多読授業概要 IRCの利用

    B大学看護学専攻。1 年生。選択。2クラス。1クラス 50 名 程度。週 1 回90 分。半期授業。

    240km か つ 8 冊 の 読 破 が ノ ル マ、272km 以上で A評価。読書は原則的に授業外。授業中は教室内読書交流とIRCによる大学間 RR・コメント交流。

    後期。教室内。RRは 8 本以上、コメントは 5 本以上(コメントする相手は原則として学外の参加者)。

    C大学

    神学部・文学部・経済学部・外国語学部・法学部・理工学部。1・2年生。必修。1 クラス20 名程。週 1 回 90 分。通年授業。

    読書は授業外。300km 以上が単位取得条件。2 週間に 1 冊の読破がノルマ。教室ではCNN の多聴・ディクテーションと 4 人グループで本を紹介する(第1 週目は日本語、第 3 週目は英語を使用する)。

    前期・後期。2 週間に 1 回のペースで RRを投稿。コメントを月 1回投稿(コメントする相手は自由)。

    D大学

    農学部・観光産業科学部専攻の実業高校卒業者対象。1 年生。必修。1クラス。登録 18 名、内 2 名が履修放棄、別の 2 名が目標達成できず不可。週 1 回 90 分。半期授業。

    読書は授業外。4 万語かつ 10 冊以上が単位取得条件の 60% で他に ALC NetAcademy 2による e-Learningが 30%、教室内活動が 10%。教室では Frog and Toadのディクテーション、RRを基にした本の紹介・コメント、POP作成、e-Learning等を組み合わせた。

    後期。原則として毎週 1冊 RRを授業外に投稿。投稿が少なかった週は授業内(パソコン教室)でもRR・コメントの投稿を許可。クラス内外で自由にコメントすることを推奨し、教員もコメントを投稿。

    E大学

    人文系。2 年生。選択必修。1クラス。32 名。週 1 回 90 分。通年授業。

    春学期は多読を主活動。12 冊読破、日本語による RRと語彙リストを提出。教室ではブックトークと RRへのコメントを作成。秋学期の多読は課外課題。6冊読破、IRCへの投稿とコメント。語彙リストは毎回提出。

    秋学期。授業外で RRとコメントを 6回(コメントする相手は学外の参加者)。ただし 2011 年度は自主的活動としてのみ利用。

     この 5大学の実践において、A大学、B大学では IRCを利用した多読授業を毎年継続的に行って

    いる実績があり、クラスサイズや受講生の興味・レベルに応じてそれぞれの大学で工夫はしているも

    のの、IRCを中心に据えた授業スタイルがかなり確立していた。D大学では、IRCを授業に全面的に

    取り入れた実践は初めてであったため、A大学・B大学での実践を参考にしつつ対象学生に合わせた

    授業を組み立て、実際に A大学での授業を参観するなどして、社会文化的アプローチに則した実践

    を心がけた。E大学は、多読活動を継続的に実践しており、過去に IRCを活用した授業を続けてき

    た実績もある(水野他 , 2011)。

    5. 研究課題 「1. はじめに」の項にも述べたように本稿では、社会文化的アプローチに則ったプロジェクト IRC

    の実践について、その教育的効果を報告する。IRCは「文化的道具」として機能するとともに、クラ

    スでの授業実践・クラス内外での活動を通して、コミュニティの一部としても機能する。したがって

    本研究ではその教育的効果を測るために、アンケート調査を行なった。そしてその結果に基づき、本

    調査の主たる目的である以下の問いに答えようとする。

    (1) 「他者」と関わる読書環境づくりが、学生たちの読みの質や読書の動機にどのような影響を及ぼ

    すか。

    (2) オンラインだからこそできる交流が、教室内のみの多読授業とどのように異なる効果をもたら

    すか。

    さらに上記の問いに加え、今回のプロジェクトの中で、実践そのものに支障をきたす事例が上がって

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    きた。その点についても触れることとする。

    6. 研究方法

    6.1 参加者 アンケート対象者は、2011 年度後期に IRCを利用した学生で、アンケート回答に無回答や「該当

    せず」が多く目立つ 14 名を除いた、合計 434 名の回答データを分析に使用した。434 名の大学別内

    訳は、A大学 253 名(58.3%)、B大学 95 名(21.9%)、C大学 68 名(15.7%)、D大学 12 名(2.8%)、

    E大学 6名(1.4%)であった。C大学ではプロジェクト IRCに継続的に参加している教員に依頼し

    て、担当する 3クラスについてデータ収集への協力を得た。実践した授業内容は表 1の通りである。

    またE大学においてはクラス受講者は 32 名であったが、2011 年度は自主活動としたため参加が少な

    く、アンケート協力者は 6名であった。

    6.2 アンケート項目 アンケートの調査項目は、研究課題である、(1)「他者」と関わる読書環境づくりが、学生たちの

    読みの質や読書の動機にどのような影響を及ぼすか、(2)オンラインだからこそできる交流が、教室

    内のみの多読授業とどのように異なる効果をもたらすか、の観点のもと、IRCの利用・授業によって

    学生が身につけるべき指標や行動を問う項目を、表 2に示すカテゴリーに基づき、独自に策定した。

    92 項目からなるアンケート調査票の各項目の記述は、巻末資料に添付した。学習時間の回答を求め

    る Q92以外はすべて 4件法を用い、Q23から 32 を除いて「1(そのとおりである)」「2(ややそのと

    おりである)」「3(あまりそうではない)」「4(まったくそうではない)」のうち1つを選択する方法

    を取った。Q23から 32 に関しては、質問の性質上「1(かなり苦労した)」「2(苦労した)」「3(あま

    り苦労しなかった)」「4(まったく苦労しなかった)」の文言を使い、同じく 4つのうち 1つを選択す

    ることとした。Q92には、週平均の学習時間を、「分」を単位として記入する方法を取った。なお大

    学間で授業の形態がやや異なることに配慮し、当てはまらない項目に回答するのを防ぐため、「該当

    せず」の欄を設け、必要に応じて「×」を記入することとした。

    表2

    アンケート項目のカテゴリー概要と項目数カテゴリー概要 項目数

    A. 英語や読書への志向など参加学生の特徴に関する項目 4B. 教室や IRCを通じて様々な人たちと関わりながら洋書を読んだことの効果 6C. IRCの各機能の洋書選びへの効果 7D. RRを書くことの効果 5E. RRを書くときに苦労した点 10F. RRを読むことの効果 8

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    カテゴリー概要 項目数G. コメントを書くことや読むことの効果 9H. IRC Dictionary of Quotations の役割と効果 10I. Reading Marathonと Reading Stars機能の効果 4J. 洋書を読みすすめていくうえで、工夫した点 4K. 教室でグループやペアをつくり、本を紹介し合ったことの効果 16L. 洋書の読書を通じて英語と触れ合ったことの効果 8M. 授業のために毎週かけた時間量 1

    6.3 調査の実施と分析 アンケートは 2012 年 1 月後半から 2月上旬に、担当教員によって主にクラス内(一部、持ち帰り)

    で紙面記入にて行なわれた。回答に際しては各大学の事情に配慮し、A大学と C大学においては無

    記名、D大学においては任意記名(学籍番号による)、B大学及び E大学においては、同意した学生

    にのみ回答を依頼し、学籍番号を記名とした。収集した回答はエクセルに入力したのち、無回答や

    「該当せず」が複数連続して目立つ回答者のデータを削除し(6.1 参照)、残ったデータを SPSS 19.0

    および 20.0 で統計処理した。項目ごとの度数集計および比率換算の後、さらに項目ごとの度数集計

    (1から 4)において、1と 2を肯定傾向回答、3と 4を否定傾向回答とみなし、度数と比率を算出し、

    各項目について分析した。ただし文言により肯定-否定が逆転する Q23から Q32に関しては、1と

    2 の合計を否定傾向、3と 4 の合計を肯定傾向として分析を進めた。なおアンケート全体(Q1から

    Q91)の信頼係数は α = .930であった。その後、IRCの効果を示す項目として Q4、Q87、Q88、Q90、

    Q91に注目し、これらの項目がアンケート内のどの項目と高い相関を示すかを調べることとした。さ

    らに、大学によって異なる授業形態と学生の特質が IRCの効果に及ぼす効果の違いについて、デー

    タ数が十分な A、B、C大学の結果を一元配置の分散分析により分析、考察した。

    7. 結果と考察7.1 肯定-否定傾向による項目ごとの結果A.英語や読書への志向など参加学生の特徴

     まず最初に英語や読書への志向など参加学生の特徴に関する項目(Q1から Q4)では、授業を受け

    始める前の時点において「英語が好きだ」(Q2)に肯定傾向で回答した学生は 40.6%で、むしろ「得

    意と感じていない」(Q1)学生が 77.0% を占めていた。しかし日本語の読書に対しては 75.5%が肯定

    的な態度を持っており(Q3)、67.3%が今回の IRCの利用・授業を通して英語への苦手意識が軽減さ

    れた(Q4)と答えている。

    B. 教室や IRCを通じて様々な人たちと関わりながら洋書を読んだことの効果

     次に Q5から Q10において、教室や IRCを通じて様々な人たちと関わりながら洋書を読んだこと

  • - 50 -

    が、学生にどのような効果をもたらしたかを尋ねた。その結果、すべての項目で肯定傾向が半数を超

    え(最低で Q8の 62.4%)、特に Q7の「人にわかりやすく説明できるよう、意識しながら洋書を読む

    ようになった」では 36.4%が 1(そのとおりである)を回答に選び、2(ややそのとおりである)と

    合わせると、肯定が 98.1%と極めて高い結果であった。また Q10の「自分の心に強く残った場面や

    英文を意識」で 89.6%、「コミュニティへの参加意識」(Q6)も 84.3%と高かった。

    C. IRC の各機能の洋書選びへの効果

     Q11から Q17では IRCに実装されている機能について、設計者の意図をくみ取るような利用を学

    生が実際に行っているかどうかを尋ねた。その結果、最も低い「アマゾン reviewの活用」(Q15)の

    17.4% から、最も高い Q16の 79.9%まで、各機能の利用に大きな差が見られた。すなわち、一番よ

    く意図が伝わった使われ方をしていたのは Q16の「RRやコメントを読むことが、その洋書を読みた

    いという気持ちにつながった」であった。また 69.4% が肯定傾向を示したことから、本の紹介に用い

    られている画像は本選びにインパクトを与えることも分かった(Q14)。一方で、「他の人のMy Page

    を訪問してその RRリストから洋書を選ぶこと」(Q13)に関しては、肯定回答が 58.6%にとどまり、

    「Book Wish Listの活用」(Q12)も 49.6% にとどまっていた。そして「ジャンルから探す機能の利用」

    (Q11)でも肯定が 44.0%、また「Dictionary of Quotationsの活用」(Q17)も肯定が 40.3%と、否定が

    過半数を超える結果となった。

    D. RRを書くことの効果

     RRを書くことが学生にどのような効果や意識をもたらしたかを調査した Q18から Q22では、肯

    定傾向が 5項目の中最低でも Q22の 79.0%と高い結果となり、授業者の活動の意図が、参加者に十

    分伝わっていたことが明らかになった。特に Q21の「RRを書くことで、自分がその本のどの部分に

    興味を持ち、どんなメッセージを得たかが明確になった」では 89.1%、Q18「RRを書くことは、教

    室で本を紹介し合うための準備となった」は 92.6%となど、極めて高い肯定傾向であり、RRを書く

    ことの効果を多くの学生が感じたといえる。

    E. RRを書くときに苦労した点

     次の Q23から Q32では、IRCおよび授業者が参加者に期待している RRの書き方に則り、学生が

    実際に RRを書くとき、どのような点に苦労したかについて尋ねた。その結果、タイトル、書き出し、

    あらすじ、自分の心の表現、引用、締めくくりなどについて回答を求めた 10 項目すべてにおいて、

    「苦労した」が「苦労しなかった」をしのぐ形となった。その中でも、より苦労した上位 3項目に挙

    がったのは、「自分の想いを読み手に正確に伝えること」(Q29: 72.1%)、「あらすじをあまり説明しな

    いように、本の紹介をすること」(Q27: 71.4%)、「本を読んだことがない人にあらすじをわかりやす

    く説明すること」(Q26: 71.0%)であった。これらは読んだ内容(Q26)およびそれに対する自分の

    リアクション(Q29)をうまく言語化することの難しさを、学生が実感したことの表れだといえる。

  • - 51 -

    また RRは相手(読み手)に伝わるものでなくてはならない(Q26、Q29)のと同時に、コミュニティ

    の性格上、物語の細部全てを明らかにすることへの制限もあるため、そのバランスを取ることに、参

    加者は腐心していた(Q27)と考えられる。なおこの 10 項目の中でも「引用する英文を見つけ出す

    こと」(Q30)は「苦労した」が最も低く(54.1%)、引用する英文を絞る作業(Q31)や、タイトル

    に関する作業(Q23、Q24)も「苦労した」寄りの回答がそれぞれ 66.5%、61.8%、61.8%であったこ

    とから、Q26、Q27、Q29に比べればやや取り組みやすかったといえる。

    F. RRを読むことの効果

     Q33から Q40では RRを読むことが、参加者にどのような影響を及ぼしたかを調べた。その度数

    集計結果において際立ったのが、Q33と Q34において 95%以上の肯定回答(しかも、その内 1の回

    答が 6割を超える)があったことである。さらに Q40や Q35でも約 9割が、肯定傾向の回答をして

    いる。すなわち IRCの参加学生の多くが、サイトに載せられた数多くの RRを読むことによって、同

    じ本でも十人十色の読み方があり(Q33: 肯定 95.9%、内 1が 66.4%)、「自分の読みを他の人の読みと

    比較し共通点や相違点を認識することは、自分の理解や解釈の仕方を吟味することにつながり有意義

    だった」(Q35: 89.4%)と感じたことになる。そして「あらすじだけでなく、紹介する人が自分なり

    の解釈を加えている RRは、印象が強いと感じ」(Q34: 肯定 96.3%、内 1が 61.8%)、他の人の RRを

    読むことで「こういう RRが書けるようになりたい」(Q40: 肯定 90.3%、内 1が 51.4%)との意欲を

    持って活動に参加したことが見て取れる。しかし、RRを読んで「その RRを書いた人に感謝の念を

    抱くにいたる」(Q39)のは 65.0%程度で、「面白いと思った RRの著者(投稿者)の名前をクリック

    してMy Pageを開き、その人の他の本の RRを閲覧」(Q36)するのも、59.1%の肯定回答にとどまっ

    た。またWeb上のサイトでのやりとりを前提としていることを納得し、それに満足しているのか、

    「直接会ってみたい」(Q37)という学生は全体の 25.3% と少なかった。

    G. コメントを書くことや読むことの効果

     Q41から Q49は IRCのコメント機能の役割についての質問である。これらの項目の中で、8割を

    超える肯定回答を得たのが、Q44、Q45、Q47であった。この結果は、参加者の大半が、自分の RR

    にコメントが付くことにより自分の RRが認められた手ごたえを感じつつ(Q45: 80.1%)、それをう

    れしいと感じ、さらにがんばろうという意欲を持ったこと(Q44: 82.3%)を示している。また他の人

    が書いたコメントを読むことが、自分の考え方・感じ方との共通点や相違点を感じることにつなが

    り(Q47: 81.1%)、自分のコメントの書き方を振り返りながら(Q46: 76.9%)、コメントを書くことで、

    自らのものの見方や感じ方を吟味していく(Q43: 72.1%)様子が、この結果から見て取れる。一方

    で、「RRの文章を引用しながらコメントを書くことで、投稿者と対話をするような気持ちになれた」

    (Q41)については、肯定が 67.1%とやや下がり、またコメントをつけることを「楽しかった」とと

    らえた学生は、58.9%にとどまった(Q42)。このことから、学生は単純に楽しんでコメントを付け

    たというよりも、コメントを書くときも読むときも、その表現が相手に与えるインパクトを意識して

  • - 52 -

    この活動を行なっていたことが示唆された。なおコメント機能を活用した純粋に自発的なコミュニ

    ケーション行動を問う Q48と Q49に関しては、肯定回答がそれぞれ 44.3%、22.7%と、否定が肯定

    を上回る結果になっている。特に Q49については、延々とコメントを付けたり返したり、またその

    ことで IRCのポイントを得ることがないよう、コメント機能の利用を制限していたクラスがあった

    ことも、肯定回答が低かったことの原因であると思われる。

    H. IRC Dictionary of Quotations の役割と効果

     Dictionary of Quotations (DoQ)は IRCサイトの中でも特徴的な機能であり、学生が RRの最後に書

    き込んだ Quotationsがデータベース化されて一覧となり、リンクから、書いた本人のページに飛ぶこ

    とができる、オンラインならではの機能である。書く立場としては、お気に入りの個所あるいは伝え

    たい個所を探す作業と、自分の解釈を十分に反映させて、その箇所を自然な日本語に訳す作業が中心

    となる。読む側としては、他の参加者の力量をじかに感じる場でもあるはずである。この DoQの役

    割と効果について尋ねた Q50から Q59では、英文を探し決定する作業(Q50)で 78.0%、訳を考える

    作業では 83.2%が、それらの作業が「より深く読むことに結びついた」(Q51)と考える傾向が見ら

    れた。「訳す作業は難しい」と 65.4%が感じながらも(Q53)、自然な日本語でわかりやすく伝えられ

    る訳になるよう 75.8%が留意しており(Q52)、その作業を 76.2%が「楽しい」とも感じていた(Q54)

    ことがわかった。読み手の立場として最も実感したのは、他者の投稿を読んで「訳が上手!」と感じ

    たことのようであったが(Q56: 80.7%)、そこからその本を読みたいと思ったか(Q55)、RRを開い

    てみたか(Q57)になるとそれぞれ肯定が 46.4%、58.3%と、参加者の態度は分かれた。また洋書を

    選ぶ際の効率性(Q58、Q59)に関しても、肯定がどちらも 52.4%と、肯定と否定がほぼ半々に意見

    が分かれた。

    I. Reading Marathon と Reading Stars 機能の効果

     Q60から Q63では、Reading Marathonと Reading Starsという機能の利用効果について尋ねた。この

    2つは、参加者が自らの読書量を確認し、読書量における他者との比較を、視覚化することによって

    助けようとする機能である。すなわち、これらの機能は、コミュニティの上位にいる他の学生と自分

    自身の活動を客観視するという機会を学生に与える。結果としては、まず多くの参加者が、これらの

    機能を自身の多読活動のバロメーターとして活用している状況が、Q60への回答(80.9%)により確

    認できた。一方、IRCのランキング上位者(Q61)やクラスメートの読書量(Q62)を意識する回答

    は、それぞれ 31.1%, 35.9%の肯定とあまり高くなく、むしろ視覚化された自他のランキングや読書

    量を気にしていない学生の方が多い傾向が明らかになった。Q63の肯定回答 40.1%も、上位者への

    興味がそれほど高くないことを裏付けている。

    J. 洋書を読みすすめていくうえで、工夫した点

     洋書の多読において、IRC利用や授業以外の自主的な活動の影響があったかを調べた項目 Q64か

  • - 53 -

    ら Q67の中で、4項目の中で突出した肯定傾向を示したのは、辞書の利用に関する Q65「内容を理

    解するのに大事だと思う単語は辞書で調べた」(77.9%)のみであった。授業時間以外のクラスメー

    トとのつながり(Q64)や、映画やインターネットの活用(Q66、Q67)はそれぞれ肯定が 56.2%、

    57.6%、50.0%と、半数から半数強にとどまった。

    K. 教室でグループやペアをつくり、本を紹介し合ったことの効果

     IRCの機能を用いたオンラインでの効果と比較して、Q68から Q83では、教室内での交流につい

    て尋ねた。このうち Q78から Q83について、B大学では授業活動内容に合わせてやや文言を変えて

    質問を行なったため、分けて結果を報告する。まず Q68から Q77においては肯定回答が高い項目が

    多く見られ、Q70と Q77で 8割以上、Q71で 8割弱、Q69、 Q74、Q76で 7割以上が肯定回答をして

    いる。すなわち、教室でグループあるいはペアを作り、洋書について語り合うことが、読みたい本

    を探すことにつながること(Q70: 81.7%)、毎週の継続的な読書を可能にしたこと(Q69: 73.5%)が

    わかった。そして多くの学生が、友達に本の紹介をしてもらうことにより、自分の興味・関心の幅

    が広がったと感じ(Q71: 78.2%)、それが翻って「自身の本の読み方、ものの考え方、発表の仕方を

    振り返ることにつながった」(Q77: 84.2%)と感じたと考えられる。さらにそれが、他者の個性や考

    え方をより深く知り、受け入れること(Q76: 73.5%)につながり、さらによい紹介を目指す(Q74:

    75.1%)態度を生んだように見える。その一方で、「クラス活動内でのグループ」という設定された

    場所をはずれたところでの交流(Q68、Q72、Q73、Q75)では、順に 45.0%、48.7%、 40.0%、51.3%

    と、4から 5 割程度の肯定回答にとどまったことから、クラス外での自発的な他者との関係構築に

    は、さらに何らかの手立てが必要であることが示唆された。なお Q75の「グループでの自分の本の

    紹介が、クラスメートの本との出会いに役立った、という手ごたえを感じた」かに対しても、肯定

    は 51.3% と肯定-否定が約半々の結果であった。今回の実践では、役立ったかどうかを知る機会を参

    加者が十分に得ていなかった可能性もあり、そのような機会をクラスの交流の中で設定することによ

    り、自分の貢献度をより実感できるようになると思われる。

     後半の Q78から Q83の項目は、クラスで発表しあうことによってどのような力が養成されたかを

    問うものであった。この 6項目について、B大学は該当しないとして参加せず、また Q83について

    は B大学に加え A大学と C大学も、活動が合わないとして回答を求めていない。したがって、Q78

    から Q82では回答者数 339 名、Q83では 15 名を母数として比率を算出した。その結果、教室でグ

    ループやペアをつくり、本を紹介し合ったことによって伸びた力としては、まず、コメント力(Q81)

    と省察力(Q82)について、約 7 割が「できるようになった」と感じたことが分かった(70.2%、

    72.6%)。一方、アイコンタクト(Q78)、段取り力(Q79)、引用力(Q80)に関しては、それぞれ

    65.2%、65.8%、63.1%と、コメント力や省察力よりはやや肯定傾向が下がる結果となった。くりかえ

    し同じ本を違う人に紹介していくことの効果(Q83)については、15 名とデータ数は少ないものの、

    肯定回答が 12 名と、8割が肯定する結果となった。

  • - 54 -

    L. 洋書の読書を通じて英語と触れ合ったことの効果

     今回 IRCを利用した洋書多読の授業によって現れることが想定される効果について、Q84から

    Q91の項目で尋ねた。その結果、Q84、Q85、Q86、Q90、Q91の 5項目で、約 8割かそれ以上の肯定

    回答が得られた。つまり、アンケート冒頭 Q1の「英語が得意か」という質問に全体の 7割が否定傾

    向を示した今回の参加者の実に約 8割が、多読学習受講後に肯定的な効果を見いだしたのである。す

    なわち「新しい単語と出会い単語数を増やすことができ」(Q84: 81.5%)、今まで学んだ単語や文法の

    使われ方をストーリーの中で認識することに成功し(Q85: 81.1%)、おもしろいと思う英語表現に出

    会うことで、より英語に対する興味を増すことができた(Q86: 79.3%)との回答を得た。そして「受

    講前と比較して、英文を読むことに対する抵抗感が薄まり、自分の英語力で楽しんでスラスラ読める

    洋書を探して読書ができるようになった」(Q90: 82.3%)、「自分が興味・関心のあるテーマの洋書を

    探して読書ができるようになった」(Q91: 84.2%)とも合わせて、これらの結果は、先に Q4で 67.3%

    の参加者が英語への苦手意識が軽減されたと答えたことと方向を一にしている。また「原書を読む」

    というハードルはやや高い(Q87: 57.4%)ものの、75.8%は「もっといろいろな洋書を読んでみたい

    という気持ちになった」(Q88)に肯定回答を示しており、69.1%が「洋書の読書を通じて、外国の

    文化や習慣について新しい知識を得ることができた」(Q89)とも考えていることがわかった。

    M. 授業のために毎週かけた時間量

     Q92では毎週の授業時間までの授業外学習時間について尋ねた。その結果、有効回答数 424 に対

    して、平均は 187.47 分(標準偏差 88.49、標準誤差 4.30)、最頻値と中央値は共に 180 分、最大値 480

    分、最小値 10 分であった。つまり今回の参加者は、平均で週当たり授業外約 3時間を、洋書を選び、

    読み、RRを準備することにあてていたことになる。

    7.2 各項目間の関係に見る実践の効果 項目間の関係性を見る分析では、今回の実践で最も好ましい結果として期待した Q4、Q90、Q91、

    および、継続的、発展的学習へ向けた効果として記述した Q87と Q88に着目した。Q4は「IRCの実

    践による英語の苦手意識の軽減」、Q90は「洋書読書への抵抗感の減少に伴う、スラスラ読める洋書

    選択能力の向上」、Q91は「興味・関心のある洋書を選択する能力の向上」についての項目であり、

    社会構成主義のアプローチに則った IRCプロジェクトが特に目指す効果を示していた。そして「原

    書に対する興味関心の向上」(Q87)、「洋書多読への意欲向上」(Q88)は、学生の自律性の発展に関

    わる項目であった。

     これらと関連が高い項目を特定するために、この 5項目と Q1から Q91までの項目間で、ピアソン

    の相関係数を算出した。ただし Q78から Q83は大学間の取り組みによる欠損値が大きいため、あら

    かじめ相関分析からは除外した。また Q84から Q91は具体的な効果をより直接的に尋ねている項目

    群で、これら同士の相関は必然的に高くなったため、上位項目からは省いた。項目数が多く、すべて

    の項目間の相関係数について述べることは難しいことから、ここでは Q4、Q87、Q88、Q90、Q91と

  • - 55 -

    相関の高かった上位 5項目について報告し、分析を加える。なお、ここで報告するすべての相関は、

    p < .01で有意であった。

     まず、Q90との相関が高かった項目であるが、Q90との相関において最も高い r = .480の値を示し

    たのは Q4であった。すなわち、IRCを利用した授業実践への参加による英語の苦手意識の軽減が、

    Q90の「英文を読むことへの抵抗感が薄まり、自分の英語力で楽しんでスラスラ読める洋書を探して

    読書ができるようになった」ことと強く関係しているという結果が得られたことになる。なお、Q4

    は、英語の苦手意識が減ったことについての大まかな評価を尋ねる項目なので、多読学習の具体的な

    効果について尋ねるカテゴリー Lとは分けていたことから、相関分析の項目に含めている。

     一方、Q84から Q91を除いて Q4との相関が最も高かったのは、Q20の「RRを書くことは、英文

    を丁寧に読むことにつながり、言葉とのかかわりを強めた」であり、相関は r = .341であった。すな

    わち RRを書く作業により言葉とのかかわりが強まったことを実感した学生は、苦手意識の軽減をよ

    り強く感じたことになる。なお Q20は、Q90との相関において 3位(r = .371)、Q91との相関におい

    て 5位(r = .407)であり、今回の実践における好ましい効果と強く結びついた項目だと言える。

     Q4との相関が r = .304で 2位であった Q69の「教室でグループを作り本について語り合う場があっ

    たおかげで、毎週、読書を継続していくことができた」は、r = .439で Q91とも最も高い相関を示し

    た。さらに Q69は Q88との相関も r = .437で 1位、Q90との相関も r = .362で 5位にあがっており、

    これらの項目と顕著に関わっていた。教室でのグループによる語り合いは、まさに「協同の学び」の

    重要性を説く社会構成主義の実践であり、それが、「興味・関心のある洋書を選択する能力の向上」

    (Q91)、「洋書多読への意欲向上」(Q88)、及び「洋書読書への抵抗感の減少に伴う、スラスラ読める

    洋書選択能力の向上」(Q90)と関連していることが示された。この結果は、多読の授業の中で取り

    入れるべき活動について大きな示唆を与えるものである。

     さらに、「友達に本の紹介をしてもらい、自分の興味・関心の幅が広がった」(Q71)は、Q91との

    相関が r = .437、Q88との相関が r = .423でどちらも 2位、Q87との相関は r = .292で同点 3位、Q4

    との相関は r = .286で 5位に位置した。そして Q77の「クラスメートの本の紹介を聞くことは、自身

    の本の読み方、ものの考え方、発表の仕方を振り返ることにつながった」は Q90との相関が r = .417

    で 2位、Q91との相関が r = .416で 3位、Q88との相関は r = .407で同点 4位、Q87との相関が r =

    .279で 5位に入った。この Q71と Q77の 2項目も Q69と同様、教室内における「他者と関わる読書

    環境」が、多読に対する好ましい効果と密接に関係しているという結果を示しているといえよう。

     クラスメートとの関係性が好ましい効果と関係したことを示す相関は他にも見られる。Q70「教

    室でクラスメートの本の紹介を参考にしながら、読みたい洋書を探して読んだ」は、Q87、Q88との

    相関のみにおいて r = .292の同点 3位、r = .407の同点 4位と、上位に出現しているが、この項目も、

    クラスでの活動によって得られた他者からの情報を自身の読みに役立てた学生の行動を示している。

    また、Q87との相関のみに 1位(r = .312)として出現した「クラスメートの発表に刺激されて、自

    分も「クラスメートが読んでみたい」と思えるような本の紹介をしたいと思った」(Q74)も、他者

    からの影響を受け、自らも情報を還元したいという参加者の気持ちを表していると捉えられる。そし

  • - 56 -

    て、Q4と Q88との相関において r = .302、r = .409でどちらも 3位となった Q19の「RRを書くとき、

    自分の RRを通じてこの本を読んだことがない人に興味を持って欲しいと思って書いた」は、RRと

    いう媒体を介し、さらに強く他者と関わろうとする気持ちが、学生の中に生まれたことを示す結果だ

    と言えるのではないか。

     最後に、Q87との相関が r = .302で、この項目についてのみ上位に出現した 2位の「お気に入りの

    英文を訳すのは楽しかった」(Q54)は、一見、個人の閉じられた活動としての意味合いが強いよう

    に捉えられるかもしれない。すなわち、原著への関心の向上には、英語の表現そのものを楽しむ、ま

    たその表現と日本語のニュアンスの違いに思いを馳せて取り組むという、知的作業の楽しさを味わう

    ことができるかが強く関わっているようにも見えるからである。しかし、先述のように Q87との相

    関が最も高かったのは、Q74の「クラスメートの発表に刺激されて、自分も「クラスメートが読んで

    みたい」と思えるような本の紹介をしたいと思った」であり、また、参加者の 8割が「他者の訳を読

    んで、上手だと感じたことがある」(Q56)と答えていた。以上から、この活動に関しても、訳す作

    業の先にある他者の存在が意識されることで、より楽しく訳すことが実現できたのではないかと考え

    る。

    7.3 大学間の比較結果 前節で全体的な傾向を示したが、IRCに参加するクラスには、専門性、IRCに参加した授業のカリ

    キュラムの中の位置づけ、教室環境、参加者の人数や特徴など、それぞれ異なる背景があり、教室

    独自の到達目標や優先順位を持ちながら洋書読書交流に参加している(「4. IRCを使用した 5大学で

    の多読授業の取り組み」参照)。本節では、今回の参加者の人数が少なかった 2大学を除き、A大学

    (253 名)、B大学(95 名)、C大学(68 名)に対象を絞り、分散分析(一元配置)を用いて回答傾向

    の大学間比較を示す。

     今回は、各大学の参加者の英語レベルを客観的に比較するためのデータはないが、「英語は得意か」

    (Q1)という質問に対し、アンケートの回答の平均値は A大学 3.12、B大学 3.28、C大学 2.57、各標

    準偏差 (SD)はそれぞれ A大学 0.82、B大学 0.77、C大学 0.90であった。分散分析の結果 3大学間に

    有意差が見られ (F (2,413) = 16.27, p < .000)、Bonferroni法による多重比較を行ったところ、有意差は

    A大学と C大学、B大学と C大学間に見られた(以降、有意水準は α = 0.05)。「英語が好きか」(Q2)

    に関しては、平均値 (SD):A大学 2.72 (0.84)、B大学 2.80 (0.86)、C大学 2.03 (0.86)であり、3大学と

    も平均値が 2以上で共通して Q1より肯定的な回答傾向を示したが、分散分析の結果、3大学間に有

    意差が見られた (F (2,413) = 20.25, p < .000)。多重比較の結果、有意差は Q1と同じく、A大学と C大

    学、B大学と C大学間に見られた。C大学では A大学や B大学に比べ、学期開始当時に英語に苦手

    意識がより少なく、英語により関心のある参加者が多かったことがわかった。

     今回の実践で最も好ましい結果として期待した「英語の苦手意識の軽減」(Q4)、「洋書読書への抵

    抗感の減少に伴う、スラスラ読める洋書選択能力の向上」(Q90)、「興味・関心のある洋書を選択す

    る能力の向上」(Q91)のうち、「英語の苦手意識の軽減」(Q4)においては、平均値 (SD)が A大学

  • - 57 -

    2.29 (0.65)、B大学 2.26 (0.64)、C大学 2.35 (0.66)といずれも肯定傾向の回答を示したが、3大学の間

    に有意な差は見られなかった (F (2, 410) = 0.36, p = 0.699)。3大学データでの Q2と Q4のピアソンの

    相関係数は p < .05で有意であったものの、r = .17で数値としては大きくない。したがって、学習開

    始時の英語そのものへの関心の度合いに関わらず、IRCを利用した洋書読書学習を通して英語の苦手

    意識が克服され、英語学習への動機づけにつながる効果を得られたのではないかと考える。

     Q90の「洋書読書への抵抗感の減少に伴う、スラスラ読める洋書選択能力の向上」については、平

    均値 (SD)が A大学 2.06 (0.81)、B大学 1.78 (0.56)、C大学 1.84 (0.66)と、3大学とも高い肯定回答で

    あった。分散分析の結果、有意差が見られた (F (2, 413) = 5.96, p = 0.003)ため、多重比較を行った結

    果、A大学と B大学の差のみ有意であった。A大学に比べて B大学のほうが有意に洋書読書への抵

    抗感が軽減し、洋書選択能力が向上したと感じている学生がより多かったことがわかる。B大学の参

    加者は、本研究実施期間に初めて IRCを使った多読学習を行ったが、A大学の参加者の多くは事前

    に半期の IRC参加経験がある。新しい種類の学習方法を初めて経験したために、B大学では抵抗感

    の減少や向上感がより高く出たのではないかと考えられる。その一方で、継続的に参加している A

    大学でも回答の平均が高い肯定傾向を示しており、IRCを利用した学習によって学生が持続的に向上

    感を感じることができることを示唆している。「自分の興味に沿った洋書選択能力の向上」(Q91)に

    ついても平均値は 3大学とも肯定回答を示したが(A大学 2.38、B大学 1.80、C大学 1.77; SDはそ

    れぞれ 0.79、0.71、0.63)、有意差は見られなかった (F (2, 411) = 0.75, p = 0.475)。これらの結果から、

    英語への苦手意識・関心度の違いや教室の条件に関わらず、参加者は、RR・コメント交流を通して、

    与えられた本を読むのではなく、自分が楽しめる本を探して読書する姿勢と力を得られた、という自

    信の獲得につながっているのではないかと考える。

     次に、RRを書くことと洋書読書の関わりという観点から 3大学を比較する。Q20の「RRを書く

    ことで、英文を丁寧に読み、言葉とのかかわりを強めたと感じられたかどうか」については大学間の

    有意な差は見られず (F (2, 413) = 0.13, p = 0.878)、共通して高い肯定傾向の回答を得られた(平均値:

    A大学 1.91、B大学 1.92、C大学 1.96; SDはそれぞれ 0.72、0.73、0.76)。IRCというコミュニティ

    に参加することで、学習開始時の英語への得意感や関心度の違い、クラス環境の違い、IRC参加期間

    の違いに関わらず、学生の多くが読みの質を高める意識を持ったといえる。

     継続的学習への動機付けに関して、このプログラムに参加することによって「もっといろいろな洋

    書を読んでみたくなった」(Q88)については、平均値 (SD)が A大学 2.15 (0.87)、B大学 2.08 (0.83)、

    C大学 1.53 (0.70) と 3大学とも肯定傾向の回答が見られた。分散分析の結果は有意であり (F (2, 413)

    = 14.90, p < .000)、多重比較の結果、A大学・B大学と比べて C大学に有意に高い肯定傾向が見られ

    た。「原書を読んでみたいと思った」(Q87)についても同様に、3大学ともに肯定的な回答が得られ

    た(平均値:A大学 2.35、B大学 2.48、C大学 1.84; SDはそれぞれ 0.92、0.96、0.86)が、大学間に

    有意差が見られ (F (2, 412) = 10.91, p < .000)、A大学や B大学に比べると C大学の肯定傾向が有意に

    高かった。IRCを利用した「交流のある洋書読書」というスタイルで、どのような学生がどのくらい

    読書量を重ねれば、洋書や原書に関心が向いていくのかについては、今後の観察課題としたい。

  • - 58 -

     大学間交流を通して洋書読書への興味が高まるかどうかに関して、「RRやコメントを読んで、そ

    の洋書を読んでみたいと思った」(Q16)については、3大学とも肯定的な回答を得られている(A大

    学 1.85、B大学 1.99、C大学 2.18;SDはそれぞれ 0.85、0.87、0.96)が、大学間に有意差が見られ

    (F (2, 396) = 3.94, p < 0.020)、多重比較の結果、A大学と C大学の間に有意な差が見られた。つまり、

    3大学に共通して、RRやコメントから参加者が得られる本への興味は高いものの、C大学では、A

    大学に比べるとその影響が有意に低かったといえる。前述の「英語に対する苦手意識や関心」(Q1、

    Q2)、「洋書や原書への関心」(Q88、Q87)といった項目で、C大学が他の 2大学より高い肯定回答

    を示したこととあわせて考えると、コミュニティに参加する学生の中には、読みたい本のレベルや

    種類が他の多数の参加者と合わず、他の参加者の RRから本への興味が得られなかった可能性がある

    ことを示唆している。一方、「教室の友達に本の紹介をしてもらい、自分の興味・関心の幅が広がっ

    た」(Q71)についての回答は 3大学とも肯定的で(平均値:A大学 1.94、B大学 1.91、C大学 2.01;

    SDはそれぞれ 0.85、0.79、0.76)、大学間での有意な差は見られなかった (F (2, 412) = 0.36, p = 0.695)。

    つまり、参加者の英語への関心の高さが類似した教室内では、参加者同士が対面して交流し合う過程

    で、自分に合った洋書を選択するための情報交換の場を持つことになり、互いの興味・関心の幅が広

    がる。この教室内での交流がオンラインコミュニティへの参加により得られる効果を補完する役割を

    果たすと考えられる。

     また、主に大学間で行われたコメント交流に関して、「他の人のコメントを読むと、自分の考え方・

    感じ方との共通点や相違点を感じることができた」(Q47)については、平均値 (SD)が A大学 2.01

    (0.90)、B大学 1.78 (0.72)、 C大学 1.93 (0.76)で、大学間での有意差はなかった (F (2, 410) = 2.72, p =

    0.067)。関連して、「自分の RRにコメントがつくと嬉しくなり、次回も本をしっかり読んで良い RR

    を書こうという気持ちにつながった」(Q44)には、3大学とも非常に高い肯定回答が得られた(平均

    値:A大学 1.79、B大学 1.54、C大学 1.90;SDはそれぞれ 0.92、0.80、0.79)が、大学間に有意差が

    認められ (F (2, 400) = 3.62, p = 0.028)、多重比較により、B大学は C大学より肯定傾向が有意に高い

    ことがわかった。英語そのものへの得意感や関心がそれほど高くない学生も、他者からコメントとい

    う手段によって評価されると、本をしっかり読んで良い RRを書こうという気持ちを持てるようにな

    る、ということが考えられる。また、平均値はどの大学も非常に高いことから、英語そのものへの得

    意感や関心度に関わらず、IRCを利用したオンライン交流に参加することによって、参加者同士で高

    めあい、学びあい、読みの質を高めることが十分可能である、という示唆を得た。

     学生の特徴、教授内容の特徴により、参加者アンケートの結果は若干異なるものの、本研究の最大

    の目標であった、(1)「他者」と関わる読書環境づくりが学生たちの読みの質や読書の動機に好影響

    を及ぼし(Q4、Q20、Q88、Q90、Q91)、(2)教室内のみの多読授業とは異なる効果がオンライン交

    流によりもたらされる(Q44、Q47)という観点においては、大学間の違いに関わらず、共通してそ

    の効果を得られたといえる。そして、教室での読書交流は、類似した特徴を持つ参加者間での洋書選

    択につながる身近な情報共有の場として機能し(Q71)、オンライン交流と教室内交流がそれぞれの

    役割を補完的に果たしているのではないかと考える。

  • - 59 -

    8. IRC 利用における問題の改善へ向けた検討 プロジェクト IRCは 5大学の教員が IRCを利用した授業を展開し、それぞれの環境のもとで、学

    生に対する教育効果を観察・検証する方法で実施した。IRCを利用した授業は、学生がコミュニティ

    を媒介に学習活動を行うために、時として、例えば 1名の学生に IRC参加活動に問題が生じた場合、

    それが全体に波及して、活発な利用に至ることができないということも起こりうる。ここでは、プロ

    ジェクト運営中に起こった一事例を運営側と指導者の立場で振り返り、今後の IRC利用への留意点

    と IRCシステム改良へ向けた視点の提供を行なう。

     事例とする教室の問題は 2011 年の秋学期にE大学で発生した。学期当初の IRCへの一斉登録を行

    う際に、実名での登録を拒む者が出たのである。登録前に IRC参加の意義を十分に説明したのだが、

    当該学生は自身の主義として SNSへは基本的に参加しない、参加することがあっても匿名で行って

    いる、従ってこのクラスでも実名登録は拒むと主張した。この年度は IRCへの参加について、シラ

    バスに特に記載しなかったため、それを盾に取り授業妨害に近い形で IRC参加の必要性を公然と否

    定した。担当教員は、この履修生とは授業外でカンファレンスの機会を持ち、説得を試みたが、学生

    はさらに個人情報保護の必用を持ち出して、頑なに拒否を続けた。このため IRCへの参加は強制で

    きず、さらにこの学生に賛同する形で参加を躊躇する者達が多数出たため、クラス全体として自由参

    加にせざるを得なかった。その結果、紙ベースの RRの提出はほぼ順調に進んだが、IRCを通じて意

    見交換に参加しようとする者が非常に少ない状態となった。

     この事件からの教訓として、選択科目で IRCを利用する多読活動については、その意義と IRCの

    性格をシラバスに明記し、IRCをプレビューできるようにすることが望ましい。しかしながら、科目

    を選択できない授業の履修生については、どうしても参加したくない学生と担当教員との間に軋轢

    が生じる可能性が残る。今回のような問題を最小限に食い止めるために、IRCのシステム側として

    も、主要な機能をプレビューできるようにし、IRC運営の趣旨をわかりやすく解説する必要があるだ

    ろう。そして匿名を希望する学生については、登録は実名で行うが、その後の意見交換の場では匿

    名性を保証するシステムの構築が望まれる。教育的観点は異なるが、本論文執筆時点で、Moodle上

    で多読活動を促進するMoodlereader Moduleを開発している Robbは、Moodlereaderでも、学生の希望

    によって、実名を伏せて自動的に匿名を付与するようシステムを構築中であるという(T. N. Robb, 私

    信、2013 年 2 月 17 日)。

     この事例を挙げた教員は今回の事件を教訓に、2012 年度春学期末、次の秋学期に向けて IRC 参加

    への予備的調査を行った。それによれば、2年生の選択必修クラス(34 名)で、4名が実名での登録

    を「絶対にしたくない」と解答している。一方で 1年生の必修クラス(45 名)では、完全に拒否す

    る学生はいなかった。2年生が実名登録に敏感である背景として、大学入学後に、コンピュータや携

    帯端末でのオンライン上の活動が盛んになること、情報リテラシーの講習を受講することで、個人情

    報保護の意識が高まることが考えられる。

     このような匿名性を望む傾向とは別に、この予備的なアンケート結果からは、これまで学生達の間

    に人気を博していた匿名で利用できる SNSであるMIXIよりも、実名登録が前提の Facebookの利用

  • - 60 -

    が進んでいることも読み取れた。オンライン上で仮面をかぶった交流を行う匿名の世界から、仮面を

    外して素顔での交流を望む雰囲気が生まれつつあるのも事実であり、現在はその過渡期のように思わ

    れる。大学時代には様々なオンラインサービスを体験する機会が増えることが予想され、また、個人

    情報保護の意識が高まりつつある現状を鑑みて、今後の IRC利用クラスへの提言として以下の 4点

    を挙げたい。IRC利用のクラスへの準備としては、(1)IRC利用の意義と利用に際しての条件をシラ

    バスに明記し、登録時に学生が十分納得して登録するようにさせる、(2)過年度に IRCを利用した

    学生の感想や声を新規学生に届け、IRC利用の効果や安心感を新規受講者に伝える、そして IRCの

    システムとしては、(3)IRCのサイト内に IRC設置の趣旨と主要機能の解説を設ける、(4)投稿の

    匿名表示の機能を持たせる。IRCの意義を十分に伝え、かつ安全・安心に交流できるシステムを構築

    して、一人でも多くの心ある学生達が集える場にしていくことが、今後の課題であると言えよう。

    9. 全体考察および結論

    9.1 社会文化的アプローチに基づいた多読授業の教育的効果 「多読」の授業では、Smith (1985) の “We learn to read by reading” (p. 88) という言葉に表されている

    ように、より多くの英文を読み英語で内容を理解することが最重要視される。そして Nuttall (2005)

    が示す “The virtuous circle of the good reader: Enjoys reading → Reads faster → Reads more → Understands

    better” (p. 127) という連鎖と好循環を、いかに創出できるかが多読授業の最重要課題となる。

     一方、「読む」という行為には「理解」という側面だけでなく、テクストに対する「応答 (reaction)・

    解釈・評価」という側面があることを忘れてはならない (Carrell, Devine & Eskey, 1988)。すなわち、

    読み手は 1人の読者として、テクストに自分の背景知識を持ちこみ、作者のことばに様々な意見を投

    げかけながら、心の中に新たなテクストを紡ぎ出していく。一冊の本に対する読者の「応答・解釈・

    評価」は十人十色である。しかし、これまでの日本の言語(国語及び英語)教育では、そのような応

    答的な読みを育む教育が欠落しているのが現状である。2006 年に実施された PISA読解力調査におい

    て、日本の高校生が「自分の意見を述べる」自由記述問題で無答率が高かったという事実は、日本の

    言語教育において「応答・解釈・評価」する力を育む教育が欠如していることを物語っている(有

    本 , 2008)。そのような問題意識を持ち、プロジェクト IRCは洋書の多読授業を通じて「いかにして

    応答的な読みを豊かに育むことができるか」という課題に 1999 年から取り組んできた。

     プロジェクト IRCが授業の内容と方法をデザインし実践するうえで依拠した理論的枠組みは、

    Vygotskyの人間発達に関する考え方(社会文化的アプローチ)である。Vygotsky (1978)は、人間は

    「他者」との対話の中で考えることから、やがて自分自身で考えられるようになるということ、また

    人間は「文化的道具」と一体となり、「文化的道具」に助けられながら思考する、と考えた。そのよ

    うな学習観に基づいてデザインされた洋書読書環境の中で読書を行うことにより、読みの質 ―「理

    解」と「応答・解釈・評価」の両側面 ― にどのような影響が及ぼされたか、また「文化的道具」と

    して使用した IRCというサイトでの交流が教室内のみの多読授業と比較してどのような特質をもっ

  • - 61 -

    ているか、これら本研究が掲げた 2つの研究課題に改めて焦点を当てて考察する。

    9.2 「RRの執筆」が創発するテクストに対する「理解」と「応答」 「多読」の授業では、文字通りより多く読むことに重点が置かれるため、読後の活動はなるべく読

    書の負担にならないようにすることが望ましいと考えられている(酒井・神田 , 2005)。プロジェク

    ト IRC でも、英語をより多く読むよう Reading Marathon(400 語 = 1 km)や Reading Stars(読破冊

    数)という装置を IRCに実装して読書量を可視化し「多読」を推奨しているが、それにプラスして

    「本の紹介・感想を書いて他者に伝える行為」にも教育的価値を置いている。RRの執筆に関しては、

    89.1%が「RRを書くことで、自分がその本のどの部分に興味を持ち、どんなメッセージを得たかが

    明確になった」(Q21)、92.6%が「RRを書くことは、教室で本を紹介し合うための準備となった」

    (Q18)と肯定的に捉えている。

     そして、読みの「理解」の側面において 82.3%が「RRを書くことは、英文を丁寧に読むことにつ

    ながり、言葉とのかかわりを強めた」(Q22)、98.1%が「教室と IRCで『本を紹介する』ので、読ん

    だことがない人にわかりやすく説明できるよう、ストーリーの流れやポイントを意識しながら洋書を

    読むようになった」(Q7)、89.6%が「自分の心に強く残った場面や英文を意識しながら、洋書を読

    むようになった」(Q10)と RRに関して肯定的に答え、「他者の存在」を意識した RRの執筆が読み

    の「理解」に良い影響を与えたことがわかる。

     さらに、IRCに投稿された「RRを読む」ことの効果として、95.9%が「一冊の本に投稿されて

    いるいろいろな RRを読むと、読み方は十人十色であることを実感した」(Q33)、96.3%が「あら

    すじだけでなく、紹介する人が自分なりの解釈を加えている RRは、印象が強いと感じた」(Q34)、

    89.4%が「自分の読みを他の人の読みと比較し共通点・相違点を認識することは、自分の理解や解釈

    の仕方を吟味することにつながり有意義だった」(Q35)、と答えている。このことから、RRを書き

    読み合うことが、テクストに対する「応答・解釈・評価」を誘発し促進したことが伺える。このよう

    に、一人ひとりが IRCの利用を中心とした「他者と関わる読書環境」に埋め込まれることで、「洋書

    を読む(理解する、応答する)」ことと「RRを執筆する・読む」ことが両輪として機能し、互いに

    良い相乗効果を及ぼし合いながら読書が行われたことがわかる。

     また、RRを執筆することは「英語の苦手意識の軽減」(Q4)に最も影響を及ぼし、「洋書読書への

    抵抗感の減少に伴う、スラスラ読める洋書選択能力の向上」(Q90)にも関係することが 7.2 節で示

    されている。このことから、RR の執筆が、英語に対する親近感を生み出し、洋書読書への敷居を下

    げ、自律的な読書に拍車をかけるうえで一役を担ったことがわかる。 換言すれば、RR の執筆を通じ

    て、英語という言葉へのかかわりを深めるとともに内容理解が促され(Q20)、英語や洋書読書に対

    しプラスの効果がもたらされた (Q4、Q90、Q91)ことになる。読後の RRの執筆は、洋書読書の負

    担となり “Reading for Pleasure”の妨げになると思われたが、RRの執筆が、Nuttall (2005)の示す “The

    virtuous circle of the good reader: Understands better → Enjoys reading → Reads faster → Reads more” (p.

    127) という連鎖と好循環の創出に役立ったことがわかる。

  • - 62 -

    9.3 「教室での本の紹介」が創発する「洋書読書の抵抗感の減少に伴う、読める洋書選択能力の向上」

     今回のアンケート結果で、プロジェクト IRCにおいて「洋書読書の抵抗感の減少に伴う、スラス

    ラ読める洋書選択能力の向上」(Q90)は「英語の苦手意識の軽減」(Q4)と強く結びついていた。そ

    して Q4以外でこの「洋書読書の抵抗感の減少に伴う、スラスラ読める洋書選択能力の向上」(Q90)

    に最も影響を及ぼしたのは、84.2%が肯定した「クラスメートの本の紹介を聞くことは、自身の本の

    読み方、ものの考え方、発表の仕方を振り返ることにつながった」(Q77)であった。なぜ「教室で

    本の紹介を聞く」ことが、洋書を読むことへの抵抗感を減らし、適した洋書を選択しつつ、スラスラ

    読む感覚の向上につながったのだろうか。

     「洋書」は、学生たちにとって英語という「外国語」で書かれた「異文化」である。それゆえに、

    教室で仲間からオススメの洋書を紹介してもらい本の内容についてグループで語り合うことは、一人

    で「洋書」という「未知の世界」を読み解いていくのを助け、スラスラ読める洋書を選び、実際にス

    ラスラ読んでいく感覚の経験を生みだす「土俵(足場)」を持つことにつながる。換言すれば、洋書

    の「理解」と「応答・解釈・評価」をまったくの白紙から行うのではなく、教室やさらに RRを読ん

    で事前に洋書に関する情報を享受できる互恵的な関係の中で読書することができたことが「読み」の

    プロセスに良い影響を与え「英語読書のスラスラ感の向上」に寄与したと考えられる。

     また、教室で本の紹介を聞くことや RRを読むことは、様々な「洋書と出会うきっかけ」につな

    がる。81.7%が「教室でクラスメートの本の紹介を参考にしながら、読みたい洋書を探して読んだ」

    (Q70)、78.2%が「友達に本の紹介をしてもらい、自分の興味・関心の幅が広がった」(Q71)、84.2%

    が「受講前と比較して、自分が興味・関心のあるテーマの洋書を探して読書ができるようになった」

    (Q91)と答えているように、教室と RRを媒介にして「洋書選択能力」が促進されたことがわかる。

    9.4 IRC の文化的・教育的価値の考察と課題 図 1に示した「活動システム」の枠組みで可視化したプロジェクト IRCの特徴として、2つの点が

    重要である。まず 1つ目に、①主体は②文化的道具を使用して③洋書を読む(①→②→③)。そして

    2つ目に、②文化的道具の背後には④コミュニティ(他者との関わり)が存在し、①主体は④コミュ

    ニティのなかの一員として③洋書を読む(①→④→③)、というこの 2点である。すなわち、「プロ

    ジェクト IRCへの関与と参加」は、②文化的道具と④コミュニティ(他者との関わり)を媒介とし

    た協同的な読書行為を創り出すのだが、②文化的道具の中でも特に「IRC」というウェブサイトを使

    用することにより、教室の壁を越えた読書コミュニティが創出される。「教室内」のみの多読授業と

    比較して、プロジェクト IRCは、どのような特質を持つのか。

     佐伯(1995)は、ヴィゴツキーの三角形(①→②→③)、それを拡大したエンゲストロームの「活

    動システム」の理論的枠組みを「教室での学びの構造」の視点から捉え直し、「学びのドーナッツ論」

    を提唱している。そして、道具と他者との関わりを通じた学校における学びの文化的・教育的価値を

    考察している。ここでは、この「学びのドーナッツ論」の視点から、IRCという②文化的道具を使っ

  • - 63 -

    てデザインされた多読授業の、学びの構造を浮き彫りにしてみたい。そして「プロジェクト IRCへ

    の関与と参加」が創り出す文化的・教育的価値を捉えなおしてみたい。

     「学びのドーナッツ論」では、人が世界との関わりを広げ深めていくときの在り様を大きく「I(学

    び手)の世界」「YOU(教室の仲間や教師)の世界」「THEYの世界(Iと YOUをとりまく現実の文

    化的実践の世界)」の 3つに分ける(図 2)。そして、学び手が外界(THEYの世界)へ認識を広げ深

    めていくときに、第一接面と第二接面の二つの接面を経由することが図 2で示されている。プロジェ

    クト IRCにおいて、第一接面を構成するのが「教室」である。教室で Iは YOUと出会い、Iは対面

    で YOUにお気に入りの洋書を紹介する。そして共に洋書の世界を appreciate(理解・感謝)し「共

    感」しあう。このような教室におけるWE (I & YOU)の世界を拡張していき、新しい「外(THEYの

    世界 ― 他大学の学生、Amazon.co.jp および Amazon.com に投稿されている review)」との出会いと対

    話を創出するのが、第二接面を構成する IRCというウェブサイト(文化的道具)である。IRCが「第

    二接面」としていかに機能したかについては、アンケートで 53 項目(Q11から Q63)の質問を設け

    た。その中で特に「一冊の本に投稿されているいろいろなRRを読むと�