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ハロゲン化合物の MS スペクトルの 見方 大阪市立環境科学研究所 山本 敦史

ハロゲン化合物の MS スペクトルの 見方 - ee-net.ne.jpee-net.ne.jp/ms/e-21/e21-Yamamoto.pdf質量分析計で測っているものは何?• 一つのピークの半値幅を用いる方法(50%

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ハロゲン化合物の MS スペクトルの見方

大阪市立環境科学研究所

山本 敦史

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質量分析計で測っているものは何?

• 一つのピークの半値幅を用いる方法(50% → FWHM)

m/z イオンの質量を統一原子質量単位と 電荷数(絶対値)で割った値(無次元)

他の物質と分離できる能力 分解能質量分析における分解能は Δm/z ではなく m/z Δm/z で定義されるで、何をもって Δm/z とするか?

Full width at half maximum

個別のイオンのエネルギーに分布があるなどの理由で一つの物質を測定しても 測定値には必ず分布がある

m/z

Δm/z 50%

50%

5%0.5%

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質量分析計で測っているものは何?

• 一つのピークの半値幅を用いる方法(50% → FWHM)

• 隣接する二つのピークの間隔を用いる方法(x% Valley)

m/z イオンの質量を統一原子質量単位と 電荷数(絶対値)で割った値(無次元)

他の物質と分離できる能力 分解能質量分析における分解能は Δm/z ではなく m/z Δm/z で定義されるで、何をもって Δm/z とするか?

Full width at half maximum

個別のイオンのエネルギーに分布があるなどの理由で一つの物質を測定しても 測定値には必ず分布がある

m/z

Δm/z 50%

50%

5%0.5%

m/z

Δm/z 10%

10% 同じピークを用いても定義によって得られる値は異なる

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分解能の例• Br – の同位体を分離する分解能

• 例えば HBCD の [M – H]– について

m/z 79 に対して 分解能Resolving power

10% Valley 39.5

FWHM 83.6

79 81

m/z10%

Resolving power: 80

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分解能の例• Br – の同位体を分離する分解能

• 例えば HBCD の [M – H]– について

m/z 79 に対して 分解能Resolving power

10% Valley 39.5

FWHM 83.6

79 81

m/z10%

Resolving power: 80Resolving power: 1000

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分解能の例• Br – の同位体を分離する分解能

• 例えば HBCD の [M – H]– について

m/z 79 に対して 分解能Resolving power

10% Valley 39.5

FWHM 83.6

79 81

m/z10%

Resolving power: 80Resolving power: 1000Resolving power: 100000

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分解能の例• Br – の同位体を分離する分解能

• 例えば HBCD の [M – H]– について

m/z 79 に対して 分解能Resolving power

10% Valley 39.5

FWHM 83.6

79 81

m/z10%

Resolving power: 1000000

Resolving power: 80Resolving power: 1000Resolving power: 100000

整数質量が同じアイソトピックイオンすら分離されるようになる

[C12H1779Br581Br]–

× 500

[C1013CH162H79Br6]–

[C1013C2H1779Br6]–

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微量物質を定量するだけの手法ではない

分析条件の違い装置の違い

異性体参照データ不足

マススペクトルデータ 物質

一対一で対応させることは可能か?

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様々な質量分析計

• イオントラップ型・四重極型

• 飛行時間型

• 磁場型

• フーリエ変換型

実測精密質量 Accurate mass 計算精密質量 Exact mass

化学式構造

質量分解能

質量精度MSn

感度

精密質量

同位体組成フラグメン

テーションマップ

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イオンに親子関係はありません

• 最終的に検出されるイオンは元のイオンが変化したもの・・・

Quadrupole mass filterCollision cellQuadrupole mass filter

親イオンParent ion ! 前駆イオン

Precursor ion

娘イオンDaughter ion ! プロダクトイオン

Product ion

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混同するとコミュニケーションが成り立たない質量分析での定義 高分解能質量

分析で重要a Isobar 同重体 整数質量が同じ

b Isotopomer同位体異性体(?) 同位体の数が同じ

c Isotopologue同位体同族体(?) 同位体だけが異なる ✓

d Principal ion 主イオン 最大感度のイオン

eMonoisotopic ionモノアイソトピック

イオン

各構成元素で天然同位体存在度が最大の同位体のみで構成されたイオン

✓f Isotopic ionアイソトピックイオン

天然同位体存在度が最大ではない同位体を含むイオン

g Isotope pattern同位体パターン

同位体同族体(?) のピークパターン ✓

Mass defect 質量欠損 整数質量と精密質量のずれ ✓Monoisotopic elementモノアイソトピック

元素安定同位体が一つだけ

の元素 ✓

d

c

a

bCO2 ↔ N2OC2H2=CH2

CH2H=CH2H↔

C12H17Br6

e

f

g

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高分解能マススペクトルの解析

12C

1H

14N

16O

19F

32S

31P

28Si

Exact mass Mass defect

12 0

1.0078 0.0078

14.0031 0.0031

15.9949 –0.0051

18.9984 –0.0016

31.9721 –0.0279

30.9738 –0.0262

27.9764 –0.0236• 整数質量からのずれが構成している元素の目安になる

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

0 500 1000 1500

AlkaneEthyleneoxide 構造Glycopyranose 構造

Mas

s de

fect

Molecular mass

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同位体パターンの解析(炭素)

• M + 1 の M に対する比率 (%) がほぼ炭素原子数に相当

12C

1H

14N

16O

32S

31P

28Si

天然同位体比天然同位体比天然同位体比天然同位体比M M+1 M+2 M+3

100 1.08100 1.08100 1.08100 1.08

100 0.01100 0.01100 0.01100 0.01

100 0.37100 0.37100 0.37100 0.37

100 0.04 0.21100 0.04 0.21100 0.04 0.21100 0.04 0.21

100 0.8 4.52 0.02100 0.8 4.52 0.02100 0.8 4.52 0.02100 0.8 4.52 0.02

100100100100

100 5.08 3.35100 5.08 3.35100 5.08 3.35100 5.08 3.35

0 1 2 3 4 5 6 7 8 910

13C の数

C20

C30

C40

C50

C60

C70

C80

C90

C100

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9100 1 2 3 4 5 6 7 8 910

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同位体パターンの解析(ハロゲンの場合)

37Cl の数

Cl2

Cl3

Cl4

Cl5

Cl6

Cl7

Cl8

Cl9

Cl10

0 1 2 3 4 5 6 7 8 910 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9100 1 2 3 4 5 6 7 8 910

19F

35Cl

79Br

127I

天然同位体比天然同位体比天然同位体比天然同位体比M M+1 M+2 M+3

100100100100

100 32100 32100 32100 32

100 97100 97100 97100 97

100100100100

• 非常に明快な同位体パターン

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塩素と臭素が混在するイオンの場合

• 分解能の違いによる同位体クラスターの見え方の変化(3Cl, 1Br)

m/z 500 位の低分子では分解能 10 万から 100 万の間に 37Cl と 81Br を分離できるかどうかの境界がある

分解能 10 万 100 万X X+

2X+

4X+

6X+

8 X X+2

X+4

X+6

X+8

X+2

37Cl81Br

実は分離されていて低く見える

前提条件が何もない中,何が見えているのか理解する必要がある

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ハロゲン化合物の MS スペクトル

• 高質量分解能でどこまで分離できているのか

• 一つの化学式で示されるイオンにも種類があるので混同しない

• ハロゲンは同位体パターンや精密質量に特徴があるので比較的解析しやすい