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第58回神奈川腎炎研究会
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Key Word:セレコキシブ,内皮障害,ネフローゼ症候群,IgA腎症
湘南鎌倉総合病院 腎免疫血管内科
症 例症例:71歳男性既往歴:10年前より高血圧現病歴:以前より腎機能障害を指摘されて
おり,3年前より血清Cr値は1.7 ~ 2.1mg/dl前後であった。関節痛のためセレコキシブ(選択的COX-2阻害薬)をH21年10月頃から服用。H22年1月から血圧が上昇したため,ARBが増量となった。H22年2月の定期受診で血清Crが3.20mg/dlまで上昇したため2月8日に当院初診。2月20日から下肢浮腫が増悪したため3月1日に精査加療目的にて入院となる。
入院時身体所見
身 長 169.5cm, 体 重 65.6Kg,BMI 22.8,BP:168/96 mmHg,HR: 54/min,KT: 36.5 ℃,conj p: not anemic,conj b: not icteric,oral cav-
ity: wet not reddish,cervical LN: not palp,heart: systolic murmur Ⅲ/Ⅵ,lung: clear no rale,abd: soft and flat tenderness(-),PTE: (++)。内服:ロサルタン 50mg,アロプリノール 100mg,セレコキシブ 100mg,セチリジン 10mg。
図1
図2
セレコキシブ内服を契機に急速進行性に腎機能が悪化し,ネフローゼ症候群を呈した1例
守 矢 英 和 長谷川 正 宇 中 島 みなみ堤 大 夢 持 田 泰 寛 石 岡 邦 啓真栄里 恭 子 宮 本 雅 仁 岡 真知子大 竹 剛 靖 日 高 寿 美 小 林 修 三
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腎炎症例研究 29巻 2013年
【尿】pH 5.0 Gravity 1.014 U-pro 3+ 8.09 g/day
U-glu ± U-OB 3+ U-RBC >100 /HPF
U-WBC 5-9 /HPF
Cast 3+ NAG 18.8 U/l
β2MG 18025 μg/l
【血算】WBC 4200 /μl
Hb 8.8 g/dl
Ht 26.5 %
Plt 14.2 104/μl
【生化学】T-bil 0.4 mg/dl
AST 20 IU/L
ALT 15 IU/L
LDH 229 IU/L
GTP 21 IU/L
TP 4.9 g/dl
Alb 2.7 g/dl
BUN 70.2 mg/dl
Cr 4.81 mg/dl
eGFR 10.2 ml/min
UA 5.3 mg/dl
Na 140 mEq/L
K 5.7 mEq/L
Cl 112 mEq/L
Ca 7.7 mg/dl
Pi 5.1 mg/dl
BS 121 mg/dl
HbA1c 5.0 %
TC 206 mg/dl
TG 169 mg/dl
HDL-C 60.4 mg/dl
LDL-C 108 mg/dl
CK 252 IU/L
【凝固】PT 11.8 sec
PR-INR 0.98 aPTT 28.4 sec
Fib 272.8 mg/dl
入院時検査所見(1)
図3 図4
【免疫】CRP 0.01 mg/dl
RA (-)IgG 825 mg/dl
IgA 352 mg/dl
IgM 68 mg/dl
C3 93 mg/dl
C4 33 mg/dl
CH50 44 U/ml
抗核抗体 <40 倍抗DNA抗体 <2 IU/ml
MPO-ANCA <10 EU
RP3-ANCA <10 EU
抗GBM抗体 <10 EU
【感染症】HBs Ag (-)HCV Ab (-)RPR定性 (-)TP抗体 (-)
【その他】TSH 12.93 μIU/ml
fT4 0.80 ng/dl
レニン 2.0 ng/ml/h
アルドステロン 92.5 pg/ml
フェリチン 151.2 ng/ml
DLST セレコキシブ (+)
【尿検査、入院後】尿中BJP (-)尿中好酸球 (+)
Selectivity index 0.40
入院時検査所見(2)
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図17
図18
図19
結 語
Celecoxib内服を契機にネフローゼ症候群を発症し,糸球体内皮障害と尿細管間質性腎炎を呈し,ステロイド投与にもかかわらず腎死にいたった症例を経験した。既存の IgA腎症による腎組織変化にcelocoxibによる糸球体病変や尿細管間質変化が加わったことが不可逆的な腎機能悪化に至った可能性がある。
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腎炎症例研究 29巻 2013年
討 論 守矢 よろしくお願いします。 では,症例提示いたします。症例は71歳の男性です。既往歴としては10年前に高血圧がありました。現病歴ですが,以前より腎機能の障害をここ5年ぐらいずっと指摘されて,血清クレアチニンは1.7 ~ 2.1mg/dlと,この4,5年は変わっていない方でありました。最近,膝関節痛のためにセレコキシブ(選択的COX-2阻害薬)を平成21年10月ごろから服用し,翌平成22年1月からは血圧が上昇したため,ARB
が増量となっております。翌月の2月の定期の受診で,血清クレアチニンがもともと2.0ぐらいだったのが,3.2まで上昇したために,2月8
日当院に初診となりました。その後,下肢浮腫も増悪したため,3月1日精査入院となっております。 身 体 所 見 で す。 身 長169cm, 体 重65Kg,BMI22の方で,血圧が来院時168と96ということでした。特記すべきところは,収縮期がLevineⅢ度で聞こえたのと,下肢の浮腫が認められております。 内服については,以前からロサルタン50,プリノール,セレコキシブ,それからセチリジン,抗アレルギー剤を内服されておりました。 入院時検査所見ですが,尿は3(+)で,入院後の定量では1日8gとネフローゼレベルの蛋白です。潜血も3(+)と出ておりました。尿中のNAG,β2MGの高値も認めております。血算は,ヘモグロビン8,ヘマトクリット26.5と貧血を認めております。 生化では,蛋白,アルブミンの低下,尿素窒素・クレアチニンは来院時よりさらに上がりました。尿素窒素は70.2,クレアチニンは4.8mg/dlまで上昇しておりました。それに伴いカリウムも5.7と上昇しております。血糖,コレステロールは,中性脂肪が軽度上昇している以外は特記すべきところはなく,凝固も問題はありませんでした。
免疫ですが,特に免疫グロブリン,補体等の有意な変化はなく,抗核抗体,抗DNA抗体,ANCA,抗GBMについても上昇は認めておりません。感染症も特記すべきところはありません。TSHが上昇しておりますが,Free T4は正常で,そのほかホルモン系も問題がありませんでした。 この方は,セレコキシブを飲んだということで,その影響だと思って,DLSTを調べましたところ,陽性。それから,尿中の好酸球もdetectされており,薬剤性の影響が高いと思いまして,急速に進行する腎機能障害の診断のために腎生検を施行しております。 腎生検は全部で18個採取されまして,そのうち4個に,一部も含めた半月体形成を認めておりまして,荒廃した糸球体は1個でありました。このとおりやや細胞性もありますが,繊維性の半月体を認めて,一部荒廃に陥っている糸球体を認めております。そのほかの糸球体ですが,mesangium基質の増生,細胞の増加を認めて,係蹄腔が狭小化しており,管内増殖を示す所見も合わせて認めております。 間質は細胞浸潤を著明に認めておりまして,HE染色ですが,中心は小円形細胞浸潤で,一部好中球も認めておりました。強拡ですが,好中球の浸潤,一部尿細管炎を示す所見もありまして,間質の変化も強く認めておりました。 それから,PAM染色ですが,至るところに係蹄壁の二重化を認めておりまして,一部内皮下が著明に開大している所見を認めております。明らかな spike形成等は認めておりませんでした。 masson trichrome染色ですが,先ほどお示ししました,内皮下の開大のあたり,内皮下に赤染するdepositを少量認めております。 IFですが,ちょっとクオリティーが悪い IF
で申し訳ないんですが,2回あえて調べましたけれども,IgAと IgM,それからC3がmesan-
gium領域に染色を認めております。 そして,電顕ですが,電顕ではmesangium領
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域,それから,一部係蹄基底膜内皮下にelec-
tron dense depositの沈着を見ております。また,単球系と思われる細胞がだいぶ浸潤しておりまして,一部内皮下にも単球の浸潤を認めております。同様に,こういうelectron dense deposit
の浸潤と,単球系の浸潤を認めておりました。 それから,内皮下のは,これにだいぶ lucent
になったかたちで,内皮下の開大を電子顕微鏡でも至るところに著明に認めております。 以上で組織の所見をまとめますと,mesan-
gium基質の増加,細胞増生,また補体,IgA,IgM,C3の沈着,また電子顕微鏡の写真から,IgA腎症がもともとこの方のベースにあったのかなと思うんですけれども,炎症細胞の浸潤で特に単球系が,糸球体,また尿細管,間質に著明に浸潤していること。それから内皮下の浮腫開大が見られるということが,今回は内皮障害も併せて,以前からあったのか,最近になって起こったのかといったところを,ちょっと議論していただきたいと思っております。 臨床経過ですが,当初は急速進行性の病態も考え,ステロイドパルスをし,後療法として40ミリから治療を開始,蛋白尿は低下する傾向にあったんですが,血清クレアチニンの改善は認めず,残念ながら血液透析,その後,PD
と移行して,今は維持透析を行っております。 この方は,COX-2選択阻害薬を飲んでいるんですが,NSAIDs腎障害は以前から電解質異常や,急性腎不全,また,長期投与により乳頭壊死ということが古典的に知られておりますが,ネフローゼ症候群を起こすこともよくいわれており,尿細管間質性腎炎の70%以上にネフローゼを呈するという報告もあります。また,内服から数カ月後,平均して6カ月後程度に発症して,50歳以上の高齢者に多く,ネフローゼ以外の薬剤の腎外症状は意外と10%以内で少ないといわれています。 また,組織の変化では,minimal changeや,membranesの報告が幾つかなされております。その中でも,COX-2選択阻害薬の報告は少ない
のですが,調べたかぎりでは過去に7例あります。発症期間は,やはり数カ月から24カ月,2
年ぐらいたってから発症したものもあります。臨床経過としては,ARF,蛋白尿,ネフローゼといった経過で発症しております。今までの報告は,ほぼ血清クレアチニンが正常に近いところから発症して,急性腎不全の状況で,組織所見はAIN,また微小変化型,膜性腎症といったものも報告はされております。 経過としては,治療は薬剤中止,もしくはそれにステロイドを投与するということで,フォローアップしてみると,全ての症例で血清クレアチニンの改善が報告されておりますが,今回のわれわれの報告では,既に血清クレアチニンが2.1の段階からセレコキシブが投与されており,もともと IgA腎症を合併していた可能性がある。内皮障害もあるということで,薬剤中止やステロイド投与によっても改善せず,維持透析になったという症例であります。 考察ですが,NSAIDsはもともとアラキドン酸pathwayをブロックして,虚血に陥るわけですが,そのためにリポキシゲナーゼpathwayが上昇しまして,これがproinflammatoryマーカーのサイトカイン,もしくはバゾアクティブ,ロイコトリエンを上昇させて,血管の透過性を亢進し,nephrotic syndromeを起こすというふうに,今まで考察されております。 また,このNSAIDsが直接上皮細胞を障害して,これがまた血管透過性の亢進ということがありますが,このNSAIDsが内皮障害を起こすかどうかについては,あまり報告がありません。 今回,内皮下の開大というところで,throm-
botic microangiopathyが鑑別に挙がるのですが,もともとTTP,HUSや,malignant hypertension
等に有名な組織所見でありますが,抗リン脂質抗体症候群,scloderma等でもいわれております。 そして,薬剤で有名なところとしましては,マイトマイシンCや,シクロスポリン,それからチクロピジンということで,NSAIDsによっ
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てこのTMAが起こるというのは,過去に調べたかぎりでは,インドメタシンによって起こったことが,一例報告がありました。今回のセレコキシブについては,内皮障害との関係はちょっと定かではありません。 また,もともと IgA腎症がこの方にあった可能性があるんですが,IgA腎症のTMAの合併というのは報告がありまして,意外と多いんですよということを,Clinical Nephrologyで発表がありまして,その関与としては,このTTP,HUSといわれています,巨大なvon willebrand factorの関与がある。これが IgA腎症でも関与しているということがあって,IgA腎症でこの内皮障害があってもおかしくはないという報告がありました。 今回,この内皮障害等がもともと IgA腎症によるものか,新たに加わったセレコキシブによるものかを検討いただければと思っております。 結語ですが,セレコキシブ内服を契機にネフローゼ症候群を発症し,糸球体内皮障害と,尿細管間質性腎炎を呈し,ステロイド投与にもかかわらず,腎死に至った症例を経験いたしました。既存の IgA腎症による腎組織変化に加えて,セレコキシブによる糸球体病変や尿細管間質変化が加わった可能性があり,これが不可逆的な腎機能悪化に至った可能性があると思われます。以上です。ありがとうございました。座長 ありがとうございました。では,経過で,何かご質問がある方はいらっしゃいますか。鎌田 赤血球破砕症候群や,一過性の血小板減少,あるいは凝固異常とかは確認できましたでしょうか。守矢 来院時からして,凝固系が正常で,その後入院中の経過はずっと凝固系は問題なく,また血小板の低下も認めておりませんでした。鎌田 fibrinogenもあまり動かなかったのでしょうか。守矢 ちょっと数値は定かでないんですが,あまり低下したということもなかったように記憶
しております。鎌田 破砕赤血球はどうですか。守矢 破砕赤血球はなかったです。鎌田 はい。ありがとうございます。座長 ほか,いかがでしょうか。中村 北里の中村です。 この方は,クレアチニンがもともと高かったと発表されていましたけれども,そのときの臨床的な判断はどういうふうにされていたのか。血尿があったとか,蛋白尿があったとか,何か疑われていたのはございましたか。守矢 この方は他院でフォローされていて,それも内科というか,町のいろいろ診るような先生が診ていたようなところで,あまり尿所見とか,腎臓に関する詳しいことは全くなさっていなかったので,ちょっと情報をもらったんですが,尿蛋白と尿潜血があるということぐらいで,それ以上の精査はされておりませんでした。中村 それはあったということですね。はい。ありがとうございます。座長 ほか,いかがでしょうか。山口 先生に IgAが350で,だいぶ低蛋白血症というか,蛋白が出ていて IgAが異常に高いように思うんですが,その点はいかがですか。守矢 IgAは数回しか測っていないんです。治療の経過で下がってきましたけれども,確かに蛋白尿も当初からやはり高かったので,先生のおっしゃるとおり低下はしていないですし,ほかのGと,A,M,特別な動きもしていなかったんで,ちょっとすみません。そこらへんは私も考えを持っていなくて,適切なお答えができないんですけれども。座長 これは IgA腎症の経過と考えていくと,ある時期からaccelerateした印象を受けますが,その時期と選択的COX-2阻害薬の服用期間がたまたま同時だったと考えることはできないでしょうか。守矢 それも否定はできないんですが,ここ数年ずっと1.7から2ぐらいで変わっていなかったのと,悪化する前に何か感染が契機だったと
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かということは全くなかったので,ARBの増量ということもあったんですけれども,一番組織の所見やDLSTの結果等を含めて,やはり薬剤の可能性が高いと総合的に判断しています。座長 分かりました。ほか,よろしいでしょうか。それでは,病理の先生方からコメントをお願いいたします。重松 お願いします。
【スライド01】弱拡大で見ると,この症例もやはり尿細管の障害がかなりあるということが,この尿細管の拡張,それから上皮の萎縮で分かります。それから,糸球体病変もかなり肥大した糸球体があり,そしてglomerular sclerosisが1割程度あるということです。segmental lesion
とextracapillary proliferation。これには活動性の変化があるということです。そういう背景があります。
【スライド02】七十何歳だから,動脈硬化はこの程度あるのは年齢相応だと思います。ここには,hyalinosisがあって,これはmesangium増殖性の腎炎像で,ちょっと癒着を思わせるようなところがある。それから,尿細管のほうは,distalもproximalも両方障害を受けているような印象があります。
【スライド03】ここではextracapillary lesion,かなりフレッシュな細胞性半月体ができていて,管内増殖もmesangium増殖もかなり強い。そして尿細管の中には,proximalだと思いますけれども,その中に炎症細胞が流れていったり,上皮自体にbleb所見があって,障害を受けております。
【スライド04】これは,演者も出されましたけれども,segmental sclerosisになっていて,かなり病歴が長いことを意味しています。この辺は線維細胞性の半月体の状態になっています。残余の糸球体にも二重化が起こったりしております。
【スライド05】ここでも癒着病変があって,ここに小細胞性の菅外性の変化が見られます。ちょっと気を付けてほしいのは,ここに血栓が
できているのです。ちょっと大きくします。【スライド06】こういう形で,血栓を取り囲んで細胞反応が起こっていますから,この方には凝固異常があることが示唆されます。それから,係蹄壁が非常に淡明になってしまっているのです。何か内皮障害が随伴しているということが推察されます。
【スライド07】中には,こういうcellular lesion
が,部分的に細胞の増生が強いところと,むしろ浮腫性の変化の強いところも混じっているということが言えます。
【スライド08】よく見ると,こういうふうに非常にはっきりした二重化を示すところ。それから,それほどでもない,普通に IgA腎症で見られる二重化のところがある。ここなんかは,かなり激しい浮腫性の変化だと思います。
【スライド09】ここでは,内皮障害を起こしたと思われるところに遊走細胞が入っているという反応性の変化があるということです。
【スライド10】ここでは,部分的に虚脱になってきてしまったということです。かなり管外性の変化が強い。IgA腎症だと思うんですけれども,activityは強いほうであります。
【スライド11】それで,尿細管の変化を見ているわけですけれども,大体ここら辺はproximal
の tubulesだと思います。そういうところに管腔由来の細胞と炎症細胞なんかがかなり出ています。
【スライド12】いろんなdebris様のものが中に入っている。distalのほうも,やはりかなり萎縮が強くなってきています。
【スライド13】動脈病変は,70歳の人に見られる線維性の内膜肥厚ということでいいと思います。
【スライド14】蛍光抗体は,よく見ると IgA腎症にしておかしくないようなパターンで見えると思います。
【スライド15】これはC3。これが糸球体なのか,ちょっとオリエンテーションが分かりませんけれど。これかもしれない。
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【スライド16】電顕では,矢印を付けたところが内皮障害で起こってきた病変で,そのほかの病変は,演者のおっしゃったとおりparamesan-
gial depositを主とするdepositionがありますから,これは IgA腎症を反映していると思います。
【スライド17】これは,paramesangial depositです。それから,上皮障害がかなりあって,収縮蛋白が増えています。かなり蛋白尿は多いことが予想されるような変化だと思います。
【スライド18】ここもmesangial depositを中心です。ここでは,恐らく入ってきたmonocyte
でしょうけれども,depositionと密着な関係をもち,また貪食しているのかもしれません。
【スライド19】沈着物に特に特殊なパターンはなくて,immunoglobulinの沈着を示す例でよく見られるパターンだと思います。
【スライド20】それで,もう一つの IgA以外の変化は,演者も言われたように,thrombotic microangiopathyを示唆する変化です。ここはmesangium細胞がありますから,そこに浮腫性のものがあって,もうmatrixがなくなってしまっているわけです。ここは内皮下の浮腫からさらに進んで,二次的なmesangiolysisという変化になってきている。ここに入ってきた炎症細胞も変性に陥っております。
【スライド21】今のところです。mesangium細胞だというのは,ここに収縮蛋白がありますので,そこにじかに内皮下にたまった浮腫性の物質が接触していますので,mesangiumのmatrix
が溶けた状態だと思います。【スライド22】それから,間質の変化ですけれども,これは,distalだと思います。ここに tu-
bulitisが起こっている。そして,ここにmono-
cyteが出てきている。ちょっと脂肪貪食細胞みたいなのが多いです。この細長いのは,筋線維芽細胞といわれるものであろうと思います。
【スライド23】ここは結構脂質に富んだ細胞があります。線維化が少し進んでいます。
ということで,糸球体病変は多彩で,活動性がかなり強い。IgA腎症が優位になっている。ですので,この IgA腎症だけでも,七十何歳になられて,こんな活動性の変化があると,予後はこの糸球体病変ではあまり芳しくないということです。加えて,ここに血栓形成や内皮下浮腫のある,いわゆる薬剤性の thrombotic microan-
giopathyがかぶさって,より一層この患者さんの容態を悪くしたということだと思います。尿細管間質の病変も,薬剤性のものであろうと,私は考えました。以上です。座長 ありがとうございます。では,山口先生お願い致します。山口 重松先生とあまり大きな違いはないのですが,私自身ちょっと疑問に思っているのは,最初から本当に IgA腎症があったのか。それの急性増悪のように見えているんですが,70歳で薬剤がきっかけになって,TMAみたいなもので,crescenticな IgAが形成されるのかどうかということです。そのへんが非常に疑問です。 それから,最近monoclonal IgAです。非常にcrescenticになるタイプであるものですから,その可能性がないのかどうかということです。
【スライド01】見てのとおり,非常に tubular injuryが比較的シビアです。間質性も非常に強いです。糸球体も,extracapillaryな変化がどの糸球体にも見られます。非常に頻度が高いです。糸球体そのものもhypercellularです。年齢相応の動脈硬化はあるように思います。ですから,ATN様のものに非常にアクティブな糸球体の
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病変があるということだと思います。【スライド02】先ほどからだいぶ出ていますけれども,これがmacrophages系の抗体で陽性になるらしいのですが,上皮が脱落してmacro-
phages化するという,以前そんな論文も見たことがあります。こういうような segmentalに比較的小さいんですが,これもcellular crescentだろうと思います。この segmentalにhypercellular
で壊れてきている感じです。動脈硬化は非常に強いです。それに伴って間質炎もだいぶあるように思います。
【スライド03】このようなfibrocellular crescent
です。やはりこの辺もそうだろうと思います。それから,糸球体内に単核・多核球の外来性の細胞がだいぶ入り込んで,少し分葉化を呈しているということになると思います。
【スライド04】これです。比較的小さいんですが,mesangial matrixはそんなに増えている印象はないです。外来性の細胞の浸潤がだいぶ目立つように思います。
【スライド05】なんか似たようなところ。この辺は近位尿細管の上皮のブラッシュボーダーが消失して扁平化,あるいは regenerativeにhy-
percellularな近位尿細管です。ですから,ATN
様の所見ということが言えると思います。seg-
mentalに 係 蹄 は tuftがcollapseし た り,cellular crescentをつくったりしている。それから,外来性の細胞浸潤があって,係蹄の二重化がかなり目立つということだと思います。細動脈硬化症は部分的にこの辺はあるように思います。
【スライド06】これは,先ほども出てきましたけれども,何か subendoにhyalineみたいなものがちょっと滞っている。あるいは,内皮下の開大が非常に顕著である。ここの細動脈はあまり問題ないです。通常見るようなmesangiumのmatrixが増えて,mesangial cellが増殖しているパターンは,あまり顕著ではないのです。もちろんそれは,内皮細胞障害で修飾されているというふうに考えればいいのかもしれません。
【スライド07】唯一古そうに見えたのは,IgA
が癒着しますと,その周囲に細血管が増えてくる。細動脈硬化症も中等度ぐらいある。内皮核の開大も非常に顕著である。急性のATN様の病変。少し尿細管炎もあるということで,間質性腎炎があるかないかぐらいの感じだろうと思います。
【スライド08】先ほど,これは重松先生も出され ま し た け れ ど も,capillary内 に thrombusと見るのか。やや僕はPAS陽性で,何かhyaline thrombiでもいいのかなと。それから,こういうように外来性の細胞がだいぶ入り込んで,壊して,crescentをつくっているというような感じです。IgAがもともとあって,それで新たに増悪したにしてはだいぶ派手なんです。
【スライド09】これも,内皮細胞障害で,seg-
mentalにcollapseすることはよくあるわけで,これが古い病変であるとは,はっきり言えないように思います。周りはcellular crescentの障害でATN様の尿細管系の障害が強い。
【スライド10】同じような内皮下の拡大,あるいは二重化が見られて,いわゆる基本的にmesangiumがあまりmatrixが増えて,depositがあるという印象が弱いんです。pparamesangial depositはあまりはっきりしないです。hyalinosis
はあります。【スライド11】それで,ちょっとおぼつかないんで困るんですが,IgAが付いていることは間違いない。ただ,mesangialパターンなのか,peripheralなのか。ちょっと区別がつかないように思います。C3がどこに出ているのか。ちょっとよく分かりません。あるのかもしれないです。それで,渡された中で,κ・λがありまして,κはあまり出ていなくて,λだけがちょっと,これも本当に陽性と言っていいのかどうか。fibrinogenと同じなので,なんとなく付いているか。G,Aとの付き方と比べると,C3なんかと同じようなので,あまり有意に取らないほうがいいかもしれないです。
【スライド12】糸球体は先ほどから,重松先生が丁寧に説明なさっているので,基底膜下の開
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大が segmentalにあって,collapseして,deposit
は必ずしも,paramesangiumばかりではなくて,だいぶ広範に subendo,あるいは interpositionを起こしていますので,位置的には subendoからparamesangiumで,細胞で埋まってしまって,外来性の細胞も入っていますので,mesangium
も増えているとは思いますけれども,非常に分かりづらくなっています。
【スライド13】depositで,IgA腎症で古くなったやつを見ると,大体depositが薄くなってくるのが多いんですが,これは非常にdensityのはっきりした形で,macrophagesで interposition
様のところで見られていますので,以前から IgAがあったというふうには。これはもうinterpositionの場所で subendoの沈着もある。それから,macrophagesが入り込んできているということで,mesangial matrixにも,もちろんdepositはありますけれども,ちょっと典型的なIgA腎症とは言えないと思います。
【 ス ラ イ ド14】 そ う い う こ と で, 私 は IgA-related nephropathy。いろんな二次性に起きてくるものがあります。それから,TMAの可能性もあるように思います。それから,IFをもう1
回やっていただきたいなと思うんですが,IgA
はあると思いますが,例えば,軽鎖にλとκの違いがあれば,関連としてはmonoclonal IgA deposit,IgAの値が高いということで,内皮細胞障害とATN様の病変のある IgA関連腎炎と考えられます。
【スライド15】これはproliferative glomerulone-
phritis secondary to a monoclonal IgAということで,λのタイプが多いのです,この場合は。κのタイプよりもλタイプが多いです。
【スライド16】これも名古屋第二日赤の症例でIgA腎症でフォローされていたのですが,κ・λを染めたら,λだけが陽性で,いわゆるglo-
merulonephritis with monoclonal IgAにしたやつで,やはりこういうように,非常にcrescentic
なのです。それから,mesangiumの増殖があまり顕著ではない。double contourも目立つとい
うようなことで,ぜひそちらのほうも精査をしていただければなと思います。以上です。座長 どうもありがとうございました。では,病理の先生方にご質問,コメントなどいかがでしょうか。宮城 東部病院の宮城と申します。 間質病変のことで一応確認をさせていただきたいんですけれども,基本的に急性間質性腎炎の所見ではないと理解してよろしいのでしょうか。いわゆる尿細管炎の所見といったことは,あまり言及がなかったような気がするんですけれども,ATNに伴った比較的diffuseな間質性の細胞浸潤という解釈でもよろしいのでしょうか。山口 全く尿細管炎がないというほどではないのですが,主体は尿細管上皮障害が主体なんです。ですから,二次的に少し壁内にリンパ球系が入り込むということはありますので,主体はATN様の病変というふうには思います。宮城 臨床の現場でも,比較的遭遇することが多い症例なので,ぜひお聞かせいただきたいです。こういう病理所見を見た場合に,先生はステロイド投与というのは recommendationされますでしょうか。山口 この症例は結果的にあまり効かなかったみたいですよね。糸球体病変がだいぶひどいので,そっちが主体で,尿細管は regenerativeな変化ですぐ戻りますけれども,ですから,ステロイドはもちろん使っても問題はないと思います。重松先生,どうでしょうか。重松 私も,糸球体病変がやはり強すぎるので,尿細管の変化自体は,ステロイドは両方効いてしまうかもしれないけど,尿細管に特化した治療としては,あまり考えることはできないと思います。座長 よろしいでしょうか。宮城 ありがとうございました。座長 ほか,いかがでしょうか。原 この症例の蛋白尿は内皮障害,いわゆる薬剤でのネフローゼ症候群と考えるのでしょう
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か。8gも出ているとなると,高度の蛋白尿が出ていますが,組織学的にどう考えていいのか。末期の腎不全になると,蛋白尿が増えてくる場合があります。腎炎そのものによるのではないのでしょうか。山口 これは,数を数えると,こちらの記載だと,crescentの数は少ないのですが,私が数えたところだと,14分の12のcrescentなんです。ですから,もう簡単にcrescenticの IgA関連のものだと考えていいわけなので,そっちから出ているということだろうと思います。座長 ほか,いかがでしょうか。守矢 演者からで。臨床経過を見ますと,やはりセレコキシブを入れてからだいぶ変わったということで,やはり薬剤の影響が組織にというふうに思ってみているんです。重松先生はその関与もということでお話があったんですが,山口先生のほうとしては,いわゆる IgA腎症,もしくは IgA deposition diseaseといったもので,薬剤による影響というのは,どこまでこれが組織上読み取れるかというのをご指摘いただきたいと思うんですが。山口 先生のお話でも,この薬剤でTMAは起こらないと。守矢 直接の報告はなくて,NSAIDsでわずかにあるというぐらいです。山口 ですから,私はTMAの可能性があるように思いますので,それが薬剤が関与している可能性はあるんじゃないでしょうか。守矢 ありがとうございます。座長 宜しいでしょうか。では,ありがとうございました。
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第58回神奈川腎炎研究会
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腎炎症例研究 29巻 2013年
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