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1 リボソームタンパク質の構造・機能・分子進化 北海道大学大学院理学研究科 保坂 晴美,中島 崇,姚 閔,田中 1. はじめに 生体内において生命維持に必須であるタンパク質を合成する機構は,多くの反応 段階から成り立っている.この一連の反応には数多くの分子が関与しているが,中 心的な役割を担っているのはリボソームである.リボソームは mRNA を介して DNA の遺伝情報の翻訳を行い,アミノ酸を重合させてタンパク質を合成する細胞内小器 官であり,生物の細胞中に普遍的に存在する.真正細菌や古細菌のリボソームは, 50S 30S の大小各一個づつのサブユニットから構成されるリボ核酸タンパク質 の複合体粒子である.昨年,好塩古細菌 Haloarcula marismortui 由来の 50S サブユ ニット[1],高度好熱細菌 Thermus thermophilus 由来の 30S サブユニット[2]の構造が それぞれ 2.4Å, 3.0Å 分解能で解析された.共に初の原子レベルでのリボソームの構 造解析である. リボソームサブユニットの構造解析に先行して,これまでに約 4 割のリボソーム タンパク質の立体構造が解明された.リボソームタンパク質の多くが RNA 結合タ ンパク質であり,リボソームの活性中心である RNA の構造形成の役割を担ってい る.解析されたリボソームタンパク質には,新規あるいは既知の核酸結合モチーフ が見られ,核酸結合タンパク質の進化に関して多くの知見が得られた.生命維持に 必須なリボソームの構成成分であるリボソームタンパク質は,あらゆる生物種間で 非常によく保存されている.リボソームタンパク質は起源が最も古いタンパク質で あると共に,進化の過程において最も変異の少ない環境にあったことから,始原の タンパク質の構造を保持しているものと考えられる.リボソームタンパク質の多様 な構造は,現存の転写制御因子等に見られる核酸結合モチーフの原型なのかもしれ ない. 2. リボソームタンパク質の X 線結晶構造解析 我々は,九州大学農学部の木村誠研究室と協力して中度好熱菌 Bacillus stearothermophilus のリボソームタンパク質の構造解析を行ってきた.中度好熱菌 のタンパク質は熱安定性に優れており,また,クローニングが比較的容易にできる ため構造解析に適している.私達は,五十数個あるリボソームタンパク質の中から rRNA に対する一次結合タンパク質,機能的に重要であると考えられるタンパク質

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    リボソームタンパク質の構造・機能・分子進化

    北海道大学大学院理学研究科

    保坂 晴美,中島 崇,姚 閔,田中 勲

    1. はじめに

    生体内において生命維持に必須であるタンパク質を合成する機構は,多くの反応段階から成り立っている.この一連の反応には数多くの分子が関与しているが,中心的な役割を担っているのはリボソームである.リボソームはmRNAを介してDNAの遺伝情報の翻訳を行い,アミノ酸を重合させてタンパク質を合成する細胞内小器官であり,生物の細胞中に普遍的に存在する.真正細菌や古細菌のリボソームは,50S と 30S の大小各一個づつのサブユニットから構成されるリボ核酸タンパク質の複合体粒子である.昨年,好塩古細菌 Haloarcula marismortui 由来の 50S サブユニット[1],高度好熱細菌 Thermus thermophilus由来の 30Sサブユニット[2]の構造がそれぞれ 2.4Å, 3.0Å分解能で解析された.共に初の原子レベルでのリボソームの構造解析である.リボソームサブユニットの構造解析に先行して,これまでに約 4割のリボソーム

    タンパク質の立体構造が解明された.リボソームタンパク質の多くが RNA 結合タンパク質であり,リボソームの活性中心である RNA の構造形成の役割を担っている.解析されたリボソームタンパク質には,新規あるいは既知の核酸結合モチーフが見られ,核酸結合タンパク質の進化に関して多くの知見が得られた.生命維持に必須なリボソームの構成成分であるリボソームタンパク質は,あらゆる生物種間で非常によく保存されている.リボソームタンパク質は起源が最も古いタンパク質であると共に,進化の過程において最も変異の少ない環境にあったことから,始原のタンパク質の構造を保持しているものと考えられる.リボソームタンパク質の多様な構造は,現存の転写制御因子等に見られる核酸結合モチーフの原型なのかもしれない.

    2. リボソームタンパク質の X線結晶構造解析

    我々は,九州大学農学部の木村誠研究室と協力して中度好熱菌 Bacillusstearothermophilus のリボソームタンパク質の構造解析を行ってきた.中度好熱菌のタンパク質は熱安定性に優れており,また,クローニングが比較的容易にできるため構造解析に適している.私達は,五十数個あるリボソームタンパク質の中からrRNA に対する一次結合タンパク質,機能的に重要であると考えられるタンパク質

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    を中心としてサンプルの調製をすすめた.構造解析可能な結晶が得られ次第,セレノメチオニン置換体結晶を調製し,多波長異常分散法を使った迅速な構造解析を進めてきた.以下,我々がこの数年間に解析した 3つのリボソームタンパク質について,最近解析されたサブユニットの構造と対比しながら述べる.

    2-1. リボソーム解読中心に近接する S7はフレキシブルなβアームをもつ

    S7 は,30S サブユニットのヘッド領域を構成するタンパク質で,リボソームの解読中心 (decodingcenter) に近接して存在する.16S rRNAの 3’大ドメインの下流域と結合し,16S rRNA の構造形成することでヘッド領域の会合を誘導する.我々は S7の結晶構造を 2.5Å分解能で解析した[3].

    S7 の構造は,疎水コアを形成する 5 本のαヘリックス,疎水コアから垂直にのびるβアームとそれに並行する 1本のαヘリックスから構成される.構造を元に,分子表面に偏在する正電荷ポテンシャル,塩基性残基の保存性,そしてクロスリンク実験等の生化学実験の結果から,RNA 結合領域は以下の3つの領域であると予想した.・ α4,βアーム,α6が形成するくぼみ領域・ 結晶構造では見えてないが塩基性残基の保存性が非常に高い N末端・ α1-2, α4-5のループ

    図 2-1-1 S7のリボンモデル

    図 2-1-2 30Sサブユニットの結晶構造(S7付近)[2]

    完全に溶媒領域にさらされたβアームとα6 が確認できる.

    α2

    N

    C

    α1 α3

    α4

    β1

    β2

    α5

    α6

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    さらに R. Brimacomb らとの共同研究により,当時電子顕微鏡とクロスリンク実験により得られていた 16S rRNAの構造に対し,コンピュータグラフィックスによって S7をドッキングさせたモデルを提唱した[4].昨年解析された 30S サブユニットの全体構造[2]は,上記モデルが全体的には正しいことを証明している.すなわち,二次構造をとらない N末端領域が 16S rRNAとの主要な結合部位であり,そこを中心としてα1-2, α4-5 のループが結合し,16S rRNA の構造形成を行っていることがわかった.しかし,塩基性残基,芳香族残基の保存性が高いのにもかかわらずβアームとα6 は溶媒領域にさらされ,16S rRNA との結合には関わってはいなかった.(図 2-1-2)

    Bacillus stearothermophilus由来S7のSe-Met置換体 (Bst_Se),Se-Met 置換体結晶と晶系が異なり非対称単位に 2 つの分子をもつNative (Bst_Nat1, Bst_Nat2) の結晶構造が本研究室で解析されている.さらに,Thermusthermophilus 由来 S7 [5] (Tth_Nat),Thermusthermophilus 由来リボソームの 30S サブユニットにおける S7 (Tth_30S),と計 5 つの S7の構造がこれまでに解析されている.これらの構造を重ね合わせたのが図 2-1-3 である.αヘリックスが形成する疎水コアの領域はよく一致しているのに対し,βアームの先端領域では構造に散らばりがあることがわかる.このことから,αヘリックスで構成される疎水性コアは固く,βアームの先端領域はフレキシブルな構造をとっていることがわかる.

    S7 単体の結晶構造では不鮮明だった C 末の領域は,Tth_30S では 310 ヘリックスを形成し,βアームの裏側に結合している.この 310ヘリックスは,Bst_Nat2 ではβアームと疎水性の相互作用をしていることが確認できるが,Bst_Nat1, Bst_Se では確認できず,また Tth_Nat では完全にβアームから離れたところにその電子密度を見ることができる.310ヘリックスがβアームと疎水性の相互作用をしている Bst_Nat2は Tth_30S ほどではないが,βアームの屈曲が比較的少ない.一方,解離しているTth_Nat は Val74, Pro87 のところから大きく屈曲している.310ヘリックスとβアームとの相互作用は弱く,βアームはリボソーム中においてもフレキシブルな構造をとっていると考えられる.また,30S サブユニットの構造において,310 ヘリックスは 30Sサブユニットの protrusionを構成する S11とも相互作用している.

    S7 のβアームは E-site に結合する tRNA アンチコドンループの minor groove に結合することから,tRNA と mRNA の解離に関わっていると考えられ[6],その機能においてフレキシブルなβアームと S11 に結合する 310ヘリックスは重要であると考えられる.310ヘリックスを形成する C 末の AFAHYRW 配列は真正細菌間では

    図 2-1-3 S7の重ね合わせ

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    ほぼ完全に保存されておりその重要性がうかがえるが,古細菌・真核生物の S7 ではこの 310 ヘリックスにあたる配列が存在せず,C 末はα6 で終わっている.真正細菌と古細菌・真核生物とでは 310 ヘリックスを補う別の構造が存在するのかもしれない.

    2-2. ペプチジルトランスフェラーゼ活性に必須な L2は2つの核酸結合モチーフをもつ

    L2 は,50S サブユニットの構成タンパク質で,ペプチジルトランスフェラーゼ活性をもつ 23S rRNAの IVドメインに直接結合する RNA結合タンパク質である.in vitro の生化学的実験により,23S rRNA のみでは活性は持たず L2 の存在が必須であったことから,23S rRNA の持つペプチジルトランスフェラーゼ活性中心の構造形成に重要な役割を果たしていると考えられる[7-10].

    23S rRNA と結合させた状態の L2 をペプチダーゼで処理をすると,N 末(60 残基)と C 末(74 残基)が消化され,60-201 の 142 残基が保護されて残る.この残った領域を L2-RNA binding domain (L2-RBD) とし,L2-RBDをクローニング,結晶化を行ったところ結晶化に成功し[11],解析を行った[12].解析された構造は2 つのドメインからなり,N 末ドメインは OB-fold, C末ドメインは SH3-likebarrel と類似していた.OB-fold を持つ タ ン パ ク 質 に は Translationalinitiation factor 1 (IF1), Rho termination

    factor,SH3-like barrelを持つタンパク質には HIV-1 integrase等があり,共に核酸結合タンパク質によく見られるモチーフである.興味深いことに,構造既知のタンパク質に L2-RBDと同様にOB-fold と SH3-like barrel をもつものがあることがわかった.それは,Eukaryotic Translation Initiation Factor

    5A (EIF-5A) である.ただし,L2-RBDとは異なり N 末ドメインが SH3-like barrel, C 末ドメインが OB-fold からなる(図2-2-1).一次構造に保存性が見られないのにも関わらず,このように構造の類似性が高いのは,この 2つのタンパク質が独立に発生したのではなく,それぞれのドメインが共通の祖先をもつことを示唆している.好塩古細菌 50S サブユニットの結晶構造において,リボソームタンパク質はリ

    ボソーム粒子の表面に分布し,小サブユニットとの結合面にあたる領域にはほとんど存在していなかった.ペプチジルトランスフェラーゼ活性に直接関与すると考えられていた L2 も活性には直接関与はしておらず,活性部位の構造形成を担うタン

    図 2-2-1. Bacillus stearothermophilus 由来 L2 と

    Metanococcus jannaschii 由来 EIF-5A との構造

    比較

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    パク質であることが明らかとなった.リボソーム中の L2 の構造を 23S rRNA と共に図 2-2-2に示す.中度好熱菌と好塩古細菌は進化的に遠縁であるにもかからわず,L2-RBD の領域は,単体の構造とリボソーム中の構造が一致する.L2-RBD の解析の際に切除した N 末と C 末の領域は二次構造をとらないストレッチであることが明らかとなった(図 2-2-2).L2 の場合は結果的にその大胆なトリミングが結晶化につながったと考えられる.このストレッチは L2 における 23S rRNA との主要な結合領域であり,rRNA と結合することで初めて構造を保持するのであろう.我々が RNA 結合ドメインと呼んだドメイン (L2-RBD) は,推定した RNA 結合領域でRNA と結合しているが,そう呼ぶよりも疎水コアドメインと呼ぶのが正しいと思われる.このドメインをアンカーとして L2 は 23S rRNA に結合し,N 末,C 末のフレキシブルなストレッチが RNA と複雑にからみ合って両者の立体構造を形成しているものと考えられる.このような構造を持たないストレッチをもつリボソームタンパク質は他にもみられ,その多くは rRNAとからみ合うような形をとっている.それに対し,固い二次構造をもつ疎水コアドメインはサブユニット表面を覆うように存在する.

    図 2-2-2 中度好熱菌 L2-RBDと好塩古細菌 30Sサブユニットにおける L2の構造

    左:中度好熱菌 L2-RBD, 右:好塩古細菌 L2とそれに結合する 23S rRNA

    青:N 末ストレッチ,緑:N 末 OB-fold domain, 黄色:C末 SH3-like domain, 赤:C末ストレッチ

    ギリシャ数字は 23S rRNAのドメイン番号を示す.

    V

    IV

    II

    III

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    2-3. 5S rRNA結合タンパク質 L5は RRMモチーフをもつ

    5S rRNA-タンパク質複合体は 23S rRNAが活性のあるサブユニットへ会合する際に重要な役割を果たしている. 5S rRNA に直接結合するリボソームタンパク質は 1~3 種類が知られている.L5はそのうちの一つですべての種に保存されている.セレノメチオニン置換体結晶と Native 結晶を用いて,多波長異常分散法と分子置換法により 1.8Å分解能の結晶構造を決定した[13].明瞭な電子密度図より,ほとんどのアミノ酸側鎖の座標も含めその構造を決定することができた.図 2-3-1 にリボンモデルを示しているが,L5 は 5 本のβストランドの逆平行βシートと 4本のαへリックスから構成される.窪んだβシートの裏側では,へリックスα2 とα3 及び,β4-β5 ループが疎水性コアを形成している.

    L5の全体構造のトポロジーは RNA認識に関わる RRM ドメインに類似している.この構造モチーフの中ではスプライセオソームタンパク質 U1Aが最も有名であるが,S6や L30 などのいくつかのリボソームタンパク質にも見られるモチーフである(図 2-3-2).しかし,これらのタンパク質の間で一次構造の相同性は全くない.この時点ではサブユニット構造は明らかとなっていなかったので,保存された残

    基に変異を与えて 5S rRNA結合活性に関与するアミノ酸残基を同定した.図 2-3-3に強く活性に影響を与えるアミノ酸残基を立体構造上に示した. Phe77 はストランドβ2-β3 間の長いループ(アーム領域)の先端に位置する.Phe77 は明瞭な電

    図 2-3-1 L5のリボンモデル

    Nα1

    α2

    α4

    α3

    β4

    β3β1

    β2

    β5

    図 2-3-2 L5と類似のモチーフ(RRM)をもつタンパク質

    L5 U1A-RNA S6

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    子密度が観察できず,アーム領域がフレキシブルに RNA認識に関わっているのかもしれない.Asn37(β1)および Gln63(α2-β2)はねじれたβシート面に位置し,静電ポテンシャル図(図 2-3-6B)で広く正電荷が分布している領域にあるので,この領域は 5S rRNA と接触していると考察した.好塩古細菌 50S サブユニットの結晶構造における L5

    と好熱菌 L5 の主鎖構造を比較した (図 2-3-4).古細菌 L5の C 末端側には好熱菌 L5 にはない 20 残基の挿入ループ(好熱菌L5のβ5-α4相当) がある,一方,好熱菌 L5 の N末端側には古細菌 L5 にはないへリックス (α1) がある.図 2-3-5 に古細菌 L5 の

    rRNA 結合部位を示した.古細菌 L5 はねじれた広いβシート面と挿入されたループで5S rRNAに結合するとともに23S rRNA のドメイン V(へリックス 84)にも結合している.好熱菌 L5 より計算した静電ポテンシャル図(図2-3-6)によると,L5 の分子側面まで広がったβシート上,特にストランドβ2-β3付近に正荷電が偏在していることから,好熱菌 L5 と古細菌 L5 の rRNA 結合領域はほぼ同じであると推定される.一方,5S rRNA と相互作用している古細菌 L5 の挿入ループは,真核生物にも一次配列の相同性が見られ(図 2-3-7),塩基性残基が比較的多い領域であることが見いだされたが,真正細菌には存在しない.したがって,挿入ループの存在によって古細菌(および真核生物)と真正細菌では若干 rRNA結合様式が異なっていることも考えられる.今後,真正細菌のリボソームの結晶構造が明らかになることによって,リボソームタンパク質-RNA 間相互作用の分子進化に関して新たな知見が得られることを期待している.

    図 2-3-4 好塩古細菌と好熱菌の構造比較

    水色 : Bacillus stearothermophilus

    赤色 : Haloarcula marismortui

    図 2-3-3 5S rRNA結合活性に関与するアミノ残基

    保存された残基のうち分子表面にあり,静電ポテンシャル

    で正電荷が分布する領域にある残基を示した.赤色で囲ん

    だ残基が強く 5S rRNAと相互作用する.

    挿入ループ

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    図 2-3-5 好塩古細菌 50Sサブユニットの L5と相互作用している rRNA[1]

    赤色-リボソームタンパク質 L5,青色-5S rRNA,緑色-23S rRNA.

    好塩古細菌 L5の側鎖構造は公開されていない.

    図 2-3-6 構造解析した好熱菌 L5より計算した静電ポテンシャル図

    正電荷は青色,負電荷は赤色で示している.

    A) 図 2-3-5Aと同じ方向 B) 図 2-3-5Bと同じ方向

    図 2-3-7 リボソームタンパク質 L5のアミノ酸配列の比較

    好熱菌 L5 と古細菌 L5 の立体構造を考慮している.古細菌(真核生物)の挿入ループを青色で

    示した.

    L5_BACST: B. stearothermophilus

    L5_ECOLI: E. coli

    L5_SYNY3: Synechocystis sp.

    L11_MEDSA: Medicago sativa

    L11_YEAST: S.cerevisiae

    L11_HUMAN: Homo sapiens

    L5_Hma: Haloarcula marismortui

  • 9

    3. まとめ

    リボソームタンパク質の構造解析はリボソームサブユニットの構造決定に先行し,高分解能での多くの立体構造を明らかにした.解析された立体構造を用いた立体構造比較により,1次構造からは明らかではなかったユニークな核酸結合モチーフや既知の核酸結合モチーフが多く見い出された.我々は,16S rRNA, 23S rRNA, 5SrRNA の 3 種のリボソーム RNA にそれぞれ結合して,遺伝暗号解読,ペプチジルトランスフェラーゼ活性等,リボソームの重要な機能部位を構成するリボソームタンパク質 S7, L2, L5 の構造解析を行った.S7 の特徴的なβアームはリボソーム内でもフレキシブルな構造をとっており,16S rRNA とではなく tRNA との相互作用に関与していると考えられる.L2 は 2 つの核酸結合モチーフをもつ.アミノ酸配列に相同性がないにもかかわらず同じモチーフをもつ既知タンパク質の存在が明らかになったことから,核酸結合タンパク質の間での分子進化を示唆させた.L5 はRRM モチーフをもち,2 次構造のトポロジーでは他のリボソームタンパク質にも類似しているものも見い出された.古細菌 L5との構造比較および1次配列の相同性から,古細菌(真核生物)と真正細菌のリボソームタンパク質の構造の違いが明らかとなり,RNA結合様式の違いが示唆された.

    4. 参考文献

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