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63 ロボット工学・自律型システム・人工知能(RAS-AI )に関する技術開発の動向と 自律型兵器システム(AWS)の運用についての展望 ――米・中・露を中心に―― 富川 英生 山口 信治 <要旨> RASAI の兵器システムへの実装が進むと考えられる中、AWS が将来の安全保障環 境にどのような影響をもたらすかについては、① AI によるターゲティング、② AI 信頼性の問題、③戦略バランスへの影響、④スウォームによる作戦など、多くのテー マにおいて議論が行われている。各国の RASAI および AWS の開発・検討状況に関 して、米国では現実的な利用方法が志向され、短期的には「人 - 機械協働」による人 間の能力を強化するアプローチを重視し、これと並行して関連する情報基盤の整備に 取り組んでいる。中国は軍事智能化を目指しており、AI 技術の潜在性を高く評価して 各種プラットフォームへの適用を試みているが、これは、権限を委譲することなく上 位者の意図を実現できる手段と見做しているためとも考えられる。ロシアは AI に対す る関心を急速に高めつつあり、将来的には AWS を積極的に導入すると考えられる。ま た、AI についは実践的な教訓を生かしつつ、非正規戦等において他国に先がけ適用す る可能性もある。各国の研究開発体制については、米国が民間セクターにおけるイノ ベーションの成果を素早く取り込むことを模索しているのに対し、中国は「軍民融合」 のもと民間からの技術協力を前提としており、政府による民間セクターへの包括的な 支援も積極的に行われている。ロシアでは、産官学に加えて軍産学連携のもとでも計 画的にイノベーションを促す仕組みを構築しようと試みている。 はじめに 近年、注目を浴びる人工知能(AI)の技術革新は、民生分野では既に実用化の段 階を迎えており、ロボット、情報システムなどへの実装が進んでいる。これらの技術 は軍事部門でも幅広い分野での応用が考えられているが、一方でその普及については

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ロボット工学・自律型システム・人工知能(RAS-AI)に関する技術開発の動向と自律型兵器システム(AWS)の運用についての展望

――米・中・露を中心に――

富川 英生山口 信治

<要旨>

RAS・AI の兵器システムへの実装が進むと考えられる中、AWS が将来の安全保障環境にどのような影響をもたらすかについては、① AI によるターゲティング、② AI の信頼性の問題、③戦略バランスへの影響、④スウォームによる作戦など、多くのテーマにおいて議論が行われている。各国の RAS・AI および AWS の開発・検討状況に関して、米国では現実的な利用方法が志向され、短期的には「人 - 機械協働」による人間の能力を強化するアプローチを重視し、これと並行して関連する情報基盤の整備に取り組んでいる。中国は軍事智能化を目指しており、AI 技術の潜在性を高く評価して各種プラットフォームへの適用を試みているが、これは、権限を委譲することなく上位者の意図を実現できる手段と見做しているためとも考えられる。ロシアは AI に対する関心を急速に高めつつあり、将来的には AWS を積極的に導入すると考えられる。また、AI についは実践的な教訓を生かしつつ、非正規戦等において他国に先がけ適用する可能性もある。各国の研究開発体制については、米国が民間セクターにおけるイノベーションの成果を素早く取り込むことを模索しているのに対し、中国は「軍民融合」のもと民間からの技術協力を前提としており、政府による民間セクターへの包括的な支援も積極的に行われている。ロシアでは、産官学に加えて軍産学連携のもとでも計画的にイノベーションを促す仕組みを構築しようと試みている。

はじめに

近年、注目を浴びる人工知能(AI)の技術革新は、民生分野では既に実用化の段階を迎えており、ロボット、情報システムなどへの実装が進んでいる。これらの技術は軍事部門でも幅広い分野での応用が考えられているが、一方でその普及については

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防衛研究所紀要第 22 巻第 2 号(2020 年 1 月)

潜在的なリスクを危惧する声もあり、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)などは、軍事利用されているロボット工学・自律型システム・人工知能(RAS・AI: robotics

and autonomous systems, artificial intelligence)を自律型兵器システム(AWS: Autonomous

Weapon Systems)と定義し、①機動、②照準、③インテリジェンス、④インターオペラビリティ、⑤保全・補修の 5 つの機能に分類した上で運用上の問題点を指摘している 1。また特に、自律型致死

4 4

兵器システム(LAWS: Lethal Autonomous Weapon Systems)については、人道的観点から問題がないのか検討するよう求める声が非政府組織(NGO)を中心に発せられ、その開発・運用のあり方について、現在、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組のもと「LAWS に関する政府専門家会合(GGE)」において国際的なルールに関する議論が進められている 2。

本稿では、ロボット工学・自律型システム・人工知能の軍事利用および自律型兵器システムに関して、まず第 1 章で安全保障研究者らによるいくつかの議論を紹介し、第 2

章では、米国、中国、ロシア各国における検討状況を考察する。そして第 3 章では研究開発を担う米中露の国家ノベーションシステムを比較してどのような特徴が見出し得るのか検討する。

1. 軍事部門への応用とその機能

西側先進諸国では、軍の活動について人的被害の低減や効率性を求める世論がますます強まる傾向にあることから、今後、RAS・AI の積極的な利用、兵器システムへの実装が進むものと考えられる。そしてこれらは将来の戦闘様相を一変させ、様々なレベルで作戦概念(CONOPS: concepts of operations)に変更を迫る可能性もあるとされており、大国による当該軍事技術の開発競争は、民間セクターでの動向ともリンクしな

1 Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI), Mapping the Development of Autonomy in the Weapon System, (Stockholm: SIPRI, November, 2017), pp. 20-35. 現時点で A WS に関する幅広く合意された有効な定義は存在していない。米国防省における政策指針である「兵器システムにおける自律性に関する国防省指令 3000.09(Department of Defense, Directive 3000.09)」では、「起動後には人間の運用者による追加的な介入が行われなくても、目標の選択と戦闘を行うことの可能な兵器システムのこと」と定義しており「これには、起動後に人間によるさらなるインプットがなくても目標の選択と攻撃が可能であるが、当該兵器システムの運用を人間の運用者が解除できるように設計された人的監視型自律型兵器を含む」としている。U.S. Department of Defense, Directive Number 3000.09, November 21, 2012, Incorporating Change 1, The U.S. Department of Defense (DoD), May 8, 2017, https://www.esd.whs.mil/Portals/54/Documents/DD/issuances/dodd/300009p.pdf.

2 LAWS に関する議論の主要な論点については International Committee of the Red Cross (ICRC), Autonomous Weapon System: Technical Military, Legal and Humanitarian Aspects, Expert Meeting, (Geneva, Switzerland: ICRC, March 2014); Lethal Autonomous Weapon Systems: Issues for Congress, by /name redacted/, CRS Report R44466 (Washington DC: Congressional Research Services (CRS), April 14, 2016); 佐藤丙午「自律型致死性無人兵器システム(LAWS)」『国際問題』No. 672(2018年 6 月)38-48 頁等を参照。

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ロボット工学・自律型システム・人工知能(RAS-AI)に関する技術開発の動向と自律型兵器システム(AWS)の運用についての展望

がら、さらに激化することが予想される 3。事実、米国の「国防省 2018 AI 戦略―要約」4 では、民生技術の軍事部門への素早い取り込みを求めており、いくつかの関連技術は既に装備に実装されているか、あるいは実用試験段階にあるとされる 5。

RAS・AI 関連技術の社会実装が進むのに伴って、AWS が将来の安全保障環境にもたらす影響についての関心が高まり、近年、米国を中心に有力な外交・安全保障系シンクタンクや戦略系コンサルタント会社から報告書が相次いで発表されている。これらの取り扱うテーマは「技術的課題・運用上のリスク(LAWS 含む)」、「安保環境・戦略バランスへの影響」、「将来戦の様相」、「各国の検討状況・イノベーション政策」などに大別できるが、その中でいくつかの注目すべき議論について以下で概説する。

まず「技術的課題・運用上のリスク」については、軍民両用技術である RAS・AI を実装する場合の倫理・法・社会的課題(ELSI)に関する議論が注目されている。中でも上述の LAWS に関する議論では、NGO などから AI が標的を選定する事(targeting)についての懸念が提起されている。一方で専門家からは、ターゲティング・プロセスに関する市民の理解は不十分であり、軍の組織文化を理解していないとの指摘もある。イラクやアフガニスタンなどでの無人機等によるリスト化された標的への攻撃(targeted

killing operation)を含め、現在の軍事作戦における標的の決定(target development)は、戦略全体への影響や他の作戦目標との整合性を考慮するべく、上級司令部や指揮官、情報機関による承認、検証を経て決定されるものである 6。このため RAS・AI 技術が進歩したとしても、巡回中の AWS が当意即妙に標的を選定し攻撃を実行に移すという状況は、自衛の場合を除いて、軍の組織文化からみて杞憂であって、むしろターゲティング・プロセスにおける AI 利用の課題について論点を偏らせることにつながるのではと指摘されている。

リスクについては、既存の兵器システムのうち準自律型兵器に分類される防空システムやアクティブ防御システムなどに関しても(表 1)、国際人道法で求められる「区

3 ロバート・H・ラティフ『フューチャー・ウォー -――米軍は戦争にかてるのか?』平賀秀明 訳 , 新潮社 , 2018年 , 38-93 頁(Robert Latiff, Future War, (N.Y.: Penguin Random House), 2017)) ; Paul Scharre, Army of None: Autonomous Weapons and the Future of War (N.Y.: W. W. Norton & Company, 2018), pp. 93-101 (ポール・シャーレ『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』(伏見威蕃(訳), 早川書房 , 2019 年)).

4 Department of Defense (DOD), Summary of the 2018 Department of Defense Artificial Intelligence Strategy: Harnessing AI to Advance Our Security and Prosperity, pp. 7, 11-12, https://media.defense.gov/2019/Feb/12/2002088963/-1/-1/1/SUMMARY-OF-DOD-AI-STRATEGY.PDF; “DOD Unveils Its Artificial Intelligence Strategy (February 12, 2019)” by Terri Moon Cronk, U.S. DoD website, https://dod.defense.gov/News/Article/Article/1755942/dod-unveils-its-artificial-intelligence-strategy/February 12, 2019.

5 Daniel Hoadly and Nathan Lucas, Artificial Intelligence and National Security, ver.4, CRS Report R45178, (Washington DC: CRS, January 30, 2019) pp.8-14, https://fas.org/sgp/crs/natsec/R45178.pdf.

6 Merel Ekelhof “Lifting the Fog of Target: “Autonomous weapons’ and Human Control through the Lens of Military Targeting,” Naval War College Review, Vol.71, No. 3, (summer 2018), pp.4-13., 22-28, http://digital-commons.usnwc.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=5125&context=nwc-review.

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別原則」あるいは信頼性の問題点が指摘されている。そして、判断、反応速度を重視するあまり攻撃に関する意思決定を AI に依存することは、不測の事態や偶発事象からのエスカレーションを防止するうえで危険性が高く、適切な人間の管理(human

control)を含めた慎重なプロセスの検証が訴えられている 7。その一方で、例えば 2003

年にクウェート国境で起きたパトリオットによる FA-18 撃墜事故について考えた場合、確かにこの友軍への誤射(friendly fire)はプログラムの不備に原因が求められるが、加えて作戦担当者間でのコミュニケーション不足や、問題のある飛行ルートの設定といった人的過誤(human error)に基づく部分にも多くの要因があったと指摘されている 8。つまりエスカレーションの防止を確保するには、AWS に関する技術論にだけ焦点を合わせるのではなく、人と RAS・AI の、それぞれの特性を考慮した意思決定プロセスを、どのように設計し信頼性を担保していくのかが重要な論点であると考えられる。

表1 SIPRIによる分類における既存のAWS・準AWSの例種類 装備 保有国

防空システムCIWS / RAM(各国) AEGIS、Patriot(米) S-400(露)ほか

日・米・英・仏・独・伊・露・蘭・スイス・瑞・ノルウェー・中・印・

アクティブ防御システムArena(露) Trophy / Iron Fist(イスラエル) AMAP-ADS(欧)

仏・独・伊・蘭・露・端・イスラエル、米・南ア・中・加

ロボット(国境)警備兵器(Sentry)

SGR-A1、Super aEgis Ⅱ(韓) Gurdium / Border Protector / Rambow

(イスラエル)韓国・イスラエル・カタール・UAE

徘徊型兵器(loitering munition)

Harpy / Harop(イスラエル)Coyote / Switchblade(米国)C901 / WS43(中国)Devilkiller(韓国)ほか

米・独・露・中・印・イスラエル・韓・トルコ・アゼルバイジャン・カザフスタン・ウズベキスタン

(出所) SIPRI, “Mapping the Development of Autonomy in the Weapon System” November, 2017.36-55 頁ほか各種報道を元に執筆者作成。

次に「安全保障環境・戦略バランスへの影響」については、RAS・AI 関連技術の進化に伴って流動化するという見解が主流を占める一方で、その影響は部分的ではないかとする意見も見受けられる。流動化肯定派が危惧ずるシナリオの一例としては、例

7 Paul Scharre, Autonomous Weapons and Operational, (Center for New American Security, February 2016) pp.49-54; 特に戦略兵器に関して AI が与える影響については Edward Geist and Andrew J. Lohn, How Might Artificial Intelligence Affect the Risk of Nuclear War? (Rand Corporation, 2018), pp. 15-22, https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/perspectives/PE200/PE296/RAND_PE296.pdf. に詳しい。また、これまでの核リスクについては Patricia Lewis, Heather Williams, Benoît Pelopidas and Sasan Aghlani “Too Close for Comfort Cases of Near Nuclear Use and Options for Policy” Chatham House Report ( London: The Royal Institute for International Affairs, April 2014), https://www.chathamhouse.org/sites/default/files/field/field_document/20140428TooCloseforComfortNuclearUseLewisWilliamsPelopidasAghlani.pdf. を参照。

8 Larry Lewis, Redefining Human Control: Lessons from the Battle field for Autonomous Weapons, (CNA, March 2018), pp. 7, 13-17, https://www.cna.org/CNA_files/PDF/DOP-2018-U-017258-Final.pdf.

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ロボット工学・自律型システム・人工知能(RAS-AI)に関する技術開発の動向と自律型兵器システム(AWS)の運用についての展望

えばロシアが AI を非対称な形で戦略兵器や弾道ミサイル防衛の回避などに適用した場合、現在の戦略的均衡に影響を及ぼすというものである 9。また「将来戦の様相」については、AWS がゲームチェンジャーになり得るとする見解が一般的だが、例えば航空作戦において RAS・AI の利用が進んだとしても、それは、ソフトウェアの変化によって既存の無人機やミサイルの能力、ISR や警戒・管制業務の効率性が向上するだけであって、ドクトリンの本質的な部分にまで変更を迫られることにはならないという見解もある 10。一方で群制御(swarm control)技術、所謂「スウォーム」については新しいプラットフォームおよび CONOPS に関する様々な提案が行われているところである 11。特にマイクロ・ターゲティング技術が進化し、テロ組織の指導者等の暗殺がより容易に可能となった場合には、対反乱(Counter Insurgency: COIN)作戦に関するドクトリンの修正もあり得るとされる 12。

以上のように、現在、RAS・AI を軍事分野へ適用することについて、AWS の技術的、運用的な側面からの検討が進むのと並行して、安全保障政策への含意も含めた様々な論点が提示され始めている。

2. 各国の軍事戦略における RAS・AIの適用および AWSの運用に関する検討状況

(1)米国 ――人-機械協働とネットワーク基盤の整備第 2 章では、RAS・AI 技術の開発・検討状況について米中露三カ国の現状について

分析する。軍事部門において既に無人機の利用が進んでいた米国では、2009 年の時点で国防省から「無人システム統合ロードマップ」13 が発表されており、また 2012 年には科学技術に関する国防省の諮問機関、国防科学委員会(DSB: Defense Science Board)が、

9 Geist and Andrew Lohn, Security 2040: How Might AI Affect the Risk of Nuclear War, (Rand Corporation, May 2018), pp.2-5, https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/perspectives/PE200/PE296/RAND_PE296.pdf; Jürgen Edward and Frank Sauer,

“Autonomous Weapon Systems and Strategic Stability,” Survival, Vol. 9 No.5, pp.128-132.10 Micahel Hass and Sophia Fischer “The evolution of target killing practice: Autonomous weapons, future conflict, and the

international order,” Contemporary Security Policy, Vol. 38, No. 2 (2017), p.290.11 Paul Scharre, Robotics on the Battle Field Part 2: The Comind Swarm, (Washington, DC: CNAS, October 2014), pp24-43.12 Robert Work and Shawn Brimley, 20YY: Preparing for War in the Robotic Age, (Washington, DC: CNAS, January 2014)

pp.29-30; Hass and Fischer “The evolution of target killing practice,” pp290-296.13 Unmanned Systems Integrated Roadmap FY2011-2036, (Office of the Under Secretary of Defense (OUSD) for Acquisition,

Technologies and Logistics (AT&L), October 2011), https://fas.org/irp/program/collect/usroadmap2011.pdf. 「 統 合 ロ ー ドマップ」は 2017 年にも更新されている。Unmanned Systems Integrated Roadmap FY2017-2042, (Office of Secretary of Defense, August 2018), https://cdn.defensedaily.com/wp-content/uploads/post_attachment/206477.pdf.

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早くも自律性(autonomy)についての重要性を指摘している 14。そして、2014 年 11 月にチャック・ヘーゲル(Chuck Hagel)国防長官(当時)が、国防イノベーション・イニシアチブ(Defense Innovation Initiative)に関し、ロボット工学やビッグデータといった先端技術を積極的に活用し「第 3 のオフセット戦略(Third Offset Strategy)」を実現するという方針を示したことで、AWS が将来の戦闘において重要な役割を果たすという共通理解が定まった 15。この考えはトランプ政権でも継承され、『国家安全保障戦略

(National Security Strategy)』(2017 年 12 月)では新興技術における優位性を維持するべく研究開発の効率性を追求し、国防省と民間企業との戦略的なパートナーシップの構築を進め民生技術の積極的な採り込みを図るとした 16。また『国家防衛戦略(National

Defense Strategy)』(2018 年 1 月)においては、米国が急速な技術の進歩と戦争の性質の変化に対応する必要があるとして、高性能コンピュータ、ビッグデータ分析、AI、自律性、ロボッティクスといった技術開発において競争優位性を維持するという方針が示されている 17。

米軍は続く 2018 年 8 月に無人システムに関する新たな「統合ロードマップ」を公表し、今後の開発・運用の方向性を示している。まず無人システムに関する重要な包括的テーマ (overarching theme) および政策効果倍加要素(policy multiplier)として、相互運用性、自律性、ネットワーク安全性、人 - 機械協働(human-machine collaboration)の 4 点を挙げている 18。そして無人プラットフォームについて、システムの「自律性」効果を高めるべく① AI・機械学習、②効率性・効果の向上、③信頼性、④兵器化の 4 つの課題に取り組むとしている 19。このうち、AI・機械学習に関して、当面はクラウド技術を活用して必要なデータの収集、蓄積、処理を進めつつ、中期的には無人プラットフォームに搭載することを目標にしている。

14 Defense Science Board (DSB), Task Force Report: The Role of Autonomy in DoD Systems, (Washington DC:.OUSD (AT&L), July 2012), https://dsb.cto.mil/reports/2010s/AutonomyReport.pdf. DSB は 2016 年にも「自律性」に関する報告書をまとめている。DSB, Report of the Defense Science Board Summer Study on Autonomy, (OUSD (AT&L), July 2016), https://dsb.cto.mil/reports/2010s/DSBSS15.pdf.

15 “Hagel Announces New Defense Innovation, Reform Efforts,” by Cheryl Pellerin DoD News, Nov. 15, 2014, https://www.defense.gov/Newsroom/News/Article/Article/603658/; Patrick Tucker, “The Pentagon’s New Offset Strategy Includes Robots,” Defense One, November 17, 2014, https://www.defenseone.com/technology/2014/11/pentagons-new-offset-strategy-includes-robots/99230/.

16 National Security Strategy of the United States of America, (Washington, DC: The White Hose, December 2017), p.20-21, https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2017/12/NSS-Final-12-18-2017-0905.pdf.

17 Summary of the 2018 National Defense Strategy of the United States of America: Sharpening the American Military’s Competitive Edge, (Washington, DC: U.S. Department of Defense), p.3, https://dod.defense.gov/Portals/1/Documents/pubs/2018-National-Defense-Strategy-Summary.pdf.

18 Unmanned Systems Integrated Roadmap 2017-2042, OSD, pp.4-5.19 Ibid., p.17.

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ロボット工学・自律型システム・人工知能(RAS-AI)に関する技術開発の動向と自律型兵器システム(AWS)の運用についての展望

表2-1 自律性に向けた包括的ロードマップ2017  短期

2029中期

  2042長期  

自律性

人工知能/機械学習 民間セクターとの 協働クラウド技術

拡張現実 仮想現実

持続的センシング 高度な自律性

効率性・効果の向上 安全性と効果の向上 無人任務、作戦 指揮官-部下関係 スウォーミング

信頼性 任務付与の指針・検証、人間による意思決定の倫理的必要性

兵器化 国務省における戦略的コンセンサス自律型致死兵器の評価

武装僚機/チームメイト(戦闘の実施について人間が意思決定)

出典:U.S. Department of Defense, Unmanned Systems Integrated Roadmap 2017-2042, 19.

表2-2 人間と機械の協働に向けた包括的ロードマップ2017  短期

2029中期

  2042長期  

人間と機械の協働

人 - 機械 インターフェース

複数システムの制御  人 - 機械の役割・合図

人 - 機械の対話 仮定的なシナリオ処理 役割分担の任務管理

人間の意図の推測 深層学習機械

人 - 機械チーム化装備重量の軽減 出撃回数の低減 特定の整備任務

完全に統合されたチームメイトとしてのロボット 兵士の認識上の負担の軽減

データ戦略 自律的な情報収集と処理 自律的なデータ戦略の調整

深層ニューラル・ネットワーク 迅速性・対応力・適応力

出典:U.S. Department of Defense, Unmanned Systems Integrated Roadmap 2017-2042, 29.

このような方針のもと現在、国防省では JEDI(Joint Enterprise Defense Infrastructure)20 と呼ばれる業務システムのクラウド化を推進しており、サーバーの運用を受託する民間企業の選定が進められている。

20 “(transcript) Department of Defense Enterprise Cloud and its Importance to the Warfighter Media Roundtable,” Dana Deasy and Jack Shanahan, DoD Newsroom, Aug. 9, 2019, https://www.defense.gov/Newsroom/Transcripts/Transcript/Article/1931163/department-of-defense-enterprise-cloud-and-its-importance-to-the-warfighter-med/; “DoD Officials Highlight Role of Cloud Infrastructure in Supporting Warfighters,” by Lisa Ferdinando, DoD website , March 14, 2018, https://www.defense.gov/Newsroom/News/Article/Article/1466699/dod-officials-highlight-role-of-cloud-infrastructure-in-supporting-warfighters/igphoto/2001888747/. 同計画は①世界のどこからでもアクセス可能な近代的な IaaS と PaaS の提供、②全ての機密レベルごとに分離された環境の提供、③兵士向け戦略エッジコンピューティングシステムにおける中央機能、④ AI など先端テクノロジーへの対応、を目的としている。DoD Cloud Strategy, (Washington, DC: DoD, December 2018),pp.7-9, https://media.defense.gov/2019/Feb/04/2002085866/-1/-1/1/DOD-CLOUD-STRATEGY.PDF.

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国防省は「兵器システムにおける自律性に関する国防省指令 3000.09(DOD Directive

3000.09)」21 において管理可能なシステムが完成するまでは AWS の運用を見合わせている。しかし、AI の信頼性に関する課題については近い将来、克服することが可能であると考えており 22、国防高等研究計画局(DARPA)では様々な作戦で運用されることを想定した研究開発プログラム(表 3)が進められている。また、これと並行して、事後的にプロセスの検証が可能な AI についての研究も進められている 23。事実、新たな統合ロードマップでは、AI・計算機・センサー等の能力向上によって長期的には人間のような知性を備えた AWS の開発が可能になると予想している 24。ただし、未だ信頼性に係る課題が残されている事から、全般状況の把握や攻撃に関する最終的な意思決定について当面の間は人間が中心となったシステムが検討されることとなる 25。

米軍では RAS・AI の現実的な利用方法として、短期的には「人 - 機械協働」によって人間の能力を強化するアプローチを重視していくと考えられる 27。ワーク国防副長

21 DoD Directive Number 3000.09, DoD. 22 “AI to Give U.S. Battlefield Advantages, General Says,” by David Vergun, DoD website, September 24, 2019, https://www.

defense.gov/explore/story/Article/1969575/ai-to-give-us-battlefield-advantages-general-says/; Summary of DoD AI Strategy, DoD, p. 7, 11-12.

23 “Explainable Artificial Intelligence (XAI),” by Matt Turek, DARPA Program Information, https://www.darpa.mil/program/explainable-artificial-intelligence.

24 Unmanned Systems 2017-2042, OSD, p. 19.25 Summary of DoD AI Strategy, DoD, pp. 15-16; “DOD’s Artificial Intelligence Initiatives Outlined Before Senate,” by Terri

Moon Cronk, DoD Newsroom, March 14, 2019, https://www.defense.gov/Newsroom/News/Article/Article/1785308/dods-artificial-intelligence-initiatives-outlined-before-senate/

26 Andrew Ilachinski, “AI, Robotics, and Swarms: Issues, Questions, and Recommended Studies,” January 2017, CNA, pp.245-258, https://www.cna.org/cna_files/pdf/DRM-2017-U-014796-Final-SUMMARY.pdf; Brandon Knapp, “These drone swarms survived without GPS,” C4ISRNET, November 28, 2018; Lockheed Martin “DARPA, Lockheed Martin Demonstrate Technologies to Enable a Connected Warfighter Network,” July 13, 2018.

27 “Deputy Secretary of Defense Speech: Remarks by Deputy Secretary Work on Third Offset Strategy,” DoD Newsroom, April 28, 2016, https://dod.defense.gov/News/Speeches/Speech-View/Article/753482/remarks-by-deputy-secretary-work-on-third-offset-strategy/; “Remarks to the Association of the U.S. Army Annual Convention as Delivered by Deputy Secretary of Defense Bob Work,” October 4, 2016, https://dod.defense.gov/News/Speeches/Speech-View/Article/974075/remarks-to-the-association-of-the-us-army-annual-convention/.

表3 国防高等研究計画局(DARPA)におけるAWS関連技術開発プログラムの例プログラム名 実施期間 概要(報道ベース)

ACTUV 2011-2018 - 自律型無人水上艇(USV)- 研究段階修了しプログラムを海軍研究局(ONR)に移管

CODE 2014-2018 - 敵対空域(電波妨害)下での UAV 群の自律航行- 2018 年 11 月に第 1 フェーズ試験成功

SoS-ITE 2014-2019- 有人戦闘機と無人機・巡航ミサイル等がネットワーク形成し航空

優勢を確保・敵対空域に侵攻- 2018 年 11 月から第 2 フェーズに移行

OFFSET 2016- - 人と群衆型小型 UGV・ドローンが市街地等で索敵- 2018 年 4 月第 2 次フェーズに移行

(出所) 国防高等研究計画局(DARPA)ホームページ、Ilachinski, AI, Robotics, and Swarms ほか報道資料 26 などを元に執筆者作成。

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ロボット工学・自律型システム・人工知能(RAS-AI)に関する技術開発の動向と自律型兵器システム(AWS)の運用についての展望

官(当時)は 2015 年の時点で AWS に関するいくつかの運用構想を示しているが、このうち「人 - 機械インターフェース」について既に実用化が進んでる例として、F-35

戦闘機がデータを迅速に収集、解析する一連のセンサーとソフトウェアを使用し、全方位表示可能なヘルメット連動ヘッドアップディスプレーによってパイロットの意思決定を支援していると説明した 28。「人 - 機械チーム化」については、人間と有人・無人のシステムの間でバランスを最適化させながら、その相乗効果によって攻撃力、生存性、状況認識能力などを高めることを目指すと考えられる。米国の安全保障系シンクタンク CNAS(Center for New American Security)のポール・シャーレは、ほぼ自動化されているが安全装置の役割だけは人間が果たす対ロケット・榴弾砲・迫撃砲システム(C-RAM)を、人参加型(human in the loop)の人 - 機械チーム化された AWS の一例として挙げている 29。現時点では1人の人間が運用可能なシステムは限られるが、無人システムの自動化技術が進歩し将来的には 1 人で多数のシステムの運用が可能となるよう技術開発が進めば、人参加型から人関与型(human on the loop)型への移行が現実化すると想定される。陸軍は装備の実用化試験に対し積極的な評価をしており 30、長期的には人間による監視を伴いつつも機械主体で任務を実施できるようにすることを目標としている 31。また将来的には計画の立案や作戦行動中の人の意図を機械が読み取る技術も開発されるとも考えられている 32。2015 年の米空軍による自律システムに関する検証でも、航空作戦における状況判断の複雑さやパイロットと機械の意思疎通の難しさなど自律性の限界を踏まえつつも、人 - 機械チーム化に重点をおいた取組みにシフトすることが有効であるとしている 33。

RAS・AI によって実現すると考えられるスウォームは人 - 機械協働をより効果的なものにする技術として注目されている 34。具体的な運用方法の一例としては、DARPA

が進める OFFSET プログラムを参照すると、小型無人プラットフォームに搭載された

28 Ilachinski, AI, Robotics, and Swarms, pp.28-29; “Remarks by Defense Deputy Secretary Robert Work at the CNAS Inaugural National Security Forum” CNAS website, December 24, 2015, https://www.cnas.org/publications/transcript/remarks-by-defense-deputy-secretary-robert-work-at-the-cnas-inaugural-national-security-forum; “Work: Human-Machine Teaming Represents Defense Technology Future,” by Cheryl Pellerin, DoD Newsroom, November 8, 2015, https://www.defense.gov/Newsroom/News/Article/Article/628154/work-human-machine-teaming-represents-defense-technology-future/; “Learning Systems, Autonomy and Human-Machine Teaming,” by Cheryl Pellerin, Armed with Schience the Official US DoD Science Blog, November 13, 2015, http://science.dodlive.mil/2015/11/13/learning-systems-autonomy-and-human-machine-teaming/;.

29 Scharre, Army of None, p323-325.30 The U.S. Army Robotics and Autonomous System Strategy, (Fort Eustis, VA: U.S. Army Training and Doctrine Command

(TRADO), March 2017), pp.1-2, 11-13, https://www.tradoc.army.mil/Portals/14/Documents/RAS_Strategy.pdf.31 Ibid, p9-11; DOD, Unmanned Systems Integrated Roadmap 2017-2042, pp.31-32.32 Mick Ryan, Human-Machine Teaming for Future Ground Forces (Washington: CSBA, 2018), pp21-29, https://csbaonline.org/

uploads/documents/Human_Machine_Teaming_FinalFormat.pdf.33 United States Air Force Office of the Chief Scientist, “Autonomous Horizons: Systems Autonomy in the Air Force-A Path to

the Future Volume 1: Human-Autonomy Teaming” June, 2015; 34 Ryan, Human-Machine Teaming, pp12-13.;

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センサーが情報を収集し、また有人・無人のプラットフォームが自律・分散・協調を図ることで、都市部における安定化作戦や COIN 任務などにおいて状況認識能力を飛躍的に高めることが可能になると説明されている 35。加えて、多数の安価なプラットフォームを使うことで、敵側に対して相対的に高い防御コストを強いることで生残性が高まるという 36。

スウォーム等に搭載される各種センサーから収集されるデータは、現在と比べて飛躍的に増加し、同時に、この集約された情報を、適時、必要とする現場に提供できるような基盤の構築が重要になると考えられる 37。このため、国防省のダナ・ディージー

(Dana Daesy)最高情報責任者(CIO: Chief Information Officer)は、コンポーネントレベルでの技術開発だけではなく、組織レベルでのデータ戦略を進める上でも AI を中心課題に位置づけたデータ駆動型ネットワーク・システムの構築を目指している 38。ビッグデータ分析の受託業務を行う Govini は、国防省の研究予算の分配について、RAS・AI に直接関連する技術だけを強化するのではなく、クラウド技術や先端コンピューティングといった周辺技術についても強化することが重要であると提言している 39。

軍・国防省の情報システムを革新する目的の一つにはネットワーク安全性の強化も含まれ、特にサイバー・セキュリティ分野は AI 技術の実装が急速に進むと考えられている。国防省は民生技術の素早い取り込みを目指す施策の一つとして 2016 年から「サイバー・グランド・チャレンジ」という競技大会を DARPA 主催で実施し AI によってシステムの脆弱性を捜索・発見し、自動的にパッチ当てをおこなう技術についてイノベーションを促す取組みを行っている 40。また民間セクターへのファンディングを通じて、ハッキング不可能なアーキテクチャの開発に関するアイデアを募り研究開発を進めている 41。

35 “OFFSET Envisions Swarm Capabilities for Small Urban Ground Units,” DARPA News and Events, December 7, 2016, https://www.darpa.mil/news-events/2016-12-07.

36 Work and Brimley, 20YY, p.2837 Zachary Davis, Artificial Intelligence on the Battlefield: An Initial Survey of Potential Implications for Detterance, Stability,

and Strategic Surprise, Lawrence Livermore National Laboratory Center for Security Research, pp.6-7,11; https://cgsr.llnl.gov/content/assets/docs/CGSR-AI_BattlefieldWEB.pdf.

38 The House Armed Service Committee Subcommittee on Emerging Threats and Capabilities, Statement: ‘Department of Defense’s Artificial Intelligence Structure, Investments, and Applications’ by Dana Deasy, December 11, 2018, p.4, https://docs.house.gov/meetings/AS/AS26/20181211/108795/HHRG-115-AS26-Wstate-DeasyD-20181211.pdf.

39 Govini, Department of Defense Artificial Intelligence, Big Data and Cloud Taxonomy, , pp.24-25, [accessible from] https://www.govini.com/research-form/?post_title=DoD+ARTIFICIAL+INTELLIGENCE%2C+BIG+DATA+AND+CLOUD+TAXONOMY&post_link_redirect=https%3A%2F%2Fwww.govini.com%2Fresearch-item%2Fdod-artificial-intelligence-and-big-data-taxonomy%2F&post_id=4026.

40 “Cyber Grand Challenge (CGC) (Archived),” by Dustin Fraze, DARPA Program Information, https://www.darpa.mil/program/cyber-grand-challenge.

41 “DARPA Explores New Computing Architectures to Deliver Verifiable Data Assurances,” DARPA News and Event, January 16, 2019, https://www.darpa.mil/news-events/2019-01-16.

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(2)中国 ――情報化・智能化の追及と自律性管理のあり方中国における RAS・AI 技術の軍事部門への適用は、まず民間セクターにおける AI

技術の発展が先行しており、その成果や情報を政府・軍が随時、共有するという体制の構築を目指していると考えられる。そして、中国の AWS の運用構想は智能化

(intelligentization)42 を志向したものになるといわれるが、その能力計画や戦術の検討状況について体系的に示した公的文書は確認できず、自国の軍事戦略にどのように適用しようとしているのかについては継続的な検証が必要となる 43。

中国は、現代の戦争の特徴を「情報化戦争」という言葉で表現し、情報技術の重要性を強調するようになっている。2015 年版の国防白書では、世界的潮流として戦争形態が情報化戦争に向かう方向に変化を加速させており、中国も情報化軍隊の建設、情報化戦争の勝利を重視して軍の改革を進めるとしている 44。情報化戦争という表現は、以前の「2020 年までに機械化と情報化を達成し」、「情報化条件下における局地戦争で勝利する」という表現と比べても、より情報に価値を見出した表現となっている。そして、将来的に情報技術が作戦にかかわる全ての要素に適用されることを踏まえて、これらをシームレスに連携させ、各プラットフォームが自律的に協働する「一体型統合作戦体系」の構築を目指しているものと考えられる。また 2019 年版の国防白書でも、AI、量子通信、ビッグデータ、クラウド、IOT などの先端技術の軍事分野での利用が加速しているとの認識を示し、中国式 RMA(revolution in military affairs)を達成すべく、機械化を継続しつつ、情報化を進展させることが喫緊の課題であるとし、情報化戦争、智能戦争時代の到来にむけた近代化投資を今後も継続するとしている。

このように中国では、軍の近代化投資において RAS・AI といった新興技術が重要視されているが、習近平総書記は中国共産党第 19 回全国代表大会における報告の中で、軍事において今後、力を入れるべき分野として「伝統的安全保障領域と新型安全保障領域における軍事闘争準備を総合調整・推進」し、「新型の作戦力量と保障力量を発展」させる方針を明らかにした 45。この伝統的安全保障領域とは、陸海空を中心とした従来型の打撃力を意味し、これに対し新型安全保障領域とは宇宙、サイバー、電磁スペクトラムなど、いわゆる新たな領域(ドメイン)での能力を指し、その相乗効果によ

42 Elsa Kania, Battle Field Singularity: Artificial Intelligence, Military Revolution, and China’s Future Military Power, Washington, (DC: CNAS, November 2017), pp. 12-31, https://s3.amazonaws.com/files.cnas.org/documents/Battlefield-Singularity-November-2017.pdf?mtime=20171129235805.

43 “AI boost Nuclear Sub Command,” South China Morning Post (SCMP), February 4, 2018; “Unmanned ‘shark swarm” 人民日報(英語版), June 6, 2018; “Robotic Submarines” SCMP, July 22, 2018.

44 「中国的軍事戦略」国務院新聞弁公室 2015 年 6 月。45 習近平「决胜全面建成小康社会 夺取新时代中国特色社会主义伟大胜利——在中国共产党第十九次全国代表大会

上的报告」新華網、2017 年 10 月 27 日。

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る総合的な戦闘力の向上を目指している。そして、新型作戦力量とはロボット工学、AI、レーザーといった新たな技術やプラットフォームを指し、新型保障力量は新領域における新たな作戦能力の総称を意味している。

一方で習近平主席は「軍事智能化の発展を加速させる」ことにも触れている。この軍事智能化あるいはスマート化とは、軍事に係る IT 化と AI 化を推し進め、高度な情報システムに基づき、リアルタイムで全軍を包括するような作戦体系を確立することと考えられる。将来、IOT と呼ばれるような、様々な機器がリンクし、大量のデータが流通するネットワークにおいて、通信・情報処理速度の向上とその安定性・安全性の確保がより重要となるが、中国は、これを支える第 5 世代通信システムに関して最先端の技術力を有しているとされている。これらの技術は軍事セクターに応用した場合にも大きな効果が期待できることから、中国は先端分野においてイノベーションを起こすことで既存技術における劣位を克服し、米国に対しても優位に立つことが出来るリープフロッグ(leap frog)の好機となると認識している 46。そして、その鍵を担う技術として RAS・AI の潜在性を高く評価しており、同分野に対し重点的な研究開発投資が行われているものと考えられる。

CNAS のエルサ・カニア(Elsa Kania)研究員によると、中国における AI の AWS への実装は次のような分野が考えられるとしている 47。まず UAV について、中国は軍事ドローンの輸出に積極的で、民間セクターにおける小型ドローン(クアドコプター)やスウォームに関する技術開発も進んでいることから、軍事部門への応用も積極的に検討されているであろうという。また人民解放軍海軍によって自動化無人潜水艦(UUV)の開発や自動化無人水上艦艇(USV)の開発も進められているとされ、USV については 2010 年頃より上海大学潜水技術研究所で研究が進められている。さらに中国メディアでは、高度な AI を搭載した巡航ミサイルの開発についても報じられており、各種プラットフォームへの試験的な適用が進められていると考えられる。

次に運用構想については、軍事科学院の劉瑋琦は『解放軍報』において①指揮統制、②スウォーム、③電子対抗能力の三つ作戦能力への応用をスマート化作戦の例として挙げている 48。また『解放軍報』の論説のでは、スマート化作戦の基本形式として、「スウォーム」、「木馬式」、「自主式」、「システム麻痺」の四つの形式が挙げられている 49。この論説で指摘されるスウォームとは、高品質で高価なプラットフォームに対して小

46 Kania, Battle Field Singularity, p. 4.47 U.S.-China Economic and Security Review Commission, 2017 Report to Congress of the U.S-China Economic and Security

Review Commission, November 2017, pp. 571-576.48 劉瑋琦「知能化戦争大幕拉開」『解放軍報』2018 年 5 月 17 日。49 張暁杰・張全礼「前瞻知能化作戦基本様式」『解放軍報』2018 年 1 月 4 日。

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型で安価な無人プラットフォームによる消耗戦を強いることで効果を発揮しようというもので、上述の OFFSET と異なり、ハイエンドな戦争での運用を意識した構想といえる。次に「木馬式」は重要地点に小型無人プラットフォームを予め忍ばせておき、必要な時にトロイの木馬のように活性化させるというもので、防衛任務の効率化、少人化を目指したものと考えられる。システム麻痺は、小型車載式レーザー、電磁パルス、マイクロウェーブなどを駆使して敵システムを麻痺、脆弱化させるとしており、電子戦能力に注目していることが理解できる。これらの構想は米国やロシアなどでも検討されているもので、中国が技術とともに、その運用についても海外での動向に注意を払いっていることが伺える。

一方で、上述の「自主式」と呼ばれる自律システムによる作戦の遂行に関して、中国では戦争コントロールは人が中心であるべき、という認識が強いという特徴が見受けられる。このため無人作戦についても、自律システムが決定し行動するのではなく、前線の機械に自主的な行動権限を与えつつも、その判断、行動については後方で人が管理する、ヒト主導の人 - 機械協働作戦を意味するとしている 50。その理由としては、中国では党の軍に対する指導、政治による軍の統制を重視している点が考えられる。つまり AWS が実用化した場合、党指導者の指令を忠実に実施し、軍人の意思の介在を減少させるという意味で党の統制強化に役立つが、システムの自律性が高まり人のコントロールからも離れたものとなれば、それは逆に党の指導を弱めることを意味するため、あくまで人による管理が基本にある点がより重視されると考えられる。同様の傾向は様々なレベルで見られ、前出のカニア研究員は、人民解放軍自身も、その組織的特性として軍の高位レベルに権限を集中させる傾向が強いという。このため、AWS

を利用することで下位レベルの将校や下士官に権限を委託することなく作戦意図を実現する「階層(echelon)を超えた指揮」51 が可能となり、人民解放軍の指揮官にとっては望ましい効果をもたらすかもしれないと指摘している。

以上のような考えに基づけば、中国における RAS・AI 技術の開発、AWS の運用の検討は、米国側が、その利点を複雑な環境下での自律・分散・協調に見出している 52

のとは異なり、集中型の指揮統制に適した技術開発および運用を目指したものになる

50 沈寿林・張国寧「認識知能化作戦」『解放軍報』2018 年 3 月 1 日。同様の考えは、AI の役割について、「人を中心」とした人 - 機械相互作用にあるとした「第 13 次国家科技創新規画」にも見られる「国务院关于印发“十三五”国家科技创新规划的通知(国发〔2016〕43 号)」中華人民共和国中央政府、2017 年 7 月 28 日。

51 Kania, Battle Field Singularity, p. 17.52 “Strategic Technology Office Outlines Vision for ‘Mosaic Warfare’” DARPA News and Events, August 4, 2017, https://

www.darpa.mil/news-events/2017-08-04; “Adapting Cross-Domain Kill-Webs (ACK)” by Dan Javorsek, DARPA Program Information, https://www.darpa.mil/program/adapting-cross-domain-kill-webs; Bryan Clark, Dan Patt, and Harrison Schramm,

“Decision Maneuver: the Next Revolution in Military Affairs,” Over the Horizon: Multidomain Operations & Strategy, April 29, 2019, https://othjournal.com/2019/04/29/decision-maneuver-the-next-revolution-in-military-affairs/.

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ことも考えられる 53。

(3)ロシア ――理論-実践的開発と戦略バランスの再構築ロシアでは 2017 年 7 月に AI ロードマップ 54 が発表され、同年 9 月にはウラジミール・

プーチン大統領が「公開授業」55 において、人工知能の分野で主導権を握る国が次世代を支配すると述べるなど、近年になって AI に対する関心が急速に高まっている。そして 2019 年中には国家 AI 戦略 56 を策定するとしている。

ロシアは、長らく続いた経済停滞の影響から、官民問わず研究開発部門に十分な投資を行うことが出来ず、また通常戦力に用いられる先端技術において米国に後れを取っているとの認識がある。2014 年に改訂された軍事ドクトリンの中では、近代的な軍事紛争では UAV・UUV などの新たなプラットフォームが自動化された指揮統制システムによって運用されているとし、兵器システムの統合、情報の品質・機能の向上、情報共有体制の強化が重要であるとの認識を示した。その上で情報ネットワークに兵器システムをリンクさせることで戦略レベルから戦術レベルまで一体的な統合運用が可能になるとしている 57。これは、将来の戦争では新興技術によって、部隊、兵器の運用・管理がより自動化、集権化されるというロシア側の認識を示したものと考えられ、シリアでの活動においても、このような軍事理論の影響がみられるという 58。そしてロシアは、この技術・能力ギャップを埋めるべく、将来的に RAS・AI を含む新興技術を無人プラットフォームに積極的に適用すると考えられる 59。

ロシアにおける AWS の開発、運用状況に関しては、現在はまだ遠隔操作が中心であ

53 Elsa Kania, “Chinese Military Innovation in Artificial Intelligence,” Testimony before the U.S.-China Economic and Security Review Commission Hearing on Trade, Technology, and Military-Civil Fusion, June 7, 2017, p.29, https://www.uscc.gov/sites/default/files/June%207%20Hearing_Panel%201_Elsa%20Kania_Chinese%20Military%20Innovation%20in%20Artificial%20Intelligence.pdf.

54 Radina Gigova, “Who Vladimir Putin Thinks Will Rule the World,” CNN, September 2 2017, https://edition.cnn.com/2017/09/01/world/putin-artificial-intelligence-will-rule-world/index.html.

55 “Whoever leads in AI will rule the world’: Putin to Russian children on Knowledge Day,” RT News, September 1, 2017, https://www.rt.com/news/401731-ai-rule-world-putin/.

56 Samuel Bendett, “Russia: Expect a National AI Roadmap by Midyear,” Defense One, January 8, 2019, https://www.defenseone.com/technology/2019/01/russia-expect-national-ai-roadmap-midyear/154015/.

57 “Military Doctrine of the Russian Federation,” https://www.offiziere.ch/wp-content/uploads-001/2015/08/Russia-s-2014-Military-Doctrine.pdf.

58 Roger McDermott, “Russia’s Military Scientists and Future Warfare,” Eurasia Daily Monitor, Vol.16 Iss.83, June 5, 2019, https://jamestown.org/program/russias-military-scientists-and-future-warfare/.

59 Vadim Kozyulin, “Speaker’s Summary: Russia's Automated and Autonomous Weapons and Their Consideration from a Policy Standpoint,” Autonomous Weapons System: Implication of Increasing Autonomy in the Critical Functions of Weapon, Expert Meeting, Versoix, Switzerland, 15-16 March 2016, Geneva, Switzerland: ICRC, March 2016, pp 60-63, http://icrcndresourcecentre.org/wp-content/uploads/2017/11/4283_002_Autonomus-Weapon-Systems_WEB.pdf.

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るものの、UAV などの無人システムの導入が積極的に行われており 60、無人歩哨兵器、対ドローンシステムなどの準 AWS の実用化も進められている 61。そして、いくつかの無人システムについてはシリアなどで試験的に実戦投入されたと報じられている 62。まず小型 UGV については、空挺部隊などによる運用を前提に、主に低烈度紛争あるいは対反乱・安定化作戦などにおける戦闘での利用を目的に開発されていると考えられる。シリアでの戦闘に投入されたといわれるウラン(Uran)・シリーズには、警戒監視型、地雷除去型、攻撃型など様々なバリエーションが確認されているものの、その運用方法についての情報は少なく、ウラン-9 と呼ばれる攻撃型 UGV についてはシステム全体の障害によって十分な成果を挙げられなかったと報じられている 63。CNA のサミュエル・ベンデット(Samuel Bendett)は、UGV と歩兵の協働に関する運用ドクトリンは世界的にもまだ十分な検証が進んでおらず、ロシア軍もまだ開発中なのではないかと指摘している 64。つまり将来に向けた技術開発において運用ドクトリンなどの開発よりもプラットフォームでの実践が先行する形になったとみられる。

このような経緯の後、2019 年 6 月に開催された陸軍博覧会「ARMY」では ARF が開発した新攻撃型小型 UGV マーカー(Marker)が発表され、人間の指示に連動し砲塔が作動するデモ動画が公開された 65。マーカーは他の無人システムとの協働が可能とされ、また、ウランが実戦で得た教訓を取り入れたという。そして将来の自律型兵器開発のためテストベッドとして、カラシニコフ社が開発中の自律型機銃システムなどの試験、検証にも利用されるとしている。

次に UAV については、2008 年のジョージア紛争での教訓からロシアはクリミア・ウクライナ紛争において主に ISR 用の UAV を 16 種類も運用したとされ 66、今後も積極的に運用されるものとみられる。またシリアでの戦闘では小型 UAV によるスウォー

60 Patrick Tucker, “Russian Weapons Maker To Build AI-Directed Guns,” Defense One, July 14, 2017, https://www.defenseone.com/technology/2017/07/russian-weapons-maker-build-ai-guns/139452/.

61 Andrew Radin, et al. The Future of the Russian Military Russia’s Ground Combat Capabilities and Implications for U.S.-Russia Competition Appendixes, (Washington, DC: RAND Corp, 2019), pp.33-34, https://www.rand.org/mwg-internal/de5fs23hu73ds/progress?id=puNO9zX7BiBbFdfLjn7-4DQwgf87aAAgmSKniqyyg14,.

62 Roger McDermott, “Russia’s Network-Centric Warfare Capability: Tried and Tested in Syria,” Eurasia Daily Monitor, Vol. 15, Iss. 154, Jamestown Foundation, October 30, 2018, p. ; Samuel Bendett “Russia Is Poised to Surprise the US in Battlefield Robotics,” Defense One, January 25, 2018, https://www.defenseone.com/ideas/2018/01/russia-poised-surprise-us-battlefield-robotics/145439/.

63 Daniel Brown, “Russia's Uran-9 robot tank reportedly performed horribly in Syria,” Business Insider, July 10, 2018, https://www.businessinsider.com/russias-uran-9-robot-tank-performed-horribly-in-syria-2018-7

64 Kelsey Atherton, “Is this Russia’s gateway drone to better armed robots?,” C4ISR net, July 31, 2019, https://www.c4isrnet.com/unmanned/2019/07/31/is-this-russias-gateway-drone-to-better-armed-robots/.

65 Roger McDermott, “Moscow Pursues Artificial Intelligence for Military Application,” Eurasia Daily Monitor, vol.16, iss.89, June 19, 2019 https://jamestown.org/program/moscow-pursues-artificial-intelligence-for-military-application/.

66 Ilachinski, AI, Robotics, and Swarms, pp.18.

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ム攻撃を受けるなどの経験もしており、実戦を通じた技術、戦術の検証が更に進められるものと考えられる 67。スウォームについては後述するように先進研究基金(ARF,

FPI: Fond Perspektivnykh Issledovaniy)で小型ドローンを用いた様々な試験が実施され、ERA テクノポリスでも小規模なスウォームの実証試験を完了したと報じられている 68。中型 UAV については現在、イスラエルから技術導入し自国開発を進めている段階とされる 69。一方で、ウクライナ紛争では政府機関や重要インフラへのサイバー攻撃と並行して、UAV も利用する電子戦システムを用いて洗練された作戦を実施したといわれる 70。これらサイバー、電磁スペクトラムといった新たな領域は AI 技術が比較的早期に実装されると考えられており、ロシアが他国に先んじて、非対称戦、ハイブリッド戦に AI の適用を試みる可能性があると考えられる 71。

大型 UAV については、2019 年 8 月にスホーイ S-70 オホトニク-B と呼ばれるステルス無人機のプロトタイプの試験飛行の様子が公開された 72。このオホトニク-B は「攻撃・偵察無人複合体」と位置づけられ、偵察・監視だけではなく攻撃、電子戦等も含めた複合的な任務に対応し、敵対的作戦環境下においても自律航行可能としている 73。この大型ステルス UCAV のデモンストレーションが初公開されたのが中距離核ミサイル制限条約の失効した日であることから、UAV・UUV などを活用する米国の通常戦力との能力ギャップに危機感を抱いているロシアが、政治的メッセージとして、戦略兵器へ RAS・AI 技術を適用し、戦略的均衡を図ろうという姿勢を示したとの見方もあ

67 Zak Doffman, “Russian Military Plans Swarms Of Lethal 'Jihadi-Style' Drones Carrying Explosives,” Forbes, Jul 8, 2019, Zak Doffman, https://www.forbes.com/sites/zakdoffman/2019/07/08/russias-military-plans-to-copy-jihadi-terrorists-and-arm-domestic-size-drones/#3539047732e7

68 “In the Era technopolis, scientific companies began training with the UAV laboratory” (В технополисе "Эра" научные роты начали занятия с лабораторией БПЛА), РИА Новости, October 22, 2018, https://ria.ru/20181022/1531226599.html,

69 Yossi Melman, “Israel Selling Reconnaissance Drones to Russia,” Haaretz, April 12, 2009, https://www.haaretz.com/1.5035664; Samuel Bendett, “The Rise of Russia’s Hi-Tech Military,” Fletcher Security Review, June 26, 2019, https://www.afpc.org/publications/articles/the-rise-of-russias-hi-tech-military#_ftn48; Patric Hilsman, “How Israeli-Designed Drones Become Russia’s Eyes in the Sky for Defending Bashar-Assad,” The Intercept, July 16, 2019, https://theintercept.com/2019/07/16/syria-war-israel-russia-drones/.

70 Michael Connell and Sarah Vogler, Russia’s Approach to Cyber Warfare, (Washington: CNA, March 2017), pp. 19-22, https://www.cna.org/CNA_files/PDF/DOP-2016-U-014231-1Rev.pdf; Roger McDermott, Russia’s Electronic Warfare Capability to 2025: Challenging NATO in the Electormagnetic Spectrum, Tallinn, Estonia: International Center for Defence and Security (ICDS), September 2017,pp23-28, https://icds.ee/wp-content/uploads/2018/ICDS_Report_Russias_Electronic_Warfare_to_2025.pdf.

71 Alina Polyakova “Weapons of the weak: Russia and AI-driven asymmetric warfare,” Brookings Institute, November 15, 2018, https://www.brookings.edu/research/weapons-of-the-weak-russia-and-ai-driven-asymmetric-warfare/

72 Justin Bronk, “First Flight of Russia’s S-70 Okhotnik-B UCAV,” RUSI Defence Systems, August 9, 2019, https://rusi.org/publication/rusi-defence-systems/first-flight-russia%E2%80%99s-s-70-okhotnik-b-ucav

73 Nikolai Litovkin, “First photos published of Russia’s secret Okhotnik strike drone,” February 8, 2019, https://www.rbth.com/science-and-tech/329956-first-photos-published-of-russias. ロシアビヨンドによると開発は 2011 年に始まり Jane’s によると最高速度は亜音速、2 つウェポンベイに 2 トン以上の武器等を納め、3,700 マイル分の燃料を搭載することが可能と考えられ、レーダー吸収材でコーティングされていると報告されている。

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る 74。これと関連してミサイルについては、2016 年にプーチン大統領が公表した「新戦略兵器」原子力推進巡航ミサイル・ブレヴェスニクは、敵レーダー網を探索し自律的に航行経路を判断して、敵ミサイル防衛網を無効化する能力があると報じられており、2018 年にはビクトル・ボンダレフ航空宇宙軍司令官(当時)が、数年のうちに AI

を搭載した巡航ミサイルを保有できると発言している 75。

3.両用技術における国家ノベーションシステムと国際技術開発競争

(1)米国 ――民生技術の取り込みと技術の拡散に対する姿勢の変化近年、各国政府は幅広い分野での応用が期待される次世代の中核技術として RAS・

AI に注目し、研究開発促進のための政策を相次いで発表している 76。米国ではオバマ政権下の 2015 年に、「米国イノベーション戦略 2015」77 を発表し、その中でビッグデータイニシアティブや自動走行技術に関するコンペティション「グランドチャレンジ」など AI に係る応用研究やその社会実装に標準を合わせていた。しかし、当時はまだ AI

を独立したアジェンダとして取り上げることはしておらず、国家レベルでの AI 戦略の策定は 2016 年になってからで、さらに国防省が AI 戦略を発表したのは 2018 年になってからである(表 4)。オバマ政権に引き続きトランプ政権でも第 3 のオフセット戦略を推進してきたロバート・ワーク(Robert Work)元国防副長官は、世界の主要国が AI

の開発を「国家安全保障を守るための主要戦略」と見なしているとし、米国が所謂スプートニク・ショックを再び経験することがないよう、軍事への適用について優先順

74 Sebastien Roblin, “Looks Like a B-2 Bomber: Watch the Test Flight of Russia’s New Stealth Attack Drone: But is it really stealth?,” The National Interests, https://nationalinterest.org/print/blog/buzz/looks-b-2-bomber-watch-test-flight-russia’s-new-stealth-attack-drone-72386 1/5. INF を巡っては、米国は移動式の長距離巡航ミサイル・イスカンデル -K を条約違反と指摘したが、一方でロシア側は長距離無人偵察機を「巡航ミサイル」と見做すべきであり、INF 条約で禁止するべきと応酬していた。

75 Bendett, “In AI, Russia is Hustling,” Defense One.76 Lindsey Sheppard, Artificial Intelligence and National Security: The Importance of the AI Ecosystem, (Washington, DC: Center

for Strategic & International Studies (CSIS), November 2018), pp 46-63 , https://csis-prod.s3.amazonaws.com/mwg-internal/de5fs23hu73ds/progress?id=BJuEEP6KHsufQsf7ktNSOxZhOa01ihBOHHBU3NllOcE,; Michael Horowitz, Gregory Allen, Elsa Kania, and Paul Scharre, Strategic Competition in an Era of Artificial Intelligence, (Washington, DC: CNAS, July 2018), pp. 12-16 ; https://s3.amazonaws.com/mwg-internal/de5fs23hu73ds/progress?id=b4UXFbyjFDC_M0oFlPCpIBg8bKWbSaSc6Hc_1ysOoYM,. ただし軍事技術史に詳しいペンシルバニア大学のマイケル・ホロウィッツ(Michael Horowitz)教授は、AI に関する「国家の競争力」と「軍事技術の優位性」は区別して議論すべきと指摘している。Michael Horowitz,“Artificial Intelligence, International Competition, and the Balance of Power.” Texas National Security Review. Vol. 1, Issue 3 (May 2018), pp. 42-45.

77 A Strategy for American Innovation, National Economic Council and Office of Science and Technology Policy October 2015, pp.84-104, https://obamawhitehouse.archives.gov/sites/default/files/strategy_for_american_innovation_october_2015.pdf.

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位をつけるガイドラインが必要であるとの考えを示していた 78。これは他の重要兵器や要素技術と競合する限られた研究開発予算の枠内で、各軍種間もしくは各プログラム間での二重投資や非連接性が生じないよう、組織横断的な情報管理と技術経営を求めた提言と考えられる。このため、各軍種・研究機関における取り組みを調整し、国防省全体に向けた AI に関するツールやデータの共有、再利用可能な技術、プロセスおよび専門知識に関する標準の確立を目的とするセンターオブエクセレンス(COE: Center

of Excellence)として、統合人工知能センター(JAIC: Joint Artificial Intelligence Center)が2018 年 6 月に創設された 79。また陸軍は AWS について、ハイエンドな戦争からハイブリッド戦まで将来戦に必要な能力の構築を効率化するべく、運用構想と技術、機能を相互に検証しながら研究開発が進められるように将来戦コマンド内に AI に関するタスクフォースを設置し、同時に JAIC を支援する役割も付与している 80。

一方で国家防衛戦略では「自律型システムについては、さらなる軍事的優位を獲得するために、民間における技術革新の迅速な導入も含め、自律性、人工知能、機械学習の軍事的活用に向けて幅広く投資していく」81 ことを明言しているが、国防省はこれまで、当該分野に関する最新技術を有する企業と緊密な協力関係を構築してこなかったこともあり、民間セクターが有する高い技術資源をいかに素早く軍に取り込むことができるか模索している。例えば、国防省の制度改革によって 2015 年に発足した国防イノベーション実験組織(DIUx: Defense Innovation Unit Experimental)(当時)は、シリコンバレー、ボストン、オースチンなどの先端テック企業の集積地にオフィスを構え、技術情報の収集や契約を通じた協力関係の構築を進めている 82。また大学などの学術部門に対しては DARPA や各軍・研究機関における研究プロジェクトの公募、FFRDC

(Federally Funded Research and Development Centers)などへの研究委託によって先端科学技術へのアクセスを確保しようと試みている。例えば空軍はマサチューセッツ工科大学(MIT)と AI アクセラレータと呼ばれる連携協定を結び、少なくとも 10 件のプロジェ

78 Govini, DoD AI Big Data and Cloud, pp. 2-5; Zachary Cohen, “US risks losing artificial intelligence arms race to China and Russia,” CNN, November 29, https://edition.cnn.com/2017/11/29/politics/us-military-artificial-intelligence-russia-china/index.html; 2017 Colin Clark “Our Artificial Intelligence ‘Sputnik Moment’ Is Now: Eric Schmidt & Bob Work,” Breaking Defense, November 01, 2017, https://breakingdefense.com/2017/11/our-artificial-intelligence-sputnik-moment-is-now-eric-schmidt-bob-work/?_ga=2.65416942.1702442390.1509614577-220094446.1509614577.

79 “Vision: Transform the DoD Through Artificial Intelligence,” U.S. Department of Defense Chief Information Officer Joint Artificial Intelligence Center, https://dodcio.defense.gov/About-DoD-CIO/Organization/JAIC/

80 Sean Kimmons “Army leaders discuss benefits, challenges with AI systems,” Army News Service, March 14, 2019, https://www.army.mil/article/218595/army_leaders_discuss_benefits_challenges_with_ai_systems.

81 Summary of National Defense Strategy, Ibid.p.3.82 Michel Brown, “Artificial Intelligence Initiatives within the Defense Innovation Unit,” Statement Beforen Senate Armed

Service Committee Subcommittee on Emerging Threats and Capabilities, March12, 2019, pp. 3-4, https://www.armed-services.senate.gov/imo/media/doc/Brown_03-12-19.pdf ; “Commercial Solutions Opening (CSO),” Office of the Secretary of Defense Defense Innovation Unit (DIU), https://www.diu.mil/download/datasets/1988/DIU_CSO_-_2018_Update.pdf

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クトについて協力関係の構築を目指している 83。また、空軍研究所(AFRL)はウィスコンシン大学マディソン校と陸軍研究所(ARL)、海軍研究所(NRL)はそれぞれカーネギーメロン大学と共同プロジェクトに関する協定を結んでいる 84。一方で、シリコンバレーを中心をとしたテック企業関係者の一部からはグーグルにおけるメイブン

(Meiven)計画 85 への抗議運動のように、軍事技術開発に協力することに対して強い抵抗感が示される事例もみられた 86。このため国防イノベーション委員会(DIB: Defense

Innovation Board)は AWS についての安全性に関する原則を示す必要性があるとしており、JAIC も技術的側面だけではなく、法的、倫理的側面からも AI に関する検討を進める方針である 87。また、先述のように DARPA では、RAS・AI の信頼性・説明責任能力に関する課題を克服するべく Next-AI プログラムにおいて、その判断に至ったプロセスについて説明が可能な AI の開発を進めている 88。一方で、例えば業務プロセスやサイバー・セキュリティ分野においては民間セクターの利活用が積極的に進められており、国防省が推進するクラウド・イニシアチブである上述の JEDI プログラムでは、商用クラウド技術を基盤としてシステムを構築する計画である 89。

RAS・AI 技術に関して米国の民間セクターは、実質的な技術標準を確立する存在であり、これを担うのが大手プラットフォーム企業などに代表されるテック企業やスタートアップで、ここに大学や各種研究機関が加わり米国に層の厚いイノベーション・エコシステムを形成している。民間セクターでの技術取引は統制することが難しく、特

83 Rob Matheson, “MIT and U.S. Air Force sign agreement to launch AI Accelerator,” MIT News, May 20, 2019, http://news.mit.edu/2019/mit-and-us-air-force-sign-agreement-new-ai-accelerator-0520.

84 Lee Seversky, “AFRL Scientists & Engineers join University of Wisconsin teams to address machine learning challenges,” Air Force Research Laboratory, July 23, 2019, https://www.wpafb.af.mil/News/Article-Display/Article/1913022/afrl-scientists-engineers-join-university-of-wisconsin-teams-to-address-machine/; “Carnegie Mellon University and Army Research Lab Announce $72 Million Cooperative Agreement,” Carnegie Mellon University News, March 11, 2019, https://www.cmu.edu/news/stories/archives/2019/march/army-agreement.html; Daniel Parry, “Navy, Carnegie Mellon Enter Education Partnership,” American Navy, August 15, 2018, https://www.navy.mil/submit/display.asp?story_id=106738.

85 Cheryl Pellerin, “Project Maven to Deploy Computer Algorithms to War Zone by Year’s End,” DOD, July 21, 2017, https://www.defense.gov/Newsroom/News/Article/Article/1254719/project-maven-to-deploy-computer-algorithms-to-war-zone-by-years-end/.

86 グーグル社が 2018 年 6 月にメイブン計画(Project Maven)を巡って社内外から激しい反発を受けた結果、AIの軍事利用に関するガイドラインを作成、同計画については国防省との契約を更新しない旨発表する事となった。Drew Harwell, “Google to drop Pentagon AI contract after employee objections to the ‘business of war’, The Washington Post, June 2, 2018, https://www.washingtonpost.com/news/the-switch/wp/2018/06/01/google-to-drop-pentagon-ai-contract-after-employees-called-it-the-business-of-war/; “Pentagon’s AI Surge On Track, Despite Google Protest,” Foreign Policy, June 29, 2018, https://foreignpolicy.com/2018/06/29/google-protest-wont-stop-pentagons-a-i-revolution/.

87 “Defense Innovation Board's AI Principles Project; Message from the DIB,” Defense Innovation Board, https://innovation.defense.gov/ai/; John Shanahan, “Artificial Intelligence Initiatives,” Statement before Senate Armed Services Committee Subcommittee on Emerging Threat and Capabilities, March 12, 2019, p.9, https://www.armed-services.senate.gov/imo/media/doc/Shanahan_03-12-19.pdf.

88 “AI Next Campaign,” DARPA Work with Us, https://www.darpa.mil/work-with-us/ai-next-campaign.89 DoD CIO, JEDI: Understanding the Warfighting Requirements for DOD Enterprise Cloud, July 25, 2019, https://media.

defense.gov/2019/Aug/08/2002168542/-1/-1/1/UNDERSTANDING-THE-WARFIGHTING-REQUIREMENTS-FOR-DOD-ENTERPRISE-CLOUD-FINAL-08AUG2019.PDF.

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に AI に係わるアルゴリズムなどは容易に拡散(diffusion)可能という特徴がある。また目まぐるしくイノベーションが起こる環境での競争は「ファースト・ムーバー」よりも「ファースト・フォロワー」が市場での勝利者になることもある 90。そこでテック企業などは、基礎技術について特許を囲い込んで独占を目指すよりも、自社の知的財産が事実上の業界標準(de facto standard)となり将来的に優位な市場ポジションが得られるよう、情報をオープンソース化したり、あるいは研究者・エンジニアに向けて開発支援用プラットフォームやツールキットを供給したりするといった経営戦略が採られている 91。

このような中、近年、米国企業が中国と比べ不利な条件でのビジネス競争を強いられているのではないかという主張が見られるようになってきた。例えば中国はインターネット安全法によって外国企業による自国の情報資源へのアクセスを規制する一方で、

90 Larry Lewis, “Insights for the Third Offset: Addressing Challenges of Autonomy and Artificial Intelligence in Military Operation,” CNA September, 2017, p. 11.

91 “Apple Set to Join Amazon, Google, Facebook in AI Research Group,” January 26, 2017, https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-01-26/apple-said-to-join-amazon-google-facebook-in-ai-research-group; “Despite Pledging Openness, Companies Rush to Patent AI Tech,” Wired, July 31, 2018, https://www.wired.com/story/despite-pledging-openness-companies-rush-to-patent-ai-tech/.

表4 米中露のRAS・AI関連施策国 関連施策

米国

●国防省「無人システム統合ロードマップ FY2011-16」(2011 年)●国防科学委員会「自律性の役割」(2012 年 7 月)○「米国イノベーション戦略」(2015 年月)・国家ロボテクス・イニシアチブ、ビッグデータ研究開発イニシアチブを優先課題に選定○大統領行政府「AI・自律・経済」(2016 年 10 月)○ホワイトハウス AI サミット(2018 年 5 月)●統合 AI 開発センター(JAIC)設立(2018 年 6 月)●国防省 2018AI 戦略(2019 年 2 月)

中国

○「中国製造 2025」(2015 年 5 月)・重点 10 分野として次世代(5G)通信規格・半導体・ロボティクス○「次世代人工知能(AI)発展計画」(中国国務院 2017 年 7 月)・2030 年までに世界のイノベーションの中心に・AI 産業規模1兆元、関連産業規模 10 兆元以上●習近平国家主席第 19 回党大会「軍事知能化」(2017 年 10 月)○「インターネット安全法」

ロシア

○先進研究基金(2016 年)○『ロシア連邦デジタル経済』行動計画(政府指示第 1632-r 号 2017 年 7 月)○プーチン大統領公開授業スピーチ(2017 年 9 月)●一般教書演説(2018 年 3 月)・6 種類の新兵器○ ERA テクノポリス計画(2018 年 9 月)○ AI 国家戦略「ロードマップ」(2019 年末予定)

(出所)各報道資料・公刊資料を元に執筆者作成

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現地法人等を通じて米国で情報収集を行い、更には国家ぐるみで技術情報の詐取にも関わっていると指摘されている 92。また米国では、政府予算で行われる基礎科学などの研究プログラムの成果を原則公開しているが、その新興技術が実用化するまでのプロセスは企業努力に委ねられる。他方、軍民融合を標榜する中国では、国策として戦略分野に資源を集中投下することが可能であり、米国に先んじて実用化に成功することで破壊的イノベーションを実現しようとしている 93。並行して、中国は先端産業における技術開発で、その基礎技術や製造基盤を米国企業に依存することに危機感を抱き、2010 年以降、半導体分野などで産業振興と自給自足体制の構築を国策に掲げ、技術獲得を目的に欧米企業に対する買収攻勢をかけてきた。このような動きは米国政府、議会の警戒感を強め、そして 2018 年 1 月、DIUx(当時)が中国企業や政府系ファンドによって、米国の RAS・AI 関連スタートアップに対する組織的な投資、買収が行われている実態を告発するレポートを刊行した。この結果、国家安全保障の確保を目的に対米外国投資委員会(CFIUS : Committee on Foreign Investment in the United States)による審査の強化が図られ、同年 8 月に、2018 年外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA :

Foreign Investment Risk Review Modernization Act)が成立している 94。このように、AI を含む新興技術に係る技術競争は安全保障問題と切り離すことが出来なくなっており、国家による民間セクターに対するイノベーションの促進と技術管理について、そのあり方が問われる時代になってきている 95。

92 How China’s Economic Aggression Threatens the Technologies and Intellectual Property of the United States and the World, (Washington, DC: White House Office of Trade and Manufacturing Policy, June 2018), pp.2-20; Eric Rosenbach, Katherine Mansted, The Geopolitics of Information, Belfer Center for Science and International Affairs, 2019, pp.5-14, https://www.belfercenter.org/sites/default/files/2019-08/GeopoliticsInformation.pdf

93 Robert Atkinson, Nigel Cory and Stephen Ezell, Stopping China’s Mercantilism: A Doctrine of Constructive, Alliance-Backed Confrontation, The Information Technology and Innovation Foundation (ITIF), March 2017, pp. 42-54 , http://www2.itif.org/2017-stopping-china-mercantilism.pdf; William Carter and William Crumpler, Smart Money on Chinese Advances in AI, CSIS China Innovation Policy Series, Washington, DC:CSIS, September 2019, p.7-11, https://csis-prod.s3.amazonaws.com/mwg-internal/de5fs23hu73ds/progress?id=MD4MhwuQoqfU--J9vwU4IJyz5sGexL_aWzCKw3UQE4g,.

94 Michael Brown and Pavneet Singh, China’s Technology Transfer Strategy: How Chinese Investments in Emerging Technology Enable a Strategic Competitor to Access the Crown Jewels of U.S. Innovation, (Defense Innovation Unit Experimental (DIUx), January 2018), https://admin.govexec.com/media/diux_chinatechnologytransferstudy_jan_2018_(1).pdf.CFIUS の運用強化は 2019 会計年度国防授権法(National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019)に盛り込まれていた。

95 James Manyika, William McRaven and Adam Segal, “Innovation and National Security: Keeping Our Edge,” CFR Independent Task Force Report, No. 77 (September 2019), pp.47-52, https://www.cfr.org/report/keeping-our-edge/pdf/TFR_Innovation_Strategy.pdf; Phil Stewart, “U.S. weighs restricting Chinese investment in artificial intelligence,” Reuters, June 14, 2017, https://www.reuters.com/article/us-usa-china-artificialintelligence/u-s-weighs-restricting-chinese-investment-in-artificial-intelligence-idUSKBN1942OX.

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2. 中国 ――軍民融合と制御可能なイノベーション・エコシステムの模索

現在、中国は軍のスマート化を目指した先端技術の活用を図っており、RAS・AI などの新興技術の軍事部門への適用については「軍民融合」型のアプローチが重視されている。中国の民間セクターはロボット産業や ICT サービス産業の成長が著しく、また AI など先端分野での技術開発力も成長しており、これらの技術力によって軍の近代化がけん引されることを期待している。そして、2017 年 1 月に習近平総書記は中央軍民融合発展委員会を設置し「富国と強軍の統一」を強調した。同委員会は、党・軍・政府の重要幹部を集めた委員会で、習近平が主任、中央政治局常務委員 3 人が副主任を務め、その目的は、党中央のレベルで国防技術開発を指導し、軍・政府・民間が共同で国防技術開発を実施していくことである。そして、同年 8 月には、第十三次五カ年計画期間(2016 年~ 2020 年)における軍民融合の発展計画である「十三五科技軍民融合発展専項規画」が発表され、7 方面 16 項目の重点プロジェクトが指定された。項目についての具体的な内容は明らとなっていないが、7 方面については、①科学技術軍民融合マクロ調整の強化、②軍民科技共同イノベーション能力の構築、③科学技術イノベーションの新資源の調整、④軍民科学技術の双方向への転化の促進、⑤モデルケースの展開:重点は軍民科学技術共同イノベーション・プラットフォーム、⑥イノベーションを行う組織建設、⑦政策制度体系の整備となっている 96。

中国では、これまで軍事技術に関して主に米露の技術開発の動向をフォローし、これらの技術を導入、模倣するというアプローチを採ってきた。このアプローチは民生分野においても同様であったが、中国の民間セクターにおける産業競争力、科学技術力の向上に伴い、国内で自立的なイノベーションが行われるようになり、これと軌を一にして、軍事分野においても国内での自立的なイノベーションが目指されるようになった。AWS および軍事分野における RAS・AI の研究開発を主導するのは、人民解放軍と関わりの深い機関・組織が想定され、軍事研究開発の最高機関である中央軍事委員会科学技術委員会が方針決定に大きな役割を果たすと考えられる。また国務院の国防科技工業局は、工業部門と連携し、軍に関する科学技術政策の実施を担っており、このほか中央軍事委員会装備発展部などでも関連分野の研究が行われていると考えられる。

軍民融合の推進に伴って、大学や研究機関においても軍との研究開発協力が進みつつある。例えば清華大学には、軍民融合国防尖端技術実験室、知能技術システム国家

96 「“十三五”科技军民融合发展专项规划发布」『人民日報』2017 年 8 月 24 日。

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ロボット工学・自律型システム・人工知能(RAS-AI)に関する技術開発の動向と自律型兵器システム(AWS)の運用についての展望

重点実験室、人工知能研究センターが開設され、中国科学院には知能機械研究所、自動化研究所、知能技術与系統国家重点実験室が設置されており、RAS・AI の軍事分野への応用などの研究も行われていると考えられる 97。また 2018 年 6 月には、河北省保定において人民解放軍空軍がスウォームに関して、中国電科電子科学研究院、清華大学、北京理工大学、遠望シンクタンクなどと合同でコンペティションを実施したと報じられ、①密集編隊での速度、②編隊共同偵察攻撃、③自主回収と空中給油といった競技種目に大学やシンクタンクなどから 100 余りのチームが参加したと報じられている 98。

企業との関係では、まず人民解放軍と密接な関係を有する国有企業において AWS 関連技術の研究開発が行われていると考えられ、この中には中国電子科技集団や中国航天科工集団、中国航空工業集団の傘下の研究所や重点実験室などが含まれると見られる。AI 開発については①軍民共用による、新世代人工知能基礎理論とカギとなる技術研究開発、②科学研究所、高校、企業と軍事工業による常態的なコミュニケーションと協調メカニズム、③新世代人工知能による指揮・決心、軍事シミュレーション、国防装備に対する強力な支援を重視した協力関係の構築、が模索されている。また北京市や上海交通大学、清華大学、ハルピン工業大学、蘇州大学など各行政機関や大学などにも相次いで人工知能研究センターが設立されており、地域の産業の発展と連携させつつイノベーション・エコシステムの形成が図られている 99。

これらの包括的な施策は中国政府が AI を「未来を導く戦略的技術」であり「国際競争の新たな焦点」として重視している事を示しており、2015 年 3 月に発表された「中国製造 2025」でも、今後、中国が目指すべきスマート製造において AI は中心的役割を果たすとされている 100。また 2016 年 7 月に発表された「第 13 次国家科技創新規画」101 では単独の項目として AI を取り上げ、理論研究と技術開発、開発ツールやプラットフォームについての研究と生産を目指すとし、そして 2017 年 6 月には国務院から「新世代人工知能発展規画」が発表され三段階発展戦略が示された 102。同戦略では ①

97 「“长城工程科技会议”第三次会议聚焦人工智能清华大学启动筹建“军民融合国防尖端技术实验室”」科学網、2017 年 6 月 26 日。

98 「空軍将挙辨無人争鋒無人機集群系統挑戦賽」空軍発布微信公衆号、2018 年 4 月 16 日。「我校代表隊獲首届無人争鋒智能無人機集群系統挑戦賽冠軍」航天学院、2018 年 7 月 11 日。

99 「北京前沿国际人工智能研究院成立」『新京報』2018 年 2 月 9 日。「清华大学人工智能研究院揭牌成立」清華大学、2018 年 6 月 28 日。「上海交通大学人工智能研究院成立大会举行」上海交通大学新聞網、2018 年 1 月 19 日。「哈工大人工智能研究院成立」黒竜江日報、2018 年 5 月 6 日。「苏州大学人工智能研究院揭牌成立」蘇州大学新聞網、2017 年 11 月 19 日。

100 「国务院关于印发《中国制造 2025》的通知(国发〔2015〕28 号)」中華人民共和国中央政府、2015 年 5 月 8 日。101 「国务院关于印发“十三五”国家科技创新规划的通知(国发〔2016〕43 号)」中華人民共和国中央政府、2017

年 7 月 28 日。2017 年 3 月に開かれた全国人民代表大会でも、李克強首相による政府工作報告において、AI が第 5 世代通信技術や新エネルギーなどと並んで戦略的な新興産業育成発展計画の一部として取り上げられた。

「政府工作報告」新華網、2017 年 3 月 16 日。102 「国务院关于印发新一代人工智能发展规划的通知 国发〔2017〕35 号」国務院、2017 年 7 月 8 日。

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2020 年までに、人工知能の総合技術と応用において世界の先進水準に並び、人工知能産業が経済成長の新たな重要起点となり、人工知能技術の応用が民生改善の新ルートとなり、イノベーション型国家となるうえでの有力な支えとなる、② 2025 年までに、人工知能の基礎理論において重要な突破口を開き、一部技術と応用において世界を牽引する水準に到達し、人工知能は我が国の産業レベルアップと経済転換の主要な動力となり、スマート社会化が進展する、③ 2030 年までに、人工知能理論、技術と応用において総合的に世界を牽引する水準となり、世界の主要 AI イノベーションセンターとなり、市場規模は一兆元規模となる、という長期戦略が明らかとなった。この三段階戦略からは中国が AI 分野において世界のトップになると同時に、その波及効果によって経済成長と産業構造の高度化を同時に図ろうという構想が覗える。このため政府は2020 年から 2030 年を AI 開発において致命的に重要な時期ととらえ、国内の研究開発リソースの大規模な動員を図っている。例えば「発展規画」発表後に AI オープン・イノベーション・プラットフォームに指定された百度、アリババ、テンセント、アイフライテックの中国大手プラットフォーム企業 4 社も AI 分野の研究開発に積極的な投資を行っており、李克強首相は 2018 年 3 月の政府工作報告において、新世代 AI 研究開発およびその応用を強化することで、多くの領域でインターネットプラスを推進するとしている 103。

以上のような官民一体となった戦略によって、中国は AI に関する論文の数と被引用数、関連特許数およびベンチャー投資額において世界一となり、AI 関連企業数、人材数においても世界第二位となっている 104。このように中国で AI が科学技術振興策としても、また産業政策としても重視される背景には、政府が AI を中国語でいうところの

「転覆性技術(disruptive technology)」、いわゆる破壊的イノベーションと捉えているためと考えられる。破壊的イノベーションは、技術パラダイムを一変させ、既存の技術優位性を陳腐化させることを意味し、この技術開発競争に打ち勝つことで、産業競争力、ひいては軍事技術力においてもリープフロッグを実現し、その劣位を克服しようという構想を持っていると考えられる。

一方で RAS・AI に関する中国のイノベーション・エコシステムには、いくつかの課題も存在する 105。まずトップ人材の育成・確保である。中国は AI に関連する人材を豊富に有しており、米国(28536 人)に次いで世界第 2 位(18232 人)に位置する。しかしトッ

103 「政府工作報告」新華網、2018 年 3 月 22 日。百度は北京航空航天大学と協力して人工知能研究を進めている。104 Gregory Allen, “Understanding China’s AI Strategy: Clues to Chinese Strategic Thinking on Artificial Intelligence and

National Security,” Center for a New American Security, Feb. 2018, p. 9.105 Ibid, pp.10-11.

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プクラスの人材となると、第 1 位の米国が 5518 人であるのに対し、中国は 977 人で世界第 8 位と順位を下げる。また研究開発に必要となる関連技術や開発支援ツールの多くは米国で開発されたものであり、さらに技術開発競争において重要な要素となる技術標準の策定についても、中国企業は国際交渉における経験不足、自国の抱える地政学的リスクから不利な立場にあるといえる。これは第5世代通信システムの技術規格を巡る競争に与えた影響として顕著に表れている。また現在、中国は半導体についても米国に大きく依存しており、ハイテク戦争と呼ばれる米中間での摩擦が表面化したことで、その脆弱性が改めて認識されることとなった。例えば、2018 年 4 月に米国がZTE への半導体供給を制限したことから、同社は一時、経営危機に追い込まれた。このようなリスクに直面したことで、今後、中国は海外技術へのアクセスは確保しつつも、並行して海外への依存を減らすことが出来るよう自主技術の開発をより重視することで、独立した制御可能なイノベーション・エコシステムの確立を目指すものと考えられる。

このような対外関係に起因する課題に加え、中国型のイノベーション・エコシステムが構造的に抱える問題としては、中央集権型組織が主導する研究開発メカニズムが果たして模倣を超えた破壊的イノベーションを実現できるのかという疑問がある。これまで中国は国家プロジェクトとして国際水準の国産車、半導体の開発などを試みてきたが、これまでのところ、その計画を実現できたとはいえない。他方、RAS・AI のような新興技術に関する技術覇権競争では過去の蓄積が競争の優位性を決定するわけではない。軍民融合型のアプローチによる軍産学の連携、政府による強力な支援を背景に中国型のイノベーション・エコシステムがリープフロッグを実現することが出来るのか、米中間での新興技術分野を巡る覇権争いは、両国の産業競争力政策だけではなく、国際秩序を巡る摩擦にまで発展し始めている 106。

106 Rogier Creemers, “Thae International and Foreign Policy Impact of China’s Ai and Bigdata Strategies,” in AI, China, Russia, and the Global Order: Technological, Political, and Creative Perspectives, Nicholas Wright (eds.), DoD, December 2018, pp.72-77, https://nsiteam.com/mwg-internal/de5fs23hu73ds/progress?id=S4lQro8AYbAs6twggfleVYvwTmh-K6U907trRfNM5Dw,. 中国による AI 監視システムの輸出については Arthur Gwagwa, “Exporting Repression? China's Artificial Intelligence Push into Africa,” CFR, December 17, 2018, https://www.cfr.org/blog/exporting-repression-chinas-artificial-intelligence-push-africa. また AI と並び次世代の産業競争の要素技術と見做されている次世代通信技術

(5G)についてはブロック化の傾向がみられる。Eurasia Group White Paper: The Geopolitics of 5G, Eurasia Group, 15 November 2018, pp.13-20, https://www.eurasiagroup.net/siteFiles/Media/files/1811-14%205G%20special%20report%20public(1).pdf.

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3. ロシア ――計画的なイノベーション・エコシステムの構築

民間製造業部門の長期的な凋落傾向に直面していたロシアでは、2010 年にメドベージェフ大統領が経済の「近代化」を目指し、政府主導でロシア版のシリコンバレーを建設する「スコルコヴォ」構想を立ち上げた。これはスコルコヴォ・イノベーション・センターとスコルコヴォ科学技術大学を中心に巨大なテクノポリスを形成し、起業家や研究者を集約し、先端産業の振興を図ろうというものである。現在、スコルコヴォではベンチャー支援によって 1000 社以上のスタートアップが活動するイノベーション・エコシステムが形成されているといわれる 107。そして 2012 年にはプーチン大統領が、ロシアの防衛・安全保障に資する研究開発プログラムを推進するべく、ロシア版DARAP と称される ARF を創設し、2015 年には、その傘下にロボット工学基本要素・技術開発センターを開設するなどの施策によって、ロシアにおける AWS の開発およびRAS・AI の軍事分野への適用を推進している 108。このようにロシアにおける研究開発体制は、米国を参考として研究開発促進に関する様々な知見を取り入れ、イノベーション・エコシステムの形成、軍産学の連携、ファシリテーターの創設、ベンチャー投資への支援など様々な政策を計画的に実施しようというアプローチを採用している。

学術部門については、政府の文化的特性を反映して、中央統制をより強化する方向で改革が行われた。2013 年に連邦政府は、国内の限られたリソースをより効率的に活用することを目指し科学アカデミー再編法を可決、ロシア科学アカデミーへの一本化、連邦科学組織庁による統制の強化によって政府の方針をより反映しやすい体制への転換を実行した 109。そして 2016 年 12 月に「ロシア連邦科学技術発展戦略」110 に関する大統領令が示され、大統領指示のもと 2019 年 4 月には旧プログラム(2013 ~ 2020 年)を刷新し「ロシア連邦の科学技術発展」国家プログラム(2019 ~ 2030 年)111 が承認された。これは科学技術予算を増強し、効率的な管理運営を行いつつ、同時にイノベーション主導型経済への転換を図ろうとするもので、プーチン大統領が経済再建と国力強化

107 Mark Rice-Oxley, “Inside Skolkovo, Moscow’s self-styled Silicon Valley,” Jun 12, 2015, https://www.theguardian.com/cities/2015/jun/12/inside-skolkovo-moscows-self-styled-silicon-valley.

108 Bendett, “Russia’s Hi-Tech Military,”; “ARF proposed AI development standards to the MOD” (ФПИ предложил Минобороны стандарты для искусственного интеллекта),” RIA Novosti, March 20, 2018, https://ria.ru/technology/20180320/1516808875.html.

109 Irina Dezhina, “Russia’s Academy of Sciences’ Reform: Cause and Consequence for Russian Science,” Russia,Nei.Visions, no.77, (Paris: Ifri Russia/NIS Center, 2014), pp.20-23, https://www.ifri.org/mwg-internal/de5fs23hu73ds/progress?id=9eTLKdoKSBcqlmQptOtwoH_ZV0G6AJ08LE7SyoK6NDc,.

110 The President of the Russian Federation, Strategy for the Science and Technologyical Development of the Russian Federation (unofficial English translation), http://online.mai.ru/StrategySTD%20RF.pdf.

111 State Programme “Scientific and Technological Development of the Russian Federation” (2019-2030), HSE University-National Contact Points 'Mobility', 'Societies (INCO)', and 'Science with and for Society', https://fp.hse.ru/en/ftp

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の鍵として国内の科学技術リソースの活用を重視しているという姿勢が覗える。民間セクターの振興、特にスタートアップの育成については、2014 年に新技術の開

発および国際競争力の強化を目指し「国家技術イニシアチブ(NTI)」112 が公表された。この NTI は政府が主導して、重点産業分野におけるイノベーション・エコシステムを形成することを目指すもので、戦略イニシアチブ庁(ASI)が産官学連携をアレンジし、ここにロシア・ベンチャーカンパニー(RVC)などの政府系機関・基金がプロジェクト融資やスタートアップへのベンチャー投資を行うというものである 113。加えて 2017

年 2 月にはロシアのデジタル化、知識経済化を推進する「テクネット」に関するロードマップが策定され、2035 年までに各産業に関するテストベッドや研究施設が創設されることとなった 114。さらに 2017 年 7 月に『ロシア連邦のデジタル経済』が、2018 年12 月には『ロシア連邦デジタル経済』パスポートが発表され、デジタル技術、情報インフラ、情報セキュリティ、電子政府などの国家プログラムを通じて産業構造の高度化が図られている 115。

ロシア政府がイノベーションによる経済・産業高度化政策を次々と打ち出す中で、連邦軍・国防省も AI への関心を急速に高めていった。国防省は 2018 年初頭にロシア科学アカデミー、教育科学省と共催で、連邦政府と各機関、民間企業を招いて AI 分野での協力関係の強化を目的とした会議を開催している 116。この会議でセルゲイ・ショイグ(Sergei Shoigu)国防大臣は、ロシアにおける科学技術と経済の安全保障に対する潜在的な危機に対処するべく AI 研究開発において軍と民間の科学者の協力が重要である、と官民協力の必要性を訴え、またユーリ・ボリショフ(Yury Borisov)国防副大臣も、AI によってサイバー空間、情報戦争に勝利できると唱えた 117。また ARF は 3 月に AI に関する研究開発プロジェクトについて、画像認識、音声認識、自律システム管理、ライフサイクル情報支援の 4 つの分野に絞って、その標準化を進めることをショイグ

112 “National Technology Initiative,” ASI, https://asi.ru/eng/nti/.113 Ksenia Zubacheva, “2035: Russia’s 20-years Vision for a Technological Future,” Russia Direct, May 30, https://russia-

direct.org/company-news/2035-russias-20-year-vision-technological-future; Jeff Schubert, “Russia’s ‘National Technology Initiative’ or ‘Waiting for the High-Tech Tooth-Fairy’!,” September 28, 2016, http://russianeconomicreform.ru/mwg-internal/de5fs23hu73ds/progress?id=MiiJ87vbXdC7eUNNLgh1t1tWsxoJF-7PDTTrXS3KBpU,.

114 National Technology Initiative, Technet: Advanced Manufacturing Technologies, http://assets.fea.ru/mwg-internal/de5fs23hu73ds/progress?id=G3I02VORbKc77nrtw_uBT8czTe0YI1Jt5BEO-40m3hw,.

115 “National program Digital economy of the Russian Federation,” TADVISER, February 5, 2019, http://tadviser.com/index.php/Article:National_program_Digital_economy_of_the_Russian_Federation#.2A_Passport_of_the_Digital_Economy_national_program_and_six_federal_projects._Express_analysis_of_TAdviser.

116 Samuel Bendett, “In AI, Russia is Hustling to Catch Up,” Defense One, April 4, 2018, https://www.defenseone.com/ideas/2018/04/russia-races-forward-ai-development/147178/

117 “Shoigu called on military and civilian scientists to jointly develop robots and UAVs” (Шойгу призвал военных и гражданских ученых совместно разрабатывать роботов и беспилотники), TASS.ru. March 14, 2018, http://tass.ru/armiya-i-opk/5028777;

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国防大臣に対し説明した旨報じられており、米国の JAIC のような役割も兼ねようとしているのではとも考えられる 118。

同会議では、2019 年中に発表が予定されている国家 AI 戦略に関連したロードマップの草案が示されたと報じられている。同草案には、後述する ERA テクノポリス建設を含む 10 項目の官民パートナーシップに関する提案がリストアップされ、公式のロードマップではないものの、今後のロシアにおける AI 研究開発の方向性を窺い知るうえで注目される 119。この提案には、ビッグデータ、自律性といった周辺関連技術を含めたAI 研究開発コンソーシアムの形成や基金の創設、専門家養成あるいはリカレント教育プログラムが提案され、また AI に関する開発動向のグローバルな監視、AI ウォーゲームの開催、軍事フォーラムや関係機関による年次会議の開催などの施策が提案されている。これらの施策においては、ARF をファシリテーターとしつつも、民間セクターとともにロシア科学アカデミーやモスクワ国立大学などの学術機関が実務的な協力を推進する組織として候補にあげられている 120。そして 2018 年 6 月には、スコルコヴォの軍事版ともいえる ERA テクノポリスを黒海沿岸のアナパに建設する大統領令が署名され、軍産学連携のイノベーション・エコシステムの中核拠点が形成されることとなった。ERA テクノポリスでは① IT、②ロボット、③コンピュータ、④画像認識、⑤情報セキュリティ、⑥ナノテクノロジー、⑦エネルギー、⑧バイオの 8 分野を優先課題として研究を進めるとしているが、11 月にプーチン大統領が ERA テクノポリスにおいて、ロシア軍が AI をベースとしたスマート兵器の開発に取り組む旨の発表を行い、今後はAI を軸とした研究も進められるものと考えられる 121。しかしロシアでは民間セクターでのイノベーション能力が脆弱なため、米国や中国とは異なり、民間セクターの技術リソースを軍側が取り込むという構図が確立できるのか不明な点もある。

118 Ibid.119 Aleksandr Golts, “Russian Scientists in Military Uniforms,” Eurasia Daily Monitor vol.15, iss.108, July 19, 2018, https://

jamestown.org/program/russian-scientists-in-military-uniforms/.120 Павел Настин, “Technopolis "Era": the future of military science” (Технополис «Эра»: будущее военной науки),

ЗВЕЗДА, December 9, 2018, https://tvzvezda.ru/news/opk/content/201809121135-p982.htm; Samuel Benedett, “Here’s How the Russian Military Is Organizing to Develop AI,” Defense One, July 20, 2018, https://www.defenseone.com/ideas/2018/07/russian-militarys-ai-development-roadmap/149900/.

121 Sergey Sukhankin, “‘Special Outsider’: Russia Joins the Race for Global Leadership in Artificial Intelligence,” Eurasia Daily Monitor vol.16, iss.35, March 13, 2019, https://jamestown.org/program/special-outsider-russia-joins-the-race-for-global-leadership-in-artificial-intelligence/.

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4. おわりに

AWS に関する開発・運用の検討状況について、各国の特徴を整理すると、米国は長期的には AWS の自律性をより重視していくものの、短期的には人が中心という方針のもとで人-機械協働を重視した開発、運用をおこなうと考えられる。そして AI、ビッグデータの活用を視野に入れ、国防省の各組織がより柔軟にデータを利用できるよう、その基盤となる業務システムの整備に取り組んでおり、斬新的に技術開発、運用の方向性等の検討が進められるとみられる 122。中国でも AWS の運用については人の管理を基本とするという方針に変わりはないがが、その根底には階層を超えた指揮 123 という、中国の組織文化に根付いた、米国とは異なる思想での運用を目指す可能性があると分析される。ロシアは、その軍事理論に基づいて今後 AWS の運用を積極的に推進すると考えられる。また実戦を通じた教訓を蓄積しており、米中と比較して技術的には劣位にあるものの、非対称戦、ハイブリッド戦において他国に先んじて RAS・AI を適用する可能性もある。

RAS・AI 技術の開発を支える国家イノベーション・システムについて、各国の特徴を纏めると、米国は民間セクターに層の厚いイノベーション・エコシステムを有しているものの、軍による RAS・AI の研究開発では、調達やファンディングなどを通じた民間セクターとの緊密な関係の構築を模索中であり、その優れた技術をいかに素早く採り込めるかという点が課題とされている。また、中国による海外技術の獲得を目的とした政策や各種工作に対して警戒を強めており、民間セクターからの技術の移転、漏洩に対し規制を強化する姿勢を見せている。中国における国家イノベーション・システムは、民間セクターによる軍への技術協力、いわゆる軍民融合を標榜している。そして AI に関しては、これを米国に対する既存技術の劣位を克服するリープフロッグの好機であると認識しており、政府は、RAS・AI 関連のイノベーション・エコシステムの形成に重点的な投資を行っているものと考えられる。一方で、国家的な技術獲得戦略が外国政府の懸念を招く結果となったことから、今後は海外技術へのアクセス確保に留意しつつも、技術の国産化への取り組みを強化し、制御可能なイノベーション・エコシステムの構築を目指すものと考えられる。ロシアの国家イノベーション・システムは、ロシア科学アカデミーなどを中心に産官学連携体制の下で計画的にイノベーション・エコシステムを構築し、経済成長、産業高度化を促そうというものであった。

122 Timothy Walton “Securing the Third Offset Strategy,” JFQ, 82(3), 2016, pp. 6-15.123 Kania, Battle Field Singularity, p. 17.

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そして RAS・AI を含む新興技術の軍事分野への応用について、ARF をファシリテーターとした軍産学連携体制の下でのイノベーションを企図し、その中核施設として ERA テクノポリスを建設する計画である。

(とみかわひでお 社会・経済研究室主任研究官、やまぐちしんじ 中国研究室主任研究官)