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34 NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol. 16 No. 4
MIMOチャネルの容量拡大を実現するプレコーディングおよびスケジューリング技術
MIMO プレコーディング スケジューリング
MIMOチャネルの容量拡大を実現するプレコーディングおよびスケジューリング技術
多次元MIMO伝送技術特集 ─未来創造への挑戦─
シェ
小明ショウミン
陳チン
嵐ランIMT-Advancedがさらなる容量拡大を要求される中,高
度なMIMO制御は欠かせない技術である.北京研究所では,
空間ダイバーシチと空間多重利得の高効率化を実現するプ
レコーディングおよびマルチユーザダイバーシチ利得を活
用するスケジューリング技術について,研究を進めている.
北京研究所
1. まえがきIMT-Advancedは最大100MHzの
帯域幅であり,LTE(Long Term
Evolution)*1とコンパチビリティを
もちながら,より高い性能を達成す
ることが要求されている.周波数効
率に関して,LTEで規定されている
値[1]~[3]およびITU -R(Interna-
tional Telecommunication Union -
Radiocommunication sector)で示さ
れているIMT-Advancedの要求条件
[4]を表1に示す.IMT-Advancedは
LTE(下り2×2,上り1×2の場
合)に比べ,平均スループットとセ
ル端スループットが約1.5倍から2
倍に拡張することが要求されてい
る.
周波数効率のさらなる改善には,
アンテナ数を増加させるとともに,
MIMO(Multiple Input Multiple Out-
put)*2制御技術の高度化が鍵とな
る.具体的にはMU(Multi-User)-
MIMO環境において,空間ダイバー
シチ*3と空間多重利得*4およびマル
チユーザダイバーシチ利得*5をいか
に向上させるか,ということであ
る.このうち,プレコーディング技
術は前者2つの利得について,スケ
ジューリング技術は後者の利得につ
いて,それぞれ向上させるための技
術と位置付けられる.特に閉ループ
制御を用いるプレコーディングは,
開ループ制御と比べ,送信機側でチ
ャネル状況を把握し,送信の最適化
を図ることができるため,さらなる
性能向上が期待できる[5].
プレコーディングとスケジューリ
ングの概略を図1に示す.またプレ
コーディング,スケジューリングに
おける目的,技術課題および北京研
*1 LTE:3GPPでLong Term Evolutionとして検討されている第3世代の拡張規格.ドコモで提唱しているSuper 3Gと同義.
*2 MIMO:複数の送受信アンテナを用いて信号の空間多重を行い,通信品質および周波数利用効率の向上を実現する信号伝
送技術.*3 空間ダイバーシチ:通信品質を改善する
ため,複数のアンテナで受信または送信して,受信(送信)状況の良いアンテナの信号を選択したり,信号を合成する.
基準
帯域幅(MHz)
Downlink
Uplink
Downlink
Uplink
Downlink
Uplink
LTE (TR25.913, TR25.912, TR25.814)
IMT-Advancedの最小要求条件 (Base Coverage Urban環境)
1.4~20(可変)
15
3.75
1.69
0.74
0.05
0.024
~40(可変) (~100程度までへの拡張を推奨)
15
6.75
2.20
1.40
0.06
0.030
ピーク周波数利用効率 (bit/s/Hz)
セル周波数利用効率 (bit/s/Hz/cell)
セル端ユーザ周波数利用効率 (bit/s/Hz)
(4×4)
(1×4)
(2×2)
(1×2)
(2×2)
(1×2)
(4×4)
(2×4)
(4×2)
(2×4)
(4×2)
(2×4)
表1 IMT-Advancedの最小要求条件(抜粋)
35NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol. 16 No. 4
究所提案技術の概要を表2に示す.
ここで伝送の自由度が増える順に,
SU(Single -User)- MIMO,MU-
MIMO,マルチセル協調MIMO
(Co-MIMO)に分類する.
SU-MIMOの改善対象はピーク・
セル平均周波数利用効率およびセル
端ユーザの性能であり,LTEのR8
の下りリンクに採用されている.
SU-MIMOにおける技術課題は,マ
ルチユーザダイバーシチ利得および
ピークレートを増大させるためのプ
レコーディングである.
MU-MIMOはSU-MIMOに比べ,
複数のユーザが空間チャネルで多重
されるため,空間次元の自由度がさ
らに拡大する[6].MU-MIMOの改
善対象はセル平均周波数利用効率で
あり,LTEのR8でも採用されてい
るが,R9においてさらに高度化が
検討される見込みである.MU -
MIMOにおける技術課題は,限定フ
ィードバック環境におけるセル平均
周波数利用効率の向上,SDMA
(Space Division Multiple Access)*6を
サポートする有効なプレコーディン
グ技術および演算量低減を図るスケ
ジューリングである.
また,OFDMA(Orthogonal Fre-
quency Division Multiple Access)*7ベ
ースのシステムで,特に周波数繰返
し単位が1の場合,セル間干渉はシ
ステム容量に大きな影響をおよぼ
す.さらに,セルサイズが小さくな
る将来システムでは,セル間干渉が
より深刻な問題になる.従来のセル
間リソース協調[7][8]ではセル端ユ
ーザの性能を改善できるが,セル平
均容量の向上が期待できない.一
方,Co-MIMO[9][10]は他セルから
の信号を所望信号として利用できる
ため,セル端とセル平均スループッ
*4 空間多重利得:複数のアンテナを使って複数の信号フローを並行して空間に送出することによる性能の向上.
*5 マルチユーザダイバーシチ利得:パケットスケジューラによって,ユーザ間におけるフェージングおよび干渉特性の相違性を
活かしたシステムスループットの向上. *6 SDMA:同一セルの複数のユーザに対し,互いに異なる狭いビーム幅の指向性ビームを用いて送受信することにより,各ユーザの信号を空間的に分離し,周波数利用効率を高めること.
ユーザ1 のデータ
基地局
フィードバック
ユーザ2
ユーザ2 のデータ
・・・・
ユーザ2 のデータ
ユーザk のデータ
(a)SU-MIMO
S2 S'2
S2
S'2
S'2S2
ユーザ1 のデータ
基地局
フィードバック
ユーザ2
ユーザ2 のデータ
・・・・
ユーザ2 のデータ
ユーザk のデータ
(b)MU-MIMO
Sk
S2
S2
Sk
S2
DFT : Discrete Fourier Transform
ユーザkユーザk のデータ
Sk
スケジューラ
(モード/ユーザ選択)
SU プレコーダ
(UP)
コードブック (DFT/ Householder/CDD)
MIMO detection
チャネル推定
フィードバック制御
スケジューラ
(モード/ユーザ選択)
MU プレコーダ
(UP/ZFBF)
コードブック (DFT/ Householder/Grassmanian)
MIMO detection
チャネル推定
フィードバック制御
MIMO detection
チャネル推定
フィードバック制御
図1 プレコーディングとスケジューリング
MIMO モード分類 北京研究所提案概要 技術課題
(プレコーディング,スケジューリング) 実用時期 (予想)
改善対象
SU-MIMO
MU-MIMO
Co-MIMO
LTE R8
LTE R9
IMT- Advanced
ピーク, セル平均, セル端
セル平均
セル端, セル平均
・マルチユーザダイバーシチ 利得向上のプレコーディング ・ピークレート向上のプレコー ディング
・限定フィードバック環境での セル平均周波数利用効率向上 のプレコーディング/スケ ジューリング ・SDMAをサポートするプレ コーディング
・フィードバックオーバヘッド の低減 ・演算量低減を考慮したプレコ ーディングとスケジューリン グ
・CDDベースのプレコー ディング ・マルチコードブックの プレコーディング
・スケジューリング精度 向上のための動的CQI 更新/フィードバック 方法 ・プレコーディング精度 の向上を図るtwo-stage フィードバック
・選択型フィードバック, 部分送信局情報を用い たマルチセル協調プレ コーディングとスケジ ューリング
表2 プレコーディングおよびスケジューリング技術の課題および提案概要
36 NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol. 16 No. 4
MIMOチャネルの容量拡大を実現するプレコーディングおよびスケジューリング技術
トの両方を向上できる技術として脚
光を浴びている.しかし現時点で
は,理論検討や理想的な仮定の下で
の検討がほとんどで,実環境におけ
る実現方法が明確でない.Co -
MIMOの改善対象はセル端ユーザの
性能およびセル平均周波数利用効率
であり,IMT-Advanced向けの技術
として検討されている.Co-MIMO
における技術課題は,フィードバッ
ク量の低減およびプレコーディング
とスケジューリング上の演算量の削
減である.
本稿では,SU -MIMO,MU -
MIMO,Co-MIMOにおける問題点
を解決するため,低速移動環境にお
ける閉ループプレコーディングとス
ケジューリング技術にフォーカスし
た北京研究所提案方式について解説
を行う.
2.SU-MIMOの課題および解決案
ライスチャネル*8やスローフェー
ジング環境では,チャネル変動が緩
やかであるため,十分なマルチユー
ザダイバーシチ利得が得られない.
北京研究所では,開ループのCDD
(Cyclic Delay Diversity)*9と閉ループ
のプレコーディング技術を組み合わ
せたCDDベースのプレコーディン
グを提案した.提案方式では,周波
数領域のチャネル変動を利用し,マ
ルチユーザダイバーシチ利得を活用
できる.詳細および特性評価結果に
ついては,文献[11]を参照されたい.
さらに,周波数と時間領域の両方の
チャネル変動を最大限利用するた
め,複数のコードブックを用いたマ
ルチコードブック(MB:Multiple
codeBook)のプレコーディングを
提案した[12].提案方式では,一定
のRB(Resource Block)ごと,時間
ごとに異なるコードブックを用い
る.MBは,従来のコードブックW
の左側にユニタリマトリックスQ(l)
を掛けて生成する.l は1からLま
でとなり,Lはコードブック数であ
る.MBを生成した後,送受信側で
コードブックの切替順番をあらかじ
めセットしておくことにより,シグ
ナリングを減らすことができる.
従来方式「SB(Single codeBook)」
と提案方式「MB」の平均周波数利
用効率の比較を図 2に示す.TU
(Typical Urban)環境において,
2×1のMIMO,16ユーザの場合を
評価する.詳細なシミュレーション
パラメータは文献[12]を参照された
い.PF(Proportional Fair)のスケ
ジューリングではユーザ間の公平性
が考慮されるため,緩やかなチャネ
ル変動の場合,従来方式の特性が劣
化するが,提案方式により周波数利
用効率は約7%改善できる.特に
LOS(Line Of Sight)*10の環境ではチ
ャネル変動幅が小さいため,提案方
式による効果がNLOS(Non-Line Of
Sight)*11の場合に比べて顕著であ
る.
3.MU-MIMOの課題および解決案
UP(Unitary Precoding)[13]や
ZFBF(Zero-Forcing BeamForming)
[14]は,限定フィードバック環境で
の有効なプレコーディング方式とし
て検討されている.UPではフィー
ドバック情報が不足する場合に性能
が劣化し,ZFBFではフィードバッ
クの精度に容量が影響されてしま
う.これらの問題を解決する動的
CQI(Channel Quality Indicator)フ
ィードバック・更新およびTwo -
stageフィードバックの2つの提案方
式を解説する.
3.1 動的 CQI フィードバック・更新
UPでは,個々の移動端末が最適
なPMI(Precoding Matrix Index),
PVI(Precoding Vector Index)およ
びCQIを基地局に報告する.基地局
では,同じマトリックスの中の異な
るベクトルを選択したユーザの組合
せの中から,容量和または加重和が
最大となるユーザ組をスケジューリン
グする.E-UTRA(Evolved UTRA)*12
では,フィードバック量を減らすた
め,ランク1のCQIのみがフィード
バックされる.しかし,ランクアダ
*7 OFDMA:直交周波数分割多重(OFDM)を用いた無線アクセス方式.OFDMは,高速データレートの広帯域信号を多数の低速データレートのマルチキャリア信号を用いて並列伝送することにより,マルチパス干渉(遅延波からの干渉)に対する
耐性の高い高品質伝送を実現する方式.*8 ライスチャネル :直接波のような強く
て変動の小さい波と,多くの変動の大きい反射波が存在するチャネル.
*9 CDD:OFDMベースのシステムにも使われるダイバーシチの技術の1つで,シ
ンボル間干渉を回避しながら,空間ダイバーシチを周波数ダイバーシチに変換する技術.
*10 LOS:送受信間に遮蔽物がなく,直接波での通信が可能な状態.
0 5 10 15 20 25 30 35 1.8
1.9
2.0
2.1
2.2
2.3
2.4
2.5
2.6
周波数利用効率(bit/s/Hz)
ユーザ数
NLOS
LOS
NLOS
Max C/I: Maximum Carrier to Interference ratio
LOS
Max C/I+SB Max C/I+MB PF+SB PF+MB
図2 SBとMBの平均周波数利用効率
37NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol. 16 No. 4
プテーション*13を行うため,基地
局では他のランク値対応のCQIが必
要である.従来では,固定のオフセ
ットを用いてランク2のCQI値を計
算していたが,チャネル状況によっ
て補正すべき値が異なるため,正確
なスケジューリングができない.提
案方式では,ランク値は時間軸上で
緩やかに変動することに着目し,ユ
ーザは直前にスケジューリングされ
る際のランク値に対応するCQIをフ
ィードバックする[15].また基地局
では,直前のランク値および受信さ
れたCQIにより,事前に用意したル
ックアップ表を用いてCQIを更新す
る.
Step 1:オフラインシミュレーシ
ョンにて,ランク1の各
CQIの値に対応するラン
ク2のCQI分布を求める.
これに基づきルックアッ
プ表を生成し,基地局に
て保有する
Step 2:基地局が一定時間周期に
ランクの値を決め,ユー
ザに知らせる
Step 3:個々の移動端末は通知さ
れたランクに対応する
CQIをフィードバックす
る
Step 4:基地局はルックアップ表
を用い,報告されたラン
クのCQIから他のランク
のCQIを求める.容量の
和または加重和が最大と
なるようにランクを決め,
スケジューリングを行う
シミュレーションパラメータは文
献[15]を参照されたい.ランク1の
CQIフィードバックかつ固定バック
オフをもつ従来方式,提案方式,さ
らにランク1,2のCQIが共にフィ
ードバックされる場合の特性を性能
の上限として評価する.従来方式に
比べ,提案方式によって20~40%
の特性増が得られ,上限値に近い容
量が得られることが確認される(図
3).
3.2 Two - stage フィードバック
ZFBFでは,個々の移動端末は
CVQ(Channel Vector Quantization)
をフィードバックし,基地局側で
は,CVQを基にプレコーディング
マトリックスを計算してスケジュー
リングを行う.従来方式では,フィ
ードバック量の制限によりプレコー
ディングの精度が十分でないため,
容量損が生じる.提案方式では,ス
ケジューリングに比べプレコーディ
ングがより高精度のCVQを要求す
ることに着目し,限られたフィード
バックリソースを有効利用したtwo-
stageフィードバック方法を提案し
た.
Stage 1:基地局と移動端末は小と
大の2つのコードブック
B1,B2をもつ.ユーザ
はB1を用いたCVQをフ
ィードバックする.基地
局はスケジューリングを
行い,その結果を移動端
末に通知する
Stage 2:スケジューリングされた
移動端末のみがB2を用
いてフィードバックを行
う
従来方式との容量比較を図4に示
す.公平性を保つため,全体のフィ
ードバック量が同じになるようにす
る.つまり従来方式では3bitのコー
ドブックBを用い,提案方式の
Stage 1,2にそれぞれ2bitと8bitの
コードブック(B1,B2)を用いる
(3×16 = 2×16 + 8×2).同じく,
*11 NLOS:送受信間に遮蔽物があり,反射波や回折波などでしか通信できない状態.
*12 E-UTRA:3GPP移動通信網における高機能無線アクセス方式におけるエアインタフェース.
*13 ランクアダプテーション:チャネル状態(受信SINRおよびアンテナ間のフェージング変動の相関)に応じて,MIMO伝送法を切り替えることにより,同一の周波数および同一の時間スロットで並列伝送する信号系列数(ランク)を適応的に切り
替えること.
4 6 8 10 12 14 16 18 20
1.8
2.0
2.2
2.4
2.6
2.8
3.0
3.2
3.4
3.6
2TXアンテナ
4TXアンテナ
従来(ランク1CQIフィードバック,固定バックオフ更新)
提案(動的CQIフィードバック,更新)
上限(ランク1,2CQIフィードバック)
周波数利用効率(bit/s/Hz)
ユーザ数
図3 動的フィードバックと更新法
02
6
4
8
10
12
14
2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
周波数利用効率(bit/s/Hz)
平均SNR(dB)
B=3bits B1=2bits/B2=8bitsB=4bits B1=3bits/B2=8bits
図4 平均SNR に対する容量の比較
4bitのコードブックBを用いる従来
方式に対し,提案方式では3bitと
8bitのコードブックを用いる.従来
方式に比べ,提案方式はオーバヘッ
ドを増やすことなく,周波数利用効
率が約22%向上する.さらに,SNR
(Signal to Noise Ratio)が大きい場合
はCVQの精度に影響される度合い
が大きくなるため,改善量も増大す
る.平均SNRが10dBの場合におけ
る,移動速度に対する周波数利用効
率を図5に示す.速度が25km/h以
下の場合,提案方式による特性改善
が明らかであり,低速移動環境で有
効であることが分かる.
4.Co-MIMOの課題および解決案
セル端およびセル全体のスループ
ットを改善するため,同じ無線リソ
ースにおいては,複数の送信局から
の協調的なプレコーディングやスケ
ジューリングが有効と考える.送信
局間において,高速にチャネル情報
の共有が求められるため,光張出し
の構成への適用が考えられる(図
6).ここでは,マルチセル,マルチ
ユーザの実環境における北京研究所
提案の選択型フィードバックおよび
協調プレコーディングとスケジュー
リングを解説する.
協調エリアは複数のRRE(Remote
Radio Equipment)が協調プレコーデ
ィングとスケジューリングを行うエ
リアを指す.性能,シグナリングオ
ーバヘッドおよび演算量を考慮し
て,次の条件で協調エリアの設定を
行う.協調エリアは複数個のセル/
セクタから構成され,協調エリア間
でオーバーラッピングしない.協調
エリア内のユーザはできるだけ多く
の関連送信局の参照信号を受信でき
るようにする.その結果,図6に示
す協調エリアBがCo-MIMOに適し
たシナリオと考えられる.
提案方式の原理は次のとおりであ
る.移動端末は複数のRREからの長
区間受信SINR(Signal to Interference
and Noise Ratio) を測定する.受信
SINRの最良のRREを主局とし,該
主局との受信SINRの差が一定範囲
内に収まるRREを次局として,選択
する.移動端末は主局と次局とのチ
ャネル情報を主局に報告する.個々
のRREは各移動端末からのフィー
ドバックを受信した後,基地局へ報
告する.基地局では,合成チャネル
マトリックスHを構成し,該当エリ
アのRRE間における協調プレコー
ディングやスケジューリングを行
う.
協調エリアを特定するためのしき
い値が10dBの場合の特性評価を行
う.詳細なシミュレーションパラメ
ータは文献[16]を参照されたい.ユー
ザ数を24人とし,セル平均および
セル端ユーザの周波数利用効率*14
を図7,図8に示す.セル独立のプ
レコーディングとスケジューリング
(従来方式)に比べ,Co-MIMOによ
り,セル平均およびセル端ユーザの
周波数利用効率が同時に向上できる
ことが確認される.
38
*14 セル端ユーザ周波数利用効率:セル端ユーザ周波数利用効率はセル平均周波数利用効率の累積確率分布(CDF:Cumula-tive Density Function)の5%値である.
NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol. 16 No. 4
MIMOチャネルの容量拡大を実現するプレコーディングおよびスケジューリング技術
2
5
4
3
6
7
8
9
0 7.2 14.4 21.6 28.8 36.0
周波数利用効率(bit/s/Hz)
速度(km/h)
B=3bits B1=2bits/B2=8bitsB=4bits B1=3bits/B2=8bits
図5 移動速度に対する容量
A
B
RRE
基地局 基地局
図6 協調エリアの選定方法
5.あとがき本稿では,多次元のMIMO利得
を向上させるプレコーディングおよ
びスケジューリングの技術課題を明
らかにし,北京研究所の提案方式を
解説した.北京研究所では,ドコモ
無線アクセス開発部と協力しなが
ら,LTEの策定に向けて3GPPに寄
書を作成・提出してきた.今後
IMT-Advancedおよびそれ以降の移
動通信システムの実現に向けて,さ
らなる周波数利用効率の向上,QoS
(Quality of Service)*15の保証,遅延
の低減,バッテリセービング*16技
術の高度化についても検討を進める
予定である.
文 献[1] 3GPP TR 25.913 V7.3.0:“Requirementsfor Evolved UTRA (E -UTRA) andEvolved UTRAN (E-UTRAN).”
[2] 3GPP TR 25.912 V7.2.0:“Feasibilitystudy for evolved Universal TerrestrialRadio Access (UTRA) and UniversalTerrestrial Radio Access Network (E-UTRAN).”
[3] 3GPP TR 25.814 V7.1.0:“Physical layeraspects for evolved Universal TerrestrialRadio Access (UTRA).”
[4] ITU-R,WP5D:“Draft Report onRequirements Related to Technical Sys-tem Performance for IMT-AdvancedRadio Interfaces(s) [IMT.TECH],”Jun.2008.
[5] E.Telatar:“Capacity of Multi-antennaGaussian Channels,”Euro. Trans.Commun., Vol. 10, No. 6, pp. 585-595,Nov.-Dec. 1999.
[6] G.Caire and S.Shamai:“On the Achiev-able Throughput of a MultiantennaGaussian Broadcast Channels,”IEEETrans. Inf. Th., Vol.49, pp.1691-1706,Jul. 2004.
[7] R1-050764, Ericsson:“Inter-cell Inter-ference Handling for E-UTRA,”3GPPRAN1 #42, London, UK, Aug./Sep. 2005.
[8] M.Feng, L.Chen and X.She:“UplinkAdaptive Resource Allocation Mitigating
Inter-cell Interference Fluctuation forFuture Cellular Systems,”Proc. IEEEInt. Conf. Communication (ICC), pp.5519-5524, Jun. 2007.
[9] M.K.Karakayali, G.J.Foschini andR.A.Valenzuela:“Network coordinationfor spectrally efficient communicationsin cellular systems,”IEEE WirelessCommun. Mag., Vol. 13, No. 4, pp. 56-61,Aug. 2006.
[10]M.K.Karakalyali, G.J.Foschini, R.A.Valenzuela and R.D.Yates:“On themaximum common rate achievable in acoordinated network,”Proc. IEEE Int.Conf. Communications (ICC), Vol. 9, pp.4333-4338, Jun. 2006.
[11]R1-062732, NTT DOCOMO, “CDD-Based Pre-coding Scheme for Rank=1and 2,”3GPP RAN1 #46bis, Seoul,Korea, Oct. 2006.
[12]X.She, J.Liu, L.Chen and H.Taoka:“Multi-codebook Based Beamformingand Scheduling for MIMO-OFDM Sys-tems with Limited Feedback,”IEICETrans. Commun. Vol.E91 -B, No.11,pp.3745-3748, Nov. 2008.
[13]R1 - 051353, Samsung:“ DownlinkMIMO for EUTRA,”3GPP RAN1 #43,Seoul, Korea, Nov. 2005.
[14]T.Yoo and A.Goldsmith:“On the opti-mality of Multiantenna Broadcast Sched-uling Using Zero - forcing Beamform-ing,”IEEE JSAC, Vol.24, No.3, pp.528-541, Mar. 2006.
[15]J.Zhu, X.She, J.Liu and L.Chen:“Adap-tive CQI Feedback and Efficient CQIUpdate Scheme for Codebook BasedMU-MIMO in E -UTRA,”IEEE Veh.Technology Conf., Sep. 2008.
[16]R1-081408, NTT DOCOMO, etc.:“Investigation on MU-MIMO in E-UTRAdownlink,”3GPP RAN1 #52bis, Shen-zhen, China, Mar.-Apr. 2008.
39
*15 QoS:サービスごとに設定されるネットワーク上の品質.使用帯域の制御により遅延量や廃棄率などの制御が行われる.
*16 バッテリセービング:間欠受信や省電力制御を行うことにより,電力の消費を極力抑えること.
NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol. 16 No. 4
4 8 12 16 20 241.2
1.4
1.3
1.5
1.6
1.7
2.0
1.9
1.8
周波数利用効率(bit/s/Hz)
ユーザ数
従来(セル独立MIMO) Co-MIMO
RRE送信アンテナ数:2ユーザ受信アンテナ数:2
図7 セル平均周波数利用効率の特性
CDF
セル端ユーザの周波数利用効率(bit/s/Hz)
Single BS transmissionCo-MIMO
0.1 0 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
図8 セル端ユーザの周波数利用効率