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HEE-16-015

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誘導電動機の成立史

矢田 恒二*(矢田技術士事務所)

Formation History of Induction Motor Tsuneji Yada *, (YADA Engineering Consulting Offixce)

From examination of Arago’s disk, and through discovering eddy current, scientists tried various manners for producing

rotational magnetic field. Depending on these fundamental researches Tesla, Dobrowolisky and others constructed the

elementary form of induction motor. This paper is described about the process of formation of induction motor.

キーワード:誘導電動機,渦電流,回転磁界,アラゴの円盤,位相差,3 相交流、2 相交流,テスラ,交流発電機

(Keywords, induction motor, eddy current, Arago’s disk, phase rotating magnetic field, polyphaser alternate

current, Tesla, AC generator)

1. 渦電流の発見

誘導電動機の原理説明はアラゴの円盤を使って説明され

ることが多い。アラゴ(Dominique F. J. Arago,1786-1853)

によるこの現象の発見は 1822 年頃フランスに於いてアン

ペア(Andre M. Ampere,1775-1836)と共同して、電気現象の

実験をしていたところ、水平に吊るされた磁石の針の動き

が、外部環境によって影響を受けるという奇妙な現象を発

見したことがきっかけとされている。

しかし、他の説によればアラゴのもとに出入りしていた

測 定 器 メ ー カ の ガ ン ベ イ (Henri-Prudence Gambey,

1787-1847) が 1824 年頃のある日、コンパス磁石の下に銅

板があるときと、木材があるときでは磁石の針の振れのダ

ンピング効果に違いの有ることに気が付いた。これをアラ

ゴに話したことがこの異様な現象の発見のきっかけあった

とされている。

いずれにしてもこの現象を確かめるために、アラゴは磁

石をガラス容器の中に納めて、その下で銅製円盤を回転し

たときに磁石の針の動くのを観察した 。このとき円盤を低

速で動かすと、磁針は回転の方向に引きずられるようにゆ

っくりと本来の位置よりずれるが、回転を速めると 90 度近

くまで引きずられる事を観察した。

このことを 1824年 11月 22日にアラゴはフランス科学ア

カデミで口頭発表した。この内容は 11 月 23,24 日にパリ

の新聞面などで広く報道され、英国ではパリからの報道と

して翌年 1 月 1 日発行の“Edinburgh Journal” に紹介さ

れた。アラゴはこれを論文として 1825 年 3 月 7 日発行の

“Annales de Chimie et de Physique” p.325 に掲載し、

この現象を magnetism of rotation (回転の磁気)と名付け

た。

ところで英国でも同じ頃同様な現象を発見していた。そ

の舞台となったのはロンドン東部ウールウイッチにあった

王立東インド会社士官学校である。この地には近くに王立

武器庁もあり、当時の軍事技術の拠点の一つでもあり、こ

の学校も実学を教育する場で、ファラディ(Michael

Faraday,1791-1867)もここで化学の教授を勤めたことがあ

る 。 こ こ に 磁 石 を 研 究 し て い た バ ー ロ ウ ( Peter

Barlow,1776-1862)がいたが、その同僚でもあった数学者

のクリスティ(Samuel H. Christie,1784-1865) が羅針盤

の上にある鉄の板によって、磁針が本来の吸引力とは違っ

た力を受けていて、鉄板を右左に動かすことでその効果が

違うことを見つけた。1818~1819 年頃とされている、

そこで 1824 年 12 月にバーロウは鉄板を高速で回転した

ときに磁石の磁性が乱されたり、磁性が発生するかどうか

の実験をクリスティやバベージ(Charles Babbage,

1791-1871),ハーシェル(John F. W. Herschel, 1792 -

1871)と共に行った。

まず、 初に士官学校の近くにあった王立武器庁の旋盤

を回す蒸気機関を動力源として、毎分 640 回転 (640rpm)

で銅製円板を回転させ、空気の流れの影響を受けないよう

にして、その上に吊した磁針の動きを観察した。しかしこ

の時はあまり思わしい結果は得られなかったので、実験装

置を作りなおし、再度実験を行うことにした。

この時は磁針の長さ 5 インチ、円板の直径 6 インチ、厚

さ 1/12 インチの円板を使い、その回転速度を毎秒 55 回転

(3300rpm) させ、円板の回転速度を上げる程、磁針は地磁

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気による方向とは異なった方向に振れることがはっきり認

められた。彼らは円板の材料を銅以外に鉄、亜鉛あるいは

真鍮などに変えても同じような効果のあることも確認し

た。また円板と磁針の距離を変えると振れが変化し、距離

が大きくなるほど少なくなるとしている。

この実験は 1 月には終わったが、クリスティの結果と整

合させるために発表はおくれ「回転によって鉄材に誘起さ

れる瞬間的な磁気効果について」と題する論文を 1825 年 4

月 14 日に英国王立協会へ送ったが、出版されたのは 6 月で

あった。この論文はアラゴとのプライオリティに関する争

いになったが、英国の王立協会は 1825 年に も権威のある

Copley 賞を二人に贈ることで決着が付いたような形になっ

ている。

現代ではこの回転原理は渦電流とフレミングの法則で説

明されるが、渦電流の発見はバーロウ達が行った実験の中

にヒントがあった。彼らは半径方向に溝を入れた円盤を動

かしても磁石は追従して動かないという事を見つけていた

のである。当時磁界の中を導体が動くと電流が発生するこ

とは既にアンペアなどによって明らかになっていた。そこ

でファラディは磁石で挟まれた回転円盤のなかで発生した

電流を取り出す実験を 1831 年 10 月 28 日から行って、それ

に成功した。この成果はファラディの単極発電機として知

られている。

この発電機はアラ

ゴの円盤の中には半

径方向に電流の流れ

ていることの証明に

なったが、電流を取

り出す装置のない場

合の電流の行き場所

を考えれば当然の帰

結として渦電流の形

は想像できたはずで

ある。これに対して

王立東インド会社士官学校にいたスタージョン(William

Sturgeon,1783-1850)は 1833 年に回転円盤の両側に馬蹄

型磁石をはさみ、その磁極が円盤表面に対して互いに異な

る極である場合と、同じ極の場合の円盤表面に流れる電流

を観察した。このとき彼はこれを電流とは呼ばず力と表現

しているが、回転方向を変えない条件下での電流の方向を

測定した結果を報告している 。

ここで電流の方向の測定は円盤表面に磁針を近づけてそ

の動きの方向を検出して測ったとされているがその詳細は

不明である。ともかくそれによれば、円盤表面には渦電流

が発生し、互いに異なった磁極が円盤表面上にあるときは、

渦電流の方向は同じ巻き方向の電流が流れ、対向する磁極

の間を直径線上に流れるが、同じ極が円盤表面に有るとき

は渦電流の方向は互いに逆向きで、半径方向に流れる電流

が中心でぶつかるとしている(図 1.2)。

ここでフーコの振り子で知られるフランス人フーコ

(Leon Foucault,1819-1868)は 1855 年にアラゴの円盤に

は渦電流によって熱が発生する事を見つけた。つまり渦電

流損失の発見である。この現象はファラディやスタージョ

ンが気付かなかったとは考えづらいが、このことにより渦

電流の発見はフーコによるものとされ、渦電流をフーコ電

流と呼ばれることがある。しかし、上述のように渦電流は

1833 年にスタージョンによって報告されていて、スタージ

ョンはこの結果をさほど大発見と認識した様子もない。ま

たファラディも渦電流の存在には気づいていたと思われる

ので、渦電流をフーコ電流と呼ぶのは適切でない。

2. 回転磁界

バーロウ達が回転円盤の実験をしていたとき、 初は円

盤を回転させて磁針の動きを観察したが、半径方向に溝を

入れた円盤の実験をしたときには馬蹄形磁石を円盤の下で

回転させる方法を用いた。この回転磁石の状態を非連続的

に実現しようとした試みが図 2.1 の例で、ベイリイ(Walter

Baily)が 1879 年 6 月 28 日に英国物理学会で” A mode of

producing

Arago’s

rotation” の題名

で講演している。

ここでは 4 本

の高さ 102mm

の棒状電磁石を4

方に並べ、2 本の

電磁石を一組と

し、それぞれに電

池を接続し、相互

の接続を切り替

えて、磁石上面の

極性を図2.2のよ

うに変化させる

と、図の矢印で示

すように一つの

図 1.1 ファラディの単極電動機

Fig1.1 Faraday’s monopole motor

図 1.2 スタージョンの渦電流データ

Fig.1.2 Sturgeon’s results on eddy current

図 2.1 ベイリイの実験装置

Fig.2.1 Baily’s apparatus

for experiment

図 2.2 磁極の切り替え順序

Fig.2.2 Switching process of magnets

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回転磁場が出来る。

そこでこの上に回転できるようにした直径 60.3mm の金

属製円盤を載せると、円盤は回転したという実験である。

ここでのスイッチ機構は整流子のようなもので、これを手

で回転させているが、その構造と電気回路ははっきりしな

い。しかし、電磁石で回転磁場を造った 初の例と考えら

れる。これによって磁石を使わなくても磁場が回転すると

金属製円盤が回転する事が実証された。

このころはエジソンが中央発電所を設けて配電事業を始

めたのが 1877 年であった事からもわかるように、直流発電

機や直流電動機の実用技術は既に確立していて、整流子そ

のものは珍しいものではなかったはずである。一方、交流

技術に関しては変圧器の技術は 1878 年にヤーブロチコフ

(Павел Н. Яблочков,1847-1894)が初めて使った例が出て

きた程度でまだ萌芽段階にあった。

元来、発電機はアンペアのアイデアによって 1832 年に造

られたが、 初の案では交流発電機であった。しかし当時

は交流の用途はなかったために、整流子が考えられ直流発

電機の開発が先行した。そのため 1879 年ころにはグラム

(Zenobe T. Gramme,1826-1901)が単相の交流発電機を造

っているが、そこでは直流で励磁された界磁があり、電機

子から交流を出力する も基本的な構造のものであった。

しかし交流発電機の電圧波形が正弦波であるという理解

は簡単ではなかったようである。マクスウエル(James C.

Maxwell,1831-1879)はインダクタンスとコンデンサで直

列共振が発生することを 1868 年に説明しているが、このこ

とが直ちに交流発電機の電圧波形に及ぶことはなかった。

その上、位相差の役割がなかなか理解することが難しく、

そのためデプレズ(Marcel Deprez,1843-1918) は図 2.3 の

ようなモデルを考えその結果を 1880 年 3 月 18 日にフラン

ス物理学会で発表した。

ここでは磁石界磁を持つ同一仕様の電動機の軸がつなが

れている。このそれぞれの電動機の回転子は 2 極で整流子

はなく、コイルに繫がった集電リングで給電されるように

なっているの

で、ここに電流

を流しても連

続回転できな

い。そこで図の

ような山形切

片を持つ整流

子を介して電

流を供給する

ことで、回転子

の固定化は防

げるが、整流子

が回転子の軸

と結ばれてい

ない状態では

この整流子を

外部から廻しても、円滑に回転は出来ない。

そこで、両電動機の回転子の磁極の位置を 90 度ずらして

両者を結合し、2 個の整流子もその位置を 90 度ずらして同

軸上に結合した。そして図のように電池から電流を供給し

て整流子を手で回転することで電動機を回転させる実験を

行った。この実験は 90 度の位相差のある電流によって電動

機が回転する事が出来るかどうかを確認するためのもので

あったが、この実験結果がどうなったかは明らかでない。

その後、彼は発電機に於いて磁極がコイルに近づくとき

に発生する電圧は、パルス的な変化ではなく、正弦波的な

傾向を持つことに気が付いた。そこで直交軸上を1/4周

期の位相差のある同じ振幅の 2 個の波を合成した場合の状

態を、図を使って解析

して 1883 年にフラン

スの科学アカデミに

報告した。これが 90

度の位相差のある 2

相交流理論の 初の

例である。そして其の

具体的イメージとし

て図2.4のような直交

軸上に配置されたピ

ストンエンジンによ

って、回転運動を実現

する例を挙げて、同様

の原理によって直交

軸上に配置したコイルに 90度の位相差のある電流を流すこ

とによって、回転磁界が得られることを述べた。

このころ交流を動力源とするには、変動電圧をどのよう

に定常的な動力として取り出すかの試みが始まったものと

考えられる。しかしこのことに関する考察はもう少し古く

ワイルド(Henry Wilde, 1833-1919)が 1869 年に直流機械

の研究をしているときに検討したのが始めらしい。しかし

このことはホプキンソン(John Hopkinson, 1849-1898)が

1883 年に土木学会で交流電動機の成立条件についての講演

をするまで知られることはなかった。

ホプキンソンは思考実験として同じ容量を持つ 2 台の交

流発電機の出力を並列につないで、同一回転速度で負荷に

電力を供給したとき、この 2 台の発電機間の負荷分担割合

がどのように決まるかを検討した。その結果を実証するた

めに、2 台のメリテンス (Baron Auguste de Meritens,

1834-1898) の発電機を用いて実験を行っている。ここでメ

リテンスの発電機は回転子、固定子が共にリングコアから

構成されたものであった。その結果、負荷配分は両機の発

生電圧の位相差によって決まり、位相差が 90°以上ずれると

一方が電動機になることを示した。この現象の追試はイギ

リスのカップ(Gisbert J. E. Kapp, 1832-1922)が 1889 年

に行っている。

この考察により発電機と電動機の互換性が交流において

も成立することが証明されたが、交流では直流とは別の要

図 2.4 2 相交流のアナロジ

Fig.2.4 Analogy of 2 phase A.C.

図 2.3 デプレスの実験装置

Fig.2.3 Deprez’s apparatus

confirming current phase effect

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件として位相差が重要な役割を演じることが示された。

一方,イタリアではトリノ大学教授のフェラリス(Galileo

Ferraris,1847-1897)が

独自に 1885 年秋に図

2.4 のような装置を作

った。図に於いて銅製

中空円筒の回転子軸を、

囲むようにして 2 個の

コイルを直角に交差す

るように配置してある。

そしてそれぞれのコイ

ルに位相差の異なった

電流を流す。フェラリ

スはそれまでに変圧器

を使った給電システム

の研究に携わった経験

があり、インダクタン

スに流れる電流の位相

が遅れることを知って

いた。

そのため 初の実験では一方のコイルには抵抗の小さい

インダクタンスを直列に接続し、他方のコイルにはインダ

クタンスを接続しないで、この両コイルを並列接続して単

相交流電源によって励磁した。このことによって回転円筒

の軸の廻りには回転磁界が発生する。その結果この円筒が

回転することを確認した。さらに回転円筒の構造を相互に

絶縁した金属円板を重ねた構造にすることによって、より

効果的に回転すること

がわかったとしている。

彼 は こ の 報 告 を

1888 年 3 月にイタリ

ア語で「交流電源によ

って回転する電動装

置」の題名で発表した

が、1893 年にシカゴで

開かれた電気博覧会で

展示されるまで、広く

知られることはなかっ

た。彼はこの実験の後

に次のモデルとして重

量 4.5kg、直径 8.9cm、

長さ 18cm の回転子を

横型にして実験を行い、滑りの存在を指摘した。そして出

力が滑りに比例することを見つけている。しかし彼は実業

には興味はなく、これらの結果を特許化する事はなかった。

フェラリスの方式と似た機構のもの物として 1887 年頃

にスイスのボレル(Franços Borel、1842-1924)が造った図

2.5 の装置がある。ここでは鉄製の回転円板が紙面に対して

垂直な軸の廻りに回転する。そしてこの円板を囲むように

して 2 個のコイル B、B’ が回転軸に垂直で紙面に垂直な軸

の廻りに巻かれている。もう一方のコイル A、A’ は回転軸

に垂直で紙面の横方向の軸の廻りに巻かれている。つまり

コイル A,A’ と B,B’は回転軸に垂直な方向で互いに直交

する磁界をつくる。ここでこの 2 種類のコイル A,A’と B,B’

に 90 度の位相差

のある電流を流

すことで回転磁

界が造られるが、

そのための電源

として彼は電気

回路を使って処

理したとされて

いるが、詳細は不

明である。またフ

ェラリスとの接点も明らかでない。

同じ頃 1888 年 10 月に米国ではブラッドレイ(Charles S.

Bradley,1853-1929)がグラムの発電機を改良した 2 相交流

発電機の米国特許(US 390439)を取ったが、その出願日

は 1887 年 5 月 9 日であった。元来グラムの開発した直流発

電機は 2 極界磁で円環式電機子を持つ構造で、電機子鉄心

がリング状をしている。そしてリングにエンドレスコイル

を巻いた方式で、直流発電機ではこのコイルをいくつかの

セグメント毎に取り出した端子に整流子を接続していて、

刷子を界磁の中心線と直交する位置に置いたものである。

ブラッドレイはこの出力の取り出し端子を図 2.6 に示す

ように直交軸上の 4 カ所に置き、それぞれが集電リングに

接続されている。そして直交線上にある(C,D)、(E,F)が

1 組の端子になっている。ここでこれらの組コイルの出力取

り出し位置が界磁コイルと直交する位置にあるとき、 大

電圧を発生し、界磁軸線上にあるときは、出力はない。し

たがってそれぞ

れの組コイルか

ら出力される電

圧は相互に 90 度

の位相差のある

交流となる。

彼はその後こ

の出力取り出し

口を120度の位置

にすることによ

って 3 相交流を取

り出す方法と給

電方法について

1889 年に特許化

(US 409450)し

た(図 2.7)。出願

は 1888 年 10 月

20 日である。この

発電機によって

デルタ結線方式

図 2.4 フェラリスの実験装置

Fig.2.4 Ferraris’s apparatus of

rotary magnetic field

図 2.5 ボレルの 2 相電動機

Fig.2.5 Borel’s 2 phase motor

図 2.6 ブラドレイの 2 相交流発電機

Fig.2.6 Bradley’s 2 phase A.C. motor

図 2.7 ブラッドレイの特許 409450

Fig.2.7 Bradley’s patent US409450

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の配電システムを例示するとともに、同じ機械を相互に接

続する事によって、電動機にも使えるとしている。この考

えはグラムが彼の直流発電機が直流電動機にも使えること

を発見したというエピ

ソードをそのまま使っ

たのかもしれない。た

だ彼の意識の中に回転

磁界の概念があったか

どうかははっきりしな

い。

2 相交流という切り

口でとらえるならば、

1883 年にイギリスの

ゴードン(James E.H.

Gorden,1852-1893)が

2 相交流発電機を製作

している(図 2.8)。こ

の発電機はパディント

ンで使われた。重量 45 トン 145rpm で回転し、出力電圧

150V で、3 万個のガス灯相当の電力を供給したが、ボビン

コイルが軸方向に向き合った構造をしていたために、渦電

流損失が大きく、後に改良されたとされている。

ここで時期は明確でないが、1880 年代末にはイギリスの

カップ(Gisbert J. E. Kapp, 1832-1922)もボビンコイル

式の 2 相交流発電機をエリコン社で造らせている。さらに

イギリスでは E.Wilson が 1888 年に整流子のあるリング型、

またはドラム型の電機子構造を持つ 2 相電動機の特許

(18,525)をとっている。この頃になると直流発電機は技

術的に安定に造られるようになったので、原理さえ明らか

になれば電気機械は製作出来た。

一方、3 相交流に関してはドイツのハーゼンワンダ

(Friedrich A. Haselwander, 1859-1932)が直流で励磁

される 4 極の回転子に、3 相交流で励磁される同期電動機

と、これと同じ構造の発電機の間を、3 相変圧器を介して給

電する図 2.9 に示す構想を 1887 年 1 月に発表した。そして

10月にフランクフルトのW.Lahmeyer社がその特許を採用

したが、実際には AEG 社が製作している。この実物は 1891

年のフランクフルト博覧会で展示された。

3. テスラの出現

テスラ(Nikoola Tesla,1856-1943)は天才肌の奇人であ

るとも言われ、多くの逸話とともに伝説の人である。彼が

生まれたのは現在のクロアチアの山村でセルビア人の家族

として生まれた。大学を卒業後、交流配電事業をしていた

ハンガリのガンツ社でしばらく働いたことがあり、交流電

力とのつきあいはこの頃から始まったともいわれる。

その後 1882 年にフランスに行きエジソン電灯会社のフ

ランス工場で働いた後、米国に渡り米国のエジソン

(Thomas A.Edison,1847-1931)の会社で彼の下で働いた。

その働きぶりはエジソンを驚かしたが、彼と馬が合わない

ために、そこをやめて独立の会社を設立した。その間、交

流電動機のアイデアを温めていたが、1887 年 10 月 12 日に

図 2.8 ゴードンの 2 相交流発電機

Fig.2.8 2 phase A.C. generator of

Gordon

図 2.8 ハーゼルワンダの 3 相交流発電機

Fig.2.8 3 phase A.C. generator of Haselwander

図 3.1 テスラのシステム 特許(381,968)

Fig.3.1 Tesla’s system of US patent 381,968 図 2.9 ハーゼルワンダの 3 相送電システム

Fig.2.9 Haselwander’s 3 phase transmission system

3相発電機 3相同期電動機変圧器 変圧器

送電線

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申請、1888 年 5 月 1 日に得た特許(US Patent 381,968)

が彼の声価を高める礎になった。

その特許は回転磁界を明確に定義するものであったが、

それ以前に獲得し

た特許にはここに

至る思考のプロセ

スは見られず、直流

機の火花防止対策

用整流子の特許と、

渦電流を防止する

ための電機子鉄心

構造の特許を取っ

ているに過ぎない。

彼の取り上げた

事例は図3.1のよう

な発電機と電動機

から成る一体シス

テムである。ここで

の発電機は界磁が2

極構造で、この回転

子には直交した巻

線が施されている。

そのためこの 2 個

のコイルから集電

子を通じて取り出

される 2 組の出力

の間には 90 度の位

相差のある 2 相交

流が得られる。

そこでそれぞれの出力を左に示すリング鉄心に直交する

位置に巻かれた 2 組のコイルに供給すると、そこに発生す

る合成磁界は鉄心の中心の廻りに発電機の回転と同期して

回転する(図 3.2)。つまり回転磁界が発生する。ここにこ

のリング鉄心の中心に回転軸芯のある金属円板を置くと、

その円板は回転を始めるとした。

つまり図 3.1の左側のリング鉄心から成る装置は電動機

として機能する。このようにこの特許は誘導電動機の原理

を確実にとらえた特許であった。さらに電動機の回転子は

必ずしも金属円盤ではなくても、発電機と同じような構造

をした巻き線配置で、直流で励磁しても構成することが出

来るとしている。従って同期電動機への示唆も含まれてい

たことになる。

さらにこの特許では発電機側の回転子のコイルを 120 度

の間隔を置いて配置することによって、120 度の位相差のあ

る交流が得られ、これを 6 個の凸極型磁極の中に金属円盤

を置くことで、3 相の誘導電動機システムが構成できること

を示した。

また図 3.3 に示すように、凸極型磁極を使った電動機の場

合 2 組の 2 極コイルAの間に他の 2 組の 2 極コイルBを配

置し、磁極A,Bを別回路にして 2 相交流を供給すれば、

その回転速度は

半数の磁極で構

成された場合の

半分になること

を説明している。

つまり誘導電動

機の回転速度は

磁極の数に反比

例することを明

らかにした。

しかし、この

一連の特許に盛

り込まれたアイ

デアは完全にテ

スラの独創とは

いえない部分が

ある。まず 2 相交流が回転磁界を造ることはデプレツやフ

ェラリスが既に明らかにしていた。フェラリスはテスラの

特許が許可される 2 ヶ月前に回転磁界に関する内容を公表

しているが、その発想はそれよりも 3 年前に具体的な形で

実験していた。これはテスラが特許を申請するよりも 2 年

も前の話である。このことはテスラ自身も認めている。

またブラドレイはテスラよりも 5 ヶ月も早い時期に 2 相

交流そのものが早い時期に実用化されていたし、3 相交流も

実用化の時期にさしかかっていたといえる。そしてハーゼ

ルワンダは回転磁界こそ言及していないが、図 2.9 に示すよ

うにテスラと同じ様な方法で、3 相送電システムを考えてい

た。これらの状況を考えれば、テスラの特許は出るべくし

て出てきた物といえなくはない。伝説としては 1882 年にブ

ダペストの公園を友人と散歩していたときひらめいたとさ

れている。

当時エジソンと配電事業でライバル関係にあったウエス

ティングハウス(George Westighouse,1846-1914)はこの

テスラの特許を、現金で5万ドル、小切手で5万ドル、電

動機1馬力当たり 2.5 ドルのロイヤリティの条件で 1888 年

7 月に買い取る契約を結んだ。ウエスティングハウスはこの

特許によって交流関連の事業を成功させるが、テスラはこ

の取引は失敗であったと思っていた。しかしこの両者の結

びつきは多相交流に対する興味を欧米に一挙に広げたこと

は事実で、1889 年を境に多相交流に関する多くの研究成果

や製品が続出した。

その背景にはそれまで動力源として直流電動機しかなか

ったところに交流電動機の可能性が示されたことと、変圧

器による長距離送電が可能になったことの相乗効果による

ものであった。しかしこのテスラの理論が提示されても、

直流に馴染んできた当時の電気技術者の間では、なおこの

理論は難解なものであったらしい。

図 3.3 極数を増やす方法

Fig.3.3 Method of poles addition

図 3.2

テスラの回転磁界についての説明

Fig.3.2

Tesla’s description on rotary

magnetic field

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4. 誘導電動機の構成

回転磁界の中で回る回転子はテスラの特許では直流で励

磁する方式と、

渦電流による

ものの 2 通り

のものが考え

られていた。

このうち渦電

流による方式

はベイリやフ

ェラリスが考

えたように円

板を積み重ね

て円筒形にし

た物を回転子構造にしていた。しかし円筒をとり囲むよう

にして作られる回転磁界は、円筒側面を磁極が回転する形

になるので、ここに発生する渦電流は円筒表面にも発生す

る。

ドイツの AEG 社の主任技術者を勤めていたドブロボリ

スキ(Dolivo-Dobrowolisky, 1861-1920)はこの現象を考察

して、回転子を鉄材で作り円筒の表面に母線上に溝を掘っ

てここに銅線を埋め込み、両端をリングで結合する方式を

考え出した。この構造によって渦電流は抵抗の少ない銅線

に流れ、発熱を劇的に軽減すると共に渦電流による回転力

を有効に取り出せる篭型回転子の原型を発明した。これは

1889 年にイギリスの特許(No.10,933)となっている。

彼はその後も同じ年に 3 相変圧器の特許(No.19,555)を

取ったが、この特許は 3 相のスター結線に関するものを含

んでいた。他方、3 相結線に関しては前述の通り 1888 年に

ブラッドレイがデルタ結線の米国特許を取っているので、

ここで 3 相結線の 2 通りの方式がそろったことになる。

一方、鉄の塊で出来た回転子に銅棒を挿入しても鉄心内

で熱になる渦電流は防ぐことは出来ない。そこで 1890 年に

スイス人ブラウン(Charles E.L.Brown,1863-1924)は絶縁

された軟鉄製の薄い円板を重ねた積層構造の回転子を作っ

た。しかしこれらは新規の発明といえるものではなかった

が、その後の篭型誘導電動機の回転子構造の定式化に貢献

した。

ところで電動機の回転子には直流機の原理構成から言え

ば回転磁界に対応して、界磁の必要なことが想定される。

テスラの前述の特許においても回転磁界の中にある回転子

として磁石らしきものがあり、そこに巻き線を施して励磁

する同期電動機を提示している。

しかしこの特許と同じ日に認可された特許にそれより一

ヶ月後に出願された図 4.2 の特許(US 382,279)がある。

ここでは 2 相交流を流すことで回転磁界を作るためのリン

グ鉄心にまかれた4個のコイルがあるが、この中にある回

転子に設けられた十文字状コイルには集電リングはない。

つまりここでは回転子のコイルはリング鉄心のコイルを

一次巻線とした変圧

器の 2 次巻線と同じ

関係にあり、二次側

巻線が固定している

か、動けるかの違い

であるということに

気が付いたことを示

している。そしてこ

の関係においては固

定巻線が回転磁界を

作れば、2 次側のコイ

ルも回転するという

原理を使った。従っ

てこの特許は巻線型

誘導電動機の基本特

許といえる。

ここで篭型回

転子のコイルは

も単純な短絡

巻線から成り立

っているので。

それ以上ここに

別の回路をつく

る余地はない。

そのため篭型電

動機では起動電

流を押さえるための細工を施すことが出来ないので、大型

の篭型誘導電動機を使うことは出来なかった。これに対し

てドブロウスキは巻線型電動機の回転子に集電リングを設

け、そこに外部回路をつなぎ起動電流を押さえる方法を提

案した。

図4.3はそのための装置で3相巻線型誘導電動機の集電リ

ングから刷子を通じて取り出した 3 本の銅線を水抵抗器の

容器に接続し、それぞれの容器には電気的に結合した 3 個

の極板を挿入して

いる。つまり水抵抗

器をスター接続し

た構成になってい

る。そして起動時に

は極板を一杯に引

き上げて抵抗を

大にし、速度の上昇

に伴って極板を下

げて抵抗を少なく

するという方法で

ある。この方法はそ

の後の起動装置の

考え方の基礎になるものであった。

そのほか起動時の問題として単相電動機の始動時の回転

方向の決定方法がある。これに対してはテスラが図 4.4 の回

図 4.2 テスラの巻線型回転子特許

Fig.4.2 Wound Rotor of Tesla’s patent

図 4.3 ドブロボルスキの起動器

Fig.4.3 Dovlwolisky’s Starter

図 4.1 篭型回転子

Fig.4.1 Squirrel rotor

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路を提示している。つまりインダクタンスを介して位相を

遅らせ 2 相交流として起動した後単相で運転する方法であ

る。当時の 2 相交流を作る方法としては特に珍しい方法と

はいえないが、単相電動機の起動方法としてはそのほかに

も。様々な方法が考えられた。

5 まとめ

アラゴの円盤からはじめ、誘導電動機の基本的構造が定

まった 1890 年までの経緯を俯瞰した。ここでは一つ一つの

事象を取り上げれば画期的な発明発見であっても、それら

は突然現れたものではなく、様々な試みが個別に行われ、

それらが周辺の知識をベースに次第に凝縮し、その後に一

つの体系にまとめた人物が出現する。そしてそれが注目さ

れることで一つの技術的体型の基礎が築かれる事例の一つ

として誘導電動機を取り上げた。ここで切り取った時間は

1820 年から始まる 70 年間で、この期間に基礎技術は固ま

ったと考えられる。ただ誘導電動機はそこで終わったたわ

けではなく、今日、様々な箇所で広く使われるようになる

までには、その後の展開のほうにも注目すべきだったかも

しれないが、非力のためにそこまでの目配りをすることが

出来なかった。

文 献

(1) Thompson,S.P., Polyphase Electric Currents, E.&F.N.Spon,

p.60-78, p.84-127,(1895)、 (2) Thompson S.P., Dynamo Machinery,,E. & F.N.Spon,p.667,

p.689-699, (1892) (3) Krohn,F., Magneto-and Dynamo-Electric Machines, Whittaker &

Co.p.257, (1887), (4) Hughes,T.P., Networks of Power, John Hopkins Univ.,p.118,

(1988) (5) Tesla,N. ”Mr.Nikola Tesla on Alternating Current Motors”,

Electric World, May 25,(1889)

(6) Tesla,N. ”A new system of alternate current motors and transformer”, The Electrical World June 2,p.281-283, (1888)

(7) Ralph D.Merson, Western Electerician, Jan.27, p.60,(1890) (8) Sturgeon, W., “On the theory of magnetic electricity”, Philosophical Magazine and Journal of Science, Vol.2, Jan-June, p.446-451,(1833) (9) Schellen, H. Magneto Electric and Dynamo Electric Machine, p.

428,(1884) (10) “The Kapp Alternator”, The Electrical World, vol.14, No.9, p.150,

(1889) (11) 矢田恒二:「回転電動機の系譜」,矢田技術士事務所、(2015) (12) 矢田恒二; “電気の歴史ウラ話、第 3 幕“,OHM、No.9, p.41-43,(2016) (13) http://www.teslasociety.com/index.html

関連年表

関連年表

図 4.4 単相電動機の起動機

Fig.4.4 Stater of] Mono-pole motor