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HSBB(High Speed Broadband:高速ブロードバンド)は、マレーシア政府が推進 するナショナル・ブロードバンド計画だ。HSBBは、マレーシアの国民生活を豊かに し、国内の通信業界、さらには国家自体にも根本的変化をもたらしている。テレコ ム・マレーシアでCTIO(Chief Technology and Information Officer :最高情報 技術責任者)を務めるジョルジオ・ミリアリナ氏は、ブロードバンド化の範囲が拡大 し、通信事業者のビジネス・モデルをサービス、発想、性能の観点から変革しうると ころまで来たと確信する。 『WinWin』編集部(ファーウェイ刊)Michael Huang 編 / APR.2012 14 HSBBで次の段階へ 飛躍を狙う 人口が約3,000万人のマレーシアは、 国民の平均年齢が26歳という非常に若い 国だ。近 年 、ブロードバンドの普 及が急 速 に進み、ユーザーのニーズに応えるため、 通信事業者は迅速な行動が求められてい る。モバイル普 及 率はすでに1 0 0 %を超 え、固 定 電 話 加 入 数もマレーシア国 内 全 世帯数約600万世帯に対し430万回線 に上る。国 内のブロードバンド普 及 率は、 2010年に目標の50%を上まわり、2011 年夏の時点で57%(インターネット人口は 1,600万ユーザー以上)に達している。 テレコム・マレーシア(以下TM)は、ブ ロードバンド、データ、固定を含む総合的な 通信サービスとソリューションを提供するマ レーシア最大手の情報通信グループだ。 マレーシアの全国民に高度なデジタル・ラ イフスタイルを提供し、接続、通信、コラボ レーションを通じて可能性を切り開くべく、 次世代通信プロバイダーへの変革を着実 に進めている。 TMが直面する課題は、固定通信事業 者であれば少なからず抱えているものだ。 消費者行動の急速な進化に伴う「固定」 から「モバイル」への極めて大きな構造変 化に際し、プロバイダーとして固定回線イン フラおよびサービスの位置づけの見直しを 迫られている。近年、特に動画によってトラ フィックが爆 発 的に増 加したこともその一 例だ。その結果、レガシー・プラットフォーム は、ブロードバンド・サービスやデータ・サー ビスを柔軟かつ効率的に提供する上での 阻害要因になっている。 一方、マレーシア政府は、HSBBによって 次の段階への飛躍を図りたいという意向を 示す。タイミングよくコスト効率に優れた展 開の必要性や、カバレッジと品質に対する 国民の期待が高まっていることから、業界 中心の不確実な発展に任せるのではなく、 将来に向けて共同投資する道を選んだ。 TMとマレーシア政府は、HSBBの展開を 連携して進めることに合意した。これにより、 主要都市の最大130万の建物にFTTH (Fiber-To-The-Home)またはVDSL (Very-high-speed Digital Subscriber Line)が敷設され、220万以上の世帯およ びオフィスが結ばれることになる。 2008年9月、HSBBは、次世代高速ブ ロードバンド・インフラおよびサービス開発 に向けた官民パートナーシップによる国家 プロジェクトとして立ち上がった。 総 投 資 金 額は1 1 3 億マレーシア・リン ギット(約2,825億円) 注) に上り、うち89億 マレーシア・リンギット(約2,225億円) 注) TMが負担した。残る24億マレーシア・リン ギット(約600億円) 注) は、マレーシア政府 がプロジェクト・マイルストーンの達成に基 づいて発生ベースで拠出する。 HSBBプロジェクトの対象範囲は、新し いラストマイル・アクセス・サービスの提供だ OICE FROM OPERATORS V ブロードバンド化から付加価値の創造へ テレコム・マレーシア マレーシア国内最大手の情報通信グ ループ。マレーシア政府とブロードバンドを 推進する一方で、データ通信や固定電話 など総 合 通 信サービスとソリューションを 幅 広く提 供する。固 定 電 話 加 入 数 4 3 0 万回線。ブロードバンド加入者170万人。 Telekom Malaysia Berhad 注)1マレーシア・リンギット=25円で換算

FROM OPERATORS テレコム・マレーシア - Huawei...Telekom Malaysia Berhad ン・アクセスネットワークとすることだ。その 他のローカル・ネットワーク通信事業者、

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  • HSBB(High Speed Broadband:高速ブロードバンド)は、マレーシア政府が推進

    するナショナル・ブロードバンド計画だ。HSBBは、マレーシアの国民生活を豊かに

    し、国内の通信業界、さらには国家自体にも根本的変化をもたらしている。テレコ

    ム・マレーシアでCTIO(Chief Technology and Information Officer:最高情報

    技術責任者)を務めるジョルジオ・ミリアリナ氏は、ブロードバンド化の範囲が拡大

    し、通信事業者のビジネス・モデルをサービス、発想、性能の観点から変革しうると

    ころまで来たと確信する。 『WinWin』編集部(ファーウェイ刊) Michael Huang 編

    / APR.2012/ APR.201214

    HSBBで次の段階へ飛躍を狙う

     人口が約3,000万人のマレーシアは、

    国民の平均年齢が26歳という非常に若い

    国だ。近年、ブロードバンドの普及が急速

    に進み、ユーザーのニーズに応えるため、

    通信事業者は迅速な行動が求められてい

    る。モバイル普及率はすでに100%を超

    え、固定電話加入数もマレーシア国内全

    世帯数約600万世帯に対し430万回線

    に上る。国内のブロードバンド普及率は、

    2010年に目標の50%を上まわり、2011

    年夏の時点で57%(インターネット人口は

    1,600万ユーザー以上)に達している。

     テレコム・マレーシア(以下TM)は、ブ

    ロードバンド、データ、固定を含む総合的な

    通信サービスとソリューションを提供するマ

    レーシア最大手の情報通信グループだ。

    マレーシアの全国民に高度なデジタル・ラ

    イフスタイルを提供し、接続、通信、コラボ

    レーションを通じて可能性を切り開くべく、

    次世代通信プロバイダーへの変革を着実

    に進めている。

     TMが直面する課題は、固定通信事業

    者であれば少なからず抱えているものだ。

    消費者行動の急速な進化に伴う「固定」

    から「モバイル」への極めて大きな構造変

    化に際し、プロバイダーとして固定回線イン

    フラおよびサービスの位置づけの見直しを

    迫られている。近年、特に動画によってトラ

    フィックが爆発的に増加したこともその一

    例だ。その結果、レガシー・プラットフォーム

    は、ブロードバンド・サービスやデータ・サー

    ビスを柔軟かつ効率的に提供する上での

    阻害要因になっている。

     一方、マレーシア政府は、HSBBによって

    次の段階への飛躍を図りたいという意向を

    示す。タイミングよくコスト効率に優れた展

    開の必要性や、カバレッジと品質に対する

    国民の期待が高まっていることから、業界

    中心の不確実な発展に任せるのではなく、

    将来に向けて共同投資する道を選んだ。

     TMとマレーシア政府は、HSBBの展開を

    連携して進めることに合意した。これにより、

    主要都市の最大130万の建物にFTTH

    (Fiber-To-The-Home)またはVDSL

    (Very-high-speed Digital Subscriber

    Line)が敷設され、220万以上の世帯およ

    びオフィスが結ばれることになる。

     2008年9月、HSBBは、次世代高速ブ

    ロードバンド・インフラおよびサービス開発

    に向けた官民パートナーシップによる国家

    プロジェクトとして立ち上がった。

     総投資金額は113億マレーシア・リン

    ギット(約2,825億円)注)に上り、うち89億

    マレーシア・リンギット(約2,225億円)注)は

    TMが負担した。残る24億マレーシア・リン

    ギット(約600億円)注)は、マレーシア政府

    がプロジェクト・マイルストーンの達成に基

    づいて発生ベースで拠出する。

     HSBBプロジェクトの対象範囲は、新し

    いラストマイル・アクセス・サービスの提供だ

    けでなく、エンド・ツー・エンド ネットワークの

    提供にもおよぶ。これには、従来のPSTN

    (Public Switched Telephone Network:

    公衆交換電話網)からオールIPベースのコ

    アネットワーク・インフラへの移行も含まれ

    る。これにより将来も使用可能なプラット

    フォームが実現し、より総合的なサービスの

    提供が可能になる。加えて、キャパシティの

    増強によって、海外との連携や新たな

    OSS(Operating Support System)/BSS

    (Business Support System)に対応する

    こともできる。

     このプロジェクトには大きく2つの目的が

    ある。1つは、クアラルンプール、クランバ

    レー、および主要工業団地が立地する地

    域に包括的なインフラを整備することであ

    り、もう1つは、TMを中立的なサービス・プ

    ロバイダーとして位置づけ、HSBBをオープ

    15

    OICEFROM OPERATORSV

    ブロードバンド化から付加価値の創造へテレコム・マレーシア

    マレーシア国内最大手の情報通信グループ。マレーシア政府とブロードバンドを推進する一方で、データ通信や固定電話など総合通信サービスとソリューションを幅広く提供する。固定電話加入数430万回線。ブロードバンド加入者170万人。

    Telekom Malaysia Berhad

    ン・アクセスネットワークとすることだ。その

    他のローカル・ネットワーク通信事業者、

    ASP(Application Service Provider)、

    ISP(Internet Service Provider)など、マ

    レーシア通信マルチメディア委員会のライ

    センス取得企業のうち、TMの既存ネット

    ワーク・インフラおよびHSBBネットワーク・

    インフラを利用したいすべてのアクセス事

    業者に開放される。

    HSBBでコスト効率が良い展開や、カバレッジと品質に対する国民の期待に応える

    Giorgio Migliarina: CTIO of Telekom Malaysia Berhad

    注)1マレーシア・リンギット=25円で換算

  • HSBB(High Speed Broadband:高速ブロードバンド)は、マレーシア政府が推進

    するナショナル・ブロードバンド計画だ。HSBBは、マレーシアの国民生活を豊かに

    し、国内の通信業界、さらには国家自体にも根本的変化をもたらしている。テレコ

    ム・マレーシアでCTIO(Chief Technology and Information Officer:最高情報

    技術責任者)を務めるジョルジオ・ミリアリナ氏は、ブロードバンド化の範囲が拡大

    し、通信事業者のビジネス・モデルをサービス、発想、性能の観点から変革しうると

    ころまで来たと確信する。 『WinWin』編集部(ファーウェイ刊) Michael Huang 編

    / APR.2012/ APR.201214

    HSBBで次の段階へ飛躍を狙う

     人口が約3,000万人のマレーシアは、

    国民の平均年齢が26歳という非常に若い

    国だ。近年、ブロードバンドの普及が急速

    に進み、ユーザーのニーズに応えるため、

    通信事業者は迅速な行動が求められてい

    る。モバイル普及率はすでに100%を超

    え、固定電話加入数もマレーシア国内全

    世帯数約600万世帯に対し430万回線

    に上る。国内のブロードバンド普及率は、

    2010年に目標の50%を上まわり、2011

    年夏の時点で57%(インターネット人口は

    1,600万ユーザー以上)に達している。

     テレコム・マレーシア(以下TM)は、ブ

    ロードバンド、データ、固定を含む総合的な

    通信サービスとソリューションを提供するマ

    レーシア最大手の情報通信グループだ。

    マレーシアの全国民に高度なデジタル・ラ

    イフスタイルを提供し、接続、通信、コラボ

    レーションを通じて可能性を切り開くべく、

    次世代通信プロバイダーへの変革を着実

    に進めている。

     TMが直面する課題は、固定通信事業

    者であれば少なからず抱えているものだ。

    消費者行動の急速な進化に伴う「固定」

    から「モバイル」への極めて大きな構造変

    化に際し、プロバイダーとして固定回線イン

    フラおよびサービスの位置づけの見直しを

    迫られている。近年、特に動画によってトラ

    フィックが爆発的に増加したこともその一

    例だ。その結果、レガシー・プラットフォーム

    は、ブロードバンド・サービスやデータ・サー

    ビスを柔軟かつ効率的に提供する上での

    阻害要因になっている。

     一方、マレーシア政府は、HSBBによって

    次の段階への飛躍を図りたいという意向を

    示す。タイミングよくコスト効率に優れた展

    開の必要性や、カバレッジと品質に対する

    国民の期待が高まっていることから、業界

    中心の不確実な発展に任せるのではなく、

    将来に向けて共同投資する道を選んだ。

     TMとマレーシア政府は、HSBBの展開を

    連携して進めることに合意した。これにより、

    主要都市の最大130万の建物にFTTH

    (Fiber-To-The-Home)またはVDSL

    (Very-high-speed Digital Subscriber

    Line)が敷設され、220万以上の世帯およ

    びオフィスが結ばれることになる。

     2008年9月、HSBBは、次世代高速ブ

    ロードバンド・インフラおよびサービス開発

    に向けた官民パートナーシップによる国家

    プロジェクトとして立ち上がった。

     総投資金額は113億マレーシア・リン

    ギット(約2,825億円)注)に上り、うち89億

    マレーシア・リンギット(約2,225億円)注)は

    TMが負担した。残る24億マレーシア・リン

    ギット(約600億円)注)は、マレーシア政府

    がプロジェクト・マイルストーンの達成に基

    づいて発生ベースで拠出する。

     HSBBプロジェクトの対象範囲は、新し

    いラストマイル・アクセス・サービスの提供だ

    けでなく、エンド・ツー・エンド ネットワークの

    提供にもおよぶ。これには、従来のPSTN

    (Public Switched Telephone Network:

    公衆交換電話網)からオールIPベースのコ

    アネットワーク・インフラへの移行も含まれ

    る。これにより将来も使用可能なプラット

    フォームが実現し、より総合的なサービスの

    提供が可能になる。加えて、キャパシティの

    増強によって、海外との連携や新たな

    OSS(Operating Support System)/BSS

    (Business Support System)に対応する

    こともできる。

     このプロジェクトには大きく2つの目的が

    ある。1つは、クアラルンプール、クランバ

    レー、および主要工業団地が立地する地

    域に包括的なインフラを整備することであ

    り、もう1つは、TMを中立的なサービス・プ

    ロバイダーとして位置づけ、HSBBをオープ

    15

    OICEFROM OPERATORSV

    ブロードバンド化から付加価値の創造へテレコム・マレーシア

    マレーシア国内最大手の情報通信グループ。マレーシア政府とブロードバンドを推進する一方で、データ通信や固定電話など総合通信サービスとソリューションを幅広く提供する。固定電話加入数430万回線。ブロードバンド加入者170万人。

    Telekom Malaysia Berhad

    ン・アクセスネットワークとすることだ。その

    他のローカル・ネットワーク通信事業者、

    ASP(Application Service Provider)、

    ISP(Internet Service Provider)など、マ

    レーシア通信マルチメディア委員会のライ

    センス取得企業のうち、TMの既存ネット

    ワーク・インフラおよびHSBBネットワーク・

    インフラを利用したいすべてのアクセス事

    業者に開放される。

    HSBBでコスト効率が良い展開や、カバレッジと品質に対する国民の期待に応える

    Giorgio Migliarina: CTIO of Telekom Malaysia Berhad

    注)1マレーシア・リンギット=25円で換算

  • / APR.2012/ APR.201216 17

    OICEFROM OPERATORSV

    Subscriber Line)ベースのサービスを提

    供する。また、郊外および中都市には、

    ADSLおよび国民総ブロードバンドサービス

    『Streamyx』を提供する。そして、農村地域

    には、Wi-Fiなどのワイヤレス・テクノロジー

    によってサービスを提供すると同時に、

    CDMA(Code D iv i s i on Mu l t i p l e

    A c c e s s)/EVDO(Evolution Data

    Optimized/Evolution Data Only)イ

    ンフラなどの固定ワイヤレス・リソースによっ

    て補完する。

    技術面での変革

     TMは、まず既存インフラの品質改善に

    重点を置き、銅線インフラ改修プログラム

    を開始した。最終的な目的は、ローカル・

    ループ部分が長く、低速のADSLインフラ

    を交換し、最終的にマレーシア全土にわ

    たってADSLの高速化を図ることだ。その

    取り組みの一方で、オールIP化に向けたイ

    ンフラの変革も進めている。これは、帯域

    幅の増加、将来も使用可能なネットワーク

    の確保、運用コストの削減、サービス能力

    の向上のほか、自社または他社による新た

    なサービス提供の促進にもつながることが

    期待される。

     さらに、新サービスの市場投入期間を大

    幅に短縮するため、技術基盤の変革プロ

    グラムにも着手した。このプログラムでは、

    これまでの場当たり的な拡張によって複

    雑に入り組んだネットワーク構成を廃し、

    IMS(IP Multimedia Subsystem)など

    のサービス配信プラットフォームをベー

    スにアーキテクチャーを刷新する計画

    だ。計画されているアーキテクチャーで

    は、ブロードバンド・アクセスはF T T H

    G PON(Gigabit-capable Pass ive

    Optical Network:ギガビット・パッシブ光

    ネットワーク)およびVDSL2テクノロジー、ア

    グリゲーション・レイヤーはメトロ・イーサネッ

    ト、制御レイヤーはIMSベースとなる。さら

    に、キャリア・クラスのサービス提供とあらゆ

    る顧客ニーズへの柔軟な対応を実現すべ

    く、IPコア・バックボーンも一新する計画だ。

     オールIP化は、リソース集約的な取り組み

    であるため、運用管理面での課題も多い。

     現在、TMでは9つの主要プラットフォーム

    移行プログラムを手がけている。その中に

    は、ATM(Asynchronous Transfer Mode:

    非同期転送モード)ベースの回線からIP

    MSAN(Multi-Service Network Access)

    への移行、全レガシーPSTN交換機の段

    階的廃止、AG(Access Gateway)/IP

    MSANベースのプラットフォームへの移行

    などが含まれる。また、コアネットワークに関

    しては公衆網とVPN(Vi r t ua l P r i v a t e

    Network)の両方のIP化を進めている。

     これらの移行は、いずれもスケジュール

    が異なることに加え、それぞれ固有の依存

    関係があるため、計画には慎重を期する。

    留意すべき点として、現在のネットワーク利

    用率、サービス・レベル、レガシー設備の保

    守コスト、移行への投資が挙げられる。レガ

    シー交換機の段階的廃止には、多大な時

    間とリソースが必要だ。念願の次世代ネッ

    トワークへの移行に向けた全プロジェクトの

    完了は、2017年になる見通しだ。

    新しいHSBBのコンポーネント

     HSBBネットワークの設計はゼロから行

    われており、アクセスネットワークは完全に

    新しいものとなる。一戸建て住宅にはすべ

    てFTTH、集合住宅にはVDSL2を敷設し、

    2012年までに180万世帯に相当する

    130万ポートをカバーする計画だ。

     新しい次世代ネットワーク・コア、500

    ノード以上のメトロ・イーサネット、約100台

    のIPコア用ルーターの設置に加え、新しい

    OSS/BSSスイートによるシステムの更新

    も進めている。この規模でのアクセスネット

    ワーク、コアネットワーク、およびITシステム

    の同時移行は、前例のないもので、同時

     HSBBは、重要な国家インフラ整備構想

    であり、マレーシアが知識経済への飛躍的

    発展を遂げるか否かの鍵を握っている。経

    済成長や雇用創出に大きく貢献することに

    加え、FDI(Foreign Direct Investment:

    海外直接投資)の誘致によって、アジア太

    平洋地域におけるマレーシアの競争力強

    化にもつながることが期待される。

     それ以上に、HSBBは消費者に高度な

    デジタル・ライフスタイルを約束するもので

    あり、仕事、健康、インフォテインメント

    (Infotainment:情報と娯楽を融合した

    サービス)、バーチャル・ショッピング、高解

    像度VoD(Video-on-Demand)、ゲーム、

    遠隔教育などにおける消費者の創造、交

    流、協働を可能にする。

     一方、企業もマネージド・サービス、会計

    管理、供給管理、およびCRM(Customer

    Relationship Management:顧客関係管

    理)分野の新しいアプリケーションによっ

    て、経営効率改善を図ることができる。国

    内外を問わず、市場のアクセスが向上し、

    世界中のビジネス・パートナーとの統合強

    化を図ることも可能になるだろう。

     マレーシアのHSBBプロジェクトはその

    範囲と期間に関して世界で3本の指に入

    るブロードバンド・プロジェクトだ。その技

    術的な課題は、すでに銅線インフラが整

    備されている地域に高品質のブロードバ

    ンドをどのように提供するかだ。そこで、T

    Mが採用したのは、3つの柱からなる展開

    戦略だった。

     まず、主要都市の人口密集地には、

    FTTHおよびADSL(Asymmetric Digital

    変革へのアプローチ

    HSBBが秘める可能性

    HSBBは、マレーシアの経済成長の鍵

  • / APR.2012/ APR.201216 17

    OICEFROM OPERATORSV

    Subscriber Line)ベースのサービスを提

    供する。また、郊外および中都市には、

    ADSLおよび国民総ブロードバンドサービス

    『Streamyx』を提供する。そして、農村地域

    には、Wi-Fiなどのワイヤレス・テクノロジー

    によってサービスを提供すると同時に、

    CDMA(Code D iv i s i on Mu l t i p l e

    A c c e s s)/EVDO(Evolution Data

    Optimized/Evolution Data Only)イ

    ンフラなどの固定ワイヤレス・リソースによっ

    て補完する。

    技術面での変革

     TMは、まず既存インフラの品質改善に

    重点を置き、銅線インフラ改修プログラム

    を開始した。最終的な目的は、ローカル・

    ループ部分が長く、低速のADSLインフラ

    を交換し、最終的にマレーシア全土にわ

    たってADSLの高速化を図ることだ。その

    取り組みの一方で、オールIP化に向けたイ

    ンフラの変革も進めている。これは、帯域

    幅の増加、将来も使用可能なネットワーク

    の確保、運用コストの削減、サービス能力

    の向上のほか、自社または他社による新た

    なサービス提供の促進にもつながることが

    期待される。

     さらに、新サービスの市場投入期間を大

    幅に短縮するため、技術基盤の変革プロ

    グラムにも着手した。このプログラムでは、

    これまでの場当たり的な拡張によって複

    雑に入り組んだネットワーク構成を廃し、

    IMS(IP Multimedia Subsystem)など

    のサービス配信プラットフォームをベー

    スにアーキテクチャーを刷新する計画

    だ。計画されているアーキテクチャーで

    は、ブロードバンド・アクセスはF T T H

    G PON(Gigabit-capable Pass ive

    Optical Network:ギガビット・パッシブ光

    ネットワーク)およびVDSL2テクノロジー、ア

    グリゲーション・レイヤーはメトロ・イーサネッ

    ト、制御レイヤーはIMSベースとなる。さら

    に、キャリア・クラスのサービス提供とあらゆ

    る顧客ニーズへの柔軟な対応を実現すべ

    く、IPコア・バックボーンも一新する計画だ。

     オールIP化は、リソース集約的な取り組み

    であるため、運用管理面での課題も多い。

     現在、TMでは9つの主要プラットフォーム

    移行プログラムを手がけている。その中に

    は、ATM(Asynchronous Transfer Mode:

    非同期転送モード)ベースの回線からIP

    MSAN(Multi-Service Network Access)

    への移行、全レガシーPSTN交換機の段

    階的廃止、AG(Access Gateway)/IP

    MSANベースのプラットフォームへの移行

    などが含まれる。また、コアネットワークに関

    しては公衆網とVPN(Vi r t ua l P r i v a t e

    Network)の両方のIP化を進めている。

     これらの移行は、いずれもスケジュール

    が異なることに加え、それぞれ固有の依存

    関係があるため、計画には慎重を期する。

    留意すべき点として、現在のネットワーク利

    用率、サービス・レベル、レガシー設備の保

    守コスト、移行への投資が挙げられる。レガ

    シー交換機の段階的廃止には、多大な時

    間とリソースが必要だ。念願の次世代ネッ

    トワークへの移行に向けた全プロジェクトの

    完了は、2017年になる見通しだ。

    新しいHSBBのコンポーネント

     HSBBネットワークの設計はゼロから行

    われており、アクセスネットワークは完全に

    新しいものとなる。一戸建て住宅にはすべ

    てFTTH、集合住宅にはVDSL2を敷設し、

    2012年までに180万世帯に相当する

    130万ポートをカバーする計画だ。

     新しい次世代ネットワーク・コア、500

    ノード以上のメトロ・イーサネット、約100台

    のIPコア用ルーターの設置に加え、新しい

    OSS/BSSスイートによるシステムの更新

    も進めている。この規模でのアクセスネット

    ワーク、コアネットワーク、およびITシステム

    の同時移行は、前例のないもので、同時

     HSBBは、重要な国家インフラ整備構想

    であり、マレーシアが知識経済への飛躍的

    発展を遂げるか否かの鍵を握っている。経

    済成長や雇用創出に大きく貢献することに

    加え、FDI(Foreign Direct Investment:

    海外直接投資)の誘致によって、アジア太

    平洋地域におけるマレーシアの競争力強

    化にもつながることが期待される。

     それ以上に、HSBBは消費者に高度な

    デジタル・ライフスタイルを約束するもので

    あり、仕事、健康、インフォテインメント

    (Infotainment:情報と娯楽を融合した

    サービス)、バーチャル・ショッピング、高解

    像度VoD(Video-on-Demand)、ゲーム、

    遠隔教育などにおける消費者の創造、交

    流、協働を可能にする。

     一方、企業もマネージド・サービス、会計

    管理、供給管理、およびCRM(Customer

    Relationship Management:顧客関係管

    理)分野の新しいアプリケーションによっ

    て、経営効率改善を図ることができる。国

    内外を問わず、市場のアクセスが向上し、

    世界中のビジネス・パートナーとの統合強

    化を図ることも可能になるだろう。

     マレーシアのHSBBプロジェクトはその

    範囲と期間に関して世界で3本の指に入

    るブロードバンド・プロジェクトだ。その技

    術的な課題は、すでに銅線インフラが整

    備されている地域に高品質のブロードバ

    ンドをどのように提供するかだ。そこで、T

    Mが採用したのは、3つの柱からなる展開

    戦略だった。

     まず、主要都市の人口密集地には、

    FTTHおよびADSL(Asymmetric Digital

    変革へのアプローチ

    HSBBが秘める可能性

    HSBBは、マレーシアの経済成長の鍵

  • ル・ダッシュボードなど、有効性が実証済みの

    非常に一般的なツールを再導入した。第4

    に、「設計プロセスの合理化とシンプル化」

    に比重を置いた。

     HSBBおよびUniFiトリプルプレイ・サー

    ビスの立ち上げにより、TMは持続的な成

    長に向けた基盤を固め、現在は音声交換

    から情報交換への変革を進めている。

     2010年11月のHSBB立ち上げから1

    年間で、UniFiプラットフォームは20万人

    以上の顧客を獲得し、設置ポート数は100

    万ポートを超えた。

     その一方で、マレーシアには、ファイバー

    関連のトレーニングを受けたフィールド・チー

    ムがなかったため、デリバリー&サービスを

    効率よく行えるチームをゼロから育成しなけ

    ればならなかった。また、自社スタッフだけで

    なく、請負業者を短期間でトレーニングする

    必要もあった。これは、新規顧客に滞りなく

    対応する上で最も功を奏した。

     現在では、FTTHテクノロジーについて

    十分にトレーニングを受け、実務知識を身

    に付けた技術スタッフや請負業者を数千

    人確保するまでに至っている。

     IPTV(Internet Protocol TeleVision)プ

    ラットフォームは、UniFiの立ち上げからわ

    ずか6ヵ月後にスタートした。IPTVネットワー

    クの設定に伴う複雑さを考えると、これは世

    界でも類を見ない早さだ。

     運用簡素化プログラムにより、音声アク

    ティベーションの平均所要時間および平均

    復旧時間は60%以上、ブロードバンド・オペ

    レーションの平均所要時間は80%以上短

    縮された。また、バック・オフィスの仕組みを単

    純化することで、コスト削減効果も得られた。

    / APR.2012/ APR.201218

    驚異的なペースでの立ち上げ

    知見の共有が重要

    19

    に、現在700あるシステムをまず300ま

    で削減し、最終的には70まで削減する

    計画だ。特にプラットフォーム全体にわ

    たってマルチベンダー環境が存在する

    OSS/BSS側で大きな問題が生じないよ

    うに、すべてのプラットフォーム、ブロードバ

    ンド・フォーラムおよびITU(International

    Telecommunication Union:国際電気通

    信連合)規格を可能な限り採用している。

     ITシステムの場合、既存顧客および製

    品の導入・移行が極めて重要だ。まったく

    新しいOSS/BSSスイートを導入したことか

    ら、HSBB製品の移行は段階的に進めた。

    OSS/BSS(Nova)の立ち上げは、特に不

    具合やトラブルが生じることもなく9ヵ月で

    完了し、現在はシステムへの既存製品の

    追加を徐々に進めているところだ。

     OSS/BSSの移行に当たって革新的な

    方法を採用したにもかかわらず、タイミング

    や新製品に対する既存システムの利用度

    の問題は、現状では無事に解決できてい

    る。また、単一のプラットフォームに基づい

    てベンダーの専用ソリューションを使用し、

    カスタマイズの必要性を最小限に抑えた。

     さらに、まずHSBBと増え続けるIPに対

    応する製品はそのまま使用し、プラット

    フォームが安定状態に達した時点で初め

    てレガシー製品の移行を開始した。ただし、

    タイト・スケジュールのため、複数のリリース

    を並行して行った。

     運用シンプル化計画では、基本的に4つ

    の要素を柱とした。第1に、テクノロジーでは

    なく「職務責任」に重点を置いた。そのため、

    現場作業者の考え方や行動を調査し、サー

    ビス提供、障害復旧、その他の業務の方法

    を根本から見直した。第2に、「無駄をなくす」

    ことに努めた。第3に、ツールのシンプル化に

    よって「管理・監視の強化」を実施した。

     時間単位での活動記録のため、ビジュア

    OICEFROM OPERATORSV

     移行プログラムの実施に当たっては、

    まずその業界の知見を事前に調査しなけ

    ればならない。TMでは、従来マルチベン

    ダー戦略を採ってきたが、オールIP化に伴

    う複雑さを軽減するため、少数のパート

    ナーに限定した。これが功を奏し、ネット

    ワーク展開をより効率的に実行できた。

     また、移行の経済的側面を慎重に分

    析することも必要だ。たとえば、障害発生

    率の低さ、性能の高さ、移行コストの高さ

    などを検討し、特定のレガシー・プラット

    フォームを極力使用するといったことなど

    が挙げられる。当然のことながら、コミュニ

    ケーションも重要であり、顧客をはじめとす

    る関係者全員の理解を得ることは不可欠

    である。

     こうしたプロジェクトにとって重要なこと

    は、社内の考え方や行動の変化が伴わな

    ければ、いくらテクノロジーを変更しても無

    意味だということである。たとえ優れた新技

    術を持っていても、それを効果的なサービス

    提供に生かす方法がわからなければ、結局

    は機会を逸することになる。

     技術移行は、プロセスの根本的な変化

    につながらなければならない。人々に最初

    から行動変革を求めるのは難しい話だ。し

    かし、パフォーマンスが徐々に上がってくる

    ことによって、仕事へのプライドが生まれ、

    変革の推進は容易になる。そうすれば、変

    革は独特の活気を帯びて加速し、プロジェ

    クトの成功につながっていくだろう。 ベンダーと通信事業者の創造的な協力関係は、通信業界の発展に不可欠だ。ボーダ

    フォン・スペインでCTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)を務めるジェイ

    ムス・バスティロ氏に、最近の業界動向およびボーダフォン・スペインとファーウェイの協

    力関係がもたらすイノベーションについて話を聞いた。『WinWin』編集部(ファーウェイ刊) Pearl Zhu

    WinWin:ボーダフォンとファーウェイは、長

    年にわたって緊密に協力してきました。これ

    までの協力関係についてどうお考えです

    か。またボーダフォン・スペインにとって、ど

    のようなメリットがありますか。

    バスティロ氏:ファーウェイとの協力関係の

    始まりはかなり前に遡ります。ボーダフォン・

    スペインは、ファーウェイとともに2つのボー

    ダフォン・グループ共同イノベーション・セン

    ターを立ち上げました。1つは、2005年に

    開設したMIC(Mob i l e I n n o v a t i o n

    Center)で、ここでは無線技術を中心に研

    究・開発を行っています。もう1つは、2007

    年に開設したAIC(Application Innova-

    tion Center)で、こちらはアプリケーションと

    ソフトウェアを中心に研究・開発を行って

    います。

     この2つのイノベーション・センターで開

    発され、商用化されたプロジェクトの数は

    25本以上に上ります。たとえば、現在すべ

    てのネットワークに展開しているR R H

    (Remote Radio Head:リモート無線ヘッ

    ド)とSingleRAN製品の適用開始や、そ

    の後のさまざまな無線製品機能の改良

    も、MICで行われました。

     ファーウェイは、ボーダフォン・スペインに

    ファーウェイとボーダフォン・スペインイノベーションに満ちたパートナーシップ

    協力関係がイノベーションを生み出す

    AOBUSINESS

    OF 01

    James Bustillo, CTO of Vodafone Spain