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Functional Analysis International Series in Pure and Applied Mathematics Walter Rudin はじめに これ ”Functional Analysis”(W.Rudin) ノート ある. ,位 ベクトル から じめて distributionFourier ,さらに Banach Algebra していく ある. ちょっ した ゼミがきっかけ ったが, そう ,こう して TeX しておくこ にした. ,そ ゼミ たちが多い にわかる いま 感じれ コメントを するこ にする.それ っぱら[] 括って するこ にしたい.また, ,す にまわしている. みたく だ!) していただいて い. 目次 I General Theory 2 1 TOPOLOGICAL VECTOR SPACE 2 Introduction .............................................. 2 Separation Properties( ) .................................... 8 Linear Mappings.................................... 13 Finite-Dimentional Spaces............................ 15 Metrization........................................ 18 Bounderdness and Continuity......................... 24 Seminorms and Local Convexity(セミノルム .................... 26 Quotient Spaces..................................... 33 Examples............................................ 39 1

Functional Analysis Analysis International Series in Pure and Applied Mathematics Walter Rudin はじめに これは,”Functional Analysis”(W.Rudin)の読書ノートである.

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Functional Analysis

International Series in Pure and Applied Mathematics

Walter Rudin

はじめにこれは,”Functional Analysis”(W.Rudin)の読書ノートである.内容的には,位相ベクトル空間からはじめて超関数(distribution)とそのFourier変換,さらにはBanach

Algebraへと展開していくものである.ちょっとした自主ゼミがきっかけでこの書物に巡り合ったが,なかなか面白そうな内容なので,こう

してTeXで残しておくことにした.一応,その自主ゼミは物理系の人たちが多いので,物理屋にわかるとは言わないまでも,必要と感じれ

ば,私のコメントを挿入することにする.それはもっぱら[]で括って明示することにしたい.また,私の愚痴は,すべて脚注にまわしている.読みたくない人(当然だ!)は飛ばしていただいて構わない.

目 次

第 I部 General Theory 2

1 TOPOLOGICAL VECTOR SPACE 2

Introduction . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

Separation Properties(分離性) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

Linear Mappings(線形写像) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

Finite-Dimentional Spaces(有限次元空間) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

Metrization(距離化) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

Bounderdness and Continuity(有界性と連続性) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

Seminorms and Local Convexity(セミノルムと局所凸性) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

Quotient Spaces(商空間) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33

Examples(例) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39

1

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第 I部

General Theory

1 TOPOLOGICAL VECTOR SPACE

Introduction

1.1

[大学初年級の微積分学では,あるひとつの関数を対象として,その性質(連続性,微分可能性,極値,何らかの微分方程式の解などなど)を調べてきた.しかし,これから述べる Functional Analysisでは,何らかの性質をみたす関数全体の集合(関数空間)を考えたり,その上の測度を考えることで関数空間での積分というものを定式化したり,また関数空間上の作用素を考えたりする.そうしたものを扱うためには,解析学における最も重要でありかつ注意を要するものである極限操作というものを厳密に扱う必要がある.そのためには,考えている空間に位相や距離といったものを考える必要が出てくる.一見なんとなく漠然としていて難しそうだが,恐れることはない.そうした興味ある関数空間を提供してくれるものの代表的な例は,結局のところベクトル空間であり,そこに距離あるいは位相が定義された空間(位相ベクトル空間)なのである.そうした距離ないしは位相をベクトル空間に与えてくれるものの一番基本的なものがノルム(norm)である.]

1.2 Normed spaces(ノルム空間)

K(= R, C)上のベクトル空間Xがノルム空間(normed space)であるとは,任意の x ∈ Xに対して,以下の条件を満たすノルム ‖x‖という非負実数が与えられていることを言う;(a) ‖x + y‖ ≤ ‖x‖ + ‖y‖ (∀x, y ∈ X),(b) ‖αx‖ = |α|‖x‖ (∀x ∈ X,α ∈ K),(c) ‖x‖ > 0 (0 6= ∀x ∈ X).(ノルムは,写像X → R; x 7→ ‖x‖というように見ることもできる.[そのように見れば,ノルム空間とは,ベクトル空間Xとその上の関数 ‖・‖の組 (X, ‖・‖)であると言うことができる.])ノルム(空間)というものは距離(空間)と密接な関連があって,x, yの距離 d(x, y)を ‖x− y‖によっ

て定めることができる.このようにして導入される dは,次の性質を満たす;( ) 0 ≤ d(x, y) < ∞ (∀x, y ∈ X),

( ) d(x, y) = 0 ⇔ x = y,

( ) d(x, y) = d(y, x) (∀x, y ∈ X),( ) d(x, z) ≤ d(x, y) + d(y, z) (∀x, y, z ∈ X).[この 4つの条件を距離の公理といい,この公理を満たす dが与えられた集合を一般に距離空間という.d(x, y) = ‖x−y‖としたとき,( ),( )は‖・‖の性質 (c),( )は‖x−y‖ = ‖(−1)(y−x)‖ = |−1|‖y−x‖ =

‖y − x‖より.( )は d(x, z) = ‖x− z‖ = ‖x− y + y − z‖ ≤ ‖x− y‖+ ‖y − z‖ = d(x, y) + d(y, z)より.]距離空間を考えるときには,xを中心とする半径 rの開球(open ball)を考えることが便利である;

Br(x) = y ∈ X; d(x, y) < r.

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また,特にノルム空間であれば,開単位球(open unit ball),閉単位球(closed unit ball)を考えると便利である;

B1(0) = x ∈ X; ‖x‖ ≤ 1, B1(0) = x ∈ X; ‖x‖ ≤ 1.

距離空間において,開集合を(空かもしれないが)開球の unionであると定義することによって,位相を定めることができる(1.5参照).もし距離が上のようにしてノルムから与えられているとすれば,この位相に関して,ベクトル空間の加法とスカラー倍が連続であることが証明できる.[Xi → X,Yi → Y

のとき ‖Xi + Yi‖ ≤ ‖Xi‖ + ‖Yi‖ → |X| + |Y |, ‖aXi‖ = |a|‖Xi‖ → |a|‖X‖よりわかる?]ノルム空間XがBanach空間であるとは,Xが完備,すなわち,Xの任意のコーシー列がX内に収

束することを言う.

1.3

よく知られている関数空間は,Banach空間となっている.ここではいくつか例を見てみよう.コンパクト集合上の連続関数の空間,積分論で登場するLp-空間,Hilbert空間(完備な内積空間),微分可能関数のなす空間,Banach空間からBanach空間への連続線形写像の全体,Banach代数.この枠組みに入らないものとして,ここでは 4つの例をあげる.

(a) C(Ω).ユークリッド空間Rnの開集合上の複素数値連続関数の全体.(b) H(Ω).複素平面上の開集合Ω上の正則関数の全体.(c) C∞

K.空でない内部を持つコンパクト集合Kの外では 0であるような,Rn上の無限回微分可能な複素数値関数の全体.(d) シュワルツ超関数論におけるテスト関数の空間.あるいはシュワルツ超関数それ自身の全体.これらの空間には,ノルムから導かれたのではない位相が自然に入ることを後で見る.これらはノルム空間と同じように,関数解析において広く用いられる位相ベクトル空間の例になっている.詳しい性質などはあとの節を参照.

1.4 Vector spaces(ベクトル空間)

以下,Φで係数体を表すことにし,しばらくの間は,Φ = R, Cとしておく.集合XがΦ上のベクトル空間とは,加法とスカラー倍という演算が定義され,以下の代数的性質を満たすときを言う;(I-a) x + y = y + x.(I-b) x + (y + z) = (x + y) + z.(I-c) ∀x ∈ Xに対して,x + 0 = xを満たす 0 ∈ Xがただ一つ存在する.(I-d) 各 x ∈ Xに対し,x + (−x) = 0を満たす−x ∈ Xが存在する.(II-a) 1x = x.(II-b) a(bx) = (ab)x.(II-c) a(x + y) = ax + ay.(II-d) (a + b)x = ax + bx.Φ = Rのとき実ベクトル空間,Cのとき,複素ベクトル空間という.ベクトル空間には基底と次元の概念がある.以下,記号の定義.

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x + A = x + a|a ∈ A,x − A = x − a|a ∈ A,A + B = a + b|a ∈ A, b ∈ B,

λA = λa|a ∈ A

とくに λ = −1とすれば,−AはAの加法に関する逆元の全体の集合.集合 Y ⊂ XがXの部分空間であるとは,Y がXの加法とスカラー倍に関してそれ自身ベクトル空間

であることを言う.Y が部分空間であることと,0 ∈ Y かつ aY + bY ⊂ Y (∀a, b ∈ Φ)が成り立つことである.

¶ ³Xの部分集合Cが凸(convex)であるとは,

tC + (1 − t)C ⊂ C (0 ≤ t ≤ 1)

が成り立つことを言う.言い換えれば,∀x, y ∈ C, 0 ≤ ∀t ≤ 1に対して,tx + (1 − t)y ∈ Cとなることを言う.µ ´¶ ³ベクトル空間Xの部分集合Bが平衡的(balanced)であるとは,|a| ≤ 1をみたす任意の a ∈ Φに対して,aB ⊂ Bが成り立つことを言う.µ ´

1.5 Topological spaces(位相空間)

集合 Sが位相空間であるとは,以下の条件をみたす開集合系と呼ばれるSの部分集合族 τ が与えられているときを言う;(1) S, φ(空集合)は開集合(すなわち τ の元).(2) U1, U2 ∈ τ ならば U1 ∩ U2 ∈ τ.(3) Uii∈Isubsetτ ならば ∪i∈IUi ∈ τ.この τ を Sの位相という.位相空間という場合には,単に Sとかくのではなく,開集合系との組みとして (S, τ)とかくのが formalな書き方である.

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¶ ³以下,位相の言葉として頻出のもののリスト.

(A) E ⊂ Sが閉集合;Eの Sにおける補集合 S − Eが開集合.(B) E ⊂ Sの閉包 E;Eを含む閉集合すべての共通部分.(C) E ⊂ Sの内部E;Eの開部分集合すべての和.(D) p ∈ Sの近傍;pをふくむ開集合.(E) (S, τ)がハウスドルフ空間;Sの相異なる 2点 x, yに対し,x, yの近傍Nx, Ny をうまく選ぶとNx ∩ Ny = φとできる.(相異なる 2点が近傍により分離可能.)(F) K ⊂ Sがコンパクト;Kの任意の開被覆から有限部分被覆がとれる.(G) τ ′ ⊂ τ が τ の基;すべての開集合が τ ′の元の和でかける.(H) pの近傍の族 γが pのまわりの局所基(local base:基本近傍系);pのまわりの任意の近傍Npに対して,ある γの元 U が存在して,Np ⊃ U が成り立つ.µ ´位相空間 Sの部分集合Eには,E ∪ V |V ∈ τを開集合系とする自然な位相が定義される.この位相を相対位相といい,この位相でEを位相空間と思うとき,Eを Sの部分(位相)空間という.位相 τ が距離 dから導かれるとき,その位相 τ と距離 dは整合的(compatible)という.ハウスドルフ空間Xの点列 xnが xに収束するとは,xのまわりのどんな近傍Nxをとっても,十分

nを大きくとれば,xm (m > n) ⊂ Nxが成り立つときを言う.[ここは少し曖昧?というかこれで正しい定義だろうか・・・・.正確にはフィルター,フィルター収束の概念が必要になるはず.]

1.6 Topological vector spaces(位相ベクトル空間)

ベクトル空間Xが,位相ベクトル空間(topological vector space:TVS)であるとは,X上の位相 τ が定義されて,以下を満たすときを言う;(a) Xの任意の 1点は閉集合,(b) ベクトル空間としての加法,スカラー倍が,位相 τ に関して連続.[ここでは,演算を加法は,X ×X → Xとみている.X ×Xには積位相という位相が,Xの位相から自然に定まる.すなわち,「【V1 × V2|V1, V2 ∈ τの有限部分集合の共通部分】の和集合」の全体を開集合系として指定することで位相とすれば良い.スカラー倍は Φ × X → Xとみている.位相の定め方は同様.]

(a)については,多くの本では省略されているが,多くの応用例では (a)は満たされているし,多くの興味深い定理においては,(a)を満たすことを仮定しているので,位相ベクトル空間の公理に入れても良いだろうとRudin氏は書いている.[これについては,先の内容を見てみなければ判断できないが.](定理 1.12は,(a)かつ (b)ならば τ がHausdorfであることを主張している?)

(b)について少し詳しく検討し直しておこう1.ここで言う連続性を加法に関して見てみると,加法(x, y) 7→ x + yが連続だというのである.これは,x + yの近傍 V に対して,xの近傍 V1,yの近傍 V2が存在して,V1 + V2 ⊂ V とできることを意味している.同様に,スカラー倍 (a, x) 7→ axが連続であることから,axの近傍 V に対して,xのある近傍W と

r > 0が存在して,|b − a| < rなる任意の bに対して,bW ⊂ V とできることを意味している.

1近傍の定義は,その点を含む開集合のことと定義した.

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¶ ³位相ベクトル空間Xの部分集合Eが,有界(bounded)であるとは,Xの 0の任意の近傍 V に対して,ある s > 0が定まり,t > sなる任意の tに対してE ⊂ tV をみたすときを言う.µ ´

1.7 Invariance

Xを位相ベクトル空間とし,a ∈ X, 0 6= λ ∈ Φに対して,足し算作用素 Ta,スカラー倍作用素Mλを以下で定める;

Ta(x) = a + x, Mλ(x) = λx (∀x ∈ X).

このとき,次の命題は,単純だが,極めて重要である.位相ベクトル空間の「ある種の等質性」を示している.

命題 [(位相ベクトル空間の)位相の不変性]¶ ³Ta,MλはXからXへの同相写像である.µ ´

[証明]:位相ベクトル空間の公理 (b)から,Ta,MλはX → Xなる写像として連続写像であることが従う.また,Taの逆写像としてT−a,Mλの逆写像としてM1/λを考えることができるが,これはすべて (b)

より連続となる.従って,Ta,Mλは連続全単射かつ逆写像も連続,すなわち同相であることが従う.

このことから,E ⊂ Xが開集合であるとき,Taの同相性から a + Eも開集合であり,これは逆も正しい.つまり,位相ベクトル空間の位相 τ は局所的なデータですべて決まってしまう.より詳しく言えば,原点の基本近傍系で完全に決まってしまうのである.すなわち,Xの基本近傍系というときには,Xの元 0のまわりの基本近傍系を指す.原点 0のまわりの基本近傍系Bとは,0のまわりのどんな近傍 V をとっても,あるBの元 U が存在して,U ⊂ V となることを言う.よって,Xの開集合とは,Bの元のTa,Mλの適当な合成によってえられるものの和集合として記述される2.

なお,ベクトル空間X の位相 τ が平行移動不変(translation-invariant)であるとは,「X の部分集合 E

が開集合であること」と「x ∈ Xに対して,x + Eが開集合であること」とが同値であるときを言う.

ベクトル空間X上の距離 dが不変であるとは,

d(x + z, y + z) = d(x, y) (∀x, y, z ∈ X)

をみたすときを言う.

2基本近傍系の元の和集合でかけるというのはどうしてだろう?

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1.8 Type of topological vector spaces¶ ³以下,位相ベクトル空間の性質のいくつかのリスト.

(A) Xが局所凸空間(locally convex):基本近傍系の元が凸.(B) Xが局所有界(locally bounded):0が有界な近傍を持つ.(C) Xが局所コンパクト(locally compact):0は,「閉包がコンパクトな近傍」を持つ.(D) Xが距離化可能(metrizable):位相 τ がある距離 dと整合的.(E) XがF -空間:位相 τ が,完備かつ不変な距離 dから導入されている.(F) XがFrechet空間:Xが局所凸な F -空間.(G) Xがノルム化可能(normable):X上のノルムで,τ と整合的な位相を誘導する距離を定めるものが存在する.(H) ノルム空間,Banch空間.(I) XがHeine-Borel性を持つ:Xの有界閉集合はコンパクトである.

µ ´(上のリストの (e),(f)については,ややいろいろな流儀がある.例えばフレッシェ空間の定義に局所凸性を省いたり,F -空間をここでいうフレッシェ空間の意味に用いたりする.)

1.9

以下,位相ベクトル空間の性質について成り立つこと.順次証明していく.(1) 「Xが局所有界」ならば,「可算な基本近傍系を持つ」.(2) 「Xが距離化可能であること」と「Xが可算な基本近傍系を持つこと」は同値.(3) 「Xがノルム化可能であること」と「Xが局所凸かつ局所有界であること」とは同値.(4) 「Xが有限次元」であることと「Xが局所コンパクトであること」とは同値.(5) 「局所有界なXがHeine-Borel性を持つこと」ならば,「Xは有限次元」.

H(Ω)やC∞K はHeine-Borel性を持つ無限次元フレッシェ空間であり,従って,(4)より局所コンパクト

ではない.また,もしノルム化可能なら,(3)より局所有界となり,(5)から有限次元となるので矛盾が出る.従って,ノルム化可能でもない.また,位相ベクトル空間の公理 (a)を満たしていないこともわかる.(たぶん,あとで.)一方,局所有界な F -空間で,局所凸でないものは存在する.(これもあとで.)

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Separation Properties(分離性)

1.10 Theorem

定理 1.10¶ ³K,Cを位相ベクトル空間Xの部分集合とし,Kはコンパクト,Cは閉であるとし,さらにK∩C = φ

であるとする.このとき,0は,以下をみたす近傍 V を持つ;

(K + V ) ∩ (C + V ) = φ.

(注意;K + V は x + V (x ∈ K)なる V の加法移動の和集合であり,V が 0の近傍,すなわち 0を含む開集合であることから x + V 開集合なので,K + V はKを含む開集合である.C + V についても同様にCを含む開集合であることがわかる.よって,上の定理は,Kを含む開集合とCを含む開集合であって,disjointなものがとれることも主張している.)µ ´

[証明]:まず,次の補題を証明することから始めよう.この補題は,単にこの定理を証明するためだけではなく,他の局面でも重要になる補題である.補題¶ ³

0の近傍W に対し,ある 0の近傍U が以下をみたすようにとれる;

U = −U(対称な近傍), U + U ⊂ W.µ ´[補題の証明]:0+0 = 0と加法の連続性に注意すれば,あるV1, V2という0の近傍が存在して,V1+v2 ⊂ W

とできる.このとき,

U = V1 ∩ V2 ∩ (−V1) ∩ (−V2)

とおけば,これは 0の近傍であり,U = −Uは明らかに成り立つ.U ⊂ V1, U ⊂ V2であるから,U +U ⊂V1 + v2 ⊂ W も成り立つ.

U に対して,もう一度補題を用いると,あるU ′という 0の対称な近傍が存在してU ′ + U ′ ⊂ U とできる.U ′を改めて U とおきなおして,

U + U + U + U ⊂ W

である.いま,K = φならばK + V = φであるから定理は自明.K 6= φとし,∀x ∈ Kをひとつ固定する.W として Cc = X − C をとると,C は閉より CC は開集合,また,x /∈ C であることから,x ∈ CC

よって,上の補題からある xの対称な近傍 Vxが存在して,

Vx + Vx + Vx + Vx ⊂ Cc

となる.左辺には x + Vx + Vx + Vxが含まれており,しかもCと共通部分を持たないから,

x + Vx + Vx + Vx ∩ C = φ

である.ここで Vx = −Vxに注意すれば,

x + Vx + Vx ∩ C + Vx = φ

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となる.いま,Vxは xの近傍,すなわち xを含む開集合であるから,x + Vxも開集合である.また,

K ⊂∪x∈K

x + Vx

はKの開被覆である.Kのコンパクト性から有限個の xini=1が選べて,

K ⊂n∪

i=1

(xi + Vxi)

となる.いま V = Vx1 ∩ Vx2 ∩ · · · ∩ Vxn とおくと,V ⊂ Vxiであることに注意すれば,

K + V ⊂n∪

i=1

(xi + Vxi+ V ) =

n∪i=1

(xi + Vxi+ Vxi

)

となる.Kの任意の元 xに対して,x + Vx + Vx ∩ C + Vx = φが成り立つこと及び,

C + V ⊂n∪

i=1

(C + Vxi)

に注意すれば,K + V ∩ C + V = φが成り立つ.V が開集合であることから C + V も開集合であるから,上記の命題において,左辺を閉包をとった

K + V ∩ C + V = φである.C ⊂ C + V であることに注意すれば,K + V ∩ C = φとなる.例えば,1

点 0を考えると,x ∈ ∪iUiなる開被覆に対して,x ∈ Ui0なる i0があるので,x ∈ Ui0となるので,コンパクトである.そこでK = 0とすると,V ∩ C = φとなる.

1.11 Theorem¶ ³Bを位相ベクトル空間Xの基本近傍系とするとき,Bの任意の元は,あるBの元の閉包を含む.µ ´

[証明]:∀U ∈ Bに対して,C = U cとおくと,Uが開集合であることから,Cは閉.よって,ある開集合V が存在して,V ∩ (C +V ) = φとできる.いまC +V ⊃ C = U cの両辺の補集合をとって (C +V )c ⊂ U

であることから,

V ⊂ (C + V )c ⊂ U

となる.いま V がBであるとは限らないが,V は 0の近傍なので,Bの定義より V ⊃ V ′なるBの元V ′が存在するので,V ′ ⊂ V ⊂ U とできる.

1.12 Theorem

2つの異なる点を考えると,位相ベクトル空間の公理 (a)から 1点は閉,また 1点はコンパクトであるから,定理 1.10からこの 2点は開集合で分離されることになる.これは,Hausdorff性に他ならない.よって,次の定理が成り立つ.¶ ³すべての位相ベクトル空間はHausdorff空間である.µ ´

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1.13 Theorem

以下,位相ベクトル空間の性質についていくつかの項目を証明しよう.その際,次の位相的性質について注意をしておくことが重要である.¶ ³p ∈ E(EはEを含む閉集合の共通部分)とEが pの任意の近傍と共通部分を持つこととは同値.µ ´

[証明]:p ∈ Eであるとする.pのある近傍 V が V ∩ E = φを満たすとすると,E ⊂ X − V となるが,V は開集合なのでX − V は閉.よってE ⊂ X − V.よってA ∩ V = φ.しかし,a ∈ E ∩ V = φとなって矛盾である.逆は対偶を示す.p /∈ Eとするとき,V = X − Eとおくと,V は開集合で pを含み,かつ V ∩ E = φをみたす.

¶ ³Xを位相ベクトル空間とする.(a) A ⊂ Xならば,

A =∩

V は 0 の任意の近傍

(A + V )

と表される.(b) A, BをXの部分集合とすると,A + B ⊂ (A + B).(c) Y をXの部分空間とすると,Y もXの部分空間となる.(d) CをXの凸部分集合とするとき,C,Cはともに凸部分集合.(e) BをXの平衡的部分集合とするとき,Bも平衡的である.また,0 ∈ BであればBは平衡的.(f) EをXの有界部分集合とすると,Eも有界部分集合.

µ ´[証明]:(a) a ∈ Aとする.すると,xの任意の近傍とAとは共通部分が空ではないので,0の任意の近傍 V に対して,x + V ∩A 6= φ.よって x ∈ A− V.V が 0の近傍であることと−V が 0の近傍となっていることとは同値であるから,xは 0の任意の近傍 V に対して x ∈ A + V.よって (a)は証明できた.(b) a ∈ A, b ∈ Bをとる.Wをa+bの近傍とすると,aの近傍W1とbの近傍W2が存在して,W1+W2 ⊂ W

とできる.a ∈ A, b ∈ BであることからA ∩ W1, B ∩ W2は空ではないので,x, yをそれぞれから取ることができる.すると,x + y ∈ (A + B) ∩ W.よってその共通部分は空ではない.W は任意であったから a + b ∈ A + B.(c) α, βはスカラーとする.1.7の命題から 0でないスカラー倍写像は同相写像であることから,αY =

αY (α 6= 0).もし α = 0でも両者の集合は等しい.よって,

αY + βY = αY + βY( ∵上の注意)⊂ αY + βY(加法に関する連続性を閉包の言葉で言い換えたもの)

⊂ Y (∵ Y は部分空間)

よって,Y は部分空間となる.(d) 凸部分集合が凸な閉包を持つことは,スカラー倍について同様にすれば良い.C ⊂ CかつCが凸であることから,

tC + (1 − t)C ⊂ C (0 < t < 1)

が成り立つ.左辺の 2つの集合はともに開集合であるから,左辺自身が開集合である.CはCの最大の開部分集合であるから,左辺はCに含まれる.よってCは凸である.

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(e) 平衡性が閉包に遺伝することも (c)と同様にできる.0 < |α| ≤ 1であれば,スカラー倍写像 x 7→ αx

は同相写像であるから,αB = (αB).よって,αB ⊂ (αB) ⊂ B (Bの平衡性).αBは開集合であるから,αB ⊂ Bとなる.Bが原点を含んでいれば α = 0であっても αB ⊂ Bとなる.よってBは平衡的.(f) V を 0の任意の近傍とする.これは基本近傍系の定義から基本近傍系の元としてよく,定理 1.11からW ⊂ V となる 0の基本近傍系の元W が存在する.Eが有界であることから,十分大きな tに対して,E ⊂ tW が成り立つので,E ⊂ tW ⊂ tV となるので,Eは有界.

1.14 Theorem¶ ³Xを位相ベクトル空間とする.(a) 0の任意の近傍は,0の有界な近傍を含む.(b) 0の任意の凸な近傍は,0の平衡的かつ凸な近傍を含む.µ ´

[証明]:(a) U をXの 0での近傍とする.スカラー倍写像の連続性から,ある δ > 0と 0の近傍 V とが存在して,αV ⊂ U (|α| < δ)とできる.

W =∪

α,|α|<δ

αV

とおくと,αV は開集合なので,その和集合であるW は 0の近傍.またW ⊂ U は良い.平衡的であることを確かめる.実際,|t| ≤ 1なる tに対して,

tW =∪

α,|α|<δ

tδV ⊂∪

α,|α|<δ

δV = W

となる.(b)3 0の凸近傍を U とする.このとき,(a)から U に含まれる 0の平衡的近傍W がとれる.

A =∪

0≤t≤1

(tW + (1 − t)W )

とおく.このとき,Aが 0の凸かつ平衡的近傍で,Uに含まれることを示せばよい.∀a ∈ A, λ ∈ (|λ| ≤ 1)

に対し,a = tx + (1 − t)y (x, y ∈ W )とかけるので,

λa = λtx + λ(1 − t)y = t(λx) + (1 − t)(λy)

となる.ここで,W が平衡的であることに注意すれば,λx, λy ∈ λW ⊂ W となり,上の右辺はAに属す.従って,Aが平衡的である.凸性は,0 ≤ s ≤ 1に対し,

sa + (1 − s)a = stx + s(1 − t)y + (1 − s)tx + (1 − s)(1 − t)y = tx + (1 − t)y = a ∈ A

よりわかる.また,A ⊂ U であることは,U の凸性から,Aの定義の右辺の各項がすべてU に属すことから,その和集合もU に属すことによりわかる.従って,0の任意の凸近傍U に対して,それに含まれる凸かつ平衡的な近傍Aが存在することが示された.

3この証明は本文にあるものが理解できないので,別の証明を書いている.

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このことから,以下のことが成り立つ.¶ ³系.(a) 任意の位相ベクトル空間は平衡的基本近傍系を持つ.(b) 任意の局所凸空間は平衡的かつ凸な基本近傍系を持つ.µ ´

[証明] 基本近傍系とは 0のまわりの近傍の族 γであって,任意の 0の近傍 U に対し,γのある元 V が存在して,V ⊂ U とできることを言うのであった.

1.14(a)より任意の 0の近傍U は平衡的な近傍を含むのであるから,ある 0のまわりの基本近傍系 γに対し,その各々が含む平衡的近傍を集めてくれば,それが 0のまわりの平衡的基本近傍系を与える.また,局所凸空間では,0のまわりに凸な基本近傍系がとれるのであるから,1.14(b)からそれらの各々が含む凸かつ平衡的な近傍を集めてくれば,0のまわりの凸かつ平衡的な近傍が与えられる.

1.15 Theorem¶ ³位相ベクトル空間Xの 0の近傍を V とする.(a) 0 < r1 < r2 < · · · < rn < · · · → ∞ (n → ∞)とすると,

X =∞∪

n=1

rnV.

(b) Xのコンパクト部分集合Kは有界.(c) δ1 > δ2 > · · · > δn > · · · → 0 (n → ∞)かつ V が有界であるとすると,

δnV ; n = 1, 2, 3, · · ·

がXの基本近傍系を与える.µ ´[証明]:(a) x ∈ X をひとつ固定すると,ϕ : Φ → X; a 7→ axを考えると,ϕの連続性から,U ≡ϕ−1(V )a ∈ Φ|ax ∈ V は開集合.0x = 0 ∈ V であるから,0 ∈ U.よって,r−1

n → 0であることから,ある n0が存在して,n ≥ n0ならば r−1

n ∈ U.よって r−1n x ∈ V.すなわち,x ∈ rnV となる.以上

より,任意の x ∈ Xに対して,ある n0が存在して,x ∈ rnV (n ≥ n0)であることが示された.従って,X ∈ ∪∞

n=1rnV が成り立つ.逆は明らかなので,(a)が示された.(b) V を任意の 0の近傍とすると,1.14(a)から,W ⊂ Uなる 0の平衡的近傍W が存在する.1 < 2 < · · ·に対して,(a)からX = ∪nW であるから,特に,

K ⊂∞∪

n=1

nW

である.Kのコンパクト性から,n1 < n2 < · · · < nsが存在して,

K ⊂ n1W ∪ n2W ∪ · · · ∪ nsW = nsW

が成り立つ.t > nsとすると,K ⊂ tW が成り立つ.ここでW が平衡的であることから,s > tとすると,t/sW ⊂ W ⊂ V だから、tW ⊂ sV となることに注意すれば,K ⊂ tW ⊂ sV となり,Kは有界.(c) Uを 0の任意の近傍とする.V が有界であることから,ある s > 0が存在して,t > sならばV ⊂ tU.一方 δnが 0に収束することから,∃n0,n ≥ n0ならば sδn < 1とできる.このとき s < 1/δnであるこ

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とから,V ⊂ 1δn

U となるから,δnV ⊂ U となる.従って,0を含むどんな近傍に対しても,充分大きなnで δnV を含むことが示されたので,(c)が従う.

Linear Mappings

1.16 Definitions

まず記号の約束.写像 f : X → Y,A ⊂ X,B ⊂ Y に対して,

f(A) = f(x) ∈ Y |x ∈ X, f−1(B) = x ∈ X|f(x) ∈ B

とかく.X,Y をΦ上のベクトル空間とするとき,写像 f : X → Y が線形写像であるとは,

f(ax + by) = af(x) + bf(y) (∀a, b ∈ Φ,∀x, y ∈ X)

が成り立つことを言う.とくに f : X → Φを線形形式(linear finctional)ということもある.スカラー倍写像Ma : X → X; x 7→ axを考えると,

Ma(px + qy) = a(px + qy) = a(px) + a(qy) = p(ax) + q(ay) = pMa(x) + qMa(y)

が成り立つので,これは線形写像.一方,平行移動作用素 Ta : X → X; x 7→ x + aは,

Ta(px + qy) = px + qy + a, pTa(x) + qTa(y) = p(x + a) + q(y + a) = px + qy + a(p + q)

であることから,a = 0を除けば線形写像ではない.以下,線形写像の性質を見てみよう.

(a) f(0) = 0.[実際,f(0) = f(x − x) = f(x) − f(x) = 0.](b) AをXの(resp.凸,平衡的)部分空間とすると,f(A)も Y の(resp.凸,平衡的)部分空間となる.[実際,部分空間となることは,y1, y2 ∈ f(A)に対し,f(x1) = y1, f(x2) = y2となる x1, x2 ∈ X が存在し,ax1 + bx2 ∈ Aであることから,f(A) 3 f(ax1 + bx2) = af(x1) + bf(x2) = ay1 + by2より.凸性を保つことは,0 ≤ t ≤ 1に対して,tA + (1− t)A ⊂ Aより tf(A) + (1− t)f(A) ⊂ f(A)より.平衡性を保つことは,|a| ≤ 1に対し,aA ⊂ Aであることから af(A) ⊂ f(A)より従う.](c) Bを Y の(resp.凸,平衡的)部分空間とすると,f−1(B)も(resp.凸,平衡的)部分空間となる.[証明の方針は上に同じ.](d) ker f ≡ f−1(0)( = N(f)ともかく)はXの部分空間.[(c)より.]

1.17 Theorem¶ ³X,Y を位相ベクトル空間,f : X → Y を 0で連続な線形写像とすると,f はX 全体で連続である.さらに,f は次の意味で一様連続である;すなわち,Y の 0の任意の近傍W に対して,あるXの 0

の近傍が存在して,∀x, y ∈ V に対し,y − x ∈ V ならば f(y) − f(x) ∈ W が成り立つ.µ ´[証明]:fの0における連続性から,f(V ) ⊂ Wとできる.y−x ∈ V とすると,W 3 f(y−x) = f(y)−f(x)

となり後半は成立.

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前半.Wf(x) : f(x) ∈ Y の任意の近傍に対し,ある 0の近傍W が存在して,Wf(x) = f(x) + W とかけるので,W に対応した V をとると,f(x + V ) = f(x) + f(V ) ⊂ f(x) + W = Wf(x)となる.従って,f はX全体で連続.

1.18 Theorem¶ ³f : X → Φを線形形式,ある x ∈ Xで f(x) 6= 0とする.このとき,以下は同値.(a) f は連続.(b) ker f はXの閉集合.(c) Ker f はXで稠密ではない.(d) f は 0のある近傍で有界.µ ´

[証明]:(a)⇒(b).0はΦの閉集合であることから,その逆像 ker f は f の連続性より閉.(b)⇒(c).閉集合であることからKer f = Ker f.また仮定よりKer f 6= X.従って,Ker f 6= Xとなり,Ker f はXで稠密ではない.(c)⇒(d).(c)を仮定すると (Ker f)C が空でない内部を持つので,その元 x ∈ Xをとる.ΦのHausdorff

性から,f(x)と 0とを開集合で分離することができ,その fによる逆像を考えることで,xとKer fとを開集合で分離できる.従って,ある 0の近傍 V が存在して,

(x + V ) ∩ Ker f = φ

とできる.さらに 1.14より,V は平衡的であるとしてよい.1.16より,f(V )はΦの平衡的部分集合である.

RまたはC上の原点を含む平衡的部分集合 Eを考えたとき,その任意の点 xをとると,φx : [0, 1] →E; a 7→ axはスカラー倍の連続性により連続写像であるから,特にEは弧状連結.いま,Eが非有界であるとし,y ∈ X − Eなる点 yが存在したとする.X = R上で考えると,−y ∈ Eとすれば,| − 1| = 1

より y = −(−y) ∈ −E ⊂ E となるので矛盾する.よって,y,−y はともに E に属さず,E は 0を含むから,非有界集合であることはできない.従って E = R.X = C上でも同様に,y ∈ X − E なる点 yがあったとすると,原点中心半径 |y|の円周上の点はEに属すことはできない.すると,やはり E

が原点 0を含むことから,Eは非有界とはなれない.従って,Eは全空間X と一致する4.つまり,このことから,f(V )は有界であるか,または Φ全体に一致するしかない.後者の場合,x ∈ V に対してf(x) ∈ Φ.特に f(−x) = −f(x) ∈ Φ = f(V )であるから,−x ∈ V となり,x + V 3 0となってしまうので,x + V ∩ Ker f = φに矛盾.(d)⇒(a).(d)を仮定すると,あるMが存在して,∀x ∈ V に対し,|f(x)| < M.r > 0に対して,(r/M)V =

W とおくと,∀x ∈ W に対し,

|f(x)| = |f(rx′/M)| = r|f(x′)|/M < r

となることから,∀r > 0に対して,ある 0の近傍W が存在して,f(W ) ⊂ Br(0)とできる.従って,f

は 0 ∈ Xで連続であり,1.17より (a)が従う.

4この証明は怪しいよね・・・.

14

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Finite-Dimensional Spaces

1.19

ここでは有限次元空間についてみることにしよう.例えば,Rn, Cnには,次のようなノルムが考えられる;

‖z‖2 =

(n∑

i=1

|zi|2)1/2

, ‖z‖1 =n∑

i=1

|zi|, ‖z‖∞ = max1≤i≤n

|zi|.

実はこれらはすべて同値である5.

1.20 Lemma¶ ³XをC上の位相ベクトル空間とし,f : Cn → Xが線形写像であるとき,f は連続である.µ ´

[証明]:eini=1をCnの標準基底,すなわち第 i成分のみ1で他は0であるようなものたちとする.f(ei) = ui

とおく.このとき,∀z = (z1, · · · , zn) ∈ Cnに対し,

f(z) =n∑

i=1

ziui

となる.ϕi : Cn → C → X; z 7→ zi 7→ ziuiとおくと,ひとつめの射影写像は連続,ふたつめの写像はX

上のスカラー倍写像の連続性より,これは連続写像であり,f = ϕ1 + · · · + ϕnであるが,これは加法の連続性から連続である.

1.21 Theorem¶ ³n > 0とし,Y を位相ベクトル空間Xの n次元部分空間とする.(1) f : Cn → Y が線形同型ならば同相写像.(2) Y はXの閉集合.µ ´

[証明]:(1) Cnの単位球をBとし,その境界を Sとする.

z ∈ S ⇔n∑

i=1

|zi|2 = 1, z ∈ B ⇔n∑

i=1

|zi|2 < 1

である.fを線形同型とし,K ≡ f(S)とおく.Sがコンパクトであることと fの連続性(1.20から出る)より,Kはコンパクトである.f(0) = 0かつfは全単射より,0 /∈ K.分離定理(1.10)より,V ∩K = φなるXの0近傍V がとれ,1.14からこれは平衡的であるとしてよい.fは同型だから,f−1(V ) = f−1(V ∩Y )

であることより,

E = f−1(V ) = f−1(V ∩ Y )

5このあたりのことはあとで具体例をまとめて扱う章を独自に設けたい.

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とおくと,E ∩ S = φとなる.f が線形であることから,1.16より Sも平衡的である.また,∀x ∈ Eに対して,ϕx : [0, 1] → E; λ 7→ λxとすれば,これはスカラー倍写像の連続性より連続写像となる.(Eが平衡的なのでこの写像はwell-defined.)すなわち,Eは弧状連結となる.単位球の境界SはCnを内部と外部の領域に分けるので,0 ∈ EかつEの弧状連結性に注意すれば,E ⊂ Bでなければならない.従って,f−1は,V ∩ Y をBの中にうつす.つまり,f−1は,Xのある 0-近傍で有界であり,1.18から連続.従って f は同相となる.(2) p ∈ Y に対し,f, V を (1)の通りとすると,ある単調増大発散列 rnによって,

X =∞∪

n=1

rnV

とかける(1.15)ので,p ∈ Xより,ある n0が存在して,n ≥ n0ならば p ∈ rnV.すなわち,十分大きい tに対して p ∈ tV となる.

f−1(tV ∩ Y ) ⊂ tBに注意すると,tV ∩ Y ⊂ f(tB)となるので,

Y ∩ (tV ) ⊂ f(tB) ⊂ f(tB)

となり,p ∈ f(tB).ここで,tBがコンパクトであることから,その連続像 f(tB)もコンパクト.位相ベクトル空間XはHausdorff空間であったから,そのコンパクト部分集合は閉集合である.よって,f(tB)

は閉.従って,p ∈ f(tB) = f(tB) ⊂ Y.よって,Y ⊂ Y.逆は明らかなので,Y = Y が従う.すなわち Y は閉となる.

ここで位相空間論の基礎的な命題を用いた.¶ ³ハウスドルフ空間のコンパクト部分集合は閉集合である.µ ´

[証明]:Xをハウスドルフ空間とし,Aをそのコンパクト部分集合とする.p ∈ AC とする.このとき,任意の a ∈ Aに対して,X のハウスドルフ性から,Va ∩ Ua = φとなるような開集合 Ua 3 a, Va 3 pがとれる.Uaa∈AはAの開被覆であるから,Aのコンパクト性によって,Uai

なる有限部分被覆がとれる.このとき,V = ∩iVai

は,各 iについて,V ∩ Uai⊂ Vai

∩ Uai= φをみたすので,U = ∪iUai

と交わらず,従って,Aと共通部分を持たない開集合.これが任意の p ∈ AC について成り立つので,AC は開集合となり,Aが閉集合となることが従う.

1.22 Theorem¶ ³局所コンパクト位相ベクトル空間は有限次元である.µ ´

[証明]:局所コンパクト性から,0の近傍 V で,V がコンパクトであるようなものが存在する.1.15(b)

から(V は有界なので)V は有界.さらに 1.15(c)より,

2−nV ; n = 1, 2, · · ·

が基本近傍系としてとれる.

V ⊂∪x∈X

(x +

1

2V

)

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なる開被覆を考えると,V のコンパクト性から,

V ⊂(

x1 +1

2V

)∪

(x2 +

1

2V

)∪ · · · ∪

(xm +

1

2V

)と有限部分被覆がとれる.

Y = 〈x1, x2, · · · , xm〉とおく.このとき dim Y ≤ m.1.21より,有限次元部分空間は閉だから,Y は閉集合となる.ここで,

V ⊂ Y +1

2V, λY = Y (∀λ 6= 0)

であることから,12V ⊂ Y + 1

4V.よって,

V ⊂ Y +1

2V ⊂ Y + Y +

1

4V = Y +

1

4V

となる.以下同様に繰り返すことで,

V ⊂∞∩i=1

(Y + 2−nV )

である.ここで,2−nV が基本近傍系であったことに注意すると,任意の 0-近傍 U に対して,ある n

が存在して,2−nV ⊂ U が成り立つから,

V ⊂∞∩i=1

(Y + 2−nV ) ⊂∩

U ;0−近傍

(Y + U)

となる.1.13(a)を用いると,V ⊂ Y.しかし,Y は閉だったので,Y = Y より,V ⊂ Y.従って,任意の k > 0に対し,kV ⊂ kY = Y.1.15(a)より,

X =∞∪

k=1

kV ⊂ Y

となる.Y ⊂ Xは明らかだから,Y = Xとなって,dim X ≤ mが従う.

1.23 Theorem¶ ³Xを局所有界な位相ベクトル空間とし,Heine-Borel性を持つと仮定する.このとき,Xは有限次元である.µ ´

[証明]:局所有界性より,0は有界な近傍を持つ.1.13(f)より V も有界.また,V は閉であることから,Heine-Borel性により V はコンパクト.つまり,Xは局所コンパクト空間となる.従って,1.22より有限次元である.

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Metrization

位相空間 (X, τ)が距離化可能(metrizable)であるとは,X 上の距離で,位相 τ と整合的なものが存在するときを言うのであった.距離空間においては,各点のまわりの 1/n-開球たちをあつめたものが基本近傍系であった.特に,もし位相ベクトル空間が距離化可能であれば,(位相ベクトル空間の不変性によって)原点のまわりの 1/n-開球たちが基本近傍系を与え,それは特に可算個の元からなっている.逆に,位相ベクトル空間に対しては,可算な基本近傍系が存在すれば,距離化可能であることが次の定理によって従う.

1.24 Theorem¶ ³Xを位相ベクトル空間とし,可算個の元からなる基本近傍系を持つとする.このとき,X上の距離dで以下をみたすものが存在する.(a) dはXの位相と整合的.(b) 0のまわりの開球は平衡的.(c) dは(平行移動)不変;d(x + z, y + z) = d(x, y) (∀x, y, z ∈ X).特に,Xが局所凸空間である場合,さらに次の (d)も満たす.

(d) すべての開球が凸.µ ´[証明]:可算基本近傍系を γとする.ここから 1.14(とその証明)によって,可算個の元からなる平衡的な基本近傍系 γ′をつくることができる.(Xが局所凸ならば,γ′も凸な平衡的基本近傍系としてとれる.)ここで γ′ = Un∞n=1とすると,

V1 = U1, V2 = U1 ∩ U2, V3 = U1 ∩ U2 ∩ U3, · · · , Vm = U1 ∩ U2 ∩ · · · ∩ Um, · · ·

として Vn∞n=1をつくると,Vn ⊂ Un.凸性や平衡性は保たれ,かつ Vnは単調減少である.従って,X

の平衡的な可算基本近傍系として,単調減少なものがとれる.(Xが局所凸空間なら,さらに凸なものとしてとれる.)いま,Vnに対して,加法の連続性から V + V ⊂ Vnとなるように 0-近傍 V がとれる.これは平衡的であるとしてよい(1.14).(Xが局所凸なら凸としてよい.)V ∩ Vn+1 ⊂ Vn+1を改めて Vn+1

とおくことで,改めて単調減少列 Vnをつくる.これによって,単調減少で平衡的な可算基本近傍系が構成できる.(局所凸ならば凸性も言える.)この基本近傍系は,Vn+1 + Vn+1 ⊂ Vnをみたしている.上と同様な方法でさらに取り直すことで,単調減少で(X局所凸なら凸性も持つ)平衡的な可算基本近傍系であって,

Vn+1 + Vn+1 + Vn+1 + Vn+1 ⊂ Vn

なるものが構成できる.さて,

D =

r ∈ Q; r =

∞∑n=1

cn(r)2−n 但し,cn(r) ∈ 0, 1であって有限個を除いて 0とする.

とおく.すなわち,Dは 2進小数の全体である.ここで r ∈ Dは 0 ≤ r < 1をみたしていることに注意する.そこで,r ≥ 1ならばA(r) = Xとし,r ∈ Dなら,

A(r) =∞∑

n=1

cn(r)Vn

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と定義する.右辺は,cn(r)が有限個の nを除いて 0なので,有限和となることに注意しておく.また,1/2nの 2進小数展開では,cnを除いて各係数は 0であることから,A(1/2n) = Vnとなることにも注意する.ここで,

f(x) = infr; x ∈ A(r)

と定義し,

d(x, y) ≡ f(x − y)

と dを定義する.これが求める性質を持つ距離であることを以下で示そう.ここで次の補題を考える.証明は,最後に回すことにする.

r, s ∈ Dに対し,A(r) + A(s) ⊂ A(r + s)が成り立つ. · · · · · · (∗)

この (∗)をひとまず認める.すると,∀s ∈ Dに対して,A(s) 3 0であることに注意すると,r < tであるとき,

A(r) ⊂ A(r) + A(t − r) ⊂ A(t)

が成り立つ.(最初の包含関係に上の注意を用い,2番目の包含関係に (*)を用いた.)このことから,A(r)は,包含関係によって全順序であることがわかる.ここで,

f(x + y) ≤ f(x) + f(y) (∀x, y ∈ X) · · · · · · (∗∗)

が成り立つことを示す.実際,まず f(x) ≤ 1 (∀x ∈ X)であることから,f(x) + f(y) = 1ならば明らかなので,f(x) + f(y) < 1とする.このとき,2進小数の稠密性から,任意の ε > 0に対して,

∃r, s ∈ D s.t. f(x) < r, f(y) < s, r + s < f(x) + f(y) + ε

とできる.従って,f(x) < r, f(y) < sより x ∈ A(r), y ∈ A(s).(ここで A(r)に全順序がついていることを用いている.)このことから,(∗)を用いると,

x + y ∈ A(r) + A(s) ⊂ A(r + s)

となる.よって,

f(x + y) ≤ r + s < f(x) + f(y) + ε

となり,εは任意より,f(x + y) ≤ f(x) + f(y)が従う6.このことから,

d(x, z) = f(x − z) = f(x − y + y − z) ≤ f(x − y) + f(y − z) = d(x, y) + d(y, z)

となり,dは三角不等式を満たすことがわかる.f(0) = infr; 0 ∈ A(r)だが,任意の rに対して,A(r) 3 0なので,f(0) = 0は成り立つ.そこでx 6= 0

6この Paperでも以下頻繁に用いる論法.任意の ε > 0に対して,A < B + εが成り立つならば,A ≤ B.

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とすると,ある nが存在して、x /∈ Vn = A(2−n)とできるから,f(x) ≥ 2−n > 0となり,f(x) 6= 0.このことから,

d(x, y) = 0 ⇔ f(x − y) = 0 ⇔ x − y = 0 ⇔ x = y

となる.更に,各 Viが平衡的であることから,その有限和であるA(r)も平衡的となり,

x ∈ A(r) ⇔ −x ∈ −A(r) ⊂ A(r)

となるので,f(x) = f(−x).このことから,

d(x, y) = f(x − y) = f(y − x) = d(y, x)

となる.以上により,距離の 3公理が証明できたので,dはX上の距離となる.また,距離の(平行移動)不変性 (c)は,

d(x + z, y + z) = f((x + z) − (y + z)) = f(x − y) = d(x, y)

よりわかる.Xのもとの位相と距離 dが整合的であることを示す.実際,

Bδ(0) = x ∈ X|d(x, 0) = f(x) < δ =∪r<δ

A(r)

であるから,δ < 2−nとすれば,Bδ(0) ⊂ Vnとできる.逆に,∀δ > 0に対して,ある nがとれて 2−n < δ

とできるから Vn ⊂ Bδ(0)とできる.以上より,Vn,Bδ(0)がXに定める近傍系は一致するので,距離 dと位相は整合的である.よって (a)は成立.いまA(r)は平衡的であるから,その和集合であるBδ(0)も平衡的である.よって,(b)も成り立つ.Vn

が凸であるとすると,

tA(r) + (1 − t)A(r) =∑

i

ci(r)(tVi + (1 − t)Vi) ⊂∑

i

ci(r)Vi = A(r)

となるので,A(r)は凸.(ここで包含関係に Viが凸であることを用いた.)従って,その和集合Bδ(0)も凸となる.よって (d)も証明できたので,定理の証明が完成した.[(∗)の証明]:r + s ≥ 1ならA(r + s) = Xだから (∗)は自明に成り立つ.

r+s < 1とする.このとき,2進小数展開の和とそのくりあがりの意味を考えることにより,次がわかる.

r + s, r, s ∈ D, ∃n cn(r) + cn(s) 6= cn(r + s)とすると,そのような最小の nに対して,cn(r) = cn(s) = 0, cn(r + s) = 1が成り立つ.

そこで,まず任意の nに対して,cn(r) + cn(s) = cn(r + s)が成り立つとすれば,

A(r) + A(s) =∞∑

n=1

(cn(r) + cn(s))Vn =∞∑

n=1

cn(r + s)Vn = A(r + S)

となって成立.もしある nで cn(r) + cn(s) 6= cn(r + s)とすると,そのような最小の nに対して,上のことから cn(r) = cn(s) = 0, cn(r + s) = 1だから,

A(r) ⊂ c1(r)V1 + · · · + cn−1Vn−1 + Vn+1 + Vn+2 + · · ·⊂ c1(r)V1 + · · · + cn−1(r)Vn−1 + vn+1 + Vv+1

A(s) ⊂ c1(s)V1 + · · · + cn−1(s)Vn−1 + vn+1 + Vv+1

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となるので,

A(r) + A(s) ⊂ (c1(r) + c1(s))V1 + · · · + (cn−1(r) + cn−1(s))Vn−1 + Vn+1 + Vn+1 + Vn+1 + Vn+1

⊂ c1(r + s)V1 + · · · + cn−1(r + s)Vn−1 + Vn+1 + Vn+1 + Vn+1 + Vn+1

(∵ m < nでは cm(r) + cm(s) = cm(r + s).)

⊂ c1(r + s)V1 + · · · + cn−1(r + s)Vn−1 + Vn (∵最初の Vnの取り方.)⊂ c1(r + s)V1 + · · · + cn−1(r + s)Vn−1 + Vn + cn+1(r + s)Vn+1 + · · · (∵ Vi 3 0 ∀i.)

⊂ A(r + s)

となって (∗)が証明できた.

1.25 Cauchy sequences

(a) 距離空間 (X, d)の点列 xnがCauchy列であるとは,

∀ε > 0,∃N s.t. n,m > N ⇒ d(xn, xm) < ε

と定義される.この定義をひとまず「d-Cauchy列」と呼ぶことにしよう.(なお,任意のCauchy列がX

上の点に収束するとき,dを完備な距離というのであった.)(b) (X, τ)を位相ベクトル空間とするとき,Xの基本近傍系Bをひとつ固定しよう.このとき,Xの点列 xnがCauchy列であるとは,

∀V ∈ B, ∃N s.t. n,m > N ⇒ xn − xm ∈ V

と定義される.この定義をひとまず「τ -Cauchy列」と呼ぶことにしよう.ここで注意しなければならないことは,「τ -Cauchy列」の概念は,基本近傍系Bの取り方に依存しないことである7.実際,B′というもうひとつの基本近傍系を取る.このとき,xn ⊂ XがBから決まる τ -Cauchy列であるとする.まずB′がXの基本近傍系であったことに注意すると,∀V ′ ∈ B′に対し,V ⊂ V ′なる V ∈ Bが存在するので,この V に対して τ -Cauchy列の定義を使えば,

V ∈ B, ∃N s.t. n,m > N ⇒ xn − xm ∈ V ⊂ V ′

となる.従って xnはB′の意味でも τ -Cauchy列である.このことは,BとB′の役割を入れ替えても同様にできるので,τ -Cauchy列の概念は,基本近傍系の取り方によらず定まることがわかる.(c) (X, τ)が位相ベクトル空間であるとし,τと整合的でかつ不変な距離dがあるとする.このとき,(a)から d-Cauchy列の概念が,(b)から τ -Cauchy列の概念が定まる.dが不変な距離であるから,d(xn, xm) =

d(xn − xm, 0)であること,及び,距離空間とみた場合には,0のまわりの ε-開球全体が基本近傍系となることに注意すると,

「xnが d-Cauchy列」 ⇒ 「∀ε > 0, ∃N,n,m > N ⇒ d(xn, xm) < ε」

⇒ 「∀ε > 0, ∃N,n,m > N ⇒ xn − xm ∈ Bε(0)」

⇒ 「τ -Cauchy列」7基本近傍系の取り方そのものは一意的とは限らない.X の近傍系全体をとれば,もちろんそれは基本近傍系であるが,も

う少し少なくても良いこともある.距離空間では,各点のまわりの ε-開球すべてをとっても,もちろん基本近傍系になっているが,1/n-開球だけをあつめてきても,それは基本近傍系となっている.こうした取り方に一意性のないものに依存して定義されている場合には,定義の方が取り方に依存しないことをチェックしなければならず,これは(たぶん)数学特有の議論なのだとおもう.

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となる.逆は同様にできる.(ここで τ -Cauchy列の定義は,基本近傍系の取り方によらなかったことに注意.従って,τ と整合的な距離 dの定める基本近傍系を使って議論することができる.また,ここで d

が不変な距離であったことにも注意.)以上のことから,d-Cauchy列の概念と τ -Cauchy列の概念は一致することが示された.このことから直

ちにわかるように,位相ベクトル空間 (X, τ)上に,τ と整合的で不変な距離 d1, d2が与えられた場合,それらの定める d1または d2-Cauchy列の概念は一致し,特に,両者の収束性も一致する.(収束列はCauchy

列.)このことから次が従う8.¶ ³d1,d2をベクトル空間X上の不変な距離とし,ともに同じ位相を定めるとする.(a) d1, d2は同じCauchy列を持つ.(b) 「d1が完備」⇔「d2が完備」.µ ´

1.26 Theorem

”dilation principle”をひとつ述べる9.¶ ³完備距離空間 (X, d1)と(完備とは限らない)距離空間 (Y, d2)があり,EをXの閉部分集合,f : E → Y

を連続写像とし,更に,

d2(f(x), f(x′)) ≥ d(x, x′) (∀x, x′ ∈ E) · · · · · · (∗)

が成り立つとする.このとき,f(E)は閉集合である.µ ´[証明]:y ∈ f(E)とする.このとき,∃xn s.t. limn→∞ f(xn) = yとできる.よって,f(xn)は収束列だから,特に Cauchy列.(∗)の条件から xnも Cauchy列となることに注意し,(X, d1)の完備性から,∃x ∈ E s.t. limn→∞ xn = xとできる.よって,

f(x) = limn→∞

f(xn) = y

となる.(最初の等号は f の連続性による.)このことから y ∈ f(E)となって,f(E) = f(E),すなわちf(E)は閉集合.

1.27 Theorem¶ ³Xを位相ベクトル空間とし,Y をその部分空間とする.更に,Y はF -空間(i.e. Xからの相対位相が完備不変な距離 dと整合的)であるとする.このとき,Y はXの閉部分空間である.µ ´

[証明]:Xからの相対位相と整合的な完備不変距離を dとし,

B1/n = y ∈ Y |d(y, 0) < 1/n8実は,以下の定理で,d1, d2 が共に不変な距離であることは重要な仮定で,外すことはできない.例えば,R上の距離

d1 = |x − y|は不変な距離,φ(x) = x/(1 + |x|)に対し,d2(x, y) = |φ(x) − φ(y)|は不変ではない距離であり,両者は同じ位相を定めるにも関わらず,d1は完備,d2は完備ではないことが証明できるらしい.Rudinの本の節末演習問題 [12]に紹介されている.

9「拡張原理」(?)と訳すのかもしれないが,命題を見ても何を何に拡張しているのかよくわからないが.

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とおく.Y の位相がXからの相対位相であることから,Xにおける 0の近傍Unであって,Y ∩Un = B1/n

となるものがとれる.まず,加法の連続性からWn + Wn ⊂ Unとなるような Wnがとれる.V1 = W1, V2 = W1 ∩W2, · · · と

することで,Vn + Vn ⊂ Unかつ Vn+1 ⊂ Vnなる Vnがとれる.1.10の補題の証明をまねることで,特に Vnは対称(i.e. Vn = −Vn)であるようにとることができる.さて,ここまで準備しておいて,x ∈ Y をとる.

En = Y ∩ (x + Vn)

とおくと,y1, y2 ∈ Enに対して,Y が部分空間であったことから,y1 − y2 ∈ Y tであり,さらに,

y1 − y2 ∈ (Vn + Vn) ∩ Y ⊂ Un ∩ Y = B1/n

となる.(ここで最初の包含関係に Vnが対称であることを用いた.)このことから,Enの直径は 0へ収束することがわかる.ところで,x ∈ Y であることから,xのどんな近傍 V をとっても Y ∩ V 6= φである.従って,En =

Y ∩ (x + Vn) 6= φ.xn ∈ Enを取り出せば,これは Cauchy列となり,Y の完備性からこれは収束して,特にEnの半径が 0に収束することから

∩Enは 2点以上は含めないので,∩

En =∩

Y ∩ (x + Vn) = y0

である.(ここで閉包は Y での閉包であることに注意.)ここで 0の近傍W を任意にとる.W ∩Vnは 0の近傍であるから,x ∈ Y であることに再び注意すると,

Fn = Y ∩ (x + (W ∩ Vn)) 6= φ

である.よって,∩

Fn 3 yW となる.特に Fn ⊂ Enであるから,yW = y0でなければならない.またFn ⊂ x + W であることから y0 ∈ x + W が任意のW について成り立つ.(ここでの閉包はXでの閉包であることに注意.)これは,y0 = xであることを意味し,x = y0 ∈ Y となり,Y = Y が従う.

1.28 Theorem¶ ³(a) Xをベクトル空間とし,dをその上の不変な距離とするとき,

d(nx, 0) ≤ nd(x, 0) (∀x ∈ X,n = 1, 2, 3, · · · )

が成り立つ.(b) xnが距離化可能空間X上の点列で,xn → 0 (n → ∞)をみたすとき,Xの点列 γnが存在して,γn → ∞ (n → ∞)かつ γnxn → 0 (n → ∞)とできる.µ ´

[証明]:(a) 三角不等式と不変性から,

d(n, x) ≤n∑

k=1

d(kx, (k − 1)x) = nd(x, 0).

(b) 距離化する距離を dとするとき,d(xn, 0) → 0であることから,

∃nk s.t. n ≥ nk ⇒ d(xn, 0) <1

k2

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とできる.

γn =

1 (n < n1)

k (nk ≤ n < nk+1)

とおくと,n > nkに対して,

d(γnxn, 0) = d(kxn, 0) ≤ kd(xn, 0) <1

k

となるので,γnxn → 0 (n → ∞)となる.

Boundedness and Continuity

1.29 Theorem

有界集合の定義も距離空間においては popularなものがあった.(X, d)を距離空間とするとき,X の部分集合 E が「d-有界」であるとは,あるM > 0が存在して,

∀x, y ∈ Eに対し,d(x, y) < M が成り立つことを言うのであった.一方,1.6で,位相ベクトル空間Xの部分集合Eが有界集合であることを,以下のように定義してい

た.すなわち,任意の 0の近傍 V に対して,ある s > 0が存在して,t > sならばE ⊂ tV となるようにできる,と.この両者の定義が一致してくれればうれしいのだが,そううまくはいかず,ノルム空間の場合には一

致するが,そうでないときには一般には一致しない10.ここでは,1.6で定義した有界性の概念を使うことにする.有界集合の例としては,1.15でコンパクト部分集合が有界であることを示した.ここでは,次のこと

を証明しよう.

Cauchy列は有界(従って収束列は有界)である.

実際,xnをXのCauchy列とする.0の平衡的近傍W に対し,加法の連続性から V + V ⊂ W なる0の平衡的近傍 V がとれる.xnがCauchy列であることから,この V に対して,あるN が存在して,n ≥ N ならば xn − xN ∈ V すなわち xn ∈ xN + V とできる.1点 xNはコンパクト集合だから特に有界なので,V に対して,s > 1を xN ∈ sV となるように選ぶことができる.このとき,

xn ∈ sV + V ⊂ sV + sV ⊂ sW (n ≥ N)

となる.そこで,x1, · · · , xN−1が tW に入るように t > sを充分大きくとれば(このN − 1個の点全体もコンパクト集合なので特に有界であるから,そのような tを取ることはできる.),xn ⊂ tW とできる.よって,Cauchy列が有界であることが示された.

1.13で有界集合の閉包もまた有界であることも示していた.一方,x 6= 0とし,E = nx; n = 1, 2, 3, · · · とすると,これは非有界である.実際,Hausdorff性か

ら,0の近傍 V で xを含まぬものを取れる.このときnxはnV には含まれないので,Eすべてを含むnV

はない.従ってEは非有界となる.このことから 0以外のXの部分空間は,Eの形のものを部分集合として含まなければならないので,

決して有界とはならない11.

10例えば,距離化可能なとき,その距離を dとすると,d/(1 + d)は同じ位相を定める距離になるが,これではどんな 2点の距離も 1以下で,すべての部分集合が有界となってしまうが,位相ベクトル空間では,そうとは限らない.

11しかしもしX が距離化可能なら,それを dとしたとき,前の脚注で書いた d′ = d/(1 + d)を考えれば,すべての部分集合が有界となってしまうので,d-有界と,位相ベクトル空間の有界性は一致しない.

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1.30 Theorem¶ ³位相ベクトル空間Xにおいて,以下は同値.(a) Eが有界部分集合.(b) xn ⊂ E, an ⊂ Φ, an → 0 (n → ∞)とするとき,n → ∞で anxn → 0が成り立つ.µ ´

[証明]:Eが有界であるとする.0の平衡的近傍V を取ると,Eの有界性から,ある tが存在してE ⊂ tV.もし xn ∈ E, an → 0とすると,

∃N s.t. n ≥ N ⇒ |an|t < 1

とできる.t−1E ⊂ V かつ V が平衡的であることに注意すると,

anxn ∈ antV ⊂ V (n ≥ N)

とできる.これは,anxn → 0 (n → ∞)を示している.逆にEが非有界であるとする.このとき,ある 0の近傍 V が存在して,さらにある rn(rn → ∞)が

存在して,どの rnV もEを含まぬように出来る.xn ∈ Eを xn /∈ rnV として選ぶと,r−1n xn /∈ V となり,

これは rnxnが 0に収束しないことを意味し,(b)が成り立たないことになる.

1.31 Bounded liner transformations¶ ³X,Y を位相ベクトル空間とし,f : X → Y を線形写像とする.このとき,f が有界であるとは,X

の任意の有界部分集合Eに対し,f(E)が Y で有界部分集合となるときを言う.µ ´[注意:一般的にいって,写像が有界であるとは,f(X)が有界であることとして定義される場合が多い.しかし,もしここでそのような定義をしたとすると,f(X)は Y の部分空間であるから,先に見たことにより,そのためには f(X) = 0または Y 自身でなければならない.そのような定義では意味がない.]

1.32 Theorem¶ ³X,Y を位相ベクトル空間とし,f : X → Y を線形写像とする.このとき,(a) ⇒ (b) ⇒ (c)が成り立つ.特にXが距離化可能であれば,(c) ⇒ (d) ⇒ (a)が成り立ち,(a)~(d)は同値となる.(a) f は連続.(b) f は有界.(c) xn → 0とすると f(xn)は有界.(d) xn → 0とすると f(xn) → 0.µ ´

[証明]:(a)を仮定すると,任意の有界集合E ⊂ X,Y における 0の近傍W に対し,あるXにおける 0

の近傍 V が存在して,f(V ) ⊂ W とできる.(f の連続性.)Eが有界であることから,ある tが存在して,E ⊂ tV とできるので,

f(E) ⊂ f(tV ) = tf(V ) ⊂ tW

となり,f(E)は有界となる.よって (b)が成り立つ.収束列はCauchy列なので,それは有界集合であり,(b)を仮定すると,その像も有界集合である.よっ

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て (c)が示された.以下,Xが距離化可能であるとする.f が (c)をみたし,xn → 0であると仮定すると,1.28でみたことから,γn(γn → ∞)かつ γnxn → 0

なるものがとれる.(c)より,f(γnxn)は有界集合.γ−1n → 0であることから 1.30(b)がつかえて,

f(xn) = γ−1n f(γnxn) → 0 (n → ∞)

となり,(d)が従う.(a)が成り立たない(すなわち f が連続でない)とすると,Y における 0の近傍W で f−1(W )がXに

おける 0の近傍を含まないようにできる.Xが距離化可能であったことから,Xは可算基本近傍系 Viを持つ.そのどれも f−1(W )に含まれないようにできるのであるから,各 Viから xiをとると,xn → 0

かつ f(xん) /∈ W となるようにできる.これは (d)が成り立たないことを示している.従って (d) ⇒ (a)

が示された.

Seminorms and Local Convexity

ここでは,(超関数論では主役を演じる?)セミノルムを定義し,局所凸空間との関係をみていく.

1.33 Definitions¶ ³ベクトル空間X上のセミノルムとは,X上の実数値関数 pであって,∀x, y ∈ X,∀a ∈ Φ

(a) p(x + y) ≤ p(x) + p(y),(b) p(ax) = |a|p(x)

をみたすときを言う.µ ´われわれは,ベクトル空間上の 1つのセミノルムを考えるのではなくて,X上のセミノルムの族が与えられている場合を考える.¶ ³

X上のセミノルムの族Pが,分離的(separating)であるとは,∀x ∈ Xに対し,ある p ∈ Pが存在して,p(x) 6= 0となることを言う.(同値だが,∀p ∈ Pに対して p(x) = 0ならば x = 0であると言い換えてもよい.)µ ´

(本来は平衡的集合を定義したときに定義すれば良いのだが)吸引的(absorbing)集合を定義しよう.¶ ³凸部分集合A ⊂ Xが吸引的(absorbing)であるとは,

∀x ∈ X, ∃tx > 0 s.t. x ∈ txA

をみたすときを言う.µ ´例えば,吸引的集合は 0を含む.(実際,もし含まなければ,x = 0としたとき,どんな tをとっても x = 0

が tAに含まれなくなる.)また,1.15(a)から,0のまわりのどんな近傍も吸引的である.

さて,セミノルムと局所凸空間の関係は以下の 2つの意味で重要である.(1) 任意の局所凸空間は分離的な可算セミノルム系を持つ.

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(2) 逆に,分離的な可算セミノルム系Pが存在すれば,∀p ∈ Pが連続となるような局所凸位相が定まる.

これらのことを見るために,次のような関数を考える.¶ ³位相ベクトル空間Xの吸引的部分集合Aに対し,A上のミンコフスキー関数(Minkovski functional)

とは,

µA(x) = inft > 0; t−1x ∈ A

と定義する.(Aが吸引的だから,µA(x) < +∞ (∀x ∈ X)となっている.)µ ´1.34 Theorem¶ ³位相ベクトル空間Xとその上のセミノルム pを考える.このとき,以下が成り立つ.(a) p(0) = 0.(b) |p(x) − p(y)| ≤ p(x − y).(c) p(x) ≥ 0.(d) x; p(x) = 0はXの部分空間.(e) B = x; p(x) < 1は凸,平衡的,吸引的かつ p = µB.µ ´

[証明]:(a) セミノルムの定義 p(ax) = |a|p(x)で a = 0とおくと,p(0) = 0が従う.(b) p(x) = p(x − y + y) ≤ p(x − y) + p(y)であるから,p(x) − p(y) ≤ p(x − y).x, yの役割を入れ替え,p(−x) = | − 1|p(x) = p(x)より p(x − y) = p(y − x)であることに注意すると,(b)が従う.(c) (b)で y = 0とすると 0 ≤ |p(x)| ≤ p(x).よって (c)が従う.(d) p(x) = p(y) = 0とするとき,

0 ≤ p(ax + by) ≤ p(ax) + p(by) = |a|p(x) + |b|p(y) = 0

より (d)が従う.(e) |a| ≤ 1とすると,p(ax) = |a|p(x) < 1より,Bは平衡的.また 0 < t < 1に対して,p(tx + (1 −t)y) ≤ tp(x) + (1 − t)p(y) < 1より,Bは凸.x ∈ X, s > p(x)とすると,p(s−1x) = s−1p(x) < 1より,s−1x ∈ B.従ってBは吸引的.特に,µB(x) ≤ s.すなわち µB ≤ pが従う.逆に,0 < t ≤ p(x)に対して,1 ≥ t−1p(x) = p(t−x)であるから t−1x /∈ Bとなるので,p ≤ µB.よって (e)も成立.

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1.35 Theorem¶ ³Xを位相ベクトル空間とし,Aを凸かつ吸引的な部分集合とする.このとき,以下が成り立つ.(a) µA(x + y) ≤ µA(x) + µA(y).(b) µA(tx) = tµA(x) (t ≥ 0).(c) Aが平衡的ならば,µAはA上のセミノルム.(d) B = x; µA(x) < 1, C = x : µA(x) ≤ 1とおくと,B ⊂ A ⊂ C なる包含関係があり,更に,µB = µA = µC.µ ´

[証明]:(a) t = µA(x) + ε/2, s = µA(y) + ε/2とおくと,µAの定義から,x/t, y/s ∈ A.このとき,

x + y

s + t=

t

s + t· x

t+

s

s + t· y

s

に注意すると,Aの凸性から,(x + y)/(s + t) ∈ Aとなり,µA(x + y) ≤ s + t = µA(x) + µA(y) + εとなる.εは任意より,(a)が従う.(b)は,

s ≥ µA(tx) ⇔ s−1tx ∈ A ⇔ (t−1s)−1x ∈ A ⇔ t−1s ≥ µA(x) ⇔ s ≥ tµA(x)

よりわかる.(c) a = tb (t > 0, |b| = 1)とかくと,t = |a|なので,

µA(ax) = tµA(bx) = tµA(x) = |a|µA(x)

より (c)が従う.ここで 2番めの等号で,Aが平衡的であることを用いた.(d) HA(x) = t > 0|t−1x ∈ Aとおく.(µA(x) = inf HA(x).)このとき,

µA(x) < 1 → 1 ∈ HA(x) ⇒ x ∈ A

よりB ⊂ Aが従う.同様に,

x ∈ A ⇒ 1 ∈ HA(x) ⇒ µA(x) ≤ 1

よりA ⊂ Cが従う.また一般にE ⊂ F であるとき µE ≥ µF であることから,

µB ≥ µA ≥ µC

はよい.そこで,x ∈ Xをひとつ固定して,µC(x) < s < tなる s, tを任意に取る.このとき,s−1x ∈ C

より µA(s−1x) ≤ 1となるので µA(x) ≤ s.また,µA(t−1x) = t−1µA(x) ≤ s/t < 1より t−1x ∈ B.従って,µB(t−1x) ≤ 1となり µB(x) ≤ t.従って,t = µC(x) + εとすれば,µB(x) ≤ µC(x) + ε.εは任意より,µB(x) ≤ µC(x).以上より,求める等号が成立する.

1.36 Theorem¶ ³Xを位相ベクトル空間とし,Bをその凸かつ平衡的な基本近傍系とする.各 V ∈ Bに対し,µV が以下をみたす;(a) V = x ∈ X; µV (x) < 1とかける.(b) µV ; V ∈ BはX上の連続なセミノルムの族であり,かつ分離的である.µ ´

[証明]:(a) x ∈ V に対し,V が開集合であることから,スカラー倍 x 7→ axの連続性により,ある

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1 > t > 0で t−1x ∈ V となるようにできる.従って µA(x) < 1.逆に,x /∈ V とすると,V が平衡的なので,s < 1なる sに対して,sV ⊂ V であるから,s−1x ∈ V とすると x ∈ sV ⊂ V となり矛盾する.従って,t−1x ∈ V ならば t ≤ 1でなければならない.従って µA(x) ≥ 1.以上より,(a)の等号が言える.(b) V は平衡的なので,1.35(c)から,µV (x)がX上のセミノルムであることは言えている.µV (x)が連続であることは,任意の ε > 0に対して,εV を考えると,x − y ∈ εV ならば,

|µV (x) − µV (y)| ≤ µV (x − y) < ε

となって連続性が従う.(ここで最初の不等号は 1.34(b)より.2番めの不等号は,(a)より.)分離性は,0 6= x ∈ Xに対し,(Hausdorff性から)x /∈ V ∈ Bなる V をとることができるので,この

V に対して,(a)より µV (x) ≥ 1.従って µV は分離的.

1.37 Theorem¶ ³ベクトル空間X上の分離的なセミノルム族Pが与えられているとする.このとき,p ∈ P, n > 0に対し,

V (p, n) =

x ∈ X; p(x) <

1

n

とおく.Bを「V (p, n)の有限個の共通部分」の全体と定義すると,Bは,以下を満たすようなX上の位相 τ を誘導する凸平衡的な基本近傍系となる;τ は,X上の局所凸位相であって,(a) すべての p ∈ Pは連続.(b) 「E ⊂ Xが有界」⇔「任意の p ∈ PがE上有界」.µ ´

[証明][Step.1]:Bから位相を定義する.そのために,A ⊂ Xが開集合であることを,AがBの元の平行移動したものたちの和集合としてかけることと定義する.これによって,X上に位相が定まり,このときBはこの位相の基本近傍系である.また,この位相は明らかに平行移動不変性を持つ (1.7参照).[Step.2]:Bの各元が凸平衡的であること.これは V (p, n)が凸かつ平衡的であることを示せば,その共通部分なので凸かつ平衡的である.実際,∀x, y ∈ V (p, n), 0 ≤ t ≤ 1に対し,

p(tx + (1 − t)y) ≤ tp(x) + (1 − t)p(y) < t/n + (1 − t)/n = 1/n

より tx + (1 − t)y ∈ V (p, n)であるから V (p, n)は凸.さらに,|λ| ≤ 1に対し,

p(λx) = |λ|p(x) < |λ|/n ≤ 1/n

となるので λx ∈ V (p, n).よって V (p, n)は平衡的.[Step.3]:1点が閉であること.0が閉集合であることを示せば,平行移動不変性によって,他の任意の 1点集合も閉であることが従う.そこで 0 6= ∀x ∈ Xを取る.セミノルムの分離性から ∃p ∈ Pに対し,p(x) 6= 0.np(x) > 1なる nに対して,x /∈ V (p, n)であることから,xの近傍 x − V (p, n)に 0は含まれていない.従って,xのある近傍 V で 0と交わらないものが存在するので x /∈ x.x 6= 0は任意であるから,0C は開集合,すなわち,0は閉集合となる.[Step.4]:加法がこの位相に関して連続であること.U を 0の任意の近傍とすると,これはBが基本近傍系であることから,∃p1, · · · , pm ∈ P, ∃n1, · · · , nm > 0が存在して,

U ⊃ V (p1, n1) ∩ · · · ∩ V (pm, nm)

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である.そこで,

V = V (p1, 2n1) ∩ · · · ∩ V (pm, 2nm)

とおく.このとき,p(x + y) ≤ p(x) + p(y)であることから,V + V ⊂ U であることが従う.よって,加法は連続である.[Step.5]:スカラー倍がこの位相に関して連続であること.x ∈ X, a ∈ Φとし,U, V を上で作ったものとする.ここで x ∈ Xに対し,maxi(pi(x)) = Mx, maxi(ni) = N とし,s = (Mx + 1)(N + 1)とおくと,

pi(s−1x) = s−1pi(x) =

pi(x)

(Mx + 1)(N + 1)≥ 1

N + 1<

1

ni

となるので,s−1x ∈ V とくに x ∈ sV とできる.さらに,t = s/(1+|a|s)とおく.このとき,y ∈ x+tV, |b−a| < 1/sに対して,by−ax = b(y−x)+(b−a)x

を考えると,

|b|tV + |b − a|sV ⊂ V + V ⊂ U

に属している.(ここで |b − a| < 1/sに注意すると

|b|t − 1 =|b|s

1 + |a|s− 1 =

(|b| − |a|)s − 1

1 + |a|s<

|b − a|s − 1

1 + |a|s< 0

より |bt| < 1, |b − a|s < 1であることを用いた.)このことから,スカラー倍の連続性が従う.[Step.6]:∀p ∈ Pが連続であること((a)の証明).任意の ε > 0に対して,ある N が存在して,1/N < εとできるから,x ∈ V (p,N)に対し,p(x) < 1/n < ε.よって,p ∈ Pは原点で連続.1.34(b)から,x − y ∈ V (p,N)ならば |p(x) − p(y)| ≤ p(x − y) < 1/N < εとできるので,pはX全体で連続.[Step.7]:(b)の証明.E ⊂ X が有界であるとする.p ∈ Pを任意に一つ固定する.V (p, 1)が 0の近傍であることから,Eの有界性により,ある k < ∞が存在して,E ⊂ kV (p, 1).すると x ∈ Eに対しp(x) < k < ∞となり,pはE上で有界となる.逆に,任意の p ∈ PがE上で有界であるとすると,0の任意の近傍Uに対して,[Step.4]のような pi, ni

をとると,pi(E) < MiなるMiがとれる.n > maxi(niMi)ならば,E ⊂ nU.よってEは有界集合となる.

1.38 Remarks

(a):1.37で,Bをつくる際,V (p, n)の有限個の共通部分とした.実は V (p, n)だけでは基本近傍系とはならず12,これは準基 (subbase)などと呼ばれている.(b):1.36では,位相ベクトル空間Xに対し,その基本近傍系を考えて,そこからセミノルム系を構成した.一方,1.37では,ベクトル空間X上のセミノルム系から位相を定義した.このとき,初めの位相ベクトル空間の位相 τからセミノルムP = µV をつくり,そのセミノルム系から位相 τ1を導入した場合,両者の位相が一致するかどうかが問題となる.実際,これらは一致する.なぜなら,まず,p = µV (V ∈ Bτ )

とかけるので,

V (p, n) = x ∈ X; p(x) = µV (x) < 1/n = (1/n)V

12具体的な例は節末演習問題 8で与えられている.

30

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だから,τ におけるスカラー倍の連続性より,V (p, n)は,τ -開集合.従って,τ1 ⊂ τ.逆に,W ∈ Bτ に対し,P = µW とすると,

W = x ∈ X; µW (x) < 1 = V (p, 1)

となり,W は τ1-開集合.よって τ ⊂ τ1.従って τ = τ1となる.(c) もしP = piなる分離的可算セミノルム系がX上に与えられているとき,1.37は,X上に可算基本近傍系から導かれる位相が入ることを示している.1.24の結果から,この位相は距離化可能である.実は,この距離は明示的に与えることができて,

d(x, y) = maxi

cipi(x − y)

1 + pi(x − y)

で与えられる.ここで ciは ci → 0を満たす数列である.まず,dが X 上の距離となることを示す.d(x, y) ≥ 0は良い.d(x, y) = 0とすると,∀iに対して

pi(x − y) = 0でなければならず,分離性から x − y = 0すなわち x = y でなければならない.またd(x, y) = d(y, x)は,p(x − y) = p((−1)(y − x) = | − 1|p(y − x) = p(y − x)よりわかる.三角不等式は,まず,t/(1 + t)の単調増大性13に注意して,r, s, t ≥ 0, r ≤ s + tに対し,

r

1 + r≤ s + t

1 + s + t≤ s + t + st

1 + s + t + st≤ s

1 + s+

t

1 + t

が成り立つので,r = pi(x− z), s = pi(x− y), t = pi(y− z)とおくと,セミノルムの性質から r, s, tについての上の条件は満たされるので,r, s, tにそれぞれ代入して,両辺を ciで割り,両辺の最大値をとれば,三角不等式が導かれる.位相の一致を示すために,

Br = x; d(x, 0) < r (0 < r < ∞)

が τ の凸かつ平衡的な基本近傍系となることを示す.まず,ci → 0であることから,∀r > 0に対して,ci > rなる iは有限個しかない.それを i1, · · · , 1k

とすると,

Br =k∪

j=1

V

(pj,

r

cj − r

)

とかける.(ただし,ci > rなる iがないときは,Br = X.)実際,x 6= 0なら pi(x)/(1 + pi(x)) < 1より,

ci ≤ r ⇒ cipi

1 + pi

< r

が任意のx ∈ Xに対して成立する.従って,ci > rなる iに対して,d(x, 0) < rならば,pi < r/(ci−r)が成り立つので,V (pi, r/(ci− r))に含まれている.すなわち ci > rなる iに対して,Br ⊂ V (pi, r/(ci− r)).よって,上の等号の⊂が示された.逆は明らかなので等号が言える.(ci > rなる iが無い場合はBr = X

となることは明らか.)ここで V (pi, r/(ci − r))は開集合であり,しかも凸,平衡的であるから,その有限個の共通部分も開集

合,凸かつ平衡的であることがわかる.

13f(t) = t/(1 + t)とおくと,f ′(t) = 1/(1 + t2) > 0.でもこれに着目するのは少し上手すぎるよねぇ.

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次に,Xの 0の近傍W を任意にとると,Xの τ に関する基本近傍系が V (pi, n)の有限個の共通部分で与えられるから,基本近傍系の定義によって,

W ⊂k∪

i=1

V (pi, δi) (δi < 1)

と(必要に応じて δiを小さく取り直して)とることができる.そこで,

2r < min1≤i≤k

ciδi

なる rを取ると,∀x ∈ Brに対し,

cipi(x)

1 + pi(x)< r <

ciδi

2

が成り立つ.従って,左辺と右辺をみて不等式を整理すると,

pi(x) <δi

2 − δi

< δi

となるので,pi(x) < δiとなって,x ∈ ∩iV (pi, δi) ⊂ W となる.従ってBr ⊂ W となる.以上より,Brが基本近傍系であることが示された.このことから,τ が距離化可能であることが従

う.

1.39 Theorem¶ ³位相ベクトル空間Xがノルム化可能であることと,原点が凸かつ有界な近傍を持つこととは同値.µ ´

[証明]:Xがノルム化可能であるとし,そのノルムを ‖ · ‖とかく.このとき,B1 = x; ‖x‖ < 1を考える.‖tx + (1 − t)y‖ ≤ t‖x‖ + (1 − t)‖y| < 1より凸.どんな 0近傍 U をとっても,そこにはある δ-開球Bδ = x ∈ X; d(x, 0) = ‖x‖ < δが含まれている.(開球の全体が基本近傍系となっているので.)この δ

に対し,t = 2/δとすると,tU ⊂ tBδ ⊂ B1となるので,B1は有界.逆に,原点が凸かつ有界な近傍 V を持つとする.1.14から V には凸かつ平衡的な近傍Uが含まれ,と

くに U 自身有界である.そこで,

‖x‖ = µU(x) (x ∈ X)

と定めると,1.15(c)から,Xの位相について,rU の形の元からなる基本近傍系がとれる.x 6= 0とすると,ある r > 0が存在して,x /∈ rU.従って,‖x‖ = µU(x) ≥ rとなる.このことと 1.35(c)をあわせると,この ‖x‖はX上のノルムとなる.このとき,特に,

x; ‖x‖ < r = rU

が成り立つ.実際,‖x‖ < rならば µU(x) < rより,r−1x ∈ U すなわち x ∈ rU.逆に x ∈ rU ならばr−1x ∈ U より r ≥ µU(x).ここで,x ∈ rU かつ r = ‖x‖ = µU(x) = inf t > 0; t−1x ∈ U とすると,rnを rn < rとし,単調に r

に収束する列とすれば,r−1n x /∈ U であるから,r−1

n x ∈ UC.U が開集合であることから,UC は閉.また r−1

n x → r−1xだから,r−1x ∈ UC.これは矛盾である.よって,

x; ‖x‖ < r ⊃ rU

32

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となる14.このことから基本近傍系が一致したので,両者の導く位相は一致する.

Quotient Spaces

ここでは商ベクトル空間について述べる.

1.40 Definitions

ベクトル空間Xとその部分空間N とに対し,

x ∼ y ⇔ x − y ∈ N

と定義すると,この∼は,X上の同値関係となる.すなわち,∀x, y, z ∈ Xに対し,(1)[反射律]x ∼ s,(2)[対称律]x ∼ yならば y ∼ x,(3)[推移律]x ∼ y, y ∼ zならば x ∼ z,という 3つの条件を満たしている.(実際,N が部分空間であることから x − x = 0 ∈ N より x ∼ x.x − y ∈ N とするとやはり N が部分空間であることから −(x − y) = y − x ∈ N より y ∼ x.更に,x − y ∈ N, y − z ∈ N とすると,x − z = x − y + (y − z) ∈ N であることから x ∈ zである.)このとき,互いに同値な元をひとまとめにするとXの部分集合となる.こうして,Xを同値な元で分

類することができる.このとき x ∈ Xと同値な元全体を [x]とかいて,xの同値類という.これらの同値類全体のなす集合をX/N とかいて,商集合という.

X/N に和とスカラー倍を定義して,ベクトル空間とみなしたい.そこで,

和:[x] + [y] = [x + y], スカラー倍:a[x] = [ax]

と定義したい.しかし,ここで,”well-defined”という問題が発生する.x ∼ x′であるとき,[x] = [x′]である.これは推移律による.実際,w ∈ [x]ならばw ∼ yであるが,x ∼ x′より推移律からw ∼ x′となりw ∈ [x′]である.つまり,同値類 [x]は,xと同値な元 x′を用いて [x′]ともかけるのである.このようにひとつの同値類をどの元を用いて書くかは重要で,[x]と書いたとき xをこの同値類の代表元という.代表元の選びかたは,同値なものでいくらでも置き換えることができる.つまり,上で和,スカラー倍の定義は,ある特定の代表元の間に定義されただけで,代表元の取り方を取り替えたときにも,定義として成立しているかどうかを確かめなければならない.すなわち,x′ ∼ x, y′ ∼ yとするとき,

[x′ + y′] = [x + y]

であることがいえればよい.このことがいえれば,同値類の代表元の取り方によらずに,同値類の和の行き先が一意的に決まることを意味しているのだから.今の場合,x − x′ ∈ N, y − y′ ∈ N であるから,x + y − (x′ + y′) = x − x′ + (y − y′) ∈ N であるから,

x+y ∼ x′+y′となって,[x+y] = [x′+y′]が言える.同様にスカラー倍に対しても,ax−ax′ = a(x−x′) ∈ N

であることから,ax ∼ ax′すなわち [ax] = [ax′]が言える.よって,上の和とスカラー倍は”well-defined”

であることが確かめられた.つまり,(自然に)X/N はベクトル空間と思う事が出来たわけである.ここで,X/N のことを商ベクトル空間という.特にこれは同値類全体のなす集合であって,特にその零元は N であることに注意せよ.実際,N の元 n,mに対して n − m ∈ N であるから n ∼ mであ

14あってるかな・・・不安.

33

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るから,N のどの元も互いに同値であり,x /∈ N とN の元 nとが同値であれば,x − n ∈ N すなわちx ∈ n + N ⊂ N となって,x /∈ N に反してしまうので,N はひとつの同値類である.また,N = [n]とかくと [n] + [x] = [n + x]であるが,n + x− x = n ∈ N であるので,[n + x] = [x]となり,[n] = N が零元となるのである.とくにN は 0を含んでいるので,N = [0]とかくこともできる.自然な全射線形写像 π : X → X/N ; x 7→ [x]を考えることができる.全射は明らか.線形写像であるこ

ともX/N における和とスカラー倍の定義から [ax + by] = a[x] + b[y]であることよりわかる.この写像を商写像という.

われわれは,X/Nにも位相を導入したい.このような位相として自然に考えられるものが商位相と呼ばれるものである.すなわち,

「X/N の部分集合 F が開集合である」⇔「π−1(F )がXの開集合」

と定義するのである.すなわち,Xに位相 τ が与えられているとき,

F ⊂ τN ⇔ π−1(F ) ∈ τ

によってX/N に開集合系 τN を定義するのである.(このもとでは,πが連続であることにも注意しておこう.)

1.41 Theorem¶ ³Xを位相ベクトル空間とし,その位相を τ とする.更に,N をXの閉部分集合とし,X/N に商位相 τN を導入する.このとき,以下が成り立つ.(a) τN はX/N のベクトル空間の構造と整合的な位相であり,さらに商写像 π : X → X/N は連続線形かつ開写像である.(b) τ に関する基本近傍系をBとすると,π(V )|V ∈ BがX/N の τN に関する基本近傍系を与える.(c) Xが局所凸[resp.局所有界,距離化可能,ノルム化可能]であるとき,X/Nも局所凸[resp.局所有界,距離化可能,ノルム化可能]である.(d) Xが F -空間[resp.Frechet空間,Banach空間]ならばX/N もそうである.µ ´

[証明]:(a) まず,

π−1(A ∩ B) = π−1(A) ∩ π−1(B), π−1(∪Eλ) = ∪(π−1(Eλ))

であることに注意すれば,τN はX/N の位相となることがわかる15.さらに次に注意する.

「F ⊂ X/N が τN -閉集合」⇔「π−1(F ) ⊂ Xが τ -閉集合」

これは,

π−1(F )C = π−1(FC)

15実際,π−1(X/N) = X,π−1(φ) = φなので,X,φ ∈ τ より τN の定義から X/N, φ ∈ τN.同様に A, B ∈ τN とすれば,π−1(A ∩ B) = π−1(A) ∩ τ−1(B) ∈ τ より A ∩ B ∈ τN.さらに,Eλ ⊂ τN とすると,π−1(∪Eλ) = ∪(π−1(Eλ)) ∈ τ より∪Eλ ∈ τN が従う.

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に注意すればわかる16.このことから,X/Nの 1点 [x]を考えると,π−1([x]) = x+N ⊂ Xであることから,N が閉であることに注意すると,x + N は閉なので,[x]もX/N の閉集合となる.すなわち,X/N

において,1点は閉集合.πの連続性は τN の定義から直ちに従う.πが開写像であることは,V ∈ τ に対して,

π−1(π(V )) = V + N =∪x∈N

(x + V )

であることと,x + V が開集合,従ってその和集合も開集合であることに注意すれば,上の右辺が τ に入ることから π(V ) ∈ τN となって従う.加法の連続性を示す.X/Nの 0近傍17W をとると,π−1(W )がXの 0-近傍となり,Xの加法による連

続性から,V + V ⊂ π−1(W )となるXの 0-近傍 V がとれる.すると πが開写像であることから,π(V )

はX/N の 0-近傍であり,かつ π(V ) + π(V ) ⊂ W が成り立つ.よって,加法の連続性が従う.同様に,X のスカラー倍の連続性から,ある r > 0が存在して,0 < t < rならば,tV ⊂ π−1(W )を

みたすようなXの 0近傍 V がとれる.しからば,π(tV ) = tπ(V ) ⊂ W となるので,スカラー倍の連続性が従う.以上により,商位相 τN がX/N のベクトル空間の構造と整合的であることが示された.

(b) X/N の 0近傍W をとる.このとき,π−1(W )はX の 0近傍であるから,ある V ∈ Bが存在して,π−1)(W ) ⊃ V となる.従って,W ⊂ π(V )であり,πが開写像であることから,π(V )もX/N の 0近傍である.よって (b)が成立する.(c) Bが凸基本近傍系とすると,V ∈ Bは凸近傍なので,1.16により,π(V )も凸近傍.よって局所凸性はX/N に遺伝する.

0 ∈ Xが有界な近傍 V を持つとすると,π(V )は,πの連続性から有界集合となる(1.32).Xが距離化可能だとすると,

B = B1/n(0); n = 1, 2, · · ·

がXの基本近傍系であり,(b)の結果から π(B1/n)がX/N の基本近傍系を与えている.しかもそれは可算.よって 1.24の距離化定理からX/N も距離化可能.

X がノルム化可能であるとすると,1.39から,原点が有界な近傍 V を持つので,上の結果から π(V )

がX/N の原点の有界な近傍となり,再び 1.39からX/N はノルム化可能である.(d) dをX上の不変な距離であって τ と整合的であるとする.このとき,

ρ([x], [y]) ≡ infz∈N

d(x − y, z)

と定義する.これがwell-definedであることをチェックするために,[x] = [x′], [y] = [y′]とすると,任意の z ∈ N に

対して,

ρ([x′], [y′]) = infw∈N

d(x − y, w) ≤ d(x′ − y′, x′ − y′ − x + y + z) = d(x − y, z)

が成り立つ.(ここで,x′ − y′ − x + y + z ∈ Nであることに注意.)よって,両辺 zに関する infを取ると,

ρ([x′], [y′]) ≤ ρ([x], [y])

16F が閉とすると,π−1(FC) = π−1(F )C が開集合であるから π−1(F )が閉.π−1(F )が閉だとすると π−1(FC) = π−1(F )C

が開,すなわち FC が開となり F が閉.17X/N の零元 [0]だった.[0]の近傍とかくべきところをこのように省略してかく.念のため.

35

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となる.明らかに逆も同様にできるから等号がなりたち,well-definedであることがわかる.次に,ρがX/N 上の距離であることを示す.まず,ρ ≥ 0は良い.ρ([x], [y]) = 0とすると,

infz∈N

d(x − y, z) = 0

である.このことは x − yのいくらでも近くにN の元が存在することを意味しているので,x − y ∈ N

となるが,N が閉であることか N = N なので x − y ∈ N.すなわち [x] = [y]となる.

ρ([x], [y]) = infz∈N

d(x − y, z)

= infz∈N

d(−z, y − x) (∵ dの不変性.)

= infz∈N

d(y − z,−z) (∵ dが距離であること.)

= infz∈N

d(y − x, z) (∵ N = −N)

= ρ([y], [x])

である.

ρ([x], [w]) = infz∈N

d(x − w, z)

= infz∈N

d(x − y, w − y + z) (∵ dの不変性.)

≤ infz,z′∈N

(d(x − y, z′) + d(z′, w − y + z)) (∵ dについて三角不等式.)

= infz,z′∈N

(d(x − y, z′) + d(w − y, z − z′))

= infz′∈N

d(x − y, z′) + infz′′∈N

d(w − y, z′′)

= ρ([x], [y]) + ρ([y], [w])

となって,三角不等式も証明できた.以上により ρがX/N 上の距離であることが従う.さらに,

ρ([x] + [w], [y] + [w]) = ρ([x + w], [y + w]) = infz∈N

d(x + w − y − w, z) = infz∈N

d(x − y, z) = ρ([x], [y])

より不変性も成り立つ.次のことが成り立つことに注意する.

π (x ∈ X; d(x, 0) < r) = u ∈ X/N ; ρ(u, 0) < r

実際,w ∈ π (x ∈ X; d(x, 0) < r)とすると,π(y) = wなる y ∈ Xが存在して d(y, 0) < r.従って,

ρ(w, 0) = infz∈N

d(y, z) < r

となって,右辺に属す.逆に ρ(u, 0) < rとすると,ある z ∈ N が存在して,d(y, z) < rかつ π(y) = uをみたす yが取れる.すると d(y − z, 0) < rであり,π(y − z) = π(y) − π(z) = π(y) = uであることから,uは左辺に属す.ここで右辺の中身 x ∈ X; d(x, 0) < rはXの基本近傍系であるから,π (x ∈ X; d(x, 0) < r) = u ∈

X/N ; ρ(u, 0) < rはX/N の基本近傍系となる.これは,ρが τN と整合的であることを意味し、X/N は不変な距離 ρで距離化されたことになる.

Xがノルム ‖ · ‖X を持つとき,

‖[x]‖X/N ≡ infz∈N

‖x − z‖X

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と定めれば,このノルムから定まる距離は上の ρに一致するので,同様の議論で τN と整合的であることが従う.最後に,Xが完備であるとする.このとき,unを ρ-Cauchy列であるとすると,2−iに対して,ある

niが存在して,ρ(uni, uni+1) < 2−iとできるので,こうして uni

なる部分列を取る.

π(xi) = uniかつ d(xi, xi+1) < 2−iとなる xi ∈ Xを取ることができる.

実際,まず π(xi) = uniなる xiを取る.このとき,2−i > ρ(uni

, uni+1) = infz∈N d(xi, xi+1, z)であるから,ある zi ∈ N が存在して,d(xi − xi+1, zi) < 2−iとできる.このとき d(xi, xi+1 + zi) < 2−iとなるので,xi+1 + ziを改めて xi+1と置き直せば,π(xi+1 + zi) = π(xi+1) + π(zi) = π(xi+1) = uni

となる.(ここでzi ∈ N に注意.)いまXが完備だったので,Cauchy列 xiは極限値x ∈ Xを持ち,πの連続性からuni

= π(xi) → π(x)

となって,uniが収束列となる.Cauchy列が収束部分列を含めば,もとの Cauchy列自体が収束列で

あるから,un → π(x)となって,X/N は ρに関して完備である.

1.42 Theorem¶ ³N,F を位相ベクトル空間Xの部分空間であるとし,Nが閉,F が有限次元であるとする.このとき,N + F は閉集合.µ ´

[証明]:π : X → X/N とすると,π(F )はX/N の有限次元部分空間である.1.21より,π(F )はX/N で閉集合.従って,πの連続性から,

N + F = π−1(π(F ))

もXの閉集合となる.

1.43 Seminorms and quotient spaces

ベクトル空間X上のセミノルム pとN = x; p(x) = 0を考える.1.34(d)よりN はXの部分空間であり,商ベクトル空間X/N が定義できる.π : X → X/N とし,

p([x]) = p(x)

と定義する.このとき [x] = [y]ならば x − y ∈ N より 0 ≤ |p(x) − p(y)| ≤ p(x − y) = 0より p(x) = p(y)

となるので,この pはwell-defined.とくに,

pはX/N 上のノルムとなる.

実際,p ≥ 0は良い.p([x]) = 0とすると,p(x) = 0なので x ∈ N となるから,[x] = [0]となるので,良い.さらに,

p([x] + [y]) = p([x + y]) = p(x + y) ≤ p(x) + p(y) = p([x]) + p([y])

であり,

p(a[x]) = p([ax]) = p(ax) = |a|p(x) = |a|p([x])

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であるから,pはX/N 上のノルムであることがわかる.このことと関係の深い例が,身近なところにある.ルベーグ積分の意味で [0, 1]上 r乗可積分な関数の全体,

Lr =

f : [0, 1] → K; p(f) = ‖f‖r =

[∫ 1

0

|f(t)|r]1/r

< ∞

を考える.このとき,p(f)はLr上のセミノルムである.実際,p(f) ≥ 0は良く,p(af) = |a|p(f)も成り立つ.更に,

‖f + g‖r ≤ ‖f‖r + ‖g‖r

が成り立つ.実際,まず,|f(t) + g(t)| ≤ 2 maxf(t), g(t)であるから,|f + g|r ≤ 2r|f r, 2r|g|rが成り立つので,f + gが r乗可積分であることが従う.次に,|f + g| ≤ |f | + |g|であることから,

|f + g|r−1 ≤ |f ||f + g|r−1 + |g||f + g|r−1

となるが,1/r + 1/s = 1となる sに対し,

(|f + g|r−1)s = |f + g|r

であることに注意すると,ヘルダーの不等式18より,

‖f + g‖rr ≤ ‖f‖r‖f + g‖r/s

r + ‖g‖‖f + g‖r/sr

となるので,両辺を ‖f + g‖r/sr でわることで,

‖f + g‖r ≤ ‖f‖r + ‖g‖r

が成り立つ.よって pはセミノルムであることがわかった.しかし,pはノルムとはならない.実際,ルベーグ積分論の知識19から,

p(f) = 0 ⇒ f ≡ 0 (a.e.x ∈ [0, 1])

しか言えないからである.言い換えると,[0, 1]の測度 0集合上ではいかなる値をとっていても,その積分値は 0なのである.従って,Banach空間 (=完備なノルム空間)として r乗可積分関数の空間Lrを扱うときには,[0, 1]の

測度 0集合上を除いて 0であるような関数たち(p(f) = 0なる fの全体)をNとして,Lr/Nを考え,ノルム pを pから誘導したものとして扱うことになるのである.

181 ≤ p, q ≤ ∞, 1/p + 1/q = 1をみたすとき,Ω上 p乗可積分関数 f と q乗可積分関数 gに対して,∣∣∣∣∫ fgdx

∣∣∣∣ ≤ (∫|f |pdx

)1/p (∫|g|qdx

)1/q

が成り立つ.これをヘルダーの不等式という.ここで p = 1, q = ∞のときは,不等式の右辺を,∫|f |dx · ess sup

x∈Ω|g|

と置き換えねばならない.19これはルベーグ積分の定義に関わる部分である.

38

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Examples

ここでは具体的な関数空間として,C(Ω), H(Ω), C∞(Ω), DK , Lp(0 < 1 < p)を取り上げる.

1.44 The space C(Ω)

ΩをRnの空でない開集合とする.

関数空間C(Ω)とは,Ω上連続な複素数値関数の全体である.

本節では,この関数空間について考察する.

K-近似列の存在. まず,以下で定義されるような,Rnの開集合Ωに対する一般K-近似列を構成しておく.これを利用してC(Ω)にセミノルムを定義するのである.

¶ ³Ωの一般K-近似列とは,Ωのコンパクト部分集合の列 Kmm∈Nで,以下を満たすものを言う;(1) ∀m ∈ Nに対し,Kn ⊂ Kn+1

a,(2) Ωの任意のコンパクト部分集合Kに対して,K ⊂ Kmとなるようなm ∈ Nが存在する.

aKm ⊂ (Km+1) ではないのかな?µ ´このような一般K-近似列がとれることを証明しよう.

[証明]:任意のm ∈ Nに対し,Bm = x ∈ Rn; |x| ≤ mとする.このとき,

Km =

x ∈ Ω ∩ Bm; d(x, ∂Ω) ≥ 1m+1

とおき,Kmとする.(ここで,∂Ωは Ωの境界.また,d(x, ∂Ω) := infy∈∂Ω(|x− y|)で定義する.)これが求める一般K-近似列であることを示せばよい.

Km ⊂ Km+1 は明らか.またKm が有界閉集合であることも明らかなので,コンパクト.よって (1)は成り立つ.(2)を示すために,K ⊂ Ωなるコンパクト部分集合を取る.このとき,

d(K, ∂Ω) := inf|x − y|;x ∈ K, y ∈ ∂K

に対して,

d(K, ∂Ω) > 0 · · · · · · (∗)

が成り立つ.このことが証明できれば,d(K, ∂Ω) > 1/(m0 + 1)なるm0 が取れる.またK はコンパクト,特に有界閉集合であることから,K ⊂ Bm1 なるm1が取れる.m := maxm0, m1とおけば,K ⊂ Kmとすることができるので (2)も成り立つ.

(∗)の証明.d(K, ∂Ω) ≥ 0だから,d(K, ∂ω) = 0として矛盾を導く.d(K, ∂ω) = 0とすると,Kの点列 xnと,∂Ωの点列ynとが存在して,d(xn, yn) → 0が成り立つ.Kのコンパクト性から,とくに点列コンパクト20なので,xnの部分列でKの元に収束するものが取れる.そこで,はじめから,xnとしてそのような点列を取ることにすると,xn → x, |xn − yn| → 0であるとして良い.このとき,

|x − yn| ≤ |x − xn| + |xn − yn| → 0

であることから,xは ynの極限であり,x ∈ ∂Ωとなるのだが,∂Ωは閉集合であることから,x ∈ ∂Ω = ∂Ωとなる.すると,Ωが開集合であることから,Ω = Ωであることに注意すると,

x ∈ K ∩ ∂Ω ∈ Ω ∩ ∂Ω = Ω ∩ ∂Ω = φ

20位相空間X が点列コンパクトであるとは,X の任意の点列が収束部分列を持つことを言い,特に,距離空間においては,コンパクト性と点列コンパクト性とは同値であることが知られている.

39

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となって矛盾である.よって (∗)が示された.

Ωに対して一般K-近似列 Knを取り,

pn(f) ≡ supx∈Kn|f(x)| (f ∈ C(Ω))

と定義する.これがセミノルムとなることは,以下のようにしてわかる.実際,pn(f) ≥ 0は良い.また

pn(f + g) = supx∈Ω

|f(x) + g(x)| ≤ supx∈Ω

(|f(x)| + |g(x)|) ≤ supx∈Ω

|f(x)| + supx∈Ω

|g(x)| = pn(f) + pn(g)

であることから,三角不等式も良い.pn(af) = |a|pn(f)も明らか.さらに,∀nに対して pn(f) = 0とすると,Ω上で f ≡ 0となるので,pnは分離的であることが従う.さて,いまK1 ( K2 ( · · · であることから,p1 ≤ p2 ≤となっていることに注意する.ここで

Vn =

f ∈ C(Ω); pn(f) <

1

n

とおく.このとき 1.37の証明から,「Vnの形の元の有限個の共通部分」全体が基本近傍系を構成するのであるが,pnの単調増大性に注意すれば,Vn自身が基本近傍系に他ならない.また,1.38(c)で考察したように,この基本近傍系の定める位相は,

d(f, g) = maxn

2−npn(f − g)

1 + pn(f − g)

と整合的である.次に,この

距離 dについてC(Ω)が完備である

ことを証明しよう.そのために,fiをC(Ω)の距離 dに関するCauchy列とする.このとき,

∀ε > 0 ∃N n,m ≥ N ⇒ d(fn, fm) < ε ⇒ max k2−kpk(fn − fm)

1 + pk(fn − fm)< ε

であるから,

∀nに対し,i, j > N ならば pn(fi − fj) <2kε

1 − 2kε→ 0

となるので,∀nに対して,pn(fi − fj) → 0.すなわち,supx∈Kn|fi(x) − fj(x)| → 0であることが従う.

このことから,「fiはKn上一様収束する」ことが従い,一般K-近似列の取り方から,

fiは任意のコンパクト部分集合K ⊂ Ω上で一様収束する(i.e. Ω上広義一様収束する)

ことが従う.よって fiは f ∈ C(Ω)に一様収束することがわかり,距離 dが完備であることがわかる.距離の不変性は明らかであるから,以上にことにより,C(Ω)は局所凸かつ完備不変な距離 dと整合的

であることが従う.すなわち

C(Ω)は Freche空間

であることがわかった.ところで,1.37(b)の結果から,E ⊂ C(Ω)が有界であることと

「∀nに対して ∃Mn s.t. ∀f ∈ Eに対し pn(f) ≤ Mn」

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とが同値であった.すなわち,

「∀nに対して ∃Mn s.t. ∀f ∈ E,∀x ∈ Knに対し |f(x)| ≤ Mn」

であることとが同値である.ここで,

Vn =

f ∈ C(Ω); pn(f) <

1

n

であったが,pn(f) ≤ pn+1(f)であることに注意すると,Vn 3 f であっても,pn+1(f) = supx∈Kn+1

|f(x)|はいくらでも大きくすることができる21ので,Vnは有界ではない.基本近傍系Vnの各元が有界ではないので,C(Ω)の0のまわりに結うかいな近傍は存在しない.よって,

C(Ω)は局所有界ではない.

このことと 1.39の結果から,

C(Ω)はノルム化可能ではない.

ことが従う.

1.45 The space H(Ω)

Ωを複素平面C上の連結開集合とする.このとき,

H(Ω) := f ∈ C(Ω); f はΩ上の正則関数

と定義する.H(Ω)がC(Ω)の部分空間であることは明らかである.ここで次の複素関数論における定理22に注意する.¶ ³Ω上広義一様収束(i.e. Ωの任意のコンパクト集合上で一様収束)する正則関数列 fnは,Ω上正則な関数 f に一様収束する.µ ´この定理から,Ωを前と同じようにして一般K-近似列 Knによって近似することによって,H(Ω)の収束列の極限が再びH(Ω)に属することが従うので,特にH(Ω)はC(Ω)の閉部分空間である.

C(Ω)の位相から自然にH(Ω)にも位相が導入される.局所凸性や不変な距離 dと整合的であることは良い.H(Ω)の Cauchy列は,C(Ω)の完備性から C(Ω)の元に収束するが,H(Ω)が閉であることから,その極限はH(Ω)に属している.よって,H(Ω)は完備である.従って,H(Ω)も Freche空間である.以下,

H(Ω)は,Heine-Borel性を持つ(i.e. 任意の有界閉集合はコンパクト).

を示そう.このためには,複素関数論の定理をいくつか思い出さなければならない.

21これを本当に formalに書くとどうなるんだろう.22Weierstrassの 2重級数定理などと呼ばれている.

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まず一様有界性.

¶ ³E ⊂ C(Ω)が集合K ⊂ Ω上一様有界であるとは,

∃M(K) > 0 s.t. ∀f ∈ E,∀x ∈ Kに対して |f(x)| < M(K)

が成り立つことを言う.µ ´ここで EをH(Ω)の有界閉集合であると仮定すると,1.37(b)の結果から,Eが有界であることと,∀n

に対して pnがE上有界であることとが同値であったので,Eが任意の nに対してKn上一様有界であることとは同値である.次に,正規族の概念について復習しておこう.¶ ³E ⊂ C(Ω)が正規族であるとは,Eの任意の点列 fnが,Ω上広義一様収束する部分列を含むことを言う.µ ´正規族であることの必要十分条件として,Ascoli-Arzelaの定理とMontelの定理が知られている.ここでは,Montelの定理を思い出しておく.

Montelの定理¶ ³E ⊂ C(Ω)に対し,以下は同値.(1) Eは正規族.(2) Ωの任意のコンパクト部分集合K上でEは一様有界.µ ´さて,改めて,EをH(Ω)の有界閉集合であるとしよう.このとき,先に注意したように,1.37(b)の結果とΩの一般K-近似列を用いることで,Eは,Ωの任意のコンパクト部分集合上一様有界であることが従う.そこで,Montelの定理を用いると,Eは正規族,すなわち,Eの任意の点列は,Ω上広義一様収束する部分列を含む.Eが閉であることから,その極限はEに属している.従って,Eの任意の点列は,E内に一様収束する部分列を持つ23ことが示された.これは,Eが点列コンパクトであることを示しており,距離空間において,点列コンパクト性とコンパクト性が同値であることに注意すれば,Eはコンパクト集合であることが従う.よって,H(Ω)はHeine-Borel性を持つ.

H(Ω)には,z, z2, z3, · · · という無限個の一次独立な元がとれるので無限次元であり,このことから,1.23の結果を用いると,Heine-Borel性を持ち局所有界であれば有限次元空間となってしまうので,局所有界ではないことが従う.従って,1.39の結果からノルム化可能ではない.

1.46 The space C∞(Ω) and DK

多重指数 (multi-index). n変数関数とその導関数などを扱うために,多重指数と呼ばれる表記法を導入する.これは,

a = (a1, a2, · · · , an) (ai ≥ 0)

のことを言う.これに対して,

Da :=

(∂

∂x1

)a1(

∂x2

)a2

· · ·(

∂xn

)an

23前述のWeierstrassの 2重級数定理を使っている.

42

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と定義し,その次数を |a| := a1 + a2 + · · ·+ anと定義する.(ただし,|a| = 0ならDaf = f と定義する.)

Ω ⊂ Rnを空でない開集合とし,

C∞(Ω) = f : Ω上定義された複素数値関数; ∀aに対し,Daf ∈ C(Ω)

と定義する.ここで,f の台(support)を,

supp f := x; f(x) 6= 0

によって定義する.K ⊂ Ωをコンパクト部分集合とするとき,

DK := f ∈ C∞(Ω) : supp f ⊂ K

によって定義する.明らかにDKはC∞(Ω)の部分空間である.以下,次のことを証明しよう.¶ ³C∞(Ω)は Heine-Borel性を持つ Freche空間であり,DK はK ⊂ Ωのとき,C∞(Ω)の閉部分空間である.µ ´これを証明するために,まずΩの一般K-近似列 Kiを取る.このとき,Ω = ∪Kiに注意しておく.このとき,

pN(f) := maxx∈KN|Daf(x)|; |a| ≤ N

と定義する.これがセミノルムであることは,pN(f) ≥ 0, pN(λf) = |λ|pN(f)は良く,

pN(f + g) = max|Da(f + g)| ≤ max|Daf | + |Dag| ≤ max|Daf | + max|Dag| = pN(f) + pN(g)

となって三角不等式も導かれることから従う.さらに,∀Nに対して pN(f) = 0とすると,∀Nに対して,a = 0ととることで,maxx∈KN

|f(x)| = 0であることから,f(x) = 0 (x ∈ Ω)となるので,pNは分離的である.

1.37,1.38(c)より,C∞(Ω)には,

VN =

f ∈ C∞(Ω); pN(f) ≤ 1

N

を基本近傍系とする局所凸かつ距離化可能な位相が入る.いま,x ∈ Ωをひとつ固定すると,x ∈ KN なるN が存在する.また,∀ε > 0に対して,1/N ′ < εな

るN ′がとれる.よってN0 = maxN,N ′とすると,x ∈ KN ⊂ KN0より,|f(x)| < 1/N0 < 1/N ′ < εとできる.以上より,ϕx : C∞(Ω) → C; f 7→ f(x)とすると,

∀ε > 0, ∃N s.t. ϕx(VN) ⊂ Bε(0)

とできる.これは,ϕxが連続であることを示している.このとき,

DK =∩

x∈KC

ϕ−1x (0)

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である.ϕ−1x (0)は閉集合の逆像であるから閉集合であり,従ってその共通部分 DK も閉集合となる.

従ってDKはC∞(Ω)の閉部分空間であることが従う.次に,fjをC∞(Ω)のCauchy列とすると,1.25の定義より,∀N をひとつ固定すると,充分大きな

i, jに対して,fi − fj ∈ VN とできる.このことは,KN 上で,

|Da(fi − fj)| = |Dafi − Dafj| < 1/N (|a| ≤ N)

とできることを意味している.ここで,任意のコンパクト部分集合Kを取ると,Kを含むようなKN が存在するので,上のことから

Dafiは,KN 上一様収束し,従って,K上一様収束する.すなわち,DafiはΩ上広義一様収束するので,Omega上の連続関数 gaに一様収束する.特に,fiは g0に一様収束し,Dag0 = gaであることから,C∞(Ω)の位相で,fiはC∞(Ω)の元 g0に一様収束している.よって,C∞(Ω)の完備性が言えた.以上より,C∞(Ω)は Freche空間であり,DKはK ⊂ Ωのとき,C∞(Ω)の閉部分空間であることが言

えた.以下,Heine-Borel性を示す.まず,次の同程度連続性の概念をを思い出しておこう.

¶ ³位相空間X 上の関数族 fλが点 x0 ∈ X において同程度連続であるとは,∀ε > 0に対して,x0のある近傍 U が存在して,λによらず,

x ∈ U ならば |fλ(x) − fλ(x0)| < ε

とできることを言う.µ ´そこで,E ⊂ C∞(Ω)を任意の有界閉集合とする.1.37(b)の結果から,

∃MN s.t. ∀f ∈ E pN(f) ≤ MN i.e. KN上で |a| ≤ N に対し,|Daf | ≤ MN

となる.このとき,|b| ≤ N − 1に対して,Dbf のTaylor展開を考えると,

Dbf(y) − Dbf(x) ≤ supy∈KN

( supj=1,2,··· ,n

(∂/∂xj)Dbf(y))|y − x| < MN |y − x|

が成り立つ.従って,

「∀ε > 0に対して,U = Bε/MNをとると,y − x ∈ U ならば |Dbf(y) − Dbf(x)| < εとできる」

ことがわかった.これは,Dbfが同程度連続であることを示している.ここで,次のAscoli-Arzelaの定理を思い出そう.

Ascoli-Arzelaの定理¶ ³fnをRdのコンパクト集合上で定義された連続関数の列とする.このとき,fnがK上で一様収束する部分列を含むことと以下の (1)かつ (2)をみたすことは同値である.(1) fnはK上一様有界.(2) fnはK上同程度連続.µ ´この定理から,Eの任意の点列 fjに対して,

「|b| < N − 1のとき,DbfjはKN−1上で一様収束する部分列を持つ」

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ことが示された.このことから,KをΩの任意のコンパクト集合とすれば,Dbfjは一様収束部分列を取ることができる24.ここで多重指数の全体が可算であることから b1, b2, · · · と番号を付けておく.いま,fjに対し,

Db1f1iが一様収束するような部分列 f1i∞i=1を取る.次に f1iから Db2f2iが一様収束するような部分列 f2i∞i=1を取る.以下同様に一様収束部分列を取り続けておいて,fii∞i=1なる点列を考えると,Cantorの対角線論法により,任意の bに対してK 上一様収束する fjの部分列である.この fiiはC∞(Ω)の位相で,広義一様収束,すなわちΩ上一様収束する部分列である.Eは閉集合であるからその極限はEに属す.従って,Eの任意の点列は,E内に収束する部分列を含むことがわかり,Eは点列コンパクトであることが従う.距離空間においては,点列コンパクト性とコンパクト性は同値であることから,Eはコンパクトとなる.よって,C∞(Ω)の任意の有界閉集合はコンパクトとなり,Heine-Borel性が示せた.

C∞(Ω)は無限次元であることから,1.23の結果を用いると,C∞(Ω)は局所有界ではなく,従って 1.39

よりノルム化可能ではない.DKについても同様のことが言える.このことを確かめるためには,DKが無限次元であることさえ言

えばよい.次の事実に注意する.¶ ³B1, B2を Rnの同心閉球とし,B1は B2の内部に含まれているとする.このとき,φ ∈ C∞(Rn)で,以下の条件を満たすものが存在する;

φ(x) =

1 x ∈ B1

0 x /∈ B2µ ´KをΩのコンパクト部分集合とすると,Kの内部に含まれる開球Bnが存在する.その半径を 1/rとしておくと,Ui = B1/ri

なるKに含まれる同心閉球の列がとれる.上の事実を用いて,Ui上で値 1を取り,Ui+1の外側で値 0を取るような関数 φiをつくることができる.これらはすべて一次独立であって,かつ無限個存在することから,DKは無限次元であることが従う.

1.47 The space Lp with 0 < p < 1

Lp := f : [0, 1] → C; f は p乗 Lebesgue可積分(0 < p < 1)

と定義する.ここで f ∈ Lpに対し,

∆(f) :=

∫ 1

0

|f(t)|pdt < ∞

とする.また,Lpでは,ほとんどいたるところ一致する関数は同一視して考える25.0 ≤ p ≤ 1に対しては,(a + b)p ≤ ap + bp (a, b ≥ 0)が成り立つことに注意すれば,

∆(f + g) ≤ ∆(f) + ∆(g)

24K ⊂ KN0なるN0が存在する.また |b| < N1−1なるN1も存在するので,N = maxN0, N1とおくと,K ⊂ KN0 ⊂ KN

であり,DbfjからKN 上で一様収束する部分列を取ることができるので,K上で一様収束する部分列を取ることができる.25このことは 1.43の最後の注意を参照せよ.

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が成り立つ.よって,

d(f, g) := ∆(f − g)

とおけば,Lp上不変な距離を与える.実際,三角不等式は上のことからわかる.d(f − g) ≥ 0は良く,d(f, g) = 0 ⇔ f = gは,上で Lpにおける関数の同一視についての注意から従う.d(f, g) = d(g, f)も明らかである.

dが完備であることは,p ≥ 1の場合と同様にできる26.この距離から定まる位相に関して,

Br := f ∈ Lp : ∆(f) < r

が基本近傍系をなす.ここでB1 = r−1/pBr(∀r > 0)であることから,B1は有界である.このことから,Lpは局所有界であることが従う.以下,次のことを示そう.¶ ³Lpは,φ, Lp自身以外に,凸開集合を含まない.µ ´

V を凸開集合であって空集合でないものと仮定する.ここで,(位相ベクトル空間の等質性から)V 3 0

と仮定しても一般性を失わない.Brが基本近傍系だったので,ある r > 0が存在して,V ⊃ Brとできる.ここで,f ∈ Lpをひとつ固定する.p < 1であることから,

np−1∆f < r

となる正の整数 nをとることができる.|f |pの不定積分の連続性27から,

0 = x0 < x1 < x2 < · · · < xn = 1

なる点 x0, x1, x2, · · · , xnであって,∫ xi

xi−1

|f(t)|pdt = n−1∆(f) (1 ≤ i ≤ n)

となるようにできる.ここで,

gi(x) =

nf(t) xi−1 < t ≤ xi

0 otherwise

と定義すると,

∆gi = np−1∆f < r

であり,V ⊃ Brであることから,gi ∈ V.ここで,

f =1

n(g1 + g2 + · · · + gn)

26これはそれなりに長い証明なので,この例の最後にまわす.27本当?

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であることに注意すると,V の凸性から,f ∈ V でなければならない.f ∈ Lp は任意であったから,V = Lpでなければならないことになる.凸開集合が φ, Lp自身しか存在しないことが次のようなことがわかる.Y を局所凸空間とし,Λ : Lp → Y を連続線形写像とする.Bを Y の凸な基本近傍系とする.∀W ∈ B

は 0を含んでいるのでΛ−1(W )は空ではない.また凸性が遺伝することは,1.16よりわかる.fの連続性から,Λ−1(W )は開集合である.上にみたことから,Λ−1(W ) = Lpでなければならない.従って,∀W ∈ B

に対し,Λ(Lp) ⊂ W でなければならないから,

Λf = 0 (∀f ∈ Lp)

が従う28.このことから,0 < p < 1ならば Lp空間上の連続線形写像は 0-写像しかありえない,特に,Lp上の

連続線形形式は 0-形式しかありえないことがわかる.これは,p ≥ 1のときとは異なっている.実際,1 ≤ p < ∞なら Lp上の連続線形形式の全体(すなわち,共役空間)とは 1/p + 1/q = 1なる qに対し,Lqで与えられるのであるから.

Lp (0 < p < 1)が距離 d(f, g) = ∆f, gに関して完備であることの証明. いくつかの Stepにわけて証明する.[Step.1] fnを LpのCauchy列とする.すなわち,

d(fm, fn) → 0 (n, m → ∞)

が成り立つ.このとき,まず,

d(fm, fn) <1

2(n,m ≥ n1)

なる n1がとれる.次に,

d(fm, fn) <1

22(n,m ≥ n2 > n1)

なる n2がとれる.以下同様にして,

d(fn, fm) <1

2k(n,m ≥ nk)

なる nkを取ることができ,これに関して,fnの部分列 fnkを考えることができる.このとき,以下

記号の簡略化のために gk ≡ fnkとかくことにすると,

d(gk, gk+1) <1

2k

が成り立つ.従って,∞∑

k=1

d(gk, gk+1) <

∞∑k=1

1

2k= 1

となることに注意しておく.[Step.2] ここで,FN(t) (t ∈ [0, 1])を,

FN(t) =

|g1(t)| (n = 1)

|g1(t)| +N−1∑k=1

|gk+1(t) − gk(t)| (N ≥ 2)

28もし,ある f ∈ Lp に対して,Λf = a 6= 0とすると,a /∈ V なる Y 基本近傍系の元が取れるから(Hausdorff性?),f(Lp) ⊂ V に矛盾する.

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とおく.このとき,

FN(t)p ≥ 0, FN(t)p ≤ FN+1(t)p

が成り立つことは明らかである.さらに,三角不等式から,

|gm(t) − gk(t)| ≤m−1∑j=k

|gj+1(t) − gj(t)| = Fm(t) − Fk(t)

であり,ここで k = 1とすると,

|gm(t) − g1(t)| ≤ Fm(t) − F1(t) = Fm(t) − |g1(t)|

より

|gm(t)| ≤ |g1(t)| + |gm(t) − g1(t)| ≤ Fm(t)

が成り立つ.ここで,0 ≤ FN(t)pは単調増大であることから∞込みでは収束する.また,∫ 1

0

FN(t)pdt = ∆(fN) ≤

(∆(g1) +

N−1∑k=1

∆(gk+1 − gk)

)=

(∆(g1) +

N−1∑k=1

d(gk+1, gk)

)≤ ∆g1 + 1

となる.ここで,Lebesgue積分論の単調収束定理を思い出す.

単調収束定理¶ ³g ∈ L1, g ≥ 0, fnは可測関数列とするとき,殆ど至る所で f1 ≥ −g, fn f であるならば,∫

fdµ = limn∞

∫fndµ

が成り立つ.µ ´この定理を用いれば, ∫

limN→∞

(FN(t)p)dt = limN→∞

∫FN(t)pdt ≤ ∆g1 + 1 < ∞

が成り立ち,limN→∞ FN(t)pは,殆ど至る所有限な値をとる関数 F (t)に収束し,かつそれは Lpに再び属することがわかる.[Step.3] すでに見ていた

|gm(t) − gk(t)| ≥ Fm(t) − Fk(t)

に注意すると,FN(t)が殆ど至る所収束するので,

|gm(t) − gk(t)| → 0(m, k → ∞)

が殆ど至る所で成り立つ.すなわち,

limk→∞

gk(t) = g(t)

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が殆ど至る所有限の値で存在する.一方,やはりすでに見ていた

|gm(t)| ≤ Fm(t)

に注意すると,両辺m → ∞をとれば,

|g(t)| ≤ F (t)

が殆ど至る所成り立つので,F ∈ Lpより g ∈ Lpであることが従う.[Step.4] ここで,前の Stepの最後の 2つの評価式に注意すれば,

|gk(y) − g(y)|p ≤ (|gk(y)| + |g(y)|)p ≤ 2pF (t)p

が殆ど至る所成り立つ.spF (t)pは L1に属している.また,

|gk(y) − g(y)|p → 0 (k → ∞)

も殆ど至る所成り立つ.以上を踏まえて,次の Lebesgueの収束定理を思い出す.

Lebesgueの収束定理¶ ³g ∈ L1, g ≥ 0, fnを可測関数列とする.このとき,

supn≥1

|fn| ≤ g, limn→∞

= f

が殆ど至る所で成り立つならば,

limn→∞

∫|fn − f |dµ → 0

が成り立つ.µ ´これを用いれば直ちに

d(gk, g) = ∆(gk − g) =

∫|gk(t) − g(t)|pdt → 0

が従う.ここまでの議論で,Cauchy列 fnの収束部分列 gkがとれたことになる.任意の ε > 0に対して,

あるN が存在して,

d(fn, fnk) = d(fn, gk) < ε (n, nk > N)

とでき,ここで k → ∞とすれば,

d(fn, g) ≤ ε

となって,fnが収束列であることが従う.以上により,Lp(0 ≤ p ≤ 1)が完備であることが証明できた.

Exercise

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