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GaPのピエゾ反射スペクトル (昭和47年10月31目受理) 1序 W族および皿一V族半導体の反射スペクトル1)は,互いに類似した構造を呈し,これらの半導体は,互 いに類似した電子帯構造をもつことが予想される。最近,擬似ポテンシャル法2),および距一ρ摂動法3)4) により,上述の半導体のバンド構造を,二三のパラメーターのみで表わす試みがなされ,ある程度の成果 を納めている。バンド構造の計算は,第一原理から行なうには複雑すぎ,普通は実験的に得られた構造の ブリリアン域(尭一空間)中での位置を,いくつか前もって指定し計算を簡単化している。この指定の多 くは,理論的考察のみから行なわれたものであり,実験的に検証する必要がある。すでに,二三の半導体 の直接吸収端は,r点(髭=0)にあることが実験的に確かめられているが,高エネルギー側の構造につい ては,未知な点が多い。 この論文では,GaPのいわゆるEo,E1,Eo’およびE2端でのピエゾ反射スペクトルを測定し,各 吸収端を構成する光学特異点の掬一空間における位置について議論する。 ピエゾ反射法は,微小な一軸性応力を試料に交流的に加え,反射率Rの応力による変化4Rを交流的 に検出する方法であり,最近の10年間に急速に開発された変調法,あるいは微分法と呼ばれる実験技術の 一つである。ピエゾ反射法は,通常のスペクトルで観測しにくい微細構造の検出に有力であると共に,印 加応力の方向を変えることにより,光学特異点の㌃一空問での方向も決定できる。 この方法により,すでにGe5)とGa As6)のEユ端は,弗一空間の〔111〕方向にあることが示されて いる。しかし,GaPおよびSi等については,E1端が理論で示される〔111〕方向にあるという確証は まだない。Siについては, Gerhardt7)が,静的応力を用いた実験から,むしろ〔001〕方向の可能性を 指摘している。,E2端の左一空聞における方向も,Geの場合には理論の予想と異なることが指摘されて おり8),各半導体の特異点の実験的検証が要請されている。 Il実験方法 第1図は,実験装置の簡略図と試料ホルダーを示す。GaP単結晶の大きさは,1×3×5mm3の長方形 である。長軸の結晶学的方位は,X線回折により〔001〕,〔111〕および〔110〕のいずれかに決めてある。 応力は,この長軸の方向にかけられる。長軸の両端の面は,平行に研磨され,長軸に対し垂直になってい る。この両面を,第1図(b)に示すように,圧電磁気とXカットの水晶板に樹脂で接着する。試料の一 面は,機械研磨された後,試料ホルダーに設定する前に化学研磨(エッチング〉される。交流応力は,チ タン酸鉛系の圧電磁器に,1mm当たり約300Vmsの800Hz交流電場を加えることにより作られる。 試料に加わる応力の大きさは,試料の下にあるXカットの水晶板により検出される。応力は,約10㎏/cm2 である。厚さがα5mm以下の試料を用いるときには,第1図(c)の円筒型圧電磁器を用いる。この磁 器は,交流電場により,呼吸モード(breezing mode)の振動をし,試料には,図の矢印の方向に応力が 生ずる。 1

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GaPのピエゾ反射スペクトル

滝 沢 武 男

(昭和47年10月31目受理)

1序

 W族および皿一V族半導体の反射スペクトル1)は,互いに類似した構造を呈し,これらの半導体は,互

いに類似した電子帯構造をもつことが予想される。最近,擬似ポテンシャル法2),および距一ρ摂動法3)4)

により,上述の半導体のバンド構造を,二三のパラメーターのみで表わす試みがなされ,ある程度の成果

を納めている。バンド構造の計算は,第一原理から行なうには複雑すぎ,普通は実験的に得られた構造の

ブリリアン域(尭一空間)中での位置を,いくつか前もって指定し計算を簡単化している。この指定の多

くは,理論的考察のみから行なわれたものであり,実験的に検証する必要がある。すでに,二三の半導体

の直接吸収端は,r点(髭=0)にあることが実験的に確かめられているが,高エネルギー側の構造につい

ては,未知な点が多い。

 この論文では,GaPのいわゆるEo,E1,Eo’およびE2端でのピエゾ反射スペクトルを測定し,各

吸収端を構成する光学特異点の掬一空間における位置について議論する。

 ピエゾ反射法は,微小な一軸性応力を試料に交流的に加え,反射率Rの応力による変化4Rを交流的

に検出する方法であり,最近の10年間に急速に開発された変調法,あるいは微分法と呼ばれる実験技術の

一つである。ピエゾ反射法は,通常のスペクトルで観測しにくい微細構造の検出に有力であると共に,印

加応力の方向を変えることにより,光学特異点の㌃一空問での方向も決定できる。

 この方法により,すでにGe5)とGa As6)のEユ端は,弗一空間の〔111〕方向にあることが示されて

いる。しかし,GaPおよびSi等については,E1端が理論で示される〔111〕方向にあるという確証は

まだない。Siについては, Gerhardt7)が,静的応力を用いた実験から,むしろ〔001〕方向の可能性を

指摘している。,E2端の左一空聞における方向も,Geの場合には理論の予想と異なることが指摘されて

おり8),各半導体の特異点の実験的検証が要請されている。

Il実験方法

 第1図は,実験装置の簡略図と試料ホルダーを示す。GaP単結晶の大きさは,1×3×5mm3の長方形

である。長軸の結晶学的方位は,X線回折により〔001〕,〔111〕および〔110〕のいずれかに決めてある。

応力は,この長軸の方向にかけられる。長軸の両端の面は,平行に研磨され,長軸に対し垂直になってい

る。この両面を,第1図(b)に示すように,圧電磁気とXカットの水晶板に樹脂で接着する。試料の一

面は,機械研磨された後,試料ホルダーに設定する前に化学研磨(エッチング〉される。交流応力は,チ

タン酸鉛系の圧電磁器に,1mm当たり約300Vmsの800Hz交流電場を加えることにより作られる。

試料に加わる応力の大きさは,試料の下にあるXカットの水晶板により検出される。応力は,約10㎏/cm2

である。厚さがα5mm以下の試料を用いるときには,第1図(c)の円筒型圧電磁器を用いる。この磁

器は,交流電場により,呼吸モード(breezing mode)の振動をし,試料には,図の矢印の方向に応力が

生ずる。

1

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研究紀要(1973)

Xeアークランプ

発振器

        ロックインアンプ

芭光検.器…幽           ↓1。

        高圧制御用

        誤差増巾器

高圧安定化電源

(a)

わ く    _.(ステンレススチール)

スペーサー一一一、

圧電磁器一一

(L、Z.T.)

応力検出器一.r水晶)

レ)

発振暑800H

 ~

 ■

厨圧誓

N.

・\

\ \

(b)

第1図(a)

電圧計

実験系の簡略図

  発振蕃800Hz

        応力の加わる方向

           (c)

(b)(c)試料ホルダーと応力印加装置

光源には,500W Xeショートァークランプを用いた。光源の電源には,リップル含有率が10-5以下の

直流安定化電源を用いた。

 分光器からの光は,グラントムソンプリズムにより偏光され,試料面に約10度の入射角で入射する。

なお,測定スペクトルのエネルギー純度は,0・01eV以下である。

 反射率に対する,応力による反財率の変化比,4R/Rは,第1図(a)に示す測定系により,直接記録され

る。試料を変えたときのJR/Rのバラッキは,零点の変化を除いて10%以下である。零点の変化は,通

常ゼロオフセット(zero o廊et)と呼ばれ,ピエゾ反射法では,宿命的なものである。しかし,乙の変

化は,試料面のキズや穴をなくし,かつ試料面の微動による光線の動きの影響を,光検出器の前にディフ

ユーザー(d近user)を置くことにより,ほとんどなくすことができる。

2

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GaPのピエゾ反射スペクトル

 III データの処理法

 歪による誘電関数の変化は,次の式で与えられる。

         4ε;田6

 ここで,W’は誘電応答関数で4階のテンソル,8は歪テンソルである。ダイアモンド型および閃亜鉛

鉱型結晶の場合には,WFの独立な成分は,三個しかない。これらの三成分は,

         4ε1=W161

         ∠ε3r=W383r   γ=α,β              (21

         ∠ε5アーW1585r   7=η,ツ2,㍑

で与えられる9)。ここで

         61≡』L(8皿∬+伽+68Z)

           ゾ3

         63α三し(2θ乞,一召謬澱イツΨ),63βヨ』L(召澱のイツΨ)      (3)

           V/6          ゾ2

         65η≡8剛785鯉β≡物3シ85篇≡6躍

『である。W・(ω)は,静水圧的歪に対する誘電応答であり,近似的に無歪結晶の誘電関数ε二(ω)のエネル

ギー微分に比例する。W3(ω)およびW「5(ω)は、それぞれ正方晶型および三方晶型歪に対する誘電率の変

化である。換言すると,この二つの関数は.それぞれ〔001〕および〔111〕方向の応力によって誘起され

九二色性,あるいは複屈折を表わす。Wt、,WF3,W15は,測定スペクトルから,クラマース・クローニッ

ヒ(Kramers-Kronig)変換を用いて得られる。詳細は,付録に譲る。

 光の反射スペクトルに構造をもたらす電子遷移は,た一空間の比較的対称性の高い方向に存在する点で

起ることが期待される。このような点は,ファン・ホッフ(van Hove)特異点と呼ばれる。以下に行な

う光学スペクトルの解析には,このような特異点のみを考える。

 特異点は,な一空間中の対称性の高い方向に存在するので,等価な特異点がいくつか存在し,スペクト

ル中の構造は,これらの特異点における電子遷移の重なりから成る。一軸性応力が加わると,これらの同

等な特異点は・それぞれ異なる歪をうける。このため・応力軸に対する偏光依存性が隼ずる。

 歪が生ずると,電子のエネルギー準位は,移動あるいは分裂し,光学遷移確率は変化する。歪が非常に

小さく,考えている電子準位に縮退が無い場合,あるいは,電子準位が歪により分裂しない場合には,歪

による光学遷移確率は無視出来る9)。この場合,W関数の間には,第1表に示す簡単な関係が成立する。

第1表髭一空間の比較的高い対称性をもつ方向にある単純な特異点に対するW関数間の関係。

昨一ゾ百D・・d誹)

卯3=0,W15≒0

W3キ0,四5=0

W口3≒0,W15キ0

全ての方向

浸及びL方向

∠,X及びε(r2)方向

∠,ゐ,4,X及び5(「2)を除くすべての方向

ここでD11はKaneの表示9)による変形ポテンシャル。

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研究紀要(1973)

これを用いて,死一空間中の光学特異点の方向を決定できる。尭一〇以外に存在する縮退した特異点で,

歪により準位の分裂を起こす特異点の場合には,W関数間に簡単な関係は無い。

 第H表は,種々の方向における光学許容特異点のW関数を,有効質量近似のもとで,歪ハミルトニア

ンを各特異点について計算し,これらを等価な特異点について加え合わせることにより求めたものであ

る8)。縮退した特異点および5線上のr、,r、表現に従がう特異点は,この表の関係からは区別できな

い。この場合には,大きな一軸性応力により,縮退を除くことが必要であろう。

第n表髭一空間の∠〔001〕,遭〔111〕及び5〔110〕方向にある光学特異点のWP

   関数とε2(ω)との関係8)。乃は特異点の対称性を示す。

(a)4〔001〕方向

WF1

t w,

W5

r1

     dε2一ゾ百D・1d充ω

一蕩D・3藷

0

r5(5一・)

     dε2ゾ百P・一a砺

亨D・3藷+撃P3(ε2・一ε2一)

 P4一万(ε2+一ε2一)

r5(no5-0)

     dε2一玉/吾’1)1Lヨ石「

畜豆D・3藷

者P・5霊レ

賑票那w・一準葺鵬

 中央の列の最下行の式は,W1,

を考慮した場合である。

W2,W3,の間の関係を示したものである。5-oはスピン軌道相互作用

(b〉万〔111〕方向

■1

W1

W「3

W5

r2

     dε2一ゾ百D・1d五ω

0

一暑言D・5翫

馬(5一・)

     dε2一ゾ吾’PILで面一

傷禦(ε2+一ε2一)

藩孕(・2・一・2一)+2告器

鴨一一吉{景w・+箒w・

r3(π・5一・)

     dε2一ゾ百D・1d勧

一ノ喜P、翫

(ゾ評D・5一亨D・)艦

4

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GaPのピェゾ反射スペクトル

(c)百〔110〕方向

W1

W3

W5

r1

     dε2一ゾ百P・1d加

卿・3翫

一去D・5藷

r2

     dε2一ゾ言D・1 d石一

一〆喜D・3£器

0

r3

     dε2イ百D・1嶺ω

勲・3翫

去D・5藷

 1λ二 4 2

」:スピン軌道分裂エネルギー。

ε2+,ε2一:スピン軌道分裂したバンドの無歪誘電率の虚部,ε2=ε2++ε2一の関係が成立する。

D〆Kane9)による変形ポテンシャル。

 髭一〇(F点)における縮退した特異点の場合には,準位の波動関数の対称性が分かると,光学遷移の選

択則が簡単に求まる。この実験の解析には,群論の表現でr、5からT、への遷移,および「25’からr1

への遷移を考えた。この二つの場合の光学遷移確率の応力による変化を第皿表に示す。

        第皿表

(a)r15一一→1■1遷移

r点(尭=(000))における光学遷移確率とその応力による変化

馬(号暑)

1(暑・壱)

r・v(去,去)

r㏄(麦・去)

/ノ ⊥

0

2少2(1+α)

ρ2(1一α)

3百ρ2

■ρ2(1-2α)

2

ρ2(1一α)

  2δv(3、、一S、2) αコー一一         :〔001〕応力のとき     ∠v

一遡垂4 丁   二〔111〕応力のとき  V/34v

か〈砂漏5>,etc

 4はスピン軌道分裂エネルギー,6,4は変形ポテンシャル定数12),添字のC,Vはそれぞれ伝導帯,価電

子帯を表わす。醜ゴ弾性定数,Tは応力である。

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研究紀要(1973)

(b)r/25一→■15遷移

応力// 〔oo1〕

r6c

  (器)

r8v+  (暑・去)

(}去)

/!

4ρ2(1+r) ρ2(1-27)

0 3ρ2

r・v+(去・告)・

   応力//〔111〕

l   r」+(器)l o

l(鈷)4ρ・(・一β)

0

r8c『

(募書) (妾去〉

。 12ρ2(、+27)

    1

2P2  、  0

4ρ2 0

(暑・書〉 (暑・去〉1

0

2ρ2

ρ2

2ρ2(1-7)

0

3P2

r・v+(赫) 0

3P・(1+書β)2ρ・

  が     0

0

0

12ρ2(1 2α一2β)

0 4ρ2(1 α)

0

2ρ2(1+α)

3ρ・(1+暑α〉

2ρ2(1+β)

0

P2

α一2塑雅丁,β一一24cS44T,7-26e(S・・ゴ・垂ρ一<X ρ劉z>,etc  ゾ3イ・   一γ厄4c    ∠c

IV 実験結果と議論

 第2図は,応力がそれぞれ〔001〕,〔111〕および〔110〕のときのGaP のピエゾ反射スペクトルであ

る。これら6個のスペクトルは,付録に示すように,互いに独立ではない。例えば,〔110〕応力の場合の

応力に平行および垂直の偏光に対する二つのスペクトルは,〔001〕および〔111〕応力のスペクトルの線

型結合により表わすことができる。

 第3図の実線および点線のスペクトルは,それぞれ〔001〕および〔111〕応力のスペクトルから,付録

の(B-7),(B-8)の関係を用いて求めた静水圧に対応するピエゾスペクトルである。この二つのスペ

クトルの良い一致は,以下の対称性を用いた議論にデータが十分耐えられることを示す。

 第3図のピエゾスペクトルに現われる構造のエネルギー値を,エレクトロリフレクタンス10)による値と

比較し,第IV表に示した。これらの値のわずかな相異は,各々の測定法によつて,スペクトルの形状が見

かけ上異なることに起因しているのであり,本質的なものでない。次に各エネルギー領域に分けて議論を

進める。

 〔Eo領域〕

 2,75eVの構造は,反射スペクトルでは測定困難であるが,変調法によるスペクトルには,するどく現

われる。

6

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GaPのピェゾ反射スペクトル

 この構造は,その吸収係数の大きさから,直接

吸収端(Eo端)での遷移によるとされている。

第2図に示すように,この構造のピエゾスペクト

ルによる形状は,応力方向に依存しない。このこ

とから,この特異点が,ゐ一空間中の高対称の点

に存在し,かつ,この構造がρ一様の状態,

・8(場),r7(場)から,5一様の状態,

磁一吉)への遷移と推定される。第皿表1こ示す

2.5(ey〉3.0 3.54.04.55.05。5

5

曽唇

0

一5

一10

X10-5   GaP300K       公       5

   /、…一

 応力〃〔111〕V\ノ          )一一一一一E〃S

-E⊥S

5000      4000      3000

     波 長(A)

2000

(b)

砦1郎・

2,5(e踊)  3.0   3.5  4.04.55.05.5

τ

 1 ’1覧

2.5(ey)3.0 3.54.04.55.05.5

畔 、り 1Ii 、1

一 曹 『 隔 、

、監

、)

応カケ〔001〕

一一一一一一E〆1S

  EよS 1×一 2

5000      4000      3000      2000

    波 長(A)

      (a)

第2図 ピエゾ反尉スペクトル (a)

醐}rl一

 一5

一10ト・

 L[『,

〔001〕応力 (b)

5σ00 4000  3000 }     波 長(A)

      (c)

〔111〕応力  (c)〔110〕応力。

2000

第W表 光学特異点の尭一空間における方向,型及びエネルギー

GaP

P.R.

(eV)

2.225

2.775

3,650

3.735

4.68

~5.2

E.R.

(eV)

2。750

2.845

3.662

3.803

4.751

4.81

5.275

方  向  及  び  型

理 論

r

r

X

Mo

M1

Mo

M1

実 験

F

   M1∠f orε

   M2

r(?)

P.R.

E、R.

ピエゾ反射法

エレクトロリフレクタンス法10)

7

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研究紀要(1973)

1

0

一1

2.5(eV)3.0 3.54.04。55,05,5

一2

一3

一4

×10一5        !

備(黒+・剰

一一一一一〔111〕応5ノ」カ・ら

    求めたもの

  「001〕し苫むカ・ら

    求ダ)たもの

L一」.

第3図

 5000      4000      3000      2000

     メ長(A)

静水圧によるピエゾスペクトル。点線は 〔111〕

応力,実線は〔001〕応力のピエゾスペクトルか

ら算出したもの。

‘4ε2

5

0

応力〃〔001〕

第4図

 5000         4500         4000

      波長(A)

直接吸収端における誘電関数の虚部の歪依存性

                 J J。

第5図 直接吸収端のエネルギー準位と,その歪による   変化及び,光遷移の選択則(圧縮応力による歪   のとき)。

ように,「点(兎=(000))における光学遷移の応

力変化の中で,応力軸の回転に対し選択則の不変

な遷移は,この遷移しか無いからである。

 第4図は,E。端での誘電関数の虚部ε2の歪

による変化」ε2を示す。このスペクトルは,

イR”/Rおよび4R・LIRのクラマース・クロニッ

ヒ変換から求めた。4ε2⊥のスペクトルには,二

つのピークが現われ,4ε2”スペクトルには,一つ

の幅広い負のピークが現われた。

 第5図に,’8,■7およびr6状態のエネルギ

ー図と,その応力依存性および光学遷移の選択則

を示す。4ε2⊥の二つのピークは,r8と凸のス

ピン軌道分裂を反映している。分裂の大きさは・

0.05eVである。この値は,エレクトロリフレク

タンスに10)よる値の約半分であるが,R4スペク

トル11)に現われる二つの構造のエネルギー間隔と

一致する。

 4ε2ノノスペクトルには,一つの構造しか現われ

ない。これは論雌とr8(暑・去)状態とのエ

ネルギー間隔が,応力により不変である,すなわ

ち・r6Cとr8・(暑・去)が・歪を受けたとき等しく

移動するとして説明出来る。この仮定のもとで,

静水圧に対する変形ボテンミャルとして,Zallen

達11〉による値を用いると,ペアバンドの変形ポテ

ンシャルδ一 1.4eVを得る。δは,Pikusお

よびBir12)の表示に従がった。このゐの値は,

GeおよびSiの値13)と符号まで含めて同程度の・

大きさである。

 第6図は,歪によるエネルギー準位の移動およ

び分裂による効果と歪による遷移確率の変化の効

果とを考慮したピエゾスペクトルのの模型図であ

る。点線のスペクトルのうち,幅広い分散型のも

のが遷移確率の変化,するどいピークをもつもの

が,エネルギー準位の移動および分裂による効果

である。両方の和が実線で,実測のスペクトルに

相当する。これは,実測のスペクトルを定性的に

良く表わしている。

8

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GaPのピエゾ反射スペクトル

 〔E、領域〕

 3・7eVの構造が,いわゆるE1端である。〔001〕応力のときの

」R”/Rのスペクトルは,3。7eVを中心に,大きな分散型の形状を

呈し,4R上/Rは,∠R”/Rスペクトルの符号を反転したものにほ

ぼ等しい。これに対し,〔111〕応力の4R”/Rおよび4・R⊥/Rは・

同符号の分散型を呈する。

 第3図の静水圧のピエゾスペクトルも,このエネルギー領域で分

散型を呈し,さらにこのスペクトルのクラマース・クローニッヒ変

換から求めた∠ε2スペクトルも同様の形状を呈する。静水圧に対

する∠ε2スペクトルは,近似的に無歪結晶のε2エネルギー微分に対

応する9)ので,」ε2の形状は,ε2スペクトルに,正のピークが存在

することを示している。GeおよびGaAs等1)のE、端と異なり,

GaPでは,ε2の構造に分裂が無い。

 ε2スペクトルに,このような一つの正のピークをもたらす可能性

  ∠ε2”ノヘ、、

      ∠ε2」L”♂”ノク飯ζ=こ==告、

第6図

エネルギー為ω

直接吸収端のピエゾスペクトル

の模式図,点線はそれぞれ歪に

よるエネルギー準位の変化と遷

移確率の変化を表わす。実線は

点線の和である。

が二つある。一つは,互いに近接した型の異なる二つの特異点(ハ41とM2型)による場合・もう一つ

は,励起子効果・4)を受けた一つの特異点,あるいは,二次元的な一つの特異点による場合である。後者の

可能性は,第3図の静水圧のピエゾスペクルの3,7eV付近に現われる肩により除かれる。この肩は・

ε,スペクトルのピーク頂上が,変曲点であることを示しており,このピークが一つの特異点から成ると

すると説明できない。この肩は,第2図(c)の〔110〕応力の∠R”/Rスペクトルに・負のピークが一つ現

われることでも確認できる。このJR・/ノRスペクトルは,近似的に〔oo1〕応力の4R”/Rと4R⊥/Rと

の和のスペクトルで表わされるからである。

 よって,E1端の構造は,3.647と3.786eVに存在する,それぞれM1およびM2型特異点から成

ることが分った。これらは,型の異なる特異点であり,スピン軌道分裂したペアの特異点ではあり得な

い。そして,ん一空間中の異なる点に存在すると期待できる。E1端の構造が,二つの特異点から成ること

は,エレクトロリフレクタンスの実験19)でも予想されており,われわれの実験結果は,それを裏づけるも

のである。

 E、端における4R”/Rと4R」L/Rの差のスペクトルは,〔oo1〕応力の場合の方が,〔111〕応力の場合

より,約10倍程大きく,この領域では,W3スペクトルの方が,W15スペクトルよりも,かなり大きいこ

とが分る。よって,これら二つの特異点が,それぞれ単純な,縮退のない特異点とすると,第1表の関係

から,これらは,鳶一空間中の〔001〕あるいは,〔111〕方向に存在する特異点である。

 〔E。’およびE2領域〕

 第3図の4.68および5,2eVの構造は,各偏光に対し,それぞれ異なる形状を呈する。この構造は,

エレクトロリフレクタンスでも観測され,それぞれ,Eo’端およびE2端と判定されている。4R〃/Rと

4R刃Rの差は,どちらの構造の場合にも,応力方向により,その絶対値の大きさに変化がない。これは

W3およびW、スペクトルが,この領域では,どちらも同程度の大きさをもつことを示す。この場合には・

尭一空間における特異点の方向を決めるのは困難である。

 4.68eVにおけるW、の構造は,他の構造に比して非常に小さい。これは,特異点におけるエネルギ

ーバンド間隔が,静水圧ではほとんど変化せず,正方晶歪および三方晶歪で変化することを示す。理論計

9

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研究紀要(1973)

算によれば15),「点における縮退した特異点の歪によるエネルギー変化は,死一空間の他の方向にある点

に比して小さい。よって4。68eVの構造は,r点における縮退した特異点によるものと推定される。こ

れは,従来の同定10)を支持する。

V結論とまとめ

 GaPの2・7eV付近の構造は,今まで,ρ一様の状態r8およびr7から,5一様の状態r6の遷移と

考えられてきた。われわれのデータは,この同定に対して,いくつかの証拠を与えた。われわれの得た

T8と乃のスピン軌道分裂エネルギーは,他の人による値の約半分である。われわれは,次に挙げる二

つの理由により,われわれの値の方がより正確であると確信する。(1〉ピエゾスペクトルは,通常のスペク

トルの単純エネルギー微分を与え,解析が単純で直接的である。(2〉R4スペクトル11)から得た値とは良く

一致している。この分裂エネルギーは,Siの値と同程度であり,GaPの価電子帯の左=0における状態

が,GaよりもPの性質を多く持つことを示している。

 Ge,GaAsおよび他の幾つかの皿一y族半導体のE1端は、通常の反射スペクトルでも分裂している

ことが分る。しかし,SiやGaPの通常の反射スペクトルでは,分裂が認められていない。ここでは,

測定精度のすぐれたピエゾ法によっても,分裂が認められないことを示した。さらに,GaPのE1端の特

異点の死一空間における方向が,GeやGaAsと異なり,Siにおいて推定されている〔001〕方向であ

ることを示した。この結果は,これらの辛導体の反射スペクトルの類似性から考えると驚くべきことであ

る。しかし,この不一致は,Ge-Si16)およびGaAs-GaPlo)の混晶のから,ある程度期待できたことで

ある。光学遷移が,死一空間の同じ方向にある類似の特異点によるならば,Geあるいは,GaAsのE、端

の分裂丁ネルギーは,Ge-Siあるいは,GaAs-GaP系において,成分と共になめらかに変化するはず

であるが,GaAs実際はそうなっていないからである。GaPの特異点の売一空間における方向が,GaAs

のそれと異なるというわれわれの結果は,GaAsrP1-r系のE1端の異常変化を,矛盾なく説明できる。

 E2端は,多くの半導体でほぼ同程度のエネルギー値に現われ,結晶ポテンシャルに依存しないことか

ら,従来の理論では,〔001〕方向の特異点と判定されている。しかし,われわれは,GaPのE2端は,

明らかに〔001〕以外の方向にあることを示した。われわれのデータは,E2領域の全域を測定してない

が,以上の結果は,少なくとも,従来のバンド計算に使われた特異点の死一空間中の位置が誤っている

可能性が強いことを示す。

 東京大学理学部の桑原五郎教授には,この論文のあらゆる点において御指導いただきました。厚く御礼申し上げます。

GaP単結晶をいただいた東芝の飯田誠之博士,電気回路の設計で助言をいただいた東京大学理学部物理教室の長沢勝明

氏,及びこの論文の出版を薦めて下さった瀬川渡教授並びに,この論文の校閲をして下さった武藤俊之助教授に厚く御

礼申し上げます。

参考  1)

  2)

  3)

  4)

 5)

文 献

H R Phillip and E。A.Taft,Phys。Rev.,129,1550(1963).

M・L・Cohen and T.K.Bergstresser,Phys,Rev.,141,789(1966).

M。Cardona,J.Phys.Chem.Solids,24,1943(1963).

F.H。Pollak,C,W.Higginbotham and M.Cardona,」.Phys.Soc.Japan,21,SuppL20(1966)

D.D,Sell and E.0.Kane,Phys.Rev.,185,1103(1969),

一10一

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GaPのピエゾ反射スペク{ル

6)J.E,Wells and P.Handler,Phys.Rev.,B3,1315(1971).

7)U.Gerhardt,Phys.Stat.SoL,11,801(1965)、

8) T、Takizawa,DL Theses(University of Tokyo,1972).

g) E.O.Kane,Phys.Rev.,178,1368(1969).

10)A,G.Thompson,M,Cardona and K.L.Shaklee,Phys、Rev.,146,601(1966).

11) R Zallen and W,Pau1,Phys.Rev.,134A,1628(1964).

12) G.E.Pikus and G.L。Bir,Soviet Phys.Solid State,1,1502(1959).

13)E Adler and E.Erlbach,Phys.Rev.Lett,,16,87(1966).

14) B。Vericky and J,Sak,Phys.Status Solidi,16,147(1966).

15) F.Basani and D,Brust,Phys,Rev.,131,1524(1963).

16)J.Tauc and A.Aberham,J.Phys.Chem.Solids,20,190(1961)。

付  録

(A)歪による誘電率の変化

 歪による誘電定数の変化は,歪が小さい時には,次の形で表わされる。

          4ε〃=W漉‘β硯                           (A-1)

ここで,イεは歪による誘電定数の変化,6は歪,Wはピエゾ光学定数(piezo optical constant)と呼・

ばれる量である。4εとWは複素テンソル,8は実テンソルである。光学活性が無視出来る場合には,

」εは対称テンソルとなり,8は対称テンソル故, 四も対称テンソルとなる。このことを用いると(A

-1)は簡単な行列表示で表わせる。すなわち,σ,ゑZの添字を,11→1,22→2,33→3,23,32→4,31。

13→5,12,21→6と変え4ε,8を,

」ε=

/l…※lll・4辮1

と表わすと,(A-1)は,

         4ε乞=W「濯フ (ゼ=1ラ……6ンノ=1,……6)              (A-2)

となる。43規,432,7π3郷のクラスに属する結晶(Ge,Si,GaP,GaAs等は43ノ箆)では,対称性から

Wの独立な成分は,三個になる。すなわち,

(w)=(A-3〉

となる。同様に歪と応力σとの関係も

         碗;S-」σ,                             (A-4>

となる。ここでS”は,elastic complianceであり,(A-3)と同様な形式で表わせる。

一11一

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研究紀要(1973)

 4εは,W11,W・2,Wl44の三定数で完全に記述され,三回の独立な測定により,4εに関するすべての

情報が得られる。次に比較的対称性の高い応力方向に対し」εを求め,三つの独立な測定として選べる応

力軸を検討する。

←り 〔001〕応力

応力の大きさをTとすると,漉は

一/弊 li/(A-5)

で与えられる。応力方向に対し平行および型直の電場に対する4εを,それぞれ4ε“,4ε⊥と表わすと

         4ε11一(W、、S、、+2W、2S、2)T

         4ε⊥={(W11十W12)312+W12Slll T                 (A-6)

となる。

(ロ〉〔111〕応力

  ωと同様に,応力の大きさをTとし,応力方向に対し平行および垂直の電場に対する4・をそれぞ

 れ,4ε“,∠ε⊥とすると,

                            T         ∠ε〆1-1(Wl・・+2Wl、2)(3、、+2S、2)+2凧4S441-                            3                                        (A-7)                           T         4ε⊥一{(Wh+2W、2)(S、、+2S、2)一W44S}一                           3

となる。

@ 〔110〕応力

〔001〕および〔111〕応力の場合は,4ε⊥は応力方向に垂直な面内での電場の方向に依存しないが,

〔110〕応力の場合には依存する。〔001〕, 〔111〕応力のときには,誘電率晴円体が回転階円体で,その

回転軸が応力軸と一致するのに対し,〔110〕応力のときには,回転晴円体にならないからである。直交

座標軸を,階円体の三本の軸に一致させてとると,すなわち三軸を,〔110〕,〔110〕,〔001〕方向にとる

と,

                               T        4ε〃〔110〕{(W・・+凧2)(S・・+S・2)+2凧2S・2+凧4344}互

           一                       丁        4ε⊥〔110〕一1(W・・+凧2)(Sエ・+S・2)+2凧2S・2一肌4S44}互   (A-8)

                         T        4ε⊥〔oo1〕={2W、、3、2+2W、2(S、、+3、2)}一                         2

一12一

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GaPのピェゾ反射スペクトル

となる。ここで,4εの右肩の添字は,電気ベクトルの方向を示す。他方,三軸として,〔110〕,〔112〕

〔111〕をとると,

                                   T          4ε〃〔110〕一1(W・・+冊・2)(S・・+3・2)+2W・23・2+W44S44}・万

            _                           T          ∠ε⊥〔]12〕一{5(W・・+W・2)(S・・+S・2)+2W・2S・2-4W・・S・r四44344権(A-9)

            _                             T          ∠ε⊥〔111〕一{2(W・・+W・2)(S・・+S・2)+2W・2S・2-W・・S・rW44344憶

となり・さらに4εテンソルには,次の非対角要素が現われる。

          {一(凧、+W、2)(S、、+3、2)+2(W・2S・2+W・・S・・)一肌4S44}乎丁

(二) 〔112〕 応力

 三軸として〔112〕,〔110〕,〔111〕をとると

                                  T          4ε〃〔112〕一{(W・・+W・2)(S・・+5・2)+2W・2+W44S44}互

                                        丁          4ε⊥〔∬o〕一{5(W・・+W・2)(S・・+5・2)+2四・2S・2-4W・・S・rW44S44権(A-10)

             _                            T          ∠ε⊥〔111〕一{2(W・・+W・2)(3・・+S・2)+2W・2S・2-W・・S・・一肌4S44}百

となり,更に非対角要素として

          {一(W、、+W、2)(Su+8、2)+2(W・2S・・+W・・S・2)+凧4S44}穿丁

が現われる。非対角要素を除くと,(A-9)式と完全に一致しており,〔110〕と〔112〕方向を独立な応

力軸として選べない。

 以上から,光学測定する試料面が〔111〕のときは,一つの試料からWテンソルの三つの成分を決め

ることはできないが,試料面が〔001〕,〔110〕のときには,適当に応力軸を選ぶことにより,同一試料に

よる三つの独立な測定が可能である。

(ホ)静水圧

 この場合は,電場ベクトルの方向によらず

          4ε=(WF11十2W12)(S11十2812)T                   (A-11)

となる。                                         ,

 (A-6)から(A-10)の式の間には,次の関係が成立し,種々の応力軸に対するデータ間の一慣性並

びに(A-2)式の正否をチェックできる。

          (4ε“+24ε⊥)〔oo1〕応力=(4ε“+24ε⊥)〔111〕応力=∠ε静水圧       (A-12-a)

          (∠ε“十3∠ε⊥〔112〕)〔110〕応力=(∠ε11+3∠ε⊥)〔oo1〕応力         (A-12-b)

          (4ε“十4ε⊥〔112〕)〔110〕応力=(∠ε11+4ε⊥)〔111〕応力          (A-12-c)

          (∠εrr4ε⊥〔110〕)〔110〕応力=(∠ε“一4ε⊥)〔111〕応力          (A-12-d)

          (4ε1!十∠ε⊥〔110))〔110)応力=(∠ε〃+∠ε⊥)〔oo1〕応力          (A-12-e)

                      一13一

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研究紀要(1973)

 (A-12-a)は,静水圧に対する誘電応答であり,W11+2W12に比例している。これは結晶の格子定

数が,等方的に変化した時の誘電率の変化を示している。〔001〕応力のときの,イε. 4ε⊥は(A-6)に

より(WlrWP12)に比例する。また〔111〕応力のときの4ε“一盃⊥は四44に比例する。これらは,応

力により誘起された二色性および複屈折の程度を示す。W、、+2W、2,W11-W12,W44の三定数も各々独

立であり,この組合せの方が物理的解釈に便利なので,新しく次のピエゾ光学定数を定義する。

         IV、≡W、、+2W、2

         WF3…W11 四12                         (A-13)

         Wi5≡W44

WFの右下の添字1,3,5は,Koster達による群論の表現に準じたものである。(A-13)を用いて,

ゴεを次のように書き換える。

         ∠ε、一Wア、6、

         4ε3r=W363rデ 7;α,β                    (A-14)

         4ε5γ一四585γダ7=剛,ツ驚,罵

ここで,81,θ蹄傷は,結晶の立方晶軸を¢,ッ,zに選ぶと,

            1         ら≡ _(6淵+6四+6zz)           ゾ3

         83α≡(28εr6淵一8w)ノゾ百                     (A-15)

         鄭=(8窟一肋)ん/万

         85ηヨ6ωΨヲ85μ=θμ,f~5篇三8~ω

となる。4ε・は静水圧,4ε3rは正方晶型歪,4ε5rは三方晶型歪に対する誘電応答である。

⑥ 4RIRと4・との関係

 誘電率の変化は,反射率の変化に反映される。以下では簡単のため,物質は光学的に等方的であると

し・かつ垂直入射の場合を考える。光の振幅反射率rは

           n+踊一1         r=      =紹¢φ                         (B-1)           n+漉+1

である。ここでnは屈折率,たは消衰係数,φは位相角である。エネルギー反射率Rは,

         R判rl2岬2

で与えられる。誘電率εとη,為との間には,εを

         ε=ε、+碗

と表わすと,

         ε、=陀2一為2,ε2=2励

なる関係があるから,

            1 4R         4ε・=百αR一β4φ

            1 4R         」ε2=デR+卿           (B-2)

が成立する。ここで,

                    一14一

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GaPのピエゾ反射スペクトル

          α一n(η2 3乃2-1),β一た(3n2一沌2-1)

である。(B-2)から,∠R/Rを求めると,

          4R          R=A4ε・+B∠ε2            (B-3)

となる。ここで

          撫2α B〒2β            α2+β2’  α2+β2

である。(A-14)式の4εを実部と虚部に分けて記述すると,

          ・4ε1,2r=ワV〆1}の7                            (B-4)

          ∠ε2,ゴr-W「メ2切7

となる。ここでノ=1・2・3であり,γはノ=1の場合には除かれ,ノ=3,5のときにそれぞれα,βお

よび諾茜ッz,z∬をとる。W”,W「’121はWゴの実部と虚部である。(B-4)を(B-3)に代入すると,

          (姿)フ,一Qフ8ゴ・

          Qゴ瓢・AWメ1)+B予Vメ2)                         (B-5)

が成立する。各成分で表現すると,

          (誓)、一Q・8・

          (釜),,一Q383r∫7一α,β      (B-6)

          (姿)57-Q565rダー,ツー

である。QプはWゴと類似の量であり,Q1は静水圧による反射率の変化を,Q3とQ5はそれぞれ正方

晶歪,および三方晶歪による反射率の変化を表わす。各応力方向に対する4RIR の測定スペクトルか

ら,(.B-3)および(A)節の結果を用いて(B-6)を算出する。

       〔001〕応力

          (誓)、一毒(姿+24発⊥)

          (餐〉,.一!喜(4奏”一4委⊥)     (B-7)

       〔111〕応力

          (努)、一需(4奏”+2∠奏⊥)

          (姿)、,一去(4餐”一姿と)      (B-8)

       〔110〕応力

 光の入射面が〔ooi〕面のときは

          (釜)、,一去(4R饗110〕4R美〔110〕)    (B-9)

                     一15一

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研究紀要(1973)

が求まる。これらのうち,独立な三つの関係式を用いることにより,Qb Q3,Q5が求まる。

 4R/Rからイε2,求めるには,歪による位相角の変化踊が必要である。反射率Rと位相角φとは

Kramers-Kronig変換で結ばれており,この関係から4φと∠RIRとの間に次の式が成立する。

                4R    4R          」磯lrR(窪語(げ)濯    (B-10)

4φを正確に求めるには,イR/Rが全エネルギー領域にわたって知れている必要がある。しかし4RIRは

実際には,限られた領域でしか求まらない。よって(B-10)から4φを求める除には,4RIRのスペク

トルを測定領域外に外挿しなければならない。外挿の仕方により,踊スペクトルの零点は異なるが・そ

の形状はあまり影響されない。また4RIRに現われる構造が,他の構造とエネルギー的に離れている場

合には,外挿法による誤差は無視できる。

Piezorenectance of GaP

Takeo TAKIZAWA

Department of Physics,College of Humanities and Sciences,

        Nihon University,Tokyo

        (Received October31, 1972)

  The modulated piezoreflectance of the single crystal of gallium phosphide was measured at

300K in the spectral range2.O to5.4eV。 The direct gap structure at2・7eV was assigned to a

transition from a p-like state to a s-like state by its stress-isotropic behaviour. The spin orbit

splitti㎎energy of the p-1ike state was obtained as O。05eV,which was about a half of that

obtained previously.

  From the dependence of the reflectvity change∠R/R on incident light polarization and

stress direction, the EI stmcture at3.7 eV was shown to consist of two singularities of

different types and to be located along〔001〕or〔110〕direction inルspace・ The direction of the

EI edge is d遜erent from that of Ge or GaAs,which is seen to be compatible with theoretical

assignments. O皿results,however,provide an unambiguous explanation of the so far reported

data of the mixed system GaAsヱP1一置which showed an anormalous variation of the EI edge

with the composition.

  Structures at Eo’and E2edges were also examined. Their energies agreed with those ob・

tained by electroreHectance measurements,but the singularity of the E2edge seems to be located

along different directions in死.space from those expected theoretically。

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