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21 Geant4 による カロリメータ シミュレーション 大学 4 エネルギー 06S2036J 2010 3

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平成 21年度卒業論文

Geant4による細分化電磁カロリメータのシミュレーション

信州大学 理学部物理科学科 4年高エネルギー研究室

06S2036J

山浦 弥

2010年 3月

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目 次 1

目 次

概要 2

1 カロリメータと高エネルギー事象 3

1.1 カスケードシャワー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.1.1 電磁シャワー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.1.2 ハドロンシャワー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

1.2 カロリメータ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

1.3 エネルギー分解能 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

1.4 電離損失 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2 細分化電磁カロリメータ 9

2.1 構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.1.1 吸収層 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.1.2 検出層 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.2 MPPC . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

3 Geant4 13

3.1 DetectorConstruction . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.2 PrimaryGeneratorAction . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.3 PhysicsList . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

3.4 ExampleN03 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

4 研究目的と概要 17

5 シミュレーション 18

5.1 モリエール半径の測定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

5.2 MIPの決定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

5.3 シンチレータ間隔によるエネルギー分解能への影響 . . . . . . . . . . . . . 19

5.4 MPPCの収まる溝の大きさによるエネルギー分解能への影響 . . . . . . . . 24

5.5 従来と新型のシンチレータのエネルギー分解能の比較 . . . . . . . . . . . . 27

6 まとめと考察 31

謝辞 32

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概要 2

概要加速器は予想されているさまざまな素粒子理論を証明するために必要となる重要な実験装置である。現在 CERN(欧州素粒子・原子核研究機構)で世界最大の陽子-陽子衝突型円形加速器 LHC(Large Hadron Collider)が稼働中である。LHCは重心系での衝突エネルギーが 14TeVに達し、宇宙開闢直後の状態を再現できるので、未発見で質量の起源とされるHiggs粒子やダークマターの候補の一つである超対称性粒子の観測が期待される。しかし陽子は複合粒子であるため衝突後の反応が複雑で素過程の厳密な測定が難しい。それに比べ電子-陽電子衝突型の場合は簡単な始状態と終状態のため、より精密な測定が可能である。ただ、円形加速器の場合、粒子を高エネルギーに加速させるほどビームの軌道接線方向に放射光を放出し粒子はエネルギーを失ってしまう。加速される粒子が軽いほどその効果は大きくなるので電子や陽電子だとエネルギーを上げにくく、観測できる事象に限度がある。そこで計画されたのが ILC(International Linear Collider)である。ILCは電子-陽電子を直線上で加速させるので放射光によるエネルギー損失がなくなり、TeV領域まで加速させることができる。ILC実験ではHiggs粒子や超対称性粒子、トップクォークの対生成を精密に観測し、宇宙開闢の謎や力の大統一を達成させることを目的としている。これらを観測する上でジェット事象の精密な測定が不可欠である。ジェット事象の精密測定の鍵となるのが粒子のエネルギーの測定をするカロリメータの分解能の向上である。現在各国で ILCに関する研究が進められており、日本でも ILCに用いるカロリメータの研究が続いている。本研究では、この ILCに用いるカロリメータをシミュレーションによって評価し、その向上を目的とする。

図 1: ILCの建設予想図:“ c©2005 Shigemi Numazawa”

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1. カロリメータと高エネルギー事象 3

1 カロリメータと高エネルギー事象衝突実験において予想される事象を観測するにはさまざまな物理量を測定する必要がある。図 2.1はそれらを観測する測定器である。これは衝突点を囲うように設置され、生成粒子の物理量を測定する。

図 1.1: 測定器

測定器を構成する主な装置としては、

• バーテックス検出器

• 飛跡検出器

• カロリメータ

• ミューオン検出器

が挙げられる。バーテックス検出器は衝突点に一番近いところに設置され、B中間子、D

中間子崩壊後の寿命の短い荷電粒子の飛跡を精密に測定する。その情報から B中間子,D

中間子の崩壊点のバーテックスを検出し、bクォークや cクォークを同定する。飛跡検出器は寿命の長い荷電粒子の飛跡を測定し、曲率半径から生成粒子の運動量を調べる。カロリメータは中性粒子のエネルギーをカスケードシャワーから測定する。ミューオン検出器は各装置の中で一番衝突点から遠いところに設置され、透過力の強い µ粒子の同定を行

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1. カロリメータと高エネルギー事象 4

う。これらの情報を元にPFA(Particle Flow Algorithm)という解析手法を用いて粒子を再構成し、Higgs粒子などの粒子を探索する。この章では本研究対象であるカロリメータとその中で起きる物理現象について述べる。

1.1 カスケードシャワー

高エネルギーの粒子が物質に入ると相互作用により二次粒子を生成し、その粒子がさらに物質との相互作用で粒子を生成する、というのを繰り返してシャワー状に粒子が増加していく現象をカスケードシャワーという。入射粒子の違いによってカスケードシャワーの仕方も異なる。電子や光子が入射すると電磁シャワーを起し、ハドロンが入射すればハドロンシャワーを引き起こす。このシャワーの違いでカロリメータは電磁カロリメータとハドロンカロリメータに分ける必要がある。まずそれぞれのシャワーについて述べる。

1.1.1 電磁シャワー

高エネルギーの電子や光子が物質に入射すると制動放射や対生成を繰り返して次々と電子や光子、陽電子を生成する。これを電磁シャワーという。電子や陽電子が物質内の原子核付近の強い電場で曲げられてエネルギーを光子として放出する現象を制動放射といい、光子が物質内の原子核付近の強い電場と相互作用を起こして電子と陽電子を生成する現象を対生成という。

図 1.2: 電磁シャワーの模式図

図 1.2は物質に入射した電子がカスケードシャワーを起こして拡がっていく様子を示している。 電磁シャワーの指標となるのが放射長X0である。これは入射電子のエネルギーが制動

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1. カロリメータと高エネルギー事象 5

放射によるエネルギー損失で 1/eになるときの物質の厚さである。X0は次式のように表せる。

X0 =716.4A

Z (Z + 1) ln(287/√

Z)

[g cm−2

](1.1)

ここでAは物質の原子量、Zは原子番号である。 電子が高いエネルギーであるほど制動放射によるエネルギー損失が大きく、電子が低いエネルギーになるほど電離や励起による損失が大きくなる。この二つのエネルギー損失が等しくなるときのエネルギーを臨界エネルギーといい、Ecで表す。EcはBergerと Seltzer

によって次式のように近似的に与えられている。

Ec =800

Z + 1.2[MeV] (1.2a)

 一方、Rossiの定義によると臨界エネルギーとは電子が 1放射長だけ通過したときのエネルギー損失が全て電離によるものであるような電子のエネルギーを指す。そのときのEcは

Ec =610

Z + 1.24[MeV] (1.2b)

この定義による臨界エネルギーは、電子がシャワーを作れるかどうかの境目のエネルギーなので、より現実的である。つまり電子のエネルギーがこの臨界エネルギー以下になるまでシャワーは続く。 シャワーは横方向にもひろがる。シャワーの広がりを表すのがモリエール半径RM である。これは次の式で与えられる。

RM = X0Es

Ec

[g cm−2

](1.3)

ただし、このときの臨界エネルギーは Rossiの定義した式 (1.2b)の方である。Esは特性エネルギーと呼ばれ、Es = 21.2052[MeV]である。また、物質が化合物や混合物の場合のRM は、

1

RM

=1

Es

∑ wjEcj

Xj

[g−1 cm2

](1.4)

である。wj、Ecj、Xjはそれぞれ化合物や混合物に含まれる j番目の元素の重量比、臨界エネルギー、放射長である。入射位置を中心とし、半径がRM の円筒を考えたとき、全エネルギーの 90%がこの円筒内に収まり、3.5RM で 99%が収まる。

1.1.2 ハドロンシャワー

高エネルギーのハドロンが物質に入射すると物質の原子核と強い相互作用により散乱・非弾性散乱をし二次粒子を生成する。この二次粒子がまた散乱を繰り返すことで粒子がシャワー状に広がっていく。これをハドロンシャワーという。ハドロンシャワーは次第に生成粒子のエネルギーが小さくなって二次粒子が作れなくなるか、核子に吸収されるまで続く。ハドロンシャワーは π中間子や中性子などで構成されているが、シャワー内に π0

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1. カロリメータと高エネルギー事象 6

が生成されると、2つの光子に崩壊して電磁シャワーを生み出す。またハドロンは原子核を壊してエネルギーを失ってしまう。この π0生成の統計的揺らぎと失われたエネルギーのためにハドロンカロリメータのエネルギー分解能は悪くなる。同じエネルギーでハドロンと電子を入射して、それぞれ検出されるエネルギーの比が e/h補償比と呼ばれる。性能が悪いカロリメータはこの値が大きい。e/h = 1としたカロリメータを補償型カロリメータという。 ハドロンが物質に入ってから 1回相互作用するまでの平均自由行程を吸収長と呼び、ハドロンカロリメータを評価する上でのスケールとなる。吸収長 λI は次式のように近似できる。  

λI ≈ 35A1/3[g cm−2

](1.5)

λI は放射長と比べるとほとんどの物質で λI � X0となるので、電磁シャワーに比べハドロンシャワーは進行方向の距離が長い。そのためハドロンカロリメータは電磁カロリメータよりも外側に置かれる。

1.2 カロリメータ

電磁カロリメータは吸収層で粒子の電磁シャワーの発達を促し、検出層で落としたシャワーのエネルギーの大きさから入射エネルギーを測定する。さらに飛跡検出器で測定した運動量と合わせて入射粒子の質量を求めることができる。吸収層と検出層が交互に配置されているタイプをサンプリング型という。吸収層には電磁シャワーの発達を促進させるために鉛などの重い金属が使われる。検出層にシンチレータが使われた場合、粒子がシンチレータに入るとシンチレーション光という光を発する。これはシンチレータ内の電子が粒子によりエネルギーを与えられてより高いエネルギー準位に励起され、その電子が低い準位に落ちるときに発する光である。与えられたエネルギーと等しいエネルギーを持つ光を放出するので、この光量の大きさからエネルギーを測定するのがカロリメータの基本的な測定原理である。サンプリング型は吸収層に重い金属を用いることでシャワーを早く発達させるのでカロリメータをコンパクトにすることができる。 吸収層でもエネルギーを測定できるようにしたものが全吸収型である。これは吸収層に無機シンチレータや鉛ガラスなど、透明かつ密度の大きい物質を用いる。粒子が透明な物質中で光より速く走るとチェレンコフ光を放つ。このチェレンコフ光を吸収層でも測定できるのでサンプリング型に比べ分解能がよいが、コスト面で不利なため、ILCではサンプリング型が使われる予定である。 Higgs粒子は直接観測することができない。Higgs粒子を発見するためには、Higgs粒子がW粒子や Z粒子に崩壊したあと発生するジェット事象を精度よく測定しなければならない。このときジェットの全エネルギーだけでなく、個々の粒子が落としたエネルギーを分離し、ジェットの構成要素を同定する必要がある。

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1. カロリメータと高エネルギー事象 7

1.3 エネルギー分解能

ILCは様々な粒子の精密測定を目的としている。そこでカロリメータに要求されるのが高いエネルギー分解能 (energy resolution)σE/Eである。これはエネルギーをどの程度正確に測定できるかという、カロリメータの性能を評価する上で重要な指標である。エネルギー分解能は次の式で表される。

σE

E=

σstocastic√E [GeV]

⊕ σconstant (1.6)

ただし、A⊕B =√

A2 + B2である。σstochasticは統計項とよばれ、サンプリング型カロリメータの検出層に落ちるエネルギーの揺らぎや、吸収層でシャワーが止まってしまい検出層で検出できなかった粒子の統計的揺らぎや、光検出器が検出する光電子数の揺らぎを表す。σconstantは個々の読み出しチャンネルのゲイン不均一性やカロリメータのエネルギー漏れによる揺らぎを表す。ILCにおける分解能の目標は σstochastic ≤ 15%、σconstant ≤ 1%

である。 カロリメータは入射した粒子のエネルギーに比例したシンチレーション光を測定する。この応答の線形性をリニアリティといい、この比例関係から入射エネルギーを求める。検出層ごとの応答の違いや、光検出器の応答の違いのため直線からずれてしまうことがある。すると正確な入射エネルギーが分からなくなったり、エネルギー分解能の形も変わってしまう。カロリメータを評価する際はリニアリティを良くするために応答補正する必要がある。

1.4 電離損失

荷電粒子が物質に入射すると原子を電離させたり励起させて自身のエネルギーを失っていく。これを電離損失という。単位厚さあたりに失うエネルギーを阻止能と呼び、Bethe-

Blochの式として知られる。

−dE

dx= K

A

Z

(z

β

)2 [1

2ln

2mec2β2γ2Tmax

I2− β2 − δ(βγ)

2

](1.7)

ここで粒子の速度を v、光速を cとすると

β =v

c, γ =

1√1 − β2

(1.8)

である。式 (1.7)で zは入射粒子の電荷、I、δ(βγ)は平均励起ポテンシャルおよび密度補正項と呼ばれ、物質固有の値を持つ。また、K = 0.307075[MeV g−1 cm2]である。Tmax

は入射粒子が物質内の自由電子に与える最大のエネルギーで次の式で表される。

Tmax =2mec

2β2γ2

1 + 2γme/M + (me/M)2 (1.9)

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1. カロリメータと高エネルギー事象 8

図 1.3: Bethe-Blochの式を速度の関数で表したグラフ

ここでMは入射粒子の質量である。図 1.3はBethe-Blochの式を速度の関数で表したグラフである。図 1.3からわかるように入射粒子のエネルギーが変わると阻止能も変わってくる。エネルギーが低いと阻止能は大きく、エネルギーが高くなるにつれて阻止能は小さくなりほぼ一定の値になる。阻止能が最も小さいエネルギーを最小電離 (Minimum ionization)と呼び、そのようなエネルギーの粒子をMinimum Ionizing Particle(MIP)という。MIPは粒子によらず一定のエネルギーを落とす。通常薄い物質を通過する粒子はMIPとして振る舞う。また透過力の高い µ粒子をMIPとみなすことができる。高エネルギー分野ではしばしばエネルギーをMIP換算で表す。MIPは一定のエネルギーを落とすという性質を持つので、カロリメータのエネルギー応答の感度を表す指標となる。これを利用して粒子の落としたエネルギーをMIPの数で表せば検出層の応答の非一様性を補正することができる。 Bethe-Blochの式は厚い物質中のエネルギー損失の平均値を表し、ある入射エネルギーに対する電離損失はガウス分布を示す。しかし物質が薄い場合散乱回数が少なくなり、ポアソン統計によりエネルギーが大きい方へばらつく。この分布をランダウ分布という。MIP

換算をする際、このランダウ分布のピークのエネルギーを 1MIPとする。

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2. 細分化電磁カロリメータ 9

2 細分化電磁カロリメータILCに用いられる測定器にはいくつかのコンセプトが考えられており、そのうち日本などが研究しているのが ILDである。図 2.1は ILD概観図である。これは欧州で研究されている LDCと、アジアで研究されているGLDが統合したものである。この章では本研究の対象であり、ILDに組み込まれる予定の細分化電磁カロリメータついて述べる。

図 2.1: ILD概観

2.1 構造

ILC実験ではジェットに含まれる粒子の分離をカロリメータで行う必要がある。そのためにはカロリメータの読み出しを細かくすればよい。そこで現在試作されているカロリメータは図 2.2のように検出層を分割している。分割には 10mm×45mm×3mmのストリップ型シンチレータを用いている。

図 2.2: 細分化電磁カロリメータ

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2. 細分化電磁カロリメータ 10

これを一層目は 4×18個を並べ、2層目は 1層目を 90度回した形で並べる。3層目はさらに 90度回した形で並べ、これを繰り返して全部で 30層作る。すると 2つの層でシンチレータが重なる部分がセルになるので実質的に細分化できたことになる。この分割の細かさをグラニュラリティ(granularity)という。また読み出しはシンチレータごとに行うので全部で 2160チャンネルですむ。吸収層には密度の大きいタングステンにコバルトを混ぜたものを用いるので放射長とモリエール半径を小さくしてカロリメータをコンパクト化している。シンチレーション光の読み出しには、ストリップ型シンチレータ一つ一つの溝に収められているMPPCという非常に小さい光検出器を用いているので装置自体が大変小さくなっている。以下で詳しい説明をする。

2.1.1 吸収層

吸収層は一辺が 20cmの正方形で厚さが 3.5mmのタングステンを用いる。このタングステンには 12.5%だけコバルトが混ぜられている。タングステンの密度は 19.25[g cm−3]

と大きいので、モリエール半径は 9mmと大変小さく従来の鉛より小さなカロリメータにすることができる。

2.1.2 検出層

図 2.3: ストリップ型シンチレータ

検出層に用いられるストリップ型シンチレータは図 2.3のような 10mm×45mm×3mm

の大きさで、先端には溝が掘ってある。中には波長変換ファイバーを入れる穴が空いていて、溝に入れたMPPCにシンチレーション光を導く。個々のシンチレータにポリエステル製の反射材を巻くことによってさらに光検出の効率を上げている。このシンチレータを一層につき 4×18個タイル状に並べ、2層目以降は 90度ずつ回した形でならべる。こうすることでジェットに対して高い位置分解能を持つようになる。

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2. 細分化電磁カロリメータ 11

2.2 MPPC

MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)は複数のAPD(アバランシェフォトダイオード)のピクセルを持つ半導体光検出器である。特長として以下が挙げられる。

• 優れた検出効率

• 磁場耐性

• 小型

• 高ゲイン

• 常温で動作

などが挙げられる。細分化されたカロリメータでは個々のシンチレータが小さいためどうしても落ちるエネルギーが小さくなってしまうので高ゲインかつ検出効率がよくないといけない。また多チャンネルなので光検出器を小さくしないと装置が大変大きくなってしまう。そして測定器には強磁場をかけているので磁場耐性のあるものでないといけない。MPPCはこのような要求を満たすので細分化電磁カロリメータには非常に有効なデバイスである。 MPPCは受光面が 1mm×1mmの非常に小さな一枚の p+型半導体の上にAPDのピクセルをアレイ状に並べた形をしている。APDに逆電圧をかけていくと大きな電流が急に流れ始める。これはブレークダウンと呼ばれ、これを起こす電圧をブレークダウン電圧という。ブレークダウンはなだれ降伏とツェナー降伏によって引き起こされる。なだれ降伏では高電圧によってキャリアが空乏層を高いエネルギーでドリフトし、格子の結合を切ることで新たにキャリアを作り出す。このキャリアも高電圧でエネルギーを持ち、さらにキャリアを作り出す。このように次々となだれのようにキャリアを増やしていくことで大電流が一気に流れる。このキャリア増幅過程をアバランシェ増幅という。ツェナー降伏では p領域の荷電子帯の電子が高電圧のためにトンネル効果をおこし、n領域の伝導帯に抜けるようになり大電流が流れる。逆電圧を印加させているところに光子が入射すると空乏層にキャリアが作られ、アバランシェ増幅などで増幅される。MPPCはこの増幅された

図 2.4: なだれ降伏とツェナー降伏

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2. 細分化電磁カロリメータ 12

信号をピクセルごとに読み取り、足し合わせることで光子をカウントすることができる。一つのピクセルの出力信号は入射光子数にかかわらず一定で、光子が入ったか入らなかったかという情報のみがわかる。しかし各ピクセルの出力チャンネルは一つになっているため信号が重なり合い大きなパルスを出力する。このパルスの電荷量を測定することで検出した光子数を見積もることができる。1ピクセルの出力信号の電荷量Qpixelは

Qpixel = C(VR − VBR) (2.1)

で表される。Cは一つのピクセルの接合容量、VR、VBRはそれぞれ逆バイアス電圧とブレークダウン電圧である。最終的に出力される電荷量Qoutは、光子を検出したピクセル数Nfiredを用いて

Qout = C(VR − VBR)Nfired (2.2)

となる。 MPPCの一般性質として、高ゲインを得られることが挙げられる。上で述べた原理のため印加電圧を上げれば非常に高い増幅を得られるので微弱な光もカウントすることができる。増幅率Gは

G =Qpixel

e(2.3)

で表される。これは光子によって叩き出された電子がどのくらいの数に増幅したかを表す。増幅率は推奨電圧内ならば逆電圧に対して線形性を持つ。しかし半導体検出器であるMPPCの増幅率は温度に依存した応答特性を持つ。これは熱で結晶の格子振動が激しくなり、電子が十分に加速されないうちに結晶と衝突してしまうため増幅率が小さくなるためである。そのため温度に合わせて逆電圧を調節する必要がある。 また、熱励起によるノイズの増幅 (ノイズレート)や、アバランシェ増幅の過程で入射光子とは別に光子が発生し他のピクセルでカウントしてしまうクロストーク、同時に光子が入射した場合二つ以上の光子を一つとしてカウントしてしまい、応答の線形性が悪くなるサチュレーションなど、カロリメータの性能に影響を及ぼすこれらの性質も無視することはできない。カロリメータの研究と並行してMPPCの研究も進められている。

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3. Geant4 13

3 Geant4

高エネルギー物理学においてシミュレーションは実際の実験結果と比較して最終結果を出すために用いたり、装置を作る前に評価して開発の効率を上げるなど今や欠かすことができない。高エネルギー物理学で多く用いられるシミュレータがGeant4(GEometry

ANd Tracking 4)である。Geant4は、物質と粒子の相互作用をシミュレートするために開発されたソフトウェアである。CERNの LHC実験など大規模な実験でも使用されており、高エネルギー物理学だけでなく宇宙や医療分野などにも幅広く用いられている。 Geant4にはC++言語が用いられており高いオブジェクト指向を有する。そのためプログラムの拡張やデバッグが容易に行える。また、シミュレーションの様子がビジュアル化されており、反応の過程を捉えやすくしてくれる。しかしGeant4は一般的なシミュレータと異なってユーザーは必要なシミュレーションを行うために自分でプログラムを書かなければいけない。Geant4を動かすために最低限操作するプログラムを以下に挙げる。

•  DetectorConstruction class(測定器の構造)

•   PrimaryGeneratorAction class(入射粒子の種類、位置、運動量)

•   PhysicsList class(相互作用の種類)

目的とするシミュレーションの条件等を把握していないと十分な結果を得ることができないので注意が必要である。 Geant4にはあらかじめ測定器の構造や入射粒子などが定義されたプログラムがいくつか用意されている。これらのプログラムを拡張したりパラメータを決めれば十分なシミュレーションが行える。

3.1 DetectorConstruction

測定器の形状をきめているのがDetectorConstructionクラスである。プログラミングの流れとしてはまず形状 (Solid)と材質 (Material)を決めて組み合わせた後 (Logical Volume)、その相対的な配置 (Physical Volume)を決めることで測定器を作る。形状を定義するためのクラスは大きく CSG、Boolean、BREPsの 3つに分類できる。それぞれの特徴を以下に挙げる。

CSG(Constructed Solid Geometry) · · · 基本的立体要素を組み合わせた表現で粒子の輸送計算が速いが変則的な形状には不向き

Boolean · · ·CSG型で定義した 2つの Solidを論理操作で組み合わせる。輸送計算は遅い

BREPs(Boundary Represented Solids) · · · 立体表面を関数で表現するので形状の自由度が高いが輸送計算が遅い

この 3つのクラスを用いて長さなどのパラメータを決める。Solidは空の容器を作っているだけで、中身の材質 (Material)を決めないといけない。材質の定義は以下の 3つのクラスで行う。

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3. Geant4 14

G4Element · · · 元素を定義する。パラメータは原子番号 (陽子数)と原子量。同位体を定義した場合はその存在比も必要

G4Isotope · · · 同位体を定義する。パラメータは陽子数と核子数、原子量

G4Material · · · 単体や化合物、混合物を定義する。パラメータは原子番号や原子量、密度。化合物や混合物の場合は定義した元素や単体の種類とその存在比もしくは質量比を入力する

SolidとMaterialが定義されたらそれを G4LogicalVolumeで組み合わせる。この時点ではまだ Logical Volume同士の配置は決まっていない。相対的配置をきめるのが Physical

Volumeである。定義したLogical Volumeを、空間的な基準となるMother Volume(World

やすでに定義した Logical Volume)内での相対位置で配置する。通常はG4PVPlacement

クラスで行うが、Logical Volumeを複製して連続的に並べるG4PVReplicaを併用すると便利である。これらを踏まえた具体的なプログラム例を示す。 ========================================

  G4Box* solidAbsorber = new G4Box("Absorber",

                     20./2,20./2,20./2);

  G4LogicalVolume* logicAbsorber = new G4LogicalVolume(solidAbsorber,

                      Pb,

                     "Absorber";

  G4VPhysicalVolume* physiAbsorber = new G4PVPlacement(0,

                      G4ThreeVector((0.,0.,0.),

                      logicAbsorber,

                     "Absorber",

                      logicWorld,

                      false,

                      0);

========================================

1行目のG4BoxはCSG型の表現でキューブを表す。この場合一辺が20cmの立方体である。4行目はG4Materialで定義した物質で、この場合は鉛である。6行目と 7行目はMother

Volume(この場合は LogicWorld)に対する向き (回転)と位置の座標を表す。この場合はLogicWorldの中心に無回転で Logial Volumeを配置している。

3.2 PrimaryGeneratorAction

PrimaryGeneratorActionクラスでは入射粒子の種類やエネルギー、入射方向などを指定する。それぞれの指定するプログラムは次の通り。

SetParticleDefinition(particle) · · · 入射粒子を定義する。

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3. Geant4 15

SetParticleMomentumDirection(G4ThreeVector(1.,0.,0.)) · · ·入射方向を定義する。G4ThreeVectorの中は (x,y,z)座標で決める。この場合は x軸方向に入射する。

SetParticleEnergy(50.*MeV) · · · 入射粒子のエネルギーを定義する。この場合は50MeV

のエネルギーで入射する。

SetParticlePosition(G4ThreeVector(-100.*cm,0.*cm,0.*cm)) · · ·入射位置を定義する。座標の原点はMother Volumeの中心である。この場合は中心からx軸上の-100cm

の位置から入射する。

入射粒子の種類やエネルギーなどはマクロファイルでも指定できる。

3.3 PhysicsList

PhysicsListクラスでは各粒子と物質との相互作用を定義する。電磁相互作用や強い相互作用などが用意されている。例として光子の相互作用のプログラムを示す。 ========================================

   if (particleName == "gamma")

       {        pmanager->AddDiscreteProcess(new G4PhotoElectricEffect);

        pmanager->AddDiscreteProcess(new G4ComptonScattering);

        pmanager->AddDiscreteProcess(new G4GammaConversion);

       }========================================

これは物質に光子を入射したとき光電効果、コンプトン散乱、対生成が起こるように定義している。

3.4 ExampleN03

ExampleN03はGeant4に標準で用意されているプログラムで、サンプリング型電磁カロリメータのシミュレーションが行える。吸収層に鉛、検出層に液体アルゴンを用いている。本研究はこのExampleN03のパラメータなどを変更してシミュレーションしている。

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3. Geant4 16

図 3.1: ExampleN03

図 3.1はExampleN03でのシミュレーションの様子である。このように入射粒子と物質との反応を見ることができる。

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4. 研究目的と概要 17

4 研究目的と概要本研究はシミュレーションによって細分化電磁カロリメータのエネルギー分解能の評価と向上を目的とする。概要で述べた通り ILCは精密な実験を目的としており、電磁カロリメータのエネルギー分解能の目標は σstochastic ≤ 15%、σconstant ≤ 1%である。従来の電磁カロリメータと細分化電磁カロリメータの違いはストリップ型シンチレータを用いていることである。検出層を分割しても十分なエネルギー分解能が得られるか、またどういったものがエネルギー分解能に影響を与えるのかをGeant4を使って調べる。具体的には

• シンチレータ同士の間隔によるエネルギー分解能への影響

• MPPCの収まる溝の大きさによるエネルギー分解能への影響

• 従来と新型のシンチレータのエネルギー分解能の比較

を調べた。また、電磁カロリメータの基本特性を知るためモリエール半径も求めた。

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5. シミュレーション 18

5 シミュレーション

5.1 モリエール半径の測定

カロリメータは入射粒子の持つエネルギーを全て落とすように作らなければならない。その評価をするためにまずモリエール半径を調べ、理論値と比較した。 まず厚さが 3.5mmで縦横が 18cm×18cmのタングステンの吸収層と、厚さ 3.0mm、縦横が 18cm×18cmのシンチレータの検出層からなるカロリメータを作成した。層の数は30層である。これを一辺が 1mmのセルに分割した。このカロリメータに中心から電子を1000回入射し、各セルに落ちたエネルギーを全て足し合わせたものをEtotalとする。次に各セルのエネルギーを入射位置を中心とした円状に内側から足し上げていき、そのエネルギーがEtotalの 90%のエネルギーになったときに足し上げをやめる。その時のセルの距離がモリエール半径である。図 5.1はエネルギーの拡がりを表しているグラフである。

図 5.1: エネルギーの拡がり

横軸は入射位置からの距離 [cm]、 縦軸は検出層で吸収されたエネルギー [MeV]である。図 5.1をみるとほぼ全てのエネルギーが 6cm位までに落ちている。Etotalの 90%に達したときの半径は 2.18cmだった。 一方、理論値は式 (1.1)と式 (1.4)を使って求めた。ただしカロリメータは検出層と吸収層が交互に配置されているため質量比が分からないので、シンチレータとタングステンが層の厚さの割合で混ざっているとして計算した。またシンチレータはGeant4による定義から、炭素原子と水素原子が 9:10の割合で混合しているとした。以上を考慮して計算すると理論値は 1.57cmとなった。実験値と比べるとおよそ 38%ずれたが、3.5RM 内に99%のエネルギーが吸収されることを考えると、シミュレーションの場合 7.63cmの半径に 99%のエネルギーが吸収されることになる。カロリメータは一辺が 20cmの正方形なのでエネルギー漏れはほとんどないと考えられる。

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5. シミュレーション 19

5.2 MIPの決定

エネルギーをMIP換算したいので 1MIPがどのくらいのエネルギーか調べる。方法はカロリメータに µ+粒子を 32GeVで 1000回入射させ、厚さ 3.0mmの検出層一層あたりに落としたエネルギーを 1MIPとする。ヒストグラムはランダウ分布するのでそのピークのエネルギーを使う。図 5.2は µ+を入射させたときのヒストグラムである。

EdepEntries 1000Mean 0.7162RMS 0.3586

/ ndf 2χ 18.57 / 13Constant 103.5± 2194 MPV 0.0037± 0.5601 Sigma 0.00155± 0.04638

Deposit Energy [MeV]0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5

Ev

en

t

0

50

100

150

200

250

300

350

400

EdepEntries 1000Mean 0.7162RMS 0.3586

/ ndf 2χ 18.57 / 13Constant 103.5± 2194 MPV 0.0037± 0.5601 Sigma 0.00155± 0.04638

Energy Deposit in Scintillator

図 5.2: 32GeVのµ+を入射したときの一層当たりに吸収されたエネルギーのヒストグラム

縦軸がイベント数、横軸が検出層一層当たりに落ちたエネルギー [MeV]である。ピークのエネルギーは 0.560062[MeV]なので、これを 1MIPとする。

5.3 シンチレータ間隔によるエネルギー分解能への影響

次に検出層をストリップ型シンチレータにする。実際のストリップ型シンチレータと同じ 10mm×45mmのシンチレータに分割し、一つのシンチレータを反射材の素材であるポリエチレンテレフタラート (PET)で覆う。実際のシンチレータを覆っている反射材の厚さは 0.057mmである。また、波長変換ファイバーを通す穴は作っていない。これを一層につき 18×4個並べ、90度ずつ回転させながら 30層作る。図 5.3は一層目の検出層のGeant4によるグラフィックである。

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5. シミュレーション 20

図 5.3: 検出層の分割

シンチレータ間隔による分解能への影響を調べたいので、MPPCの溝は入れていない。

図 5.4: シンチレータ間隔の変更

 実験方法は図5.4のようにシンチレータ間隔を変えていく。このときシンチレータを覆う反射材の厚さを0mmから0.5mmまで変えて、それぞれの厚さで電子を1,3,5,10,20,30,40,50,60GeV

の各エネルギーで 1000回ずつ入射する。シンチレータ間隔は反射材 2枚分あるので、0mm

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5. シミュレーション 21

から 1mmまで変わることになる。電子はカロリメータの中心から 2cm×2cmの正方形の領域内でランダムな位置に入射するようにしている。反射材の厚さを増やすときはシンチレータを小さくして、カロリメータ全体の大きさを変えないようにしている。また、層方向の厚さは変えずに 0.057mmのままである。横軸を検出したエネルギー、縦軸を個数にしたヒストグラムをガウス分布でフィットし、その σの値をMeanの値で割った値をエネルギー分解能とする。これを式 (1.6)でフィッティングし、σstochasticと σconstantを求める。図 5.5、図 5.7、図 5.9は反射材の厚さが 0.1mmで電子のエネルギーがそれぞれ 3GeV、10GeV、30GeVのヒストグラムで、図 5.6、図 5.8、図 5.10は反射材の厚さが 0.2mmで、電子のエネルギーがそれぞれ 3GeV、10GeV、30GeVのヒストグラムである。

図 5.5: film厚 0.1mm、3GeVの電子 図 5.6: film厚 0.2mm、3GeVの電子

図 5.7: film厚 0.1mm、10GeVの電子 図 5.8: film厚 0.2mm、10GeVの電子

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5. シミュレーション 22

図 5.9: film厚 0.1mm、30GeVの電子 図 5.10: film厚 0.2mm、30GeVの電子

同じ入射エネルギーのヒストグラムを比べると、反射材の厚さが 0.2mmのほうがシンチレータに落ちたエネルギーが小さいのが分かる。シンチレータ間隔が大きい分、エネルギーを検出するシンチレータが小さくなった為だと思われる。 図 5.11と図 5.12はそれぞれ反射材厚が 0.1mmと 0.2mmのときのリニアリティのグラフである。横軸が入射電子のエネルギー、縦軸が検出したエネルギーをMIP換算したものである。

Beam energy [GeV]0 10 20 30 40 50 60

Ene

rgy

depo

sit [

MIP

s]

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

/ ndf 2χ 17.39 / 7p0 0.455± -2.18 p1 0.04315± 101.7

/ ndf 2χ 17.39 / 7p0 0.455± -2.18 p1 0.04315± 101.7

/ ndf 2χ 17.39 / 7p0 0.455± -2.18 p1 0.04315± 101.7

/ ndf 2χ 17.39 / 7p0 0.455± -2.18 p1 0.04315± 101.7

Linearity

図 5.11: film厚 0.1mmのリニアリティ

Beam energy [GeV]0 10 20 30 40 50 60

Ene

rgy

depo

sit [

MIP

s]

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

/ ndf 2χ 10.82 / 7p0 0.4423± -1.299 p1 0.04961± 99.13

/ ndf 2χ 10.82 / 7p0 0.4423± -1.299 p1 0.04961± 99.13

/ ndf 2χ 10.82 / 7p0 0.4423± -1.299 p1 0.04961± 99.13

/ ndf 2χ 10.82 / 7p0 0.4423± -1.299 p1 0.04961± 99.13

Linearity

図 5.12: film厚 0.2mmのリニアリティ

図 5.11と図 5.12を見ると、傾きはそれぞれ 101.7[MIPs/GeV]と 99.13[MIPs/GeV]となった。0.2mmの方が検出したエネルギーが小さいことがわかる。また、反射材の厚さが大きくなってもリニアリティは良いことがわかる。図 5.13と図 5.14は反射材の厚さが 0.1mmと 0.2mmのエネルギー分解能である。

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5. シミュレーション 23

]-1/2 [GeVBeam energy1/ 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

/E

σ

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

/ ndf 2χ 6.95 / 7

stochastic 0.002519± 0.15

constant 0.001705± 0.007059

/ ndf 2χ 6.95 / 7

stochastic 0.002519± 0.15

constant 0.001705± 0.007059

Energy Resolution

図 5.13: film厚 0.1mmのエネルギー分解能

]-1/2 [GeVBeam energy1/ 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

/E

σ

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

/ ndf 2χ 5.196 / 7

stochastic 0.002481± 0.1497

constant 0.001105± 0.01396

/ ndf 2χ 5.196 / 7

stochastic 0.002481± 0.1497

constant 0.001105± 0.01396

Energy Resolution

図 5.14: film厚 0.2mmのエネルギー分解能

横軸は入射エネルギーの平方根の逆数、縦軸はエネルギー分解能 σ/Eである。赤丸でプロットされたグラフを式 (1.6)でフィッティングしている。このグラフのようにそれぞれの反射材の厚さでのエネルギー分解能を式 (1.6)でフィッティングする。このフィッティング結果から統計項と定数項の値を求め、それを反射材厚ごとにプロットしたのが図 5.15

と図 5.16である。

film thickness [mm]-0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

[%

]sto

ch

astic

σ

13

13.5

14

14.5

15

15.5

16

16.5

17

17.5

18

σCorrelation of film thickness with

図 5.15: 反射材厚と統計項film thickness [mm]

-0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

[%

]co

nsta

nt

σ

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

σCorrelation of film thickness with

図 5.16: 反射材厚と定数項

図 5.15と図 5.16をみると、統計項は反射材厚 0.3mmまでは 15%で一定だが、定数項は反射材が厚くなるとともに増加して、反射材厚 0.2mmで 1%を越えている。これはシンチレータ間隔が大きくなることでエネルギー漏れが大きくなるからだと思われる。このようにシンチレータ間隔はエネルギー分解能に影響することがわかる。この結果、反射材厚が0.1mm、つまりシンチレータ間隔が 0.2mm程度までが ILCの目標値を達成する。

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5. シミュレーション 24

5.4 MPPCの収まる溝の大きさによるエネルギー分解能への影響

次にMPPCの収まる溝によるエネルギー分解能への影響を調べる。シンチレータの一つ一つにMPPCを収める溝を作った。シンチレータ間隔を変える場合と同様に 1GeVから60GeVの電子を各エネルギーごとに 1000回ずつ入射する。ここではシンチレータ間隔をなくし、MPPCの溝の大きさのみを変えてゆく。ただし、層方向には反射材を 0.057mm

の厚さで入れてある。このとき図 5.17のように溝の横幅を 4.6mmに固定し、深さのみを0mm、0.9mm、1.4mm、3.1mmに変える。図 5.18はGeant4で作成したカロリメータの一層を表示している。

図 5.17: MPPCの溝の変更

図 5.18: Geant4によるカロリメータの一層のグラフィック

ストリップ間の隙間をなくし、MPPCの溝を入れた点以外は 5.3でのシミュレーションと同じ方法でシミュレーションしている。 図5.19、5.20はそれぞれ溝の深さが1.4mmと3.1mmのときのカロリメータに電子10GeV

を入射したときのヒストグラム、図 5.21、5.22はそれぞれ溝の深さが 1.4mmと 3.1mmのときのカロリメータに電子 30GeVを入射したときのヒストグラムである。

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5. シミュレーション 25

図 5.19: 溝が 1.4mm、10GeVの電子 図 5.20: 溝が 3.1mm、10GeVの電子

図 5.21: 溝が 1.4mm、30GeVの電子 図 5.22: 溝が 3.1mm、30GeVの電子

横軸はカロリメータで検出したエネルギー [MeV]、縦軸は個数である。同じ入射エネルギーのヒストグラムを比べると、溝が 3.1mmのほうが検出したエネルギーが小さく、ガウスフィットしたときの σの値が大きい。また図 5.22を見ると、ヒストグラムがエネルギーの低い方まで分布しているのがわかる。これは電磁シャワーがカロリメータから漏れて (Shower leak)、エネルギーが小さく測定されたためである。 図 5.23と図 5.24はMPPCの溝の深さがそれぞれ 1.4mmと 3.1mmのときのリニアリティのグラフである。

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5. シミュレーション 26

Beam energy [GeV]0 10 20 30 40 50 60

Ene

rgy

depo

sit [

MIP

s]

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

/ ndf 2χ 29.38 / 7p0 0.4846± -3.652 p1 0.04907± 103

/ ndf 2χ 29.38 / 7p0 0.4846± -3.652 p1 0.04907± 103

/ ndf 2χ 29.38 / 7p0 0.4846± -3.652 p1 0.04907± 103

/ ndf 2χ 29.38 / 7p0 0.4846± -3.652 p1 0.04907± 103

Linearity

図 5.23: 溝が 1.4mmのときのリニアリティ

Beam energy [GeV]0 10 20 30 40 50 60

Ene

rgy

depo

sit [

MIP

s]

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

/ ndf 2χ 33.57 / 7p0 0.484± -4.774 p1 0.05751± 101.3

/ ndf 2χ 33.57 / 7p0 0.484± -4.774 p1 0.05751± 101.3

/ ndf 2χ 33.57 / 7p0 0.484± -4.774 p1 0.05751± 101.3

/ ndf 2χ 33.57 / 7p0 0.484± -4.774 p1 0.05751± 101.3

Linearity

図 5.24: 溝が 3.1mmのときのリニアリティ

横軸が入射電子のエネルギー、縦軸が検出したエネルギーをMIP換算したものである。図 5.23と図 5.24を見ると、傾きはそれぞれ 103.00[MIPs/GeV]と 101.30[MIPs/GeV]となった。リニアリティからも溝が 3.1mmの方が検出したエネルギーが小さいことがわかる。どちらの溝の場合もリニアリティは良いことがわかる。図 5.25と図 5.26はそれぞれ溝の深さが 1.4mmと 3.1mmのときのエネルギー分解能のグラフである。

]-1/2 [GeVBeam energy1/ 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

/E

σ

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

/ ndf 2χ 19.41 / 7

stochastic 0.002903± 0.1574

constant 0.002978± 0.005151

/ ndf 2χ 19.41 / 7

stochastic 0.002903± 0.1574

constant 0.002978± 0.005151

Energy Resolution

図 5.25: 溝が 1.4mmのときのエネルギー分解能

]-1/2 [GeVBeam energy1/ 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

/E

σ

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

/ ndf 2χ 27.72 / 7

stochastic 0.002905± 0.1686

constant 0.001423± 0.01376

/ ndf 2χ 27.72 / 7

stochastic 0.002905± 0.1686

constant 0.001423± 0.01376

Energy Resolution

図 5.26: 溝が 3.1mmのときのエネルギー分解能

横軸が入射電子エネルギーの平方根の逆数で縦軸はエネルギー分解能 σ/Eである。このフィッティング結果から統計項と定数項の値を求め、それぞれの溝の深さごとにプロットしたものが図 5.27と図 5.28である。

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5. シミュレーション 27

MPPC hole thickness [mm]0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4

[%

]s

toc

ha

sti

13

13.5

14

14.5

15

15.5

16

16.5

17

17.5

18

σCorrelation of MPPC hole thickness with

図 5.27: 溝の深さと統計項MPPC hole thickness [mm]

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4

[%

]c

on

sta

nt

σ

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

σCorrelation of MPPC hole thickness with

図 5.28: 溝の深さと定数項

横軸がMPPCの溝の深さで縦軸は図 5.27が統計項の値で図 5.28が定数項の値である。図 5.27を見ると、溝が 0.9mmまでは統計項が 15%以下で、1.4mm以上になると 15%を越えてしまっている。図 5.28をみると 1.4mmまでは定数項が 1%以下だが、3.1mmになると 1%を越えてしまっている。溝が大きいほどエネルギー分解能が悪くなることがわかる。統計項も定数項も目標値を達成するのは溝が 0.9mmまでである。

5.5 従来と新型のシンチレータのエネルギー分解能の比較

今度はシンチレータ間隔とMPPCの溝を両方変える。5.3での結果から反射材の厚さを 0mm、0.057mm、0.1mm、0.2mmと変えてゆく。層方向の反射材の厚さは 0.057mmで固定する。MPPCの溝は従来の大きさの 1.4mm×4.6mmのものと新型の 0.9mm×2.5mm

のものと溝がない場合のものとで比較した。そのほかの条件はこれまでのシミュレーションと同じである。図 5.29と図 5.30は反射材厚が 0.057mmで溝がそれぞれ 0.9mm×2.5mm

と 1.4mm×4.6mmのときのヒストグラム、図 5.31と図 5.32は反射材厚が 0.1mmで溝がそれぞれ 0.9mm×2.5mmと 1.4mm×4.6mmのときのヒストグラム、図 5.33と図 5.34は反射材厚が 0.2mmで溝がそれぞれ 0.9mm×2.5mmと 1.4mm×4.6mmのときのヒストグラムである。入射電子のエネルギーはいずれも 30GeVである。

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5. シミュレーション 28

図 5.29: 溝 0.9mm×2.5mm、反射材厚0.057mmのヒストグラム

図 5.30: 溝 1.4mm×4.6mm、反射材厚0.057mmのヒストグラム

図 5.31: 溝 0.9mm×2.5mm、反射材厚 0.1mm

のヒストグラム図 5.32: 溝 1.4mm×4.6mm、反射材厚 0.1mm

のヒストグラム

図 5.33: 溝 0.9mm×2.5mm、反射材厚 0.2mm

のヒストグラム図 5.34: 溝 1.4mm×4.6mm、反射材厚 0.2mm

のヒストグラム

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5. シミュレーション 29

図 5.29から図 5.34を見ると、溝の大きさが大きいほど、また反射材の厚さが大きいほどエネルギー漏れが大きく検出エネルギーが小さくなっているのが分かる。 図 5.35と図 5.36は反射材厚が 0.057mmで溝の大きさがそれぞれ 0.9mm×2.5mmと1.4mm×4.6mmのときのリニアリティのグラフである。図 5.35と図 5.36を見ると傾き

Beam energy [GeV]0 10 20 30 40 50 60

Ene

rgy

depo

sit [

MIP

s]

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

/ ndf 2χ 3.449 / 7p0 0.5093± -1.423 p1 0.04884± 101.8

/ ndf 2χ 3.449 / 7p0 0.5093± -1.423 p1 0.04884± 101.8

/ ndf 2χ 3.449 / 7p0 0.5093± -1.423 p1 0.04884± 101.8

/ ndf 2χ 3.449 / 7p0 0.5093± -1.423 p1 0.04884± 101.8

Linearity

図 5.35: 溝 0.9mm×2.5mm、反射材厚0.057mmときのリニアリティ

Beam energy [GeV]0 10 20 30 40 50 60

Ene

rgy

depo

sit [

MIP

s]0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

/ ndf 2χ 11.72 / 7p0 0.498± -2.318 p1 0.05279± 100.5

/ ndf 2χ 11.72 / 7p0 0.498± -2.318 p1 0.05279± 100.5

/ ndf 2χ 11.72 / 7p0 0.498± -2.318 p1 0.05279± 100.5

/ ndf 2χ 11.72 / 7p0 0.498± -2.318 p1 0.05279± 100.5

Linearity

図 5.36: 溝 1.4mm×4.6mm、反射材厚0.057mmときのリニアリティ

はそれぞれ 101.82[MIPs/GeV]と 100.48[MIPs/GeV]となった。溝を大きくすると検出できるエネルギーは小さくなるがリニアリティは保っていることが分かる。図5.37と図5.38は反射材厚が0.057mmで溝の大きさがそれぞれ0.9mm×2.5mmと1.4mm×4.6mm

のときのエネルギー分解能のグラフである。これらのフィッティング結果から統計項と定

]-1/2 [GeVBeam energy1/ 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

/E

σ

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

/ ndf 2χ 4.275 / 7

stochastic 0.002875± 0.1515

constant 0.002451± 0.006354

/ ndf 2χ 4.275 / 7

stochastic 0.002875± 0.1515

constant 0.002451± 0.006354

Energy Resolution

図 5.37: 溝 0.9mm×2.5mm、反射材厚0.057mmときのエネルギー分解能

]-1/2 [GeVBeam energy1/ 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

/E

σ

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

/ ndf 2χ 19.44 / 7

stochastic 0.003038± 0.1637

constant 0.00164± 0.01084

/ ndf 2χ 19.44 / 7

stochastic 0.003038± 0.1637

constant 0.00164± 0.01084

Energy Resolution

図 5.38: 溝 1.4mm×4.6mm、反射材厚0.057mmときのエネルギー分解能

数項を求め、溝の大きさごと、反射材厚ごとにプロットしたのが図 5.39と図 5.40である。

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5. シミュレーション 30

図 5.39: 従来と新型のストリップ型シンチレータの統計項での比較

図 5.40: 従来と新型のストリップ型シンチレータの定数項での比較

図 5.39と図 5.40は横軸が反射材厚で縦軸がそれぞれ統計項と定数項である。青い三角形のプロットはMPPCの溝がない場合、赤い円形のプロットは 1.4mm×4.6mmの溝を持つ従来のシンチレータの場合、ピンクの四角形のプロットは 0.9mm×2.5mmの溝を持つ新型のシンチレータの場合である。図 5.39では、従来のシンチレータはどの反射材の厚さでも統計項が 15%より大きくなってしまっている。一方新型のシンチレータは誤差を考慮すればどの反射材の厚さでも 15%付近である。図 5.40では、反射材の厚さが 0.1mm

で従来のシンチレータは 1%を越えてしまっているが、新型は 1%以下にとどまっている。これらの結果から溝の小さい新型のシンチレータならば反射材の厚さが 0.1mm、すなわちシンチレータ間隔が 0.2mmまで統計項も定数項も目標値を達成する。

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6. まとめと考察 31

6 まとめと考察Geant4を用いて細分化電磁カロリメータのエネルギー分解能を調べた。実験結果のまとめを以下に示す。

• ストリップシンチレータ間の隙間によるエネルギー分解能への影響

ストリップシンチレータ間の隙間を大きくしてしまうとエネルギー分解能が悪くなる。これは隙間によりエネルギーを検出できない領域が増えてしまい、統計的な揺らぎやエネルギー漏れなどが起きてしまうためだと思われる。ILCのエネルギー分解能の目標値を達成するのは反射材の厚さが 0.1mmまで、すなわち実質的なシンチレータ間の隙間が 0.2mm

までである。

• MPPCの収まる溝の大きさによるエネルギー分解能への影響

MPPCの収まる溝を大きくするとエネルギー分解能が悪くなる。これはシンチレータ間隔を大きくするのと同様、検出できるエネルギーが小さくなり、溝による不感領域が検出の揺らぎを大きくしてしまっているからだと思われる。ILCの目標値を満たすのは溝の大きさが 0.9mm×4.6mm×3.0mmより小さい時である。

• 従来と新型のシンチレータのエネルギー分解能の比較

溝の大きさが1.4mm×4.6mm×3.0mmの従来のストリップシンチレータと0.9mm×2.5mm×3.0mm

の新型のストリップシンチレータを用いてシンチレータ間の隙間を変えながらエネルギー分解能を調べた。溝の小さい新型の方がエネルギー分解能が良かった。やはり不感領域はなるべく少なくした方が良いということが分かった。新型のストリップシンチレータで間隔が 0.2mmまでが ILCの目標値を達成する。 反射材は検出効率を上げ、応答の一様性を良くするので外すことはできないが、不感領域をなるべく小さくするためにシンチレータに反射材を密着させて隙間のないように覆うべきである。また今後MPPCの溝の小さい新型のストリップシンチレータを使用すべきである。ただ、MPPC自体もピクセル数の小さいものを使うことになるので検出効率やサチュレーションなども考慮して研究を進めなければならない。

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謝辞本研究を進めるにあたり多くの方々に助言をして頂きました。竹下先生には基礎知識や研究方法などご指導頂き、ゼミでは結果に関して的確なご指摘を頂きました。長谷川先生にはソフトウェアの使い方やプログラミングに関して分からないところを丁寧に教えて頂き、研究をうまく進めることができました。研究員の小寺さんにはしばしば研究に関しての質問をさせて頂きましたが、その都度丁寧に答えて頂きとてもお世話になりました。院生の方々には研究のことのみならず進路などにもアドバイスを頂きました。4年生の皆様とは困ったときにお互いに助け合いながら楽しく大学生活を送ることができました。素晴らしい人たちに出逢えて良かったです。そしてここまでずっと支えてくださった両親に深く感謝します。今こうして研究を出来るのも両親のおかげです。本当にありがとうございました。

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参考文献[1] 林晋著 「ILC実験用フルシミュレータによるParticle Flow Algorithmの研究」神戸大学修士学位論文  2007

[2] 長副やよい著 「Geant4によるカロリメータシミュレーション」 信州大学卒業論文  2004

[3] 伊藤さおり著 「細分化されたカロリメータに関する研究」 信州大学博士学位論文  2008

[4] 松本悠著 「ATLAS実験における ttH productionを用いたYukawa coupling測定の研究」 東京大学修士学位論文  2003

[5] 坪川貴俊著 「MPPCの性能評価方法の研究」 信州大学修士学位論文  2007

[6] 井手康裕著 「PFAを用いたエネルギー測定」 信州大学修士学位論文 2009

[7] ILD日本グループ 「ILD測定器研究開発」  2009

[8] 石井千尋著 「Geant4の使い方」 東京理科大学

[9] ILCアジア  http://lcdev.kek.jp/  

[10] ILCプロジェクト  http://aaa-sentan.org/ILC/

[11] 浜松ホトニクス株式会社 技術資料

[12] Particle Data Group,Journal of Physics G:Nuclear and Particle Physics

Vol33,Institute of Physics