11
353 3.6 歴史地震等に関する記録の収集と解析 3.6.1 古地震・津波等の史資料の収集と解析 目 次 (1) 業務の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・354 (a) 業務題目 (b) 担当者 (c) 業務の目的 (d) 5ヵ年の年次実施計画(過去年度は、実施業務の要約) 1) 平成20年度 2) 平成21年度 3) 平成22年度 4) 平成23年度 5) 平成24年度 (e) 平成22年度業務目的 (2) 平成22年度の成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・356 (a) 業務の要約 (b) 業務の実施方法及び成果 1) 史料データの校訂作業 2) 1751 年越後高田地震の震度分布図の作成 a) 家屋倒壊率を求める際に用いた史料 b) 震度の推定と震源域の検討 3) 1833 年庄内(出羽)沖地震の史料のデジタル・XML 4) 近世以前における高田平野での歴史地震の年代推定 (c) 結論ならびに今後の課題 (d) 引用文献 (e) 成果の論文発表・口頭発表等 (f) 特許出願,ソフトウエア開発,仕様・標準等の策定 (3) 平成23年度業務計画案・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・361

H22ひずみ成果報告書25 6-1 110531 - 防災科 …3) 平成22年度:1751 年越後高田地震及び1802 年佐渡小木地震について、デジタル・ XML 化した史料の校訂、データベース化を行うとともに、新たな史料を収集する。また、

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353

3.6 歴史地震等に関する記録の収集と解析

3.6.1 古地震・津波等の史資料の収集と解析

目 次

(1) 業務の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・354

(a) 業務題目

(b) 担当者

(c) 業務の目的

(d) 5ヵ年の年次実施計画(過去年度は、実施業務の要約)

1) 平成20年度

2) 平成21年度

3) 平成22年度

4) 平成23年度

5) 平成24年度

(e) 平成22年度業務目的

(2) 平成22年度の成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・356

(a) 業務の要約

(b) 業務の実施方法及び成果

1) 史料データの校訂作業

2) 1751 年越後高田地震の震度分布図の作成

a) 家屋倒壊率を求める際に用いた史料

b) 震度の推定と震源域の検討

3) 1833 年庄内(出羽)沖地震の史料のデジタル・XML 化

4) 近世以前における高田平野での歴史地震の年代推定

(c) 結論ならびに今後の課題

(d) 引用文献

(e) 成果の論文発表・口頭発表等

(f) 特許出願,ソフトウエア開発,仕様・標準等の策定

(3) 平成23年度業務計画案・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・361

354

(1) 業務の内容

(a) 業務題目 古地震・津波等の史資料の収集と解析

(b) 担当者

所属機関 役職 氏名 メールアドレス

国立大学法人東京大学地震

研究所

教授 佐竹 健治 [email protected]

同 准教授 都司 嘉宣 [email protected] 同 特任研究員 西山 昭仁 [email protected]

国立大学法人神戸大学 名誉教授 石橋 克彦

国立大学法人静岡大学教育

学部

教授 小山 真人

国立大学法人群馬大学教育

学部

教授 早川 由紀夫

国立大学法人東京大学史料

編纂所

教授 榎原 雅治

国立大学法人信州大学人文

学部

教授 笹本 正治

国立大学法人神戸大学 名誉教授 高橋 昌明

東京国立博物館学芸研究部

調査研究課

書跡・歴史室長 田良島 哲

学校法人天理大学国際学部 教授 藤田 明良

国立大学法人新潟大学人文

社会・教育科学系

教授 矢田 俊文

国立大学法人京都大学地域

研究統合情報センター

教授 原 正一郎

長野市教育委員会 学芸員 原田 和彦

独立行政法人産業技術総合

研究所

研究員 行谷 佑一

国立大学法人新潟大学災害

復興科学センター

准教授 卜部 厚志

(c) 業務の目的

ひずみ集中帯で、近世以前の古地震の地質学的、歴史学的、地震学的記録などの収集、

さらには地質サンプルから発生年代を直接測定などして、過去の活動履歴を明らかにする。

また、収集した記録から、ひずみ集中帯の震度データベースを構築する。

(d) 5ヵ年の年次実施計画(過去年度は、実施業務の要約)

1) 平成20年度:ひずみ集中帯で近世以前に発生した地震に関する史料を電子データベー

355

ス化するために、該当する地震に関する史料の調査を行った。その結果、山形県、新潟県、

および長野県のひずみ集中帯に震源を持つと考えられる比較的信頼度が高く史料が豊富な

7 つの地震(1714 年正徳・小谷地震、1751 年宝暦・越後高田地震、1762 年宝暦・佐渡地

震、1802 年享和・佐渡小木地震、1828 年文政・越後高田地震、1833 年天保・庄内沖地震、

1858 年安政・大町地震)を選定した。これらのうち、まず 1828 年文政・越後三条地震か

ら調査検討を始めることとした。12 月に現地での検討会を行い、自然地形と史料に書かれ

た被害状況(震度)の関係などについて検討を行った。さらに、既存の地震史料集に所収

されている三条地震の史料を電子化した。その際、史料の信頼性の検討も合わせて行い、

明治時代以降に作成された史料や、原本が不明な史料は除いた。電子データベース化にあ

たっては XML 言語を用い、データ項目として史料の所在情報を取り入れ、余震など本震

以外の記事には別データ項目にするなどの作業を行うことで、データベース使用が簡易に

なるようにした。

2) 平成21年度:デジタル・XML 化済みの 1828 年越後三条地震の史料データについて、

可能な限り原史料に遡って紙面上で校訂作業を行った。この校訂作業の結果に基づいて史

料データを校訂し、原史料の調査・収集によって得られた新たな史料データを追加した。

また、1828 年越後三条地震について、校訂作業済みの史料データから信頼性の高い史料を

選び出し、その史料に基づいて村ごとの家屋倒壊率を導き出した。この村ごとの家屋倒壊

率から推定震度を求め、既存のものよりも確実度の高い震度分布図を作成した。さらに、

ひずみ集中帯で近世以前に発生した 1751 年越後高田地震と 1802 年佐渡小木地震について、

新規に史料のデジタル・XML 化を行った。一方、平成 22 年度以降の業務に向けて、予備

的な現地調査・史料調査を長野県内において行った。

3) 平成22年度:1751 年越後高田地震及び 1802 年佐渡小木地震について、デジタル・

XML 化した史料の校訂、データベース化を行うとともに、新たな史料を収集する。また、

現地での地質学的痕跡の調査を開始し、試料の分析も行う。これらに基づき、信頼性の高

い震度分布を推定し、震源断層の特定に役立てる。さらに、1833 年庄内沖地震など山形県

で発生した地震を中心に、史料の収集やデジタル・XML 化を行う。

4) 平成23年度:秋田県・山形県沿岸で発生した 1833 年庄内(出羽)沖地震について、

デジタル・XML 化した史料の校訂、データベース化を行うとともに、新たな史料を収集

する。また、地震・津波に関する現地での歴史記録・地質学的痕跡の調査・検討を行い、

地質試料の分析を実施する。これらの結果に基づき、信頼性の高い被害分布・震度分布を

推定し、震源断層の特定に役立てる。さらに、1762 年佐渡地震など山形県から新潟県沿岸

で発生した地震を中心に、史料の収集やデジタル・XML 化を行う。

これまでの成果の普及と関連分野の最新の知見の収集のために、国内外の学会等で研究

発表を行う。また、地震史料データベース及び震度データベースの構築に向けて、現地で

の史料調査及び地形調査を実施する。

5) 平成24年度:古代~近世の歴史地震のうち、主に佐渡沿岸が震源と思われる地震を解

析する。解析された過去の地震活動の結果と既存研究成果やプロジェクトの成果とを総合

的に検討する。

(e) 平成22年度業務目的

356

ひずみ集中帯で発生した 1751 年越後高田地震及び 1802 年佐渡小木地震について、平成

21 年度にデジタル・XML 化した史料の校訂、データベース化を行うとともに、新たな史

料を収集する。また、現地での地質学的痕跡の調査を開始し、試料の分析も行う。これら

に基づいて信頼性の高い震度分布を推定し、震源断層の特定に役立てる。さらに、1833年庄内(出羽)沖地震など山形県で発生した歴史地震を中心に、史料の収集やデジタル・

XML 化を行う。

(2) 平成22年度の成果

(a) 業務の要約

昨年度にデジタル・XML 化済みの 1751 年越後高田地震及び 1802 年佐渡小木地震の史

料データについて、可能な限り原史料に遡って紙面上で校訂作業を行った。この校訂作業

の結果に基づいて史料データを修正し、原史料の調査・収集によって得られた新たな史料

データを追加した。一昨年度にデジタル・XML 化済みの 1828 年越後三条地震の史料デー

タについては、新史料の追加や再校訂作業に伴って史料データの追加・修正を行った。ま

た、1751 年越後高田地震について、校訂作業済みの史料データから信頼性の高い史料を選

び出し、その史料に基づいて村落ごとの家屋倒壊率を導き出した。この村落ごとの家屋倒

壊率から推定震度を求め、既存のものよりも信頼性の高い震度分布図を作成した。さらに、

山形県で発生した 1833 年庄内(出羽)沖地震について、新規に史料のデジタル・XML 化

を行った。加えて、高田平野における歴史地震の年代推定に向けて、新潟県内にて地質学

的痕跡の調査を開始し、試料の分析を行った。

(b) 業務の実施方法及び成果

1) 史料データの校訂作業

平成 21 年度にデジタル・XML 化した 1751 年越後高田地震及び 1802 年佐渡小木地震

の史料データについて、可能な限り原史料または良質の刊本に遡り、その記述内容に基づ

いて紙面上で校訂作業を行った。この校訂作業の結果を反映させて史料データを修正し、

原史料の調査・収集によって得られた新たな史料データを追加した。また、平成 20 年度

にデジタル・XML 化した 1828 年越後三条地震の史料データについても、原史料の調査・

収集によって得られた新史料の追加や再校訂作業に伴い、史料データの追加・修正を行っ

た。

2) 1751 年越後高田地震の震度分布図の作成

1751 年越後高田地震について、信頼性の高い震度分布を推定するために、校訂作業済み

の史料データから、被害報告に基づく内容で同時期に成立した信頼性の高い史料を選び出

して、当時の村落や町ごとに信頼性の高い家屋倒壊率を求めた。その家屋倒壊率から村落

や町ごとの震度を推定し、その分布に基づいて 1751 年越後高田地震の震源域の再検討を

行った。

既存の研究によると、越後高田地震は寛延四年四月二十六日(グレゴリオ暦では 1751年 5 月 21 日)の丑刻(午前 1~3 時頃)に越後国西部(新潟県西部)で発生した地震であ

り、高田平野の西縁に位置する高田城下をはじめとして、平野西側の山間部や日本海沿岸

357

部で大きな被害が生じた。宇佐美(2003)によると、この地震の震央は高田平野北西部に

想定されており、地震の規模(M)は 7.0~7.4 と推定されている。

a) 家屋倒壊率を求める際に用いた史料

本業務では、地震被害が記された文献史料(地震史料)に基づいて検討を進めた。まず

最初に、現存する地震史料には様々な種類のものが混在しているため、その中から被害報

告に基づく記載内容で、同時期に成立した信頼性の高いものだけを選び出した。次に、村

落や町の総家数(母屋数)と倒壊家屋数の双方が記載されている史料のみを用いて、被害

発生場所ごとに信頼性の高い家屋倒壊率(全壊率)を求めた。総家数と倒壊家屋数が記載

されている史料の事例を図 1 に示す。

村落や町ごとの家屋倒壊率を求める際には、村落や町ごとの総家数と被害家屋数の双方

が記載されている地震史料が必要不可欠である。仮に、総家数を記した史料と被害家屋数

を記した史料という 2 つの異なった史料があった場合、たとえ記されている村名や町名は

同じあっても、その実態が史料ごとに異なっている可能性が高い。そのため、成立年代や

作成者が異なる別々の史料に記された総家数と被害家屋数とを組み合わせて、安易に倒壊

率を導き出すことは危険であり、そのようにして求められた家屋倒壊率の信頼度は低いと

言わざるを得ない。そこで本業務では、そのような危険を回避するために、総家数と被害

家屋数の双方が記載されている信頼性の高い史料のみを用いて分析を行った。今回使用し

た史料は以下の 5 点である。

【史料 1】:「宝暦元年地震之節諸事亡所之品書上帳」(「斎京家文書」所収、農林水

産省農林水産政策研究所所蔵)

この史料は、頸城郡吉尾組の大肝煎であった斎京家が、村落ごとの被害をまとめた報告

書である。吉尾組 31 ヶ村の多くは桑取谷に位置しており、山崩れによって家屋が倒壊し

た村々も含まれている。そこで、山崩れによって家屋倒壊が生じた村々を除外すると、総

家数と地震による倒壊家屋数の双方が記載されているのは 25 ヶ村となる。

【史料 2】:「岩手組村々地震破損所書上帳控綴」(「岩手村佐藤家文書」所収、国文

学研究資料館所蔵)

この史料は、頸城郡岩手組の大肝煎を勤めた佐藤家が、各村から提出された被害報告書

をまとめた史料である。岩手組の 11 ヶ村での被害について記載されているが、総家数と

地震による倒壊家屋数の双方が記載されているのは 7 ヶ村についてのみである。

【史料 3】:「竹直村地震ニ付破損書上帳」(「岩手村佐藤家文書」所収、国文学研究

資料館所蔵)

この史料は、上記の佐藤家の史料であり、竹直村から奉行所へ提出された被害報告書で

ある。総家数と倒壊家屋数の双方が記載されているために、正確な家屋倒壊率を求める史

料として使用できる。

【史料 4】:「寛延四年今町会所地震書留」(「伊藤家文書」所収、『新潟県史』資料

編 6 近世一 上越編)

この史料は、廻船業者として知られる伊藤家(新潟県糸魚川市鬼舞)の所蔵する史料で、

今町の町役人の執務を行う役所である会所の記録の写しである。今町の各町 10 町それぞ

358

れの総家数と倒壊家屋数の双方が記載されているので、正確な家屋倒壊率を求める史料と

して使用できる。

【史料 5】:「寛延四年十一月大地震之節日記」(「榊原家史料」所収、榊原家所蔵・

財団法人旧高田藩和親会管理)

この史料は、高田藩榊原家に伝来した高田藩作成の史料である。地震の被害状況、藩の

対応、役人の取り組み等が記されている日記で、地震が起った四月二十五日から十一月十

九日まで記されている。五月一日条に町中分として、町屋の総家数と倒壊家屋数の双方が

記載されているので、正確な家屋倒壊率を求める史料として使用できる。

b) 震度の推定と震源域の検討

上記で求めた家屋倒壊率から場所ごとの震度を推定し、その分布に基づいて 1751 年越

後高田地震の震源域の再検討を行った。その際に、宇佐美(1986)の「歴史地震のための

震度表」の注記に基づいて、家屋倒壊率 81~100%を震度 7、同 71~80%を震度 6、同 1~70%を震度 5+、同 0%を震度 5-として震度に置き換えた。また、村落や町での家屋

倒壊率とそこから推定した震度だけではなく、当時の村落や町が立地した地盤条件の影響

も加えて、信頼性の高い地震史料が残存する地域ごとに震源域を検討した。その結果は以

下のとおりである。

(a)現在の上越市柿崎区地域にあたる岩手組十五ヶ村では、地盤条件の良い段丘上に位

置する竹直村(上越市吉川区竹直)での家屋倒壊率は 7%[震度 5+]であり、地盤条件

の悪い沖積平野に位置する他の村落では 13~58%[震度 5+]である。地盤条件の良い場

所での家屋倒壊率が低いことから岩手組地域は震源域でないと考える。

(b)今町(上越市直江津・他)では、地盤条件の良い砂丘上に位置する坂井町での家屋

倒壊率は 5%[震度 5+]、砂丘斜面に位置する横町は 45%[震度 5+]であり、地盤条件

の悪い氾濫原に位置する中町は 83%[震度 7]となっている。地盤条件が良い場所で家屋

倒壊率が低いため今町地域は震源域でないと考える。

(c)長浜村(上越市長浜)は地盤条件の良い海岸低地に位置しており、山崩れによる被

害が少なく家屋倒壊率は 43%[震度 5+]である。長浜村の周辺や名立小泊村など海岸沿

いの村落の多くは山崩れによって大きな被害を蒙っているが、長浜村など地盤条件の良い

場所では家屋倒壊率はあまり高くないため、海岸沿いは震源域でないと考える。

(d)上越市西部を南北に流れる桑取川下流部では、地盤条件の良い河成段丘上に位置す

る花立村・中桑取村・下綱子村で家屋倒壊率 0%[震度 5-]、山寺村で 5%[震度 5+]

であることからこの地域は震源域でないと考える。

(e)桑取川中流部では、地盤条件の悪い地すべり崩壊堆積物(崩壊斜面)上に位置して

いる村落での家屋倒壊率が高く、小池村・東吉尾村で 100%、西吉尾村で 91%、横山村で

58%となっている。しかし、これらには山崩れによって土砂の下敷きとなった家屋も含ま

れており、山崩れの影響が大きいことからこの地域は震源域でないと考える。

(f)桑取川上流部は地盤条件が良く、家屋倒壊率は土口村で 26%[震度 5+]、皆口村・

横畑村で 40%[震度 5+]となっている。桑取川沿いで地盤条件の良い下流部と上流部の

被害を比較すると、下流部の村落では家屋倒壊率 0~5%であるのに対し、上流部の村落で

は 26~40%となっており、下流部と比較して上流部の倒壊率が高くなっている。また、桑

359

取川と高田平野の間に位置する山地では、中ノ俣村で家屋倒壊率 20%[震度 5+]、上綱

子村で 53%[震度 5+]となっており、地盤条件が良いにも拘わらず家屋倒壊率は高くな

っている。このように、桑取川上流部の皆口村・横畑村地域や東側の山地にある中ノ俣村・

上綱子村地域で、地盤条件が良いにも拘わらず家屋倒壊率が高いことからこの地域が震源

域に近接していると考える。

(g)高田平野西縁部に位置する高田城下の町屋地区は、地盤条件の良い河成段丘上に位

置しているにも拘わらず、家屋倒壊率は 71%[震度 6]と高くなっている。

以上のことから検討すると、桑取川上流部に位置する皆口村・横畑村地域、その東側の

山地に位置する中ノ俣村・上綱子村地域、及び高田城下の町屋地区が震源域に近いと考え

る。今回の検討の結果として、地震史料から導き出した家屋倒壊率と村落や町の分布状況

を図 2 に、家屋倒壊率から求めた推定震度と村落の分布状況を図 3 に示す。

3) 1833 年庄内(出羽)沖地震の史料のデジタル・XML 化

平成 20 年度にデジタル・XML 化した 1828 年越後三条地震と、平成 21 年度にデジタル・

XML 化した 1751 年越後高田地震及び 1802 年佐渡小木地震と同じように、1833 年庄内(出

羽)沖地震の史料についても、『増訂大日本地震史料』や『新収日本地震史料』などの既

存の地震史料集に収録されている史料のデジタル・XML 化を行った。その際、一昨年度

と昨年度の場合と同様に、地震史料集に収められている史料のうち、明治時代以後に発行

された市町村史における通史的叙述については、原則的に信頼性に欠ける史料として取り

扱い、デジタル・XML 化は実施しなかった。これは、市町村史の記述が原史料の解説や

解釈であることがほとんどであり、一次史料とは言えないためである。

4) 近世以前における高田平野での歴史地震の年代推定

13 世紀に高田平野で噴砂を生じさせた歴史地震については、遺跡発掘調査から確認され

ているが、この地震に関する文献史料は知られていない。この地震の年代を推定するため

に、新潟焼山の早川火砕流の堆積物から産出した 2 つの樹幹を材料にして、炭素 14 ウィ

グルマッチングによって年代測定を行った。結果として、西暦 1235 年前後の年代が得ら

れたことから、西暦 1233 年前後に起こった新潟焼山の噴火の数年後に、高田平野を強い

地震が襲ったと推定できる。

(c) 結論ならびに今後の課題

ひずみ集中帯において近世以前に発生した歴史地震のうち、平成 21 年度にデジタル・

XML 化した 1751 年越後高田地震及び 1802 年佐渡小木地震に関する史料を校訂し、デー

タベース化を行った。平成 20 年度にデジタル・XML 化した 1828 年越後三条地震につい

ては、史料を再校訂して史料データの修正を行い、新たな史料を調査・収集して史料デー

タに追加した。また、ひずみ集中帯で発生した 1833 年庄内(出羽)沖地震について、史

料の収集ならびにデジタル・XML 化を行った。

さらに、校訂済みの史料データから信頼性の高い史料を選び出して、1751 年越後高田地

震に関して村落や町ごとの家屋倒壊率を導き出した。そして、それらの家屋倒壊率から推

定震度を求め、信頼性の高い震度分布図を作成した。家屋倒壊率から震度を推定するこの

360

ような方法については未だ暫定的なものであり、今後さらに検討を重ねていく必要がある。

加えて、高田平野における歴史地震の年代推定に向けて、新潟県内において地質学的痕跡

の調査を開始し、試料の分析を実施した。

来年度は、1828 年越後三条地震、1751 年越後高田地震、1802 年佐渡小木地震について、

デジタル・XML 化した史料の再校訂作業や史料データの修正を行う。また、地震・津波

に関する現地での歴史記録・地質学的痕跡の調査・検討を行って、地質試料の分析を実施

する。これらに基づいて信頼性の高い震度分布を推定し、個々の地震について震源断層の

特定に役立てることを目標とする。さらに、1762 年佐渡地震など山形県から新潟県沿岸で

発生した歴史地震を中心に、史料の収集やデジタル・XML 化を行う。

(d) 引用文献

1) 宇佐美龍夫, 最新版 日本被害地震総覧 [416]-2001, 東京大学出版会, pp.605, 2003. 2) 宇佐美龍夫, 歴史地震事始, pp.185, 1986. 3) 矢田俊文・卜部厚志, 1751 年越後高田地震による被害分布と震源域の再検討, 資料学

研究, 8 号, pp.1-23, 2011.

(e) 成果の論文発表・口頭発表等

著者 題名 発表先 発表年月日

矢田俊文,卜部

厚志,西山昭仁,

佐竹健治

1828年三条地震による被害分布

と震源域の再検討(口頭) 千葉県千葉市(日本

地球惑星科学連合

2010年大会)

平 成 22 年 5月28日

石橋克彦 1670年寛文越後地震の震源域

(口頭) 東京都文京区(第27回歴史地震研究会)

平 成 22 年 9月11日

都司嘉宣,西山

昭仁 寛延四年(1751)越後高田地震

および文政十一年(1828)越後

三条地震の村落別死者数(口頭)

東京都文京区(第27回歴史地震研究会)

平 成 21 年 9月11日

石橋克彦 1670年寛文越後地震の震源域の

見直し(口頭)

広島県広島市(日本

地震学会 2010年度

秋季大会)

平成22年10月28日

Akihito Nishiyama, Kenji Satake, Toshifumi Yata, Atsushi Urabe

Re-examination of the damage distribution and the source of the 1828 Sanjo Earthquake in central Japan(ポスター)

USA, San Francisco ( 2010 AGU Fall Meeting)

平成22年12月13日

都司嘉宣 集落別死者分布で見た文政11年11月12日(1828 XII 28)越後三条

地震

地質ニュース, 676, 16-20.

平成22年12月

361

矢田俊文,上田

浩介 一七五一年越後高田地震史料・越

後頸城郡吉尾組(桑取谷)地震之

節諸事亡所之品書上帳と越後国

頸城郡高田領往還破損所絵図

災 害 と 資 料 , 5,

1-18. 平 成 23 年 3月20日

矢田俊文,卜部

厚志 1751年越後高田地震による被害

分布と震源域の再検討 資 料 学 研 究 , 8, 1-23.

平 成 23 年 3月15日

矢田俊文,卜部

厚志 県内にも「空白域」,新潟市 過去

には大津波も

新潟日報 平 成 23 年 3月19日

(f) 特許出願,ソフトウエア開発,仕様・標準等の策定

1) 特許出願

なし

2) ソフトウエア開発

なし

3) 仕様・標準等の策定

なし

(3) 平成23年度業務計画案

① 1833年庄内(出羽)沖地震の史料の校訂とデータベース化

平成 22 年度にデジタル・XML 化した 1833 年庄内(出羽)沖地震の史料について、原

史料に遡って校訂作業を行い、史料データベースを作成する。その際、山形県・秋田県の

文書館や博物館等に所在する原史料の調査・収集だけでは不十分であるため、東京や京都

の文書館などに所在する原史料の調査・収集も行う。また、信頼性の高い史料データに基

づいて、被害分布や推定震度を再検討して震度分布図を作成し、震源断層の特定に役立て

る。

② 1762年佐渡地震などの史料のデジタル化

1762 年佐渡地震などひずみ集中帯で発生した地震について、『増訂大日本地震史料』や

『新収日本地震史料』などの既存の史料集に収録されている史料のデジタル・XML 化を

行う。同時に、校訂作業に向けて原史料の調査・収集も行う。

③ 新たな史料の収集

越後三条地震・越後高田地震・佐渡小木地震など、ひずみ集中帯で発生した地震につい

て、『増訂大日本地震史料』や『新収日本地震史料』などの既存の史料集には収録されて

いない新たな史料の調査・収集を継続して行う。

④ 地質学的痕跡の調査

地震・津波に関する現地での地質学的痕跡の調査・検討を行い、地質試料の分析を実施

する。

362

図 1 「竹直村地震ニ付破損書上帳」(部分) ※1 つの史料に村落ごとの総家数と倒壊家屋数が記載されている。

竹直村 惣家数六拾軒之内 一 家四軒 禿家

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図 2 家屋倒壊率と村落の分布状況(1751 年越後高田地震)

図 3 家屋倒壊率から求めた推定震度と村落の分布状況(1751 年越後高田地震) ※両図とも矢田・卜部(2011)の図を一部改変。