2
i-Construction の教育用教材開発 長岡工業高等専門学校 正会員 込山晃市 1.背景 現在,建設業界においては建設投資費の減少や労働 者の高齢化など多くの課題を抱えている.国土交通省 は生産性の向上や担い手確保に向けた対策として, ICT を全面的に活用することで建設生産プロセス全 体での生産性向上を図り,魅力ある建設現場を目指す 取り組みである i-Construction (アイコンストラクシ ョン)」をめている 1) .既に情報化施工や CIM Construction Information Modeling / Management)と いった取り組みが行われている中で, i-Construction 共に UAV を用いた測量マニュアルの整備,空中写真 測量やレーザースキャナを用いた出来形管理基準の 整備など,新たに 15 の新基準,積算基準が設けられ, ICT を活用した新技術の活躍が期待されている. また, i-Construction に関した施工技術の紹介や実 務的な講習会の開催,研究開発など情報通信業界や機 械メーカーなどの他産業界も参入し,建設業界全体で 積極的な技術の普及と導入が図られている. 教育現場においても i-Construction に関する授業は 行われているが,ほとんどが座学によるものである. 現在のカリキュラムでは測量や力学実験,材料実験な どが実習教育として行われている.その中で,測量分 野の実習においては水準測量や平板測量,角測量など の基礎的な測量技術が主だった実習課題として与え られ,近代化する測量技術の実習が行われていないの が現状である.多くの教育機関において,測量に関す る実践的知識を有した教育者の不足,トータルステー ションなどの機器の購入や維持管理にかかる費用,学 生が使用する場合のリスク管理,実習教材の開発が行 われていないことなどが理由として考えられる. しかし, ICTIoTAI といった近代産業技術は日々 化をげており,それらを活用した測量技術はもと より, i-Construction とはどういうもので,どのような 知識が必要であるのかを,座学だけでなく実習として 体験し学習することは,実践的かつ即戦力となる技術 者の育成に必要不可欠である. 2.目的 本研究では教育機関において i-Construction に関す る学習および実習を安価で簡易的かつ行うことがで き,汎用性のあるツールを開発することを目的として いる. 今回までに,建設生産プロセス全体の中で教材とし ての開発可能性と,普及状況などから施工と測量に着 目し, 「情報化施工」 「空中写真測量」 に関する教材 の開発を行うこととした. i-Construction は建設分野で使用されている言葉で あるが,ICT の活用という分においては機械や情報 通信などの他分野に渡る知識が必要とされている.近 年,高専教育においても分野を横断した技術イノベー ションを起こすべく様々な取り組みが行われており, 長岡高専においても, SDIC (システム・デザイン・イ ノベーション・センター)を設立した. SDIC では,あ る分野の課題に対して,複数学科の学生が協力して課 題解決に向けた取り組みを行うものや,低学年から学 科学年を問わず様々な研究や活動,専門技術や機械を 使用した工作セミナーなどに参加することができる 「プレラボ制度」が存在している. そこで,本研究ではプレラボ制度を活用して学生を 募集し,開発した教材を試験的に使用してもらうこと で,問題点を抽出し改善する PDCA サイクルにより教 材の完成を目指す.また,開発教材を活用して,科学 啓発イベントなどに出展することで,地域貢献や建設 業のイメージアップに向けた取り組みを行うことと した. 3.「情報化施工」教材の開発 情報化施工は最も視覚的かつ感覚的にわかりやす く,普及している近代技術であると考えている.当然 ながら,実際に稼働している機械レベルでの開発は困 難であるため,スケールサイズを落とし,約 1/20 サイ ズのミニチュア工事現場とミニチュア建設機械を製 作することにした.そこで,価格面と汎用性と機械製 作や改の容易性からレゴマインドストーム EV3 (以 EV3)に着目して建設機械の開発を行った. EV3 とは LEGO のテクニックパーツをベースにし て組立が行えることに加え,超音波センサーや赤外線 による外情報の取得から,モーターの制御などが行 えるプログラムを有した装置であり,プログラム環境 もプログラム言語によるものだけでなく,視覚的にわ かりやすいインターフェースが用いられている.機械 工学やセンサーなどの電子制御といった専門分野だ けでなく,小中学生へ向けたプログラミングの基礎学 習教材として活用されている実績がある. 製作する機械に搭載する機能としては「隔操作」 「マシンコントロールシステム(以下 MC)」,「マシン ガイダンスシステム(以下 MG)」とした.実習環境や 工種によって使い分けられるよう,基本的なプログラ ムと施工機械を製作し,ミニチュア工事現場の環境に 応じて変更や調整を行うことができるものとしてい る.そのため,機械やプログラムの改といった分 においては建設工学・測量学だけでなく,機械力学や 計測工学,電子制御に関する分野横断型の基礎的な学 習教材として活用することも可能である.

i-Constructionの教育用教材開発cds.nagaokaut.ac.jp/niigata_form/symposium2017_pdf/6-101.pdfi-Constructionの教育用教材開発 長岡工業高等専門学校 正会員 込山晃市

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: i-Constructionの教育用教材開発cds.nagaokaut.ac.jp/niigata_form/symposium2017_pdf/6-101.pdfi-Constructionの教育用教材開発 長岡工業高等専門学校 正会員 込山晃市

i-Construction の教育用教材開発

長岡工業高等専門学校 正会員 込山晃市

1.背景

現在,建設業界においては建設投資費の減少や労働

者の高齢化など多くの課題を抱えている.国土交通省

は生産性の向上や担い手確保に向けた対策として,

ICT を全面的に活用することで建設生産プロセス全

体での生産性向上を図り,魅力ある建設現場を目指す

取り組みである「i-Construction(アイコンストラクシ

ョン)」を進めている 1).既に情報化施工や CIM(Construction Information Modeling / Management)と

いった取り組みが行われている中で,i-Construction と

共に UAV を用いた測量マニュアルの整備,空中写真

測量やレーザースキャナを用いた出来形管理基準の

整備など,新たに 15 の新基準,積算基準が設けられ,

ICT を活用した新技術の活躍が期待されている. また,i-Construction に関連した施工技術の紹介や実

務的な講習会の開催,研究開発など情報通信業界や機

械メーカーなどの他産業界も参入し,建設業界全体で

積極的な技術の普及と導入が図られている. 教育現場においても i-Construction に関する授業は

行われているが,ほとんどが座学によるものである.

現在のカリキュラムでは測量や力学実験,材料実験な

どが実習教育として行われている.その中で,測量分

野の実習においては水準測量や平板測量,角測量など

の基礎的な測量技術が主だった実習課題として与え

られ,近代化する測量技術の実習が行われていないの

が現状である.多くの教育機関において,測量に関す

る実践的知識を有した教育者の不足,トータルステー

ションなどの機器の購入や維持管理にかかる費用,学

生が使用する場合のリスク管理,実習教材の開発が行

われていないことなどが理由として考えられる. しかし,ICT,IoT,AI といった近代産業技術は日々

進化を遂げており,それらを活用した測量技術はもと

より,i-Construction とはどういうもので,どのような

知識が必要であるのかを,座学だけでなく実習として

体験し学習することは,実践的かつ即戦力となる技術

者の育成に必要不可欠である. 2.目的

本研究では教育機関において i-Construction に関す

る学習および実習を安価で簡易的かつ行うことがで

き,汎用性のあるツールを開発することを目的として

いる. 今回までに,建設生産プロセス全体の中で教材とし

ての開発可能性と,普及状況などから施工と測量に着

目し,「情報化施工」と「空中写真測量」に関する教材

の開発を行うこととした. i-Construction は建設分野で使用されている言葉で

あるが,ICT の活用という部分においては機械や情報

通信などの他分野に渡る知識が必要とされている.近

年,高専教育においても分野を横断した技術イノベー

ションを起こすべく様々な取り組みが行われており,

長岡高専においても,SDIC(システム・デザイン・イ

ノベーション・センター)を設立した.SDIC では,あ

る分野の課題に対して,複数学科の学生が協力して課

題解決に向けた取り組みを行うものや,低学年から学

科学年を問わず様々な研究や活動,専門技術や機械を

使用した工作セミナーなどに参加することができる

「プレラボ制度」が存在している. そこで,本研究ではプレラボ制度を活用して学生を

募集し,開発した教材を試験的に使用してもらうこと

で,問題点を抽出し改善する PDCA サイクルにより教

材の完成を目指す.また,開発教材を活用して,科学

啓発イベントなどに出展することで,地域貢献や建設

業のイメージアップに向けた取り組みを行うことと

した. 3.「情報化施工」教材の開発

情報化施工は最も視覚的かつ感覚的にわかりやす

く,普及している近代技術であると考えている.当然

ながら,実際に稼働している機械レベルでの開発は困

難であるため,スケールサイズを落とし,約 1/20 サイ

ズのミニチュア工事現場とミニチュア建設機械を製

作することにした.そこで,価格面と汎用性と機械製

作や改造の容易性からレゴマインドストーム EV3(以

下 EV3)に着目して建設機械の開発を行った. EV3 とは LEGO のテクニックパーツをベースにし

て組立が行えることに加え,超音波センサーや赤外線

による外部情報の取得から,モーターの制御などが行

えるプログラムを有した装置であり,プログラム環境

もプログラム言語によるものだけでなく,視覚的にわ

かりやすいインターフェースが用いられている.機械

工学やセンサーなどの電子制御といった専門分野だ

けでなく,小中学生へ向けたプログラミングの基礎学

習教材として活用されている実績がある. 製作する機械に搭載する機能としては「遠隔操作」

「マシンコントロールシステム(以下 MC)」,「マシン

ガイダンスシステム(以下 MG)」とした.実習環境や

工種によって使い分けられるよう,基本的なプログラ

ムと施工機械を製作し,ミニチュア工事現場の環境に

応じて変更や調整を行うことができるものとしてい

る.そのため,機械やプログラムの改造といった部分

においては建設工学・測量学だけでなく,機械力学や

計測工学,電子制御に関する分野横断型の基礎的な学

習教材として活用することも可能である.

Page 2: i-Constructionの教育用教材開発cds.nagaokaut.ac.jp/niigata_form/symposium2017_pdf/6-101.pdfi-Constructionの教育用教材開発 長岡工業高等専門学校 正会員 込山晃市

今回,情報化施工を再現するための試作機として,

ブルドーザーを製作した(図 1).ブルドーザーには遠

隔操作用のカメラ台,位置情報を取得するための赤外

線センサー,機械の進行方向を判別するためのジャイ

ロセンサー,前後方向の機械の傾きを計測する加速度

センサーを取り付けた.各センサーにより取得した値

から,モーターとアクチュエーター制御によるブレー

ドを自動で上下させることで MC を再現している. しかし,センサー値のばらつきや施工精度の面で未

だ多くの課題が残っており,EV3 のプログラムやミニ

チュア工事現場に使用している土砂材の調整,製作し

たブルドーザーの改良が必要である. 今後,法面整形を MG により行うバックホウや自動

運転のダンプトラックなどの建設機械の開発を行う

予定である. 4.空中写真測量の開発

UAV などを用いた空中写真測量は,既に起工測量や

出来形測定において活用されており,空中から撮影し

た写真を画像処理して点群データを作成し,三次元化

することは容易となっている.そこで,ミニチュアモ

デル現場を用いて,デジタルカメラで擬似的に空中写

真測量を行い,測定精度の検証と教材として導入する

ための基礎的検討を行うことにした. 画像処理および点群処理にはAgisoft社の PhotoScanを使用し,Autodesk 社の AutoCAD-Civil3D を用いて作

図を行うこととした.はじめにドローンにより屋外で

の空中写真測量を行い,画像処理および点群処理をし

て三次元モデルを作成する.次に,同様の手順でデジ

タルカメラを用いて撮影したミニチュアモデル現場

を三次元モデル化する.測定精度の検証はそれぞれの

特定断面における平面部のデータに近似線を引いた

ときの,実測値との差異を基準とし,地上解像度やラ

ップ率の違いによる比較検討を行う.その後,教材と

して活用画像解析にかかる時間や,実習を行うにあた

り十分な精度を得るためのモデルスケールや現場の

土砂材など,実習として最適な条件を模索していく. 5.科学啓発イベントへの参加

現在までに,情報化施工を再現する施工機械とミニ

チュア工事現場を活用して,遠隔操作で建設機械を操

作して工事現場が体験できるミニチュア工事現場体

験会としてブース出展を行っている(図 2).小中学生

に建設業や科学技術への興味をもってもらうだけで

なく,保護者をターゲットにした建設業のイメージア

ップや i-Construction の宣伝効果を期待している.体験

会の開催にはプレラボに参加してくれた学生を主体

に,建設機械の改造やクレーンなどの魅力的な建設機

械の製作,ミニチュアや工事現場,イベント用の配布

物作成,当日の対応として機械の説明や操作説明を行

った.また,体験会終了後には無記名式のアンケート

による建設業のイメージや学習意欲などの調査を行

い,今後の研究を進める上での資料として収集してい

る.

6.まとめ

体験会の実施や実習教材の試作と試行により,分野

横断的な学習教材としての可能性や,子供向けの体験

型教材としての有用性などを見出すことができた.し

かし,教材の具体的な実習への適用の方法,安価とは

言い難い資金面など,多くの課題も散見された. 今後は課題解決方法の模索と CIM による設計から

維持管理までの建設プロセス全体を学習できるツー

ルとして構築し,実践的な実習教材として確立できる

よう検討すると共に,ミニチュア工事現場体験会を開

催し,建設業のイメージアップや i-Construction の普及

に向けた活動も継続していく予定である. 本研究および体験イベント活動は,以下の助成金の

補助を受けています.ここで感謝の意を表します. ・JSPS 科研費 JP16H00399 ・JSPS 科研費 JP17H00390 ・平成 29 年度新潟県建設技術センター活動助成金

図 1 製作したブルドーザー

図 2 ミニチュア工事現場体験会の開催

参考文献

1) 国土交通省 HP より(http://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000028.html)