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外務員必携(2020 年版) 商品関連市場デリバティブ取引等に関する追補 2020 年4月1日 日本証券業協会

外務員必携(2020 年版)外務員必携(2020年版) 商品関連市場デリバティブ取引等に関する追補 2020年4月1日 日本証券業協会 cK@A ¥ v , d¢ÝîÉ>&

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外務員必携(2020年版)

商品関連市場デリバティブ取引等に関する追補

2020年4月1日

日本証券業協会

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はしがき

日本取引所グループ(JPX)と東京商品取引所(TOCOM)との経営統合に伴い、TOCOM

から JPX傘下の大阪取引所に貴金属や農産物、ゴムなどの先物市場が移管されること

が予定されています。これにより、証券と商品を取り扱う総合取引所が誕生し、大阪

取引所の商品関連市場デリバティブ取引の取次ぎ等を取り扱う業者には金融商品取引

法が適用されることとなります。

本書は、日本証券業協会が発行する 2020年版 外務員必携、2020年版 特別会員外

務員必携及び 2019年版 営業責任者・内部管理責任者必携(会員・特別会員 共通)の

追補版として、商品関連市場デリバティブ取引の取次ぎ等に従事する者に必要な法

令・諸規則や商品業務について解説していますので、外務員として職務を行うにあた

って必要な知識を修得するための資料として御活用ください。

なお、本書は、総合取引所への移行に際して新たに第一種金融商品取引業の登録を

受ける業者の役職員においても、金融商品取引法の基本的な構成から体系的に知識を

修得することができるよう、網羅的な構成としております。既存の第一種金融商品取

引業者又は登録金融機関において商品関連市場デリバティブ取引の取次ぎ等に従事す

る皆様におかれましては、適宜必要な部分を御参照ください。

原則として、本書は 2020年3月1日において施行あるいは公表されている法令諸規

則・制度等の情報を基に編集しておりますが、引用されている法令諸規則・制度等は

改正される場合がありますので御留意ください。

2020年4月

日 本 証 券 業 協 会

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目 次

第1章 総合取引所創設の背景 ············································· 1

1 商品デリバティブ市場の状況 ········································· 1

2 総合取引所実現に向けた議論の変遷 ··································· 1

第2章 金融商品取引法の概要 ············································· 3

はじめに ······························································· 3

1 総論 ······························································· 4

2 金融商品取引業者 ··················································· 7

3 指定紛争解決機関 ··················································· 44

4 市場阻害行為の規制(不公正取引の規制) ····························· 48

5 市場の監視・監督 ··················································· 58

第3章 金融商品の勧誘・販売に関係する法律 ······························· 63

はじめに ······························································· 63

1 金融商品の販売等に関する法律 ······································· 63

2 消費者契約法 ······················································· 67

3 個人情報の保護に関する法律 ········································· 72

4 犯罪による収益の移転防止に関する法律 ······························· 79

第4章 デリバティブ取引の概説 ··········································· 84

1 デリバティブ取引の歴史 ············································· 84

2 デリバティブ取引と金融商品取引法 ··································· 87

3 先物取引 ··························································· 90

4 オプション取引 ····················································· 95

5 デリバティブ取引のリスク ·········································· 116

第5章 商品関連市場デリバティブ取引の制度 ······························ 118

1 市場デリバティブ取引 ·············································· 118

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第6章 日本証券業協会定款・諸規則 ······································ 132

1 日本証券業協会の概要 ·············································· 132

2 協会の主要な業務 ·················································· 133

3 協会の機関 ························································ 135

4 協会の諸規則 ······················································ 137

第7章 外務員に求められる倫理観 ········································ 183

1 倫理とは ·························································· 183

2 法令・ルールを遵守する(コンプライアンス) ························ 185

3 金融サービス業におけるプリンシプル・顧客本位の業務運営に関する原則 186

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第1章 総合取引所創設の背景

1 商品デリバティブ市場の状況 市場のグローバル化を背景とした競争環境の激化により、世界では金融・商品といった取扱

商品の垣根を超え、国境をまたぐ取引所の統合が行われてきました。このような市場統合によ

る効率化やアジアを中心とした商品市場の拡大等を背景に、世界の商品デリバティブ市場もそ

の規模を拡大し、世界のデリバティブ取引所における商品デリバティブの取引高は、2003(平

成 15)年の約6億枚から 2017(平成 29)年には約 55億枚までに成長しました。金融市場も商

品市場も同じデリバティブ市場であり、一つの規制・取引所で金融デリバティブから商品デリ

バティブまで幅広く取扱うことができるいわゆる「総合取引所」は、CMEグループや ICE、ドイ

ツ取引所等といった世界の主要なデリバティブ取引所でも主流となっています。

翻って、我が国の商品デリバティブ市場全体の取引高は、再勧誘禁止・純資産額規制比率の

導入等を経て、2003(平成 15)年の 154百万枚をピークに減少し続け、現在はピーク時の6分

の1の規模にまで縮小しています。商品デリバティブ市場の産業インフラとしての必要性や、

海外との競争基盤維持の観点からも、価格形成機能のある商品デリバティブ市場を国内に維持

することは国策として重要であり、そのためには金融分野と商品分野の規制・基盤を一元化し、

金融分野と商品分野の垣根をなくすことが重要であるとの問題意識のもと、我が国においても

2007(平成 19)年頃から総合取引所の実現に向けた議論が開始されました。

2 総合取引所実現に向けた議論の変遷 2007(平成 19)年4月、経済財政諮問会議グローバル化改革専門調査会の金融・資本市場ワ

ーキンググループによって総合取引所実現の道筋を示す報告書がとりまとめられ、総合的な取

引所の設立を可能にする制度整備を行うよう提言されました。この報告書の提言を受け、2009

(平成 21)年に金融商品取引法が改正され、金融商品取引所と商品取引所が、共通の持株会社

のもとでグループ会社化や子会社化をすることが認められましたが、本法改正では、規制や監

督については従来どおりであったため、証券会社が商品デリバティブを取引する場合には、金

融庁に加え、経済産業省や農林水産省の監督下となることが従来同様に必要でした。その結果、

2009(平成 21)年の法改正後も総合取引所が実現することはなく、その後も抜本的な法改正に

向けて協議が続くこととなりましたが、2010(平成 22)年に策定された政府の「新成長戦略」

で改めて「総合的な取引所(証券・金融・商品)の創設推進」がうたわれ、政府として総合取

引所を推進していくよう位置づけられました。2012(平成 24)年の二度目の金融商品取引法改

正では、2009(平成 21)年の相互乗入れ方式に加え、金融商品取引所と商品取引所を当事者と

する合併についての規定が整備され、また、金融商品等の定義が拡大されたことにより、金融

商品取引所の開設する市場が、「総合的な取引所」として金融庁の一元的な監督のもと、一定の

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要件(商品所管官庁の同意等)を満たした商品デリバティブ取引を取扱うことが可能となりま

した。

こうした法整備等を背景に、2019(平成 31)年3月には、株式会社日本取引所グループと株

式会社東京商品取引所の間で、総合取引所の実現に向けた基本合意が行われ、現在、東京商品

取引所からの商品移管及び清算機関の統合に向けた議論・準備が進められています。

図表 総合取引所を巡る議論の経緯

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第2章 金融商品取引法の概要

はじめに

金商法は、資本市場の成立条件を整備し、その機能を十分に発揮させるための法律です。総則

以下、企業内容開示制度、金融商品取引業者、金融商品取引業協会、投資者保護基金、金融商品

取引所、金融商品取引清算機関、証券金融会社、有価証券の取引等の規制、課徴金等について規

定が置かれています。本書ではそれらの規制のうち、商品関連市場デリバティブ取引を取り扱う

金融商品取引業者に密接に関わる規制(金融商品取引業者、指定紛争解決機関、市場阻害行為の

規制、市場の監視・監督)について記述を行います。

本章で使用する法令の略称は、次のとおりです。

「金商法」又は「法」・・・・・金融商品取引法(昭和 23 年法律第 25号)

「証取法」・・・・・・・・・・証券取引法(昭和 23 年法律第 25号)

「金融商品販売法」・・・・・・金融商品の販売等に関する法律(平成 12年法律第 101 号)

「商先法」・・・・・・・・・・商品先物取引法(昭和 25 年法律第 239 号)

「施行令」・・・・・・・・・・金融商品取引法施行令(昭和 40 年政令第 321号)

「定義府令」・・・・・・・・・金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(平成

5年大蔵省令第 14 号)

「金商業等府令」・・・・・・・金融商品取引業等に関する内閣府令(平成 19 年内閣府令第 52

号)

「指定紛争解決府令」・・・・・金融商品取引法第五章の五の規定による指定紛争解決機関に関

する内閣府令(平成 21年内閣府令第 77号)

「取引規制府令」・・・・・・・有価証券の取引等の規制に関する内閣府令(平成 19 年内閣府

令第 59 号)

「課徴金府令」・・・・・・・・金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府

令(平成 17 年内閣府令第 17 号)

※ 金商法の所管大臣は、法律上その大半は内閣総理大臣ですが、その権限は金融庁長官に委譲

されているため(法 194条の7第1項。ただし、施行令に規定する権限を除きます。)、本章で

は以下、金融庁長官として引用する場合があります。

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1 総論

1-1 金商法の目的

金商法1条は、「この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業

を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、有価

証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の

機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もって国民経済の健全な発展

及び投資者の保護に資することを目的とする。」と定めています。

金商法1条は、企業内容等の開示制度や金融商品取引業、金融商品取引所等の規制といった金

商法上の主要な制度の充実によって、公正かつ円滑な有価証券の取引や流通の確保のほかに、資

本市場の機能の十全な発揮による公正な価格形成が図られる、という表現をしていますが、取引

の公正性確保や流通の円滑化は資本市場の機能と公正な価格形成という大目的に包摂される機

能であり、金商法の目的は「資本市場の機能の十全な発揮」による「公正な価格形成の確保」に

あるとの立場を明確にしたものと思われます。

ここで、「国民経済の健全な発展」と「投資者の保護」は、公正な価格形成が確保されること

の結果であることが、「もって」という言葉によって示されているものと考えられます。従来「投

資者の保護」といわれてきたものの大半は、資本市場の機能の十全な発揮による公正な価格形成

を確保するための条件ないし前提として理論上位置付けられることになります。

「公正な価格形成」とは、市場の成立条件が充足された場合に想定される概念であり、投資対

象である有価証券の真実の価値を把握した投資者による投資判断が競争的に集積して成立した

価格形成をいいます。情報開示制度は有価証券の取引時点における真実価値を把握させるため

の制度であり、金融商品取引所はそうした投資判断が集積し競争的に価格形成される場であり、

金融商品取引業を行う者は市場を構成する担い手としての責任を果たすべき者といえます。

1-2 金商法の構成

金商法の規定は次の4種類に大別できます。

(1) 情報開示(ディスクロージャー)……有価証券の募集又は売出しに際しての届出と有価

証券届出書・目論見書の作成・開示及び事業年度ごとに行う有価証券報告書、半期報告書等

の作成・開示であり、これは有価証券の発行・流通に際して取引対象である有価証券の真実

価値に係る情報を市場に広く提供することによって市場の成立条件を確保しようとするも

のです。

また、不特定多数の投資者から一挙に株式を取得する手段である株式公開買付制度に関

する規制や、株券等を大量に取得した場合に届出が必要となる大量保有報告制度も、情報開

示に関係しています。

(2) 資本市場の担い手に関する規制……資本市場の様々な局面において主要な役割を果た

す金融商品取引業者・登録金融機関等、金融商品に関する市場を開設する金融商品取引所、

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取引の決済を行う金融商品取引清算機関、業者規制を担う認可金融商品取引業協会、信用取

引・貸借取引を円滑にする役割を担う証券金融会社などに対して、資本市場機能の担い手と

しての役割を明確にする見地から詳細な規定が置かれています。

(3) 取引の規制……相場操縦、インサイダー取引等の不公正取引の禁止等、資本市場の機能

を阻害する行為を禁止するため、金融商品取引業による取引全般及び金融商品取引所にお

ける取引について多くの規定が設けられています。

(4) 金融行政に関する規制……資本市場の担い手に関する規制のなかに、金融庁による業者

への監督・処分等に関する規定が用意されていますが、これとは別に、証券取引等監視委員

会による犯則事件の調査等に関する制度、及び金融庁による課徴金の納付命令に関する制

度が置かれています。

これらの規制のうち、情報開示規制は有価証券について投資判断資料を提供することが主た

る目的であることから、デリバティブ取引には適用されません。資本市場の担い手に関する規制、

取引の規制、金融行政に関する規制がデリバティブ取引及びそれを担う金融商品取引業者に対

して適用されます。

1-3 デリバティブ取引及び金融商品・金融指標

金商法の適用対象として、一定のデリバティブ取引が含まれます(法2条 20項)。

デリバティブ取引の基礎となる原資産を金融商品といい、これには有価証券のほかに通貨な

ども含まれます。また、投資顧問契約ないし投資助言契約、あるいは資産運用契約は、金融商品

の価値等の分析に基づく投資判断に基づいてなされる有価証券又はデリバティブ取引に係る権

利に関するものとされています。

金融商品市場、金融商品取引業、金融商品取引所といった概念は、あくまでここでいう金融商

品に係る業や市場を意味していませんので注意を要します。

金商法の適用対象となるデリバティブ取引には、次のものがあります。

① 市場デリバティブ取引

金融商品市場において、金融商品市場を開設する者の定める基準及び方法に従って行わ

れる取引をいい、それには、金融商品・金融指標の先物取引、オプション取引、スワップ

取引、商品関連市場デリバティブ取引(商品・商品に係る金融指標を原資産・参照指標と

する市場デリバティブ取引)、クレジット・デリバティブ取引(法人の信用状態等に関する

一定の事由が発生した場合に相手方が金銭を支払うことを約する取引)、その他これらの

取引に類似する取引であって政令で定めるものが含まれます(法2条 21項)。

② 店頭デリバティブ取引

市場デリバティブ取引と同様の取引を、金融商品市場及び外国金融商品市場によらない

で行う取引をいいます(法2条 22項)。ただし、商品等に係る取引は含まれません。なお、

店頭デリバティブ取引から、預貯金等に組み込まれた通貨オプション取引、保険・共済契

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約、債務保証契約や貸付けの損害担保契約を除外しています(施行令1条の 15)。

③ 外国市場デリバティブ取引

外国金融商品市場において行う取引であって、市場デリバティブ取引と類似の取引を

いいます(法2条 23項)。ただし、商品等に係る取引は含まれません。

金融商品とは、次のものをいいます(法2条 24項)。

① 有価証券

② 預金契約に基づく債権その他の権利又は当該権利を表示する証券若しくは証書であ

って政令で定めるもの

③ 通貨

④ 暗号資産(資金決済に関する法律2条5項に規定する暗号資産をいいます。)

⑤ 商品(商先法2条1項に規定する商品のうち、法令の規定に基づく当該商品の価格の

安定に関する措置の有無その他当該商品の価格形成及び需給の状況を勘案し、当該商品

に係る市場デリバティブ取引により当該商品の適切な価格形成が阻害されるおそれが

なく、かつ、取引所金融商品市場において当該商品に係る市場デリバティブ取引が行わ

れることが国民経済上有益であるものとして政令で定めるものをいいます。)

⑥ 同一種類のものが多数存在し、価格の変動が著しい資産であって、当該資産に係るデ

リバティブ取引について投資者の保護を確保することが必要と認められるものとして

政令で定めるもの(商先法上の商品を除きます。ただし、現在政令はありません。)

⑦ 標準物(通貨を除く金融商品のうち内閣府令で定めるものについて、金融商品取引所

が市場デリバティブ取引を円滑化するために定めるものをいいます。)

金融指標とは、次のものをいいます(法2条 25項)。

① 金融商品の価格又は利率等

② 気象庁その他の者が発表する気象の観測の成果に係る数値

③ その変動に影響を及ぼすことが不可能若しくは著しく困難であって、事業者の事業活

動に重大な影響を与える指標又は社会経済の状況に関する統計の数値であって、これら

の指標又は数値に係るデリバティブ取引について投資者の保護を確保することが必要

と認められるものとして政令で定めるもの(商先法上の商品指数であって、商品以外の

商先法上の商品の価格に基づいて算出されたものを除きます。)。

なお、政令で定めるものを参照指標としたデリバティブ取引として、具体的には、地

震デリバティブ取引等の地象・地動・地球磁気・地球電気・水象の観測成果数値を参照

指標とするデリバティブ取引、GDP デリバティブ取引、統計法の指定統計調査・届出統

計調査等に係る統計を参照指標とするデリバティブ取引及び行政機関や不動産関連業

務を行う団体が発表・提供する不動産の賃料等を参照指標とするデリバティブ取引があ

ります(施行令1条の 18)。

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④ これらの金融指標に基づいて算出した数値

2 金融商品取引業者

2-1 金融商品取引業

(1) 金融商品取引業者と金融商品取引業

金融商品取引業者とは、内閣総理大臣の登録を受け、金融商品取引業を営む者をいいます(法

2条9項)。

金融商品取引業者は、金商法の目的である「資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の

公正な価格形成」のために様々な役割を果たしています。すなわち、金融商品取引業者は、組織

的市場である金融商品取引所の会員ないし取引参加者として大規模な流通市場を担っています。

また、取引参加者になることができない投資家の注文を金融商品市場に取り次ぐことで、広範な

投資家層の投資判断を金融商品市場に結び付ける役割を果たしています。

また、金融商品取引業者は、取引対象とされる金融商品の性格に応じて、取引にふさわしい投

資家層を判定し、金融商品市場に適合的な投資判断を確保するとともに、不正な投資判断の価格

形成への侵入を防止しなければなりません。その際、有価証券の品質と価値に対する投資家の理

解を促すために、一定の説明・助言の責任を負っています。また、相対取引型市場にあっては、

公正な価格を提示し、投資家と公正な価格で取引する責任も負っています。

このような役割から、金融商品取引業者は、資本市場の機能を確保し、資本市場成立のための

諸ルールに現実に血を通わせ息を吹き込む、最も中核的な責任と役割を担う高度な専門業者と

いうことができます。そのために、金商法は金融商品取引業者に対する様々な規制を設けていま

す。

金商法は、金融商品取引業者が行う金融商品取引業の内容によって行為規制や財務規制など

に差異を設けるために、金融商品取引業を、第一種金融商品取引業、第二種金融商品取引業、投

資助言・代理業、投資運用業の4種類に分類し(法 28 条1項~4項)、参入規制を柔軟化してい

ます。

(2) 金融商品取引業の分類

金融商品取引業者は、内閣総理大臣の登録を受けていれば、基本的には、金融商品取引業に該

当するいずれの業務も行うことができます。ただし、金融商品取引業者が行う業務の内容により、

金融商品取引業者の健全性を図るべき必要性の程度が異なります。

そこで、金商法は、金融商品取引業への参入規制については、原則として登録制としつつも、

金融商品取引業を第一種金融商品取引業、第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用

業の四つに分類し、それぞれの業務内容に応じて財務の健全性確保、コンプライアンスの実効性、

経営者の資質等につき異なった要件を定めています。

① 第一種金融商品取引業

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第一種金融商品取引業とは、金融商品取引業のうち、次に掲げるもののいずれかを業として

行うことをいいます(法 28 条1項)。

従来の保護預りを含む証券業、金融先物取引業等がこれに該当します。

一 有価証券(法2条1項各号に掲げる証券又は証書、同条2項本文によりこれらのも

のとみなされる権利及び電子記録移転権利が含まれます。同条2項各号に掲げる権利

は含みません。)について、①売買、市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ

取引、②①の取引の媒介、取次ぎ又は代理、③①の取引の委託の媒介、取次ぎ又は代

理、④有価証券等清算取次ぎ、⑤売出し、⑥募集・売出し・私募の取扱いを行う行為

二 商品関連市場デリバティブ取引の媒介、取次ぎ若しくは代理、又はその委託の媒介、

取次ぎ若しくは代理、及びその有価証券等清算取次ぎ

三 店頭デリバティブ取引、若しくはその媒介、取次ぎ若しくは代理、又はその清算取

次ぎ

四 有価証券の引受け

五 私設取引システム(PTS)運営業務

六 有価証券等管理業務

金商法上、自己の計算による商品関連市場デリバティブ取引については、第一種金融商品取

引業の範囲に含まれていません。

② 第二種金融商品取引業

第二種金融商品取引業とは、金融商品取引業のうち、次に掲げるもののいずれかを業として

行うことをいいます(法 28 条2項)。

従来の商品投資販売業、信託受益権販売業等がこれに該当します。

一 投資信託の受益証券のうち委託者指図型投資信託の受益権に係るもの等の有価証

券の募集又は私募(いわゆる自己募集)

二 有価証券(法2条2項各号に掲げる権利に限ります。)について、①売買、市場デリ

バティブ取引又は外国市場デリバティブ取引、②①の取引の媒介、取次ぎ又は代理、

③①の取引の委託の媒介、取次ぎ又は代理、④有価証券等清算取次ぎ、⑤売出し、⑥

募集・売出し、私募の取扱いを行う行為

三 ①有価証券に関連しない市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引、②

①の取引の媒介、取次ぎ又は代理、③①の取引の委託の媒介、取次ぎ又は代理、④有

価証券、店頭デリバティブ取引、及び法2条2項各号のみなし有価証券に関連しない

有価証券等清算取次ぎ

四 金融商品取引業に該当するものとして政令において指定される行為

③ 投資助言・代理業

投資助言・代理業とは、金融商品取引業のうち、次に掲げるもののいずれかを業として行う

ことをいいます(法 28条3項)。

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従来の投資顧問業等がこれに該当します。

一 投資顧問契約を締結し、当該投資顧問契約に基づき、有価証券の価値等又は金融商

品の価値等の分析に基づく投資判断に関して助言を行う業務(投資助言業務)

二 投資顧問契約又は投資一任契約の締結の代理又は媒介

④ 投資運用業

投資運用業とは、金融商品取引業のうち、次に掲げるもののいずれかを業として行うことを

いいます(法 28条4項)。

従来の投資一任契約に係る業務、投資法人資産運用業、投資信託委託業がこれらに含まれる

ほか、集団投資スキームなどを組成して主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利

に対する投資として運用する業務も含まれます。

なお、投資運用業の定義では、銀行等の金融機関が業として行う場合も含まれていますが、

当該業務を行うことは禁止されています(法 33条1項本文)。

一 投資一任契約を締結して、金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて有

価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資として、金銭その他の財産の運

用を行うこと(従来の投資一任契約に係る業務)

二 登録投資法人と資産の運用に係る委託契約を締結して、金融商品の価値等の分析に

基づく投資判断に基づいて有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資と

して、金銭その他の財産の運用を行うこと(従来の投資法人資産運用業)

三 投資信託の受益証券などの権利者から拠出を受けた金銭その他の財産を、金融商品

の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて有価証券又はデリバティブ取引に係る権

利に対する投資として運用を行うこと(従来の投資信託委託業等)

四 信託受益権や集団投資スキーム持分の権利者から出資又は拠出を受けた金銭その他

の財産を、金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に基づいて主として有価証券又

はデリバティブ取引に係る権利に対する投資として運用を行うこと(いわゆる自己運

用)

⑤ 電子募集取扱業務

電子募集取扱業務とは、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用

する方法であって、内閣府令の定めるものにより有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又

は私募若しくは特定投資家向け売付け勧誘等の取扱いを業として行うことをいいます(法 29

条の2第1項6号括弧書、金商業等府令6条の2)。

2014(平成 26)年及び 2019(令和元)年の改正により、新規・成長企業へのリスクマネー

の供給を促進するために、新規・成長企業等と資金提供者をインターネット経由で結び付け、

株式やファンド持分の発行、電子記録移転権利の取扱いにより多数の資金提供者から少額ず

つ資金を集めることを金融商品取引業者等が仲介するための仕組みが導入されました。これ

は一般的に、投資型クラウドファンディングと呼ばれています。

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(3) 金融商品取引業以外の業務

金融商品取引業者は、本業である金融商品取引業だけではその機能を十分に発揮することが

できません。したがって、本業と切り離すことが難しい業務又は切り離すことが合理的でない業

務で、社会一般の利益や投資者保護を損なわないものについては、これを金融商品取引業者の業

務として認めるのが望ましいといえます。

かつて、免許制のもとで証券会社の業務は証券業と兼業承認業務に限定されてきましたが、近

年の証券関係業務の拡大に伴い、1998(平成 10)年の証取法改正において、本業以外の業務の

範囲も飛躍的に拡大され、金商法の制定によりその範囲は更に拡大されています。

金融商品取引業以外の業務は、その内容により、付随業務、届出業務、承認業務の三つに分類

されています。

① 付随業務

金融商品取引業者のうち第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う者は、金融商品取引

業に付随する業務として、次の業務を行うことができます(法 35 条1項)。

これらの業務について金融商品取引業者は内閣総理大臣への届出や承認を得る必要はあり

ません。

なお、金融庁の公表文(2014(平成 26)年2月 21日付け「コメントに対する金融庁の考え

方」)によると、自己の計算において商品関連市場デリバティブを業として行うことは、法2

条8項各号に掲げる「金融商品取引業」に該当する行為ではないが、「金融商品取引業に付随

する業務」(法 35条1項柱書)に該当し、他の市場デリバティブ取引の自己取引等と同様、投

資者保護に資するよう業務の適切性や財務の健全性を検証する必要があるとされています。

一 有価証券の貸借又はその媒介若しくは代理

二 信用取引に付随する金銭の貸付け

三 顧客から保護預りをしている有価証券を担保とする金銭の貸付け(内閣府令で定め

るものに限ります。)

四 有価証券に関する顧客の代理

五 投資信託に係る収益金、償還金又は解約金の支払に係る業務の代理

六 投資法人の投資証券、新投資口予約権証券若しくは投資法人債券又は外国投資証券

に係る金銭の分配、払戻金若しくは残余財産の分配又は利息若しくは償還金の支払に

係る業務の代理

七 累積投資契約の締結(内閣府令で定めるものに限ります。)

累積投資契約とは、金融商品取引業者で有価証券管理業務を行う者が、顧客から金

銭を預かり、当該金銭を対価としてあらかじめ定めた期日において当該顧客に有価証

券を継続的に売り付ける契約をいいます。

八 有価証券に関連する情報の提供又は助言(投資顧問業に該当するものを除きます。)

九 他の金融商品取引業者又は登録金融機関の業務の代理(代理する金融商品取引業者

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が行うことができる業務に係るものに限り、前記五に掲げるものを除きます。)

十 登録投資法人の資産の保管

十一 他の事業者の事業の譲渡、合併、会社の分割、株式交換若しくは株式移転に関す

る相談に応じ、又はこれらに関し仲介を行うこと

十二 他の事業者の経営に関する相談に応じること

十三 通貨その他デリバティブ取引(有価証券関連デリバティブ取引を除きます。)に

関連する資産(暗号資産を除きます。)として政令で定めるものの売買又はその媒介、

取次ぎ若しくは代理

十四 譲渡性預金その他金銭債権(有価証券に該当するものを除きます。)の売買又は

その媒介、取次ぎ若しくは代理

十五 次に掲げる資産に対する投資として、運用財産の運用を行うこと

イ 投信法2条1項に規定する特定資産(不動産その他の政令で定める資産を除き

ます。)

ロ イに掲げるもののほか、政令で定める資産

十六 顧客から取得した当該顧客に関する情報を当該顧客の同意を得て第三者に提供

することその他当該金融商品取引業者の保有する情報を第三者に提供することであ

って、当該金融商品取引業者の行う金融商品取引業の高度化又は当該金融商品取引業

者の利用者の利便の向上に資するもの(八に掲げる行為に該当するものを除きます。)

② 届出業務

金融商品取引業者のうち第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う者は、内閣総理大臣

に届け出て、次の業務を行うことができます(法 35条2項・3項)。

一 商品市場における取引等に係る業務

二 商品の価格その他の指標に係る変動、市場間の格差等を利用して行う取引として内

閣府令で定めるものに係る業務(前記一に掲げるものを除きます。)

三 貸金業その他金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介に係る業務

四 宅地建物取引業法2条2号に規定する宅地建物取引業又は同条1号に規定する宅地

若しくは建物の賃貸に係る業務

五 不動産特定共同事業法2条4項に規定する不動産特定共同事業

六 商品投資に係る事業の規制に関する法律2条1項に規定する商品投資等により、

他人のため金銭その他の財産の運用を行う業務(前記一及び二に掲げるものを除き

ます。)

七 有価証券又はデリバティブ取引に係る権利以外の資産に対する投資として、運用財

産の運用を行う業務(前記①十五に掲げる行為を行う業務並びに前記一、二及び六に

掲げる業務に該当するものを除きます。)

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八 その他内閣府令で定める業務

③ 承認業務

金融商品取引業者のうち第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う者は、前記①②の業

務以外の業務を、内閣総理大臣の承認を受けて行うことができます(法 35条4項)。

この場合、内閣総理大臣は、公益に反すると認められるとき又は損失の危険の管理が困難で

あるために投資者保護に支障を生ずると認められる場合を除き、承認を拒否することはでき

ません(法 35条5項)。

2-2 主要株主の規制

第一種金融商品取引業又は投資運用業を行う金融商品取引業者の主要株主(原則として総株

主等の議決権の 100分の 20 以上を保有している者。ただし、会社の財務及び営業の方針の決定

に対して重要な影響を与えることが推測される事実として内閣府令で定める事実がある場合に

は 100分の 15以上を保有する者も含みます。)は、議決権保有割合、株式保有目的等を記載した

対象決権保有届出書を、遅滞なく、内閣総理大臣に提出しなければなりません(法 32 条1項・

3項)。

内閣総理大臣は、金融商品取引業者の主要株主が欠格事由に該当することとなった場合、当該

主要株主に対し主要株主でなくなるための措置等を命じることができます(法 32条の2第1項)。

金融商品取引業者の主要株主は、当該金融商品取引業者の主要株主でなくなったときは、遅滞

なく、その旨を内閣総理大臣に届け出なければなりません(法 32 条の3第1項)。

また、金融商品取引業者の主要株主が当該金融商品取引業者の特定主要株主(会社の総株主等

の議決権の 100 分の 50を超える対象議決権を保有している者をいいます。)となったときは、内

閣府令で定めるところにより、遅滞なく、その旨を内閣総理大臣に届け出なければなりません

(法 32条3項・4項)。

これは、いかなる者が金融商品取引業者の特定主要株主であるか当局が適時に把握でき

るようにするためです。

内閣総理大臣は、前記の金融商品取引業者の特定主要株主の業務又は財産の状況(当該特定主

要株主が法人である場合にあっては、当該特定主要株主の子法人等の財産の状況を含みます。)

に照らして公益又は投資者保護のために特に必要があると認めるときは、その必要の限度にお

いて、当該特定主要株主に対し、当該金融商品取引業者の業務の運営又は財産の状況の改善に必

要な措置をとることを命ずることができます(法 32 条の2第2項)。この命令に違反した場合、

内閣総理大臣は当該特定主要株主に対し、主要株主でなくなるための措置等を命ずることがで

きます(同条3項)。

この規定は、金融商品取引業者の経営に大きな影響力を有する株主の財務悪化により傘

下の金融商品取引業者の資金繰りが困難となるおそれや、そのような株主における法令違

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反や利益相反等が傘下の金融商品取引業者の経営に悪影響を及ぼすおそれがあること等に

かんがみ設けられたものです。

また、特定主要株主が当該金融商品取引業者の特定主要株主以外の主要株主になったときは、

内閣府令で定めるところにより、遅滞なく、その旨を内閣総理大臣に届け出なければなりません

(法 32条の3第2項)。

これらの規制は、金融商品取引業への異業種参入が図られることに対応し、金融商品取引

業者の経営に影響力を行使し得る株主から不適格者を排除することで金商法の目的を達成

することを最優先させるためのものです。銀行や保険会社にも同様の規制が存在します。

2-3 金融商品取引業者の登録と認可

(1) 金融商品取引業の登録制

① 意義

金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができません(法

29 条)。

なお、業務の態様に従い、登録又は認可の条件として、次のように最低資本金及び営業保証

金の額が定められています(施行令 15 条の7第1項、15条の 11 第1項、15条の 12)。

●第一種金融商品取引業……5,000万円(ただし、元引受業務を主幹事として行う場合

は 30億円、その他の場合は5億円。店頭デリバティブ取

引等の業務の用に供する電子情報報処理組織を使用して

特定店頭デリバティブ取引等を行う場合は3億円。)

●投資運用業……5,000万円(ただし、適格投資家向け投資運用業を行う場合は 1,000万

円)

●第二種金融商品取引業……1,000万円

個人が第二種金融商品取引業を行う場合……営業保証金 1,000万円

●投資助言・代理業……営業保証金 500万円

●私設取引システム(PTS)運営業務……3億円

●第一種少額電子募集取扱業者……1,000万円

●第二種少額電子募集取扱業者……500万円

登録又は認可の申請の手続、及び認可の基準等については、具体的な定めがあります(法 29

条の2、29条の3、29条の4、30 条の3、30条の4)。

未登録又は無認可業務に対しては罰則の適用があります(法 197条の2第 10 号の4、10号

の5、201条)。

② 登録申請手続

金融商品取引業の登録を受けるためには、金商法に規定する事項を記載した登録申請書及

び添付書類を内閣総理大臣に提出しなければなりません(法 29条の2第1項)。

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この場合において、第一種金融商品取引業を行おうとする外国法人は、国内における代表者

(当該外国法人が第一種金融商品取引業を行うため国内に設けるすべての営業所又は事務所

の業務を担当するものに限ります。)を定めて当該登録申請書を提出しなければなりません。

内閣総理大臣は、登録申請があった場合、登録拒否要件(法 29 条の4第1項)に該当しな

い限り、金商法に規定する事項を金融商品取引業者登録簿に登録しなければなりません(法 29

条の3第1項)。また、内閣総理大臣は、金融商品取引業者登録簿を公衆の縦覧に供しなけれ

ばなりません(法 29条の3第2項)。

③ 登録拒否要件

内閣総理大臣は、法に定める登録拒否要件のいずれかに該当するとき、又は登録申請書若し

くはこれに添付すべき書類若しくは電磁的記録のうちに虚偽の記載若しくは記録があり、若

しくは重要な事実の記載若しくは記録が欠けているときは、その登録を拒否しなければなり

ません(法 29条の4第1項)。

(2) 商号等の使用制限

金融商品取引業者でない者は、金融商品取引業者という商号若しくは名称又はこれに紛らわ

しい商号若しくは名称を用いてはなりません(法 31条の3)。

(3) 無登録業者による広告・勧誘行為の禁止

無登録業者は、①金融商品取引業を行う旨の表示をし、又は②金融商品取引業を行うことを目

的として金融商品取引契約の締結の勧誘を行ってはなりません(法 31条の3の2)。

近年、無登録業者が未公開株等を高齢者に売り付ける事例が多発していることから、無登録業

者に対する早期の取締りを可能にするため、2011(平成 23)年の改正により導入されました。

(4) 変更登録等

金融商品取引業者は、登録申請書又は添付書類の記載事項に変更があったときには、登録申請

書の場合はその日から2週間以内に、添付書類の場合は遅滞なく、その旨を内閣総理大臣に届け

出なければなりません(法 31 条1項・3項)。

2-4 財務規制とリスク管理

金融商品取引業者が、公共財である資本市場の担い手としてその職責を十分に遂行するため

には、経営破綻を容易に来すことのないよう健全な財務基盤を有していなければなりません。そ

こで、金商法は登録を受けた金融商品取引業者の財務状況について、いくつか規定を設けていま

す。

(1) 経理(健全性の確保)

資本市場の中核となる金融商品取引業者は、常に健全な経営を維持するためリスク管理

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部門の強化及びリスクの把握を行う必要があります。そのために、次のような規定が設けられて

います。

① 金融商品取引業者は、事業年度ごとに、業務及び財産の状況に関する事項として内閣

府令で定めるものを記載した説明書類を作成し、毎事業年度経過後政令で定める期間

(4か月)を経過した日から1年間、これをすべての営業所若しくは事務所に備え置いて

公衆の縦覧に供し、又は内閣府令で定めるところにより、インターネットの利用その他

の方法により公表しなければなりません(法 46条の4、施行令 16条の 17)。

② 金融商品取引業者は、自己資本規制比率(資本金、準備金その他の内閣府令で定める

ものの額の合計額から固定資産その他の内閣府令で定めるものの額の合計額を控除し

た額の、保有する有価証券の価格の変動その他の理由により発生し得る危険に対応する

額として内閣府令で定めるものの合計額に対する比率)を算出し、毎月末及び内閣府令

で定める場合(140%を下回った場合又は 140%以上に回復した場合)に、内閣総理大臣に

届け出なければなりません(法 46条の6第1項、金商業等府令 179条)。

③ 金融商品取引業者は、四半期(事業年度の期間を3か月ごとに区分した各期間をいい

ます。)の末日(年4回)における自己資本規制比率を記載した書面を作成し、当該末日

から1か月を経過した日から3か月間、すべての営業所又は事務所に備え置き、公衆の

縦覧に供しなければなりません(法 46条の6第3項)。

④ 金融商品取引業者は、自己資本規制比率が 120%を下回らないようにしなければなりま

せん(法 46条の6第2項)。

なお、2012(平成 24)年の金商法改正(総合取引所関係)に係る改正金商業等府令の施行日

(2014(平成 26)年3月 11 日)に商先法上の商品先物取引業者であった第一種金融商品取引業

者が商品関連市場デリバティブ取引に係る業務のみを取り扱う場合には、自己資本規制比率の

計算において、有形固定資産を分子から除外しなくてよいなどの経過措置が認められています

(金商業等府令附則4条)。

(2) 金融商品取引責任準備金の積立て

金融商品取引業者は、金融商品取引に係る事故に備え金融商品取引責任準備金を積み立てる

ことを義務付けられています(法 46条の5第1項、金商業等府令 175条)。

なお、2012(平成 24)年の金商法改正(総合取引所関係)に係る改正金商業等府令の施行日

(2014(平成 26)年3月 11 日)に商先法上の商品先物取引業者であった第一種金融商品取引業

者が商品関連市場デリバティブ取引に係る業務のみを取り扱う場合、第一種金融商品取引業の

登録又は変更登録を行った日の属する事業年度においては、商先法施行規則に基づき計算した

金額の方が低ければ、当該金額を金融商品取引責任準備金として取り扱うこととされています

(金商業等府令附則3条)。

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(3) 事業年度

2014(平成 26)年の改正により、第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者の事業年度

は、各月の初日のうち当該金融商品取引業者の選択する日から、当該日から起算して1年を経過

する日までとされました(法 46 条)。これにより従来は4月1日から翌年3月 31 日までとされ

ていたものが、第一種金融商品取引業者が任意の月を選択してその初日を始期とする1年間を

事業年度とすることができるようになりました。

第一種金融商品取引業者以外の者については特に規定は設けられていません。

(4) 報告・資料の提出義務等

金融商品取引業者は、事業年度ごとに、内閣府令で定めるところにより、事業報告書を作成し、

毎事業年度経過後3か月以内に、これを内閣総理大臣に提出しなければなりません(法 46 条の

3第1項、47条の2)。ただし、金融商品取引業者が外国法人である場合には、毎事業年度経過

後、政令で定める期間内とされています(法 49条1項、3項)。

また、第一種金融商品取引業者は、事業報告書の提出のほか、内閣府令で定めるところにより、

その業務又は財産の状況を内閣総理大臣に報告しなければなりません(法 46条の3第2項)。

金融商品取引業者は、内閣府令で定めるところにより、その業務に関する帳簿書類を作成し、

これを保存しなければなりません(法 46条の2、47条)。

2-5 業務に関する監督

金商法は、金融商品取引業者が「資本市場の担い手として、積極的にどのような行動をとるべ

きであり、また、どのような行動をとるべきでないか」といった行為のあり方について詳細な規

定を設けています。

こうした行為規制を含めて金融商品取引業者が金商法の期待する機能を果たすように、監督

当局に対して金融商品取引業者に対する事前・事後的な監督権限を付与しています。

なお、監督規定は、介入的な業者規制を意味するものではなく、資本市場の成立条件を提供・

整備し、市場の運営・行動を監視し、結果に対する責任追及を行うためのものです。

(1) 退出規制

① 金融商品取引業者に対する退出規制

金融商品取引業者は、その事業を休止・廃止し、又は事業の統合を行うことがあり得ます。

しかし、これらが資本市場の機能を阻害するような形で行われることは避けなければなりま

せん。そこで、金商法は金融商品取引業者の退出について規定を設けています。

イ 休止等の届出

金融商品取引業者は、業務の休止、再開等をすることとなったときは、遅滞なく、その旨

を内閣総理大臣に届け出なければなりません(法 50条)。

ロ 廃業等の届出等

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金融商品取引業者が廃業等をするときには、金商法の規定に従い、廃業等の日から 30 日

以内にその旨を内閣総理大臣に届け出なければなりません(法 50 条の2第1項)。

② 登録金融機関に対する退出規制

登録金融機関が業務の中止、再開等をすることとなったときは、遅滞なく、その旨を内閣総

理大臣に届け出なければなりません(法 50条)。

また、登録金融機関が廃業等をするときは、金商法の規定に従い、廃業等の日から 30 日以

内にその旨を内閣総理大臣に届け出なければなりません(法 50条の2第1項)。

(2) 業務改善命令

① 金融商品取引業者に対する業務改善命令

内閣総理大臣は、金融商品取引業者の業務の運営又は財産の状況に関し、公益又は投資者保

護のため必要かつ適当であると認めるときは、その必要の限度において、当該金融商品取引業

者に対し、業務の方法の変更その他業務の運営又は財産の状況の改善に必要な措置をとるべ

きことを命ずることができます(法 51 条)。

② 登録金融機関に対する業務改善命令

内閣総理大臣は、登録金融機関の業務の運営に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適

当であると認めるときは、その必要の限度において、当該登録金融機関に対し、業務の方法の

変更その他業務の運営の改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができます(法 51条

の2)。

(3) 監督上の処分

① 金融商品取引業者に対する監督上の処分

金融商品取引業が PTS 業務を除き登録制とされ、金融商品取引業への参入規制が緩和され

たことから、金融商品取引業者の業務の適正性を確保するために登録後の監督、処分を厳格、

適正に行う必要があります。そのため、資本の額や純資産額が法定額を下回ったり、不正の手

段で登録を受けたり、行政官庁の処分に違反したり、その他金融商品取引業に関し法令違反の

事実があったときには、登録の取消し、認可の取消し、業務の停止等の命令及びそれに伴う諸

措置を行うことにより、登録後の業務の適正性確保を図っています。

イ 登録・認可の取消し又は業務停止

内閣総理大臣は、金融商品取引業者が金商法に規定する要件に該当する場合には、当該金

融商品取引業者の登録・認可を取り消し、又は6か月以内の期間を定めて業務の全部若しく

は一部の停止を命ずることができます(法 52 条1項)。

ロ 経営保全命令(早期是正措置)

内閣総理大臣は、第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者の自己資本規制比率が

120%を下回っている場合において、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認め

るときは、その必要の限度において、業務の方法の変更を命じ、財産の供託その他監督上必

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要な事項を命ずることができます(法 53条1項)。

また、自己資本規制比率が 100%を下回っている場合においては、3か月以内の期間を定

めて業務の全部又は一部の停止を命ずることができ(同条2項)、さらに3か月を経過して

も 100%を下回り、その状況が回復する見込みがないと認められるときは、当該金融商品取

引業者の登録を取り消すことができます(同条3項)。

ハ 役員の解任

内閣総理大臣は、金融商品取引業者の役員(外国法人にあっては、国内における営業所若

しくは事務所に駐在する役員又は国内における代表者に限ります。)が金商法に規定する要

件に該当することとなった場合には、その金融商品取引業者に対して、当該役員の解任を命

ずることができます(法 52 条2項)。

② 登録金融機関に対する監督上の処分

内閣総理大臣は、登録金融機関が金商法に規定するいずれかの要件に該当する場合には、当

該金融機関の登録金融機関としての登録を取り消し、又は6か月以内の期間を定めて業務の

全部若しくは一部の停止を命ずることができます(法 52 条の2)。

2-6 外務員制度

(1) 外務員制度の意義

資本市場における金融商品等の公正な価格形成は、投資対象の真実価値に係る十分な情報を

有する投資家が形成した投資判断の集積によって達成することができます。しかし、金商法が用

意する定期的・臨時的な情報開示制度、金融商品取引所のルールである適時開示に係る情報が、

すべての投資家に均一平等に行き渡っている保証はありません。

また、投資家が必要とする投資判断材料は、法が要求する水準のもののみとは限りません。経

済情勢に関する判断、株式制度の基本に関する知識等の様々な情報が投資家によって求められ

ます。その意味において、投資家の投資判断を市場に結び付けるべき使命を負った金融商品取引

業者等は、投資家に接する局面での対応について、資本市場に対して高度の責任を負っています。

金商法が外務員の地位と権限について特別の規定を置いているのは、単に投資家を害さない

ためというのではなく、健全な投資判断の確保を通じて、公正な市場の構築に責任を負う金融商

品取引業者等としての責務を明らかにするためです。

(2) 外務員とは

外務員とは、勧誘員、販売員、外交員その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、金融

商品取引業者等の役員又は使用人のうち、その金融商品取引業者等のために次に掲げる行為を

行う者をいいます(法 64条1項柱書)。

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一 有価証券(法2条2項の規定によりみなし有価証券とされる同項各号に掲げる権利を

除きます。)に係る次に掲げる行為

イ 1 有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引

2 有価証券の売買、市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引の媒

介、取次ぎ若しくは代理

3 取引所金融商品市場における有価証券の売買又は市場デリバティブ取引の委

託の媒介、取次ぎ若しくは代理

4 外国金融商品市場における有価証券の売買又は外国市場デリバティブ取引の

委託の媒介、取次ぎ若しくは代理

5 有価証券等清算取次ぎ

6 有価証券の売出し又は特定投資家向け売付け勧誘等

7 有価証券の募集若しくは売出しの取扱い又は私募若しくは特定投資家向け売

付け勧誘等の取扱い

ロ 次に掲げる行為

1 売買又はその媒介、取次ぎ(有価証券等清算取次ぎを除きます。)若しくは代

理の申込みの勧誘

2 市場デリバティブ取引若しくは外国市場デリバティブ取引又はその媒介、取次

ぎ(有価証券等清算取次ぎを除きます。)若しくは代理の申込みの勧誘

3 市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引の委託の勧誘

二 次に掲げる行為

イ 1 店頭デリバティブ取引又はその媒介、取次ぎ若しくは代理

2 有価証券の引受け

3 私設取引システム(PTS)運営業務

ロ 店頭デリバティブ取引等の申込みの勧誘

三 前記一及び二に掲げるもののほか、政令で定める行為

政令で定める行為とは、次に掲げるものです(法 64条1項1号に規定する有価証券に

係るものを除きます。)(施行令 17条の 14)。

1 市場デリバティブ取引若しくは外国市場デリバティブ取引又はその媒介、取次

ぎ若しくは代理

2 市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引の委託の媒介、取次ぎ又

は代理

3 市場デリバティブ取引若しくは外国市場デリバティブ取引又はその媒介、取次

ぎ若しくは代理の申込みの勧誘

4 市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引の委託の勧誘

前述のとおり、金商法上、自己の計算による商品関連市場デリバティブ取引については第一種

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金融商品取引業の範囲に含まれていませんが、金融商品取引業者等の役職員がその業者等のた

めに行う当該取引は、外務員登録の対象となる行為として規定されていることには留意が必要

です(施行令 17条の 14第1号)。

金融商品取引業者等は、登録外務員以外の者に外務員の職務を行わせてはなりません(法 64

条2項)。

(3) 外務員の登録

金融商品取引業者等は、外務員の氏名、生年月日その他所定の事項について、内閣府令で定め

る場所(認可金融商品取引業協会又は法 78 条2項に規定する認定金融商品取引業協会)に備え

る外務員登録原簿に登録を受けなければなりません(法 64 条1項、64条の7、金商業等府令 247

条~256条)。

登録外務員以外の者は外務行為が許されず、登録に当たっても後述のような厳しい要件が

課されるため、登録は単に所属する金融商品取引業者等との関係で外務員の権限の所在を明

らかにするだけでなく、実質的には一般的に禁止された外務行為を特別の者に対してのみ解

除するという「許可」と同一の効果を持っています。

外務員は登録制度をとっていますが、欠格要件を定めること、及び法令違反等による登録取消

処分を行うことによって、外務員としての適格性をチェックしています。

金商法をはじめとする各種法令に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行が終わり、

又はその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者は、欠格要件に該当す

ることになります。

他に、主な欠格事由としては、心身の故障により金融商品取引業に係る業務を適切に行うこと

ができない者として内閣府令で定める者、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者又は外

国の法令上これと同様に取り扱われている者、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法

律」の規定等に違反し、罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受け

ることがなくなった日から5年を経過しない者、などがあります。

内閣総理大臣は、登録の申請に係る外務員が次のいずれかに該当するとき、又は登録申請書若

しくはその添付書類のうちに虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているとき

は、その登録を拒否しなければなりません(法 64条の2第1項)。

一 欠格事由(法 29条の4第1項2号イからリまで)のいずれかに該当する者

二 監督上の処分(法 64条の5第1項)により外務員の登録を取り消され、その取消しの

日から5年を経過しない者

三 登録申請者以外の金融商品取引業者等又は金融商品仲介業者に所属する外務員とし

て登録されている者

四 金融商品仲介業者に登録(法 66条)されている者

また、内閣総理大臣は、登録を受けている外務員が次のいずれかに該当する場合においては、

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その登録を取り消し、又は2年以内の期間を定めてその職務の停止を命ずることができます(法

64 条の5)。

一 欠格事由(法 29条の4第1項2号イからリまで)のいずれかに該当することとなった

とき、又は登録の当時既に法 64条の2第1項各号のいずれかに該当していたことが判明

したとき

二 金融商品取引業(登録金融機関にあっては、登録金融機関業務)のうち法 64条1項各

号に掲げる行為を行う業務又はこれに付随する業務に関し法令に違反したとき、その他

外務員の職務に関して著しく不適当な行為をしたと認められるとき

三 過去5年間に退職その他の理由により登録を抹消された場合において、当該登録を受

けていた間の行為(当該過去5年間の行為に限ります。)が前記二に該当していたこと

が判明したとき

登録取消し等が行われた場合、外務員に関する登録が抹消されます(法 64条の6)。

金融商品取引業者等は、登録を受けている外務員に次の事項が生じたときは、遅滞なく、その

旨を内閣総理大臣に届け出なければなりません(法 64 条の4)。

一 外務員の氏名及び生年月日、役員又は使用人の別に変更があったとき

二 欠格事由(法 29条の4第1項2号イからリまで)のいずれかに該当(同号イについて

は該当するおそれがある場合に該当)することとなったとき

三 退職その他の理由により外務員の職務を行わないこととなったとき

なお、認可金融商品取引業協会又は認定金融商品取引業協会に所属する金融商品取引業者等

の外務員に係る登録事務は、金融商品取引業協会の自主規制機関としての機能を強化する観点

から、金融商品取引業協会が行います(法 64 条の7第1項)。

そして、登録事務を行う協会は、外務員の登録、登録の変更、処分(登録の取消しを除きます。)、

登録の抹消をした場合には、遅滞なく、その旨を内閣総理大臣に届け出なければなりません(同

条5項)。

さらに、登録事務を行う金融商品取引業協会の登録申請に係る不作為若しくは登録の拒否又

は処分について不服がある金融商品取引業者等は、内閣総理大臣に対して、行政不服審査法によ

る審査請求をすることができます(法 64条の9)。

(4) 外務員の法的地位

① 代理権(法 64 条の3第1項)

外務員は、その所属する金融商品取引業者等に代わって、法 64条1項各号に掲げる行為に

関し、一切の裁判外の行為を行う権限を有するものとみなされます(法 64条の3第1項)。こ

の結果、外務員の行為の効果は直接金融商品取引業者等に帰属し、金融商品取引業者等は外務

員の負った債務について直接履行する責任を負います。

外務員に代理権を与えることによって、金融商品取引業者等は営業活動の拡大を図るとと

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もに、顧客も外務員との間で安心して取引を行うことができます。これによって投資者の保護

が図られ、金融商品取引の機動性が高められることになります。金融商品取引業者等は資本市

場の担い手としての責務を負っており、外務員の行為もそうした金融商品取引業者等の責務

の延長線上にあります。

したがって、金融商品取引業者等は、金商法に違反する悪質な行為を外務員が行った場合に、

そうした行為が代理権の範囲外であることを理由としてその監督責任を免れることはできま

せん。

② 顧客の悪意(法 64条の3第2項)

前述のように、金融商品取引業者等は外務員の行った営業行為につき責任を負いますが、も

し相手方である顧客に悪意(当該外務員の代理権に内部的な制限があることを知って権限外

の行為を行わせること、明らかに顧客の代理人であること等)があるときは適用されません

(法 64条の3第2項)。

したがって、顧客にそのような事実がない限り、金融商品取引業者等は免責されません。顧

客の悪意の認定は、外務員としての責務がまずは果たされていることが前提となります。

2-7 金融商品取引業の行為規制

(1) 総論

業者が金融商品の取引等を行う場合における行為規制は、かつては縦割りの業法によりそれ

ぞれの業者が取り扱う金融商品ごとに異なる規制がなされてきました。しかし、金融技術や IT

技術の進展なども背景に、新たな金融商品が、既存の利用者保護法制の対象となっていないもの

も含め、次々と生み出され販売されています。金融機関も、利用者のニーズが認められれば、こ

のような商品や他の業法に基づく商品を業態の枠を越えて取り扱う傾向がみられるほか、異な

る法律に基づく商品の内容が類似したり、複数の法律にまたがる商品を提供したりするなど、金

融サービスの融合化が進展しています。

このような金融環境の変化や、業者と利用者の間に存在する情報格差を踏まえると、利用者に

自己責任を問う前提として、幅広い金融商品について包括的・横断的な利用者保護の枠組みを整

備し、利用者保護を拡充する必要があります。そこで金商法は、金融商品の販売や資産の運用に

関する一般的な性格を有する法として、同じ経済的機能を有する金融商品には、その行為規制に

ついて業態を問わず一律に課すこととしています。

金商法は、資本市場の担い手としての金融商品取引業者等の地位にかんがみて、金融商品取引

業者に対する行為規制を幅広く規定しています。資本市場の機能を確保するためには、金融商品

取引業者として積極的になすべき事柄と積極的に禁止されるべき事柄があります。両者とも取

引客体の品質と価値に関する投資判断の競争的な集積によって達成される公正な価格形成の確

保に貢献するものとして規定されています。

なお、金融商品取引業者を名宛人とする禁止行為のほか、一般的な市場阻害行為の禁止規定も

金融商品取引業者に対して適用されます。(⇒詳しくは「4 市場阻害行為の規制(不公正取引の規制)」参照)

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(2) 一般的義務

① 誠実・公正義務

金融商品取引業者等並びにその役員及び使用人は、顧客に対して誠実かつ公正に、その業務

を遂行しなければなりません(法 36条)。

金商法上の金融商品取引業者等に対する規制は、個々の投資家を保護するという利害調

整的な観点にのみ立つものではなく、それを超えた価値である資本市場における公正な価

格形成の確保を目的とするものです。

個々の投資家は資本市場が公正であることによる国民経済的利益に国民の一人として

浴するのが基本といえます。個々の投資家のためになっても容易にバブルを発生させるよ

うな資本市場では、その個々の投資家も結局は不幸な存在でしかありません。

誠実・公正義務は、沿革的には英米法上の信認義務(fiduciary duty)を継受したもの

であり、これを私法上の義務とみる向きもありますが、金商法の目的に奉仕すべき責務を

投資家に対する責務の視点から表現したものとみるべきでしょう。

② 広告規制

金商法では、資本市場の担い手としての金融商品取引業者等の地位にかんがみて、金融商品

取引業者等が、その行う金融商品取引業の内容について広告等をする場合に、一定の表示を義

務付けるとともに、利益の見込み等について著しく事実に相違する表示又は著しく人を誤認

させる表示をすることを禁止しています。

金融商品取引業者等は、その行う金融商品取引業の内容について広告その他これに類似す

るものとして内閣府令で定める行為をするときは、内閣府令で定めるところにより、次に掲げ

る事項を表示しなければなりません(法 37条1項)。

一 当該金融商品取引業者等の商号、名称又は氏名

二 金融商品取引業者等である旨及び当該金融商品取引業者等の登録番号

三 当該金融商品取引業者等の行う金融商品取引業の内容に関する事項であって、顧客

の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして政令で定めるもの

対象となる広告類似行為の具体的な範囲として、郵便、信書便、ファクシミリ、電子メール

又はビラ・パンフレット配布等の「多数の者に対して同様の内容で行う情報の提供」と規定さ

れています(金商業等府令 72 条)。このような要件に該当する限り、例えば販売用資料も広告

等規制の対象となります。

広告等の表示事項については、手数料等、元本損失又は元本超過損が生ずるおそれがある旨、

その原因となる指標及びその理由、重要事項について顧客の不利益となる事実、金融商品取引

業協会(当該金融商品取引業の内容に係る業務を行う者を主要な協会員又は会員とするもの

に限ります。)に加入している場合にはその名称等と定められています(施行令 16 条、金商業

等府令 76条)。また、広告等の表示方法についても、特にリスク情報については、広告で使用

される最も大きな文字・数字と著しく異ならない大きさで表示することを義務付けています

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(金商業等府令 73 条)。

金融商品取引業者等は、その行う金融商品取引業に関して広告その他これに類似するもの

として内閣府令で定める行為をするときは、金融商品取引行為を行うことによる利益の見込

みその他内閣府令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤

認させるような表示をしてはなりません(法 37条2項)。これらの事項として、契約解除、損

失負担・利益保証、違約金等、業者の資力・信用・実績や手数料等に関する事項が規定されて

います(金商業等府令 78条)。

③ 書面交付義務及び説明義務並びに情報提供義務

金融商品取引業者等の説明義務は業者と利用者との情報格差を是正するための重要な方策

であり、また、資本市場における金融商品等の公正な価格形成確保のために不可欠なもので

す。

そこで、金商法においては、金融商品販売法上の説明義務と同内容の説明義務を金融商品取

引業者の行為規制の一つとして位置付け、業者が当該義務に違反した場合に直接的に監督上

の処分を発動できることとしています。

イ 契約締結前の書面交付義務

金融商品取引業者等は、金融商品取引契約を締結しようとするときは、内閣府令で定める

ところにより、あらかじめ、顧客に対し、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければ

なりません(法 37 条の3第1項本文)。

ただし、投資者の保護に支障を生ずることがない場合として内閣府令で定める場合は、こ

の限りではありません(同項ただし書)。

一 当該金融商品取引業者等の商号、名称又は氏名及び住所

二 金融商品取引業者等である旨及び当該金融商品取引業者等の登録番号

三 当該金融商品取引契約の概要

四 手数料、報酬その他の当該金融商品取引契約に関して顧客が支払うべき対価に関

する事項であって内閣府令で定めるもの

五 顧客が行う金融商品取引行為について、金利、通貨の価格、金融商品市場におけ

る相場その他の指標に係る変動により損失が生ずることとなるおそれがあるとき

は、その旨

六 前号の損失の額について顧客が預託すべき委託証拠金その他の保証金その他内

閣府令で定めるものの額を上回るおそれがあるときは、その旨

七 前記一から六までに掲げるもののほか、金融商品取引業の内容に関する事項で

あって、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして内閣府令で定め

る事項

契約締結前交付書面の記載方法としては、はじめに、当該契約締結前交付書面の内容を十

分に読むべき旨及び顧客の判断に影響を及ぼす特に重要な事項を 12ポイント以上の大きさ

の文字・数字を用いて最初に平易に記載することが義務付けられています(金商業等府令

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79 条3項)。次に、手数料等の概要、元本損失・元本超過損が生ずるおそれがある旨、店頭

デリバティブ取引のカバー取引の相手方の商号等及び分別管理の方法・預託先、電子申込型

電子募集取扱業務等に係る取引に関する一定の事項、クーリング・オフの規定の適用の有無

について、枠の中に 12ポイント以上の大きさの文字・数字を用いて明瞭・正確に記載する

ことが義務付けられています(同条2項)。その他の事項については、8ポイント以上の大

きさの文字・数字を用いて明瞭かつ正確に記載することが義務付けられています(同条1

項)。

また、契約締結前交付書面の共通記載事項としては、法定事項に加えて、契約締結前交付

書面の内容を十分に読むべき旨、顧客が預託すべき委託証拠金等の額・計算方法、元本損

失・元本超過損が生ずるおそれがある場合における原因となる指標等・理由、租税の概要、

契約終了事由がある場合におけるその内容、クーリング・オフの規定の適用の有無、金融商

品取引業者等の概要等、顧客が金融商品取引業者等に連絡する方法、加入している金融商品

取引業協会の有無及び加入している場合におけるその名称、対象事業者となっている認定

投資者保護団体の有無及び対象事業者となっている場合におけるその名称、指定紛争解決

機関の商号又は名称、などが規定されています(金商業等府令 82 条)。このほか、金融商

品・取引に応じた記載事項について定められています(金商業等府令 83 条~96条)。

契約締結前の書面交付義務が適用除外されるのは次の場合です。

第一に、金融商品取引所に上場されている有価証券(カバードワラント等を除きます。)

の売買等(デリバティブ取引・信用取引等を除きます。)については、金融商品取引契約の

締結前1年以内に当該顧客に対して包括的な書面(以下「上場有価証券等書面」といいま

す。)を交付している場合(金商業等府令 80 条1項1号)

第二に、金融商品取引契約の締結前1年以内に当該顧客に対して同種の内容の金融商品

取引契約について契約締結前交付書面を交付している場合(同項2号)

第三に、顧客に対し契約締結前交付書面に記載すべき事項のすべてが記載されている目

論見書を交付している場合(同項3号)

第四に、既に成立している金融商品取引契約の一部変更を内容とする金融商品取引契約

を締結しようとする場合において、既に成立している当該金融商品取引契約に係る契約締

結前交付書面の記載事項に変更すべきものがないとき又は当該顧客に対し契約変更書面を

交付しているとき(同項4号)

前述の契約締結前交付書面の交付義務については、単に顧客に書面を交付しさえすれば

それで足りるというように解されてはなりません。すなわち、契約締結前交付書面等の交付

に関し、あらかじめ、顧客に対して前記三から七までの事項について顧客の知識、経験、財

産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして当該顧客に理解されるために必

要な方法及び程度による説明をして、金融商品取引契約を締結しなければならず(金商業等

府令 117 条1項1号)、顧客の適合性を踏まえた説明義務を履行しなければなりません。

ロ 契約締結時等の書面交付義務

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金融商品取引業者等は、金融商品取引契約が成立したときその他内閣府令で定めるとき

は、遅滞なく、内閣府令で定めるところにより、書面を作成し、これを顧客に交付しなけれ

ばなりません(法 37条の4第1項本文)。

ただし、その金融商品取引契約の内容その他の事情を勘案し、当該書面を顧客に交付しな

くても公益又は投資者保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして内閣府

令で定める場合は、この限りではありません(同項ただし書)。

さらに、金融商品取引業者等は、その行う金融商品取引業に関して顧客が預託すべき保証

金(内閣府令で定めるものに限り、商品関連市場デリバティブ取引を含みます。)を受領し

たときは、顧客に対し、直ちに、内閣府令で定めるところにより、その旨を記載した書面を

交付しなければなりません(法 37条の5第1項)。

書面交付義務に違反した場合には、行政処分の対象になるほか、違反行為者と法人が処罰

の対象となります(法 205条、207条)。

ハ 書面による解除(クーリング・オフ)

金商法では、一般投資家の健全な投資判断を確保する観点から、書面による解除(クーリ

ング・オフ)に関する一般的な規定が設けられています。

金融商品取引業者等と金融商品取引契約(当該金融商品取引契約の内容その他の事情を

勘案して政令で定めるものに限ります。)を締結した顧客は、内閣府令で定める場合を除き、

金融商品取引契約に係る書面を受領した日から起算して政令で定める日数を経過するまで

の間、書面により当該金融商品取引契約の解除を行うことができます(法 37条の6第1項)。

金融商品取引契約の解除は、当該金融商品取引契約の解除を行う旨の書面を発した時に、そ

の効力が生じます(同条2項)。投資顧問契約が政令に定めるものに該当するとされ(施行

令 16 条の3第1項)、また、政令で定める日数は 10日間とされています(同条2項)。

ニ 不招請勧誘の禁止

金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、金融商品取引契約で、当該金融商品

取引契約の内容その他の事情を勘案し、投資者の保護を図ることが特に必要なものとして

政令で定めるものの締結の勧誘の要請をしていない顧客に対し、訪問し又は電話をかけて、

金融商品取引契約の締結を勧誘してはなりません(法 38 条4号)。

政令では、店頭金融先物取引や個人を相手方とする店頭デリバティブ取引が不招請勧誘

の禁止の対象として規定されています(施行令 16条の4第1項)。また、当該禁止の潜脱を

防止する観点から、これらの取引の契約の締結を勧誘する目的があることをあらかじめ明

示しないで顧客を集めて契約締結を勧誘する行為は禁止されています(金商業等府令 117条

1項8号)。

ホ 顧客の勧誘受諾意思確認義務及び再勧誘の禁止

金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、金融商品取引契約で、当該金融商品

取引契約の内容その他の事情を勘案し、投資者の保護を図ることが必要なものとして政令

で定めるもの(市場デリバティブ取引(商品関連市場デリバティブ取引を含みます。)が定

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められています。施行令 16 条の4第2項)の締結につき、その勧誘に先立って、顧客に対

し、その勧誘を受ける意思の有無を確認せずに勧誘してはなりません(法 38条5号)。

また、金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、勧誘を受けた顧客が当該金融

商品取引契約を締結しない旨の意思(当該勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意

思を含みます。)を表示したにもかかわらず、当該勧誘を継続してはなりません(法 38条6

号)。

再勧誘の禁止は、不招請勧誘の禁止を課す必要性までは認められないものの、その商品性

や実態に照らして顧客の意思に反する勧誘については認めないとするものです。顧客の勧

誘受諾意思確認義務は、再勧誘の禁止の前提として位置付けられるものです。いずれの義務

についても、いわば適合性原則と不招請勧誘の禁止の中間に位置付けられるものであり、適

合性原則の遵守に問題があるようなものを対象とすることが適当であると考えられます。

これらの禁止の潜脱を防止する観点から、店頭デリバティブ取引の契約の締結を勧誘す

る目的があることをあらかじめ明示しないで顧客を集めて契約締結を勧誘する行為(金商

業等府令 117条1項8号)、及びデリバティブ取引について顧客があらかじめ契約締結をし

ない意思を表示したにもかかわらず、契約締結を勧誘する行為が禁止されています(金商業

等府令 117条1項9号)。

また、商品関連市場デリバティブ取引については、契約締結の勧誘に先立って自社と取引

関係にない個人である顧客を訪問したり電話をかけたりすることや、勧誘目的であること

を明示せずに個人である顧客を集めることが禁止されています(金商業等府令 117 条1項

8号の2)。この規定は、実質的な不招請勧誘禁止規制を個人顧客との関係で金融商品取引

業者等に課すものです。

そのほかにも説明義務の実質化を図るために、契約締結前交付書面、上場有価証券等書

面、目論見書等について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する

目的に照らして顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明をすることなく、

金融商品取引契約を締結する行為を禁止する規定が設けられています(金商業等府令 117条

1項1号)。

なお、2010(平成 22)年の改正により、個人向けの店頭デリバティブ取引全般について、

顧客の勧誘受諾意思確認義務及び再勧誘の禁止に係る規定の適用対象とされています。

ヘ 金融商品販売法上の説明義務

かつて、顧客に対し金融商品について十分な説明がなされなかった場合について特別の

規定は存在せずに、民法の不法行為責任のみが問題とされた時代がありました。

しかし、2001(平成 13)年4月1日から金融商品販売法が施行され、株式等の元本割れ

のリスクがある金融商品の投資勧誘に当たっては、その旨及びその原因となる重要事項に

ついて説明しなければならないとされ、これを怠ったときは損害賠償責任を負う旨が明文

で定められています(金融商品販売法3条~5条)。

説明義務は、投資者に対して取引客体の品質・価値に関する正しい情報を提供するこ

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とで、投資者の投資判断形成に正しい根拠を提供し、ひいてはそうした投資判断の集積

が公正な価格形成をもたらすところに本質的な意義があります。

金商法上の有価証券に関する限り、これを単なる民法上の信義則(民法1条2項)に

基づく責務と解すべきではなく、資本市場の担い手としての責務とみるべきでしょう。

なお、金融商品販売法の説明義務はリスクの説明を中心に組み立てられていますが、状況

に応じて商品性の仕組みやマーケットの性格に関する説明もなされなければならない場合

があることは当然です。

金商法の制定に伴い金融商品販売法も改正されましたが、それは主としてこうした観点

を明らかにするためのものといえます。

第一に、同法の説明義務の対象事項の拡充が図られています。具体的には、「取引の仕組

みのうちの重要な部分」が新たに対象事項に追加されました(金融商品販売法3条1項1号

~6号ハ)。また、「元本欠損が生ずるおそれ」がある場合とは別に「当初元本を上回る損失

が生ずるおそれ」がある場合についても対象事項とされました(金融商品販売法3条1項2

号・4号・6号)。さらに、適合性原則の考え方を取り込んだうえで説明義務を尽くしたか

どうかの解釈基準を設け、当該説明が、顧客の属性(顧客の知識・経験・財産の状況及び当

該金融商品の販売に係る契約を締結する目的)に照らして、当該顧客に理解されるために必

要な方法及び程度によるものでなければならないとされました(金融商品販売法3条2項)。

第二に、新たに断定的判断の提供等の禁止規定が設けられ(金融商品販売法4条)、その

違反については、直接責任かつ無過失責任である損害賠償責任(金融商品販売法5条)及び

損害額の推定規定(金融商品販売法6条1項)の対象とされました。

なお、特定投資家に対する場合、または重要事項について説明を要しない旨の顧客の意思

の表明があった場合は、金融商品販売法上の説明義務及び損害賠償責任の規定は適用され

ません。ただし、金融商品販売業者等が商品関連市場デリバティブ取引を扱う際の顧客に対

する説明義務については、たとえ重要事項について説明を要しない旨の顧客の意思の表明

があった場合でも、当該説明義務は適用除外されません(金融商品販売法3条7項)。

④ のみ行為の禁止

金融商品取引業者等は、商品関連市場デリバティブ取引等(商品関連市場デリバティブ取引

又はその委託の媒介、取次ぎ若しくは代理をいいます。)の委託を受けたときは、その委託に

係る商品関連市場デリバティブ取引等をしないで、自己がその相手方となって取引を成立さ

せてはなりません(法 40条の6)。

この規定は商先法 212 条によりのみ行為が禁止されていることと平仄を合わせるために導

入されたものであり、商品関連市場デリバティブ取引に特有の規律と位置付けることができ

ます。

⑤ 業務管理体制整備義務

金融商品取引業者等は、その行う金融商品取引業又は登録金融機関業務を適確に遂行する

ため、内閣府令で定めるところにより、業務管理体制を整備しなければなりません(法 35 条

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の3)。

内閣府令では、金融商品取引業者等全般に対して、その行う業務を適確に遂行するための社

内規則等を整備し、従業員に対する研修等を通じて当該社内規則等を遵守するための措置を

講じること、などを定めています(金商業等府令 70条の2第1項)。

また、2014(平成 26)年の改正に伴い、電子募集取扱業務を行う金融商品取引業者等に対

して有価証券の発行者やその事業計画を審査するための措置等を講じることを義務付けてい

ます(金商業等府令 70条の2第2項)。

さらに、金融商品取引業者等で、その親会社が外国会社であるもののうち金融庁長官が指定

する者については、金融庁長官が定めるところにより、親会社との間において業務の継続的な

実施を確保するための措置を講じることを義務付けています(金商業等府令 70条の2第5項)。

⑥ 受託契約準則の遵守義務

顧客の注文が、取引所金融商品市場で執行される場合には、取引所金融商品市場における有

価証券の売買等や市場デリバティブ取引の受託については、その所属する金融商品取引所の

定める受託契約準則によらなければならないとされます(法 133条1項)。

これに反する契約は認められず、また、準則を知らなくても拘束されます。受託契約準則は

単なる自主ルールではなく、市場の中枢に係る金商法を根拠とする公的なルールであり、準政

省令としての権威を有するものと解されます。これに違反した場合の契約の私法上の効力に

ついては、個々の規定が有する市場での地位に応じて検討されるべきです。

準則には、一.有価証券の売買等や市場デリバティブ取引の受託の条件、二.有価証券の売

買等や市場デリバティブ取引の受渡しその他の決済方法、三.有価証券の売買の受託について

の信用の供与に関する事項、四.前記一から三までのほか有価証券の売買等や市場デリバティ

ブ取引の受託に関し必要な事項、に関する細則が定められており、投資勧誘に当たってはその

内容を十分理解する必要があります。

⑦ 善管注意義務・分別管理等義務

金融商品取引業者等は、業務上種々の取引に伴い、顧客から有価証券や金銭の預託を受けま

す。この場合、金融商品取引業者等は、顧客に対し、善良な管理者の注意をもって有価証券等

管理業務を行わなければなりません(法 43条)。

有価証券については、確実かつ整然と管理する方法として法令で定められた方法により、自

己の固有財産と分別して管理されていますが、信用取引や貸借取引に係る委託保証金、貸借担

保金、先物・オプション取引に係る委託証拠金、取引証拠金等顧客の資産と金融商品取引業者

等の資産が混合され管理されているものについては、金融商品取引業者等が破綻した場合、顧

客の権利保全上の問題が生じます。

顧客資産の分別管理は、顧客の投資判断の裏付けである資金ないし有価証券を投資判断に

対応する形で管理すべき責務であり、資本市場における公正な価格形成に参加し得るに足り

る投資判断の実質を確保すべき金融商品取引業者の責務です。単に金融商品取引業者等の破

綻時対応のための責務としてのみ把握されるべきではありません。分別管理が徹底されてい

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れば、金融商品取引業者等の破綻の弊害は資本市場の機能に影響を及ぼさないはずです。

以上より、金融商品取引業者等は、顧客資産が適切かつ円滑に返還されるよう、顧客から預

託を受けた有価証券及び金銭を自己の固有財産と分別して管理しなければならず(法 43 条の

2第1項・2項)、また、金融商品取引業等を廃止した場合等に顧客に返還すべき金銭を顧客

分別金として、信託会社等に信託しなければなりません(同条2項)。さらに、金融商品取引

業者は、分別管理の状況について、定期的に公認会計士又は監査法人の監査を受けなければな

らないとされています(同条3項)。

2012(平成 24)年の改正により、商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等に係る取引及び

その付随的取引に関して顧客から預託を受けた財産及び顧客の計算に属する財産についても、

区分管理義務が課されることとなりました(法 43 条の2の2)。区分管理においては、公認会

計士又は監査法人の監査を受ける義務は課されていません。

なお、2012(平成 24)年の改正(総合取引所関係)の施行日(2014(平成 26)年3月 11日)

に商先法上の委託者保護基金の会員であった商品先物取引業者が商品関連市場デリバティブ

取引に係る業務を取り扱うために第一種金融商品取引業の登録又は変更登録を受け、かつ当

該業務に係る顧客資産について委託者保護基金による補償対象とすることについて当該基金

に申し出た場合には、区分管理の方法として、信託会社等への信託のほか、委託者保護基金へ

の分離預託などの方法によることが認められています(金商業等府令(2014(平成 26)年3

月 11 日施行)附則2条)。

⑧ 担保(貸付)同意書の徴求

金融商品取引業者等は、顧客の計算において自己が占有する有価証券又は顧客から預託を

受けた有価証券を担保に供する場合又は他人に貸し付ける場合には、内閣府令で定めるとこ

ろにより、当該顧客から書面による同意を得なければなりません(法 43条の4第1項、金商

業等府令 146条)。

また、金融商品取引業者等は、商品関連市場デリバティブ取引に係る業務に関して、顧客の

計算において自己が占有する商品等又は顧客から預託を受けた商品等を担保に供する場合又

は他人に貸し付ける場合、書面による同意を得なければなりません(法 43条の4第2項)。

書面による同意は所定の電子的方法で行うことができます(法 43条の4第3項、34 条の2

第 12 項)。

⑨ 損失補塡等の禁止

金融商品取引業者等は、顧客から受託した有価証券の売買取引等について次の行為を行い、

又は第三者を通じて行わせてはなりません。

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一 損失保証・利回り保証(法 39条1項1号)

有価証券の売買その他の取引等について、顧客に損失が生ずることとなり、又はあ

らかじめ定めた額の利益が生じないこととなった場合にはこれを補塡し、又は補足す

るため財産上の利益を提供する旨を、当該顧客等に対し、あらかじめ申し込み、又は

約束する行為

二 損失補塡の申込み・約束(法 39条1項2号)

有価証券の売買その他の取引等について、既に生じた顧客の損失を補塡し、又は利

益を追加するため財産上の利益を提供する旨を、当該顧客等に対し、申し込み、又は

約束する行為

三 損失補塡の実行(法 39条1項3号)

有価証券の売買その他の取引等について生じた顧客の損失を補塡し、又は利益を追

加するため、当該顧客等に対し、財産上の利益を提供する行為

事前の損失保証・利回り保証は、保証があるために生じた安易な投資判断が、有価証券

の真実価値を巡る真摯な投資判断の集積によって達成されるべき公正な価格形成を阻害

するために禁止されています。

事後の損失補塡の約束及び損失補塡の行為は、事後の行為であるため価格形成自体を阻

害するわけではありませんが、資本市場の担い手である金融商品取引業者等が自ら、市場

が出した結論どおりに投資家を扱わない点で、市場の担い手としての責務に背き、公正な

価格形成に対する投資家の信頼を損なう行為として禁止されています。

また、顧客である投資者は金融商品取引業者等に対して損失補塡又は利益を補足するため

財産上の利益を提供させる行為を要求して約束をさせた場合は処罰の対象となります(法 39

条2項)。事後の補塡でありながら利益を追加することは通常あり得ず、大抵の場合は事前の

保証の実行行為として認定されるべきと考えられます。

前記一から三までの場合については、その補塡が事故に起因するものであることについて、

金融商品取引業者等があらかじめ内閣総理大臣から確認を受けている場合やその他内閣府令

で定めている場合には単なる事故処理として扱われ、法 39 条1項の規定は適用されず、損失

補塡に該当しません(法 39 条3項)。内閣総理大臣の確認を受けようとする場合には、一定の

事項を記載した申請書と当該事実を証明するために必要な書類を内閣総理大臣に提出しなけ

ればなりません(法 39条7項)。

ここで、事故とは、①「有価証券売買取引等につき、金融商品取引業者等の代表者、代理人、

使用人その他の従業者が、当該金融商品取引業者等の業務に関し、次に掲げる行為を行うこと

により顧客に損失を及ぼしたもの」及び②「投資助言業務又は投資運用業に関し、次に掲げる

行為を行うことにより顧客又は権利者に損失を及ぼしたもの」をいいます(金商業等府令 118

条)。ただし、単なる事故の域を超えた不公正取引の場合に、その違法性までもが確認によっ

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て阻却されるわけではありません。この点で、内閣総理大臣による事故確認は、裁判所の判断

を拘束するものではありません。

①については、次に掲げる行為が該当します。

イ 顧客の注文内容について確認しないで、当該顧客の計算により有価証券売買取引等

を行うこと

ロ 次の aから cまでに掲げるものについて顧客を誤認させるような勧誘をすること

a 有価証券等の性質

b 取引の条件

c 金融商品の価格若しくはオプションの対価の額の騰貴若しくは下落等

ハ 顧客の注文の執行において、過失により事務処理を誤ること

ニ 電子情報処理組織の異常により、顧客の注文の執行を誤ること

ホ その他法令に違反する行為を行うこと

また、②については、次に掲げる行為が該当します。

イ 過失又は電子情報処理組織の異常により事務処理を誤ること

ロ 任務を怠ること

ハ その他法令又は投資顧問契約若しくは運用権限の委託に関する契約その他の法律

行為に違反する行為を行うこと

さらに、事故の確認が不要な場合として、裁判所の確定判決を得ている場合や、裁判上の和

解が成立している場合、金融商品取引業協会又は認定投資者保護団体のあっせんによる和解

が成立している場合、指定紛争解決機関の紛争解決手続による和解が成立している場合等が

列挙されています(金商業等府令 119条、277 条)。

⑩ 指定紛争解決機関との契約締結義務等

金融商品取引業者等は、指定紛争解決機関との契約締結等、紛争解決のための措置を講じな

ければなりません(法 37条の7)。金融商品・サービスは多様化・複雑化しており、金融機関

と利用者の情報・知識及びトラブル解決能力、などの格差を踏まえ、苦情処理・紛争解決の実

効性を図る必要があります。そこで、金融商品取引業者等は次のような措置を講じなければな

らないとされています。

第一に、指定紛争解決機関が設立・指定されている場合には、金融商品取引業者等は指定紛

争解決機関の利用が義務付けられています。業態内で複数の指定紛争解決機関が存在する場

合、金融商品取引業者等は少なくともいずれか一つの指定紛争解決機関と手続実施基本契約

を締結することとし、また、金融商品取引業者等は、手続実施基本契約の相手方である指定紛

争解決機関の商号又は名称を公表することとされています(法 37 条の7第2項)。

第二に、指定紛争解決機関が設立・指定されない場合においても、金融トラブルに対する利

用者保護を図るため、個別金融機関に対して苦情処理・紛争解決のための一定の対応が求めら

れています(法 37 条の7、金商業等府令 115条の2)。

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⑪ 投資者保護基金への加入義務等

イ 基本的な考え方

金融商品取引業者は、金融商品市場機能の担い手としての重責を果たしています。金融商

品取引業者が破綻すると、金融商品市場と投資家の投資判断とのつながりが切断され、市場

機能が著しく阻害されてしまいます。また、投資判断とは関わりのない予期せぬ損害を投資

家に与えることとなってしまいます。そもそも、金商法は、そのような事態を避けるために、

金融商品取引業者に顧客資産の分別管理義務を課しています。

ところが、金融商品取引業者がこの義務を怠る等の理由によって、破綻時にこのような事

態(市場機能の阻害や投資家を害すること等)が生じる可能性があります。そこで、こうし

た場合に投資者を救済し、かつ、市場機能の連続性を維持するため、金商法は投資者保護基

金の制度を設けており(法 79 条の 21)、第一種金融商品取引業者はいずれか一つの基金に

加入する義務を負います。

投資者保護基金による救済の類型には、主に、①一般顧客への支払、②金融商品取引業者

に対する融資の二つがあります(法 79条の 49 第1項1号・2号)。①は、破綻業者に代わ

って、損害を受けた一般顧客へと支払をするものであり、②は、破綻業者が自身で顧客へと

速やかに顧客資産を返還できるよう、基金が破綻業者へ貸付けをするものです。

ロ 商品関連市場デリバティブ取引への対応

2012(平成 24)年の改正(総合取引所関係)では、投資者保護基金の目的及び業務範囲

(一般顧客及び顧客資産の範囲)を商品関連市場デリバティブ取引やその付随的な取引に

関するものに拡充するとともに、投資者保護基金が有価証券関連業に関する業務又は商品

関連市場デリバティブ取引に関する業務のいずれかに業務範囲を限定する旨を定款で定め

ることができるよう規定が整備されました。なお、商先法上の委託者保護基金は、同改正の

施行日(2014(平成 26)年3月 11日)に同基金の会員であった商品先物取引業者が商品関

連市場デリバティブ取引に係る業務を取り扱うために第一種金融商品取引業の登録又は変

更登録を受け、かつ当該業務に係る顧客資産について委託者保護基金による補償対象とす

ることについて当該基金に申し出た場合には、金商法上のみなし投資者保護基金として、商

品関連市場デリバティブ取引に係る顧客資産を補償対象とすることができるとされていま

す(金商法附則4条)。

ハ 補償対象債権

基金が補償をする対象債権は、破綻業者の一般顧客(適格機関投資家、国・地方公共団体

等、投資者保護基金、日本銀行、認定金融商品取引業者及び親法人等の役員、他人名義・仮

設人名義で顧客資産を有する一般顧客等を除きます。法 79 条の 20)が、当該金融商品取引

業者に対して有する債権であり、これには、①先物取引の証拠金、信用取引の保証金として

金融商品取引業者が預託を受けた金銭及び有価証券、②金融商品取引業に係る取引に関し、

一般顧客の計算に属する金銭又は有価証券、あるいは金融商品取引業者が一般顧客から預

託を受けた金銭又は有価証券(店頭デリバティブ取引等に係る取引を除きます。)、③保護預

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りの対象たる金銭又は有価証券(ただし、例外あり。施行令 18条の7)が含まれます(法

79 条の 20第3項、79 条の 56、施行令 18条の 11)。

なお、補償対象債権には、不法行為に基づく損害賠償請求権は含まれません。

基金が一般顧客へと支払をする金額は、前記の債権の額を元に算出した一定の金額(法

79 条の 56、79条の 57)となり、支払最高限度額(一顧客当たり 1,000万円まで)があるこ

とに注意を要します(施行令 18 条の 12)。

⑫ 特定投資家制度

イ 基本的な考え方

かつての証取法に基づく業者の行為規制は、規定のうえでは投資家の属性にかかわりな

く一律に適用されるものとされてきました。しかし、投資家のなかにはその知識・経験・財

産の状況等から行為規制の適用が必要でなく、かつ、行為規制の適用を望んでいない者も存

在します。

そこで、金商法では、投資家を特定投資家(いわゆるプロ)と一般投資家(いわゆるアマ)

に区分し、この区分に応じて金融商品取引業者等の行為規制の適用に差異を設けることに

より、規制の柔軟化を図ることとしています。

このような区分により、自力で投資判断を形成できる者に対して無用な規制を及ぼすこ

となく、かつ、必要な規制を確実に確保することが可能になり、規制の効率性が達成される

ことが期待されています。

ただし、プロ投資者に対する規制の緩和について、「投資者保護の必要がないために法的

な干渉をする必要がない」と理解されるべきではなく、プロ投資者のみにより市場が形成さ

れる場合には、特に公正な価格形成に対する責任が強調されます。規制無しでよい状況と理

解されてはなりません。

具体的には、その知識・経験・財産の状況から金融商品取引に係る適切なリスク管理を行

うことが考えられる者を「特定投資家」と位置付けたうえで、業者が特定投資家との間で取

引を行う場合には、契約締結前の書面交付義務等、情報格差の是正を目的とする行為規制は

適用除外とされます。ただし、損失補塡の禁止等、市場の公正性確保を目的とする行為規制

は、適用除外とはなりません。

もっとも、情報格差の是正を目的とする行為規制が適用除外とされるといっても、それは

あくまで不特定多数の投資家向けの説明義務が適用除外とされると解すべきであり、金融

商品取引業者として金融商品を市場に持ち込む者に対し普遍的に課せられる説明義務が免

除されるわけではありません。たとえプロが相手である場合であっても、必要な説明をしな

ければ少なくとも不公正取引又は詐欺に該当することとなります。相(あい)対(たい)の説

明義務が常に不要とされるわけではないことに注意を要します。

金商法は、特定投資家として、①適格機関投資家、②国、③日本銀行、④投資者保護基金

その他の内閣府令で定める法人、を挙げています(法2条 31項)。

ロ 特定投資家と一般投資家の区分

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金商法において、特定投資家と一般投資家は、①一般投資家に移行できない特定投資家、

②選択により一般投資家に移行可能な特定投資家、③選択により特定投資家に移行可能な

一般投資家、④特定投資家に移行できない一般投資家、の四つに分類されています。

(イ)一般投資家に移行できない特定投資家

適格機関投資家、国、及び日本銀行が一般投資家に移行できない特定投資家に該当しま

す。適格機関投資家としては、銀行、金融商品取引業者、保険会社、信用金庫等が挙げられ

ています(定義府令 10条)。

金商法の制定により、適格機関投資家の範囲が拡大されました。そして、適格機関投資家

の要件として、会社については有価証券報告書提出の要件が撤廃され、有価証券残高基準も

100億円から 10 億円に引き下げられました。また、有価証券残高 10億円以上のその他の法

人、有価証券残高 10億円以上で金融商品取引業者等に口座を開設してから1年を経過して

いる個人、契約に係る有価証券残高が 10億円以上ですべての組合員等の同意を得ている業

務執行組合員等である法人・個人等が新たに適格機関投資家として規定されています。これ

らはいずれも内閣総理大臣への届出制とされています。また、適格機関投資家に係る届出の

有効期間は2年間とされています。

(ロ)選択により一般投資家に移行可能な特定投資家

特定投資家のうち、投資者保護基金その他内閣府令で定める法人については、金融商品取

引業者等に対して自己を特定投資家以外の顧客(一般投資家)として取り扱うよう申し出た

うえで、所要の手続を経た場合には、一般投資家とみなされることが可能となっています

(法 34条の2)。政府系機関、投資者保護基金、預金保険機構、保険契約者保護機構、外国

法人、上場会社、資本金5億円以上と見込まれる株式会社等が選択により一般投資家に移行

可能な特定投資家とされています(定義府令 23条)。

なお、2010(平成 22)年の改正により、地方公共団体は、「選択により一般投資家に移行

可能な特定投資家」から「選択により特定投資家に移行可能な一般投資家」へと分類が変更

されました。また、2013(平成 25)年の改正により、厚生年金基金が特定投資家になるた

めの要件が限定され、運用体制が整備された厚生年金基金のみが特定投資家になれること

とされました。

(ハ)選択により特定投資家に移行可能な一般投資家

特定投資家以外の法人(法 34 条の3第1項)及び知識・経験・財務の状況に照らして特

定投資家に相当する者として一定の要件を満たす個人等(法 34条の4第1項)については、

本人が金融商品取引業者等に対して自己を特定投資家として取り扱うよう申し出たうえで、

所要の厳格な手続を経た場合には、業者の側でこれらの者を特定投資家として取り扱うこ

とができることとされています。

個人で特定投資家に移行するための要件は、次のように定められています。匿名組合の営

業者である個人、及び民法組合の業務執行組合員である個人及び有限責任事業組合の組合

員(重要な業務執行の決定に関与し、かつ、当該業務を自ら執行する組合員に限ります。)

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である個人については、①特定投資家への移行についてすべての組合員の同意を得ている

こと、かつ、②組合契約に係る出資の合計額が3億円以上であること、が要件とされていま

す(金商業等府令 61条2項)。

それ以外の個人については、次の三つの要件を満たさなければなりません(金商業等府令

62 条)。

㋑ 取引の状況その他の事情から合理的に判断して、承諾日における申出者の純資産額が

3億円以上になると見込まれること

㋺ 取引の状況その他の事情から合理的に判断して、承諾日における申出者の投資性のあ

る金融資産の合計額が3億円以上になると見込まれること

㋩ 申出者が当該金融商品取引業者等と最初に申出に係る契約の種類に属する金融商品取

引契約を締結してから1年を経過していること

(ニ)特定投資家に移行できない一般投資家

前記の(イ)から(ハ)までのいずれにも該当しない個人は、特定投資家に移行できない

一般投資家に分類されます。

ハ 特定投資家が相手方になる場合における具体的な行為規制の適用関係

特定投資家は、その知識・経験・財産の状況から金融商品取引に係る適切なリスク管理を

行うことが可能と考えられる者であることから、取引相手が特定投資家である場合、金融商

品取引業者等に適用される行為規制のうち、損失補塡禁止等の市場の公正確保を目的とす

る規定を除き、業者と顧客との間の情報格差の是正を目的とする行為規制の適用を除外す

ることとし、規制の柔軟化が図られています(法 45条)。

具体的には、次の行為規制が適用除外とされます。

ⅰ)金融商品取引業者等が行う金融商品取引契約の締結の勧誘の相手方が特定投資家

である場合には、広告等の規制(法 37条)、不招請勧誘の禁止(法 38条4号)、勧誘

受諾意思の確認義務(法 38条5号)、再勧誘の禁止(法 38条6号)、及び適合性原則

(法 40条1号)

ⅱ)金融商品取引業者等が申込みを受け、又は締結した金融商品取引契約の相手方が

特定投資家である場合には、取引態様の事前明示義務(法 37条の2)、契約締結前の

書面交付義務(法 37条の3)、契約締結時等の書面交付義務(法 37条の4)、保証金

の受領に係る書面交付義務(法 37条の5)、書面による解除(法 37条の6)、最良執

行方針等記載書面の事前交付義務(法 40条の2第4項)、及び顧客の有価証券を担保

に供する行為等の制限(法 43条の4)

ⅲ)金融商品取引業者等が締結した投資顧問契約の相手方が特定投資家である場合に

は、金銭・有価証券の預託の受入れ等の禁止(法 41 条の4)及び金銭・有価証券の

貸付け等の禁止(法 41条の5)

ⅳ)金融商品取引業者等が締結した投資一任契約の相手方が特定投資家である場合に

は、金銭・有価証券の預託の受入れ等の禁止(法 42条の5)、金銭・有価証券の貸付け

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等の禁止(法 42条の6)及び運用報告書の交付義務(法 42条の7)

ただし、公益又は投資者保護のため支障を生ずるおそれがあるとして内閣府令で定める

場合は、次に述べるように、適用除外とはなりません(法 45条ただし書)。

例えば、契約締結時等の書面交付義務(法 37条の4)及び運用報告書の交付義務(法 42

条の7)については、顧客からの個別取引に関する照会に対して速やかに回答できる体制が

整備されていない場合には、適用除外とはなりません(法 45条ただし書、金商業等府令 156

条)。

なお、特定投資家に取引の勧誘を行う場合には適合性原則(法 40条1号)の適用は除外

されますが、一般投資家が「選択による特定投資家への移行」を行おうとする場合において

は、適合性原則が適用されます。例えば、その知識・経験・財産の状況及び目的に照らして

特定投資家としてふさわしくない顧客に対して選択による特定投資家への移行を勧誘する

ような場合は、同原則に違反することとなります。

他方、市場の公正確保を目的とする行為規制や受託者責任に係る基本的な義務について

は、金融商品取引業者等の取引相手が一般投資家か特定投資家であるかを問わず、一律に適

用されます。具体的には、以下の行為規制が適用されます。

ⅰ)すべての業務に関するものとして、顧客に対する誠実・公正義務(法 36条)、標識

の掲示(法 36条の2)、名義貸しの禁止(法 36条の3)、及び社債の管理の禁止等(法

36条の4)

ⅱ)販売・勧誘等に関するものとして、虚偽告知の禁止(法 38条1号)、断定的判断の

提供等の禁止(法 38条2号)、損失補塡等の禁止(法 39条)、顧客情報の適正な取扱

い(法 40条2号)及び分別管理が確保されていない場合の売買等の禁止(法 40条の

3)、金銭の流用が行われている場合の募集等の禁止(法 40条の3の2)

ⅲ)投資助言業務に関するものとして、顧客に対する忠実義務(法 41 条1項)、善管

注意義務(法 41条2項)、禁止行為(法 41条の2)及び有価証券の売買等の禁止(法

41条の3)

ⅳ)投資運用業に関するものとして、顧客に対する忠実義務(法 42 条1項)、善管注

意義務(法 42条2項)、禁止行為(法 42条の2)、運用権限の委託(法 42条の3)及

び分別管理(法 42条の4)

ニ 特定投資家が一般投資家としての取扱いを受けるための手続

特定投資家が「選択による一般投資家への移行」をしようとする場合には、まず、当該特

定投資家は、取引の相手方となる金融商品取引業者等に対して、契約の種類ごとに、自己を

一般投資家として取り扱うよう申し出ることとなります(法 34条の2第1項)。また、金融

商品取引業者等は、当該金融商品取引契約と同じ種類のものを過去に当該特定投資家との

間で締結したことがない場合には、当該特定投資家に対し、申出ができることを事前に告知

しなければなりません(法 34 条)。

契約の種類としては、①有価証券の取引等を行う契約、②デリバティブ取引等を行う契

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約、③投資顧問契約及びその締結の代理・媒介を行う契約、④投資一任契約及びその締結の

代理・媒介を行う契約の4種類とされています(金商業等府令 53 条)。

申出を受けた金融商品取引業者等は、原則として、申出のあった契約の種類に属する金融

商品取引契約の締結の勧誘又は締結のいずれかを行うまでに、当該申出を承諾しなければ

なりません(法 34 条の2第2項)。金融商品取引業者等は、当該申出を承諾する場合には、

申出者に対して、承諾日、契約の種類等の所要の事項を記載した書面を交付しなければなり

ません(同条3項・4項、金商業等府令 55条)。

特定投資家が一般投資家へ移行した場合、その効果は顧客が特定投資家への復帰を申し

出るまで有効とされています。また、顧客が特定投資家へ復帰する場合、そのことを明確に

認識することができるよう、金融商品取引業者等は顧客から書面による同意を得なければ

なりません(法 34 条の2第 11 項、金商業等府令 57 条の2)。この同意は電磁的方法によ

り取得することが可能です(法 34条の2第 12項、金商業等府令 57条の3)。

ホ 一般投資家が特定投資家としての取扱いを受けるための手続

一般投資家が「選択による特定投資家への移行」をしようとする場合には、まず、当該一

般投資家は、取引の相手方となる金融商品取引業者等に対して、契約の種類ごとに、自己を

特定投資家として取り扱うよう申し出ることとなります(法 34 条の3第1項、34 条の4第

1項)。

個人投資家が「選択による特定投資家への移行」を申し出た場合には、申出を受けた金融

商品取引業者等は、特定投資家に対する行為規制の適用に関する特例の内容や当該移行に

伴うリスク(その知識・経験・財産の状況に照らして適当ではない者が特定投資家となると、

保護に欠けることとなるおそれがある旨)を記載した書面を交付しなければなりません。ま

た、当該申出者が「選択により特定投資家に移行可能な一般投資家」の要件に該当している

ことを確認しなければなりません(法 34条の4第2項・3項)。

金融商品取引業者等は、一般投資家からの申出を承諾する場合には、あらかじめ、承諾日、

期限日、契約の種類のほか、特定投資家に対する行為規制の適用に関する特例の内容や当該

移行に伴うリスク(その知識・経験・財産の状況に照らして適当でない者が特定投資家とな

ると保護に欠けるおそれがある旨)を理解していること等を記載した書面により、当該申出

者の同意を得なければなりません(法 34条の3第2項、34条の4第4項、金商業等府令 59

条)。2009(平成 21)年の改正により、「申出者は、承諾日以後いつでも、法 34 条の3第9

項の規定による申出ができる旨」が、書面の記載事項として追加されました(金商業等府令

59 条2項5号)。

一般投資家から特定投資家への移行の効果は1年とされていますが、1年が経過する以

前であっても、申出を行うことにより一般投資家へ戻ることが可能です(法 34条の3第9

項、34条の4第4項)。また、特定投資家への移行の効果が切れる以前においても特定投資

家としての地位を更新することは可能ですが、投資家保護の観点から、期限日前の一定の期

間内(期限日の1か月前以降とされています。)でなければ更新の申出をすることはできま

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せん(法 34 条の3第7項、34条の4第6項、金商業等府令 60条、64条の2)。

(3) 業態・業務状況に係る行為規制

① 名義貸しの禁止

金融商品取引業者等は、自己の名義をもって他人に金融商品取引業を行わせてはなりませ

ん(法 36条の3)。

名義貸しを禁止する理由は、登録を受けられない者が登録を得た者から名義を借りて金

融商品取引業を行うことを防止するためです。

② 回転売買等の禁止

金融商品取引業者等は、あらかじめ顧客の注文の内容を確認することなく、頻繁に当該顧客

の計算において有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等(有価証券等清算取次

ぎを除きます。)をしてはなりません(法 40 条2号、金商業等府令 123条1項1号)。

金融商品取引業者等は、顧客から有価証券の売買等の注文を受けてこれを執行しています

が、電話や口頭での受注は、後日、顧客の意思に基づくものであったかどうか、顧客との間で

トラブルになることがあります。特に、顧客の意向を考慮しないで回転売買等が行われること

になれば、投資者保護の目的に背き、市場の公正を損なうことになりかねません。そこで、あ

らかじめ顧客の注文の内容を確認することなく頻繁に売買等を行うことは禁じられています。

③ 金融機関との誤認防止

金融商品取引業者が本店その他の営業所又は事務所を、金融機関の本店その他の営業所・事

務所・代理店と同一の建物に設置してその業務を行う場合には、顧客がその金融商品取引業者

をその金融機関と誤認しないようにするために適切な措置を講じなければなりません(法 40

条2号、金商業等府令 123条1項 22号)。

(4) 投資勧誘・受託に関する行為規制

① 一括受注の制限

金融商品取引業者等は、不特定かつ多数の投資者を勧誘して有価証券の売買又はデリバテ

ィブ取引についての委任を受けている者(法令に準拠して金融商品取引行為を行う者を除き

ます。)から、当該投資者の計算において行う取引であることを知りながら、あらかじめ当該

投資者の意思を確認することなく有価証券の売買又はデリバティブ取引の受託等をしてはな

りません(法 40条2号、金商業等府令 123条1項2号)。

不特定多数の投資者から委任を受けて一括して売買等の発注を行う投資顧問業者ないし投

資グループからの注文は、当該投資者の意思が反映されているものであったかどうか、後日問

題となる事例があります。そこで、金融商品取引業者等は、これら投資グループ等からの受注

に当たっては、あらかじめ当該投資者の意思を確認しなければならないこととされています。

② 断定的判断の提供による勧誘の禁止

価格等は様々な要因によって変動するものですから、将来の動きを正確に予測することは

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不可能です。このため、金融商品取引業者等が「この銘柄はいくらまで上がるから買いなさい」

とか、「この銘柄は絶対下がるから今売りなさい」といった顧客に強い期待を抱かせるような

断定的判断の提供による勧誘は禁止されています(法 38 条2号)。

このような行為により、市場の価格形成がゆがめられ、その言葉を信用した顧客は不測

の損害を被るおそれがあります。こうした勧誘が結果的に的中したとしても、違法性がな

くなるものではありません。投資判断の形成をゆがめることが問題なのです。

さらに、断定的判断の提供には、騰貴し又は下落する価格又は価格帯、その時期を具体

的に指示すること、あるいは「必ず」とか「きっと」といった言葉を使わなくても断定的

判断の提供となり得る場合があることに注意する必要があります。

また、断定的判断を提供した業者は、金融商品販売法に基づいて、それによって顧客が被っ

た損害を賠償する責任を負うこととされています(金融商品販売法4条、5条)。この場合に

も、元本欠損額は顧客の被った損害と推定され、業者の責任は無過失責任とされています。

③ 虚偽の告知等の禁止

イ 虚偽告知の禁止

金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、金融商品取引契約の締結又はその

勧誘に関して、顧客に対し虚偽のことを告げる行為を禁じられています(法 38条1号)。

ロ 虚偽の表示の禁止

金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、金融商品取引契約の締結又はその

勧誘に関して、虚偽の表示をし、又は重要な事項について誤解を生ぜしめるような表示を行

ってはなりません(法 38条9号、金商業等府令 117条1項2号)。

これは、「勧誘」行為がなくても適用されます。表示には、口頭、文書、図画、放送、映

画等が含まれます。「誤解を生ぜしめる表示」とは、積極的に誤解を生じさせるような表

現だけでなく、特に必要な表示を欠く不作為も含まれます。

また、本条は表示行為自体を禁止しているので、故意・過失の有無は問いません。

④ 特別の利益の提供等禁止

金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、金融商品取引契約につき、顧客若しく

はその指定した者に対し、特別の利益の提供を約し、又は顧客若しくは第三者に対し特別の利

益を提供してはなりません(法 38条9号、金商業等府令 117 条1項3号)。

提供を約する利益は特別のものに限られるため、社会通念上サービスと考えられるもの

は含まれません。したがって、公開株を優先的に割り当てるとか、不当に安い価格で有価

証券を売るというような特約をすることが、これに当たると考えられます。

このような行為が禁止されるのは、こうした利益提供によって動機付けられた投資判断

は投資客体の品質・価値とかかわらない投資判断として資本市場における公正な価格形成

を阻害することになるからです。

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⑤ 大量推奨販売の禁止

金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、特定かつ少数の銘柄の有価証券又は

デリバティブ取引について、不特定かつ多数の顧客に対し、買付け若しくは売付け又はその委

託等を一定期間継続して一斉にかつ過度に勧誘する行為で、公正な価格形成を損なうおそれ

があるものを行ってはなりません(法 38条9号、金商業等府令 117 条1項 17号)。

顧客に対してある銘柄の重点的な買付けを勧めることは、金融商品取引業者等の営業政

策により株価が左右されるおそれがあり、また、それに付随して株価操縦が行われたり、

顧客の資力を無視した無理な勧誘が行われたりするおそれが強いからです。

特に、その銘柄が現にその金融商品取引業者等が保有している有価証券である場合

は、推奨販売行為は厳しく禁じられています。

こうした行為は、そのまま相場操縦に該当する可能性もあります。

⑥ 自己又は他の顧客の利益を図るための過度の勧誘の禁止

金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、顧客の取引に基づく価格、指標、数値

又は対価の額の変動を利用して自己又は当該顧客以外の第三者の利益を図ることを目的とし

て、不特定かつ多数の顧客に対し、有価証券の買付け若しくは売付け若しくはデリバティブ取

引又はこれらの委託等を一定期間継続して一斉にかつ過度に勧誘してはなりません(法 38条

9号、金商業等府令 117条1項 18号)。

金融商品仲介業務の委託を行う登録金融機関又は金融商品仲介業者に勧誘させる行為も、

これに含まれます。

⑦ 商品関連市場デリバティブ取引に係るその他の行為規制

金融商品取引業者等は、商品関連市場デリバティブ取引に関して次のような行為を行って

はなりません。

イ 商品関連市場デリバティブ取引の受託等につき、顧客(特定投資家を除きます。)に対

し、当該顧客が行う商品関連市場デリバティブ取引の売付け又は買付けその他これに準

ずる取引とこれらの取引と対当する取引(これらの取引から生じ得る損失を減少させる

取引をいいます。)の数量及び期限を同一とすることを勧める行為(両建て勧誘の禁止)

(金商業等府令 117条1項 35 号)。

ロ 商品関連市場デリバティブ取引の売付け又は買付けその他これに準ずる取引と対当す

る取引(これらの取引から生じ得る損失を減少させる取引をいいます。)であってこれら

の取引と数量又は期限を同一にしないものについて、その取引を理解していない顧客(特

定投資家を除きます。)から受託等をする行為(両建てに類する取引の受託の禁止)(金商

業等府令 117条1項 36号)。

ハ 商品関連市場デリバティブ取引の委託等を受け、故意に、当該委託等に係る取引と自己

の計算による取引を対当させて、顧客の利益を害することとなる取引をする行為(向かい

玉の禁止)(金商業等府令 117 条1項 37 号)。

ニ 顧客から商品関連市場デリバティブ取引の委託等を受けようとする場合において、金

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融商品取引業者等が当該委託等に係る商品又は商品に係る金融指標及び期限が同一であ

るものの取引について、故意に、顧客の取引と自己の計算による取引とを対当させる取引

(以下 a.及び b.において「特定取引」といいます。)を行っているにもかかわらず、当該

委託等に係る顧客に対し、あらかじめ、次に掲げる事項を説明しないで、受託等をする行

為(差玉向かいの説明義務)(金商業等府令 117条1項 38 号)。

a. 特定取引を行っている旨

b. 特定取引によって当該委託等に係る取引と当該金融商品取引業者等の自己の計算に

よる取引が対当した場合には、当該委託等に係る顧客と当該金融商品取引業者等との

利益が相反するおそれがある旨

これらの行為は金融商品取引業者等と顧客の利害が相反し、顧客に甚大な損害が生ずる

可能性があることから、商先法による規制と同様に禁止されています。

⑧ 無登録者等からの高速取引行為の受託の禁止

金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、高速取引行為者以外の者が行う高速

取引行為に係る有価証券の売買又は市場デリバティブ取引の委託を受ける行為その他これに

準ずるものとして内閣府令で定める行為を行ってはなりません(法 38 条8号、60 条の 13、施

行令 16条の4の2)。

2017(平成 29)年法改正により高速取引行為者に対する規制が導入されましたが、高速取

引行為を行う者が外国法人又は外国に住所を有する個人である場合も想定されることから、

これらの者に対する規制の実効性を確保するために、このような規定が導入されました。

内閣府令では、高速取引行為に係る業務の停止の命令を受けている高速取引行為者及び高

速取引行為に係る電子情報処理組織その他の設備の管理を十分に行うための措置を適正に講

じていることを確認することができない高速取引行為者が行う当該高速取引行為等の受託が

禁止されています(金商業等府令 116条の4、230条の3)。

(5) 市場価格歪曲に係る市場阻害行為

① フロントランニングの禁止

顧客から有価証券の買付け(又は売付け)や市場デリバティブ取引の委託等を受けて、当該

委託等に係る売買等を成立させる前に自己の計算においてその有価証券と同一の銘柄の売買

等を成立させることを目的として、当該顧客の委託等に係る価格と同一又はそれよりも有利

な価格(買付けについては当該価格より低い価格[売付けについては高い価格])で買付け(又

は売付け)等をする行為は、売買注文情報の不当利用行為であり、顧客の注文の執行コストを

高くする行為として顧客に対する誠実義務に反するとして禁じられています(法 38 条9号、

金商業等府令 117条1項 10 号)。

フロントランニングは顧客注文をより高値で実行することになるため、顧客に対する誠

実義務に違反する行為です。しかし、誠実義務違反を顧客が個々に立証することは困難で

す。そこで、フロントランニングという外形的事実自体を違法としています。

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また、この行為は顧客の売買注文を競争市場において確実に執行すべき金融商品取引業

者等の責務に反する行為であるという角度から評価することも可能です。顧客注文を自ら

が歪曲した市場で執行することは許されません。

さらに、この行為を顧客の大口注文を利用したインサイダー取引類似の行為が市場の価

格形成を損なうものとみることも可能です。

② 無断売買の禁止

金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、あらかじめ顧客の同意を得ることな

く、当該顧客の計算により有価証券等の売買等をしてはなりません(法 38条9号、金商業等

府令 117 条1項 11 号)。

そもそも、顧客の注文がないのに金融商品取引業者等が当該顧客の計算により売買を行

うことは、金商法を待つまでもなく私法上無断売買として無効であり、金商法上は架空の

投資判断を資本市場につなぐ行為として本質的に違法行為とされます。

また、顧客との間に、継続的な取引関係がある場合でも、顧客の意思を確認することな

く売買を行うことは、後日、真の委託があったか否かを巡って争いになる可能性がありま

す。

あらかじめ買付けをしておいて後から顧客の承認を得ようとするような行為は、投資者

の真の意思に合致していなければ市場阻害行為であり、単なる手数料稼ぎを助長するおそ

れが大きいといえます。

③ 自己計算取引及び過当数量取引の制限

ディーラーとブローカーを兼ねる金融商品取引業者等が、自己の計算において売買等を行

い、あるいは過当な数量の取引を行う場合には、取引所金融商品市場若しくは店頭売買有価証

券市場における価格変動を強め、市場の秩序を乱すおそれがあるとともに、顧客注文と自己計

算取引とを組み合わせることで顧客の注文より自己の取引を優先させる行為の温床ともなり

ます。

そこで、取引一任契約等に基づいて有価証券の売買又はデリバティブ取引を行う場合には、

委任の本旨又は当該契約の金額に照らして過当と認められる数量の売買で取引所金融商品市

場等の秩序を害すると認められる行為を行ってはならないとされています(法 161 条、取引規

制府令9条、定義府令 16条1項8号イ・ロ、金商業等府令 123条1項 13号ロ~ホ)。

④ 法人関係情報の管理不備

金融商品取引業者等は、その取り扱う法人関係情報(金商業等府令1条4項 14号)に関す

る管理又は顧客の有価証券の売買その他の取引等に関する管理について法人関係情報に係る

不公正な取引の防止を図るために必要かつ適切な措置を講じていないと認められる状況にな

らないようにしながら、その業務を行わなければなりません(法 40条2号、金商業等府令 123

条1項5号)。

法人関係情報は、金融商品取引業者等自身によるインサイダー取引の誘引になることも

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あり、また、法人関係情報を利用して顧客の売買取引を誘引し、あるいは顧客によるイン

サイダー取引情報の提供を意味する場合もあり得ます。

法人関係情報の提供による勧誘は別途禁止されています。この規定は、法人関係情報の

管理状況の不備それ自体を規制の対象としたものです。

⑤ 作為的相場形成等の禁止

公正な価格形成は市場規制の究極の目標であるため、それを害する相場操縦は禁止されて

います(法 159条)。しかし、相場操縦は、その立証が困難な場合も多いため、特に金融商品

取引業者等又はその役員若しくは使用人については、主観的な目的の有無を問わず、特定の銘

柄の有価証券等について、実勢を反映しない作為的相場が形成されることを知りながら、売買

取引の受託等を行うことを禁止しています(法 38 条9号、金商業等府令 117 条1項 20 号)。

「実勢を反映しない作為的相場が形成されることを知りながら」という点については、

受託の時期、数量、発注者の地位、身分等の要素を勘案して客観的に判断されます。

相場操縦(法 159条)も受託行為自体を禁じているため、こうした行為に対しては相場

操縦規定の適用の可能性もあり得ますが、裁判所による判断を待つまでもなく行政処分を

行うための規定です。

「作為的相場形成は行政処分の根拠規定であり、相場操縦にならない行為である」とい

う理解をしてはなりません。

⑥ 役職員の地位利用・投機的利益の追求

個人である金融商品取引業者又は金融商品取引業者等の役員若しくは使用人は、自己の職

務上の地位を利用して、顧客の有価証券の売買等に係る注文の動向その他職務上知り得た特

別の情報に基づいて売買等を行い、又は専ら投機的利益の追求を目的として売買等を行って

はなりません(法 38条9号、金商業等府令 117 条1項 12 号)。

顧客の注文情報等を利用した有価証券取引は、会社の内部情報ではありませんが、一定

の市場情報に関する情報格差を利用した取引であり、インサイダー取引と同様の理由で禁

止されるべき行為だからです。

3 指定紛争解決機関

3-1 意義

金融商品・サービスの多様化・複雑化が進むなか、金融商品・サービスに関するトラブルも増

加しています。これらのトラブルが発生した場合、民事ルールに基づき訴訟により解決を図るこ

とも可能です。しかし、訴訟は利用者にとって負担が大きい場合が多いことから、より簡易・迅

速な形でのトラブルへの対応も重要です。

そこで、司法制度改革以降、様々な分野で活用されている簡易・迅速な紛争解決手段である裁

判外紛争解決制度(ADR)を金融の分野においても導入することが、利用者の保護を図るととも

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に、金融商品・サービスに関する利用者の信頼を向上させるうえで重要と考えられるようになり

ました。

このような観点から、2009(平成 21)年の改正により、金融分野における裁判外紛争解決制

度(金融 ADR)が創設されました。

3-2 紛争解決機関の指定

(1) 指定の要件

内閣総理大臣は、次に掲げる要件を備える者を、その申請により、紛争解決等業務を行う者

として、指定することができます(法 156 条の 39第1項)。

① 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含み、外国の法令に準

拠して設立された法人その他の外国の団体を除きます。)であること

② 指定紛争解決機関としての指定を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない

者又は他の法律の規定による指定であって紛争解決等業務に相当する業務に係るもの

として政令で定めるものを取り消され、その取消しの日から5年を経過しない者でない

こと

③ 金商法若しくは弁護士法又はこれらに相当する外国の法令の規定に違反し、罰金の刑

(これに相当する外国の法令による刑を含みます。)に処せられ、その刑の執行を終わり、

又はその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者でないこと

④ 役員(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものの代表者又は管理人を含

みます。)のうちに、一定の欠格事由に該当する者がないこと

⑤ 紛争解決等業務を適確に実施するに足りる経理的及び技術的な基礎を有すること

⑥ 役員又は職員の構成が紛争解決等業務の公正な実施に支障を及ぼすおそれがないも

のであること

⑦ 紛争解決等業務の実施に関する規程(業務規程)が法令に適合し、かつ、金商法の定

めるところにより紛争解決等業務を公正かつ適確に実施するために十分であると認め

られること

⑧ 意見を聴取した結果、手続実施基本契約の解除に関する事項その他の手続実施基本契

約の内容その他の業務規程の内容について異議を述べた金融商品取引関係業者の数の

金融商品取引関係業者の総数に占める割合が政令で定める割合以下の割合となったこ

と。政令では3分の1と規定されています(施行令 19条の8)。

内閣総理大臣は、紛争解決機関の指定をしようとするときは、前記の⑤から⑦までに掲げる

要件に該当していることについて、あらかじめ、法務大臣に協議しなければなりません(法

156条の 39第3項)。

また、内閣総理大臣は、紛争解決機関の指定をしたときは、指定紛争解決機関の商号又は名

称及び主たる営業所又は事務所の所在地、当該指定に係る紛争解決等業務の種別並びに当該

指定をした日を官報で公示しなければなりません(同条5項)。

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(2) 指定の申請

指定の申請をしようとする者は、あらかじめ、内閣府令で定めるところにより、金融商品取

引関係業者に対し、業務規程の内容を説明し、これについて異議がないかどうかの意見(異議

がある場合には、その理由を含みます。)を聴取し、及びその結果を記載した書類を作成しな

ければなりません(法 156条の 39第2項、指定紛争解決府令3条)。

また、紛争解決機関の指定を受けようとする者は、所定の事項を記載した指定申請書を内閣

総理大臣に提出しなければなりません(法 156条の 40 第1項、指定紛争解決府令4条)。

指定申請書には、所定の書類を添付しなければなりません(法 156 条の 40第2項、指定紛

争解決府令5条)。

(3) 秘密保持義務等

指定紛争解決機関の紛争解決委員若しくは役員若しくは職員又はそれらの職にあった者は、

紛争解決等業務に関して知り得た秘密を漏らし、又は自己の利益のために使用してはなりま

せん(法 156条の 41第1項)。

また、指定紛争解決機関の紛争解決委員又は役員若しくは職員で紛争解決等業務に従事す

る者は、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなされます

(同条2項)。

3-3 指定紛争解決機関の業務

(1) 業務規程等

指定紛争解決機関は、金商法及び業務規程の定めるところにより、紛争解決等業務を行うこと

とされています(法 156条の 42 第1項)。

指定紛争解決機関(紛争解決委員を含みます。)は、当事者である加入金融商品取引関係業者

(手続実施基本契約を締結した相手方である金融商品取引関係業者をいいます。)若しくはその

顧客(顧客以外の投資運用業に関する一定の権利者を含みます。)又はこれらの者以外の者との

手続実施基本契約その他の契約で定めるところにより、紛争解決等業務を行うことに関し、負担

金又は料金その他の報酬を受けることができます(同条2項)。

また、指定紛争解決機関は、他の指定紛争解決機関又は他の法律の規定による指定であって紛

争解決等業務に相当する業務に係るものとして政令で定めるものを受けた者(受託紛争解決機

関)以外の者に対して、苦情処理手続又は紛争解決手続の業務を委託してはなりません(法 156

条の 43)。

指定紛争解決機関は、次に掲げる事項に関する業務規程を定めなければなりません(法 156条

の 44 第1項、指定紛争解決府令6条)。

① 手続実施基本契約の内容に関する事項

② 手続実施基本契約の締結に関する事項

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③ 紛争解決等業務の実施に関する事項

④ 紛争解決等業務に要する費用について加入金融商品取引関係業者が負担する負担金

に関する事項

⑤ 当事者である加入金融商品取引関係業者又はその顧客(当事者)から紛争解決等業務

の実施に関する料金を徴収する場合にあっては、当該料金に関する事項

⑥ 他の指定紛争解決機関その他相談、苦情の処理又は紛争の解決を実施する国の機関、

地方公共団体、民間事業者その他の者との連携に関する事項

⑦ 紛争解決等業務に関する苦情の処理に関する事項

⑧ ①から⑦までに掲げるもののほか、紛争解決等業務の実施に必要な事項として内閣府

令で定めるもの

金融 ADR 制度においては、指定紛争解決機関の自主性を尊重し、金融 ADRに関する実務的な取

組の成果を柔軟に反映することを可能とするため、苦情処理・紛争解決の手続については、法律

において詳細な手続規定は設けられておらず、業務規程や手続実施基本契約等においてその具

体的内容を規定することとしています。また、金融機関の金融 ADRへの対応については、手続実

施基本契約を通じて規律することとしています。

手続実施基本契約の内容として、指定紛争解決機関は、当事者である加入金融商品取引関係業

者の顧客の申出があるときは、紛争解決手続における和解で定められた義務の履行状況を調査

し、当該加入金融商品取引関係業者に対して、その義務の履行を勧告できることとされています

(法 156 条の 44第2項 11号、指定紛争解決府令7条)。

(2) 苦情処理手続及び紛争解決手続

指定紛争解決機関は、金融商品取引業等業務関連苦情及び金融商品取引業等業務関連紛争を

未然に防止し、並びに金融商品取引業等業務関連苦情の処理及び金融商品取引業等業務関連紛

争の解決を促進するため、加入金融商品取引関係業者その他の者に対し、情報の提供、相談その

他の援助を行うよう努めなければなりません(法 156条の 45第2項)。

また、指定紛争解決機関は、加入金融商品取引関係業者の顧客から金融商品取引業等業務関連

苦情について解決の申立てがあったときは、その相談に応じ、当該顧客に必要な助言をし、当該

金融商品取引業等業務関連苦情に係る事情を調査するとともに、当該加入金融商品取引関係業

者に対し、当該金融商品取引業等業務関連苦情の内容を通知してその迅速な処理を求めなけれ

ばなりません(法 156 条の 49)。

加入金融商品取引関係業者に係る金融商品取引業等業務関連紛争の解決を図るため、当事者

は、指定紛争解決機関に対して紛争解決手続の申立てを行うことができ(法156条の50第1項)、

指定紛争解決機関は、紛争解決手続の申立てを受けたときは、紛争解決委員を選任し(同条2項)、

紛争解決手続に付し、紛争解決委員は、和解案の受諾の勧告をし、又は特別調停案の提示をする

ことができます(同条6項)。

ただし、紛争解決委員は、紛争解決手続を行うのが適当でないと認めるとき、又は当事者が不

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当な目的でみだりに紛争解決の申立てをしたと認めるときは、紛争解決手続を実施しないもの

とします(法 156条の 50第4項ただし書)。

紛争解決委員が特別調停案を提示した場合には、利用者の側が受諾しない場合、訴訟を提起す

る場合、提起されている訴訟が取り下げられない場合、その他の和解が成立する場合を除き、加

入金融商品取引関係業者はこれを受諾しなければなりません(法 156 条の 44第6項)。

指定紛争解決機関は、手続実施記録を、その実施した紛争解決手続が終了した日から少なくと

も 10 年間保存しなければなりません(指定紛争解決府令 13条1項)。

紛争解決委員は、人格が高潔で識見の高い者であって、次のいずれかに該当する者のうちから

選任するものとされています(法 156条の 50 第3項)。

① 弁護士であってその職務に従事した期間が通算して5年以上である者

② 金融商品取引業等業務に従事した期間が通算して 10年以上である者

③ 消費生活に関する消費者と事業者との間に生じた苦情に係る相談その他の消費生活

に関する事項について専門的な知識経験を有する者として内閣府令で定める者

④ 当該申立てが司法書士法3条1項7号に規定する紛争に係るものである場合にあっ

ては、同条2項に規定する司法書士であって同項に規定する簡裁訴訟代理等関係業務に

従事した期間が通算して5年以上である者

⑤ 前記①から④までに掲げる者に準ずる者として内閣府令で定める者(判事、判事補、

検事、弁護士、法律学専攻の教授又は准教授の職のうち1又は2以上にあってその年数

が通算して5年以上である者、公認会計士、税理士、経済学又は商学専攻の教授又は准

教授の職のうち1又は2以上にあってその年数が通算して5年以上である者、金融商品

取引業等業務関連苦情を処理する業務又は金融商品取引業等業務関連苦情の処理に関

する業務を行う法人において、顧客の保護を図るため必要な調査、指導、勧告、規則の

制定その他の業務に従事した期間が通算して 10年以上である者、金融庁長官がこれらの

者と同等以上の知識及び経験を有すると認めた者が規定されています。)

ただし、紛争解決手続の中立性・公正性を確保するため、紛争解決委員の少なくとも

1人は前記①又は③のいずれかに該当する者(④の紛争に係る場合には、①、③、④の

いずれかに該当する者)でなければなりません。

また、業務規程において、紛争解決委員の選任の方法や利害関係のある紛争解決委員の排除の

方法について規定することとされています(法 156条の 44 第4項2号)。

紛争解決手続に関して、時効の中断(法 156条の 51)、訴訟手続の中止(法 156条の 52)につ

いて規定が設けられています。

4 市場阻害行為の規制(不公正取引の規制)

金商法が不公正取引の禁止に関する規定を設けているのは、単に金融商品取引等が公正に行

われることを確保するためだけではなく、それにより資本市場の機能が阻害されるのを防止す

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るところに主目的があります。

英国の 2000 年金融サービス市場法も、これらの行為を総称して市場阻害行為(market abuse)

と呼んでいます。

4-1 包括規定

(1) 不公正取引禁止の包括規定(法 157条1号)

何人も、有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等について、不正の手段、計画又

は技巧をしてはなりません。これは不公正取引に関する包括規定であり、要件は漠然としていま

すが、重い刑事罰(懲役 10 年以下、罰金 1,000万円以下、法人罰金7億円以下、利得目的は個

人罰金 3,000万円以下、犯罪により得た財産は没収・追徴―法 197条1項5号・6号・2項、198

条の2、207 条1項1号)があります(以下の(2)及び(3)も同じです。)。

本規定は、米国証券取引委員会(SEC)規則 Rule 10b―5を翻訳したものです。要件が不明確

との批判に対してはこれを合憲とする最高裁判例があります。市場阻害性の高い行為に対して

は、他の具体的な行為規制に欠陥があっても、また、そうした個別の規定の適用が困難であって

も、法目的の達成が最優先されますので、本規定が常に適用可能であることに十分留意する必要

があります。

次項の偽計取引包括規定の部分がありますが、偽計取引においては課徴金制度の適用があり

ます。だからといって、本規定なら課徴金の適用はないと即断することは危険です。

なお、本規定適用のためのガイドラインを示すことなどにより、適用可能な取引類型をできる

だけ示す努力も必要といえます。

(2) 虚偽又は不実の表示の使用の禁止(法 157条2号)

何人も、有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等について、重要な事項について

虚偽の表示があり、又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示が欠けている文書

その他の表示を使用して、金銭その他の財産を取得してはなりません。

(3) 虚偽の相場の利用の禁止(法 157条3号)

何人も、有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等を誘引する目的をもって、虚偽

の相場を利用してはなりません。虚偽の相場を利用することによる相場操縦の一種といえます。

4-2 風説の流布・偽計取引(法 158条)

何人も、有価証券の募集、売出し、売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又

は有価証券等の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは

脅迫をしてはなりません(法 158条)。

これに違反した者は 10年以下の懲役若しくは 1,000万円(利得目的は 3,000 万円)以下の罰

金に処せられ、又はこれらが併科されます(法 197 条1項5号・2項)。法人罰金は7億円以下

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(法 207 条1項1号)で、犯罪によって得た財産は、没収・追徴の対象になります(法 198条の

2)。

2004(平成 16)年の改正により、風説の流布・偽計取引によって相場を変動させた場合に

は、さらに課徴金が課せられるようになりました。

さらに、2008(平成 20)年の改正により、明示的に違反行為と相場の変動の間の因果関係

を法令で要求しなくとも、相場への影響と行為の目的から、外形的かつ合理的にそのような

因果関係が推認されるとの考えから、「違反行為による相場の変動」との要件が、「違反によ

る相場への影響」に改められ、また、課徴金の額についても、「確定した損益」を基準とす

るのではなく、「違反行為時のポジションを違反行為後1か月の最高価格(最低価格)で評

価した価額」を基準とする方法で計算することとされ(法 173 条)、違反行為の抑止の実効

性を高めることとされました。

相場の変動を図る目的をもって風説を流布するとの部分は、事実上の相場操縦規定です。近時、

インターネットを使った風説の流布に摘発例があります。

有価証券の売買その他の取引等について偽計を用いる、という部分は包括規定であり、こちら

についても摘発例があります。この部分は前記の法 157 条と同様の機能を有しています(法 157

条はアメリカの規定に沿革を有し、本条は大正時代からの日本固有の規定です。)。

4-3 相場操縦(法 159条)

相場操縦とは、有価証券やデリバティブ取引に係る市場における価格形成を人為的に歪曲す

る行為であり、その市場阻害性のゆえに厳しく禁止されます。

何人も、これを行った場合には、懲役 10年以下若しくは罰金 1,000 万円以下、法人罰金7億

円以下に処せられ、特に利得目的の場合には個人罰金も 3,000 万円以下とされ(法 197条1項5

号・2項、207 条1項1号)、さらに、犯罪によって得た財産は没収・追徴の対象になります(法

198条の2)。

相場操縦を行った者は、これにより損害を受けた者に賠償しなければなりません(法 160条)。

2008(平成 20)年の改正により、それ以前は現実取引による相場操縦に限定されていた課徴

金の賦課が、仮装取引及び馴合取引並びに違法な安定操作取引にも適用されるようになりまし

た(法 174条~174 条の3)。

また、2012(平成 24)年の改正により、商品関連市場デリバティブ取引についても金商法上

の市場デリバティブ取引に係る相場操縦に関する規定が適用されることとなりました。

相場操縦の成立のためには、それにより投資者の利益が害されること、利益の獲得を目的にして

いることは必要ではありません。市場の公正な価格形成を人為的に歪曲する意思のみで相場操

縦とされます。前記の風説の流布も、虚偽の情報利用行為も、広義の相場操縦ですが、ここでは

狭義の相場操縦について説明します。

① 仮装取引、馴合取引(法 159条1項)

仮装取引(「仮装売買」ともいいます。)とは、上場有価証券等の売買、市場デリバティブ取引

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や店頭デリバティブ取引について、取引状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって、権利

の移転、金銭の授受等を目的としない仮装の取引をすることです(法 159条1項1号~3号)。

馴合取引(「馴合売買」ともいいます。)とは、仮装取引と同様の目的をもって、自己が行う売

付け若しくは買付け又はデリバティブ取引の申込みと同時期に、それと同価格(デリバティブ取

引の場合は約定数値)で他人がその金融商品の買付け若しくは売付け又はそのデリバティブ取

引の申込みを行うことをあらかじめその者と通謀して、その売付け若しくは買付け又はそのデ

リバティブ取引の申込みを行うことをいいます(法 159 条1項4号~8号)。

いずれも、投資判断の実質を経済的に相殺し無意味化する行為であるにもかかわらず、取

引が繁盛に行われているかに見せかける行為であるところに、市場歪曲意思が見いだされま

す。さらに、このような目的をもってこれらの行為の委託等をし、又は受託等をすること自

体も禁止されています(法 159条1項9号)。

これらの行為がなされる場合には、通常その合理性を説明することが困難であるため、容

易に相場操縦が認定されます。

② 現実取引による相場操縦(法 159条2項1号)

上場有価証券等の売買、市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引(「有価証券売買等」

といいます。)のいずれかの取引を誘引する目的をもって、有価証券売買等が繁盛であると誤解

させ、又は取引所金融商品市場における上場金融商品等の相場を変動させるべき一連の有価証

券売買等又はその申込み、委託等若しくは受託等をすることは、相場操縦として禁止されていま

す。

2006(平成 18)年の証取法改正により、証券会社が売買の申込みを行うことによって相場操

縦を行ういわゆる「見せ玉(ぎょく)」(約定させる意図のない注文を出して売買が成立しそうに

なると取り消すといった行為)も、刑事罰及び課徴金の対象となる相場操縦行為として禁止され

ています。誤発注との抗弁が通らない可能性が大きくなっています。

一連の売買取引を観察して相場操縦を認定するのですから、誘引目的という主観的要件が必

要とされます。

もっとも、売買が頻繁に行われる市場性の高い市場にあっては、相当に込み入った複雑な手法

を駆使することになるため、そうした取引の外形によって主観的要件は推認されることになり

ます。こうした市場であっても、市場支配的な地位を有する者はさほど目立った手法を用いるこ

となく相場操縦を実行できます。相場操縦は簡単にできる場合ほど摘発しにくいというジレン

マを負っています。

めったに売買が成立しないような市場にあっては、わずかな行為で価格形成を歪曲できる場

合があります。そうした場合には、取引の周辺に存在する動機(新株発行、公開買付け等)、そ

の他の付随的事情(新聞等での推奨記事等)の存在が重視され、それによって誘引目的が推認さ

れます。

③ 市場操作情報の流布(法 159条2項2号)

取引を誘引する目的をもって、取引所金融商品市場における上場金融商品等の相場が自己又

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は他人の操作によって変動するべき旨を流布することは、相場操縦の一類型として禁止されて

います。違法行為が行われるとの情報を利用した悪質な行為です。

④ 虚偽情報による相場操縦(法 159条2項3号)

有価証券売買等を行うにつき、取引を誘引する目的をもって、重要な事項について虚偽であり、

又は誤解を生じさせるべき表示を故意に行うことは、相場操縦として禁止されています。

4-4 内部者取引

有価証券の発行会社の役職員など会社関係者や、そうした会社関係者から当該会社に関する

重要事実の情報を容易に入手できる立場にある者が、その立場を利用して入手した情報を利用

してそれが公表される前に当該会社が発行する有価証券に係る取引(内部者取引)を行うことは、

皆が知らないから取引する、という情報の格差ないし情報面での優越的地位を利用した取引で

ある点で、有価証券の品質・価値に対する評価を動機とする投資判断とはいえず、証券市場にお

ける公正な価格形成を妨げるものです。そこで金商法は特定有価証券等に係る売買やデリバテ

ィブ取引(CDS等のクレジット・デリバティブ)等を内部者取引規制の対象とし、内部者取引を

禁止しています。たとえこれらの取引により、損失が出た場合であっても内部者取引に該当しま

す。

なお、2012(平成 24)年の改正により、組織再編に係る内部者取引規制の整備がなされまし

た。それにより、従来は規制対象とされていなかった合併又は会社分割による上場会社等の特定

有価証券の承継が新たに内部者取引規制の対象となった一方、事業譲渡や合併、会社分割による

保有株式の承継のうち、内部者取引に利用される危険性が類型的に低い場合について、規制の適

用除外となりました。

また、2013(平成 25)年の改正により、投資法人の発行する証券等の取引についても内部者

取引規制の対象とされました。

(1) 内部者取引の要件

① 会社関係者

会社関係者の範囲は、次のとおりです(法 166条1項)。

(イ) 当該上場会社等(株券、新株予約権証券、社債券、優先出資証券、投信法に規定す

る投資証券、新投資口予約権証券、投資法人債券又は外国投資証券で金融商品取引所

に上場されているもの、店頭売買有価証券又は取扱有価証券の発行者。法 163条1項)

の役員、代理人、使用人その他の従業者(役員等)

(ロ) 上場会社等の帳簿閲覧権を有する株主や社員(会社法 433条1項・3項、その者が

法人又は法人類似の団体であるときはその役員等を、個人や組合等であるときはそ

の代理人又は使用人を含みます。)

(ハ) 当該上場会社等の投資主又は上場会社等の帳簿閲覧権を有する投資主(これらの

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投資主が法人であるときはその役員等を、これらの投資主が法人以外の者であるとき

はその代理人又は使用人を含みます。)

(ニ) 当該上場会社等に対して法令に基づく権限、すなわち許認可権や立入検査権、議

院の国政調査権等を有する者、帳簿書類の閲覧請求権者等

(ホ) 当該上場会社等と契約を締結している者又は締結の交渉をしている者、すなわち

取引銀行、公認会計士、引受人、顧問弁護士等(その者が法人であるときはその役員

等を、法人以外のものである場合にはその代理人又は使用人を含みます。)

(ヘ) 前記(ロ)、(ハ)又は(ホ)に該当する法人の役員等であって、前記(ロ)、(ハ)又は

(ホ)所定の態様により当該上場会社等の業務等に関する重要事実を知った役員等以

外の者

(ト) 現在は前記の会社関係者ではないが、以前会社関係者であり、会社関係者でなく

なってから1年以内の者

(チ) これらの役員等には親会社・子会社の役員等も含まれます。

なお、上記会社関係者より情報を受けた者(第一次情報受領者)も会社関係者と同様に内部

者取引規制の対象となります(法 166条3項)。

② 重要事実

上場会社等の業務等に関する重要事実とは、次の事実をいいます(法 166条2項)。

なお、重要事実については連結財務諸表制度での子会社が対象となったことから、子会社に

生じた重要事実についても親会社同様規制対象となるので留意する必要があります(法 166条

2項5号~8号)。

また、2013(平成 25)年の改正により、上場投資法人等(上場会社等である投資法人のこ

とをいいます。)についても重要事実について上場会社等と同様の規定が設けられています

(法 166 条2項9号~14号)。

(イ) 当該上場会社等の業務執行を決定する機関が、次の事項を行う決定をしたこと、

又は、いったん行うと決定した事項(公表されたものに限ります。)を行わないこと

を決定したこと

● 募集株式・新株予約権の募集

● 資本金の額の減少

● 資本準備金・利益準備金の額の減少

● 自己の株式の取得

● 株式無償割当て又は新株予約権無償割当て

● 株式の分割

● 剰余金の配当

● 株式交換

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● 株式移転

● 合併

● 会社の分割

● 事業の全部又は一部の譲渡又は譲受け

● 解散(合併による解散を除きます。)

● 新製品又は新技術の企業化

● 業務上の提携その他前記の事項に準ずる事項として政令で定める事項

(ロ) 次の事実が発生したこと

● 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害

● 主要株主(総株主等の議決権の 100分の 10以上の議決権を保有している株主)の異

● 特定有価証券(上場会社等の株券、新株予約権証券、社債券等。法 163条1項、施

行令 27条の3)又は特定有価証券に係るオプションの上場廃止又は登録の取消しの

原因となる事実

● 前記の事実に準ずる事実として政令で定める事実

なお、(イ)及び(ロ)の事項は、投資者の投資判断に対する影響が軽いとして内閣府令

(取引規制府令 49条、50条)で定める基準(軽微基準)に該当するものを除きます。

(ハ) 当該上場会社等の売上高・経常利益若しくは純利益(「売上高等」)若しくは配当、

又は当該上場会社の属する企業集団の売上高等について、公表された直近の予想値

(予想値がない場合には前事業年度の実績値)と、当該上場会社等が新たに算出した

予想値又は当事業年度の決算との間で、投資者の投資判断に対する影響が重要なも

のとして内閣府令(取引規制府令 51 条)で定める基準に該当するような差異が生じ

たこと

(ニ) (イ)~(ハ)以外の事項で、当該上場会社等の運営・業務・財産に関する重要な事実で

あって、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの

重要事実に係る包括規定であり、近時はこの規定の適用例が多いため(日本商事事

件最高裁判決)、列挙された重要事実に該当しなくても内部者取引規制が適用され得る

ことに注意を要します。情報の格差を利用した取引との自覚がある場合には何らかの

法令違反があり得るものと想定するのが無難です。

③ 重要事実の公表

次のいずれかの場合には、重要事実が公表されたものとみなされます(法 166条4項)。

(イ) 当該上場会社等若しくはその子会社を代表すべき取締役若しくは執行役又はそれ

らの者から当該重要事実を公開することを委任された者により、当該重要事実が日

刊紙を販売する新聞社や通信社又は放送機関等の2以上の報道機関に対して公開さ

れ、かつ、公開した時から 12時間以上経過した場合(施行令 30条1項1号・2項)

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(ロ) 上場会社等が、その発行する有価証券を上場する各金融商品取引所等の規則で定

めるところにより、重要事実等又は公開買付等事実を当該金融商品取引所等に通知

し、当該重要事実等が当該金融商品取引所等において公衆の縦覧に供された場合(施

行令 30条1項2号)。この場合には、12時間ルールは適用されません。したがって、

金融商品取引所が運営、利用する適時開示情報伝達システム(TDnet)への掲載によ

って、公衆縦覧に供されるとともに、直ちに公表されたことになります。

(ハ) 当該上場会社等が提出した有価証券届出書・その添付書類・訂正届出書、発行登録

書・発行登録追補書類・これらの添付書類・これらの訂正発行登録書、又は、有価証

券報告書・その添付書類・これらの訂正報告書、確認書・訂正確認書、内部統制報告

書・その添付書類・これらの訂正報告書、四半期報告書・その訂正報告書、半期報告

書・その訂正報告書、臨時報告書・その訂正報告書、親会社等状況報告書・その訂正

報告書に、業務等に関する重要事実が記載され、当該書類が金商法の規定に従い公衆

の縦覧に供された場合

④ 適用除外

内部者取引の要件に該当する場合であっても、株式の割当てを受ける権利を有する者が当

該権利の行使により株券を取得する場合、新株予約権を有する者がその新株予約権行使によ

り株券を取得する場合、オプションを行使することによって特定有価証券等に係る売買等を

する場合、株式買取請求権又は投資口買取請求権等に基づき売買等をする場合、公開買付け等

に対抗するために当該上場会社等の取締役会が決定した要請に基づいて行う買付け等、株主

総会決議等に基づいて株券等の買付けをする場合、政令の定めるところにより安定操作取引

を行う場合、社債券等に係る一定の売買等をする場合、重要事実を知っている者同士の取引所

外取引、合併等による特定有価証券等の承継であって当該特定有価証券等の承継資産に占め

る割合が特に低い場合及び合併等の対価として自己株式を交付する場合、重要情報を知る前

に締結された契約の履行等として売買等をする場合、株式累積投資を通じた買付けのうち一

定の要件を満たすもの、発行会社が重要事実を知る前に決定した計画・期日等に基づいて、未

行使分の新株予約権を取得条項により取得する場合及び取得した新株予約権を引受証券会社

に売却する場合等については、違法とはなりません(法 166条6項、取引規制府令 59条1項)。

投資判断の形成自体が、情報面での優位を「利用して」なされていないためです。

こうした多くの適用除外規定により、情報面での優位を利用していないにもかかわらず

形式犯のゆえに罰せられる事例は、ほとんど想定できません。

⑤ 公開買付け等に関する規制

公開買付けやそれに準ずる行為(株券等の発行会社の総議決権の5%以上の株券等を買い

集める行為)における公開買付者等の関係者による内部者取引の規制の必要性は、会社関係者

による内部者取引と同様ですが、公開買付け等に関する情報が当該上場株券等の発行会社の

内部情報でない点で有価証券発行等の場合と異なるため、独立の条文を設けて禁止していま

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す(法 167条、施行令 31条)。

この違反についても、課徴金が課されます(法 175条2項)。

公開買付けに関する内部者取引の構成要件等は、自社関係者による内部者取引の場合とほ

ぼ同様です。

なお、2013(平成 25)年の改正により、公開買付け等の対象会社及びその役職員について

も、公開買付者等の関係者とされました(法 167条1項)。また、同年の改正により、公開買

付け等の実施に関する事実の伝達を受けた者等について、自ら公開買付けを行う際に公開買

付届出書等に当該伝達を受けた事実の記載等をした場合又は当該伝達を受けた日等から6か

月が経過している場合には、公開買付けに関する内部者取引規制は適用しないこととされま

した(法 167条5項)。

⑥ 情報伝達・取引推奨行為に対する規制

会社関係者であって重要事実を知った者は、他人に対し、当該重要事実の公表前に取引をさ

せることにより利益を得させ、又は損失を回避させる目的をもって、当該重要事実を伝達し、

又は取引を勧めてはなりません(法 167 条の2第1項)。近時、上場会社の公募増資に際し引

受証券会社からの情報漏えいに基づく内部者取引が問題とされたことから、2013(平成 25)

年の改正によってこのような規制が導入されました。

公開買付者等関係者であって公開買付け等事実を知ったものについても、同様の規制が設

けられています(法 167条の2第2項)。

⑦ 刑罰及び共犯

内部者取引禁止規定違反に対しては、5年以下の懲役若しくは 500 万円以下の罰金に処し

(法人罰金5億円以下)、又はこれを併科されます(法 197条の2第 13 号、207条1項2号)。

情報伝達・取引推奨行為に対する規制に違反して情報受領者等が実際に売買を行った場合、情

報伝達・取引推奨行為を行った者も同様に罰せられます(法 197 条の2第 14 号・15 号、207

条1項2号)。

また、自ら内部者取引を行わない場合でも、他人の内部者取引に関与する行為は、共犯とし

て処罰される場合があります。会社関係者による内部者取引には、課徴金も課せられます(法

175 条)。金融商品取引業者等以外の者が、自己以外の者の計算において内部者取引を行った

場合、その報酬等の対価の額の課徴金が課せられます(法 175 条1項3号、2項3号)。

2013(平成 25)年の改正により、情報伝達・取引推奨行為に対する規制に違反して情報受

領者等が実際に売買を行った場合、情報伝達・取引推奨行為を行った者に対し課徴金が課せら

れることとなりました。課徴金の額は、証券会社等の仲介業者又はその役職員が行った場合

は、それ以外の者が行った場合よりも、大幅に増額されています(法 175条の2)。

また、資産運用業者が他人の計算で内部者取引を行うのを抑止するために、このような内部

者取引に対する課徴金の額が大幅に引き上げられました(法 175条1項3号イ、2項3号イ)。

2014(平成 26)年の改正により、電子化された株券等の没収手続の整備が行われ、インサ

イダー取引規制違反に対しても適用されることとなりました(法 209 条の4~209 条の7)。

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(2) 会社の役員及び主要株主の報告義務

株券、新株予約権証券、社債券、優先出資証券、投信法に規定する投資証券、新投資口予約権

証券、投資法人債券又は外国投資証券で金融商品取引所に上場されている有価証券、店頭売買有

価証券又は取扱有価証券の発行者である上場会社等の役員及び主要株主(以下(2)~(5)におい

て、「主要株主」とは、自己又は他人の名義をもって総株主等の議決権の 10%以上を有している

株主をいいます(法 163条1項)。)は、自己の計算において当該上場会社等の株券・新株予約権

証券・社債券等(以下「特定有価証券」といいます。)の買付け又は売付けを行い、又は、特定

有価証券に係るオプションを表示する有価証券等(以下「関連有価証券」といいます。これらを

併せて以下「特定有価証券等」といいます。)に係る買付け等又は売付け等をした場合、内閣府

令で定める場合を除いて、その売買等に関する報告書を内閣総理大臣に提出しなければなりま

せん(法 163条)。

これは、内部者取引を把握するための規定です。

(3) 役員又は主要株主の短期売買規制

上場会社等の役員又は主要株主が、当該上場会社等の特定有価証券等について、自己の計算に

おいてその買付け等をした後6か月以内に売付け等をし、又は、売付け等をした後6か月以内に

買付け等をして利益を得たときは、当該上場会社等は、その者に対し、得た利益の提供を請求す

ることができます(法 164条)。

これは、会社役員が自社株売買の短期利益を追求することで会社に対する忠実義務を怠る

ことになる事態を予防するための規定として、まずは理解されるべきでしょう。

(4) 役員又は主要株主による自社株の空売り等の禁止

上場会社等の役員又は主要株主は、自社株の空売り及びそれと同様の効果を有する取引(特定

取引)をすることが絶対的に禁止されています(法 165 条)。

これは、自社株が下落すればするほど利益の出る取引を役員等に対して禁止することで、

会社に対する忠実義務を履行させるための規定と解すべきです。

(5) 「特定組合等」に対する規制(ファンド規制)

かつて、証取法のもとで「主要株主」を判断する場合、法人格を有しない民法上の組合、投資

事業有限責任組合や有限責任事業組合等の組合財産として保有されている株式は、組合自体で

はなく、各組合員がその共有持分の割合に応じて議決権を保有しているとされてきました。した

がって、組合全体として総議決権の 10%以上保有している場合であっても、規制対象とされて

きませんでした。

しかしながら、民法上の組合等の組合員は、組合として一体的に行動し、組合全体として 10%

以上の議決権を保有している場合、議決権も一体として行使されると考えられます。

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そこで、金商法では、このような「特定組合等」にも(2)~(4)の規制を課すこととしています(法

165条の2第1項・3項・15 項)。

4-5 その他の不公正取引

(1) 虚偽の相場の公示等の禁止(法 168条)

何人も、有価証券等の相場を偽って公示し、又は公示し若しくは頒布する目的をもって有価証

券等の相場を偽って記載した文書を作成し、若しくは頒布してはなりません。

この規定に違反した者は1年以下の懲役若しくは 100 万円以下の罰金に処せられ、又はこれ

らが併科されます(法 200条 20 号)。

(2) 場外差金取引の禁止(法 202条)

取引所金融商品市場によらないで、取引所金融商品市場における相場により差金の授受を目

的とする行為は金融商品の取引を可能とするだけの金融商品ないし資金を有することなく、差

金の授受のみを行う行為であり、かかる行為は真摯な投資判断を有して市場に参加することな

く利ざやのやりとりのみを行う賭博類似の行為として禁じられています。

この行為をした者は1年以下の懲役若しくは 100 万円以下の罰金に処せられ、又はこれらが

併科されます。

ただし、金融商品取引業者等が一方当事者となり、又は仲介を行う一定の店頭デリバティブ取

引は適用外とされます。

5 市場の監視・監督

5-1 総論

(1) 我が国の金融行政機関

現在、我が国の金融行政は、内閣府の外局である金融庁が担っています。かつては、(旧)大

蔵省がその役目を果たしていましたが、金融機関に対する検査・監督と証券取引等に対する監視

をするための機関として 1998(平成 10)年に金融監督庁及び金融再生委員会が設置されました。

2000(平成 12)年、金融再生委員会の下に金融監督庁が改組されて金融庁となり、大蔵省に代

わりました。のち、2001(平成 13)年に中央省庁の再編に伴い、現在の体制である内閣府の外局

として置かれました。

現在の金融行政組織は、次の図のとおりです。

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(2) 権限の委任

金商法は、金商法に係る法令上の行政機関の諸権限を内閣総理大臣に付与しています。内閣総

理大臣は、その権限を金融庁長官に委任していますので(法 194 条の7第1項)、条文を読む際

には、内閣総理大臣を金融庁長官と読み替えることに注意が必要です。

また、金融庁長官は、内閣総理大臣から委任を受けた権限のうち、一部を更に証券取引等監視

委員会に委任しています(法 194条の7第2項)。

5-2 証券取引等監視委員会

証券取引等監視委員会は、前述のとおり、金融庁長官から一定の権限の委任を受け、主に、日

常的な市場監視や業者に対する検査、有価証券報告書等についての検査、課徴金調査、犯則事件

の調査等を行います。

委任を受けた権限には、具体的には次のものが含まれます(法 194条の7第2項)。

① 金融商品取引業者等、金融商品仲介業者、信用格付業者、金融商品取引所等並びにその取

引の相手、業務受託者、及び関連会社並びに外国金融商品取引所等への資料等提出命令、検査

権限(法 56 条の2第1項・3項・4項、60 条の 11、66 条の 22、66 条の 45 第1項、75 条、

151条、155 条の9)

② 風説の流布、相場操縦、内部者取引等によって課徴金が課され得る事件に係る報告徴収、

立入検査(法 177条)

③ 縦覧書類提出者等、公開買付関係者、大量保有報告書関係者、特定情報の提供者等、重要

情報公表者等、金融商品取引業者等、特別金融商品取引業者の子会社等、指定親会社等、指定

親会社の主要株主、取引所取引許可業者等、特例業務届出者等、金融商品仲介業者等、信用格

付業者等、高速取引行為者、認可協会等、認定協会等、投資者保護基金等、取引所の対象議決

権保有届出書提出者、株式会社金融商品取引所の主要株主、株式会社金融商品取引所持株会社

の対象議決権保有届出書提出者、株式会社金融商品取引所持株会社の主要株主、株式会社金融

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商品取引所持株会社若しくはその子会社、金融商品取引所等、外国金融商品取引所等、国内清

算機関に係る対象議決権保有届出書の提出者、国内清算機関の主要株主、金融商品取引清算機

関等、外国清算機関等、証券金融会社等、指定紛争解決機関等、取引情報蓄積機関等、特定金

融指標算出者等、公認会計士・監査法人への報告資料提出命令(法 26 条、27 条の 22、27 条

の 30、27条の 35、27条の 37、56 条の2第1項~4項、57条の 10第1項、57条の 23、57条

の 26 第2項、60 条の 11、63 条の6、66 条の 22、66 条の 45 第1項、66 条の 67、75 条、79

条の4、79 条の 77、103条の4、106条の6、106条の 16、106 条の 20、106 条の 27、151 条、

155 条の9、156 条の5の4、156 条の5の8、156 条の 15、156 条の 20 の 12、156 条の 34、

156条の 58、156条の 80、156条の 89、193条の2第6項、施行令 38条)

④ 裁判所の禁止又は停止命令(法 192条1項)に関する申立てに係る金融庁長官の権限も、

証券取引等監視委員会へ委任されています(法 194条の7第4項2号)。また、2010(平成 22)

年の改正により、裁判所の禁止又は停止命令に関する申立権限及び当該申立てに必要な調査

のために所定の処分を行う権限を、証券取引等監視委員会から各財務局長等に委任できるよ

うになりました(法 194条の7第7項)。さらに、同年の改正により、裁判所の禁止又は停止

命令の実効性を確保する観点から、裁判所の禁止又は停止命令に違反した法人に対しても罰

則(3億円以下の罰金)を科すことができるようになりました(法 207条1項3号)。2011(平

成 23)年の改正により、裁判所の禁止・停止命令の申立てに係る裁判管轄に、違反行為が行

われ、又は行われようとする地が追加されました(法 192条3項)。2015(平成 27)年の改正

により、裁判所の禁止・停止命令の対象に、適格機関投資家等特例業務等に係る業務執行が著

しく適正を欠き、かつ、現に投資者の利益が著しく害されている場合等において、投資者の損

害の拡大を防止する緊急の必要があるときにおける販売・勧誘行為が追加されました(法 192

条1項)。

5-3 課徴金

資本市場法制の性格は、多くの取引が1か所に集中し、しかもそこで形成される価格形成が国

民経済の帰趨を左右するほどの高い公益性を有していることから、ルールメークとエンフォー

スメントが同時進行的に時々刻々と展開されるものでなければならず、また、市場監理や上場管

理、会計ルールのように現場で機動的に対応しなければならないことが多くあります。

規制の対象がたとえ生き物ともいえる難物であったとしても、その公益性の高さのゆえに、規

制の実効性は確実に実現されなければなりません。この分野は刑事手続と伝統的な行政法手続

のみで対応したのでは、多くの市場阻害行為を放置することになり、結果的に国民経済の重要な

指標たる公定相場が歪曲され、安易なバブルに対する抵抗力のない証券市場により、国民は極め

て多くの厄災を被ることになりかねません。

このため、第一に、市場阻害行為が生じそうな場合に速やかな差止めが規制当局等によってな

される必要があり、第二に、市場阻害行為がなされてしまった場合には、とりあえず違法行為に

よって獲得された利益を違法行為者から剥奪することが必要であり、さらに第三に、市場阻害行

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為が「ばれてもともと」にならないような抑止力のある制裁が用意されなければなりません。

2004(平成 16)年の証取法改正で導入された課徴金制度は、こうした市場規制に特有の発想

に基づいて導入されたものです。課徴金は、一定の不公正取引があった場合に、内閣総理大臣が

一定の手続に基づいて、不公正取引に応じて決められた額の課徴金を国庫に納付するよう命ず

る制度です(法 172条)。課徴金の額は、「得られた利益の数倍」というような民事制裁の性格は

有しておらず、利得の一部吐き出し命令に止まっています。

当初、課徴金制度が適用されるのは、①有価証券届出書の虚偽記載等の発行開示義務違反、②

風説の流布、偽計取引の禁止違反、③相場操縦行為の禁止違反、④インサイダー取引の禁止違反、

の4種に限定されていましたが、2005(平成 17)年には有価証券報告書・半期報告書・臨時報告

書等のような継続開示義務違反に、2007(平成 19)年には公認会計士・監査法人による虚偽・不

当証明に対しても適用されることとなっています。

なお、課徴金の賦課手続として審判手続が規定されています(法 178条~185条の 17、公認会

計士法 34条の 40~34 条の 62)。

課徴金制度は、導入後の実績等を踏まえ、違法行為のより実効的な抑止をもたらすよう、2008

(平成 20)年の改正により見直しがなされました。具体的には、課徴金の金額水準の引上げ、

課徴金の対象範囲の見直し、課徴金の加算制度、課徴金の減算制度、除斥期間の延長、審判手続

の見直しがなされました。

これにより、その対象範囲には、公開買付届出書の虚偽記載及び不提出、大量保有報告書の虚

偽記載及び不提出、相場操縦のうち仮装取引・馴合取引、相場操縦のうち安定操作取引、発行開

示書類の不提出、継続開示書類の不提出が含められました。

また、過去5年間に課徴金の対象となった者が再度違反した場合には、課徴金の額を 1.5 倍に

加算する制度や、除斥期間を3年から5年に延長するといった厳格化が図られました。さらに、

当局の調査前に一定の違反行為(自己株売買におけるインサイダー取引、発行開示書類・継続開

示書類の虚偽記載、大量保有報告書の不提出)を報告した場合には課徴金を半額に減額するとい

う、いわゆるリニエンシー制度も導入されました。

2011(平成 23)年の改正では、課徴金の審判における手続開始の基礎となった事実の変更制

度が創設されました。従来は、審判官が証拠を検討する過程で審判対象たる事実とは異なる心証

を抱いた場合、審判対象の変更の可否及び手続についての規定が設けられていなかったため、そ

の齟齬を審判手続中で解消する方法が明確ではありませんでした。そこで、改正法ではこの点を

明確化し、被審人の利益を害さない限り、指定職員は審判手続開始の基礎となった事実・法令の

適用・課徴金額等の変更を行うことが可能であると明文化されました(法 181 条4項、課徴金府

令 23 条の2)。

2012(平成 24)年の改正では、金融商品取引業者以外の者が、自己以外の者の計算において

不公正取引をした場合、その報酬等の対価の額の課徴金を課すこととされました(法 173 条~

175条)。

2013(平成 25)年の改正では、内閣総理大臣は課徴金に関する調査において物件の提出を命

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じることができるとともに、当該調査等に関して公務所又は公私の団体に照会して報告を求め

ることができることとされました(法 26条2項、27条の 22第3項、27 条の 22の2第2項、27

条の 30第3項、27 条の 35第2項、177 条、187条2項)。

5-4 法令違反行為を行った者の氏名等の公表

内閣総理大臣は、公益又は投資者保護のために必要かつ適当であると認めるときは、内閣府令

で定めるところにより、法令違反行為を行った者の氏名その他法令違反行為による被害の発生

若しくは拡大を防止し、又は取引の公正を確保するために必要な事項を一般に公表することが

できるとされています(法 192条の2)。

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第3章 金融商品の勧誘・販売に関係する法律

はじめに

外務員が金融商品を顧客に勧誘・販売するに当たり、外務員が遵守し、考慮しなければなら

ない法律は、金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)だけではありません。金融商品の

販売等に関する法律1、消費者契約法2、個人情報の保護に関する法律3、犯罪による収益の移転

防止に関する法律4など、他の法律も金融商品の勧誘・販売に密接にかかわっています。

金融商品の勧誘・販売を行う外務員は、これらの関係する法律も十分に理解し、遵守してい

る必要があります。

1 金融商品の販売等に関する法律

金融商品の販売等に関する法律(以下「金融商品販売法」といいます。)は、外務員が株式・

投資信託等の金融商品を顧客に勧誘・販売する際の説明義務や、説明義務を適切に履行しな

かった場合の損害賠償責任等について定めた法律です。顧客と金融商品販売業者等との情報格

差があることにかんがみて、顧客保護を図るため、説明義務の明文化及び損害額の推定、立証

責任の転換などが規定されています。

1-1 概要・趣旨

金融商品販売法は以下について定めています(金融商品販売法1条)。

① 金融商品販売業者等が金融商品を販売する際の顧客に対する説明義務

② 説明義務違反により顧客に損害が生じた場合の損害賠償責任及び損害額の推定等

③ 金融商品販売業者等の勧誘の適正の確保等

その趣旨は、前述の①、②及び③を定めることにより、顧客の保護を図り、もって国民経済

の健全な発展に資することにあります。

顧客は、自己責任原則に基づいて金融商品を購入することになりますが、顧客と金融商品販

売業者との間では、保有している知識・経験に差があり、保有する情報についても格差がある

(情報の非対称性)のが現状です。こうした現状にかんがみ、顧客が自己責任原則のもと、主

体的にリスクを選択するための前提を整備するため、金融商品販売法が制定されました。

現在では、金商法などの法律によっても金融商品の取引に関する顧客保護が図られています

が、金融商品販売法は、主に民事上の損害賠償責任と立証責任の転換等を通じて金融商品の販

売を巡る訴訟の迅速化や負担軽減、ひいては紛争の未然防止を図る点に主眼があります。

1 平成 12 年 5 月 31 日法律 101 号 2 平成 12 年 5 月 12 日法律 61 号 3 平成 15 年 5 月 30 日法律 57 号 4 平成 19 年 3 月 31 日法律 22 号

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1-2 適用対象・範囲

金融商品販売法において説明義務を負うのは、「金融商品の販売等」を業として行う者です。

「金融商品の販売等」とは、預金契約、有価証券を取得させる行為、市場・店頭デリバティブ

取引など又はその取次ぎ又はこれらの代理若しくは媒介(同法2条1項・2項)を意味します。

具体的には、例えば、顧客からの株券の委託売買の取次ぎを行う行為、顧客に対する投資信

託の販売などに加えて、顧客からの商品関連市場デリバティブ取引の委託の取次ぎを行う行為

についても、「金融商品の販売等」に含まれます。

金融商品の販売等を業として行う者は金融商品販売法上の説明義務などを負う「金融商品販

売業者等」に該当します。金融商品取引業者等(登録金融機関を含む。)も、これらの金融商品

の販売等を業として行う場合、「金融商品販売業者等」として、顧客に対する重要事項の説明義

務など、金融商品販売法に定める義務を負うこととなります。

1-3 説明義務

金融商品販売業者等は、金融商品の販売等を業として行おうとするときは、金融商品の販売

が行われるまでの間に、顧客に対して重要事項を説明しなければならないものとされています

(金融商品販売法3条1項)。

重要事項の説明は、書面の交付による方法でも可能ですが、顧客の知識、経験、財産の状況

及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧客に理解されるために

必要な方法及び程度によるものでなければなりません(同条2項)。

販売までに説明すべき重要事項として列挙されているもののうち、主要な事項は次のとおり

です。

⑴ 金利、通貨の価格、市場の相場その他の指標に係る変動(市場リスク)を直接の原因とす

る元本欠損が生ずるおそれ又は当初元本を上回る損失が生ずるおそれがある場合(金融商品

販売法3条1項1号・2号)

● 元本欠損が生ずるおそれがある旨又は当初元本を上回る損失が生ずるおそれがある旨

● 当該指標

● 当該金融商品の販売に係る取引の仕組みの重要な部分

⑵ 当該金融商品の販売者その他の者の業務又は財産の状況の変化(信用リスク)を直接の原

因とする元本欠損が生ずるおそれ又は当初元本を上回る損失が生ずるおそれがある場合(同

項3号・4号)

● 元本欠損が生ずるおそれがある旨又は当初元本を上回る損失が生ずるおそれがある旨

● 当該者

● 当該金融商品の販売に係る取引の仕組みの重要な部分

⑶ 権利行使期間の制限及びクーリングオフ期間の制限があるときはその旨(同項7号)

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なお、前述の重要事項の説明義務は、金融商品の販売等に関する専門的知識及び経験を有す

る者として政令で定める「特定顧客」(金商法上の「特定投資家」(金商法2条 31 項)と基本的

に同じです。)に対しては適用されません(金融商品販売法3条7項1号)。特定投資家に移行

した一般投資家についても、「特定顧客」として取り扱われます。

また、重要事項について説明を要しない旨の顧客の意思の表明があった場合には、金商法2

条8項1号に規定する商品関連市場デリバティブ取引及びその取次ぎの場合を除き重要事項

の説明義務は免除されます(同項2号)。すなわち、金融商品販売業者等が行う商品関連市場

デリバティブ取引及びその取次ぎについては、顧客から重要事項の説明は不要であるとの意思

表明がなされた場合でも、説明義務があることに注意が必要です。なお、金融商品販売法上の

説明義務の免除の如何にかかわらず、金商法上の説明義務(金商法 40 条1号、金融商品取引業

等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」といいます。)117条1項1号)は免除されません

ので、注意が必要です。

1-4 因果関係・損害額の推定(民法の不法行為の特則)

金融商品販売法では、金融商品の販売等に際して、金融商品販売業者等が一定の重要事項の

説明をすべき義務があるにもかかわらずこれを行わなかった場合や、断定的判断の提供の禁止

に違反する行為を行った場合に、不法行為による損害賠償責任があることを明確にし、民法の

不法行為の特則として、損害の立証責任の転換を図るとともに、損害額の推定を行うものとし

ています。

民法の特則として民法の規定を修正している点は、次のとおりです。

(1) 説明義務違反の無過失化

民法においては、不法行為の要件として、故意又は過失の存在が要求されていますが、金融

商品販売法では、重要事項の説明義務違反については、故意又は過失の有無を問わないものと

し、無過失責任としています(金融商品販売法5条)。

(2) 因果関係及び損害額の推定による立証責任の転換

民法においては、不法行為と損害の発生との間の因果関係及び損害額について、損害を主張

する側が立証する必要がありますが、金融商品販売法では、因果関係及び損害額について、立

証責任を業者側に転換しています。

具体的には、損害額を「元本欠損額」と推定することとしており、元本欠損額とは以下の計

算により算定される金額をいうものとされています(金融商品販売法6条)。

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元本欠損額=(顧客の支払った金銭及び支払うべき金銭の合計額)-(顧客の取得した金銭及

び取得すべき金銭の合計額+顧客の取得した金銭以外の財産(物又は権利(※))

であって当該顧客等が売却その他の処分をしたものの処分価額の合計額)

なお、本条は民法の特則ではありますが、前述の推定規定等によらず、民法上の不法行為に

よる損害賠償請求や債務不履行責任を追及することもできるものとされています。

※ 当該箇所は公布の日(2019(令和元)年6月7日)から起算して1年を越えない範囲

内において政令で定める日が施行日となります。

1-5 勧誘方針の策定・公表義務

金融商品販売法8条では、「金融商品販売業者等は、業として行う金融商品の販売等に係る勧

誘をするに際し、その適正の確保に努めなければならない。」とし、金融商品の販売等に関する

一般的な適正の確保を努力義務としています。また、一定事項を記載した勧誘方針の策定及び

公表を金融商品販売業者等に義務付けています(同法9条)。

勧誘方針に記載すべき事項は次のとおりです。

⑴ 勧誘の対象となる者の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締

結する目的に照らし配慮すべき事項

⑵ 勧誘の方法及び時間帯に関し勧誘の対象となる者に対し配慮すべき事項

⑶ ⑴及び⑵のほか、勧誘の適正の確保に関する事項

勧誘方針の公表の方法は、①金融商品販売業者等の本店又は主たる事務所に見やすいように

掲示又は閲覧に供する方法、②金融商品の販売等を行う営業所又は事務所ごとに見やすいよう

に掲示又は閲覧に供する方法、③ウェブサイトで公表する方法、があります。

勧誘方針の策定・公表義務に違反した金融商品販売業者等は、50 万円以下の過料に処せられ

ます(同法 10条)。

1-6 金商法との関係

適合性原則や説明義務については、金商法においても規定されており(金商法 40 条1号、金

商業等府令 117 条1項1号)、金融商品販売法上の説明義務と重複しているようにもみえます。

しかし、金商法上の適合性原則や実質的説明義務違反の帰結は、当該義務を怠った金融商品

取引業者等に対する行政処分や刑事罰であるのに対し、金融商品販売法では、勧誘方針の策定・

公表義務以外には罰則はなく、金融商品販売業者等に対する行政処分には直結せず、私法上の

効果(損害賠償義務、因果関係・損害額の推定)を生じさせるものである点が異なります。

なお、2007(平成 19)年の金商法の施行に併せて金融商品販売法も改正され、断定的判断の

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提供の禁止規定を追加した点、対象商品・取引を拡大した点、特定投資家に近い「特定顧客」

の考え方を導入した点、説明義務の履行方法として適合性原則の考え方を盛り込んだ点、説明

義務の対象として「金融商品の販売に係る取引の仕組みの重要な部分」を追加した点など、金

商法との平仄が合わせられました。

1-7 顧客の「説明不要」の意思表示

重要事項の説明義務(金融商品販売法3条)は、顧客が特定顧客でない場合でも、金商法2

条8項1号に規定する商品関連市場デリバティブ取引及びその取次ぎの場合を除き「重要事項

について説明を要しない旨の顧客の意思の表明があった場合」には免除されることとなってい

ますが(同条7項)、金商法上は、特定投資家に該当しない顧客に対しては、「説明不要」との

意思表示があった場合でも、実質的説明義務(金商業等府令 117条1項1号)自体を免れるわ

けではありません。

しかし、金商法上も、説明は「顧客の知識、経験、財産の状況、投資の目的に照らし」行う

ものとされていますので、「説明不要」との意思表示を行った顧客が、十分な知識経験等を有し

ている場合や、既に購入したことのある金融商品を追加購入するような場合などにおいては、

説明を一定程度簡略化することも許されると考えられます。

なお、金融商品販売法上の「説明不要」の意思表明があった場合には、その旨を書面化する

などして後日の紛争を防止することも考えられますが、勧誘する側がそのような書面への署

名・押印などを強制したと認められるような場合には、そもそも意思表明がなかったものとし

て、重要事項の説明義務の免除が認められないこととなりますので、顧客が説明不要と申し出

るに至った経緯等を顧客との面接交渉記録などにきちんと残しておくことが重要です。

2 消費者契約法

消費者契約法は、消費者との間の契約の締結において不当な行為が行われた場合の契約の取

消しや無効等について、消費者保護の観点から定めた法律です。個人の消費者に対して金融商

品等を販売する場合に適用があります。

2-1 概要・趣旨

消費者契約法は、消費者保護の観点から、消費者を誤認させる行為又は消費者を困惑させる

行為が行われた場合の消費者による取消権や不当な契約条項の無効を定める法律です。民法の

意思表示の瑕疵に関する特則と位置付けられています。

消費者契約法は、消費者と事業者の間に情報の質・量及び交渉力の格差が存在することにか

んがみ、消費者利益の擁護のための契約の取消権や契約条項の無効を主張する私法上の権利を

付与することによって、消費者利益の回復を可能とし、間接的に事業者による適正な勧誘、公

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正な契約条項の使用を働きかけるものです。

消費者に対し金融商品の販売等を行う場合には、金商法や金融商品販売法などに加え、消費

者契約法の適用があることに留意する必要があります。

なお、2017(平成 29)年6月3日に施行された改正消費者契約法により、取消しの対象の拡大(過

量な内容の消費者契約の取消し)、重要事項の拡大、消費者の解除権を放棄させる条項を無効とす

る規定の新設などがなされています。

2-2 適用対象・範囲

消費者契約法が適用されるのは、「消費者契約」(消費者と事業者との間で締結される契約(消

費者契約法2条3項))です。ここでいう「消費者」とは、個人のうち、「事業として又は事業

のために契約の当事者となる場合におけるもの」を除いた者です(消費者契約法2条1項)。「事

業」は、一定の目的をもって反復継続的になされる同種の行為であれば足り、営利目的は必要

ありません。

消費者契約の定義は非常に広範であり、金融商品販売法の対象となる金融商品の販売等に関

する契約も、消費者と事業者との間で締結される限り、消費者契約に含まれます。

また、契約の直接の相手方ではなく、契約の相手方から媒介の委託を受けた者や代理権の授

与を受けた者による勧誘などの行為についても、消費者契約法が適用されます(消費者契約法

5条1項・2項)。例えば、協会員が投資信託の販売を行う場合や、変額年金の販売を行う場合

などは、顧客との間の直接の相手方となるわけではありませんが、このような場合においても、

消費者契約法の適用対象となります。

消費者契約法は、民法の意思表示の瑕疵に関する条項の特則と位置付けられており、民法・

商法に優先して適用されますが、これ以外の法律に別段の定めがある場合には、そちらが優先

されます(消費者契約法 11 条)。例えば、利息制限法などは「別段の定め」となります。

2-3 消費者契約法による契約の取消し

(1) 対象となる契約

消費者が消費者契約法により契約の取消しをすることができるのは、事業者が消費者契約の

締結について勧誘をするに際し、次のいずれかに該当した場合で、それによって当該消費者契

約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときです。

① 重要事項の不実告知

当該消費者に対して重要事項について事実と異なることを告げたことにより、当該告げら

れた内容が事実であると誤認した場合(消費者契約法4条1項1号)

ここでいう「事実と異なること」とは、告知の内容が客観的に真実又は真正でなければ足

り、故意によるものだけではなく、事業者が虚偽であることを知っていなかったとしても、

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これに該当すると考えられます。すなわち、事業者が虚偽の内容であると認識していたこと

や消費者を欺こうとする意思を有していたことの立証を必要としません。

ただし、主観的な評価に関する言説で、客観的な事実によって真実と相違するか否かが判

断できない場合(例えば、「お買い得ですよ」など)は、不実告知に該当しないと解されて

います。いずれにしても、外務員が勧誘を行う際には、その商品の内容について真実と異な

ることを告げないよう、商品の内容を十分理解し、言動に注意すべきです。

② 断定的判断の提供

物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価

額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項

につき断定的判断を提供することにより、当該提供された断定的判断の内容が確実であると

誤認した場合(消費者契約法4条1項2号)

ここでいう断定的判断も、前述①の不実告知と同様、事業者の故意を要件としていません

ので注意が必要です。

③ 不利益事実の故意又は重過失による不告知

当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の

利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告

知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限ります。)を故意又は重大

な過失によって告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をした場合(消費

者契約法4条2項)

④ 不退去

当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべ

き旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないことによって消費者が困

惑した場合(消費者契約法4条3項1号)

⑤ 退去妨害

当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去す

る旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないことによって

消費者が困惑した場合(消費者契約法4条3項2号)

⑥ 社会生活上の経験不足の不当な利用

当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、進学、就職、結婚、生計その他の社

会生活上の重要事項や、容姿、体型その他の身体の特徴又は状況に関する重要事項に対する

願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる

合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、物品、権利、役務その

他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げるこ

とによって消費者が困惑した場合(消費者契約法4条3項3号)

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⑦ 恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用

当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘

を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費

者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当

該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げる

ことによって消費者が困惑した場合(消費者契約法4条3項4号)

⑧ 加齢等による判断能力の低下の不当な利用

当該消費者が、加齢又は心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、生

計、健康その他の事項に関しその現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りな

がら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある

場合でないのに、当該消費者契約を締結しなければその現在の生活の維持が困難となる旨を

告げることによって消費者が困惑した場合(消費者契約法4条3項5号)

⑨ 霊感等を用いた告知

当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見と

して、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安を

あおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することがで

きる旨を告げることによって消費者が困惑した場合(消費者契約法4条3項6号)

⑩ 契約前に義務の内容を実施することで原状回復を著しく困難とする行為

当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契

約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部又は一部を実施し、その実施前の原状

の回復を著しく困難にすることによって消費者が困惑した場合(消費者契約法4条3項7号)

⑪ 事業者が契約前に締結を目指して実施した事業活動を、消費者のために特に実施したも

のであること及び損失補償を請求することを告知する行為

前号に掲げるもののほか、当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示

をする前に、当該事業者が調査、情報の提供、物品の調達その他の当該消費者契約の締結を

目指した事業活動を実施した場合において、当該事業活動が当該消費者からの特別の求めに

応じたものであったことその他の取引上の社会通念に照らして正当な理由がある場合でない

のに、当該事業活動が当該消費者のために特に実施したものである旨及び当該事業活動の実

施により生じた損失の補償を請求する旨を告げることによって消費者が困惑した場合(消費

者契約法4条3項8号)

⑫ 過量取引

物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの分量、回数又は期間(分量

等)が当該消費者にとっての通常の分量等(消費者契約の目的となるものの内容及び取引条

件並びに事業者がその締結について勧誘をする際の消費者の生活の状況及びこれについての

当該消費者の認識に照らして当該消費者契約の目的となるものの分量等として通常想定され

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る分量等をいう。)を著しく超えるものであることを知っていた場合において、当該消費者が

その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合(消費者契約法

4条4項前段)

⑬ 同種契約による過量取引

消費者が既に当該消費者契約の目的となるものと同種のものを目的とする消費者契約(以

下この項において「同種契約」という。)を締結し、当該同種契約の目的となるものの分量等

と当該消費者契約の目的となるものの分量等とを合算した分量等が当該消費者にとっての通

常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該

消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合(消費者契約法4条4項後段)

(2) 取消権の行使の方法・行使期間

消費者が取消権を行使する方法については、消費者契約法上特段の定めはなく、民法 123条

により、相手方に対し、意思表示を取り消す旨を伝えればよいと考えられます。必ずしも裁判

において主張する必要はありません。なお、取消しの意思表示は、当該意思表示をした消費者

又はその代理人若しくは承継人に限定されます(民法 120条2項)。

消費者契約法に基づく取消権は、追認することができる時から1年間行使しないとき、又は

消費者契約の締結時から5年を経過したときに消滅するものとされています(消費者契約法7

条)。

(3) 取消しの効果

消費者が取消権を行使した場合、当初にさかのぼって契約が無効であったこととなります(民

法 121条)。なお、消費者契約に基づく債務の履行として給付を受けた消費者は、給付を受けた

当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかったときは、当該消費者

契約によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負うものとされています(消

費者契約法6条の2)。

なお、この取消しは善意・無過失の第三者に対抗することはできません(消費者契約法4

条6項)。

2-4 消費者契約法による契約の無効

消費者契約における事業者と消費者との間に、情報の質・量及び交渉力の格差が存在してい

ることに鑑みると、消費者の利益を一方的に害する条項を含む契約の締結をさせることは、適

切ではありません。消費者契約法 10条では、このような条項について、無効とすることとして

います。

消費者契約法により無効となるのは、①消費者に落度のない事業者の損害賠償の責任を免除

し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項(消費者契約法8条1項

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各号)、②事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させ又は当該事業者にその解

除権の有無を決定する権限を付与する条項(消費者契約法8条の2)、③事業者に対し、消費者

が後見開始、保佐開始又は補助開始の審判を受けたことのみを理由とする解除権を付与する消

費者契約(消費者が事業者に対し物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものを提

供することとされているものを除く。)の 条項(消費者契約法8条の3)、④消費者が支払う損

害賠償の額を予定する条項(消費者契約法9条)及び⑤消費者の利益を一方的に害する条項(消

費者契約法 10条)です。

上記のうち、消費者契約法 10条については一般条項であり、「消費者の不作為をもって当該

消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」が例示

として挙げられているものの(消費者契約法 10条)、何がこれに該当するのかについては、ケ

ースバイケースの判断が必要となります。

なお、9条に該当するものについては、条文の文言上、当該条項全体が全部無効となるので

はなく、当該条項の超過部分を一部無効とすることになります。

2-5 金融商品販売法との関係

金融商品販売法と消費者契約法は、いずれも民法の特則として機能しますが、同じ行為であっ

ても、両方の法律で重複して対象となるものもあります。

例えば、断定的判断の提供に関しては、消費者契約法では、消費者の誤認が要件となってい

ますが、金融商品販売法では、消費者の誤認がなくとも断定的判断の提供に該当すれば、損害

賠償責任及び因果関係・損害額の推定規定が適用されることとなります。これらは主張する消

費者の側で有利な方を選択することができます。

3 個人情報の保護に関する法律

個人情報の保護に関する法律は、個人情報の保護について、その情報の内容に応じて事業者

が従うべき義務を定めた法律です。法人顧客であっても、その担当者の情報は個人情報となる

ことや、法律以外のガイドラインにより加重がなされていること等に留意する必要がありま

す。

3-1 概要・趣旨

個人情報取扱事業者に該当する協会員は、顧客の個人情報の保護のため、個人情報の保護に

関する法律(以下「個人情報保護法」といいます。)及び「金融分野における個人情報保護に関

するガイドライン」(以下「金融分野ガイドライン」といいます。)、「金融分野における個人情報

保護に関するガイドラインの安全管理措置等についての実務指針」(以下「安全管理実務指針」

といいます。)に従い、個人情報保護法に定められた個人情報取扱事業者の義務を遵守しなけれ

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ばなりません。2016(平成 28)年1月1日付けで個人情報保護委員会が設置され、同委員会が

一元的に個人情報取扱事業者の監督を行う体制となりました。なお、2017(平成 29)年5月 30

日に改正個人情報保護法が施行され、個人識別符号(生存する個人に関する情報で特定の個人

を識別することができるもの)を含む情報が個人情報に追加されたほか、匿名加工情報に関す

る規定の新設、要配慮個人情報に関する規定の新設、オプトアウト手続に関する届出義務等の

追加、第三者提供に係る確認・記録義務の新設、外国にある第三者への提供に関する規律の新

設等、広範な改正がなされました。また、個人情報保護委員会からは、「個人情報の保護に関す

る法律についてのガイドライン(通則編)」等の複数のガイドライン及び Q&A が公表されており、

実務的な取扱いについては、これらを参照することも重要です。

3-2 適用対象・範囲

個人情報保護法が対象としているのは、「個人情報」、「個人データ」、「保有個人データ」、「要

配慮個人情報」及び「匿名加工情報」です。また、情報単体から特定の個人を識別することが

できるものとして、指紋・掌紋、虹彩の模様、マイナンバー、基礎年金番号等を「個人識別符

号」として、これが含まれる情報を個人情報としています(個人情報保護法2条2項、同法施

行令1条)。

なお、「要配慮個人情報」については、その取得・利用・第三者提供等について厳格な取扱い

が必要とされているほか(個人情報保護法2条3項、同法施行令2条)、個人情報取扱事業者で

ある金融商品取引業者に対しては、さらに「機微(センシティブ)情報」について規制が課せ

られているなど、個人情報保護法による規制に加えて一定の規制が上乗せされています。

3-3 「個人情報」に関する義務

「個人情報」とは、生存する「個人に関する情報」であって、①当該情報に含まれる氏名、

生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの、又は②個人識別符号

が含まれるもののいずれかをいいます。

情報それ自体からは特定の個人を識別できないが、他の情報と容易に照合することができ、

それにより特定の個人を識別することができる場合にも、当該情報は個人情報に該当します。

「個人に関する情報」とは、氏名、住所、性別、生年月日、顔画像等個人を識別する情報に

限られず、個人の身体、財産、職種、肩書等の属性に関して、事実、判断、評価を表す全ての

情報であり、評価情報、公刊物等によって公にされている情報や、映像、音声による情報も含

まれ、暗号化等によって秘匿化されているかどうかを問いません。また、「個人識別符号」とは、

当該情報単体から特定の個人を識別できるものとして個人情報の保護に関する法律施行令に定

められた文字、番号、記号その他の符号(例えば、ゲノムデータ、虹彩の模様、声紋、指紋又

は掌紋などの身体の特徴を変換した符号や、旅券番号、基礎年金番号、自動車免許証の番号、

マイナンバー等)をいいます。

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個人情報については、利用目的の特定(個人情報保護法 15条)、利用目的による制限(個人

情報保護法 16条)、適正な取得(個人情報保護法 17条)、取得に際しての利用目的の通知(個

人情報保護法 18条)等に関する義務が規定されています。

(1) 利用目的の特定(個人情報保護法 15条)

個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用目的をできる限り特定

しなければならないものとされています(個人情報保護法 15条1項)。金融分野ガイドライン

では、抽象的な記載ではなく、提供する金融商品・サービスを明示したうえで利用目的を特定

することが望ましいとされています(金融分野ガイドライン2条1項)。

また、特定された利用目的を変更するには、本人の同意を得ない場合には、変更前の利用目

的と関連性があると合理的に認められる範囲内でしか利用目的の変更を行うことができません

(個人情報保護法 15条2項)。

(2) 利用目的による制限(個人情報保護法 16条)

個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定された利用目的の達成に必

要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならないものとされています(個人情報保護法 16

条1項)。

ただし、法令等に基づく場合や、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合で

本人の同意を得ることが困難な場合など、一定の場合にはかかる制限は適用されません(個人

情報保護法 16条3項)。

(3) 取得に際しての利用目的の通知(個人情報保護法 18条)

個人情報取扱事業者は、契約締結に伴い契約書その他の書面等に記載された個人情報を取得

する場合、その他本人から直接書面に記載された個人情報を取得する場合は、あらかじめ、本

人に対し、その利用目的を明示しなければならないものとされています(個人情報保護法 18

条2項)。また、これ以外の方法で個人情報を取得する場合には、あらかじめその利用目的を公

表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければなら

ないものとされています(個人情報保護法 18 条1項)。

通常は、本条の義務については、ウェブサイトなどで利用目的を公表することで果たされて

いると考えられます。

3-4 「個人データ」に関する義務

「個人データ」とは、個人データベース等を構成する個人情報をいいます。個人データにつ

いては、データ内容の正確性の確保等(個人情報保護法 19条)、安全管理措置(個人情報保護

法 20 条)、従業者の監督(個人情報保護法 21 条)、委託先の監督(個人情報保護法 22 条)及び

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第三者提供の制限(個人情報保護法 23 条)に関する義務が規定されています。

(1) 安全管理措置(個人情報保護法 20条)、従業者の監督(個人情報保護法 21条)、

委託先の監督(個人情報保護法 22条)

個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個

人データの安全管理のために必要かつ適切な措置(以下「安全管理措置」といいます。)を講じ

なければならないものとされています。

安全管理措置としては、個人データの安全管理に係る基本方針・取扱規程等の整備、個人デ

ータの安全管理措置に係る実施体制の整備に関する組織的安全管理措置、人的安全管理措置、

技術的安全管理措置、従業者の監督及び委託先の監督について、安全管理実務指針において詳

細に規定されています。

例えば、委託先の監督に関しては、委託契約において、①委託者の監督・監査・報告徴収に

関する権限、②委託先における個人データの漏えい、盗用、改ざん及び目的外利用の禁止、③

再委託における条件、④漏えい事案等が発生した際の委託先の責任を規定しなければならない

と定められています(安全管理実務指針5―3)。

(2) 第三者提供の制限(個人情報保護法 23条)

個人情報取扱事業者は、原則として、あらかじめ本人の同意を取得しなければ、第三者に対

し個人データを提供することはできないものとされています。ただし、法令等に基づく場合や、

人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合など、一定の場合にはかかる制限は適

用されません(個人情報保護法 23条1項)。

なお、本条の制限には、ほかにも例外があります。個人情報取扱事業者が利用目的の達成に

必要な範囲内において個人データの取扱いを委託する場合、合併その他の事由による事業の承

継の場合には、個人データの提供を受ける者は第三者に該当しないものとされています(個人

情報保護法 23条5項1号及び2号)。また、個人データを共同利用する場合で、共同利用され

る個人データの項目、共同利用者の範囲、利用する者の利用目的、当該個人データの管理責任

者について、あらかじめ本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態(例えばウェブサイト

で公表している場合)に置いている場合には、「第三者」に該当しないものとされています(い

わゆる共同利用制度。個人情報保護法 23条5項3号)。これらの場合には、そもそも第三者へ

の提供に該当しないため、本人の同意をあらかじめ取得することなく、個人データを提供する

ことができます。

また、個人情報取扱事業者は、第三者に提供される個人データについて、本人の求めに応じ

て当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止することとしている場合であって、

次に掲げる事項について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置い

ているときは、当該個人データを第三者に提供することができます。これを「オプトアウト」

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と呼ぶことがあります。

・第三者への提供を利用目的とすること

・第三者に提供される個人データの項目

・第三者への提供の方法

・本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止すること

・本人の求めを受け付ける方法

オプトアウトについては、要配慮個人情報については認められないものとされているほか、

「通知又は容易に知り得る状態に置く措置」については、本人が提供の停止を求めるのに必要

な期間をおくこと及び上記の事項について確実に認識できる適切かつ合理的な方法によるもの

とされています(個人情報保護法施行規則7条)。また、オプトアウト手続を行う事業者は、本

人通知等を行う事項について、個人情報保護委員会への事前届出をすることが必要とされ、同

委員会がウェブサイト上で届出に係る事項の公表をすることとなります(個人情報保護法 23

条3項及び4項)。

また、個人データの第三者提供をする場合及び受領する場合、個人情報保護法 23条1項各号

又は5項各号に該当する場合を除き、年月日、当該第三者の氏名又は名称その他の事項につい

て第三者提供に係る記録の作成・保管が必要となります(個人情報保護法 25条1項及び2項)。

3-5 「保有個人データ」に関する義務

「保有個人データ」とは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用

の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データであって、

その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの

又は6か月以内に消去することとなるもの以外のものをいいます(個人情報保護法2条7項、

同法施行令5条)。

「保有個人データ」については、保有個人データに関する事項の公表(個人情報保護法 27条)、

本人から求められた場合の開示(個人情報保護法 28条)、本人から求められた場合の訂正(個人

情報保護法 29条)、本人から求められた場合の利用停止(個人情報保護法 30条)、本人から求め

られた場合の理由の説明(個人情報保護法 31条)に関する義務が規定されています。

なお、反社会的勢力に関する保有個人データについては、事業者がこれを保有していること

が明らかになることにより、不当要求等の違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれ

がある場合、個人情報保護法施行令4条2号(存否が明らかになることにより、違法又は不当

な行為を助長し、又は誘発するおそれがあるもの)に該当し、個人情報保護法2条7項により

保有個人データから除外されるものとされています。このため、当該個人情報については、本

条に定める義務の対象とならず、当該個人情報取扱事業者の氏名又は名称、その利用目的、開

示等の手続等について、公表等をする必要はないと考えられます。

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3-6 「要配慮個人情報」及び「機微(センシティブ)情報」に関する義務

「要配慮個人情報」とは、本人の「人種」、「信条」、「社会的身分」、「病歴」、「犯罪の経歴」、

「犯罪により害を被った事実」及び「その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が

生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人

情報」をいいます(個人情報保護法2条3項)。

政令で定める記述等としては、一定の心身の機能の障害があること、健康診断等の結果、医

師等による改善指導、診療若しくは調剤が行われたこと、本人を被疑者又は被告人として、逮

捕、捜索、差押え、勾留、公訴の提起その他の刑事事件に関する手続が行われたこと、少年法

に基づく調査、観護措置、審判、保護処分その他の少年の保護事件に関する手続が行われたこ

とが挙げられています(個人情報保護法施行令2条)。

要配慮個人情報の取得については、原則として本人の同意が必要であり、法令に基づく場合

や、人の生命・身体又は財産の保護のために必要がある場合であって本人の同意を得ることが

困難な場合等、一定の場合のみ例外的に本人の同意なしに取得することができるものとされて

います(個人情報保護法 17 条2項)。また、要配慮個人情報をオプトアウト手続によって第三

者提供することは許されておらず、個人情報保護法 23条1項各号や5項に定める一定の場合を

除き、本人の同意が必要となります。

また、「機微(センシティブ)情報」は、金融分野ガイドライン5条1項において定められて

おり、「要配慮個人情報」並びに「労働組合への加盟、門地、本籍地、保健医療及び性生活(こ

れらのうち要配慮個人情報に該当するものを除く。)に関する情報」とされています(ただし、

本人、国の機関、地方公共団体、放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関など一定の者に

より公開されているものを除くものとされているほか、本人を目視し、若しくは撮影すること

により取得するその外形上明らかなものを除くものとされています。)。

「金融分野における個人情報取扱事業者」に該当する協会員は、「機微(センシティブ)情報」

について、法令等に基づく場合や人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合など

一定の場合を除き、取得、利用又は第三者提供を行うことが禁止されています(金融分野ガイ

ドライン5条)。なお、「機微(センシティブ)情報」については、金融分野ガイドライン上、

本人の同意があっても、それだけでは取得、利用又は第三者提供を行うことはできないものと

されていることに注意が必要です。

3-7 法人情報、公開情報その他

法人の情報は、個人情報保護法及び金融分野ガイドラインにおいては対象とされていません

が、法人の代表者個人や取引担当者個人の氏名、住所、性別、生年月日、顔画像等個人を識別

することができる情報は、個人情報に該当することに注意が必要です。

また、個人情報保護法では、公開・非公開を区別しておらず、非公開情報のみを保護するも

のではないことにも注意が必要です。したがって、公開情報であっても個人情報の定義に該当

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する限り、個人情報となります。

なお、金融商品取引業者は、個人顧客の情報についての管理が要請されているほか(金商業

等府令 123条1項6号・7号)、監督指針上は、法人を含む顧客に関する情報について金融商品

取引の基礎をなすものであり、その適切な管理が確保されることが極めて重要であるとされ、

顧客情報の適正な管理態勢の整備が求められています(金融商品取引業者等向けの総合的な監

督指針Ⅲ―2―4)。なお、インサイダー取引をはじめとする不公正取引防止の観点からも、法

人関係情報(金商業等府令1条4項 14 号)について必要かつ適切な措置を講ずることが求めら

れており(金商業等府令 123 条1項5号)、監督指針の着眼項目として規定されていることに留

意すべきと考えられます。

3-8 マイナンバー法

2016(平成 28)年1月1日より「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用

等に関する法律」(いわゆる「マイナンバー法」)が施行となり、マイナンバー(社会保障・税

番号)制度が開始されました。マイナンバー制度は、社会保障、税、災害対策の分野で効率的

に情報を管理し、複数の機関が保有する個人の情報が同一人の情報であることを確認するため

に活用されるもので、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現する社

会基盤とされています。

2015(平成 27)年 10月1日以降、住民票を有する者に対し、12桁の「個人番号」(いわゆる

「マイナンバー」)が通知され、法人に対しては 13桁の「法人番号」が指定されました。個人

番号は公表されることはなく、その取得・利用・管理等には厳格な制限が課せられますが、法

人番号は公表され、利用範囲の制限はなく、誰でも自由に利用することができます。

「個人番号関係事務実施者」である事業者(協会員は、通常、従業員の給与支払い等との関

係でこれに該当します。)は、事業者が提出を必要とする法定書類(当初は、税務・社会保障・

災害対策関係に限定され、例としては給与所得の源泉徴収票や支払調書等がこれに該当しま

す。)に個人番号を記載することが必要となります。そのためには、本人から個人番号の提供を

受けることが必要ですが、個人番号の提供を受ける際には、その利用目的の通知又は公表が必

要となるほか、提供を受ける都度、所定の方法で本人確認を行うことが必要となります(16条)。

個人番号については、厳格な管理が必要であり、法定の目的以外で利用することが禁止され

るほか、個人番号の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人番号の適切な管理のために必要

な措置を講じなければならないものとされています(12 条)。また、個人番号をその内容に含

む個人情報である「特定個人情報」は、名寄せなどが行われるリスクがあることから個人情報

保護法より厳格な保護措置が上乗せされています。特定個人情報の提供には制限があり(19 条)、

特定個人情報の目的外収集及び保管は禁止されています(20条)。

仮に、業務に関して知り得た個人番号を、自己又は第三者の不正な利益を図る目的で提供又

は盗用した場合には、3年以下の懲役又は 150 万円以下の罰金若しくは併科となるなどの刑事

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罰が科されることになっています。また、正当な理由なく、業務で取り扱う個人の秘密が記録

された特定個人情報ファイルを提供した場合には、4年以下の懲役又は 200万円以下の罰金若

しくは併科の刑事罰が科されることとなります。

4 犯罪による収益の移転防止に関する法律

犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」といいます。)は、

犯罪収益の洗浄(マネー・ローンダリング)やテロリストに対する資金供与の防止のため、定

められた法律です。原則として、最初に金融商品等を販売する契約締結の際などに、一定事項

の取引時確認が必要となるほか、疑わしい取引があれば、相手方その他の関係者に知らせずに

報告をしなければなりません。なお、犯罪収益移転防止法は、2016(平成 28)年 10 月1日の

改正法の施行により、疑わしい取引の判断方法の明確化、外国 PEPs との厳格な取引確認の実

施、実質的支配者の確認方法の厳格化、使用人に対する教育訓練の実施、取引時確認等の措置

の実施に関する規程の作成、取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他の業

務を統括管理する者の選任などが求められることとなりました。

4-1 概要・趣旨

犯罪収益移転防止法は、マネー・ローンダリング(資金洗浄)の防止の観点から、犯罪によ

る収益の移転防止、テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約等の的確な実施を確

保し、もって国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与するこ

とを目的とする法律です。

このため、協会員が一定の取引を行うに際しては、(1)取引時確認義務、(2)確認記録の作

成及び保存義務、(3)取引記録等の作成及び保存義務及び(4)疑わしい取引の届出義務が課さ

れています。なお、本法以外にも、「外国為替及び外国貿易法(昭和 24年 12月1日法律第 228

号)」(以下「外為法」といいます。)に基づき、本人確認義務が課されています(外為法 22条

の2)。

4-2 取引時確認義務

協会員は、顧客に有価証券を取得させることを内容とする契約を締結する際は、最初に顧客

について本人特定事項等の取引時確認を行う必要があります(犯罪収益移転防止法4条1項、

同法施行令7条1項1号リ)。なお、2013(平成 25)年4月1日の改正法施行前においては、

この確認は「本人確認」と呼ばれていましたが、現在は「取引時確認」と名称が変更されてい

ます。

協会員は、本人確認書類の提示又は送付を受ける等により、本人特定事項(自然人について

は一定の外国人を除き氏名、住居及び生年月日、法人については名称及び本店又は主たる事務

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所の所在地)、取引を行う目的、職業(当該顧客等が自然人の場合。法人の場合は事業の内容)、

当該顧客等が法人の場合、その事業経営の実質的支配者(支配することが可能となる関係にあ

るものとして同法施行規則 11 条2項で定める者)がある場合にはその者の本人特定事項を確認

しなければなりません(犯罪収益移転防止法4条1項)。

さらに、①なりすましの疑いがある取引や、②確認事項を偽っていた疑いがある顧客等との

取引、③イラン又は北朝鮮に居住し又は所在する顧客等との間の取引その他イラン又は北朝鮮

に対する財産の移転を伴う取引、④外国の元首及び外国の政府、中央銀行その他これらに類す

る機関において重要な地位を占める者として同法施行規則 15 条で定める者並びにこれらの者

であった者との取引、⑤④に掲げる者の家族(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚

姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この⑤において同じ。)、父母、子及び兄弟姉妹並び

にこれらの者以外の配偶者の父母及び子をいう。)との取引、⑥法人であって、④又は⑤に掲げ

る者が実質的支配者であるものとの取引を行う場合は、いわゆるハイリスク取引として厳格な

取引時確認が必要となります(犯罪収益移転防止法4条2項、同法施行令 12 条、同法施行規則

15 条)。そのうち、①及び②の取引については、本人特定事項について当初行った確認とは異

なる方法による取引時確認が必要となります。また、これらの取引のうち、200 万円を超える

財産の移転を伴う取引については、顧客の「資産及び収入の状況」について追加確認が必要と

なります(同法施行令 11条)。

本人確認書類は、個人の場合は、運転免許証・在留カード・特別永住者証明書・個人番号カ

ード、各種健康保険証・国民年金手帳等とされています(同法施行規則7条各号)。

なお、本人確認書類は、原則として有効期限のある証明書については提示又は送付を受ける

日において有効なものに限られ、有効期限のない証明書については提示又は送付を受ける日の

前6か月以内に作成されたものに限られる点に注意が必要です(同法施行規則7条柱書)。

代理人が取引を行う場合には、本人に加えて代理人についても取引時確認が必要です。会社

の経理担当者が会社のために預金口座を開設する場合なども同様に、会社のみならず、経理担

当者についても取引時確認が必要です(犯罪収益移転防止法4条4項)。

なお、取引を行おうとする顧客について既に取引時確認を行っており、かつ、当該顧客につ

いての確認記録を保存している場合には、顧客から確認記録に記録されている者と同一である

ことを示す書類等の提示等を受けるか、顧客しか知り得ない事項等の申告を受けることにより、

顧客が確認記録に記録されている者と同一であることを確認すれば(事業者が顧客と面識があ

る場合など、顧客が確認記録に記録されている者と同一であることが明らかな場合は、このよ

うな確認手続も不要です。)、改めて取引時確認を行う必要はありません(犯罪収益移転防止法

4条3項、同法施行令 13条1項柱書)。

ただし、ハイリスク取引については、たとえ既に取引時確認をしたことのある顧客との取引

であっても、改めて取引時確認を行う必要があります。

なお、犯罪収益移転防止法施行規則4条に定める取引については、簡素な顧客管理を行うこ

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とが許容される取引に該当し、取引時確認が必要となる対象取引から除かれます。

また、2018(平成 30)年 11 月 30日施行の犯罪収益移転防止法施行規則により、①顧客等か

ら、特定事業者が提供するソフトウェアを使用して、本人確認用画像情報の送信を受ける方法、

②顧客等から、特定事業者が提供するソフトウェアを使用して、本人確認用画像情報の送信を

受けるとともに、当該顧客の写真付き本人確認書類に組み込まれた半導体集積回路に記録され

た当該情報の送信を受ける方法等の、オンラインにより完結する取引時確認の方法等が許容さ

れることとなりました(犯罪収益移転防止法施行規則6条1項1号ホからト)。

4-3 確認記録の作成・保存義務

取引時確認を行った場合には、直ちに確認記録を作成し、当該契約の取引終了日及び取引時

確認済み取引に係る取引終了日のうち後に到来する日から7年間保存しなければなりません

(犯罪収益移転防止法6条、同法施行規則 21 条)。

確認記録には、取引時確認を行った者の氏名、確認記録の作成者、本人確認書類の提示を受

けた日付等、取引時確認を行った取引の種類、取引時確認を行った方法などを記載する必要が

あります(同法施行規則 20 条)。

4-4 取引記録等の作成・保存義務

顧客との間で、特定業務に係る取引を行った場合は、直ちに取引記録を作成し、当該取引の

行われた日から7年間保存しなければなりません(犯罪収益移転防止法7条)。

ただし、財産移転を伴わない取引や、財産移転を伴う場合でも価額が1万円以下の取引など

一定の場合については、取引記録を保存する必要はありません(同法施行令 15条1項)。

4-5 疑わしい取引の届出義務

顧客から受け取った財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、又は顧客が犯罪収益

の取得や処分について事実を仮装したり、犯罪収益を隠匿したりしている疑いがあるかどうか

を判断し、これらの疑いがあると認められる場合には、速やかに行政庁に対して疑わしい取引

の届出を行わなければなりません(犯罪収益移転防止法8条)。

届出すべき事項は、①届出者の名称及び所在地、②疑わしい取引が発生した年月日及び場所、

③業務の内容、④当該取引に係る財産の内容、⑤顧客又は代表者等の氏名及び住所、⑥届出を

行う理由、とされています(同法施行令 16条2項)。

疑わしい取引に該当するかどうかの判断は、当該取引に係る取引時確認の結果、当該取引の

態様その他の事情及び犯罪収益移転危険度調査書(犯罪収益移転防止法3条3項)の内容を勘

案し、かつ、所定の確認項目に従い、所定の確認方法により行わなければなりません(同法施

行規則 26条、27条)。

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ここでいう「犯罪による収益」とは、犯罪から直接得た犯罪収益のみならず、犯罪収益の対

価として得た財産や犯罪収益の保有又は処分に基づいて得た財産が含まれます。例えば、犯罪

収益を預金した場合の利息や、窃盗によって奪った品物を売却して得た代金なども「犯罪によ

る収益」に含まれます。

また、「疑いがある」とは、協会員の役職員が、金融業界における一般的な知識と経験を前

提として、取引の形態や顧客の属性、取引時の状況等を踏まえて総合的に勘案して判断するも

のとされています。ただし、特定の犯罪の存在まで認識している必要はなく、「犯罪による収

益」であるという疑いを生じさせる程度の何らかの犯罪の存在の疑いがあれば足りると考えら

れます。

なお、疑わしい取引の届出を行おうとすること、又は行ったことを、当該疑わしい取引の届

出に係る顧客又はその関係者に漏らしてはなりません(犯罪収益移転防止法8条3項)。

4-6 体制整備義務

協会員は、取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置を的確に行うため、

①取引時確認事項に係る情報を最新の内容に保つための措置を講ずることのほか、②使用人に

対する教育訓練の実施、③取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成、④統括管理者の選

任、⑤特定事業者作成書面等の作成及び必要に応じた変更、⑥取引時確認等の措置を行うに際

して必要な情報の収集、整理及び分析、⑦確認記録及び取引記録等の継続的な精査、⑧リスク

の高い取引を行う際の統括管理者の承認、⑨リスクの高い取引について、情報の収集・整理・

分析結果の書面化と保存、⑩必要な能力を有する職員の採用、⑪取引時確認等に係る監査の実

施が努力義務とされています(犯罪収益移転防止法 11 条、同法施行規則 32条。なお、⑥及び

⑦は特定事業者作成書面等の内容を勘案して行うこととされています。)。

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コラム FATF勧告と犯罪収益移転防止法

1989(平成元)年のアルシュ・サミットにおける合意で設置された政府間会合である FATF

(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)は、「40の勧告」及び「9の特別勧告」を

公表し、各国政府はこれに従ってマネー・ローンダリング対策を推進すべきものとされています。

また、FATF は、相互に各国がこれらの勧告を履行しているかその遵守状況を相互に審査してい

ます。

なお、2019(令和元)年に FATF 第4次対日相互審査が実施されましたが、その後も実効性あ

るマネー・ローンダリング対策が各社において行われることが望まれています。金融庁は、2018

(平成 30)年2月6日、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」

を公表し、リスクベース・アプローチによるマネロン・テロ資金供与対策が有効に機能するよう、

各金融機関等において「対応が求められる事項」「対応が期待される事項」を明確化しました。今

後、金融庁としては本ガイドラインを踏まえてモニタリングを実施することとされていますが、

本ガイドラインのほか、監督指針、「犯罪収益移転防止法に関する留意事項について」及び「疑わ

しい取引の参考事例」等にも留意する必要があるとしています。

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第4章 デリバティブ取引の概説

1 デリバティブ取引の歴史

デリバティブ(Derivatives)とは、金融資産から「派生」したもの、つまり、株式や債券な

どの有価証券を原資産とする、あるいは金利や為替などを参照指標とする金融取引のことです。

今日、「デリバティブ」という用語は、金融市場のみならず世間一般に広く知れわたっています。

デリバティブは金融リスクを増幅させ、経済に悪影響を及ぼすものと非難する見解もあります

が、現代の金融を支える不可欠な要件であり、金融イノベーションの最たるものとして定着し

ています。

デリバティブ市場は、近年まで成長の一途をたどってきましたが、どうしてそれほどまでに

デリバティブ取引のニーズがあったのでしょうか。その理由の一つには、デリバティブには、

単にキャッシュ・フローをそのまま流す(パス・スルー)だけでなく、キャッシュ・フローを

組み替えて、リスク移転を円滑にするという機能があるためです。ここでのリスク移転とは、

伝統的資産に対して先物でリスク・ヘッジするというだけのものではなく、様々な資産やリス

ク・ファクターと時間を横断した、より多様できめ細かなものです。

企業や金融機関、投資家は多様なタイプのリスクにさらされており、それらのリスクをヘッ

ジするニーズ、あるいはそのリスクを取って投資するニーズは高いといえます。もちろん、デ

リバティブの利用によるリスク移転は、ゼロサムであることから、市場全体としてのリスクを

低減しているわけではありませんし、現物の裏付けなく合成されたデリバティブも数多くあり

ますので、金融市場に過剰にマネーが供給されかねないと危惧する意見もあります。しかし、

リスクの偏在化を避け、効果的なリスク・ヘッジを可能とすることは、リスク管理のみならず

資本効率を高めるためにも大切なことですから、デリバティブ取引へのアクセスは、経営上あ

るいは投資判断上の重要な選択肢といえます。

デリバティブ取引の歴史は古く、一説にはギリシア文明にまで遡る文献もあります。

先物取引は、まず農作物や金属等の一般商品から始まりました。こうした商品を対象とした

先物取引を、商品先物取引(commodity futures)といい、外国通貨、債券、預金金利、株価

指数等の金融商品の先物取引を、商品先物取引と区別して金融先物取引(financial futures)

といいます。本章では、以下、特に断りのない限り、金融先物取引は広く外国通貨、債券、預

金金利、株価指数等のすべての金融商品の先物取引を指す用語として用います。

金融先物取引は 1972(昭和 47)年、シカゴ商業取引所(CME)が所内に国際通貨市場(IMM)

を発足させ、外国通貨の先物取引を開始したのが最初です。これを契機として、1970年代後半

から 1980年代初めにかけて、米国で債券、金利及び株価指数等の金融商品の先物取引が開始さ

れました。特に、1980年代前半には次々に新商品が生み出され、金融先物商品の多様化が著し

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く進みました。

一方、目を他国に転じると、1980年代中盤にかけて英国、カナダ、オランダ、オーストラリ

ア、シンガポール等の国々で金融先物取引が導入され、金融先物取引は 1980 年代に世界的な広

がりをみせました。

今日、金融先物取引は全先物取引の主力を担うようになっています。米国では 1985(昭和 60)

年以来、金融先物の取引高が商品先物の取引高を上回るようになりました。

我が国で最初の金融先物取引は、1985(昭和 60)年に開始された長期国債先物取引です。こ

れは大方の予想をはるかに上回る速さで拡大し、取引開始後1年足らずで現物の売買高を凌ぐ

までに成長しました。1987(昭和 62)年には売買金額基準で世界一となり、世界の先物関係者

に注目されました。

株式関係の先物については、証券取引所において、まず 50銘柄の株式をパッケージにした先

物取引(株先 50)が 1987(昭和 62)年に導入され、次いで株価指数の先物取引が証券取引法

の改正を待って 1988(昭和 63)年に開始されました。1989(平成元)年には金融先物取引所が

創設され、通貨・金利の先物も導入されました。2007(平成 19)年9月には、金融先物取引法

が廃止され証券取引法を改正した金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)が施行され、

有価証券関連等を行う「証券取引所」と金融先物取引のみを扱う「金融先物取引所」は、あら

ゆる金融商品を取り扱う「金融商品取引所」とされております。

他方、商品関係の先物については、大阪が全国各地の大名が廻送してくる貢租米を売買する

市場として圧倒的地位を築いていた 1730(享保 15)年に、江戸幕府が大坂堂島米会所での米取

引(現物(スポット)取引、先物取引)を認めたことで、世界初の組織的な先物取引市場とし

て生まれました。戦後の日本では、綿糸・毛糸・ゴム・生糸・乾繭・砂糖・農産物・貴金属と

いった様々な商品を取扱う取引所が誕生しましたが、産業の発展に伴い、統廃合が進みました。

2011(平成 23)年には商品取引所法が改正され、国内商品取引所と取引所外取引並びに海外商

品市場をカバーする法律として、商品先物取引法が施行されました。

その後、値付け制度の改正や証拠金制度の改革等、利便性の向上が順次図られ、特に 2000

年以降、国内取引所の海外取引所との提携が加速し、商品の多様化も進みつつあります。

2013(平成 25)年1月には、株式会社東京証券取引所と株式会社大阪証券取引所が、グロー

バルな取引所間競争における競争力を高めることなどを目的として経営統合を行い、「株式会社

日本取引所グループ」を設立しました。これを受け、両取引所で取引されていた金融先物・オ

プション取引は、2014(平成 26)年3月 24 日から株式会社大阪取引所(株式会社大阪証券取

引所が同日に商号変更)に一本化されています。

また、2019(令和元)年 11月には、株式会社日本取引所グループと株式会社東京商品取引所

が、金融及び商品分野のデリバティブ商品をワンストップで取引できる、いわゆる「総合取引

所」の実現を目的として経営統合を行い、株式会社東京商品取引所は、株式会社日本取引所グ

ループの完全子会社となりました。今後、東京商品取引所に上場する貴金属、ゴム及び農産物

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に係る商品先物等の大阪取引所への商品移管、及び株式会社日本取引所グループの子会社であ

る株式会社日本証券クリアリング機構と株式会社東京商品取引所の子会社である株式会社日本

商品清算機構の統合を通じた「総合取引所」の実現が予定されております。

オプション取引においては、取引自体の発生は、ギリシア時代のオリーブの豊作を予想して

圧搾機を利用する権利を買ったという説もあります。近代においては、17世紀初頭のオランダ

のチューリップの球根売買のオプション取引があります。

英国では、1690年代にオプション市場ができましたが、1733 年ウォルポール内閣下のバーナ

ード法で違法とされました。ところがその人気は衰えず、逆にバーナード法は 1860 年に廃止さ

れました。

米国では、18世紀後半に始まり、南北戦争後に現代的なオプション取引が始まりました。1920

年代には投機の手段としてオプション市場は店頭市場で普及しました。しかし、販売促進のた

めにセールスマンに与えたオプションは、相場操縦として使われ問題となりました。

1973(昭和 48)年4月 26日、シカゴ・オプション取引所(CBOE:Chicago Board Option

Exchange)において 16 銘柄の個別株のコール・オプション取引が、まずスタートしました。

1977(昭和 52)年にはプット・オプションの取引も開始されましたが、販売や取引に不正行為

が目立ったため、SEC(Securities and Exchange Commission)は、新商品・対象銘柄の増加

を含む業務拡大を禁止する、いわゆるモラトリアム政策を実施しました。

1980(昭和 55)年3月に入ると、この措置は撤廃され、現在のオプション取引の隆盛が始ま

りました。

折しもレーガン政権下の金融自由化と相場の活況というフォローの風を受け、取引は拡大し、

さらに新商品開発に拍車がかかることになりました。それは、世界の主要な取引所にも影響を

与え、欧州・日本の先物オプション取引開始を誘発することにもなりました。

デリバティブ市場は、金融市場のグローバル化・ボーダーレス化が加速する 21世紀に著しく

成長し、商品開発や取引手法という点で目をみはる発展がありました。これらの多くは相対取

引でしたので、相対取引に関して法務的な意味での環境を整える必要がありました。

例えば、スワップ取引などでは、デリバティブ業務に関係する業者等が参加する国際的な業

界団体である ISDA(International Swaps and Derivatives Association、一般に、「イスダ」

といいます。)が公表する基本契約書に準拠した、マスターアグリーメントという契約書の雛

形を用いるといった、一種の標準化が国際的に図られたことにより、デリバティブに関する相

対取引のグローバリゼーションが大きく進展したと考えられています。こうした標準化の流れ

は、会計の面や内部統制及びリスクマネジメントの点についてもみられます。

時価会計への移行と規制緩和、グローバリゼーションの流れのなか、デリバティブ・トレー

ディングやセールス業務の進化と拡大、商品設計の複雑化や多様化、リスク管理とバックオフィ

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ス業務の高度化と効率化、そして、クオンツ及び IT の金融工学の発展によって、様々なデリ

バティブ・ビジネスが普及してきました。

もちろん、2007(平成 19)年に顕在化したサブプライム問題からも分かるように、これまで

のデリバティブ業務の進化と発展に、全く問題がなかったというわけではありません。その後

に続く金融市場の混乱と信用収縮のなかで、「市場原理主義的な規制緩和の指向を改めるべき」

という考え方が世界中のコンセンサスになりました。しかし、現存するデリバティブ取引残高

は膨大であり、今後の新規取引もかなりの量が見込まれるため、店頭デリバティブ規制を含む

金融規制改革が如何に大変なものになるか、容易に想像がつきます。今後、デリバティブ・ビ

ジネスのあり方にも見直しが必要でしょう。金融業務に携わる関係者は、その内容を十分に理

解し、適切に問題を対処し、真摯に業務を遂行する、といった姿勢が常に求められているので

す。

2 デリバティブ取引と金融商品取引法

2007(平成 19)年9月末に金商法が施行され、金融商品は、従来の限定列挙方式から、包括

的にとらえた枠組みで扱われることになりました。当時の世界標準に平仄を合わせる意図に基

づいたものです。また、従来は、商品・商品指数を原資産・参照指標とする商品デリバティブ

取引は、農産物や金属等の生産・流通をめぐる政策と密接に関係するものとして商品先物取引

法により規制されていたものの、2012(平成 24)年の金商法の改正により、商品・商品に係る

金融指標を原資産・参照指標とする市場デリバティブ取引を、金融商品取引所の開設する金融

商品市場において取り扱うことが可能となりました。

金商法におけるいくつかの要点を列挙すると、次のようになります。まず、デリバティブの

原資産となる金融商品及び金融指標については、次のように整理されています。

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① 金融商品(金商法2条 24 項)

1) 有価証券

2) 預金契約に基づく債権などの権利又は当該権利を表す証券や証書

3) 通貨

4) 暗号資産(資金決済に関する法律2条5項に規定する暗号資産をいいます。)

※2019(令和元)年6月7日に公布されている「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多

様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」の内容を記載

しております。

5) 商品

6) 同一の種類のものが多数存在し、価格の変動が著しい資産であって、当該資産に係るデ

リバティブ取引について投資者の保護を確保することが必要と認められるもの

7) 金融商品取引所が、市場デリバティブ取引を円滑化するため、利率、償還期限その他の

条件を標準化して設定した標準物

② 金融指標(金商法2条 25 項)

1) 金融商品の価格又は利率等

2) 気象庁その他の者が発表する気象の観測の成果に係る数値

3) 事業活動に重大な影響を与える指標又は社会経済の状況に関する統計の数値

4) 前記 1)から 3)までに掲げるものについて算出した数値

②の 2)では、天候デリバティブが典型的な規制対象ですが、気象現象のほかにも地震、津波

なども含まれます。②の 3)には「その(数値の)変動に影響を及ぼすことが不可能若しくは

著しく困難」である要件が課されており、人為的な操作の影響から免れている必要があります。

統計法にもよりますが、例えば、GDP 等の統計は恣意的な操作が困難と想定されます。

また、かつての証券取引法と金融先物取引法〔廃止〕で規制していたデリバティブ取引の対

象を広げ、金商法では、次のデリバティブ取引が新たに規制の対象となりました。

・通貨/金利スワップ取引

・クレジット・デリバティブ

・天候デリバティブ

・事業活動に重大な影響を与える指標又は社会経済の状況に関する統計の数値に係るデリバ

ティブ取引のうち政令で定めるもの(商品指数に係るものを除きます。)

……いわゆる災害デリバティブ(カタストロフィック・デリバティブ)

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このほか、金商法に規定されているデリバティブ取引に関する主な注意点は、次のとおりで

す。

・第一種金融商品取引業を行う業者については、自己資本規制が課せられている。店頭デリバ

ティブでは、特に高い専門性を要求され、リスクも高いため、扱うには第一種金融商品取引

業登録が必要とされる。

・第二種金融商品取引業者は、有価証券に係る市場デリバティブ取引(外国市場デリバティブ

取引を含みます。)以外の市場デリバティブ取引は扱えるが、店頭デリバティブ取引は扱え

ない。

・経済統計(GDP、CPI)などは金融指標の範疇ちゅう

に入るが、商品指数、地震、排出権、不動産

などは必ずしも金融指標に属さない(ただし、個別的に、政令指定する場合あり)。

・「特定投資家(プロ)」、「一般投資家(アマ)」を区分し、一部の特定投資家を相手方

として行う店頭デリバティブ取引は金融商品取引業の範囲から除かれる。

・特定有価証券等に係る売買のほかに、特定有価証券に係るデリバティブ取引(CDS 等の

クレジット・デリバティブ)も内部者取引(インサイダー取引)規制の

対象となる。

・顧客から取引証拠金として預託を受けた金銭又は有価証券を、自己の固有財産と分別して管

理しなければならない。

・有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等の取引量に応じ、金融商品取引責任準

備金を積み立てなければならない。

金商法におけるデリバティブ取引の分類としては、①市場デリバティブ取引、②店頭デリバ

ティブ取引及び③外国市場デリバティブ取引となります。

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3 先物取引 3-1 先物取引とは

先物取引とは、

・あらかじめ定められた期日に

・特定の商品(原資産)を

・取引の時点での約定価格で

売買することを契約する取引です。

この契約により、買方は売方より期限日に対象商品を約定価格で購入する義務を、逆に売方

は買方へ売却する義務を負うこととなります。ただし、期限日まで待たずに、反対売買(買方

の場合は転売、売方の場合は買戻し)を行うことで、契約を解消することも可能です。

先物取引は、対象商品及び期限日の決済方法の相違により、分けられます。

先物取引は「株価指数」などの抽象的な指数を対象商品としたものがあり、期限日には契約時

の約定価格と最終決済価格の差額のみを受払いする差金決済が行われます。なお、差金決済とは

「買い付け(又は売り付け)た時点での先物価格」と「決済時点での先物価格」の差額のみを受

け渡す方法です。

また、貴金属や農産物等が原資産である商品先物取引(商品関連市場デリバティブ取引)には、

期限日に受渡決済を選択することができる銘柄がありますが、実際には受渡決済を選択する投

資家はごく少数で、ほとんどが差金決済によって取引が終了します。なお、受渡決済を選択でき

ない銘柄については、最終決済価格を基準とした差金決済が行われます。

先物取引を行う投資家は証拠金(Margin)を担保として差し入れて取引を行うことができま

す。証拠金とは、先物・オプション市場において将来発生するおそれのあるリスク(予想損益額)

を計算し、契約の履行を確保するための担保として差し入れる、現金や有価証券(商品関連市場

デリバティブ取引の場合には、倉荷証券など商品を預かる倉庫会社等により発行された証券・証

書も利用可能です。)のことです。

先物取引には、反対売買を自由に行うことができるという特徴があります。

先物契約の買方(売方)は、対象商品価格が上昇(下落)してくれば利益が、下落(上昇)す

れば損失が発生します。買方(売方)は当初の予想に反して相場が下落(上昇)したとしても、

早期に反対売買(買方:転売、売方:買戻し)を行い契約を解消すれば、損失の拡大を抑えるこ

とができます。

先物取引の決済方法

先物取引には、二つの決済方法があります。

(1)反対売買

取引最終日までに買建ての場合は転売、売建ての場合は買戻しによる反対の売買を

行うことにより、先物契約を解消します。

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(2)最終決済

《現物受渡しの可能な商品の場合》

買方は売方に約定金額を支払い、売方は買方に現物(商品関連市場デリバティブ取

引の場合には、倉荷証券など商品に関して発行された証券・証書を含みます。)を受

け渡す受渡決済を行います。

《現物受渡しのできない商品の場合》

約定価格と最終決済価格との差額を受け渡す差金決済を行います。

3-2 先物の価格形成

先物市場と現物市場の間では別に価格付けが行われますが、先物価格がどのように決まるか

は、現物価格が基準となります。

先物の期限日(満期日)が到来すると、先物は現物と同じ値段になるからです。例えば、日経

225 先物のような指数先物では、期限日が到来すると先物は特別清算数値(SQ 値)で清算され

ます。特別清算数値は毎月の第2金曜日の日経平均構成銘柄の始値によって計算される数値で

す。つまり、基本的に先物価格は、現物価格と密接な関係をもっています。

しかし、実はこれだけでは先物価格の決定要因としては不十分です。先物の価格付けについて

は、先物の理論価格を理解することが重要です。「先物理論価格」とは実際の価格ではなく計算

で求められた理論上の価格です。

先物価格は現物価格に比べて

(今現物を取得するために

必要な資金額× 短期金利 × 期日までの期間) − (

今現物を取得すること

により得られる収入)

だけ高くてちょうど釣り合いのとれた状態です。上記枠内の式の「今現物を取得することにより

得られる収入」とは、株式なら配当金、債券なら期間利息のことですが、商品(貴金属や農産物

など)については該当するものはありません。この釣り合った状態の価格が「先物理論価格」で

あり、実際の先物理論価格は現物価格に比べて割安になったり、割高になったりすることがあり

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ます。上記枠内の式の値を、現物を所有するためにかかるコストという意味で、キャリーコスト

といいます(キャリーコストは「ベーシス」とも呼ばれます。)。

先物の価格は次式によって表されます。

先物価格=現物価格+キャリーコスト

配当利回りが短期金利よりも低い場合には、キャリーコストは正の値になり、配当利回りが短

期金利よりも高い場合には、キャリーコストは負の値になります。このため、前者の場合は、先

物価格は現物価格よりも高く(この状態を「先物がプレミアム」といいます。)、後者の場合は、

先物価格は現物価格よりも低く(この状態を「先物がディスカウント」といいます。)なります。

実際の先物価格は取引コスト等の問題や、市場参加者の需給などが複雑に絡み合って決定さ

れます。つまり、これらの影響をαとして、実際の先物価格は次のように表されます。

先物価格=現物価格+キャリーコスト+α

《先物理論価格算出式》

先物理論価格 = 現物価格 × {1 + (短期金利 − 配当利回り) ×満期日までの日数

365}

※短期金利、配当利回りは年率

以上については、金融デリバティブ価格と現物価格との理論的な関係ですが、商品関連市場デ

リバティブ取引については、必ずしも上記の説明が当てはまりません。金融デリバティブ取引に

ついては、金利や配当により先物理論価格が現物価格より導かれますが、商品(コモディティ)

については、保有することによるキャッシュ・フローは基本的には発生しません。また、金利以

外の要因として、倉庫料などの保管コストや当該商品を他者にリースをすることで享受できる

リース料に加え、将来の需給環境の違いも先物価格と現物価格の差を説明する要因となり得ま

す。この将来の需給環境の違いという部分は理論的に定量化・特定化することが難しく、一般的

にはコンビニエンス・イールド(現物を保有することでもたらされる便益:現物を保有していれ

ば、直ちに生産をすることができますが、先物ポジションを保有するだけでは直ちに生産を行う

ことはできないため、状況変化への即応性という点で現物保有のほうが有利であることなどが

コンビニエンス・イールドの具体例としてしばしば挙げられます。)と呼ばれています。以上の

点を踏まえて、コモディティ先物価格と現物価格の関係を式で表すと以下のようになります。

・リースができない商品の場合

コモディティ先物価格=コモディティ現物価格+金利+保管コスト-

コンビニエンス・イールド

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・リースが可能な商品の場合

コモディティ先物価格=コモディティ現物価格+金利-リース料-

コンビニエンス・イールド

(注)劣化しない貴金属などのリースができる商品については保管コストを負担することなし

にリース料を獲得することも可能。

3-3 先物取引の利用方法

先物取引の重要な意義は、価格変動リスクの移転機能です。現物の価格変動のリスク(予期

しない価格変動が発生する危険性)を避けたいと思う人は、その商品の先物を売るなり買うなり

して価格変動のリスクを回避(リスク・ヘッジ)することができます。商品の現物を保有してい

る人が当該商品の値下がりのリスクを回避したい場合は、保有商品と同量の商品先物を売るこ

とになります。一方、将来商品の仕入れを予定しているが、それまでに当該商品の価格が値上が

りしてしまうリスクを回避したい場合は、仕入予定の商品と同量の商品先物を買うことになり

ます。このような取引をヘッジ取引といい、ヘッジ取引を行う人をヘッジャーといいます。現物

のヘッジ手段として先物が利用できるのは、前述のとおり、先物と現物の間の価格変動に強い相

関があるためです。

先物市場の参加者にはヘッジャーのほかに、リスクを覚悟のうえで単に先物を売り買いして

高い収益を狙う人や、先物と現物又は先物と先物の間の価格乖かい

離り

をとらえて収益を狙う人もい

ます。前者のような人をスペキュレーターといい、そうした取引をスペキュレーション取引と

いいます。後者のような人をアービトラージャーといい、そうした取引を裁定取引といいます。

先物取引のもつ価格変動リスクの移転機能は、市場での取引を通じて、相互に逆方向のリスク

をもつヘッジャーの間でリスクが移転され合う、又はヘッジャーからスペキュレーターにリス

クが転嫁されることにより果たされます。先物市場はヘッジャーに対してはリスク回避の手段

を、スペキュレーターに対しては投機利益の獲得機会を、アービトラージャーに対しては裁定利

益の獲得機会を提供します。

(1) ヘッジ取引

ヘッジ取引とは、先物市場において現物ポジションと反対のポジションを設定することによっ

て、現物の価格変動リスクを回避しようとする取引です。ヘッジ取引には、売ヘッジと買ヘッジ

があります。

ア) 売ヘッジ

保有する現物について相場の下落が予想される場合に、先物を売り建て、予想どおり相場が

下落したときは先物を買い戻して利益を得ることによって、現物の値下がりによる損失を相

殺しようとする取引です。

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イ) 買ヘッジ

将来取得する予定の現物について相場の上昇が予想される場合に、あらかじめ先物を買い

建てておき、予想どおり相場が上昇したときは先物を転売して利益を得、これを現物購入資金

に加えることにより、その期間中の現物価格の値上がり分をカバーしようとする取引です。

(2) 裁定取引(アービトラージ取引)

裁定取引(アービトラージ)とは、将来のある時点で同じ価値をもたらす二つの金融商品(又

は取引)が現在価格で差異があるとき、価格が高い方をショート(売却)し、安い方をロング(購

入)することで、リスクのない確実な収益を獲得する取引を指します。無裁定とは、市場に(厳

密な意味での)裁定機会が存在しないことを意味します。

上記の厳格な、あるいは学術的な意味での裁定取引は、何らかの適正価格に比べて、仮に両方

とも割高(あるいは割安)な場合でも、確実な収益をもたらす取引戦略です。

また相対価値アーブなどの着想から、金融商品(又は取引)の価格関係において対象となる相

対指標に価格差が生じた際に、割高な方をショートし割安な方をロングする、そして価格差が解

消した時点で反対売買を行い利益を獲得する方法が、一般的な裁定取引の戦略です。

(3) スペキュレーション取引

先物の価格変動をとらえて利益を獲得することのみに着目する投機的な取引です。先物が値

上がりすると判断したら買い、値下がりすると判断したら売ります。

このような取引は現物でも行われていますが、先物には、少額の証拠金を預けるだけで多額の

取引ができるという現物にはない特色があります。これをレバレッジ効果といいます。このた

め現物のスペキュレーション取引に比べ、先物のスペキュレーション取引は、よりハイリスク・

ハイリターンであるといえます。

先物取引には、少ない元手(証拠金)で大きな取引ができるという利点があり、先物市場は、

価格の変動を積極的に利用して利益を得ようとする投機家に対して取引機会を提供します。投

機取引のタイプとしては「順張り」と「逆張り」に分けることができます。

① 順じゅん

張ば

相場が上昇しているときにそのまま上昇が持続すると見込んで買い、あるいは相場が下落

しているときにそのまま下落が続くと見込んで売るというような取引方法を、順張りといい

ます。

② 逆ぎゃく

張ば

これまで相場は上昇してきたからこれからは下がるに違いないと思って売り、あるいは、こ

れまで相場は下落してきたからこれからは上がるに違いないと思って買うような取引方法を、

逆張りといいます。また、今の相場は安過ぎる、もっと高くなるに違いないと思って買い、あ

るいは今の相場は高過ぎる、もっと安くなるに違いないと思って売るような取引の仕方も、逆

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張りです。

③ ファンダメンタル分析とテクニカル分析

単なる“勘”だけに頼ってスペキュレーション取引をするのは、あまりにも危険です。

そこで、景気動向、金融・財政政策、当該商品の需給動向等の要素を分析して、相場の行方

を判断するのがファンダメンタル分析です。

これに対して、価格や出来高等の過去の相場データを様々な方法で分析し、それによって将

来の相場の行方を予測するのがテクニカル分析です。

4 オプション取引 4-1 オプション取引とは

オプション取引とは、ある商品(原資産:Underlying Asset)を将来のある期日までに、そ

の時の市場価格に関係なくあらかじめ決められた特定の価格(行使価格:Exercise Price|

Strike Price)で買う権利、又は売る権利を売買する取引のことを指します。買う権利をコール・

オプション(Call Option)、売る権利をプット・オプション(Put Option)と呼んでいます。

一般に、オプション価格をプレミアム(Premium)といいます。買方は通常、取引の当初に売

方に支払うので、アップフロント・プレミアムともいいます。

上記の「ある期日」とは権利行使の期限のことで、満期日(Expiration Date|Maturity)と

いいます。オプションの買方(Holder)が買った権利を行使する(Exercise)と、対象とする

商品が行使価格で手に入ることになります。この時、売方(Writer)は権利行使に応ずる義務が

あります。

満期日以前にいつでも権利行使できるものをアメリカン・タイプ(American Type)、満期日

のみに権利行使できるものをヨーロピアン・タイプ(European Type)といいます。

(1) 原資産価格と行使価格の大小関係

オプションには、原資産価格と行使価格の大小関係を表す特有の言い回しがあります。行使し

たときに手に入る金額であるペイオフ(payoff)がプラス(コール・オプションの場合、原資産

価格>行使価格、プット・オプションの場合、原資産価格<行使価格)である状態、つまり権

利行使した方が得である状態をイン・ザ・マネー(in―the―money、ITM)といいます。

また、行使しても何も手に入らない(ペイオフ=0で、損益としてみた場合、プレミアム分だ

け損します。コール・オプションでは原資産価格<行使価格、プット・オプションでは原資産価

格>行使価格です。)状態をアウト・オブ・ザ・マネー(out―of―the―money、OTM)といいま

す。さらに、原資産価格=行使価格の点をアット・ザ・マネー(at―the―money、ATM)といい

ます。類似の呼称ですが、先物価格(先渡価格)=行使価格の点を、フォワードの意味でのアッ

ト・ザ・マネー(フォワード ATM)といいます。

なお、イン・ザ・マネーのなかで、アット・ザ・マネーから非常に遠い状態をディープ・イン・

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ザ・マネー(deep―in―the―money)といい、逆にアウト・オブ・ザ・マネーのなかでアット・

ザ・マネーから非常に遠い状態をディープ・アウト・オブ・ザ・マネー(deep―out―of―the―money)

といいます。

前記の考え方を図示すると、次のようになります。(⇒図表4―1参照)

図表 4-1 イン・ザ・マネー(ITM)、アット・ザ・マネー(ATM)、アウト・オブ・ザ・マネー(OTM)

コール プット

イン・ザ・マネー(ITM) 原資産価格>行使価格 原資産価格<行使価格

アット・ザ・マネー(ATM) 原資産価格=行使価格 原資産価格=行使価格

アウト・オブ・ザ・マネー(OTM) 原資産価格<行使価格 原資産価格>行使価格

(2) 差金決済のケース

オプション取引の決済には、行使価格を受け取り、原資産を引き渡す「現物決済」と、差額分

の資金のみを授受する「差金決済」があります。後者の場合、ヨーロピアン・オプション取引と

は、買方が期初にプレミアムを支払い、満期で売方が「ペイオフ(payoff)」を支払う取引です。

したがって、損益は、

買方の損益=ペイオフ-プレミアム、売方の損益=プレミアム-ペイオフ

と表すことができます。オプションで特徴的なことは、ペイオフはゼロ又はプラスの値しかとら

ず、マイナスの値にはならないことです。実際、

コール・オプションのペイオフ = max{原資産価格-行使価格, 0}

プット・オプションのペイオフ = max{行使価格-原資産価格, 0}

となります(max{A,B}は A と B の大きい方を指します)。ここで、ペイオフのなかにある原資

産価格は、満期での商品先物価格です。しかし、後にみるように現在仮に行使した場合のペイオ

フ(現在の商品先物価格で)を「行使価値」として扱います。

(3) オプションの特徴

以上を踏まえて、オプション取引の意味をまとめておきましょう。

① 現物投資の代替物

オプション取引を活用することで少額の資金で取引が可能となります。また、売方からみる

と現物の保有なく資金が手に入ります。

② レバレッジ効果

オプション取引を行うことで少ない資金で大きなリターンをあげることができます。これ

は現物取引ではできないことです。このことを「レバレッジ効果がある」といいます。

③ リスクの限定・移転

買方の場合は、見込みが外れて権利行使を放棄せざるを得なくなっても、損失は当初プレミ

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アムとして支払った資金に限定されます。このことを「リスクが限定される」といいます(そ

の場合、投資資金を全額失うので、かなりのリスクですが。)。一方、オプションの売方は、当

初プレミアムを手に入れる代わりに、将来、権利行使があった場合に応じる義務があります。

つまり、ペイオフの支払い義務を、プレミアムを対価として引き受けていることになります。

したがって、売方の場合は、損失が限定されません(正確に言えば、原資産価格はマイナスに

ならないので、プット売りの損失は限定されていますが、コール売りでは限定されません。)。

④ 現物取引にない損益パターンを作る

様々なオプションを組み合わせることで、現物取引にない損益パターンを作ることが可能

となります。図表4―2に、同じ行使価格のコールとプットを購入したことによる最終損益曲

線の例を示しました(これは「ストラドルの買い」と呼ばれる戦略です。(⇒詳しくは本章「4―

5 オプションの利用方法」参照))。この例は、現物の価格が上がるにせよ、下がるにせよ、大きく

振れると儲かるケースです。オプション・ロングなので、リスク限定型といえます。

図表 4―2 コールとプットの組合せ

⑤ ヘッジ効果

オプション取引の損益が原資産価格の変動に連動して決まることから、先物と同様にオプ

ションは、原資産価格変動リスクをヘッジする重要な手段となります。例えば、現物の買い持

ちにプットの買いを併せ持てば、現物の価格下落リスクを限定しながら相場上昇からの収益

を狙うことができます。これはコールの買いと似た取引ですが、実際コールの買いは、下値リ

スクをヘッジしながら現物を買い持ちするのに相当しています。先物によるヘッジとの大き

な違いは、先物が価格変動リスクと同時に収益機会をも消してしまうのに対して、オプション

を使うことでリスク・ヘッジとリターン追求が同時に行える点です。

⑥ 反対売買

なお、オプションを必ず満期まで保有する、あるいはショートにしたままにし続けなければ

ならないわけではありません。満期以前に同じ取引の反対売買を行ってポジションを解消

(unwind)すれば、損益を確定できます。両建てのポジションでは、権利行使時でのペイオフ

を相殺できるからです。

したがって、オプション・プレミアムの変化=プレミアム(解消時)-プレミアム(期初)

が、買方の損益になります(売方の損益は、符号が逆になります)。満期では、プレミアム=

ペイオフですから、満期まで保有したままでも前述と同じ式になります。

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4-2 オプションの価格形成

次にオプションのプレミアム(価格)の形成について、解説していきます。

(1) まず直感的に考える

プレミアムが「満たすべき」特徴を直感的に列挙してみましょう。

① コール・プットを問わず、オプションの買い需要が強ければ、プレミアムは高くなります。

逆に売り圧力(オプションの供給)が強ければ、プレミアムは下落します。

② 原資産価格の先高観が非常に強いときは、原資産価格が行使価格を超える可能性が高ま

るため、コールのプレミアムは高くなりますが、プットのプレミアムは低くなります。先安

感が強ければ(先物価格が低ければ)、コールのプレミアムは低くなる一方でプットのプレ

ミアムは高くなります。

③ 行使価格と原資産価格の相対関係が異なれば、それに応じてプレミアムも異なります。

④ おおむね満期までの期間が長いほど、原資産価格の動きが分からない(不確実性が高い)

ので、プレミアムは高くなります。逆に満期までの期間が短ければ、原資産価格の変動する

範囲も限定されるので、プレミアムは低くなります。

⑤ 原資産の価格変動(ボラティリティ)が小さくなると考えられるときは、原資産価格が行

使価格を超える可能性は小さくなるのでプレミアムは低くなります。

……等々。

前述①はオプション自体の需給論で、②~⑤は、原資産価格の動きの方向、原資産価格と行使

価格の相対関係、満期までの長さ、原資産価格の動きの大きさを考慮したプレミアム論です。

(2) 売方の側からみたプレミアム

次に、コール・オプションを例にとって、売方の側から、合理的なプレミアムの特徴を考えて

みましょう。

① 将来の満期までに原資産価格が行使価格を超える可能性がほとんどなければ、プレミア

ムはわずかでよくなります(アウト・オブ・ザ・マネー)。

② 原資産価格が行使価格を超える可能性が高くなるほど、行使されるリスクが増えるので

プレミアムを高くしたくなります(アット・ザ・マネー~イン・ザ・マネー)。

③ 原資産価格が行使価格を超える可能性が高くなるケースとして、

ア)満期までの期間が長い

イ)原資産価格が大きく動く可能性が高い

といったことが考えられます。プットの場合も同じように考えればよいでしょう。

以上の考え方を図示すると、次のようになります。(⇒図表4―3、図表4―4参照)

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図表 4―3 コール・オプション・プレミアム

図表 4―4 プット・オプション・プレミアム

(3) オプション・プレミアム

図表4―3、図表4―4の横軸は原資産の市場価格(評価時点の商品先物価格)です。一方、

縦軸はプレミアムを示します。原資産価格に対してプレミアム(オプション価格)をプロットし

た図になります。行使価格の辺りから、イン・ザ・マネーに入るにつれて、プレミアムの大きさ

が急速に大きくなるのが特徴です。これは、イン・ザ・マネーに入ると、いま行使することによっ

て確定する原資産価格と行使価格の差額分(行使価値)が存在しているためです。この価値のこ

とをイントリンシック・バリュー(本質的価値:intrinsic value)と呼んでいます。アット・

ザ・マネーやアウト・オブ・ザ・マネーの状態では、この価値は0です。

また、プレミアム全体とイントリンシック・バリューの差に当たるのがタイム・バリュー

(時間価値:time value)と呼ばれる部分です。これは、満期までの年数τや原資産価格の変動

性の大きさσ(ボラティリティ:volatility)、さらに金利 r によって決定される部分です。

このように、プレミアムは、二つの部分から成り立っていると考えられます。

プレミアム=イントリンシック・バリュー + タイム・バリュー

(本質的価値) (時間価値)

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タイム・バリューは(フォワードの意味での)アット・ザ・マネーで最も大きく、イン・ザ・

マネーやアウト・オブ・ザ・マネーになるにつれて小さくなります。

さらに、ヨーロピアン・オプションのタイム・バリュー(時間価値)は、1)割引(ディスカウ

ント)による寄与、2)拡散による寄与、に分けられます。2)はオプション固有の効果であり、

に関して単調増加です( は、オプション価格曲線の曲がり具合と原資産価格の分布の広が

りを与えます。)。もし原資産が先物であれば(先物オプション)、1)の寄与は無く、オプション

価格(プレミアム)曲線は、常にイントリンシック・バリューより高いことになります。

一方、もし原資産が現物であれば、すなわち、横軸が現在の商品価格 S の場合(無配当の商品

(S*=S))、イン・ザ・マネー側のコール価格の漸近線(S-K*)と横軸の接点は行使価格 K では

なく、K の現在価値 K*になります(K*<K)。コールでは 2)に加えて、1)の寄与が嵩上げされ、

プットでは逆に下げられます。したがって、プットでディープ・アウト・オブ・ザ・マネーの領

域では、イントリンシック・バリューがプレミアムを上回ります(プットでは1)の寄与がマ

イナスだからです。)。

ただし、低金利で、満期までの期間が短い場合、漸近線とイントリンシック・バリューの違い

は大差ありません(図表4―3、図表4―4では暗黙に高金利の設定です。)。言い換えれば、時

間価値における 1)の寄与は 2)の寄与に比して、相対的に小さいものです。

ボラティリティσは、オプションでは特に重要なパラメータであり、時間価値での 2)の寄与

の大きさを規定します(σ が高くなれば、2)の寄与も増えます。)。一方、1)の寄与にはボラ

ティリティσは無関係です(言い換えれば、先物やフォワード価格はσに依存しません。)。

ここで価格変動性(ボラティリティ)とはリスクを表す量であり、例えば、現在 1,000円の原

資産価格が±100円の範囲で動くときと、±200 円の範囲で動くとしたとき、後者の方が、価格が

よりボラタイルであり、ボラティリティσが高いことになります。また、満期までの期間τが長

いほど、将来価格の分布の広がりが大きくなります( に比例して)。将来価格の不確実性の

大きさがタイム・バリュー決定のポイントになっているわけです。この点がオプションの価格形

成上の大きな特徴です。

以上のことを概念的にまとめると、図表4―5のようになります。

図表 4―5 プレミアムの決定

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プレミアムは、原資産価格、行使価格、満期までの原資産のボラティリティ、満期までの残存

期間、短期金利といった複数の変数を真ん中のブラックボックスに入れることで求めることが

できます。(⇒詳しくは図表4―5参照)これら全体の流れがプレミアムを求める理論です。現在ま

でに様々な理論が提出されていますが、一般に広く使われている代表的なモデルとしては、二

項モデル(Binomial Model)とか、ブラック・ショールズ・モデル(Black-Scholes Model)

と呼ばれるものがあります。

なお、オプション・プレミアムのパラメータはすべて、年率換算で表示されます。例えば、ボ

ラティリティが年率 20%というのは、満期までの期間(1年当たり)に現在の値段から概ね

±20%の範囲で動く可能性のあることを意味します。

ところで、前述の複数の要因のなかで、実現ボラティリティは事後的にしか分かりません。し

たがって、実務的には評価時点で入手できる、以下の二つのボラティリティを利用するケースが

多いといえます。

ヒストリカル・ボラティリティ:過去の原資産価格のリターンの標準偏差から算出しま

す。

インプライド・ボラティリティ:実際の市場で値付けされているプレミアムから逆算し

ます。

以上は現物株を原資産とするオプションの価格理論に関する説明です。商品関連市場デリバ

ティブ取引におけるオプションの価格は先物価格に対するオプションですので、これを修正し

た「ブラック・モデル」が用いられます。

【ブラック・モデル】

𝐶𝐹 = 𝑒−𝑟∙𝑇 ∙ [𝑆𝐹 ∙ 𝑁(d𝐹

) − 𝐾 ∙ 𝑁(d𝐹

− 𝜎𝐹√𝑇)]

𝑃𝐹 = −𝑒−𝑟∙𝑇 ∙ [𝑆𝐹 ∙ 𝑁(−𝑑𝐹) − 𝐾 ∙ 𝑁(−𝑑𝐹 + 𝜎𝐹√𝑇)]

ただし、𝑑𝐹 =𝑙𝑛(𝑆𝐹/𝐾) + 𝜎𝐹2 ∙ 𝑇/2

(𝜎𝐹√𝑇)

𝐶𝐹:先物コール・オプション価格 𝑃𝐹:先物プット・オプション価格

𝑆𝐹:現時点の原商品(先物)価格 𝜎𝐹:先物価格のボラティリティ

𝑟:無危険(瞬間的な安全)利子率 𝐾:権利行使価格

𝑇:満期までの期間 𝑁(∙):標準正規分布率

𝑒:自然対数の底 𝑙𝑛:自然対数

4-3 オプション・プレミアムの特性

プレミアムを形成する要因を挙げましたので、次にそれらが変化した場合のプレミアムの変

化の特徴をとらえておきましょう。

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(1) プレミアムと原資産価格の関係

コールの場合は、原資産価格が上昇すれば、行使価格を超える可能性が高くなるためプレミア

ムは高くなります。逆にプットの場合は、行使価格を下回る可能性が小さくなるのでプレミアム

は低くなります。(⇒図表 4―6参照)

図表 4―6 オプション・プレミアムと原資産価格の関係

原資産価格 コール・プレミアム プット・プレミアム

上 昇 上 昇 下 落

下 落 下 落 上 昇

(2) プレミアムと行使価格の関係

現在の原資産価格に対して、高い行使価格のコール・オプションの場合、市場価格が行使価格

を超えてイン・ザ・マネーに入る可能性は小さいため、プレミアムは低くなります。一方、プッ

トで考えると、イン・ザ・マネーに入る可能性は高いのでプレミアムは高くなるのです。(⇒図表

4―7参照)

図表 4―7 オプション・プレミアムと行使価格の関係

行使価格 コール・プレミアム プット・プレミアム

高 い 低 い 高 い

低 い 高 い 低 い

(3) プレミアムと残存期間の関係

満期までの残存期間に対しては、コールもプットも残存期間が短くなるほどプレミアムも低

くなります。残存期間が短くなるほど、原資産の市場価格が行使価格を超える可能性が小さくな

るからです。(⇒図表 4―8参照)

図表 4―8 オプション・プレミアムと残存期間の関係

残存期間 コール・プレミアム プット・プレミアム

長 い 高 い※ 高 い※

短 い 低 い※ 低 い※

※ディープ・イン・ザ・マネーの領域では逆に、残存期間が長い方のプレミアムが低く、短い方が高いケースがあ

ります。これは早期行使可能なアメリカン・オプションの方が、ヨーロピアン・オプションより価値が高いことに

対応しています。

(4) プレミアムとボラティリティの関係

ボラティリティに関しては、コールもプットもボラティリティが上昇すれば、そのプレミアム

は上昇し、逆にボラティリティが下落すれば、プレミアムも下落します。ボラティリティが高い

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ほど、コールにせよプットにせよ満期でイン・ザ・マネーになる可能性が高くなるため、プレミ

アムは高くなるのです。(⇒図表 4―9参照)

図表 4―9 オプション・プレミアムとボラティリティの関係

ボラティリティ コール・プレミアム プット・プレミアム

上 昇 上 昇 上 昇

下 落 下 落 下 落

(5) プレミアムと短期金利の関係

短期金利が上昇すると、コールのプレミアムは上昇します。よりディスカウントされて行使価

格 K の現在価値 K*が小さくなって横軸上を左側にシフトするので、図表4―3のコール曲線の

漸近線(S*-K*)は大きくなり、それが支えるコール・プレミアムも大きくなります。一方、プッ

ト曲線の漸近線(K*-S*)及びプット・プレミアムは小さくなります。

これは、コールが「資金調達をして原資産を買う」のと同様のキャッシュ・フローを生じさせ

ているため、金利上昇で調達コストが上昇し、プレミアム上昇につながると考えればよいでしょ

う。一方、プットの場合は「原資産を売却して資金運用する」のに対応するので、金利上昇で低

コストとなり、プット・プレミアムは下落します。(⇒図表 4―10参照)

図表4―10 における括弧内は、先物オプションの場合です。先物オプションのフォワード・

プレミアムは短期金利と無関係ですが、アップフロント・プレミアムは現在価値に割り引いたも

のですから、金利が上昇すると現在価値は下がります。

特にコールにおいて、現物オプションと特徴が異なるのは、オプションを「合成」するのに先

物の場合は資金コストがかからないことによります。(⇒詳しくは「4―6 オプションの価格理論」参照)

図表 4―10 オプション・プレミアムと短期金利の関係

短期金利 コール・プレミアム プット・プレミアム

上 昇 上昇(下落) 下落(下落)

下 落 下落(上昇) 上昇(上昇)

※短期金利がマイナスの場合、現在価値>将来価値になりますので、プットではなくコールで、プレミアムがイントリンシック・バリューを割り込むケースがあります。

4-4 プレミアムの各要因に対する感応度

実務では、時価評価やリスク管理の点から、価格変化の要因分解を行うことは重要になります。

オプションを扱う場合には、各要因が変化したときにプレミアムがどのように変化するか、つま

り、各要因の微小変化に対する感応度を理解しておくことが必要です。

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(1) 感応度指標

前述4―2で示した価格変化の要因に対応する感応度については、主に以下のようなものが

あります。

デ ル タ

(δ)

オプションのデルタ(δ)とは、原資産価格の微小変化(Δ 原資産価格:

この時の Δ は変化幅を示します。)に対するプレミアムの変化(Δ プレミ

アム)の比のことを指し、

デルタ =Δプレミアム

Δ原資産価格

と表記されます。

ガ ン マ

(γ)

オプションのガンマ(γ)とは、原資産価格の微小変化に対するデルタの

変化の比のことを指し、

ガンマ =Δデルタ

Δ原資産価格

と表記されます。ガンマはデルタ曲線の傾きです。プレミアムに対しては、

曲線の凸性(曲がり度合い)を示すものです。この曲がり度合いは(フォワ

ード)アット・ザ・マネー近傍で最大になる性質があります。

ベガ(ν) オプションのベガ(ν)とは、ボラティリティの微小変化に対するオプショ

ン・プレミアムの変化の比を表す指標で、

Δボラティリティ

Δプレミアム=ベガ

と表記されます。ベガはボラティリティに関するプレミアムの変動リスクを

表す指標で、ガンマに比例的な関係にあり、オプション・ロングならばベガ・

ロングになり、ベガは正の値になります。また、ガンマと同様、同じ条件の

プットとコールについて、ベガは等しくなります。

セ ー タ

(θ)

オプションのセータ(θ)とは、満期までの残存期間の微小変化に対する

プレミアムの変化の比のことを指し、

Δ残存期間

Δプレミアム-=セータ

と表記されます。また、一般にマイナスを付けて表現することが多くなって

います。これは、セータを経過時間当たりのプレミアム減価(=時間的減価、

time decay)の指標として用いるためです。

ロー(ρ) オプションのロー(ρ)とは、短期金利の微小変化に対するオプション・

プレミアムの変化の割合のことを指し、

Δ短期金利

Δプレミアム=ロー

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と表記されます。

オ メ ガ

(ω)

オプションのオメガ(ω)とは、原資産価格の変化率(変化ではなく変化

率で、原資産の投資収益率に当たります。)に対するプレミアムの変化率の

割合を指し、

オメガ =プレミアムの変化率

原資産価格の変化率

と表記されます。

特によく利用される感応度としては、デルタ(δ)があります。例えば、原資産変動1円につ

き、プレミアムが 50 銭動けばデルタは 0.5 といいます。すなわち、プレミアム曲線の傾き(勾

配)です。したがって、コールのデルタは0~1、プットのデルタは-1~0の範囲で動きま

す。また、アウト・オブ・ザ・マネーになるほど原資産の動きに対してプレミアム変動は鈍くな

り(デルタは0に近づきます。)、イン・ザ・マネーになるほどプレミアムは図表4―3、図表4

―4の漸近線に近づくため、プレミアムの変化幅は原資産価格の変化幅に等しくなります。

時間経過と市場の変化によって、オプション・プレミアムは変化し、当然ながらデルタ(やそ

の他のグリークス(感応度))も変化していきます。満期が近づくとタイム・バリューが0に減

衰して、イントリンシック・バリューに近づきます。すなわち、コールのデルタは、0か1(プッ

トでは、0か-1)に近づくのです。(⇒図表 4―11参照)

図表 4―11 残存期間とデルタの関係

また、ボラティリティが大きいほどタイム・バリューが大きくなり、漸近線から遠ざかるため、

原資産の変化に対するプレミアムの変化が鈍くなり、デルタの変化は緩やかになります。逆にボ

ラティリティが小さいほど曲率が高い範囲が現れて、変化が大きくなります。(⇒図表 4―12参照)

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図表 4―12 ボラティリティ水準とデルタの関係

デルタを実践に応用する一つの方法はヘッジです。現物のデルタは1ですから、デルタ 0.5の

コールを2枚売却することで全体のデルタは0となります。すなわち、瞬間的には、原資産価格

の変動に対するポジション全体としての変動はないことになります。ところが、時間が推移し市

場が変化すれば、オプションのデルタは変化していきますが、現物のデルタは1のままです。つ

まり、オプションのレバレッジは現物と違って可変なので、もはやポジション全体(ネットした)

のデルタは0ではなくなります。

(2) グリークスの利用法

前述した感応度指標(グリークス(greeks)と総称します。)は、現物・先物等と組み合わせ

て、ポジションを管理する際に使われます。それらをまとめると、図表4―13 のようになりま

す。

図表 4―13 現物・先物・オプションの感応度特性

コールの買い プットの買い 先物の買い 現物の買い

デルタ(D) 0~1 -1~0 ほぼ1 1

ガンマ(G) + + 0 0

ベ ガ(V) + + 0 0

セータ(T) - - - 0

(注) 1. 売りの場合は、符号は逆になる。

2. セータについては、満期が近づくとマイナスが大きくなる。

3. 先物については、理論的に考えると分かりやすい。現物については、価格しかないので、

それ以外は数学的に0となる。

また、ポジションのリスク管理を行う場合の感応度指標の使い方は、次のように示されます。

簡単にいえば、複数のデリバティブの組合せ(ポートフォリオ)によるポジションの感応度指標

は、個別のデリバティブの指標の重ね合わせとして表すことができるのです。つまり、第 i デリ

バティブの単位数を ni、その価格(現在価値)を Pi とするとき、デリバティブのポートフォリ

オの現在価値は、

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ポートフォリオの現在価値=n1P1+n2P2+…=ΣniPi

ですから、各々の差分をとれば、次の関係式は明らかでしょう。

ポジション・デルタ=n1D1+n2D2+…=ΣniDi

ポジション・ガンマ=n1G1+n2G2+…=ΣniGi

ポジション・ベガ =n1V1+n2V2+…=ΣniVi

ポジション・セータ=n1T1+n2T2+…=ΣniTi

ポジション・ロー =n1R1+n2R2+…=ΣniRi

ポジションとして、これらの値を0にしておけば、リスクは瞬間的には消えます。しかし、こ

れはあくまで瞬間的な話です。時間経過と市場の変化に伴い、プレミアムも各感応度(グリーク

ス)も変化していきます。ポジション調整(リヘッジ)をしないとこれらの値を0のままにはで

きません。実際的なルールも加えながら、こうした指標を有効に使うのが現実的でしょう。

4-5 オプションの利用方法

プレミアムの形成でみたように、オプション・プレミアムは、原資産価格と行使価格の関係か

ら決まるイントリンシック・バリューの部分と、満期までの原資産価格の不確実性に対して付け

られるタイム・バリューの二つの部分から成り立ちます。タイム・バリューは、大部分が満期ま

での残存期間の変化とボラティリティの変化に依存したものです。したがって、オプションの投

資戦略も、この特徴を理解したうえで立てる必要があります。

そこで、残存期間を一定の状態にした、相場の方向とボラティリティの方向でオプション投資

戦略を整理してみましょう。

(1) アウトライト取引

① コールの買い

市場価格は上昇すると予想する戦略

で、上昇すれば上昇分だけの利益が発

生し、下落しても当初のプレミアムの

損失で済みます。

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② コールの売り

市場価格はやや軟化すると予想する

戦略ですが、コールを売っているた

め、見込みが外れて上昇すると、損失

は上昇分だけ発生します。

③ プットの買い

市場価格は下がると予想する戦略で、

下げが大きい分だけ利益が出ます。逆

に市場価格が上昇しても、当初のプレ

ミアム分で損失は限定されます。

④ プットの売り

市場価格は緩やかに上昇すると予想

する戦略ですが、プットを売っている

ため、見込みが外れて下落すると大き

な損失を出すこともあります(相場が

急落した場合は特に)。

(2) オプション同士の組み合わせ

① ストラドルの買い

ストラドルの買いは、同じ行使価格の

コールとプットを組み合わせて同じ

量だけ買うポジションで、市場価格が

どちらに動くか分からないが、とにか

く大きく動きそうだと予想するとき

にとる戦略です。例えば、重要な経済

指標や統計データの発表前とか、その

結果次第で相場の方向が大きく変わ

る可能性が高い場合に使われること

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もあります。見込みが当たると大きな

利益を出すことができ、見込みが外れ

ても、二つのプレミアム分の損失に限

定されます。

② ストラドルの売り

ストラドルの売りは、同じ行使価格の

コールとプットを組み合わせて同じ

数量だけ売るポジションで、市場価格

は動きそうにないと読む場合にとる

戦略です。見込みが当たって市場価格

が小動きに終始すれば、当初得た二つ

のプレミアム分の利益が出ます。一

方、見込みが外れて、どちらかの方向

に市場が大きく動くと、その分損失が

かさむことになります。

③ ストラングルの買い

異なった行使価格のコールとプット

を買う戦略で、市場価格が二つの行使

価格から外れて大きく動くと利益が

出ます。逆に市場価格が動かず二つの

行使価格の間に入っても、損失は二つ

のプレミアム分に限定されます。

④ ストラングルの売り

行使価格の異なったコールとプット

を売る戦略で、市場価格が二つの行使

価格間に入ると利益が出ます。逆に市

場価格が大きく変動すると損失は限

りなくなります。

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⑤ バーティカル・ブル・スプレッド

バーティカル・ブル・コール・スプレッド

バーティカル・ブル・プット・スプレッド

バーティカル・ブル・スプレッドには、

行使価格の異なった二つのコールを

用いるバーティカル・ブル・コール・

スプレッドと二つのプットを用いる

バーティカル・ブル・プット・スプレッ

ドがあります。

バーティカル・ブル・コール・スプレッ

ドは、行使価格の高いコールを売り、

低いコールを買います。一方、バー

ティカル・ブル・プット・スプレッド

は、行使価格の高いプットを売り、低

いプットを買います。

⑥ バーティカル・ベア・スプレッド

バーティカル・ベア・コール・スプレッド

バーティカル・ベア・スプレッドには、

行使価格の異なった二つのコールを

用いたバーティカル・ベア・コール・

スプレッドと二つのプットを用いた

バーティカル・ベア・プット・スプレッ

ドがあります。

バーティカル・ベア・コール・スプレッ

ドは、行使価格の高いコールを買い、

低いコールを売ります。一方、バー

ティカル・ベア・プット・スプレッド

は、行使価格の高いプットを買い、低

いプットを売ります。

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バーティカル・ベア・プット・スプレッド

⑦ 合成先物の買い

同じ行使価格、同じ限月のコールの買

いとプットの売りを合わせて合成先

物(Synthetic Futures)を作ると、あ

たかも先物の買いポジションを持っ

たかのようになります。先物の買いと

同じで、先行き強気の場合に用いられ

ます。

⑧ 合成先物の売り

同じ行使価格、同じ限月のコールの売

りとプットの買いを組み合わせると、

先物の売りと同じポジションを作り

出すことができます。先物の売りと同

じ先行き弱気の場合に用いられます。

⑨ その他の戦略

バタフライの買い

三つの異なった行使価格のオプショ

ンを用いるバタフライ、四つの異なっ

た行使価格のオプションを用いるコ

ンドル、二つの異なった行使価格で、

かつ、売りと買いの枚数を変えるレシ

オ・コール・スプレッド、限月の異なっ

たオプションを用いるカレンダー・ス

プレッドなど、様々な戦略が存在しま

す。

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コンドルの買い

レシオ・コール・スプレッド

カレンダー・スプレッド

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(3) オプション以外との組み合わせ

① 合成先物のアービトラージ

コンバージョン

リバーサル

オプションと先物を用いたアービト

ラージは、一般的にコンバージョン

( Conversion ) と リ バ ー サ ル

(Reversal)の二つがポピュラーです。

前述したコールとプットを組み合わ

せて合成先物のポジションを作り、先

物価格と比較して取引します。

先物に比べて合成先物の方が割高で

あれば(コンバージョン)、合成先物売

り・先物買いを行います。逆に、先物

に比べて合成先物の方が割安であれ

ば(リバーサル)、合成先物買い・先物

売りを行います。

② 合成先物によるヘッジ

合成先物による売りヘッジ

合成先物は、前述のように、コールと

プットを組み合わせて作ります。原資

産現物を保有している場合、合成先物

ショート・ポジションを持つことで、

通常の先物ショートによるヘッジと

同じことが可能となります。

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③ カバード・コール

カバード・コールの最終損益曲線

この戦略は、原資産が値下がりして

も、コールを売ってプレミアムを得て

いるため、損失は原資産のみの買い持

ちに比べて少なくて済みます。原資産

を買い持ちの前提で市場の上値が重

いという予想に基づき、利回りアップ

を望む投資者にとって有力な方法で

す。

④ プロテクティブ・プット

プロテクティブ・プットの最終損益曲線

プロテクティブ・プットは、「原資産買

い持ち+プットの買い」で作るポジ

ションで、目先市場は調整局面になり

そうだという予想に基づき、コストを

支払ってもよいからダウンサイド・リ

スクのヘッジをしたい投資者に用い

られます。

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(4) まとめ

相場局面に応じたオプション投資戦略をまとめると、図表4―14のようになります。

図表 4―14 相場局面とオプション投資戦略

(注)上の利益、損失の記述については、概念的に記述したものであり、実際の価格

(例えば、0未満でないこと)を考慮したものではありません。

4-6 オプションの価格理論

オプションはデリバティブの中でも特に重要な位置を占めています。商品の下落リスクを

ヘッジするために OTM(アウト・オブ・ザ・マネー)のプットを購入するなど保険的な動機や、

別のデリバティブのリスクをヘッジするため、若しくは、比較的少額の資金で高いレバレッジを

掛けることのできるツールとして役立ちます。

オプションのペイオフは非線形であり、そのためプレミアム(価格)は曲線となり、ガンマと

いう「曲率」を生じます。逆にいえば、先物やフォワードのようにペイオフが線形であれば、ボ

ラティリティσは現在価値に影響しません。

ブラック・ショールズ・モデル(ないしはブラック・モデル)の公式を用いて、プレーンバ

ニラな(ヨーロピアン)オプションの市場価格(プレミアム)から逆算されたボラティリティ

は、(市場が含意する)インプライド・ボラティリティと呼ばれ、株式、金利、為替、コモディ

ティ等のオプションで用いられています。いずれも原資産価格が対数正規(幾何 Brown 運動)

のモデルであり、原資産価格として、前者ではスポット価格、後者ではフォワード価格(先物

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価格)になります。これらのモデルでは、ボラティリティσが一定と仮定していますが、実際

のマーケットでは、インプライド・ボラティリティは年限 T や行使価格 K(ないしマネーネ

ス)に応じて異なる、いわゆる、ボラティリティ・スキューやスマイルといった構造が観測さ

れます。つまり、ブラック・ショールズ・モデル(ないしはブラック・モデル)の閉じた解(解

析解)は市場価格とインプライド・ボラティリティをつなぐ一種のツールとして用いられてお

り、価格付けの評価モデルは別にある、あるいは市場価格としてマーケットが決めるものです。

当然、価格付けやヘッジに用いているボラティリティは、事後的な意味でのヒストリカル・

ボラティリティ(実現ボラティリティ)と異なります。ダイナミクスが確率的な場合、期間構

造と時系列構造の間に直接的な関連はありません。

未成熟な市場では、インプライド・ボラティリティσはフラット(一定)ですが、成熟する

に従って ATM(アット・ザ・マネー)の期間構造 )(T 、さらには IV サーフェス ),( KT へ

と変貌するので、モデルもそれに応じて進化します。プレーンバニラの市場価格には奥深い内

容が含まれているのです。

オプション性が含まれる金融商品では、時価評価のみならずリスク計測(時価評価の各パラメ

ータに対する感応度であるグリークス(偏微分)の計算等)が重要になってきます。時間や、原

資産価格(参照指標)にかかわる感応度のみならず、金利やキャリーコスト(配当や借株料)、

クレジット・スプレッド、ボラティリティや相関係数にかかわる感応度も、状況によってはかな

り大きな影響があります。評価モデルのパラメータには、過去の価格データから求めたヒストリ

カル・ベースのものと、現在の市場価格から推定したインプライド・ベースのものがあり、価格

付けには(可能であれば)後者の利用が基本的ですが、リスク管理上いずれも重視すべきです。

とはいえ、双方とも安定性や整合性についての課題は残されています。

いわゆるデルタヘッジを行っているから「リスクはない」と考えるのは早計です。原資産価格

がガンマが負の領域にあるときは、いわばオプション・ショート、ベガ・ショートの状態なので、

損失が限定されにくいため、ガンマがゼロあるいは正の領域の場合よりも、よりリスクに注意を

要します。例えば、デルタがゼロであるストラドル・ショートは、ガンマが大きく負値をとる場

合、高リスクなポジションです。また、デルタヘッジのリバランス量はガンマに相当します。ガ

ンマはオプション性、すなわち、価格曲線の凸性(コンベクシティ)の大きさを表す量です。な

お、ベガとガンマは正の比例的な関係にあります。

5 デリバティブ取引のリスク

デリバティブは原資産等から派生した金融商品ですから、対象となる原資産価格等やパラメ

ータの変化及び時間経過(満期までの時間が減少する。)によって、デリバティブの時価は変化

します。

さらに、マーケットの流動性が枯渇する、馴染みの薄い原資産への投資や、過度にレバレッジ

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を高めた取引等により、不測の損失を被る可能性もあります。そのため、取引にかかわるリスク

管理が重要となります。

ポジションをとる業者にとっては、実務上、金融商品の時価評価だけでなく、リスク管理、す

なわち、必要なリスク資本の枠の設定と計測が義務となります(自己資本規制)。

デリバティブ取引は様々な種類のリスクにさらされています。リスクの把握においては、どの

ような原資産・参照指標(株式、債券、金利、為替、クレジット、商品など)にどのように関連

付けられているか、という点が最重要課題であり、また、リスクをもたらす各々のファクター(要

因)をどのように記述するのかも重要な問題になります。リスクの種類を分類すると、図表4

―15 の様になります。

図表 4―15 リスクの分類

リスクの種類 内 容

①市場リスク 市場価格や金利や為替レートなどが予見不能な、あるいは、確率的

に変動するリスク(マーケット・リスク)

②信用リスク 信用力の予期しない変化に関連して、価格が確率的に変化するリス

ク(融資先、発行企業、カウンターパーティ・リスク)

③流動性リスク ポジションを解消する際、十分な出来高がなく取引できないリス

ク、潜在的にかかるアンワインド・コストなど

④オペレーショナル・リスク 犯罪、システム・トラブル、トレーディング・ミスなどのリスク

⑤システミック・リスク マーケット全体の流動性の崩壊や、連鎖倒産などのリスク

⑥複雑性リスク 時価評価でのモデル・リスク、パラメータ・リスク、規制や制度変

更対応のリスク

このなかで、市場デリバティブ取引で特に重要視されるリスクは、市場リスク及びオペレー

ショナル・リスクです。自己資本規制や経済的なリスクキャピタルの配分、リザーブやプロヴィ

ジョンなどと呼ばれる剰余金を積んでおくこと、あるいはトレーディングや投資戦略における

リスク管理といった点で、この二つはリスクの基礎的な構成要因となります。

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第5章 商品関連市場デリバティブ取引の制度

1 市場デリバティブ取引 1-1 市場デリバティブ取引について

デリバティブ取引には、取引所において取引制度(原資産・限月等)が規定化された市場デ

リバティブ取引と、取引制度が当事者間のオーダーメードにより自由に設定することが可能な

店頭デリバティブ取引があります。

市場デリバティブの取引対象には、株価指数、金利等があり、我が国では株式会社大阪取引

所(以下5章では「OSE」といいます。)や株式会社東京金融取引所(以下5章では「東京金

融取引所」といいます。)で取引が行われています。5章では OSE における市場デリバティブ

取引の主な制度を中心に説明します。

※OSE に上場する予定の商品関係の各商品の詳しい説明は後述します。

(1) 商品について

① 原資産

原資産とは、デリバティブ取引の対象となる資産のことをいいます。OSE では、日本を代

表する株価指数である日経平均株価(以下5章では「日経 225」といいます。)、東証株価指

数(以下5章では「TOPIX」といいます。)等の株価指数、国債の標準物が設定されており、

総合取引所の実現以降は金、白金等の商品等が加わる予定です。

② 種類

OSE では、先物取引及びオプション取引を利用することができます。店頭デリバティブ取

引で利用することができるスワップ取引等はありません。

③ 限月等

限月とは、ある先物・オプション取引の期限が満了となる月のことです。取引所で取引さ

れる市場デリバティブ取引は、あらかじめ取引所が限月を指定して取引が行われます。20XX

年3月 YY 日に期限満了を迎える先物・オプション取引は 20XX 年3月限(ぎり)と呼び、

通常は同一商品内で複数の限月が同時に取引可能です。例えば「四半期限月の3限月取引」

が可能な場合、当該商品は 20XX 年3月限、6月限、9月限及び 12月限のうち直近の三つの

限月が上場され、取引が可能となります。取引可能な限月は、取引所があらかじめ定めた商

品ごとのルールに従って決定されます。また、限月の間隔は、各月ごと、2か月ごと、四半

期(3、6、9、12 月)ごと、半年(6、12 月)ごとに加え、最近では各週で満了日を迎え

る週次限月取引や満了日を日単位で設定できるフレックス限月取引が導入される等、商品性

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によって様々です。その他、毎営業日ごとに期限が満了となる日(限日)をもつ先物・オプ

ション取引があります。OSE に上場する予定の金限日取引の場合、ポジションが自動的に翌

営業日にロールオーバーされるため、決済期限を意識することなく取引することが可能です。

(2) 取引について

① 個別競争取引

市場デリバティブ取引の立会市場においては、多数の投資家から注文を集め、それらのな

かから値段と数量の条件が合う注文を個々に付け合わせることによって取引が行われます。

価格決定方法は、約定可能な注文を即時に約定させるザラバ方式と、一定時間注文を集め

たのちに一つの値段で約定させる板寄せ方式の2種類がありますが、どちらも価格優先及び

時間優先の原則に従います。

また、市場デリバティブ取引では、立会によらない市場において取引を行う立会外取引も

可能です。立会外取引とは、あらかじめ取引相手を指定し、同一限月取引の売付けと買付け

を同時に行う取引です。OSE の立会外取引は、J-NET 取引と呼ばれています。取引相手は、

同一又は異なる取引参加者のいずれかを指定することができます。J-NET 取引は主に大口数

量の注文や、複数銘柄を同時に取引する必要のあるストラテジー取引を、希望する値段で確

実に執行させる目的等で用いられます。J-NET 取引の約定に係る決済、値洗差金及び証拠金

の取扱いは各限月取引における売付け及び買付けとして取り扱います。

J-NET 取引における取引可能な値段(取引可能値幅)は、立会取引とは別に定められてお

り、取引時点での立会取引の値段等の市場実勢を踏まえて取引所が定めています。

J-NET 取引における呼値の刻みは、必ずしも立会取引と同じではなく、総じて立会取引よ

りも細かい刻みで設定されています。

② 取引時間

取引時間は、取引所が商品ごとに定めています。具体的には、日本を代表する市場デリバ

ティブ商品の一つである日経 225 先物取引は、現物株式市場で取引が行われる時間帯をカバ

ーする午前8時 45分から午後3時 15分に加え、その後もナイト・セッションを通じて午後

4時 30分から翌午前5時 30 分まで取引を行うことが可能となっています。ナイト・セッショ

ンでは、株式市場終了後に発表される企業の決算情報やニュースに対応した取引ができ、ま

た欧米株式市場の取引時間をカバーしているため、海外市場の動きに合わせた取引ができる

等の利点があります。

主要海外取引所のなかには、日本のデリバティブ市場と同じようにほぼ 24時間取引が可能

な取引所もあり、取引時間は世界的に延長する傾向にあります。

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③ 呼値の刻み(ティック)及び取引単位

投資家は、取引所が商品ごとにあらかじめ定めた呼値の刻み(ティック)に従って注文を

行います。例えば、TOPIX を対象(原資産)とする TOPIX 先物取引では、1,500.0 ポイン

ト、1,500.5 ポイント、1,501.0ポイント等の 0.5 ポイント刻みでの取引が可能です。

また、取引単位についても取引所が商品ごとにあらかじめ定めています。例えば、TOPIX

先物取引の取引単位は 10,000 円であり、TOPIX 先物価格が 1,500.0 ポイントである時に、

仮に TOPIX 先物取引を1単位取引すると 1,500 ポイント×10,000 円=1,500 万円に相当す

る取引が行われたことを示し、呼値が1ティック動くと 0.5 ポイント×10,000 円=5,000円

に相当する価格が変動したこととなります。

加えて、TOPIX 先物取引とミニ TOPIX 先物取引、日経 225 先物取引と日経 225mini 先物

取引のように、原資産が同一であっても一つの取引所で呼値の刻みや取引単位が異なるもの

が上場されている場合もあり、それぞれのニーズに合った取引を選択することが可能です。

④ ストラテジー取引

ストラテジー取引とは、複数の先物・オプション銘柄を組み合わせて同時に約定させる取

引を指します。

具体的には、先物取引について取引を行うことが可能なストラテジー取引は、同一商品内

の二つの異なる限月取引について、一方の限月取引の売付けと他方の限月取引の買付けを同

時に行おうとするときに、二つの限月間の価格差(カレンダー・スプレッド)により呼値を

行う取引(カレンダー・スプレッド取引)となります。限月の組合せは取引所が設定するも

のに限られます。

国債先物取引及び商品先物取引におけるカレンダー・スプレッド取引は、期近限月取引の

値段から期先限月取引の値段を差し引いたカレンダー・スプレッドについて呼値を行い、ゼ

ロやマイナス値段による呼値も行うことができます。これらの取引におけるストラテジーの

売(買)呼値は、期近限月取引の売(買)付けと期先限月取引の買(売)付けに係る呼値を

いい、取引が成立すると、期近限月取引の売(買)付けと期先限月の買(売)付けが同時に

成立することになります。

指数先物取引におけるカレンダー・スプレッド取引は、国債先物取引及び商品先物取引に

おけるカレンダー・スプレッド取引と売買が逆であり、期先限月取引の値段から期近限月取

引の値段を差し引いたカレンダー・スプレッドについて呼値を行います。指数先物取引にお

けるストラテジーの買(売)呼値は、期近限月取引の売(買)付けと期先限月取引の買(売)

付けに係る呼値をいい、取引が成立すると、期近限月取引の売(買)付けと期先限月の買(売)

付けが同時に成立することになります。カレンダー・スプレッド取引に係る呼値の制限値幅

は、それぞれの限月取引の呼値の制限値幅の上下限値段から算出されます。また、先物取引

が一時中断される場合には、先物取引の各限月を含むストラテジー取引も一時中断されます。

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一方、オプション取引について取引を行うことが可能なストラテジー取引には、取引参加

者が一定の範囲内で銘柄、売買の別及び取引数量の比を指定して取引所に申請を行うテーラ

ーメイド・コンビネーション取引(TMC 取引)があります。

⑤ 清算値段

市場で取引されている銘柄について、清算機関により取引日ごとに評価額(商品により清

算値段、清算価格又は清算数値と呼ばれます。)が決定されており、投資家の保有するポート

フォリオの時価評価等に用いられています。また、指数先物取引等の最終決済は、取引最終

日の翌営業日に算出される特別清算数値(SQ 値)により行われます。

(3) 取引制度について

① 制限値幅・取引の一時中断措置

通常、市場デリバティブ取引では、取引所により1日の価格変動に一定の制限(制限値幅)

が設けられています。1日の間の過度な価格の上昇や下落を防ぐことが制度の趣旨ですが、

これにより、相場が激変したとき等に市場参加者の混乱を抑える効果が期待されており、ひ

いては投資家保護にもつながるものとなっています。

また、相場過熱時に投資家に冷静な投資判断を促し、相場の乱高下を防止するため、各先

物取引の中心限月取引(流動性が最も集中している限月取引として OSE が指定する限月取

引をいいます。)の価格が取引所の定める変動幅(制限値幅)に達する等した場合に、他の限

月取引を含むすべての限月取引において取引の一時中断措置が実施されます(サーキット・

ブレーカー制度)。取引の一時中断措置が発動された場合、一定時間(10分間)、取引が停止

された後に、制限値幅を拡大したうえで取引が再開されます。

② 即時約定可能値幅制度(Dynamic Circuit Breaker)

制限値幅が1日のなかでの価格変動に一定の制限を設ける仕組みであるのに対し、誤発注

等による価格急変の防止の観点から、最良気配の仲値又は直近の約定値段等の基準となる値

段(以下5章では「DCB 基準値段」といいます。)から所定の値幅(以下5章では「DCB 値

幅」といいます。)を超える値段で取引が成立することとなる呼値が発注された場合には、当

該 DCB 値幅の範囲内における取引を成立させた後、取引の一時中断(30 秒等)を行う制度

を導入しています。これを即時約定可能値幅制度(DCB 制度:Dynamic Circuit Breaker)

と呼んでいます。

なお、取引の一時中断を行うと同時に DCB 基準値段を対当値段に最も近接する当該 DCB

値幅の値段に更新し、一定時間(30 秒等)経過後の対当値段が DCB 値幅の範囲内であれば

取引を再開し、対当値段が DCB 値幅の範囲外である場合には、再び一定時間(30 秒等)、取

引を一時中断します。それにより、急激な価格変化を防止し、円滑な価格形成を行うことが

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可能となります。

③ ノンキャンセル・ピリオド(NCP)

オープニング・オークション及びクロージング・オークション(日中立会のクロージング・

オークションを除きます。)が行われる前の1分間、立会における注文の訂正・取消しを受け

付けない時間帯を設ける制度です。対象となる商品は、日経 225 先物、日経 225mini 先物及

び TOPIX 先物です。板寄せ直前の注文訂正・取消による価格変動を防ぐことにより、価格

形成の透明性・公平性を高める目的で導入されています。

④ ギブアップ制度

ギブアップ制度とは、注文の執行業務とポジション・証拠金の管理といった清算業務を異

なった取引参加者に依頼することができる制度です。

ギブアップ制度は、顧客、注文執行参加者及び清算執行参加者の3者間でギブアップ契約

を締結することで可能となります。注文を複数の参加者に委託した場合でも、その建玉の管

理を特定の参加者に集中させることも可能であり、証拠金管理の効率化等に寄与しています。

なお、OSE の指定清算機関である株式会社日本証券クリアリング機構(以下5章では「ク

リアリング機構」といいます。)では、建玉をある参加者から別の参加者に移管する建玉移管

制度が別途導入されています。

⑤ マーケットメイカー制度

マーケットメイカー制度とは、取引所が指定するマーケットメイカーが、特定の銘柄に対

して一定の条件で継続的に売呼値及び買呼値を提示することにより、投資家がいつでも取引

できる環境を整える制度です。マーケットメイカーは気配提示を行うことにより、充足要件

を満たした場合にはインセンティブを受領します。OSE では複数の商品に導入されています。

⑥ 証拠金制度

市場デリバティブ取引においても、決済履行を保証し取引の安全性を確保するため、証拠

金制度が採用されています。証拠金とは、取引契約の履行を担保するために差し入れるもの

です。顧客が取引を行った場合には、清算参加者である金融商品取引業者(以下5章では「証

券会社」といいます。)等に証拠金を差し入れなくてはなりません。顧客から差し入れられた

証拠金は、清算参加者を通じて清算機関へ差し入れられます。清算参加者が証拠金を差し入

れる清算機関は、OSE における取引の場合、指定清算機関であるクリアリング機構に一元化

されています。また、東京金融取引所が取り扱っている先物・オプション取引に係る証拠金

については、清算機関でもある東京金融取引所に差し入れる必要があります。

取引所上場先物・オプション取引では、取引を行った日の翌営業日に証拠金を差し入れる

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証拠金制度及び先物取引において評価損益が発生した日の翌営業日に当該損益(値洗差金)

の受払いを行う値洗い制度が導入されています。

証拠金及び値洗差金は、決済代金等の債務の履行を確保するための担保であり、万一所定

の時限までに債務を履行できない場合は、通知、催告を行わず、かつ、法律上の手続によら

ずに清算機関及び証券会社等の判断で債務の弁済に充当されるものです。

イ 証拠金所要額計算方法

証拠金所要額とは、ポートフォリオ全体の建玉について必要とされる証拠金の額です。

現在、OSE の指定清算機関であるクリアリング機構は、証拠金所要額の計算に SPAN

システム(スパンシステム)を採用しています。SPAN はシカゴ・マーカンタイル取引所

(Chicago Mercantile Exchange)が開発した証拠金計算方法で、ポートフォリオ全体のポ

ジションから将来発生するおそれのある損益をシミュレートし、その結果から証拠金所要

額を計算します。(⇒詳しくは後述の「(参考)『SPAN』システムによる証拠金計算方法」参照)

SPAN の主な特徴は、先物・オプション取引のポートフォリオから生じるリスクに応じ

て証拠金を計算するところにあります。つまり、同じ取引所の異なる限月間のポジション

のリスク相殺、先物とオプションのリスク相殺、異なる商品間のリスク相殺が可能となり

ます。なお、計算プロセスの違いにより SPAN 証拠金額は一般に清算機関ごとに異なりま

す。顧客は取引を行った際に、証拠金を翌日の証券会社が指定した時間までに差し入れま

す。また、有価証券での代用が可能です。代用有価証券の範囲は、クリアリング機構が定

めています。

ロ 顧客と証券会社等の間の受払い

顧客は、取引を行った際に、受入証拠金(注 1)の総額が証拠金所要額を下回っている場合

は、顧客は不足額を現金又は有価証券にて証券会社等の請求に基づき、当該証券会社等に

差し入れます。逆に超過している場合は引出しが可能です。ただし、顧客が差し入れてい

る金銭の額が顧客の現金支払予定額(注 2)を下回った場合は、不足額を現金にて差し入れま

す。証拠金の受払いは、過不足が生じた日の翌営業日(非居住者は翌々営業日)までの間

で、証券会社等が指定する日時までに、当該証券会社等に差し入れます。

顧客が取次者(注 3)である場合で、取引が委託の取次ぎによるものであるときは、取次者

は清算機関の清算参加者である証券会社等に対し、その旨及び当該取次者が差し入れる証

拠金が申込者(注 4)から差し入れられたものか、それに代えて申込者の同意を得て取次者の

保有する金銭又は有価証券により差し入れるものかの別を明らかにするものとされていま

す。

(注)1. 受入証拠金

先物・オプション取引について顧客が証拠金として差し入れている金銭及び代用有価

証券の額に、顧客の現金支払(又は受取り)予定額(注 2)を加減し計算します。証拠

金は全額有価証券による代用差入が可能です(代用有価証券の評価額は差し入れる日の

前々日の時価を用います。)。代用有価証券の種類及び掛目についてクリアリング機構が

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決定し、適宜見直されています。

※代用有価証券の種類及び掛目はクリアリング機構のウェブサイト

(https://www.jpx.co.jp/jscc/kisoku/listed_product.html)をご参照ください。

2. 顧客の現金支払予定額

先物取引における計算上の損益額※及び未決済の決済損益額並びにオプション取引

の未決済の取引代金(指数オプション取引における権利行使に伴う差金を含みます。)

の合計額である現金授受予定額がマイナスの値である場合の当該合計額をいいます。顧

客が証拠金として差し入れ又は預託している金銭の額が当該顧客の現金支払予定額を

下回っている場合の差額(現金不足額)に相当する証拠金については、有価証券をもっ

て代用することはできません。

※ 計算上の損益額

先物取引において、証券会社等は顧客の未決済建玉について、毎日評価損益計算を行

い日々現金で受払いします。

3. 「取次者」とは、取引所の取引参加者に対する取引の委託の取次ぎを引き受けた者

をいいます。

4. 「申込者」とは、取引の委託の取次ぎを申し込んだ者をいいます。

ハ 清算参加者(証券会社等)と清算機関間の受払い

従来は、先物・オプション取引における清算業務は証券会社等と各取引所間で行われて

いましたが、現在、OSE が取り扱う先物・オプション取引の清算業務は、取引所ではなく

指定清算機関であるクリアリング機構に一元化されています(なお、東京金融取引所が取

り扱っている先物・オプション取引に係る証拠金については、清算機関でもある東京金融

取引所に差し入れる必要があります。)。

清算参加者とクリアリング機構間では、先物取引の未決済建玉について日々値洗いが行

われ、値洗差金の授受が発生します。また、清算参加者は証拠金所要額を自己分と委託分

(顧客が清算参加者へ差し入れた証拠金の合算分)に分別し取引証拠金としてクリアリング

機構へ預託します。クリアリング機構との間での受払いは、過不足が生じた日の翌営業日

までに行われます。

ニ 日中取引証拠金・緊急取引証拠金

市場デリバティブ取引においては、日々授受を行う通常の証拠金制度に加え、清算参加

者破綻時における想定損失額削減の観点から日中証拠金制度が、同一日のなかでの相場が

大きく変動した際の決済履行を保証する観点から、緊急証拠金制度が導入されています。

日中取引証拠金は毎営業日の午前 11時(長期国債先物取引においては午前立会終了時点)

にリスク額の再計算を行い、リスク額が拡大した場合において、証券会社等に日中に追加

の預託を求める制度です。緊急取引証拠金は OSE の午後1時までの立会状況において相

場が異常に大きく変動し、清算機関が特に必要と認める場合に証券会社等が預託するもの

です。日中取引証拠金・緊急取引証拠金所要額は、先物・オプション取引の自己勘定によ

る建玉について SPAN で計算した額からオプション取引の自己勘定による建玉について

計算したネット・オプション価値の総額を差し引いて得た額に自己取引に係る先物取引差

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金相当額並びにオプション取引代金相当額を加減し、更に区分口座(清算参加者自己分の

区分口座を除く。)ごとの担保超過リスク額を合計した額を加えて算出されます。自己分の

日中取引証拠金所要額・緊急取引証拠金所要額の適用により、取引証拠金預託額に不足が

生じた場合は、それぞれ午後2時・午後4時までに預託しなければなりません。日中取引

証拠金・緊急取引証拠金は有価証券による代用が可能です。代用有価証券の範囲について

は、通常の取引証拠金におけるそれと同様です。

(参考) 「SPAN」システムによる証拠金計算方法

SPAN の証拠金所要額は、ポートフォリオ全体の価格変動リスクをカバーする SPAN 証拠金額(後

述1)と、オプションのデフォルト等のリスクをカバーするネット・オプション価値の総額(後述2)

からなります。SPAN 計算に使用される各種の変数(SPAN パラメータ)は、定期的に見直しが行

われます。

証拠金所要額=SPAN 証拠金額-ネット・オプション価値の総額

1. SPAN証拠金額計算

(1) 商品グループの分別

SPAN では様々な商品間のリスクの相殺が認められていますが、まずはポートフォリオ内の同

一原資産の商品を一つの商品グループにまとめる必要があります。(6)までの計算はこの商品グル

ープごとに行われます。

例)

・日経 225先物、日経平均オプション=日経平均株価グループ

・TOPIX 先物、TOPIX オプション=TOPIX グループ

・SONY を原資産とする有価証券オプション銘柄=SONY グループ

(有価証券オプション各銘柄は各銘柄の原資産ごとにグループ分けを行います。)

(2) 商品グループごとのリスク額の算出

① 売超・買超建玉について銘柄ごとに相場変動についての 16通りのパターン(リスクシナリ

オ)を基に 16通りの損益を算出します。

② 銘柄ごとに算出した損益について、さらにリスクシナリオごとに合計します。

③ 16 通りの損益合計のなかで最大の損失額が、商品グループ全体のリスク額(スキャンリ

スク額)となります。

(3) 商品グループごとの商品内スプレッド割増額の算出

(2)のスキャンリスク額の算出では、各限月ともに同一に価格変動するものとして計算します

が、実際には異なる限月の価格変動幅は同じではないため、異なる限月間で建玉がある場合に限

月間割増料率を乗じて限月間割増額を算出し、スキャンリスク額に加算します。

(4) 商品グループごとのリスク額の算出

商品グループリスク額=スキャンリスク額+商品グループごとの商品内スプレッド割増額

(5) 商品間の割引額の算出

各商品グループ間の価格変動に強い相関関係が認められる場合、各商品グループ間でリスク相

殺部分を計算し、(4)で計算した商品グループリスク額から差し引きます。

相殺が認められている商品グループは、中期国債先物グループ、長期国債先物グループ及び超

長期国債先物グループ、指数先物各商品グループです。このため、日経 225先物と TOPIX 先物の

間でのリスク相殺が認められています。一方で、全ての商品グループ間でリスク相殺が認められ

ているわけではなく、例えば、日経 225先物と長期国債先物の間ではリスク相殺は認められてい

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ません。

(6) 売オプション最低証拠金額の算出

ディープ・アウト・オブ・ザ・マネーのオプション売建玉は、(2)のスキャンリスク額は小さい

ものの、相場急変時にはプレミアムが大きく上昇する可能性があることから、こうしたオプショ

ン売建玉のリスクをカバーするために1単位当たりの最低証拠金額を設定します。計算は商品グ

ループごとに行います。

(7) SPAN 証拠金額の算出

SPAN 証拠金額はまず各商品グループについて、(4)で計算した商品グループリスク額から(5)

の商品間割引額を差し引きます。さらに、この額を(6)の売オプション最低証拠金額と比較し、大

きい方の額を商品グループごとの SPAN 証拠金額とします。最後に商品グループごとの SPAN 証

拠金額をすべての商品グループについて合算し、全体の SPAN 証拠金額とします。

・商品グループごとの SPAN証拠金額

A:商品グループリスク額 - 商品間割引額

B:売オプション最低証拠金額

A と B のうち、どちらか大きい額

・SPAN 証拠金額 = 商品グループごとの SPAN 証拠金額の合計

2. ネット・オプション価値の総額の算出

ネット・オプション価値の総額はオプションの清算価値であり、当日取引終了時点においてデフォ

ルト等によりポジションを清算(転売・買戻し及び権利行使・行使割当)した場合のリスクをカバー

するためのものです。

ネット・オプション価値の総額は、買オプション価値の総額から売オプション価値の総額を差し

引いて算出されます。買オプション価値は転売又は権利行使を行った場合に受け取る金額に相当し、

売オプション価値は買戻し又は行使割当を受けた場合に支払う金額に相当します。

したがって、ネット・オプション価値の総額がプラスの場合は SPAN 証拠金額から差し引き、一

方、マイナスの場合は債務となるため SPAN 証拠金額に加えることとなります。

・ネット・オプション価値の総額=買オプション価値の総額-売オプション価値の総額

ただし、

買オプション価値=買超建玉数×清算価格×乗数

売オプション価値=売超建玉数×清算価格×乗数

(注)・買/売オプション価値はオプション銘柄ごとに計算します。

・乗数=TOPIX オプション:10,000、日経平均オプション:1,000、

有価証券オプション:対象有価証券の単位株数 ※SPAN パラメーター等の詳細については、クリアリング機構のウェブサイト

(https://www.jpx.co.jp/jscc/)をご参照ください。

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1-2 先物取引

我が国の市場デリバティブ先物取引はその対象により国債(債券)関係、株式関係、商品関

係、金利関係の商品に分けられます。以下では、大阪取引所への移管が予定されている商品関

係の各商品について説明します。

○ 商品先物取引

① 特徴と商品

商品先物取引は金、白金等の商品を対象とする先物取引であり、貴金属のほかにもゴムや

農産物を対象とする先物取引が可能です。2020(令和2)年に東京商品取引所から大阪取引

所に移管される予定です。

主な商品先物取引の制度概要は、図表5―1のとおりです。

図表 5-1 主な商品先物取引の制度概要

商 品 名 金標準先物 金ミニ 金限日先物 銀先物

原 資 産 金地金 金標準先物の価格 金地金 銀地金

立 会 時 間

<日中>

オープニング:8:45

レギュラー・セッション:8:45~15:10

クロージング:15:15

<夜間>

オープニング:16:30

レギュラー・セッション:16:30~翌5:25

クロージング:翌5:30

限 月

2、4、6、8、10、12月限:

取引開始日の属する月の翌月以降におけ

る直近6限月

1限日制 2、4、6、8、10、

12月限:

取引開始日の属する

月の翌月以降におけ

る直近6限月

取 引 単 位 1kg 100g 10kg

取 引 最 終 日

受渡日から起算して

4 営業日前に当たる

日(日中立会まで)

金標準取引の取引最

終日が終了する日の

前営業日(日中立会

まで)

- 受渡日から起算して

4 営業日前に当たる

日(日中立会まで)

呼 値 の 刻 み 1円 10銭

最 終 決 済 方 法 受渡決済 差金決済 -(日々差金決済) 受渡決済

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商 品 名 白金標準先物 白金ミニ先物 白金限日先物 パラジウム先物

原 資 産 白金地金 白金標準先物の価格 白金地金 パラジウム地金

立 会 時 間

<日中>

オープニング:8:45

レギュラー・セッション:8:45~15:10

クロージング:15:15

<夜間>

オープニング:16:30

レギュラー・セッション:16:30~翌5:25

クロージング:翌5:30

限 月

2,4,6,8,10,12月限:

取引開始日の属する月の翌月以降におけ

る直近6限月

1限日制 2,4,6,8,10,12

月限:

取引開始日の属する

月の翌月以降におけ

る直近6限月

取 引 単 位 500g 100g 500g

取 引 最 終 日

受渡日から起算して

4 営業日前に当たる

日(日中立会まで)

白金標準取引の取引

最終日が終了する日

の前営業日(日中立

会まで)

- 受渡日から起算して

4 営業日前に当たる

日(日中立会まで)

呼 値 の 刻 み 1円

最 終 決 済 方 法 受渡決済 差金決済 -(日々差金決済) 受渡決済

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商 品 名 ゴム(RSS3)

先物

ゴム(TSR20)

先物 一般大豆先物 小豆先物

とうもろこし

先物

原 資 産 ゴム(RSS3 号) ゴム(TSR20番) 大豆 小豆 とうもろこし

立 会 時 間

<日中>

オープニング:9:00

レギュラー・セッション:

9:00~15:10

クロージング:15:15

<夜間>

オープニング:16:30

レギュラー・セッション:

16:30~18:55

クロージング:19:00

<日中>

オープニング:8:45

レギュラー・セッション:8:45~15:10

クロージング:15:15

<夜間>

オープニング:16:30

レギュラー・セッション:16:30~翌5:25

クロージング:翌5:30

限 月

取引開始日の属する月の翌月以降

における直近6限月 2 , 4 , 6 ,

8,10,12月限:

取引開始日の属

する月の翌月以

降における直近

6限月

取引開始日の属

する月の翌月以

降における直近

6限月

1 ,3 ,5 ,7 ,

9,11月限:

取引開始日の属

する月の翌月以

降における直近

6限月

取 引 単 位 5,000kg 5,000kg 25kg 2,400kg(80袋) 50,000kg

取 引 最 終 日

受渡日から起算

して 5 営業日前

に当たる日(日

中立会まで)

当月の前月最終

営業日(日中立

会まで)

当月限 15日(日

中立会まで)(休

業日に当たる場

合は繰り上げ)

受渡日から起算

して3営業日前

に当たる日(日

中立会まで)

当月限の前月 15

日(日中立会ま

で)(休業日に当

たる場合は繰り

上げ)

呼 値 の 刻 み 10銭 10円 30kg(1袋)当

たり 10円

1,000kg 当たり

10円

最終決済方法 受渡決済

(注) 記載内容は、総合取引所の実現時点の立会取引に係る取引制度です。取引制度は適宜変更さ

れますので、最新の情報及び詳細については株式会社日本取引所グループのウェブサイト

(https://www.jpx.co.jp/)をご確認ください。

② 決済

商品先物取引における決済には、取引最終日前に反対売買することで反対売買により売値

と買値の差額分の金銭の授受を行う差金決済と、取引最終日まで建玉を保有した場合の最終

決済があります。最終決済には、実際に商品の受渡しを行う受渡決済と金銭の授受を行う差

金決済の2通りがあります。

差金決済型の商品先物取引の場合、最終決済は取引最終日の翌日の原資産の始値で決済され

ます。

一方、受渡決済型の商品先物取引の場合、先物の売方が商品を渡して代金の支払を受け、

買方が代金を支払うと同時にその商品を引き取るという決済です。

受渡決済型の商品の場合、取引最終日までに反対売買によって決済されなかった場合、そ

の建玉はすべて受渡決済により決済されます。

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1-3 オプション取引

我が国の市場デリバティブオプション取引はその対象により国債、株式、商品関連の商品に

分けられます。以下では、大阪取引所への移管が予定されている商品関係の各商品について説

明します。

○ 金先物オプション取引

① 特徴と商品

商品を対象としたオプション取引として、金先物オプションがあります。2020(令和2)

年に東京商品取引所から大阪取引所に移管される予定です。

金先物オプション取引の制度概要は、図表5―2のとおりです。

(注) 記載内容は、総合取引所の実現時点の立会取引に係る取引制度です。取引制度は適宜変更

されますので、最新の情報及び詳細については株式会社日本取引所グループのウェブサイト

(https://www.jpx.co.jp/)をご確認ください。

② 決済

金先物オプション取引における決済には、取引最終日前の反対売買と最終決済(権利行使)

の2通りの方法があります。このほか、権利を放棄してオプションを消滅させることもでき

ます。

図表 5-2 金先物オプション取引の制度概要

商 品 名 金先物オプション

原 資 産 金標準先物取引

立 会 時 間

<日中>

オープニング:8:45

レギュラー・セッション:8:45~15:10

クロージング:15:15

<夜間>

オープニング:16:30

レギュラー・セッション:16:30~翌5:25

クロージング:翌5:30

限 月 取引開始日の属する月の翌月から起算した 12ヵ月以内の各偶数限月

取 引 単 位 オプション価格×100 円

権利行使タイプ ヨーロピアン・タイプ

権利行使価格

の間隔・設定

(取引開始時)

権利行使対象先物限月取引の清算値段に近接する 50 円刻みの設定基準価格を中心に

上下各 20種類ずつ、合計 41種類を設定

(追加設定)

50 円刻みの設定基準価格を上回る又は下回る既存の権利行使価格がそれぞれ 20 種類

以上となるまで追加設定

取 引 最 終 日 金標準取引の取引最終日が終了する日の前営業日(日中立会まで)

最終決済方法 差金決済

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最終決済は、取引最終日の翌営業日に算出される限月を同一とする金標準先物の日中立会

始値と権利行使価格の差額で決済されます。

取引最終日までに反対売買によって決済されなかったイン・ザ・マネーの未決済建玉につ

いては、権利を放棄しない限り自動的に権利行使されます(自動権利行使制度)。

金先物オプションの最終決済における計算方法

取 引 差 金

コール (特別清算数値-権利行使価格)×乗数×数量

プット (権利行使価格-特別清算数値)×乗数×数量

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第6章 日本証券業協会定款・諸規則

1 日本証券業協会の概要 日本証券業協会(以下「協会」といいます。)は、金融商品取引法(以下「金商法」といい

ます。)29 条の規定により内閣総理大臣の登録を受けた者のうち、金商法 28条1項に規定する

第一種金融商品取引業を行う者及び金商法 33 条の2の規定により内閣総理大臣の登録を受

けた金融機関(以下「登録金融機関」といいます。)をもって組織され、金商法 67 条の2第

2項の規定により、内閣総理大臣の認可を受けた法人(認可金融商品取引業協会)です。

1-1 協会員の種類

協会の協会員は、次の3種類に区分されます。

⑴ 会 員 第一種金融商品取引業(注1)(店頭金融先物取引等及び金商法2条 22 項4

号に規定する取引(通貨に係る取引に限る)(注2)又はその媒介、取次ぎ若

しくは代理に係る業務を除く。)を行う者(⑵イからハまでに掲げる業務の

みを行う者を除く。)

⑵ 特定業務会員 第一種金融商品取引業において、次に掲げる業務のみを行う者

イ 特定店頭デリバティブ取引等に係る業務(注3)

ロ 金商法 29条の4の2第 10項に規定する第一種少額電子募集取扱業務

(注4)

ハ 商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等に係る業務(注5)

⑶ 特別会員 登録金融機関

(注)1. 金融商品取引業のうち、①流動性の高い有価証券についての、売買・市場デリバティ

ブ取引・外国市場デリバティブ取引、売買・市場デリバティブ取引・外国市場デリバ

ティブ取引の媒介・取次ぎ・代理、売買・市場デリバティブ取引・外国市場デリバティ

ブ取引の委託の媒介・取次ぎ・代理、有価証券等清算取次ぎ、売出し、募集・売出し・

私募の取扱い、②商品関連市場デリバティブ取引の媒介・取次ぎ・代理、商品関連市

場デリバティブ取引の委託の媒介・取次ぎ・代理、有価証券等清算取次ぎ、③店頭デ

リバティブ取引又はその媒介・取次ぎ・代理、④有価証券の引受け、⑤いわゆる PTS

(私設取引システム)業務、⑥有価証券等管理業務のいずれかを業として行うことを

いいます(金商法 28条1項)。

2. 通貨に係る金融指標を対象とする指標オプション取引。例えば、通貨に係るバイナ

リー・オプション取引がこれに当たります。

3. 店頭デリバティブ取引等のうち、以下のいずれにも該当しないもの。

① 金商法2条2項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利に係る

取引

② 有価証券関連デリバティブ取引

③ 店頭金融先物取引

④ 通貨に係る金融指標を対象とする指標オプション取引

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具体的な取引としては、金利・通貨スワップ取引、クレジット・デリバティブ取引、

天候デリバティブ取引、災害デリバティブ取引などがこれに当たります。

4. 株式投資型クラウドファンディング業務がこれに当たります。

5. 商品関連市場デリバティブ取引の媒介・取次ぎ・代理、商品関連市場デリバティブ

取引の委託の媒介・取次ぎ・代理を業として行うもの。

1-2 目的

協会の目的は、協会員の行う有価証券の売買その他の取引等を公正かつ円滑ならしめ、金融

商品取引業の健全な発展を図り、もって投資者の保護に資することです(定款6条)。

2 協会の主要な業務

協会は、前記の目的を達成するため、次の業務を行っています。

2-1 自主規制業務

(1) 自主規制ルールの制定・実施

協会員に適用される各種の自主規制ルールを制定・実施することにより、金融商品取引の公

正、円滑化を図るとともに、投資者の保護に努めています。

(2) 監査及びモニタリング調査の実施

協会員の営業活動における法令、自主規制ルール等の遵守状況及び内部管理態勢の整備状況

等について、監査を実施しています。また、会員の経営状況及び顧客資産の分別管理に関する

モニタリング調査を行っています。

(3) 自主制裁の発動

協会員や協会員の役職員の法令、自主規制ルール等の違反に対して、厳正な制裁を行い、再

発防止に努めています。

(4) 資格試験・資格更新研修の実施及び外務員の登録事務

協会員の金融資本市場の仲介者としての重要な役割にかんがみ、外務員資格試験及び内部管

理責任者資格試験並びに外務員資格更新研修を実施するとともに、内閣総理大臣から委任され

た外務員の登録に関する事務を行っています。

(5) 教育研修の実施

協会員の役員及び従業員の資質向上を図ることを目的に、自主規制規則に基づく研修をはじ

めとする各種教育研修の実施及び協会員の行う社内研修への講師派遣等の支援を行っています。

(6) 金融商品取引の苦情・相談、あっせん

顧客からの協会員及び金融商品仲介業者の業務に関する苦情・相談のほか、顧客と協会員と

の間の金融商品取引に関する紛争の解決を図るため、金商法に規定されている「あっせん」を

行っています。

なお、当該苦情・相談及びあっせん業務については、特定非営利活動法人 証券・金融商品

133

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あっせん相談センター(FINMACフ ィ ン マ ッ ク

)に業務を委託しています。

(7) 認定個人情報保護団体の業務の実施

「個人情報の保護に関する法律」に基づく認定個人情報保護団体として、協会員の個人情報

の適正な取扱いを確保するための業務を行っています。

(8) 公社債市場の整備・拡充

公社債等の売買を公正、円滑に行うため、公社債店頭取引に係る制度・慣行の制定・見直し

を行うなど、公社債店頭市場の改善に努めています。

(9) 上場株券等の取引所金融商品市場外取引の制度整備・運営

上場株券等の取引所金融商品市場外取引に係る制度を公正かつ円滑ならしめるとともに、投

資者保護を確保するため、必要な制度の整備を行っています。

また、会員から報告された取引所金融商品市場外取引に係る売買状況等を集計・公表すると

ともに、上場株券等に係る PTS(私設取引システム)における気配・約定情報等を公表する等、

協会員や投資者に有用な情報を提供しています。

(10) 非上場株券等に関する制度整備・運営

株式投資型クラウドファンディング、株主コミュニティ及びフェニックス銘柄制度について、

適正な業務の運営及び投資者保護を図るため、会員等が遵守すべき事項を定めるなど、非上場

株券等に係る投資勧誘等に関して必要な制度の整備等を行っています。

また、会員等から報告された各制度の取扱状況等を集計・公表する等、協会員や投資者に有

用な情報を提供しています。

2-2 金融商品取引業及び金融商品市場の健全な発展を推進する業務

(1) 金融商品市場に関する調査研究及び意見表明

投資者から高い信頼が得られる金融商品市場を構築し、我が国の経済成長・発展に貢献する

ため、金融商品取引業及び金融商品市場に係る制度問題・税制問題等について検討を進めると

ともに、政府その他関係各方面に対して意見の表明を行い、その実現を働きかけています。

(2) 証券市場の共通基盤の整備

証券市場の信頼性向上と活性化のため、証券市場におけるシステム等の共通基盤の整備に取

り組んでいます。

(3) 株式市場及び公社債市場に関する統計資料等の公表

株式市場及び公社債市場に関する各種情報の収集・集計を行い、協会員や投資者に有用な資

料等を提供しています。また、公社債の店頭売買参考統計値及び個人向け社債の店頭気配情報

を毎営業日発表しています。

(4) 金融・証券知識の普及・啓発

国民各層に対して金融・証券知識の普及・啓発を図るため、学校教育向け及び一般向け普及・

啓発事業に注力しています。

134

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(5) 広報事業

投資者や協会員にとって重要な制度改正・制度新設等があった際の周知や、証券界として重

要な課題等に適切に対応するための広報活動に取り組んでいます。

(6) 関係団体等との意思の疎通及び意見の調整

協会員間あるいは関係各団体との意思の疎通及び意見の調整を図り、諸施策を推進していま

す。

(7) 反社会的勢力の排除に関する支援

金融商品取引及び金融商品市場から反社会的勢力を排除するため、会員等の取組の支援を

行っています。

(8) 証券市場全体の事業継続に関する支援

災害等の発生時における協会員や証券取引所等の証券市場における共通インフラである関係

機関に係る情報の収集及び提供のため、証券市場 BCPWEB の管理・運営を行っています。

2-3 国際業務・国際交流

金融・資本市場のグローバル化に対応して、国際証券業協会会議(ICSA)、アジア証券人フォ

ーラム(ASF)、証券監督者国際機構(IOSCO)等の国際会議に参加し、海外の証券関係団体

等との情報交換、国際交流の促進を図るとともに、日本市場の海外へのプロモーション、海外

からの問い合わせへの対応、情報の収集などを行っています。

3 協会の機関

(1) 中央機関

最高意思決定機関として総会、協会運営全体に係る専決事項の決議と監督機能を担う機関と

して理事会、理事会から委任された自主規制業務、証券戦略業務、行動規範に関する業務、金

融・証券教育の普及・啓発業務の意思決定機関としてそれぞれ自主規制会議、証券戦略会議、

行動規範委員会及び金融・証券教育支援委員会、理事会のもとに予算・決算、協会の組織運営

等に関する総括的事項を審議する機関として総務委員会があります。

(2) 地方機関

全国に9の地区協会を設けています。地区協会は証券戦略会議に関連した業務等を行ってい

ます(東京、大阪、名古屋、北海道、東北、北陸、中国、四国及び九州)。

(3) 付属機関

事故確認委員会、不服審査会及び外務員等資格試験委員会を置いています。

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外務員等規律委員会

分科会

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4 協会の諸規則 協会員の営業ルールの確立は、協会の自主規制措置の最も重要な部分です。

そのため、定款の規定(8条)において、協会は自主規制規則、統一慣習規則、紛争処理規

則、協会運営規則その他の規則を定めることができることになっています。

このうち自主規制規則は、協会員の有価証券の売買その他の取引等に関する公正な慣習を促

進し(不当な利得行為を防止し)て、取引の信義則を助長するために定める規則です。

後述のとおり、協会員の投資勧誘・顧客管理、有価証券の寄託の受入れ・顧客に対する報告、

内部管理責任者制度、事故の確認申請に係る事項、金融商品仲介業者に遵守させるべき事項、

従業員の服務基準、外務員の資格・登録、広告等の表示及び景品類の提供、個人情報の保護等

について規制措置を設けています。

一方、統一慣習規則は、協会員の有価証券の売買その他の取引等及びこれに関連する行為に

関する慣習を統一して、取引上の処理を能率化し、その不確定、不統一から生じる紛争を排除

するために定める規則です。

また、紛争処理規則は、協会員の業務に関する顧客からの苦情の解決及び有価証券の売買そ

の他の取引等に関する顧客と協会員との間の紛争解決のあっせん及び協会員相互間の紛争の解

決を図ることを目的とした規則です。

4-1 協会員における顧客管理、内部管理等

1 協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則

この規則は、協会員が行う有価証券の売買その他の取引等の勧誘、顧客管理等について、そ

の適正化を図ることを目的として定められたものです(1条)。

外務員の職務にも直接関連する重要な規定を包含しており、「協会員の従業員に関する規則」

と並んで、外務員の職務遂行上の基本準則となるものです。

(1) 業務遂行の基本姿勢

協会員は、その業務の遂行に当たっては、常に投資者の信頼の確保を第一義とし、金商法そ

の他の法令諸規則等を遵守し、投資者本位の事業活動に徹しなければならず、顧客の投資経験、

投資目的、資力等を十分に把握し、顧客の意向と実情に適合した投資勧誘を行うよう努めなけ

ればなりません(3条1項・2項)。

また、協会員は、当該協会員にとって新たな有価証券等(有価証券、有価証券関連デリバティ

ブ取引等、特定店頭デリバティブ取引等及び商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等をいいま

す。以下、この規則において同じ。)の販売(新規の有価証券関連デリバティブ取引等、特定店

頭デリバティブ取引等及び商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等を含みます。以下、この規

則において同じ。)を行うに当たっては、当該有価証券等の特性やリスクを十分に把握し、当該

有価証券等に適合する顧客が想定できないものは、販売してはなりません(3条3項)。

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さらに、協会員は、有価証券の売買その他の取引等に関し、重要な事項について、顧客に十

分な説明を行うとともに、理解を得るよう努めなければなりません(3条4項)。

資本市場の健全な発展を図るには、その担い手である金融商品取引業者等が広く一般投資者

からの信頼を常に確保していることが前提となります。

そこで、その趣旨を協会員の業務遂行の基本姿勢として規定するとともに、投資勧誘に当

たって投資者の保護に欠けることがないよう、適合性の原則の遵守及び取引に関する説明義務

を規定しています。

これらの規定は、当然ながら、外務員の職務遂行の基本姿勢ともなるべきものです。

(2) 自己責任原則の徹底

自己責任原則とは、投資は投資者自身の判断と責任において行うべきとの考え方をいい、決

して押付け的な過当勧誘などがあってはなりません。顧客の健全な投資態度を育成するために

も、協会員は、投資勧誘に当たっては、顧客に対し、投資は投資者自身の判断と責任において

行うべきものであることを理解させるものとし(4条)、顧客の側にも、この考え方を明確に持っ

てもらう必要があります。

(3) 顧客カードの整備等

顧客調査、顧客管理の適正化を図る観点から、協会員は、有価証券の売買その他の取引等を

行う顧客(特定投資家を除きます。)について、次に掲げる事項を記載した顧客カードを備え付

けるものとします(5条1項)。

① 氏名又は名称

② 住所又は所在地及び連絡先

③ 生年月日(顧客が自然人の場合に限ります。④において同じ。)

④ 職業

⑤ 投資目的

⑥ 資産の状況

⑦ 投資経験の有無

⑧ 取引の種類

⑨ 顧客となった動機

⑩ その他各協会員において必要と認める事項

(注)特定業務会員のうち商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等のみを行う者について

は、上記に掲げる事項の他、次に掲げる事項を記載した顧客カードを備え付けることもで

きます。

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① 氏名又は名称

② 住所又は所在地及び連絡先

③ 生年月日(顧客が自然人である場合に限ります。④において同じ。)

④ 職業

⑤ 収入

⑥ 資産の状況

⑦ 投資可能資金額

⑧ 商品関連市場デリバティブ取引その他の投資経験の有無及びその程度

⑨ 商品関連市場デリバティブ取引に係る契約を締結する目的

⑩ その他各協会員が必要と認める事項

なお、顧客カードは、顧客の資産状況等が記録されているものであることからその守秘義務

が課されており、協会員は、顧客について顧客カード等により知り得た秘密を他に洩らしては

なりません(5条2項)。

(4) 取引開始基準

協会員は、投資者の意向と実情に最も適した取引が行われるよう十分配慮しなければなりま

せん。特に次に掲げる、多額の利益を得られることもある反面、投資資金全額を失うこともあ

るリスクを併せもつハイリスク・ハイリターンな特質を有する取引等を行うに当たっては、慎

重を期す必要があるので、それぞれ取引開始基準を定め、その基準に適合した顧客との間で当

該取引等の契約を締結しなければなりません(6条1項)。

① 信用取引

② 新株予約権証券(外国又は外国の者の発行する証券又は証書で、新株予約権証券の性質

を有するものを含み、会社法 277条に規定する新株予約権無償割当てに係る新株予約権証

券であって、当該新株予約権証券が取引所金融商品市場に上場されているもの又は上場さ

れるものを除きます。以下、この規則において同じ。)の売買その他の取引(顧客の計算

による信用取引以外の売付けを除きます。)

③ 新投資口予約権証券(外国投資証券のうち、新投資口予約権証券に類するものを含み、

投資信託及び投資法人に関する法律 88条の 13に規定する新投資口予約権無償割当てに係

る新投資口予約権証券であって、当該新投資口予約権証券が取引所金融商品市場に上場さ

れているもの又は上場されるものを除きます。以下、この規則において同じ。)の売買そ

の他の取引(顧客の計算による信用取引以外の売付けを除きます。)

④ 有価証券関連デリバティブ取引等

⑤ 特定店頭デリバティブ取引等

⑥ 商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等

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⑦ 店頭取扱有価証券(「店頭有価証券に関する規則」2条4号に規定する店頭取扱有価証

券をいいます。)の売買その他の取引(顧客の計算による信用取引以外の売付けを除きま

す。)

⑧ 「株式投資型クラウドファンディング業務に関する規則」2条2号に規定する株式投資

型クラウドファンディング業務に係る取引等

⑨ 「株主コミュニティに関する規則」2条5号に規定する株主コミュニティ銘柄の取引等

⑩ その他各協会員において必要と認められる取引等(顧客の計算による信用取引以外の有

価証券の売付けを除きます。)

この取引開始基準は、顧客の投資経験、顧客からの預り資産その他各協会員において必要と

認める事項について定めなければなりません(6条2項)。

(5) 注意喚起文書の交付等

協会員は、顧客(特定投資家を除きます。以下(5)において同じ。)と次に掲げる有価証券

等の販売に係る契約を締結しようとするときは、あらかじめ、当該顧客に対し、注意喚起文書

を交付しなければなりません。ただし、次に掲げる有価証券等の販売に係る契約の締結前1年

以内に当該顧客に対し当該有価証券等と同種の内容の有価証券等の販売に係る注意喚起文書を

交付している場合及び当該顧客が金商法 15 条2項2号の規定により目論見書の交付を受けな

いことについて同意している場合はこの限りではありません(6条の2第1項)。

① 有価証券関連デリバティブ取引等(金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業

等府令」といいます。)116条1項3号イ又はロに規定する取引を除きます。)

② 特定店頭デリバティブ取引等

③ 商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等

④ 店頭デリバティブ取引に類する複雑な仕組債

⑤ 店頭デリバティブ取引に類する複雑な投資信託

また、6条の2第1項に規定する注意喚起文書には、次に掲げる事項を明瞭かつ正確に表示

しなければなりません(6条の2第2項)。

① 不招請勧誘規制の適用がある場合にあっては、その旨

② リスクに関する注意喚起

③ 6条の2第1項1号から5号までに掲げる有価証券等の販売に係る紛争解決等業務(金

商法 156条の 38第 11項に規定する紛争解決等業務をいいます。)を行う指定紛争解決機関(金

商法 156条の 38第1項に規定する指定紛争解決機関をいいます。)による苦情処理及び紛争

解決の枠組みの利用が可能である旨及びその連絡先

④ 6条の2第1項1号から5号までに掲げる有価証券等の販売に係る紛争解決等業務を

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行う指定紛争解決機関(③の指定紛争解決機関を除きます。)又は定款 78 条の2第1項に

規定するところにより協会が委託する苦情・紛争解決業務を行う特定非営利活動法人証

券・金融商品あっせん相談センターによる苦情処理及び紛争解決の枠組みの利用が可能で

ある旨及びその連絡先(③の指定紛争解決機関が存在しない場合に限ります。)

協会員は、顧客と6条の2第1項1号から5号までに掲げる有価証券等の販売に係る契約を

締結しようとするときは、あらかじめ、顧客の知識、経験、財産の状況及び契約を締結する目

的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による6条の2第2項1号から

4号までに掲げる事項の説明を行わなければなりません(6条の2第3項)。

注意喚起文書を交付した日(6条の2第4項の規定により注意喚起文書を交付したものとみ

なされた日を含みます。)から1年以内に当該注意喚起文書に係る有価証券等と同種の内容の有

価証券等(6条の2第1項1号及び3号から5号までに掲げるもの(1号に掲げるものにあっ

ては、定款3条5号に規定する店頭デリバティブ取引等であるものを除きます。)に限ります。)

の販売に係る契約の締結を行った場合には、当該締結の日において注意喚起文書を交付したも

のとみなして、6条の2第1項ただし書の規定を適用します(6条の2第4項)。

(6) 顧客からの確認書の徴求

協会員は、顧客(特定投資家を除きます。以下(6)において同じ。)と新株予約権証券、新

投資口予約権証券若しくはカバードワラントの売買その他の取引(顧客の計算による信用取引

以外の売付けを除きます。)又は有価証券関連デリバティブ取引等、特定店頭デリバティブ取引

等若しくは商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等の契約を初めて締結しようとするときは、

当該顧客が当該契約に係る金商業等府令 117条1項1号イからニまでに掲げる書面(契約締結

前交付書面等)に記載された金融商品取引行為についてのリスク、手数料等の内容を理解し、

当該顧客の判断と責任において当該取引等を行う旨の確認を得るため、当該顧客から当該取引

等に関する確認書を徴求するものとします(8条1項)。

(7) 信用取引、新株予約権証券取引、新投資口予約権証券及びデリバティブ取引等の節

度ある利用

協会員は、信用取引、新株予約権証券、新投資口予約権証券の売買その他の取引、有価証券

関連デリバティブ取引等、特定店頭デリバティブ取引等及び商品関連市場デリバティブ取引取

次ぎ等の契約の締結については、各社の規模、業務の実情に応じて、節度ある運営を行うとと

もに、過度になることのないよう常時留意するものとします(11条1項)。

また、協会員は、顧客の有価証券関連デリバティブ取引等、特定店頭デリバティブ取引等及

び商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等の建玉、損益、委託証拠金、預り資産等の状況につ

いて適切な把握に努めるとともに、当該取引等を重複して行う顧客の評価損益については、総

合的な管理を行うものとします(11 条2項)。

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これは、顧客がデリバティブ取引等のハイリスク・ハイリターンとなる取引を重複して行う

ことは、それぞれの取引を単独で行う場合以上に協会員が顧客の評価損益に注意を払う必要が

あるからです。

(8) 仮名取引の受託及び名義貸しの禁止

協会員は、顧客から有価証券の売買その他の取引等の注文があった場合において、仮名取引

であることを知りながら、当該注文を受けてはなりません(13 条1項)。なお、協会員を含む

金融機関には、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(以下「犯罪収益移転防止法」とい

います。)により、顧客の取引時確認が義務付けられています。(⇒詳しくは本章4―2□1 (2)「②いわ

ゆる『仮名取引の受託』の禁止」参照)

また、会員は、顧客が株券の名義書換を請求するに際し、自社の名義を貸与してはなりませ

ん(13条2項)。

(9) 犯罪による収益の移転防止等に係る内部管理体制の整備

協会員は、犯罪収益移転防止法8条1項の規定に基づく疑わしい取引の届出を行う責任者を

定め、犯罪による収益の移転防止及びテロリズムに対する資金供与防止のための内部管理体制

の整備に努めるものとします(14条)。

(10) 取引一任勘定取引の管理体制の整備

協会員は、金商業等府令 123 条1項 13号に掲げる契約に基づいて行う有価証券の売買その他

の取引等(以下、この規則において「取引一任勘定取引」といいます。)が投資者保護に欠け、

取引の公正を害し、協会員の信用を失墜させることのないよう、十分な管理体制を整備しなけ

ればなりません(16条)。

(11) 取引の安全性の確保

協会員は、新規顧客、大口取引顧客等からの注文の受託に際しては、あらかじめ当該顧客か

ら買付代金又は売付有価証券の全部又は一部の預託を受ける等取引の安全性の確保に努めなけ

ればなりません(17条)。

(12) 顧客の注文に係る取引の適正な管理

協会員は、有価証券の売買その他の取引等を行う場合には、顧客の注文に係る取引と自己の

計算による取引とを峻別しなければならず、顧客の注文に係る伝票を速やかに作成のうえ、整

理、保存するとともに、自己の計算による取引と区分するための番号等を端末機に入力する等

顧客の注文に係る取引を適正に管理しなければなりません(18 条1項・2項)。

また、協会員は、18条1項・2項の顧客の注文に係る取引の適正な管理に資するため、打刻

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機の適正な運用及び管理、コンピューターの不適正な運用の排除等を定めた社内規則を整備し

なければなりません(18条3項)。

(13) 顧客管理体制の整備

協会員は、有価証券の売買その他の取引等に係る顧客管理の適正化を図るため、顧客調査、

取引開始基準、過当勧誘の防止、取引一任勘定取引の管理体制の整備等に関する社内規則を制

定し、これを役職員に遵守させなければなりません(24 条1項)。

また、協会員は、当該社内規則に基づき、顧客管理に関する体制を整備し、顧客の有価証券

の売買その他の取引等の状況及び役職員の事業活動の状況について的確な把握に努めなければ

なりません(24 条2項)。

(14) 社内検査規則の整備等

協会員は、金商法その他の法令諸規則の遵守状況並びに投資勧誘及び顧客管理の状況等に関

する社内検査及び監査について社内規則を定めるとともに、内部管理体制の整備及びその適切

な運営に努めなければなりません(27条)。

(15) 顧客からの苦情及び紛争処理体制の整備

協会員は、顧客からの苦情の申出及び顧客との間の紛争について、担当部署を定める等社内

管理体制を整備し、その適切な処理に努めなければなりません(28条)。

(16) 電磁的方法による書面の交付等

協会員は、6条の2に規定する注意喚起文書の交付等に代えて、「書面の電磁的方法による提

供等の取扱いに関する規則」(以下「書面電磁的提供等規則」といいます。)2条及び3条に定

めるところにより、当該注意喚起文書に記載すべき事項について電子情報処理組織を使用する

方法その他の情報通信の技術を利用する方法により提供をすることができます。この場合にお

いて、当該協会員は、当該注意喚起文書の交付等を行ったものとみなします(29条1項)。

また、協会員は、8条に規定する確認書の徴求に代えて、書面電磁的提供等規則に定めると

ころにより、当該確認書に記載すべき事項について電子情報処理組織を使用する方法その他の

情報通信の技術を利用する方法により提供を受けることができます。この場合において、当該

協会員は、当該確認書を徴求したものとみなします(29 条2項)。

2 有価証券の寄託の受入れ等に関する規則

この規則は、協会員が行う顧客からの有価証券の寄託の受入れ、顧客に対する報告、債権・

債務の残高の照合に関する処理方法等について規定したもので、その目的は、協会員の顧客管

理の適正化を図ることにあります(1条)。

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なお、寄託契約は民法 657条に規定されており、寄託契約は預り主が預け主に対して、ある

物の保管を行うことを約束し、その物を受け取ることによって成立する契約です。

協会員は、顧客から倉荷証券など、金商法2条8項 16号に規定する寄託された商品に関して

発行された証券又は証書を預かる場合でも、有価証券の寄託の受入れ等の制限(2条)、保護預

り契約の締結(3条)、寄託を受けた有価証券の口座処理(5条)の規定が準用され、それぞれ

遵守する必要があります。ただし、特定業務会員のうち、商品関連市場デリバティブ取引取次

ぎ等のみを行う者においては、適用除外とされています。

(1) 照合通知書及び契約締結時交付書面(会員の場合)

① 照合通知書による報告

会員は、顧客に対する債権債務の残高について、次に掲げる顧客の区分に従って、それぞ

れに定める頻度で、照合通知書により当該顧客に報告しなければなりません。

ただし、当該顧客が金商業等府令 98条1項3号イに規定する取引残高報告書を定期的に交

付している顧客である場合で、当該取引残高報告書に照合通知書に記載すべき項目を記載し

ている場合には、照合通知書の作成・交付が免除されます(9条1項)。

イ 有価証券の売買その他の取引のある顧客…………………………1年に1回以上

ロ 有価証券関連デリバティブ取引、特定店頭デリバティブ取引又は商品関連市場デリバ

ティブ取引のある顧客………………………………………………1年に2回以上

ハ 金銭又は有価証券の残高がある顧客で前記イ、ロに掲げる取引又は受渡しが1年以上

行われていない顧客 ··············································· 随時

(注) 有価証券関連デリバティブ取引とは、金商法 28 条8項6号に規定する有価証券関連デ

リバティブ取引(同法2条2項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利

に係るものを除きます。以下同じ。)をいいます。

特定店頭デリバティブ取引とは、金商法2条 22 項に規定する店頭デリバティブ取引(金

商法施行令1条の8の6第1項2号に該当するものを除きます。)であって、金商法2条

2項の規定により有価証券とみなされる同項各号に掲げる権利に係る取引、有価証券関連

デリバティブ取引、店頭金融先物取引(金商業等府令 79 条2項2号に規定する店頭金融

先物取引をいいます。)、金商法2条 22 項4号に規定する取引(同条 25 項1号又は4

号に掲げる金融指標(同条 24 項3号に係るものに限ります。)に係る取引に限ります。)

のいずれにも該当しないものをいいます。

商品関連市場デリバティブ取引とは、金商法2条8項1号に規定する商品関連市場デリ

バティブ取引(金融商品(金、銀、白金、パラジウム、原油、くん煙シート、技術的格付

けゴム、大豆、小豆又はとうもろこしに限ります。)又は金融指標(金、銀、白金、パラ

ジウム、原油、くん煙シート、技術的格付けゴム、大豆、小豆又はとうもろこしの価格及

びこれに基づいて算出した数値に限ります。)に係る市場デリバティブ取引)をいいます。

この照合通知書に記載すべき事項は、次に掲げる金銭又は有価証券の直近の残高(MMF

又は中期国債ファンド等のキャッシングに係るものを除きます。)です(9条2項)。

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ⅰ)立替金、貸付金、預り金又は借入金の直近の残高

ⅱ)単純な寄託契約、委任契約、混合寄託契約又は消費寄託契約に基づき寄託を受けて

いる有価証券及び振替口座簿への記載又は記録等により管理している有価証券(次の

ⅲに掲げるものを除きます。)の直近の残高

ⅲ)質権の目的物としての金銭又は有価証券の直近の残高

ⅳ)信用取引に係る未決済勘定の直近の残高(照合通知書が信用取引に関する通知書の

送付と同一時期に送付されるときは、記載を省略できることとされています。)

ⅴ)発行日取引に係る有価証券の直近の残高

ⅵ)有価証券関連デリバティブ取引、特定店頭デリバティブ取引及び商品関連市場デリ

バティブ取引に係る未決済勘定の直近の残高(有価証券関連デリバティブ取引に係る

未決済勘定の直近の残高については、照合通知書が有価証券関連デリバティブ取引に

関する通知書の送付と同一時期に送付されるときは、記載を省略できることとされて

います。)

顧客が特定投資家の場合であって、顧客からの照会に対して速やかに回答できる体制が整

備されている場合には、報告を省略できることとされています。さらに、照合通知書に記載

すべき事項のうち、個別のデリバティブ取引等に係る契約締結時交付書面(顧客に交付した

ものに限ります。)又は当該デリバティブ取引等に係る取引の条件を記載した契約書(顧客と

取り交わしたものに限ります。)に記載された事項については、照合通知書への記載を省略で

きることとされています(9条4項・5項)。

なお、金銭及び有価証券の残高がない顧客の場合でも、直前に行った報告以後1年に満た

ない期間においてその残高があったものについては、照合通知書により、現在その残高がな

い旨を報告しなければなりません(10条)。

② 照合通知書の作成、交付

照合通知書の作成は、会員の検査、監査又は管理を担当する部門で行うこととされていま

す(11条1項)。

この照合通知書には、次に掲げる事項を見やすいように表示しなければなりません。なお、

特別会員の登録金融機関金融商品仲介行為に係る照合通知書には、次のハの連絡先のほか、

当該特別会員の検査、監査又は管理を担当する部門の責任者を表示することができます(11

条2項)。

イ 顧客が照合通知書を受け取ったときは、その記載内容を確認すること

ロ 照合通知書の内容に相違又は疑義があるときは、遅滞なく、当該会員の検査、監査又

は管理を担当する部門の責任者に直接照会すること

ハ 上記ロに係る連絡先

また、照合通知書を顧客に交付するときは、顧客との直接連絡を確保する趣旨から、当該

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顧客の住所、事務所の所在地又は当該顧客が指定した場所に郵送することを原則としていま

す。ただし、照合通知書を直ちに顧客に交付できる状態にある場合において、これを当該顧

客に店頭で直接交付する場合又は当該顧客からその交付方法について特に申出があった場合

において、協会が定める方法による処理を行うときはこの限りではありません(11 条3項・

4項)。

なお、会員は、顧客から前述①のⅰ)からⅵ)までに掲げる金銭又は有価証券の残高につ

いて照会があったときは、会員の検査、監査又は管理を担当する部門がこれを受け付け、遅

滞なく回答を行わなければならないこととなっています。また、会員は、その照会が金融商

品仲介業務に係るものであったときは、必要に応じて、金融商品仲介業務の委託を行う特別

会員又は金融商品仲介業者に報告を求め、調査するものとされています(12 条)。

③ 契約締結時交付書面の交付

契約締結時交付書面の交付についても、前述の照合通知書の場合と同様、顧客との直接連

絡を確保する趣旨から、当該顧客の住所、事務所の所在地又は当該顧客が指定した場所に郵

送することを原則としますが、契約締結時交付書面を直ちに顧客に交付できる状態にある場

合において、これを当該顧客に店頭で直接交付する場合又は当該顧客からその交付方法につ

いて特に申出があった場合において、協会が定める方法による処理を行うときは、郵送以外

の方法でもよいこととなっています(13条)。

また、顧客が法人又はこれに準じる団体である場合において、会員の主管責任者又は主管

責任者の承認を受けた従業員が契約締結時交付書面を当該顧客の事務所に持参して直接交付

したときは、郵送により交付したものとみなされます(13条2項)。

(2) 照合通知書及び契約締結時交付書面(特別会員の場合)

① 照合通知書による報告

特別会員は、次に掲げる区分に従って、それぞれに定める頻度で、照合通知書により、顧

客に報告しなければなりません。

ただし、当該顧客が取引残高報告書を定期的に交付し又は通帳方式により通知している顧

客であり、当該取引残高報告書又は当該通帳に照合通知書に記載すべき項目を記載している

場合には、照合通知書の作成・交付が免除されます(17 条1項)。

イ 有価証券関連市場デリバティブ取引、選択権付債券売買取引、有価証券関連店頭デリ

バティブ取引、特定店頭デリバティブ取引及び商品関連市場デリバティブ取引のある顧

客 ……………………………………………………………………… 1年に2回以上

ロ 登録金融機関業務に係る有価証券の残高がある顧客(前記イに掲げる取引のある顧客

を除きます。) ··········································· 1年に1回以上

ハ 登録金融機関業務に係る金銭又は有価証券の残高がある顧客で、前記イに掲げる取引

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又は受渡しが1年以上行われていない顧客 随時

この照合通知書に記載すべき事項は、登録金融機関業務に係る次に掲げる金銭又は有価証

券等の残高です(17条2項)。

ⅰ)立替金及び預り金の直近の残高

ⅱ)単純な寄託契約、委任契約又は混合寄託契約に基づき寄託を受けている有価証券及

び振替口座簿への記載又は記録等により管理している有価証券(次のⅲからⅵに掲げ

るものを除きます。)の直近の残高

ⅲ)有価証券関連市場デリバティブ取引及び商品関連市場デリバティブ取引の委託証拠

金及び同代用有価証券の直近の残高

ⅳ)有価証券関連店頭デリバティブ取引の担保金及び担保有価証券(当該取引のみに係

るものに限ります。)の直近の残高

ⅴ)選択権付債券売買取引に係る売買証拠金及び同代用有価証券等の直近の残高

ⅵ)特定店頭デリバティブ取引の担保金及び担保有価証券(当該取引のみに係るものに

限ります。)の直近の残高(これらを記載した書面を顧客に交付した場合には、照合通

知書への記載を省略できることとされています。)

ⅶ)選択権付債券売買取引、有価証券関連市場デリバティブ取引、有価証券関連店頭デ

リバティブ取引、特定店頭デリバティブ取引又は商品関連市場デリバティブ取引に係

る未決済勘定の直近の残高(有価証券関連市場デリバティブ取引に係る未決済勘定の

直近の残高については、照合通知書が有価証券関連デリバティブ取引に関する通知書

の送付と同一時期に送付されるときは、記載を省略できることとされています。)

顧客が特定投資家の場合であって、顧客からの照会に対して速やかに回答できる体制が整

備されている場合には、報告を省略できることとされています。さらに、照合通知書に記載

すべき事項のうち、個別のデリバティブ取引等に係る契約締結時交付書面(顧客に交付した

ものに限ります。)又は当該デリバティブ取引等に係る取引の条件を記載した契約書(顧客と

取り交わしたものに限ります。)に記載された事項については、照合通知書への記載を省略で

きることとされています(17 条5項・6項)。

なお、金銭及び有価証券等の残高がない場合でも、直前に行った報告以後1年に満たない

期間においてその残高があったものについては、照合通知書により、現在その残高がない旨

を報告しなければなりません(16条において準用する 10 条)。

② 照合通知書の作成、交付

照合通知書の作成は、特別会員の検査、監査又は管理を担当する部門で行うこととされて

います(16条において準用する 11条1項)。

この照合通知書には、次に掲げる事項を見やすいように表示しなければなりません(16条

において準用する 11条2項)。

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イ 顧客が照合通知書を受け取ったときは、その記載内容を確認すること

ロ 照合通知書の内容に相違又は疑義があるときは、遅滞なく、当該特別会員の検査、監

査又は管理を担当する部門の責任者に直接照会すること

ハ 上記ロに係る連絡先

また、照合通知書を顧客に交付するときは、顧客との直接連絡を確保する趣旨から、当該

顧客の住所、事務所の所在地又は当該顧客が指定した場所に郵送することを原則としていま

す。ただし、照合通知書を直ちに顧客に交付できる状態にある場合において、これを当該顧

客に店頭で直接交付する場合又は当該顧客からその交付方法について特に申出があった場合

において、協会が定める方法による処理を行うときはこの限りではありません(16 条におい

て準用する 11条3項・4項)。

なお、顧客から前述①のⅰ)からⅶ)までに掲げる金銭又は有価証券の残高について照会

があったときは、特別会員の検査、監査又は管理を担当する部門がこれを受け付け、遅滞な

く回答を行わなければならないこととなっています。また、特別会員は、その照会が金融商

品仲介業務に係るものであったときは、必要に応じて、金融商品仲介業務の委託を行う金融

商品仲介業者に報告を求め、調査するものとされています(16 条において準用する 12 条)。

③ 契約締結時交付書面の交付

契約締結時交付書面の交付についても、前述の照合通知書の場合と同様、顧客との直接連

絡を確保する趣旨から、当該顧客の住所、事務所の所在地又は当該顧客が指定した場所に郵

送することを原則としますが、契約締結時交付書面を直ちに顧客に交付できる状態にある場

合において、これを当該顧客に店頭において直接交付するとき又は当該顧客からその交付方

法について特に申出があった場合において、協会が定める方法による処理を行うときは、郵

送以外の方法でもよいこととなっています(16条において準用する 13条1項)。

また、顧客が法人又はこれに準じる団体である場合において、特別会員の主管責任者又は

主管責任者の承認を受けた従業員が契約締結時交付書面を当該顧客の事務所に持参して直接

交付したときは、郵送により交付したものとみなされます(16 条において準用する 13 条2

項)。

(3) 照合通知書及び契約締結時交付書面(特定業務会員の場合)

① 照合通知書による報告

特定業務会員は、次に掲げる区分に従って、それぞれに定める頻度で、照合通知書により、

顧客に報告しなければなりません。

ただし、当該顧客が取引残高報告書を定期的に交付している顧客であり、当該取引残高報

告書に記載すべき項目を記載している場合には、照合通知書の作成・交付が免除されます(20

条1項)。

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イ 有価証券の売買その他の取引のある顧客 ··················· 1年に1回以上

ロ 特定店頭デリバティブ取引又は商品関連市場デリバティブ取引のある顧客

……………………………………………………………………………1年に2回以上

ハ 特定店頭デリバティブ取引等又は商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等に係る業

務についての有価証券の残高がある顧客(前記イ及びロに掲げる取引のある顧客を除き

ます。) ················································· 1年に1回以上

ニ 特定業務に係る金銭又は有価証券の残高がある顧客で、前記イ若しくはロに掲げる

取引又は受渡しが1年以上行われていない顧客 ························· 随時

この照合通知書に記載すべき事項は、特定業務に係る次に掲げる金銭又は有価証券等の残

高です(20条2項)。

ⅰ)立替金及び預り金の直近の残高

ⅱ)特定店頭デリバティブ取引の担保金及び担保有価証券(当該取引のみに係るものに限

ります。)の直近の残高

ⅲ)商品関連市場デリバティブ取引に係る委託証拠金及び同代用有価証券の直近の残高

ⅳ)特定店頭デリバティブ取引又は商品関連市場デリバティブ取引に係る未決済勘定の直

近の残高

顧客が特定投資家の場合であって、顧客からの照会に対して速やかに回答できる体制が整

備されている場合には、報告を省略できることとされています。さらに、照合通知書に記載

すべき事項のうち、特定業務に係る契約締結時交付書面(顧客に交付したものに限ります。)

又は特定業務のうち特定店頭デリバティブ取引又は商品関連市場デリバティブ取引に係る取

引の条件を記載した契約書(特定店頭デリバティブ取引等又は商品関連市場デリバティブ取

引取次ぎ等に係る業務を行う者がその顧客と取り交わしたものに限ります。)に記載された事

項については、照合通知書への記載を省略できることとされています(20条3項・4項)。

なお、金銭及び有価証券等の残高がない場合でも、直前に行った報告以後1年に満たない

期間においてその残高があったものについては、照合通知書により、現在その残高がない旨

を報告しなければなりません(19条において準用する 10 条)。

② 照合通知書の作成、交付

照合通知書の作成は、特定業務会員の検査、監査又は管理を担当する部門で行うこととさ

れています(19 条において準用する 11 条1項)。

この照合通知書には、次に掲げる事項を見やすいように表示しなければなりません(19条

において準用する 11条2項)。

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イ 顧客が照合通知書を受け取ったときは、その記載内容を確認すること

ロ 照合通知書の内容に相違又は疑義があるときは、遅滞なく、当該特定業務会員の検

査、監査又は管理を担当する部門の責任者に直接照会すること

ハ 上記ロに係る連絡先

また、照合通知書を顧客に交付するときは、顧客との直接連絡を確保する趣旨から、当該

顧客の住所、事務所の所在地又は当該顧客が指定した場所に郵送することを原則としていま

す。ただし、照合通知書を直ちに顧客に交付できる状態にある場合において、これを当該顧

客に店頭で直接交付する場合又は当該顧客からその交付方法について特に申出があった場合

において、協会が定める方法による処理を行うときはこの限りではありません(19 条におい

て準用する 11条3項・4項)。

なお、顧客から前述①のⅰ)からⅲ)までに掲げる金銭又は有価証券の残高について照会

があったときは、特定業務会員の検査、監査又は管理を担当する部門がこれを受け付け、遅

滞なく回答を行わなければならないこととなっています(19条において準用する 12 条)。

③ 契約締結時交付書面の交付

契約締結時交付書面の交付についても、前述の照合通知書の場合と同様、顧客との直接連

絡を確保する趣旨から、当該顧客の住所、事務所の所在地又は当該顧客が指定した場所に郵

送することを原則としますが、契約締結時交付書面を直ちに顧客に交付できる状態にある場

合において、これを当該顧客に店頭において直接交付するとき又は当該顧客からその交付方

法について特に申出があった場合において、協会が定める方法による処理を行うときは、郵

送以外の方法でもよいこととなっています(19条において準用する 13条1項)。

また、顧客が法人又はこれに準じる団体である場合において、特定業務会員の主管責任者

又は主管責任者の承認を受けた従業員が契約締結時交付書面を当該顧客の事務所に持参して

直接交付したときは、郵送により交付したものとみなされます(19 条において準用する 13

条2項)。

なお、特定業務会員のうち、商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等のみを行う者におい

ては、金商業等府令 98条1項3号イに定める取引残高報告書を顧客に初めて交付する日まで

の間、①から③について適用除外とされています。

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3 協会員の内部管理責任者等に関する規則

この規則は、協会員が、金商法その他の法令諸規則等の遵守状況を管理する業務に従事する

役員及び従業員の配置、その資格要件、責務等を定めることにより、協会員の内部管理態勢を

強化し、適正な営業活動の遂行に資するために定められたものです(1条)。

(1) 内部管理統括責任者の登録

協会員は、内部管理統括責任者 1 名を定め、協会が備える内部管理統括責任者登録簿に登録

を受けなければなりません(2条1項)。また、登録内容に変更があった場合も変更に係る登録

を受けなければなりません(2条2項)。

(2) 内部管理統括責任者の資格要件

会員の内部管理統括責任者は、原則として、内部管理を担当する登記された代表取締役又は

代表執行役(外国法人である会員については、当該支店において常務に従事している国内にお

ける代表者に準ずる権限を有する者)でなければなりません(3条1項)。

なお、特定業務会員の内部管理統括責任者は、原則として、当該特定業務会員が行う全ての

特定業務の内部管理を担当する役員でなければなりません(3条2項)。

内部管理統括責任者は、経営の最高責任者(一般的には代表取締役社長)に対し、金商法

その他の法令諸規則等の遵守の観点から意見ができる者が就くべきであり、このため、内部

管理部門の最高責任者として、会社組織上高位の者が内部管理統括責任者に就くことが望ま

しいと考えられます。

なお、協会員は、協会が一級不都合行為者として取り扱っている者を内部管理統括責任者に

任命することはできないほか(3条4項)、二級不都合行為者として取り扱っている者又は外務

員登録の取消しの処分を受けた者について、当該処分等の決定を受けた日から5年間、また、

営業責任者若しくは内部管理責任者として任命し配置することを禁止する措置(以下、この規

則において「営業責任者等配置禁止措置」といいます。)に係る決定を受けた者、外務員の職務

禁止措置に係る決定を受けた者又は外務員の職務の停止の処分を受けた者について、当該措置

又は処分期間中、内部管理統括責任者に任命することはできません(3条5項・6項・7項)。

(3) 内部管理統括責任者の責務

内部管理統括責任者は、自ら金商法その他の法令諸規則等を遵守するとともに、役員又は従

業員に対し、金商法その他の法令諸規則等の遵守の営業姿勢を徹底させ、投資勧誘等の営業活

動、顧客管理が適正に行われるよう、内部管理態勢の整備に努めなければなりません(4条1

項)。

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(4) 内部管理統括責任者への指示

取締役社長等は、内部管理統括責任者がその職務を的確に遂行できるよう配慮するとともに、

内部管理統括責任者から投資勧誘等の営業活動、顧客管理に関する重大な事案について報告を

受けた場合は、適切な指示を与えなければなりません(5条)。

(5) 職務の分担

内部管理統括責任者は、責務を遂行するため、自己の責任において、一定の要件を満たす内

部管理統括補助責任者に自己の職務を分担させることができます(6条1項)。

(6) 内部管理統括責任者及び内部管理統括補助責任者への交代勧告

協会は、内部管理統括責任者及び内部管理統括補助責任者自らが法令等違反行為を行ったと

き、又は法令等違反行為を隠蔽、放置した場合や、自らの指示により発生した場合等、その責

務(4条各項、6条6項)を十分に果たしていなかったと認められるときには、当該内部管理

統括責任者及び当該内部管理統括補助責任者の交代勧告をすることができます(9条1項・2

項)。

(7) 営業責任者及び内部管理責任者の配置

協会員は、投資勧誘等の営業活動、顧客管理を行う本店、その他の営業所又は事務所(本店、

その他の営業所又は事務所における部署を含みます。)について、営業単位を定め、当該営業単

位の長を営業責任者に任命し、配置しなければなりません(10 条1項)。

また、当該営業単位ごとに内部管理業務の管理職者を内部管理責任者に任命し、配置しなけ

ればなりません(13条1項)。

(8) 営業責任者及び内部管理責任者の資格要件

会員は、会員内部管理責任者資格試験(2006(平成 18)年4月1日改正前の「証券外務員等

資格試験規則」に基づく会員営業責任者資格試験を含みます。)の合格者でなければ、営業責任

者に任命してはなりません(11条2項)。

また、内部管理責任者については、会員内部管理責任者資格試験の合格者でなければ、任命

してはなりません(14 条2項)。

なお、2020(令和2)年 12 月 31 日までに、日本商品先物取引協会の内部管理責任者等資格

研修を修了し、かつ、本協会が実施する認定研修を修了した者等について、営業責任者及び内

部管理責任者として配置することができます。

さらに、協会員は、協会が一級不都合行為者として取り扱っている者を営業責任者及び内部

管理責任者に任命することはできないほか(11条6項、14条6項)、二級不都合行為者として

取り扱っている者又は外務員登録の取消しの処分を受けた者については、当該処分等の決定を

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受けた日から5年間、また、営業責任者等配置禁止措置に係る決定を受けた者、外務員の職務

禁止措置に係る決定を受けた者又は外務員の職務の停止の処分を受けた者については、当該措

置又は処分期間中、それぞれ営業責任者及び内部管理責任者に任命することはできません(11

条7項・8項、14条7項・8項)。

(9) 営業責任者及び内部管理責任者の責務

営業責任者は、自ら金商法その他の法令諸規則等を遵守するとともに、自らが営業責任者と

して任命された営業単位に所属する役員又は従業員に対し、金商法その他の法令諸規則等を遵

守する営業姿勢を徹底させ、投資勧誘等の営業活動、顧客管理が適正に行われるよう、指導、

監督しなければなりません(12条1項)。

また、内部管理責任者は、自ら金商法その他の法令諸規則等を遵守するとともに、自らが内

部管理責任者として任命された営業単位における営業活動が金商法その他の法令諸規則等に準

拠し、適正に遂行されているかどうか常時監査する等適切な内部管理を行わなければなりませ

ん(15条1項)。

なお、営業責任者及び内部管理責任者は、自らが任命された営業単位における投資勧誘等の

営業活動、顧客管理に関し、重大な事案が生じた場合には、速やかにその内容を内部管理統括

責任者に報告し、その指示を受けなければなりません(12条2項、15条2項)。

(10) 営業責任者等配置禁止措置

① 措置について

協会は、営業責任者若しくは内部管理責任者自らが法令等違反行為を行ったとき、又は自

らが営業責任者若しくは内部管理責任者として任命された営業単位に所属する役員又は従業

員の法令等違反行為が発生した場合において、営業責任者又は内部管理責任者が当該法令等

違反行為を隠蔽、放置した場合や、自らの指示により発生した場合等、その責務(12 条、15

条)を十分に果たしていなかったと認められるときには、決定により、当該違反時に所属し

ていた協会員に対し当該営業責任者又は内部管理責任者につき5年以内の期間を定めて営業

責任者等配置禁止措置を講じます(17条1項・18条1項)(注)。

(注) 協会が当該営業責任者又は内部管理責任者を不都合行為者として取り扱う場合には、当該

営業責任者又は内部管理責任者が有する営業責任者資格及び内部管理責任者資格が取り消さ

れることから、営業責任者等配置禁止措置は講じられません。

② 措置を決定する場合の手続について

協会は、営業責任者等配置禁止措置を講じようとするときは、「協会員の外務員等の処分に

係る手続に関する規則」に基づき弁明の手続を行い、措置が決定した場合は対象となる協会

員に通知を行います。なお、弁明及び措置決定に係る通知については、意見陳述の機会の確

保を図るため、原則として、従業員等本人に対しても行われます(協会員の外務員等の処分

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に係る手続に関する規則8条、27条、28条)。

③ 不服申立て

営業責任者等配置禁止措置の決定の名宛人及び当該営業責任者等配置禁止措置の決定の対

象となった者で、当該決定に不服がある者は、協会に対して不服申立てを行うことができま

す(協会員の従業員等に係る自主規制処分の不服申立てに関する規則4条)。

営業責任者及び内部管理責任者は、当該営業単位に所属する従業員等に対し、適切に管理業

務を行わなければならない立場にありますが、協会は、営業責任者及び内部管理責任者として

ふさわしくない者について、これらの処分を通じて協会員における当該両責任者の適切な配置

を求めています。

4 事故の確認申請、調査及び確認等に関する規則

金融商品取引業者等が、有価証券売買取引等につき損失補塡を行うことは、①補塡に係る損

失が金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人の事故に起因するものであり、金融商品

取引業者等があらかじめ内閣総理大臣(財務局長)の確認を受けていること、又は②金商業等

府令に定める事故の確認を要しない場合に該当していること、のいずれかの要件を満たさない

場合には禁止されています(金商法 39 条1項・3項、金商業等府令 119条1項)。

金商業等府令に定める事故の確認を要しない場合とは、「裁判所の確定判決を得ている」場合

のほか、「金融商品取引業協会の内部に設けられた委員会において調査され、確認されている」

等の場合があります。

なお、金商業等府令に定める事故の確認を要しない場合のうち、金融商品取引業者等が自ら

判断するものや金融商品取引業協会の内部に設けられた委員会が判断するものについては、財

務局長への報告義務があります(金商業等府令 119条3項)。

この規則は、前述のうち、①の内閣総理大臣(財務局長)の確認、協会の内部に設けられた

事故確認委員会における調査・確認を受けるため及び財務局長への報告を行うために必要な手

続等を定めています。

この規則において、「事故」とは、金商法 39条3項に規定する事故のうち定款3条8号に掲

げる有価証券の売買その他の取引等に係る事故を指し、「補塡行為」とは、金商法 39条1項2

号及び3号に掲げる行為を指します(2条1号・2号)。

(1) 委員会調査確認申請

① 委員会調査確認申請

協会員は、協会員又はその従業員等の事故(事故による損失について、協会員と顧客との

間で顧客に対して支払をすることとなる額が定まっている場合であって、協会員が顧客に対

して支払をすることとなる額が 1,000万円を超えないものに限ります。以下、この(1)にお

いて同じ。)により補塡行為を行う場合には、確認申請を行うとき又は金商業等府令に定める

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場合(金商業等府令 119 条1項1号から8号まで、10 号若しくは 11 号に掲げる場合)に該

当するときを除き、顧客に対する支払が事故による損失を補塡するために行われるものであ

ることにつき、あらかじめ、事故確認委員会の調査及び確認を受けなければなりません(8

条1項)。

この調査及び確認を受けようとする協会員は、事故調査確認申請書(以下、この規則にお

いて「調査確認申請書」といいます。)を事故確認委員会に提出しなければなりません(8条

2項)。

② 委員会による調査及び確認

事故確認委員会は、協会員から前述①により調査確認申請書の提出があった場合には、調

査確認申請書に記載された顧客に対する支払が事故による損失を補塡するために行われるも

のであるかどうかについて調査及び確認を行います(9条1項)。

③ 協会員に対する回答

事故確認委員会は、前述②の調査及び確認を行った場合、速やかに、その内容について申

請を行った協会員に対し、回答します(10 条)。この結果を受け、協会員は、顧客に対し、

財産上の利益の提供(金銭等の支払)を行うこととなります。

(2) 事故報告

協会員は、事故確認委員会による調査及び確認を受け補塡行為を行った場合及び金額が 10

万円以下の補塡行為を行った場合等自らの判断で補塡行為を行った場合には、管轄財務局長等

へ報告しなければなりません(12条1項)。

この報告は、当該補塡行為を行った日の属する月の翌月 20 日までに、報告書を協会に提出す

ることにより、協会を経由して行わなければなりません(12条2項)。

(3) 確認申請

協会員は、協会員又はその従業員等の事故により補塡行為を行う場合には、管轄財務局長等

の確認が不要とされる場合を除き、当該補塡行為に係る損失が事故に起因するものであること

につき、あらかじめ、管轄財務局長等の確認を受けなければなりません(4条1項)。

この確認を受けようとする協会員は、事故確認申請書(以下「確認申請書」といいます。)を、

協会を経由して、管轄財務局長等に提出しなければなりません(4条2項・4項)。

協会は、確認申請書に記載された補塡に係る損失が事故に起因するものであるかどうかを審

査(5条1項)のうえ、確認申請書を管轄財務局長等に提出します(6条)。

管轄財務局長等の確認の結果は、協会を経由して協会員に通知され(7条)、管轄財務局長等

の確認を得た場合に、協会員は、顧客に対し、財産上の利益の提供(金銭等の支払)を行うこ

ととなります。

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5 金融商品仲介業者に関する規則

この規則は、協会員の金融商品仲介業に係る業務の委託に関し、金融商品仲介業者に遵守さ

せるべき事項等を定め、協会員が指導及び監督することを通じて当該金融商品仲介業者におけ

る適正な業務運営を図り、もって投資者の保護に資することを目的として定められたものです

(1条)。

この規則において、「金融商品仲介業者」とは、協会員を所属金融商品取引業者等(金商法

66 条の2第1項4号に規定する所属金融商品取引業者等をいいます。)とする同法2条 12項に

規定する金融商品仲介業者のうち、同条 11 項に規定する金融商品仲介業(同項1号から3号ま

でに掲げる行為(同項2号に掲げる行為にあっては、金商法施行令 16条の4第2項1号イから

ハ及び同項2号に掲げる取引に係るものを除きます。)に係る業務に限ります。)を行う者をい

います(2条3号、定款3条9号)。

(1) 金融商品仲介業者に対する法令等の遵守の徹底

協会員は、金融商品仲介業者に対して金商法その他関係法令及び協会の定款その他の規則(以

下、この規則において「法令等」といいます。)を周知し、その遵守を徹底しなければならず(3

条1項)、金融商品仲介業者に法令等に違反する行為があったことを知ったときは、当該金融商

品仲介業者に対し、その是正を求めなければなりません(3条2項)。

また、協会員は、金融商品仲介業者において外務員の登録を受けようとする者又は個人であ

る金融商品仲介業者(以下、この規則において「個人金融商品仲介業者」といいます。)が「協

会員の従業員に関する規則」12条1項の規定による二級不都合行為者としての取扱いの決定を

受けた者であったこと等が判明した場合には、法令等違反行為の抑止及び投資者保護に係る研

修等を行わせ、又は自らの研修等を受講させるものとします(3条の2)。

(2) 金融商品仲介業に係る業務委託契約の締結

協会員は、金融商品仲介業に係る業務委託契約を締結するときは、当該委託契約において、

次に掲げる事項を定めなければなりません(4条)。

① 金融商品仲介業者又はその役員若しくは従業員が金商法その他の関係法令を遵守する

こと

② 協会員が金融商品仲介業者に対して協会の定款その他の規則を遵守するように指導及

び監督し、金融商品仲介業者が協会員の指導に従うこと

③ 協会が協会員に対し、個人金融商品仲介業者若しくは金融商品仲介業者の外務員に係る

処分又は 29 条1項に規定する外務員の職務を禁止する措置を行った場合には、当該個人

金融商品仲介業者又は当該外務員はその処分又は措置に従うこと

④ 協会が協会員に対し、金融商品仲介業者からの事情聴取又は資料提出を求めた場合に

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は、金融商品仲介業者はこれに応じなければならないこと

⑤ 協会員が金融商品仲介業者に対し検査を行うことができること及び金融商品仲介業者

はこれに応じなければならないこと

(3) 協会員の外務員との並存の禁止

協会員は、自己又は他の協会員の外務員が所属する者に金融商品仲介業に係る業務を行わせ

てはならず(5条1項)、自己又は他の協会員の外務員が所属する者との間で金融商品仲介業に

係る委託を行う際には、当該者が金融商品仲介業の登録を完了するまでの間に当該外務員の登

録が抹消されること、及び当該外務員の登録が抹消されなければ当該金融商品仲介業に係る委

託業務を開始してはならないことを、契約上明確にしなければなりません(5条2項)。

また、協会員は、金融商品仲介業者の役員又は使用人を自己の外務員として登録を受けては

なりません(5条3項)。

(4) 投資勧誘に関する各種規制の遵守

協会員は、適合性の原則、重要な事項の説明及び投資家の自己責任原則等について金融商品

仲介業者に周知し、徹底しなければなりません(6条1項)。さらに、協会員は、金融商品仲介

業者が「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」5条に基づき協会員が備える「顧客カ

ード」の活用並びに同規則5条の2及び5条の3に定めるところ等により適切な投資勧誘を行

う態勢を整備しなければなりません(6条2項)。

また、金融商品仲介業者が顧客に対し、主観的又は恣意的な情報提供となる特定銘柄の有価

証券等の一律集中的推奨を行うことのないようにしなければなりません(8条1項)。

(5) 金融商品仲介業者に対する内部管理の徹底等

協会員は、金融商品仲介業者を介した顧客との取引及び顧客管理体制の適正化を図るため、

金融商品仲介業者に社内規則の制定、整備及びその遵守の徹底を指導するとともに、当該金融

商品仲介業者の業務運営の状況を把握しなければならず、内部管理責任者に、金融商品仲介業

者の業務が法令等に準拠し、適正に遂行されているかを監査する等適切に管理させなければな

りません(7条)。

また、金融商品仲介業者が行う金融商品仲介業に係る広告等の表示及び景品類の提供につい

て、協会員において審査したものでなければ行わせてはなりません(13条)。

(6) 協会への照会

協会員は、金融商品仲介業に係る業務の委託契約を締結しようとする者(個人に限ります。)

及び金融商品仲介業者において外務員の登録を受けようとする者(以下、この規則において「被

照会者」といいます。)について、「協会員の従業員に関する規則」12 条1項の規定による一級

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不都合行為者としての取扱いについて又は最近5年間における次の①から④までに掲げる取扱

い及び措置に係る決定並びに処分について、所定の方法により協会に照会しなければなりませ

ん(15条1項・2項)。

協会は、照会を受けたときは、被照会者について、一級不都合行為者としての取扱いの決定

の有無及びその概要又は回答を行う日前5年間における次の①から④までに掲げる取扱い及び

措置に係る決定並びに処分の有無及びその概要を、遅滞なく、所定の方法により当該照会を行っ

た協会員に回答します(15条3項・4項)。

① 外務員の登録を取り消し又は職務の停止を命ずる処分

② 外務員の職務禁止措置

③ 二級不都合行為者としての取扱い

④ 営業責任者又は内部管理責任者として任命し、配置することを禁止する措置

(7) 外務員資格と研修制度

協会員は、個人金融商品仲介業者又は金融商品仲介業者の役職員が外務員資格を取得しない

で、若しくはその資格の範囲外で外務員の職務を行うことのないようにしなければなりません

(16条)。

また、協会員は、個人金融商品仲介業者及び金融商品仲介業者の外務員に協会の資格更新研

修(原則として外務員登録を受けた日後 180日以内及び外務員登録を受けた日から5年ごと)

を受講させなければなりません(19 条)(注)。

(注) 受講義務期間の初日前2年以内に外務員等資格試験に合格した者等(特例商先外務員資格

及び特例商先外務員資格(ディーリング限定)の認定を受けた者を含みます。)は、外務員資

格更新研修を受講して修了したものとみなされます。

(8) 外務員の禁止行為

協会員は、個人金融商品仲介業者又は金融商品仲介業者の外務員が、金融商品仲介行為につ

き、顧客への損失補塡、顧客に同意を得ない有価証券の売買その他の取引等の禁止行為及び不

適切行為を行うことのないようにしなければなりません(24条、25条)。

6 反社会的勢力との関係遮断に関する規則

この規則は、反社会的勢力との関係の遮断に関し、必要な事項を定め、会員の健全な業務の

遂行の確保並びに反社会的勢力の金融商品取引及び金融商品市場からの排除を図り、もって資

本市場の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的として定められたものです(1条)。

なお、この規則で「反社会的勢力」とは、暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係

企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等及びその他これらに準ずる者を

いいます(2条、定款の施行に関する規則 15 条)。

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(1) 基本姿勢

会員は、原則として、相手方が反社会的勢力であることを知りながら、当該相手方との間で

有価証券の売買その他の取引等を行ってはなりません(3条1項)。

また、会員は、相手方が反社会的勢力であることを知りながら、当該相手方への資金の提供

その他便宜の供与を行ってはなりません(3条2項)。

(2) 基本方針の策定及び公表

会員は、反社会的勢力との関係遮断のための基本方針を策定し、当該基本方針を社内に周知

するとともに、当該基本方針又はその概要を公表しなければなりません(4条)。

(3) 反社会的勢力でない旨の確約

会員は、初めて有価証券の売買その他の取引等に係る顧客の口座を開設しようとする場合は、

あらかじめ、当該顧客から反社会的勢力でない旨の確約を受けなければなりません(5条)。

(4) 反社会的勢力を排除するための契約の締結

会員は、顧客から有価証券の売買その他の取引等の注文を受ける場合は、次の①から③まで

に定める事項を契約書又は取引約款等に定めなければなりません(6条)。

① 反社会的勢力でない旨の確約が虚偽であると認められたときは、会員の申出により当該

契約が解除されること

② 顧客が反社会的勢力に該当すると認められたときは、会員の申出により当該契約が解除

されること

③ 顧客が暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求行為等を行い、会員が契約を

継続しがたいと認めたときは、会員の申出により当該契約が解除されること

(5) 審査の実施

会員は、初めて有価証券の売買その他の取引等に係る口座を開設しようとする顧客に関し、

当該顧客が反社会的勢力に該当するか否かあらかじめ審査するよう努めなければなりません

(7条1項)。

また、会員は、有価証券の売買その他の取引等に係る口座を開設している顧客に関し、反社

会的勢力に該当する者がいないか定期的に審査するよう努めなければなりません(7条4項)。

さらに、会員は、顧客が反社会的勢力に該当する者であるとの疑いが生じた場合には、当該

顧客に関し反社会的勢力に該当するか否か審査しなければなりません(7条5項)。

(6) 契約の禁止・関係の解消

会員は、初めて口座を開設する顧客に関する7条1項又は2項に定める審査の結果、顧客が

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反社会的勢力であることが判明した場合は、金融商品取引及び金融商品市場から反社会的勢力

を排除するときを除き、当該顧客と契約を締結してはなりません(8条1項)。

また、会員は、既に口座を開設している顧客に関する7条4項に定める定期的な審査及び顧

客が反社会的勢力に該当する者であるとの疑いが生じた場合における7条5項に定める審査の

結果、顧客が反社会的勢力であることが判明した場合は、可能な限り速やかに関係解消に努め

なければなりません(8条2項)。

(7) 情報の収集

会員は、反社会的勢力に関する情報収集に努めなければなりません(9条)。

(8) 研修等の実施

会員は、役職員に対し、反社会的勢力への対応要領及び反社会的勢力に関する情報の管理等

について、社内研修を実施するなど、役職員の啓蒙に努めなければなりません(10 条)。

(9) 社内管理態勢の整備

会員は、基本方針を実現するための社内規則を制定し、これを役職員に遵守させなければな

らず、当該社内規則に基づき、反社会的勢力との関係を遮断するための管理態勢の整備に努め

なければなりません(11条)。

(10) 管理態勢の充実

会員は、反社会的勢力との関係を遮断するための管理態勢について、定期的に検査を行わな

ければなりません(12 条)。

(11) 協会及び警察等との連携・協力

会員は、反社会的勢力との関係の遮断に関し、協会及び警察その他関係機関と連携及び協力

するよう努めなければならず、反社会的勢力との間で紛争が生じた場合には、弁護士又は協会、

警察その他の関係機関に速やかに連絡又は相談するなどにより、反社会的勢力による行為の被

害の発生を防止するよう努めなければなりません(13条)。

(12) 特定業務会員への適用

この規則の規定は7条2項、3項及び6項を除き、特定業務会員について準用されます(14

条)。

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4-2 従業員、外務員関係

1 協会員の従業員に関する規則

この規則は、金融商品取引業の公共性及び社会的使命の重要性にかんがみ、協会員の従業員

の服務基準等を定めるとともに、従業員に対する協会員の監督責任を明確化し、もって投資者

の保護に資することを目的として定められたものです(1条)。

この規則で「従業員」とは、会員にあっては、その使用人(出向により受け入れた者を含み

ます。)で国内に所在する本店その他の営業所又は事務所に勤務する者をいい(2条6号イ)、

特定業務会員にあっては、その使用人で国内に所在する本店その他の営業所又は事務所におい

て特定業務(定款5条第2号イ、ロ又はハに掲げる業務をいいます。以下、この規則において

同じ。)又は特定業務(定款5条第2号ハに掲げる業務に限ります。)に付随する業務に従事す

る者(2条6号ロ)、特別会員にあっては、その使用人(出向により受け入れた者を含みます。)

で国内に所在する本店その他の営業所又は事務所において登録金融機関業務に従事する者(金

商法 33条の8第2項に規定する特定金融商品取引業務に従事する者を含みます。)をいいます

(2条6号ハ)。また、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法

律に基づく派遣労働者にあっては、金商法 64条1項の規定により外務員の登録を受けている者

をいいます(2条6号ニ)。

なお、この規則は、4条1項(他の協会員の使用人の採用の禁止)、6条(服務の根本基準)

など一部の規定を除き、役員についても準用されます(17条)。

以下、規則に従って略説します。

(1) 従業員の採用

① 法令等違反行為を行った従業員への対応等

協会員は、従業員を採用する際の審査において採用しようとする者が 12 条1項の規定によ

る二級不都合行為者としての取扱いの決定を受けた者であったこと等が判明した場合には、

法令等違反行為の抑止及び投資者保護に係る研修等を行うものとします(3条の2)。

② 採用の禁止

従業員に対する監督責任の所在を明らかにするため、協会員が、他の協会員の使用人を自

己の従業員として採用することを禁止しています。ただし、出向により受け入れる場合等に

ついては、この規制の対象外となっています(4条1項)。

また、後述の不都合行為者制度に基づき協会が一級不都合行為者として取り扱っている者

については、期限を設けず協会員の従業員としての採用が禁止されます。二級不都合行為者

として取り扱っている者については、その取扱いの決定の日から5年間、協会員の従業員と

しての採用が禁止されます(4条2項・3項)。

③ 協会への照会

協会は、従業員として不適格な者、特に不都合行為者の取扱いを受けている者の排除に万

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全を期する趣旨から従業員の採用前における照会制度を設けています(5条)。

協会員は、他の協会員の従業員、金融商品仲介業者若しくはその外務員であった者又は現

に他の協会員の従業員、金融商品仲介業者若しくはその外務員である者を採用しようとする

場合は、一級不都合行為者としての取扱いについて、また、過去5年間のいずれかの時点に

おいて他の協会員の従業員、金融商品仲介業者若しくはその外務員であった者又は現に他の

協会員の従業員、金融商品仲介業者若しくはその外務員である者を採用しようとする場合は、

次のイ~ニに掲げる取扱い及び措置に係る決定並びに処分について、それぞれ所定の方法に

より協会に照会しなければなりません(5条1項・2項)。

協会は、照会を受けたときは、当該照会に係る者について、「一級不都合行為者としての取

扱いの決定の有無及びその概要」又は「回答を行う日前5年間における次のイ~ニに掲げる

取扱い及び措置に係る決定並びに処分の有無及びその概要」を、遅滞なく、所定の方法によ

り当該照会を行った協会員に回答します(5条4項・5項)。

イ 二級不都合行為者としての取扱いの決定

ロ 外務員の登録を取り消し又は職務の停止を命ずる処分

ハ 外務員の職務禁止措置

ニ 営業責任者又は内部管理責任者として任命し、配置することを禁止する措置

(2) 禁止行為

金融商品取引業者の役員及び従業員の禁止行為については、金商法 38 条及び金商業等府令

117 条を中心に法令において規定されていますが、これら一連の規定は、投資者保護、公正な

取引の確保を図り、同時に金融商品取引業者・資本市場に対する信頼を確保することを主眼に

設けられているものです。

この規則では、これら法令において協会員の役員及び従業員の禁止行為として規定されてい

る行為のほか、金融商品取引に関する事故の未然防止の観点から従業員の禁止行為を定めてい

ます。

なお、この禁止行為の規定は、文理解釈上は協会員自体の禁止行為及び従業員に対する協会

員の監督責任を明確にした規定であり、協会が協会員の従業員を直接拘束するものではありま

せん。しかしながら、従業員にこの禁止行為に該当する行為又は従業員として遵守すべき法令、

諸規則に違反する行為若しくはこの規則の8条に規定する不適切行為(過失による場合を除き

ます。)のあったときは、協会員にその者を行為の内容に応じ適正に処分させるとともに、その

顛末を記載した報告書を協会に提出する義務を課しています(10条1項)。

これは、協会の組織上、その規制が直接及ぶ範囲は協会員である会社にとどまることから

であって、規定の根源は、従業員各人がこの規定の趣旨と自己に課せられた使命を十分認識

し、日常業務の遂行に当たってはこの規定に違反する行為のないようにすることはもちろん、

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投資勧誘態度の適正化を図る等、前進的態度をもって臨むことを期待しているものです。

また、この禁止行為の規定は、役員にもすべて準用されます。

次に、この規則上の禁止行為を掲げ、その主なものについて説明します。

① 信用取引及び有価証券関連デリバティブ取引等の禁止

協会員は、その従業員がいかなる名義を用いているかを問わず、自己の計算において信用取

引、有価証券関連デリバティブ取引、特定店頭デリバティブ取引又は商品関連市場デリバティ

ブ取引を行うことのないようにしなければならない旨を規定しています(7条4号)。

この規定は、信用取引、有価証券関連デリバティブ取引、特定店頭デリバティブ取引及

び商品関連市場デリバティブ取引が本来的に投機的性格を有するものであることから、従

業員自らが過当投機に陥り、その結果、顧客及び会社に損害を及ぼすというような事例の

発生を防止するために設けられています。

ただし、自己の従業員が行う取引が、報酬の一部として当該協会員から給付されること

が決定された株式又はストック・オプションについては、次に定める期間において、その

保有に係る価格の変動により発生し得る危険を減少させるために行う金商法2条 21項3号

に掲げる取引、同条 22項3号に掲げる取引及び同条 23項に掲げる取引のうち 21項3号と類

似の取引で、専ら投機的利益の追求を目的としないものとして当該協会員の承諾を受けた

場合は、この限りではありません。

イ 株式……給付されることが決定された日から実際に給付される日まで

ロ ストック・オプション……給付されることが決定された日から権利行使が可能と

なる日まで

② いわゆる「仮名取引の受託」の禁止

従業員は、顧客から有価証券の売買その他の取引等の注文を受ける場合において、仮名取引

であることを知りながら当該注文を受けてはなりません(7条9号)。

この規定及び「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」13条は、不公正取引の未

然防止、適正な顧客管理及び税制上の公平性等の観点から、仮名取引の受託を禁止するも

のです。

「仮名取引」とは、口座名義人とその口座で行われる取引の効果帰属者が一致しない取

引のことであり、例えば、顧客が架空名義あるいは他人の名義を使用してその取引の法的

効果を得ようとする取引のことをいいます。

なお、この規定及び「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」13条は、前述の仮

名取引の受託を禁止するものであることから、口座名義人の代理人や口座名義人本人の意

思を伝達するに過ぎない者(いわゆる「使者」)からの口座名義人本人の注文の受託を規

制するものではありません。

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ただし、その場合であっても、仮名取引の受託を防止する観点から、受注手続を定めた

マニュアルなどにより、仮名取引の受託を防止するための社内体制の整備が図られている

必要があります。

また、口座名義人の配偶者や二親等内の血族である者などの密接な関係にある親族から

注文がなされた場合には、この規定において禁止している仮名取引ではない蓋然性が高い

といえます。したがって、このような場合には、口座名義人の配偶者や二親等内の血族な

どであることについての確認が行われているのであれば、仮名取引であることを告知され

たというような特段の事情がない限り、その注文の受託がこの規定に違反するものとなる

可能性は低いと考えられます。

前述のほか、7条においては、協会員の従業員の禁止行為として次の行為が掲げられてい

ますが、いずれも投資者保護、金融商品取引業者及び金融・資本市場に対する信頼の確保を

第一義とし、健全な投資勧誘態度の育成、事故の未然防止のために必要とされる基本的事項

として定めたものです。

③ 有価証券の売買その他の取引等(買戻価格があらかじめ定められている買戻条件付売買

その他の金商法施行令 16条の5で定める取引を除きます。後述の④及び⑤において同じ。)

につき、当該有価証券、有価証券関連デリバティブ取引、特定店頭デリバティブ取引又は商

品関連市場デリバティブ取引(以下、この規則において「有価証券等」といいます。)につ

いて顧客(信託会社等が、信託契約に基づいて信託をする者の計算において、有価証券の売

買、有価証券関連デリバティブ取引、特定店頭デリバティブ取引又は商品関連市場デリバ

ティブ取引を行う場合にあっては、当該信託をする者を含みます。以下③、④及び⑤におい

て同じ。)に損失が生ずることとなり、又はあらかじめ定めた額の利益が生じないこととなっ

た場合には自己又は第三者がその全部又は一部を補塡し、又は補足するため当該顧客又は第

三者に財産上の利益を提供する旨を、当該顧客又はその指定した者に対し、申し込み、若し

くは約束し、又は第三者に申し込ませ、若しくは約束させること(7条1号)。

④ 有価証券の売買その他の取引等につき、自己又は第三者が当該有価証券等について生じ

た顧客の損失の全部若しくは一部を補塡し、又はこれらについて生じた顧客の利益に追加す

るため当該顧客又は第三者に財産上の利益を提供する旨を、当該顧客又はその指定した者に

対し、申し込み、若しくは約束し、又は第三者に申し込ませ、若しくは約束させること(7

条2号)。

⑤ 有価証券の売買その他の取引等につき、当該有価証券等について生じた顧客の損失の全

部若しくは一部を補塡し、又はこれらについて生じた顧客の利益に追加するため、当該顧客

又は第三者に対し、財産上の利益を提供し、又は第三者に提供させること(7条3号)。

⑥ 顧客カード等により知り得た投資資金の額その他の事項に照らし、過当な数量の有価証

券の売買その他の取引等の勧誘を行うこと(7条5号)。(⇒詳しくは本章4―1「□1 協会員の投資

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勧誘、顧客管理等に関する規則」参照)

⑦ 有価証券の売買その他の取引等について、顧客と損益を共にすることを、約束して勧誘

し又は実行すること(7条6号)。

⑧ 顧客から有価証券の売買その他の取引等の注文を受けた場合において、自己がその相手

方となって有価証券の売買その他の取引等を成立させること(7条7号)。

⑨ 顧客の有価証券の売買その他の取引、有価証券関連デリバティブ取引、特定店頭デリバ

ティブ取引又は商品関連市場デリバティブ取引又は有価証券の名義書換えについて自己若

しくはその親族その他自己と特別の関係のある者の名義又は住所を使用させること(7条8

号)。

⑩ 自己の有価証券の売買その他の取引、有価証券関連デリバティブ取引、特定店頭デリバ

ティブ取引又は商品関連市場デリバティブ取引について顧客の名義又は住所を使用するこ

と(7条 10号)。

⑪ 顧客から所属協会員に交付するために預託された金銭、有価証券又は所属協会員から顧

客に交付するために預託された金銭及び有価証券(特定業務会員にあっては特定業務に係る

金銭及び有価証券に、特別会員にあっては登録金融機関業務に係る金銭及び有価証券に限り

ます。)を遅滞なく、相手方に引き渡さないこと(7条 12号)。

⑫ 所属協会員から顧客に交付するために預託された業務に関する書類(特定業務会員に

あっては特定業務に係るものに、特別会員にあっては登録金融機関業務に係るものに限りま

す。)を遅滞なく、当該顧客に交付しないこと(7条 13号)。

⑬ 有価証券の売買その他の取引等に関して顧客と金銭、有価証券の貸借(顧客の債務の立

替えを含みます。)を行うこと(7条 14号)。

⑭ 職務上知り得た秘密(特定業務会員にあっては特定業務に係るものに、、特別会員にあっ

ては登録金融機関業務に係るものに限ります。)を漏えいすること(7条 15号)。

⑮ 広告審査担当者(「広告等の表示及び景品類の提供に関する規則」5条に規定する「広

告審査担当者」をいいます。)の審査を受けずに、従業員限りで広告等の表示又は景品類の

提供を行うこと(7条 17号)。

⑯ 会員又は特定業務会員に係る有価証券の売買その他の取引等において、顧客が反社会的

勢力であることを知りながら、契約の締結をすること。ただし、金融商品取引及び金融商品

市場から反社会的勢力を排除するときを除きます(7条 27号)〔会員及び特定業務会員のみ

適用〕。

⑰ 顧客に対して、融資、保証等に関する特別の便宜の提供を約し、登録金融機関業務に係

る取引又は当該取引を勧誘すること(7条 18号)〔特別会員のみ適用〕。

⑱ 登録金融機関業務に係る取引について、明らかに委託証拠金の新規又は追加の差入れと

なるような信用の供与を行うこと(7条 19号)〔特別会員のみ適用〕。

⑲ 登録金融機関金融商品仲介行為に係る取引について、顧客に対して、当該顧客が会員に

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開設した取引口座に残高不足が生じた場合に、信用の供与を自動的に行い、又はこれを行う

ことを約した登録金融機関金融商品仲介行為を行うこと(7条 20号)〔特別会員のみ適用〕。

(3) 不適切行為

協会員は、その従業員が次に掲げる行為(以下、この規則において「不適切行為」といいま

す。)を行うことのないよう指導及び監督しなければなりません(8条)。

① 有価証券の売買その他の取引等において、銘柄、価格、数量、指値又は成行の区別等顧

客の注文(特定業務会員にあっては特定業務に係る、特別会員にあっては登録金融機関業

務に係る顧客の注文に限ります。④において同じ。)内容について確認を行わないまま注

文を執行すること

② 有価証券等の性質又は取引の条件について、顧客を誤認させるような勧誘をすること

③ 8条3号に規定する取引において、有価証券の価格、オプションの対価の額の騰貴若し

くは下落等について、顧客を誤認させるような勧誘をすること

④ 有価証券の売買その他の取引等に係る顧客の注文の執行において、過失により事務処理

を誤ること

(4) 事故報告

① 事故連絡

協会員は、その従業員又は従業員であった者(以下、この規則において「従業員等」と

いいます。)に前述(2)の禁止行為及び「協会員の外務員の資格、登録等に関する規則」5条

に規定する行為又は従業員として遵守すべき法令等に違反する行為若しくは前述(3)の不適

切行為(以下、この規則において「事故」といいます。)のあったことが判明した場合は、前

述(3)の不適切行為が過失による場合を除き、直ちにその内容を記載した所定の様式による事

故連絡書を協会に提出しなければなりません(9条1項)。

② 事故顛末報告

協会員は、事故(前述(3)の不適切行為が過失による場合を除きます。)の詳細が判明した

ときは、当該従業員等について当該事故の内容等に応じた適正な処分を行い、遅滞なく、そ

の顛末を記載した事故顛末報告書を協会に提出しなければなりません(10条1項)。

なお、協会員は、事故の内容が、金融商品取引業の信用を著しく失墜させるものと認めた

ときは、事故顛末報告書にその旨を付記するものとします(10 条2項)。

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(5) 不都合行為者制度

① 不都合行為者の取扱い

協会は、事故顛末報告書の提出があったときは、その内容について審査し、審査のために

必要があると認めるときは、当該協会員に対し、その報告の内容について説明を求め又は証

拠書類等の提出を求めることができます(11条1項・2項)。

また、協会は事故顛末報告書によるほか、協会が適当と認める資料に基づき、11条1項に

規定する審査を行うことができます(11条4項)。

上記の審査の結果、当該従業員等が退職し又は当該協会員より解雇に相当する社内処分を

受けた者又は金商法29条若しくは33条の2の登録を取り消された協会員の従業員で、かつ、

その行為が金融商品取引業の信用を著しく失墜させるものと認めたときは、決定により、そ

の者を不都合行為者として取り扱うこととし、外務員資格、営業責任者資格及び内部管理責

任者資格を取り消します。このうち、金融商品取引業の信用への影響が特に著しい行為を行っ

たと認められる者を一級不都合行為者として、その他の者を二級不都合行為者として、それ

ぞれ取り扱います(12 条)。

② 取扱いを決定する場合の手続について

協会は、従業員等を不都合行為者として取り扱おうとするときは、「協会員の外務員等の処

分に係る手続に関する規則」に基づき弁明の手続を行い、取扱いが決定した場合は対象とな

る協会員に通知を行います。なお、弁明及び取扱い決定に係る通知については、意見陳述の

機会の確保を図るため、原則として、従業員等本人に対しても行われます(協会員の外務員

等の処分に係る手続に関する規則8条、23 条)。

③ 不服申立て

不都合行為者の取扱いの決定の名宛人及び当該不都合行為者の取扱いの決定の対象となっ

た者で、当該決定に不服がある者は、協会に対して不服申立てを行うことができます(協会

員の従業員等に係る自主規制処分の不服申立てに関する規則4条)。

④ 解除の申請

協会員は、協会が不都合行為者として取り扱っている者について、改悛の情があることが

明らかである場合、当該者を不都合行為者として取り扱う原因となった事故の内容に新たな

事実が判明した場合その他特段の事情がある場合で、不都合行為者としての取扱いを解除す

ることが適当と認めたときは、当該取扱いの解除を申請することができます(14 条1項)。

また、協会が不都合行為者として取り扱っている者は、当該者を不都合行為者として取り扱

う原因となった事故の内容に新たな事実が判明した場合その他特段の事情がある場合は、不

都合行為者としての取扱いの解除を申請することができます(14条2項)。

⑤ 解除審査

協会は、不都合行為者としての取扱いの解除の申請があった場合は、これを審査し、その

申請を適当と認めたときは、決定により、その申請に係る者について不都合行為者としての

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取扱いを解除することができます(15 条1項)。協会は、解除の申請に対する審査の結果に

ついて、当該申請に係る従業員等及び提出協会員並びに当該申請を行った協会員に通知しま

す(15条2項)。

2 協会員の外務員の資格、登録等に関する規則

この規則は、協会員の外務員の資質の向上及び外務員登録制度の的確かつ円滑な運営を図り、

もって投資者の保護に資することを目的に定められたものです(1条)。

この規則の概要は、次のとおりです。

(1) 外務員

この規則において「外務員」とは、協会員の役員又は従業員のうち、その協会員のために、

外務員の職務(注1)を行う者をいいます(2条)。

(注1) 「外務員の職務」とは、金商法 64条1項各号に掲げる行為であって、会員、特定業務会

員又は特別会員の業務に係るものをいいます。

商品関連市場デリバティブ取引等(注2)に従事することができる外務員は、次の4種類に分け

られます。

(注2) 商品関連市場デリバティブ取引等とは、金商法2条8項1号に規定する商品関連市場デ

リバティブ取引(自己取引)及び金商法 43条の2の2に規定する商品関連市場デリバティブ

取引取次ぎ等をいいます。

① 一種外務員

外務員のうち、外務員の職務のすべてを行うことができる者をいいます(注3)。

② 特別会員一種外務員

外務員のうち、特別会員にあっては定款5条3号に規定する登録金融機関業務に係る外務

員の職務を行うことができる者を、特定業務会員のうち、定款5条2号イに掲げる業務を行

う者にあっては特定店頭デリバティブ取引等に係る外務員の職務を行うことができる者を、

同号ハに掲げる業務を行う者にあっては商品関連市場デリバティブ取引等を行うことがで

きる者をいいます(注3)。

(注3) 商品関連市場デリバティブ取引等に係る外務員の職務を行うためには、2020(令和2)

年7月1日以降に実施した一種外務員資格試験又は特別会員一種外務員資格試験に合格する

必要があります。2020(令和2)年6月 30 日以前に実施した試験等により一種外務員資格試

験又は特別会員一種外務員の要件を具備した者は、所属する協会員が実施する協会が指定す

る方法による社内研修又は 2020(令和2)年7月1日以降に協会が実施する資格更新研修を

受講し修了した場合は、商品関連市場デリバティブ取引等に係る外務員の職務を行うことが

できます(4条の3)。

③ 特例商先外務員

外務員のうち、商品関連市場デリバティブ取引等に係る外務員の職務を行うことができる

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者をいいます(注)。

④ 特例商先外務員(ディーリング限定)

外務員のうち、協会員の計算による商品関連市場デリバティブ取引に係る外務員の職務を

行うことができる者をいいます(注)。

(注) 「特例商先外務員」又は「特例商先外務員(ディーリング限定)」の職務を行うためには、

2020年 12月 31日までに、次の要件を満たす者について当該外務員資格の認定申請を行い、

認定を受ける必要があります。

① 日本商品先物取引協会における外務員資格(ディーリング限定の場合には日本商品先物

取引協会において必要な知識・経験等を有していることを認定)を有している者

② 商品関連市場デリバティブ取引等に従事するために協会が行う認定研修を修了している

③ 申請時において、協会が一級又は二級不都合行為者として取り扱っていない者

また、2020年 12月 31 日まで商品先物取引法上の登録の取消し又は職務の停止等の措置を

受けている者は、当該措置が解除されるまで申請を行うことはできません。 【イメージ図】

(2) 外務員資格

外務員は営業所・事務所の内外を問わず協会員に代わって職務を行い、その効果は直接協会

員に帰属するという重要性にかんがみ、協会員は、その役員又は従業員のうち、外務員の種類

ごとに定める一定の資格(一種外務員の場合には、一種外務員資格試験の合格者である等)を

有し、かつ外務員の登録を受けた者でなければ、外務員の職務を行わせてはならないこととなっ

ています(4条、5条)。

(3) 外務員の登録

協会員は、その役員又は従業員に外務員の職務を行わせる場合は、その者の氏名、生年月日

その他の事項につき、協会に備える外務員登録原簿に登録を受けなければならないこととなっ

ています(3条)。外務員登録制度は、欠格要件を定め不適格者を排除し、投資者の保護を図る

ことを目的としています。

日本商品先物取引協会

の外務員資格の保有

日本商品先物取引協会

において知識・経験等

を有していることを認

協会が行う認

定研修の修了

特例商先外務員

資格の認定

特例商先外務員

資格(ディーリン

グ限定)の認定

の認定

特例商先外務員

特例商先外務員(ディーリング限定)

協会が行う認

定研修の修了

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また、協会員は、登録を受けている外務員について、氏名等に変更があったとき、金商法に

定める欠格事由に該当することとなったとき、退職その他の理由により外務員の職務を行わな

いこととなったときは、遅滞なくその旨を協会に届け出なければなりません(10条)。

(4) 外務員についての処分等

① 外務員の登録に関する処分(行政処分)

イ 処分について

協会は、登録を受けている外務員が金商法に定める欠格事由に該当したとき、又は登録

の当時既に登録拒否要件に該当していたことが判明したとき、金融商品取引業のうち外務

員の職務又はこれに付随する業務に関し法令に違反したとき、その他外務員の職務に関し

て著しく不適当な行為をしたと認められるときは、その登録を取り消し、又は2年以内の

期間を定めて外務員の職務の停止の処分を行うことができます(11条)。

ロ 処分を行う場合の手続について

協会は行政処分を行おうとするときは、行政手続法に定める聴聞を行い、処分が決定し

た場合は対象となる協会員に通知を行います。なお、聴聞及び処分に係る通知については、

意見陳述の機会の確保を図るため、原則として、外務員本人に対しても行われます(協会

員の外務員等の処分に係る手続に関する規則3条、5条)。

ハ 不服申立て等

協会員は、行政処分について不服があるときは、金融庁長官に対して行政不服審査法に

よる審査請求をすることができます(金商法 64条の9)。また、協会員は、行政処分につ

いて訴訟により取消しを求めるときには、行政事件訴訟法に基づく処分の取消しの訴えを

提起することができます。

② 外務員の職務禁止措置

イ 措置について

協会は、外務員(外務員であった者を含みます。)が外務員の職務又はこれに付随する業

務に関し法令に違反したときその他外務員の職務に関して著しく不適当な行為をしたと認

められるときは、決定により、当該行為時に所属していた協会員に対し当該外務員につき

5年以内の期間を定めて外務員の職務を禁止する措置を講じます(6条)。

ロ 措置を決定する場合の手続について

協会は、外務員の職務禁止措置を講じようとするときは、「協会員の外務員等の処分に係

る手続に関する規則」に基づき弁明の手続を行い、措置が決定した場合は対象となる協会

員に通知を行います。なお、弁明及び措置決定に係る通知については、意見陳述の機会の

確保を図るため、原則として、従業員等本人に対しても行われます(協会員の外務員等の

処分に係る手続に関する規則8条、25条)。

ハ 不服申立て

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外務員の職務禁止措置の決定の名宛人及び当該外務員の職務禁止措置の決定の対象と

なった者で、当該決定に不服がある者は、協会に対して不服申立てを行うことができます

(協会員の従業員等に係る自主規制処分の不服申立てに関する規則4条)。

③ 処分等を受けた者に対する研修

協会員は、前述①のうち外務員の職務の停止の処分を受けた者及び前述②の外務員の職務

禁止措置者について、速やかに、協会が指定する研修を受講させなければなりません(13条)。

これは、法令違反行為等を行った者に対し研修を実施することにより、禁止行為等の知識

の再徹底を図り、再発防止に努めるために実施しているものです。

(5) 外務員資格更新研修

協会員は、次に掲げる期間(受講義務期間)内に、協会の外務員資格更新研修を受講させな

ければならないこととなっています(18条)。

① 登録を受けている外務員について、外務員登録日を基準として5年目ごとの日の属する

月の初日から1年間

② 外務員登録を受けていない者について、新たに外務員の登録を受けたときは、外務員登

録日後 180日

※ 受講義務期間の初日前2年以内に外務員等資格試験に合格した者等(特例商先外務員資格及

び特例商先外務員資格(ディーリング限定)の認定を受けた者を含みます。)は、外務員資格更

新研修を受講して修了したものとみなされます。

受講義務期間内に外務員資格更新研修を修了しなかった場合には、外務員資格更新研修を修

了するまでの間、すべての外務員資格の効力が停止し外務員の職務を行うことができなくなり

ます。

また、受講義務期間の最終日の翌日から 180 日までの間に外務員資格更新研修を修了しな

かった場合には、すべての外務員資格が取り消されます。

(6) 外務員の資質向上のための社内研修の受講

協会員は、登録を受けている外務員について、外務員資格更新研修とは別に、毎年、外務員

の資質向上のための社内研修を受講させなければなりません(19条)。

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4-3 広告関係

1 広告等の表示及び景品類の提供に関する規則

(1) 目的

この規則は、協会員が行う広告等の表示及び景品類の提供に関し、その表示、方法及び遵守

すべき事項等を定めることにより、広告等の表示及び景品類の提供の適正化を図り、もって投

資者の保護に資することを目的として定められたものです(1条)。

この規則の概要は、次のとおりです。

(2) 定義

この規則では、金融商品取引業(有価証券の売買その他の取引等を業として行うものに限り

ます。)の内容について金商法 37条に規定する広告及び金商業等府令 72条に規定する行為によ

り行う表示を「広告等の表示」と定義しています(2条2号)。

(3) 広告等の表示及び景品類の提供の基本原則

協会員が行う広告等の表示及び景品類の提供について、その一層の適正化を図る趣旨から、

次のような基本原則が置かれています。

① 広告等の表示を行うときは、投資者保護の精神に則り、取引の信義則を遵守し、品位

の保持を図るとともに、的確な情報提供及び明瞭かつ正確に表示を行うよう努めなけれ

ばなりません(3条1項)。

② 景品類の提供を行うときは、取引の信義則を遵守し、品位の保持を図るとともに、そ

の適正な提供に努めなければなりません(3条2項)。

(4) 禁止行為

協会員は、次の①から⑧までのいずれかに該当し又は該当するおそれのある広告等の表示を

行ってはなりません(4条1項)。

① 取引の信義則に反するもの

② 協会員としての品位を損なうもの

③ 金商法その他の法令等に違反する表示のあるもの

④ 脱法行為を示唆する表示のあるもの

⑤ 投資者の投資判断を誤らせる表示のあるもの

⑥ 協会員間の公正な競争を妨げるもの

⑦ 恣意的又は過度に主観的な表示のあるもの

⑧ 判断、評価等が入る場合において、その根拠を明示しないもの

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なお、協会員は、顧客に対して景品類の提供を行うときは、不当景品類及び不当表示防止法

その他の法令等に違反する又はそのおそれのある景品類の提供を行ってはなりません(4条2

項)。また、前記4条1項の規定に違反する広告等の表示又は景品類の提供を、直接的であるか

間接的であるかを問わず第三者に行わせてはなりません(4条3項)。

(5) 協会員の内部審査等

① 協会員は、広告等の表示又は景品類の提供を行うときは、広告等の表示又は景品類の提

供の審査を行う担当者(以下、この規則において「広告審査担当者」といいます。)を任命

し、前記(4)の禁止行為に違反する事実がないかどうかを広告審査担当者に審査させなけれ

ばなりません(5条1項本文)。

ただし、金商法2条 31項に規定する特定投資家に対する広告等の表示及び特別会員が行

う登録金融機関金融商品仲介行為に係る広告等の表示で委託会員(当該特別会員に登録金

融機関金融商品仲介行為の委託を行った会員をいいます。)の広告審査担当者による審査が

行われたものを除きます(5条1項ただし書)。

② 協会員は、次のイからヘまでのいずれかに該当する者でなければ、広告審査担当者に任

命してはなりません(5条2項~5項)。

イ 内部管理統括責任者

ロ 「証券外務員等資格試験規則」(2006(平成 18)年4月1日施行前のものをいいます。)

に規定する会員営業責任者資格試験の合格者

ハ 「外務員等資格試験に関する規則」に規定する会員内部管理責任者資格試験の合格

ニ 「証券外務員等資格試験規則」に規定する特別会員営業責任者資格試験の合格者(特

別会員、特定業務会員のみ。ただし、特別会員が行う登録金融機関金融商品仲介行為

に係る広告等の表示又は景品類の提供の審査を行う広告審査担当者については除きま

す。)

ホ 「外務員等資格試験に関する規則」に規定する特別会員内部管理責任者資格試験の

合格者(特別会員、特定業務会員のみ。ただし、特別会員が行う登録金融機関金融商

品仲介行為に係る広告等の表示又は景品類の提供の審査を行う広告審査担当者につい

ては除きます。)

ヘ その知識等からみて協会が広告等の表示及び景品類の提供の審査を行わせることが

適当であると認めた者(会員、特別会員のみ)

なお、商品関連市場デリバティブ取引取次ぎ等に係る広告等の表示又は景品類の提供につ

いては、次のイ又はロに掲げる者を任命することができます。

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イ 令和2年7月1日以降に実施した会員内部管理責任者資格試験又は特別会員内部管

理責任者資格試験の合格者

ロ 令和2年 12月 31 日までに、日本商品先物取引協会が実施する内部管理責任者等資格

研修を修了し、かつ、「商品関連市場デリバティブ取引等の自主規制規則の適用に関す

る規則」5条1項により読み替えられた「協会員の外務員の資格、登録等に関する規則」

4条7号ロに規定する認定研修を修了した者

(6) 社内管理体制の整備

協会員は、広告等の表示及び景品類の提供の適正化を図るため、広告等の表示及び景品類の

提供に係る審査体制、審査基準及び保管体制に関する社内規則を制定し、これを役職員に周知

し、その遵守を徹底させるものとします(6条)。

(7) 違反に対する調査

協会は、協会員及びその従業員が行った広告等の表示又は景品類の提供が3条(前記(3))又

は4条(前記(4))の規定に違反し又は違反するおそれがあると認めるときは、当該協会員に資

料の提出を求め、事情を聴取することができます(7条1項)。

また、協会員は、7条1項に規定する資料提出の請求又は事情の聴取に応じなければなりま

せん(7条2項)。

(8) 広告等に関する指針

この規則に定める事項のほか、協会員が行う広告等の表示に関し必要な事項は、協会が別に

定める「広告等に関する指針」で定めます(8条)。

4-4 個人情報関係

1 個人情報の保護に関する指針

この指針は、個人情報の保護に関する法律(以下「保護法」といいます。)、個人情報の保護

に関する法律施行令、個人情報の保護に関する法律施行規則(以下「保護法施行規則」といい

ます。)、個人情報の保護に関する基本方針、個人情報の保護に関する法律についての各種ガイ

ドライン、及び金融分野における個人情報保護に関するガイドライン等を踏まえ、会員の有価

証券の売買その他の取引等に係る業務及び当該業務に付随する業務、特定業務会員が行う特定

業務に係る業務並びに特別会員の登録金融機関業務における個人情報の適正な取扱いの確保の

ために、個人情報に係る利用目的の特定、安全管理のための措置その他の事項を定めるととも

に、協会員が講ずべき具体的措置等を定めるものです(1条)。

この規則の概要は、次のとおりです。

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(1) 定義

この指針における用語の定義は、次のとおりです(2条)。

① 個人情報

生存する個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの(他の情報

と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができるものを含みま

す。)、又は個人識別符号が含まれるものをいいます。

「個人に関する情報」とは、氏名、住所、性別、生年月日、顔画像等個人を識別する情報

に限られず、個人の身体、財産、職種、肩書等の属性に関して、事実、判断、評価を表すす

べての情報であり、評価情報、公刊物等によって公にされている情報や、映像、音声による

情報も含まれ、暗号化等によって秘匿化されているかどうかを問いません。これら「個人に

関する情報」が氏名等と相まって「特定の個人を識別することができる」ことになれば、そ

れが「個人情報」となります。

② 個人識別符号

当該情報単体から特定の個人を識別できるものとして法令で定められた文字、番号、記号

その他の符号を個人識別符号といいます(例:個人番号、運転免許証番号等)。

③ 個人情報データベース等

個人情報を含む情報の集合物であって、次に掲げるものをいいます。ただし、利用方法か

らみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものを除きます。

イ 特定の個人情報を、コンピューターを用いて検索することができるように体系的に構

成したもの

ロ イに掲げるもののほか、個人情報を一定の規則に従って整理することにより特定の個

人情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものであって、目次、索

引、符号等により容易に検索可能な状態に置かれているもの

④ 個人データ

個人情報データベース等を構成する個人情報をいいます。

⑤ 保有個人データ

協会員が、本人又はその代理人から求められる開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の

停止、消去及び第三者への提供の停止のすべての権限を有する個人データであって、当該個

人データの存否が明らかになることにより、本人又は第三者の生命、身体又は財産に危害が

及ぶおそれがあるものや6か月以内に消去するもの等以外のものをいいます。

⑥ 本人

個人情報によって識別される特定の個人をいいます。

⑦ 要配慮個人情報

不当な差別や偏見その他の不利益が生じないように特に配慮を要するものとして、特定の

記述等が含まれる個人情報をいいます。

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⑧ 機微(センシティブ)情報

金融分野において、要配慮個人情報並びに労働組合への加盟、門地、本籍地、保健医療及

び性生活(これらのうち要配慮個人情報に該当するものを除きます。)に関する情報のことを

いいます。ただし、本人、国の機関、地方公共団体等により公開されているもの、又は本人

を目視し、若しくは撮影することにより取得するその外形上明らかなものは除きます。

⑨ 匿名加工情報

個人情報を個人情報の区分に応じて定められた措置を講じて特定の個人を識別することが

できないように加工して得られる個人に関する情報であり、当該個人情報を復元して特定の

個人を再識別することができないようにしたものをいいます。

(2) 利用目的の特定

協会員は、個人情報の取扱いに当たっては、個人情報がどのような事業の用に供され、どの

ような目的で利用されるかを本人が合理的に予想できるようできる限り特定しなければなりま

せん(3条1項)。また、3条1項の利用目的の特定に当たって、「自社の所要の目的で用いる」

といった抽象的な利用目的は、「できる限り特定」したものとはならないことから、協会員は、

提供する金融商品、サービスを示したうえで、利用目的を特定するよう努めなければなりませ

ん(3条2項)。

(3) 本人の同意

協会員は、信用取引、発行日取引又は保護預り有価証券の担保貸付(会員が行う保護預り有

価証券の担保貸付に限ります。)等の与信事業を行うに際して、本人から直接書面に記載された

当該本人の個人情報を取得する場合においては、利用目的について本人の同意を得ることとし、

契約書等における利用目的は他の契約条項等と明確に分離して記載するものとします(4条1

項)。

また、協会員は、法令に基づく場合等を除き、あらかじめ本人の同意を得ることなく、協会

員が特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはなりません(6

条)。

なお、本人の同意を得る場合には、原則として書面(電子的方式、磁気的方式、その他人の

知覚によって認識することのできない方式で作られる記録を含みます。)によることとします。

同意を得る方法の具体例として、例えば、①本人から直接個人情報を取得する書面上又は別の

書面上に利用目的及び同意文言を記載し、本人の署名(・捺印)を受入して同意を得る方法、

②インターネット等の場合、画面上での同意の意思表示(了解ボタンをクリック等)又は同意

文言を記載した本人からの電子メールや SMS の受領等による方法等があります。

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(4) 機微(センシティブ)情報について

協会員は、機微(センシティブ)情報については、法令等に基づく場合等を除いて、取得、

利用又は第三者への提供を行わないものとします。なお、法令等に基づいて取得した機微(セ

ンシティブ)情報を第三者に提供するに当たっては、保護法 23条2項(オプトアウト)の規定

を適用しないこととします(7条)。

(5) 適正な個人情報の取得

協会員は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはなりません。また、協会員は、

第三者からの提供により個人情報を取得するに際しては、本人の利益の不当な侵害を行っては

ならず、提供元の法令遵守状況を確認するとともに、当該個人情報が適法に取得されたもので

あることを確認しなければなりません(8条)。

(6) 個人情報取得時の利用目的の通知・公表、明示等

協会員は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除い

て、速やかに、その利用目的を本人に通知し、又は公表しなければなりません。この場合にお

いて、「通知」の方法については、原則として書面によることとし、「公表」の方法については、

自らの金融商品の販売方法等の事業の態様に応じ、インターネットのホームページ等での公表、

本店その他の営業所の窓口等への書面の掲示・備付け等適切な方法によらなければなりません

(9条1項)。

また、協会員は、前記9条1項の規定にかかわらず、本人との間で契約を締結すること等に

伴って契約書その他の書面に記載された個人情報を取得する場合は、あらかじめ、本人に対し、

その利用目的を明示しなければなりません。ただし、人の生命、身体又は財産の保護のために

緊急に必要がある場合は、この限りではありません(9条2項)。

さらに、協会員は、利用目的を変更した場合には、変更された利用目的について、本人に通

知し、又は公表しなければなりません(9条3項)。

(7) データ内容の正確性の確保

協会員は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人情報データベース等への個人情報

の入力時の照合・確認の手続きの整備、誤り等を発見した場合の訂正等の手続きの整備、記録

事項の更新、保存期間の設定等を行うことにより、個人データを正確かつ最新の内容に保つよ

う努めなければなりません。

また、協会員は、利用目的が達成され当該目的との関係では当該個人データを保有する合理

的な理由が存在しなくなった場合等、保有する個人データについて利用する必要がなくなった

とき、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければなりません。ただし、法令等に基

づく保存期間の定めがある場合には、この限りではありません(10条)。

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(8) 安全管理措置

協会員は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安

全管理のため、安全管理に係る基本方針・取扱規程等の整備及び安全管理措置に係る実施体制

の整備等の必要かつ適切な措置を講じなければなりません。また、必要かつ適切な措置は、個

人データの取得・利用・保管等の各段階に応じた「組織的安全管理措置」、「人的安全管理措置」

及び「技術的安全管理措置」を含むものでなければなりません(11条1項)。

① 組織的安全管理措置

個人データの安全管理措置について役職員の責任と権限を明確に定め、安全管理に関する

規程等を整備・運用し、その実施状況の点検・監査を行うこと等の協会員の体制整備及び実

施措置をいいます。

② 人的安全管理措置

役職員との個人データの非開示契約等の締結及び役職員に対する教育・訓練等を実施し、

個人データの安全管理が図られるよう役職員を監督することをいいます。

③ 技術的安全管理措置

個人データ及びそれを取り扱う情報システムへのアクセス制御及び情報システムの監視等

の個人データの安全管理に関する技術的な措置をいいます。

(9) 第三者・外国にある第三者への提供の制限

協会員は、法令に基づく場合等を除くほか、個人データの第三者への提供にあたり、あらか

じめ本人の同意を得ないで提供してはなりません。同意の取得にあたっては、本人が同意に係

る判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な範囲の内容を明確に示さなければなり

ません。なお、あらかじめ、個人情報を第三者に提供することを想定している場合には、利用

目的において、その旨を特定しなければなりません(14条1項)。

ただし、第三者に提供される個人データについて、本人の求めに応じて当該本人が識別され

る個人データの第三者への提供を停止することとしている場合であって、第三者への提供を利

用目的とすること等について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に

置くとともに、届出の内容を適切な方法により公表したうえで個人情報保護委員会に届け出た

ときは、当該個人データ(機微(センシティブ)情報は除きます。)を第三者に提供することが

できます(14条2項)。

協会員は、外国にある第三者に個人データを提供する場合には、法令に基づく場合等を除く

ほか、あらかじめ外国にある第三者への提供を認める旨の本人の同意を得なければなりません

(14条の2)。

(10) 第三者提供に係る記録・確認義務等

協会員は、第三者に個人データの提供を行った場合には、法令に基づく場合等を除いて、個

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人データを提供した年月日、当該第三者の氏名又は名称その他の保護法施行規則で定める事項

に関する記録を作成し、保存しなければなりません(14条の3及び 14条の5)。

また、協会員は、第三者から個人データの提供を受ける場合には、法令に基づく場合等を除

いて、当該第三者の氏名又は名称等及び当該第三者による当該個人データの取得の経緯を確認

するとともに、当該確認に係る事項及び個人データの提供を受けた年月日、当該第三者の氏名

又は名称その他の保護法施行規則で定める事項に関する記録を作成し、保存しなければなりま

せん。(14条の4及び 14条の5)

(11) 開示等

協会員は、本人から、当該本人が識別される保有個人データについて開示(存在しないとき

にはその旨を知らせることを含む)の請求を受けたときは、本人に対し、書面の交付による方

法又は開示の請求を行った者が同意した方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示し

なければなりません。ただし、開示することにより本人又は第三者の生命、身体、財産その他

の権利利益を害するおそれがある場合等は、その全部又は一部を開示しないことができます(16

条1項)。

また、協会員は、本人から、当該本人が識別される保有個人データに誤りがあり、事実でな

いという理由によって、当該保有個人データの内容の訂正、追加又は削除(以下、この規則に

おいて「訂正等」といいます。)の請求を受けた場合は、利用目的の達成に必要な範囲内におい

て、遅滞なく、事実の確認等の必要な調査を行い、その結果に基づき、原則として当該保有個

人データの内容の訂正等を行わなければなりません。さらに、請求に係る保有個人データの内

容の全部若しくは一部について訂正等を行ったとき、又は訂正等を行わない旨の決定をしたと

きは、本人に対し、遅滞なく、その旨(訂正等を行ったときは、その内容を含みます。)を通知

しなければなりません(17条1項・2項)。

なお、協会員は、利用目的の通知を求められたとき又は本人から保有個人データについて開

示の請求を受けたときは、当該措置の実施に関し、手数料を徴収することができます(21条1

項)。

(12) 漏えい事案等への対応等

協会員は、個人情報の取扱いに関する苦情の適切かつ迅速な処理に努めなければならず、そ

のため必要な体制整備に努めなければなりません(22条1項・2項)。

協会員は、個人情報の漏えい事案等又は匿名加工情報の作成に用いた個人情報から削除した

記述等及び個人識別符号並びに加工の方法に関する情報の漏えい事案の事故が発生した場合に

は、金融庁及び協会に直ちに報告(法令に定める特定個人情報が漏えいした場合には、あわせ

て個人情報保護委員会へも報告)することとし、二次被害の防止、類似事案の発生回避等の観

点から、当該事案等の事実関係及び再発防止策等を早急に公表することとし、当該事案等の対

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象となった本人に速やかに漏えい事案等の事実関係等の通知等を行うこととします(23 条1

項・2項・3項)。

また、協会員は、個人情報に対する取組方針をあらかじめ分かりやすく説明することの重要

性に鑑み、協会員の個人情報保護に関する考え方及び方針に関する宣言(いわゆるプライバシ

ーポリシー、プライバシーステートメント等)を策定し、公表することとします(24条1項)。

4-5 倫理コード関係

1 協会員における倫理コードの保有及び遵守に関する規則

この規則は、協会員が、資本市場の担い手として、資本市場における仲介機能の責務を負託

されていることを十分に認識するとともに、国民から信頼されるための健全な社会常識及び倫

理感覚を常に保持するほか、求められる専門性への対応及び役職員の倫理の保持に必要な措置

を講じ、業務の執行の公正さに対する社会からの疑惑又は不信を招く行為の防止を図り、もっ

て協会員が担う社会的使命及び役割に係る自己規律の維持及び向上により、資本市場に対する

信頼を確保することを目的として定められたものです(1条)。

(1) 倫理コードの保有及び提出

協会員は、協会の定款3条8号に規定する有価証券の売買その他の取引等について、協会が

別に示す内容を含む倫理規範又はそれと同趣旨の規定(以下「倫理コード」といいます。)を保

有するものとされています(2条)。

協会員は、保有する倫理コードを協会に提出しなければならず(3条1項)、また、協会が別

に示す内容に相当する当該倫理コードの該当する部分を変更した場合にも、変更後の倫理コー

ドの内容を協会に提出しなければなりません(3条2項)。

(2) 報告及び説明義務

協会員は、法令及び規則等に直接定めはないものの倫理コードに照らして望ましくないもの

であると判断する事案又は望ましくないものに発展するおそれがあると判断する事案について、

自主的に協会に報告するものとされています(4条1項)。

協会が協会員の行動及び慣行に関する事案の発生及び存在を把握した場合で、当該事案が法

令及び規則等に直接定めはないものの倫理コードに照らして協会が望ましくないものであると

判断するとき又は望ましくないものに発展するおそれがあると判断するときは、当該事案(以

下「重大な事案」といいます。)に関係する協会員に対し、説明を求めることができることとなっ

ています(4条2項)。

協会員は、4条2項に基づき、協会から重大な事案に係る説明を求められた場合には、法令

及び行政当局等公的機関による命令等に反しない範囲で速やかに説明しなければなりません

(4条3項)。

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(3) 加入しようとする者による倫理の説明等

協会は、協会に加入しようとする者が協会から加入の承認を受けるまでの間に、当該者から

保有する倫理コードの提出を求めるとともに、協会の業務について当該者を代表する者に就任

する予定の者から、当該倫理コードの内容及び社内体制の整備状況等について、説明を受ける

ものとされています(5条)。

(4) 社内体制の整備

協会員は、倫理コードの実効性を確保するため、運用管理の責任者の設置、役職員に対する

教育及び研修の実施並びに違反があった場合の対応等、協会員において必要と認める社内体制

の整備を行うものとされています(6条)。

4-6 その他の規則

(1) 統一慣習規則

協会員の有価証券の売買その他の取引等及びこれに関連する行為に関する慣習を統一して、

取引上の処理を能率化し、その不確定、不統一から生じる紛争を排除するために定める規則で

す。

(2) 紛争処理規則

協会員の業務に関する顧客からの苦情の解決及び有価証券の売買その他の取引等に関する顧

客と協会員との間の紛争解決のあっせん及び協会員相互間の紛争の迅速かつ適正な解決に資す

るために定める規則です。

なお、協会は、2010(平成 22)年2月より、協会員の顧客からの苦情の解決業務及び協会

員と顧客との紛争解決のあっせん業務を特定非営利活動法人 証券・金融商品あっせん相談セ

ンター(FINMAC)に委託しています。

【参考】FINMAC における苦情の解決等の流れについて

FINMAC は、金融商品の取引について、利用者からの相談や苦情を受け付け、又はあっ

せんの申立てを受け、公正・中立な立場で解決を図る、金融庁や法務省から認定を受けた金

融 ADR 機関の一つです。ADR とは、裁判によらない紛争解決手続を意味し、英語の

Alternative Dispute Resolution の頭文字に由来しています。

協会員は、顧客からの苦情又は紛争の解決の促進を図るため、FINMAC に協力する必要

があります。

FINMAC では、主に、利用者から寄せられる「相談」、「苦情」への対応や、「あっせん手

続(紛争解決)」を行っています。

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1. 相談

利用者からの金融商品の取引についての相談や質問に対し、FINMAC の相談員が助言や

アドバイスを行います。

2. 苦情解決の流れ

FINMAC は、利用者から確認した苦情の内容を相手方となる協会員に伝え、苦情解決を

目指します。

<主な流れ>

(1)苦情の内容を確認する

FINMAC は、利用者から苦情(協会員の行う業務に関し、協会員及び金融商品仲介業者

に責任若しくは責務に基づく行為を求めるもの、又は損害が発生するとして賠償若しくは改

善を求めるものなど不満足の表明をいう。以下同じ。)を受け付けます。

(2)事業者に伝える

FINMAC は、寄せられた苦情の内容を協会員に伝達し、調査を依頼します。

(3)利用者に報告を行う

協会員や FINMAC は、利用者に調査結果を報告します。

3. あっせん手続(上記2で解決しない場合)

弁護士であるあっせん委員が、利用者と事業者との間に入って解決を目指します。

<主な流れ>

(1)あっせんの申立てを受理する

利用者が「あっせん」手続による解決を求める場合には、FINMAC は当該利用者からあっ

せん申立書などを受け入れ、内容を確認のうえ受理します。

(2)申立金の受領

利用者は、あっせん申立書の受理の通知が届いたら 10日以内に「申立金」(損害賠償請求

する金額により異なる。)を支払う必要があります。

(3)あっせん手続

弁護士であるあっせん委員が、利用者と協会員から事情を詳しく聞き、解決方法に関する

「和解案」を提示します。

利用者、協会員双方が「和解案」に納得できた場合には、利用者と協会員の間で和解契約

書を結びます。

利用者、協会員双方が「和解案」に納得できない場合や、あっせん委員が解決の見込みが

ないと判断した場合には、あっせんが打切りとなる場合があります。この場合、当事者の意

向によっては民事上の裁判手続等に移行して、引き続き解決を目指すことがあります。

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第7章 外務員に求められる倫理観

1 倫理とは 外務員には、その責務の面から、高い職業倫理や法令遵守等の意識が求められています。

「高い倫理観は、礼儀と同様に職業人としての基本である」と心得なければなりません。高い

倫理観を保持し続けることは、あらゆる信頼の保持につながります。

1-1 倫理観を持つことの必要性

外務員の職務権限は、その所属する協会員に代わって、有価証券の売買その他の取引等に関

し、一切の裁判外の行為を行うものとされています。そのため、外務員は常に金融商品取引業

者等の業務に携わるプロフェッショナルとして、高い倫理観が求められます。

例えば、相場操縦、インサイダー取引などの行為は、プロフェッショナルとして絶対にして

はならない行為です。これは、単に不適切又は不公正な行為をしないというだけではなく、プ

ロフェッショナルは、リスクや不正の除去のため積極的に行動する姿勢が強く求められている

からです。

また、ビジネスと倫理は対立するものではありません。正当なルールにのっとったビジネス

のみが、社会的に許されると考えるべきです。品質の劣悪なビジネスが成り立たないのと同様

に、倫理なきビジネスも成り立たないといえます。

倫理とは、単に現存するルールを守ることにとどまらず、たとえルールがなくても不適切な

行為はしない、という姿勢が必要です。また、適切な倫理感覚を養うには、常に第三者の目線

を意識することが重要となります。

良き企業人、良き社会人であるために、常に良心に基づいて行動するという姿勢が必要です。

1-2 不正行為の禁止及び外務員としての自覚

外務員は、ルールの目的、背景を知ったうえで、不正又は不適切な行為を行わないよう心掛

けなければなりません。

外務員制度について規定している金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)の目的は、

「有価証券の発行及び金融商品等の取引等の公正を確保することにより、投資者を保護し、も

って、金融商品取引市場の信頼の維持向上に資する」こととされ、日本証券業協会(以下「協

会」といいます。)の自主規制規則も同じ目的を有しています。

外務員は、所属金融商品取引業者等を代表する行為を行っています。金融商品取引業者等が

非常に多くの顧客を対象にして営業していることや、金融商品取引業者等が国民経済において

果たす役割を考慮すると、外務員の行為の社会的責任は非常に重いといえます。

例えば、金商法が勧誘の際に説明義務や適合性を求めているのは、金融商品取引業者等と顧

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客との間では一般的に大きな情報の格差があるため、それらを是正し、顧客が適切かつ十分な

情報を得たうえで、自らの判断に基づいて投資を行うべきであると考えられるからです。

外務員が、不正又は不適切な行為を行うことは言語道断ですが、これらの行為は、当該行為

者本人のみに損失をもたらすだけではなく、当該外務員の所属する会社や業界全体あるいは資

本市場自体の信頼を大きく傷つける可能性があることを、常に意識しなければなりません。

不正又は不適切な行為を行った外務員の代償としては、外務員資格の取消しや会社から解雇

される場合があり、より著しい信用失墜の行為を行った者に対しては、協会の規則に基づき、

5年間又は無期限で採用されない(特別会員は、当該者を登録金融機関業務に従事させてはな

りません。また、特定業務会員は、当該者を特定業務に従事させてはなりません。)という厳

しいペナルティもあります。

特に、相場操縦、インサイダー取引などの行為を行った場合には、刑事訴追をされたうえ、

厳しい刑事罰が科されます。これにより、当該行為者のみならず、会社全体の責任も問われ、

行政処分等が科されると、会社の信用にも傷がついて、大きな経済的損失を被ることにもなり

かねません。

また、反社会的勢力による金融商品取引、金融商品市場への介入を許し、金融商品取引関係

者が反社会的勢力と関係を持つことや、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与を許すこと

は、金融商品市場及び金融商品取引関係者の健全性を損なうだけでなく、多くの投資者の信頼

を失墜させる結果ともなります。

昨今の企業不祥事においては、内部告発がきっかけとなっている事例も増えています。

「天てん

網もう

恢かい

恢かい

疎そ

にして漏らさず」(天の張る網は広く大きく、その目は粗いようであるが、悪

人を網の目から漏らさずこれを捕らえる。悪には早晩しかるべき報いが来るということ)と

いう言葉があるように、法令違反行為を行えば、必ず露見し、厳罰が科されるということを心

得なければなりません。

小さな違反行為だからといって侮っていると、更に大きな事故に発展する危険がありますし、

不正の隠ぺいは、更なる不正を生みやすいことに注意する必要があります。

以上のように、不正行為を行った場合には、資本市場への信頼が傷つけられ、資金の円滑な

運用・調達という、資本市場の重要な機能さえも損なわれることにつながりかねず、国民経済

にも重大な影響を及ぼすおそれがあることを想起する必要があります。

市場への信頼は、ひとたび傷つけられるとそれを取り戻すことは容易ではなく、相当の努力

とコストが必要になることを考えなければなりません。

1-3 倫理意識を保持し続けるための留意点

外務員個々人が、より厳格なプロフェッショナル意識及び倫理意識を持ち、業務を行うこと

が重要となることは前述のとおりですが、改めて倫理意識を保持し続けるための留意点をまと

めると、大要は以下のとおりとなります。

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① 不正は必ず露見すると心得なければなりません。また、不正の隠ぺいは、更なる不正を

生みやすく、信用を著しく失墜させることになります。

② 小さな違反だからといって侮ってはいけません。更に大きな事故に結び付く危険がある

ことを心得なければなりません。

③ 「ルールを知らなかった。」という言い訳は、プロフェッショナルである以上許されま

せん。

④ 「周りの者もやっているから大丈夫だろう。」という安易な意識は避け、責任ある判断

を行う必要があります。その際、自分の思い込みによる判断はせずに、疑問を抱いたとき

には必ず上司あるいは内部管理統括部門、法務部等の専門部署に助言を仰ぐようにしなけ

ればなりません。

⑤ 周りの過ちは見て見ぬふりをせず、過ちを正す勇気を持たなければなりません。

⑥ 他社で起こった不正又は不適切な事例を「対岸の火事」とすることなく、そういった事

例を「他山の石」として学ぶ姿勢が重要です。その意味で、協会員の処分事例やあっせん

事例なども参考になると思いますので、日頃から注意を払う必要があります。

⑦ 社会の意識は常に変化するものであり、より十分な対応が求められることを認識する必

要があります。昨今の司法判断も企業の不正あるいは専門家の不正に対しては、厳格な判

断が示される方向にあります。

⑧ 不正や誘惑を招きやすい環境から身を遠ざけるように、個人的に努力するべきです。心

身の健康にバランスを保つとともに、過大な借財を抱えるような生活態度は慎むべきであ

り、品格ある行動をするように心掛け、常に公私のけじめをつけることが肝要です。

2 法令・ルールを遵守する(コンプライアンス)

金融商品取引業者等は金融資本市場と顧客をつなぐ市場仲介機能を有しており、公共的な役

割を担っていますから、そのことを十分認識したうえで、営業活動を行わなければなりません。

2-1 コンプライアンスとは

「コンプライアンス」という言葉は、日本語では主に「法令遵守」と解されています。

過去には「コンプライアンス」という言葉自体があまり浸透しておらず、認識としても高い

ものではありませんでした。昨今、様々な企業の不祥事等により「コンプライアンス」とい

う言葉も一般化してきました。証券業界でも、バブル崩壊後の不祥事等で失われた投資家から

の信頼回復を目指し、投資家保護の観点から法令・ルールを遵守することを徹底してきました。

金融商品取引業者等が取り扱う商品には、元本の保証がなく価格変動リスクがあるものが多

数あります。このような商品を不特定多数の投資家に勧誘するためには、誠実かつ公正に行動

し、投資家保護に徹する姿勢が求められています。そのために多くの法令・ルールが定められ、

これらを遵守することが義務付けられています。

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したがって、外務員はこれら法令・ルールの内容はもちろんのこと、その制定された趣旨や

背景に至るまで十分熟知し、適法かつ適切な営業活動に徹することが必要です。そのために、

次のような基本的な倫理規範に沿って行動する必要があります。

① 投資家の信頼と期待に応えられるように最善を尽くすこと

投資家は金融商品取引業者等を、投資に関する専門家として信頼し、取引が誠実かつ公正

に行われることを期待しています。したがって、外務員はその信頼と期待に応えられるよう、

知識技能の習得など自己研鑚に励み、高い倫理観をもって営業活動に当たらなければなりま

せん。

② 投資の最終決定者は投資家自身であること

投資家に対するアドバイスは適切に行わなければなりませんが、投資の最終決定はあくま

で投資家自身の判断と責任に基づいて行われるべきものです。

外務員は、投資家に対して「投資の最終判断はお客様御自身で行ってください」「投資の

結果については、損益にかかわらずお客様自身に帰属します」など、投資家の自己責任の原

則についてはっきり伝える必要もあります。

③ 正確かつ合理的根拠に基づく営業活動を行うこと

自己責任の原則は、投資家自らの判断を前提としており、この投資判断も、正確な情報と

投資家自身の十分な理解に基づいて行われなければなりません。

そこで、外務員は、投資家に投資アドバイスを行う際は、合理的な根拠に基づき十分な説

明を行う必要があります。また、投資家の誤解を招かないためにも、その説明内容や使用す

る資料などは正確でなければなりません。

④ 投資方針、投資目的などに配慮した投資アドバイスを行うこと

投資方針や投資目的、投資経験や資産など顧客属性の把握に努め、その意向に沿った投資

アドバイスを行う必要があります。しかし、投資家の意向に沿うだけでなく、投資方針や投

資目的、資産や収入などに照らして明らかに不適切な投資を投資家が行おうとした場合にも、

外務員は投資家に対して再考を促すよう、適切なアドバイスを与えることが求められていま

す。

3 金融サービス業におけるプリンシプル・顧客本位の業務運営に

関する原則 2008(平成 20)年4月、金融庁から「金融サービス業におけるプリンシプルについて」

が公表されました。プリンシプルとは、法令等個別ルールの基礎にあり、各金融機関等が業務

を行う際、また、当局が行政を行うに当たって、尊重すべき主要な行動規範・行動原則と考え

られるものです。プリンシプルについて、広く関係者の間で認識を共有できれば、以下のよう

な効果が期待できるとされています。

① 金融サービスの利用者にとっては、あらかじめ金融サービス提供者に期待できる行動や

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金融サービスに求められる品質が理解され、安心して金融サービスを購入できる環境が整

う。

② 金融サービスの提供者である各金融機関等にとっては、成文化されたルールがない場合

やルールの解釈が分かれる場合であっても、自らがとるべき行動について、基本的な考え

方が明確となり、環境の変化に応じて機動的に、自主的なサービスの改善や新サービスの

開発・提供などに取り組む際の指針となることが期待される。

この意味で、プリンシプルは、各金融機関等に期待される改善努力の方向感を示すと共

に、ベストプラクティスの拠り所となるものである。また、ルールを解釈する際の基礎と

なるものでもある。

③ 行政にとっても、(イ)検査・監督などの場面におけるルールの解釈・運用において、

プリンシプルに示された基本的な考え方に準拠することで、実態に即した的確な行政対応

をより確かなものとすることが可能となる。(ロ)既存のルール(法令及び監督指針等)

の見直し等に当たっても、プリンシプルの考え方に沿った簡素化や明確化を図ることで、

金融サービスのイノベーションや、金融サービスにおける自由な競争を妨げないような市

場環境及び規制環境を整備することが可能となる。

以上のことを踏まえ、金融サービス業におけるプリンシプルについては、金融商品取引業者

等の業務に携わる関係者は、その趣旨についても、十分に肝に銘じる必要があるといえます。

金融サービス業におけるプリンシプル

金融サービス業におけるプリンシプル 具体的なイメージ

1.創意工夫をこらした自主的な取組みにより、利

用者利便の向上や社会において期待されている

役割を果たす。

①利用者の求める金融サービス提供のための不断の努力

②多様な利害関係者との適切な関係

③我が国の金融サービス業が、高い付加価値を生み出し、経

済の持続的成長に貢献していくことを期待

④社会的責任等への対応

2.市場に参加するにあたっては、市場全体の機能

を向上させ、透明性・公正性を確保するよう行

動する。

①法令、自主規制等の遵守

②ベストプラクティスの追求、必要に応じ自主規制等の改善

に努め、市場の効率性など機能向上のために貢献

③市場の透明性・公正性を害する悪質な行為に対して厳しい

態度で臨み、市場の透明性・公正性確保のために貢献

3.利用者の合理的な期待に応えるよう必要な注意

を払い、誠実かつ職業的な注意深さをもって業

務を行う。

①利用者のニーズを十分踏まえ、適切な金融サービスの提

供、事後フォロー等の契約管理

②「優越的地位の濫用」の防止等、取引等の適切性の確保

③利用者の情報保護の徹底

④利用者の公平取扱い、アームズレングスの遵守

4.利用者の経済合理的な判断を可能とする情報や

アドバイスをタイムリーに、かつ明確・公平に

提供するよう注意を払う。

①利用者等の判断材料となる情報を正確・明確に開示し、実

質的な公平を確保

②適合性の原則

③利用者に真実を告げ、誤解を招く説明をしないこと

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金融サービス業におけるプリンシプル 具体的なイメージ

5.利用者等からの相談や問い合わせに対し真摯に

対応し、必要な情報の提供、アドバイス等を行

うとともに金融知識の普及に努める。

①可能な限り利用者の理解と納得を得るよう努力

②相談、問い合わせ、苦情等の事例の蓄積と分析を行い、説

明態勢など業務の改善に努力

③正しい金融知識の普及

6.自身・グループと利用者の間、また、利用者と

その他の利用者の間等の利益相反による弊害を

防止する。

①利益相反やビジネス上のコンフリクトに適切に対応して

いるか十分に検証

②利益相反による弊害を防止する適切な管理態勢の整備

③利用者に対する誠実な職務遂行

7.利用者の資産について、その責任に応じて適切

な管理を行う。

①利用者の財産の適切な管理

②財産を管理するものの責務の履行(例えばその責務に応じ

て善管注意義務、分別管理義務、受託者責任)

8.財務の健全性、業務の適切性等を確保するため、

必要な人員配置を含め、適切な経営管理態勢を

構築し、実効的なガバナンス機能を発揮する。

①適切かつ効率的な経営管理・ガバナンスの構築

②役職員の適切な人員配置

③法令や業務上の諸規則等の遵守、健全かつ適切な業務運営

④各金融機関等の取締役のフィットアンドプロパー

9.市場規律の発揮と経営の透明性を高めることの

重要性に鑑み、適切な情報開示を行う。

①市場への適時・適切な情報開示

②多様な利害関係者への適時適切な情報開示

10.反社会的勢力との関係を遮断するなど金融犯罪

等に利用されない態勢を構築する。

①犯罪等へ関与せず、利用されないための態勢整備(含反社

会的勢力との関係遮断)

②顧客管理体制の整備、関係機関等との連携

11.自身のリスク特性を踏まえた健全な財務基盤を

維持する。

①リスク特性に照らし、資産、負債、資本のあり方を適切に

評価

②リスクに見合った自己資本の確保

12.業務の規模・特性、リスクプロファイルに見合

った適切なリスク管理を行う。

①適切なリスク管理態勢の整備

②資産・負債、損益に影響を与え得る各種リスクを総合的に

把握し、適切に制御

③持続可能な収益構造の構築

13.市場で果たしている役割等に応じ、大規模災害

その他不測の事態における対応策を確立する。

①市場混乱時における流動性確保

②危機管理体制の構築、危機時の関係者間の協調

14.当局の合理的な要請に対し誠実かつ正確な情報

を提供する。また、当局との双方向の対話を含

め意思疎通の円滑を図る。

①当局からの合理的な要請に対し、適時に必要とされる情報

を十分かつ正確に伝達

②当局と金融サービス提供者の双方向の対話の充実を通じ

て円滑な情報伝達

(出典) 金融庁

また、2017(平成 29)年3月、金融庁から、金融機関等が顧客本位の業務運営におけるベ

スト・プラクティスを目指す上で有用と考えられる原則を定めた「顧客本位の業務運営に関す

る原則」が公表されました。この原則は、金融機関等が各々の置かれた状況に応じて、形式で

はなく実質において顧客本位の業務運営が実現できるよう、「プリンシプルベース・アプローチ」

が採用されています。そして、金融機関等はその趣旨・精神を咀嚼した上で、それを実践して

いくためにはどのような行動をとるべきかを適切に判断していくことが求められています。

金融機関等がこの原則を採択する場合には、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方

針を策定し、当該方針に基づいて業務運営を行うことが求められています。具体的には、この

原則を採択する場合、下記の原則1に従って、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方

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Page 193: 外務員必携(2020 年版)外務員必携(2020年版) 商品関連市場デリバティブ取引等に関する追補 2020年4月1日 日本証券業協会 cK@A ¥ v , d¢ÝîÉ>&

針を策定・公表した上で、当該方針に係る取組状況を定期的に公表するとともに、当該方針を

定期的に見直すことが求められています。さらに、当該方針には、下記の原則2~7に示され

ている内容について、実施する場合にはその対応方針を、実施しない場合にはその理由や代替

策を、分かりやすい表現で盛り込むことが求められています。

顧客本位の業務運営に関する原則

【顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等】

原則 1.金融事業者は、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表するとともに、当該方針

に係る取組状況を定期的に公表すべきである。当該方針は、より良い業務運営を実現するため、定期的

に見直されるべきである。

【顧客の最善の利益の追求】

原則 2.金融事業者は、高度の専門性と職業倫理を保持し、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善

の利益を図るべきである。金融事業者は、こうした業務運営が企業文化として定着するよう努めるべきで

ある。

【利益相反の適切な管理】

原則 3. 金融事業者は、取引における顧客との利益相反の可能性について正確に把握し、利益相反の可能性があ

る場合には、当該利益相反を適切に管理すべきである。金融事業者は、そのための具体的な対応方針

をあらかじめ策定すべきである。

【手数料等の明確化】

原則 4. 金融事業者は、名目を問わず、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細を、当該手数料等がどのよう

なサービスの対価に関するものかを含め、顧客が理解できるよう情報提供すべきである。

【重要な情報の分かりやすい提供】

原則 5. 金融事業者は、顧客との情報の非対称性があることを踏まえ、上記原則4に示された事項のほか、金融

商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を顧客が理解できるよう分かりやすく提供すべきで

ある。

【顧客にふさわしいサービスの提供】

原則 6. 金融事業者は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握し、当該顧客にふさわし

い金融商品・サービスの組成、販売・推奨等を行うべきである。

【従業員に対する適切な動機づけの枠組み等】

原則 7. 金融事業者は、顧客の最善の利益を追求するための行動、顧客の公正な取扱い、利益相反の適切な管理

等を促進するように設計された報酬・業績評価体系、従業員研修その他の適切な動機づけの枠組みや

適切なガバナンス体制を整備すべきである。

(出典) 金融庁

なお、金融機関等の取組の「見える化」を促進する観点から、顧客本位の業務運営を実現す

るための明確な方針を策定した金融機関等のリストや、金融庁が好事例として挙げる自主的

KPI(成果指標)等が金融庁のホームページ上で公表されています。

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