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岡山大学算数 ・数学教育学会誌 rパピルス J第 19号 (2012 年)29 ~35 「等分 の意味理解を深める除法の指導に関する研究 第3学年rわり算Jの授業実践を通して一 * この研 究 は ,等 分 除 にお ける塵 数 の 除 法 の 式 の指 導 にお いて,式 を構 成 す る要 素 の意 味を考 える活 動 を行 うことで ,児 竜 の除 法 の式 の意 味 理解 が深 まるという考 えのもと,その実 践 につ いて検 証 した研 究 である。誰 知 形 成 の過 程 には いろいろな 説 があるが,本 研 究 では,Brune /・認 知形 成 過程 をもとにして進 めていった。 BT7Jner酪知形成過稜を丁寧 にたどりながら,r 操作 「ことば「式 」を一一体化させ ることで 「等 分す る」ということの意 味理 解を形成 していく指 導 を提案 する。この際 , 「12÷3- 4 」を構 成する「12」「÷3」「4 」の表す 督 味をことばだけでなく,絵 や 図を 使 って適 す ことで, 「除 法 の式 」と「具体 物 の操 作 」の間 にある大 きな状をつないで いく0 本研究で,「等 分 除 」場 面 にお いて,除 法 の式 のそれ ぞれ の構 成 要 素 の藩 味 を ことば だけでなく,絵 や 図 で衷 す ことにつ いての児 並 の様 相 を分 析 した結 果 ,等 分 除場面における÷」が等 分の意 味をもつことを強く忠弘 しているという結 果 をt)つ た。 キー ワー ド :等 分 除 ,BnJner の認 知 形 成 過 程 ,式 の構 成 要 素 の意 味 , 「操作「ことば」「式」r匡 日の一体化 1 はじめに 平成23 年度 から小 学校 では,学 習指 導要領 が完全実施 となっている。低学 年の領 域 に「D 数 柏 関係 」が新たに加 わり,それぞれ の学年 に おいて,r敬具関係」の内容について, 「A数と 計算」の領域を整理や見直しが行われた.iA 数と計算」の領域から , 「式の表現と読み」や「資 料 の塵 理 と銑み 」に関する内容を移行 し,内容 の充実が図られていることが欝教科の改訂の一 つの特徴であるといえる。 「式の表現と訳み Jにお ける式 につ いては, 「罪数のことば」とも言われるように.事象やその 関係 について,正柿 に表現したり,理解 したりす る際に重要な役割を果たすものである,,そこで, 3 学年の除法に視点を充て,除法の式の意味 の確かな理解につながる芽数的活動の在り方に ついて探っていく。 * 凧山大学大学院教育学研究科 2 除法のもつ意味 数 学では,除法 は,乗 法 の逆 として定義され ている。つまり ,aX x- bに対 して,xが存在 すれば,x b÷a として定為 している。 しかし,小学校 では,数学 とは違 って,具体的 な意味や操作から除法が与えられているbここで 与えられる除法の意 味は 「等分 除」とよばれるも のと「包含 除Jとよばれるものの二 つである。この 二つの意味について,「12÷ 3-4 」を例にとっ て以下に述べる。 (1) 「等分除」 「等分除」とは,「12 個 のあめがあります。同じ 敬ずつ 3 人 に分 けると ,1 人分は4 個 になりま す。」という場合であるOつまり ,xX a- bx を求める場合 であり ,r lあたり Jを求める場合 としての意 味である。等分 除は, 「等分」や「等 分」という意 味合いをもつ除法である。 -29-

「等分軌 の意味理解を深める除法の指導に関する …ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/50563/...岡山大学算数・数学教育学会誌 rパピルスJ第19号(2012年)29頁~35頁

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岡山大学算数 ・数学教育学会誌rパピルスJ第19号 (2012年)29頁~ 35頁

「等分軌 の意味理解を深める除法の指導に関する研究一第3学年rわり算Jの授業実践を通して一

因 井 大 介 *

研 究 の 要 約

この研究は,等分除における塵数の除法の式の指導において,式を構成する要

素の意味を考える活動を行うことで,児竜の除法の式の意味理解が深まるという考

えのもと,その実践について検証した研究である。誰知形成の過程にはいろいろな

説があるが,本研究では,Brune/・認知形成過程をもとにして進めていった。

BT7Jner酪知形成過稜を丁寧にたどりながら,r操作」「ことば」「式」を一一体化させ

ることで「等分する」ということの意味理解を形成していく指導を提案する。この際,

「12÷3-4」を構成する「12」「÷3」「4」の表す督味をことばだけでなく,絵や図を

使って適すことで,「除法の式」と「具体物の操作」の間にある大きな状をつないで

いく0

本研究で,「等分除」場面において,除法の式のそれぞれの構成要素の藩味を

ことばだけでなく,絵や図で衷すことについての児並の様相を分析した結果,等分

除場面における「÷」が等分の意味をもつことを強く忠弘しているという結果をt)つ

た。

キーワード :等分除,BnJnerの認知形成過程,式の構成要素の意味,

「操作」「ことば」「式」r匡日の一体化

1 はじめに

平成23年度から小学校では,学習指導要領

が完全実施となっている。低学年の領域に「D

数柏関係」が新たに加わり,それぞれの学年に

おいて,r敬具関係」の内容について,「A数と

計算」の領域を整理や見直しが行われた.iA

数と計算」の領域から,「式の表現と読み」や「資料の塵理と銑み」に関する内容を移行し,内容

の充実が図られていることが欝教科の改訂の一

つの特徴であるといえる。

「式の表現と訳み Jにおける式については,

「罪数のことば」とも言われるように.事象やその

関係について,正柿に表現したり,理解したりす

る際に重要な役割を果たすものである,,そこで,

第3学年の除法に視点を充て,除法の式の意味

の確かな理解につながる芽数的活動の在り方に

ついて探っていく。

*凧山大学大学院教育学研究科

2 除法のもつ意味

数学では,除法は,乗法の逆として定義され

ている。つまり,aXx- bに対して,xが存在

すれば,xをb÷aとして定為している。

しかし,小学校では,数学とは違って,具体的

な意味や操作から除法が与えられているbここで

与えられる除法の意味は「等分除」とよばれるも

のと「包含除Jとよばれるものの二つである。この

二つの意味について,「12÷3-4」を例にとっ

て以下に述べる。

(1) 「等分除」

「等分除」とは,「12個のあめがあります。同じ

敬ずつ3人に分けると,1人分は4個になりま

す。」という場合であるOつまり,xX a- bの x

を求める場合であり,rlあたり丑Jを求める場合

としての意味である。等分除は,「等分割」や「等

分」という意味合いをもつ除法である。

-29-

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(2) 「包含除」

「包含除」とは,「12個のあめがあります。1人

に3個ずつ分けると,4人に分けることができま

す。」という場合である。つまり,axx- bの場

合の xを求める場合であり,「割合(倍)」を求め

る場合としての意味である。包含除は,「分ける」

という意味合いをもつ除法である。

3 先行研究の牧羊

「整数の除法」についての先行研究には,高

橋(2009)や川野(2009)が「包含除」先行による導

入による指導について研究を行っており.他に

ち,杉山(2008a)や高橋(2010)による,「等分除」と

「包含除」の意味の統合についての研究が見ら

れる。また,杉山(2008b)を含め,多くの研究で包

含除先考了のよさが示唆されている。しかし,著者

は,等分除先行がよいという立場をとっている。

それは,日常言語になっている「分ける」というこ

とばを数学言吉吾としての「分ける(等分する)」に

捉えなおす必要性が除法には必要であること

や,等分除の「等分する」という意味が除法の本

来の意味であることからであるCまた,日常生活

において,子どもの牛括経験の中から考えると,

「同じ数ずつ分けると何人に分けられるか」と

いった包含除的な経験は少なく,それよりも「同

じ数ずつ分けると一人分はいくつになるか」とい

う等分除的な経験の方が多い。つまり,等分除

の場dfiの方が児丑の実生はに即しているからで

ある‖そこで,わり許の本来の意味を大切にし,

また,子ども達が,実際の生花・経験の中から考

えていけることから,等分除の導入における除法

の指導について考えていく。

4 BrLLtlerの認知形成過程

Bruner(1966)は.子どもの認知発達は,構造

的に異なる三つの段階で構成されると示してい

るUその三つの段階を以下に示す。

① 行動的把握 (/lleeflaCtive'eJWeSen/0/L・on)

具体物を操作したり,実際に作業や体験

をしたりするなどの行動を適して,理解して

いく段階

② 映倫的把握 (IJle''conic'evesentoIL・ol')

操作や秋作したものを念頭で思い浮か

べ,そのイメージしたものを念頭で操作した

り,とき!二は,図や絵などに表したりすること

を通して.理解していく段階

③ 肥号的把握 (I/'esymboljcreLWeSenlo/job)

記号(敬,数式,口やガなど)やことばなど

を使って,抽象的に理解していく段階

BnJnerは,r行動的把握」-「映像的把握」-

「記号的把握」の過程で認知形成が行われ,知

的成 長が促進されることを示 した。これは,

pF'age/のr前線作的段階」-「具体的操作の段

階」-「形式搬作の段階」と内容に対応している

が,Bruner(1966)は, 認知形成の∴段階は,幼

児から成人といった長期的なサイクルにとどまら

ず,「短期的・微視的場面における′トサイクルと

しても成り立つ」と示したことに一つ特徴が見ら

れる。知的成長は,物事の把握を「内面化」する

ことであるが,児童にとって,「具体」から「抽額」

へとr内血化」する過程に非常に大きな概があ

る。この溝を埋める橋渡し的役割が芽散的活動

であり,邪教的活動が「内面化」の手助けを行う

のであるC黒崎(2008)は,BnJnerの認知形成過

程から,芥数的活動の内面化のプロセスを示し

ており.黒崎(2008)の示した,内面化のプロセス恥 知 形 Ja三島投

I30-

映 像 的

Ei等EiB

'aE一号・的

㍍璽ETfl

算 数 的 括 db

具 体 物 を 換 作 す る 井

数 的 括 lbや 作 業 的

-体 * 的 な ∃離 散 的 予告

1払 lこ よ っ て , 思 5号 を・

行 う段 階

行 t世I的 把 1袋 の 段 階 ~ご

行 っ た 算 数 的 括 勅

杏 , 匪lな ど で 視 瀕:的

に と らえ た り,堺 の 中

~亡イ メー ジ し た りす る

算 数 的 活 動 に よ っ

て ,思 考 を 行 う康 階

映 倫 的 把 握 の 段 階 で

行 っ た 算 鞍 的 活 !軌

を ,百 薬 や 赦 ,式 な ど

LJC盤 した り,他 者 に 脱

明 し た りす る 井 数 的

活 tblこよ 一つ で . 思 考

を 行 う段 階

隈 知 形 成 過 程 と 算 数 的 活 動

【 表 1 】

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を参考にすると,認知形成過程と算数的活動の

関係は表1のようになると考えられる。そして,

Bru11erの認知形成過程に沿って,適切な算数

的活動を行うことで,児童の「内面化」がスムー

ズに行われ,知的成長を促進することができると

考えている。

5 「操作」を生かした授業の必要性

「操作」は,前述した BT.unerの認知形成過程

においても,大きな意味をもち,3つの段階のう

ちの「行動的把握の段階」と大きく関係をもつ。

Bruner(1966)は,

「行動的把握の段階を通らないで,映像的

把握の段階や記号的把握の段階から行うこ

とも可能であるかもしれないが,その場合,

忘れてしまった場合に形成する手段がな

く,新たに形成することが難しい。」

と述べ,認知形成過程において,「操作」のもつ

重要性を示している。また,節教科の主要な概

念や原理の多くのものは,実際に具体物を動か

すといった「操作」から抽象されるものであり,そ

のもの自体の「提示」や教師による「教授」では,

理解できないことが多い。このことについて,黒

蛸(2008)は,

「どんなに教師がわかりやすく解説しても,

数血や固形の意味や原理・法則に関する

本当の理解は得られない。子どもが本当

に甥用字する姿は,実際に具体物を使って

数丑や図形にかかわる活動を行い,子ど

も自らが活動を通して,赦免や図形の奮

味や原理・法則を作ることにある。」

と述べ,数丑や図形の意味を理解していくため

には,「操作」が必草であり,「操作」による児塵

の実感的理解が非常に大切である。授業の中

で操作を生かすことで,視斑や体感に訴えなが

ら学習を行い,算数科の竜野な原理・原則をより

よく身に付けさせることに「操作」の必要性がある

のである。

しかし,誤解をしてはいけないのは,算数科

は,単に具体物を「操作」して解決を図ればよい

というのではない。「操作」は,確かに数止や図

形の意味理解には,墨筆な役割をもっているが

最終的には,「操作」から離れて,抽象化された

- _上

数や図形,記号を扱っていくことに特徴があるC

「操作」して思考したことが,記号やことばなどと

切り離されてはいけないのである。

6 本研究における「操作」とは

「操作」について,木原ほか(1984)は,算数教

育において,算数教育のねらいとしての「操作」

と学習指導要衝罪数科編などに示される「操作」

では遣った意味で使われていることを述べてい

るoこれらの違いについて,木原ほか(1984)は,

次のように示しているC

【弟数教育としての操作】

英語の Operalionの訳語であり,「演罫」や

「念頭操作」を表している。

【学習指導要領界数科編で示されている

「操作的活動」での「操作」】英語の MonipuLaLionとしての意味の操作

で,児丑の視覚や体感に訴えていくため

に,実際に具体物を動かす「行動」といった

意味を衷している。

これらのr操作」を BnJ〃erの認知形成過程に

あてはめるて考えてみると,行動的把握の段階

における操作は Monipu/alL-onを表し,映像的把

握の段階および記号的把握の段階での操作

は.OperoIL'onを表しているといえるoT操作」は

このように2つの意味をもっているため,どちらの

意味で使っているのかをはっきりさせるために,

木原ほか(1984)が述べているのと同様に本研究

においても,ManF'pulationとしての意味の操作

を,r操作」と示し,OperaL10nとしての意味の操

作を表すときは,「念頭操作」や「念頭によるイ

メージ操作」と区別して示すことにする。

7 「等分除」の意味理解を形成していくために

除法の曹味の一つである「等分除」の概念を

形成するにあたって,次の3つが必要であると考

えている。

(1)日常菖棺の「分けるJから.数学菖拝の「分

ける」へ捉えなおすこと

日常生満において「分ける」の意味は,2通り

の意味が混在している。

①「同じ数ずつ均等に分ける」という「等分」

の意味としての「分ける」

- 31-

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② 「数の大小にかかわらないで分ける」とい

う「分割」の意味としての「分ける」

「等分」は,「分割」の特殊であるため,日常生

活では,「分けるlということば一つで,両方の場

合をうまく使い分けている。しかし,除法における

「分ける」とは,「等分」を意味しており,「分割」を

意味しているのではない。そのため,除法での

「分ける」は,「同じ数ずつ分ける(等分する)こ

と」であることをはっきり認識させる必堂がある。こ

れが,除法について理解する第一歩であると考

えている。

(2)等分除の式を構成する要兼の意味を理解

すること

「÷」という記号を教え,「12÷3-4というよう

な計街をわり算といいますC」というだけでは,等

分除場面における除法の式の意味を稗解して

いるとは意えない。除法の式を「12÷3-4」と

いった-一つのものとして見るのではなく,この除

法の式を構成している要素「12」「寸-3」「4」に目

を向け,これらの表す意味を理解できないと等

分FSを槌かに甥!解しているとはいえない.そこ

で,これらの「12」「÷3」r4」がそれぞれ何をR・

しているかを「図」とrことば」を使って表し,説明

する算数的活動を取り入れる。式を構成する要

素にrlを向け,図で表すとこで,それぞれの意

味がイメージ化され,除法の意味鞘解が今まで

以上に詑和されていくと考えているo

(3)「操作」rことば」r式」,そして「国」を一体化

すること

「操作」「ことばJr式」の三者を一体化する必

要は多くの研究者が述べている。著者は,それ

だけでは不十分で,それに「囲Jを付け加えて,

「操作」r=とば」r区】」「式」の匹1者を一休化するこ

とが必要であると考えているO

それは,Brunerの 操作 ことば

認知形成過程が今ま

で以上に丁寧に行わ

れるようになるからで

ある。今までの,「操

作」「ことばl「式Jの-

体化では,具体物の 式

操作が,Brunerの認知形成地租の「行動的把

握の段階」,具体物を見て,念頭で具体物の搬

作を思い浮かべながらことばを唱える段階が,

「映像的把握の段階Il,除法の式で表Ij段階

が,r記号的把握の段階」であったO

概念の形成には,具体から抽象,抽象から具

体へと双方向の行き来が必要であり,「念頭で具

体物の操作を思い浮かべながらことばを唱える

こと」は確かに大切で必要であるっしかし.「操

作」から「念頭で具体物の操作を思い浮かべな

がらことばを唱える段階」の間には,児壷にとっ

て思った以上に大きな隅があるVそこに,式の構

成頻素が表す意味を「B(1」で表すことを取り入れ

ることで,今まで以上にイメージ化が容易にな

り,具体と抽象の橋渡しが行われるようになるの

である。

8 研究の方法

岡山市立鹿 田小学校第3学年の1学級34名

を対象とし,「整数の除法」の授業を行った。本

研究では,「難敵の除法J仝12時間の授業のう

ち,第2時の児戯のワークシート,学習感想,板

刀:記録,授賃を記録したビデオレコーダー等を

もとに,Bru/7erの認知形成過程の段階にあわ

せて,六つの場血に分類したものを筆者がまと

め,分析していった。

9 授業の実際

(1)単元名 「わり算」(第3学年)

(2)授業の概要(第1・2時)

第1時に基礎となる「同じように分ける」といっ

た等分除の「基礎操作」を数多く経験させた。こ

れは,前述したが,等分除の基礎となる「操作 」と

等分除における除法の式というr記号化 Iが切り

離れないようにするためである。この第1鴫の活

動により,第2時に入る段階は,rことば(問題)」

とl操作」をしっかりと繋げ,BnJnerの認知形成

過程の「行動的把握の段階」と「映像的把握の

段階」にまで進んでいる状態になっている。

また,力11怯・滅法や乗法の操作とは今回の操

作は追うことから,今までと同じ式にはならないと

いうことをつかんで第1時を終えている。

第1時で,「ことば(関越)は 「操作」をしっかり

I 3 2 -

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l■ -

行った後の,第2時目の概要は,問題(ことば)と

拙作を式に繋げ,「挫作」「ことば)r式」を一体化

させた後の等分除場面における除法の式を構

成する要素の意味を考え,説明していった。本

時を以下のように Brunerの認知形成過程の.段

階に照らし合わせて,6つの場面に分け,本授

兼実践の主要な事実を述べるO

① 「操作」から「ことば」へとつなぐ場面

【行動的把握から映像的把握の段階へ】

まず,前時と同様,以下のような「等分除」の

場面の問魅を提示した。

12こあめがあります。何人かに同じ数ずつ分

けると,1人分は何こになるでしょう。

条件不足の問題を提示し,何人かに同じ数つ

分けるんだということを憩柿させ,3人の場合を

取り卜げ,数図ブロックの拙作を行った。

まず.間越(ことば)を唱えながら,操作を行っ

た。1人分が4個になることを具体物の操作から

見出し,r12個の

あめを同じ数ず

つ3人に分けると

1人分は4佃にな

るJということばを

唱えながら,こと

ばに合わせて,

数Lg]ブロックの操

作を繰り返させたQ

② 念頭によるイメージ操作の場面

【映像的把握の段階】

数園ブロックの操作をしないで,念頭で牧園

ブロックをイメージするように伝える。イメージした

数図ブロックを念

頭穐作しながら,

「12個のあめを3

人で分けると1人

分は4個になりま

す」といったことば

を何度か繰り返す

ことで,行動的把

輝から映像的把握を行った,

③ 「ことば」から「式」へとつなぐ場面

【映倫的把塩から妃号的把握の段階へ】

「12個のあめを3人で分けると1人分は4個に

なります」ということばを.式で表すと「12÷3-

4」となることを知らせたb

12二を3人で同じ数ずつ分けると1人分は4二です○式 12 ÷ 3 = 4

この段階では,まだ,わり井ということばは伝え

ていない。それは,1例で「わり算」とするのでは

なく,数例 (少なくとも2例)を通すことで,「わり

第 」の理解がより深まると考えたからである.

㊨ 「式」「ことば」「園」をつなぐ場面(除法の式

を構成する要素の意味について考える場面)

【把号的把握から映像的把握の段階へ】

式の「12」「÷3J「4」がそれぞれ何を戚してい

るのか」と問いかけ,「12」「÷3」「4」が表してい

ることを考えさせ,ワークシートにことばと絵・BLで

表すようにさせた。

- 3 3 -

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T 12は何を衷していますか?

C あめの数です。

C 全部のあめの数のことです。

T 「÷3」は何を表していますか。

C 3人に同じ敬ずつ分けた数のことです。

C 3人で同じ数ずつ分けることです。

T 3人に分けるではないの?

C 3人に分けるでは,分け方が追う場合があ

るけど,「÷3」は3人に同じ教ずつ分ける

ことだから違います。

C 同じ数ずつ分けるが大切

T 「4」は何を表していますか?

C 4は1人分の数ですO

この場合のl÷3」は,「3人で分ける」ではな

く,「3人で同じ数ずつ分ける」という3等分の意

味をもっていることを強く意旅できていた。

⑤ 「式」から「操作」をつなぐ場面

【妃号的把握から行動的把握の段階へ】

具体(操作)から抽象(式)-といった一方向

だけでは,確かに理解したとは言えない。つま

り,抽象から具体といった逆方向-も変えること

ができないと確かに群解しているとは言えない。

そこで,「12」「÷3」「4」のそれぞれの意味を話

し合いを通して和解できたところで,「12÷3-

4」と唱えながら,数図ブロックを操作することを

何度もさせた。このように,具体と抽象を双方向

で行き来させることを行い,除法の式の理解を深

めさせていった。

⑥ 適用場面(操作やことばを根拠に別の魚価

を除法の式に表していく場面)

【把号的把纏の段階】

始めの条件不足の問屋副こ戻り.r12個のあめ

を4人に同じ数ずつ分ける場合」と「12個のあめ

を6人に同じ数ずつ分ける場合」の式について

考えていった。これは,よくある指噂に1例で「わ

り軌 と教えることがあるが,数例の場面とその場

面を表す式をもとに「わり芽 」ということを知らせる

方が,わり第の概念形成にはよい効果があると

考えているからである。

T 始めの問題に戻ってみましょう。12個のあ

めを3人で同じ数ずつ分けた場合はどん

な式になりますか?

C 12÷4-3です。

T なんで?

C 4人で同じ数ずつ分けるは,「÷4」だか

ら,12÷4です。

C 12個のあめを4人で同じ数ずつ分けると】

人分は3個になるから「12÷4-3」です)

c 数図ブロックの動かし方が同じだから「÷」

になると思います。

T 数回ブロックを動かしてみましょう。同じ動

かし方になりますか?

C 同じ動かし方ですol人分は3個になるか

ら,「12÷4-3」でいいです。

(12÷4-3と板且する)

T 12個のあめを6人で同じ数ずつ分けた場

合はどんな式になる?

C 同じ数ずつ分ける人数がかわっただけだ

から,「12十6」になりますo

C 動かし方も同じです。1人分は2個になり

ます。

C 式は,「12十6-2」です。

(12÷6-2と板苫する)

T 「12÷3-4」「12÷4-3」「12÷6-2」の

ような式を「わり算」といいます。わり算の式

になるときはどんなときですかつ

C 同じ数ずついくつかに分けるときです。

次はどんな勉強をしたいかと尋ね,もっと大き

な数でやってみたいという意見を取り上げ,24

個を同じ数ずつ分ける場合を諸掛 こした..,する

と,児亜からの.24佃も数阿ブロックはもってい

ないという意比を取り上げ,次は,「数阿ブロック

を使わないで答えを求める方法を考えていこう」

という次時のめあてをつかませて本時を終えた。

10 授業の省察

「12」「ナ3」「4」の意味を考え,話し合いを通

すことで,特に「÷3」とはどう意味なのかと言うこ

とが3等分の意味であることを強く普織できるとい

う実感を得た。

-34-

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それは,「÷3」を「3人で分けること」ではなく,

「3人で同じ数ずつ分けること」ととらえていること

から分かる。つまり,ここから,同じ数ずつ分ける

といったr等分」の意味が強く意耽されていること

が分かる。また,学習感想にも,「同じ数ずつ分

ける計算がわり第であることが分かった」というよ

うな学習感想をかいた児塵が何人かおり,この

児童たちは全員「同じ数ずつ」といったことばを

きちんとつけていたことからも分かる。

11 まとめ

それぞれの要素の意味をことばだけでなく,

絵や図を使ってビジュアル的に表現させること

で,「12」「÷3J「4」の意味を児童にイメージさす

ことができる。これは,Brurlerの認知形成過程

において大切な役割をもっている。杉岡(2002)

が述べているように,認知形成は「行動的把握

-映像的把握-記号的把握 」と一方向だけでは

なく,逆方向-もたどっていくことができなくては

確実に理解したとは言えず,行動的把握の段

鰭,映像的把握の段階,記号的把握の段階が

三位一体であることが必要であると考えている。

その意味では,この式の構成男系のもつ音味を

考え,絵や図.ことばで表現することは,記号的

把握の段階から行動的把握の段階へと逆方向

-進んでいく橋渡しの段階であり,操作と念頭

操作をつなぐ大切な役割をもっていると考えて

いる。本時秦を考えるにあたって,第3学年の児

虫に,「12」「÷3」「4」の表す絵や図をかかせる

ことは難しいかもしれないという思いは少なから

ずあったが,ほとんどの児並がかけていたことか

ら.第3学年の児童にも十分可能なことであると

いう感触をもった。

今後の課髄としては.本研究は1クラスでの授

業実践をもとにこのようなまとめを出しているた

め一このまとめに信頼性が必ずあるとは言い難い

かもしれない。そのため,実践クラス敬を増やし

ていくことで,研究の内容の信頼性を高めていき

たい。

【参考・引用文献】1)J.S.BnJner(]966),「教授理論の建設」,(田浦

武雄・水越敏行 訳),繋明番房

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4)黒崎東洋郎(2008),「意味を理解するための

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5)新算数教育研究会 編集(20LO),r講座 算

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6)杉岡司馬(2002),「『学び方・考え方』をめざ

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学教育論文発表会輪文集 第43巻第2

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12)広岡露蔵(1977),「ブルーナ一研究J,明治

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(平成24年9月28日受理)

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