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ICTを活用した盛土施工について 諏訪 成春 1 ・高瀬 秀樹 1 ・隅屋 佑次 1 1 道路部 道路工事課 (〒9508801 新潟県新潟市中央区美咲町 1-1-1 北陸地方整備局管内におけるICTを活用した盛土施工について,道路土工でのICTを活 用した施工実績を踏まえ,軟弱地盤地域における施工事例を報告する. キーワード i-Construction,ICT施工,道路土工 1. はじめに 少子高齢化社会である我が国では,働き手の減少を上 回る生産性の向上が大きな目標となっている. 国土交通省では平成28年度を「生産性革命元年」と 位置付けし,建設界の生産性を向上させるため,調査・ 測量から設計,施工,検査,さらには維持管理,更新に いたるまでの建設生産プロセス全体を向上させるi-C onstructionを推進している.(図-1) i-Constructionでは施策の3本柱とし て,「ICT技術の全面的な活用」,「規格の標準化」, 「施工時期の平準化」を設定している. (図-1) 1) ICT技術の全面的な活用についての概要 このうちICT活用工事とは,建設生産プロセスの以 下①~⑤全ての段階において,ICT技術を使用してい る. ①3次元起工測量 レーザースキャナーやトータルステーション(ノ ンプリズム方式含む),その他3次元計測技術を 用いた起工測量 ②3次元設計データ作成 3次元出来形管理を行うための3次元データを作 成. ③ICT建設機械による施工 作成したデータを用いて3次元MC(マシンコン トロール)または3次元MG(マシンガイダンス) ブルドーザー・バックホウで施工する. ④3次元出来形管理等の施工管理 3次元計測計測技術を用いた出来形管理 ⑤3次元データの納品 3次元設計データを工事完成図書として納品する本論文では,「ICT技術の全面的な活用」に着目し、 北陸地方整備局管内で施工された実績から軟弱地盤地域 における盛土工事の一例を挙げ,ICTを活用したこと による利点と今後の課題について報告する. 2. 北陸地方整備局管内のICT活用工事について ICT活用工事の対象は,土工量1,000㎥以上の 工事となる.平成28年度,北陸地方整備局管内では, 31件ICTを活用した. (図-2)ICT活用工事実績件数について

ICTを活用した盛土施工について - hrr.mlit.go.jp · 北陸地方整備局管内におけるICTを活用した盛土施工について,道路土工でのICTを活 用した施工実績を踏まえ,軟弱地盤地域における施工事例を報告する.

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ICTを活用した盛土施工について

諏訪 成春1・高瀬 秀樹1・隅屋 佑次1

1 道路部 道路工事課 (〒950-8801 新潟県新潟市中央区美咲町 1-1-1 )

北陸地方整備局管内におけるICTを活用した盛土施工について,道路土工でのICTを活

用した施工実績を踏まえ,軟弱地盤地域における施工事例を報告する.

キーワード i-Construction,ICT施工,道路土工

1. はじめに

少子高齢化社会である我が国では,働き手の減少を上

回る生産性の向上が大きな目標となっている.

国土交通省では平成28年度を「生産性革命元年」と

位置付けし,建設界の生産性を向上させるため,調査・

測量から設計,施工,検査,さらには維持管理,更新に

いたるまでの建設生産プロセス全体を向上させるi-C

onstructionを推進している.(図-1)

i-Constructionでは施策の3本柱とし

て,「ICT技術の全面的な活用」,「規格の標準化」,

「施工時期の平準化」を設定している.

(図-1)1)ICT技術の全面的な活用についての概要 このうちICT活用工事とは,建設生産プロセスの以

下①~⑤全ての段階において,ICT技術を使用してい

る.

①3次元起工測量

レーザースキャナーやトータルステーション(ノ

ンプリズム方式含む),その他3次元計測技術を

用いた起工測量

②3次元設計データ作成

3次元出来形管理を行うための3次元データを作

成.

③ICT建設機械による施工

作成したデータを用いて3次元MC(マシンコン

トロール)または3次元MG(マシンガイダンス)

ブルドーザー・バックホウで施工する.

④3次元出来形管理等の施工管理

3次元計測計測技術を用いた出来形管理

⑤3次元データの納品

3次元設計データを工事完成図書として納品する.

本論文では,「ICT技術の全面的な活用」に着目し、

北陸地方整備局管内で施工された実績から軟弱地盤地域

における盛土工事の一例を挙げ,ICTを活用したこと

による利点と今後の課題について報告する.

2.北陸地方整備局管内のICT活用工事について

ICT活用工事の対象は,土工量1,000㎥以上の

工事となる.平成28年度,北陸地方整備局管内では,

31件ICTを活用した.

(図-2)ICT活用工事実績件数について

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(図-2)は実施したICT施工実績を道路土工・河

川土工で分け,各工事内容毎に件数を積み上げたグラフ

である.ICTの工事内容としては,掘削・盛土・法面

整形が挙げられる.

施工された31件のうち,道路土工は15件,河川土

工は16件であり,全ての項目を行った工事は1件のみ

であった.

3.ICTを活用した盛土工事の概要

ICTを活用した盛土工事として,平成28年度に,

高田河川国道事務所より発注され,武江・大陽(株)経常

建設共同企業体が受注した,「上沼道 下野田地区改良

その3工事」を施工事例として挙げる.

本工事は,国道253号上越三和道路事業の一環とし

て,新潟県上越市下野田地先にて約41,000㎥の路

体盛土を行った工事である.(図-3)

上越三和道路事業は,地域高規格道路「上越魚沼地域

振興快速道路」の一部を構成している上越市寺~同市三

和区本郷の延長7.0km区間を直轄権限代行として整備

を進めている.

通過交通を円滑に処理する事により,地域交流を促進

し,地域の活性化が期待されている.

上越三和道路を通る高田平野は地表から約55m~6

0mにかけ粘土層が続いており,軟弱地盤地域となって

いる.

4. 実施内容と結果について

建設生産プロセスの各段階の技術内容として,実施し

た内容と結果は以下のとおりである.

①3次元起工測量

(図-4)のような、無人航空機(UAV)による空

中写真測量を用いて起工測量を行った.

(図-4)UAV起工測量

UAVでの空中写真測量では,高密度な3次元測量が

可能であるため,計測エリアの草丈を拾ってしまう.

こうした性能から,正確な3次元データを取得するた

め,あらかじめ雑草を除去しておく必要がある.

雑草が繁茂するスピードが早いため,測量をする度に

何度も除草をした.

(図-3)施工対象位置図

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②3次元設計データ作成

発注時の設計図書は従来通りの2次元データであり,

受注者が3次元起工測量の結果と設計図書データを基

に3次元設計データを作成した.

データの作成にあたり,盛土工事は断面変化が多く

あることから,測点(20m)毎に作成されている設

計図書のみでは正確なデータの作成が困難である.

(図-5)は設計図書(標準横断図)と3次元デー

タを比較した図である.

(図-5)設計図書と3次元データの比較図

本工事の盛土はランプ部も含んでいるため,断面変

化が多く,追加で断面データを作成する必要があった.

作成された3次元設計データが設計図書を基に作成

されているか,監督職員は3次元設計データチェック

シートにより確認している.

(表-1)3次元設計データチェックシート

3次元設計データソフトには,入力した結果を立体

視できるビューワ機能が付いているため,入力ミスが

発見しやすい.本工事でも,チェック時にビューワ機

能を使用した.

③ICT建設機械による施工

本工事では,MCブルドーザーとMCバックホウを

採用している。(写真-1,2)

(写真-1)MCブルドーザー

(写真-2)MCバックホウ

従来では設計図に合わせて丁張りを設置し,仕上げ

面の確認を行うため,何度も検測を行いながら施工を

してきた.

ICT施工では(写真-1,2)のような,車載搭

載モニターを確認することで技量が低くや経験が浅く

とも設計図断面図どおりの施工ができることから,丁

張り設置の手間や検測にオペレータ-が建設機械の乗

り降りをする必要がなくなる.

ブルドーザー後方発進の場合においては,ブレード

の高さを自動制御することでオペレータは後方に集中

でき,作業の安全性が確保できた.

本工事では路体盛土の品質管理方法として,試験盛

土を行うことで転圧回数を決定したGNSSを用いた

盛土の締め固め管理を採用している.

施工後に品質確認をする砂置換法やRI計器を用い

た従来の管理とは異なり,リアルタイムでの締め固め

状況の把握が可能となった.

面的な管理により,転圧不足や過転圧の防止ができ,

品質向上につながった.

ただし,ブルドーザーの敷均し作業において,衛星

からの座標データを受信している通信機器でブレード

を制御しているため,従来通りのスピードで施工する

とタイムラグが生じてしまい,ブレード制御が追いつ

かず,敷均しが均一とならない事象が生じた.

④3次元出来形管理等の施工管理

起工測量で用いたUAVを使用して3次元出来形管

理等の施工管理を行った.

土木工事施工管理基準および規格値(案)より路体

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盛土工の出来形管理基準については,(表-2)のと

おりとなっている.

(表-2)路体・路床盛土の出来形管理基準

ICT建設機械の施工であれば出来形管理基準値内

に収めることができるが,軟弱地盤である本工事では,

日々の沈下量を考慮する必要がある.

本工事では従来施工と同様に沈下板を設置し,動態

観測から得られたデータから算出した日々の沈下量を

基にICT建設機械の設定を調整して施工した結果,

軟弱地盤地域でも問題なく対応ができた.

⑤3次元データの納品

3次元出来形管理等の施工管理により確認された3

次元設計データを工事完成図書として電子納品する.

3次元設計データとして,本工事では,空中写真測

量による出来形評価用データ・計測点群データ・デジ

タル写真,工事基準点および評定点データが該当した.

5. 実施結果の考察

本論文で報告した軟弱地盤地域でのICTを活用し

た盛土工事の結果から,ICT活用の利点と課題を確

認することができた.

○ICT活用の利点

・UAVを用いることで短時間で起工測量を行え,

現場形状の詳細なデータを得られる.

・3次元化設計データの作成により,完成形を確認

しながら施工ができる.

・丁張りの設置や丁張り確認のための乗機確認がな

くなったことで,作業効率の向上・人員の削減・

安全性の確保につながる.

・リアルタイムで締め固め状況が可能であるため,

高い精度の施工ができる.

・面的な管理によって過転圧・転圧不足の防止がで

き,従来よりも高い品質が確保できる.

・軟弱地盤地域でもICTで施工ができた.

○ICT活用の課題

・UAV測量では,高密度であるために草丈を拾っ

てしまうため,測量の度に除草が必要となった.

・当初の発注設計図書が3次元化されていない段階

であり,断面変化の多い盛土箇所であったため,

3次元データの作成が困難であった.

・衛星から電波を受信する通信機器の建設機械のコ

ントロールスピードとオペレータの建設機械の操

作スピードの違いがあり,均一な敷均しが出来な

かった.

6. 最後に

担い手不足が顕著である建設界においては,担い手

確保や生産性向上のためにも,i-Construc

tionを推進して行くことは重要である.

ICTの活用はまだ導入段階で,手探り状態である

が,今回の施工結果から,生産性向上の効果が十分に

見られた.

ICT活用施工で得られた利点や課題を整理し,今

後のICT活用に向けた促進に努めて行きたい.

謝辞:本論文を執筆するにあたり,ICT土工に協力

していただきました受注者,資料提供していただ

いた高田河川国道事務所の関係者の皆様,助言を

下さいました方々に感謝申し上げます.

参考文献

1)国土交通省HP:i-Constrauction~建設現場の生産性向

上の取り組みについて~

(写真-3)盛土完成後の空撮写真