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ソーシャル・キャピタルが地域経済に与える影響 ~近畿における中心市街地活性化事業からの検討~

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ソーシャル・キャピタルが地域経済に与える影響

~近畿における中心市街地活性化事業からの検討~

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〈目次〉 序章 本研究の要旨 第1章 ソーシャル・キャピタル

1.ソーシャル・キャピタルとは 2.ソーシャル・キャピタルの与える効果 第2章 中心市街地活性化構想

1.中心市街地活性化構想とは 2.近畿における中心市街地活性化の現状 第3章 先行研究 第4章 ソーシャル・キャピタルの中心市街地活性化事業への効果分析 1.〈分析 1〉事業効果の地域差の試算 2.〈分析 2〉ソーシャル・キャピタルが事業効果に与える影響の分析 終章 結論

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序章 本研究の要旨 現在日本の地域経済は厳しい状況が続いており、地域再生に関する様々な取り組

みが進められている。しかし、こうした取り組みの効果は地域によって異なってい

る。このような地域毎の違いの背景にはソーシャル・キャピタルが影響しているの

ではないかという議論が近年話題となっている。山内(2005)1

20 世紀末からソーシャル・キャピタルに対する関心が、世界中の多くの国々で、

また多くの学問領域にわたる研究者の間で、さらには政府や国際機関などの政策決定

者あるいは政策分析者の間でも、急速に高まってきた。日本も例外ではなく、近年様々

な分野でソーシャル・キャピタルが注目を集め始めている。経済面では地域再生に関

にあるように、経済活

動の主役は生身の人間である。ゆえに、その人間同士の関係が経済パフォーマンス

に影響を与えるのはいわば当たり前であるが、日本においては未だソーシャル・キ

ャピタルを取り扱う研究は多くはない。そこで、今後の地域経済のあり方や地域振

興策を考える上での一つの参考になればという考えの基、本稿を執筆することとし

た。 本稿ではソーシャル・キャピタルの定量的分析を試みたが、日本におけるソーシ

ャル・キャピタルの定量的分析については研究が始まったばかりであり、確立され

た手法があるわけではない。さらに、市町村ごとのデータを取り扱う研究はとりわ

け珍しく、データ収集についても容易ではない。本稿ではそうした状況のもと、ソ

ーシャル・キャピタルを橋渡し型と内部結束型に区別し、各々の代理変数を用いて

分析を試みた。なお、地域再生に関する取り組みとして、近畿における中心市街地

活性化計画を取り上げ、事業効果の地域差の現状を確認するとともに、ソーシャル・

キャピタルの効果を探った。その結果、中心市街地活性化事業における効果指標の

一つである年間商品販売額に関しては、内部結束型ソーシャル・キャピタルが正の

効果を与え、橋渡し型ソーシャル・キャピタルが負の効果を与えていることがわか

った。もう一つの指標である従業者数においても、橋渡し型ソーシャル・キャピタ

ルが負の効果を与えているという結果を得た。 この分析結果は本稿が設けた、「橋渡し型ソーシャル・キャピタルは中心市街地活

性化事業に正の効果を与える」という仮説に反するものではあったが、日本において

もソーシャル・キャピタルが経済に対して影響を与えるという可能性を示唆してお

り、今後ソーシャル・キャピタルという要素に留意していく必要があると考えられ

る。 第1章 ソーシャル・キャピタル 1.ソーシャル・キャピタルとは

1山内直人(2005)「ソーシャルキャピタル考」『日本のソーシャルキャピタル』山内直人・伊吹英子編 NPO 研究情報セ

ンター p.1。

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する様々な取り組みの効果に地域差が現れていることから、この背景にはソーシャ

ル・キャピタルが影響しているのではないかという議論が話題となってきている。 では、一体このソーシャル・キャピタルとはどのようなものを指すのであろうか。

直訳すると「社会資本」となるが、ここでいうソーシャル・キャピタルとは一般的に言

う社会資本とは大きく異なる。一般に用いられる社会資本は、道路、港湾、空港、上

下水道、公園などのハードな、いわゆる社会的インフラストラクチュアを意味してい

るが、ソーシャル・キャピタルはソフトな関係を意味している 2。宮川・大守(2004)3

「協調的行動を容易にすることにより社会の効率を改善しうる信頼、規範、ネット

ワークのような社会的組織の特徴」

によると、ソーシャル・キャピタルは、広く、人々がつくる社会的ネットワーク、そ

してそのようなネットワークで生まれる共有された規範、価値、理解と信頼を含むも

のであり、そのネットワークに属する人々の間の協力を推進し、共通の目的と相互の

利益を実現するために貢献するものと定義される。また、そのようなネットワークは、

グループとして最も小さい形態としては家族のようなものから、大きくは国家のよう

なものまで考えられる。しかし、このようにソーシャル・キャピタルとは非常に広義

的なものであり、その明確な定義について一般的な合意が存在しているわけではない。

(資料 1) こうした現状ではあるが、本稿ではソーシャル・キャピタルを理解し、経済との関

係を考察するため、パットナム(1995)と OECD(2001)の二つの定義を紹介し、考察を

進めていく。 まずはじめに、ソーシャル・キャピタルの議論に大きな影響を与えているパットナ

ム(1995)を紹介する。パットナム(1995)によるソーシャル・キャピタルの定義は以下

の通りである。

4

彼によるソーシャル・キャピタルには、その性格、特質からいくつかのタイプがあ

り、最も基本的な分類として、内部結合型と橋渡し型というものがある

5

2宮川公男・大守隆編(2004)『ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基礎―』東洋経済新報社 p.3。 3宮川公男・大守隆編(2004)『ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基礎―』東洋経済新報社 序文ⅲ。 4宮川公男・大守隆編(2004)『ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基礎―』東洋経済新報社 p.21。 5内閣府(2003)「ソーシャルキャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」p.2,18。

。 内部結合型:組織の内部における人と人との同質的な結びつきで、内部で信頼・協

力・結束を生むもの。例えば、家族内や民族グループ内のメンバー間の関係。 橋渡し型:異なる組織間における異質な人や組織を結びつけるネットワーク。例え

ば、民族グループを超えた間の関係とか、知人、友人の友人などとのつながり。その

繋がりはより弱く、より薄いが、より横断的であり、社会の潤滑油とも言うべき役割

を果たすとみられている。

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ただし、このような分類はお互いに排他的なわけではなく、同じ組織にいずれも内

在するが、配分が異なるとされている。すなわち性格のようなものである。 また、本稿の目的の一つとして、ソーシャル・キャピタルが経済に影響を与える側

面を幅広く検討することがあげられるため、広めの把握をしておくことが有意義であ

ると考える。そこで 数ある中でもより幅広い OECD(2001)による以下の定義も引用し

ておく。 「規範や価値観を共有し、お互いを理解しているような人々で構成されたネットワ

ークで、集団内部または集団間の協力関係の増進に寄与するもの。」6

宮川・大守(2004)

2. ソーシャル・キャピタルの与える効果 前節ではソーシャル・キャピタルの定義について触れたが、ソーシャル・キャピ

タルが与える効果にはどういったものがあるのだろうか。その効果には様々なもの

があるが、経済面への効果を中心に考察していく。 7

一企業の知恵や専門性には限度があり、一企業では商品化できなくても、

は大きく、情報コストの削減、市民的成熟、インセンティブを

通じた影響、その他の重要な経路の四種類に区分し、ソーシャル・キャピタルの経

済的側面の効果をあげている。以下に個々の効果の概要を取り上げる。 (1)情報コストの削減 1.契約や訴訟のコストの削減 信頼関係があれば、情報コストが節約できる。また、構成員がお互いを信

頼している社会では、契約を履行させるための司法システムも安上がりで済

む。 2.資源の動学的配分を効率化するうえで必要な情報交換の促進 様々な主体が様々な意見、情報交換を行うことで、将来の多様な状況変化

があったときに相手がどのような行動をするかについての予測可能性を持つ

ことができ、より的確な行動ができる。 3.建設的な交渉の促進 当事者の間に信頼感があれば、どちらの利益にもならないことは避けよう

という方向で話が進み、パレート最適な結果に到達しやすい。また、信頼は

必ずしも交渉相手に対するものでなくても構わない。双方から信頼された調

停者が大きな役割を果たすこともある。 4.準秘密情報の交換を通じたビジネス・チャンスの拡大

6宮川公男・大守隆編(2004)『ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基礎―』東洋経済新報社 p.78。 7宮川公男・大守隆編(2004)『ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基礎―』東洋経済新報社 p.93~107 より概略。

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手の内を明かして直接情報交換や共同開発を行っていく相手がいれば、大き

なビジネス・チャンスに育つタネも多い。 (2)市民的成熟 1.産業構造への影響 ソーシャル・キャピタルが豊かな地域では、カプセル・ホテルの経営や、

コンビニやファーストフード店の深夜営業が収益性の高い業態になる。また、

観光においても、地域の住民が旅行者に親切かどうかや、地域の伝統がいか

に保持されているかが、大きな要因となる。逆に、ソーシャル・キャピタル

が貧しい地域では、私的警備、警報やモニター関連機器、探偵サービスなど

が成立しやすくなるが、こうした産業への支出は他の産業に比べ、コストと

しての性格をより強く持つ。 2.ネットワーク外部性におけるメリットの活用促進 ネットワークには、外部からの攻撃や、内部での深刻な対立といったリス

クがある。これらはネットワークの規模とともに増大するが、ソーシャル・

キャピタルが豊かであれば、こうしたリスクは軽減され、ネットワークの規

模拡大のメリットを享受しやすくなる。 3.ソーシャル・キャピタル自身の蓄積促進 このこと自体はソーシャル・キャピタルのもつ特性であって、経済的効果

ではないが、ソーシャル・キャピタルが経済に様々な影響を及ぼすことから、

この性質は間接的に経済的効果を及ぼす。 4.公共施設、公共サービスの経営の円滑化、効率化 コミュニティが健全であれば、伝統的な入会地は自治体の公的な介入を必

要とせずに、さしたる困難もなく本来の機能を発揮することができる。いわ

ゆる「ヴァンダリズム」(公共施設等の意図的破壊)も少なくなる。 5.政府活動の効率化(健全なソーシャル・キャピタルの場合) 社会の構成員が相互に協力的であれば、政府の活動はより円滑かつ安上が

りにできるようになる。最も簡単な例は交通整理であり、運転マナーのよい

社会では、その必要性は少ない。 (3)インセンティブを通じた影響 1.人的資本の蓄積、挑戦の促進 社会がまともに機能していれば、資本設備やインフラの故障率も低く、従

業員の欠勤率も低く、取引相手も約束を守るので、自分の責任でない理由で

事業が失敗する可能性が低くなる。そうした環境のもとでは、個人が自分の

努力に見合った成果が得られやすくなるので、教育面での自己研鑽だけでな

く、仕事の面での努力や工夫などが積極的に行われるようになる。 2.企業ガバナンスへの寄与

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従業員は自分に対する企業内外の評判を気にするので、これが職務規律向

上の誘因になる。 3.ビジネス・チャンスや地域文化の創出 ある地域が他の地域にないユニークな特性をもっていれば、それに興味を

もつ人が集まり、そこで出会いや相互の刺激・激励も生まれ、ひいては地域

独自の文化や産業が芽生えていき、マスコミなどにも紹介され、関連の集積

が一層蓄積していくことになる。こうした動きを作り出すには、地域住民が

自発的に合意や協定を作ることが有効となる。地域住民のそのような合意形

成に際してソーシャル・キャピタルの果たす役割は大きい。 4.社会的消費の促進 消費財やサービスのなかには集団的に消費されるものがある。多くのスポ

ーツはチームで戦うし、戦う相手も必要とする。こうしたことから、ソーシ

ャル・キャピタルの充実した社会ではこうした分野の消費が活性化すること

が考えられる。共同出資等の機運にも影響が考えられる。 (4)その他の重要な経路 1.貯蓄率への影響 社会がまともに機能していれば将来の不確実性が低下し、人々の時間選好

率が低くなるので、刹那的な消費が抑制されることが考えられる。また、周

りのことを気にかける社会では、子孫の生活についても同様に気を配るので

遺産性向が高くなる可能性もある。 2.企業の存続価値と清算価値との差の拡大 ある企業の営業基盤が企業特殊的な信頼やネットワークに依存する度合い

が強ければ、清算価値に比べて存続価値が大きくなる。 3.財政赤字の削減 地域の祭りによって活動の場を与えられたお年寄りが活き活きとして健康

状態を回復することがある。また、」こうした地域の活動により地域のコミュ

ニティが高められ、ひいては犯罪防止にも役立ったりするという見方がある。

こうしたことは、ソーシャル・キャピタルが、老人医療費、介護保険、治安

対策などへの公的支出を削減するうえで有効である可能性を示唆している。 4.地価への影響 ソーシャル・キャピタルが経済活動を活性化するとすれば、商業地などの

価格が高まるのは当然のことであるが、住民がお互いのことを思いやる地域

では、住宅地としての評価も高まる可能性がある。 5.地域の自律度、所得水準の向上 住民がその地域への帰属意識を高めれば、地域から発生する需要が地域外

に漏出することなく、地域のなかで充足されるようになり、これが地域経済

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の自律性を高め、地域の所得水準を上げていく。

このように、ソーシャル・キャピタルは様々な方面から経済に影響を与えうると 考えられる。以上は広くソーシャル・キャピタルをとらえたなかでの考察だったが、

ソーシャル・キャピタルの中でも、特に橋渡し型のものが経済に影響を与えている

という考え方も指摘されている。内閣府(2003)8

しかしここまでに取り上げたこれらの効果は全て正の効果である。ソーシャル・

キャピタルは経済に有益な効果をもたらしうるものではあるが、負の側面も持ち合

わせていることにも留意しておく必要がある。負の側面としては、排他性、偏在、

悪用の三点が考えられる

では、アメリカのシリコンバレーに

おいては、ベンチャー企業間でのフォーマル・インフォーマルな協力の水平的なネ

ットワークが技術革新の促進を導くといった事例が述べられている。また、求職活

動におけるちょっとした知り合いの役割の大きさからも、橋渡し型のソーシャル・

キャピタルの重要性が指摘されている。

9

8内閣府(2003)「ソーシャルキャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」p.23。 9内閣府(2003)「ソーシャルキャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」p.23,24。

。 1.排他性 強力な内部結合型ソーシャル・キャピタルには排他性が内在する危険性があ

る。例えば、カルテルを結成したり、人種差別等の活動を行ったりするグルー

プが現れると、経済パフォーマンスの悪化、社会参画・社会移動の遮断、コミ

ュニティの対立をまねく要因となる危険性がある。また、ソーシャル・キャピ

タルには、「個人の自由を制限する」、「個人の特異性を損なう」などのマイナス

面が生じることも指摘されている。従って、ソーシャル・キャピタルが多けれ

ば良いというわけでは必ずしもない。 2.偏在 組織への参加や社会的信頼は、学歴や人種、性別、収入などの社会的属性に

より差があり、社会的階層によりソーシャル・キャピタルの蓄積は異なる可能

性がある。さらに「あるところにはさらに集中し、ないところには蓄積しない。」

とされている。この結果、社会階層の固定化をもたらすことになる可能性があ

る。 3.悪用 ソーシャル・キャピタルは、社会的・民主的な目的だけではなく、反社会的・

非民主的な目的に使われる可能性もあるとされる。犯罪を減らすより、その温

床となる可能性もあり得る。

これらはいずれも、内部結合型のソーシャル・キャピタルが内向きで閉鎖的な場

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合に生じる危険性である。こうしたリスクを低下させるためには、ソーシャル・キ

ャピタルは特定グループの利益のためのものとするのではなく、社会の全ての人が

アクセスできるようにオープンなものとすることが重要であると考えられている。

そのため、橋渡し型ソーシャル・キャピタルの構築が重要な役割を果たすと考えら

れている。

第2章 中心市街地活性化構想 先にも述べたが、現在日本の地域経済は厳しい状況が続いており、地域再生に関

する様々な取り組みが進められている。しかし、こうした取り組みの効果は地域に

よって異なっている。このような地域毎の違いの背景にはソーシャル・キャピタル

が影響しているのではないかという議論が近年話題となっている。しかしこれまで

日本で行われてきたソーシャル・キャピタルの研究では、内閣府(2003)をはじめ、同

一指標による全国統一調査の研究が多く、よりミクロに踏み込んだ研究は少ない。

これらも非常に貴重な研究ではあるが、ソーシャル・キャピタルは地域性による影

響を受ける可能性も考えられるため、ある程度ミクロ的考察を深めることが重要で

あると考える。 そこで、本稿では地域再生に関する取り組みの一つである中心市街地活性化事業

に焦点を当て、データ収集の容易性等も考慮した上で、近畿地方の市町村単位にま

で踏み込んだ研究を行うこととする。第2章では事業効果の現状を把握するととも

に、ソーシャル・キャピタルの影響を考察していく。

1.中心市街地活性化構想とは 中心市街地は、商業、業務、居住等の都市機能が集積し、長い歴史の中で文化、

伝統を育み、各種の機能を培ってきた「街の顔」とも言うべき地域である。しかしな

がら、近年、モータリゼーションの進展への対応の遅れ、商業を取り巻く環境変化

等から、中心市街地の空洞化が進みつつある。こうした中心市街地を活性化させよ

うというのがこの試みである。平成10年7月に「中心市街地整備改善活性化法(略称)」が施行され、関係府省庁による支援体制の整備も進んでいる。この法律の基本的な

仕組みは三段階に分けて説明することができる。まず国が、市町村の基本計画の指

針等となる「基本方針」を作成・公表する。次に市町村は、国の基本方針などをふま

え、一定の条件を満たす区域を「中心市街地」として定めるとともに、中心市街地の

活性化のための方針や目標、実施する事業に関する基本的な事項等を内容とする「基

本計画」を作成する。そして市町村、民間事業者等は、「基本計画」に基づいて、土地

区画整理事業、市街地再開発事業、道路、駐車場、公園等の都市基盤施設整備など「市

街地の整備改善に関する事業」、魅力ある商業集積の形成、都市型新事業の立地促進

など「商業等の活性化に関する事業」、その他必要に応じて公共交通の利便性向上、

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電気通信の高度化等に関する事業等を一体的に推進する 10

以上のような仕組みのため、全ての市町村が参加する事業ではないが、平成18

年7月の時点で全国で 606 市区町村、690 地区が基本計画を提出し、中心市街地の

活性化に取り組んでいる

11

平成10年7月に中心市街地活性化法が施行して以来、近畿における市町村の基

本計画の策定数は平成16年7月時点で 70 件、TMO構想の認定数は 40 件を数えて

いる

。 このように、中心市街地活性化事業はまさに「地域再生」を図る取り組みであり、

この事業効果の現状と、ソーシャル・キャピタルの影響について考察を深めること

は、本稿の趣旨に適っていると考える。そこで、まず次節では近畿における中心市

街地活性化事業の現状について検討する。 2.近畿における中心市街地活性化の現状

12。TMOとは「Town Management Organization」の略で、まちづくり会社

ということができる。TMOは商業等の活性化を主に取り扱っており、TMO構想とは

中小小売商業高度化事業構想ともいうことができる。中心市街地活性化基本計画に

定められた各事業の中で、TMOになろうとするものが直接・間接に関与する各事業

についての具体的な事業構想を取りまとめるものである。さらにTMOのあるべき位

置づけの方針も合わせて策定するものである 13

ではこれらの中心市街地活性化事業に取り組む地域はどのような状況にあり、ど

れだけの効果をあげているのだろうか。近畿経済産業局(2005)

14

近畿経済産業局(2005)

によると、中心市街

地活性化事業に取り組む区域は、事業に取り組んでいるにも関わらず、就業者数、

年間商品販売額、売場面積について、近畿全体の傾向と比べて減少幅が群を抜いて

大きくなっているという状況にあった。しかしながら、近畿経済産業局の調査の結

果、すべての区域において低迷しているのではなく、これらの商業指標が改善して

いる都市も存在することが明らかとなった。この事実は近畿における中心市街地活

性化事業、つまり地域再生の取り組みの効果に地域差が生じているということを示

している。そこで、この地域差にソーシャル・キャピタルが果たして影響を与えて

いるかを現状から推測してみる。 15

10中心市街地活性化推進室 HP

によると、先に述べた改善都市間にみられる傾向として、

http://chushinshigaichi-go.jp/oldindex.htm より概略。 11中心市街地活性化推進室 HP http://chushinshigaichi-go.jp/oldindex.htm。 12近畿経済産業局(委託先:株式会社ダン計画研究所)(2005)『近畿地域における中心市街地活性化の事業効果に関する調

査研究事業~入門編~報告書』p.1。 13株式会社 伏見夢工房 HP http://www.kyoto-fushimi.com/index.html。 14近畿経済産業局(委託先:株式会社ダン計画研究所)(2005)『近畿地域における中心市街地活性化の事業効果に関する調

査研究事業~入門編~報告書』p.15,25。 15近畿経済産業局(委託先:株式会社ダン計画研究所)(2005)『近畿地域における中心市街地活性化の事業効果に関する調

査研究事業~入門編~報告書』全体より抜粋。

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以下の4点が挙げられている。 ・ ソフト事業を重視し、積極的な事業推進を図っている。 ・ 商業指標の落ち込みや大型店の郊外立地に危機感を抱き、事業に取り組んだ。 ・ TMO 設立地域である。 ・ TMO が多様な主体を巻き込みながら事業展開をしている。

以上の傾向がみられることを考慮すると、ソーシャル・キャピタルが地域の活性

化に正の効果を与えている可能性を推測することができる。そこで、次章で先行研

究に触れた後、第4章では具体的数値を用いてソーシャル・キャピタルの効果を定

量的に分析する。 第3章 先行研究

日本においてはソーシャル・キャピタルを扱った研究は多くはなく、また経済と

の関係を取り上げたものはさらに少ない。そのような状況ではあるが、ソーシャル・

キャピタルと経済の関係を扱い、定量的分析を行った貴重な研究として、要籐(2005)と小川(2005)があげられる。いずれの研究も回帰分析を行うことで、ソーシャル・キ

ャピタルが微弱ながらも経済に正の効果を与えることを証明している。 要籐(2005)では、都道府県を単位としてソーシャル・キャピタルを信頼と規範の二

種類に区別し定量化を図り、被説明変数として一人あたり GDP を用いて分析を行っ

ている。定量化にあたっては内閣府(2003)でのアンケート調査結果等を合成した値を

用いており、信頼に関しては内閣府のデータを引用、規範については内閣府のデー

タにいくつかの質問回答結果と一人あたり共同募金額を用い、標準化して単純平均

したものを用いている。分析の結果、信頼については有意な結果は得られていない

が、規範については非常に小さいながらプラスの影響を与えるという可能性が示さ

れている。 小川(2005)では三大都市圏について、ソーシャル・キャピタルの代理変数を、投票

率とし、新規開業率と事業所存続率を被説明変数として回帰分析を行っている。そ

の結果、ソーシャル・キャピタルは新規開業率に対しては負に有意、事業所存続率

に対しては正に有意となっている。また、この研究により、都市部より町村部の経

済の方がソーシャル・キャピタルの影響を受けるということが明らかとなった。 また西出・埴淵(2005)においては NPO には、新たな公共の担い手、コミュニティ・

ガバナンスの担い手として、水平的で橋渡し型のソーシャル・キャピタルを構築し

ていく意義があるとされている。 吉岡(2005)では、内部結束型ソーシャル・キャピタルの代理変数として取り上げた

様々な変数の内、三世代同居率、核家族世帯率、持ち家率の三つが、被説明変数か

つソーシャル・キャピタルの代理変数とされている刑法犯認知率に特に影響を与え

ることが示されている。

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第4章 ソーシャル・キャピタルの効果分析 前章までの内容をふまえた上で、本章では近畿における中心市街地活性化事業に

おけるソーシャル・キャピタルの効果を定量的に分析していく。この事業は各区域

を対象に行われるため区域別データを用いることが適当であるが、統計上データに

制限があるため、本稿では事業に取り組む市町村別のデータを用いて試算した。

〈分析1〉事業効果の地域差の試算 まずは公表されている最新データを用いて、近畿における中心市街地活性化事業

の効果の現状を把握する。データには経済産業省の商業統計表(2002)(2004)を使用し、

中心市街地活性化事業に取り組む市町の従業者数と年間商品販売額の増減率を試算

した。(表1) その結果、第2章で紹介した近畿経済産業局(2005)においては、2002 年までのこ

れらの指標を用い、地域ごとに事業効果に差があることが示されていたが、本稿に

おける 2002~2004 間の試算においても、効果は地域によりばらつきがあることが明

らかとなった。 そこで分析2では中心市街地活性化事業に取り組む市町において、ソーシャル・

キャピタルが事業効果に影響をあたえているのかを分析する。

〈分析2〉ソーシャル・キャピタルが事業効果に与える影響の分析 分析1において、中心市街地活性化事業に取り組む市町間で効果に差があること

が明らかとなったが、この違いにはソーシャル・キャピタルは関係しているのであ

ろうか。ここではソーシャル・キャピタルを定量把握した上で、中心市街地活性化

事業の効果指標とされている、従業者数と年間商品販売額との関係を分析する。 ソーシャル・キャピタルを定量化するにあたっては、代理変数にどのような変数

を取り上げるかという点が非常に重要となる。内閣府(2003)や要籐(2005)のようにア

ンケート調査なども組み込んだ総合的な変数を用いることが望ましいが、本稿では

市町村ごとのデータ収集が可能であることと、その収集容易性を考慮し、以下の変

数を代理変数として取り扱った 16

16 三世代同居率(三世代同居世帯数/一般世帯総数)、核家族世帯数(核家族世帯数/一般世帯総数)、持ち家率(持ち家に住

む一般世帯数/一般世帯総数)については国勢調査(2005)より、NPO 法人数については各府県・市 HP よりデータを用い

た。(滋賀県・奈良県は各ボランティアサイトより)

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内部結束型ソーシャル・キャピタル 橋渡し型ソーシャル・キャピタル ・三世代同居率 ・核家族世帯率 ・持ち家率

・NPO 法人数

第1章(2節)では、経済には橋渡し型ソーシャル・キャピタルが有効であるという

理論を述べた。そこで「橋渡し型ソーシャル・キャピタルは中心市街地活性化事業に

正の効果を与える。」という仮説を設け、分析を行うこととした。 また、これらのソーシャル・キャピタルが中心市街地活性化事業の事業効果に与

える影響を考察するため、被説明変数としては、従業者数、年間商品販売額を取り

上げた。この二変数は相互に強い相関があるので、各々互いの説明変数にも用いる

こととした。さらに、この二変数に強い影響を与えると考えられる人口も説明変数

に取り上げることとした。また、近畿経済産業局(2005)17において、これら二変数と

強い相関があると示された自然増加率も説明変数に組み込んだ。従って分析に用い

た変数は以下の通りとなる 18

被説明変数

説明変数 ・従業者数 ・年間商品販売額

・人口 ・自然増加率 ・三世代同居率 ・核家族世帯率 ・持ち家率 ・NPO 法人数

・年間商品販売額 ・従業者数 ・人口 ・自然増加率 ・三世代同居率 ・核家族世帯率 ・持ち家率 ・NPO 法人数

上記は連立方程式体系となっているため、二段階最小二乗法を用いて分析を行う

17近畿経済産業局(委託先:株式会社ダン計画研究所)(2005)『近畿地域における中心市街地活性化の事業効果に関する調

査研究事業~入門編~報告書』p.105~107。 18 人口、自然増加率(自然人口増減/人口/1000)は各府県・市 HP より 2004 年のデータを用いた。

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必要があるが、分析をより有意なものにするために、まずは SPSS のステップワイ

ズ法を使用し、より有意となる変数を抽出した(表2)。その結果、内部結束型ソーシ

ャル・キャピタルとして用意した三変数の内、三世代同居率のみが年間商品販売額

に限り有意となり、他二変数はいずれも有意とならなかった。三世代同居率が従業

者数に関して有意とならなかったことの一因としては、従業者数が人口の影響を強

く受けることが考えられる。これらの結果、以下の変数を用いて Excel の二段階最

小二乗法で回帰分析を行うこととなった。

被説明変数 説明変数 ・従業者数 ・年間商品販売額

・人口 ・NPO 法人数(7%で有意)

・年間商品販売額 ・従業者数 ・三世代同居率 ・NPO 法人数(9%で有意)

この分析の結果(表3、表4)、以下の二点のことがわかった。 ・橋渡し型ソーシャル・キャピタル(NPO 法人数)は中心市街地活性化事業(従業者

数、年間商品販売額)に負の効果を与える。 ・内部結束型ソーシャル・キャピタル(三世代同居率)は中心市街地活性化事業(年

間商品販売額)に正の効果を与える。 この結果は先に設けた「橋渡し型ソーシャル・キャピタルは中心市街地活性化事業

に正の効果を与える。」という仮説に反するものである。しかしこれは橋渡し型ソー シャル・キャピタル、内部結束型ソーシャル・キャピタルが共に近畿における中心 市街地活性化事業に対して影響を与えることを表す。対象とする変数が異なるため 単純に比較することはできないが、ソーシャル・キャピタルが経済に影響を与える という点では、先行研究の要籐(2005)と小川(2005)に通じる結果となった。

終章 結論 前章の分析を通して、近畿における中心市街地活性化事業に取り組む市町におい

て、事業効果の差にはソーシャル・キャピタルが影響を及ぼしているということが

わかった。橋渡し型ソーシャル・キャピタル(NPO 法人数)は従業者数・年間商品販

売額ともに負の効果を与え、また、内部結束型ソーシャル・キャピタル(三世代同居

率)は年間商品販売額に正の効果を与えていることが明らかとなった。この結果は前

章で設けた「橋渡し型ソーシャル・キャピタルは中心市街地活性化事業に正の効果を

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与える。」という仮説に反するものである。では、なぜこのような結果が得られたの

であろうか。 まず橋渡し型ソーシャル・キャピタルが与える負の効果について考える。仮説と

は逆に負の効果が生じている原因として、橋渡し型ソーシャル・キャピタル(NPO 法

人)がそのメリットを生かせるまで発展していない可能性がある、ということが考え

られる。先にも述べたが、橋渡し型ソーシャル・キャピタルは、より横断的で、社

会の潤滑油とも言える役割を果たすとされているが、その繋がりは、より弱く、よ

り薄いという特徴を持つ。ということは、この繋がりが薄すぎるためにメリットを

生かせていないのではないだろうか。また、NPO 法人の内、中間支援機能を有する

団体や組織の活動が活発でないということも考えられる。そもそも橋渡し型ソーシ

ャル・キャピタルとは、例を取り上げて図示すると、以下の矢印の役割を果たすも

のである。 NPOには新たな公共の担い手、コミュニティ・ガバナンスの担い手として、水平

的で橋渡し型のソーシャル・キャピタルを構築していく意義があるとされているが 19

次に内部結束型ソーシャル・キャピタル(三世代同居率)が年間商品販売額に与える

正の効果について考察する。これについては、内部結束型ソーシャル・キャピタル

が良好なものであるためにプラスの効果を生み出すことになったということが推測

この橋としての機能が活発ではなく、内部結束型ソーシャル・キャピタルの割合が

大きくなると排他・偏在・悪用などの負の効果を生み出すリスクが大きくなる。本

稿の分析で扱った市町のNPOは、そうした傾向があるために被説明変数にマイナス

の効果を与えたのではないだろうか。NPO法人の種類や質等にもこだわった研究が

今後望まれる。

19西出優子・埴淵知哉(2005)「NPO とソーシャル・キャピタル―NPO 法人の地域的分布とその規定要因―」『日本のソ

ーシャルキャピタル』山内直人・伊吹英子編 NPO 研究情報センターp.15。

NPO

行政

地域

内部結束型

内部結束型

内部結束型

橋渡し型

橋渡し型

橋渡し型

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される。強力な内部結束型ソーシャル・キャピタルは排他・偏在・悪用などの負の

効果を生み出すリスクが大きくなるが、本稿の分析で扱った市町ではそのように内

向きで閉鎖的なものではなく、バランスの取れた良好なものであったのではないだ

ろうか。そのことは代理変数として三世代同居率を用いたことも関係している可能

性がある。多世代が同居することでコミュニケーションの幅が広がるということが

考えられるためである。 では、以上の考察をふまえた上で、今後どのような政策をとることが望ましいの

だろうか。まず橋渡し型ソーシャル・キャピタルについては、中間支援機能を有す

るNPO団体や市民団体の活動を強化していく必要がある。同様に、ボランティア・

コーディネーター等の人材育成にも力を入れていく必要がある。しかし、特定の種

類の団体に対するインセンティブや補助金は、その他の種類の団体を排除する可能

性がある 20

またソーシャル・キャピタル全体にも焦点を当てると、四点からのアプローチが

考えられる。教育、雇用機会・将来の年金・治安に関する安心感の向上、ITネット

ワークの活用、コミュニティ財団や企業のCSR等への配慮、の四点である。しかし

二点目の、雇用機会・将来の年金・治安に関する安心感の向上に関しては、安定性

と効率性の間のトレードオフにも配慮し、適当なバランスを図り取り組む必要があ

。そのため、幅広い長期的なビジョンを考慮しつつ取り組んでいく必要

がある。次に内部結束型ソーシャル・キャピタルについてであるが、これはあまり

に強力なものになると負の効果を誘発するというリスクが大きくなるため、より慎

重に取り組む必要がある。中間支援機能の強化はこのリスクを軽減させるためにも

有効であると考える。

21

20内閣府(2003)「ソーシャルキャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」p.95,96。 21宮川公男・大守隆編(2004)『ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基礎―』東洋経済新報社 p.119を参考に考慮。

。 このようにソーシャル・キャピタルの維持・創出・培養には多方面からの政策が

考えられるが、これらの政策に取り組むためにも、ソーシャル・キャピタル概念の

浸透と、より多くの研究が必要であると考える。今後の研究では定量的分析のみな

らず定性的視点での分析も積極的に行われ、ソーシャル・キャピタルに関する議論

が活発化することを期待したい。 また本稿での分析を行うにあたってデータの制限を受ける機会が幾度かあった。

そこで今後ソーシャル・キャピタルの視点も組み込んだ統計データが整備されるこ

とも期待したい。 いずれにせよ、本稿が地域経済のあり方や地域振興策を考える上での一つの参考

となったり、またソーシャル・キャピタルの研究発展の一端を担わせていただけれ

ば幸いである。

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謝辞

本稿の執筆当初から完成にあたり、伊多波良雄教授をはじめ多くの方々から貴重

なご教授をいただいた。これらのすべての方々、また、市町村別データ収集の際に

多大なご協力をいただいた大阪府庁、奈良県庁の方々に深く感謝の意を申し上げる。

また、本稿におけるあり得べき誤りは全て筆者に帰するものである。

参考文献 要籐正任(2005)「ソーシャルキャピタルは地域の経済成長を高めるか?―都道府県デー

タによる実証分析―」国土交通省 国土交通政策研究所 小川翔護(2005)「ソーシャル・キャピタルと経済成長」『日本のソーシャルキャピタル』

山内直人・伊吹英子編 NPO 研究情報センター 山内直人(2005)「ソーシャルキャピタル考」『日本のソーシャルキャピタル』山内直人・

伊吹英子編 NPO 研究情報センター 西出優子・埴淵知哉(2005)「NPO とソーシャル・キャピタル―NPO 法人の地域的分布

とその規定要因―」『日本のソーシャルキャピタル』山内直人・伊吹英子編 NPO研究情報センター

吉岡喜吉(2005)「人口・世帯・居住の形態から計量される内部結束型ソーシャルキャピタ

ル」『日本のソーシャルキャピタル』山内直人・伊吹英子編 NPO 研究情報センタ

ー 内閣府(2003)「ソーシャルキャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」 内閣府経済社会総合研究所編(2005)『コミュニティ機能再生とソーシャル・キャピタル

に関する研究調査報告書』 宮川公男・大守隆編(2004)『ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基

礎―』東洋経済新報社 近畿経済産業局(委託先:株式会社ダン計画研究所)(2005)『近畿地域における中心市街地

活性化の事業効果に関する調査研究事業~入門編~報告書』 中心市街地活性化推進室 HP http://chushinshigaichi-go.jp/oldindex.htm 株式会社 伏見夢工房 HP http://www.kyoto-fushimi.com/index.html データ出典 総務省 国勢調査 http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/index.htm

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経済産業省 商業統計表 http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syougyo/index.html

協働ネットしが HP http://www.npo-shiga.net/ 奈良ボランティアネット HP http://www.nvn.pref.nara.jp/

各府県・各市 HP 福井県 HP http://www.pref.fukui.jp/index.php 福井市 HP http://www.city.fukui.lg.jp/ 敦賀市 HP http://www.ton21.ne.jp/ 小浜市 HP http://www1.city.obama.fukui.jp/ 鯖江市 HP http://www.city.sabae.fukui.jp/ 坂井市 HP http://www.city.fukui-sakai.lg.jp/ 滋賀県 HP http://www.pref.shiga.jp/ 京都府 HP http://www.pref.kyoto.jp/ 大阪府 HP http://www.pref.osaka.jp/ 兵庫県 HP http://web.pref.hyogo.jp/ 伊丹市 HP http://www.city.itami.lg.jp/ 奈良県 HP http://www.pref.nara.jp/ 和歌山県 HP

http://www.pref.wakayama.lg.jp/

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資料編 資料1 ソーシャル・キャピタルの定義 トクヴィル(1830’s) アメリカ人は民主主義が根づき栄えるために必要な公共心に富む

「心の習慣」を持ち合わせている。 ハニファン(1961) 社会単位を構成する個人や家族間の仲間意識、共感、社会的交流が、

その社会単位全体の生活状態の改善にとって重要であり、その蓄積

がソーシャル・キャピタル。 ブルデュー(1986) 多かれ少なかれ制度化された相互面積および相互承認の持続的ネッ

トワークの所有、いいかえると、全体で所有する資本の支援を各メ

ンバーに提供するような集団のメンバー資格に結びついた現実的あ

るいは潜在的資源の総体。 コールマン(1990) ある種の目的の達成を可能にするような生産的な社会関係の一側面

で、人間の間の関係の構造に内在するもの。 パットナム(1995) 協調的行動を容易にすることにより社会の効率を改善しうる信頼、

規範、ネットワークのような社会的組織の特徴。 フ ク ヤ マ (1995 、

1999) 信頼(コミュニティの他のメンバーが、共有された規範のもとづいて、

規則正しい、正直な、そして協調的な行動をとると考えられるよう

なコミュニティにおいて生じる期待)が広くゆきわたることから生じ

る社会の能力。集団構成メンバーの間で共有されるインフォーマル

な価値あるいは規範の集合。 クート(1999) 人々を、労働力のなかで占める彼らの経済的役割および地位にもと

づく価値とは別に、コミュニティのメンバーとして再生するために

投資される資源。われわれが自らをコミュニティのなかに生産し、

また再生産するために投資する道徳的資源および公共財。 OECD(2001) 規範や価値観を共有し、お互いを理解しているような人々で構成さ

れたネットワークで、集団内部または集団間の協力関係の増進に寄

与するもの。 リン(2001) 市場において見返りを期待して為される社会的関係への投資とし

て、社会的構造のなかに埋め込まれた資源であり、目的をもった行

動のためにアクセスされ動員されるもの。 ボウルズ=ギンテ

ィス(2002) 直接、頻繁、かつ多面的に相互作用する人々のグループを意味する

コミュニティ。 宮川・大守(2004)をもとに作成

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表2 SPSS(ステップワイズ法)による分析 従業者数 投入済み変数または除去された変数(a)

モデル 投入済み変数

除去された

変数 方法

1 年間商品

販売額 .

ステップワイズ法 (基準: 投入する F の確率 <= .050、 除去する F

の確率 >= .100)。

2 人口 .

ステップワイズ法 (基準: 投入する F の確率 <= .050、 除去する F

の確率 >= .100)。

a 従属変数: 従業者数

モデル集計

モデル R R2 乗

調整済み

R2 乗

推定値の

標準誤差

1 .992(a) .984 .984 4015.480

2 .995(b) .990 .990 3165.884

a 予測値: (定数)、年間商品販売額。

b 予測値: (定数)、年間商品販売額, 人口。

分散分析(c)

モデル 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率

1 回帰 489237618

12.989 1

489237618

12.989 3034.205 .000(a)

残差 790080007.

600 49

16124081.7

88

全体 497138418

20.589 50

2 回帰 492327463

90.995 2

246163731

95.498 2456.032 .000(b)

残差 481095429. 48 10022821.4

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594 50

全体 497138418

20.589 50

a 予測値: (定数)、年間商品販売額。

b 予測値: (定数)、年間商品販売額, 人口。

c 従属変数: 従業者数

係数(a)

モデル

非標準化係数

標準化係

t 有意確率 B 標準誤差 ベータ

1 (定数) 2748.031 616.402 4.458 .000

年間商品

販売額 .028 .001 .992 55.084 .000

2 (定数) 904.667 588.561 1.537 .131

年間商品

販売額 .020 .002 .701 12.898 .000

人口 .031 .006 .302 5.552 .000

a 従属変数: 従業者数

除外された変数(c)

モデル

投入された

ときの標準

回帰係数 T 有意確率 偏相関

共線性の

統計量

許容度

1 人口 .302(a) 5.552 .000 .625 .068

自然増加率 .024(a) 1.314 .195 .186 .998

三世代同居率 -.049(a) -2.712 .009 -.364 .891

核家族世帯率 .025(a) 1.399 .168 .198 .990

持ち家率 -.040(a) -2.091 .042 -.289 .816

NPO法人数 .279(a) 3.287 .002 .429 .037

2 自然増加率 -.001(b) -.080 .937 -.012 .901

三世代同居率 -.005(b) -.280 .781 -.041 .631

核家族世帯率 -.020(b) -1.222 .228 -.175 .737

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持ち家率 -.012(b) -.700 .487 -.102 .720

NPO法人数 .142(b) 1.828 .074 .258 .032

a モデルの予測値: (定数)、年間商品販売額。

b モデルの予測値: (定数)、年間商品販売額, 人口。

c 従属変数: 従業者数

年間商品販売額 投入済み変数または除去された変数(a)

モデル 投入済み変数

除去された

変数 方法

1 従業者数 .

ステップワイズ法 (基準: 投入する F の確率 <= .050、 除去する F

の確率 >= .100)。

2

三世代同居率 . ステップワイズ法 (基準: 投入する F の確率 <= .050、 除去する F

の確率 >= .100)。

a 従属変数: 年間商品販売額

モデル集計

モデル R R2 乗

調整済み

R2 乗

推定値の

標準誤差

1 .992(a) .984 .984 143055.248

2 .993(b) .986 .985 136802.873

a 予測値: (定数)、従業者数。

b 予測値: (定数)、従業者数, 三世代同居率。

分散分析(c)

モデル 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率

1 回帰 620944002

86378.100 1

620944002

86378.100 3034.205 .000(a)

残差 100277538

8321.552 49

204648038

43.297

全体 630971756 50

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74699.600

2 回帰 621988544

20401.400 2

310994272

10200.700 1661.736 .000(b)

残差 898321254

298.248 48

187150261

31.214

全体 630971756

74699.600 50

a 予測値: (定数)、従業者数。

b 予測値: (定数)、従業者数, 三世代同居率。

c 従属変数: 年間商品販売額

係数(a)

モデル

非標準化係数

標準化係

t 有意確率 B 標準誤差 ベータ

1 (定数) -89179.576 22705.433 -3.928 .000

従業者数 35.342 .642 .992 55.084 .000

2 (定数) -187200.43

4 46828.802 -3.998 .000

従業者数 35.920 .661 1.008 54.378 .000

三世代同居率 803437.811 340082.801 .044 2.362 .022

a 従属変数: 年間商品販売額

除外された変数(c)

モデル

投入された

ときの標準

回帰係数 T 有意確率 偏相関

共線性の

統計量

許容度

1 人口 -.118(a) -1.374 .176 -.194 .043

自然増加率 -.023(a) -1.261 .213 -.179 .995

三世代同居率 .044(a) 2.362 .022 .323 .863

核家族世帯率 -.026(a) -1.478 .146 -.209 .994

持ち家率 .033(a) 1.641 .107 .231 .790

NPO法人数 .162(a) 1.643 .107 .231 .032

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2 人口 -.035(b) -.372 .711 -.054 .034

自然増加率 -.005(b) -.239 .812 -.035 .781

核家族世帯率 .004(b) .160 .873 .023 .513

持ち家率 .006(b) .231 .819 .034 .468

NPO法人数 .158(b) 1.683 .099 .238 .032

a モデルの予測値: (定数)、従業者数。

b モデルの予測値: (定数)、従業者数, 三世代同居率。

c 従属変数: 年間商品販売額