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2015 12 8 株式調査部 Report /日本 /マクロ経済 マクロ経済見通し(季刊) 2015 年度~2016 年度の日本経済見通し(改訂版) SMBC日興証券およびその関連会社は本レポートでカバーされている企業と取引を行っている、または今後行う可能性があります。 従いまして投資家の皆様は本レポートの客観性に影響を及ぼす利益相反が弊社に存在する可能性があることをご認識ください。本レ ポートはあくまで投資を決定する上での材料の一つとお考えください。 アナリスト認証および米国外のアナリストの開示事項を含む重要な開示事項は末尾の補足をご参照ください。 SMBC NIKKO SECURITIES AMERICA, INC SMBC NIKKO CAPITAL MARKETS LTD SMBC日興証券株式会社 グローバルな所得移転がもたらす世界経済の変動~日本に追い風 実質 GDP15 年度+1.1%、16 年度+1.8 名目 GDP15 年度+2.5%、16 年度+2.2チーフエコノミスト 牧野 潤一 シニアエコノミスト 渡辺 浩志 目次 2015 年度~2016 年度の日本経済見通し .................................................................................................. 2 1. 日本経済の四半期予測表.......................................................................................................................... 3 2. グローバルな所得移転がもたらす世界経済の変動~日本に追い風............................................................. 4 3. (1) グローバルな所得移転~プラス面とマイナス面に時差............................................................................................4 (2) 米国経済は利上げで失速しないか.........................................................................................................................8 (3) 中国経済はハードランディングしないか ..................................................................................................................9 (4) 資源価格と為替レート..........................................................................................................................................12 (5) 日本経済~内需主導の回復................................................................................................................................13 (6) 金融政策 ............................................................................................................................................................22 新旧アベノミクスと経済対策 ..................................................................................................................... 24 4. (1) 旧アベノミクス .....................................................................................................................................................24 (2) 新アベノミクス .....................................................................................................................................................29

(改訂版)マクロ経済見通しAllPart 20151208 ncfd …...設備投資はリーマン・ショック以降、上方トレンドを持っているが、これは基本的に需要(GDP)の増加に起因し

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2015 年 12 月 8 日 株式調査部Report /日本 /マクロ経済

マクロ経済見通し(季刊) 2015 年度~2016 年度の日本経済見通し(改訂版)

SMBC日興証券およびその関連会社は本レポートでカバーされている企業と取引を行っている、または今後行う可能性があります。

従いまして投資家の皆様は本レポートの客観性に影響を及ぼす利益相反が弊社に存在する可能性があることをご認識ください。本レ

ポートはあくまで投資を決定する上での材料の一つとお考えください。 アナリスト認証および米国外のアナリストの開示事項を含む重要な開示事項は末尾の補足をご参照ください。

SMBC NIKKO SECURITIES AMERICA, INC SMBC NIKKO CAPITAL MARKETS LTD SMBC日興証券株式会社

グローバルな所得移転がもたらす世界経済の変動~日本に追い風

実質 GDP: 15 年度+1.1%、16 年度+1.8%

名目 GDP: 15 年度+2.5%、16 年度+2.2%

チーフエコノミスト 牧野 潤一

シニアエコノミスト 渡辺 浩志

= 目次 =

2015 年度~2016 年度の日本経済見通し .................................................................................................. 2 1.

日本経済の四半期予測表 .......................................................................................................................... 3 2.

グローバルな所得移転がもたらす世界経済の変動~日本に追い風 ............................................................. 4 3.

(1) グローバルな所得移転~プラス面とマイナス面に時差 ............................................................................................ 4

(2) 米国経済は利上げで失速しないか ......................................................................................................................... 8

(3) 中国経済はハードランディングしないか .................................................................................................................. 9

(4) 資源価格と為替レート .......................................................................................................................................... 12

(5) 日本経済~内需主導の回復 ................................................................................................................................ 13

(6) 金融政策 ............................................................................................................................................................ 22

新旧アベノミクスと経済対策 ..................................................................................................................... 24 4.

(1) 旧アベノミクス ..................................................................................................................................................... 24

(2) 新アベノミクス ..................................................................................................................................................... 29

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

2 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

2015 年度~2016 年度の日本経済見通し 1.

(1) GDP 成長率は 15 年度を小幅上方修正、16 年度を小幅下方修正

2015 年 7~9 月期 GDP2 次速報を受け、経済見通しを改訂した。実質 GDP 成長率は 15 年度が前年比

+1.1%、16 年度が同+1.8%と予想した。前回予測(11 月 20 日)に比べ 15 年度を 0.1ppt 上方修正、16 年度を

0.1ppt 下方修正した。これは設備投資の持ち直しのタイミングをより手前にしたため、設備投資の 15 年度が上

方修正となり、16 年度が下方修正となったため。

(2) グローバルな所得移転がもたらす世界経済の変動

昨年秋から世界市場が動揺し、新興国懸念が高まっている。これは基本的に中国懸念というよりも、米国利上

げ懸念が大きいだろう。リーマン・ショック後の世界経済は、米国の経常赤字が半減する中、米国 QE で生じた

過剰流動性により、新興国の経常赤字が拡大し、新興国経済が米国経済を肩代わりする形で世界経済を牽

引した。しかし、リーマン・ショックから 7 年が経ち、米国経済が復活、市場では米利上げ観測から商品市況が

急落、ドル高から新興国通貨が売られ、新興国懸念が高まった。

しかし、資源安は、生産国から消費国への所得移転であるから世界全体ではゼロサムである。ただ、プラス面と

マイナス面の発現に時差が生じる。資源安という“価格変化”は急激であるためそのマイナス面が早く発現し、

所得移転先の“数量変化”には時間が掛かる。市場は先行するマイナス面をまず織り込まざるを得ず、これが

世界市場の調整に繋がった。しかし、時間が経てばプラス面が発現してくるため、その後自律反発していく。そ

の起点となるのは消費国景気。その代表は米国であり、米国の個人消費である。米国消費は、(1)エネルギー

安とドル高による交易条件の改善、(2)住宅の資産効果、(3)底堅い雇用・賃金により堅調だ。米国経済の回

復と共に世界経済・市場は落ち着きを取り戻そう。

(3) 個人消費は所得環境の持ち直しから回復へ

個人消費については所得環境が着実に回復している。7~9 月期の実質雇用者報酬は前期比+0.7%、年率

+2.8%となっている。実質所得の規定する雇用は医療・福祉業を中心に構造的に増えており、同じく賃金も医

療・福祉業を中心にプラス成長が定着してきた。物価は今後、食料品価格の下落が予想され、実質所得を押

し上げよう。実質所得は今年度後半から来年度にかけて年 2%弱の伸びが予想され、消費も同程度の伸びが

期待される。

(4) 設備投資は拡大基調

設備投資はリーマン・ショック以降、上方トレンドを持っているが、これは基本的に需要(GDP)の増加に起因し

ている。GDP が 1%増加すれば、純資本ストックは 7 兆円必要となり、設備投資は年 3%増加する。また日銀短

観をみると、今年度の設備計画は強い。しかしこの計画は、例年の修正パターンからみれば、今後下方修正さ

れる。そうした修正パターンを踏まえて GDP 設備投資を試算すると、前年比+3%程度となる。資本ストック、日

銀短観いずれも+3%成長を示唆する。15 年度上期は+1.7%成長であったから、下期は+4.3%となってもおか

しくない。設備投資は持ち直していくと思われる。

(5) 日銀の追加緩和

コアコア CPI は前年比+0.9%と高いが、これは円安による輸入物価の上昇による。このベース効果は 1 年で剥

げるため、今後鈍化してくる。また GDP デフレーターからみると、ホームメードインフレは 0%である。物価の基

調は弱く、来年の 2%達成は不可能だろう。来年 1 月か 4 月には追加緩和が予想される。

(6) リスク要因

リスク要因は 2 つ。一つはダウンサイドリスクで、米国の賃金・インフレ率の加速。その場合、米長期金利が上昇

する。二つ目はアップサイドリスクで中国経済の持ち直し。景気対策の規模が大きく、その効果が発現した場

合、経済に上振れリスクが生じる。

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

3 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

日本経済の四半期予測表 2.

図表2-1: 日本経済の四半期予測表

【前提条件】 為替レート(平均): 15 年度 122 円/ドル、16 年度 126 円/ドル。原油価格(WTI 平均): 15 年度 51 ドル/バレル、16 年度 59 ドル/バレル 注 1: 米国の GDP は暦年値、失業率は平均値、FF 金利は年末値 注 2: 実績値は内閣府、総務省、経済産業省、日本銀行。予想値はSMBC日興証券 出所: 内閣府、総務省、経済産業省、日本銀行、SMBC日興証券予想

図表2-2: 実質 GDP 成長率の見通し

出所: 内閣府、SMBC日興証券予想

《実績》← →《予測》 《実績》← →《予測》 (単位:%)

4-6月 7-9月 10-12月 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 1-3月 15年度 16年度

実質GDP成長率(前期比) -1.9 -0.7 0.5 1.1 -0.1 0.3 0.3 0.4 0.4 0.5 0.6 0.7 -

      (年率換算) -7.2 -2.8 1.8 4.4 -0.5 1.0 1.2 1.6 1.6 2.1 2.4 2.7 -1.0 1.1 1.8 0.1 -0.1

内需寄与度(前期比) -2.8 -0.4 0.1 1.1 0.1 0.1 0.5 0.4 0.3 0.5 0.6 0.8 -1.5 1.3 1.8 0.1 0.0

個人消費(前期比) -4.8 0.0 0.4 0.3 -0.5 0.4 0.4 0.5 0.4 0.3 0.7 1.0 -2.9 0.3 1.8 -0.3 0.1

設備投資(前期比) -4.1 -0.4 0.2 2.7 -1.3 0.6 2.0 2.1 0.9 0.9 1.2 1.2 0.1 2.4 5.1 1.5 -0.6

住宅投資(前期比) -10.5 -6.9 -0.7 2.0 2.5 2.0 -3.1 0.0 1.6 2.2 2.0 0.6 -11.7 1.5 3.0 -1.9 0.0

公共投資(前期比) -2.5 1.6 -0.5 -2.0 3.3 -1.5 -0.1 0.1 -0.1 -1.0 -1.2 -1.4 -2.6 0.5 -2.3 0.6 4.5

外需寄与度(前期比) 1.0 0.1 0.3 0.0 -0.2 0.1 -0.1 0.0 0.1 0.0 0.0 -0.1 0.6 -0.1 -0.1 0.0 0.0

輸出(前期比) 0.4 1.6 2.9 1.9 -4.3 2.7 1.4 1.2 1.1 1.1 1.1 1.2 7.8 1.6 4.9 0.1 0.0

輸入(前期比) -4.3 1.1 0.8 1.7 -2.6 1.7 1.9 1.2 0.9 1.1 1.4 2.0 3.3 2.0 5.5 0.1 0.2

名目GDP成長率(前期比) 0.1 -0.9 0.8 2.0 0.2 0.4 0.6 0.4 0.4 0.8 0.8 0.7 1.5 2.5 2.2 0.1 -0.1

鉱工業生産(前期比) -3.0 -1.4 0.8 1.5 -1.4 -1.2 1.5 1.5 1.1 1.0 1.1 1.3 -0.4 -0.1 4.4 -0.5 -0.5

貿易収支(年率、兆円) -11.9 -11.5 -8.9 -3.7 -2.9 -4.1 -1.3 -1.0 -0.5 -0.2 -0.2 -0.7 -9.0 -2.3 -0.4 0.2 0.0

失業率(%) 3.6 3.6 3.5 3.5 3.3 3.4 3.3 3.3 3.2 3.2 3.2 3.1 3.6 3.3 3.2 0.0 0.0

コア消費者物価(前年比) 3.3 3.2 2.7 2.1 0.1 -0.1 0.0 0.3 -0.2 0.1 0.1 0.1 2.8 0.1 0.0 0.0 0.0

1.4 1.2 0.7 0.1 0.0 -0.1 0.0 0.3 -0.2 0.1 0.1 0.1 0.9 0.0 0.0 0.0 0.0

無担保コール翌日物(期末) 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10 - -0 0 0 0

米実質GDP成長率(年率換算) 4.6 4.3 2.1 0.6 3.9 2.1 2.7 2.5 2.7 2.6 2.5 2.5 2.4 2.5 2.6 0.1 0.1

失業率(%) 6.2 6.1 5.7 5.6 5.4 5.2 5.2 5.0 4.8 4.6 4.4 4.2 6.2 5.3 4.6 0.0 0.0

コア消費者物価(前年比) 1.9 1.8 1.7 1.7 1.8 1.8 1.8 1.8 1.9 2.0 2.1 2.0 1.7 1.8 1.9 0.0 0.00.0~ 0.0~ 0.0~ 0.0~ 0.0~ 0.0~ 0.0~

0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.000.000.75 1.001.251.00 0.500.50 0.750.50FF金利(期末)

消費税率引き上げの影響を除く コア消費者物価 (前年比)

2015年 前回(11/20)との比較2014年 2016年16年度15年度14年度

2017年

-6

-4

-2

0

2

4

6

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

財貨・サービスの輸出 財貨・サービスの輸入 政府支出

民間在庫 民間設備投資 民間住宅

民間消費支出 実質GDP

弊社予想

(年度)

(前年比%、寄与度%pt)

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

4 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

グローバルな所得移転がもたらす世界経済の変動~日本に追い風 3.

チーフエコノミスト 牧野 潤一

(1) グローバルな所得移転~プラス面とマイナス面に時差

昨年秋から世界市場が下落、足元で反発している。マクロからみればその理由は「グローバルな所得

移転」となるだろう。

リーマン・ショック後の世界経済は、米国 QE で生じた過剰流動性がコモディティ市場と新興国市場に

流れ、資源高とドル安(新興国通貨高)が生まれた。これにより新興国の交易条件が改善し購買力が

向上、新興国経済が停滞する米国経済を肩代わりする形で世界経済を牽引した。

図表3-1: 世界の株価の推移

出所:ブルームバーグ、SMBC日興証券

図表3-2: 経常収支の推移 ~新興国の台頭は米 QE マネーが原動力

注: 2015 年は IMF の予想値 出所: IMF、SMBC日興証券

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年)

(2010年1月4日=100)

米国

日本

新興国

‐900

‐800

‐700

‐600

‐500

‐400

‐300

‐200

‐100

0

100

200

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

新興国 米国(10億ドル)

(年)

リーマンショック

FedのQE時期

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

5 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

しかし、リーマン・ショックから 7 年が経ち状況が一変。米国経済が復活してきた。市場では米国の利上

げ観測からコモディティ価格が急落、ドル高から新興国通貨が売られた。市場環境がこれまでとは全く

逆となり、資源国の購買力が低下、これにより新興国懸念が高まった。

しかし資源安は、一方で消費国の交易条件を改善させ、購買力を高めるから世界経済にプラスとなる。

資源安は「グローバルな所得移転」を意味する。

図表3-3: コモディティ価格の推移

出所:IMF、SMBC日興証券試算

図表3-4: グローバルな所得移転

出所:SMBC日興証券

‐50

50

150

250

350

450

550

650

0

50

100

150

200

250

300

350

400

05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

WTI 銅 小麦

大豆 とうもろこし 鉄鉱石(右軸)

(2005年=100) (2005年=100)

(年)

資源国 消費国

消費

所得移転

2.5兆ドル(約300兆円)

貯蓄

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

6 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

グローバルな所得移転であれば、世界全体ではゼロサムとなるから、市場が下落する必要はないはず

だ。しかし実際には下落した。これは所得移転に伴うプラス面とマイナス面の発現に時差があるからだ

ろう。

資源安という“価格変化”は急激であるためマイナス面は早く発現し、一方、所得移転先の“数量変化”

には時間が掛かる。このため、市場参加者はまず先行するマイナス面を織り込まざるを得ず、このため

世界市場が下落した。しかし、時間が経てばプラス面が発現してくるため、その後、市場は自律的に反

発していく。

米国経済

市場を自律反転させるのは所得移転先である消費国の景気となる。この点、世界の消費国の代表は

米国であるから、米国の個人消費が注目点となる。

そこで米国経済を見ると、7〜9 月期の GDP 成長率は前期比年率+2.1%と 4〜6 月期から減速した。た

だ、減速の主因は在庫調整であり、肝心の個人消費は同+3.0%と堅調であった。

図表3-5: 米国: 実質 GDP 成長率

出所: 米商務省、SMBC日興証券

個人消費が堅調であるのは、主に 3 つ理由があるだろう。

(1) エネルギー安とドル高による交易条件の改善(可処分所得の 1%)

(2) 住宅の資産効果(住宅資産の年間増加額は年間貯蓄額の 1.4 倍)

(3) 底堅い雇用・賃金

家計の可処分所得は交易条件の改善(エネルギー安とドル高)から 1ppt 押し上げられている。また住

宅資産の増加は年間貯蓄額の 1.4 倍となっている。これは貯蓄全てを消費に回してもなお、家計資産

は増えることを意味する。家計資産の増加は貯蓄から消費を促すことになる。

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

7 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

図表3-6: 米国: 原油価格と米国エネルギー消費 図表3-7: 米国: 住宅資産額の推移

出所: 米商務省、ブルームバーグ、SMBC日興証券 出所: FRB、SMBC日興証券

雇用も堅調である。10 月 11 月の非農業部門雇用者数の増加数は 20 万人を超えた。今後も好調だろ

う。これは耐久財需要が堅調だからだ。耐久財は借入を伴うものであるから、耐久財の増加で、新たな

マネーが経済に追加される。そのマネーは財の購入に使われるから、そこから所得が生まれ、生産や

雇用が生み出される。

耐久財は雇用に 2 四半期先行する。耐久財は 4~6 月期、7~9 月期に加速しており、これは 10~12

月期、1~3 月期の雇用の加速を示唆する。

図表3-8: 米国の耐久財需要と雇用

出所: 米商務省、米労働省、SMBC日興証券

350

400

450

500

550

600

650

700

750

0

20

40

60

80

100

120

140

05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17

(10億ドル)

(年)

(ドル/バレル)

エネルギー消費

(右軸)

WTI(左軸)

約1300億ドルの節約

(可処分所得の1%)

6

8

10

12

14

16

18

20

22

24

26

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

年間1兆ドル増

(年間貯蓄の1.4倍)

(兆ドル)

(年)

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

8 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

米国景気が加速すると、再び利上げ懸念が高まり、市場が再び下落する懸念もある。しかし実際には

起きないだろう。マイナス面は既に織り込まれているから、再び織り込む必要はない。次はプラス面を

織り込む段階となる。実際、10 月以降、日米の株価は急激に戻しており、局面が変わってきている。

図表3-9: 米国株価の急落と自律反発

注: 新興国懸念を織り込んだ株価水準は、中国 GDP1ppt 減速とそれに伴う新興国経済への影響および新興国通

貨 15%下落を仮定した場合の米国企業の純利益へのインパクト(▲7.1%)を織り込んだ水準 出所: ブルームバーグ、SMBC日興証券試算

(2) 米国経済は利上げで失速しないか

米国経済に伴って Fed の利上げが予想される。現在の市場予想は、12 月利上げの確率が 78%となっ

ている。また利上げのペースは、年間 0.5%が予想されている。問題はこうした利上げが、米国経済を

失速させないかということである。

利上げで失速するかどうかは、金利に影響を受ける投資需要がどう動くかで決まる。金利に影響を受

ける需要としては、住宅投資、設備投資が代表的である。これらはお金を借りて買うものであるから(又

は、借りなくても機会費用が発生するため、自己資金でも同じ)、借入金利が上昇すると、投資利ザヤ

が縮小し、投資採算が悪化して、投資需要が減速してくる。

この点、米国の住宅投資と設備投資の利ザヤを見たものが、図表3-10と図表3-11である。住宅投資で

は3%の利ザヤ(=家賃利回り-30年物ローン金利)、設備投資は4%の利ザヤ(=ROA-プライムレート

-リスクプレミアム)となっており、多少金利が上昇しても、十分な投資採算がある。

利上げを年 0.5%ペースで行う場合、住宅投資の利ザヤが 0%になるのに 6 年掛かる。実際にはその

前に需要は落ちていこうが、少なくとも 2~3 年は大丈夫だろう。

以上のように、米国経済は Fed が利上げを開始しても、俄かに景気が失速する可能性は低いと思われ

る。

1,700

1,750

1,800

1,850

1,900

1,950

2,000

2,050

2,100

2,150

2,200

14/9

14/10

14/11

14/12

15/1

15/2

15/3

15/4

15/5

15/6

15/7

15/8

15/9

15/10

15/11

15/12

S&P500種

新興国懸念を織り込んだ株価水準

(年/月)

(Points)

純利益減

▲7.1%

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

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図表3-10: 米国: 住宅投資の利ザヤ 図表3-11: 米国: 設備投資の利ザヤ

出所: 商務省、FRB、ブルームバーグ、SMBC日興証券 出所: 米商務省、ブルームバーグ、SMBC日興証券

(3) 中国経済はハードランディングしないか

次に、中国経済を考えよう。

結論から言えば、ハードランディングはなく、景気は回復していくと思われる。

中国の経済問題の根幹に人口

中国の経済問題とは、基本的には“過剰設備”である。一般に、経済のモメンタムを決めるのは投資で

ある(消費でない)。投資のみが、新たなマネーを生み出し、これが支出、生産、所得を生み出すから

だ。しかし、中国の固定資産投資は毎年、成長率が鈍化しており、当然、経済全体のモメンタムが低下

している。

固定資産投資の伸びが低下しているのは、投資をしても儲からないからであり、これは投資の期待リタ

ーンが低下しているためだ。実際、上海市場の上場企業の ROA(純利益/純固定資産)は 2.9%であり、

これは貸出基準金利(5 年超)の 4.9%を下回っている。逆ザヤであるから投資は高まらない。上場企業

ですらこの状態であるから、企業全体ではなおさらだろう。まさに過剰設備の状態だ。

図表3-12: 中国: 趨勢的に減速する固定資産投資 図表3-13: 中国: 投資採算が逆ザヤ

出所: ブルームバーグ、SMBC日興証券 出所: ブルームバーグ、SMBC日興証券

-3

-2

-1

0

1

2

3

4

5

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

(ppt)

(年)

【住宅バブル期】インカムゲインがマイナスであ

り、キャピタルゲイン狙いの投資

インカムゲインがプラスであり、健全な状態

住宅投資の利ザヤ(家賃利回り-30年物ローン金利)

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

10

12

14

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

(ppt)

(年)

設備投資の投資採算(リスクプレミアム調整後、1年先行、右軸)

実質設備投資(左軸)

(前期比、%)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

08 09 10 11 12 13 14 15 16

前年比(%)

(年)

固定資産投資 (設備投資+住宅投資+公共投資)

0

5

10

15

20

25

04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

(%)

(年)

上場企業のROA

貸出金利(5年超)

リーマンショック

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問題はなぜそのようになったかである。その原因は「人々の不満」と「人口」にあるだろう。

中国では毎年、20 万件の暴動が起きていると言われ、人々の不満は日常化している。政府はその鎮

圧に年間約 7,700 億元(12.2 兆円)の治安維持費を使っている。これは軍事費より多い。

これに人口問題が加わる。景気の失速で失業者が増えれば、人々の不満は抑え切れなくなる。中国

が 2 桁成長していた 2000 年代、「生産年齢人口」の増加は毎年 1000 万人を超えていた。中国の場合、

GDP1%当たりの雇用創出は 100 万人程度であるから、全ての人に職を与えるには、10%成長が必要

であった。中国はこれを無理やり実行した。10%成長には GDP の 3 割程度の個人消費では無理であ

り、ましてや海外需要で決まる輸出は頼りにならない。固定資産投資を拡大せざるを得ない。実際、中

国政府は固定資産投資を毎年 20%超(約 30 兆円の増加ペース)で拡大させてきた。投資は 初は需

要となるが、後で供給力となる。こうして 15 年間掛けて供給力が蓄積され、過剰設備が生み出されて

いった。

図表3-14: 中国: 雇用創出のため高成長必要→固定資産投資拡大→過剰設備

出所: 中国国家統計局、国際連合、SMBC日興証券

中国経済はハードランディングしない

今年の労働力の増加は年間 700 万人程度である。GDP 成長率は 7%が必要であるから、政府の目標

は 7%となっている。構造改革は必要であるが、中国の権力者は自らの権力維持を優先するだろう。そ

の意味でハードランディングは起こり得ないと思われる。

幸いに、労働力の増加は今後減少し、2020 年頃にはゼロとなる。つまり、2020 年には GDP 成長率が

0%でも完全雇用となる。それまで、毎年の成長率目標のハードルは低下し、景気対策の規模は縮小

できる。ソフトランディングが可能となる。

また、金融面からのハードランディングも起こらないだろう。過去の恐慌や近年のリーマン・ショックは、

民間銀行の銀行取り付けによって生じた。大恐慌はまさに預金者の銀行取り付けで起こり、リーマン・

ショックは MMF による銀行取り付けが原因となった。しかし、中国では預金者の銀行取り付けが起こる

可能性は低い。それは 2,600 行を超える銀行のなかで純粋な民間銀行が 5 行しかないからだ。99%の

銀行が国有では銀行取り付けが起こりようがない。

2015 年 5 月以降の景気対策は GDP の 6.7%の規模に上る。この効果はまだ顕在化していないが、来

年には見えてくるのではないか。GDP 成長率の実勢を 4%とすると、これに景気対策 6.7%が加わり、

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

10

12

14

-600

-400

-200

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030

生産年齢人口(左軸)

実質GDP成長率(右軸)

(前年差、万人)(%)

◆2015年

労働供給は700万人程度、

GDP7%成長が必要

(年)

労働供給はマイナス、

GDP成長率はマイナスでよい

雇用創出にはGDP2桁成長が

必要だった

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10%超の成長率となる。実際にはそこまではいかないであろうが、7%成長はクリアできるのではないか。

来年は中国経済が世界市場にポジティブサプライズを与える可能性がある。

図表3-15: 中国: 新規融資の推移

出所: 中国国家統計局、SMBC日興証券

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

企業向け・政府向け

家計向け

証券会社・その他向け(株価対策)

(10億元)

(年)

リーマンショック

10月

(10億元)

(年)

リーマンショック

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(4) 資源価格と為替レート

既述のように、米国経済は年末から来年春までに利上げを開始するだろう。利上げはコモディティ市場

と為替市場に影響を与える。

コモディティ市場は、金融面と実需面の双方から影響を受ける。金融面では資金調達コストが上昇す

る。一般に投機筋は短期で資金を調達し、レバレッジを掛けて投資するが、利上げによって短期資金

の調達コストが上昇し、運用難となる(図表 3-16)。投機筋はポジションを落とさざるを得なくなり、徐々

に市場は実需要因が支配的となる。実需から見た原油価格は、60 ドル/バレル程度であり(図表 3-

17)、資源価格は低位に安定していこう。

次に為替市場であるが、こちらも金利から影響を受ける。弊社の為替レートモデルによれば、円ドルレ

ートは、Fed の利上げ(年 0.5%)だけを織り込む場合は、16 年末に 127 円/ドル程度となる。一方、Fed

利上げに加え、日銀の追加緩和(国債追加購入 20 兆円)を織り込むと、134 円/ドル程度となる。いず

れにしても円安方向である。

図表3-16: 原油価格: 金融面からは価格押し下げ圧力 図表3-17: 原油価格: 実需面からの適正水準は 60 ドル/バレル

出所: ブルームバーグ、SMBC日興証券 出所: BP、ブルームバーグ、SMBC日興証券

図表3-18: 円ドルレートの見通し

注: 前提は、Fed が年内に利上げし、年間 0.5%のペースで引き上げ 日銀が追加緩和を行うケースでは、国債購入 20 兆円追加 出所: ブルームバーグ、SMBC日興証券推計

‐40

‐30

‐20

‐10

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

110

120

130

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

09 10 11 12 13 14 15 16(年)

(ドル/バレル)(%)

原油価格(WTI、右軸)

米国短期金利

(OISフォワード金利3M、左軸)

0

20

40

60

80

100

120

140

63

73

83

93

103

113

123

133

95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15

石油消費量

WTIスポット価格(右軸)

(100万バレル/日) (ドル/バレル)

(年)

70

80

90

100

110

120

130

140

70

80

90

100

110

120

130

140

11 12 13 14 15 16

円ドルレート

弊社モデル

日銀が追加緩和した場合

日銀が追加緩和しない場合

(円/ドル)

(年)

モデル予想

(円/ドル)

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(5) 日本経済~内需主導の回復

資源安と円安は加工貿易型の日本経済にとっては追い風となる。その下で国内経済の回復が始まろ

う。

輸出の見通し

まず、輸出からみていこう。日本の輸出は、基本的にシリコンサイクルによって規定されている。これは

日本の輸出が圧倒的にアジア向け(NIEs+ASEAN と中国)が多く、且つ、アジアは IT 製品の一大生産

拠点となっているからだ。実際、日本の地域別輸出をみると、 大の「NIEs+ASEAN 向け」と 3 番目の

「中国向け」が、ヒストリカルに連動して動いている。

図表3-19: 輸出とシリコンサイクル

出所: 財務省、ブルームバーグ、SMBC日興証券

図表3-20: 輸出(地域別)

注: NIEs は韓国、台湾、香港、シンガポール、ASEAN はタイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、新興国は、中

東諸国、ブラジル、ロシア、チリ、南アフリカ

出所: 財務省、SMBC日興証券

‐50

‐30

‐10

10

30

50

70

96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

シリコンサイクル(世界半導体販売額)

輸出数量指数

(前年比、%)

(年)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

NIEs+ASEAN

米国

中国

EU

(兆円)

新興国

(年)

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日本のアジア貿易

アジアの輸出構造は、「NIEs+ASEAN」にしても、「中国」にしても IT 製品に特化している。そのアジア

に対して、日本は部品、半製品など生産財を供給している。すなわち、日本の輸出は「日本→アジア

→世界」という連関を持っており、その構造を生み出しているのは IT 財である。したがって、日本の輸

出の先行きを考える場合、IT・シリコンサイクルをみていかなければならない。

シリコンサイクルは基本的に上方トレンドを持ったサイクルであり、下がり続けるということはない。シリコ

ンサイクルの「上方トレンド」は、“情報”という不可逆的に増え続ける要素によって生まれ、一方、「サイ

クル変動」は、IT 財は陳腐化が激しく、買い換えサイクルが短いことから生まれる。

図表3-21: NIEs+ASEAN の輸出構造 図表3-22: 中国の輸出構造

出所: 財務省、CEIC、SMBC日興証券 出所: 財務省、中国国家統計局、SMBC日興証券

図表3-23: 輸出:「日本→NIEs+ASEAN→世界」の連関 図表3-24: 輸出:「日本→中国→世界」の連関

出所: 財務省、CEIC、SMBC日興証券 出所: 財務省、中国国家統計局、SMBC日興証券

シリコンサイクルの先行き

サイクルという点で先行指標の台湾の輸出受注を見ると、新型 iPhone 発売などを背景に上向いてきて

いる。こうした IT 製品の需要増加に沿って、シリコンサイクルも上向いていく公算が大きい。したがって、

日本の輸出も上向いていく公算が大きい。

‐60

‐40

‐20

0

20

40

60

80

‐40

‐20

0

20

40

60

07 08 09 10 11 12 13 14 15

NIEs+ASEANの対世界輸出

日本の対NIEs+ASEAN輸出

(前年比、%) (前年比、%)

(年)

‐60

‐40

‐20

0

20

40

60

80

‐40

‐30

‐20

‐10

0

10

20

30

40

50

60

70

07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

中国の対世界実質輸出

日本の対中実質輸出(右軸)

(%) (%)

(年)

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図表3-25: シリコンサイクルの先行指標~台湾の輸出受注

出所: 台湾経済部、SMBC日興証券

個人消費の見通し

7~9 月期の個人消費は前期比+0.4%と前期の減少から回復した。個人消費が回復した理由は実質

所得が増えたことが大きい。7~9 月期の実質雇用者報酬は同+0.7%となった。今後も所得環境の改

善がカギを握ろう。実質所得を決めるのは、雇用、賃金、物価の 3 つである。

(1)雇用

雇用を業種別にみると、2000 年代以降、雇用を牽引しているのは「医療・福祉業」となっている。過去

10 年間における雇用の増加数のうち、同産業が約 8 割を占める。背景には高齢化に伴う介護需要の

増大があり、雇用は人口の高齢化という景気とは無関係な要因によって改善している。今後も雇用者

数は、医療・福祉業の寄与を中心に前年比+0.7%程度の伸びが続こう。

図表3-26: 雇用(業種別)

出所: 総務省、SMBC日興証券

20

25

30

35

40

7

8

9

10

11

12

13

14

15

10 11 12 13 14 15

うち電子機器 うち情報通信機器

(10億ドル) (10億ドル)

(年)

輸出受注(右軸)

0

2

4

6

8

10

12

02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

製造業

卸売業,小売業

医療,福祉業

建設業

その他サービス

宿泊業,飲食業

運輸業,郵便業

情報通信業

教育,学習支援業

金融業,保険業

不動産業

生活関連,娯楽業

(年)

(百万人)

医療・福祉業

製造業

卸売業・小売業

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(2)賃金

賃金を業種別にみると、やはり「医療・福祉業」の寄与が大きい。賃金も雇用と同様、人口の高齢化を

背景に構造的に改善している。ただ、構造的である分、賃金上昇率は緩やかであり、前年比+0.5%程

度である。これは雇用増が非正規に偏っているからだ。実際、2013 年度からの雇用増のうち、非正規

が約 9 割を占める。これでは賃金は上がらない。

しかし、「医療・福祉業」の雇用が趨勢的に増えると、労働力を吸収していき、 後には遊休労働力が

枯渇する。弊社試算では遊休労働力の枯渇は 2018 年頃とみられ、その頃から賃金は加速していくと

みられる。

図表3-27: 所定内給与(業種別)

注: パートを含む所定内給与、3 ヶ月移動平均 出所: 総務省、SMBC日興証券推計

図表3-28: 雇用増の形態別寄与 図表3-29: 2018 年頃に遊休労働力が枯渇、賃金加速へ

出所: 総務省、SMBC日興証券 注 1: 大の労働供給力=15 歳以上人口× 大労働参加率-構造失業

者-自営業主 注 2: 大労働参加率は年齢別の 1980 年以降の 大

値。35~39 歳および 55 歳以上は過去 高値+1% 出所: 国立社会保障・人口問題研究所、総務省、厚生労働省、SMBC日

興証券予想

‐1.0

‐0.8

‐0.6

‐0.4

‐0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

14/01 14/04 14/07 14/10 15/01 15/04 15/07

医療・福祉 教育・学習支援 建設業

卸・小売業 飲食・宿泊 製造業

その他 調査産業計

(前年比、%、寄与度、ppt)

(年/月)

‐100

‐50

0

50

100

150

13/04

13/07

13/10

14/01

14/04

14/07

14/10

15/01

15/04

15/07

正規非正規雇用の累積増加数

(2013年4月からの累積増加数、万人)

(年/月)5,200

5,300

5,400

5,500

5,600

5,700

5,800

5,900

6,000

6,100

02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

大限利用可能な労働力

実際の雇用者数

(年)

弊社予想

(万人)

遊休労働力

15年10月

130万人

+70万人(うち医療・福祉業

+50万人)

▲58万人

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(3)物価

次に物価であるが、物価上昇で低所得者が困っているという話を聞く。この点、低所得者(所得階層 5

分位の 低階層)の購入物価は低下しており、物価上昇で困っているということはない。これは食料品

価格の上昇以上にエネルギー価格の下落が大きいからだ。

ただ、食料品価格は下落するに越したことはない。幸い、食料品価格は、既に輸入食料品が下落して

おり、今後低下していきそうだ。低所得者の購買力はより高まっていくだろう。

図表3-30: 低所得者の物価(コア CPI)

出所: 総務省、SMBC日興証券

図表3-31: CPI 食料品の先行き

注: 食料品輸入価格は、主要 7 品目の前年比変化率の加重平均値 出所: 総務省、SMBC日興証券推計

‐1.5

‐1.0

‐0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

14 15

食料 エネルギー 衣料品

家具・家事用品 教養娯楽 諸雑費

その他 コアCPI

(年)

(前年比、%、寄与度、ppt)

‐3

‐2

‐1

0

1

2

3

4

‐3

‐2

‐1

0

1

2

3

4

5

6

06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

CPI食料品(除く生鮮食品、左軸)

食料品輸入価格(10ヵ月先行、右軸)

(前年比%) (前年比%)

(年)

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

18 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

実質所得と個人消費の見通し

以上のように家計の所得環境は緩やかに改善している。雇用の伸びが+0.7%程度、賃金が+0.6%程

度、物価(消費デフレータ)は今後、▲0.4%程度となろう。合計すると実質所得は+1.7%程度となる。

実質消費の伸び率は現在前年比+0.7%であるが、今後 2%弱まで高まっていくものと思われる。

図表3-32: 実質所得の見通し

出所: 総務省、内閣府、SMBC日興証券予想

図表3-33: 実質消費の見通し

出所: 総務省、内閣府、SMBC日興証券予想

-6

-5

-4

-3

-2

-1

0

1

2

3

4

5

6

7

8

-4

-3

-2

-1

0

1

2

3

4

5

6

10 11 12 13 14 15 16 17

実質雇用者所得(左軸)

実質民間消費(右軸)弊社予想

(前年比、%) (前年比、%)

消費増税

(年)

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設備投資の見通し

設備投資はリーマン・ショック以降、上方トレンドを持っているが、15 年度前半は弱含んでいる。もし上

方トレンドが維持されているのであれば、再びトレンドに向かって持ち直していくが、どうだろうか。

この点、以下で 2 つの考察を示そう。一つは資本ストックからのアプローチ、もう一つは日銀短観の設

備投資計画からのアプローチである。

図表3-34: 設備投資の推移

出所:内閣府、SMBC日興証券

(1)資本ストックからみた設備投資

資本ストックは、GDP が増えると望ましい資本ストック水準が高まり、望ましい水準と現実ストックとの差

分だけ設備投資が増える。図表 3-35 のように、資本ストックは GDP に従って変化しており、望ましいス

トック水準の高まりによって設備投資の上方トレンドが生まれている。設備投資の増加トレンドは GDP

の増加によって生まれている。

今、GDP が今後 1%増えた場合の設備投資の伸び率を考えよう。GDP と資本ストックの関係が安定し

ていれば、GDP が 1%増えると資本ストックも 1%増える。純資本ストックは約 700 兆円あるから、GDP

が1%増えれば、7兆円の純投資が増える。これは設備投資の10%に相当するから、設備投資は10%

伸びることになる。これを 3 年掛けて行うとすると、年+3%程度の増加が必要となる。

480

580

680

780

880

980

1080

50

55

60

65

70

75

80

85

98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

GDP設備投資

機械受注(半年先行、右軸)

(兆円) (10億円)

(年)

リーマンショック

トレンド

(+3.3%)

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図表3-35: GDP と民間資本ストック

出所:内閣府、SMBC日興証券

(2)日銀短観からみた設備投資

次に、日銀短観から考えてみよう。日銀短観の設備投資計画は極めて強いが、これは過去のパターン

からみれば、今後下方修正されていく。短観計画をこの修正パターンで調整し、さらに GDP ベースに

焼き直すと、2015 年度の GDP 名目設備投資は前年比+3.4%の増加となる。やはり+3%程度の伸びと

なる。

資本ストック、短観いずれも3%成長を示唆する。15年度上期は1.7%成長であったから、下期は4.3%

となってもおかしくない。設備投資は持ち直していくと思われる。

図表3-36: 「短観」設備投資計画の修正パターン 図表3-37: 短観計画を修正パターンで調整した設備投資

出所: 日本銀行、SMBC日興証券 注:設備投資計画の例年の修正パターンにもとづき、全規模全産業の 15年度の設備投資増加率を予想し、半期水準を推定。これを説明変数とし

て、GDP ベースの名目設備投資を予想した 出所: 日本銀行、内閣府、SMBC日興証券推計

‐10

‐8

‐6

‐4

‐2

0

2

4

6

8

97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17

実質純資本ストック

実質GDP(1年先行)

(年)

(前年比、%)

‐4

‐2

0

2

4

6

8

10

12

3月

調査

6月

調査

9月

調査

12月

調査

年度

末調

実績

見込

実績

(前年比、%)

12年度

13年度

10年度

11年度

14年度

15年度(+10.9%)例年のパターン

に沿った動き

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(3)国内回帰の動き

設備投資を支える定性的な要因として、国内回帰の動きがある。既に海外投資が減少傾向にある。具

体的には自動車、電機、化学工業などである。この背景には日本の単位労働コストが大幅に低下して

いることがあるだろう。現在、日本の単位労働コストは中国より 26%低い(図表 3-39)。

日本のコスト低下は円安の影響が大きく、一方、中国のコスト上昇は人件費が毎年 10%以上上昇して

いることと、人民元がドルにソフトペッグしているため、通貨安にならないことがある。

日中の単位労働コストの差は、日本企業の国内回帰が定着すると共に、国内設備投資を後押しするこ

とになろう。

図表3-38: 設備投資: 国内投資 vs. 海外投資

出所: 内閣府、経済産業省、SMBC日興証券

図表3-39: 日中の単位労働コストが逆転

出所: 国際通貨基金(IMF)、国際労働機関(ILO)、中国国家統計局、内閣府、SMBC日興証券

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

40,000

45,000

50,000

55,000

60,000

65,000

70,000

75,000

80,000

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17

(10億円) (10億円)

海外設備投資(右軸)

国内設備投資(左軸)

(年)

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

(ドルベース賃金/労働生産性)

(年)

中国がWTOに加盟

中国

日本

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(6) 金融政策

後に日銀の金融政策を考えよう。

足元の物価の基調

日銀は 10 月末の展望レポートで原油価格の下落から物価見通しを下方修正し、物価目標の達成時

期を 16 年度後半に後退させたが、目標達成は可能として追加緩和を見送った。

原油価格の下落は家計の購買力を高め、需要増が将来的に物価を押し上げるため、物価目標の達

成は可能であるが、それには時間が掛かると日銀が考えたと解釈すれば、日銀の決断はそれなりに理

解できる。しかし、そうであっても 2%達成は困難だろう。

黒田東彦日銀総裁は、常々、物価の基調は着実に改善していると述べている。足元の物価はコア CPI

では▲0.1%、コアコア(食料・エネルギーを除く総合 CPI)で+0.9%、新型コア(エネルギーを除くコア

CPI)で+1.2%である。。コアコアや新型コアは上昇しているが、これは円安効果(食料品、日用品の価

格上昇)によるものであり一時的である。こうしたベース効果は今年度後半から剥落していくだろう。

GDP デフレーターでみるとよりクリアだ。GDP デフレーターは 7~9 月期に前年比+2.1%の上昇となっ

ているが、押し上げ寄与は資源安による交易条件の改善がほとんどで、ホームメードインフレを示す内

需デフレーターは 0%である。物価の基調が強いとは言い難い。

図表3-40: GDP デフレータの推移

出所:内閣府、SMBC日興証券

将来の物価

将来の物価はどうだろうか。将来の物価には賃金や需給ギャップが関係する。

まず賃金ついて、来年の春闘賃上げ率(ベア)を考えると、今年の+0.6%から減速する可能性がある。

通常、春闘賃上げ率は前年のコア CPI との相関が強く、コア CPI がゼロ%程度であれば、伸び率が

抑えられるためだ。今年度のコア CPI 見通し(ESPフォーキャスト調査)は前年比+0.17%であるが、これ

を前提にすると、16 年度のベアは+0.1%となる。

また需給ギャップも弱い。日銀は需給ギャップを 4~6 月期の段階で▲0.73%とみているが、7~9 月期

は GDP のマイナス成長を受け、▲1%程度まで悪化しているだろう。需給ギャップがマイナスであれば、

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物価への押し下げ圧力が働く。筆者の試算では需給ギャップからみた 2%達成時期は 2019 年頃とな

る。

図表3-41: 2016 年春闘賃上げ率の見通し 図表3-42: GDP ギャップからみた物価 2%の達成時期

注: 前提条件:15 年度のコア CPI: 前年比+0.17%、15 年度の経常利益:前年比+10%、16 年の労働需要(製造業雇用):横ばい 出所: 総務省、厚生労働省、経団連、連合、SMBC日興証券予想

出所: 総務省、内閣府、SMBC日興証券

インフレ期待の形成

日銀は人々の期待に働きかけるため、「2 年 2%」の目標を掲げている。このうち「2%」は各国中銀と同

じで平凡であるから期待効果は薄い。一方、「2 年」は極めて強いコミットメントであり、期待醸成の核心

を成している。だからこそ日銀はこれまで「2 年」に拘ってきた。ただ、来年の 2%達成はほぼ不可能と

みられ、いずれ追加緩和が必要となると考える。

エコノミストの中には、追加緩和は円安インフレをもたらし実質賃金を下げるから、やるべきではないと

いう見方がある。しかし、これはおかしい。円安インフレで実質賃金が低下するのは自明であり、それを

懸念するなら日銀は 初から異次元緩和は導入しなかったはずだ。日銀の意図はそのような所にはな

い。日銀はフロー(所得)よりも、ストック(バランスシート)に影響を与えることを考えている。日本には家

計・企業合わせて 1,100 兆円の現・預金があるが、もし 2%のインフレ期待が生まれたら、22 兆円の現・

預金が紙切れになる。人々にとって貯蓄するよりも消費・投資をする方が合理的となり、この資産効果

は実質賃金のマイナス効果を遥かに上回る。異次元緩和の狙いはバランスシート面にあるため、日銀

が実質賃金を気にすると考えるのは本来的におかしい。

追加緩和の可能性

物価目標達成は将来的には可能かもしれないが、少なくとも来年は難しいだろう。いずれ緩和が必要

となり、早ければ 1 月、遅くとも 4 月には決断されるのではないか。

‐2

‐1

0

1

2

3

4

95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16

経常利益 コアCPI

労働需要 定期昇給分

春闘賃上げ率

(前年比、%、寄与度、ppt)

(年)

1 6 年ベア

+ 0 .1%

弊社予想

15年ベア

+0.6%

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新旧アベノミクスと経済対策 4.

シニアエコノミスト 渡辺 浩志

安倍総理は、アベノミクスは第二ステージに入ったとし、「一億総活躍社会」をスローガンに新たな「三

本の矢」を打ち出している。旧アベノミクス三本の矢も並行しており、その中の成長戦略は産業競争力

会議の下、その進捗管理がなされている。

本稿では新旧アベノミクスの関係や、具体策およびその進捗を整理するとともに、これらを主軸に検討

されている補正予算での経済対策についてもみていく。

(1) 旧アベノミクス

旧アベノミクスの進捗

旧アベノミクスは「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」を三本の矢として進められてきた。その中で成長

戦略については、複数の政策の束であり、的も多いため、それぞれの政策に数値目標(KPI)が課され

進捗が測られている。また、3 度にわたり改訂され、その主眼は当初のデフレ脱却のための需要対策

から、人口減少下での供給制約対策へと移行している。現在掲げられているメインテーマは、「生産性

革命」と「ローカルアベノミクスの推進」(地方活性化)となっている。

成長戦略に掲げられた主な施策をみると、例えば訪日外国人旅行者数は目標とされた 2020 年 2,000

万人に対して 2015 年末時点で 95%程度(1,900 万人超)の達成率が見込まれる。また、法人減税の実

施、コーポレートガバナンス・コードの広がり、TPP 合意などで進展がみられる。

一方、待機児童を 2017 年度末にゼロとする目標では達成率は 1 割にも満たない(待機児童数は 2012

年 4 月に 24,825 人だったが、15 年 4 月でも 23,167 人)。もっとも、新たに就業を希望する女性が増加

していることは望ましく、保育の受け皿整備等の更なる加速が必要となっている(新アベノミクスで拡

充)。

以下では、主な成長戦略の現況と経済効果をまとめた。経済効果は、政府が掲げた数値目標が実現

されるとした場合の GDP 増加額である。

主な政策の現況

TPP

TPP 協定(参加 12 か国)は、10 月 5 日、大筋合意に至った。今後は各国政府がこれに署名した後、

各国議会での批准を経て発効する。

米国では大統領が協定に署名する 90 日前までに議会に通知するルールがあるが、11 月 5 日に通

知が行われており、署名は早くて来年 2 月と見込まれる。議会の審議入りはその後となる。TPP は全

ての参加国が国内法の手続きを終えてから 60 日後に発効するが、2 年以内に全ての国が手続きを

終えない場合は GDP 合計の 85%、少なくとも 6 ヵ国が手続きを終えた 60 日後に発効する(逆に言え

ば 1 ヵ国でも手続きが終えられなければ発効を 2 年間待つことになる)。各国とも早期発効を目指す

が、その時期は早くても 2016 年後半であり、2017 年以降になるとの見方もある。

経済効果については諸説ある。政府試算では発効後 10 年目に日本の GDP を 3.2 兆円押し上げる

とするが、これは関税の即時撤廃を前提とする非現実的なものだ。実際には農産品の輸入関税撤廃

が先行する一方、工業製品の輸出関税の引き下げは段階的(たとえば自動車は 25 年かけて撤廃)

であり、当面は農業生産の減少やそれによる国内所得・消費減によるマイナスインパクトが前面に出

ると思われる。また工業製品についてはトラックを除き、もともと内外関税格差が大きくないため、関税

が撤廃されても輸出促進効果は大きくないとみられる。経済効果はほぼゼロと見るのが妥当だろう。

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

25 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

図表4-1: TPP 発効後の関税撤廃スケジュール ~農産品の輸入関税撤廃が先行、主な工業製品の輸出関税は長期で引き下げ

出所: 内閣府、農林水産省、SMBC日興証券

図表4-2: TPP 参加国の平均関税率 ~関税格差が大きく影響が大きそうなのは農産品とトラックくらい

出所: JETRO、SMBC日興証券

◆農産品 ◆工業製品

輸出 輸出

農林水産物の輸出品の関税撤廃率は98.5% 工業製品の輸出品の86.9%の関税が即時撤廃、他は長期で引き下げ

 取扱い例:  取扱い例:

コメ

しょうゆ

みそ トラック

日本酒 ナイロン繊維等

輸入 輸入

農林水産物の輸入品の81%(1885/2320品目)の関税が即時撤廃 工業製品は大半の品目で関税撤廃済み。TPP発効後は100%撤廃

 例外品目の例:  取扱い例:

オレンジ  化学製品

ソーセージ  繊維製品

牛タン  ハンドバッグ

マーガリン 毛皮等

重要5品目輸入の取扱い ※自動車の原産地規制(TPP域内で生産された部品の割合)は55%

日米間では新たに年間7万tの輸入枠設定

 

豚肉

粗糖・精製糖は糖価調整制度維持

加糖調整品(チョコレート菓子等)は低関税輸入枠を設定。当初6.2万t

最大16%の関税が11年目に撤廃

最大14.2%の関税が即時撤廃

1.6~6.5%の関税を即時撤廃

自動車

米国の2.7~13.2%の関税は11年目に撤廃

米国の25%の関税は30年目に撤廃

カナダの6.1%の関税は5年目に撤廃

米国の2.5%の関税は25年目に撤廃

米国の1リットル3セントの関税は即時撤廃

米国の6.4%の関税は5年目に撤廃

米国の3%の関税は5年目に撤廃

米国の1キロ1.4セントの関税は5年目に撤廃

バターと脱脂粉乳に新規輸入枠。生乳換算で年6万t、6年目以降7万t

国が一括輸入する国家貿易は維持

482円/kgの関税を発効時に125円、5年目70円、10年目以降50円

輸入量急増の場合に税率を38.5%に戻すセーフガード導入へ

最大30%の関税が16年目に撤廃

砂糖

29.8%の関税を6年目に撤廃

12.8%の関税を11年目に撤廃

10%の関税を6年目に撤廃

最大32%の関税を8年目に撤廃

38.5%の関税を発効時に27.5%、10年目20%、16年目以降9%

小麦輸入枠を設け段階的に25.3万tに。大麦は6.5万tに

枠外税率を9年目までに45%削減

国が一括輸入する国家貿易は維持

日豪間では年間8400tの新規輸入枠設定

国が一括輸入する国家貿易は維持、枠外税率(マークアップ)維持

乳製品

牛肉

コメ

チーズは16年目に撤廃。一部チーズは関税維持

単位:%

シンガポール ブルネイ NZ チリ 豪州 ペルー ベトナム マレーシア カナダ メキシコ 米国 日本

0.2 2.5 2.0 6.0 2.7 3.7 9.5 6.5 4.3 7.8 3.4 4.6

農産品 1.4 0.1 1.4 6.0 1.2 4.1 16.1 11.2 16.2 21.2 4 .7 16 .6

0.0 2.9 2.2 6.0 2.9 3.6 8.4 5.8 2.4 5.8 3.2 2.6

電気機器 0.0 13.9 2.6 6.0 2.9 2.1 8.1 4.3 1.1 3.8 1.7 0.1

テレビ 0.0 5.0 0.0 6.0 0-5 6.0 0-35 0-30 0-6 0-15 0-5 0.0

輸送機器 0.0 3.8 3.2 5.5 3.3 1.0 18.2 11.4 5.9 8.7 3.1 0.0

乗用車 0.0 0.0 0-10 6.0 5.0 6.0 15-74 0-35 0-6.1 15-50 2.5 0.0

トラック 0.0 0.0 0-5 6.0 0-5 0.0 0-68 0-30 0-6.1 0-50 0-25 0 .0

非電気機器 0.0 7.3 3.0 6.0 2.9 0.6 3.2 3.5 0.5 3.0 1.2 0.0

化学品 0.0 0.5 0.8 6.0 1.8 2.0 3.1 2.8 0.9 2.5 2.8 2.2

繊維製品 0.0 0.8 1.9 6.0 4.3 9.6 9.6 9.0 3.3 9.8 7.9 5.4

鉱工業品(非農産品)

商品別

TPP参加国

単純平均 恵国待遇関税率

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

26 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

コーポレートガバナンス・コード

政府は今年 8 月に「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ

会議」を創設した。そこでは、コーポレートガバナンス・コードを、企業が株主やステークホルダー(従

業員、債権者、顧客等)への責任を果たす行動原則とし、スチュワードシップ・コードを機関投資家の

行動原則と定義し、これらを車の両輪として企業の持続的成長を推進して行くとしている。

コーポレートガバナンス・コードでは、肝となるのは、①ROE 目標の開示、②社外取締役の設置・権

限強化、③株式持ち合い解消である。その主眼は不祥事防止ではなく、収益力や資本効率の向上

など攻めのガバナンスで企業価値を高めることに置かれており、外国人投資家も高い関心を寄せて

いる。

今年 6 月から適用が開始された。対象は東証 1・2 部上場企業(JASDAQ とマザーズ上場の企業にも

一部適用)の 2,000 社超。独立社外取締役を選任する上場企業の割合は 2013 年の 47%から 15 年

に 87%となった。企業は増配や自社株買いなどの株主還元によって資本効率を高める姿勢を強め

てきており、上場企業の ROE は 12 年末の 5.8%から 15 年 5 月には 8.5%まで高まっている。

スチュワードシップ・コードについても、本年 8 月末時点で受け入れ表明をした機関投資家数は 197

に上る(2014 年 6 月は 127)。機関投資家が取るべき行動について、基本方針を定め、投資先企業と

の建設的な対話を促す。金融庁はコードの受け入れを表明した「機関投資家リスト」を公表(3 ヵ月ご

とに更新)してコード受け入れを促していく。

法人減税

2015 年度から法人実効税率が 2.51%引き下げられ 32.11%となった。また 16 年度はさらに 2.14%引

き下げられ、29.97%とすることが決まった。政府は後述の「新アベノミクス」実現のため 17 年度以降に

20%台まで引き下げるとしていた目標を前倒しした。

ただし、法人実効税率の引き下げによって、15 年度は 1.2 兆円、16 年度 1 兆円程度の法人税収が

減少する見込みである(国・地方合計、弊社推定)。財政再建を進めるなか、減税に見合った財源を

確保する「税収中立」が強く求められており、政府は外形標準課税の拡大(中小企業を除く)や設備

投資減税の縮小、減価償却制度の見直しを決めたほか、赤字を繰り越して納税額を減らせる繰越欠

損金制度の縮小等で手当てする見込み。なお、財源確保が追い付かない場合も、「多年度税制中

立」の考え方により、先行減税を行うと思われる。

政府は成長戦略の加速のため、法人減税とセットでコーポレートガバナンス・コードや官民対話を進

め、企業に設備投資や賃上げなどのキャッシュアウトを促す構え。

カジノ

カジノ解禁のための IR 推進法案は、2014 年臨時国会で廃案となった後、2015 年通常国会に再提出

されたが、法案成立には与党内でも根強い抵抗があり、断念。カジノ解禁を目指す超党派議員連盟

は 16 年国会以降で早期成立を目指す考えだが、一部議員からは来年夏の参院選後まで先送りされ

るとの見方も出ている。

与党内の理解を得るためには治安対策やギャンブル依存症対策、青少年対策などの充実や具体化

が先決であり、議連は来年度予算案にギャンブル依存症対策の研究費を計上するよう政府に求める

方針。なお、IR 推進法が成立すれば、その後 1 年以内に内閣が IR 実施法案を提出する。これが成

立すれば、地区指定やオペレーターの選定、施設建設となる。2020 年の開業を目指す。

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2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

27 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

国家戦略特区

国家戦略特区は、民間・地方・国が一体で取り組むべき事業を推進するため、「国主導で規制改革

を実現する場」との位置づけ。民間活動の障害となっている「岩盤規制」全般について、国家戦略特

区を活用して突破口を開くことを狙いとしている。

第一次指定(14 年 5 月)では、東京圏(国際ビジネス推進)、関西圏(医療イノベーション) 、新潟県

新潟市 ・兵庫県養父市(農業改革) 、福岡県福岡市(雇用改革) 、沖縄県(国際観光拠点)の 6 地

域を指定。今年 8 月には第二次指定として、「地方創生特区」の名目で秋田県仙北市、宮城県仙台

市、愛知県が新たに指定された。本年内にも、国家戦略特区の第三弾を決定する予定。

区域計画の認定も進んでおり、直近では 10 月に新たに 14 事業が認定された。これにより、当初 5 事

業からスタートした認定計画は、足元で 109 事業に上る。もっとも、法人減税(福岡市)など、重要な

案件で未だ認定に至っていないものも多い。今後は、こうした改革にどこまで踏み込めるかが注目さ

れる。

図表4-3: 国家戦略特区と主な規制緩和内容

出所: 首相官邸、内閣府地方創生推進室、SMBC日興証券

成長戦略の経済効果

図表 4-4、4-5 は、主な成長戦略のこれまでの成果と期待される経済効果のまとめである。

成長戦略による2020 年度のGDP 押し上げ効果は8.9兆円、13 年から20 年までの効果累計は38.3

兆円に上る公算。特にインパクトが大きいのは、観光振興(効果累計は 8.0 兆円)、法人減税(7.3 兆

円)、インフラ輸出(6.5 兆円)、女性の活躍(6.3 兆円)、混合診療(4.4 兆円)、である。

もっとも、成長戦略の目的は短期的な成長率の押し上げではなく、日本経済の生産性を引き上げ、潜

在成長率を向上させることにある。この点で、成長戦略は次節で述べる「新アベノミクス」においても有

力な政策と位置付けられる。

地域 コンセプト

容積率緩和 国際ビジネス拠点となる交流施設、ホールなどの建設促進

医療 先端医療や外国人向け医療の提供、外国医師の受入れ

雇用 グローバル企業やベンチャー企業を支援する「雇用労働相談センター」の設置

創業支援 創業外国人の受入れ促進、起業手続きの簡素化

保険外診療 再生医療などの高度な医療の提供

病院増設 革新的な医薬品・医療機器の開発

歴史的建築物の活用 古民家等を活用した宿泊施設の提供

雇用 雇用条件の整備を通じてグローバル企業・ベンチャー企業の設立促進

新潟市 大規模農業の改革 農業生産法人 農業生産法人の要件緩和、信用保証制度の導入、市町村が農地集約、6次産業化推進

兵庫県養父市 中山間地農業の改革 農業委員会 自治体が主導権をとり、中山間地に分散する耕作放棄地の再生

雇用 雇用条件の明確化を通じてベンチャー企業支援

創業支援 創業外国人の受入れ促進

沖縄県 国際観光拠点 エリアマネジメント 那覇市国際通りなどにイベントブースを設置し、観光客の利便性向上と賑わい創出を図る

国有林野の活用 国有林野の貸付け対象者の拡大、農業生産法人の設立支援

農業生産法人 農業生産法人による高機能農作物の生産・加工

地域限定保育士 地域限定保育士試験の実施

NPO NPO法人の設立認証の迅速化

農業委員会 自治体主導で農地集約、地元農産物を活用する「農家レストラン」の設置

民間委託 有料道路の管理を民間事業者に委託

「産業の担い手育成」のための改革

愛知県

宮城県仙台市

秋田県仙北市

主な規制緩和と内容

医療イノベーション大阪府兵庫県京都府

創業のための雇用改革

福岡市

東京都神奈川県千葉県成田市

国際ビジネス推進

「農林・医療の交流」のための改革

「女性活躍・社会企業」のための改革

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28 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

図表4-4: 成長戦略の GDP 押し上げ額

注: 図は高さが各年の GDP 押し上げ効果、面積が効果累計を表す。出所: 首相官邸、SMBC日興証券推計

図表4-5: 成長戦略の主な施策と進捗

注: 混合診療のゴールは弊社で設定。医療費/GDP 比を 30 年度までに 0.7ppt 引き上げ。14 年度の進捗率は 14 年度の経済効果の 20 年度対比

出所: 首相官邸、SMBC日興証券推計

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020

農業改革

医療改革

インフラ輸出

電力改革

女性の活躍

TPP

訪日観光振興

設備投資促進

法人減税

(年度)

(兆円)

13~20年度の

効果累計38.3兆円

20年度の効果

8.9兆円

効果累計

2014年度 2020年度 13~20年度

設備投資促進 1兆円規模の設備投資減税の実施(14年の利用実績は約12万件) 15年度の設備投資70兆円 59% 0.1兆円 0.2兆円 0.6兆円

14年4月に法人実効税率を2.4%引き下げ(復興特別法人税1年前倒し廃止)

15年4月から法人税率を2.51%引き下げ(34.62%→32.11%)

ビジネス特区 容積率の緩和、都市計画に関する特例、開業ワンストップ窓口設置(東京圏) 10% - - -

スチュワードシップコード GPIFを含む計191の機関投資家が受け入れ、投資先の経営監視を強化 10% - - -

社外取締役導入促進 14年6月法律成立。独立社外取締役を選任する上場企業が増加(47%→87%) 10% - - -

コーポレートガバナンスコード 15年6月から上場企業2,000社超に適用 5% - - -

NISA825万口座開設、総額2.98兆円買付(14年12月時点)。16年は年間枠120万円若年層向けジュニアNISAを創設

20年度までに1,500万口座 50% - - -

GPIF改革 14年10月に基本ポートフォリオ見直し債券:国内35%、外国15%株式:国内25%、外国25%

40% - - -

TPP 参加12か国が協定に合意。各国政府の署名、議会の批准を経て発効へ 0% 0.0兆円 0.2兆円 0.5兆円

トップセールス・インフラ輸出 インフラ受注額10年10兆円→13年16兆円に拡大 20年度に30兆円の受注 18% 1.2兆円 1.2兆円 6.5兆円

ASEAN諸国中心に13ヵ国でビザ発給要件緩和

羽田国際線3万回増枠(14年3月に6万回→9万回)

15年4月に商店街等に「免税手続きカウンター」設置、免税店が1万9千店に増加

カジノ解禁法案を再提出(14年臨時国会で廃案)

観光特区 沖縄県で入管手続き迅速化、ビザ要件の緩和を先導 10% - - -

待機児童対策 13・14年度の保育拡大量は21.9万人17年度末までに保育受け皿50万人分

45% 0.4兆円 0.8兆円 4.5兆円

待機学童対策 14年8月策定19年度末までに学童保育受け皿30万人分

0% 0.0兆円 0.5兆円 1.8兆円

配偶者控除廃止 見送り 控除廃止 0% - - -

女性活躍・社会起業特区 女性・若者・シニアの企業推進のための開業手続き迅速化など(宮城県仙台市) 5% - - -

高度プロフェッショナル制度裁量労働制の対象業務拡大(16年4月から適用)時間ではなく成果で評価される制度の創設(16年4月から適用)

10% - - -

長時間労働是正 中小企業の月60時間超の時間外労働の割増賃金引上げ(19年4月適用) 25%→50% 0% - - -

雇用特区 雇用労働相談センターの設置(福岡県福岡市) 10% - - -

小売参入・小売料金自由化電力小売り参入の全面自由化(14年6月法律成立、16年4月実施予定)小売市場の参入企業数は政権交代後2.5倍に増加

全面自由化

発送電分離 15年通常国会に法案提出、20年4月までに実施 法的分離

農産品輸出倍増 14年は前年比11.1%増の6,117億円(過去最高)、15年1~7月期は前年比24.8% 19年度に1兆円 22% 0.1兆円 0.5兆円 2.2兆円

農協改革 農水省がJA全中の監査・指導権を廃止 10% - - -

農業特区 農業委員会・農業生産法人規制緩和(新潟県新潟市、兵庫県養父市) 10% - - -

日本版NIH設置 14年5月法律成立 5% - - -

混合診療の拡大 患者申出療養の創設、審査期間の短縮(6ヵ月→6週間程度)30年度までに医療費/GDPを欧州先進国並みに(注)

0% 0.0兆円 1.3兆円 4.4兆円

医療特区 外国医師・看護師の業務解禁、病床規制緩和(関西圏) 10% - - -

24% 2.2兆円 8.9兆円 38.3兆円

7.3兆円

1.0兆円0.0兆円 2.7兆円0%

合計

電力改革

医療改革

法人税率を20%台に

テーマ

法人減税

国際展開・観光 観光活性化 1.5兆円0.3兆円23%30年度に訪日外客3千万人

農業改革

ゴール成果主な施策GDP押し上げ効果14年度

時点の進捗率

民間投資の活性化

企業統治

貯蓄から投資へ

1.8兆円0.0兆円15%

女性の活躍

雇用改革

8.0兆円

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(2) 新アベノミクス

名目 GDP600 兆円達成が中心的施策

安倍総理は、アベノミクスは第二ステージに入ったとし、「一億総活躍社会」をスローガンに新たな「三

本の矢」を打ち出している。

図表4-6: 新三本の矢

出所: 首相官邸、SMBC日興証券

その中心的施策は「希望を生み出す強い経済: 名目 GDP600 兆円の達成」であり、旧アベノミクスの

成長戦略も、この取り組みに吸収されるとみられる。また、新アベノミクス第二、第三の矢についてもそ

の多くの部分は、労働供給増とそれによる潜在需要の実現などを通じて GDP600 兆円の達成に繋がる

ものである。

足元ではこの具体策が、「経済財政諮問会議」「産業競争力会議」「一億総活躍国民会議」「明日の日

本を支える観光ビジョン構想会議」等の場で検討されている。

経済諮問会議は 2020 年頃の目標達成のため、3%の名目成長率が必要とし、潜在成長率引き上げに

よって実質成長率を 2%に引き上げ、賃金上昇を促すなどのデフレ脱却の取り組みで物価上昇率を

1%とすることが必要としている。これにより、14 年度に 491 兆円だった名目 GDP が 2020 年度頃まで

に実質成長で 60 兆円、物価上昇で 50 兆円積み増されるとの試算を示した。

潜在成長率引き上げのための施策として、「生産性向上」と「労働供給増」を促す。

(1)生産性向上・・・生産性向上のために資本ストックの強化が図られるが、具体的には省力化、省エ

ネ化、環境対応に向けて IoT 化・ロボット化・人工知能化に重点が置かれる。ただ、生産性は政府が主

導しなくても勝手に高まってくだろう。民間企業は利益を追求するから、儲かるために自ら進んで省力

化や IT 化を行う。しかし、マクロ的にインフレが昂進する環境となれば、償却不足が生じて設備投資が

滞り、生産性が低下してくる。80 年代前半の米国は正にそのような状態だった。当時のレーガン大統

領はレーガノミクスというサプライサイド政策を打ち出し、投資減税によって見事に設備投資を促進し、

生産性の向上に繋げた。このように、供給サイド政策が効くのはインフレ時であるが、今の日本はイン

フレではない。したがって政府の関与はあまり効かないが、政府が手助けしなくても、企業は状況に合

わせて 適な行動を取るため、生産性は勝手に上昇していく。

第一の矢希望を生み出す強い経済

(名目GDP600兆円達成)

第二の矢 夢をつむぐ子育て支援

第三の矢 安心につながる社会保障

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(2)労働供給の拡大・・・労働問題は政策の余地が大きい。具体的には、①配偶者控除・手当の見直

しなどで正社員化を促進、②介護・保育の施設拡充、③介護・保育の人材育成、④規制緩和による外

国人材や高齢者の活用等が検討されている。

特に重要なのは、①配偶者控除・手当の見直しだろう。配偶者控除を廃止を含めて見直せば、主婦が

パートで働くインセンティブが低下し、フルタイム労働を促進する効果がある。

介護・保育についてはこれまでの成長戦略でも取り組まれてきたが、依然不足感が強い。政府は 17 年

度末までに保育の受け皿 40 万人分を目指し、これまでに約 22 万人分を確保したが、待機児童数はほ

とんど減少していない。今回は目標を 50 万人分確保に改め、加速させる見込み。介護については 20

年までに 34 万人分の受け皿を確保するとしてきたが、介護離職ゼロを目指し 50 万人へ改める。

図表4-7: GDP600 兆円の達成の具体化(2014 年度 491 兆円→2020 年度頃 600 兆円)

出所:経済財政諮問会議、産業競争力会議、一億総活躍国民会議、明日の日本を支える観光ビジョン構想会議、SMBC日興証券

3%の名目成長率110兆円の名目GDP増

目標 具体策

法人税減税(16年度に20%台(29.97%)達成)

コーポレートガバナンスの強化

省力化・省エネ化(特に中小企業)・環境対応、サービス業の活性化

 ・IoT化・ロボット化・人工知能化(自動走行、ドローン、モノ作りの規制改革等)

 ・ビッグデータ活用促進(データの流通、活用ルール等環境整備)

 ・モバイル通信市場の競争促進(通信コスト引き下げ等)

女性等の就労継続・復職支援

 ・介護・保育施設拡充(企業内保育所、小規模保育含む)、介護士・保育士育成

 ・保育受け皿50万人、介護受け皿50万人の確保

 ・介護人材育成基金の積み増し、介護の公的資格試験を年2回以上に

 ・場所・時間等、多様な働き方(公平な処遇確保)

正社員化促進(配偶者控除・手当見直し等)

高齢者の就労インセンティブ(在職老齢年金、雇用保険の見直し等)

外国人材の積極活用(ビザ緩和、留学生の国内就職支援)

子育て・介護等の潜在需要の実現

 ・上記のような就労支援策

 ・介護・保育施設への国有地の安価貸付け

 ・3世代同居促進の住宅補助事業

省エネ住宅や次世代自動車の取得負担軽減

法人税減税、企業のキャッシュアウト推進

家計所得増

 ・収益状況に見合った賃上げ促進(政労使合意順守)

 ・最低賃金引上げ(年3%を目途に全国平均が1,000円になることを目指す)

 ・低年金受給者への支援

訪日外客4,000万人目標

 ・宿泊設備増強、交通アクセス整備、広域観光周遊ルートの開発

 ・空港容量拡大、CIQ(税関・入管・検疫)の増強

 ・安全・安心確保(医療機関の情報提供、観光防災Wifi整備等)

ローカルアベノミクス(地域の付加価値創造力強化)

・インフラ整備等でインバウンド需要拡大

 ・TPPに向け特産品の輸出促進

インフラ整備資金として官民ファンド、PPP、PFI活用促進(支援基準緩和等)

国土強靭化の推進(事前防災)

交易条件の改善 (原油安等)

+50兆円弱

デフレ脱却と交易条件改善で

物価上昇率1%

需要増(名目GDPで110兆円)

労働供給増

+60兆円超

潜在成長率引き上げで

実質成長率2%

資本増強生産性向上

「地方版総合戦略」の実施

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補正予算・経済対策

現在検討中の 15 年度補正予算は「一億総活躍社会」の推進費など成長戦略投資が中心となる。あわ

せて TPP 対策が盛り込まれる予定。規模は 3 兆円台との報道がある。現在、先月末にまとめられた「一

億総活躍社会」の緊急対策と TPP 対策大綱を踏まえ詰めの作業が行われている。

具体策(弊社予想)は図表 4-8 の通り。補正予算総額 3.3 兆円程度、うち真水は 2.2 兆円程度と予想さ

れ、GDP の押し上げ効果は 0.4%程度と見込まれる。業種別では TPP 関連で「農機」、防災・インフラ

投資関連で「建設、セメント」にメリットが期待できる。

なお、補正予算の財源には 14 年度予算の使い残し(1.58 兆円)や今年度の税収上振れ(約 1.9 兆円)

を充て、追加の国債発行はしない見込み。編成のスケジュールは過去 3 年と同様に年内に閣議決定

され、来年 1 月の通常国会提出が想定される。

図表4-8: 15 年度補正予算と経済対策の内容の予想

出所: 各種報道、SMBC日興証券

予算規模

(億円)

子育て支援 ・17年末までにミニ保育園等による保育受け皿40万人分確保を50万人分に拡大、保育士確保 1,300

・特別養護老人ホーム等の整備を促すため、介護施設の建設に使える「地域医療介護総合確保基金」を積み増す

・首都圏の国有地約90カ所を介護施設事業者に安く貸し出す

・特別養護老人ホームや訪問介護等の施設拡充で、介護の受け皿を20年初頭に50万人分確保、介護人材確保

給付金 ・年金受給者向けに給付金(1人当たり30,000円×約1,100万人) 3,400

少子高齢化対策 ・公立学校施設、私学助成 800

雇用対策費 ・職安の設備整備、雇用創出企業への助成金 1,000

・3世代同居のための玄関やキッチンの増築を支援

・一定の地域内で3世代が都市再生機構(UR)の賃貸住宅を借りる場合、適用する家賃割引の増額

投資減税 ・生産性1%向上の設備投資に対して1/3を補助 2,000

中小企業対策費 ・中小企業総合事業団への出資金、政府系金融公庫への出資金 1,000

省エネ対策 ・省エネシステム導入補助金 900

創業・新事業開拓支援 ・産学官連携研究開発促進 1,000

地方創生 ・最大1000億円の交付金 1,000

事前防災 ・鬼怒川の反乱を教訓に河川整備などの災害対策に重点を置く 4,050

インフラ整備 ・道路整備、空港、港湾における物流拠点強化、三大都市圏環状道路整備、下水道処理施設整備 7,000

・営農規模の拡大や畜産の繁殖技術の改良

・農地や水路を整備する土地改良事業

・高性能農業機械を導入する農家を支援

・家畜の飼育施設の整備などへの補助事業

・備蓄米の買い入れ量を増やすことや畜産農家への所得補填

・農産品の輸出戦略強化として、海外市場に適した商品開発・需要開拓・輸出を進める農家への支援

・農地を集約して若手農家や企業などに貸し出す農地中間管理機構(農地バンク)の活用策

グローバル・ハブ ・観光インフラ整備、通関迅速化、職員増員 2,000

その他 ・事務的経費等 2,950

合計 33,000

(真水) 22,385

1,400

200

3,000

政策 内容

介護離職ゼロ

住宅補助

TPP発効に備えた農業対策費

「一億総活躍社会」関連

「TPP対策」関連

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補 足

【アナリストによる証明】

SMBC日興証券株式会社(以下「弊社」といいます)が発行する本調査レポートの表紙に記載されたアナリストは、本調査レポートの作成および

内容に関して主な責任を負います。当該アナリストは、本調査レポートで表明されている見解が調査対象会社やその証券に対するアナリスト個

人の見解を正確に反映していることをここに証明します。また、当該アナリストは、過去、現在、将来にわたり、本調査レポートで特定の見解を表

明することに対して直接的または間接的に報酬を一切受領していないこと、また、受領する予定もないことをここに証明します。

【重要な開示情報】

目標株価は、弊社のアナリストが今後6~12ヵ月の期間に達すると予想している株価水準です。 各銘柄には当該会社を含むアナリストまたはそのチームがカバーする業種における相対的な投資評価が付されています。 投資評価の定義は、以下の通りで、対象期間は今後6~12ヵ月です。

1(アウトパフォーム):弊社のアナリストが予想する個別銘柄の投資リターンが、担当業種のカバレッジ・ユニバースの投資リターンの中

央値を上回ると判断する場合。 2(中立):弊社のアナリストが予想する個別銘柄の投資リターンが、担当業種のカバレッジ・ユニバースの投資リターンの中央値と同程度

と判断する場合。 3(アンダーパフォーム):弊社のアナリストが予想する個別銘柄の投資リターンが、担当業種のカバレッジ・ユニバースの投資リターンの

中央値を下回ると判断する場合。 NR:投資評価を実施しない場合。 RS:一時的に投資評価を停止する場合。

また、本調査レポートの業種分類において、中小型株・成長株に分類された銘柄の投資評価の定義は、以下の通りで、対象期間は今後6~12 ヵ

月です。市場平均は東証株価指数(TOPIX)を基準としています。

A(アウトパフォーム):弊社のアナリストが予想する個別銘柄の投資リターンが、市場平均を上回ると判断する場合。 B(中立):弊社のアナリストが予想する個別銘柄の投資リターンが、市場平均と同程度と判断する場合。 C(アンダーパフォーム):弊社のアナリストが予想する個別銘柄の投資リターンが、市場平均を下回ると判断する場合。 NR:投資評価を実施しない場合。 RS:一時的に投資評価を停止する場合。

業種格付けの定義は、以下の通りで、対象期間は今後6~12ヵ月です。日本については市場平均は東証株価指数(TOPIX)を基準としています。

強気:弊社のアナリストが予想する担当業種のカバレッジ・ユニバースの投資リターンが、市場平均を上回ると判断する場合。 中立:弊社のアナリストが予想する担当業種のカバレッジ・ユニバースの投資リターンが、市場平均と同程度と判断する場合。 弱気:弊社のアナリストが予想する担当業種のカバレッジ・ユニバースの投資リターンが、市場平均を下回ると判断する場合。

【投資評価の分布】

1 / A / Buy 2 / B / Hold

3 / C / Sell その他

(1)全調査対象銘柄 34% 55% 9% 2%

(2)投資銀行部門の顧客 32% 29% 40% 70%

※弊社の投資評価である1(アウトパフォーム)、2(中立)、3(アンダーパフォーム)およびA(アウトパフォーム)、B(中立)、C(アンダーパフォー

ム)は、FINRAの開示規制に基づくBuy、Hold、Sellにそれぞれ相当するものとして分類しています。ただし、弊社の投資評価(中小型株・成長株

を除く)は、上記で定義されているとおり、当該会社を含むアナリストまたはそのチームがカバーする業種における相対的な投資評価です。また

中小型株・成長株はTOPIXを基準とした評価です。FINRA規制上のBuy、Hold、Sellと同一ではありません。 アナリストの報酬は、投資銀行業務収益を含む弊社全体の収益に基づき支払われています。 株価チャートと投資評価の推移については以下のリンクをご覧ください。 https://researchdirect.smbcnikko.co.jp/disclosure/disclosure.php その他の重要な開示情報については、以下の宛先、またはお取引部店までお問い合わせください。 〒100-6519 東京都千代田区丸の内1-5-1 SMBC日興証券株式会社 株式調査部 テクニカルレポートにおける個別会社の評価及び株価予想は、過去の株価パフォーマンスやポジション分析などテクニカル分析の手法に基づく

もので、当該会社のファンダメンタルズ分析に基づくものではありません。したがって、テクニカル分析に基づく個別会社の評価及び株価予想は、

当該会社の調査を担当する弊社のセクターアナリストがファンダメンタルズ分析に基づいて行う評価ならびに同分析から算出する目標株価とは

一致しない場合があります。

弊社がカバレッジしている全銘柄の投資評価の分布状況は(1)の通り、また、投資評価ごとに弊社、SI社およびその関連会社等が投資銀行業務を

過去12ヵ月以内に提供した会社の分布状況は(2)の通りです。(2015年12月07日現在)

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【免責事項】

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頼できると判断した情報源から入手した情報に基づいて作成していますが、これらの情報が完全、正確であるとの保証はいたしかねます。情報

が不完全または要約されている場合もあります。本調査レポートに記載する価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であ

り、実際とは異なる場合があります。かかる価格、数値等は予告なしに変更することがありますので、予めご了承くださいますようお願いいたしま

す。本調査レポートは将来の結果をお約束するものでもありませんし、本調査レポートにある情報をいかなる目的で使用される場合におきまして

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の判断でなさるようお願いいたします。弊社及び弊社の関連会社のリサーチ部門以外の部門が本調査レポートで推奨されている投資や見解と

整合しない又は矛盾するコメントを顧客又は自己勘定部門に対して行う場合があります。弊社及び弊社の関連会社はかかるコメントを参考に投

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る日本国内の金融商品取引所に上場する株式等(売買単位未満株式を除く。)の場合は約定代金に対して 大1.242%(ただし、 低手数料

5,400円)の委託手数料をお支払いいただきます。債券、株式等を募集、売出し等又は相対取引により購入する場合は、購入対価のみをお支払

いいただきます(債券の場合、購入対価に別途、経過利息をお支払いいただく場合があります。)。また、外貨建ての商品の場合、円貨と外貨を

交換、又は異なる外貨間での交換をする際には外国為替市場の動向に応じて弊社が決定した為替レートによるものとします。上記手数料等のう

ち、消費税が課せられるものについては、消費税分を含む料率又は金額を記載しております。

[リスク等について]

各商品等には株式相場、金利水準、為替相場、不動産相場、商品相場等の価格の変動等および有価証券の発行者等の信用状況(財務・経営状

況を含む)の悪化等それらに関する外部評価の変化等を直接の原因として損失が生ずるおそれ(元本欠損リスク)、または元本を超過する損失

を生ずるおそれ(元本超過損リスク)があります。なお、信用取引またはデリバディブ取引等(以下「デリバディブ取引等」といいます)を行う場合

は、デリバティブ取引等の額が当該デリバティブ取引等についてお客様の差入れた委託保証金または証拠金の額(以下「委託保証金等の額」と

いいます)を上回る場合があるとともに、対象となる有価証券の価格または指標等の変動により損失の額がお客様の差入れた委託保証金等を

上回るおそれ(元本超過損リスク)があります。また、店頭デリバティブ取引については、弊社が表示する金融商品の売付けの価格と買付けの価

格に差がある場合があります。資産担保証券については、利金、配当または償還金等の額が、一定の資産の状況の変化によって影響を受ける

場合があります。これによって、中途売却、償還時点において、損失を被ることがあります。 上記の手数料等およびリスク等は商品毎に異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面や目論見書又はお客様向け資料等をよくお読み

ください。なお、目論見書等のお問い合わせは弊社各部店までお願いいたします。

[弊社の商号等]

SMBC日興証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第2251号

[弊社の加入協会]

日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会

国別・地域別の開示事項

日本国外へのレポート配布先は機関投資家のみとされています。機関投資家の定義は国により異なります。本調査レポートまたは本調査レポー

トに含まれる情報のいずれも、有価証券の取得、売却、募集の申込み、引受けに関する取引契約の締結またはその申込みの勧誘を目的とした

ものではありません。 [米国] 本調査レポートはFINRAに登録されているSMBC Nikko Securities America, Inc.(以下「SI社」といいます)の米国外関連会社である弊社

のアナリストが作成したものです。本調査レポートの作成に部分的、全体的に関わったアナリストは米国を拠点としておらず、FINRAには登録し

ていません。本調査レポートを作成した米国外アナリストは会員会社に所属しないため、NASD Rule 2711の対象会社とのコミュニケーション、

パブリックアピアランス、アナリスト本人の売買口座の規制に該当しない場合があります。本調査レポートは米国における機関投資家向けにの

み配信を想定しています。本調査レポートを受領した投資家は当該レポートを第三者に転送、譲渡しないことに合意したものとみなされます。本

調査レポートで言及された有価証券に関する取引を希望される米国投資家はSI社までお問い合わせください。

Page 34: (改訂版)マクロ経済見通しAllPart 20151208 ncfd …...設備投資はリーマン・ショック以降、上方トレンドを持っているが、これは基本的に需要(GDP)の増加に起因し

2015 年 12 月 8 日 Report /日本 /マクロ経済

34 / 34 マクロ経済見通し(季刊) SMBC日興証券株式会社

[カナダ] 本調査レポートは証券の売買を勧誘するものではありません。本調査レポートは証券の一般的な利点とリスクについて記載しているの

みで、特定のお客様の要望や状況に合わせたものではありません。本調査レポートは特定の有価証券、サービス、商品の購入を推奨するもの

ではないことをご承知ください。 [香港] 本調査レポートはSMBC Nikko Securities (Hong Kong) Limitedにより配布されます。香港では、本調査レポートはSecurities and Futures Ordinance及びその下位立法に定める専門投資家に対してのみ配布しています。 [中国] 本調査レポートは、Chinese Securities and Regulatory Commissionの免許や承認を受けて配布されるものではありません。本調査レポ

ートは、中華人民共和国在住の投資家に直接、間接を問わず配布されることを目的としていません。ただし、適用法・規則に従い、一定の中華人

民共和国在住の投資家には、要望により本調査レポートを送付いたします。中国の投資家が対外投資を行う際には、中国の外国為替関連規制

における届出・認可手続きと対外投資に関する認可手続きの対象となる場合があります。 [台湾] 台湾以外からの本調査レポートの配布は台湾当局の認可・承認を得たものではありません。 [シンガポール] 本調査レポートはSMBC Nikko Securities (Singapore) Pte. Ltd.(以下「NKSG社」といいます)によって、Financial Advisers Act, Cap.110において定義される機関投資家、適格投資家、専門投資家に対してのみ配布されるものです。本調査レポートまたは本調査レポートに

含まれる情報のいずれも、有価証券の取得、売却、募集の申込み、引受けに関する取引契約の締結またはその申込みの勧誘を目的としたもの

ではありません。本調査レポートを受領したお客様は自身が機関投資家、適格投資家、専門投資家であることおよび前述の制限事項に拘束され

ることに同意したことになります。本調査レポートに起因する事項及び本調査レポートの情報に関するお問合せはNKSG社までお願いします。 [EU、中東およびアフリカ] 本調査レポートや第三者から提供された付属資料は、SMBC Nikko Capital Markets Limited(以下「CM社」といいま

す)がEU、中東およびアフリカ内で配布します。執筆時点の筆者の見解が含まれますが、CM社の見解とは必ずしも一致しません。CM社は、本

調査レポート内で言及された有価証券を保有している可能性がありますが、その場合でも当該有価証券の保有を継続することを表明するもので

はありません。SMBC Nikko Capital Markets Limited (所在地:One New Change, London EC4M 9AF, 電話番号: +44 (0)20 3527 7000、イ

ングランドにおいて登録済み(No.02418137))は、金融行動監視機構(Financial Conduct Authority、所在地:25 The North Colonnade, Canary Wharf, London E14 5HS)の認可を受け、監督下にあります。弊社の利益相反ポリシーについては以下のリンクをご参照ください。 https://researchdirect.smbcnikko.co.jp/pdf/coidisclosure.pdf アラブ首長国連邦:本調査レポートは、アラブ首長国連邦(the Dubai International Financial Centreを含む)における有価証券や金融商品の発行

や販売あるいは取得の申込みの勧誘を構成するものではなく、そのようなものとして解釈されてはなりません。加えて、本調査レポートにかかる

法人や有価証券がthe UAE Central Bank、Emirates Securities and Commodities Authority、Dubai Financial Services AuthorityまたはUAEの

他の認可当局や政府機関の承認、認可あるいは登録を受けていないことをお客様が了解されていることを前提に本調査レポートは利用可能とさ

れております。本調査レポートの内容はthe UAE Central BankまたはDubai Financial Services Authorityの認可や登録を受けておりません。