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2 リザバー 2004.9 ■ 座談会 ■ 提言 ■ 事例紹介 ■ 研究報告 ■ 管理所訪問 ■ こちらダム管理所 ダム水源地環境整備センター ■ 読者の声

(財)ダム水源地環境整備センター - dam-net.jp · どからダム建設にあっては厳しい環境下にある。 こうした厳しい環境下にあってもダムの役割、効果は

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2リザバー 2004.9

■座談会

■提言

■事例紹介

■研究報告

■管理所訪問

■こちらダム管理所

(財)ダム水源地環境整備センター

■読者の声

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目 次 2004.9

ダム管理の視座 ………………………………………………………………………………… 1京都大学防災研究所教授 池淵 周一

提言

ダム管理の改善に向けて ………………………………………………………………………………… 3――利水補給・水質問題・情報公開・操作技術編――

司 会 今村 瑞穂出席者 田中 長光

渡邊  勝安養寺 学大屋 昭治野池 悦雄北誥 良平

特集/座談会

水位放流方式・限界流入量の指標を用いたダム操作 …………………………………………… 8――市房ダムにおける事例――

熊本県 市房ダム管理所管理課 参事 濱中 誠

事例紹介

堰コン異常に対する危機管理マニュアル等の整備について …………………………… 11(財)ダム水源地環境整備センター研究第一部主任研究員 菊池 英明

研究報告

石田川ダムにおける治水容量の拡大運用 ……………………………………………………… 14滋賀県 湖西地域振興局建設管理部計画調整課 主幹 萩原 章栄 

滋賀県 土木交通部河川開発課 主幹 森野 輝彦

こちらダム管理所

北上川ダム統合管理事務所・岩手県綱取ダム管理事務所を訪ねて…………………… 17取材・文 神澤 志摩

管理所訪問

提言「ダム管理の要諦」を読んで …………………………………………………………………… 21(財)ダム技術センター参与・研究第一部長 高須 修二

読者の声

編集後記……………… 22

執筆要領……………… 22

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提言

1リザバー 2004.9

従前から、ダムは洪水調節、各種利水補給、発電、正

常流量確保を目的として異常時、平時を含め日夜を問

わず働き続けている。ダムの役割、効果は明らかであ

り、これら効果は今後も引き続き発揮されていくもの

である。

ところで最近は地球温暖化と異常気象の顕在化か、各

地で集中豪雨が発生しており、土地利用変化と相まって

大きな洪水被害が見られる。また少雨化、気候変動の大

きさと相まって水資源開発量の実力低下や同時に渇水の

多発化も見られる。冬季の降雪量の減少、融雪の早期化

といった流況パターンの変化も懸念されており、地球温

暖化の影響を視野に入れざるを得ない。治水・利水の安

全度を持続・向上させるためにもダム施設とその容量増

が求められるが、一方ではダム建設適地が少なくなって

きている。少子・高齢化や人口減を想定すると水需要は

これ以上は大きくはならない。ダムの水環境・生態環境

への影響、公共事業の評価・見直し、住民意見の反映な

どからダム建設にあっては厳しい環境下にある。

こうした厳しい環境下にあってもダムの役割、効果は

明白であり、その建設の必要性はあるが、すでに建設さ

れ機能発揮しているダム施設群をさらに効率的に運用管

理していくアプローチも求められる。ダム管理の充実・

強化である。その場合、ダム管理をダム管理事業と位置

付け、ダム本体や機器・装置系の保守点検はもとより、

ダム管理研修として操作の模擬演習などの日ごろの訓

練、知見・技術力の高揚、人的資源の組織的配置・強

化、予算措置が従前にも増して必要である。

ダムの実管理とはダム計画が事業化され、施設が供

用されたあとの、施設を運用(運転、操作)・維持・保

守管理(Operation, Maintenance and Repair, OMR)

することをいう。中でも洪水のような時間スケールが短

い事象となると限られた時間と情報のもとで瞬間的な対

応が求められる。このような局面を特に、実時間操作

(real-time operation)と呼ぶことがある。実時間操作

はもちろん、洪水時のほかに渇水時はもとより利水補

給や正常流量の確保といった平時の操作にあっても時間

スケールが異なるが、それぞれに実時間操作があること

はいうまでもない。

(1)洪水管理と統合管理に向けて

洪水調節にあっては各ダムとも操作規則に基づく操

作で実施されている。もちろん、ダム操作にあっては

こうした操作ルールを順守することが基本であるが、ダ

ム建設からの年数経過や流域に複数のダムが張りついて

くると、これらを有機的に運用することにより、その

効果をさらに高められないか、いわゆる統合管理の考

えが出てくる。

最近では降水の力学・物理過程を表現するモデルと初

期・境界条件やモデルパラメータ同定にレーダーや衛星

情報を最大限活かす形での短時間降雨予測手法が開発さ

れつつあり、また、流域斜面や河道ネットワーク、ダム

などの調節施設を含めて流域水循環をきめ細かく表現・

再現可能なセル分布型流出モデルなどの構築、これら降

雨・流出特性を可能な限り集中化させたモデル構築をも

ダム管理の視座

京都大学防災研究所教授  池淵 周一

1.はじめに 2.ダム管理と実時間操作

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提言

2 リザバー 2004.9

とに観測値や予測情報を活かしたカルマン流の流出予測

手法、さらには従前から多様な洪水波形を既知とした場

合、例えば下流複数基準地点での洪水ピークの最小化と

いう目的を達成する最適調節解の導出などもある。こう

した学術的成果を視野に入れながら、時にはリスクを踏

まえての統合管理に向けて、ダム群の融通性のある操作

方式を積極的に展開したい。

(2)ダムの弾力的管理による下流河川環境の改善

発電ダムにあっては無水・減水区間の河川環境改善を

目指して発電ガイドラインが出され、ダムから維持流量

放流が行われるようになり、生物の生息環境をはじめと

する河川環境の一定の回復が図られつつある。

一方、国土交通省所管ダムにあってもダム下流におけ

る河川環境改善の一手法として、主に洪水期に水位を低

下させる制限水位方式のダムを中心に、洪水調節容量の

一部に流水を貯留し、ダム下流の河川環境を保全するた

めに放流するダムの弾力的管理を試行している。つま

り、洪水が発生する恐れのない時に制限水位等の所定の

水位より高標高に活用水位を設定し、活用水位を超えな

い範囲で流れを貯留するものである。この新たに生み出

された活用容量を用い、維持流量の増量放流、フラッシ

ュ放流などの活用放流に使用する。

すでに平成13年度全国16の国土交通省所管ダムで試

行されており、その試行ダムは増えてきている。今後は

夏期制限水位に低下させる放流機会を使ってフラッシュ

放流を実施したり、本格的な弾力的運用を目指すなら、

ダムに環境容量を設け、維持流量の増量や変動を与え、

フラッシュ放流を確実なものにすることも考えられる。

ダムの見直しとともに既設ダムの機能アップ、長寿命

化する施策もいくつか展開されている。ダム群の連携事

業やダム間の容量再編・振替え(例えば、あるダムの利

水容量を他のダムに振替え治水容量を増やすとか、その

逆も考えられる)である。それが極端になると支川にあ

るダムは利水専用に、本川にあるダムはさらに治水容量

アップを図り、場合によっては治水専用ダム化(河床部

に洪水吐きを持ち積極的な土砂排出をめざす治水専用ダ

ム)を図ることになる。

一方、堆砂進行の抑制では堆砂の浚渫・掘削・排出

や排砂バイパス、排砂ゲート設置などいくつかすでに実

施されているが、加えて、ダムの嵩上げによる容量アッ

プも技術開発、事業費などに照らして展開したい。

気候変動の影響か、気温上昇とともにダムへの流入

量の変動が大きくなってきており、また融雪の早期化

など流況パターンの変化がすでに見られ、これら変動

を吸収する意味でも全体としてダム容量アップは望ま

れる。

昔から川にあっては川浚い、川普請が、ため池にあっ

ては水を抜いて底浚い・天日干しをしてきた。ダム貯水

池にあっても何年かに一度は順繰りに水を抜いて底浚い、

土砂浚いをするのはどうであろう。ダムの維持管理、容

量確保、環境改善、ダム依存とその恩恵、節水意識の醸

成、これらが一度に実施・体感できる行為かもしれな

い。ダムの実管理として一考に値しないか。

3.ダムの容量再編と長寿命化

4.おわりに

編集事務局

読者の皆様には、池淵教授の御提言に関しての御感

想、御意見又は具現化への方策等を編集事務局に御投稿

いただき、これを機会に今後の貯水池管理についての議

論が深まることを期待します。

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談 談 談 談 会 会 会 会 座 座 座 座 特集 特 集 特 集

3リザバー 2004.9

ダム管理の改善に向けて――利水補給・水質問題・情報公開・操作技術編――

司 会 今村 瑞穂

出席者 田中 長光 渡邊  勝

安養寺 学 大屋 昭治

野池 悦雄 北誥 良平

座談会 座談会 座談会 座談会

今村 前回のリザバーでは、洪

水調節について皆さまの経験をお

話しいただきましたが、次にダ

ムの利水補給についてお話しいた

だきます。まず、利根川の利水

補給について田中さんからお願い

します。

田中 私は平成2年から7年まで

5年間、利根川ダム統合管理事務所に在籍しました。直轄ダ

ムが3つ、公団ダム(現水資源機構)が4つ、それから、下

流に渡良瀬貯水池があり、これを含めて「利根川上流8ダ

ム」と呼んでいます。

在任初年の平成2年にいきなり渇水になりました。直前

の渇水は昭和62年の渇水でしたので、その体験者の意見

をしっかり聞いた上で対処することとしました。

何m3/s流すかという選択肢は一つしかないにもかかわ

らず、行政機関、ユーザー、報道機関や一部の学者など、

立場が異なれば、それに応じていろいろな意見が出てまい

ります。

なぜいろいろな意見が出てくるかというと、それは渇水

問題について情報がよく伝わっていない点も原因の一つで

はないかと考えました。

当時は、現場から情報を出し過ぎると混乱が生じるとの

認識がありました。そこが、痛くもない腹を探られる原因

ではないかと思いました。

特に報道機関対策が大切と考え、どういうことをやって

渇水をしのいでいるかということを、可能な限りグラフ化

して、パネルに書いて、会議室ひとつを広報用に開放して

展示いたしました。いつでもおいでくだされば、専任の説

明員がご説明いたしますと、記者クラブに投げ込みを行い

ました。何人かの方に説明を聞きに来ていただきました

が、それまで情報不足でいらだっ

ておられた方々の要求に応えられ

て、それ以降、際立った反論もな

くなったように感じられます。も

ちろん、いろいろなことを言って

くる方はおられます。貯め損なっ

たとか、放流し過ぎたとか。しか

し、貯める前だとか、放流する前

1.利水補給について

田中 長光

渡良瀬貯水池

草木ダム

○○ダム

●●ダム 国土交通省管理ダム

水資源機構管理ダム

薗原ダム 相俣ダム

藤原ダム

奈良俣ダム 矢木沢ダム

下久保ダム

群 馬 県

埼 玉 県

栃 木 県

長 野 県

新 潟 県

福 島 県

利根川ダム 統合管理事務所

利根川上流8ダム

今村 瑞穂

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談 談 談 会 会 会 座 座 座 特集 特 集 特 集

ですと参考になりますが、渇水が終わった後に、結果を見

て評論家的にいろいろと言われても、反論するに値しない

と考えまして、じっと我慢しておりました。

今村 作られた渇水だという意見がありましたね。あれ

は、情報公開をされる前ですか、後ですか。

田中 それは、昭和62年の渇水の時だったと思います。

その時は、一切情報を流さなかったので、特定の報道機関

からいろいろ批判的な報道がなされたと聞いています。

ですから、毎日午前9時に、その日のダム放流量や貯水

量などのすべてのデータが集まりますと、それを直ちにフ

ァックスで記者クラブに投げ込むようにしました。

情報をオープンにしたことで、このような批判に対処す

ることになったわけです。

北誥 たとえば、下流で雷雨等があって、ダム下流域から

の流量の増加分をどのようにカウントするかといった技術

的な工夫を紹介いただけませんか。

田中 ご承知の通り、渇水の時は天気がよいわけですね。

ところが、関東地方は、夏、雷雨が多いわけです。このよ

うなゲリラ的な降雨を予測して、ダムに貯まった水を温存

すればいいのではないかという、外部からの指摘がありま

す。しかしながらこのような雷雨現象は、いつ、どういう

メカニズムで発生するか、よく分からないのですね。

レーダー雨量計で把握したエコーと雷雨とを結びつけて、

というようなことで、そういう予測技術が確立され、確実

に雨が降るということが分かれば、ダムからの放流を絞る

ことが出来るのですが、未だに、そういう域には達してい

ないのではないかと思います。

中下流域の貯留施設を先に使って、空容量に雷雨等の流

量増を貯めることは有効だと思います。

今村 水の管理については、公団は水を開発して管理す

る組織ですけれども、渇水時の対応のあり方について何か

ありますか。

安養寺 渇水については、渇水

に関する協議会があり、その中

で調整が行われています。

私は現在、琵琶湖開発総合

管理所にいますが、渇水とい

うより、渇水時の水質の悪化

や環境の調整などが課題とな

っています。

1)濁水問題今村 渇水から水質の話に移ってしまいましたが、そのま

ま水質の話を続けていただけないでしょうか。

安養寺 先ほどお話ししましたよ

うに、早明浦ダムでは昭和51年の

洪水で濁水の長期化が大きな問題

となりました。これらの経験もあ

り、早明浦ダムにおいて平成7年

から10年にかけて、放流水質の選

択の自由度を大きくする目的で、

表面取水から選択取水ができるよ

うにいたしました。平成11年に最初の運用をやっていま

す。その時、濁水の長期化を防止する目的で、洪水の後半

に、比較的濁りの多い層から抜いたのですが、地元から大

分苦情が出ました。

その理由は、貯水池の表面はきれいなのになぜ濁った水

が出るのかということと、選択取水はきれいな水を流すた

めにあるのではないかという素朴な疑問から来るものです。

早明浦ダムでは昭和51年から濁水が問題となり、地元

では不満がくすぶっておりました。従って、すぐに地元議

会などに出向いて説明をしました。

同時に、選択取水設備の運用方法の検討会を作ることと

して、学識経験者、漁業関係者、地元自治体からなるオー

プンな場を作り、運用方法について検討しました。

早明浦ダムでは、濁度10以上が7日以上続いた場合を濁

水問題の目安として整理していますが、濁度10が7日以上

続いたのが、昭和50~59年の10年間で14回、昭和60~

平成6年の10年間で7回、平成7~11年の5年間で2回で

す。濁水問題の発生頻度は、当初は年平均1.4回でしたが、

最近では、崩れた山の対策とかが進み、山が回復している

4 リザバー 2004.9

2.水質問題について

早明浦ダム選択取水設備のはたらき説明図の一部

安養寺 学

選択取水設備の操作は

●平常時…表面のあたたかくて濁りの少ない水を放流します。

●洪水時…濁りの多い水が溜った時、下流の状況などを見ながら、水の濁りが長く続かないように濁り水を早く出すような放流をする場合があります。

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談 談 談 談 会 会 会 会 座 座 座 座 特集 特 集

5リザバー 2004.9

こともあって、年平均0.4回に減ってきています。

濁水放流の長期化を防ぐために、選択取水設備により比

較的濁度の高い層から抜く、という操作を理解していただ

き、実行する時には事前に報告する、貯水池内濁度の挙動

も情報提供する、必要があれば説明に行く、といったこと

まで取り決め実施しています。

今村 水質問題では三春ダムでもご苦労が多かったようで

すが、ご紹介いただけますか。

2)富栄養化問題

渡邊 三春ダムが設置されている

大滝根川は、もともと、栄養塩類

が普通の川よりは高く、リン・窒

素を貯めて水温が上がれば富栄養

化になるのは当たり前といえば当

たり前の川だったわけです。なら

ばどうするかということで、湛水

する前に検討して、その結果を踏

まえていろいろな設備を造りました。一つは、ダムには大

滝根川本川と沢が3本、計4本の流入河川がありますが、

その4本の川に前ダムを造って、そこで常時、リンとか窒

素の栄養分を沈降させる。また、水温が高くならないよう

に、曝気循環という形で、エアブローで空気を送り出して

上下の動きをさせて水温を下げるとともに溶存酸素を一定

限度に維持することとしています。

あともう一つ、流入水バイパス管という、上流端からダ

ムの下流に水を抜く1,500㎜の管を敷設しまして、貯水池

に栄養塩を直接入れないようにしようという設備を設けて

おります。

先ほどの早明浦ダムにおける濁度の話と同じように、貯

水池内に曝気循環の設備を造りますと水温躍層が下部へ移

動して、洪水時の濁度の高い水が表面を走らないで、貯水

池の深層部分を走って直接コンジットに流れていくという

ことで、濁水が貯水池に貯まらない状態で、貯水池内はき

れいな水面が見えるという形で運用をしております。大き

な洪水が来て水温躍層そのものが崩れてしまうと、その効

果は発揮できません。去年、おととしあたりの実態を見る

と、うまいぐあいに水温躍層が壊れないで下を通って流れ

ているようです。

今村 要するに、攪拌した部分の最下部を通ったという

ことですね。

渡邊 その通りです。

ただ、そういう形でやっているのですけれども、もとも

と入ってくるリン、窒素が多いものですから、春先に水温

が高くなるとアオコが出る。それから、夏場はさらに気温

が上がりますので、自然発生的にアオコが出る、このよう

な現象が毎年繰り返し発生しております。

上流の流域は205km2ぐらいしかないのですけれども、

そこに約3万人の人が住んでいまして、流域下水道事業

を現在実施中です。平成14年度に一部供用しましたが、

これはあくまでも人間に対する処理だけです。約6,000

頭の牛、豚がいるのですけれども、これの畜産排水の処

理に時間がかかる。小規模の畜産農家が多いものですか

ら、排水の処理までなかなか手が回らないというのが現

実です。しばらくの間はこういう状態が続くかと思って

おります。

三春ダムは、平成10年4月からの管

理になっています。すべての項目で、

春先と夏場のところに繰り返しピークが

出てきています。上流の汚濁源を断た

ないと、同じ現象はずっと続くだろう

と思っております。

北誥 野池さん。発電ダムでも似たよ

うな水質問題は起きているんですか。

野池 電力ダムの場合は、富栄養化と

か赤潮よりは濁水問題だと思います。新

聞紙上を一番に賑わせたのは、黒部川

に設置された関西電力の出し平ダムだ

さくら湖

三春ダム

深層曝気

浅層循環

前ダム

植物プランクトンの栄養となる、窒素・リンを沈め、三春ダム貯水池への流入を阻止します。

流入水をさくら湖に入れないで直接ダム下流に流すことができます。

*10~20mの水深で下から空気を吹き上げ、上下の水を混合させ、水温を下げるとともに、植物プランクトンを下部に送り光を遮断して増殖を抑制します。

*死滅、分解して湖底に沈み堆積した窒素・リンが浮上しないよう、底層に、酸素を供給します。

前貯水池

さくら湖(三春ダム貯水池)

流入水バイパス管

流入水バイパス

三春ダム水質対策

渡� 勝

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談 談 談 会 会 会 座 座 座 特集 特 集 特 集

6 リザバー 2004.9

と思います。出し平ダムが最初排

砂放流したときは(平成3年度)、

排出された土砂が異臭を伴い、濁

水が海域まで拡散したことから、

大きな社会問題となりました。こ

れを受けて検討委員会が設置され、

その後さまざまな工夫をしながら

操作が行われています。

今村 水質に関してほかに何かございますか。

田中 利根川の渡良瀬貯水池というのは非常に水深が浅

く、夏場には水温が上がっていろいろな支障が出ていま

す。流入水も、板倉町とか館林市とか、まだ下水道があま

り完備していないところからの排水が入ってしまうような

仕組みになっています。

フォルミディウムというのですが、2-MIB(2-メチルイ

ソボルネオール)という、かび臭を出すものを発生させる

プランクトンでしばらく悩んでいました。水温を上げない

とか、遮光して光合成を減らすような工夫をするというの

で、池にいかだをたくさん並べるような対策を講じていま

したが、それで少しはおさまってきたようです。

今村 いろいろとありがとうございました。一通り、操作

に関する話題を紹介していただきました。洪水調節にして

も、水資源の確保にしても、水質問題にしても、いかに情報

公開を的確に実行しながら関係者との相互理解を深めてい

くかということにかかっているのではないかと感じました。

次に情報公開のあり方について、参考となる意見があれ

ばお願いいたします。

渡邊 一般の人は流量が10,000m3/sといっても、それは何

の話だということにしかなりません。また、観測所の水位

でいくらといっても実感がわきません。たとえば、「あの橋

から何メートル下ぐらい」といった、情報を受ける側の感

覚で示す必要があるのではないかと思います。いろいろと

議論したのですが、なかなか適当な方法が見つからないの

が実情です。

大屋 水位にしても、例えば堤防の絵と比較しながら説

明すると、われわれは計画高水位になると危ないと感じる

のですが、一般の人は、堤防の天端まで水位が来ないと危

険だとは実感しない。

なぜ、計画高水位で危険がある

かという説明に時間がかかってし

まいます。

今村 そのような認識のずれをどの

ように一致させるかが課題ですね。

安養寺 認識のずれといえば、洪

水予測の話になりますが、一般の

人からの意見としては、ルールに

拘束されることなく、なぜこの時代にきちんと気象予測を

して臨機応変の操作ができないのかとよく耳にします。大

きな洪水が来そうなら、事前の予測をして水位を下げて洪

水に対処できないのかといった意見です。また、治水と利

水の目的別に容量が確保されているということについても

なかなか納得してもらえないので苦労しています。

今村 治水のことだけを考えていけば利水に支障が出る。

逆に利水のことだけを考えると治水に支障が出る。従っ

て、治水と利水の境界部分である制限水位付近の操作は大

変気を遣うところですが、しかしながら、このあたりの難

しさはダムを実際に操作してみないと分らないところが悩

ましいところですね。

渡邊 降雨予測については、日本気象協会とかウェザー

ニューズといった専門のところに委託してやっているので

すが、私の在職中は、ダム操作には直接使用できないとい

うのが管理所長仲間の実感でした。

北誥 気象予測の情報を3社からもらっているダムがある

のですが、3社とも違ったものが出てくる、という話があ

ります。(笑)

安養寺 予測がそんなに精度がよくないという話と、雨

が降ったら水がすぐに出てくるというところが一般の人に

はなかなか理解してもらえません。

今村 要するに予測値もその特性を理解して、いかに、効

果的に活用するかということであって、結果を追い求める

あまり、予測情報を過信してはいけないということでしょ

うね。

いつの間にか、情報公開から操作技術論になってしまっ

たようですね。一般向けの情報のあり方はこれくらいにし

て、最後になりますが、ダム管理体験者として技術的な

面、制度的な面などから、話しておきたいことがあれば何

4.操作技術について

3.情報公開について

大屋 昭治野池 悦雄

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談 談 談 談 会 会 会 会 座 座 座 座 特集 特 集

7リザバー 2004.9

でも結構ですからお願いいたします。

北誥 貯水池表面に立つ波と貯水

位の関係でいろいろな誤解が生じ

ているようです。ゲートを操作す

れば貯水池内に波が発生する。そ

の結果が操作にどのように影響す

るかは、放流量決定システムの中

で容易に予測も出来るし、研究も

されているのに、放流量決定に当

って移動平均による水位だけに基づいているというのは、考

えなければならないですね。

渡邊 貯水池水位はゲート操作の影響だけではなく、波

浪の影響をまともに受けている場合もあります。

大屋 例えば、これらの貯水池の波動により水位が上がる

と流入量は大きく計算されます。しかしながら、これは本

当に流入量が増加して水位が上がったものではないから操

作上は雑音的な情報にすぎません。それから、水位は瞬間

的な情報として扱いますし、流入量は10分間の平均流入量

で出てきますが、放流量は瞬間的な水位とそのときのゲー

ト開度で計算されますから、定水位制御をやっているとす

れば瞬間的には過放流の部分も出てきます。また、水位も

瞬間的には管理すべき水位を超える可能性もあるわけです。

水位と流量の関係がこのようなものであるという認識に

立てば、一時的な過放流や水位のオーバーはやむを得ない

ということになりますが、建前の世界になれば、洪水調節

前に制限水位を超えることは、操作規則上許せないという

ことになるわけです。

安養寺 過放流にしてはいけないという、その意味です

ね。本来はそうあるべきではないと思いますが、流量の精

度を考えるとシビアーになり過ぎている面もあります。

今村 流入量が変化しているとき、放流量は鋸の歯型のよ

うに変化しますから、理論的には操作時間の半分以上は過

放流にならないと定水位制御は出来ないことにもなります

からね。

渡邊 上がったり下がったり水位が変化しているときは

少々外れてもいいのではないですか。ピークの時が問題な

のですね。

今村 いろいろと操作の実務から来る話題が出ました。こ

のような操作実務上の課題が適切に操作規則に反映されて

いるかどうかということが今後の操作のあり方を左右する

のではないかと思いますね。

北誥 自然を相手ですから、どうしてもただし書き操作み

たいな対応は必要になってきます。ところが、このような

状況ですと所長の負担が大きくなります。従って、組織的

に責任を取るようにしておかないといけないというので、

今の操作規則が成り立っているといえます。

それから、操作規則については科学的知見に基づくべき

ところと建前を重視すべきところがあると思います。今

は、建前が重視されすぎて科学的知見が遠慮をしていると

いった状況であり、このことが管理の現場の皆さんを悩ま

せているのではないかと感じています。

田中 そういう意味では、財源の問題と、環境の問題で、

作るほうは控えられると思います。今後は現有能力で必要

なサービスをしなければならなくなるわけですから、管理

を充実してこれらの方針に対応できるようなスペシャリス

トを作る必要があるのではないかと考えます。

今村 大賛成ですね。管理は殆ど勉強する部分がないと

勘違いしている人がいるのではないかと感じているのです

が、私はまだまだ勉強すれば解決できる部分がたくさんあ

ると感じています。

例えば、今日の問題提起をしていただいた、水位から流

入量を求める過程、放流量を決定する方法、制限水位を挟

んで水資源の確保と洪水調節操作の要求を両立させる方

法、放流を開始する時期の判断方法、ただし書き操作に移

行する時期の判断方法等々、興味深い課題が山積しており

ます。このような課題を科学的に解明し、対処方針を明ら

かにした上で、ダムコンの役割、操作規則のあり方等が議

論されるべきであると思います。

みんなで課題を共有しながら、その解決策を模索し、理

解されるダムの操作を目指しての努力が必要だと思います。

今日は貴重な体験談を聞かせていただきありがとうござ

いました。

今村瑞穂 (元)建設省河川局開発課 開発調整官

田中長光 (元)建設省関東地方建設局利根川ダム統合管理事務所長

渡邊 勝 (元)国土交通省東北地方整備局 三春ダム管理所長

安養寺学 (元)旧水資源開発公団 琵琶湖開発総合管理所長

大屋昭治 (元)国土交通省中部地方整備局 丸山ダム管理所長

野池悦雄 中部電力株式会社 土木建築部水力グループ長

北誥良平 (元)財団法人ダム水源地環境整備センターダム水源地環境技術研究所 次長

北誥 良平

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事例紹介 事例紹介 事例紹介 事例紹介

8 リザバー 2004.9

水位放流方式・限界流入量の指標を用いたダム操作――市房ダムにおける事例――

濱中 誠*

市房ダムは、熊本県の球磨川上流に位置するダムで、昭

和35年度に旧建設省が建設し、完成直後から熊本県が管

理している。

総貯水容量40,200千�、洪水調節、発電、農業用水補給

の目的をもつ多目的ダムである。

本稿は、出水時ゲート操作を簡便かつ適正に行うために

「水位放流方式」及び「限界流入量」(今村瑞穂:「ダム貯

水池による洪水調節の合理化に関する2、3の考察」ダム

工学Vol 8, №2 1998)をキーワードとする新しい操作方

法の実践事例である。

洪水時にダムのゲート操作を行う場合、まず、洪水調節

に至る前のいわゆる事前放流をどのタイミングで開始する かということが最も判断を要することである。また、放流

開始後の洪水量放流までのゲート操作プロセスについても

細かい操作規則上の規定がなく、同様に経験に基づいたり、

単純な増量パターンに基づくことが多いのが実情である。

ダム管理に携わる私たちの共通の課題といえるこれらの

「悩み」の一つの解決策として、新しい操作方法を試みた

ものである。

放流開始の時期を決定する際、レーダー降雨予測やそれ

に基づくダム流入量予測、あるいは貯留流量(流入量-放

流量)と制限水位等までの空き容量の関係から、数時間先

の放流開始を決定しているケースが多いと思われる。しか

し、放流開始が早まり、利水容量の回復に支障を来した

り、逆に放流開始が遅れて洪水調節開始流量になる前に貯

宮 崎 県

熊 本 県

鹿 児 島 県

大 分 県

福 岡 県

球磨川

市房山

市房ダム

1. はじめに

2.限界流入量による放流開始の判断

市房ダム

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事例紹介 事例紹介 事例紹介

9リザバー 2004.9

水位が制限水位をオーバーする等の不安がつきまとうなど、

放流開始の判断は経験豊かな担当者に任されるケースが多

く、判断に個人差が生じやすい。

そのような時に、誰もが簡単に放流開始の時期を決定で

きる「限界流入量」による放流開始時期の判断方法がある

ことを今村瑞穂氏の論文によって知る機会を得たことから、

上司らの進言を受け、本ダムにおける適用の具体化に入っ

た。細かい理論的な事柄は前出の論文に譲るとして、「限

界流入量」とは、下流河道の水理特性とその時々の貯水池

の空き容量やダム放流量の状態から求まる水理量であり、

「流入量が限界流入量より大きいか小さいか」により放流

の要否が判定でき、この指標を用いれば、流入量が限界流

入量より小さい場合は貯留が可能であり、流入量が限界流

入量に達する段階で放流を開始すれば、下流の水位上昇速

度を所定の範囲内に抑えた事前放流が可能となるものであ

る。この指標を用いることで、誰もが合理的に放流開始の

判断を行うことが可能となる。なお、「限界流入量」を式

で表すと次のようになる。

ここに Qic:限界流入量

Hc :水位上昇の限度(例えば、30㎝/30分)

K :河道定数(≡流量公式Q=K(H+a)2

の係数K)

Vw:当該時刻における制限水位に対する

空き容量

Qs :制限水位に達したときの目標放流量

(例えば洪水調節開始流量)

Qo :当該時刻におけるダム放流量

この式は、刻々と変化する空き容量に応じて限界流入量

も変化していることを示している。放流開始時刻の予測例

を図示すれば図-1のとおりである。

図-1は、現在までに得られた流入量(●)と限界流入

量(△)のトレンドを基に放流開始時刻を予測した例を示

したものであり、同図における交点(□)が放流開始時刻

となる。予測担当者は、刻々と得られる流入量データと、

限界流入量のデータを追加・更新していくことで、予測精

度を高めながら、放流開始時刻を予測することができる。

また、この予想時刻から必要時間遡った時点で放流開始の

警報・通報を発令することが可能となる。 流出予想モデ

ルによる流入量予想値を用いればさらに事前の予測が可能

となり、余裕をもって洪水調節体制を執ることができるこ

ととなる。

放流開始後の洪水調節に入るまでのゲート操作は、下流

の急激な水位の上昇を避けるための放流の原則に基づき、

操作間隔とその時点の放流量を定めた段階的な操作を行う

というケースが多い。このマニュアルは操作規則ではな

く、操作細則に定めがあるが、流入量や貯水位の上昇に関

係なく操作すると、洪水流量に達した際には貯水位が制限

水位を超える可能性が高い。「水位放流方式」とは、貯水

位情報からダム放流量を求めるもので、この方式では制限

水位に達した時点の目標放流量(Qs)を予め定めておけ

ば、放流開始したときの空き容量に応じて放流関数が一つ

だけ求められるので、以降の放流操作が貯水位に対応して

自動的に決定されることとなる。この関数は、利水・治水

側からそれぞれ「放流するな」・「放流せよ」という相反す

る要請を折衷的に両立させた放流を目指すものである。こ

れにより、合理性・再現性のある放流操作が可能となるも

のである。

例えば、極端な例ではあるが、制限水位に達したときの

限界流入量限界流入量のトレンド線

流量

流入量のトレンド線

実績流入量実績流入量

限界流入量限界流入量

現在 放流開始予想時刻

時間

利水容量回復のための貯留が可能

警報警報のための所要時間所要時間

限界流入量のトレンド線

実績流入量

限界流入量

警報のための所要時間

警報発令

図-1 放流開始時刻の予測例

3.水位放流方式による事前放流操作

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事例紹介 事例紹介 事例紹介 事例紹介

10 リザバー 2004.9

目標放流量(Qs)を洪水調節開始流量としておけば、ど

のような洪水が来ても、洪水調節操作前に貯水位が制限水

位を突破するようなことはあり得ないことになる。

事前放流操作における「水位放流方式」の放流関数は、

次のように定義される。

Qo=Qs(V2/Vw)2

ここに Qo :当該時刻におけるダム放流量

Qs :所定水位に達したときの目標放流量

Vw:放流開始時刻における空き容量

V2 :放流開始後当該時刻に至る間の総貯留量

また、その内容を図化すると図-2のようになる。

「水位放流方式」は、事前放流操作だけでなく、洪水調

節操作とただし書き操作(注)についても重要かつ有効な考

察・提言を行っているが、市房ダムにおいては、事前放流

操作についてのみ実際の洪水操作に応用してみた。限界流

入量を用いて放流開始時期を決定し、事前放流操作を洪水

調節直前まで実際に2例(平成15年8月8日及び同16年8

月30日)の洪水で試行した。

それぞれ数式をもって解を求めることができるため、所

内職員がそれぞれエクセルファイルとしてパソコンで演算

できるよう、計算用ファイルを準備した。限界流入量につ

いては、刻々変化する流入量・貯水位・放流量を入力する

ことで限界流入量を算定し、パソコン画面にグラフ化した

図-1と同様のそれぞれのトレンドを見て、容易に放流開

始時期を決定することができた。大雨洪水警報で待機中の

ダム管理の新人職員が正確に放流開始の判断を行い、速や

かに洪水調節の体制をとることができたのである。放流開

始時期の判断が誰の目にも明らかになり、後の検証や説明

責任を果たす上でその再現性があることから、きわめて有

効な判断手法である。

事前放流操作についても、エクセルファイルの計算表

で、放流開始時の貯水位(=貯水容量)が決まるとすぐに

制限水位までに洪水流量放流が可能な放流予定表なるもの

が作成され、操作員はその表に示された貯水位に応じて放

流を行っていくことになる。

「限界流入量による放流開始時期決定」と「水位放流方

式による事前放流操作」の試行は、平成15年度ダム・堰

危機管理業務顕彰優秀業務の優秀賞という栄えある賞をい

ただいた。表彰の際に評価されたこととして「新しい水位

放流方式を初めて採用し、個人の経験に頼らない合理的な

初期放流操作が行えることを確認するとともに、下流への

洪水調節効果をもたらした点」とあった。この方式そのも

のの有用性はもちろんであるが、この方式を採用すること

で職員の洪水操作に対する技術的な確信が生まれているこ

とを大いに評価したい。

本方式が広く認知され、ゲート操作を伴うダムの一つの

操作方法として広く採用されることが今後の課題である。

市房ダムにおいては、下流河道の水位上昇速度の評価基準

点としている個所(前回検証個所より上流地点)に水位計

を設けて、本方式による放流の影響を検証することや限界

流入量に流量予測モデルの値を使った放流開始時期予測な

ど、精度の高い検証を行っていきたいと考えている。その

ことで失敗のない精度の高い洪水調節を行っていくことが

私たちに課せられた課題であろう。

(注)国土交通省所管ダムの操作規則第15条1項ただし書き「ただ

し、気象、水象その他の状況により特に必要があると認められる

場合においては、この限りではない」

* 熊本県 市房ダム管理所管理課 参事

4.市房ダムでの応用

5.評価と今後の課題

QO=QS・(V2/VW)2

容量あるいは貯水位

▽制限水位

▽現在の貯水位

限界流入量により判断した ▽放流開始水位

▽当日の迎洪水位

現在の必要放流量 QO 目標放流量 QS

流量

この間は利水容量 回復のための貯留

限界流入量による 放流開始判断

V2

VW

図-2 「水位放流方式」の放流関数

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近年、ダム・堰等において異常な動きが発生したことに

鑑み、平成15年6月から7月にかけて国土交通省の河川環

境課・治水課・流水管理室・電気通信室・建設施工企画

課及び国土技術政策総合研究所・土木研究所をメンバーと

して「ダム・堰等の制御施設の危機管理対策等検討会」

(以下、「検討会」)が設置され、異常作動の現状・問題点

を把握・分析し安全対策の考え方を明らかにするとともに、

安全対策に対する土木・電気・機械各部門毎の取り組み方

策の検討が行われました。

検討会で決められた方針に基づき、近畿地方整備局姫路

河川国道事務所が管理する「加古川大堰」を対象として危

機管理マニュアルの整備を行いましたので、その事例を紹

介します。

検討会では過去の事故事例・ヒヤリハット事例の分析の

結果、異常作動の要因として以下のような事項が抽出され

ました。

■ダム・堰の管理は土木・機械・電通の各専門分野のより

一層の連携が求められている。

■人と機械のかかわりが複雑化してきている。

■人の能力・技術力の低下が懸念される。

■管理体制は、土木・機械・電通の連携が求められる。

■組織・体制を踏まえた研修・訓練が求められる。

■ハードウェア技術の進展がめざましく、技術習得がしに

くい。

■ソフトウェアの安全性・検証方法の確立が求められている。

■システム更新・改良・点検工事の安全管理体制の充実が

求められている。

上記を分析し、異常作動の再発防止には人・組織・シス

テム面での対策が必要であるとの結論を導き、当面取り組

む具体的な対策として以下の8項目を決めました。(図-1)

①異常時シミュレーション研修の充実

②点検整備基準要領の改訂

③ダムコン標準仕様書の改訂

④ソフトウェア標準検査要領書の制定

⑤異常時危機管理マニュアルの整備

⑥全国異常事例データベースの構築

⑦管理運用に対する評価手法の確立

⑧施工業者への対応

これらの取り組むべき事項に関しては、逐次具体化を進

めていく必要がありますが、特に①異常時シミュレーショ

ン研修の充実、⑤異常時危機管理マニュアルの整備等に関

しては、早急に取り組みを推進することになりました。

また、「異常時危機管理マニュアル」の内容については、

“異常発生時の即時対応の仕方を決めるもので、例えば、

ブザー吹鳴時にゲートの「開中」、「閉中」ランプの点灯、

ゲートの開度が変化している等を確認したら非常停止でゲ

ートを停止するなど具体的にするのが良い”との方向が示

されました。

(1)マニュアルの目的及び内容

「加古川大堰管理総合マニュアル」は設備の工事、補修、

点検における異常放流事故をなくすことと、職員が不測の

トラブルに適切に対処できる実力を備えることを目的とし

11リザバー 2004.9

堰コン異常に対する危機管理マニュアル等の整備について

菊池英明*

1. はじめに

3.「加古川大堰管理総合マニュアル」の紹介

2.「検討会」における異常作動の再発防止の考え方

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12 リザバー 2004.9

図-1 異常作動再発防止の考え方

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13リザバー 2004.9

たもので、表-1の編立てで構成されています。なお「緊

急時対応編」はクイックマニュアル化を図り、インデック

スを開くことで各種異常発生時の対応を順次追っていける

ようになっています。

(2)緊急時対応編「平水時クイックマニュアル」

平水時クイックマニュアルは平水時に放流設備並びに他

の管理設備に障害が発生した場合、現場の人間が現場の設

備及び現場設備に備えられた機能を使って緊急に対応する

ことで、放流事故などの災害を出来るだけ小さくするため

の手順を記述したものです。

現場の操作員が聴覚で感じるベル又はブザー吹鳴から順

次対応が索引できるようになっており、ゲートの特定、ゲ

ート異常動作の確認、非常停止、下流水位の変動確認、除

外操作などが記述されています。将来的にはeラーニング

による研修も視野に入れています。(図-2)

「検討会」で当面取り組むべき対策として挙げられた8

項目の対策のうち、⑤異常時危機管理マニュアルの整備に

ついて紹介しましたが、その他の

対策についても、③「ダムコン標

準仕様書の改訂」については、平

成16年7月に標準仕様書(案)が

作成され、同解説書の作成準備を

進めており、⑦「管理運用に対す

る評価手法の確立」についてはダ

ム・堰危機管理業務顕彰が行われ、

第1回表彰式が平成16年5月に開

催されました。その他の5項目に

ついても順次取りまとめられる予

定となっています。

* 財団法人ダム水源地環境整備センター研究第一部主任研究員

名 称 記 載 内 容

1 基礎編総合マニュアルの目的及びマニュアルの構成、用語定義、管理概要などを記載する。新人の教育用として、加古川大堰の管理概要、全体が理解できるものとし、ビジュアルな分かりやすいものとする。

2 操作編 流水管理の達成のため実施する各種施設の操作方法や訓練方法解説。

3 設備編 管理設備の全体資料(構造、構成、仕様、動作概要が把握できるもの)。

4 保守点検・修繕編 保守及び修繕における作業の留意事項及び作業要領、安全管理の方法を記載。

5 緊急時対応編 事故・障害発生時の対応方法、情報伝達、二次災害防止のための措置をクイックマニュアルに記載。

6 KY活動編 KY活動について要領を記載。

7 導入・更新時管理システム、設備の更新時において実施すべき検査、チェック、慣らし期間の設定等を記載。

(試運転)編

4. おわりに

表-1 「加古川大堰管理総合マニュアル」の内容

図-2 eラーニングによる異常時シミュレーション研修のイメージ

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14 リザバー 2004.9

萩原 章栄* 森野 輝彦**

滋賀県琵琶湖の北西側、福井県若狭との県境近くに

位置する石田川ダムは、淀川水系琵琶湖に注ぐ一級河

川石田川の上流19㎞の地点に昭和45年に完成した洪水

調節と不特定かんがいを目的とした小型のダムです(写

真-1)。

ダムの管理体制は、湖西地域振興局建設管理部職員

3名で行っており、サイト管理事務所には、うち2名の

職員が勤務しています。警報等の非常配備は、建設管

理部職員9名で班体制を組み、大雨に関する注意報で2

名、警報で4名が体制を組むこととしています。

石田川は、琵琶湖の西側・湖西地方の中心地である

今津町内を琵琶湖に流下し、流域面積は51�程度の小

河川です。河口から2.1㎞区間は、平成4年度から同12

写真-1 石田川ダム

写真-2 護岸ブロック天端に達する洪水流量(治水基準点直上流 平成15年8月9日)

京都府

大津大津

滋賀県

岐阜県

三重県

福井県

琵琶湖琵琶湖 琵琶湖

石田川ダム

大津

表 石田川ダム諸元

型   式 ロックフィルダム

堤   高 43.5m

堤 頂 長 140.1m

総貯水容量 2,710千�

流 域 面 積 23.4�

調 節 方 式 一定率一定量

1. 石田川ダム概要と管理体制

2.ダム下流石田川の現状

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15リザバー 2004.9

年度まで河川改修を行いましたが、その上流部3.2㎞区

間も流下能力が不足しており現在改修のため用地取得

などを進めております。その区間には特に狭小部があ

り、流下能力は非常に小さく洪水調節時は下流の状況

を気にしながらの放流となっているのが現状です。

ダム貯水池は、昭和54年に淡水赤潮の発生が認めら

れ、同57年にはアオコを確認し、平成2年からの10年

間のうち6カ年においてアオコが発生し、アオコ混じ

りの放流水によって下流の渓流魚の生息環境に影響を

与え、ダム管理上問題となっておりました。

石田川ダム上流域は人家もなく広葉樹林が大部分を

占める山林で、落葉により表層には肥沃な腐葉土が堆

積しており、融雪や出水により流出した肥沃な腐葉土

が、貯水池内にも底泥として堆積しています。底泥の

みならず夏季には雷雨出水程度であっても流入水のリ

ン濃度が上昇し、湖内濃度も高くなります。

このような状況で左岸堤体付近に位置する滞留部の

存在と、夏季流入量の減少と相まって、滞留日数が長

くなることなどにより、藍藻類の増殖という富栄養化

現象(アオコ)がしばしば生じていました。

しかし、以下に示す低水位運用以降、出水後の水位

低下などによりアオコの発生がなくなりました。

洪水調節方式は、一定率一定量、計画最大放流量は

毎秒85�であり、洪水調節容量は制限水位+予備放流

により確保することとしています。

しかし、下流河川の未改修区間の流下能力は堤防満

杯でも100�/sを下回り、ダムからの放流量としては

残流域を考慮し最大40�/s程度にする必要がありま

す。また近年では所管雨量観測所で時間108㎜を記録す

るなど、短時間降雨強度が確実に増大しており、概ね

1/30弱の確率相当で計画された当ダムの洪水調節計画

では予備放流も含め運用が非常に困難になっています。

これに対して試行的に不特定利水は運用開始から35

年ほど経過し、夏季以降には補給が実体上不要である

ことから、この利水容量(洪水期127万�)を予備放

流なしで洪水調節容量として有効貯水容量(231万�)

全量を利用することとしました。具体的には、夏期制

限水位(7月から10月)を最低水位とすることとし、

この水位で洪水を迎えることになります。平成15年8

月9日の台風10号の出水では、降り始めた時の貯水位

が最低水位以下であったことから、下流の流下能力を

考慮した放流量(最大流入量61�/sに対し、最大放

流量21�/s)とすることができ、残流域降雨が強か

ったにもかかわらず結果として下流基準点の水位を50

㎝低下させ、洪水被害の防止に役立つことができまし

た。(写真-2)

この低水位運用により発生する問題は、洪水吐ゲー

トが最低水位以下にあることから、流入水が湖底の泥

土を巻き上げ、濁水の放流が常態化することです。

この問題を解決する対策として上流からの流入水が

ダム湖に流入することなく、そのままの水質で放流で

きるよう、清水バイパスを設置することとしました。

バイパス流量は約3�/sです。

清水バイパスは、平成13年度に水環境改善事業とし図 各年最大時間雨量

4.流下能力を考慮した貯水池運用計画

3.ダム湖の富栄養化問題

5.清水バイパス施設の新設

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16 リザバー 2004.9

て採択していただき、総事業費147百万円で同

14年度完成しています。構造は、ダム湖中流に

潜水式アース取水堰を設け、湖岸沿いにコルゲ

ート開水路を約350m敷設し、既設取水放流設

備に接続する方法で工事を実施しました。(写

真-3~6)

このパイパス水路の実施により、夏季におけ

る放流水による下流のアユ、イワナなどの生態

系や環境への影響の心配は概ね解消されること

になりました。

また、常用洪水吐ゲートが最低水位以下にあ

り、洪水後にその水位まで速やかに下げられる

ことから堆砂の進行が抑制され、かつ下流への

土砂供給も可能となるという効果もあります。

今回の取り組みは「下流河川の流下能力を考

慮した洪水調節操作及び施設改善」として、平

成15年度ダム・堰危機管理業務顕彰優秀業務と

して、栄えある優秀賞を受賞しました。

清水バイパスによる洪水調節容量の増大は昨

年度も効果を発揮していますが、バイパス水路

の設置による低水位時の貯水池面積及び流入量

も相当少なくなり止水域の状態となること、ま

た流入濁水にシルト分が多いため、洪水後なか

なか澄まないことなどから、これら景観の保全

も今後の課題と考えています。

これについては下流放流に支障ないものの、

ダム管理担当者としては、今後、状況を見なが

ら対応策を考えていきたいと思っています。ま

た、増大した治水容量もやはり限られた容量で

あり、下流の河川改修が早期に完了し、治水安

全度が向上することを期待しています。

* 滋賀県 湖西地域振興局建設管理部計画調整課 主幹

** 滋賀県 土木交通部河川開発課 主幹

写真-4 取水堰全景

写真-5 最低水位付近の湖岸沿い開水路

写真-6 水路下流端既設斜樋接続部

写真-3 バイパス呑口とコルゲート水路

6.今後の課題

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訪問初日、まず北上川ダム

統合管理事務所(以下、「北上

川ダム統管」)に伺うと、木内

良春所長が5ダムの管理状況

から流域住民への対応、そし

てダム湖の活用等を熱心に説

明しながら、事務所内外を丁

寧に案内して下さった。

北上川ダム統管には約30

名、各ダムにはそれぞれ5、6名の職員が勤務している。

「ダム管理に携わる者は勤務時間内だけ仕事をしていれ

ばいいというわけではありません。夜間や休日に何かあれ

ば、当番に当たる職員は出て来なくてはなりませんし、家

にいても常時、(財)日本気象協会や(株)ウェザーニューズ

が提供する気象情報を、携帯やパソコンを使って把握する

ようにしています」

そして、下流住民の生活に配慮することの大切さを力強

く語られた。「下流河川が溢れそうなのに、上流のダムは

空っぽだという状況があってはならないんです。極力、ダ

ムのキャパシティを有効に活用して、下流住民の皆さんの

生活にも支障を与えないようなやり方が必要になってくる

と思います」

これらの操作を行うためには、貯水状況はもとより、今

後の降雨状況と下流河川の状況の把握が重要であるという。

「先祖伝来の土地を提供してくれた地権者がいて、建設

のために知恵を出してくれた人、汗水流して造ってくれた

人がいるわけです。ですから、我々はただゲートを操作す

るだけでなく、そういった先人たちの熱意を思って、現代

のニーズに合うような改善運用をしていくのが使命だと思

うんです」

現在のところ、北上川ダム統管で所管する5ダムの洪水

調節は、それぞれのダムの操作規則に基づいて行っている

ため、治水上の統合管理は行っていない。しかしそれを行

わないとより効果が上がらないと木内所長は言う。「ダム

管理者だけでやるのではなく、河川管理者と連携して、新

しい操作ルールを作っていく必要があると思います」

17リザバー 2004.9

[ 管理所訪問 ]

北上川ダム統合管理事務所・岩手県綱取ダム管理事務所を訪ねて

毎年夏になるとJR盛岡駅附近の通りには数え切れないほどの

南部風鈴が飾られ、澄んだ音色が道行く人々を和ませている。

その駅前から目抜き通りをまっすぐ進むと、程なくして北上川

に架かる開運橋が現れる。橋から眺めてみると、北上川には広

い河川敷も高い堤防もない。穏やかな流れが続いている。しか

し、29万人が住む盛岡市街を貫く川なのに、洪水になったらど

うするのだろうかという素朴な疑問が湧いてくる。

盛岡市を洪水から守っているのは、盛岡市内より車で約20分、北上川本川に位置する四十四田ダム。北上川流

域にはこのほかに御所ダム、田瀬ダム、湯田ダム、石淵ダムの計5つの国土交通省管理ダムがあり、統括してい

るのは同省北上川ダム統合管理事務所である。

管理所訪問3回目となる今回は、四十四田ダムの脇に建つ北上川ダム統合管理事務所を訪ねた。また、岩手県

県土整備部河川課と、同県管理の綱取ダム管理事務所でもお話を伺った。綱取ダムは、サケが上ぼる川として市

民に親しまれている中津川上流にあり、この中津川は開運橋の下流で北上川に合流している。

宮城県

秋田県

岩手県

北上川

仙台湾

四十四田ダム

○○ダム

国土交通省管理ダム

岩手県管理ダム

●●ダム

御所ダム

湯田ダム 田瀬ダム

石淵ダム

綱取ダム

盛岡

三陸海岸

旧北上川

旧北上川

北上川

旧北上川

岩手山

木内所長

北上川ダム統合管理事務所

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18 リザバー 2004.9

所長は着任4ヶ月。これまで手がけたダム建設の経験を

生かして、これからのダム管理に向けて、木内所長の目は

輝いている。

北上川ダム統管では、独自に「ダム管理研修資料」を作

成し、毎年4月に1日かけて勉強会を行っている。ゲート

操作に関しては、ゲートの点検時に体験するようにしてい

る。「点検業務に合わせて遠隔操作と基本操作を両方やり

ます。ほとんどゲート操作の経験のないうちに実際の操作

を行う場合もありますから、点検時に実際に動かしてみな

いと、本番に急に操作することはできないですね」

また、洪水が終息すると、各ダムで今回の操作の良し悪

しを検討している。そのほかにも、全国で集中豪雨等の特

異な降雨があれば、その降雨を5ダムに当てはめてシミュ

レーションを行っているという。「例えばこの夏の新潟や

福井の雨も、この雨が降ったら5ダムではどういう操作を

したらいいのか、全部やらせたんですよ。今は降雨の情報

は全部インターネットに載りますから。それを洪水予測の

システムを使って計算し、できた資料を基に勉強会を行う

わけです」

平成16年7月19日から20日にかけて、梅雨前線の停滞に

よる降雨が続き、御所ダムと湯田ダムで洪水調節を行った。

御所ダムでは19日の19時から22時までの3時間に約50

㎜という雨量があった。21時には128�/sだったダムへの

流入量は23時には802�/sとなり、立ち上がりが急だっ

た上に、下流への警報に時間がかかり、放流開始が1時間

遅れとなった。「いきなりボーンと降られてしまったわけ

です。この降雨が事前に予測がつけば、それに合わせた操

作ができるんですけれども」

しかし、放流開始が遅くなったことによって、下流河川

にとっては急激な水位上昇を押さえたという効果もあった。

また、御所ダム下流の雫石川の河川敷には、特に夏場

はバーベキューやキャンプに訪れる人が多い。放流前に警

報車で回っても、アルコールの入った人はなかなか河川敷

から出てくれず、河川管理者の岩手河川国道事務所を通し

て警察に協力してもらうこともあるという。増水した河川

の恐ろしさを理解してもらえるようなPRが必要とされて

いる。

ひとたび洪水が起これば、ダムには雨水だけでなく大量

のゴミや流木が流れてくる。7月19日、20日の洪水時に

800

700

600

500

400

300

200

100

0

19日23時 最大流入量 802

7月19日 7月20日

急激急激に上昇上昇

急激に上昇

�/s

0

10

20

ダムへの 流入量

ダムからの 放流量

19日21時 流入量 128

御所ダムハイドログラフ

御所ダム

ダム管理の研修

7月19日~20日の洪水調節

ダムの流木捕捉効果

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19リザバー 2004.9

も、計1,650�のゴミと流木が5ダムに流れ込んだ。「下流

河川にとって、ダムは流木を捕捉する効果も大きいと思っ

ています」

もしダムがなければ、それらは直下の市街地へと流れて

いき、橋梁に引っかかって水をせき止めたり橋を押し流し

たり、あるいは海まで流れつけば、刺し網や定置網にから

まって漁業に影響を与えるはずである。

ダムに流れ着いた流木の一部は、チップや炭、薪、流木ア

ート用材などにして有効活用されている。しかしこれらは全

流木の2割程度に過ぎず、残りは廃棄処分しているという。

北上川ダム統管では、一般の人々に暮らしとダムとのか

かわりを理解してもらうために、平成3年から「ダム開放

講座」を開催している。5ダムの目的や歴史、またはダム

のある地域の特徴を紹介したり、ダムの近くに住む方々に

講演をお願いしたり、時にはカヌー体験もある。定員は50

名で、1日かけて1ダムを回り、1年で5ダムを巡る。今ま

でにのべ1,000人以上の人が参加したことになる。

今年で13回目となるこの「ダム開放講座」には、受講

者が自発的に組織した「北上川五大ダム交流会」があり、

現在岩手県内で170名ほどの会員がいるそうだ。交流会で

は年に1回研修会を行い、会員相互の親睦を図るかたわら

県外のダムに見学に行ったりしている。「ダムでイベント

がある場合は会の役員の方にお知らせしています。一度ダ

ムに来てくれた人が会まで作ってくれ、我々が流域住民の

皆さんの安心・安全のためにダム管理を行っているという

ことを理解していただいて、応援団になってくれるという

のは本当にありがたいことです」

御所ダムに隣接して、財団法人盛岡地域地場産業振興セ

ンターの「盛岡手づくり村」がある。ここには南部鉄器や

民芸品、南部煎餅等の工房があり、商品の生産拠点である

とともに、訪問者に南部煎餅やわら細工、陶器等の手づく

り体験もさせている。御所湖を見下ろす眺めの良いその場

所には「曲がり屋」と呼ばれる古民家も移築してあり、自

然溢れる景観や盛岡市内から20分という地の利、そして

近隣につなぎ温泉や小岩井農場があることも手伝って、年

間50~60万人の人が訪れる。

「手づくり村、つなぎ温泉、小岩井農場の三者が御所湖

を中心に観光の活性化を図ろうということで、『ワイワイ

手つなぎプロジェクト』という任意団体を作って、御所湖

周辺に桜の木を植えたり、観光マップを作成したり、さま

ざまな活動をしています。観光の拠点としてダムをうまく

使ってもらっているいい例だと思います」

この「盛岡手づくり村」の設立には「手づくり村協力

会」という地元の人々の協力があった。この会にはダム水

没者も含まれており、誘致にも一役買ったという。ダムが

地元の人々に受け入れられ、地域の発展とともにあること

が、ダム湖の公園として全国でも一、二を争う集客数をも

つ一因になっているのであろう。

取材した8月5日の深夜から早朝にかけて、盛岡では時

間雨量30㎜の雨が降り、朝4時には大雨警報も出た。雨は

宿泊先のホテルの窓を激しく叩き、目が覚めるほどの勢い

だった。

翌日、岩手県県土整備部河川課を訪ねると、「今日は県

のダムでも放流していますよ」と佐藤文夫河川課長が教え

てくれた。午後、放流中の綱取ダムを訪れることにして、

御所湖のゴミと流木

「ダム開放講座」と「北上川五大ダム交流会」

御所ダムと「盛岡手づくり村」

岩手県県土整備部河川課

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まずは県のダム管理についてお話を聞いた。

岩手県には53のダムがある。このうち河川課管轄のダ

ムは7ダムで、ゲート操作があるのは綱取ダムと滝ダムで

ある。ゲート操作のない5ダムでは、通常時はそれぞれを

所管する振興局土木部(土木事務所に当たる)の2名程度

が担当し、警戒体制時には兼務の職員が応援に駆けつける

という体制をとっている。ゲート操作のある2ダムでは、

それぞれ4名の県職員と補助員数名が常駐し、管理に当た

っている。7ダムのうち5ダムでは、ホームページで正時

ごとの水位、流入・放流量のデータを確認することができ

る。今年の7月には携帯電話からのアクセスが、約1,500

件あり、昨年より大幅に増えたという。

昭和63年に、岩手県では全53ダムの組織「岩手県ダム

管理連絡協議会」が設立され、研修会や情報交換を行って

きた。「岩手県では農政部が先行してダムを造ったんです」

と佐藤河川課長は言う。「農水省が造って企業局が管理し

ている大きなダムや小さい農地防災ダム、他にも市町村に

委託しているダムも結構ありますから、さまざまな情報を

一括して整理しようということで、河川課で今『岩手のダ

ム』という資料を今年度末を目安に編纂中です」

昼過ぎに綱取ダム管理事務所に到着すると、11�/sを

コンジットゲートから放流している最中だった。洪水吐か

らは白濁した水が勢いよく噴き出しているが、減勢池を出

ると流れは澄んで美しい。わずかに霧を漂わせながら中津

川は盛岡市へと流下していく。

思ったほどの流量ではないので伊藤宏所長に伺うと、最

近、雨が少なくて乾いていたので雨量が多い割に流量は少

ないという。

そうはいっても、洪水警戒体制に入る時には大変だった

はずである。この日の経緯を遡ると、前夜、あまりにも雨

の降り方が激しいので、夜中の2時半頃に、予め決められ

ている「警戒体制当番」が事務所で夜勤をしている当直専

門員に電話で連絡をとった。当番はその後事務所に出勤

し、発電と主バルブで流量調節をしながら様子を見ていた

ところ、4時に大雨警報が出された。この時には自発的に

他の職員も出勤、追うようにして伊藤所長も出勤し、3名

で水文情報や気象情報の確認、洪水調節の立案、警戒体制

の通知等を行った。

ゲート放流は夜明け以降に行うことにした。遅れが出る

ことにはなるが、よほどの雨量でない限り、下流住民のこ

とを考えて、夜中にサイレンを鳴らして放流するというこ

とはない。今回は特に、降雨時間が短く時間的にも余裕を

もって行えるという判断もあり、事務所に職員がそろう8

時半を待って警報活動開始、9時半からの放流となった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

盛岡市に戻って来ると、開運橋からの眺めは驚くほど昨

日のものとは違っていた。茶色く濁った北上川は渦を巻き

ながら勢いよく流れ、河川敷の樹木は水没して枝先が濁流

のほしいままにされている。橋の上を行き来する人々は珍

しそうに川を見下ろしてはいるものの、立ち止まることな

く帰路についていた。見上げると、北上川上流方面の山々

には灰色の雲が立ち込めていた。雨が降っているのかもし

れない。各ダム管理所で、そして関係機関で、今も多くの

職員が洪水対応に追われていることだろう。ますます水嵩

を増していく北上川を眺めながら、この街に住む人々も街

の営みも、あの職員の献身とダムによって守られているこ

とを改めて実感した。

(取材・文 神澤志摩)

綱取ダム管理事務所北上川盛岡市内河川の洪水(平成16年8月6日)

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読者 の声 読者 の声 読者 の声

21リザバー 2004.9

平成13年7月「新しい時代のダム管理のあり方」

の答申により、これからのダム管理についての方向

性が示されました。これまでも、河川管理施設等構

造令、ダム・堰施設技術基準、そしてダム管理用制

御処理設備標準設計仕様などの検討の過程でダム管理

の考え方について議論されてきていますが、どちらか

というと、放流設備の設計を通しての議論であった

ように思います。ダム管理に携わる者として新たな

課題に対応することが求められていると感じておりま

した最中、リザバー誌上に「ダム管理の要諦」と題し

て廣瀬利雄氏が提言されているのを拝見し、感じる

ところがありましたので、私見を述べさせていただき

ます。

ダム管理の中でも最も重要な流水管理は、情報を

収集・処理して放流設備の操作や通知・警報等の情

報発信を行うものですが、洪水時にはこれらの作業

が短時間のうちに集中し、管理職員の負荷は極めて

大きくなります。廣瀬氏の言われるように、操作規

則・細則及び操作に係わるダムコン(ダム管理用制

御処理設備)の仕様(ソフト面)の簡素化により、危

機管理への対応を容易なものとすることは極めて重要

であると考えます。これに加え、私は管理所職員の

判断すべき項目についても同様に簡素化と明確化が必

要と考えます。

貯水池の空容量を基本に放流量を決定する水位放

流方式の採用など、操作のための判断基準が明確に

なるよう配慮するとともに、水理・水文事象が確実

に把握できる範囲(今後、大雨が予想されないこと

等)においてその情報を活用することも簡素化に繋

がるものと思います。このような運用は最高効率を

狙うものであってはならないと思います。結果として

効果の大小が出てくるのは当然として、起こしては

ならないことを回避することができるものであれば良

しとすべきではないでしょうか。

さて、ダムコンの仕様の簡素化ですが、もともと

ダムコンは情報を使いやすい形に加工して提供する

ことにより管理業務を円滑に進めるための支援装置

であり、同時にゲート制御に対しても管理職員を支

援するものとして、システムが構築されてきていま

す。すなわち、ゲート設備に設けられた開度計や各

種センサーからの情報を用いて、ゲートの動作と

状態把握を行うゲート制御の支援装置でもありま

した。

ゲートの操作は機側操作、遠方手動操作とダムコ

ンのゲート操作部分が連携して実行するもので、廣

瀬氏の指摘されるように情報管理と操作を区分して、

管理設備全体としてシステムの簡素化を図ることが必

要です。ゲート制御側では、これまで数値情報を扱

わない役割分担になっていましたが、機側操作盤に

PC等の電子制御機器が用いられるようになってきた

今、この役割分担を見直すことが危機管理や簡素化

への対応に必要不可欠と考えます。ゲート制御にか

かわる数多くの情報は機側にあり、機側で対応して

結果だけを管理職員に知らせるだけで済むものは相当

に多いと思います。

現在検討されている新しいダムコンのシステムは、

このような考え方に基づき、ダムコンによる操作、機

側操作、遠方手動操作、それぞれが持つべき機能と

適切な分担、開度計情報の取り扱い、トラブル時の

対応・復旧などを考えて構築されています。しかし、

できるからといって何でも詰め込むことは避けなけれ

ばなりません。トラブルが生じても絶対に起こして

はならないことを回避できるシステムの簡素化に配慮

することが肝要です。

* 財団法人ダム技術センター 参与・研究第一部長

提言「ダム管理の要諦」を読んで

高須修二*

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「リザバー」を分かりやすく、読みやすい情報交換誌にするために、「リザバー」の原稿執筆について下記のように定めます。

①「リザバー」は、行政などへの依頼記事、投稿、編集事務局の取材記事などから構成しますが、これらの原稿は「リザバー」編集委員会で審議した基本的構成に照らし合わせて、内容を確認・校正し編集事務局で編集します。

②原稿は、A4判縦、横書きで編集したもので、電子媒体(FD、CD-ROM、MO等)又は紙原稿を、編集事務局までE-mailか FAX、郵送でお送りください。

③原則として、1ページは10.5ポイントの文字で1,800字とします。写真・図などがある場合、それらも含めて指定のページ数に納めてください。

④小見出しは、1・・・、(1)・・・、(イ)(ロ)・・・、a)b)・・・を原則とします。

⑤図や写真は原稿提出時には文中に組み込まず、別紙、データ等を添付してください。縮尺等は誌面構成上、編集局にご一任ください。その際、図の挿入希望カ所を赤字で記入、返却希望の資料にはその旨明記してください。

貯水池管理の総合的な情報誌「リザバー」第3号をお届け

します。

●「提言」は、京都大学池淵教授から今後のダム貯水池管理に

関して、幅広い視点でかつ具体的な提言をいただきました。

これらの提言が実務管理に活用されるようさらに議論が深ま

り、ダム貯水池を管理する方々のお役に立てばと思います。

●「座談会」は、利水補給、水質問題、情報公開等について

掲載しました。次号は、水力発電ダムの管理所業務に携わ

った方々による座談会を掲載する予定です。

●平成15年度末から、ダム・堰危機管理業務顕彰が行われ

るようになり、その第1回優秀管理団体のうち市房ダム

(熊本県)及び石田川ダム(滋賀県)を紹介いたします。今

後も表彰されたダムについて順次ご紹介していきます。

●ライターの神澤さんから猛暑の8月初め、岩手県内の国交

省及び県のダム管理所を訪ね、洪水のゲート放流に遭遇した

実感を含めたダム管理の実情レポートをいただきました。

●第2号の「提言」に対する御意見を高須様よりいただきま

したので、「読者の声」欄に掲載しました。

今後とも皆様から御意見をお待ちしてます。

(「リザバー」編集事務局)

「リザバー」編集委員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

委員長:中川 博次 立命館大学 理工学部教授

委 員:坪香 伸(国土交通省河川局河川環境課長)、齋藤 政満(農林水産省農村振興局水利整備課 施設管理室長)雨宮宏文(元福島県土木部長)、福田 昌史(独立行政法人水資源機構 理事)、吉越 洋(東京電力(株)フェロー)岡野 眞久((財)ダム水源地環境整備センター 理事)

発 行 日 平成16年 9月発 行 人 財団法人 ダム水源地環境整備センター

理事長 加 藤 昭〒102-0083東京都千代田区�町 2-14-2 NKビル●編集事務局 Tel : 03-3263-9051 Fax: 03-3263-9085 E-mail : [email protected]

印刷  株式会社 光 和  定価 500円

ダム水源地環境整備センター発行の「ダム水源地ネット」ではこの秋、地域に開かれたダム

や豊かな生態系を育んでいる日本の代表的なダム湖を選定・顕彰し、その役割などを広く

一般に知っていただこうと、「ダム湖百選」を創設しました。募集期間は12月15日まで。

くわしくはダム水源地環境整備センター内「ダム湖百選選定委員会」事務局までどうぞ。

●・・・・・・・・・・ダム湖百選 募集しています・・・・・・・・・・●

季刊誌

2004.9 NO.3

「リザバー」原稿執筆要領

お知知お知お知お知お知お知お知お知お知お知お知お知お知お知お知お知お知お知おおおおお知知知お知お知知知知知知お知らせらせらせらせらせららららせらせせせせらせらせらららららせせせせせららららせらせらせ