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冷却,温熱およびマッサージ刺激が 筋・腱の力学的特性に及ぼす影響 東京大学大学院 (共同研究者) 同 同 同 啓 太郎 愽 陷 素 樹 哲 郎 33 Effects of Cooling , Heating and ]Massage on the Mechanical Properties of Muscle and Tendon by Keitaro Kubo , Hiroaki Kanehisa , Motoki Kouzaki , Tetsuro Muraoka £~)epaΓtment of£ife Sciencら び湎卯r 肩ty of Tokyo ABSTRACT The present study aimed to quantify the mechanical properties of tendon and aponeurosis during passive stretch and active contraction and to investigate the effects of cooling  (5 ° water), heating (42° water) and massage on the mechanical properties of muscle and tendon in VIVO. Before and after these conditions , the elongation of the muscle fiber , tendon and aponeurosis of medial gastrocnemius muscle was directly measured by ultrasonography while the ankle joint was passive ]y moved at 5 °  /s within the joint range of  +15 ° to  -30°(O ° = neutral anatomic position; positive values for plantar -flexion) and subjects performed ramp isometric plantar flexion up to the voluntary maximum . The strain was calculated as the length change relative to the reference length of tendon aponeurosis when the ankle joint was O°. While the muscle fiber and tendon structures  (tendon and aponeurosis ) stretched during passive dorsi-flexion, the elongation and strain of tendon  (21 .8±3 .2 ram, 11 .6士1 ,2 %) was significantly greater than that of aponeurosis  (5 .2±2 .2 mm , 5 .2±1 .8 % ). デサントスポーツ科学Vol . 25

冷却,温熱およびマッサージ刺激が 筋・腱の力学的 …...冷却,温熱およびマッサージ刺激が 筋・腱の力学的特性に及ぼす影響 東京大学大学院

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  • 冷却,温熱およびマッサージ刺激が

    筋・腱の力学的特性に及ぼす影響

    東京大学大学院

    (共同研究者)同

    同 

    啓太郎

    愽 陷

    素 樹

    哲 郎

    33

    Effects of Cooling, Heating and]Massage on the Mechanical Properties of

    Muscle and Tendon

    by

    Keitaro Kubo , Hiroaki Kanehisa ,

    Motoki Kouzaki , Tetsuro Muraoka

    £~)epaΓtment  of£ife Sciencら び湎卯r 肩ty of Tokyo

    ABSTRACT

    The present study aimed to quantify the mechanical properties of tendon and aponeurosis

    during passive stretch and active contraction and to investigate the effects of cooling (5 °

    water ), heating  (42 ° water) and massage on the mechanical properties of muscle and

    tendon in VIVO. Before and after these conditions, the elongation of the muscle fiber, tendon

    and aponeurosis of medial gastrocnemius muscle was directly measured by ultrasonography ,

    while the ankle joint was passive]y moved at 5° /s within the joint range of +15 ° to -30°(O °

    = neutral anatomic position; positive values for plantar-flexion) and subjects performed

    ramp isometric plantar flexion up to the voluntary maximum . The strain was calculated as

    the length change relative to the reference length of tendon aponeurosis when the ankle joint

    was O °. While the muscle fiber and tendon structures (tendon and aponeurosis ) stretched

    during passive dorsi-flexion, the elongation and strain of tendon (21 .8±3 .2 ram, 11.6士1 ,2

    %) was significantly greater than that of aponeurosis  (5 .2±2 .2 mm , 5.2±1 .8 % ).

    デサントスポーツ科学Vol . 25

  • -34 -               I ・

    During isometric contraction, the maximal elongation and strain of tendon (10 .3±2 .3 mm ,

    5.6±1 .4 %) were significantly greater than that of 叩oneurosis (3.2±1 .6 mm, 3.2±1 .5

    %). Furthermore , no significant changes in the elongation of muscle fiber and tendon

    structures were found after cooling, heating and massage, although the maximal isometric

    strength decreased significantly after cooling and massage・ The present result suggested that

    the general icing, hot pack and massage did not change the mechanical properties of muscle

    and tendon.  卜

    要 旨

    本研究の目的は,受動併1張中および等尺性収縮

    中における外部腱および驗膜の力学的特性を比較

    し,冷却,温熱およびマッサージ刺激が筋・臚の

    力学的特性に及ぼす影響を検討することである.

    13 名の被検者を対象に,受動伸張中および等尺

    性収縮中の筋線維,外部馳および臆膜の伸張量を

    超音波診断装置を用いて測定した.受動的足背屈

    に伴い筋・腱ともに伸張したが,臚膜に比べて外

    部腱の伸張量が大きいことが示された.等尺性収

    縮中における外部腱の伸張量は,臚膜に比べて有

    意に大きかった.等尺性最大筋力は,冷却および

    マッサージ後に減少したが,温熱刺激後には変化

    が認められなかった.七かし,冷却,温熱および

    マッサージ刺激ともに筋・健の力学的特性には有

    意な変化を示さなかった.これらの結果より,実

    際のスポーツ現場で実施されているアイシング,

    ホットパックによる温熱齟よび疲労回復を目的と

    したマッサージでは,筋・臘の力学的特性を変化

    させないことが示唆された.

    緒 言

    実際のスポーツ現場では,パフォーマンスの向

    上およびリハビリを目的として,アイシング,ホ

    ットパックによる温熱,マッサージなどが実施さ

    れている.これらを行うことにより,外部刺激や

    筋内の血流量の変化などから,筋・腱内部の温度

    に変化が生じることが考えられる.筋温の変化に

    伴い,最大筋力,力発揮速度, Electromechanical

    delay (EMD )などの筋機能が変化することが報

    告されている1・3).こ れら筋温に伴う筋機能の変

    化については,クロスブリッジ形成速度,筋小胞

    体からのカリシウムイオン放出速度の変化などの

    筋内の化学的エ ネルギー反応速度変化によるもの

    とされてきた4).一方,筋は諸を介して骨 に連結

    しているためj 力発揮速度やEMD の決定因子の

    1 つとして臘の特性が挙げられる21).従って,温

    度変化によって諸の特性に変化が生じ,それが筋

    機能 に影響を及ぼしてい る可能性 が考えられる.

    さらに,筋・腱内部の温度変化 に伴うパフォーマ

    ンス向上,および障害予防のメカニズムを知るた

    めには,ヒト生体における温度変化 (マ ッサージ

    刺激による変化 も含む)が筋・健の力学的特性に

    及ぼす影響を把握する必要があるレ

    近年,超音波法を用いることに より,と卜生体

    の諸 組織の特性が測定可 能にな って きた11-14)

    我々は,ヒト生体の諸組織は従来の摘出健データ

    よりもかなりコンプライアントであり,特に諸膜

    の特性が主要因であると報告 している11・12). し

    かし,外部諸と諸膜の特性に相違があるとする報

    告と,同一であるとする報告があり,一致した見

    解が得ら れていない13,14) _さらに,多 くの研究

    では,筋収縮中の鍵組織の伸張量を計測したもの

    が大部分で,受動伸張中の特性についての報告は

    非常 に少ない.そこで本研究では,超音波法を用

    デサントスポーツ科学Vol . 25

  • いて,受動伸張巾および筋収綸巾における外部臚

    および腱膜の力学的特性を比較し,冷却,温熱お

    よびマッサージ刺激がヒト生体の筋・腱の力学的

    特性に及ぼす影響を検討することを目的とする.

    1 .方 法

    1 .1  被検者

    被検者は,習慣的にレジスタンストレーニング

    を行っていない健康な成人男性13 名(年齢25 ±

    2 歳,身長173 ±5 cm, 体重66 ±6  kg)を用いた.

    被検者には,あらかじめ実験の趣旨を説明したう

    えで了承を得た.なおスケジュールの都合のため,

    冷却および温熱刺激条件では8 名,マッサージ刺

    激条件では5 名が実験に参加した.

    1 .2  冷却,温熱およびマッサージ刺激

    冷却および温熱条件では,8 名の被検者が冷水

    (5°),温水(42 °)の入った水槽 に下腿をそれぞ

    れ30 分間浸 した.水温をなるべ く一定 に保つた

    めに氷や湯を適宜追加した.マッサージ条件では,

    5 名の被検者が15 分間の専門家(有資格者)によ

    るマッサージを受けた.

    1.3  筋 一腱の力学的特性

    冷却,温熱およびマッサージ条件の前後で,下

    記の受動伸張中および等尺性収縮中における筋・

    腱の力学的特性の測定を行った.

    1.3 .1  受動伸張中の特性

    被検者は筋力測定器(Myolet, Asics)を用いて

    伏臥位姿勢にてストラップを用いて体幹部を固定

    された.足関節底屈15°から背屈30卜(解剖学的

    位置を0°)の範囲を5°/秒の角速度で受動的に足

    背屈させた際の腓腹筋内側頭(MG )の縦断画像

    を超音波診断装置(SSD -2000)を用いて30Hz に

    て撮影し,トルク信号と同期させるためにタイマ

    ーを入れてビデオ録画した.測定箇所は,筋・腱

    移行部(PI)とMG 筋腹中央部(P2)とした.得

    デサントスポーツ科学Vol. 25

    -35  -

    られた画像から筋線維,腱膜(筋内の腱),外部

    腱(アキレス腱)の伸張量を測定した.筋線維長

    は,深部腱膜から浅部腱膜までの距離として計測

    した.MG の筋・腱全体長は,足関節角度変化か

    らGrieveら6)の式を用いて算出した.外部館の

    伸張量は,筋・鍵全体長変化から,PI の移動量

    を減ずることにより算出した.腱膜の伸張量は,

    PI の移動量からP2 の移動量を減ずることにより

    算出した.なお,ストレインは足角度O °位置で

    の値を初期長として算出した.

    1 .3 .2  等尺性収縮中の特性

    被検者の姿勢は上述の受動伸張中の測定時と同

    様である.運動課題は足角度O °の位置での等尺

    性足底屈運動を安静から最大筋力発揮(MVC )

    まで約5 秒間で達するようなランプ状の力発揮で

    あった.力発揮を行わせている際のMG の縦断画

    像を超音波診断装置を用いて撮像した.測定箇所,

    測定方法については,上述の受動伸張中の測定と

    同様である.得られた画像から,P1 およびP2 の

    移動距離(伸張量)を計測した.

    発揮トルク(TQ )は以下の式により,筋張力

    (Ff)に変換した1疣

    Ff = k・TQ-MA1

    k は下腿三頭筋群におけるMG の生理学的横断

    面積の相対比であり,下腿三頭筋の発揮張力に占

    めるMG の貢献度とした.MA は足角度O °におけ

    るアキレス腱のモーメントアームである(上記の

    受動伸張中の腱移動量より算出).

    1 .3 .4  統 計

    各測定項目の値はすべて平均土標準偏差で示し

    た.刺激前後の比較については対応のあるt検定

    を用いた.有意水準は5 %未満とした.

    2 .結 果

    図1 に受動伸張中における筋線維,外部腱およ

    び腱膜の伸張量(A)および外部臘お よび腱膜の

    ストレイン(B)を示した.足背屈に従い,筋線

  • 36 -

    25

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    』 5 10Strain(%)図1  受動伸張中における筋線維(△),外部腱(◆)

    および腱膜(口)の伸張量(A)と受動トルクと外部腱

    (◆)および臘膜((コ)のストレインとの関係(B)

    維,外部臆および健膜ともに伸張 し,底屈15 度

    から背 屈30 度 まで にそ れぞ れ21 .5±2 .5 mm,

    21.8±3 .2 mm, 5.2±2.2 mm 伸張した.髄膜に比

    して外部髄の伸張量が有意に大 きかった.それは,

    初期長を考慮したストレインでも同様で,外部髄

    が11 .6±1 .2%,髄膜が5 .2±1 .8%であった.30

    度背屈位での受動トルクは, 30.2±7 .5 Nm であ

    った.

    図2 に等尺性収縮中における筋張力と髄組織の

    伸張量 (A )およびストレ イン(B )との関係を

    示した.最大伸張量およびストレインは,髄組織

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    2 4 6 80

    Strain (%)

    図2  等尺性収縮中における張力と腱組織全体(O ),

    外部健(◆)および髄膜(匚)の伸張量(A)およびス

    トレイン(B)との関係

    全体(外部靆と髄膜)で13 .5±2 .7 mm, 4.7±0.9

    %,外部髄で10 .3±2 .3 mm, 5.6±1 .4 %,詰膜

    で3 .2±1 .6 mm, 3.2±1 .5 %であった,

    図3 に冷却刺激前後における受動伸張中の足角

    度と筋線維,外部髄および健膜 の伸張量との関係

    (A ),等尺性収縮中の筋張力 と外部臘および詰組

    織全体の伸張量との関係(B )を示した.受動伸

    張中の受動トルク,筋線維,外部腱および詰膜の

    伸張量には有意な変化は認められなかった.冷却

    後にMVC は103 .1±11 .9Nm から93 .8±16 .9 Nm

    へと有意に減少し たが(p=0.04),筋張力 と外部

    デサントスポーツ科学Vol . 25

  • 30

    25

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    図3  冷却前後(前;open,後; closed)における受動伸張

    中(A )および等尺性収縮中(B)の筋線維(△),外部肱

    (◇),腱膜[ ])および腱組織全体(○)の力学的特性

    腱お よび驗 組織全 体 の伸 張量 との関係 に は有 意な

    変化 は認め られ なかった.

    図4 に温熱 刺 激 前後 におけ る受動 伸張 中 の足 角

    度と筋線 維,外 部腱お よび臘 膜の伸 張量 との関係

    (A ),等 尺性 収縮 中 の筋張力 と外 部驗お よび臘組

    織全 体の伸 張量 との関係 (B ) を示 した.受 動伸

    張 中の受 動 ト ル クは, 26.7±3 .6 Nm から24 .5±

    3.2 Nmへ と有 意 に 減少 したが (p=0.03), 筋線維 ,

    外 部腱お よび臘膜 の伸張 量に は有 意 な変 化 は認 め

    ら れ なかっ た. 温 熱刺 激後 にMVC , 筋 張力 と外

    部 腱お よび腱 組織 全体 の伸張量 との 関係 にも有 意

    デサントスポーツ科学Vol . 25

    0   

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    37 -

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    図4  温熱前後(前;open,後; closed)における受動伸張

    中(A)および等尺性収縮中(B )の筋線維(△),外部胱

    (◇),腱膜(口)および腱組織全体(○)の力学的特性

    な 変化 は認め られなかっ た.

    図5 にマ ッサ ージ前後 にお け る受動 伸張 中の足

    角 度 と筋線 維,外部 腱お よび腱膜 の伸 張量 との関

    係 (A ),等 尺性 収縮 中 の筋 張力 と外 部臘 お よび

    腱 組織全 体 の伸張 量 との関係 (B ) を 示 した .受

    動 伸 張 中の受動 トル ク,筋 線維 ,外部 腱お よび腱

    膜 の 伸 張 量 に は有 意 な変 化 は 認 め ら れ なか っ た .

    マ ッ サ ー ジ 後 にMVC は123 .0±8 .0Nm か ら

    108 .3土12 .8 Nmへ と有 意 に減 少 しtz  (p =0.03).

    収 縮中 の張力 と外部腱お よび臘組織全 体 の伸張量

    との関係 に は有 意な変化 は認 め られな かっ たレ

  • 38 -

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    図5  マ ッサ ージ前 後 (前;open ,後; closed) にお け る受 動

    伸張 中 (A ) お よび 等 尺性 収 縮 中 (B ) の筋 線 維 (△ ),外

    部腱(◇ ),腱 膜(口 )お よ び腱組 織 全体 (○ ) の力 学的 特性

    3 .考 察

    腱組織の力学的特性に関する研究は動物やビト

    屍体からの摘出臘により行 われてきた2).しかし,

    その大部分は破断までの比較的高いストレスが課

    せられた状態での特性の評価が大部分であり,低

    い強度での特性に関する研究は意外に少ないのが

    現状であった.さらに,生体では腱の「カ ー長さ」

    関係におけるtoe 相を使用しているため11・12),こ

    のような低いストレスレベルでの特性は非常に重

    要であると考えられる.本研究では,受動伸張中

    に筋線維,諸組織がそれぞれ伸張することが示さ

    れた. さちに,受動伸張の初期 においては外部諸

    と髄膜がともに伸張したものの途中から健膜の伸

    張がみられなくなり,逆に外部髄は受動伸張中に

    伸張を続けた.従って,健組織の伸張の大部分は

    外部諸によるものであることが明らかになった

    最近,等尺性収縮中の伸張量からヒト生体の諸

    特性に関する報告が多 くなってい る11-14).その

    大部分の報告では,これまでの摘出諸 データより

    もステイッフネスやヤング率がヒト生体では低く,

    その原 因 として諸 膜の 特性が 挙 げら れてい る

    11,12) ^

    実 際に, Maganaris とpau114 )は,髄膜

    (7 %)は外部腔(2.5%)に比 してストレインが

    大きいことを報告している.一方, Magnusson ら

    14)は,外部臆のストレ イン(8 %) は髄膜のス

    トレ イン(1.4%) よりも大 きいこ とを報告して

    い る.従 って,外 部諸 と健膜の特性については,

    一致した見解が得られていない.本研究の結果は,

    Magnusson ら14)の結果を支持するものとなった.

    Finniら5 )は, MRI を用いて,最大下収縮レベル

    での匕ラメ筋髄膜とアキレス諸のストレインにつ

    いて調べ, 4096MVC でアキレス誕のストレイン

    が4.7%,髄膜のストレインが2 .8 %と報告してい

    る.本研究の結果はMVC 発揮時の最大ストレイ

    ンであることを考慮すると,本研究で得られたデ

    ータは妥当であると思 われる.本研究の結果と最

    近のビトを対象にした先行研究の結果を併せて考

    慮すると,ヒト生体では外部諸 は摘出諸で報告さ

    れて きたデータ2)よりもかなりコ ンプライアン

    トであり,逆に健膜はそれほど伸展性を有してい

    ない可能性が示唆された.

    冷却刺激により,最大筋力および力発揮速度が

    低下することが報告されている3・1剔 これらの要

    因としては,クロスブリッジ形成速度および筋小

    胞体からのカルシウムイオン放出速度の低下など

    の筋内の化学的変化 によるものとされてきた4).

    実際に, Bergh とEkbloml )は冷却刺激によって.

    デサントスポーツ科学Vol . 25

  • 等尺性最大筋力では変化がみられない ものの等速

    性筋力では有意な低下がみられ,前述の考えを支

    持する結果を報告している.さらに,力発揮速度,

    弛緩時間の減少,ジャンプ高の低下も示されてい

    る3・16).これらの冷却による変化の原因としては,

    上述の筋内の化学的変化に加えて,腔組織の力学

    的特性の変化が予想される.摘出臘を用い た実験

    により,冷却による特性変化 に関する知見が幾つ

    か存在する.例えば, Noonan ら15)は冷却によっ

    て,スティ ッフネスが増加することを報告してい

    る.Walker ら18)も同様に,23 ~49 °の範囲で,

    温度低下とともにヤング率の増加を示している.

    しかし,本研究では冷却刺激が受動伸張中お よび

    等尺性収縮中における臆組織の特性に及ぼす影響

    は認められなかった.この原因としては,実際の

    筋内の温度が摘出諸を用いた先行研究での筋温ま

    で低下していなかったことが考えられる.木目ら

    lo)は本研究と同様のプロトコールで筋温を測定

    した結果,約3 .7°の低下を示したことを報告して

    い る.従っ て,本研究で用い た30 分 間の冷水

    (5°)による冷却刺激は,摘出腱 を用いた先行研

    究のような筋温の低下をもたらさなかったことが

    示唆された.しかし,実際の現場でアイシングな

    どを用いた場合の温度変化は本研究と同程度であ

    ると考えられるため,このような処置を施しても

    筋・健の力学的特性には変化 をもたらさないこと

    が示唆 された.

    実際の現場では,関節各組織の柔軟性を高める

    ためにホトパックを用いた温熱刺激が行われてい

    る.本研究でもβ0分の温熱刺激後に,受動ト ル

    クが有意に減少したことから,足関節における柔

    軟性が高まったものと考えられる.柔軟性を高め

    るその他の手法として,ストレッチングが多用さ

    れる.我々の先行研究によるとn ),10 分間のス

    タティックストレッチにより,本研究と同様の手

    法により測定された足底屈筋群の受動トルクは,

    約24 %の低下を示した.Henricson ら7)は,温熱

    デサントスポーツ科学Vol , 25

    -39 -

    刺激とストレッチによる股関節 の柔軟性 に対する

    効果を比較し,温熱刺激では柔軟性に変化がみら

    れないものの,ストッレチのみでは柔 軟性の改善

    がみられたことを報告している.したがって,柔

    軟性の改善という観点からは,温熱刺 激よりも物

    理的な刺激が加わるストレッチの方が 有効である

    ことが示唆された.

    先行研究では,環境温度(もしくは筋温)の変

    化 にしたがい,最大筋力,力 発揮速度, EMD な

    どが変化することが示されている8). 特に,力発

    揮速度やEMD の決定因子の1 つとし て,臘の特

    性が挙げられる21).すなわち,筋・腱内部の温

    度上昇により,腱の伸展性が高まるこ とが予想さ

    れた.しかし,本研究では,受動伸張 中および等

    尺性収縮中の臘組織の特性には温熱刺 激の影響が

    み られなかった.摘出腱 を用い た実 験によると,

    温度上昇 (39 °~45 °までの範囲)に伴い腱 の伸

    展性が増加することが示 されている19 ).本研究

    と|司様のプロトコールによる筋温の結果10)を参

    考 にすると,30 分間の温熱で約4 度の筋温の上昇

    が予想 され,摘出腱を用いた実験の温度変化 に比

    べ てかなり範囲が狭いことが考えられる.しかし,

    実際のホットパックなどによる温熱刺 激も本研究

    と同程度のものと考えられることから,実際の現

    場での温熱刺激では脆組織の伸展性を変化させる

    までには至らないことが示唆された.

    本研 究では,マ ッサージ後 にMVC が低 下し,

    こ れまでの先行研究と一致した2剛 一方,柔軟

    性への効果については,マッサージの影響は認め

    られなかった.同様に, Wiktorsson-Mollerら20)

    も関節可動域の増大 に効果的なのはマ ッサージよ

    りもストレッチであることを報告している.さら

    に,上述の冷却,温熱条件と同様に, マッサージ

    でも筋線維および臆組織の力学的特性 には有意な

    変化を もたらさない ことが示唆された.つ まり,

    マッサージによって血流の増加が生じ るものの9),

    それによる筋温の上昇が本研究で用い た温熱刺激

  • -40 -

    と同程度(もしくはそれ以下)のため,筋・腱の

    力学的特性に変化を及ぼすまでには至らなかった

    ことが考えられた

    4 .まとめ

    本研究では,受動伸張中に筋線維および髄組織

    がそれぞれ伸張するが,髄組織伸張の大部分は外

    部髄によるものであることが示された.さらに収

    縮中の外部髄 と髄膜の特性を比較すると,外部髄

    の伸展性 は髄膜よりも高いことが明らかになった.

    しかし,冷却,温熱,お よびマ ッサージ刺激前後

    で外部髄お よび髄膜の力学的特性に変化が生じな

    いことが示 された.

    謝 辞

    本研究に対して助成を賜った(財)石本記念デ

    サントスポーツ科学振興財団に厚く御礼申し上げ

    ます.       エ

    文 献

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