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IT革命の経済的インパクト2002年12月
室田泰弘(湘南エコノメトリクス)
全体の構成
1.IT革命の推移2.IT革命の経済構造への影響
3.IT革命とアメリカ経済4.IT革命と日本経済5.エコノメイトによる試算
IT革命の推移
• IT革命は1950-60年代に芽生える。• 第1段階:1990年代半ばに始まったパソコンとインターネットの融合によるディジタル財の大衆化。
• 第2段階:ブロードバンド化(光ファイバー + P2P)による社会構造の変化(工業化社会からIT社会へ)。21世紀初頭に実現。
• 現在は、両者の端境期(ITバブルの崩壊、PCなどの飽和)。
• 以下各コンポネントの発展を簡単に振り返る。
パソコンの発展と大衆化• 1970年代:創始期
– CPUの誕生(71)、パソコンの登場(77)
• 1980年代:業界標準の確立– IBMPCの登場(81)、ウィンテル時代の幕開け
• 1990年代:インターネットとの融合– Windows95の発売(95)
• 背景:ムーアの法則:CPUの性能は1年半ごとに倍増する。
• 大衆化:高性能なパソコンが皆のものに(年間出荷は1億台を超える、IDC調べ)。
インターネットの発展と大衆化• 1960-70年代:要素技術の誕生と実験ネット
ARPANET(69)、TCP/IP(73)Cerf (インターネットの父)
• 1980年代半ば-90年代前半:学術ネット発展– NSFネット(86)、WWW(89)
• 90年代後半:大衆化の時代 モザイク(93)、検索エンジン(94)、現在5.8億
人のユーザー(NUA調べ)。
• 背景:メトカーフの法則:ネットワークの価値は参加者の二乗に比例。
パソコンとインターネットの融合: IT革命の第一段階実現:「百年に一度か2度の大革新」(グリーンスパン、97)
パソコンとインターネットはほぼ普及
• 先進国では、インターネットもパソコンもほぼ50%程度まで普及している(ITU調べ、家計普及率、2000年)。– スウェーデン(1)アメリカ(7)、韓国(9)、日本(13)
• 普及初期の急増期はすでに終わった。
光ファイバーの発展
• コーニングが実用化– Mauer等(70)
• GTEとAT&Tが電話回線に利用(77)• MLMレーザーの利用、SMF、DSFなどが実用化(80年代)
• 第1世代の光ネット完成(SONET:アメリカ、SDH:欧州、日本、90年代)
ブロードバンド化への道光ファイバーの発展
• 1960年代:光ファイバーは減衰が大きいため内視鏡など距離の短いところに使われた。
• 1966年:Kao & Hokhamが、不純物をガラスから除去すれば、減衰はきわめて小さくできることを発見。
• 1970年:コーニングのMauer,Keck & Schultzがこれを実現(50キロ離れても、10%の光が残存する光ファイバーを開発)。2000年国家技術賞受賞(NM of T)。
• 1977年:GTEとAT&Tが光ファイバーを電話回線に利用。
次世代光ネットワーク• 帯域幅を広げる方法
1)SDM:ファイバーを増やす。
2)TDM(時分割多重化)
3)WDM(波長分割多重化)SDMはコスト高、TDMの問題はビットレートを上げるほどPMD
が生じること。
WDMが長距離では本命 現在4-20波長、ビットレート1-10Gb/sが実用
化。ファイバーあたりテラビット/秒。将来はペタビット/秒。
急激な技術革新:ダークファイバー化
ブロードバンド時代のコンテンツ
• 個人がテレビ/ラジオ局になる。– 現在のアナログテレビ:5Mbps– DVDやCS放送並みの画質(MPEG2) :6Mbps– ハイビジョンで20Mbps
• FTTHでは少なくとも20Mbpsは出る。
ネットワークが「P2P」の時代に。
ランダムなネット:P2P
• サーバーを経由せず、PC同士がランダムネットを形成。
• ランダムネットは頑健で、しかもスケーラブル(Hong論文)。
• これはインターネットの設計思想でもある。
P2Pの分類(H.Fattah,P2P,2002による)
• 1.アクティブ・アプリケーションユーザーの協業化:Napster,Groove Networks
ファイルシェア、ゲーミング
アプリケーションの協業化:Nextpage電子データ交換(EDI)、B2B
• 2.遊休能力の活用 リソース活用:McAfee
ストレージ、帯域幅
スーパーコンピューティング:SETI@home 高度処理能力アプリ
P2Pの進行状況
• IT大手(アメリカ)はすでに着々と対応.• サンマイクロ:P2Pの標準プロトコルJXTAを開発
中。グヌーテラの開発者Gene Kanのインフラサーチを買収(2001年3月)。
• インテル:P2PWorking Groupを結成.• マイクロソフト:Groovenetに出資(2001年10月)
IT革命の構造
ムーアの法則
インターネットの実現
ブロードバンド化
「小さな世界」
IT革命 メトカーフの法則
PCの高性能化 ディジタル財の増殖
光ファイバー
P2P技術
IT社会へ
IT革命の経済構造への影響
• IT革命は大革新(macro invention)である(P.David)。<->.micro invention:内生的TC– 非連続的で急激に生じ、社会構造を変える。– 社会に定着するまで時間がかかる。→生産性パラドックス問題
• IT革命は市場構造を変える。 効率化メカニズム:収穫逓増+カジノテーブル(B.Arthur) <->収穫逓減+パレート最適 一人勝ち、しかし数年で王座を追われる。ビジカルク→ロータス123→MSエクセル→スター・スーツ(?) →IT企業の特性
アメリカの生産性動向• ソローの発言(87)• その後95年に生産性ジャ
ンプがあったことが認められる(ディジタル・エコノミー2000)。
• 2001年を入れた計測でも同じ結果(Oliner & Sichel )。
• つまり生産性ジャンプは構造的なもの(IT革命の認知)。
• ただし成長会計にはInvestment-specfictechnology growthの問題あり(Pakko,2002).
出所:Oliner & Sichel (2002)
0.230.170.11 その他
0.760.410.26 IT関連
0.990.580.37全要素生産性
0.250.450.22労働の質改善
0.170.060.37 その他の資本
1.020.460.41 うちIT資本分
1.190.520.77資本深化による
2.431.541.36生産性の上昇
1996-20011991-951974-90
オリナー・ジッヘルの推計(2002年、%)
アメリカ生産性の今後• 今後もこの生産性上昇は続く。• オリナー・ジッヘルの推定。2%
- 2.8%/年• ジョルゲンセン・ホ・スティ
ローの推定(2002)1.3% - 2.9%/年
・その背景:1)各産業におけるテク・ギャップ
の存在(Cummings & Violante,2002)
2)ムーアの法則とメトカーフの法則は依然として有効。
出所:Oliner & Sichel (2002)
1.792.17 1.50 ITの貢献分
0.991.07 0.72 全要素生産性
0.250.30 0.30 労働の質改善
0.170.16 0.09 その他の資本
1.021.31 0.88 うちIT資本分
1.191.47 0.97 資本深化による
2.432.84 1.98 生産性の上昇
1996-2001上限下限
持続可能な生産性上昇率(%)
ただし循環的変動は大きい。
• WTOによると、2001年の世界貿易は1.5%減少した。減少を記録したのは82年以来。その主原因がアメリカのIT失速。
• Delong教授:アメリカデフレの可能性(FT,02/08/20)。生産性上昇による過剰能力発生。2001年でGDP2%拡大。潜在GDPは7%程度拡大。
アメリカの新興IT企業
• IT御三家を見る。• MSFT:2002年度売上
284億ドル、純益78億ドル。創立1975年。
• INTC:2001年度売上265億ドル、純益13億ドル。創立1968年。
• CSCO:2002年度売上189億ドル、純益19億ドル。創立1986年。
0
500,000
1,000,000
1,500,000
2,000,000
2,500,000
3,000,000
1975 1986 1992 1995 1999 2001
マイクロソフトの売上(万ドル)
アメリカIT企業の特色
• 創立年度が浅いにもかかわらず、急成長し、多額の利益を上げている。→新たな市場構造に対応した戦略をとっている。こうした企業が育たないと、IT革命の成果を生かせない。
• R&Dとマーケティングに多額の資金を投じている(業界標準を取るため、変化に乗り遅れないため)。– MSFT、経常費用165億ドル、うちR&D43億ドル、マーケティング78億ドル。
• M&Aの重視(時間を買う)。• 変わり身が早い(INTCのDRAM放棄)。
日米企業の時価総額比較・アメリカではIT先端企業
がすでに上位を占めている。しかも創立数十年でそうなっている。
・日本では、自動車や家電など過去のリーディング企業が以前上位を占める。新興企業はない。
→日本では適切な産業交代が行われていない。
出所:日経夕2002.04.15、Forbes500s
バークシャー・ハサウェイローム20
プロクター&ギャンブルJR東日本19
フィリプ・モリスイトーヨーカ堂18
ホーム・デポー任天堂17
AOLタイムワーナー日立16
コカコーラみずほHD15
シスコ野村證券14
ベライゾン東電13
SBCコミュニケーション松下電器12
メルク日産自動車11
IBM三井住友銀行10
AIGセブンイレブン9
ジョンソン&ジョンソンキャノン8
インテル武田7
シティーグループ三菱東京FG6
ファイザーホンダ5
ウォールマートソニー4
エクソンモービルNTT3
マイクロソフトトヨタ2
GENTTドコモ1
アメリカ日本
時価総額(2002年)
NTTドコモについて
• NTTドコモが時価総額最高というのは、やや問題。
• NTTドコモはiモードで国内的に成功を収めたが、単なる日本国内企業に過ぎない。
• 3Gで世界標準を取ろうとして海外投資したが、ほぼすべて失敗している(日経、2002.10.3)。
欧米アジアの携帯電話会社5社に1.9兆円を投資。 2002年3月期に9470億円の評価損を計上。 2002年9月期に5700億円の評価損を計上。• 国内でもうけた金を海外で捨てている。
なぜ産業交代がうまくいかないか:退出の難しさ仮説
HBSのJensen教授、アメリカ金融学会会長就任講演
• IT革命のような激変期には、衰退産業における過剰能力が急速に発生する。それに対して企業のダウンサイズ化と退出が必要になる。
• これには金融市場が大きな役割を果たす(M&Aなど)。製品市場での変化が生じたときには遅すぎる。企業内では、通常対応できない。
• こうした金融市場の働きがないと、衰退企業はキャッシュフローがなくなるまで、縮小も退出も行わず、結局マクロ経済にも悪影響。
• J of Finance July 1993
日本のケースに当てはめると
• ITは大革新であり、日本の大企業はそのことを読みきれていなかった。だから先端分野(PC,インターネット)に率先して飛び込み世界標準を取りきれなかった。
• 他方で、金融市場を規制したため、退出すべき産業の縮小に失敗した。
• また大革新にふさわしい新興IT企業が育たなかった。権威を恐れず、既存の枠組みの外にいて、新しいイメージを持った企業家の不在。
役所は頼りにできるか?
• 役所の政策は小革新育成(内容がわかっている。反権威的でない)には有用だが、大革新にはむしろ妨げとなる(既得権益を守る、決定の遅さ、先見性のなさ)。
• 「1993年通産省は同省の知恵を総動員して,...『21世紀の15分野』なる報告書を出した。驚くことに、通産省が想定した有望分野の中にはインターネットの「イ」の字もなかった」、米倉誠一郎『ネオIT革命』より。
IT投資の景気への影響
• エコノメイトマクロ四半期モデルとSNA連関表(2003年表)を用いて、IT投資の景気に対する効果を試算。
• IT投資:自生的投資と考える。• データ:アメリカのNIPA四半期データのIT投資を代理変数として使用。
• 設備投資関数、価格関数、輸出関数などにこの変数を入れて推定し、モデル化。
• SNA連関表:IT投資の効果をコンバータで表現。
IT投資のマクロ効果
• IT投資の伸び率が低下(BAU)、過去並みの回復(IT)。
• 成長率は若干上昇。
• 設備投資は増加。
• WPIは低下。
• 失業率も若干低下。
5.75.9URATE@完全失業率合計・季
2003
-0.6-0.2WPI卸売物価総平均
5.4 5.0 95MC#@財貨サービス輸入(実
5.2 4.3 95EXC#@財貨サービス輸出(実
-1.2 -1.4 95IG#@公的固定資本(実、季
-12.6 -14.6 95IH#@民間住宅投資(実、季
7.7 5.9 95IP#@民間企業設備(実、季
1.5 1.5 95CG#@政府最終消費(実、季
0.1 0.0 95CP#@民間最終消費(実、季
1.1 0.6 95GDP#@国内総生産(実、季調
IT_ACBAU
2002/03
マクロ経済の変化(伸び率、%)
IT投資の雇用効果
• 2003年度にかけて、雇用は全般に落ち込む(2000-BAU)。
• ITケースでは17万人程度の雇用増。
• IT関連産業(その他電機、電信電話、他事業所サなど)と規模拡大によるもの(建築・土木など)の組み合わせ。
165,600-798,900合計
14,400115,10052他の事業所サービス
1,00074,30044電信・電話
13,800-60,40036小売
27,500-803,50031建築・土木
4,30049,60026自動車
10,000-94,40025その他の電気機械
1,00065,60024民生用電気機械
70030,70014その他の化学製品
1,600-92,5007織物・繊維製品
800-14,0001農林・水産
IT-BAUBAU-2000
産業別雇用の変化(人)
まとめ• IT革命は、第1段階はパソコンとインターネット、第二段階はブロー
ドバンド化とP2Pによって展開される。現在は両者の端境期。• IT革命は大革新であり、社会制度や企業戦略に変更を迫る。• アメリカの生産性は、IT革命のために、不況下でも伸びつつあり、
今後10年程度はこれが続くと見込まれる。ただし変動は大きいようだ。
• 日本は、IT革命の成果を生かすような企業が育たなかった。適切な産業交代が各種の障害のため進まなかったため。このままでいくと、IT革命製品の単なる市場でしかなくなる。
• IT投資の景気への影響:成長率は若干上昇し、雇用も拡大する。物価は低下傾向を強める。しかしITは長期(構造変化)効果を見ていく必要があるだろう。