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JAB NOTE 1 不確かさの求め方 (化学試験分野) 1999 財団法人 日本適合性認定協会

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JAB NOTE 1

不確かさの求め方 ( 化 学 試 験 分 野 )

1999

財団法人 日本適合性認定協会

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序 「測定の不確かさの定義及びその求め方」は GUM にまとめられ、廣く知られているが、

測定の不確かさの推定は新しい概念だけあって、化学分野の試験所にとっても、それを審

査をする審査員にとっても難しい問題の一つである。 日本適合性認定協会化学分野技術委員会は審査員を主に、試験所及び識者を加えた「不

確かさ研究会」を組織し、代表的な化学試験方法をいくつか選び、それに対して、専門家

の方に不確かさの推定を行い、発表していただいた。中には必ずしも完全なものであると

いうわけには行かないものも含まれていると思われるものもあるが、これを一つの契機と

して、議論を重ねることにより、より良くすることが、大事であると判断し、この貴重な

資料を日本適合性認定協会の note1、第1版として纏めたものである。技術委員会メンバ

ー及び不確かさ研究会のご努力に感謝致します。試験所及び試験所審査員はこれを活用し

て試験所認定制度を確たるものにしていって欲しい。 平成 11 年 7 月 16 日

日本適合性認定協会 化学分野技術委員会主査

東大教授 工学博士 二瓶好正

化学不確かさ研究会メンバー 日立製作所 保田 和雄 物質工学工業研究所 高津 章子 日鐵テクノリサーチ 柿田 和俊 ノーステクノリサーチ 奥山 祐治 日本鋼管テクノリサーチ 岩田 英夫 セメント協会セメント研究所 津戸 明夫 海水総合研究所 新野 靖 日本適合性認定協会試験所認定部 青柳 邁

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JAB NOTE 1

不確かさの求め方(化学試験分野)

July 16, 1999

日本適合性認定協会試験所認定部 目次

はじめに 青柳 邁

A. 化学分析による不確かさ 高津 章子

B. 具体的な事例による不確かさの求め方と理解 保田 和雄

C. 標準物質の不確かさ 柿田 和俊

D. ガラス製体積計の校正の不確かさ 奥山 祐治

E. 規格に定められた精度を利用することによる不確かさの推定 岩田 英夫

F. 技能試験による測定値のバラツキのパラメータの推定(不確かさの推定の代替)

津戸 明夫

G. 重量法による分析の場合の不確かさの推定例 新野 靖

H. 容量法による分析の場合の不確かさの推定例 新野 靖

I. 機器分析の場合の不確かさの推定例

a. 原子吸光光度計 保田 和雄

b. 自動分析装置 保田 和雄

c. 液体クロマトグラフィー 高津 章子

d. イオンクロマトグラフィー 新野 靖

おわりに 青柳 邁

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はじめに ●ガイド発行の理由 試験所が ISO/IEC ガイド 25 に適合した試験所を構築する時に、「測定の不確かさ」の推

定を行うことが求められている。「不確かさ」は比較的新しい概念で、「不確かさ」につい

て解説されたものは多数あるが、定義に偏っているもの、物理試験に偏っているもの、数

式の取り扱いに終始しているものが多く試験所を構築する場合に試験所が利用できるガイ

ドが切望されていた。 日本適合性認定協会(JAB)は試験所及び審査員が利用できる不確かさの推定のガイドを編

集することを決定し、化学試験分野に関する不確かさ研究会を分野別技術委員会の下に設

置し、学識経験者、試験所の経験者及び審査の経験者が不確かさ推定の事例を持ち寄り、

検討した結果をまとめた。 委員会では必ずしも完全なもとは言えないかもしれないが、これを発行することは一歩前

進であると結論し、この版は第1版として今後各界のご批判を仰ぐこと及び審査の経験を

積み重ねていくことにより、継続して改善し、また内容を増やしていくことにした。 ●不確かさの推定と基準との関係 試験所認定における不確かさの推定の重要性は以下の基準との関係で示すことができる。 JAB RL 100-1996「校正機関及び試験所に対する認定の一般基準」では 10.2 試験所は測定の不確かさの推定について適正な方法及び手順を用いること。それらの

方法及び手順は、要求される精度及び当該試験に関係する標準仕様と整合するものである

こと。 13.2 校正・試験結果の推定された不確かさの試験報告書又は試験証明書への記述 。 と規定されている。さらに本年中に発行される予定の ISO/IEC ガイド 25 の改訂版

(ISO/IEC 17025)では校正機関は不確かさを推定することは必須になっているが、試験

所も結局はのところ必要である。すなわち ISO/IEC DIS 17025 では 5.4.7.2 試験所は関与するプロセスが厳密な計算を要しない場合を除き、測定の不確かを推

定する手順を有し、適用すること。ある場合には、測定の不確かさの推定を計量学的及び

統計学的に有効な方法で行うことができない。この場合には、試験所は少なくとも不確か

さのすべての要因の特定を試み、できる限りの 良の推定を行い、報告の形式が正確度に

ついて誇張された印象を与えないことを確実にすること。 参考 広く認められた試験方法が測定の不確かさの主要な要因の値に限界を定

め、計算結果の表現形式を規定している場合には、その報告方法の指示に従うことによっ

て試験所はこの規格の項目を満足するものと考えられる。 5.4.7.3 測定の不確かさを推定する場合には、広く認められている解析方法を用いて当該 状況で重要なすべての不確かさの成分を考慮に入れること。 以上から不確かさの推定は試験所認定にとって必須である。

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A.化学分析における不確かさ(Uncertainty)

物質工学工業技術研究所 高津章子

1.はじめに

計測結果の信頼性に関しては、従来は誤差、精度などの概念で議論されてきたが、用語

の定義の曖昧さや分野間の不整合の問題が指摘されていた。そこで、新たに「Uncertainty

(不確かさ)」の用語と解析手法を導入して統一することが世界的に検討され、国際標準化

機構(ISO)が中心となってその国際的指針が「計測の不確かさ表現に関するガイド

(Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement)」として示された。この新

しい概念は、従来の概念である真の値(一般には未知である)を前提とすることなく、測

定された結果そのものを用いて求めるべき値が存在する範囲を求めようというものである。

化学分析の分野おいても、分析値に不確かさを併記し、値の信頼性を示すことが国際ルー

ルとなりつつある。そこで、ここでは、上記ガイドに基づいた化学分析における不確かさ

の評価と表現について紹介することにしたい。

2.計測における不確かさの解析手順

ガイドでは、不確かさを評価する方法を次の2つに分類している。

(1)一連の測定値の統計的解析によるもの(Aタイプの不確かさ)

(2)統計的解析以外による不確かさの評価方法によるもの(Bタイプの不確かさ)

統計的な実験や計算の可能なものはAタイプとして求めることができるが、例えば、測

定試料や計測器に関する知識や経験、引用した参考データなどについても何らかの形で標

準偏差に相当するもの(これも標準不確かさとする)を求めることを要求している。

この分類の仕方は、不確かさの成分を解析手法によって分類したものといえ、従来の誤

差の概念における偶然誤差、系統誤差と対比することは難しいが、不確かさの成分を分類

して、それぞれの大きさを推定し、これらを合成して総合的な評価をしようとする考え方

は一致する。

不確かさの解析手順を図1に示した。

3.化学分析における不確かさ

一般の化学計測における不確かさの要因の例としては以下のようなものが考えられる。

①天秤や測定装置のキャリブレーション、ゼロ点校正の不確かさ。

②試薬や標準物質の純度、保証値の不確かさ。

③測定操作途中の分析対象物の混入や損失、揮散、抽出の不完全さなどによるもの。

④読みとりの分解能や、アナログ機器のよみとりのかたよりなど。

⑤サンプリング、前処理、機器測定のばらつき。

⑥容量器具の容積の不確かさ。

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⑦温度による容量器具の容積変化、湿度による試薬の重量変化。

⑧マトリックス効果。

⑨検量線の数学モデルによるもの。

⑩サンプルの代表性。

これらの要因のうち、他の要因と比べて小さいため無視できるものもあるし、分けて見

積もることはできないものもある。

化学計測において不確かさを見積もる方法としては以下のようなものが代表的である。

①繰り返し測定。

サンプリング、前処理、(機器)測定等分析操作などの繰り返し測定を行い、測定に伴

うばらつきを求める。また、ある操作に伴うばらつきを求める場合は、その操作を繰り返

して行う。

②標準物質の分析。

保証値のある標準物質の分析したり、他機関と測定結果を比較するなどして分析値の

偏りを調べる。

③回収率の測定。

④メーカー等の供給しているデータの活用。

試薬の純度や機器の仕様などについては通常よく用いられる。

⑤便覧等のデータの利用。

4.おわりに

「不確かさ」は新しい概念であるが、それを求めるアプローチは従来の誤差の求め方と

共通の部分も多い。また、見積もりが難しい偏り成分をいかに見積もるかとか、それぞれ

の分析条件や測定操作について影響すると思われる個々の要因をどのように見つけていく

か等、測定者(評価者)の測定に対する考え方による場合も考えられる。また、測定の目

的に応じて不確かさをどこまで厳密に求めるかということも異なってくるであろう。不確

かさを求めたり、あるいは不確かさの小さな測定を行うためには、要因を考え、何が大き

く寄与するかを見極めて条件や測定装置、器具を選ぶことが重要である。すなわち、測定

原理や方法をよく理解して分析を行うことが不確かさを求める第一歩なのである。

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┌─────────────────┐

ステップ1 測定、校正の手順の記述

原理・原則の確認

└─────────────────┘

┌─────────────────┐

数学モデルの構築

└─────────────────┘

┌─────────────────┐

ステップ2 │ 補正の実施

└─────────────────┘

┌─────────────────┐

ステップ3 │ 不確かさ成分の分析と見積もり A タイプ、Bタイプ

└─────────────────┘

┌─────────────────┐

│ 標準不確かさの算出 ui

└─────────────────┘

┌─────────────────┐

ステップ4 │ 合成標準不確かさの算出 uc uc=(Σui2)1/2

└─────────────────┘

┌─────────────────┐

ステップ5 │ 拡張不確かさの計算 U U=kuc

└─────────────────┘

┌─────────────────┐

ステップ6 │ 表示

└─────────────────┘

図1 不確かさの求め方の手順

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B.具体的な事例による不確かさの求め方と理解

日立製作所 計測器事業部 保 田 和 雄* 今 井 恭 子

*CITAC 委員

はじめに

170cm、70kg ある人の身長、体重は、世界中どこで測っても同じである。なぜだろう?

誰も不思議とは思わず、当たり前の事とおもっている。疑問を挟む人もいない。しかし、

化学の分野ではこれが一変する。例えば、河川中の微量重金属を例にとると、mg/l、µg/l

は全体に比べれば非常に小さい値である。しかし、この値が重要な意味を持ち、分析して

値を出すことになればその正確さが問題になる。10µg/l オーダの濃度の試料をそれぞれの

分析所が参加する proficiency test では驚いたことに 1 桁は楽に相違が出てくる。ましてや

各国が参加する場合には更に相違が大きい。英国が欧州を対象にして行ったミルク中の重

金属分析の proficiency test では、驚くべきことに 10,000 倍も相違した。このような

proficiency test の結果を国ごとにまとめると、ある国は高く、他のある国は低くなること

もわかった。なぜだろうか?この問題を解決しないと化学の度量衡は成り立たない。ここ

に Traceability と Uncertainty という化学分析の基本的な問題が横たわっている。国には

国の標準があり、これを基にして各国の値が決められる。kg、cm もこのように各国の標準

があり、世界の標準に traceable になっている。言うならば Traceability to the SI unit の

体系が成り立っている。物理の度量衡にはこの体系が確立しているが、化学、臨床化学で

はこの体系が確立していないために、国によって分析値が異なり、分析所によって相違が

でる。さらに、物理の度量衡と大きく相違するのは、分析操作があるために技術者の熟練

度が関係してくる。分析経験 20 年の人と 2 年の人とではピペットの扱い一つをとって見て

も、その再現性が違う。ましてや、抽出操作が含まれればその相違はさらに大きくなる。

また測定装置もマイクロコンピュータが内蔵されるに及んで本質を見逃して、論議が進ん

でいる。

化学では物理とは多少異なり Traceability to the SI unit だけではまとめ切れない。この

ため、臨床化学の分野では IFCC(International Federation of Clinical Chemistry)など

ではある規準を作ろうと言う概念を定着せざるを得なくなっている。言うならば horizontal

traceability, harmonization であり transparency である。そして、これで Traceability を

保つようにしている。この Traceability を云々するときには、必ずこれと表裏の関係にあ

る Uncertainty に触れねばならない。

誤差とは、真の値に対してどれだけ離れているかというその距離を表わすものである。

しかし、真の値は誰も知らず、神のみぞ知ると言うものであれば、誤差はいくらかと言う

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ことはできなくなる。この神様を地上に引きおろし、新しい誤差の概念の確立に迫られて

いる。ここで言われだしたのが Uncertainty と言う概念である。この Uncertainty は単に

誤差に代わる概念だけではなく、分析法の適否、分析技術者の熟練度、使用する装置、器

具の適否の判断にまで及んでいる。この Uncertainty(以後 u と表わす)は 1.Randam

Uncertainty、 2.Systematic Uncertainty、3.Spurious Uncertainty と三種類に分けら

れる。2.は人とか装置に基づくものである。例えば、アナログのメータを高い目に読む人、

低い目に読む人からくるもので、バイアスとして補正できるものである。3.は単純な間違

いからくるもので、数値の桁を間違えたとか、mg/l とµg/l とを取り違えたものである。し

たがって、これらは取り捨てるべきものである。Uncertainty の算出はそれぞれについて誤

差の分布関数から相対標準偏差を求め、これの自乗和の平方根を求めればよいが、分析法

の記述、測定装置の内容などを明確にしなければならず分りづらい。このため、 も単純

な事例から例を挙げて説明する。 1. Pipette 操作

5 ml のガラスピペットを使用したとする。自分でピペットを補正せず、複数個を無作為

に選んで使用したとする。メーカの仕様は±0.3%と云っているのでこの容量は 5ml±0.015になる。このメーカが出荷時に容量の正確さの検査をしているか否かで誤差の分布関数が

異なる。検査をしていないとすると、誤差の分布関数は矩形型の分布をすると推定できる。

するとそのときの u は( / )/0 015 3 5. となる。一方出荷検査をし、仕様をはずれたのを

除いていたとすると、ガウス分布をしていると考えられるが、このデータがないのでこれ

に代わって三角形の分布をしていると推定できる。そうするとそのときの u は

( / )/0 015 6 5. となる。この両メーカをそれぞれ F、G 社としよう。 ピペット操作について言うならば、last drop の扱いが人によって異なる。ピペットの上

端を親指でふさぎ、手の平でピペットを温め、 後の一滴を押し出す人と、吹き抜きをす

る人がいる。特に試料が多く、忙しいときほどこの方法が増えてくる。この両者を A、B 君

としよう。ピペットの容量の正確さを別にして、A、B 両君が F、G 社のピペットを使用し

たときの u を推定してみる。 A 君が一本のピペットを 10 回操作したときの再現性は RSD=0.0035 だった。B 君のは

RSD=0.0040 だった。両君が 5ml の pipette を使用したときの u は、熟錬度(再現性)と

pipette の仕様から来る u の組み合わせである。これを表-1 に示す。通常 u は RSD で表

現される。

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表-1

再現性 RSD F 社のピペット使用時の SD

G 社のピペット使用時の SD uc as RSD

A 君 0.0035 0 015 3. / 0 0035 0 0017 0 00392 2. . .+ →

A 君 0.0035 0 015 6. / 0 0035 0 0013 0 00372 2. . .+ →

B 君 0.0040 0 015 3. / 0 0040 0 0017 0 00432 2. . .+ →

B 君 0.0040 0 015 6. / 0 0040 0 0013 0 00422 2. . .+ →

pipette 操作の u は分析技術者の熟練度(再現性)と pipette の u の両者の組み合わせ

になる。例えば A 君が F 社の pipette を使用したときの u と G 社の pipette を使用したと

きの u は異なる。このように 2 つ以上の操作物が組み合わさったものを Combined Uncertainty(uc)と呼ぶ。この値を表-1 の 後の欄に示す。なおメニスカスを低い目、

高い目に読むというバイアスは補正したものとする。 A、B 両君の熟練度であるならば pipette の検定の有無はあまり問題にならない。しかし、

両君より就錬した技術者ならばこれが問題になる。 2. 希 釈

濃度が 1,000mg/l である stock solution を 2,000 倍と 10,000 倍に希釈して検量線の上下

の標準液を作ったとしよう。例を簡単にするため、10,000 倍の希釈についてのみ述べる。

この希釈は次に述べる順序に従って行った。 1,000mg/l stock solution ↓

10 倍希釈 10ml をピペットでとり、100ml のメスフラスコへ ↓

20 倍希釈 上段の溶液 5ml をピペットでとり、100ml のメスフラスコへ ↓

10 倍希釈 上段の溶液 10ml をピペットでとり、100ml のメスフラスコへ ↓

5 倍希釈 上段の溶液 20ml をピペットでとり、100ml のメスフラスコへ

5ml の pipette 操作による u は例 1 で述べたので、F、G 社の 10ml、20ml のピペットおよ

び 100ml の flask を A、B 両君が使用したときの Combined Uncertainty (uc)を表-2 に示

す。

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表-2

再現性RSD F 社のピペット G 社のピペット uc as RSD 10ml ピペット

A 君 0.0020 0.0020

0 02 3. /

0 02 6. /

0 0020 0 0012 0 00232 2. . .+ → 0 0020 0 00083 0 00222 2. . .+ →

B 君 0.0025 0.0025

0 02 3. /

0 02 6. /

0 0025 0 0012 0 00282 2. . .+ → 0 0025 0 00083 0 00262 2. . .+ →

20ml ピペット

A 君 0.0015 0.0015

0 04 3. /

0 04 6. /

0 0015 0 0012 0 00192 2. . .+ → 0 0015 0 0009 0 00172 2. . .+ →

B 君 0.0020 0.0020

0 04 3. /

0 04 6. /

0 0020 0 0012 0 00232 2. . .+ → 0 0020 0 0009 0 00222 2. . .+ →

100ml メスフラスコ

A、B 君 0.0005 0.0005

0 2 3. /

0 2 6. /

0 0005 0 0012 0 00132 2. . .+ → 0 0005 0 00083 0 000972 2. . .+ →

10 倍希釈では 10ml をピペットでとり 100ml の flask に移し、希釈する。これらの希釈

は pipette 操作と flask 操作の u の組み合わせになる。これをまとめると表-3 になる。

表-3

F 社の pipette/flask G 社の pipette/flask 10 倍希釈 A 君 0 0023 0 0013 0 00262 2. . .+ → 0 0022 0 00097 0 00242 2. . .+ → B 君 0 0028 0 0013 0 00312 2. . .+ → 0 0026 0 00097 0 00282 2. . .+ →

20 倍希釈 A 君 0 0039 0 0013 0 00412 2. . .+ → 0 0037 0 00097 0 00382 2. . .+ → B 君 0 0043 0 0013 0 00452 2. . .+ → 0 0042 0 00097 0 00432 2. . .+ →

5 倍希釈 A 君 0 0019 0 0013 0 00232 2. . .+ → 0 0017 0 00097 0 00192 2. . .+ → B 君 0 0023 0 0013 0 00262 2. . .+ → 0 0022 0 00097 0 00242 2. . .+ →

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10,000 倍希釈の結果は A 君が F 社の pipette、flask を使用した場合は

uc= =( . ) . ( . ) ( . ) .0 0026 0 0041) 0 0026 0 0023 0 00602 2 2 2+ + +(

A 君が G 社のものを使用した場合は 0.0042、B 君、F 社の組み合わせでは 0.0068、B 君、

G 社では 0.0063 になった。試みに大学で化学実験を始めたばかりの学生ではこの u は 0.02~0.03 くらいだった。また、FIA による single shot の 10,000 倍希釈では u=0.003~0.005だった。 この値をみると、A 君と B 君の熟練度については、その差は 20%くらいであり、ピペッ

トの仕様に基づく u はこれより小さかった。次に 10,000 倍の希釈における u はこれら

の RSD の自乗和の平方根であるので A 君が F 社の pipette、flask で希釈した場合の uは RSD で 0.0060 であり、G 社の製品を使用した場合は 0.0042 である。B 君の場合は、

0.0068 および 0.0063 である。もしこの値が正しいと仮定して、Flow injection による希釈

と比較すると、A 君が G 社の製品を使用した場合はほぼ同じであるが、それ以外は機械的

な希釈の方が優れているといえよう。換言するならば、このような希釈法が適切か否か問

題を残すことになり、再検討をせまられることになろう。 3. 中和滴定 HCl 溶液の濃度を求めるのに NaOH による中和滴定での場合を例にとってみる。なお、

NaOH 溶液は濃度を補正したものを使用する。まずこれのステップを記録してみる。 Step1. フタル酸カリウム(KHP)の秤量 mKHP

2. KHP の溶解と溶液の容量の調製 Vf

3. KHP の濃度の計算 CKHP 4. NaOH 溶液の調製 5. NaOH 溶液の一定量をフラスコへ移す VN1 6. KHP 標準液による NaOH の滴定 VKHP

7. NaOH 溶液の濃度の算出 CNaOH

8. 一定量の NaOH 溶液のフラスコへ移す VN2 9. HCl による NaOH の滴定 VHCl 10. HCl の濃度の算出

u の評価 Step1. mKHP

秤量容器およびこれに加えた KHP を秤量する。 KHP+容器 36.1284g 容器のみ 31.0234g したがって、KHP は 5.1050g になる。

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この担当者による天秤の 50g までの秤量の SD は 0.07mg である。天秤メーカの

仕様は上記の範囲では difference は±0.1mg といい、これが 95%の信頼性の例

に入っているといっている。そうするとSDで表されるuは 0.1/1.96=0.052mgになる。したがって、担当者によるこの天秤での秤量の u は

U m mgKHP( ) . . .= =0 052 0 07 0 0872 2+ である。

Step2. Vf

これには次の問題がある。 a. 表記されているフラスコの内容量の u b. 秤線まで溶液を満たしたときの difference c. 補正したときの温度と測定したときの温度差 このフラスコは 250ml で仕様は 250±0.15ml とのみしか表示していない。この

ため不確さは矩形分布の関数と判断せざるを得ない。そうするとSDは0.15/ 3=0.087ml になる。担当者がフラスコの秤線まで水を満たし、そのときの再現性

(就練度)を求めると、SD で 0.012ml だった。補正時の温度と測定時の温度差

が±3℃であり、95% confidence interval がこれに入っていると考えると、水の

膨張率が 2.1×10-4/℃なので、250×3×2.1×10-4=0.158ml が 95%の

confidence interval 以内にあるといえる。したがって、SD は 0.158/1.96=0.08ml と考えられる。なお、フラスコの材料であるガラスの膨張率は水に対し

て無視できる。したがって

SD(Vf)= 0 087 0 012 0 08 0122 2 2. . . .+ + = ml となる。

Step3. CKHP

CKHP=1000 m P

V FKHP KHP

KHPf

× ×

× (1)

CKHP :mol/l で表わされる KHP の濃度 FKHP :分子量(g/mol) PKHP :KHP の純度 Vf :KHP 用メスフラスコの容量(ml) FKHP の分子 N は C8H5O4K であり、各原子量および表示されている u を表-4に示す。

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表-4

元素 原子量 表示されている u u as RSD C 12.011 ±0.001 0.00058 H 1.00794 ±0.0007 0.00040 O 15.9994 ±0.0003 0.00017 K 39.0983 ±0.0001 0.000058

この原子量の u は confidence interval などが明確に示されていないので、

difference は矩形型の関数で表示されると考えるしかない。これを RSD で表

すと表-4 の 右の欄に示す値になる。これを化学式に対応すると、表-5 にな

る。

表-5

計算および結果 u C×8 8×12.011=96.088 0.0046 H×5 5×1.00794=5.0397 0.00020 O×4 4×15.9994=63.9976 0.00068 K×1 1×39.0983=39.0983 0.000058

したがって分子量は204.2236g/molであり、

u(FKHP)= 0 0046 0 0002 0 00068 0 0000582 2 2 2. . . .+ + + =0.0047g/mol となる。 PKHP

カタログには 99.9±0.1%との表示しかない。したがって、difference は矩形型

の関数として考えることになる。すなわち 0.999±0.001 なので u(PKHP)=0.001/ 3 =0.00058 となる。これらの値を(1)式に入れて u を求めると表-6 のよ

うになる。

表-6

値 SD および u u as RSD mKHP 5.105 0.000087 1.7×10-5 PKHP 0.999 0.00058 5.8×10-4

Vf 250 0.12 4.8×10-4 FKHP 204.2236 0.0047 2.3×10-5

CKHP=1000 5105 0 999

250 204 2236× ×

×

. ..

= �0.0999 mol/l

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u CC

KHP

KH

( )= ( . ) ( . ) ( . ) ( . )17 10 5 8 10 4 8 10 23 105 2 4 2 4 2 5 2× × × ×- - - -+ + + =75×10-4

したがって、濃度の誤差は SD(CKHP)=0.0999×7.5×10-4≒8×10-5mol/l

Step4. NaOH 溶液の調製

KHP で滴定して NaOH の濃度を求めるため、ここでの秤量などの u は求める必

要がない。

Step5. VN1

25ml のピペットで分取する。このときには次の問題がある。 a. ピペットの内容量の u b. 秤線に合わせたときの difference c. 補正したときの温度と測定したときの温度差 このピペットは 25ml±0.03ml としか表示されていないので、誤差は矩形型に分

布していると考えざるを得ない。従って SD で表現すると誤差は 0.03/ 3 =

0.017ml である。担当者によるピペット操作の再現性(就練度)は天秤で測定し

た。そのときの SD は 0.0092ml だった。 補正したときの温度と測定したときの温度差に基づく相違は Step.2 と同じよう

にして求めた。u は 0.008ml だった。以上を合計すると

SD(VN1)= 0 017 0 0092 0 0082 2 2. . .+ + =0.021ml となる。

Step6. VKHP

使用するビュレットの補正をしなければならない。通常は 0~25、25~50 ある

いは 5、10、15、20ml・・・というように補正する。しかし、本実験の場合は 25ml付近での測定だったため、この付近での補正に重点をしぼった。担当者が 25mlを補正したとして、そのときの再現性を求めると、SD で 0.013ml だった。液面

のメニスカスを読み取るまでの待時間と、メニスカスをどの方向で見るかという

熟練度が関係する。メーカの仕様は±0.05ml としか表示していなかったので、

矩形型の関数と考えざるを得なかった。これに基づくSDは 0.05/ 3 =0.029mlになる。 補正時の温度と測定時の温度差に基づく装置は Step5.と同じようにして求めた。 u=0.008ml だった。これらを総合すると、

SD(VKHP)= 0 013 0 029 0 0082 2 2. . .+ + =0.033ml になった。

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Step7. CNaOH

CNaOHは次式で求められる。

CNaOH=C V

VKHP KHP

N

×

1 (2)

CNaOH :NaOH の濃度(mol/l) VN1 :Step5 で滴定した NaOH の溶液量(ml) VKHP :ビュレットで滴下した KHP の溶液量(ml) CKHP :KHP 溶液の濃度(mol/l)

Step4 から 6 までの結果をまとめると、表-7 のようになる。 表-7

値 SD u as RSD CKHP 0.0999 0.00008 8×10-4 VKHP 24.85 0.033 1.3×10-3 VN1 25.0 0.021 8.4×10-4

RSD で表現される NaOH 溶液の u を求めると

u CC

NaOH

NaOH

( ) = ( ) ( . ) ( . )8 10 13 10 8 4 104 2 3 2 4 2× × ×- - -+ + =0.0017

従って濃度で表現すると u(CNaOH)=0.0017×0.0993=0.00017mol/l となる。

Step8 VN2

フラスコに濃度補正された NaOH 溶液を 25ml、ピペットでとる。25ml のピペ

ットを使用したため、これは Step5 と同じである。従って u は 0.021ml である。

Step9 VHCl

50ml のビュレットを用いたが、滴下量は 25.45ml だった。u の算出は Step6 と

同じなので u(VHCl)=0.033ml である。 Step10 CHCl

CHClは次のようにして求められる。

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CHCl=C V

VNaOH N

HCl

× 2 (3)

CHCl:HCl 溶液の濃度(mol/l) この式に表示されている各項目の u は次のようになる。

表-8

値 u u as RSD CNaOH 0.0993 0.00017 1.7×10-3 VN2 25.0 0.021 8.4×10-4 VHCl 25.45 0.033 1.3×10-3

(3)式から HCl 溶液の濃度を求めると

CHCl=0 0993 25 0

25 45. .

=0.0972mol/l

RSD で表され u は次のようになる。

u CC

HCl

HCl

( )= ( . ) ( . ) ( . )17 10 8 4 10 13 103 2 4 2 3 2× × ×- - -+ + =2.3×10-3

従って濃度で表現すると u(HCl)=2.3×10-3×0.0975=0.00022mol/l となる。 Expanded uncertainty(U) 調製した HCl 溶液の u(HCl)は u に常数 2 をかけることによって求められる。 u(HCl)=0.00022×2=0.00044mol/l 従ってHCl溶液の濃度は0.0975±0.00044mol/lとなり、上述して調製したHCl溶液の 95%までがこの中に存在することを示している。 他の算出方法 わかりやすくするため、各 Step を追って、計算したが、 初に示した Steps の

u as RSD で HCl 溶液の濃度および u を直接算出もできる。

CKHP= 1000× ×

×

m PV F

KHP KHP

f KHP (1)

CNaOH= C VV

KHP KHP

Nl

× (2)

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CHCl= C VV

NaOH N

HCl

× 2 (3)

この 3 式をまとめると

CHCl= 1000 2× × × ×

× × ×

m P V VV F V V

KHP KHP KHP N

f KHP Nl HCl (4)

各 Steps における“u”as RSD をまとめると表-9 で示される。

表-9

値 u as RSD mKHP KHP の重量 5.1050 1.7×10-5 PKHP KHP の純度 0.999 5.8×10-4 VKHP NaOH 溶液の量 24.85 1.3×10-3 VN2 KHP による滴定時の NaOH 溶液の分取量 25.0 8.4×10-4 Vf 調製後の KHP 溶液の量 250 4.8×10-4

FKHP KHP の分子量 204.2236 2.3×10-5 VNl HCl による滴定時の NaOH 溶液の分取量 25.0 8.4×10-4 VHCl 滴下した HCl 溶液の量 25.45 1.3×10-3 CHCl HCl 溶液の濃度 0.0975 2.3×10-3

目的は HCl の濃度を求めることなので、(4)式にこれらの値を代入すると

CHCl= 1000 5105 0 999 24 85 25 0250 204 2236 25 0 25 45

× × × ×

× × ×

. . . .. . .

=0.0975mol/l

となり、RSD で表現される“u”は

u CC

HCl

HCl

( ) =

( . ) ( . ) ( . ) ( . ) ( . )17 10 5 8 10 13 10 8 4 10 4 8 105 2 4 2 3 2 4 2 4 2× × × × ×- - - - -+ + + + +

( . ) ( . ) ( . )23 10 8 4 10 13 105 2 4 2 3 2× × ×- - -+ + =2.3×10-3

u(HCl)=0.0975×2.3×10-3=0.00022mol/l となる。 ここで注目すべきことは、 終結果に対し、KHP の秤量した重量とか、原子量

の u から来る寄与は 2%と少ないが、ビュレットの滴下量の VKHP、VHClの寄与

が大きく、 ( . ) ( . )13 10 13 103 2 3 2× ×- -+ =1.8×10-3となり、u の値の 80%を占め

ることになる。これは古典的なビュレットを用い、分析技術者の目で反応の終点

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を判断することがよいか否かに疑問を投げかけるものである。換言すると新しい

滴定法を開発しなければならないことを意味している。

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C.認証標準物質の不確かさ 日鐵テクノリサーチ 柿田 和俊 認証標準物質の不確かさについては、既に ISO Guide 35-1989 にて明確な記述がある。そ

こでは、不確かさは 1)実験データによって求められたもの 2)統計計算によって求められたもの の双方があることを認めている。 認証標準物質の不確かさになる要素としては、 1)物質の不均一さによるもの 2)測定誤差によるもの 3)試験所、測定者や測定方法によるもの 4)実験データや統計計算がなくても、経験や判断に基づくもの を上げている。 認証標準物質の生産者は、常にあらゆる種類の使用者に留意しなければならないため、ひ

とつの形式の記述事項だけを用いることはできない。潜在的使用者も含めて参考になる全

ての情報を含むことが必要であると記されている。 不確かさ記述の例(ISO Guide 35-1989 に述べられたもの) 1)平均値の 95%信頼限界 ISO Guide 31-1981 では、この不確かさを記述するよう推奨しており、欧州鉄鋼標準物

質委員会ではこの不確かさを使用している。そのため、共同実験の参加試験所及び試験数

が多く N=60 程度に及んでいる。 不確かさは t×σ/√n で表される。(n=N-1)

平均値の標準偏差の係数(t 分布、95%信頼限界) 自由度n t √n t/√n 自由度n t √n t/√n

1 12.7060 1.0000 12.7060 10 2.2280 3.1623 0.7046

2 4.3080 1.4142 3.0462 11 2.2010 3.3166 0.6636

3 3.1820 1.7321 1.8371 12 2.1790 3.4641 0.6290

4 2.7760 2.0000 1.3880 13 2.1600 3.6056 0.5991

5 2.5710 2.2361 1.1498 14 2.1450 3.7417 0.5733

6 2.4470 2.4495 0.9990 15 2.1310 3.8730 0.5502

7 2.3650 2.6458 0.8939 20 2.0860 4.4721 0.4664

8 2.3060 2.8284 0.8153 25 2.0600 5.0000 0.4120

9 2.2620 3.0000 0.7540 30 2.0420 5.4772 0.3728

40 2.0210 6.3246 0.3196

60 2.0000 7.7460 0.2582

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2) 2×σ, 3×σ限界 ISO Guide 35-1989 では、ガラスフィルターの吸光度の例が上げられており、繰り返し

使われるものなので、標準偏差の何倍かが変動の適切な尺度であるという解釈をつけてい

る。 3)平均値又は認証値、標準偏差、測定の数、測定値をそのまま記述 情報が豊富であるが、使用者がそれぞれの関係について使用者自身の理解度に基づいて

不確かさを計算しなければならない。認証者自身が 2×σ, 3×σを不確かさと考える場合は

平均値の 95%信頼限界を不確かさとする認証者に比べて少ない有効数字で認証値としてい

る場合がある。 このような場合、標準物質の使用者は、前述の平均値の標準偏差の係数(t 分布、95%信頼限

界)を使用して、不確かさを再確認することが必要である。

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D.ガラス製体積計の校正の不確かさについて

ノーステクノリサーチ株式会社 奥山祐治 容量分析における滴定に伴う不確かさを考える場合、簡単な例として、ビュレットの校

正による不確かさを考える。 ビュレットの校正には、JIS K0050「化学分析通則」のビュレットの校正方法に従い校正

し、別に水温(℃)、室温(℃)、気圧(kPa)を測定して校正値を求める。その式は次の

通りである。

Cww

WD −+−

=

1000)'(1000000

ここに、 D:C(ml)に対する補正値(ml) W:0→Cml の水の質量(mg) w:室温が 20℃、気圧 101.325kPa における補正値(mg)(付表2) w’:室温が 20℃、気圧が 101.325kPa から外れていることによる補正値(mg)。 C:ビュレットの目盛の読み(ml) である。 ビュレットの校正において、JIS K0050 付表2における水温、室温、気圧測定における補

正値を求めると、水温 20℃、室温 20℃、気圧 101.325kPa での補正値が 50ml に対して

0.00711ml となる。ここで、水温、室温、気圧がそれぞれ変化した時の補正値の差を求め

ると、水温が 1℃変化(20℃から 21℃)したとき、補正値差は 0.00051ml となる。同様に、

室温が 1℃変化したときの補正値差は、0.00020ml、気圧が 0.133kPa(1mmHg)変化し

たときの補正値差は、0.00007ml となる。 上記の式から、質量測定、室温測定、水温測定、気圧測定が不確かさの要因と考えられる。 a. 質量測定における秤量の不確かさには、使用分銅の不確かさと、測定した人の不確かさ

がある。 1 級精密分銅の公差は、50g±0.40mg となっている。 このことから、不確かさは 0.40/√6= 0.16 となる。 この分銅を用いて 10 回秤量した時の平均値と標準偏差は、50.0011g±0.04mg であった。 以上より、秤量の不確かさは、√(0.16)2 +(0.04)2 =0.165mg である。この相対不確

かさは、0.165mg/50gr=3.3×10-6 である。

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b. 水温測定の不確かさは、温度計の不確かさと、測定時の不確かさがある。 温度計の許容差は、0~50℃測定で±0.2℃となっている。このことから、不確かさは 0.2/√6= 0.082℃となる。 測定時の不確かさ(人 平衡温度 水浴の均一性)は、10 回繰返し測定の平均値と標準偏

差は 24.7±0.39℃であった。 以上より、水温測定の不確かさは、√(0.082)2 +(0.39)2 =0.399℃である。 この不確かさによる容量の影響は、0.399℃×0.00051ml/℃・50ml=0.00020ml/ml となる。 相対不確かさは、0.00020/50=4.1×10-6である。 c. 室温測定の不確かさは、水温測定と同様に温度計の不確かさと、測定時の不確かさがあ

る。 温度計の許容差は、0~50℃測定で±0.2℃となっている。このことから、不確かさは 0.2/√6= 0.082℃となる。 測定時の不確かさは、10 回繰返し測定の平均値と標準偏差は 24.2±0.40℃であった。 以上より、室温測定の不確かさは、√(0.082)2 +(0.40)2 =0.408℃である。この不確

かさによる容量の影響は、0.408℃×0.00020ml/℃・50ml=8.2×10-5である。 相対不確かさは、8.2×10-5 /50=1.6×10-6となる。

d. 気圧測定の不確かさは、気圧計の不確かさと測定時の不確かさがある。 フォルタン型水銀気圧計の器差は 0.07kPa である。このことから、不確かさは 0.07/√6= 0.029kPa となる。 測定の不確かさは、10 回測定で平均値と標準偏差が 101.847±0.048kPa であった。 以上より、気圧測定の不確かさは、√(0.029)2 +(0.048)2 =0.0561kPa である。不

確かさによる容量の影響は、0.0561kPa/0.133kPa×0.00007ml/50ml=3.0×10-5である。 相対不確かさは、3.0×10-5 /50ml=6.0×10-7 である。 ビュレットの容積の不確かさを考える場合、A.校正済みビュレットで公差内に入っている

ことを確認してビュレットの公差を用いるケースと、B.ビュレットの校正を実施し、その

校正結果を用いるケースが考えられる。

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A. 校正済みビュレットで公差内に入っていることを確認してビュレットの公差を用いる

ケース 不確かさは、繰返し誤差と公差を考える。この内、繰返し誤差は、用いるビュレットを

繰返し水を50ml滴下し、その際の質量を測定してバラツキを測定する。その際の秤量

の不確かさは、用いた天秤の不確かさから考える。 例えば、秤量10回測定の平均値と標準偏差が、 0036.09263.49 ± g とすると、天秤によ

る繰返し秤量による不確かさは、0.0036g となる。 相対不確かさは、0.0036g /49.9263g=7.2×10-5となる。

ビュレットの公差は、50ml では±0.05ml であるから、不確かさは、0.05/√6= 0.020mlとなる。 相対不確かさは、0.020ml/50ml=4.0×10-4となる。

以上に結果から、合成標準不確かさを見積ると、表1のようになる。 表1.ビュレット校正の不確かさ計算例(ケース A) 要因

値 不確かさ 相対不確かさ

秤量

50g

0.165 3.3×10-6

水温誤差

50ml 0.00051×0.399 =0.00020

4.1×10-6

室温誤差

50ml 0.00020×0.408 =0.000082

1.6×10-6

気圧誤差

50ml 0.00007 ×

0.0561/0.133 =0.000030

6.0×10-7

繰返し測定誤差 49.9263g 0.0036 7.2×10-5

ビュレット公差 50ml 0.020 4.0×10-4

測定結果の合成不確かさは、 √(3.3×10-6)2 +(4.1×10-6)2+(1.6×10-6)2+(6.0×10-7)2+(7.2×10-5)2+(4.0×10-4)2=0.00041 となる。

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B. ビュレットの校正を実施し、その校正結果を用いるケース 不確かさの要因としては、繰返し誤差と校正誤差を考える。この内、繰返し誤差は、前

者のケースと同様に 0.0036ml とする。

校正結果が、0.022ml である場合、この値を校正することで、校正による不確かさは、校正

時の不確かさだけを考える。 以上に結果から、測定結果の合成不確かさは、 √(3.3×10-6)2 +(4.1×10-6)2+(1.6×10-6)2+(6.0×10-7)2+(7.2×10-5)2

=7.2×10-5 となる。

不確かさの考え方を整理し、ガラス体積計における不確かさの要因を計算してみた。 ① ビュレットで容積を測定したときの不確かさのうち、 も大きな不確かさはビュレッ

トの製作時のバラツキである公差からくる不確かさである。 ② 温度計、気圧計、秤量器が校正されていれば、それらによる測定の不確かさは小さい。 ③ 容量測定による不確かさの大部分はビュレットの公差による。 ④ 自分が用いるビュレットの校正を行っていれば、これによる不確かさは更に一桁小さ

くなる。

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E.規格に定められた精度を利用することによる不確かさの推定 (鉄鋼化学分析の「不確かさ」)

岩田英夫 日本鋼管テクノサ-ビス(株)

1. JIS 鉄鋼化学分析方法における精度

鉄鋼の JIS 分析方法には、実際の試料を共同分析実験して求めた分析精度が規定されて おり、分析値の信頼性管理に役立っている。JIS で規定している精度は、表 1 の通りであ る。 表 1 JIS に規定されている鉄鋼分析の精度

分析方法 室内再現精度 室間再現精度 併行精度 発光分光(QV) 蛍光X線(FX)

○ × ○

乾式分析(CSNOH) ICP AA 吸光度法 容量法 重量法

○ ○ ×

表1の精度は JISZ8402(分析・試験の許容差通則)に準拠しており、その定義は次の通 りである。 室内再現精度(σRW):一つの分析所で、同じ試料を再現条件(人、日時、装置の一 部又は全てが異なった条件)で分析したときの分析結果のバラツキ程度。 室間再現精度(σR):複数の分析所で、同じ試料を分析したときの分析結果のバラ ツキ程度。そのσの構成は、

σR=√σb2+σRW2/n σb:純粋な室間精度 σRW:室内精度 n:室内での分析回数 併行精度(σr):一つの分析所で、同じ試料を併行条件(人、日時、装置の全てが同じ 条件)で分析したときの分析結果のバラツキ程度。 QV や FX の室間精度がないのは、技術的理由(試料の受けている熱履歴補正の困難さ)に よる。一方、装置の特性として連続測定が可能なので、併行精度を規定している。精度 の具体的な求め方は、含有量の異なる複数の鉄鋼試料を複数の分析所で日を変えて 2 回 分析し、その結果を解析する。生データと解析結果は各規格の解説に記載されている。 一例を表 2 に示す。

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 表2 共同分析実験結果の一例 (原子吸光法によるTiの分析:JISG1257-1994)

単位:%(m/m)

 番号 JSS 161-1 NBS6F JSS 158-1 NBS170A NBS121C

 品種 微量元素鋼 銑鉄 微量元素鋼 炭素鋼 ステンレス鋼

 分析所 標準値 0.014 0.063 0.099 0.28 0.42

L 1 0.011 0.060 0.100 0.28 0.42

0.010* 0.060 0.100 0.29 0.42

L 2 0.013 0.061 0.092 0.28 0.42

0.014 0.061 0.091 0.28 0.42

L 3 0.011 0.061 0.092 0.28 0.40

0.012 0.062 0.094 0.28 0.40

L 4 0.013 0.066 0.099 0.28 0.42

0.013 0.064 0.095 0.29 0.43

L 5 0.015 0.065 0.099 0.28 0.39

0.014 0.065 0.100 0.28 0.39

L 6 0.013 0.059 0.101 0.28 0.41

0.016 0.059 0.102 0.28 0.39

L 7 0.012 0.061 0.096 0.28 0.41

0.014 0.061 0.097 0.27 0.42

L 8 0.011 0.061 0.094 0.27 0.41

0.012 0.063 0.098 0.28 0.42

L 9 0.014 0.062 0.095 0.28 0.42

0.012 0.062 0.097 0.29 0.41

L 10 0.013 0.062 0.093 0.28 0.42

0.013 0.063 0.098 0.28 0.43

L 11 0.014 0.060 0.097 0.28 0.42

0.012 0.061 0.094 0.29 0.41

L 12 0.013 0.060 0.097 0.28 0.42

0.014 0.062 0.095 0.29 0.42

平均値 F 0.0129 0.0617 0.0965 0.281 0.413

範囲 R 0.005 0.007 0.011 0.02 0.04

室内再現精度 1) 0.0011 0.0008 0.0018 0.0054 0.0065

室間再現精度 2) 0.0012 0.0018 0.0028 0.0038 0.0109

注*:Dixonの検定によって棄却(危険率:5%)

1)室内再現精度 σRw

2)室間再現精度 √σb2÷σRw2/2

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表1の精度の使い方は次の通りである。 室内再現精度(σRW):自所内で、分析を繰り返したときや鉄鋼標準物質を分析した とき、その差が異常であるかどうかの判断基準とする。 室間再現精度(σR):顧客よりのクレームなどの関連で、或る分析所で行った試料を、 別の分析所で分析する場合、その差が異常であるかどうかの判断基準とする。 併行精度(σr):自所の QV や FX の装置性能の異常(劣化)の判断基準とする。

2. 新概念「不確かさ」と JIS 精度との関係

文献 1)によれば、化学計測分野における「不確かさ」要因を表 3 のように示している。

表 3 化学計測分野における「不確かさ」要因の例 1)

要 因 具 体 例 装置に起因するもの 物質の純度 使用条件 試料による要因 データの取扱い 測定操作 オペレータによるもの 繰返し誤差

測定装置やてんびんのキャリブレーション、ゼロ点校正 試薬や標準物質の純度 温度による容量器具の誤差、湿度による試薬の重量変化 マトリックス効果 クロマトグラムからの面積測定の際のベースラインの引き方、 検量線等の数学的モデルによるものなど 測定操作途中の分析対象物の混入や損失、揮散(回収率) アナログ機器の読み取りなど サンプリング、前処理、機器測定

鉄鋼化学分析における「不確かさ」要因は、表3などを考慮すると、現行 JIS 精度に殆ど

まれているように思われる。追加すべき要因は、標準物質(鉄鋼標準物質、純試薬、標

準液など)と計量器具(天秤、ガラス計量器具など)の表示値の不確かさである。表 4に

使用する標準物質と計量器具を、分析方法別に示す。

表 4 分析方法別の使用標準物質と計量器具

標準物質 計量器具

分析方法 鉄鋼標準物質 純試薬、標準液 天秤 ガラス計量器具 QV FX ○ × × ×

乾式分析 (CSNOH) ○ × ○ ×

ICP AA 吸光度法 容量法 重量法 × ○ ○ ○

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3. 鉄鋼化学分析の「不確かさ」の推定

3.1 QV と FX 表 4 より分かるように、QV と FX には、JIS 精度に「鉄鋼標準物質」の持つ「不確かさ」 を追加しなければならない。鉄鋼標準物質の保証書には、認証値を決めた際の分析生デ ータが記載されており、認証値のバラツキ程度、すなわち不確かさを知ることができる。 それでは、このバラツキは何に起因するのであろうか。考えられるものとして「試料の 均質度」と「化学分析の誤差」があるが、日本鉄鋼認証標準物質(JSS)の技術報告書

2) によれば、殆どが後者であるとしている。すなわち、認証値を決める際の「化学分析の 不確かさ」を追加すればよいことになる。

一方、QV と FX の JIS(それぞれ G1253-1995、G1256-1997)は、「対標準物質許容差」 を規定しているが、その基礎となる精度(σ)は下記式によって求めている。許容差の一部 を表 5 に示す。

σ=√σ機器2+σ化学2 σ機器:QV と FX の室内再現精度 σ化学:化学分析の室内再現精度 表 5 発光分光分析の「対標準物質許容差」(JISG1253-1995:一部の抜粋)

よって、QV と FX については、それぞれの JIS に規定されている対標準物質許容差式の 精度部分(表 5 の括弧部分)が新概念の「不確かさ」となり得る。 3.2 乾式分析(CSNOH) 表 4 により、鉄鋼標準物質と天秤の不確かさを考慮しなければならない。C の場合(試 料量 0.5g、含有量 0.1%)で考える。 1)室内再現精度

JISG1211-1995 の規定によれば、含有量 0.1%における分析精度(σRW)は 0.0014% である。 含有量に対する相対値は、1.4%を占める。

単位:%(m/m)

成分 成分含有率の範囲 対標準物質許容差(16)

 炭素 0.013 以上 0.12 未満 2.0 × (0.03926 × C % + 0.00264)

0.12 以上 0.49 以下 2.0 × (0.02567 × C % + 0.00426)

 けい素 0.10 以上 1.42 以下 2.0 × (0.02598 × Si % + 0.00320)

注(16):各成分の元素記号及びX%は、その成分の定量値[%(m/m)]を意味する。

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2)天秤の不確かさ 秤量 0.5g における不確かさを 0.2mg とすると、その相対値は 0.04%であり、室内再現

精度の相対値(1.4%)に比べれば非常に小さい。文献 1)もそのことを示している。

3)鉄鋼標準物質の不確かさ QV、FX で述べたように、認証値の不確かさは化学分析の精度に依存する。化学分析 の精度(σRW)を 0.0014%とした場合、認証値を決める際の分析所数は 10 箇所(表 2参照)くらいあるので、認証値の不確かさは 0.0014/√10 になる。しかしこれを加算 しても、室内再現精度の数値:0.0014%が、0.0015%になる程度である。 結論として、JIS に規定してある「室内再現精度」を「不確かさ」としても大きな違い はないように思える。

3.3 その他の化学分析

ICP、AA などの湿式化学分析方法には、天秤、純粋試薬、標準液、ガラス計量器の不確

かさを考慮しなければならないが、文献 1)によればこれらの全体に与える影響は小さい。 すなわち、JIS に規定している「室内再現精度」を「不確かさ」としても大きな違いはな いように思える。

4. まとめ

1)新しい概念による「不確かさ」は、現行 JIS に規定している「室内再現精度」に標準

物質と計量器具の「不確かさ」を追加することで推定可能である。 2) 機器分析(QV と FX)の JIS には、新概念に相当する精度(対標準物質精度)がある

ので、これを「不確かさ」としてよい。 3) その他の方法(乾式分析と湿式化学分析)は、標準物質や計量器具の不確かさを追加し ても、 JIS に規定している「室内再現精度」の数値に大きく影響を与えない。従って、 「室内再現精度」を「不確かさ」としても大きな問題はないように思われる。 以上は、現行 JIS 規定を活用する観点からの結論であって、 将来的には、新概念に対 応した「不確かさ」の規定が待たれる。 文献 1)計測の信頼性評価,P110,(財)日本規格協会,1996. 2)日本鉄鋼標準試料の製造に関する技術報告書,P25,(社)日本鉄鋼協会,1985.

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F.技能試験による測定値のバラツキのパラメータの求め方(不確かさ代替法) セメント協会・研究所 津戸 明夫

1.不確かさの検証 セメントの試験における不確かさの推定には、想定される測定環境条件でのばらつきの

要因をすべて列挙して、その程度を客観的に定量化することが必要となる。一般的に試験

を行う際の測定環境条件として、 4W1H(When,Where,Who,What,How)の影響を考慮す

ることが大切であるが、セメントの試験では、試料の秤量、測定環境、測定操作、標準器、

試験器および試験者の要因を取り上げ、合成標準および拡張標準を推定した。 また、その推定結果について、セメント会社の共同試験結果(約 50 試験所:会員)およびセ

メント会社以外の共同試験結果(約 100 試験所:会員外)と比較検討を行った。

2.JISに規定されているセメントの試験方法は、次の 3 規格である。 (1) JIS R 5201 セメントの物理試験方法

(2) JIS R 5202 ポルトランドセメントの化学分析方法

(3) JIS R 5203 セメントの水和熱測定方法

3.JIS規格で規定されている事項

3-1 JIS R 5201 セメントの物理試験方法

(1)密度試験

密度試験は、 2 回以上行い、 0.01g/cm3以内で一致したものの平均値をとって小数点

以下 2けたに丸める。

(2)粉末度試験

①比表面積試験

比表面積試験は、 毎回新しくベットを作り、 2 個の測定値が 2%以内で一致したも

のの平均をとり、 整数 1位を丸めて 0とする。

②網ふるい試験

1 分間のふるい通過量が 0.1g 以下となったとき、 ふるい上の残分を 0.05g まではか

る。

(3)凝結試験

供試体の数は 1試料につき 2個以上とすることが望ましい。

(4)安定性

①パット法

パット 2個のうち 1個が良で、 他の 1個が不良の場合は再試験を行う。

②ルシャテリエ法

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同バッチのセメントペーストから成形した二つの供試体で同時に行い、 その平均

値を計算し0.5mm単位にする。 新鮮なセメントが規格値から外れた場合は、 保管後に

再試験を行う。

(5)圧縮強さ試験

圧縮強さは、 一組 3 本の供試体によって測定された六つの圧縮強さの算術平均とす

る。 六つの測定値のうちの一つの結果が六つの平均値より±10%以上偏った場合は、

この結果を棄却し、 残りの五つの結果の平均値を計算する。さらに、 一つの結果が五

つの平均値より±10%以上偏った場合は、 結果全体を棄却する。

3-2 JIS R 5202 ポルトランドセメントの化学分析方法

化学分析の試験は、 同一試料について原則として2回以上繰り返して行い、その差が次の

許容差(%)に示す数値よりも大きいときは再分析し、 許容差以内のものの平均値を示す。

[本体法]

項 目 ig.loss insol. SiO2 Al

2O3

Fe2O3

CaO MgO SO3 Na2O K2O TiO2

許容差 0.10 0.10 0.20 0.20 0.10 0.25 0.15 0.10 0.03 0.04 0.02

項 目 P2O5 MnO Cl S

許容差 0.02 0.02 0.003 0.04

[附属書法]

項 目 ig.loss insol. SiO2 Al

2O3

Fe2O3

CaO MgO SO3 MnO S Cl

繰り返し

精度(σ) 0.04 0.04 0.10 0.10 0.08 0.18 0.15 0.07 0.003 0.02 -

再現精度

(σ) 0.08 0.06 0.25 0.25 0.15 0.37 0.15 0.08 0.03 0.04 -

3-3 JIS R 5203 セメントの水和熱測定方法

(1)熱量計の熱容量

熱容量決定のための測定は 2回行い、 熱容量はその平均値をとる。 2回の差が 5J/Kよ

り大きいときは、 再測定を行い、 5J/K の以内のものの平均値をとる。

(2)未水和セメントの溶解熱測定

未水和セメントの溶解熱測定は2回行い、 未水和セメントの溶解熱はその平均値をと

る。 2 回の差が 5J/g より大きいときは再測定を行い、 5J/g の以内のものの平均値をと

る。

(3)水和セメントの溶解熱測定

水和セメントの溶解熱測定は 2 回行い、 水和セメントの溶解熱はその平均値をとる。 2 回の差が 10J/g より大きいときは再測定を行い、 10J/g の以内のものの平均値をとる。

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4.各試験項目に及ぼす不確かさの目安

(1)JIS R 5201:1997 セメントの物理試験方法

試験項目 値(一例) 試料秤量測定環境 測定操

標準器 試験器 試験者 合成標

拡張標

会員σ 会員外

σ

(1)密度試験 3.15g/cm3

0.001 0.010 0.007 0.000 0.003 0.002 0.013 0.026 0.008 0.014

(2)粉末度試験

о比表面積

о網ふるい

3360cm2

/g

0.6%

1

0.00

7

0.11

10

0.07

0

0.00

3

0.03

22

0.02

25

0.14

50

0.28

50

0.13

119

0.24

(3)凝結試験

о始発

о終結

2h-48min

4h- 5min

0.1

0.1

10.8

11.1

3.5

7.0

0.0

0.0

0.8

0.8

1.1

3.2

11.4

13.5

22.8

27.0

16.0

23.9

20.1

28.6

(4)安定性試

ルシャテリエ

0.5mm

0.00

0.06

0.07

0.00

0.08

0.46

0.48

0.96

0.23

0.69

(5)強さ試験

о圧縮強さ

3日

7日

28日

24.3 N/mm2

42.0 N/mm2

58.9 N/mm2

0.01

0.01

0.02

0.76

0.76

0.76

0.50

0.50

0.50

0.00

0.00

0.00

0.24

0.42

0.59

0.32

0.64

0.73

0.99

1.19

1.31

1.98

2.38

2.62

0.97

1.13

1.36

2.14

2.44

3.86

о曲げ強さ

3日

7日

28日

5.3N/mm2

7.7N/mm2

8.8N/mm2

0.00

0.00

0.00

0.36

0.20

0.27

(0.24)

(0.24)

0.24

0.00

0.00

0.00

0.05

0.08

0.09

0.03

0.07

0.11

0.44

0.33

0.39

0.88

0.66

0.78

0.28

0.31

0.35

0.49

0.58

0.90

(2)JIS R 5202:1995 ポルトランドセメントの化学分析方法

試験項目 値(一例) 試料秤量測定環境 測定操

標準器 試験器 試験者 合成標

拡張標

会員σ 会員外

σ

(1)強熱減量 2.2% 0.00 0.05 0.01 0.00 - 0.01 0.05 0.10 0.08 0.40

(2)不溶残分 0.1% 0.00 0.04 0.01 0.00 - 0.03 0.05 0.10 0.07 0.18(3)二酸化けい素21.1% 0.01 0.07 0.01 0.00 - 0.10 0.12 0.24 0.10 0.50

(4)酸化アルミニウム 5.1% 0.00 0.06 0.01 0.00 0.00 0.05 0.08 0.16 0.13 0.56(5)酸化第二鉄 2.9% 0.00 0.03 0.01 0.00 0.00 0.02 0.04 0.08 0.07 0.26

(6)酸化カルシウム 64.1% 0.02 0.06 0.05 0.00 0.03 0.13 0.16 0.32 0.24 0.66(7)酸化マグネシウム 1.1% 0.00 0.03 0.01 0.00 0.00 0.01 0.03 0.06 0.08 0.20

(8)三酸化硫黄 1.9% 0.00 0.03 0.01 0.00 0.00 0.01 0.03 0.06 0.07 0.18(9)酸化ナトリウム 0.30% 0.000 0.009 0.007 0.00 0.000 0.006 0.013 0.026 0.014 0.067

(10)酸化カリウ

ム 0.61% 0.000 0.017 0.007 0.00 0.000 0.014 0.023 0.046 0.020 0.064

(11)二酸化チタ

ン 0.24% 0.000 0.007 0.007 0.00 0.000 0.004 0.011 0.022 0.018 0.051

(12)五酸化りん 0.20% 0.000 0.005 0.007 0.00 0.000 0.001 0.009 0.018 0.016 0.030

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32

(13)一酸化マンガン 0.09% 0.000 0.007 0.000 0.00 0.000 0.001 0.007 0.014 0.016 0.021

(14)硫化物硫黄 BB=0.3

%

0.00 0.05 0.01 0.00 0.00 0.03 0.06 0.12 0.08 0.16

(15)塩素 0.007

0.000 0.001 0.001 0.00 0.000 0.001 0.002 0.004 0.002 0.003

(3)JIS R 5203:1995 セメントの水和熱測定方法

試験項目 値(一例) 試料秤量測定環境 測定操

標準器 試験器 試験者 合成標

拡張標

会員σ 会員外

σ

水和熱の測定

7 日

28 日

319J/g

374J/g

0.1

0.1

2.8

1.9

0.5

(0.5)

0.0

0.0

4.8

4.8

0.2

1.5

5.6

5.4

11.2

10.8

9.2

9.7

16.3

20.8

備考1.不確かさの要因を、 次のとおり仮定する。

試料秤量: 各試験項目の試料秤量は、 はかりの 大許容差を 1gで±1.0mg として、

一律に値(一例)×0.2%÷6とする。

測定環境: 設備及び環境条件を試験所間の標準偏差とする。

標準値決定試験又は OC 共同試験時の 9 試験所の試験所間標準偏差とす

る。 圧縮強さは、試験室温度±2℃→R=32kgf/cm2×1.42÷6=0.76N/mm2

測定操作: 試験の操作・・・試験所内の標準偏差とする。

圧縮強さは、 TV 0.65~0.95mm で 3N/ mm2÷6=0.50

標準器 : 認定事業者の標準器の不確かさ

質量基準器の公差(ひょう量の±1/20000 内)、 及び基準ガラス製温度計

の器差精度(±0.05℃)が測定値に及ぼす標準器の不確かさはすべて 0と

する。

試験器 : 試験器の許容誤差を標準偏差に換算する(備考 2)。

測定者 : OC セメント共同試験の過去 10 年間の(会員外標準偏差-会員標準偏差)

の 小値とする。

合成標準: 各要因の合成標準不確かさとする。

拡張標準: 合成標準の包含係数(k=2)の拡張標準不確かさとする。

会員σ : OC セメント共同試験会員の標準偏差σの 大値とする。

会員外σ: OC セメント共同試験会員外の過去 10 年間の標準偏差σの 大値とす

る。

備考2.試験器の算定仮定値は、次のとおりとする。

2.1. JIS R 5201:1997 セメントの物理試験方法

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33

試験器:試験器の許容誤差を標準偏差に換算する。

(1)密度試験:0.021g/ cm3/℃÷6=0.004

(2)粉末度試験

о比表面積試験:計測誤差 1%→16cm2/g÷6=3

о網ふるい試験:通過量 0.1g→0.2%÷6=0.03

(3)凝結試験

о始発、終結:5分単位で記録→5分÷6=0.8

(4)安定性試験

оルシャテリエ:0.5mm 単位で記録→0.5mm÷6=0.08

(5)強さ試験

о圧縮強さ 3、 7、 28 日:耐圧試験器 24.3, 42.0, 58.9N/mm2×±3%÷6=0.24,

0.42, 0.590 曲げ強さ 3、 7、 28 日:耐圧試験器 5.3, 7.7, 8.8N/ mm2×±3%÷6

=0.05, 0.08, 0.09

2.2. JIS R 5202:1995 ポルトランドセメントの化学分析方法

試験器: ガラス製体積計の全量フラスコ(250ml クラス A許容誤差=±0.15ml)及

び全量ピペット(50ml クラス A 許容誤差=±0.05ml)を標準偏差に換算し、 一律

に値(一例)×(±0.15ml/250ml)+(±0.05ml/50ml)÷6 とする。

強熱減量、 不溶残分、 二酸化けい素を除く次の項目とする。 酸化アル

ミニウム、酸化第二鉄、 酸化カルシウム、 酸化マグネシウム、 三

酸化硫黄、 酸化ナトリウム、 酸化カリウム、 二酸化チタン、 五

酸化りん、 一酸化マンガン、 硫化物硫黄、 塩素。

2.3 JIS R 5203:1995 セメントの水和熱測定方法

試験器 センサー方式温度計の測定確度 0.05℃→(0.57J/g/0.001℃)×50÷6=

4.8

以 上

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34

G.重量法による分析の場合の不確かさの推定例

(財)塩事業センター海水総合研究所

新 野 靖

塩の分析において、重量法である乾燥減量がある。乾燥減量は、塩の「水分」を近似する

項目であり、「塩試験方法」(日本海水学会編集、(財)塩事業センター発行)に示された分

析フローを下記に示すが、操作は秤量操作と乾燥操作に限られる。

◇操作 はかり瓶の調製 140℃恒量 ±1.0mg

↓ (実用は 6時間以上乾燥で使用)

はかり瓶重量測定

試料約 10g+はかり瓶の重量測定

乾燥 140℃90 分

室温まで放冷(約 30分)

重量測定

乾燥前重量(g)-乾燥後重量(g)

◇計算 乾燥減量(%)= ──────────────── ×100

乾燥前重量(g)-はかり瓶重量(g)

上記の分析フローにおける不確かさの要因とその要素を表-1 に示す。ここで、乾燥減量

の数値計算に関わる操作は重量測定しかないため、データとして用いることができる不確か

さの要因因子は天秤の精度に限られる。この見積もりで計算した結果(表-2)は、実測値に

比して 3 桁小さい数値となる。これは、サンプリングのバラツキや試料のはかり瓶への入れ方(高

さ,密度)のバラツキによる乾燥状態の差(測定試料間のバラツキ)が要因として含まれないためで

ある。したがって、重量測定における不確かさに乾燥操作における不確かさを加算する必

要があり、乾燥操作による不確かさは、表-3 の実測データに示したように試料によって差

が生じるため、実測して求めなければならない。

このように塩の乾燥減量においては、重量測定の精度から求めた不確かさは、実測値に

比して極小となるので、乾燥減量の不確かさとしては、全ての要因が含まれたサンプリングか

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35

ら減量測定までの操作を繰り返した実測値で表す必要がある。

表-1 乾燥減量の不確かさ要因とその要因因子

不確かさ要因 構成要素 要因因子

試料量算出の不確かさ

乾燥減量値算出の不確かさ

はかり瓶重量測定時の不確かさ

試料を加えた後の重量の不確か

乾燥後重量測定時の不確かさ

天秤精度

天秤繰り返し精度

恒量の不確かさ

天秤精度

天秤繰り返し精度

天秤精度

天秤繰り返し精度

◇乾燥減量の不確かさの推定例

表-2 計算結果

値 U as RSD

はかり瓶重量(g)

はかり瓶+試料重量(g)

試料量(g)

乾燥後重量(g)

乾燥時減量値(g)

乾燥減量(%)

40.5000

50.5051

10.0051

50.3001

0.205

2.049

1.282×10-5

1.933×10-6

1.297×10-5

1.941×10-6

5.615×10-7

1.325×10-5

重量測定操作の不確かさ(%)

重量測定操作の拡張不確かさ(%)

乾燥操作によるバラツキ(実測) (%)

全操作の不確かさ(重量操作+乾燥操作)(%)

拡張不確かさ(%)

2.72×10-5

5.4×10-5

0.019

0.019

0.038

表-3 実測結果(n=10)

試料 測定平均値(%) σ(%) 2σ(%)

A

B

0.016

2.109

0.004

0.019

0.008

0.038

Step1 はかり瓶の重量測定

1) 天秤メーカー仕様精度(±)0.1mg 0.1mg/1.96= 0.05102 mg

2) 秤量 SD(AE200)98/4/15(メーカー測定値)95%信頼性 0.045 mg(<100g)

3) はかり瓶秤量 SD(実測値 n=10) 0.07 mg(42g)

4) 許容される恒量誤差=±1mg/1.96=0.510mg

U=√(0.051022 +0.072+0.0452+0.512)=5.193×10-4 g

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36

Step2 試料秤量

1) 天秤メーカー仕様精度(±)0.1mg 0.1mg/1.96= 0.05102 mg

2) 秤量 SD(AE200)98/4/15(メーカー測定値)95%信頼性 0.045 mg(<100g)

3) はかり瓶秤量 SD(実測値 n=10) 0.07 mg(42g)

U=√(0.051022 +0.072+0.0452)=9.761×10-5 g

Step3 試料量の不確かさ

値 U U as RSD (U as RSD)2

はかり瓶

試料+はかり瓶

40.5000

50.5051

5.193×10-4

9.761×10-5

1.282×10-5

1.933×10-6

1.644×10-10

3.735×10-12

SUM 1.681×10-10

試料量の U as RSD=√(SUM)=√1.681×10-10 =1.297×10-5

U=1.297×10-5×(50.5051-40.5000)=1.297×10-4 g

Step4 乾燥後の秤量操作 Step2 と同じ U=9.761×10-5 g

Step5 乾燥後の減量値の不確かさ

値 U U as RSD (U as RSD)2

試料+はかり瓶

乾燥後重量

50.5051

50.3001

9.761×10-5

9.761×10-5

1.933×10-6

1.941×10-6

3.735×10-12

3.766×10-12

SUM 7.501×10-12

減量値の U as RSD=√(SUM)=√7.501×10-12=2.739×10-6

U= 2.739×10-6 ×(50.5051-50.3001)=5.615×10-7 g

Step6 乾燥減量値の不確かさ

値 U U as RSD (U as RSD)2

試料量

乾燥減量値

10.0051

0.205

1.297×10-4

5.615×10-7

1.297×10-5

2.739×10-6

1.681×10-10

7.501×10-12

SUM 1.756×10-10

乾燥減量値の U as RSD=√(SUM)=√1.756×10-10= 1.325×10-5

測定値 0.205×100/10.0051= 2.049 %

乾燥減量の不確かさ=1.325×10-5 × 2.049= 2.715×10-5 %

拡張不確かさ =2.715×10-5×2=5.4×10-5 %

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H.容量法による分析の場合の不確かさの推定例 (財)塩事業センター海水総合研究所

新 野 靖

塩の分析において、容量分析として塩化物イオンの沈殿滴定がある。塩化物イオンは塩

の中で も多い約 60%を占める成分であり、この分析値が塩の製品規格や輸入塩の取引の基

準値となる NaCl 純度に結びつくので、塩化物イオン分析の信頼性の維持、確保が分析所と

して も重要視される項目である。

「塩試験方法」(日本海水学会編集、(財)塩事業センター発行)に示された塩化物イオン

の分析フローを下記に示す。

◇標準溶液の調製 NaCl 標準試薬(JIS K8005)600℃1 時間加熱後

約 5.85g(少数点以下 4桁まで秤量)

水に溶かし メスフラスコ 1000ml に入れて定容

ファクター fNaCl=採取量(g)×99.98(%)/(5.8443×1000)

99.98%:NaCl 標準試薬純度

5.8443g:NaCl 0.1 モルの重量

◇硝酸銀溶液の標定

NaCl 標準溶液 25ml 採取

水 25ml を加え指示薬(K2CrO4)1ml 添加

硝酸銀溶液(0.1M)で滴定

FCl= 3.5453×fNaCl×25/(滴定量-Blank)

FCl:調製した硝酸銀溶液(0.1M)1ml と反応する Clの mg

3.5453:NaCl 0.1M 溶液 1ml(fNaCl=1 の時)中の Cl mg

◇検液の調整 試料塩 10g を秤量

水に溶かし メスフラスコ 500ml に入れて定容

◇検液の滴定 検液 10ml を採取

水 40ml を加え指示薬(K2CrO4)1ml 添加

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38

硝酸銀溶液(0.1M)で滴定

◇計算 FCl(mg/ml)×(滴定量-Blank)×100

1000

Cl(%)=

検塩量(g)×10(検液採取量 ml)

500(検塩溶解時の溶液量 ml)

上記の分析フローにおける不確かさの要因とその要素は表-1 の通りである。この要因の

各因子について実測できるものは実測し、各要因の不確かさを算出し、その不確かさを加

算して測定値の不確かさを求めた。なお、筆者のラボでは、塩化物イオン分析に使用する

ピペットとフラスコは、あらかじめ標線までの容量を測定して係数を算出し、計算時に係

数を用いて補正する方法を採用しており、この補正係数を有効にするため、分析時は検液、

滴定溶液の温度を測定して温度補正を行っている。

表-1 不確かさの要因

不確かさ要因 構成要素 要因因子

A.標準溶液の不確かさ 1)NaCl 標準試薬秤量時の不確かさ

2)NaCl標準試薬溶解に使用するフラスコ

の不確かさ

3)NaCl 試薬の不確かさ

天秤精度

繰り返し精度

標線合わせ精度

試薬純度

分子量

B.標定における不確かさ 1)AgNO3標定における NaCl 標準溶液

分取の不確かさ

2)ビュレットの不確かさ

25ml ピペット繰り返し

操作精度(補正済み)

ビュレット精度(25ml)

繰り返し精度(25ml)

終点判定精度

C.検液中 Cl 濃度の不確か

1)検液採取における不確かさ

2)検液滴定における不確かさ

10ml ピペット繰り返し

精度(補正済み)

ビュレット精度(35ml)

繰り返し精度(35ml)

終点判定精度

D.検液中試料濃度の不確か

さ(検液調製)

1)検塩秤量の不確かさ

2)定容における不確かさ

天秤精度

秤量繰り返し精度

メスフラスコ標線合わせ繰

り返し精度(補正済

み)

E.Cl測定結果における不確

かさ

A,B,C,D の積算

以上の要因について不確かさを推定した。この推定は、B項の保田氏の例に準じて行

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39

ったものである。

計算において、滴定の Blank 値については不確かさを見積もっていない。Blank 値の終

点判定の指標となる反応後生成物(Ag2CrO4)の溶解度から計算すると0.03mlがblank値とな

り、また、実測した場合も 0.03ml 付近であることを確認し、その数値を一定値として分析

計算上用いているので、推定計算から除外した。不確かさとして加算するならば、Blank 値

は分析所における一定値であるので、Step6 および Step9 の滴定値の終点判定誤差を 2 倍

(0.02ml)として滴定値の不確かさを多く見積もる方法が適していると考える。この方法で

計算した場合、拡張不確かさは 0.09%となる。

表-2 の計算結果において、ピペットによる分取、滴定の精度が測定値の不確かさに直

結することが分かる。したがって、この分析においては熟練度が問題となる。今回のデータ

は熟練した担当者のデータを用いており、拡張不確かさは試験方法の規定許容差 0.15%以下で

ある。しかし、初心者の場合はピペット操作や滴定操作のバラツキが大きく、保田氏のB項表

ー 2 の A 君,B 君のピペットの繰り返し操作 SD(10ml,20ml-25ml の代用として使用、その他条

件は同じとする)から塩化物イオンの不確かさを求めると、A 君 0.12%,B 君 0.16%となり、

塩試験方法規定の許容差とほぼ同じとなる。滴定の終点判定についても、初心者と熟練者

には差があるので、この要素を導入すると熟練度による差はさらに拡大する。本推定にお

ける終点判定誤差は、熟練者が終点判定時に操作可能である読みとり 小単位の 0.01ml(半

滴)を用いている。一滴(0.02ml)の誤差を用いた場合、拡張不確かさは 0.09%となり、誤差

0.01ml の増加で 0.02%高くなる。

電気的又は光学的な終点判定を用いることができる分析(中和滴定、キレート滴定など)

の場合であれば、熟練度は除外されるので担当者間の差は縮小する。この場合、機器の終

点判定精度(実測)を計算に用いる。

計算値と実測値を比較すると、近い値を示しており、容量分析においては、不確かさの

要因を各操作について拾っていくことにより、実際の操作のバラツキに相当した不確かさ

となることを示している。

この推定においては一人の熟練担当者を基本として算出しており、試験所内に複数の担

当者がいる場合、担当者間の差の把握および縮小が重要となり、試験所内の許容差の設定

においてはこの点を考慮する必要がある。不確かさの推定を行うにあたり、表計算ソフト

でプログラミングを行えば、担当者ごとの操作精度と実測値を入力するだけで、不確かさ

の算出ができ、品質システムの精度の維持向上を図るには有効である。

◇塩化物イオン分析の不確かさの推定例

表-2 計算結果

項目 値 U as RSD

滴定操作

NaCl の採取量(g)

5.8443

1.67×10-5

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NaCl の純度

NaCl 溶液分取量(ml)

標定滴定量(ml)

検液分取量(ml)

検液滴定量(ml)

検液調製操作

検塩量(g)

定容 (ml)

測定結果

Cl 含有量(%)

0.9998

25

24.95

10

33.3

10.034

500

58.953

5.77×10-5

1.52×10-4

3.70×10-4

3.30×10-4

2.36×10-4

9.73×10-6

1.23×10-5

5.88×10-4

不確かさ

拡張不確かさ

0.035%

0.070%

表-3 実測値

測定値 (%)

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

59.126

59.110

59.130

59.131

59.123

59.151

59.100

59.100

59.175

59.164

Ave

σ

59.131

0.026

0.052

Step1 NaCl 標準試薬の秤量の不確かさ

1) 天秤仕様精度 95%信頼性 U

±0.1mg ん 0.1/1.96= 0.0510 mg

2) 天秤秤量 SD 検査データ 0.045 mg(<100g)

3) 秤量 SD(AE200)はかり瓶実測値(実測値 n=10) 0.07 mg

秤量における U=√(0.0512+0.0452+0.072)=9.76×10-5g

Step2 NaCl 溶解時使用フラスコの不確かさ

分析時に温度補正およびフラスコ標線補正を行うので、フラスコの規格誤差は無視でき

る。但し、補正時の不確かさが生じる。温度補正についてはその方法上 大の

誤差を考慮して不確かに含めた。フラスコ補正時の不確かさには、天秤、基準温度

計および基準気圧計の不確かさが含まれるが、極小であるので計算から除外し

た。

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41

U

1) 1000ml 標線合わせ SD (実測値 n=10) 0.0203 ml

2) 温度補正 大誤差 0.1ml/1.96= 0.0510 ml

塩試験方法に従った温度補正は 1℃単位で 1/100ml 単位の補正であるため、0.5℃

でその 1/2 の量が 大誤差となる。 大誤差は 50ml 未満で 0.005ml, 100ml で

0.01ml,500ml で 0.05ml,1000ml で 0.1ml となる。

フラスコの U=√(0.02032+0.0512)= 0.0549 ml

Step3 NaCl 試薬の不確かさ

1) 純度の不確かさ 純度保証値 99.98±0.01%

U=(0.01/100)/√3= 5.773×10-5 g

2) 原子量の不確かさ

原子量 U(化学便覧より)

Na 22.98977 0.000002

Cl 35.4527 0.0009

分子量の U=√(0.0000022+0.00092)=0.0009 g/mol

秤量値 5.8443g 時の NaCl 標準溶液濃度

CNaCl=5.8443×0.9998/58.443=0.09998 mol/l

Step4 標準溶液の不確かさ

標準溶液調製操作に関する要因 Step1~3 の U as RSD を加算して標準溶液の不確か

さを求める。

値 U U as RSD (U as RSD)2

秤量

フラスコ

純度

原子量

5.8443

1000

0.9998

58.443

9.761×10-5

0.0549

5.774×10-5

0.0009

1.6702×10-5

5.4911×10-5

5.7747×10-5

1.5400×10-5

2.790×10-10

3.015×10-9

3.335×10-9

2.372×10-10

SUM 6.866×10-9

標準溶液の U as RSD=√SUM=√6.866×10-09=8.2861×10-5

標準溶液の U=8.2861×10-5×0.1mol/l=8.284×10-6 mol/l

Step5 検液採取の不確かさ 25ml ピペットは容量補正済みを使用

NaCl 溶液分取量=25ml

1) 繰り返し SD(実測値 n=10) 0.0028 ml

2) 温度補正時の 大誤差 0.005 ml/1.96=0.00255ml

使用時温度補正

U=√(0.00282+0.002552)=3.78×10-3 ml

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42

Step6 標定滴定時の不確かさ 滴定時の液温温度補正有り

1) 25ml 滴加時の再現性(実測値 n=10) 0.0028 ml

2) 25ml 滴下時のビュレット器差(実測値 n=10 平均値) 0.0067 ml

3) 温度補正時の 大誤差 0.005 ml/1.96=0.00255ml

4) 終点判定誤差

小滴下容量 0.01ml/1.96= 0.0051ml

標定滴定時の U=√(0.00282+0.00672+0.002552+0.00512)= 0.0092 ml

標定時の滴定量 24.95 ml

0.1M 硝酸銀濃度 CAgNO3=25.00×CNaCl/(24.95-0.03)=0.10030mol/l

Step7 標定濃度の不確かさ

硝酸銀溶液の標定に関わる操作 Step4~6 の U as RSD を加算して標定濃度の不確

かさを求める。

値 U U as RSD (U as RSD)2

NaCl 標準溶液濃度

滴定量

分取量

0.09998

24.95

25

8.284×10-6

9.234×10-3

3.788×10-3

8.2861×10-5

3.701×10-4

1.5151×10-4

6.866×10-9

1.3698×10-7

2.2956×10-8

SUM 1.668×10-7

AgNO3溶液濃度の U as RSD=√(SUM)=√1.668×10-7=4.08×10-4

AgNO3溶液濃度の U =4.08×10-4×0.09998=4.08×10-5

Step8 検液採取における不確かさ 温度,容量補正あり

1)10ml ピペット操作 SD 0.0021 ml

2)温度補正時の 大誤差 0.005 ml/1.96= 0.00255 ml

U=√(0.00212+0.002552)= 0.0033 ml

Step9 検液の滴定時の不確かさ 滴定量 33.30 ml

1)35ml 滴定時のビュレットの器差(実測値) 0.0052 ml

2)ビュレット繰り返し SD(35ml 繰り返し 10回) 0.0014 ml

3)終点判定誤差 0.01ml /1.96= 0.0051 ml

4)温度補正時の 大誤差 0.005ml/1.96= 0.00255 ml

U=√(0.00522+0.00142+0.002552+0.00512)= 7.84×10-3 ml

Step10 Cl 測定濃度の不確かさ

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43

値 U U as RSD (U as RSD)2

CAgNO3

検液分取量

滴定値

0.100301

10

33.30

4.0833×10-5

3.3042×10-3

7.84×10-3

4.071×10-4

3.3042×10-4

2.3558×10-4

1.657×10-7

1.0918×10-7

5.5498×10-8

SUM 3.3038×10-7

Cl 濃度の U as RSD=√SUM=√3.3038×10-7=5.75×10-4

滴定量から Cl(%)を求めると

Cl(%)=3.5453×(0.100301/0.1)×(33.30-0.03)×5/10.0340=58.953 (%)

滴定操作が及ぼす測定結果の不確かさは

U= 58.953 ×5.75×10-4= 0.034 %

以下、滴定した検液の調製操作における不確かさを求める

Step11 検塩秤量の不確かさ

1) 天秤仕様精度(±) 0.1mg 95%信頼性 精度/1.96

0.1mg/1.96= 0.05102mg

2)秤量 SD検査値 0.045 mg(<100g)

3) 秤量 SD(はかり瓶実測値) 0.07 mg

U=√(0.051022+0.0452+0.072)= 9.76×10-5 g

Step12 検塩の定容における不確かさ

1)メスフラスコ 500ml 繰り返し SD 0.0171 ml

2)温度補正時の 大誤差 0.05 ml/1.96= 0.0255 ml

U=√(0.01712+0.02552)= 0.0307 ml

Step13 検液中試料濃度の不確かさ

値 U U as RSD (U as RSD)2

秤量

定容

10.034

500

9.761×10-5

6.135×10-2

9.7281×10-6

1.2271×10-4

9.4635×10-11

1.5058×10-8

SUM 1.5152×10-8

検液調製操作における U as RSD= √SUM=1.5152×10-8=1.23×10-4

検液調製操作による測定値の不確かさ U=1.23×10-4×Cl(%)=0.0072 %

Step14 測定結果の不確かさ

滴定操作の不確かさ(U as RSD)と検液調製による不確かさ(U as RSD)を加算する

√[(5.75×10-4 )2 +(1.23×10-4)2] × 58.953 (%)

=5.88×10-4×58.953=0.0347 (%)

拡張不確かさ=0.0347×2= 0.070 %

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I.機器分析の場合の不確かさの推定例

a.原子吸光光度計

日立製作所計測機器事業部 保田和雄 陶磁器容器から溶出されるカドミウムの原子吸光法による測定

(*CITAC Guide 3(draft)を参照した。ただし、photometric accuracy は除く)

これの分析法は次に述べるように定められている。 陶磁器に 4%の醋酸を満たし、24 時間放置して溶出される Cd、(Pb)の量を原子吸光法で

求める。容器の単位面積から溶出される Cd、(Pb)の質量をγとすると

γ = C VaO L

V (1)

ここで CO:検出された Cd、Pb の濃度 VL:溶出液の全量 aV:容器の表面積 測定は内挿法で行う。このため濃度(CO)は(2)式のようにして求められる。

CO=A AA A

C C C0 1

2 12 1 1

-・ +―

( ) d (2)

ここで A0:溶出した試料に基づく(原子吸光の)吸光度 A1:内挿法の下限の濃度に対する吸光度 A2:内挿法の上限の濃度に対する吸光度 C1:内挿法の下限の濃度 C2:内挿法の上限の濃度 d :試料を希釈したときの倍率 Uncertainty を推定するため、分析の各ステップを記述する必要がある。 Step1 4%醋酸の調製 Step2 容器へ上記の醋酸を満たす Step3 24 時間放置して溶出する Step4 内挿法の検量線の作成 Step5 試料の吸光度測定、濃度算出、溶出金属量の算出

そして、 後には各 Step の Uncertainty の評価を行い、当分析法の問題点がどこにある

のかを指摘する。

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1) Uncertainty Component(u)

(2)式は も単純なケースを示したもので、実際には、4%醋酸調製時の正確な濃度、放

置時の時間、温度、検量線の湾曲などの factors が入り込んで来る。これらの事象を(2)式に反映させると(3)式で表わされる。

CO=A AA A

C C C d f f f facid time temp instr0 1

2 12 1 1

-・ + ・ ・ ・ ・ ・―

( ) (3)

関数 f で表わされるものは上述した項目を数式で表現したものである。 次に各 Step における u を求める。

Step1. 4%v/v の醋酸溶液の調製

この溶液の調製は 1lの flask と 20ml の pipette で行った。このときの室温はこ

れらの器具の容量を補正したときの温度に比べて 3℃以内だった。そうすると uは醋酸の純度、分析技術者の熟練度、ガラス器具の仕様、温度差について考慮し

なければならない。 醋酸の濃度は>99.5%w/w との表示しかなかった。このため、この u の分布関

数は矩形分布と考えざるを得ない。純度 100%を 1 とすると、u は 0.005/3 =0.0029 になる。1 l の flask を使用したときの熟練度を次のようにして求め

た。純水を秤線まで入れ、これを天秤で測定する。10 回繰り返す。このときの

標準偏差は 0.14ml だった。一方、flask のメーカの容量に対する表示は±0.4mlだった(JIS では±0.6ml)。この値はメーカによって出荷時に検定されたか否か

が判断できなかったので、分布関数は矩形と判断せざるを得なかった。そうす

ると、これに基づく誤差関数は 0.4/ 3 =0.23 となる。したがって、この技

術者がこの flask を使ったときの誤差関数である u は 014 0 232 2. .+ =0.27ml とな

り、RSD で表現すると 0.00027 になる。JIS 仕様の場合は 0.37ml になり、RSDで 0.00037 になった。同様にして 20ml pipette 使用時の、再現性は 0.016mlであり、器具の仕様は±0.03ml(JIS では±0.03ml)であり、2 回使用して 40mlをとったために仕様は±0.06ml になる。これから誤差関数を求めると 0.06/ 3=0.035ml になる。一方、2 回の分取であるため、熟練度に関しては 2 倍ではな

く 2 倍になり、0.016× 2 =0.023ml の変動になる。したがってこの技術者が、

この 20ml の pipette を 2 回使って 40ml を分取したときの SD で表現される u

は 0 035 0 0232 2. .+ =0.042ml となり、RSD では 0.0011 となる。したがって 4%v/v の醋酸溶液を調製したときの濃度の u は 0 0029 0 00027 0 00112 2 2. . .+ + =

0.0031 となる。なお、器具および操作の値の u を求めると 0 00027 0 00112 2. .+ =

0.0011 となる。 分析時の温度と補正時の温度が相異するため、これの補正が必要になる。醋酸お

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よび純水の膨張係数をα1、α2とし、その容量を V1、V2 とすると、醋酸濃度に

影響を与える要因は両者の容量の比である。(4)式でもって表わされる。

VV

VV

TT

1

2 2

1

2 0

1

2

11

= ・

α δα δ

(4)

ここで、VV

1

2 0

は補正時の温度 To のときの容量比であり、δT は温度差である。

醋酸の膨張係数は 1.07×10-3 であり、純水のそれは 2.1×10-4 であるので、温

度差を 大で 3℃とすると、上記の容量の比は次のようになる。 4×(1+3×0.00107)/(1+3×0.00021)-4=0.010 上記の一連の操作が補正時の温度に対し±3℃の中で行われ、かつどの温度のと

きに操作が多かったかなどが特定できないため、この補正は矩形分布と考えた方が

よい。したがって誤差関数は 0.010/ 3 =0.0058 となる。この結果、原液の純度

を別にして操作で入り込む u は前述した操作の値とこれとの自乗和の平方根

0 0011 0 00582 2. .+ =0.0064%v/v になる。

Step2. 陶磁器の容器への醋酸溶液の注入 メスシリンダーを用いて醋酸溶液をこの容器に注入するが、満杯にするという常

識は容器のヘリより 1mm 以内におさめることを意味している。これは満たされ

る容量が 99.5±0.5%であることを指す。---実際にはここまでの精度は取れな

くて、一般には 2%以内にはおさまっているといわれている。---メスシリ

ンダーの精度は 1%であるので、このメスシリンダーでこの容量に満杯にした

場合の容量を求めると誤差関数は 0.005×VL/ 3 =0.003VL と 0.01×VL/

3 =0.006VLの自乗和の平方根である。VL× 0 003 0 0062 2. .+ =0.07VLである。

例えば、注入した量が 332ml であったとすると u は 0.007×332ml=2.3ml とい

うことになる。

Step3. 放置、溶出 この分析法では放置は 24±0.5h で、温度は 22±2℃ということになっている。

放置している間に温度が変わり、蒸発によって酸濃度も変わる。この結果、溶出

される Cd、(Pb)の量も変化する。 3-1. 溶出、時間の影響

Krinitz、Franco によれば 6h を超える場合には濃度変化は 0.3%/h であ

る。放置時間は 24±0.5h なので時間に基づく ftimeは 1±(0.5×0.003)

=1±0.0015 である。しかもこの ftimeは矩形分布なので、u は 0.0015/ 3

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≒0.001 になる。ftime=1 なので RSD で表現すると 0.001 になる。 3-2. 温度の影響

陶磁器中の金属の溶出は種々調べられているが、室温(20~25℃)のデー

タは少ない。この例では 5%/℃でかつ直線性が成立しているといわれて

いる。本分析での温度の許容差は±2℃であるので、ftemp=1±0.1 になる。

室温は空調によって制御されていないとすると、この±2℃の中をどのよ

うに変動するか規則性はない。変動は矩形分布が考えられる。したがって

誤差関数は 0.1/ 3 =0.06 になる。 3-3. 酸濃度の影響

Pbについて酸濃度が 4から 5%に変化すると、溶出量は 92.9から 101.9mg

/l になるといわれている。また、他の報告では 2 から 6%に増加すると

50%変化するといわれている。ただし、これは温度を上げて行う分析法の

場合である。したがってこれから判断すると、10%/1%v/v が考えられ

る。Cd についても Pb と同じと仮定する。少なくとも蓋をして放置するた

め 24 時間で蒸発をする量を 1%とすると、これによる誤差関数は

01 1100

13

0 001 3 0 0006. . .× × /= = になる。一方、酸濃度の誤差関数は

0.0031%v/v であるので、蒸発による濃縮の値を加えると

0 0031 0 0006 0 00322 2. . .+ = となり、

蒸発にもとづく酸濃度の濃度で表現される u は非常に小さいと推定でき

る。

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Step4. 検量線の作成 4-1. 内挿法の上・下限の標準液の調製

Cd の標準液という名で市販されているものは 1000±2mg/l(in HNO3)

といわれている。 一方、この実験で推定される Cd の濃度は 0.2mg/l なので、上・下限の

濃度を 0.1 および 0.5mg/l に設定した。これの操作を示すと、 1000mg/l :stock solution ↓

10 倍希釈 ↓

20 倍希釈 ↓

10 倍希釈 上限の濃度 C2 ↓

5 倍希釈 下限の濃度 C1 になる。例 2 の B 君が JIS 規格の pipette を使用したということを例にし

て、そのときの各 pipette、flask を使用時の u を表-10 に示す。 表-10

再現性 JIS規格のピペットの仕様およびSD 組み合わせ uc as RSD 5ml ピペット 0.0040 0.015ml 0 015 3 0 0087. ./ = 0 004 0 0017 0 00432 2. . .+ =

10ml 0.0025 0.02ml 0 02 3 0 012. ./ = 0 0025 0 0012 0 00282 2. . .+ = 20ml 0.0020 0.03ml 0 03 3 0 017. ./ = 0 0020 0 0009 0 00222 2. . .+ = 100ml 0.0005 0.12ml 012 3 0 069. ./ = 0 0005 0 0007 0 000862 2. . .+ =

10 倍希釈は 10ml をとり、これを 100ml のメスフラスコで希釈する。し

たがってこの希釈は10mlのピペット操作と100mlのメスフラスコ操作を

合わせたものになる。したがって uc は両 u の自乗和の平方根になる。こ

の希釈操作をまとめると表-11 のようになる。 表-11

組み合わせ uc as RSD 10倍希釈 0 0028 0 00086 0 00292 2. . .+ = 20倍希釈 0 0043 0 00086 0 00442 2. . .+ = 5 倍希釈 0 0022 0 00086 0 00242 2. . .+ =

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日本で市販されている原子吸光分析用標準液は 1000mg/l と表示されて

いるが、測定値が添付されて 1006mg/l となっている。しかし、どのよ

うにして求めたかについての Traceability の明示はない。したがってこの

値の取り扱いには困ってしまう。もし、confidence interval が 0.006 とす

ると、SD=0.006/1.96=0.0031 と表現できる。あるいは 1000±6mg/l

とするならば SD=0.006/ 3 =0.0035 になる。あるいは、1006mg を中心

にしてガウス分布したとすると 1006±2.5mg/l になる。

一応 confidence interval と考えてみると、0.0031 as RSD と考えられる。

これから上限の標準液の ucは

u CCc( ) . . . . .2

2

2 2 2 20 0031 0 0029 0 0044 0 0029 0 0068= + + + =

濃度で現わすと

uc(C2) =0.5×0.0068=0.0034mg/l

下限の標準液の uc は

u CC

c( ) . . .1

1

2 20 0068 0 0011 0 0069= + =

濃度で現わすと

uc(C1) =0.1×0.0069=0.00069mg/l となる。

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Step5. 原子吸光光度計の Photometric accuracy 原子吸光の吸光度は理論的には成り立たないが、一つの物差しとして用いるのは

便利である。absorbance として 0~0.1 位の間ならば直線性が成り立つ。 1. base line(特に drift について) 測定する濃度によって取り扱いが異なる。図-1 のデータは濃度が 1,000 倍異な

るときの例である。この drift は測光原理によっても相違する。さらに a)lamp の種類、特性、使用時間に、b)風などの環境による lamp の表面温度の

変化、c)電気回路などによっても drift が異なる。 drift は bias として補正する。完全な補正ができないときは u を求める必要があ

る。

図-1 mg/l 測定時の例 µg/l 測定時の例

1-1. base line Cd in 4% acetic acid の測定範囲(100-500µg/l)での base line を図-2に示す。

図-2 Cd in 4% Acetic acid の base line

水の場合と比べ 3×10-4Abs の浮き上がりはあるが、ドリフトはほとんど

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ない。この浮き上がりは systematic error として補正できる。 2. back ground 吸光 これは matrix によるもの(特に organic solvent による)、flame condition によ

るもの(fuel lean, fuel rich)がある。これに対処するには i)PM または amp の gain をあげる。結果として noise が高くなる。 ii)HCLamp の光強度を上げる。結果として line profile が変わる。 iii)B.G.correction の 適な方法を選ぶ。 iv)前処理を行う。 back ground absorption によって resonance line の profile は変わらない。この

ためworking curveのある点から上に同じ形のworking curveを作ることになる。

ただし、0 点の noise、u は上述したある点の値を使用しなければならない。例

えば図-3 は水を噴霧した時の back ground および �50 ppb の Cu の溶液を噴霧

した時の信号を示す。back ground の浮き上がりは bias として補正し、変動分

だけで SD を求め、u を求める。

図-3 back ground absorption の例

2-1 matrix(0.4% acetic acid)による back ground absorption を図-4 に示

す。この変動より SD、u を求める。変動は小さく SD で 2×10-4Abs だ

った。

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図-4 Cd の back ground absorption

3. working curve の曲がりおよび u

これには次のものが関係する。 i) profile of resonance line ii) neighboring line iii) flame condition iv) burner height(光が透過する flame の位置) これによって曲がりの形状が変わる(誤差の伝播の関数の変化)と同時に u の値

も変わる。u は各点における skill の入り込まない SD で表示する。 図-5 にその一例を示す。

図-5 Calibration curve for Cu

working curve の横軸(濃度)の各点の u を aliquot 作製時の u より求める。縦

軸の u は各点の測光値の u より求める。これを図-6 に示す。ここで問題になる

のが、アナログ方式ならばデータの点のとりかた、積分方式ならば積分開始の

timing の取りかたなどの operator の skill に関するものである。これは測光値

の u に加算することになる。新人だとこの RSD は 0.04(4%)に達する。 PM および amp の gain を変えると、この u を変更する必要がある。 auto zero を掛ける度に u が変わると考えねばならない。u の変わらない auto

水 acetic acid

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zero の範囲を前もって知っておかねばならない。

図-6 繰り返し測定における吸光度の RSD

4. flame による再現性、検量線の曲がり electric noise などは上述したが、flame の条件から来る noise および検量線の曲

がりは operator の skill に依存する。言うならば flame のどこに光を通せばよい

かが一つの技術の熟錬度である。図-7 にその一例を示す。

図-7 フレームの条件と検量線の曲がり

4-1. 今まで述べたことには、測定方法について言及しなかったが、実際の測定

では目的に合う方法を選ばねばならない。Cd,(100,500µg/l)in 4% acetic acid の 適な測定法を選びこの測定条件における再現性を図-8に

示す。これが縦軸の u である。これには上述した 1~3 項までの問題、base line の drift はない;back ground absorption は補正した;検量線の曲が

りのない範囲を使用した。しかも base line の再現性は 1×10-4Abs 以下

だった。

Conc(mg/l) Conc(mg/l)

fuel rich fuel lean

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図-8 100,500µg/l の Cd の測定例

信号の再現性 RSD は 0.0142、0.0049。これに base line の u を加えたものが、 この方法による u である。

5. 検出限界および定量下限 monochromator の明るさ、検知系の良否、HCLamp の light intensity, line profile, neighboring line, flame condition, burner height など上述した以外に

up-take volume of sample, size of mist などが関係する。 しかし、元素、matrix を定めないとこの項は言えない。特に定量下限は条件を

明確にせねばならない。図-9 に Cd in 4% acetic acid の 10µg/l のデータを示

す。

図-9 Cd 10µg/l の測定例

これの RSD は 0.056 だった。濃度にして 0.56µg/l である。4.1 項の RSD から

求めた濃度は 1.4µg/l であり、Expanded u である 0.56×2=1.12 より少し大き

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い。図-8 の異常値を除くと RSD は 0.012 になり検出限界より求めた値とほぼ

一致する。 Uncertainty Compornent のまとめ

表-12

u as RSD 検量線下限の再現性

上限の再現性 下限の濃度 上限の濃度

酢酸の濃度 releasing time releasing temp.

0.015(0.012)二番目に影響が大きい 0.0049 0.0046 0.0045 0.0064 0.001 0.06 も影響が大きい

この表から言えることは (1) 反応温度の変動を小さくすること (2) 低濃度で再現性の良い原子吸光光度計を使用するか、測定下限を上げる

こと (3) 2 点の検量線でなく 4 点の検量線にして各点での u を求めること

Step6. 検量線

Cd 100µg/l から 500µg/l までの範囲での検量線は直線であるので、上下二点

で検量線を作成できる。横軸(濃度)の u は 1,000mg/l の溶液を希釈した aliquotで定まる。4%acetic acid によるノイズ、または再現性は bias を補正すれば値は

小さく無視できた。縦軸(原子吸光の absorbance)の u は上述した測光値より

求めた u である。この working curve を図-10 に示す。この working curve の

uc は濃度に基づく u および測光値から誤差の伝幡則によって求めた u の自乗和

の平方根である。

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図-10 検量線と Expanded uncertainty(U)

上限は 500±6µg/l 下限は 100±3µg/l

u g lu

c= = × =0 0045 0 0049 0 0006 0 006 500 3 03

2 2. . . . . /+ →→ ±

µ

u g l uc= =0 0046 0 015 0 015 15 32 2. . . . /+ → → ±µ

= =0 0046 0 012 0 013 13 32 2. . . . /+ → → ±µg l u

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b. 自動分析装置 日立製作所計測機器事業部 保田和雄

自動分析装置の u を求めるには各 step または block に分け、それぞれの u を求める必要

がある。さらに、分析技術者の熟練と装置に関連するものとにも分けねばならない。大別

すると 3 つに分けられる。 1. Auto-sampler に関係するもの

a) 試料カップに分注する量に伴う液面の高さの変動、 終的にはこれによる試料の蒸

発量。 試料の液面とカップの上端までの高さを h とし、カップの直径を 2r とすると、h=3×2r ならば測定時間(2hrs)以内では蒸発量は無視できる。 試料量とカップの容量の比によっても蒸発量が変わる。この比が 1/2 ならば測定時

間内での蒸発は無視できる。この比が 1/20 のように小さくなると、容器内での蒸

発が問題になる。 b) 血清試料中の各種成分の変化

FFA,ALT,BIL,ALP,ChE などは室温で変化する。7~8℃に保たない限り図

-11 に見られるように変化する。

図-11 試料の温度変化

この結果 auto-sampler は冷却し、7℃±1℃以内に保冷した。

c) QC 用標準液も温度によって変化するため、冷却の必要がある。 d) pipetting 量の再現性;これを表-13 に示す。冷却し±1℃以内になっているので

温度変化による分取量の変動は無視できる。詳細は 2 節 c 項の dispenser のところ

で述べる。

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表-13 血清分注量の再現性(容量法) 分注量 (µl)

測定回

数 平均値

(吸光度) 標準偏差 (吸光度)

相対変動係数 RSD

補正した RSD

50 30 2.1952 0.0095 0.0043 0.002 20 30 1.9837 0.0097 0.0049 10 30 2.0688 0.0090 0.0043 ~

5 30 1.0442 0.0067 0.0064 2 30 0.1882 0.0014 0.0072 0.004

試料の粘度の変動による分取量の変動は pippete の吸引速度に依存する。通常の患

者血清では特に変動は見られなかった。 この RSD は測定者が血清試料に色素を混合し、これを auto-sampler に loadingする。pipette で各段階での容量を分取したものを �10 ml のメスフラスコにとりメ

スアップする。そうして、分光光度計で測定する。したがって、上記の値は次のよ

うにして求められたものである。

この測定の = 分注量の + メスフラスコの仕様u RSD( ) ( / )2 23 +

( )測定者による繰返し再現性 +2

(分光光度計のこの測定域における photometric accuracy or u)2 このうち分光光度計における測定は Abs.0.1~1.0 の間で行った。しかも、noise level は 1×10-4~5×10-5Abs.なので、u は前二者と比較すると小さい。このため

無視できる。メスフラスコの仕様および測定者の再現性は RSD で 0.002~0.003と考えられるので、この値を補正するとpipettingのRSDは0.002~0.004になる。

e) carry over 試料を採取した後、ノズルは洗浄するが前試料の carry over は 0 にはならない。

12µl を採取したときの実験では 0.06~0.07%の carry over が認められた。前試料

の目的成分の濃度は測定しようとするものに対して高い場合もあれば、低い場合も

ある。しかも、これの分布は明確でないので、rectangular distribution と考えざ

るを得ない。そうすると carry over に関する u は 0.03005/ 3 =0.00020 になる。 f) 分析技術者の熟練度、特別な対処に関する問題

緊急検体の分析を考慮して装置のカバーをしないで測定することがある。空調の風

などが直接 sampler に当たる。血清試料の温度を考えないで、すぐ測定する。採

取量が変化する。 このうち a,b は分析技術者の熟練度に関係する。特に a はこの要素が大きい。しかも

数量的には把握できないので、熟練した技術者が分析したと仮定した。d は主として装

置に関係する、血清を一見しただけでこの血清は粘度が高すぎると判断できるのは熟練

度である。

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c は標準試料、即ち Traceability に関係する。 2. 反応系に関係するもの a)恒温槽の温度の stability b)反応時間の変動 c)dispenser の再現性、温度変化に伴

う容量の変動 d)mixing の効率 e)試薬の dispensing 後の温度の回復 f)撹袢棒によ

る contamination、洗浄不足による汚れなど g)反応中に不用意にする蓋の開閉に基づ

く反応液の汚染など。 a. 恒温槽の温度の安定性を図-12 に示す。少なくとも 0.05℃の範囲内に制御されて

いる。

図-12 恒温槽の安定性

b. 試薬分注による温度変化およびその回復

なお b,d と e は一緒に扱かってもよい。これを図-13 に示す。反応の終点に近い

温度の繰返し再現性は±0.1℃以内であり、かつこの報文で取り上げる end point法での例では反応が終結しているため、これに基づく u は無視できる。

図-13 試薬の添加による温度変化、回復

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c. dispenser の再現性、温度変化に伴う容量の変動

試薬の分注量の繰返し再現性を表-14 に示す。純水を試料として用い試薬用

pipetter で吸入し dispense したものを小さい蓋の付いた容器にとり、これを天秤

で測定した。自動天秤であるので測定者の skill が殆ど入り込まない。このためこ

の項は無視できる。したがって、表-14 の値は分注量の再現性を表わす。

表-14 試薬分注量の再現性(秤量法)

分注量

(µl) 測定回

数 平均値

(mg) 標準偏差 (mg)

相対変動係

数 RSD

温度補正し

た RSD

350 20 349.5 0.26 0.00074 0.00083 200 20 199.8 0.20 0.0010 0.00107 100 20 100.3 0.13 0.0013 0.00135 50 20 49.5 0.10 0.0020 0.00203 20 20 20.2 0.11 0.0056 0.0057

温度の補正;dispenser(pipette)の構造はガラスのシリンジがあり、その中にセ

ラミクスのピストンがある。シリンジの先にはテフロンの tube が固定され、その

先端にステンレスの tube が付いている。すべての流路は純水で満たされ、試薬は

その純水の先に採取される。したがって、温度の影響を受けるのはシリンジおよび

流路中の純水、保冷庫に保管されている試薬である。試薬の濃度は高くないので、

純水とおなじ熱膨張率と考えられる。装置の稼動中の温度変化は±2℃,保冷庫の

温度変動は±1℃以内なので温度差は 大 3℃と考えられる。350µl を分注した場

合、350µl×3×2.1×10-4=0.22µl。この温度変化はどのようにして起こるか判断で

きないので誤差関係は 0.22/ 3 µl=0.13µl と考えられる。したがって

RSD=0.00037(純水の熱膨張率:2.1×10-4)なので、温度の影響の現われるのは

100µl を超す場合のみで後は dispenser,pipette に基づく u の方が大きい。 f. 撹袢棒による contamination、洗浄不足による汚れ

これらは 0.000000x のオーダなので無視できる。 g. この項の不用意に起こる問題は系統的には取り上げられない。 3. 測光系に関係するもの 二波長測光法で定量しているので、図-14 に示すように、λ1とλ2を選択する。

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図-14 吸収スペクトルの概略図

そして、λ2 の信号を reference にとる。試料を入れない時の透過率の信号を求める。

そして、これを-logIλの信号にして取り出す。次に分析対象物質がなく共存物質のみ、あ

るいは測定セルを取りまく恒温水のときの-logIλ1と、-logIλ2の信号が同じになるように、

スリット幅などの光学的条件や回路の gain を変えず、クームで光量を合わせ両者の強度

差を 0 にする。換言すると、λ1における calibration curve の任意の一点を零点とするよ

うに移動する。λ2についてはλ1における吸光と同じになるように零点を移動させる。検

知器の暗電流が無視できるくらい小さい時は回路の gain を変えてもよい。これを数式で

表わすと次のようになる。 SAλ1=-logIλ1Dλ1 (1) SAλ1=-logIλ1Dλ1=kSAλ2 (2) SAλ1 :共存物がある場合のλ1における透過光による信号 SAλ2 :共存物がある場合のλ2における透過光による信号 Iλ :波長λにおける入射光の強度 Dλ :波長λにおける装置関数 上記の信号に分析対象物質の吸光が重なり、これの差を取り出す場合には(3)式で示 される。 SBλ1=S(A+B)λ1-kSAλ2 (3) SBλ1 :波長λ1において分析対象によって生ずる信号 S(A+B)λ1:波長λ1において分析対象と共存物質によって生ずる信号 ここで S(A+B)λ1信号は SAλ1SBλ1の和として表わされるので(4)式のようになり、 SBλ1=SBλ1+SAλ1-kSAλ2

共存物の影響を取り除いて定量が可能になる。

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ここで Iλ1、Iλ2の値は%T の 0.100 の値でノーマライズされてはいるが、原点が移動さ れ、かつλ2の信号には常数が掛かっているので、求められた値は吸光度ではなくてそ れに比例する値である。したがって、物理常数ではなくて化学常数である。 この式からみても解るように double beams 測光とは異なり、double beams 測光と single beam 測光の中間である。 したがって、もし測光精度として 4 桁を望むならば Iλ、Dλはこの精度が必要になる。 例えば、光源の電流の安定度は 1/10,000 より良い精度でなければならない。外気の風 によってランプの表面の温度が変わると輝度が変わり、光強度が変わる。さらに、光路 が外気の流れによって乱されればこれによっても光強度が変わる。言うならば光源ラン プおよびその光路上では外気による撹乱をなくし、安定度を 1/10,000 以下にしなけれ ばならない。換言するならば RSD=0.0001 以下が必要になる。測定は恒温槽中にある 測定セルの直接測光なので恒温槽中の水の流れによる揺らぎが測光値に影響する。 しかし、同じ光路を透過する二波長を用い一つを reference にすればこの問題は容易に補 正できる。電気の信号系が 1/10,000 以下の安定さに抑えられ、かつ、光源の変動およ び光路における光のゆらぎを 1/10,000 以下にできたので、測光に基づく u は 0.000X ~0.0000X になりほとんど無視できた。 以上から臨床用自動分析装置による測定の combined uncertainty(uc)は次のように 表現できる。

u u( u( u( u( u(c pip carr dis temp pho= + + + +) ) ) ) )2 2 2 2 2

= + + + <( . . ) ( . ) ( . . ) ( . )0 002 0 004 0 00020 0 0008 0 0057 0 00012 2 2 2~ ~

=0.0022~0.0070

u(pip) ;試料の pipetting に関する u u(carr) ;前試料の carry over に関する u u(dis) ;試薬の dispensing に関する u u(temp) ;室温、保冷庫の温度変化による試薬量に関する u u(pho) ;測光に関する u

Expanded u は 2×0.0022=±0.0044~±0.0139 である。これを測定結果と比較すると

表-15 のようになる。

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表-15 自動分析装置による end point 法での u の実測値と計算値 項目 繰り返し再現性(実測値)(RSD) 計算値(RSD) Alb IP Ca TP

T-Bil D-Bil

0.01 0.01 0.01 0.01 0.029 0.029

0.004~0.014 0.004~0.014 0.004~0.014 0.004~0.014 0.004~0.014 0.004~0.014

Alb、IP、Ca、TP は期待している u で測定できたが、T-Bil と D-Bil は RSD が高かっ た。 反応系、あるいは試料の取扱い、部屋の照明などの管理に問題を残していることが推定 できる。

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c.液体クロマトグラフィー

物質工学工業技術研究所 高津章子 1.はじめに

高速液体クロマトグラフィーを用いた生体試料中のコレステロールの定量について、得

られた測定値の不確かさを「計測の不確かさ表現のガイド(Guide to the Expression of

Uncertainty in Measurement)」に沿って求めてみることにする。なお、分離条件そのほか

測定法全般についてはあらかじめ十分な検討が行われているとする。また、測定を行った

当日の装置や実験の条件についても、たとえば、測定を行った間の測定装置の再現性につ

いては通常のばらつきの範囲内での変動にとどまっていたとか、ピークの形状は妥当であ

るかなど十分確認を行っており、検量線についても多数の濃度の標準液を作製して直線範

囲を調べてあるものとする。

2.測定手順の明確化

一定質量(Msmp)の生体試料を水酸化カリウムとエタノールを用いて加水分解した後、コレ

ステロールをヘキサンで抽出し一定体積(Vsmp) の溶液とする。この溶液を高速液体クロマ

トグラフィーにより分離、紫外吸収検出器を用いて検出し、クロマトグラムを得る。標準

溶液はコレステロール試薬を用いて作成し、クロマトグラムのコレステロールのピーク面

積から定量する。

3.数学モデルの構築

求める試料中のコレステロール濃度(Csmp)と各量との関係を明らかにするために数式化し

て考えてみる。ここではあらかじめ調べた検量線の直線範囲内で測定を行っているものと

するが、濃度の換算に 1 点の標準液の測定値のみを用いる場合、コレステロール濃度は以

下の式にて与えられる。

Csmp =VsmpMsmp

Ismp× Cref 2

Iref 2

また、標準液2点の測定値を用いるならば、

Csmp =VsmpMsmp

{(Ismp − Iref1)(Cref 2 − Cref1)

(Iref 2 − Iref 1)+ Cref 1} である。

ここで、 Csmp =試料中のコレステロール濃度、Cref1 ,Cref2=標準液のコレステロール濃度、

Ismp =試料のピーク面積、 Iref1 ,Iref2=標準液のピーク面積、Vsmp =試料調製後の体積、

Msmp =はじめに秤量した試料の質量

3.補正の実施

分析値に偏りを与える成分について考える。例えばまずブランクを確かめ、あれば差し

引きを考える。なお、ブランクが検出されない場合も、測定濃度によってはブランクの不

確かさを考慮する必要がある。また、マトリックス効果等、共存物が測定に影響しないこ

とを確かめたり、標準物質(保証値のあるもの)の測定、他の手法での測定結果との比較、

添加回収率実験などにより、回収率を調べ、もし十分でなければなるべく要因を取り除き、

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できなければ補正する。

ここでは、加水分解とヘキサンでの抽出率を、標準溶液を添加して回収率を調べる添加

回収実験で測定し、その結果が90%であったとする。この値を用いて測定値を補正する

ことにする。

4.不確かさ成分の分析と見積もり

(1)試料の秤量( Msmp )

秤量に伴う不確かさは、用いた天秤の読みとりとばらつきから求める。

(2)試料の定容( Vsmp )

容量器具即ち、全量フラスコやピペット容積の不確かさの要因として繰り返し誤差と容

積の不確かさとして許容誤差の2つを考える。繰り返し誤差は用いる器具で繰り返し水を

はかりとり、質量を測定してばらつき(標準偏差)を測定する。(その際の秤量に伴う不確

かさは十分小さいとする。)これは、作業を行う人によって異なると考えられる。また、そ

れぞれの器具には許容誤差が決まっている。容積を補正を行った器具を用いるのであれば、

その補正値と補正値の不確かさを用いるが、そうでなければこの許容誤差の値を用いる。

この値は、容積の上限と下限を示したものと考えられるため、統計でいうところの矩形分

布を仮定することができ、その値を√3で割ったものが、標準偏差に相当する値となる。

これら2つの不確かさを合成したものがそれぞれの器具の容積の不確かさと考えることが

できる。

(3)測定操作に伴う不確かさ( Ismp )

抽出率による補正についてはすでに述べたが、その補正値の不確かさは回収実験の標準

偏差から求めることができる。

また、測定操作全体のばらつきは、数回のサンプリングと前処理、繰り返し測定を行っ

て求める。すなわち、同一試料についての測定を試料の秤量から液体クロマトグラフィー

測定までくりかえして行い、全体の標準偏差を求める。なお、数回の測定(測定回数n)

の平均値で結果を報告する場合は標準偏差を√nで割ったものが測定の標準不確かさとな

る。

(4)コレステロール標準液の濃度( Cref2 、Cref1 =f×Cref2 )の不確かさ

試薬のコレステロール(純度 99.8±0.1%)をはかりとり、溶解し、全量フラスコで定容

したものを希釈して用いるとする。(濃度 100 µg/ml)もう 1 点はこの溶液をさらに希釈(f)

して作製するものとする。このとき、不確かさの要因として、用いた試薬(コレステロー

ル)の純度、秤量操作、はじめの定容および希釈について考える。用いた試薬(コレステ

ロール)の純度は、純度 99.8±0.1%とメーカーが保証している。この 0.1%という値は、限

界値と考えられるため、不確かさは 0.001/√3=0.00058 で与えられる。

(5)標準液の液体クロマトグラフィー測定に伴う不確かさ(Iref1, Iref2)

測定を繰り返すことにより、その標準偏差として求めることができる。

5.標準不確かさの合成

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表に以上の結果をまとめて数値の例を示した。

求める試料中コレステロールの濃度は、補正値も考慮すると、1 点で定量の場合、

Csmp =VsmpMsmp

Ismp× Cref 2

Iref 2

= 82.3 (µg/g)

また、2点で定量ならば、

Csmp =VsmpMsmp

{(Ismp − Iref1)(Cref 2 − Cref1)

(Iref 2 − Iref 1)+ Cref 1} = 82.7 (µg/g)

測定結果の合成標準不確かさは、1 点で定量の式では、簡単に(u(y)y

)2 = (u (xi)xii=1

N

∑ )2とし

て求めることができ、標準不確かさの相対値の二乗和から求められるから、

u(Csmp)Csmp

=0.0273

u(Csmp)= 82.3×0.0273= 2.24 (µg/g)

また、2 点を用いる場合は、単純な二乗和ではなく、感度係数を考慮する必要があり、

u(y)2 = (∂f∂xik=1

N

∑ )2u2 (xi)であるから、

u(Csmp)2= 4.78

u(Csmp)= 2.19 (µg/g)

表 高速液体クロマトグラフィーによるコレステロールの定量における不確かさの見積

の例

要因 補正 値 不確かさ 不確かさ(相対値)感度係数∂f∂xi

試料の秤量 Msmp 1.00 10.0 g 0.2 mg 0.00002 8.27

抽出 α 1.11 - 0.0016 0.0014 82.7

定容 Vsmp 1.00 10.0 ml 0.014 0.0014 8.27

測定のばらつき Ismp 1.00 0.75 0.02 0.027 108.1

濃度 基準液 Cref2 0.998 100µg/ml 0.28 0.0028 0.83

希釈 f 0.2 0.00036 0.0018 -35.1

標準液測定 Iref2 1.00 1.01 0.002 0.002 -73.8

Iref1 1.00 0.19 0.002 0.011 -34.3

6.拡張不確かさの計算

合成標準不確かさから拡張不確かさへの変換には信頼の水準を反映する係数として、k

(包含係数:coverage factor)が用いられる。kの値としては2と3のあいだをとることが

推奨される。一般的にはk=2を採用し、ほぼ信頼水準95%に相当すると考えて拡張不

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確かさを表記すると約束しておけば十分と考えられている。

そこで、包含係数 k=2として、1 点で定量の例では 2.24×2 = 4.48 (µg/g) となる。

7.測定結果の表示

以上の結果から、測定結果(求める試料中コレステロール濃度)は、1 点で定量する例

では

82.3 ± 4.5 (µg/g)

と表すことができる。また、測定結果の記載に当たっては、測定結果とその不確かさをど

のように求めたかを述べることが望ましいとされている。

8.備考

ここでは測定のばらつきや不確かさに関与する細かい要因についてはふれなかったが、た

とえば抽出において抽出液の組成が抽出率に影響するとか、測定中の試料溶液の蒸発が問

題になるとか、測定値が温度によって変化する等の要因が考えられる場合は、それらの不

確かさと変化率を求める必要があろう。

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d.イオンクロマトグラフィー (財)塩事業センター海水総合研究所

新 野 靖

イオンクロマトグラフによる塩中の硫酸イオン分析のフローを以下に示す。使用している装置は

オートサンプラに自動希釈機能あり、これにより検液を 20 倍希釈して測定している。

◇分析操作 検塩 10g を水で溶解

500ml メスフラスコに入れて定容

イオンクロマトグラフで測定(自動希釈機能付きオートサンプラ使用:20 倍希釈)

検量線校正溶液 2点,試料溶液

◇計算

SO4(%)=イオンクロマトグラフ出力濃度(mg/l)×fSO4×0.00001×20×500/検塩 g

fSO4:標準溶液ファクター

不確かさの要因とその因子を表-1 に示した。自動希釈機能を用いない場合は、この要因

に検液の希釈における不確かさが加算される。希釈装置の不確かさは、出力値の不確かさ

に含まれる。

不確かさの要因について推定した結果を以下に示した。推定において、相対不確かさを

加算する方法とし、測定値の不確かさの算出については、使用する検量線溶液の不確かさ,

検量線溶液測定時の不確かさ(実測)および測定溶液測定時の不確かさ(実測)を加算して求

めた。

表-2 の計算結果においてそれぞれの要因の U as RSD を比較すると、検量線溶液と試料溶

液の測定時の U as RSD が大きく、これが測定結果の不確かさの大部分を占めていることが

分かる。この結果は、機器分析を行う場合、分析機器の安定性を確保することが重要であ

ることを示している。

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表-1 SO4分析における不確かさ要因とその要因因子

不確かさ要因 構成要素 要因因子

A.検量線溶液の不確かさ

B.イオンクロマト測定時の不確かさ

C.検液中試料濃度の不確か

さ(検液調製)

1)標準溶液の不確かさ

2)希釈

1) 検量線の不確かさ

2) 測定値の不確かさ

1)検塩秤量の不確かさ

2)定容における不確かさ

ファクタ-

ピペット精度

ピペットの標線合わせ精度

メスフラスコ(500ml)の精度

メスフラスコの温度による容量誤差

メスフラスコ標線合わせ精度

装置出力値の SD

天秤精度

秤量繰り返し精度

メスフラスコ標線合わせ 繰り返し精

度(補正済みフラスコ使用)

D.測定値の不確かさ A,B,C の加算

◇硫酸イオン分析の不確かさ推定例

表-2 計算結果

値 U as RSD

検塩量 (g)

定容 (ml)

検量線溶液 (mg/l)

検量線測定 (mg/l)

試料測定 (mg/l)

ファクター

測定結果 (%)

10.0356

500

40

2

1.60

1.008

0.161

9.73×10-6

6.14×10-5

0.0042

0.0205

0.015

0.00405

0.0260

拡張不確かさ 0.0084%

Step1 希釈の不確かさ

基準標準液 1000ppm Factor=1.008

実用濃度は 40ppm。 1000ppm の 20ml を 500ml に 25 倍希釈。

20ml ピペットの SD(実測 n=10) 0.00195 ml

20ml ピペットの規格(±0.03ml) 0.03/√3=0.01732 ml

温度のピペット容量への影響 0.0105 ml/1.96=0.00536

温度の影響=0.00021(水膨張率)×容量 ml×2.5

22.5:±2.5℃の温度条件で操作するとして計算。

20ml ピペットの U=√(0.001952+0.017322+0.05362)=0.01823 ml

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500ml フラスコの SD(実測 n=10) 0.0171 ml

500ml フラスコの規格 (±0.3ml) 0.3/√3= 0.17321

温度の影響 0.2625/1.96= 0.13393

500ml メスフラスコの U=√(0.017102 +0.173212 +0.133932)

=0.21961 ml

25 倍希釈 U as RSD=√[(0.01823/20)2+(0.21961/500)2] =0.00101 ml

Step2 標準溶液濃度の不確かさ

ファクター 標準液 (1.008-1)/1.96= 0.00408

Step3 検量線実用溶液(40ppm)の不確かさ

標準液 U as RSD=√(0.001012×0.004082)=0.0042

U= 0.0042×40=0.1681

Step4 測定時の不確かさ

測定値の Uは検量線校正の 2mg/ml の実測 Uと試料溶液実測 Uが加算されると考

える。試料を 10点調製し、実測 Uを求めることにより試料のバラツキも考慮できる。

検量線 2mg/ml 繰り返し測定 SD(n=10) 0.041 mg/l

試料溶液繰り返し測定 SD(n=10) 0.024 mg/l

Step5 測定値の不確かさ

値 U U as RSD (U as RSD)2

基準溶液

検量線測定

試料測定

40

2

1.6

0.1681

0.041

0.024

0.0042

0.0205

0.0150

1.764×10-5

4.203×10-4

2.25×10-4

SUM 6.63×10-4

装置出力濃度の U as RSD=√(SUM)=√(6.76×10-4)=0.026

U=0.026 ×1.6= 0.0416 mg/l

Step6 検塩秤量の不確かさ

1) 天秤仕様精度(±) 0.1mg 95%信頼性 精度/1.96

0.1mg/1.96= 0.05102mg

2)秤量 SD検査値 0.045 mg(<100g)

3) 秤量 SD(はかり瓶実測値) 0.07 mg

U=√(0.051022+0.0452+0.072)= 9.76×10-5 g

Step7 検塩の定容における不確かさ(補正済みフラスコ使用)

1)メスフラスコ 500ml 繰り返し SD 0.0171 ml

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2)温度補正時の 大誤差 0.05 ml/1.96= 0.0255 ml

U=√(0.01712+0.02552)= 0.0307 ml

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Step8 検液中試料濃度の不確かさ

値 U U as RSD (U as RSD)2

秤量

定容

10.0356

500

9.761×10-5

3.07×10-2

9.7266×10-6

6.1422×10-4

9.461×10-11

3.773×10-9

SUM 3.867×10-9

検液調製操作における U as RSD= √SUM=√(3.867×10-9)=6.219×10-5

U=6.219×10-5×0.161(%)=9.994×10-6

Step9 測定結果の不確かさ

不確かさ=√[0.02602+(6.219×10-5)2] ×0.161(%)

=2.6×10-2×0.161 =0.00418%

拡張不確かさ=0.00418×2=0.0084 %

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おわりに

日本適合性認定協会試験所認定部 青柳

試験所が ISO/IEC ガイド 25 に適した試験所を構築するために必要な不確かさの推定の例

を化学分野技術委員会、JAB 不確かさ研究会で編纂した。各界のご批判を仰ぎながら改善

していくつもりなのでご協力をお願いする。まとめとして不確かさに関する下記の注意を

示します。 ●不確かさに関する特別な注意 1. 不確かさを推定するときに必ず校正証明書に付された校正の不確かさを使用しなけれ

ばならない。また化学の試験に於いては下記の JAB の指針に示されているように認証標準

物質をもちいてトレーサビリティを証明することになることが多い。 JAB RL355 1998 「認定の基準」についての指針-化学試験- 8.4 CITAC Guide 1 16.7

-標準物質には、認証値の不確かさの見積もりを含む証明書を添付しなければならない

2. 容量分析に用いるガラス製体積計等は機器の器差をそのまま信じて使用しているが、

近は計量法の対象から校正義務がはずれているので、これらはトレーサビリティがとれ

ていることにならない。従ってJIS K 0050に示された方法で機器の校正を必ず自分で行い、

識別しておく必要がある。その場合に校正された温度計、分銅で校正したバランス、気圧計を

使用することが必要でその場合の不確かへの影響を示しているので考慮して欲しい。 ・このことも下記の JAB の指針に示されている。 JAB RL355 1998 「認定の基準」についての指針-化学試験- CITAC Guide 1 15.3

-一部の分析方法では、重量測定が関与する重量分析や、容量(及び多分、重量も)測定

が関与する滴定法などの物理量の測定を伴う。これらの値は、通常、測定結果に重要な影

響を及ぼすので、適切な校正プログラムが必要であろう。

3.その他 JAB RL355 1998 「認定の基準」についての指針-化学試験-の中で「不確かさ」に関す

る記述は以下の通りである。 ・・CITAC Guide 1 21.1 測定値が実際的な値であるためには、その信頼性又は不確かさ

についての知見を持つことが必要である。結果に関連する不確かさを説明すれば、結

果の品質を顧客に伝達できる。 ・・CITAC Guide 1 21.2 不確かさを生じる可能性のあるすべての要因を明確に、確実

に考慮することが不可欠である。例えば、繰り返し精度又は再現精度をもって、総合

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的な不確かさの推定として一般的に受け入れることはできない。 ・・CITAC Guide 1 21.4 洗い出した不確かさの個々の要因、各寄与率の値およびその

値の出所(例えば、実験による確認、文献の参照、認証・校正値のばらつきなど)の

記録を保管することが望ましい。 ・・CITAC Guide 1 21.5 不確かさの関係する要因を洗い出すにあたって、分析の目的

を達成するために必要な完全な一連の作業を考慮しておく。 ・・CITAC Guide 1 21.7 影響要素のランダムなバラツキに関連する不確かさの成分の値

は、設定した測定条件下で10回を下回らない回数の繰り返し測定を行い、結果の分

散を測定することによって推定することができる。 ・推奨する包含係数は2とする。

参考文献 ・計測における不確かさの表現のガイド 監修 飯塚幸三 1996 日本規格協会 ・計測の信頼性評価(トレーサビリティと不確かさの解析) 編集委員長 今井秀孝 1996年 日本規格協会 ・JAB RL355 1998 「認定の基準」についての指針-化学試験-