7
研究室紹介 研究室紹介 23 22 情報科学科では、コンピュータに関連する分野を扱う11の研究室が協調しながら活動しています。 研究室ごとに特色のある専門を持っていますが、狭い分野だけを扱うのではなく、 他の領域への広がりがあります。詳しくは研究室ごとの紹介をご覧ください。 理論 理論 理論 情報科学 情報科学研究室紹介 研究室紹介 平木研究室 計算と通信の高速化 石川研究室 並列分散システム 細谷研究室 計算論的脳科学 西田研究室 コンピュータグラフィックス 米澤研究室 並列・分散計算、言語処理 辻井研究室 自然言語処理 須田研究室 数値シミュレーション、高性能計算 今井研究室 アルゴリズム論 プログラミング言語 プログラミング言語 p.24 理論に裏打ちされた 基盤ソフトウェアづくり 並列オブジェクト指向から、OS、仮想マシン、セキュリティまで p.25 知と言葉の計算 コトバを入力すると あたかも人のように応えてくれるシステムをつくる p.26 もっとリッチに、 もっとリアルタイムに 世界をリードするコンピュータグラフィックス技術を、TV、映画、携帯電話へ p.27 もっと速く、もっと遠く 未来の情報基盤高速なコンピュータとネットワークを実現する p.28 「安心・安全」から「あやしい・あぶない」まで セキュリティから分子コンピューティングまで、 さまざまな問題に計算モデルを応用 p.29 さらにその先へ! アルゴリズムの基礎から量子情報科学へ p.30 機能し続けるシステム 安全・高性能・高生産コンピュータシステムを実現する p.31 コンピュータの中の小宇宙 科学技術シミュレーションの未来を拓く p.32 人の目を通した情報の 理解を探求 情報ビックバン時代の可視化処理やわらかい可視化プロジェクト p.33 気の利くコンピュータとは? 未来のユーザーインターフェイスをデザインする p.34 いま再び脳の謎に立ち向かう 脳科学へ情報科学的にアプローチする ハイパフォーマンス ハイパフォーマンス コンピューティング コンピューティング ハイパフォーマンス コンピューティング 米澤研究室 並列・分散計算、プログラミング言語 辻井研究室 自然言語処理 西田 研究室 コンピュータグラフィックス 平木 研究室 計算と通信の高速化 萩谷 研究室 論理計算機科学 今井研究室 アルゴリズム論 石川研究室 並列分散システム 須田研究室 数値シミュレーション、高性能計算 高橋研究室 データの可視化とその視覚応用 五十嵐研究室 ユーザーインターフェイス 細谷研究室 計算論的脳科学 計算の科学 知の科学 五十嵐研究室 ユーザーインターフェイス 萩谷研究室 論理計算機科学 高橋研究室 データの可視化とその視覚応用 プログラミング言語 計算幾何 計算幾何 計算幾何 視覚化

johokagaku h1h4 ライムグリーン · 語の厳密な意味論の確立、実装 というふうに進んでいった。 研究室では、理論の得意な者 は実装ができるように、また実装が得意な

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: johokagaku h1h4 ライムグリーン · 語の厳密な意味論の確立、実装 というふうに進んでいった。 研究室では、理論の得意な者 は実装ができるように、また実装が得意な

■ 研 究 室 紹 介 ■ ■ 研 究 室 紹 介 ■

2322

情報科学科では、コンピュータに関連する分野を扱う11の研究室が協調しながら活動しています。

研究室ごとに特色のある専門を持っていますが、狭い分野だけを扱うのではなく、

他の領域への広がりがあります。詳しくは研究室ごとの紹介をご覧ください。

理論理論理論

情報科学情報科学科の研究室紹介研究室紹介

平木研究室計算と通信の高速化

石川研究室並列分散システム

細谷研究室計算論的脳科学

西田研究室コンピュータグラフィックス

米澤研究室並列・分散計算、言語処理

辻井研究室自然言語処理

須田研究室数値シミュレーション、高性能計算

今井研究室アルゴリズム論

プログラミング言語プログラミング言語

p.24

理論に裏打ちされた基盤ソフトウェアづくり並列オブジェクト指向から、OS、仮想マシン、セキュリティまで

p.25

知と言葉の計算コトバを入力するとあたかも人のように応えてくれるシステムをつくる

p.26

もっとリッチに、もっとリアルタイムに世界をリードするコンピュータグラフィックス技術を、TV、映画、携帯電話へ

p.27もっと速く、もっと遠く未来の情報基盤高速なコンピュータとネットワークを実現する

p.28「安心・安全」から「あやしい・あぶない」までセキュリティから分子コンピューティングまで、さまざまな問題に計算モデルを応用

p.29さらにその先へ!アルゴリズムの基礎から量子情報科学へ

p.30機能し続けるシステム安全・高性能・高生産コンピュータシステムを実現する

p.31コンピュータの中の小宇宙科学技術シミュレーションの未来を拓く

p.32

人の目を通した情報の理解を探求情報ビックバン時代の可視化処理やわらかい可視化プロジェクト

p.33気の利くコンピュータとは?未来のユーザーインターフェイスをデザインする

p.34いま再び脳の謎に立ち向かう脳科学へ情報科学的にアプローチする

ハイパフォーマンスハイパフォーマンスコンピューティングコンピューティングハイパフォーマンスコンピューティング

米澤研究室並列・分散計算、プログラミング言語

辻井研究室自然言語処理

西田研究室コンピュータグラフィックス

平木研究室計算と通信の高速化

萩谷研究室論理計算機科学

今井研究室アルゴリズム論

石川研究室並列分散システム

須田研究室数値シミュレーション、高性能計算

高橋研究室データの可視化とその視覚応用

五十嵐研究室ユーザーインターフェイス

細谷研究室計算論的脳科学

計算の科学

知の科学

五十嵐研究室ユーザーインターフェイス

萩谷研究室論理計算機科学 高橋研究室

データの可視化とその視覚応用

プログラミング言語

計算幾何計算幾何計算幾何

視覚化

Page 2: johokagaku h1h4 ライムグリーン · 語の厳密な意味論の確立、実装 というふうに進んでいった。 研究室では、理論の得意な者 は実装ができるように、また実装が得意な

2524

て考えるのが理論であり、定式化

したものは検証によって裏付け

が可能になる。並列オブジェクト

の例では、その次にモデルに沿っ

て言語ABCLを設計し、その言

語の厳密な意味論の確立、実装

というふうに進んでいった。

 研究室では、理論の得意な者

は実装ができるように、また実装が得意な

者は抽象化してとらえる力を付けるように

努めている。理論と実装、実世界での利用

は、相互に作用する。これらの方向性を考え

ていくなかで、新しい着想に出会い、さらに

発展が期待できる。実際、そのようななか

で、リフレクション(自己反映計算)の概念が

生まれた。

 その後発展した、オブジェクトがコン

ピュータ間を自律的に移動し、先々で動作

するというモーバイルオブジェクトのアイデ

アは、JavaGOの実装に結実したが、そのモ

デルはなかなか普及しなかった。応用の多

くは、Javaアプレットのようなサーバーから

ダウンロードされるモデルで事足り、自律

的な動作はビジネスに結びつかなかった。

 しかし、大量のWebサイトという分散環境

の出現で、モーバイルオブジェクトのアイデ

アが、検索用のデータ収集に使えるように

なった。また、リンデン社が開発した仮想社

会「セカンドライフ」では、200万ものアバ

ター(化身)がモーバイルオブジェクトとして

実現され、利用者が作り上げたたくさんの

「世界」を自律的に渡り歩き、動作している。

 研究がどのように使われるかの見極めは

難しいが、しかし常に意識すべきことである。

 この30年間、CPUの性能は急激に向上

し、ソフトウェア開発者は苦労することなく

プログラムの実行速度を向上できた。しか

し、さらに速い計算を求める切実な需要の

一方で、CPUのクロック数をこれ以上速くす

ることは難しくなっている。CPUがマルチコ

アになってきているのは、そのような背景に

よる。より速くするためには、コンピュータを

寄せ集めるほか、当面はよい考えがない。プ

ログラムがたくさんのコンピュータを使って

高速に実行する並列の技術に注目が集まっ

ている。また、インターネットによって地理的

に分散している膨大なコンピュータが現れ、

これらをどのようにうまく活用するかという

テーマが広がっている。コンピュータに果た

せる余地の大きさを感じていただきたい。

 米澤研究室では、プログラミング言語シ

ステムとその基盤となるOSや仮想マシンに

ついて、またさらにセキュリティについて、理

論と実装まで広く扱っている。個々の話は

ホームページにもあるが、特に並列・分散・

モーバイルオブジェクトには、先駆的な役割

を果たしてきた。その経験から、特に大切に

していること理論と実装の両方にわた

る研究、そしてコンピュータがどのように使

われるかを意識することを、お話ししたい。

 コンピュータが作られた最初の動機は、

数値的な計算をすることだったが、その後、

世の中のさまざまな現象をコンピュータの

なかで表現してシミュレーションすることに

目が向けられるようになった。

 その対象を動くプログラムとして表現し

ようというのが並列オブジェクトのアイデ

アである。流体の例であれば、水や空気の

動きを流体力学の方程式で計算するので

はなく、それぞれの粒子をオブジェク

ト動くソフトウェアとして表現し、その

間の相互作用として捉える。郵便局の中の

人や手紙、配送車、窓口といったモノも、何

かが起きると次に何が起きて、というような

事象の連鎖としてシミュレーションできる。

これらは、多数のコンピュータ上の多数の

オブジェクトが協調しながら動作するとい

う並列の考え方へと結びついていく。

 では、どうやって世界を計算機の中に表

現するのか。その表現の仕方をモデルとし

ページがあった。これが、2006年には150

億ページ、直接索引できない「深層Web」

までいれると、その数百倍あるといわれる。

そしてその量は、この瞬間にも絶え間なく

増大している。

 情報へのアクセスを保障するだけでは、

情報の有効活用はできない。あたかも人間

のように情報の内容を理解し、その相互の

意味的な連関を把握できるシステムが必

要となる。言葉から意味を計算する技術が

不可欠となる。

 「彼が昨日会った人は、今日京都に出張

している」このように、1つの文のなかにより

小さな文をたたみこんで、複数の時空間に

またがる複雑な内容を伝達できる。クジラ、

イルカ、猿と、言葉に類するものでコミュニ

ケーションする生物は多い。しかし、このよ

うな複雑な構造を使って、入りくんだ情報

伝達ができるのは、人間言語だけだ。人間

言語の構造と意味との関係は複雑であり、

その計算には厳密に構築された数学的枠

組みが必要となる。

 「クロールで泳ぐ花子を見た」と「望遠鏡

で泳ぐ花子を見

た」のように、一見

よく似た文が違っ

た構造を持つこと

も多い。正しい構

造の計算には、「ク

ロールで泳ぐ」「望

遠鏡で見る」とい

う世界知識が不可

欠である。とはいえ、際限なく大きい世界知

識を、逐一計算機に教え込むことはできな

い。必要な知識を、100億ページを超える

という膨大なテキストから自動獲得できな

いか? ここには、言葉の構造認識が必要

で、さらにそのためには膨大な知識が必

要、という無限退行がある。

 この矛盾を解いて、大量データからの機

械学習と構造に関する数学的な系とを結

びつけること、それがこのプロジェクトの目

標である。

 MEDLINEというテキストベースには、

1800万件という膨大な数の論文が蓄積さ

れている。この膨大な論文の内容を(部分

的ではあるが)理解し、構造化しておくこと

で、生命科学者が必要とする情報を効果的

に提供していくシステムを構築する。

 我々の研究成果は、英マンチェスター大

学に2004年に設立された、英国国立テキ

ストマイニングセンターを通じて世界に発

信されている。辻井は、2005年より同セン

ターの科学ディレクターを兼務している。

 人間の「知」を計算と見る立場は、計算機

の出現とほぼ同時の20世紀中葉に始まる。

「知」が計算なら、計算をする機械で「知」が

実現できる。「知」を実現するものは、脳だけ

ではない。人工知能研究の始まりである。

 この人間の「知」の中核に、言葉がある。

人間の思考の基盤に、言葉による対象の把

握とその操作がある。自分という意識もま

た、言葉と密接につながっている。自意識の

原初的なものは、ほかの動物にも、言語獲

得以前の幼児にもある。ただ、自分と外の

世界を対立させ、それを操作する能力のお

おもとに、言葉がある。

 言葉と意味の結びつきを計算するプロ

グラム、あたかも人間のように、入力された

言葉に適切に応答できるシステムを構築す

ることが、我々の目標である。

 言葉と意味とを結びつける計算(言語処

理技術)の研究は、「知」のメカニズム解明

のためだけではない。世界規模の計算機

ネットワークに蓄積された膨大な情報、そ

れを構造化して有効に活用するという、21

世紀の情報技術の最大の課題に寄与する。

 2002年、Webには20億の索引可能な

並列・分散計算、プログラミング言語

仮想世界を並列オブジェクトが渡り歩く理論に裏打ちされた基盤ソフトウェアをつくりあげる

自然言語処理

知と言葉の計算コトバを入力するとあたかも人のように応えてくれるシステムをつくる

米澤明憲教授 A k i n o r i Y o n e z a w a 辻井潤一教授J u n - i c h i T s u j i i

「世界」を表現することから始まった並列オブジェクト指向 言葉の意味と機械学習

aNTプロジェクト生命科学の知識WebGENIAプロジェクト

論理と実装を行きつ戻りつ

それはどのように使われるのか?

避けて通れない並列・分散処理

必要な情報をみつけること

2008年、オブジェクト指向技術の分野でもっとも権威あるダールニゴール賞を受賞。

●参考データ米澤研究室:http://web.yl.is.s.u-tokyo.ac.jp/home-ja.html安全なシステム記述言語および高信頼OS:http://web.yl.is.s.u-tokyo.ac.jp/e-society/安全プロジェクト:http://anzen.is.titech.ac.jp

●参考データ辻井研究室:http://www-tsujii.is.s.u-tokyo.ac.jp/index-j.htmlaNTプロジェクト:http://www-tsujii.is.s.u-tokyo.ac.jp/aNT/GENIAプロジェクト:http://www-tsujii.is.s.u-tokyo.ac.jp/GENIA/英国国立テキストマイニングセンター:http://www.nactem.ac.uk/

■ 研 究 室 紹 介 ■ ■ 研 究 室 紹 介 ■

英文を解析した結果。より詳しい素性構造をEnjuのデモで試せる。(http://www-tsujii.is.s.u-tokyo.ac.jp/enju/demo.html)

研究テーマ

■構文解析、機械学習、品詞タグ付け、機械翻訳、固有表現 抽出、情報検索、生医学テキストに対する自然言語処理■機械翻訳技術の他分野への応用

研究テーマ

■並列・分散・モバイル計算■ソフトウェアセキュリティ■言語設計・実装

「セカンドライフ」の仮想世界では、約200万個のモノやアバターがモーバイルオブジェクトとして動作し、参加者が作成したプログラムによって制御されている。

Image from “EVOLVING NEMO” in New World Notes at Second Life Bloghttp://secondlife.blogs.com/nwn/2005/06/evolving_nemo.html

S

NP-COOD

NP

NX CONJP

NNP CC

COOD

NP VP ADVP PX PP

PRP VBD RB IN NX

NNS

COOD

VP

VP

難しいが、しかし常に意識すべきことである。

この30年間、CPUの性能は急激に向上

し、ソフトウェア開発者は苦労することなく

プログラムの実行速度を向上できた。しか

し、さらに速い計算を求める切実な需要の

一方で、CPUのクロック数をこれ以上速くす

ることは難しくなっている。CPUがマルチコ

アになってきているのは、そのような背景に

よる。より速くするためには、コンピュータを

寄せ集めるほか、当面はよい考えがない。プ

ログラムがたくさんのコンピュータを使って

高速に実行する並列の技術に注目が集まっ

ている。また、インターネットによって地理的

に分散している膨大なコンピュータが現れ、

これらをどのようにうまく活用するかという

テーマが広がっている。コンピュータに果た

せる余地の大きさを感じていただきたい。

増大している。

 情報へのアクセス

情報の有効活用はで

のように情報の内容を

意味的な連関を把握

要となる。言葉から意

不可欠となる。

 「彼が昨日会った人

している」このように、

小さな文をたたみこん

またがる複雑な内容を

イルカ、猿と、言葉に類

ケーションする生物は

うな複雑な構造を使

伝達ができるのは、人

言語の構造と意味と

その計算には厳密に

組みが必要となる。

 「クロールで泳ぐ花

ではない。人工知能研究の始まりである。

この人間の「知」の中核に、言葉がある。

人間の思考の基盤に、言葉による対象の把

握とその操作がある。自分という意識もま

た、言葉と密接につながっている。自意識の

原初的なものは、ほかの動物にも、言語獲

得以前の幼児にもある。ただ、自分と外の

世界を対立させ、それを操作する能力のお

おもとに、言葉がある。

言葉と意味の結びつきを計算するプロ

グラム、あたかも人間のように、入力された

言葉に適切に応答できるシステムを構築す

ることが、我々の目標である。

 言葉と意味とを結びつける計算(言語処

理技術)の研究は、「知」のメカニズム解明

のためだけではない。世界規模の計算機

ネットワークに蓄積された膨大な情報、そ

れを構造化して有効に活用するという、21

世紀の情報技術の最大の課題に寄与する。

2002年、Webには20億の索引可能な

言葉の意味と機aNTプロジェ

避けて通れない並列・分散処理

必要な情報をみつけること

2008年、オブジェクト指向技術の分野でもっとも権威あるダールニゴール賞を受賞。

●参考データ米澤研究室:http://web.yl.is.s.u-tokyo.ac.jp/home-ja.html安全なシステム記述言語および高信頼OS:http://web.yl.is.s.u-tokyo.ac.jp/e-society/安全プロジェクト:http://anzen.is.titech.ac.jp

英文を解析した結果。より詳しい素性構造をEnjuのデモで試せる。(http://www-tsujii.is.s.u-tokyo.ac.jp/enju/demo.html)

研究テーマ

■並列・分散・モバイル計算■ソフトウェアセキュリティ■言語設計・実装

ンドライフ」の仮想世界では、約200万個のモノやアバターがモーバイルオェクトとして動作し、参加者が作成したプログラムによって制御されている。

Image from “EVOLVING NEMO” in New World Notes at Second Life Bloghttp://secondlife.blogs.com/nwn/2005/06/evolving_nemo.html

S

N DNP-COOD

NP

NX CONJP

NNP CC

COOD

NP VP ADVP PX PP

PRP VBD RB IN NX

NNS

COOD

VP

VP

Christopher and I walked alone Under

branches

Page 3: johokagaku h1h4 ライムグリーン · 語の厳密な意味論の確立、実装 というふうに進んでいった。 研究室では、理論の得意な者 は実装ができるように、また実装が得意な

T o m o y u k i N i s h i t a

2726

・自然景観(自然現象)の描画

 地球を含む自然物特に空、雲、煙、

水などの、粒子の散乱特性まで考慮したリ

アルな描画手法を開発しています。これと

関連して、自然現象をはじめ、各種解析・シ

ミュレーション結果の可視化(サイエン

ティック・ビジュアライゼーション)も行って

います。

・形状処理とその応用

 ベジエ曲面やメタボールを利用した曲面

形状の生成。最近は形状変形法を開発し

ています。

・レンダリング技術

 曲面のレイトレーシングのために、ベジ

エクリッピング法を開発しました。この方法

は多項式の解を求めるのに有効で、応用と

して、曲面を多角形に分割しないで表示す

る方法(隠線消去、レイトレーシング、ス

キャンライン法による隠面消去)が生まれ

ました。

・NPR(非写実表現法)

 写真のようにリアルな画像を追求するだ

けでなく、絵画タッチのCGへの関心も高

まっています。墨絵、油絵、印象派の絵画の

ようなCG生成手法を開発しています。

・インタラクティブレンダリング

 グラフィックスハードウェアを使用し、

水、髪、砂状物質をリアルタイムに変形描

画させる研究。特に流体を考慮した風切り

音の生成法は、CGの新たな方向性を打ち

だしました。

・CG画像と写真の合成

 画像の合成、画像変形(ワーピング、モー

フィング)、焦点距離の変更などの2次元画

像処理に関する研究を手がけています。

 CG分野の最も権威ある学会はACM

SIGGRAPHです。毎年夏に開催される

SIGGRAPH会場では、学術会議とともに

技術とアートの粋を集めたデモンストレー

ションが繰り広げられ、多くの来場者で賑

わいます。2005年、その学会から、CGへの

長年にわたる貢献が認められ、アジアでは

初のS.A.Coons賞を受賞しました。日本の

CG研究が世界に認知されて、たいへん嬉

しい気持ちです。

 TV、映画、携帯電話にいたるまで、コン

ピュータグラフィックス(CG)は私たちの生

活に浸透し、このごろではどこにCG技術が

使われているのか気付かないばかりか、実

物よりリアルなCG映像すらあるほどです。

 CG技術は、長い間に多様な手法が少し

ずつ編み出され、改良され、劇的に安価に

なったコンピュータと、映画やゲームといっ

た市場を得て形成されてきました。そして、

さらにリッチでリアルタイムなCG生成が研

究されています。西田研究室はこのCG技術

の基礎から応用までに取り組んでいます。

 私たちは、CGのさまざまな研究分野

形状モデリング、隠面消去、陰影表示、アニ

メーションなどを広くカバーし、特にリアル

な画像生成に多くの実績があります。

・光学的効果を考慮したリアルな描画

 リアルな画像は、照明効果を忠実に計算

することによって得られます。そのため、各

種の照明効果さまざまな光源(スポット

ライト、線光源、面光源、天空光)に対応し

たシェーディングモデル(陰影付け)を開発

しています。特に、相互反射光の計算(ラジ

オシティ法)および半影の計算は、先駆的

な研究として評価されています。

取り組んでいる研究の紹介

●参考データ西田研究室:http://nis-lab.is.s.u-tokyo.ac.jp/~nis/topicja.html開発したCG手法の軌跡とアニメーション:http://nis-lab.is.s.u-tokyo.ac.jp/~nis/sampl_img.htmlhttp://nis-lab.is.s.u-tokyo.ac.jp/~nis/animation.html

コンピュータグラフィックス

もっとリッチに、もっとリアルタイムにコンピュータグラフィックス技術の世界をリードする

西田友是教授

■ 研 究 室 紹 介 ■ ■ 研 究 室 紹 介 ■

可欠なものとなった。

 情報という抽象化は、処理だけでなく通

信にも大きな変化をもたらした。かつては

電信で文字、電話で音声しか送れなかった

が、ディジタル化すなわち世界を情報

の集合体として抽象化し、モデル化するこ

とによって、さまざまなものが通信可能と

なった。今日のインターネット技術は、すで

に物体以外のすべてのものを遠隔化できそ

うな様相を見せている。

 では、情報により抽象化する意味は何だ

ろうか?

 それは、情報処理における計算の万能性

にある。データを移動する、四則演算をす

る、条件を判断して適用する処理を選択す

る、これらの組合せですべての情報に

対する処理を実現できることは、

チューリングマシンの理論が教えて

いる。詳細は分かっていないものの、

人間の脳はこのようにして情報を処

理していると考えられている。

 しかしながら21世紀になっても、

コンピュータは人間が楽々とできる

こと、たとえば視覚認識、気の利いた

会話、翻訳、囲碁、将棋などは遠く及ばず、

知を持つものには程遠い。万能の計算がで

きるはずのコンピュータはなぜ人間に及ば

ないのか? なぜ、コンピュータは人間ほ

ど情報を取り入れられないのか?

 計算の万能性は、コンピュータには個性

がなく、コンピュータとネットワークを用い

て必ず必要な情報の処理ができることを約

束している。しかしながら、現実のコン

ピュータで実現するためには、アルゴリズ

ムなどのような実現の方法論を明らかにす

るとともに、実際上の制約となっている計

算の速度、記憶の大きさ、データの移動速

度の性能を向上させる必要がある。これ

が、人間にならび、人間を超す情報処理を

実現し、いままで解決しなかった問題解決

の鍵となる。

 私たちは、ようやく鰐までになったコン

ピュータとネットワークを、いかに人間まで

育てるかをテーマとし、コンピュータ、ネッ

トワークやソフトウェアシステムの高速化

に取り組んでいる。目標は決して遠くない。

あと10万倍の高速化だ。過去50年間で

1000万倍の高速化をコンピュータ、ネット

ワークともに実現してきたことは、その大き

な支えとなる。

 目から入ってきたもの、耳から入ってきた

もの、さわって味わって感じてみたもの、内

からわきでてくる思考・感情は、人間に内在

する情報となる。書籍、写真、動画、それを

ディジタル化したものは、人間が取り出し、

抽象化して作りだした情報である。同じよ

うに、世界中の森羅万象有象無象、そして

生命体の存在自身が、情報として抽象化す

ることにより人間のものとなる。物理は世界

を場と物体を用いて抽象化する。化学は物

質、生物は生命を中心に世界をモデル化

し、理解する。情報では、世界を「1」と「0」の

列に代表される情報の集合体としてモデル

化し、理解する。

 情報が他の科学と大きく異なるのは、世

界をモデル化・理解するだけでなく、計算と

いう過程により情報を操作し、処理できる

ことだ。昔、情報処理はおもに人間の脳で

行っていた。いまから70年くらい前のある

日、情報は電気信号になってコンピュータ

で処理できるようになった。最初は大砲の

弾の落下場所の計算、飛行機の翼設計、暗

号の解読がコンピュータの扱える計算だっ

た。それから70年たち、宇宙や銀河創生、

地球全体の気象を再現し、チェスやオセロ

では人間の能力を凌駕し、我々の生活に不

計算と通信の高速化

もっと速く、もっと遠く未来の情報基盤をもとめて

平木敬教授K e i H i r a k i

速い情報処理「鰐」から「人間」へ

情報とは何だろうか?

●参考データ平木研究室:http://www-hiraki.is.s.u-tokyo.ac.jp/intro.htmlGRAPE-DR:http://grape-dr.adm.s.u-tokyo.ac.jp/Data Resevoir:http://data-reservoir.adm.s.u-tokyo.ac.jp/

研究テーマ

■超並列スーパーコンピュータ■コンピュータアーキテクチャ■超高速TCP通信■データ共有システム■値の局所性を用いたアプリケーションの高速化の研究■Javaと実行時コンパイラの研究

研究テーマ

■コンピュータグラフィックス(自然物・自然現象の可視化、照明シミュレーション、CADシステム、形状幾何モデル、計算結果の可視化、絵画風CG)

大気散乱を考慮した地球 なびく髪をインタラクティブにレンダリング

水の屈折・散乱・集光効果を考慮した水中

SIGGRAPHで次に注目されるのは君だ!

開発したGRAPE-DR用プロセッサ。1チップあたり512G FLOPSの処理能力がある。

2003年11月、24000km離れた2点間で7.56Gbpsの長距離高速データ転送を記録、世界記録を更新した。以来、2007年の最終記録まで記録を更新し続けた。

Page 4: johokagaku h1h4 ライムグリーン · 語の厳密な意味論の確立、実装 というふうに進んでいった。 研究室では、理論の得意な者 は実装ができるように、また実装が得意な

2928

れます。すると、さまざまな疑問が湧いてき

ます。形式体系の個々の対象がいったい何

を意味しているか。形式体系のもとでの計

算は常に停止するのか、計算できないこと

はないのか。

 以上のような性質を個別に考えるのでは

なく、計算モデルに対してなんらかの「論

理」を定義することにより、さまざまな性質

を統一的に導くことが可能になります。さら

に、論理を形式体系(公理系・推論規則)と

して与えれば、推論の自動化や機械化が可

能になります。これは、以下で述べるよう

に、実際的な検証技術へつながります。

 研究室では、以上のような方向で計算モ

デルに関する研究を行っています。

 情報技術の進展とともに、計算モデルに

関する研究テーマも変遷してきました。ネッ

トワーク技術やユビキタス技術などの進歩

により、また生物を扱うためにも、「定量性」

と「場」を持った計算モデルが重要となって

います。「定量性」とは、確率や物理量(エネ

ルギーや濃度)などの定量的な尺度を扱う

ことを意味します。「場」とは、ネットワークに

おけるように、計算の主体がなんらかの関

係を持ちつつ分散していることを意味しま

す。生物におけるさまざまな情報処理もな

んらかの「場」を活用しています。

 上で述べたように、計算モデルとその論

理に対して形式体系を定義し、自動的にコ

 皆さんは、チューリング機械とかラムダ

計算などの言葉を聞いたことがあるかもし

れません。これらは、「計算」というものを数

学的に捉えるための「計算モデル」の典型

例です。計算モデルによって、「計算」という

もやもやとしたものが科学的解析の可能な

対象となります。

 いうまでもなく、このような計算モデル

は、コンピュータを作るための指針になりま

すが、実際に作るときは、さまざまな観点か

ら計算モデルにない機能を多く追加してし

まうことがよくあります。すると、実際のコン

ピュータは、もとの計算モデルとは似ても

似つかないものになってしまい、実際のコ

ンピュータに即したモデルを考えよう、とい

う方向に研究が進みます。

 また、コンピュータを作るためではなく

て、自然界を理解したり再構築したりするた

めに計算モデルを考えることもあります。特

に、生物が行うさまざまな情報処理は生物

学で活発に研究されている課題ですが、生

物が行う情報処理に即した計算モデルが

あれば、生物の情報処理をモデル化して解

析するだけでなく、生物と同様の情報処理

をコンピュータに行わせたり、生物の情報

処理を再構築することが可能になります。

 計算モデルの研究は、計算概念を計算

モデルとして数学的に定式化し、それをさ

らに「形式体系」として定義することに始ま

ります。形式体系のもとで、計算は厳格に

定まった規則による記号操作として定義さ

支配する点に着目して、新原理として量子

力学を使ってみようというのだ。

 量子力学に従う状態(量子状態)で情報

を表現し、操作して計算し、相手に送って通

信するのが量子情報処理だ。これでニュー

トン力学ではできない情報処理ができるよ

うになるのだろうか? 答えは「イエス」で

ある。量子力学には、測定すると状態が変

わってしまうという量子不確定性原理があ

る。情報処理的には、量子通信する途中で

盗聴されるとこの原理で状態が変化して相

手に届くことになり、これをうまく通信方式

として構築すれば、長距離通信においても

途中で盗聴がないことを保証できるはじめ

ての通信方式になる。これはニュートン力

学でデジタル情報処理をしているだけでは

不可能な画期的技術革新である。

 この暗号通信方式は1984年に提案さ

れたものだが、2007年に我々の研究グ

ループが情報科学を駆使し、世界で初めて

定量的に安全性を保証した量子暗号シス

テムの実験実証を行ったところである。

 計算の効率という点でも量子状態を

使って計算すると、量子重ね合せという性

質とフーリエ変換を組み合わせて、いまの

コンピュータでは効率よく解けないと思わ

れている整数の素因数分解の問題を効率

よく解くことができるようになる。これは

1994年に示されており、当研究室では、代

 量子力学を研究してみるのはどうだろ

う、いまのパソコンやインターネットを凌駕

した新しい情報科学技術を展開するため

に。これだけだと脈絡がつかめないかもし

れないが、10年、20年先の情報環境がどう

なっているか、想像してほしい。いまのパソ

コンやインターネットがそのまま10年、20

年先までも幅を利かせているわけはないの

だから。

 昔を思いおこすと、東大では1980年代

にはメールを世界とやりとりできるように

なり、今井も1985年にStanford大学の共

同研究者との論文執筆のやりとりにメール

を使って、国際会議投稿の締切りに間に合

わせた。メールは現時点では最もポピュ

ラーな通信手段であるが、それがこれから

もずっと情報交換手段の主役というのでは

世界は変わっていかないのだ。

 若い世代の特権として、それまでにない

世界を切り拓く挑戦ができるということが

ある。ぜひ、そのターゲットとして、いまや社

会基盤となった情報科学技術を革新する

ことに挑んでもらいたい。その先には、自分

の研究が世界を変えるという素晴らしい体

験ができるはずだ。

 では、具体的にいまの情報処理を革新す

るにはどうすればよいだろう? ひとつのア

プローチは、いまある情報処理原理ではな

い、新しい原理を使うことである。いまのパ

ソコンや携帯電話を制御するVLSIチップ

がニュートン力学で「0」「1」のデジタル情

報を処理するのに対し、VLSIチップの集積

度向上に応じてチップ内では量子力学が

論理計算機科学

「安心・安全」から「あやしい・あぶない」まで論理からコンピュータシステムのしくみを追求する

アルゴリズム論

さらにその先へ!アルゴリズムの基礎から量子情報科学へ

萩谷昌己教授 M a s a m i H a g i y a 今井浩 教授H i r o s h i I m a i

形式体系と論理

●参考データ萩谷研究室:http://hagi.is.s.u-tokyo.ac.jp/http://hagi.is.s.u-tokyo.ac.jp/~hagiya/分子コンピューティング:http://hagi.is.s.u-tokyo.ac.jp/mp/

●参考データ今井研究室:http://www-imai.is.s.u-tokyo.ac.jp/ERATO-SORST量子情報システム:http://www.qci.jst.go.jp/

■ 研 究 室 紹 介 ■ ■ 研 究 室 紹 介 ■

計算モデル 新しい情報モデルを求めて

研究テーマ

■分子コンピューティング ■計算モデルと形式的検証■プログラミング言語

研究テーマ

■量子計算■アルゴリズム論■組合せ最適化■計算幾何

ンピュータシステムの正しさを検証する技

術が重要になります。このような研究分野

は「数理的技法」とか「形式的手法」と呼ば

れています。

 現代社会は情報技術に大きく依存してお

り、数理的技法は情報社会をより「安全・安

心」にする技術として期待されています。研

究室でも、暗号プロトコルの検証(暗号系の

破られ易さを考慮にいれた確率的な議論を

可能にする形式体系)とJavaプログラムの

モデル検査(モデル検査という検証技術を

用いてマルチスレッドのJavaプログラムを

検証する技術)の研究を進めています。

 既存のシステムを安全・安心にするだけ

でなく、新しい計算モデルを考えることもた

いせつです。新しいことは当然、最初は「あ

やしい・あぶない」ものです。「あやしい・あ

ぶない」技術が有用になって社会に広がる

と、今度はそれらを「安全・安心」にする必

要がでてきます。

 本研究室では、「あやしい・あぶない」計

算モデルの研究として、分子コンピュー

ティングや合成生物学に関する研究を行っ

ています。分子コンピューティングでは、計

算モデルを考えるだけでなく、実際にDNA

などの生体分子を用いた計算システムを実

装しています。

あやしい・あぶない

量子情報モデル

新しい研究に取り組む面白さ

安全・安心

数的に深化を進めて量子アルゴリズム研

究を展開するとともに、量子計算ではじめ

て可能になるコンピュータ間のリーダ選挙

方式を、世界初で提案・実証している。

 ここまでで、量子情報科学の面白さをす

こしでも感じていただけたなら、若手の

方々にはぜひこの注目を集めている分野

で新しいテーマに取り組む楽しさを実感

してほしい。

 新規テーマに取り組むには、まず新しい

ことを知らないといけない。量子情報科学

を展開するには量子力学が必要だ。しか

し、それは物理や電子工学分野の人と同

じレベルの量子力学を学ばないと先に進

めないということではない。量子情報科学

のために必要な量子力学は、実は大学生

にとってはたいへん取り組みやすいもの

で、大学入門線形代数を理解していれば

スタートできる。

 こうした壁を冒険して乗り越えることで、

新しい世界が広がっていく。交流する研究

者もさまざまな分野にわたり、分野の垣根

を超えた交流はきっと有意義なものとな

る。こうした楽しさをぜひ体感してほしい。

Page 5: johokagaku h1h4 ライムグリーン · 語の厳密な意味論の確立、実装 というふうに進んでいった。 研究室では、理論の得意な者 は実装ができるように、また実装が得意な

で実行できないようなバグを、ソフトウェア

開発時のツールで取り除けるようにする。

またソフトウェア実行時には、OSによる

ディペンダビリティ支援機能を提供する。

これらはおもにLinux上で実装しているが、

FreeBSDなどのUnix系OSのカーネルで

の稼動も目指し、将来は独自OSカーネル

の開発も視野にいれている。

 本来1台で使用する目的で作られたコン

ピュータをネットワークでつなぎ、並列コン

ピュータとして使うようにしたシステムを、

クラスタと呼ぶ。現在、多くのスーパーコン

ピュータがクラスタ構成をとっている。ま

た、異なる組織に設置されているコン

ピュータ群を使って並列処理を行う、グリッ

ドコンピューティングという形態もある。

 並列処理プログラムはおおむね、各コン

ピュータでの計算とコンピュータ同士の

データ交換を繰り返し、各コンピュータが

結果をファイルに格納するように動作す

る。このため、並列計算システムの性能を向

上させるためには、データ交換とファイルシ

ステムの高速化がポイントになる。

 石川研究室では、高速化の研究ツールと

して、データ交換のための業界標準である

MPI通信ライブラリ規格を

独自実装し(YAMPI)、さら

にYAMPIを基に、産業技術

総合研究所とグリッド向け

MPI通信ライブラリの実装

であるGridMPIを研究開発

している。また、クラスタ向

けファイルシステムの研究

3130

■ 研 究 室 紹 介 ■

高性能並列計算システム環境

新たな研究開発が始動

開発も進めている。

 並列コンピュータ上の多数のコンピュー

タを調停し、効率よくたくさんのアプリケー

ションを動かすためには、アプリケーション

の動作を管理するソフトウェアが必要にな

る。SCore(エスコア)は、石川が経済産業

省のプロジェクトで開発を主導してきたそ

のようなソフトウェアである。SCoreは、筑

波大学や理化学研究所の計算センターで

使われている日本発のクラスタシステムソ

フトウェアであり、石川研究室のクラスタ関

連の研究成果も、SCoreに組み込んで世に

出されている。

 並列アプリケーションは、並列コンピュー

タの特性に強く依存することから、プログラ

ミングに深い計算機知識を要し、作ったプ

ログラムは異なるアーキテクチャのコン

ピュータでは動作しないことが多い。研究

室では、さほど深い知識がなくても記述可

能で、さまざまなタイプの並列コンピュータ

で効率よく動作するようなプログラミング

環境プログラミング言語、ライブラリ、

ミドルウェアを研究開発していく。

 家庭、オフィス、工場、自動車、飛行機、鉄

道、あらゆるところでコンピュータが使わ

れ、それらがネットワークでつながる時代。

たとえ1台のコンピュータが故障しても、シ

ステム全体に波及しないようにすることが

たいせつだ。故障は、ハードウェアだけでな

くソフトウェアの不具合に起因することも

多い。ネットワークアタックによるシステム

停止やデータ漏洩など、システムに対する

新たな脅威も生じている。

 このような不具合が生じないシステムを、

「ディペンダブルシステム」と呼ぶ。ディペン

ダブルシステムが持つべき要件には、

Availability(可用性)、Reliability(信頼

性)、Safety(安全性)、Confidentiality(機

密性)、Integrity(健全性)、Maintainability

(保守性)がある。

 石川研究室は、米澤研究室、筑波大学、

早稲田大学、慶應義塾大学とともに、ハー

ドウェア故障、ソフトウェアのバグ、ネット

ワークアタックに強く、電力消費と性能・実

時間性に配慮した、ディペンダブルシステ

ムを研究開発している。

 この取り組みでは、ディペンダビリティを

阻害する論理的なバグや所定の時間範囲

 A(Algorithm):計算方法によって、速度

や精度がまったく違う。適切な計算方法を

設計することが重要だ。

 S(Software):スーパーコンピュータな

どでは、それに適したプログラミングが必

要になる。

 H(Hardware):コンピュータの性能を

最大限に引き出すには、ハードウェアを正

しく理解しなければならない。

 未来を拓くシミュレーションには

SMASHのどれひとつも欠かせないが、実

はこのなかでかなめになるのが中央にある

「A」である。アルゴリズムが適切でないと、

計算はできても精度がまったく足りなかっ

たり、プログラムをいくら工夫しても、コン

ピュータの性能を活かしきれないなど、根

本的な問題がいろいろと発生する。

 我々の研究室は、この「A」と2つ目の「S」

をおもな研究テーマとして、新しいハード

ウェアを活かしたプログラム手法、高速ア

ルゴリズムなどに取り組んできた。気象計

算に使われる球面調和関数変換の世界最

高速のアルゴリズムは、我々が考案したも

のである。最近はハードウェアに自動適応

する「自動チューニング」の研究にも取り組

んでいる。科学技術シミュレーションの未

来を拓くために、これからもさまざまな問題

に貪欲に取り組んでいきたい。

 コンピュータは小さな宇宙だ。宇宙には

何があるか? 空間と、それを満たす物質

と、物質の挙動を決める物理法則である。

物理法則に従って、実に多様な現象が宇宙

の中で起こる。コンピュータも同じだ。宇宙

空間の代わりにメモリ空間があり、物質の

代わりに情報(データ)がメモリ空間に満ち

ている。そして、物理法則の代わりにデータ

の挙動を決めるのはプログラムである。ど

ういうデータをメモリに満たし、どういうプ

ログラムをつくるかによって、コンピュータ

の中にはさまざまな世界が広がる。現実の

世界を模擬することもあれば、現実にはあ

りえない世界をつくりだすこともできる。コ

ンピュータの中にどんな世界をつくりだす

か、それは君たちの想像力しだいだ。

 スーパーコンピュータが登場してから、コ

ンピュータシミュレーションは「第3の科学」

といわれるようになった。「第3」というからに

は、先行するものが2つあるわけだが、それ

は「実験」と「理論」である。シミュレーション

という言葉の意味は模倣だが、実際には模

倣以上のものである。理論はむろん重要だ

並列分散システム

機能し続けるシステム安全・高性能・高生産コンピュータシステムを目指してシステムソフトウェアは進化を続ける

数値シミュレーション、高性能計算

コンピュータの中の小宇宙科学技術シミュレーションの未来を拓く

石川裕教授 Y u t a k a I s h i k a w a

●参考データ石川研究室:http://www.il.is.s.u-tokyo.ac.jp/PCクラスタコンソーシアム:http://www.pccluster.org/

●参考データ須田研究室:http://olab.is.s.u-tokyo.ac.jp/~reiji/sudalab.html

■ 研 究 室 紹 介 ■ ■ 研 究 室 紹 介 ■

研究テーマ

■高性能・高生産並列計算環境■ディペンダブルシステム■実時間分散システム

研究テーマ

■数値計算アルゴリズム■計算の高速化・並列化■科学技術シミュレーション

ディペンダブルシステムソフトウェア

コンピュータの中にどんな世界をつくるか?

アルゴリズム、高性能プログラミング、これが我々の研究テーマだ

OSカーネルによるモニタリング ・実行時耐性保証 ・故障・状態変化検知

・ソフトウェアの論理的な正当性・時間制約の検証・消費電力見積もり・耐故障性の検証

ソフトウェア開発時 実行時

プログラム

検証ツール

検証・解析

プログラム

SCore

高速球面調和関数変換法を用いた気象シミュレーション

須田礼仁准教授R e i j i S u d a

第3の科学シミュレーション

が、ちょっと複雑な問題になると数値計算

に頼らざるを得ない。実験では実現できな

いような理想的な条件がシミュレーション

では設定できるし、現実にない性質の物質

を使ったり、地球や宇宙の変化のように物

理的に実験できないものでも、シミュレー

ション上で実現できる。風洞実験では測定

器が設置してある場所以外の流れは測定

できないが、シミュレーションなら空間のす

べての点における流れの情報を得られる。

このように、シミュレーションは実験や理論

に並ぶ研究手段となった。工業製品などの

設計・最適化にコンピュータシミュレーショ

ンが大活躍しているのもよく知られている

だろう。

 では、コンピュータさえあればやりたいシ

ミュレーションが簡単にできるのかという

と、話はそれほどたやすくない。シミュレー

ションの実現のために必要なものを

「SMASH」だと言う人がいる。

 S(Science):まずシミュレーションの対

象そのものに対する理解が必要だ。

 M(Model):シミュレーションしたい対

象物や法則を、コンピュータで扱えるよう

に表現する。

Page 6: johokagaku h1h4 ライムグリーン · 語の厳密な意味論の確立、実装 というふうに進んでいった。 研究室では、理論の得意な者 は実装ができるように、また実装が得意な

3332

は大胆に省略し、視覚情報に変換するとい

う方法で、あふれるデータのなかから本当

にほしい情報を効果的に抽出し、視覚的に

提示します。

 実例をお見せしましょう。図1は陽子と水

素原子の衝突をシミュレーションしたもの

です。左側は単純な可視化処理で得られた

不明瞭な画像、右側は適切なデータ解析

を施して改善しています。実は、シミュレー

ションを行った研究者も、右側の画像を見

てはじめてループ状のエネルギー分布があ

ることに気付いたそうです。可視化技術が

ふだん見すごしている情報を気付かせてく

れた、好例です。

 可視化は、情報ビックバン時代の到来と

ともに価値が高まってきています。

 ところが、可視化しようとするデータが複

雑になると、誇張されて可視化された情報

でも人の注意をうまくとらえることができ

なくなります。図2の左側は、視点が不適切

なために可視化結果がだいなしになってい

ます。そこで、心理学実験の知見を採り入

れ、人がモノを見るときの視点の定め方を

当てはめて適切な視点で可視化したもの

が右側です。

 また、人の視覚には融通性があって、実

際とは異なる少し嘘の混じった映像をうま

く理解できます。図3は山道を描いたもので

すが、我々の実験から、右側のように投影

図にデフォルメを加えて道路が山に隠れな

いようにしても、ほとんどの人は違和感なく

3次元シーンを想起できることがわかって

います。これは可視化に、データの解析の

みならず、人の視覚の仕組みを考慮する必

要性を示唆しています。

 このように、可視化は情報ビックバンの

現代を生き抜くための道具となりつつあり

ます。日々流れ込んでくるデータから必要

な情報を引きだし、視覚を通して確実に人

に伝達させることは、人の叡智を最大限活

用するための活動といえるでしょう。

 「百聞は一見にしかず」 これは、可視

化の話をするときによく言われることわざ

です。実際、人が持つ五感(視、聴、触、嗅、

味)のうち、視覚は空間的にも時間的に最

も解像度の高い知覚であり、人への情報伝

達に中心的な役割を果たしてきました。可

視化は、人が理解すべきデータをコン

ピュータを用いて画像などの視覚的な情報

に変換し、わかりやすく伝える技術です。

 コンピュータの性能向上が顕著になると

ともに、核融合などの複雑な物理現象のシ

ミュレーションを短時間かつ高精度に行っ

たり、あるいは経済などの統計データをリ

アルタイムに処理できるようになりました。

けれども、このようなデータを手に入れただ

けで、データに潜在している意味がわかる

わけではありません。むしろ逆に、データが

膨大になればなるほど、必要な情報を得る

ことは大海から真珠を拾い集めるくらい難

しくなっているのです。このように、あふれる

データに翻弄されている現代を、「情報ビッ

クバン時代」と呼んでいます。

 可視化では一般的に、データを解析して

必要な情報を強調しつつ必要でないもの

して手を差し延べてくれるような、「気の利

く」コンピュータの実現だと、我々は考えて

いる。バーチャルリアリティで右側を見たい

ときは、「右を見たい」とコマンドを打つので

はなく、顔を右に向ければよい。コンピュー

タが自身の所在をGPSなどで把握していれ

ば、人はわざわざ現在地を手で入力する必

要がなくなる。気の利くコンピュータの実現

には、コンピュータあるいはユーザーの置か

れている状況を適切に把握し、どのような

状況のときどのように動作すべきかが適切

に設定されていることなどが必要である。

 このような問題意識のもと、さまざまな

新しいインターフェイスを研究している。

 ひとつは、ペン入力を活用したインター

フェイスのデザインであ

る。ペン入力には、大まか

な情報を手早く入力でき

ること、また文字だけでな

く絵や図も同時に入力で

きるという特徴があるが、

既存のペン入力手法はそ

の良さを活かしきれてい

ない。そこで、より自由に

描画しつつ高度な使い方

が可能な手法を開発して

いる。

 コンピュータグラフィックス(CG)のコン

テンツを手早く簡単に作成する技術も開発

している。従来、CGは専門家が時間をかけ

て作るもので、素人が作成するのは難し

かった。開発中の、手書きスケッチによる

3次元モデリングや、操作の記録と再生に

よるアニメーション作成手法は、初心者で

も簡単に3次元CGやアニメーションを作

れるようにするものだ。

 画像を利用したコミュニケーション支援

手法、大量の情報を効率よく収集・分析・利

用するための手法、また将来に向けて、家

庭用ロボットを操作するためのユーザーイ

ンターフェイスも研究対象である。

 ユーザーインターフェイスはまだまだ新

しい研究分野で、解決しなければいけない

問題が多く残されている。また、個人のアイ

デアがすぐに世界中で使われる可能性が

あり、エキサイティングな分野でもある。よ

り多くの人がこの分野に興味を持ってくれ

ることを期待している。

 昔のコンピュータは、何をするにも命令

をいちいちキーボードから打ち込まなくて

はならず、使いにくいものだったが、ウィン

ドウ、アイコン、メニュー、マウスを駆使した

グラフィカル・ユーザーインターフェイスの

普及によって、一般の人にも使えるように

なった。しかしよく考えてみると、入力デバ

イスがキーボードからマウスに代わっただ

けで、人間がやりたいことをいちいち細かく

指示しなければいけないことに変わりはな

い。このような受動的なインターフェイス

は、ウェブやメールのような簡単な操作に

は問題がなくても、映像の作成・編集や、他

人とのビジュアルなコミュニケーションな

どといった、膨大な情報をいちどに扱うよう

な操作には適していない。また、今後家庭

にはいってくると期待されるロボットのよう

な、実世界を扱う場面にも不十分である。

このような問題を解決する、未来のイン

ターフェイスが求められている。

 未来のインターフェイスに必要なのは、

人間がコンピュータにいちいち指示を与え

るのではなく、人間の自然な動作からコン

ピュータが人間の必要としていることを察

データの可視化とその視覚応用

人の目を通した情報の理解を探求情報ビックバン時代の可視化処理やわらかい可視化プロジェクト

ユーザーインターフェイス

気の利くコンピュータとは?未来のユーザーインターフェイスをデザインする

五十嵐健夫准教授T a k e o I g a r a s h i

●参考データ高橋研究室:http://visual.k.u-tokyo.ac.jp/

●参考データ五十嵐研究室:http://www-ui.is.s.u-tokyo.ac.jp/http://www-ui.is.s.u-tokyo.ac.jp/~takeo/index-j.html

■ 研 究 室 紹 介 ■

研究テーマ

■3次元画像や関連性データの解析■奥行き手がかりを考慮に入れた投影図生成■人の視覚注意のモデル構築と可視化応用

研究テーマ

■ペン入力インターフェイス■CGを簡単に作るためのインターフェイス■ロボットのためのインターフェイス

気の利くコンピュータ

アイデアいろいろ

伝わらなければ意味がない

安全・安心

視覚は人への高解像度入力デバイス

本当に意味のある情報を拾い上げるのは難しい

情報ビッグバン時代を生き抜く道具となれ

図1 陽子と水素原子の衝突シミュレーションで衝突直後を可視化。(左)データ解析を施さない可視化画像、(右)データ解析を施して改善。

図3 投影図にデフォルメを加えた例。(左)写真と同じ投影図表現、(右)デフォルメを加えて道路が山に隠れないように改善。

手書きスケッチによる3次元モデリング

直接操作によるアニメーション作成手法

図2 歯のデータに対する人の視覚特性を考慮に入れた視点選択。(左)悪い視点からの見え方、(右)最も良い視点からの見え方。

高橋成雄 准教授 S h i g e o T a k a h a s h i

■ 研 究 室 紹 介 ■

Page 7: johokagaku h1h4 ライムグリーン · 語の厳密な意味論の確立、実装 というふうに進んでいった。 研究室では、理論の得意な者 は実装ができるように、また実装が得意な

34

らに、情報科学の一分野でもある機械学習

理論が整理されてきて、意外にも脳の学習

メカニズムと強い関係があることもわかっ

てきたのです(学習アルゴリズムと実際の

脳の神経結合との対応がとれるケース

も!)。ですから、いままさに、情報科学者が

脳科学という人類最大かもしれない科学

分野に再参加し、本質的な貢献ができる絶

好のチャンスなのだと思っています。特に

私は、「個別の学習理論を組み合わせ、どの

ように脳の高次機能が実現できるのか」と

いうことに興味があります。これは、「個々の

モジュールの組合せによって大きくて複雑

なシステムをつくりあげる」という、システム

設計の訓練を受けた情報科学者にとって、

格好の活躍の場となっていくでしょう。

計算論的脳科学

いま再び脳の謎に立ち向かう情報科学的アプローチ

細谷晴夫講師 H a r u o H o s o y a

●参考データ細谷研究室:http://arbre.is.s.u-tokyo.ac.jp/

■ 研 究 室 紹 介 ■

研究テーマ

■計算論的脳科学■プログラミング言語論、XML処理(過去の研究)

脳ってどういう仕組みで動いてるのだろう

なぜいま情報科学科で脳科学なのか

急速な技術発達のあと、再び脳に挑む

 この疑問は、古今東西、人間の一大関心

事となってきました。21世紀になったいま

でも解明されていない、最大の謎のひとつ

です。最近のマスメディアでの取り上げ方

や、おびただしい書籍が出版されているこ

とからもわかるように、専門家だけでなく、

一般の人たちの関心も相当なものです。そ

れも当たり前のことです。脳とは自分自身

のことであり、人間ならばみな、自分はどう

いう存在なのかということを知りたいと思

うでしょう。

 私は脳科学のなかでも、「計算論的脳科

学」に関心を持って研究しています。「計算

論」とは何でしょう? 脳科学はもともと、

実験を主体とする生物学の守備範囲でし

た。つまり、解剖学や生理学の手法を使っ

て、「脳の基本単位となっている神経細胞

はどういう仕組みになっているのか」とか、

「脳のどの場所にどういう機能があるの

か」とか、「脳のどことどこがつながってい

るのか」というようなことを調べています。

これはこれで、非常に価値のあることです。

けれども、これだけでは脳の仕組みがわ

かったことにはならないのです。

 結局のところ、「神経細胞がどうつなが

り、その結果どのような機能が生まれるの

か」を明らかにすることそれも言葉で

説明するレベルではなく、「数理的にモデ

ル化して、計算機などで再現できる」程度

に精密に説明できないかぎり、本当に「脳

を理解」したことにはなりません。このモデ

ル化をするのが「計算論」なのです。

 情報科学者も、常に脳に興味を持ってき

ました。つい30年ほど前には、「人工知

能」というテーマでこの飽くなき探求

に参加し、それは一世を風靡する

勢いでした。しかし、その試み

の大半は無惨な失敗に終わ

り、現在では個々のアプリ

ケーションに知能的な機

能を追加するような研究に終

始しているように見えます。「ヒトと同

じくらいの知能を持つ機械を作ろう」など

という過去の夢はどこかにいってしまった

かのようです。それどころか、そういう夢を

持ったり語ったりすること自体がタブー視

され、嘲笑の的になるような雰囲気さえあ

るほどです。私も学生時代、そのような雰囲

気のなかで育ったためか、ごく最近まで「現

実主義的」な研究をチマチマとやっていた

ほうでした。

 しかし、そのような否定的な意見をいま

も言う人々は、この20年間の他の分野の急

速な発展に気付いていなかったのです。神

経解剖学や生理学の分野では膨大な知見

がたまって、脳組織の微細な構造までかな

りわかっています。また、fMRIを代表とする

脳イメージング技術の発達によって、健康

な人間の脳の活動を細かく観察できるよう

になってきました。そして、計算論も活発に

なり、見通しのよいモデルがたてられ、生理

学的実験を通して検証が進んでいます。さ

ACM国際大学対抗プログラミングコンテスト

区予選東京大会で併催されたJa v a

Challenge出場時の小話を紹介します。

 このときの課題は「動きまわる複数の鮭の

現在座標がリアルタイムに与えられるとき、で

きるだけたくさんの鮭を獲るように熊の動きを

制御する」というものでした。制限時間は1時

間強。プログラムを書いた翌日に1対1のトー

ナメント形式で他のチームと対戦します。

 私たちはこのタイプのプログラムは不得

意でJavaにも気が進まなかったので、アイ

デア一発で勝負することにしました。戦略を

以下に:

1. 鮭を捕まえられそうなら捕獲を試みる

2. そうでなければ相手の熊に一歩近づく

 出題の意図としては「いかにして鮭の近く

に行くか」なのでしょうが、そこを「鮭を追い

かけているはずの相手の熊」を追いかけて

ごまかそうという作戦です。相手の熊と同じ

場所にいれば、鮭を獲れる確率は5割くらい

になるハズ。この案にコーディング担当者も

ちょっと乗り気になり、チームの作戦は決

定。慣れない言語に戸惑いながらも、なんと

か提出しました。

 翌日はドキドキのトーナメント戦。どのチー

ムも勝算はなく、他のチームの作戦に興味

津 で々、とても盛り上がります。

 1回戦:私たちの熊は相手の熊に奇妙な動

きで近づいていきましたが、それに気付いた

人は少なかったようです。なんとか勝ったも

のの、熊のおかしな動きに失笑がもれます。

 2回戦:作戦がツボにはまります。相手の

熊にぴったり重なり、5割の鮭を獲るはず

が、なんと8割がた獲れてしまいました。なぜ

か捕獲可能範囲のぎりぎり外側の鮭にも捕

獲操作をしかけていたため、熊に向かって

移動してくる鮭をいち早く捕まえられたので

す。相手にぴったり張り付くという怪しい挙

動と、まったく同じ動きなのに鮭をほとんど

獲ってしまうという怪しい結果に、会場が沸

きます。3回戦以降もあれよあれよという間

に勝ち進みました。

 ついに決勝戦:残念ながら、手抜き(相手

の熊だけ見ていたため、進めない方向に動

こうとして身動きできないことがある)が明ら

かになって完敗でした。でも、会場のみなさ

んに私たちのアイデアが伝わり、最後まで

笑って楽しんでいただけ、運も味方して準

優勝という結果まで得られたことに、素直に

喜びを感じました。

 プログラミングコンテストは、自分の能力

を試すだけでなく、コードやアルゴリズムを

通じて盛り上がれる貴重な場だと思います。

プログラミングが好きな方は、ぜひ一度参加

して雰囲気を味わってください。

(kitsune-/林崎弘成+末松宏一)

 情報科学科におけるイベントとして、

ACMが主催するICPC(International

Collegiate Programming Contest)への

参加があります。これは、何問か出される問

題を3人1チームで制限時間内に何問解け

るか、どれくらい速く解けるかを競います。例

年7月ごろに国内予選があり、10~20人の

ISerが地下端末室に集合してオンライン参

加します。2回の予選を勝ち抜き、世界大会

へ進むと、開催地まで海外旅行ができます。

 コンテストでは、アルゴリズムの考案力、プ

ログラミングの速さ、正確さ、デバッグ能力、

そしてチームの協調と戦略が問われます。ダ

イクストラ法*1くらいは何も見なくても2分で

実装できるよね、という世界です。

 私たちのチームkitsune-(きつねー)は、

2007年の世界大会に出場し(日本で開催さ

れたので海外旅行には行けませんでした)、

制限時間5時間で全10問のうち4問を解い

て、世界26位(国内2位)という結果を出しま

した。

 コンテストは時間との闘いで、問題が解け

そうだという興奮、バグの原因が掴めない焦

り、問題が解けて目印の風船がチームに届

けられたときの喜びの一瞬、この問題が解

ければ上位に喰い込めるという希望などが

入り混じり、濃密な時間が流れていきます。

情報科学科のサイトを覗くと、問題の解説

や臨場感あふれる歴代の参戦記が楽しめま

す。ここでは番外編として、2007年アジア地

Photograph: David Hill

Photograph: Jillian Murphy

写真上:提出したプログラムが正解と判定されると、問題に対応した色の風船が届けられる。自分のチームの上に風船がたくさん浮かんでいるとしあわせ、他のチームの風船が増えると危機感がつのる。

*1:いくつかの都市と、都市間の道路のデータ(どこからどこまで何kmか)が与えられたとき、都市Aから都市Bまで行くときの最短距離を求める方法。情報科学科に入ると2年冬学期の講義で習います。

写真下:チームkitsune-/荒木伸夫、末松宏一、林崎弘成

番外記