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JPEC 世界製油所関連最新情報...力以外の再生可能エネルギー発電量とシェアは、2019年は4,140億kWh、10%で、 2020年には、4,710億kWh、12%に増える。

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2019年 10月 31日(木)

JPEC 世界製油所関連最新情報

2019 年 10 月号 一般財団法人 石油エネルギー技術センター調査情報部

目 次

概 況

1. 北 米 7ページ

(1) Superior製油所、爆発火災事故後の再稼働に向けた動き

(2) EIAが公表した 10月 8日付の「短期エネルギー見通し」

1) 米国の暖房用エネルギー需要の見通し

2) 世界の石油需給動向

3) 米国の天然ガス需給動向

4) 米国の電力、石炭、再生可能エネルギー及び GHG排出量

(3) Valero Energyがテキサス州に再生可能燃料プラントの新設を計画

2. 欧 州 13ページ

(1) 英国の Fawley製油所の低硫黄ディーゼルプラント新設プロジェクトが前進

(2) 英国の Essar Oil UKを取り巻くトピックス

(3) 英国王立協会の脱炭素化輸送用燃料に関する資料

(4) フランス Totalの低炭素化技術への取り組み

1) ドイツ Sunfireと提携

2) 低炭素化に向けた方針

3) 低炭素事業に向けた外部投資

3. ロシア・NIS諸国 22ページ

(1) カザフスタン KMG Internationalが、バルカン半島で燃料販売拡大を計画

(2) ロシア Rosneftが、ロシア極東で IMO2020バンカー燃料の供給を開始

4. 中 東 24ページ

(1) イランの石油化学事業の現状と計画

1) 石油化学原料の供給

2) 設備能力の増強計画

3) 事業収益

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(2) クウェートの製油所近代化プロジェクトの近況

5. アフリカ 26ページ

(1) モロッコの石油・天然ガス事情

(2) ナイジェリア Nigeria LNGの拡張プロジェクトが前進

6. 中 南 米 29ページ

(1) メキシコ Pemexの製油所の稼働率が改善

(2) メキシコが発電能力の拡大を計画、再生可能エネルギー比率引き上げを計画

(3) ガイアナ沖の石油開発の状況

(4) Wintershal DEAによるアルゼンチン Vaca Muertaシェール層の開発が前進

7. 東南アジア 33ページ

(1) インドのデリー首都圏全域で BS-VI燃料の供給体制が確立

(2) インド IOCのバイオメタンプロジェクト

(3) 南アジア、東南アジア諸国の LNG関連情報

1) Excelerate Energyがフィリピンの Luzon LNGターミナルに FSRU

2) ベトナムの LNG-発電プロジェクト

3) インド Petronet LNGが、米国 Driftwood LNGから LNGを輸入

4) Qatargasがバングラデシュ MLNGに、Q-Flexタンカーで LNGを輸出

8. 東アジア 37ページ

(1) Saudi Aramcoが中国浙江省の経済特区への投資を拡大

(2) LyondellBasellが中国の石化事業を拡大

(3) 中国の天然ガス消費量が上昇を続ける見通し

(4) 中国 Sinopec、PetroChinaの非在来型石油・天然ガス開発のトピックス

1) Sinopecのシェールガス開発

2) PetroChinaの非在来型石油・天然ガス開発

9. オセアニア 40ページ

(1) 南オーストラリア州政府の水素アクションプラン

1) 南オーストラリア州の水素社会実現へのこれまでの取り組み

2) 再生可能エネルギーのポテンシャル

3) 再生可能水素の輸出先候補

4) 水素製造プロジェクト

(2) オーストラリア Equus 天然ガス・LNGプロジェクトの進捗状況

「世界製油所関連最新情報」は、原則として 2019年 9月以降直近に至るインターネット情報をまとめたものです。JPECのウェブサイトから改訂最新版をダウンロードできます。 http://www.pecj.or.jp/japanese/overseas/refinery/refinery_pdf.html 下記 URLから記事を検索できます。(登録者限定) http://info.pecj.or.jp/qssearch/#/

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概 況 1. 北米

2018年 4月に爆発事故を起し、停止していたウィスコンシン州の Husky Energy

の Superior製油所が運転再開に向っている。再稼働に際しては、アルキレーシ

ョンプラントで使用されているフッ化水素の安全対策の強化が焦点となった。

EIAが短期エネルギー見通しを発表した。Brent原油価格を、2019年 4Qは 59USD/

バレル、2020年 2Qは 57USD/バレル、2020年通年では 60USD/バレルと予測して

いる。

一方、OPEC諸国の原油生産量は、協調減産以外に、サウジアラビアへの武力攻

撃、ベネズエラへの経済制裁が影響するなかで、2019年は 2,980万 BPD、2020

年は 2,960万 BPDと予測している。

米国の 2019年の原油生産量は、前年比 130万 BPD増の 1,230万 BPD、2020年は

90万 BPD増加し、1,320万 BPDと予測している。

2019年の天然ガス生産量は、916億 cf/日、2020年は 935億 cf/年と予測してい

る。

天然ガス価格(Henry Hub)は、2019年 4Qは、2.43USD/MMBtu、2020年は

2.52USD/MMBtuと予測している。

米国の総発電量に占める天然ガス火力発電のシェアは、2018年の 34%に対して、

2019-2020年は、37%と予測している。

水力発電のシェアは、2018年から 2020年を通じて、7%。風力、太陽光など水

力以外の再生可能エネルギー発電量とシェアは、2019年は4,140億kWh、10%で、

2020年には、4,710億 kWh、12%に増える。

エネルギー関連の CO2排出量は、2018年は対前年比 2.7%増、2019年は対前年比

2.4%減、2020年は対前年比で 1.7%減と予測している。2019-2020年の減少要

因の一つには、夏季の冷房電力の減少、石炭火力発電量の減少が挙げられている。

Valero Energyと Darling Ingredientは、テキサス州の Port Arthur製油所の

近隣地に、バイオディーゼルプラントの新設を計画している。生産能力は、再生

可能ディーゼル 4億ガロン/年、ナフサ 4,000万ガロン/年で、2024年の稼働を

計画している。

2. 欧州

ExxonMobilが計画していたFawley製油所の低硫黄ディーゼル増産に向けた設備

の新設工事が認可された。化石燃料プラント新設に反対する動きもあったが、液

体輸送用燃料の需要見通しが認められた。

英国 Essar Oil UKは、Stanlow製油所で処理する米国産原油の比率を 35%から

40%に引き上げ、原油コスト削減を図る。また、物流子会社の株式売却を検討し

ていることを明らかにした。

英国王立協会が、輸送部門の燃料の脱炭素化への取り組みを検討したレポートを

報告している。合成燃料、e-fuelの将来性を評価しているが、必要なグリーン

水素の低コスト化、適切な LCA評価の必要性を指摘している。

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低炭素化への取り組みを強化している Totalは、電気分解水素技術企業の

Sunfireと共同でドイツの Leuna製油所内に、CO2と電解水素からメタノールを

生産するプロジェクトに合意した。

Totalは、炭化水素事業の 60%を天然ガスとすること、天然ガスフレアの大幅削

減を計画している。また、低炭素化分野で、社外への投資を拡大する方針である。

3. ロシア・NIS

カザフスタンの KMG Internationalが、ルーマニア、ブルガリア、モルドバの燃

料販売シェアを拡大する計画を発表した。

ロシア国営 Rosneftは、子会社の RN Bunker LLCを通じて、Komsomolsk製油所

で生産した低硫黄船舶燃料(IMO2020対応、硫黄濃度 0.5%以下)の供給を開始した。

ナホトカ港や Zvezda造船所に供給される。

4. 中東

天然ガスが増産しているイランで、国営石油化学会社 NPCが、石化プラントに供

給する原料を現在の 3,300万トン/年に対して、2021年に 7,100万トン/年、2025

年までに 8,600万トン/年に増やすことを計画している。

NPCは、石化製品の生産能力を現在 6,600万トン/年から、2021年までに 1億ト

ン/年、2025年までに 1億 3,300万トン/年に拡大することを計画している。

イラン石油相は、石化事業の収益が、現在の 150~160億 USDに対して、2021年

には 250億ドル、2026年には 370億ドルに達するとの見通しを明らかにした。

クウェートが進めている既存製油所の近代化プロジェクト(CFP)初の新設設備と

して、Mina Abdullah製油所のディーゼルプラントが稼働し、Euro-5規格のディ

ーゼルの生産が可能になった。

5. アフリカ

米国エネルギー情報局(EIA)が、モロッコのエネルギーレビュー(簡易版)を更新

した。石油・天然ガス資源ともに乏しく、唯一の製油所も閉鎖されていることか

ら、燃料の殆どを輸入に依存している。

ナイジェリア Nigeria LNGは、第 7トレインの EPC業務で Saipemのコンソーシ

アムと合意した。また、Nigeria LNGがナイジェリアの経済に大きく貢献してき

た実績が発表されている。

6. 中南米

メキシコでは新政権の方針で、精製事業へのテコ入れが行われているが、製油所

の稼働率が 2018年 12月の 32%に対して、2019年 9月 20日週に 52%に改善し

た。年末までに、稼働率を 58%(90万 BPD)に引き上げることを目指している。

メキシコのエネルギー相は、発電能力を 2024年までに、現在の 75GWから 105GW

に増強する。また、グリーンエネルギー発電の比率を、方針通り、2024年まで

に 35%に引き上げることも確認している。

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ExxonMobilがガイアナ沖の Stabroek Block鉱区で新たな原油の埋蔵を発見した。

ExxonMobilは 2020年にフェーズ 1(12万 BPD)の開発を予定している。5月に開

発が認可されたフェーズ 2では、22万 BPDの原油生産を計画している。

ガイアナ沖の Orinduik鉱区では、Tullow Oilが、炭化水素の埋蔵を発見してい

た。同社は、開発計画の策定に進む予定である。

ドイツの Wintershal DEAは、アルゼンチンの Vaca Muertaシェール層の開発は

順調で、2020年の半ばから ConocoPhillipsと 20~30井を掘削すると発表した。

7. 東南アジア

インドでは、2020年 4月から BS VI規格のガソリン・ディーゼルの導入を予定し

ているが、国営精製 3社(IOC、BPCL、HPCL)が、2019年 10月 1日からデリー首

都圏で BS VI燃料を供給する体制が整った。

インド国営 IOCが、ハリヤーナー州ファリーダーバード県に建設したバイオメタ

ンプラントで開所式が挙行された。バイオメタン生産能力は 5トン/日で、プラ

ントには、IndianOil R&D Centreが開発した、廃棄物を原料とする、嫌気発酵

プロセスが採用されている。

南アジア、東南アジアの LNG輸入ターミナルの情報が相次いで公表されている。

フィリピン石油省は、Excelerate Energyに Luzon LNG (FSRU)の建設に着手する

ことを指示した。

ベトナムのバクリエウ省政府は、シンガポール Delta Offshore Energy、オー

ストラリア Liquefied Natural Gas Limitedと LNG輸入ターミナルの建設と天

然ガス火力発電プラントの建設プロジェクトに合意した。

インドの Petronet LNGは、米国ルイジアナ州で計画中の Driftwood LNGから

LNGを輸入することで Tellurian Incと合意した。

カタールの Qatargas は、バングラデシュの MLNG に、Q-Flex 級 LNG タンカーで

初めて LNGを供給した。

8. 東アジア

サウジアラビア国営 Saudi Aramcoは、中国浙江省政府と自由貿易区への投資拡

大に合意した。Saudi Aramcoは、新設製油所・石油化学コンプレックスへ出資、

原油供給、小売り事業、天然ガストレーディングなど広範囲の事業への進出を計

画している。

LyondellBasellと中国のBoraが、遼寧省にエチレンクラッカー(110万トン/年)、

ポリエチレンプラント、ポリプロピレンプラントの建設を計画している。

中国能源局が、中国の天然ガス消費量が、2050年まで増加するという予測を発

表している。

中国の Sinopecは、涪(フ)陵区の 2019年のシェールガス生産量/販売量が約 42

億 m3に達したと発表した。一方、PetroChinaは、オルドス盆地で非在来型原油、

四川盆地ではシェールガスの埋蔵を発見した。

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9. オセアニア

南オーストラリア州政府が、水素アクションプランを公表した。再生可能エネル

ギーで発電した電力で生産した水素を州内で消費する他に、アジアへの輸出も視

野に入れている。

再生可能エネルギーで生産した水素の輸出先候補として、中国、韓国、日本、シ

ンガポールを検討している。

世界最大の LNG輸出国に近づいているオーストラリアから、西オーストラリア州

の Ecuus天然ガス・LNGプロジェクトの上流部から LNGプラントまでの評価が完

了したことが発表されている。

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1. 北 米

(1)Superior製油所、爆発火災事故後の再稼働に向けた動き

2018 年 4 月、Husky Energy が保有するウィスコンシン州の Superior 製油所(3.8

万 BPD)の接触分解装置(FCC)で、保守工事中に爆発火災事故が発生し、36 人の負傷

者を出した。Husky Energy は、事故発生後、製油所の運転を停止していたが、損傷

機器の解体、再建工事がほぼ完了し、2021 年の運転再開に向けた現場作業を進めて

いる。

製油所の運転再開が遅れた理由は、アルキル化プラントで酸触媒として使われて

いるフッ化水素(HF)にある。HF は多くの製油所のアルキル化装置で使用実績のある

物質であるが、毒性、腐食性が高く、Husky Energyが、製油所の再稼働後も HFを使

用すると発表していることに対して、環境団体や地域住民が反対を表明し、使用を

阻止する行動を起したことにある。

爆発事故発生時、製油所から HFが放出されると致命的な健康被害が発生する可能

性があるという懸念から、Superior市当局は 27,000人の住民の強制避難を実施した

ほか、3ヶ所の学校と 1ヶ所の病院を閉鎖し、生徒や患者は近隣の都市 Duluthに避

難させていた。

事故調査結果によると、最初の爆発の原因は、接触分解装置(FCC)のスライドバル

ブの故障にあると結論付けている。HF タンクは、発災装置の FCC 装置から、約

200ft(約 61m)に設置されていた。爆風による危険に晒されたが、実際には損傷を受

けなかった。

Husky Energy は、2019 年初めにウィスコンシン州天然資源局(Wisconsin

Department of Natural Resources:DNR)に、運転再開の許可を申請していた。この

申請に対し、DNR は種々の要望を盛り込んでいる。HF に関しては、事故に備え、HF

を独立した安全な貯蔵タンクに迅速に移送できるシステムの構築、HF の危険性を引

き下げるための希釈水の注入システム、漏洩検出システムの強化などの安全向上策

を条件に運転再開の許可を 9月 27日に与えている。

なお、Husky Energy は、運転再開に向けて、安全策の導入に加え、以下の通りの

改善策を取り入れている。

① 最新石油精製技術を採用し、エネルギー効率の向上を目的とする制御技術を取り

入れた製油所とする。

② FCC 装置の反応器の交換、損傷した全ての下流装置の交換及び再構築、爆発で損

傷したアスファルトタンクの交換。

③ 重質原油処理量を 0.5万 BPDから 2.5万 BPDに増強し、製油所の精製能力を 4.5

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万 BPDに拡張する。

④ 製油所をガソリンからアスファルトまでの石油製品の生産を可能とし、米国中西

部市場への供給能力を強化する。

<参考資料>

https://huskyenergy.com/news/release.asp?release_id=1922377&utm_source=Sub&utm_medium=

Rebuild&utm_campaign=Superior

https://www.enbridge.com/~/media/Enb/Documents/Factsheets/FS_ENB_Mainline_system.pdf

https://www.globenewswire.com/news-release/2019/09/30/1922377/0/en/Husky-Receives-Appr

oval-to-Begin-Superior-Refinery-Rebuild.html

(2)EIAが公表した 10月 8日付の「短期エネルギー見通し」

米国エネルギー情報局(EIA)が、2019 年 10 月 8 日付の「短期エネルギー見通し

(Short-Term Energy Outlook:STEO)」を公表している。EIA は、STEO を毎月、更

新してインターネット上で公表しているが、2019 年も第 4 四半期を残す時点の石油

エネルギー事情を伝える情報を発表している。最新の情報は以下の通りである。

1) 米国の暖房用エネルギー需要の見通し

今冬季は、気温が 2018年に比較して高くなると予測されていることから、一般家

庭用暖房に係る燃料代支出は、減少すると EIA は予測している。一般家庭が負担す

る燃料費を燃料種別にみると、プロパンの平均支出は 15%減少、家庭用暖房油は 4%

減少、天然ガスは 1%減少、電気力は 1%減少すると見込まれる。

2) 世界の石油需給動向

① 2019年 9月の Brent原油スポット価格は、前月の 8月と比べると 4USD/バレル上

昇し、平均 63USD/バレルで、対前年同月比では 16USD/バレル低い。9 月初めの

Brent 原油スポット価格は、61USD/バレルまで下がっていたが、サウジアラビア

の主要原油生産設備がテロ攻撃を受け、同国の原油生産に支障をきたしたことを

反映し、一時 68USD/バレルに上昇した。

② しかし、その後、サウジアラビアの原油生産量が早期に回復したため Brent原油

スポット価格は急速に下落し、10月 4日には 58USD/バレルになっている。

③ このような状況を踏まえ、EIAの見解は、2019年第 4四半期の Brent原油スポッ

ト価格は平均 59USD/バレルまで下がり、さらに、2020年第 2四半期には 57USD/

バレルまで下落するとみている。その背景には、サウジアラビアへのテロ攻撃に

伴う原油供給の不安材料はあるものの、世界経済の伸びが低迷し 2020 年上期は

世界の石油在庫が上昇すると予測され、原油価格低下要因が見込まれることを理

由に挙げている。

④ 2020年後半になると、原油価格の低下要素と上昇要素が拮抗すると見られること

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から、来年下期の予想価格は 62USD/バレルに置いている。その結果、2020 年の

通年価格は 60USD/バレルと予測している。

⑤ 2019年 9月の石油輸出国機構(OPEC)諸国の原油生産量は、平均 2,820万 BPDで

あったと推定している。8月より 160万 BPD減少しており、2003年 11月以来の

OPEC生産量の最低レベルになっている。対前年同月比でみると、400万 BPDの

減少になっている。

⑥ OPECの減産は、サウジアラビアの原油生産設備の破壊のみならず、イランと

ベネズエラの減産も大きく影響している。しかし、EIAは、10月 3日時点で

サウジアラビアの原油生産は、停止前のレベルに戻ったと推定しており、

2019年の年間 OPEC原油生産量は、対 2018年比で 210万 BPD減少した

2,980万 BPD、2020年には 2,960万 BPDになるとしている。

⑦ 2019年 7月の米国の原油生産量は 1,180万 BPDで、前月の 6月からは 30万 BPD

減少している。生産量が減少した原因は、ハリケーン Barryがメキシコ湾岸地域

における原油生産に被害を与えたことが影響している。

⑧ タイトオイルの生産量の伸び率が鈍化している。これは、原油価格に変化がなく、

比較的安定しているため、増産による経済的メリットが薄いと思われることが要

因と見られている。テキサス州西部とニューメキシコ州に広がるタイトオイルの

生産地である Permian Basinとメキシコ湾岸の石油精製地帯および輸出センター

とを結ぶパイプラインが稼働する 2019 年第 4 四半期になると、タイトオイルの

生産量は、回復してくると思われる。

⑨ ただし、2020年上半期には原油価格が下落すると想定されることや、井戸元で

生産性が低下してきていることにより、2020年の国内原油生産量は、横ばいに

なると予測している。結果として、2019年の国内原油生産量は、2018年に比較す

ると 130万 BPD増加し 1,230万 BPDになり、2020年には更に 90万 BPD増加して

1,320万 BPDになると予測している。

3) 米国の天然ガス需給動向

① NGL を除いた天然ガス(dry gas)の生産量は、2019 年は 1 日当り平均 916 億 cf/

日)で、2018年と比較すると 10%増加する。

② 天然ガスの Henry Hub 価格は、9 月時点で平均 2.56USD/MMBtu で、8 月時点に比

べると0.34USD/MMBtu上昇し、今年3月以来の上昇に転じた。EIAの予想Henry Hub

価格は、2019 年第 4 四半期で、対 2018 年同期比 1USD/MMBtu 以上の減少となる

2.43USD/MMBtuになり、その後、2020年には 2.52USD/MMBtuに上昇するとみてい

る。米国の天然ガス価格は、2019年に入り下落したが、これは天然ガス生産量が

堅調で、4月から 10月の在庫積み増し時期に、例年以上の積み増しがなされたこ

とが背景にある。

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③ 天然ガスの市場は、低価格に向かうと推定されるため、2019年後半には天然ガス

の掘削井数が減少する。タイムラグで生産量は、2019年後半に増加し、続く 2020

年第 1四半期に僅かに減少すると予想される。しかし、2020年第 2四半期には、

生産量は上昇に転じ、2020年通年の生産量は平均 935億 cf/日になると予測され

る。

④ 2019年 4月初旬の在庫積み増し期の状況は、過去 5年間の同時期の平均値と比べ

ると、有効在庫量(working inventories)は、能力の 28%を下回っていたが、そ

の後、在庫が積み増されて 9月 27日の週には、1%以内の範囲に収まる 3,317億

cf に達している。現在の状況が続くと、10 月末までには在庫量は、3,792 億 cf

になると予想され、5年間の平均在庫水準を 2%上回り、対前年同月比でも 17%

上回ると予測される。

4) 米国の電力、石炭、再生可能エネルギー及び GHG排出量

① 米国の天然ガス火力発電量のシェアは、2018年は 34%であったが、2019年並び

に 2020 年には、37%を占めると予想している。石炭火力発電のシェアは、2018

年は 28%であったが、2019年には 25%、2020年には 22%に下降していくと予測

している。原子力発電のシェアは、2019年と 2020年共に約 20%と想定している。

② 水力発電のシェアは、2019年、2020年共に 2018年と同程度で、総発電量の約 7%

を占めると見られている。

③ 風力、太陽光、および、その他の水力以外の再生可能エネルギーによる発電は、

2018年は 10%を占めていたが、2019年は 2018年並みの 10%、2020年は上昇し

て 12%になる。

④ 水力発電以外の、主として風力及び太陽光による発電量は、2019 年には 4,140

億 kWhとなり、2020年には 4,710億 kWhに上昇する。これらの水力を除く再生可

能エネルギーの主要生産州であるテキサス州とカリフォルニア州の状況をみる

と、テキサス州の 2019 年に生産される発電量は、水力を除く再生可能エネルギ

ーに基づく国内総発電量の 19%、カリフォルニア州は 15%を占め、2020年には

前者が 22%、後者が 14%のシェアを占めるようになる。

⑤ エネルギー関連の二酸化炭素(CO2)排出量に関しては、2018年は 2017年と比べて

2.7%増加したが、2019 年以降は、エネルギー消費量の減少が予想されるので、

2019 年は対前年比で 2.4%、2020 年は対前年比で 1.7%、それぞれ CO2排出量が

減少すると予測している。

⑥ 2019 年以降にエネルギー消費量の減少が予想される理由は、2019 年の冷房度日

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(Cooling Degree Days:夏のある一定期間に、一定の気温以上になった場合の気

温差の累積数)は、過去10年間(2008年〜2017年)の平均よりも13%高かった2018

年に比較して、6%少なくなると見込まれることから、2019 年の冷房用電力需要

が低下するとみられるからである。

⑦ 加えて、天然ガスや再生可能エネルギーを燃料に発電される電力シェアが増加す

る一方、炭素集約型エネルギー源である石炭を燃料として発電される電力シェア

が減少するため、2019年の CO2排出量は減少する。

<参考資料>

(2019年 10月 8日付「短期エネルギー見通し」(Short-Term Energy Outlook:STEO))

https://www.eia.gov/outlooks/steo/

https://www.eia.gov/outlooks/steo/pdf/steo_full.pdf

http://biomassmagazine.com/articles/16457/eia-updates-bioenergy-forecasts-in-september

-steo

(3)Valero Energyがテキサス州に再生可能燃料プラントの新設を計画

Valero Energy Corporationと Darling Ingredients Inc.は、Valero Energyがテ

キサス州に持っている Port Arthur 製油所(39.5 万 BPD)の精製設備と既存の物流シ

ステムを活用できる場所に、再生可能燃料の新プラントを建設する計画である。

検討中の施設は、年間4億ガロン(約151万KL)の再生可能ディーゼルと、年間4,000

万ガロンの再生可能ナフサを生産する予定で、新工場は、Valeroと Darlingの 50/50

の合弁会社である Diamond Green Diesel Holdings LLC(DGD)が、保有し、運営する

ことになる。

今後、更なるエンジニアリング検討、Valero Energy及び Darling Ingredients両

社の取締役会による承認が必要であるが、プロジェクトの最終投資決定(FID)は、

2021 年を予定している。FID 後、必要な許可類の取得など、準備が整い次第、2021

年に建設を開始し、2024年に稼働する予定である。

計画中の施設とは別に、DGD は、ルイジアナ州 New Orleans 近郊の Norco にある

Valero Energyの St. Charles製油所(34万 BPD)の隣接地に、再生可能燃料生産設備

を保有し稼働させている。

DGDの Norcoの再生可能ディーゼルプラントの生産能力は、年間 2.75億ガロン(約

104 万 KL)である。現在、Norco でも “Diamond Green Diesel Train II”と呼ばれ

る第2トレイン建設プロジェクトのFIDが2018年11月に下され、総工費は11億USD、

2021年末までに建設完了予定である。

拡張後、Norco の生産能力は、再生可能ディーゼルが 6.75億ガロン/年(約 1.8万

BPD)、再生可能ナフサが 6,000 万ガロン/年になる。なお、DGD が処理する原料は、

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獣脂や廃食用油あるいは食用に適さないトウモロコシ油などの廃植物油で、製造フ

ローダイアグラムは、図 1の通りになっている。

図 1. DGDの再生可能ディーゼル製造フローダイアグラム及び製品性状

(出典:Citi Bank 2019 Global Energy and Utilities Conference : May 14, 2019)

DGD の再生可能ディーゼル生産量は、ルイジアナ州 Norco の既存施設、2021 年末

までに建設完了予定の Norco の第 2 系列設備、テキサス州で建設計画中の施設の 3

施設合計で約 11億ガロン/年(416万 KL/年)になり、再生可能ナフサの生産量は 1億

ガロン/年近くになる。

Valero Energyが再生可能燃料を生産する背景には、カリフォルニア州大気資源局

(California Air Resource Board:CARB)が定める低炭素燃料基準(Low Carbon Fuel

Standard:LCFS)の規則があると見ることができる。LIFSでは、基準年に対する処理

原油の炭素強度(CI)の削減目標を定め、未達成の場合には、一定のペナルティを支

払わなくてはならない。

化石燃料のディーゼルの CI を 100とした場合に、DGDが生産する再生可能ディー

ゼルの CI は 10~30 にカウントでき、大豆油などから生産したバイオディーゼルの

約 55より更に低い値になっている。従って、石油系ディーゼルに配合する場合、よ

り大きな GHG排出量削減効果を享受できることになる。

実際、ディーゼル総量に占める再生可能ディーゼル及び、バイオディーゼルの配

合割合の推移をみると、図 2 に示されているように、最近では配合割合が上昇して

いる状況が観察され、再生可能ディーゼルの配合割合は、2018年時点で 10.2%を示

し、バイオディーゼルの 4.9%より高いことが分かる。

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図 2. 再生可能ディーゼル及びバイオディーゼルのディーゼルプール配合率

(出典:CitiBank 2019 Global Energy and Utilities Conference : May 14, 2019)

<参考資料>

https://www.valero.com/en-us/Documents/VLO%20-%20Port%20Arthur%20Texas%20DGD_Final.pdf

https://ir.darlingii.com/2019-09-09-Diamond-Green-Diesel-Evaluating-New-Plant-in-Port-

Arthur-Texas-to-Expand-Production-up-to-1-1-Billion-Gallons-Annually

https://www.rigzone.com/news/texas_may_get_its_first_renewable_diesel_plant-09-sep-201

9-159753-article/

https://ir.darlingii.com/download/Basics_of_Renewable_Diesel_May+2019+FINAL.PDF

2. 欧州

(1)英国、Fawley製油所の低硫黄ディーゼルプラント新設プロジェクトが前進

ExxonMobil は、イギリス南部のハンプシャー州の都市 Southampton 近くにある

Fawley製油所(27万 BPD)に、8億ポンド(約 10億 USD)の設備投資をして、ディーゼ

ルの輸入量削減を目的とした製油所拡張工事を進める計画で、プロジェクトの許可

申請を行っていたが、この度、New Forest の監督官庁の地区評議会計画委員会の承

認が得られる見通しになった。

本プロジェクトの申請にあたっては、建設に反対する環境団体などが、装置の新

設は、化石燃料の使用を増やすだけで、大気汚染物質の放出量の増加、生態系への

悪影響、温室効果ガス(GHG)の増加を招くとして、計画に反対する旨の意見書を提出

していた。

環境団体などによる反対の背景には、世界的な環境意識の高まりがあり、燃料生

産に向けた投資の意義が問われていることがある。英国やフランスなど欧州の多く

の国は、大気汚染の改善を目的に、ガソリン車とディーゼル車の新規販売を 2040年

から禁止すると発表している。

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大都市レベルでも、2017年 10月 23日に世界の主要 12都市の市長が会合し、都市

区域内における交通分野で、化石燃料消費削減を目指す共同宣言「C40化石燃料フリ

ー道路宣言(C40 Fossil-Fuel-Free Streets Declaration)」を採択している。この

宣言に署名したロンドン市政府は、電気バスへの切り替え、ガソリン・ディーゼル

車の乗り入れ禁止を計画している。

これに対して、ExxonMobil の申請書には、輸送分野における化石燃料の使用は、

今後、少なくとも 20年間は、英国経済の重要な部分を占めることになる、と主張し

ていた。

Fawley製油所の拡張プロジェクトに関しては、New Forest地区評議会の計画委員

会が作成した報告書に、製油所の拡張が大きな利益をもたらすこと、大気質への影

響は限定的であり、騒音と振動に関しても許容範囲内であることが示され、環境へ

の重大な悪影響はないと判断できるとして、ExxonMobilの申請に許可を与えている。

製油所拡張計画の内容は、本報の 2019年 5月号(欧州編)第 2項で報告している通

り、超低硫黄ディーゼル(ULSD)の製造能力を拡張することにあり、水素製造装置、

ディーゼル製造能力を拡張するための水素化脱硫装置および製品貯蔵設備を建設す

る予定である。このプロジェクトの遂行により、USLD の生産能力は約 45%(約 3.8

万 BPD)拡張することなる。

なお、Fawley製油所のウェブサイト情報によると、建設着工は 2019年後半で、2021

年に稼働開始の予定であるが、同社の広報担当者は、プロジェクト関連の業者は、

まだ決定されていないと語っている。

因みに、Fawley 製油所は、英国最大の精製能力を持つ製油所で、精製能力は英国

の総精製能力の約 20%を占めている。製品は、パイプラインで Birminghamに輸送さ

れ、英国全土に配送されるほか、Heathrowや Gatwick国際空港へも輸送されている。

<参考資料>

https://www.bbc.com/news/uk-england-hampshire-49661098

https://www.advertiserandtimes.co.uk/fawley-oil-refinery-diesel-plan

https://www.constructionnews.co.uk/international/uks-largest-oil-refinery-set-800m-exp

ansion-17-09-2019/

https://www.dailyecho.co.uk/news/17897356.exxonmobil-given-consent-build-new-diesel-pl

ant-refinery/

(2)英国の Essar Oil UKを取り巻くトピックス

Essar Oil UKの S. Thangapandian CEOは、英国の Stanlow製油所(20万 BPD)で処

理する原油の内、米国産原油の処理量を、2020年 3月までに現状の 35%から 40%に

引き上げる予定であることを明らかにした。

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同氏によると、米国産原油が、Brent原油より安価である限り、Stanlow製油所に

とってはメリットのある原油であるとしている。

加えて同氏は、2019年 9月 9日から 12日まで Singaporeで開催されたアジア太平

洋石油会議(35th Annual Asia Pacific Petroleum Conference:APPEC 2019)に参加

した際に、Reutersに語ったところによると、自社の資産活用の観点から、子会社で

インフラ事業を展開している Stanlow Oil Terminal Ltdの過半数の株式を売却する

ために、関係者と協議中であることを明らかにしている。

また、同氏は Stanlow製油所の現在の粗精製マージンは、9.5〜10USD/バレルであ

ること、Essar Oil UKが傘下に置く小売店は、現在は 72ヶ所に過ぎないが、今後 5

年間で 500 ヶ所に増やす計画で、市場シェアも現在の 16%から大幅に拡大したいと

抱負を述べている。

<参考資料>

https://www.reuters.com/article/us-asia-oil-appec-essar/essar-oil-uk-aims-to-lift-shar

e-of-us-oil-refining-to-40-eyes-asset-stake-sale-idUSKCN1VV0H1

https://www.essaroil.co.uk/news/essar-continues-network-expansion-with-

two-new-sites/

(3)英国王立協会の脱炭素化輸送用燃料に関する資料

英国の王立協会(The Royal Society)が、輸送部門における脱炭素化に関し、政策

提言の形式で「Sustainable synthetic carbon based fuels for transport」と題

する報告書(briefing)にまとめている。以下にその内容を紹介する。

輸送部門における脱炭素化は、電気自動車の普及が進むことで、かなり前進する

と考えられる。しかし、大型車両、航空、船舶などの輸送セクターでは、燃料コス

ト、消費量、エネルギー密度の観点から考慮すると、電気化が適切ではない可能性

がある。

長距離輸送車両等の電化に向けた研究は継続されているが、電化の前段階におい

て、代替液体燃料が必要になると考えられる。

2040 年までを想定した場合、大型車両、航空、船舶などのエネルギー需要量は増

加すると予測されている。輸送部門の脱炭素化を図るには、エネルギー密度の高い

化石燃料(ディーゼル、航空ジェット燃料、バンカー燃料)を、低炭素または正味純

ゼロ炭素の合成燃料に置き換えていく必要がある。

王立協会が、取上げている脱炭素化のための燃料の概念は、図 3 に示すプロセス

で製造生産される燃料を念頭に置いたもので、具体的には、持続可能な合成燃料を

製造する 2つの方法を取り上げて検討している。

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① 風力、太陽光、原子力などの電力から得られる電力による水の電気分解によっ

て生成された水素と、何らかの方法で捕捉された二酸化炭素(CO2)を原料に、化学

反応で製造される燃料(Electro fuel:e-fuel)。

② バイオマスや有機廃棄物の化学的処理または熱処理によって製造される合成バ

イオ燃料(Synthetic biofuels)。生物学的プロセスのみを使用して製造した燃料

は、対象範囲外としている(例えば、バイオエタノール)。

図 3. 持続可能な非化石燃料由来の合成燃料製造プロセス概念図

(出典:The Royal Societyの Policy briefing資料)

合成燃料を製造する基本技術は確立されており、既に大規模に使用されている(図

4に示した一酸化炭素(CO)を使用したメタノール合成やFischer-Tropsch合成など)。

しかし、これらのプロセスは、化石炭素源と新しい技術を組み合わせて使用してい

るもので、化石炭素以外の CO2を使用した技術ではない。非化石炭素源由来の CO2を

原料とし、e-fuelを製造できるようにするためには、技術革新が必要になっている。

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図 4.合成燃料の製造プロセス概念図

(出典:The Royal Societyの Policy briefing資料)

合成燃料および e-fuelの利点は、次の通りである。

① ジェット燃料、ディーゼルなど、既存の化石燃料の代替品になり得るドロップイ

ン燃料として製造し、代替使用することが可能。

② 合成燃料は、単位体積密度やエネルギー密度が、既存の燃料と類似している。

③ クリーン燃焼が可能で、微粒子や窒素酸化物など、化石燃料の燃焼で排出される

汚染物質を削減することができる。

④ 配送、輸送、保管などの流通に際して、既存のインフラが利用できる。

一方、合成燃料の欠点と見通しは、次の通りであると考えられる。

① バイオマスを原料とする合成バイオ燃料も、CO2と水素から合成する e-fuel も、

現状では、化石燃料よりも高価である。例えば、ディーゼル同等の e-fuel を製

造するコストは、約 4.50EUR/Lで、ガソリン同等の合成バイオ燃料を生産する場

合は、約 1 EUR/Lになっている。

② e-fuel を合成する各工程の改善・工夫で、将来的には低コスト化は可能であり、

商業化による生産を拡大することで、輸送部門で消費される燃料の非化石燃料化

を図ることが出来る可能性は充分に考えられる。将来コストの推定値は、前提条

件により大きく異なるが、ディーゼル燃料代替の e-fuelの場合、2050年までに

1リットル当り 0.60 EUR/Lから 1.50 EUR/Lの範囲に収まると想定される。

③ 図 5 は、再生可能エネルギーが、電気自動車(Battery Electric Vehicle:BEV)、

燃料電池車(Fuel Cell Vehicle:FCV)で消費される場合、e-fuel がディーゼル自

動車(e-fuel Diesel Engine Vehicle)で、消費される場合のエネルギー損失を比

較している。エネルギーへの変換時の損失が大きい FCV や e-fuel では、全体効

率が著しく低くなっている。

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全体効率の改善には、触媒機能の改良、低コストなグリーン水素の大規模生産、

価格競争力のある低炭素エネルギー源の開発などが鍵となっており、さらなる研

究開発が必要であることが分かる。

図 5. 低炭素輸送用燃料のエネルギー効率比較

(出典:The Royal Societyの Policy briefing資料)

王立協会は、結論を以下のようにまとめている。

① 合成バイオ燃料や e-fuel を開発し、船舶燃料、ジェット燃料、大型自動車など

で使用する事は、中・長期的観点から化石燃料の消費を削減することになる。

② 合成バイオ燃料や e-fuelは、ドロップイン燃料や有害・汚染物質の排出量を大幅

に削減する燃料など、広範囲の燃料を生産することができる。また、燃料製造方

法としては、確立されたプロセスを使用・応用しており、需要にマッチしたスケ

ールアップが可能である。

③ 低コスト e-fuel を大規模に生産するには、水素製造に際し、如何に低コストで

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持続可能な電力が利用出来るかに依存している。風力、潮力、ソーラーなどの再

生可能エネルギーが豊富な国で e-fuelが生産され、輸出される可能性がある。

④ 合成バイオ燃料は、既に大量生産されており、化石燃料と広くブレンドされてい

る。生産の制約条件は、経済性とバイオマスの入手の容易性に掛かっていると言

える。今後、研究を進めることで、収率の改善や、より広範囲な非食品材料の原

料化を図ることが可能になると思われる。

⑤ 現状では、e-fuelも合成バイオ燃料も、従来の化石燃料に比較すると高価である。

製造プロセスが最適化され、消費量が増加するに従い、価格は低下すると思われ

るが、早期普及を図るには政府が介入し、各種政策や規制を施行する必要がある。

⑥ 導入初期段階で、新規燃料を化石燃料とブレンドし、二酸化炭素排出量を削減す

る実績を積み重ねた上で、大規模生産に移行していくものと思われる。

⑦ バイオ燃料や e-fuelが、化石燃料よりも CO2排出量が削減されることを確実なも

のとするには、ライフサイクルアセスメント面で更なる研究・作業が必要とされ

ている。e-fuel生産工程におけるプロセス効率、収率、電解装置の投資コストな

どの改善には、更なる研究開発が必要である。

⑧ 合成バイオ燃料や e-fuel を輸送部門に適用し、脱炭素化を進めるには、例えば

ジェット燃料のように、国際的に受け入れられ、適用されなくてはならない。

⑨ 今後 5〜10年で、炭素効率の改善、再生可能エネルギーを生産する上での利用な

どで、合成燃料が既存の化石燃料製造業者に受入れられる可能性は高い。10年以

上の長期的スパンで考えると、e-fuelが市場に供給される可能性がある。

⑩ e-fuelは、液体状で長期保管できるメリットがあり、輸送用燃料以外にも提供で

きる。

参考までに、現在、e-fuel をデモンストレーション段階で開発している欧州のプ

ロジェクト例を、表 1 に掲載すると共に、これらのプロジェクトの活動内容を紹介

するインターネットサイトを記載しているので、詳細はこれらの各サイトをご覧い

ただきたい。

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表 1. 欧州における e-fuelデモンストレーション設備の例

(出典:The Royal Societyの Policy briefing資料)

No. 設備/企業(機関)名 国 CO2 源 E-fuel 製品 生産能力

1 Carbon Recycling

International(Vulcanol) Iceland

Geothermal plant

flue gas Methanol 4000 tonnes/year

2 FReSME project (2020) Sweden Blast furnace gas Methanol 50 kg/hr

3 MefCO2(final

phase construction) Germany Power plant flue gas Methanol

1 tonne/day

(planned)

4 Soletair Finland Direct Air Capture Petrol, Kerosene

and Diesel 100 kg/hr

5 Sunfire Germany Direct Air Capture E-Crude

(E-diesel)

Demonstration:

3 tonnes in 1500 hrs

6 Sunfire (2022) Norway Direct Air Capture E-Crude

(E-diesel)

8000 tonnes/year

(planned 1st stage)

注)出典情報の URL

1. http://www.carbonrecycling.is/vulcanol

2. http://www.fresme.eu/index.php#PROJECT

3. http://www.mefco2.eu/

4. https://soletair.fi/

5. https://www.sunfire.de/en/company/news/detail/

6. https://www.sunfire.de/en/company/news/detail/first-commercial-plant-for-the-production-of

-blue-crude-planned-in-norway

<参考資料>

https://royalsociety.org/-/media/policy/projects/synthetic-fuels/synthetic-fuels-brief

ing.pdf

(4)Totalの低炭素化技術への取り組み

1) ドイツ Sunfireと提携

ドイツのクリーンテック企業の Sunfire GmbHとフランスの石油メジャーTotal S.A.

は、Total のドイツ子会社 Total Raffinerie Mitteldeutschland GmbH が操業する

Leuna製油所(24万 BPD)で、再生可能エネルギー発電による電力と CO2からメタノー

ルを生産するパイロットプロジェクトに共同で取り組むことになった。なお、Total

のベンチャーキャピタル部門の Total Carbon Neutrality Venturesは、2014年から

Sunfireの少数株主となっている。

合成メタノール製造に要する CO2 は Leuna 製油所の設備から供給し、Total は

Sunfireが開発した 1MWの電解槽を製油所に設置する。

ドイツ東部のドレスデンに本拠を置く Sunfireは、電解槽(Sunfire-HyLink 200シ

ステム)の提供および運転を担当するが、順調に推移した場合は、電解槽をそのまま

商業用に使用する予定だとしている。運転に際しては、製油所の蒸気や廃熱を利用

し、コストを抑えることにしている。

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Totalとしては、一酸化炭素(CO)と再生可能エネルギー由来の水素を使い、メタノ

ールを製造することで、有害物質の排出量を削減する技術や水素製造技術を応用す

ることに期待を寄せている。メタノールプラントは、2020年末までに完成させ、2021

年に生産を開始する計画で、稼働後 3 年間で 500 トンのメタノールを生産する予定

である。

新たな水素製造技術開発が積極的に進められている中で、Sunfireの Nils Aldag

社長は「水の電気分解を応用した技術は、再生可能エネルギーを使って発生させた

電力を、直接利用することが難しい立場に置かれたエネルギー企業にとっては、中

核的な技術になる可能性がある。再生可能なガスや燃料へ転換し、既存のインフラ

を利用することで、輸送部門と化学産業を気候変動に影響しない (climate -

neutral)分野にすることができる。」と、述べている。なお、Sunfireと Totalは、

プロジェクトに必要なコストを開示していない。

ここで再生可能エネルギー開発、低炭素化に向けた活動を積極的に進める Total

の状況を、インターネットメディアの edie newsroom が報じているので、その内容

は、以下のようである。

2) 低炭素化に向けた方針

Totalは、2035年までに、「グリーン」天然ガスの割合が、炭化水素ポートフォリ

オの、少なくとも 60%を占め、2046年までに、ポートフォリオの 5分の 1を再生可

能電力が占めることを目指している。

また、原油・天然ガスの生産時のフレア量を、2010 年をベースとして、2020 年ま

でに 80%削減し、2030年までにフレアリングを廃止する目標を明らかにしている。

3) 低炭素事業に向けた外部投資

Totalは、これまでにリチウムイオン電池、微生物燃料電池(Microbial Fuel Cells)、

砂糖エネルギー回収分野の事業を含むコア市場で、20 件のプロジェクトの環境保全

技術に約 1億 6,000万 USDを投資している。

再生可能エネルギーに関しては、世界最大規模のアブダビの Shams1太陽熱発電プ

ラントや米国太陽電池大手の SunPower への資本参加、ベルギーの会社 EREN

Renewable Energyとの JV設立など、クリーンエネルギー分野で幾つかの企業とパー

トナーシップを構築している。Totalは、エネルギー貯蔵事業分野にも多額の投資を

行っており、特にリチウムイオン電池への年間研究開発投資は、同社の総研究開発

費の 10%に上っている。

Totalは、M&A活動に関しても非常に積極的で、2011年には太陽光発電会社

SunPowerの 64.65%の株式を 13億 8,000万 USDで取得、2016年には、11億 EURで

フランスの電池メーカーSaft Groupeを買収している。

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さらに 2017年、Totalは Engie S.A.から液化天然ガス資産を 15億 USDで買収し、

Maersk Oil を 74 億 5,000 万 USD で買収している。2018 年 4 月には、フランスの 3

番目に大きい電力およびガスのサプライヤである Direct Energie S.A. の株式資本

の 74.33%を約 14 億 EURで取得し、ベルギーでも住宅用ガスおよび電力市場へ進出

している。

<参考資料>

https://www.sunfire.de/en/company/news/detail/sunfire-partners-with-total-on-highly-ef

ficient-hydrogen-technology

https://www.reuters.com/article/total-sunfire-hydrogen/germanys-sunfire-partners-with-

total-to-produce-hydrogen-fuels-at-refineries-idUSL5N26N4BY

http://www.bsic.it/wp-content/uploads/2018/04/Total_Direct_vFinal.pdf

https://www.edie.net/news/8/Total-signs-cleantech-deal-to-produce-hydrogen-at-refineri

es/

(3) ロシア・NIS編

(1)カザフスタン KMG Internationalが、バルカン半島で燃料販売拡大を計画

カザフスタン国営石油・天然ガス会社 KazMunayGas(KMG)の海外子会社の KMG

International N.V.は、バルカン半島でのガソリン販売ネットワークを拡大する計

画である。

KMG の国際プロジェクト担当ディレクターの Azamat Zhangulov 氏が、ルーマニア

で行った記者会見で語ったところでは、「KMG International は、ルーマニアの燃料

販売市場シェアを、現在の 16%から 25%にする予定で、ブルガリア市場では 3%か

ら 15%に、また、モルドバ市場では 23%から 25%に拡大する計画である。」と述べ

ている。

KMG Internationalがルーマニアに保有する Petromidia製油所は、本報の 2013年

9 月号(欧州編)第 3 項に記した通り、2009~2012 年に掛けて行われた包括的な近代

化工事で、原油処理能力は 7.6万 BPDから 10万 BPDに増強されている。KMGの東欧

市場進出は、以前から計画されていた路線であり、実現に向けた動きが始まったこ

とになる。

産油国のカザフスタンの石油生産量は、2018年時点で9,030万トン/年であったが、

2020年には 9,000万トン/年になる予定である。しかし、2024年には 1億トン/年に

増産する計画である。KMG によると、カザフスタン原油の内、約 6,500 万トン/年が

CPC 原油パイプラインシステム(Caspian Pipeline Consortium)とタンカーで黒海地

域に輸出されている。

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なお、KMG Internationalは、今回のバルカン半島での燃料販売事業の拡大以外に

も、発電所の建設計画についても発表している。この発電所は、製油所に電力を供

給すると共に、製油所が所在する工業都市の Navodariにも電力を供給する予定であ

る。

<参考資料>

https://www.neweurope.eu/article/kmg-international-will-expand-its-network-of-petrol-s

tations-in-the-balkans/

https://www.petrolplaza.com/news/22948

(2)ロシア Rosneftが、ロシア極東で IMO2020バンカー燃料の供給を開始

ロシア国営石油会社の Rosneft は、子会社の RN Bunker LLC を通じて、ロシア極

東市場で IMO2020 グレード(硫黄分 0.50%以下)のバンカー油の供給を開始した。製

品名は RMLS 40で、標準粘度は 9〜40 cSt、比重は 0. 991@15℃になっている。

RMLS 40 は、ハバロフスク地方にある Rosneft 傘下の Komsomolsk 製油所(16.5 万

BPD)で生産され、初出荷分の 200 トンが、既にナホトカ港で、ばら積み貨物船に給

油された。さらに、ロシア極東の沿海地方南部の日本海に面した軍港 Bolshoy Kamen

にある大規模造船所 Zvezdaで運航する船舶でも使用されている。

世界の主要バンカー市場でも、IMO2020グレードの製品が供給されていないところ

もある中で、ロシアの極東市場では、2019年 5月頃から、船舶用 LSFOの供給をする

動きが出始めている。

ロシアのトレーダーImtradeが、他社に先駆けて供給する IMO 2020準拠の LSFOの

価格は、納入ベースで約 550USD/トンで、HSFOより約 150USD/トン高額であると伝え

られている。Vladivostok、Nakhodka、Vost及び Kozmino港で供給可能になっている。

燃料油の仕様は、ISO 8217:2010 に適合しており、硫黄含有量は 0.485%、粘度は

30-40 cSt、密度は 0.9669 kg/L になっている。触媒微粒子が 10 mg/kg 未満ではあ

るが含まれると言われている。

Imtrade が発表している情報によると、LSFO 製品の供給能力は、当初は 4,000〜

5,000トン/月であるが、その後、8,000〜12,000トン/月に増強する予定である。

<参考資料>

https://www.rosneft.com/press/news/item/197267/

https://shipandbunker.com/news/emea/204072-rosneft-starts-russia-far-east-vlsfo-supply

https://www.marinelink.com/news/rosneft-starts-far-east-lsfo-bunkering-471155

https://www.wfscorp.com/sites/default/files/ISO-8217-2010-Tables-1-amp-2-1.pdf

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4. 中 東

(1) イランの石油化学事業の現状

米国が主導する経済制裁の対象になっているイランから、石油化学事業を拡大す

る方針が発表されている。イランには、2016年に解除された前回の制裁期間に、国

内の製油所、石油化学プラントの増強を進めてきた実績がある(2018年8月号中等編

第1項、2016年 9月号中等編第 2項参照)。積極的な設備投資の結果、燃料の供給能

力が拡大し、Euro-4/5基準のガソリン生産能力も増強されている。その結果、燃料

製品の自給率が上昇するとともに、石油化学製品では輸出が増えている(2019年 1月

号第 2項参照)。

イランの首都テヘランで、2019年 9月 22日~25日に石化関連の会議 13th Iran

Plast internationalが開催されたが、その前後に公表された、イラン石油省の公式

報道機関 Shanaによる石油化学関連の報道を追ってみる。

1) 石油化学原料の供給

13th Iran Plast internationalの最終日に、国営石油化学会社 National

Petrochemical Company(NPC)の Behzad Mohammadi CEOが Shanaに伝えた内容が公表

されている。

Mohammadi CEOによると、現在、イランで操業中の石油化学プラントに原油換算で

65万 BOED(3,300万トン/年)の原料が供給されている。供給量は今後も急増が続き、

2021年までに 140万 BOED(7,100万トン/年)に、2025年までに 170万 BPD(8,600万

トン/年)に増える見通しである。

なお、現在、石油化学プラントでは、販売向けの石油化学基材が 3,100万トン/年

生産され、その 70%に相当する 2,250万トン/年が輸出されていることも併せて公表

された。

イランの石油化学原料の増加の原動力は、South Pars天然ガス田の開発が進み、

天然ガス随伴の、エタンなどの NGL、コンデンセート類が増産していることにあるが、

その状況は本報の記事を参照されたい(2019年 1月号第 1項)。

<参考資料>

https://en.shana.ir/news/293630/Iran-Petchem-Feedstock-to-Reach-1-7-mbd-by-2025

2) 設備能力の増強計画

NPCの Mohammadi CEOは、イランの石油化学品の生産能力は、現在 6,600万トン/

年で、2021年までに 1億トン/年に拡大すると明らかにした。2021年までに Kaveh

Methanol Plant、Ilam Olefin Plant, Bushehr Methanol Project 、PVR Takht Jamshid

など、27件の石油化学プロジェクトが稼働する計画で、石油化学プラント数は、現

在の 56基と併せて、83基に増える。

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さらに、400億 USDを投資し、2025年までに石油化学の生産能力を 1億 3,300万

トン/年に引き上げることを計画している。

なお、NPCの Behzad Mohammadi CEOは、イランはこれまでに石油化学事業に 530

億 USDを投資してきたと述べ、さらに、2025年までに 930億 USDに達するとの見通

しを明らかにした。

<参考資料>

https://en.shana.ir/news/293206/Iran-Petchem-Output-to-Cross-133-mt-y-by-2025

https://en.shana.ir/news/293427/Iran-Petchem-Investment-to-Cross-93-bln-by-2025

3) 事業収益

イランの Bijan Zangeneh石油相が、石油化学事業の業績について発表した内容を

政府の報道機関 ICANA News Agencyからの情報として、Shanaが報道している。

Zangeneh石油相は、イラン石油化学産業は、2010年代のが第 1期興隆期、2021年

には、第 2期を迎えるとした上で、それ以降 2025年までに第 3期が待ち構えている

との見方を明らかにした。

石油化学産業の成長の様子を収益額でみると、第1期に150~160億USDを達成し、

第 2期には、250億 USDに達する見込みである。さらに、2026年には生産能力は、

1.3億トン/年に増強され、収益は、370億 USD/年にまで拡大すると強気の予測を表

明している。

<参考資料>

https://en.shana.ir/news/293762/Iran-Petchem-Revenues-to-Reach-37b-by-2026

(2) クウェートの製油所近代化プロジェクトの近況

クウェートは、アップストリーム部門で、2020年までに原油生産能力を 400万 BPD

に引き上げる方針を掲げている。また、ダウンストリーム部門では、国内で製油所

の新増設プロジェクトを推進するとともに、ベトナムの Nghi Son製油所やオマーン

の新設 Duqm製油所に出資するなど、精製能力の拡張に力を入れている。

国内では、新設 Al Zour製油所の建設(New Refinery Project:NRP)を手掛ける一

方で、既設の 3製油所のうち、Al-Ahmadi製油所と Mina Abdullah製油所の近代化プ

ロジェクト(Clean Fuels Project:CFP)が進行している(2018年 3月号中東編第 1項

参照)。Shuaiba製油所は閉鎖する。なお、CFPは、国営 KPCの精製事業子会社 KNPC

が手掛けているが、NRPは、Kuwait Integrated Petroleum Industries Company(KIPIC)

が推進している(2018年 5月号中東編第 2項)。

Al Zour製油所プロジェクトの進捗状況は、本報の 2019年 5月号で紹介したが、9

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月の初めに KNPCが、CFPの状況を公表している。

Mina Abdullah製油所で、CFPの新設設備として初めて稼働した設備として、ディ

ーゼル製造装置(Diesel Production Unit:U-216)が運転を開始した。

U-216のディーゼル生産能力は、7.3万 BPDで、最新の設備仕様で建設された。反

応塔は、容量 1,012m3で、Mina Abdullah製油所で最大級の装置となっている。同製

油所は、これまでEuro-4基準(硫黄分:100ppm以下)のディーゼルを生産していたが、

U-216の稼働で、Euro-5基準(硫黄分:10ppm以下)の製品が生産可能になった。なお、

現在建設中の U-116が完成すると、ディーゼルの総生産能力は、14.6万 BPDに引き

上げられる予定である。

<参考資料>

https://www.knpc.com/en/media/news/2019/knpc-launches-first-production-unit-at-cfp

https://www.knpc.com/en/strategic-projects/clean-fuel-project-cfp

5. アフリカ

(1) モロッコの石油・天然ガス事情

・石油類

米国エネルギー情報局(EIA)が、モロッコのエネルギー事情のレビュー(Country

Analysis)を更新している。産油国やエネルギーを大量に消費する国のレビューとは

異なるショートレポート(Overview)ではあるが、同国の状況を紹介する機会は少な

いので、ここに紹介する。

表 2に示すように、モロッコの石油、天然ガス生産量は僅かで、Samir製油所が資

金難で 2015年に、稼働を停止していることから、炭化水素の需要の殆ど全てを輸入

に頼っている。2018年の石油類の消費量は、28.6万 BPD。

表 2. モロッコ原油、石油製品の生産量

(EIAのデータベースから引用)

単位: BPD

1990 1995 2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018原油類 300 300 300 140 200 200 140 160 160 160 160 160 160石油製品 116,000 125,000 138,597 144,083 135,283 152,071 157,253 149,367 139,448 66,226 - - -ガソリン 9,200 8,500 8,926 8,694 7,665 9,698 9,486 8,623 7,735 4,347 - - -ジェット燃料 5,400 5,200 6,110 5,736 8,908 12,014 19,002 23,030 19,684 8,951 - - -灯油 1,000 1,000 2,070 42 - - - - - - - - -軽油 37,000 41,000 47,355 46,934 46,135 49,143 50,599 45,811 46,524 23,292 - - -重油 39,000 44,000 44,794 50,711 36,495 51,962 45,504 41,765 31,986 10,931 - - -LPG 7,600 7,600 7,761 6,677 1,104 1,540 3,888 3,252 3,334 1,011 - - -その他 18,000 17,000 21,580 25,289 34,976 27,714 28,774 26,887 30,185 17,695 - - -

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単位: BPD

図 6. モロッコ原油、石油製品の生産量

モロッコは、エネルギー保障を強化する目的で、石油製品の貯蔵、輸送能力の強

化を進めている。2012年には、Horizon Tangierターミナル(貯蔵能力 335万バレル)

が完成し、現在、大西洋岸の港湾都市 Jorf Lasfarに、石油ターミナルを建設して

いる。

・天然ガス

2018年の天然ガスの生産量は、31億 cf。一方、消費量は 440億 cfで、多くを輸

入している。モロッコの隣国は、天然ガス輸出国アルジェリアで、天然ガスを輸送

するパイプライン Maghreb-Europe Pipeline (別名 Pedro Duran Farell)が、モロッ

コ国内に敷設されている。モロッコは、パイプラインの使用料金の代わりに、天然

ガスをアルジェリアから輸入している。2021年には、モロッコ領内のパイプライン

の所有権は、モロッコに移転する予定である。また、2017年に、ナイジェリアとの

間で、Nigeria-Morocco天然ガスパイプラインプロジェクトにも合意している。

モロッコには、シェールガスが埋蔵していると推定されていることから、近年、

天然ガス資源の探査に関心が集まっている。2018年に石油鉱山局(National Bureau

of Petroleum and Mines:ONHYM)は、アルジェリアとの国境に近い Tendrara天然ガ

ス田の開発権を、英国の Sound Energyに与えている。同社は、Schlumbergerと共同

で、2021年に天然ガスを生産することを目指している。

パイプラインとは別に、Jorf Lasfarに LNGの輸入ターミナルを建設する計画があ

る。モロッコは、LNGプラント(2,478億 cf/年)と天然ガスコンバインド発電プラン

ト(2.4GW)のプロジェクトの入札を 2019年末までに予定している。プロジェクトの

総額は、45億 USDで、2025年までに稼働させることを計画している。なお、政府は、

浮体式 LNG再ガス化プラント(FRSU)のリースによる低コストな代替策も検討してい

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

160,000

180,000

1990 1995 2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

原油類 石油製品 ガソリン ジェット燃料 灯油 軽油 重油 LPG その他

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る。

<参考資料>

https://www.eia.gov/beta/international/analysis.php?iso=MAR

(2) ナイジェリア Nigeria LNGの増強プロジェクトが前進

9月の中旬に、LNG輸出の先進国ナイジェリアの Nigeria LNG Limitedは、Saipem

が主導する SCD JV コンソーシアム(Saipem、Daewoo E&C Co. Ltd、Chiyoda

Corporation:SCD JV)とトレイン 7の設計・調達・建設業務(EPC)の契約締結に向けて

合意し、文書(letter of intent)に調印した(2018年 9月号アフリカ編第 1項参照)。

今後、Nigeria LNG Limitedの役員会と出資会社の承認、ナイジェリア政府による

認可、Nigeria LNGによる最終投資判断(FID)、契約内容の審査を経て、EPC契約調

印に至ることになる。

現在の Nigeria LNGの設備の概要は、表 3に示すが、トレイン 7の LNG生産能力

は、800万トン/年で、総生産能力は 3,000万トン/年に引上げられる。

表 3. Nigeria LNGの現状

生産能力

天然ガス処理能力 35億 scf/日

LNG生産能力 6トレイン、2,200万トン/年

コンデンセート+LPG 500万トン/年

設備

LPG、コンデンセート処理、分留設備

天然ガス供給パイプライン(専用) 6本(陸上 4本)

LNG貯蔵タンク 4基(各 84,200m3)

コンデンセート貯蔵タンク 3基(各 36,000m3)

LPG貯蔵タンク 4基(各 65,000m3)

発電プラント 10基、計 320W

輸出桟橋 2本、充填能力 400件/年

LNGタンカー用船数 22船

付帯設備 資材桟橋、一般桟橋・ターミナル、居住施設

Nigeria LNGは、トレイン 7の基本設計業務(FEED)を、SCD JVコンソーシアムに、

2018年に発注していた。今回、SCD JVが引き続き、EPC契約先に選ばれたことにな

る。

トレイン 7については、2019年 3月に、Nigeria LNG Limited (NLNG)と政府機関

(Nigerian Content Development Monitoring Board:NCDMB)と、プロジェクトへのナ

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イジェリア企業の参加を促進させることで合意していた。

合意を伝えるプレスリリースによると、Nigeria LNGは、過去 20年間で、1,000

億 USDの収益を上げ、ナイジェリア政府に 160億 USDの配当をもたらしてきた。さ

らに、天然ガスの代金として 130億 USDを支払い、また、65億 USDを納税した実績

がある。トレイン 7の増設で、NLNGのナイジェリアの経済への貢献度が、更に増大

することが期待されている。

因みに、NLNG の権益配分は、 ナイジェリア国営 NNPC 49%、 Shell Gas B.V.

25.6%、Total Gaz Electricite Holdings France 15%、 Eni International N.A.

N.V.S.àr.l 10.4%となっている。

<参考資料>

https://www.saipem.com/en/media/press-releases/2019-09-12/saipem-spa-joint-venture-dae

woo-ec-co-ltd-and-chiyoda-corporation?referral=%2Fen&modalId=p650

http://nlng.com/Our-Company/Pages/The-Plants.aspx

http://nlng.com/Media-Center/Lists/Press%20Releases/DispForm.aspx?ID=37&RootFolder=%2F

Media%2DCenter%2FLists%2FPress%20Releases&Source=http%3A%2F%2Fnlng%2Ecom%2FMedia%2DCen

ter%2FPages%2FPress%2DRelease%2Easpx

6.中南米

(1) メキシコ Pemexの製油所の稼働率が改善

ラテンアメリカで三番目の産油国のメキシコでは、財政難の影響で投資不足が続

き、原油の生産量の減少と製油所の稼働率の減少に見舞われている。こうした中で、

昨年就任したAndrés Manuel López Obrador(AMLO)大統領は、メキシコの石油事業の

回復を図る方針で、特に、精製事業の立て直し、強化に力を入れている。本報でも、

タバスコ州の新設 Dos Bocas製油所プロジェクトや既設製油所の改修計画を紹介し

てきた(2019年 1月号中南米編第 2項、6月号編第 2項参照)。

直近の国営 Pemexの業績を見ると、原油の減産に歯止めが掛かり始めた兆候や、

燃料を増産している様子を窺うことができる(2019年 8月号第 1項参照)。

メキシコエネルギー省(Secretaría de Energía:SENEA)は、9月下旬のプレスリリ

ースで、メキシコの石油精製事業の現状を公表している。

メキシコの製油所システム原油処理量は、2018年 12月時点で、50.7万 BPDで、

総精製能力 154万 BPDに対して、稼働率は 32%にとどまっていた。それに対して、

2019年 9月 20日の週の、原油処理量は、81.4万 BPDで、稼働率は 52%を記録した。

このように、メキシコの石油精製事業は、大幅な業績改善を達成しているが、Rocío

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Nahle Garcíaエネルギー相は、さらなる改善を目指す方針を明らかにしている。そ

れによると、Pemexは、既設 6製油所の設備の改修、更新に 125億 MXN(6.4億 USD)

を投資する。

製油所の保守改修プロジェクトは、製油所毎に個別に管理せず、メキシコの製油

所システム全体を見ながら実行する方針で、Pemexの技術者や従業員で、作業を進め

ると述べた。

Pemexは、2019年 12月までに、精製量を 90万 BPD(58%)まで引き上げ、2020年に

第 2段階の改修プロセスに移行する計画である。

<参考資料>

https://www.gob.mx/sener/articulos/la-capacidad-de-produccion-del-sistema-nacional-de-

refinacion-paso-del-32-al-52

https://www.gob.mx/sener/articulos/en-9-meses-logramos-aumentar-200-mil-barriles-por-d

ia-de-carga-la-produccion-en-las-refinerias-rocio-nahle-221507

(2) メキシコが発電能力の拡大を計画、再生可能エネルギー比率拡大を計画

メキシコのRocío Nahleエネルギー相は、Energy Meet Pointフォーラムで、国家

電力システム開発プログラム(PRODESEN)によるグリーンエネルギー目標を発表して

いる。

エネルギー相は、発電能力を現在の 75GWから、2024年までに 105GWに引き上げる

ことを目標に置いていることを明らかにした。さらに、グリーンエネルギー発電の

比率を、Energy Transition Lawに基づいて、2024年までに 35%とすることも表明

した。

現在、連邦電力委員会(Comisión Federal de Electricidad)を中心に、発電と送

電の最適化の検討が行われおり、順調に進めば、第 4次電力入札が実施される見通

しである。

エネルギー相は、メキシコ唯一の原子力発電プラントの発電量が、4.3%を占めて

いることを示し、クリーンエネルギー源として、原発を検討する必要があるとの見

方を示した。

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表 4. メキシコの発電エネルギー源(2018年)

(SENEA PRODESEN 2019-2033,Chapter 5より)

発電手段 発電量(GWh) シェア(%)

化石燃料

コンバインド天然ガス火力発電 16,1973 51.0

従来型天然ガス火力発電 41,730 13.2

石炭火力発電 29,345 9.2

ターボガス 8,565 2.7

内燃機関発電 2,127 0.7

その他

水力 32,436 10.2

地熱 5,375 1.7

風力 12,434 3.9

ソーラー(PV) 2,175 0.7

バイオエネルギー 599 0.2

原子力 13,555 4.3

<参考資料>

https://www.gob.mx/sener/articulos/las-energias-verdes-juegan-un-papel-fundamental-en-

mexico-y-vamos-a-alcanzar-el-35-de-generacion-rocio-nahle-221505

https://www.gob.mx/cms/uploads/attachment/file/475497/PRODESEN_V.pdf

(3) ガイアナ沖の石油開発の状況

2019年の在来型石油・天然ガス資源の探査活動では、中南米の海底石油・天然ガス

田が注目されている。なかでも、ガイアナでは、海底探査が進み、産油国への仲間

入りが期待されている。そのガイアナの石油・天然ガス探査の情報が、ExxonMobilと

Tullow Oilから 9月に発表されているので紹介する。

・ ExxonMobil

ExxonMobilは、9月中旬に Stabroek Block鉱区で、原油の埋蔵を発見したと発表

した。同社は、同鉱区の Turbot区域で Tripletail-1井を試掘した結果、層厚 33m

の炭化水素埋蔵層を確認した。

Tripletail-1は、既に埋蔵が確認されていた Stabroek Block鉱区の Longtail井

の北東 5kmの水深 2,003mに位置している。既に、原油換算で 60億バレルの資源量

が確認済で、今回の発見で、埋蔵量はさらに増加することになる。

ExxonMobilは、現在掘削船 Stena Carron で Ranger-2 井の試掘を行っているが、

完了後は、Yellowtail-1に移動する計画である。また、Noble Bob Douglas が、Liza

Phase 1開発プロジェクトで操業している。Tripletail-1井を試掘した Noble Tom

Maddenで Uaru-1井を掘削する予定である。さらに 4船目の、Noble Don Taylorを

2019年 10月から投入する。

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なお、ExxonMobilは、2015年以降、14井で原油の埋蔵を発見しているが、フェー

ズ 1の開発を 2020年の上半期に予定している。フェーズ 1では、原油 12万 BPDの

生産を計画している。2019年 8月 29日には、Liza Phase 1に向けて、浮体式生産

貯蔵積出設備(FPSO)Liza Destinyが現場に到着した。

さらに、2019年 5月には、ガイアナ政府から Liza Phase 2の開発認可を取得済で、

2022年半ばまでに稼働を目指している。Liza Phase 2には、Liza Unity FPSOを就

役させ、原油 22万 BPDの生産を目指している。

2019年に入ってからの ExxonMobilのガイアナの探査、開発に関するプレスリリー

スを表 5示す。

表 5. 2019年の ExxonMobilのガイアナの探査、開発の動き

2019. 1. 7 Haimara-1探査井の掘削を開始

2019. 2. 6 Tilapia-1井、Haimara-1井で埋蔵発見(11、12件目)

2019. 4.18 Yellowtail-1井で埋蔵発見(13件目)

2019. 5. 3 Liza Phase 2開発プロジェクトが政府から認可、投資資金を準備

2019. 9.16 Tripletail-1井で埋蔵を発見(14件目)

<参考資料>

https://corporate.exxonmobil.com/News/Newsroom/News-releases/2019/0916_ExxonMobil-anno

unces-oil-discovery-offshore-Guyana-at-Tripletail

https://corporate.exxonmobil.com/Locations/Guyana

・ Tullow Oil

Tullow Oil plcは、Guyana海盆の Orinduik鉱区*で、Stena Forth掘削船が Joe-1

井を掘削した。同井の水深は、780mで総掘削距離は、2,175mに到達した。

その結果、層厚 14mの炭化水素埋蔵層が確認された。これを受けて、Tullowと開

発パートナーは、8月に発見された Jethro-1井のデータと、今後明らかになる Carapa

井の探査結果を合わせて、今後の開発計画策定にとり掛かる予定である。

* Orinduik鉱区の権益配分: Tullow Guyana B.V.(オペレーター) 60%、Total E&P

Guyana B.V. 25%、Eco (Atlantic) Guyana Inc. 15%。

引き続き Tullow Oilは、2019年第 4四半期に、Rowan EXL IIリグで Kanukuライ

センスの Carapa-1の掘削を計画している。

<参考資料>

https://www.tullowoil.com/media/press-releases/joe-1-oil-discovery

Page 33: JPEC 世界製油所関連最新情報...力以外の再生可能エネルギー発電量とシェアは、2019年は4,140億kWh、10%で、 2020年には、4,710億kWh、12%に増える。

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https://www.tullowoil.com/Media/docs/default-source/operations/tullow-group-licence-li

st-july-2019-final.pdf?sfvrsn=71

(4) Wintershal DEAによるアルゼンチン Vaca Muertaシェール層の開発が前進

アルゼンチンは、米国に比べて生産量は、はるかに少ないが、世界第 2位のシェ

ールオイル生産国で、その多くは Vaca Muerta層に埋蔵している。最近は、シェー

ルガスの開発も進み、天然ガスの輸出を拡大する計画も発表されている(2019年 8月

号中南米編第 2稿、2017年 8月号第 4稿参照)。

アルゼンチンのシェールオイル・ガスの開発は、国営 YPFが主導しているが、外国

企業も開発に参入している。その中の 1社、ドイツの Wintershall Deaが、9月 23

~26日に、ブエノスアイレスで開催された“Argentina Oil and Gas Expo”で、Vaca

Muerta層の開発の進展状況を公表している。

Wintershall Deaは、2019年 7月に、ConocoPhillipsと、ネウケン州の Aguada

Federalと Bandurria Norte鉱区の Vaca Muertaシェール層で、非在来型石油を共

同で開発することに合意していた。

両社は、2020年に半ばに、開発に着手する予定で、第1期に、20~30井の掘削を

予定している。

Wintershall Dea Argentinaの Manfred Boeckmannは、先行試掘試験で有望な結果

を得ていることを明らかにしている。

<参考資料>

https://wintershalldea.com/en/newsroom/starting-gate-development-vaca-muerta

7. 東南アジア

(1) インドのデリー首都圏全域で BS-VI燃料の供給体制が確立

インドでは、ガソリン・ディーゼルの環境基準を、BS-V (Euro-5相当)をスキップ

して、BS VI(Euro-6相当)基準を、2020年 4月 1日(2020-2021年度の初め)に施行す

る計画で、国営精製会社 Indian Oil Corporation(IOC)をはじめ、精製会社が製油所

や物流施設の改造を進めている(2016年 4月号東南アジア編第 1項、2018年 9月号

第 3項等を参照)。インドでは、民営会社の Reliance Industries Ltd.(RIL)や Nayara

Energy(旧 Essar)が、輸出対応で、クリーン燃料生産設備を早くから整備していたが、

国営石油会社は、BS-IVに続いて BS-VI対応の設備対応に追われている。

BS-VI基準の施行を半年後に控えた 2019年 9月末に、インドの国営石油精製・販売

会社 IOC、Bharat Petroleum Corporation Limited(BPCL)、Hindustan Petroleum

Corporation Ltd(HPCL)は、デリー首都圏(National Capital Region)の全域で、BS VI

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の供給体制が整ったことを発表している。

3社は、10月 1日から、ハリヤーナー州のファリーダーバード県(Faridabad)、グ

ルグラム県(Gurugram)、マヘーンドラガル県(Mahendraghar)、レーワーリー県

(Rewari)、 ジャッジャル県(Jhajjar)、パルワル県(Palwal)、メワット県(Mewat)の

7県へ、BS-VI規格のガソリン・ディーゼルの供給を開始する。

IOC、BPC、HPCは、7県の系列給油所の 2,200ヶ所に燃料を供給する 13の油槽所

のガソリン・ディーゼルを、BS-IVから BS-VIに切り替えた。7県のガソリン・ディー

ゼル供給量は、平均して、65万トン/月と明らかにされている。

<参考資料>

https://www.iocl.com/AboutUs/NewsDetail.aspx?NewsID=54538&tID=8

(2) インド IOCのバイオメタンプロジェクト

9月中旬に、インド国営精製会社 Indian Oil Corporation(IOC)が、バイオメタン

プラントの開所式を挙行した。

IOCは、代替燃料への取り組みで、バイオガス事業の拡大を重点項目に挙げている

が、その具体的な取り組みとして、バイオメタンプラントの完成が、9月中旬に報じ

られている(2019年 9月号東南アジア編第 2項参照)。

ハリヤーナー州ファリーダーバード県のプラントの開所式が、Shri Dharmendra

Pradhan石油相などが列席して、10月半ばに執り行われた。プラントのバイオメタ

ン生産能力は、5トン/日で、IOCが開発した微生物とプラントを採用している。

廃棄物を原料に用いるバイオメタネーション(Biomethanation)プロセスの開発は、

IOC傘下の研究機関 IndianOil R&D Centreが担当した。R&D Centreは、多様な有機

廃棄物を処理可能な二段式嫌気発酵プロセスを開発した。

バイオガス分は、メタンと一酸化炭素が主成分で、輸送用燃料向けに「圧縮バイ

オガス(Compressed Bio-Gas:CBG)で供給する他に、火力発電燃料、調理用燃料向け

に供給することになる。

また、バイオメタンプラントからは、副生物として有機肥料が生産され土壌改良

で使用される。バイオメタンプラントは、原料の廃棄物を提供する農家に収益をも

たらすとともに、副次効果として病原体の抑制、悪臭防止に役立つことが期待され

ている。

<参考資料>

https://www.iocl.com/AboutUs/NewsDetail.aspx?NewsID=54509&tID=8

Page 35: JPEC 世界製油所関連最新情報...力以外の再生可能エネルギー発電量とシェアは、2019年は4,140億kWh、10%で、 2020年には、4,710億kWh、12%に増える。

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(3) 南アジア、東南アジア諸国の LNG関連情報

2019年 9月にアジア諸国に関連する LNGのニュースが、相次いで報道されている

ので、以下にまとめて紹介する。

1) Excelerate Energyがフィリピンの Luzon LNGターミナルに FSRU

フィリピンの石油省は、9月の下旬に、天然ガス規則(Rules and Regulation

Governing the Philippine Natural Gas Industry)に基づいて、 Luzon LNGターミ

ナルの建設に着手することを Excelerate Energy L.P.に指示した。

フィリピンでは、発電プラント向けに天然ガスを供給している Malampaya深海天

然ガス田の枯渇が予想されることから、天然ガスの代替供給源として、Luzon LNGプ

ロジェクトが計画された。Luzon LNGは、ルソン島のカラバルソン地方のバタンガス

州バタンガス市の沖合に設置が予定されている。フィリピンの過酷な気象条件を考

慮し、Excelerate Energyは、メキシコ湾、北大西洋、イスラエル、ベンガル湾(前

項参照)の経験を生かして、最新設備技術を盛り込むことになる。

Luzon LNGは、FSRUからルソン島の利用者への供給に必要なインフラまでを全て

含めた、「完成引き渡し(turnkey)」プロジェクトで、Excelerate Energyは、「計画」、

「設計」、「許認可手続き」、「建設」、「資金調達」、「運営」を請け負っている。

<参考資料>

https://excelerateenergy.com/excelerate-receives-notice-to-proceed-from-the-philippine

s-for-floating-lng-terminal/

2) ベトナムの LNG-発電プロジェクト

ベトナム南部のバクリエウ省(Bạc Liêu Province)の LNGプロジェクト関連の情報

が報道されている。

シンガポール Delta Offshore Energy(Delta OE)とオーストラリアの Liquefied

Natural Gas Limited(LNGL)が、バクリエウ省政府と共同で、LNG輸入+発電

(LNG-to-power)プロジェクトを推進することが、9月中旬に発表された。

プロジェクトは、① LNG輸入ターミナル、② 天然ガスコンバインド発電プラント

(3,200MW)、③ バクリエウ省内への送電で構成されている。政府の認可時期にもよ

るが、プロジェクト全系の稼働は、2023年を予定している。

米国ルイジアナ州 LNGLの 100%子会社 Magnolia LNG LLC が、Delta OEとの間で

売買契約(SPA)を締結し、20年契約で LNGを 200万トン/年供給することになる。

Delta OEは、発電プラントに天然ガスを供給し、発電、電力購入契約(PPA)に基づ

いて送電業務を請け負う.

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<参考資料>

https://www.lnglimited.com.au/site/PDF/6306_1/LNGLDeltaOffshoreEnergyAgreeonSupplyDeal

toVietnam

https://www.lnglimited.com.au/site/PDF/6310_1/FurtherInformationonSupplyDealtoVietnam

3) インド Petronet LNGが、米国 Driftwood LNGから LNGを輸入

中国とともに、LNGの輸入量を増やしているインド企業が、大規模な LNGの長期輸

入に合意したことが報じられている。

米国テキサス州の天然ガス会社 Tellurian Inc.は、インドの政府系 LNG会社

Petronet LNG Limited INDIAに対して、LNGを年間 500万トン輸出することに合意

し MOUに調印した。LNGは、計画中の Driftwood LNGから供給されることになる。

Driftwood LNGは、ルイジアナ州 Lake Charlesの Calcasieu Riverの西岸に建設

予定で、LNG生産能力は 2,760万トン/年と大規模な LNG輸出ターミナルとして計画

されている。

プロジェクトは、2019年 1月に最終環境評価報告が発表され、最終決定が予定通

り 2019年内に下されれば、2023年稼働が計画されている。

4) Qatargasがバングラデシュ MLNGに、Q-Flexタンカーで LNGを輸出

カタールの Qatargas Operating Company Limited(Qatargas)は、Q-Flex級 LNGタ

ンカー“Al Thumama(21.6万 m3)”で初めて、バングラデシュの LNG輸入ターミナル

Moheshkhali LNG(MLNG)に Ras Laffan から LNGを輸出した。

MLNGは、米国の FSRU運用会社 Excelerate Energy L.P.とバングラデシュ国営

Bangladesh Oil, Gas and Mineral Corporation (Petrobangla)の JVが、建設、保

有、運用する同国初の LNG輸入ターミナル。設備は、浮体式 LNG貯蔵・再ガス化設備

(FSRU、名称 EXCELLENCE)となっている。Petrobangla は、EXCELLENCEを 15年間チ

ャーターしている。

Qatargasと Petrobanglaは、2017年 9月に、15年間で最大 250万トン/年の LNG

売買契約(SPA)を締結し、2018年 4月に初輸出を行っていた。

<参考資料>

http://www.qatargas.com/english/MediaCenter/Pages/Press%20Releases/Qatargas-delivers-f

irst-Q-Flex-LNG-cargo-to-Petrobangla.aspx

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図 7. 本文中の LNG輸入ターミナルの位置

<参考資料>

https://d1io3yog0oux5.cloudfront.net/_2922cf9e898467a388ef90825691e452/tellurianinc/ne

ws/2019-09-21_Tellurian_and_Petronet_Sign_MOU_for_Up_to_5_219.pdf

http://driftwoodlng.com/

8. 東アジア

(1) Saudi Aramcoが、中国浙江省の経済特区への投資を拡大

9月初めに、サウジアラビア国営 Saudi Aramcoは、中国浙江省の自由貿易区

Zhejiang Free Trade Zone(FTZ)とダウンストリーム部門への投資拡大に合意し MOU

に調印した。

Zhejiang FTZと Saudi Aramcoは、2019年 2月に、Zhejiang製油所・石油化学コン

プレックスの権益を 9%取得することに合意していた。また、Saudi Aramcoは、コ

ンプレックスへの原油を長期的に供給することにも合意した。さらに、Saudi Aramco

は、Zhejiang FTZにある原油貯蔵施設を活用し、アジア諸国に原油を供給すること

を、視野に入れている。

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Saudi Aramcoは、Zhejiang FTZと精製、石化、原油取引以外に、天然ガスのトレ

ーディング、小売り事業などで連携を強化する意向を示している。

<参考資料>

https://www.saudiaramco.com/en/news-media/news/2019/aramco-expands-downstream-investme

nt-in-china-zhejiang-free-trade-zone

(2) LyondellBasell、中国の石化事業を拡大

LyondellBasellが中国の事業を拡大する動きが発表されている。

LyondellBasellと中国の Liaoning Bora Enterprise Group(Bora)は、遼寧省盤錦

市(Panjin、Liaoning)に、石油化学プロジェクトの JV(50/50)を設立する。プロジェ

クトでは、エチレンクラッカー(110万トン/年)とポリエチレン、ポリプロピレンプ

ラントの建設を計画している。ポリエチレンプラントには、LyondellBasellの

Hostalen ACPプロセスが、ポリプロピレンプラントには、同じく

Spheripol/Spherizoneプロセスが採用される。

Boraは、2019年にプラントの建設を始める予定である。なお、ポリオレフィン製

品は LyondellBasellが、中国市場を中心に、販売することになる。

LyondellBasellは、中国の化学品市場が今後 10年間で、世界市場の伸びの 40%、

アジア市場の伸びの 60%を占める、との IHS Markitの予測をもとに、中国のオレ

フィン/ポリオレフィン市場への進出の理由を説明している。

因みに、LyondellBasellは、広東省広州市(Guangzhou、Guangdong)、江蘇州蘇州(市

(Suzhou、Jiangsu)、遼寧省大連市(Dalian、Liaoning)で、ポリプロピレンプラント

を操業している。

<参考資料>

https://www.lyondellbasell.com/en/news-events/corporate--financial-news/lyondellbasell

-announces-agreement-for-expansion-in-china/

(3) 中国の天然ガス消費量が上昇を続ける見通し

中国の公式メディアの Xinhuanetは、中国国家能源局(National Energy

Administration:NEA)、国務院発展研究センター(Development Research Center of

the State Council)、自然资資源部油気資源戦略研究センター(Strategic Research

Center of Oil and Gas Resources、Ministry of Natural Resources)の石油・天然

ガス部門が、中国の天然ガスの将来動向について作成したレポートを紹介している。

中国は、2019年の天然ガスを、2018年の 2,803億 m3に比べて 10%多い、3,100億

m3消費すると予測している。2018年の消費量は、2017年に比べて 17.5%多く、2桁

台の上昇率が続いている。

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2018年の日量消費量は、ピークで、10億 m3/日を記録した。また、10大省級地域

の天然ガス消費量は、それぞれ 100億 m3/年を上回った。

NEAの Li Ye氏は、中国の天然ガス消費量は、2050年まで増加を続けるとみてい

ることから、天然ガスの開発が中国にとって重要であると指摘している。レポート

は、そのために石油・天然ガスシステムの改革が重要であると結論付けている

<参考資料>

http://www.xinhuanet.com/english/2019-08/31/c_138354176.htm

(4) 中国 Sinopec、PetroChinaの非在来型石油・天然ガス開発のトピックス

1) Sinopecのシェールガス開発

中国のシェールガス開発をリードしているSinopecが、重慶市涪(フ)陵区(Fuling、

Chongqing)の生産状況を 9月初めに報告している(2018年 5月号東アジア編第 3項、

2019年 4月号第 2項参照)。

江漢油田涪陵頁岩気公司(Jianghan Oilfield Fuling Shale Gas Company)は、涪

陵区で 2019年のシェールガス生産量が 41.67億 m3に、販売量は 40億 m3に達したと

発表した。年間生産売計画に対し、65.83%となっている。

同社は、既存の天然ガス田の増産と新規ガス田の開発に取り組んできた。古いガ

ス井では、水圧破砕の圧力上昇や生産した天然ガス販売との連携を見直すことで、

フル生産に持っていくことができた。

2019年1~8月の焦石坝(Jiaoshiba)鉱区の減産率は、7.92%に抑えることができ、

2、3月はプラスとなった「。その結果、日量 1,030万 m3超の維持につながった。

涪陵区では、生産施設として、旧鉱区に 27井、新鉱区に 34井、処理設備として、

脱水プラント 1基、21ヶ所の天然ガス集積ステーションが設置されている。

また、販売面では、需要家との関係を強化し、天然ガスの販売計画、緊急時対応

策などを整備し、最大供給能力として 1,783m3/日の販売を確立した。

<参考資料>

http://www.sinopecnews.com.cn/news/content/2019-09/06/content_1767458.htm

2) PetroChinaの非在来型石油・天然ガス開発

9月下旬、PetroChinaは、中国北部のオルドス盆地(Ordos Basin) Qingcheng油田

の Chang 7層で、非在来型原油の埋蔵を発見した。埋蔵量は、3.58億トンで、既に

発見済の 6.93億トンと合せると、Qingcheng油田の非在来型原油の埋蔵量は、10億

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トンを上回ることになる。

また、四川盆地(Sichuan Basin)の Changning-Weiyuan地区と Taiyang地区で、シ

ェールガス 7,409億 m3の埋蔵を発見した。この発見で、四川盆地のシェールガス埋

蔵量は 1兆 m3を超えることになる。

<参考資料>

http://www.cnpc.com.cn/en/nr2019/201910/7ac4a977eb4e465a8aee2b5fb7ee0de3.shtml

9. オセアニア

(1) 南オーストラリア州政府の水素アクションプラン

オーストラリアの水素プロジェクトについては、本報でも、連邦科学産業研究機

構(CSIRO)のロードマップ(2018年 11月号オセアニア編第 2項)、サウスウェールズ

州(2018年 11月号オセアニア編第 1項)、西オーストラリア州(2018年 8月号第 1

項)などを紹介してきた。

最近、南オーストラリア州の水素事業のアクションプランが発表されている。

1) 南オーストラリア州の水素社会実現へのこれまでの取り組み

9月の下旬に、南オーストラリア州の Steven Marshall首相は、州の水素アクショ

ンプラン(South Australia’s Hydrogen Action Plan)を発表した。ここでは、水素

は、主に、再生可能エネルギーで生産された水素が対象になっている。同州の、水

素社会実現へ取り組みを表 5にまとめて紹介する。

表 5. オーストラリア州の過去 3年間の水素社会への取り組み

2017年 5月 水素円卓会議を主催、100のステークホルダーが参加

9月 水素ロードマップ/グリーン水素報告書公表、

International Conference on Hydrogen Safety(ハンブルク)に出席

2018年 2月 水素プロジェクト 4件への助成を発表

(助成金 1,700万 AUD、融資保証 2,500万 AUD)

4月 Future Cooperative Research Centre参加

8月 CSIRO(連邦科学産業研究機構)が水素ロードマップを発表

11月 州の R&D体制の調査報告の発表

12月 政府間協議会(COAG)の部会が、国家水素戦略(2020-2030)の作成を指示

2019年 6月 天然ガスネットワークへの水素注入調査を開始

9月 International Conference on Hydrogen Safetyを、アデレードで開催

再生可能水素の輸出に向けた、既存、新設インフラの調査を開始

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2) 再生可能エネルギーのポテンシャル

南オーストラリア州の面積は 100万 km2と広大で、再生可能エネルギー発電施設建

設用地があり、水の電気分解による水素製造に適している。エネルギー市場運営者

(Australian. Energy Market Operator:AEMO)は、同州は 2025年までに電力需要の

90%を再生可能エネルギーで賄うことができると見積もっている。

南オーストラリア州の再生可能水素のポテンシャルとして、以下の事項が紹介さ

れている。

① 住宅 3軒に 1件の割合で、ルーフトップソーラーパネルが設置済み。

② 22ヶ所の大規模風力発電施設。

③ 発電能力 14GW分の再生可能エネルギー発電/蓄電プロジェクトが進行中。

④ これまでに、再生可能エネルギーに 70億 AUDが投資済で、現在、総投資額

200億 AUDのプロジェクトが進行している。

3) 再生可能水素の輸出先候補

アクションプランでは、再生可能水素の輸出先候補として、表 6に示すように中

国、韓国、日本、シンガポールを挙げている。

表 6. 南オーストラリア州の再生可能水素輸出先候補

輸出先 ロードマップ

中 国

中国は、Hydrogen Fuel Cell Vehicle Technology Roadmapで、

2030年までに、水素燃料電池自動車(HFCV)の製造、利用が本格化すると設定している。

・2030年までに、クリーンエネルギー由来の水素供給量が 50%。

・2030年までに、HFCV(乗用車)の台数が 100万台。

・2025年までに、燃料電池コストが、対 2015年比で、90%ダウン。

韓 国

韓国は Hydrogen Economy Actで、Hydrogen Economy Roadmap of Koreaを定めている。

・2040年までに、カーボンフリー水素の利用で、GHG排出量を、2,700万トン/年削減。

・2040年までに、FCVの台数を、乗用車 620万台、バス 4万台とする。水素ステーシ

ョンを 1,200ヶ所設置する。

・2040年までに、発電ステーション向け FCを 15GW、家庭用を 2.1W

日 本

水素基本戦略を制定済

・2020年代半ばまでに、オーストラリア等と水素の国際間サプライチェーンを構築。

・2030年までに 30万トン/年に引き上げる。

・2030年までに、乗用車 80万台、バス 1.2万台、フォークリフト 1万台を

FCVとする。

シンガポール

2019年第 1四半期にシンガポール首相府が、水素の輸入可能性と、ダウンストリーム

利用のポテンシャル調査を公募した。

・発電向け LNGを削減し、水素などに代替することで、GHG排出量を 60%引き下げる

ことを目指している。

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4) 水素製造プロジェクト

アクションプランでは、南オーストラリア州の水素製造プロジェクトとして、表 7

に示すように、① Hydrogen and Ammonia Supply Chain Demonstrator、② Hydrogen

Superhub、③ Hydrogen Park South Australia、④ Renewable Energy Testbedの 4

件の事例が紹介されている。

表 7. 南オーストラリア州の水素プロジェクト

プロジェクト H2 & NH3 Hydrogen Superhub H2 Park SA Renewable Energy

Testbed

ロケーション Port Lincoln Crystal Brook Tonsley Mawson Lakes

企業/機関名 Hydrogen Utility

(H2U) Neoen Australia

Australian Gas

Network

U of S.Australia

UniSA

電気分解能力 30MW 不詳 1.25MW

利用

NH3プラント

(1.8万トン/年)

ガスタービン

天然ガス網に

水素を混入 電力貯蔵(250MWh)

水素生産能力 25,000kg/日

電力供給源 風力

ソーラー ソーラー

支援額(万

AUD)

470(助成)

11,750(融資)

400(助成)

2,000(融資)

490(助成)

投資総額 1,140 360(助成)

備考 Green Ammonia

Const(日本)参加

2018年に第 1次FS

2019年半ばに認可

2020年下に着工

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図. 南オーストラリア州の水素プロジェクトの位置

<参考資料>

https://premier.sa.gov.au/news/sa-government-releases-hydrogen-action-plan-to-internat

ional-experts

http://www.renewablessa.sa.gov.au/content/uploads/2019/09/south-australias-hydrogen-ac

tion-plan.pdf

(2) オーストラリア Equus 天然ガス・LNGプロジェクトの進捗状況

本報では、間もなく世界最大の LNG輸出国になるオーストラリアの LNGプロジェ

クトに注目してきたが(2019年 1月号オセアニア編第 1稿参照)、9月中旬にオース

トラリアの Ecuus天然ガス/LNGプロジェクトの進捗状況が発表されている。

Equusプロジェクトでは、西オーストラリア州 Onslowno北西沖の Carnarvon海盆

の天然ガス・コンデンセート鉱区を開発し、LNGターミナルの建設を計画している。

11ヶ所の天然ガス・コンデンセート田の埋蔵量は、天然ガスが 2兆 cf、コンデンセ

ートは、4,200万バレルと見積もられている。

2017年に、西オーストラリア州の Western Gas Corporationが、Equus Gas Project

オーストラリア

南オーストラリア州

Port Lincoln Mawson LakesCrystal Brook

Tonsley

南オーストラリア州

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を米国の Hess Corporationから Equus Gas Projectを買収した。

これまでに、17井で試掘し、15井で埋蔵が発見された。さらに 5井が掘削された

が、開発は保留されている。これ以外にも、未掘削のエリアがあり、埋蔵量の追加

が見込まれている。

9月中旬に、Western Gas Corporationは、McDermott、Baker Hughes GEが手掛け

ていた Ecuus LNGプロジェクトの上流部分に当たる天然ガス開発から、LNGプラント

までの計画策定が完了したことを発表した。

計画では、3つの生産井と接続する浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)、FPSOから処

理済の天然ガスを輸送する海底パイプライン(160km)、浮体式 LNG生産施設(FLNG、

200万トン/年)、陸上天然ガスパイプラインを建設することになる。

現在、海底生産施設、FPSO、FLNGの設計作業が進められている。また Western Gas

は、技術的な作業と並行して、Western Gasは、プロジェクトパートナーの選定に向

けて、ファイナンシャルアドバイザーに Goldman Sachsを起用している。

Western Gasの Andrew Leibovitch代表取締役は、プロジェクトの権益 100%の保

有を継続する方針で、2024年の生産開始を目指すと語っている。

図 9. オーストラリアの既存の LNGプロジェクトと Ecuusプロジェクト

ニューサウスウェールズ

西オーストラリア

クイーンズランド

ビクトリア

南オーストラリア

タスマニア

ノーザンテリトリー

Gorgon

Prelude

LNG ターミナル

Australia Pacific

Queensland Curtis

Gladstone

North West Shelf

Wheatstone

Pluto

Ichthys

Darwin

Scarborough

Ecuus Gas

Project

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<参考資料>

https://www.westerngas.com.au/sites/default/files/Equus%20Gas%20Project%20-%20Project%

20Update%20September%202019.pdf

https://www.westerngas.com.au/project/equus-gas-project

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編集責任:調査情報部 ([email protected] )

本調査は経済産業省の「令和元年度燃料安定供給対策に関する調査事業」として JPEC

が実施しています。