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26 26 総合車両製作所技報 第 3 号 生産本部 技術部 JR 東日本 E7系新幹線電車 JR東日本では,2014年度末の北陸新幹線金沢開業に 合わせ,E7系新幹線電車の開発を行った.この車両は 30‰勾配区間,電源周波数が50/60Hzの2周波対応など, 線区条件に対応可能な構造とし,「高い安全性・信頼性」, 「さらなるお客さまサービスの向上」を追求した車両と なっている. 2.1 車体 2.1.1 基本構造 編成は12両固定編成(10M2T)とし,運転最高速度 は275km/hである. 車体はアルミダブルスキン構体による気密構造とし, 先頭部長さを9.1mとしている. 2.1.2 客室設備 客室は12号車にグランクラス車,11号車にグリーン車, 1 ~ 10号車に普通車が配置されている. 腰掛配列は,グランクラス車が2列+1列,グリーン車 が2列+2列,普通車が3列+2列であり,シートピッチは それぞれ,1300mm,1160mm,1040mmとし,各座分の コンセントが配置されている. バリアフリー設備として,7・11号車に車いす対応の 腰掛を配置し,各座席手すり部に座席番号を示す点字名 板が設置されている. 客室照明は新幹線では初めて全車LED照明を採用し, 省エネ化,メンテナンスフリー化を図っている. 内装構造は,アルミ複合パネルを用いた天井,アルミ 形材を用いた荷物棚(グランクラス車はハットラック構 造),およびアルミ一体プレスの側パネル(グランクラ ス車はFRP)で構成されている. はじめに 図 1 製品外観 図 2 グランクラス車 構造および特徴

JR東日本 E7系新幹線電車 - Japan Transport Engineering ...27 2014年12月 JR東日本 E7系 新幹線電車 2.1.3 出入台設備 各出入台には配電盤スペースを設け,12号車の出入台

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2626総合車両製作所技報 第 3 号

生産本部 技術部

JR東日本 E7系新幹線電車

JR東日本では,2014年度末の北陸新幹線金沢開業に合わせ,E7系新幹線電車の開発を行った.この車両は30‰勾配区間,電源周波数が50/60Hzの2周波対応など,線区条件に対応可能な構造とし,「高い安全性・信頼性」,「さらなるお客さまサービスの向上」を追求した車両となっている.

2.1 車体2.1.1 基本構造編成は12両固定編成(10M2T)とし,運転最高速度は275km/hである.車体はアルミダブルスキン構体による気密構造とし,先頭部長さを9.1mとしている.

2.1.2 客室設備客室は12号車にグランクラス車,11号車にグリーン車,1~10号車に普通車が配置されている.腰掛配列は,グランクラス車が2列+1列,グリーン車が2列+2列,普通車が3列+2列であり,シートピッチはそれぞれ,1300mm,1160mm,1040mmとし,各座分の

コンセントが配置されている.バリアフリー設備として,7・11号車に車いす対応の腰掛を配置し,各座席手すり部に座席番号を示す点字名板が設置されている.客室照明は新幹線では初めて全車LED照明を採用し,省エネ化,メンテナンスフリー化を図っている.内装構造は,アルミ複合パネルを用いた天井,アルミ形材を用いた荷物棚(グランクラス車はハットラック構造),およびアルミ一体プレスの側パネル(グランクラス車はFRP)で構成されている.

はじめに1

図 1 製品外観

図 2 グランクラス車

構造および特徴2

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JR 東日本 E7 系 新幹線電車

2.1.3 出入台設備各出入台には配電盤スペースを設け,12号車の出入台には四季をモチーフにした高級感のある朱色の飾り板を設置している.

奇数号車にサニタリースペース(7・11号車は車いす対応),6号車に車掌室,7号車に多目的室,3・7号車に公衆電話,7・12号車には車販準備室・GA準備室を配置している.

すべての洋式トイレにはベビーベット,ベビーチェア,温水洗浄機能付き暖房便座が設置され,1・3・5・9・12号車に配置された女性専用トイレにはチェンジングボードも設置している.7・11号車の車いす対応トイレは改良型ハンドル形電動車いす対応となっており,また便器とは独立したオストメイト設備が設置されている.

多目的室は改良型ハンドル形電動車いすが利用可能な大きさとし,2人掛のソファーベッドを設置している.

各部には触知図または点字名板を設置し,出入台には防犯カメラが配置されている.出入台照明はLEDによるダウンライトを使用している.内装構造はアルミ複合パネルを主に使用し,配電盤枠およびトイレ・洗面台はアウトワークされたものを車体へ組み込むモジュール構造を基本としている.

2.2 ぎ装2.2.1 床下機器床下機器レイアウトは,主要機器である主変圧器・主

図 3 グリーン車

図 4 普通車

図 5 12 号車出入台

図 6 多機能トイレ

図 7 多目的室

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2828総合車両製作所技報 第 3 号

表示灯が点滅することで側引戸の開閉のタイミングを案内する.

2.2.4 運転室運転士腰掛位置は車体中心から偏心させ,斜め後ろに助士用腰掛を設けた.運転士前面には速度指示計,その右方に車両情報表示器2台を配置している.非常通報等のブザーについては,運転士足元左に取付した.背面には運転中に基本的には扱わない機器を配置した.また,運転室内の照明,テーブル灯については長寿命化のLED方式を採用している.ワイパアームの停止位置は,走行時の先頭部の気流解析を実施し流線に沿った位置とすることで,騒音低減を図っている.

2.3 主要システムおよび機器2.3.1 主回路および補助回路装置主回路システムは,M1車,M2車の2両1ユニットを基本としている.主変圧器と主変換装置は50/60Hz併用を可能としている.補助回路システムは50/60Hzに対応するため,補助回転機類の電源供給を交流440V-60Hzの三相方式とし,編成引通しによる並列同期運転を可能とすることで,冗長性を向上させている.蓄電池にはニッケル・カドミウム蓄電池を採用し,メンテナンスコスト削減を図っている.

2.3.2 車両情報管理装置車両情報管理装置にはS-TIMS(Shinkansen・Train・

Information・Management・System)を搭載した.従来同様の力行・ブレーキの編成制御,機器の遠隔開放,サービス機器制御等の機能のほか,北陸勾配制御機能や補助回路システムの三相並列同期運転の制御機能が追加されている.

変換装置・高圧機器箱をM2系に,主変換装置,補助電源装置補助整流装置をM1系に共通配置した.床下中央部には,主変圧器,主変換装置,補助電源装置,空調装置,連続換気装置,ブレーキ制御装置,水揚装置を基本配置とし,パンタグラフ搭載号車には補助電動空気圧縮機を配置している.車端部には汚物タンク,蓄電池箱,接触器箱,補助電動空気圧縮機,制御回路ツナギ箱等を設置した.JR東日本の新幹線電車の床下スペースは,着雪防止,走行抵抗の低減などの観点から,側面・下面ともカバーで覆う構造が採用されている.これらのカバーは,これまでボルトでの固定が主であったが,E7系では開閉する頻度が高い部分については,ラッチ錠で固定する方式を採用し,メンテナンス作業の容易化を図った.

2.2.2 屋上機器屋上は,騒音防止のために極力突起部分をなくした平滑化構造としている.屋根上には低騒音パンタグラフ,低騒音ガイシ・空気管ガイシ,保護接地スイッチ(EGS),静電アンテナ,FMラジオアンテナ,直ジョイント,3分岐ジョイント等を配置した.

2.2.3 室内機器客室内には,前後位の内妻仕切上部にフルカラーLEDを用いた案内情報表示器と客室防犯カメラを,内妻仕切パネルには対話型非常通報装置を,側天井部にスピーカを設置した.車側には車側灯,側面行先表示器,座席指定表示器を設置した.側面行先表示器は,E5系と同様にフルカラーLEDを用いるとともに,文字サイズを拡大し,表示機能の多機能化と視認性の向上を図った.また,側出入口部にはバリアフリー対応として,発光手すりを側出入口の柱キセ内部に設け,側引戸開閉時に

図 8 側カバー 図 9 運転室

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JR 東日本 E7 系 新幹線電車

2.4.3 軸箱装置,軸箱支持装置軸受は実績のある油浴潤滑式円筒ころ軸受とし,軸箱支持装置は支持板方式であり,2枚の支持板で軸箱を側ばりに支持している.

2.4.4 車体支持装置車体支持装置はボルスタレス支持方式であり,けん引装置は一本リンク方式である.自動高さ調整装置は,作動油無しタイプとした.走行時の左右振動軽減のため,グランクラス車両にはフルアクティブサスペンションを,その他の車両にはセミアクティブサスペンションを装備することで乗り心地の向上を図っている.

2.4.5 基礎ブレーキ装置基礎ブレーキ装置は空圧式キャリパを採用することで構造の簡素化と軽量化を図っている.また,中央締結式ブレーキディスクと等圧式ライニングを採用することで,ディスクとライニングの偏摩耗防止と局部的な温度上昇を防止している.

(小泉貴洋,木元裕勝,堀口健一郎,横山大雅 記)

2.3.3 保安装置北陸新幹線区間はDS-ATCであるが,無線ATCシステムの機能も有する.また,北陸区間を走行するため,50/・60Hz双方の区間に対応した信号処理を可能とし,周波数切換を自動的に行う構成としている.

2.4 台車2.4.1 基本構造電動台車はDT211,付随台車はTR7010//TR7010Aと称する.空圧方式の基礎ブレーキ装置を採用することで,構造の簡素化による軽量化と保全性の向上を図っている.また,新規開業区間の貯雪式高架橋における排雪走行を考慮して,強化型排障装置を搭載した.

2.4.2 輪軸,駆動装置車軸は中ぐりタイプ,直径860mmのブレーキディスク付車輪とし,中央締結式のブレーキディスクを採用した.M軸は,はすば歯車方式の駆動装置と,歯車形たわみ軸継手(WN継手)を採用した.T軸は車輪ディスクの他に1軸1ディスクの軸マウントディスクを搭載した.

図 10 DT211 台車

図 11 TR7010A 台車

図 12 付随台車基礎ブレーキ装置

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3030総合車両製作所技報 第 3 号

表1 

主要

諸元

←東京

金沢→

①②

③④

⑤⑥

⑦⑧

⑨⑩

⑪⑫

<>

編成

12両編成(10M2T)

○○  ○○

●●  ●●

●●  ●●

●●  ●●

●●  ●●

●●  ●●

●●  ●●

●●  ●●

●●  ●●

●●  ●●

●●  ●●

○○  ○○

凡例:連結器(+:密着)   

車軸(○:T軸,●:M軸)

最高運転速度

号車

1号車

2号車

3号車

4号車

5号車

6号車

7号車

8号車

9号車

10号車

11号車

12号車

車種

形式

普通車

普通車

普通車

普通車

普通車

普通車

普通車

普通車

普通車

普通車

グリーン車

編成質量(t)

連結面間距離

車体長さ

車体幅

屋根高さ

パンタグラフ折りたたみ高さ:4480mm

床面高さ

台車中心間距離

台車形式(歯車比)

パンタグラフ

低騒音シングルアーム式(一体可動すり板)

主電動機

--

強制風冷三相かご型誘導電動機 定格300kW

主変圧器

--

--

-1次25000V・2次1500V・3次400V 50/60Hz

主変換装置

--

3相電圧型3レベルPWMインバータ

補助電源装置

--

--

-3相電圧型PWMインバータ方式,単相変圧方式

補助整流装置

--

--

-3相全波整流方式

電動空気圧縮機

MH1133系-

C1200E系

MH1133系-

C1200E系

MH1133系-

C1200E系

MH1133系-

C1200E系

回転式

1195(50Hz)/1435(60Hz)ℓ/min以上

空気調和装置

冷房:37.21kW×2 暖房:20kW×2

保安装置

制御方式

ブレーキ方式

応荷重・滑走再粘着,遅れ込め制御付

ブレーキの種類

車両情報管理装置

側出入口

気密押さえ装置付

業務室等

乗務員室

多目的室

車販準備室

GA準備室

トイレ

共用

女性用

小便所

-共用

女性用

小便所

-共用

女性用

小便所

-車いす対

応多機能

トイレ

小便所

-共用

女性用

小便所

-車いす対

応多機能

トイレ

女性用

小便所

洋式便所:清水空圧洗浄排出方式

     (全洋式便器洗浄機能付き暖房便座)

小便所 :清水空圧洗浄重力排出方式

オストメイト(多機能トイレに設置)

洗面所

共用

女性用

-共用

女性用

-共用

女性用

-車いす

対応

-共用

女性用

-車いす

対応

共用

女性用

セキュリティ

サービス機器他

電動台車: DT211(3.04),付随台車: TR7010/TR7010A

回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ

CI23系

--

主 要 機 器

AU219 床下準集中形空気調和装置×2

グランクラス車

DS-ATC(デジタル),RS-ATC(無線)

VVVF制御方式

車 体 寸 法定員(人)

--260km/h (車両性能:275km/h)

そ の 他

常用,非常,緊急,耐雪,抑速

--

客室区分

片引戸 (片側数1~10号車2枚,11~12号車1枚)

対話形非常通話装置(客室・洋式便所)・客室カメラ,デッキカメラ,通路カメラ

行先案内表示器(大型フルカラーLED),座席指定表示器(3色LED),車内案内表示器(フルカラーLED),自動放

送装置,FM車内輻射装置,座席コンセント(全席),公衆電話(3,7号車),セミアクティブ動揺防止制御装置(1

~11号車),フルアクティブ動揺防止制御装置(12号車)

約540(空車時)

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31312014年12月

JR 東日本 E7 系 新幹線電車

図13

 編

成図