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JR 東日本 EV-E801 系蓄電池駆動交流電車 37
JR 東日本 EV-E801 系蓄電池駆動交流電車※大
おお
根ね
明あき
裕ひろ
写真 1 外観
要旨東日本旅客鉄道(JR 東日本)では、環境負荷低減を目指して、ディーゼルハイブリッドシステムを始めとする新
しい動力システムの導入を推進している。その一環として、交流電化区間では通常の交流電車同様にパンタグラフからの電力で走行し、非電化区間では車両に搭載した大形蓄電池の電力で走行する蓄電池駆動交流電車 EV-E801 系を 2017 年 3 月に秋田地区の非電化区間である男鹿線に投入し、営業運転を開始した。本稿では、JR 東日本において烏
からすやま
山線の蓄電池駆動直流電車 EV-E301 系に続く蓄電池駆動電車である EV-E801 系について紹介する。(編集部注:EV-E301 系は本誌 248 号 2014 年 9 月参照)
1 はじめにJR 東日本では NE トレイン(New Energy Train)を用い
て様々な動力システム開発を進めてきた。その成果として、2003~2005 年にかけて開発したディーゼルハイブリッドシステムは、キハ E200 形、HB-E300 系、HB-E210 系として実用化している。
一方、蓄電池駆動電車システムの開発は、更なる環境負荷の低減を目的として 2008 年から開始し、定置試験、蓄電池駆動に改造した NE トレイン(試験車愛称“スマート電池くん”)を用いた走行試験、地上設備との組み合わせ試験などによる検証、評価を経て 2012 年に完了した。蓄電池電車の主なコンセプトは以下の通りである。(1) 非電化区間のエネルギー効率向上(CO2 低減)(2) 非電化区間の環境負荷の低減
(排気ガス、エンジン騒音の解消)(3) 車両メンテナンスの効率化
(エンジンなどの機械部品の削減)(4) 車両運用の効率向上
(電化区間、非電化区間の共通運用)
この蓄電池駆動電車システムの開発結果を基に、EV-E301 系一般形直流電車(蓄電池駆動)を新造し、2014 年 3月に営業用車両として烏山線に投入した。
今回、交流架線下で走行可能な蓄電池駆動システムの技
※ 東日本旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸車両部 車両技術センター
:非電化区間:電化区間
男鹿線
奥羽線男鹿
羽立
脇本
船越
天王 二田
上二田
出戸浜
追分上飯島土崎
秋田
福島方面
新潟方面
青森方面
図 1 路線図(参考:鉄道要覧)
2017- 9「車両技術 254 号」38
会社・車両形式 東日本旅客鉄道㈱・EV-E801 系使用線区 奥羽線、男鹿線 軌間(㎜) 1 067基本編成両数 2 両(1M1T) 使用線区の最急勾配用途 一般形(通勤用) 電気方式 AC 20 000 V 50 Hz
主回路用蓄電池 1 598 V車体製作会社 ㈱日立製作所 製造初年 2016 年台車製作会社 ㈱日立製作所 製作両数 2 両主回路装置製作会社 ㈱日立製作所 車両技術の掲載号 254
基本編成及び主な機器配置 凡例 ●;駆動軸 ○;付随軸 MTr;主変圧器 CI;主変換装置 SIV;補助電源装置
CP;空気圧縮機 MBT;主回路用蓄電池 BT;蓄電池 < ;パンタグラフ ◎;車椅子スペース ◇;便所 □;セラミック噴射装置 連結器 ▽;密着 +;半永久編成質量(t) 75.9 編成定員(人) 262
個別の車種形式 EV-E801 EV-E800車種記号(略号) Mc Tc'空車質量(t) 38.4 37.5定員(人) 132 130うち座席定員(人) 40 40
特記事項
駆動系主要設備
主変換装置
形式 / 質量(㎏) CI26 / 1 178
方式
整流部 単相 3 レベル PWM 整流装置インバータ部 三相 2 レベル PWM インバータ
制御容量(kW) 380(2MM 制御×2 群)
主電動機
形式 / 質量(㎏) MT80 / 473方式 三相かご形誘導電動機1 時間定格(kW) 95回転数(min-1) 2 376特記事項
最大限流値
力行(A)ブレーキ(A)
電気ブレーキの方式 回生ブレーキ蓄電池走行設備
主回路用蓄電池
種類/質量(㎏) リチウムイオン蓄電池 / 3 060(1箱)セル数×モジュール数
6 セル×72 モジュール×3 並列
容量(Ah) 75 Ah(1 セル)主な特徴
補助電源設備
補助電源装置
形式/質量(㎏) SC117 / 1 154方式 三相電圧形 PWM インバータ出力 90 kVA
制御用蓄電池
種類/質量(㎏) アルカリ蓄電池容量(Ah) 60(5 時間率)主な用途 制御用
車両性能
最高運転速度(㎞/h) 110加速度(m/s2) 0.56(2.0 ㎞/h/s)減速度
(m/s2)常用 1.00(3.6 ㎞/h/s)非常 1.00(3.6 ㎞/h/s)
編成当りの定格
編成構成 1M1T出力(kW) 380引張力(kN)
ブレーキ制御方式
回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ、直通予備ブレーキ、耐雪ブレーキ、抑速ブレーキ
制御回路電圧(V) 直流 100抑速制御 有り
非常時運転条件0.5M カ ッ ト(0.5M1.5T)でも起動可能
保安設備
運転保安装置統合型 ATS 車上装置(Ps形)、EB・TE 装置
列車無線 デジタル列車無線、防護無線駆動系主要設備
集電装置形式/質量(㎏) PS110 / 130方式 シングルアーム式
主変圧器形式/質量(㎏) TM35 / 2 380定格容量(kVA) 1 040
特記事項
TcMc
▽+▽
SIV
◇◎
MBTCIMTr
CP BT
表 1 JR 東日本 EV-E801 系蓄電池駆動交流電車 車両諸元
JR 東日本 EV-E801 系蓄電池駆動交流電車 39
その他の主要設備
主幹制御器形式/質量(㎏) MEC17方式 ワンハンドル
速度計装置 直動式指示計車両情報制御システム
モニタ装置 MON25モニタ表示器 12.1 インチ(カラー LCD)
標識灯前部標識灯 白色 LED後部標識灯 赤色 LEDその他 -
その他 ワンマン運転設備(運賃収受設備併設)
空気ブレーキ設備
電動空気圧縮機
形式/質量(㎏) MH3137-C1000F-D10TH / 305圧縮機容量 990 ㍑/min圧縮機方式 往復単動 2 段圧縮 オイルフリー
空気タンク元空気タンク 165 ㍑供給空気タンク 165 ㍑
ブレーキ制御装置
形式/質量(㎏)C245(Mc) / 410C246(Tc') / 407
台
車
形式動台車 DT85付随台車 TR268
車体支持装置 ボルスタレスけん引装置 一本リンク枕ばね方式 空気ばね上下枕ばね定数 /台車片側(N/㎜)
動台車 372付随台車 372
軸箱支持方式 ウイングタイプ軸ばねゴム式軸ばね方式 円すい積層ゴム
上下軸ばね定数 / 軸箱(空車時)(N/㎜)
コイルばね動台車 -付随台車 -
ゴムばね動台車 1 708付随台車 1 708
総合動台車 1 708付随台車 1 708
軸距(㎜) 2 100台車最大長さ(㎜) 3 630(雪かき器付き)車輪径(㎜) 新製時:810 計算用:770基礎ブレーキ
動台車 踏面ブレーキ付随台車 踏面ブレーキ
ブレーキ倍率 3.5
制輪子動台車 焼結合金制輪子付随台車 焼結合金制輪子
ブレーキシリンダの数
動台車 4付随台車 4
駆動方式 平行カルダン歯数比(減速比) 6.50(91 / 14)継手 TD 継手軸受 密封複式円すいころ軸受
質量(㎏)動台車 5 953付随台車 4 102
車両間連結装置先頭部 密着連結器中間部 半永久連結器
記事
車体の構造・主要寸法・特性
構体材料 アルミニウム合金構造 ダブルスキン構造
車両の前面
材料 アルミニウム合金形状 貫通扉付き
客室の内装材
天井 印刷アルミニウム化粧板側・妻 印刷アルミニウム化粧板床 塩化ビニール樹脂系床敷物
長さ(㎜)
先頭車 19 500中間車 -
連結面間距離(㎜)
先頭車 20 000中間車 -
心皿間距離(㎜) 13 800車体幅(㎜) 2 950
高さ(㎜)
屋根高さ 一般部 3 680 低屋根部 3 365
屋根取付品上面4 096(空調装置高さ)3 980(パンタ折り畳み高さ)
床面高さ(㎜) 1 135相当曲げ剛性(MN・m2)相当ねじり剛性(MN・m2/rad)固有振動数(Hz) 曲げ: ねじり:
主な旅客設備
側窓 下降式(上段下降 下段固定)固定窓
側扉構造 両引戸 1 300 ㎜片側数 3
戸閉め装置
形式 TK123方式 直動空気式
妻引戸片引戸
(ぜんまい式自閉機能付き)腰掛 ロングシート
空調換気システム
空調装置
形式 / 質量(㎏) AU730 / 680方式 天井集中式容量(kW/ 両) 48.8
暖房装置
方式 シーズ線ヒータ容量(kW/ 両) 8.2
換気方式 自然換気送風方式 天井ダクト
室内灯照明方式 直接照明灯具方式 LED 灯
非常通報装置 対話式非常通報装置
車内案内表示液晶式
(ワンマン運賃表示器兼用)放送設備
車内向け スピーカ 5 台車外向け スピーカ 4 台
行先表示器
前面 LED 式(単色)側面 LED 式(単色)
主な移動等円滑化対応設備
電動車椅子対応便所、車椅子・ベビーカースペース、ドアチャイム
便所主な設備
手すり、非常通報装置、炎検知器など
汚物処理 清水空圧式その他
2017- 9「車両技術 254 号」40
図2
編成
図
JR 東日本 EV-E801 系蓄電池駆動交流電車 41
図 3-1 形式図 EV-E801(Mc)
図 3-2 形式図 EV-E800(Tc’)
2017- 9「車両技術 254 号」42
術的検証、寒冷地における冬期間の蓄電池性能の評価・検証を重ね、今後の発展に向けた可能性を検証していくため、EV-E801 系 2 両 1 編成を新造した。
本車両は、九州旅客鉄道株式会社殿が開発し、既に営業運転を開始している BEC819 系(愛称名:DENCHA)をベースとし、当社用にデザイン、耐寒耐雪仕様などのカスタマイズを行った車両である。
2 編成及び車両性能と主な特徴EV-E801 系は、男鹿寄りがパンタグラフを搭載した Mc
車(EV-E801)、秋田(追分)寄りが Tc’車(EV-E800)の 2 両固定編成で、通勤通学タイプの車両である。車両形式には、蓄電池駆動電車であることを表すため EV(Energy storage Vehicle)と交流車両を示す“8”を付与している。
設計最高速度は、120 ㎞/h だが、最高運転速度は奥羽線に合わせた 110 ㎞/h としている。加速度は 0.56 m/s2
(2.0 ㎞/h/s)、減速度は 1.00 m/s2(3.6 ㎞/h/s)である。車体は片側 3 扉の拡幅車体である。座席配置は全てロン
グシートとし、Tc’車には車椅子対応便所、車椅子・ベビーカースペースを設置している。
EV-E801 系は、BEC819 系をベースに耐寒耐雪構造として主に以下の点を変更している。(1) 空気笛を AW2 に変更し、床下から屋根上に移動(2) 前部標識灯を前面窓上部へ移動(3) 雪かき器付きの台枠下部覆いを設置(4) 先頭台車にも雪かき器を設置(5) 耐雪ブレーキの設置(6) 床下に防雪板設置及び各ヒータ追加(7) 空調装置に暖房用の電気ヒータ設置(8) 車内断熱性能の向上(9) 側引戸下レールにレールヒータを設置
3 デザイン3.1 エクステリアデザイン
EV-E801 系は、導入する男鹿地区の重要無形民俗文化財である“なまはげ”をイメージしたデザインを各所に採り入れている点が大きな特徴である。
エクステリアは、2 両編成の車体を 1 両ずつ赤(Mc 車)と青(Tc’車)とに塗り分け、なまはげの赤い面と青い面を表現している。また、側面にはなまはげの顔イラストを配置するなど“男鹿なまはげライン”の愛称で親しまれる男鹿線にふさわしいデザインとしている。3.2 インテリアデザイン
インテリアにおいては、車窓を流れる沿線風景、なまはげの衣装から連想したデザインを腰掛表地及び床敷物に採用したほか、白を基調とした室内にガラス製の袖仕切り及び妻引戸を採用して、明るく開放感のある広々とした移動空間の実現を目指している。3.3 愛称名及びシンボルマーク
愛称名は、EV-E301 系を継承し、蓄電池を意味する“accumulator(アキュムレータ)”から取った“ACCUM(アキュム)”とし、シンボルマークを前面・側面などにデザインしている。また、三角形のシンボルマークは“架線”“蓄電池”及び“モータ”相互のエネルギーの流れをイメージしている。
4 車体構造4.1 主要寸法
車体幅は、2 950 ㎜の拡幅車体で、連結面間距離(全長)は 20 000 ㎜、車体長は 19 500 ㎜とした。耐寒構造として床構造を厚くしており、客室の床面高さはレール上面から1 135 ㎜とした。
また、屋根高さは一般部 3 680 ㎜だが、Mc 車のパンタグラフ搭載部分は、非電化区間走行時のパンタグラフ折り畳み高さを規定した車両限界(基礎限界)に収める必要があるため、3 365 ㎜の低屋根構造とした。4.2 構体
構体は当社の新幹線・在来線特急車両などで実績があるアルミニウムダブルスキン構体である。屋根及び側構体は押出し形材を FSW(摩擦攪
か く
拌は ん
接合)によって接合した構造としており、歪
ひずみ
が少ない仕上がりとなっている。前頭構体はアルミニウム形材と板材で構成している。
写真 2 車体側面のなまはげイラスト 写真 3 ACCUM シンボルマーク
JR 東日本 EV-E801 系蓄電池駆動交流電車 43
図4
車体
断面
a)
一般
部b)
低
屋根
部
2017- 9「車両技術 254 号」44
図5
運転
室機
器配
置
写真
4 運
転台
JR 東日本 EV-E801 系蓄電池駆動交流電車 45
a)
床下
機器
配置
E
V-E
800(
Mc)
b)
床下
機器
配置
E
V-E
801(
Tc’)
図6
床下
機器
配置
2017- 9「車両技術 254 号」46
5 客室5.1 客室構造・設備
室内の内張りは、白を基調としたアルミニウム化粧板(商品名:アートテック)を使用し、かつ照明は環境にやさしい LED を採用することで、明るい車内を演出している。
座席は、通勤通学時の混雑を考慮してロングシートを採用した。清掃しやすいよう片持ち式とし、出入口端部には強化ガラス製の袖仕切りを取付けている。座席幅は一人当たり 460 ㎜ピッチで 10 人掛けの座席を各車 4 か所配置している。
荷物棚高さは、床上面より 1 700 ㎜である。つり手高さは床上面から出入口部 1 800 ㎜、座席部 1 630 ㎜の高さを基本としている。また、荷物棚前端の握り棒から垂直方向にスタンションポールを設け、握り棒及び立ち座りの手掛かりとするとともに、着席区分を明確にしている。
天井には室内灯のほか、広告枠、車内スピーカ、空調ダクト吹出口を設けている。
前位寄りの側出入口付近にはごみ箱と消火器、後位寄り妻部には非常灯、前位及び後位妻部には異常時に乗務員と通話が可能な非常通話装置も設置している。5.2 窓及び扉
大形の側窓ユニットは、下降窓と固定窓の組み合わせで構成している。窓ガラスは光線透過率が低いガラスを採用することでカーテンを省略している。
連結部の妻引戸は、視認性向上のため耐熱合わせガラスを使用したガラス引戸を採用し、貫通路を移動するお客さまの衝突を防止するため、ガラス間の中間膜に模様を付けている。戸閉め装置は、ぜんまい式自閉装置を採用し、開扉後は自然に閉扉する機構としている。5.3 バリアフリー・ユニバーサルデザイン対応設備
座席の各車先頭寄り 3 席×2 列は、優先席として腰掛表地や床部のデザインを変更している。優先席を含んだ 10人掛け座席部のつり手は、一般部より 50 ㎜低い 1 580 ㎜とすることでユニバーサルデザインを考慮した高さとしている。加えて優先席部のスタンションポールは、黄色く目立たせ、表面に滑り止めのエンボス加工を施している。
また、車椅子・ベビーカースペースも、優先席と同様に床部のデザインを変更したほか、車椅子でも扱える高さに手すり及び非常通話装置を設置している。
また、各側引戸のかもい部にはドア開閉に連動するドアチャイム及び扉開閉表示灯を設置している。5.4 便所設備
Tc’車に車椅子対応便所を設置している。汚物処理装置は清水空圧式である。便所内の照明も客室同様 LED としている。便所内には、手すり、手洗い器、非常通話装置のほか、火災予防として天井に炎検知器も設置した。非常通話装置は、転倒時でも操作できるよう下部にもスイッチを設けている。
6 運転室設備運転室は、将来的に併結運転も可能なように貫通タイプ
の半室構造としている。通路側面には運転時の視認性向上のために固定式の小窓も設置している。営業運転時は助士側の仕切戸を運転室仕切りとして使用するほか、仕切戸の小窓を開閉式にすることでワンマン運転時においても、仕切戸自体を開閉することなくお客さま対応及び運賃箱対応を可能にしている。
ワンハンドル主幹制御器を含め、基本的な運転室機器配置は当社の 701 系などとなるべく合わせるよう心掛けた設計とした。蓄電池駆動電車特有の機器として、主回路蓄電池を起動・停止させるスイッチ、架線認識装置なども設置している。
写真 6 便所設備
写真 5 室内全景 写真 7 運転室仕切り
JR 東日本 EV-E801 系蓄電池駆動交流電車 47
前部標識灯は LED を採用し、集光用及び拡散用の 2 灯を 1 ユニットとして運転室前面窓上部の左右に配置している。なお、冬期の着雪を防ぐため前面窓ガラスは熱線入りである。
7 機器配置7.1 床下機器配置
Tc’車床下には、非電化区間での走行に必要な大容量の主回路用蓄電池を搭載している。Tc’車床下スペースの大部分を占めるため、Mc 車の床下に主変圧器、主変換装置、補助電源装置、電動空気圧縮機を集約している。7.2 屋根上機器配置
中心部に空調装置、先頭部に空気笛、列車無線アンテナ、信号炎管を搭載し、Mc 車に設けた低屋根部にはパンタグラフ、保護接地スイッチ、真空遮断器などの特高機器を搭載している。7.3 車外設備
車外設備として、雪かき器付きの台枠下部覆い、半自動ドアスイッチ、車外スピーカ、転落防止ほろなどを設置している。なお、将来的に併結運転も可能なように先頭部に貫通扉を設けているが、準備工事のため連結時に用いる貫通ほろは設置していない。
8 主要機器8.1 蓄電池駆動システムの概要
蓄電池駆動システムは、走行のための大容量蓄電池(以下、主回路用蓄電池という)を車両に搭載し、架線がない非電化区間の走行を可能にするものである。
男鹿線は全ての列車が奥羽本線経由で秋田駅に乗り入れている。秋田発男鹿行きの下り列車は、電化区間の奥羽本線(秋田~追分間)では通常の電車と同様にパンタグラフを上昇させ、架線からの電力によって走行すると同時に、主
回路用蓄電池の充電を行う。追分駅でパンタグラフを降下させ、非電化区間の男鹿線(追分~男鹿間)では主回路用蓄電池からの電力のみで走行する。終点の男鹿駅には EV-E801 系専用の充電設備を設置し、上り列車の追分までの走行に必要な電力を、剛体架線から主回路蓄電池に充電するシステムとしている(写真 12 参照)。8.2 主変圧器
変圧器は、一次巻線 1 040 kVA、二次巻線(主回路)1 040 kVA、の定格容量をもつ TM35 である。油の冷却は、車両走行時に生ずる走行風を利用する走行風利用送油自冷式を採用し、低騒音化及びメンテナンス軽減を図っている。8.3 主変換装置
主変換装置は、3 レベル PWM コンバータ・2 レベルインバータ制御を行う CI26 である。
4 台の主電動機駆動のほか主回路蓄電池との情報伝送などの制御を行っている。
図 7-1 屋根上機器配置 EV-E801(Mc)
図 7-2 屋根上機器配置 EV-E800(Tc’)
写真 8 主回路用蓄電池箱
2017- 9「車両技術 254 号」48
8.4 主電動機主電動機は、全閉外扇式誘導電動機の MT80 を搭載し
ている。全閉式のため車体側の風道構造が不要であり従来の主電動機と比較してメンテナンスの省力化を図っている。8.5 蓄電装置(走行動力用)
Tc’車に 360 kWh の容量で主回路エネルギーの充電、放電を行う主回路蓄電池箱を搭載している。本蓄電池は 3バンク(群)構成とし、冗長性を持たせている。機器箱は密閉構造を採用してメンテナンス性を向上させている。8.6 集電装置
Mc 車に PS110 パンタグラフを搭載している。シングルアーム式で空気上昇、バネ下降する構造である。メンテナンスを考慮して一部の部品は、701 系と同一とした。直流用の EV-E301 系では、パンタグラフを 2 台搭載していたが、交流用の EV-E801 系は電流量の違いから 1 台のみ搭載している。8.7 ブレーキ装置
ブレーキ方式は、回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキである。ブレーキ制御装置を各車に搭載し、ブレーキ制御装置間のインターフェイスによって、常用ブレーキでは協調制御を行うことが可能である。ブレーキ種別は、常用ブレーキ、非常ブレーキ、直通予備ブレーキ、耐雪ブレーキ、抑速ブレーキを備えている。8.8 電動空気圧縮機
電動空気圧縮機は、メンテナンス性を考慮して、潤滑油を使用しないオイルフリーのレシプロ式である。除湿装置とともに電動空気圧縮機ユニットとして一体化している。8.9 補助電源装置
補助電源装置(SIV)は、補助電源回路三相出力用のインバータ装置、交流 100 V 単相出力、直流 100 V 出力の回路を収納しており、蓄電池電圧直流 1 600 V を三相交流440 V、単相交流 100 V、直流 100 V に変換し、合計 90 kVAの電力を供給する性能を有している。8.10 蓄電池(制御ほか用)
一般の制御用として直流 100 V 60 Ah(5 時間率)の容量のアルカリ蓄電池を主回路蓄電池とは別途搭載している。8.11 空調装置及び暖房装置
空調装置は、各車両に AU740 を屋根上に 1 台搭載している。天井集中式で 48.8 kW(42 000 kcal/h)の容量である。客室内には、車内長手方向に引通した冷風吹出口と、車内空気を吸込むグリルを有するリターン吸込口を装備し、客室内の空気は吸込口から吸込み、エアフィルタを通って室内熱交換器で熱交換を行い、冷やされた空気をダクトの長手方向に 2 本配置したライン状の吹出口から客室内へ吹出す構造である。
暖房装置は、客室内のロングシート下部と、妻面の壁部に搭載し、腰掛部の暖房は効率を高める目的で斜めに配置している。また、AU740 空調装置は、電気ヒータも備えており、室内温度と外気温度との差が一定を超えると作動し、車内の急速暖房を可能としている。
空調制御は、運転室のモニタ画面から“冷房”“暖房”及び“送風”を選択する手動方式であるが、“冷房”及び“暖房”が選択された場合は、車内温度が設定された基準温度に保
たれるように自動で調整を行っている。8.12 戸閉め装置
側引戸は両開きで、有効開口寸法は 1 300 ㎜である。戸閉め装置は、実績のある直動空気式で半自動機能付きのTK123 である。戸挟み対策として戸閉め力弱め機構を設け、ドアが閉まった後に一旦戸閉め力を弱めることで、万一ドアに挟まった際に容易に引き抜きやすいようにしている。8.13 車両情報制御システム
EV-E801 系用に新設計した MON25 モニタ装置を搭載し、乗務員や検修員が運転・検修に必要な各種情報、車両の機器状態表示や空調などのサービス機器操作が一括して可能である。
モニタ画面は、当社では初めてプルアップメニュー方式を採用している。プルアップメニューによって目的の画面に少ない画面操作で移動することができる。また、異常情報や非常通報情報表示などは近年の新製車両に搭載しているモニタ装置、従来の列車情報管理装置(TIMS)と同様とすることで違和感なく操作できるよう配慮している。8.14 運転保安装置
保安装置は ATS-P 及び ATS-Ps の機能を有した統合形ATS 車上装置(Ps 形)である。そのほか EB・TE 装置も搭載している。8.15 車内案内表示装置、エネルギーフローモニタ
ドア開閉方向、行先・次駅など表示する車内案内表示器は、運賃表示器と兼用としており、運転室背面上部に各車1 台ずつ設置している。(写真 7 を参照)
妻部には、17 インチカラー液晶の車内情報表示器(エネルギーフローモニタ)を各車に設置しており、EV-E301 系同様に車両の電気の流れをアニメーションで表示し、架線からの電力で走行しているのか、主回路用蓄電池の電力のみで走行しているのか、お客さまが確認できるようになっている。8.16 行先表示器
各車の先頭部及び Mc 車側面に単色 LED 式の行先表示器を設置し、運転路線名、列車種別及び行先駅名を表示している。8.17 放送装置及び非常通報装置
放送装置は、ワンマン運転、ツーマン運転時ともに、手動又は自動放送に対応している。車外スピーカを設けてお
写真 9 エネルギーフローモニタの画面
JR 東日本 EV-E801 系蓄電池駆動交流電車 49
図8
動台
車(D
T85)
写真
10
2017- 9「車両技術 254 号」50
図9
付随
台車(
TR26
8)
写真
11
JR 東日本 EV-E801 系蓄電池駆動交流電車 51
図10
力
行性
能曲
線図
11
ブレ
ーキ
性能
曲線
2017- 9「車両技術 254 号」52
り、車外・車内ともに放送が可能である。停車時は車内外の放送、走行時は車内のみの放送に自動で切り換わる。また、各車両には異常時に乗務員との会話が可能な非常通話装置を設置している。8.18 ワンマン運転設備
EV-E801 系は、ワンマン運転も可能なように各機器を搭載している。主幹制御器にワンマン用のドア開閉スイッチを取付け、運転室通路部には車内確認用のミラーを設置している。運転士席背面部には運賃箱を収納し、ワンマン運転時は中央部に引き出して使用することが可能である。
また、各車後位寄りのドア付近には整理券発行器を 2 台設置している。側面にはワンマン運転時に出入り可能な乗車口を示す表示器を設置している。8.19 架線認識システム
EV-E801 系は、EV-E301 系と同様に運転室に架線認識システムを搭載している。架線認識システムは、運転誤扱い防止を支援するもので、地上子から専用のデータを受信することによって 3 つの架線種別(剛体架線・通常架線・架線なし)を自動的に切り換え、各々の架線種別に合わせて、パンタグラフの昇降の制限、ブレーキ動作、力行回路の遮断、主回路用蓄電池への充電電流の制限を行うもので
ある。
9 台車台車はボルスタレス方式で、軸箱支持方式にウィングタ
イプ軸ばねゴムを、軸ばね方式に円すい積層ゴムを使用している。床面高さを低減するため車輪径 810 ㎜とし、台車形式は電動台車が DT85、付随台車が TR268 である。ともに踏面片押しユニットブレーキを搭載し、制輪子には雪に強い焼結合金タイプを採用している。また、前位寄りの台車には雪かき器、空転・滑走防止用のセラミック噴射装置を取付け、Tc’車の前位寄り台車には軸端接地装置も併せて設置している。
10 おわりにEV-E801 系は、2016 年 12 月に落成し、男鹿線、奥羽線
での走行試験及び蓄電池駆動システムの検討などを実施した後に、2017 年 3 月ダイヤ改正から秋田~男鹿間で 1 日 2往復の営業運転を開始した。
今後も蓄電池駆動電車をはじめとする当社の新しい動力システムを採用した車両にご注目いただければ幸いである。
写真 12 男鹿駅充電設備と EV-E801 系