15
JR 東日本 キハ E200 形ハイブリッド車両 12 1.導入の経緯 JR東日本では、非電化区間を走るディーゼル車について、 動力システムの革新によって車両の環境負荷低減を目指し たディーゼルハイブリッド車両“NE Train”の開発を進め てきた。2004 年度までに行った“NE Train”でのハイブリ ッド車両の開発結果を基に、営業用車両のキハ E200 形ハイ ブリッド車両を新造することとした。 キハ E200 形は、ハイブリッドシステムによって回生エネ ルギーの有効利用を図るとともに、排気ガス中の有害物質 の低減を図ったエンジンを採用することで環境負荷の低減 JR 東日本 キハ E200 形ハイブリッド車両 ※砂 すな さわ さく 写真1 外観 要旨 東日本旅客鉄道株式会社(JR 東日本)では、非電化区間を走るディーゼル車の環境負荷低減を目指し、ディーゼル エンジンと蓄電池とを組合わせた動力システムをもつディーゼルハイブリッド車両、キハ E200 形車両3両を小海線に 投入した。この車両は、車体幅の拡大や空調装置の能力向上などによるサービス向上、モニタ装置の導入による乗務 員や検修作業員の支援、機器のメンテナンス軽減など最新の技術成果を採り入れている。 ※東日本旅客鉄道㈱ 運輸車両部(車両開発) 写真2 車体側面 写真3 室内

JR東日本 キハE200形ハイブリッド車両...12 JR東日本 キハE200形ハイブリッド車両 1.導入の経緯 JR東日本では、非電化区間を走るディーゼル車について、

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  • JR東日本 キハE200形ハイブリッド車両12

    1.導入の経緯JR東日本では、非電化区間を走るディーゼル車について、

    動力システムの革新によって車両の環境負荷低減を目指し

    たディーゼルハイブリッド車両“NE Train”の開発を進め

    てきた。2004年度までに行った“NE Train”でのハイブリ

    ッド車両の開発結果を基に、営業用車両のキハE200形ハイ

    ブリッド車両を新造することとした。

    キハE200形は、ハイブリッドシステムによって回生エネ

    ルギーの有効利用を図るとともに、排気ガス中の有害物質

    の低減を図ったエンジンを採用することで環境負荷の低減

    JR東日本 キハE200形ハイブリッド車両

    ※砂すな

    澤さわ

    作さく

    司し

    写真1 外観

    要旨

    東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)では、非電化区間を走るディーゼル車の環境負荷低減を目指し、ディーゼル

    エンジンと蓄電池とを組合わせた動力システムをもつディーゼルハイブリッド車両、キハE200形車両3両を小海線に

    投入した。この車両は、車体幅の拡大や空調装置の能力向上などによるサービス向上、モニタ装置の導入による乗務

    員や検修作業員の支援、機器のメンテナンス軽減など最新の技術成果を採り入れている。

    ※東日本旅客鉄道㈱ 運輸車両部(車両開発)

    写真2 車体側面 写真3 室内

  • 2007 - 9「車両技術234号」 13

    図1 形式図

  • JR東日本 キハE200形ハイブリッド車両14

    会社・車両形式�

    使用線区�

    基本編成�

    用途�

    車体製造製作会社�

    台車製作会社�

    主回路装置製作会社

    個別の車種形式�

    車種記号(略号)�

    空車質量(t)�

    運転整備質量(t)�

    定員(人) �

    うち座席定員(人)�

    特記事項�

    東日本旅客鉄道㈱・キハE200形�

    小海線�

    1両�

    一般形�

    東急車輛製造㈱�

    東急車輛製造㈱�

    ㈱日立製作所�

    最大8両まで編成運用が可能。�

    軌間(㎜)�

    許容軸重(kN)�

    電気方式�

    製造初年�

    1次製作両数�

    車両技術�

    1 067�

    -�

    2007�

    3

    キハE200 �

    117 �

    46

    � � � � � � � �

    車両性能�

    駆動系主要設備�

    最高運転速度(㎞/h)�

    加速度(m/s2)�

    減速度�

    (m/s2)�

    ユニット当りの定格出力(kW)�

    定格速度(㎞/h)�

    ユニット当りの引張力(kN)�

    動力伝達方式�

    �ブレーキ制御方式��

    制御回路電圧(V)�

    こう配条件�

    抑速制御�

    車軸配置�

    運転保安装置�

    列車無線�

    非常時運転条件�

    集電装置�

    制御装置�

    制御方式�

    主変圧器�

    主整流器�

    主変換装置�

    主回路標�

    準限流値�

    機関�

    主発電機�

    燃料タンク容量(㍑)�

    100�

    0.639(起動時)�

    0.97�

    0.97�

    平行カルダンTD継手方式�

    回生・発電ブレーキ併用電気指令

    式空気ブレーキ(応荷重・滑走再

    粘着機能付)、直通予備ブレーキ、

    抑速ブレーキ、耐雪ブレーキ�

    DC100�

    35 ‰�

    あり�

    2軸ボギー�

    ATS-Ps�

    C形列車無線�

    -�

    -�

    三相電圧形2レベルPWMコ

    ンバータ・インバータ�

    -�

    -�

    CI15・1 910 ㎏�

    MT78・498 ㎏�

    かご形三相誘導電動機�

    95 kW�

    2 350�

    DMF15HZB-G・1 805 ㎏�

    331�

    1�

    DM113・885 ㎏�

    270�

    1�

    三相かご形誘導発電機�

    550

    常用�

    非常�

    形式・質量�

    形式・質量�

    形式・質量�

    形式・質量�

    形式・質量�

    形式・質量�

    出力(kW)�

    台数/両�

    形式・質量�

    出力(kW)�

    台数/両�

    励磁制御方式�

    力行(A)�

    ブレーキ(A)�

    主電動機�

    形式・質量�

    方式�

    1時間定格�

    回転数(rpm)�

    連続定格�

    ;駆動軸� ;付随軸� 便;車いす対応洋式トイレ  +;密着式連結器�

    小諸/長野・松本� 小淵沢�

    運�

    運�

    �便�

    �+� +�

    表1 JR東日本 キハE200形ハイブリッド車 車両諸元

  • 2007 - 9「車両技術234号」 15

    車体の構造・主要寸法�

    車体特性・構造及び主要設備�

    その他の主要設備�

    構体材料/構造�

    車両の前面形状�

    運転室 �

    長さ�

    (㎜)�

    連結面間�

    距離(㎜)�

    心皿間距離(㎜)�

    車体幅(㎜) �

    高さ�

    (㎜)�

    床面高さ(㎜)�

    ステンレス鋼溶接組立�

    貫通形�

    半室�

    19 500�

    -�

    20 000�

    -�

    14 300�

    2 920�

    3 620�

    4 046�

    1 130(ステップ部 970)�

    相当曲げ剛性(MN㎡)�

    相当ねじり剛性(MN㎡/rad)�

    曲げ固有振動数(Hz)�

    ねじり固有振動数(Hz)�

    内装材�

    側窓構造�

    妻引戸�

    �側扉�

    戸閉装置�

    �腰掛方式�

    車体連結�

    装置�

    空調換気�

    システム�

    車内主要�

    設備�

    アルミ化粧板・FRP他�

    下降式�

    -�

    片引戸�

    2�

    TK118・13.6 ㎏�

    電磁空気式�

    セミクロスシート�

    密着式連結器�

    -�

    屋上集中式�

    シーズ線式�

    自然換気�

    天井ダクト�

    蛍光灯�

    車いすスペース�

    あり;電動車いす対応�

    真空式�

    Mc車�

    M 車�

    Mc車 �

    M 車�その他の主要設備�

    �補助電源�

    装置�

    �主回路用�

    蓄電池�

    制御回路用�

    蓄電池�

    �空調装置�

    �暖房装置�

    �空気圧縮�

    機�

    空気タンク��

    前灯�

    尾灯�

    CI15・1 910 ㎏(主変換装置と一体形)�

    三相電圧形2レベルPWMインバータ�

    50�

    リチウムイオン蓄電池・500 ㎏×2�

    7.6 kWh(電圧680 V)×2�

    ベント形アルカリ蓄電池・約250 ㎏�

    70�

    AU732/485 ㎏�

    38.4�

    客室約11.8+空調ヒータ8�

    MH3125-C600N�

    600 ㍑�

    かご形三相誘導電動機�

    42 ㍑×4�

    165 ㍑�

    シールドビーム�

    LED

    形式・質量�

    方式�

    容量(kVA)�

    種類・質量�

    容量�

    種類・質量�

    容量(Ah)�

    形式/方式/質量�

    容量(kW)�

    容量(kW)�

    形式・質量�

    圧縮機容量�

    電動機方式�

    元空気タンク�

    供給空気タンク�

    台     車�

    �形式�

    支持装置�

    �けん引装置�

    ばね方式�

    軸距(㎜)�

    ばね�

    定数�

    (N/㎜)�

    台車最大長さ(㎜)�

    車輪径(㎜)�

    基礎ブレ�

    ーキ�

    ブレーキ倍率�

    �制輪子��

    ブレーキシリ�

    ンダ・個数�

    駆動方式�

    歯数比(減速比)�

    継手�

    軸受�

    質量�

    (㎏)�

    DT75�

    TR260�

    ボルスタレス式�

    軸はり式�

    1本リンク方式�

    空気ばね、コイルばね�

    2 100�

    420 �

    1 354�

    19 600 �

    M:3 343、T:3 492�

    860�

    踏面ブレーキ�

    踏面ブレーキ�

    3.2�

    MS508�

    MS508�

    4�

    4�

    平行カルダン・2軸�

    99:14=7.07�

    TD継手�

    密封複式円筒ころ軸受�

    M台車�

    T台車�

    車体�

    軸箱�

    まくらばね�

    コイルばね�

    防振ゴム�

    M台車�

    T台車�

    M台車�

    T台車�

    M台車�

    T台車�

    M台車�

    T台車�

    ブレーキ�

    ブレーキチョッパ�

    ブレーキ抵抗器�

    ブレーキ装置�

    形式・質量�

    形式・質量�

    形式・質量�

    -�

    -�

    C162

    屋根高さ�

    屋根取付品上面�

    構造�

    片側数�

    形式・質量�

    方式�

    先頭車�

    中間車�

    冷房方式�

    暖房方式�

    換気方式�

    配風方式�

    照明方式�

    移動制約者設備�

    便所�

    汚物処理�

    主幹制御器(質量)�

    速度計装置�

    車両情報制�

    御システム�

    非常通報装置�

    行先表示�

    器�

    車内案内表示�

    列車情報装置�

    �放送��

    車両間連�

    結�

    MEC5形�

    電気式速度計�

    MON18形�

    IES60形 10.4インチTFTカラーLCD�

    あり(通話形)�

    96 ㎜角16ドット3色LED(32×80ドット)

    64 ㎜角16ドット3色LED(32×128ドット)�

    6 ㎜角16ドット3色LED(16×96ドット)�

    -�

    あり�

    あり�

    -�

    -�

    モニタ装置�

    モニタ表示器�

    前面�

    側面�

    車内向け�

    車外向け�

    電気系�

    空気管系�

    軸ばね�総合�

    1 267

  • JR東日本 キハE200形ハイブリッド車両16

    を図っている。

    地方線区では、ホーム高さはレール面上920 ㎜が標準で

    あり、従来の車体構造では出入口部にステップ(踏み段)

    を設け低いホーム高さに対応しているが、キハE200形ハイ

    ブリッド車両では、同時期に製作したキハE130系気動車と

    同様に、床面高さを低減しステップと床面との段差を低減

    し、バリアフリー化の要求に応えている。また便所を大形

    化し、車いすでの利用に配慮するとともに、車内案内表示

    器によって現在駅、次停車駅、行先駅、PR文などの表示を

    行う。

    2.主要諸元車両は、キハ110系と同様の片側2扉の両運転台構造とし、

    形式をキハE200とした。最大で8両まで編成可能である。

    床面高さは、一般形電車と同様、レール面上1 300 ㎜と

    し、キハ110系より45 ㎜下げた。連結器中心高さは、従来

    車両と同じ880 ㎜とした。

    座席配置はセミクロスシートとした。運転室は併結して

    運用することを考慮し貫通形とした。

    便所は、車いす対応大形洋式便所を配置した。

    床下には、主変換装置(コンバータ・インバータ)、機関

    (ディーゼルエンジン)・発電機、空気圧縮機、ブレーキ制

    御装置などを搭載した。機関・発電機は、主回路の電力供

    給のためのものであり、補助回路の電力供給は静止形イン

    バータ(SIV)を搭載し、主変換装置と一体構成としている。

    屋上は、中央には集中形の空調装置を搭載し、前位に主回

    路用蓄電池及びリアクトル箱を搭載、後位に元空気タンク

    の一部を搭載した。

    保安装置はATS-Psを、列車無線はC形及び防護無線を

    搭載した。また、EB・TE装置を装備している。

    3.性能性能は、最高運転速度100 ㎞/h、上り25 ‰での均衡速度

    は60 ㎞/hとし、小海線で使用しているキハ110系と同等の

    気動車形引張力特性としている。

    従来の気動車には応荷重制御相当の機能がないことから、

    キハE200形の気動車性能においても、基本的には引張力特

    性固定(応荷重制御なし)としているが,粘着を考慮し起

    動トルクのみ応荷重制御ありとしている。

    ノッチ段は力行5ノッチ、ブレーキは常用7ノッチ及び

    非常1ノッチで8ノッチとしている。

    4.ハイブリッドシステム4.1 概要

    エンジンと蓄電池とで構成するハイブリッドシステムの

    構成としては、シリーズハイブリッドシステムとパラレル

    ハイブリッドシステムの2種類がある。(図3参照)

    シリーズハイブリッドシステムは、エンジンの機械的動

    力を、いったん電気的エネルギーに変換し、そのエネルギ

    ーと蓄電池の電気的エネルギーとを組合わせてモータを駆

    動する。一方、パラレルハイブリッドシステムは、エンジ

    ンの機械的動力を車輪に伝え、それと平行してモータの機

    械的動力をトルクコンバータ(変速機)に伝えて駆動する。

    キハE200形では、JR東日本のもつ電車の技術を最大限に

    活用できることから、シリーズハイブリッドシステムを採

    用した。

    写真4 機関・発電機 写真5 主変換装置

    図2 床下機器配置

  • 2007 - 9「車両技術234号」 17

    今回採用したハイブリッドシステムは、発電用のエンジ

    ン・発電機、エネルギーを蓄積するための主回路用蓄電池、

    制御用インバータ・コンバータ装置及び車輪駆動用主電動

    機から構成される。図4にシステムの構成を示す。

    力行時は、エンジン・発電機からの電力と、蓄電池から

    の電力を用いて、主電動機をインバータで駆動する。ブレ

    ーキ時には回生電力を蓄電池に蓄えて有効利用する。

    なお、エンジンの停止・起動は、車両の走行状態や蓄電

    池の充電状態などにより自動的に行われ、乗務員の操作は

    必要としない。

    主回路用蓄電池は、出力密度が高く、軽量高出力とする

    ことが可能なリチウムイオン蓄電池を使用し、その容量は、

    平坦な一駅区間5㎞程度を走行できる電力量としている。

    蓄電池ユニットの電圧は、電池の耐電圧特性を考慮して680

    Vとしている。また、蓄電池に不具合が生じた場合の冗長

    性を考慮して2群構成としている。

    主電動機は、首都圏で使用されているE231系直流電車な

    どに用いられている誘導電動機をベースにしているが、使

    用電圧が低くなるため、巻き線を変えるなどの変更をして

    いる。

    インバータ・コンバータもE231系用のインバータ装置を

    ベースに開発を行ったが、使用電圧の変更や、省スペース

    化などのための配置変更を行うとともに、補助電源装置と

    一体箱化を図っている。

    発電用のディーゼルエンジンは、キハE120・130系から

    採用した新形のDMF15HZ形を基本としたDMF15HZB-G

    形とし、総排気量15.24 ㍑の4サイクル直列6気筒横形直接

    噴射式のターボチャージャー、アフタクーラ付である。定

    格出力/回転数は331 kW(450馬力)/2 100 rpmである。

    このエンジンは燃料噴射系に高圧電子制御システムをもつ

    コモンレール式であり、クリーンな排出ガス性能と低騒音

    を実現した環境にやさしいエンジンである。

    発電機は誘導発電機を使用している。この発電機は、エ

    ンジンを起動する際にはセルモータとして使用するほか、

    下り勾配が連続する箇所での抑速ブレーキの際は、エンジ

    ンの排気ブレーキの負荷として使用している。

    4.2 ハイブリッドシステムの動作

    � 全体機能

    主変換装置制御部は、通常の電車におけるインバータ制

    御、SIV制御と、これに加えエンジン発電機の定電力制御

    等を行うコンバータ制御、および各機器の状態を統括的に

    把握し制御する機能を有している。以下では、ハイブリッ

    ドシステムにおけるエネルギー管理制御について述べる。

    � エネルギー管理制御

    エネルギー管理制御は、図5に示すように列車の速度と

    主回路蓄電池の蓄電量(SOC)に応じて領域を分けモード

    分類し、モードにより発電出力を制御しエネルギー調整を

    写真6 主回路用蓄電池(屋根上配置)

    図3 ハイブリッドシステムの構成

    図6 走行状態に応じた各機器の制御動作例

    図5 エネルギー管理制御のモード分類

    図4 ハイブリッドシステム主要機器構成

  • JR東日本 キハE200形ハイブリッド車両18

    図7 車体断面図

  • 2007 - 9「車両技術234号」 19

    行う方式である。このエネルギー管理制御のもとで、走行

    状態に応じて蓄電池出力とエンジン出力を制御することに

    より必要な走行性能を確保する。

    図6に走行状態に応じた各機器の制御動作の一例を示す。

    ①停車中:駅構内の騒音防止と燃費向上のためエンジン発

    電を停止する(Mode_A)。SOCが低下した場合には、エ

    ンジン発電して充電する(Mode_E)。

    ②力行時(駅発車時):低速域(約30 ㎞/hまで)では蓄電

    池のみで力行する(Mode_A)。

    ③力行時:エンジン発電により出力を補足する(Mode_B、

    Mode_C、Mode_D)。

    ④ブレーキ時:エンジン発電を停止して回生電力を蓄電池

    に吸収する(全てのMode)。

    ⑤抑速運転時:エンジン発電を停止して回生電力を蓄電池

    に吸収する(Mode_B、Mode_C)。SOCが充電限界に達

    した場合は、エンジンブレーキで回生電力を吸収して過

    充電を防止する(Mode_D)。

    5.車両概要5.1 車体構造

    車体は、同時期に製作するキハE130系気動車との共通化

    を図っており、軽量ステンレス構体の拡幅車体とした。床

    面高さは、レール面上から1 130 ㎜とし、キハ110系に比べ

    45 ㎜低くしている。車体幅は、混雑緩和を図るため拡幅車

    体として2 920 ㎜とし、腰部から下を絞ったすそ(裾)絞

    り構造とした。側コンタは基本的にはE233系などの電車と

    共通である。連結面間距離及び車体長さはキハE130系と同

    様で、それぞれ20 000 ㎜及び19 500 ㎜とした。台車中心間

    距離は床下機器スペース確保のため、14 300 ㎜としキハ

    E130系に比べて500 ㎜拡大した。

    5.2 客室

    座席配置はセミクロスシートとし、クロスシート部は片

    側2列及び1列の配置とした。戸閉装置は直動空気式で、

    半自動開閉機能付である。ドアが閉まった後に、いったん、

    戸閉力を弱め、万が一ドアに挟まった際に容易に脱出でき

    るよう戸閉力弱め機構を設けている。バリアフリーに対す

    る機能の拡充として、次駅名などを表示する車内案内表示

    器を運転室と客室との仕切り引戸及び貫通路引戸のかもい

    (鴨居)部に、また扉の開閉時に“赤色”のLEDが点滅す

    る扉開閉表示灯を各側引戸のかもい下部に設置した。

    つり手高さは、ロングシート部の標準高さを1 630 ㎜、

    優先席部は1 580 ㎜とすることで身長の低いお客様に配慮

    している。ロングシート部には中間にもスタンションポー

    ルを設け、身長の低いお客様のつかみ棒、座席から立つと

    き及び着席のときの手がかりとするとともに、着席区分を

    明確にしている。また、優先席部のスタンションポールは、

    曲線形状とするとともに表面に滑り止め加工することによ

    って、よりつかまりやすい構造としている。

    後位寄りには車いすスペースを設けており、車いすに着

    座した状態で使用可能な高さに非常通報装置(通話形)を

    設けている。

    車いすスペースの向かい側には洋式便所を設け、JIS規格

    に適合する電動・手動車いすで使用可能な便所内の空間を

    確保するとともに、客室内の見通しを妨げないようまくら

    ぎ方向の寸法をできるだけ抑えた構成とした。汚物処理装

    置を真空吸引式として臭気対策を図り、引戸はボタン操作

    で開閉できる自動扉とした。

    側窓は上下分割し上部下降窓と固定窓とを組合せ、極力、

    窓の面積を確保した。側窓のガラスには可視光線、日射熱

    線及び紫外線の透過率が小さい乗用車用のはん(汎)用強

    化ガラスを採用して、ブラインドカーテンを省略している。

    このガラスは直射日光によるジリジリ感を緩和するため、

    E231系通勤形電車などより熱線吸収率を向上し、紫外線を

    100 %カットするIRカットガラスとした。

    5.3 運転室

    運転室構造もキハE130系気動車との共通構造としてい

    る。キハ110系に準じた半室構造であるが、非貫通時は客室

    との間に設けた引戸により、運転室及び助士側の空間を、

    客室と完全に仕切る構造とした。この引戸には傾斜式戸閉

    装置を取付け、貫通時には扉が開いたままにならないよう

    に自動で閉る構造とした。また、貫通時は運転室を開戸に

    より完全に仕切ることができる。さらに、ワンマン用の運

    賃箱は助士側背面に完全に収納できるようにしている。

    なお、運転室の背面仕切り部には踏切事故などの際の非

    常救出口を設置している。

    5.4 サービス機器

    � 空調装置

    空調装置は、38.4 kW(33 000 kcl/h)の屋根上集中形空

    調装置を搭載した。形式はAU732形で、空調装置内蔵電気

    ヒータの容量増加、室内送風機の風量を2段階に切替えら

    れるようにするなどの変更を行ったものである。

    暖房装置は電車と同じく腰掛下につり下げたシーズ線式

    ヒータで、車いすスペースには壁面パネルヒータを搭載し

    ている。必要に応じて空調装置内蔵ヒータが動作する。

    空調制御は室内の温湿度、カレンダなどから冷暖房制御

    を自動的に選択し、乗車率や外気温により適切な補正を行

    う全自動制御である。

    � 放送装置

    車掌スイッチユニット及び運転席に設けたスイッチを扱

    うことにより、車内外放送と車外のみの放送との切り替え

    可能とした。自動放送装置は従来の気動車と同様、ワンマ

    ンシステムの自動放送装置としている。

    非常通報装置はブザー音だけでなく乗務員と相互に通話

    可能なタイプとしている。編成運用の場合、どの車両から

    非常通報がされたか、モニタ装置画面から確認可能となっ

    ている。

    � 表示装置

    前面行先表示器及び側面行先表示器は、高輝度3色グラ

    フィックLEDで運転路線名、列車種別及び行先駅名を表示

    する。車内案内表示器は、貫通部上部に取付けられ、現在

    駅、次停車駅、行先駅、PR文章、ワンマン運転時のドア位

    置案内などの表示を行う。

    � ワンマン装置

    ワンマン装置は、モニタ装置との伝送接続を実施し、モ

    ニタ装置からの系統番号、駅情報などの情報に基づいて、

    各駅の自動放送の案内及び運賃の表示を自動的に行うとと

    もに、ドア誤開扉防止機能、自車/全車切替え機能などの

    ワンマン支援機能を採用した。

    ワンマン運転時のお客様へのサービスとして、側引戸脇

    に出入口表示器を設け、モニタ装置の制御により入口・出

  • JR東日本 キハE200形ハイブリッド車両20

    図8 乗務員室機器配置

    写真7 運転台

  • 記号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

    名  称

    輪軸組立

    輪軸組立(接地装置付)

    軸箱組立

    軸箱組立

    軸箱支持装置

    軸箱支持装置

    台車枠組立

    車体支持装置

    ユニットブレーキ取付

    ユニットブレーキ取付

    台車ブレーキ配管

    セラミック噴射装置及び排障器組立

    セラミック噴射装置及び排障器組立

    セラミック噴射装置配管

    セラミック噴射装置配管

    2007 - 9「車両技術234号」 21

    図9 電動台車

  • JR東日本 キハE200形ハイブリッド車両22

    図10

    付随台車

    記号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

    名  称

    輪軸組立

    軸箱組立(AG48取付用)

    軸箱組立(AG48取付用)

    軸箱組立(AG48取付用)

    軸箱組立(AG48取付用)

    軸箱支持装置

    軸箱支持装置

    台車枠組立

    車体支持装置

    ユニットブレーキ取付

    ユニットブレーキ取付

    フランジ塗油装置取付

    フランジ塗油装置取付

    台車ブレーキ配管

    AG4B形速度発電機取付

    AG4B形速度発電機取付

    AG4B形速度発電機取付

    AG4B形速度発電機取付

    セラミック噴射装置及び排障器組立

    セラミック噴射装置及び排障器組立

    セラミック噴射装置配管

    セラミック噴射装置配管

  • 2007 - 9「車両技術234号」 23

    図11

    主回路つなぎ

    接地装置

  • JR東日本 キハE200形ハイブリッド車両24

    図12 カ行特性

  • 2007 - 9「車両技術234号」 25

    図13 回生ブレーキ特性

  • JR東日本 キハE200形ハイブリッド車両26

    口・締切の表示案内を行う。自車運転時の乗降位置は、前

    乗り/前降り、後乗り/前降りをスイッチで切換え可能と

    した。

    5.5 台車

    台車は新形式のボルスタレス台車である。台車形式は、

    電動台車(M台車)がDT75、付随台車(T台車)がTR260

    である。

    車輪は、M台車用がB形一体圧延車輪(油圧抜き穴付き)、

    T台車用がN-A形一体圧延車輪(油圧抜き穴付き)、車輪

    径は860 ㎜である。

    歯車装置の歯数比は7.07である。

    軸箱支持装置構造は、軸はり式で各台車共通である。

    車体支持装置も各台車共通である。空気ばねは、有効径

    540 ㎜である。高さ調整弁は、保温箱付LV4-3形を使用

    している。

    セラミック噴射装置は、第1軸(M台車)と第4軸(T

    台車)に取付けている。固形タイプのフランジ塗油装置は、

    第3軸(T台車)に取付けている。

    5.6 ブレーキ

    ブレーキ時の電動機の回生エネルギーを最大限に利用す

    るために、“遅れ込め制御付き回生・発電ブレーキ併用電気

    指令式空気ブレーキ”を採用している。遅れ込め制御及び

    電制ブレーキ並びに空制ブレーキのブレンディング制御を

    行うため、ブレーキ制御器(BCU)による制御を行う。

    なお、BCUを使用している従来の電車の場合はBCUが故

    障すると、故障した車両の常用ブレーキの制御ができなく

    なってしまうが、キハE200形では、単車運転をする場合が

    あるため、BCUが故障しても常用ブレーキの制御ができる

    冗長性の高いシステムとした。

    また、キハE200形では片方の台車が動台車、もう片方の

    台車が従台車となるため、台車毎にブレーキ力を制御でき

    るシステムとしている。

    5.7 モニタ装置

    モニタ装置は、主にサービス機器制御機能・乗務員支援

    機能・検修機能・車上検査機能に対応したMON18形であ

    る。車両間伝送には、E26系客車(カシオぺア)などで実

    績のあるARCNET方式であり、機器間伝送は主にRS485伝

    送を採用した。システムの中枢部であるモニタ装置本体は

    主器、副器に分かれており、主器を第一運転台に、副器を

    第二運転台に搭載した。

    運転台には、タッチパネル式のTFTカラー液晶モニタ

    (モニタ表示器)を搭載し、乗務員・検修員への機器状態表

    示や動作点検用表示を行う。ワンマン装置と伝送接続し、

    ワンマン装置に系統番号、駅情報などを伝送することによ

    りワンマン支援制御を実現する。

    乗務員支援機能として、あらかじめ地上装置で作成・登

    録した運行パターンに基づいて、停車駅、行先駅などのナ

    ビゲーション機能を運転士に表示するとともに、停車駅の

    通過防止機能を行っている。また、自動放送、案内表示器

    などのサービス機器の制御を行うことにより、お客様に対

    するサービス向上を図っている。

    5.8 保安装置

    保安装置は車上パターンによる連続速度照査機能が可能

    なATS-Ps車上装置を搭載した。キハE200形では冗長性

    の向上を図るため、従来の車上装置とは異なり2重系構成

    としている。これにより、主系が故障しても従系で機能を

    継続し、列車運行にできるだけ支障しないようにした。

    6.デザインキハE200形は、小海線に投入のため、さわやかな高原を

    イメージする青系の色をベースとし、“HYBRID TRAIN”

    のロゴを配置したデザインとした。また側引戸は注意喚起

    の意味も兼ね黄色としている。

    インテリアは、腰掛はエクステリアデザインと同様に青

    系の色をベースとしながらも、冬季などに寒い印象を与え

    ないように、床などは暖色系としている。

    なお、出入口部の床敷物や側引戸の室内側はユニバーサ

    ルデザインの一環として黄色とし、注意を促すデザインと

    している。

    7.おわりにこの度、営業用車両としては世界初となるハイブリッド

    鉄道車両キハE200形が落成することとなった。この車両は

    小海線営業所に配属となり、性能試験、訓練運転を行い、

    この中で小海線の勾配にあわせたエネルギー管理制御への

    変更を行い、燃費の改善を図っている。その後、平成19年

    7月31日より営業運転を開始している。今後、営業運転を

    通じて、量産先行車としての各種確認を行い、その後の量

    産車に反映していく予定である。