18
JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 ※山 やま たか 写真 1 外観 要旨 東日本旅客鉄道株式会社(JR 東日本)では、動力システムの革新による非電化区間を走るディーゼル車両の環 境負荷低減を目指して、“NE Train”でのハイブリッド車両の開発に始まり、2007年の営業用ハイブリッド車両 キハ E200 形、2010 年のリゾートトレイン用ハイブリッド車両 HB-E300 系とディーゼルハイブリッド車両の開 発を進めてきた。今回、2015 年 5 月 30 日の仙石線全線運転再開に合わせて、東北本線と仙石線とを直通する接 続線を新たに設け、両線を直通運転する新形車両 HB-E210 系一般形ハイブリッド車両を新造することとした。 HB-E210 系は、ハイブリッドシステムによって回生エネルギーの有効利用を図るとともに、排気ガス中の有害物 質の低減を図ったディーゼル機関を採用して環境負荷の低減を図ったほか、車体幅の拡大や空調装置の能力向上 などによるサービス向上、モニタ装置の導入による乗務員や検修作業の支援、機器のメンテナンス軽減など最新 の技術成果を採り入れた車両となっている。以下にその概要を紹介する。 (編集部注:キハ E200 形は本誌 234 号 2007 年 9 月、HB-E300 系は 240 号 2010 年 9 月参照) 1 はじめに 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は、東北地方 の各線に甚大な被害を与えた。発生から 4 年が経った現在 も全線の復旧には至っていない状態が続いている。そのう ちの一つ、仙石線は、被害が大きかった陸前大塚-陸前小 野間の移設工事が完了し、2015 年 5 月 30 日から全線で運 転再開を始めるとともに、東北本線と仙石線とを直通する 接続線を新たに設け、“仙石東北ライン”として開業した。 “仙石東北ライン”は、交流電化された東北線、直流電化 された仙石線及び非電化の接続線を直通運転するため、こ れらに対応する車両として、HB-E210 系一般形ディーゼ ルハイブリッド車両を新造することとした。 HB-E210 系は、ハイブリッドシステムを採用すること で、回生エネルギーの有効利用を図るとともに、排気ガス 中の有害物質の低減を図ったディーゼル機関を採用して、 ※ 東日本旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸車両部 在来線車両G(現:東京支社 運輸車両部 車両課 設計管理G) 写真2 室内(HB-E211)

JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

  • Upload
    others

  • View
    45

  • Download
    2

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23

JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両※山

やま

田だ

 孝たか

夫お

 

写真 1 外観

要旨東日本旅客鉄道株式会社(JR 東日本)では、動力システムの革新による非電化区間を走るディーゼル車両の環

境負荷低減を目指して、“NE Train”でのハイブリッド車両の開発に始まり、2007 年の営業用ハイブリッド車両キハ E200 形、2010 年のリゾートトレイン用ハイブリッド車両 HB-E300 系とディーゼルハイブリッド車両の開発を進めてきた。今回、2015 年 5 月 30 日の仙石線全線運転再開に合わせて、東北本線と仙石線とを直通する接続線を新たに設け、両線を直通運転する新形車両 HB-E210 系一般形ハイブリッド車両を新造することとした。HB-E210 系は、ハイブリッドシステムによって回生エネルギーの有効利用を図るとともに、排気ガス中の有害物質の低減を図ったディーゼル機関を採用して環境負荷の低減を図ったほか、車体幅の拡大や空調装置の能力向上などによるサービス向上、モニタ装置の導入による乗務員や検修作業の支援、機器のメンテナンス軽減など最新の技術成果を採り入れた車両となっている。以下にその概要を紹介する。(編集部注:キハ E200 形は本誌 234 号 2007 年 9 月、HB-E300 系は 240 号 2010 年 9 月参照)

1 はじめに2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は、東北地方

の各線に甚大な被害を与えた。発生から 4 年が経った現在も全線の復旧には至っていない状態が続いている。そのうちの一つ、仙石線は、被害が大きかった陸前大塚-陸前小野間の移設工事が完了し、2015 年 5 月 30 日から全線で運転再開を始めるとともに、東北本線と仙石線とを直通する接続線を新たに設け、“仙石東北ライン”として開業した。“仙石東北ライン”は、交流電化された東北線、直流電化された仙石線及び非電化の接続線を直通運転するため、これらに対応する車両として、HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両を新造することとした。

HB-E210 系は、ハイブリッドシステムを採用することで、回生エネルギーの有効利用を図るとともに、排気ガス中の有害物質の低減を図ったディーゼル機関を採用して、

※ 東日本旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸車両部 在来線車両G(現:東京支社 運輸車両部 車両課 設計管理G)

写真 2 室内(HB-E211)

Page 2: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

2015- 9「車両技術 250 号」24

会社・車両形式 東日本旅客鉄道㈱・HB-E210 系使用線区 東北本線、仙石線など 軌間(㎜) 1 067基本編成 2 両 使用線区の最急勾配 33 ‰車体製作会社 総合車両製作所㈱ 用途 一般形台車製作会社 総合車両製作所㈱ 製造初年 2015 年機関製作会社 コマツディーゼル㈱ 製作両数 16 両主回路装置製作会社 ㈱日立製作所 車両技術の掲載号 250

凡例 ●;駆動軸 ○;付随軸 CI;主変換装置 SIV;補助電源装置 CP;空気圧縮機   BT;蓄電池 便;便所 ◎;車椅子スペース   連結器 ▽;密着 +;半永久 *;電気連結器

個別の車種形式 HB-E211 HB-E212空車質量(t) 39.6 38.4定員(人) 128 134うち座席定員(人) 42 48特記事項

駆動系主要設備

主回路最大限流値

力行(A)ブレーキ(A)

電気ブレーキの方式 回生ブレーキブレーキ抵抗器

形式/質量(㎏) -

機関形式/質量(㎏) DMF15HZB-G / 1 865出力(kW) 331台数 / 両 1

主発電機

形式/質量(㎏) DM113 / 885出力(kVA) 270台数 1励磁制御方式 三相かご形誘導発電機

油冷却方式 -燃料タンク容量(㍑) 550

主回路用蓄電池

種類/質量(㎏) リチウムイオン蓄電池セル数×モジュール数容量(Ah) 15.2主な用途 走行、回生電力充電、補機

その他

補助電源設備

補助電源装置

形式/質量(㎏) 主変換装置に含む方式 2 レベル PWM インバータ出力 70 kVA

制御用蓄電池

種類/質量(㎏) アルカリ蓄電池 / 20容量(Ah) 70(5 時間率)主な用途 制御用

注 1 キハ 110 系相当注 2 キハ 40 系相当

車両性能

最高運転速度(㎞/h) 100

加速度(m/s2)0.64(2.3 ㎞ /h/s)…注 10.50(1.8 ㎞ /h/s)…注 2

減速度(m/s2)

常用 0.97非常 0.97

ユニット当りの定格(ユニットの構成)

出力(kW) 190(1 両)速度(㎞/h)引張力(kN)

動力伝達方式 TD 継手式並行カルダン

ブレーキ制御方式

回生・発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ(応荷重・滑走再粘着機能付き)、直通予備ブレーキ、抑速ブレーキ、耐雪ブレーキ

制御回路電圧(V) DC 100抑速制御 あり運転保安装置 統合形ATS車上装置(Ps形)

列車無線デジタル列車無線(3 形)、防護無線、EB・TE 装置

非常時運転条件2 両編成において 1 車カットで運転可能

駆動系主要設備

主変換装置(コンバータ/インバータ)

形式/質量(㎏) CI24

制御方式2 レベル PWM コンバータ / 2 レベル PWM インバータ

仕様 2MM 制御

主電動機

形式 / 質量(㎏) MT78 / 493方式 三相かご形誘導電動機1 時間定格(kW) 95回転数(min-1) 5 800特記事項

表 1 JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 車両諸元

Page 3: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 25

その他の主要設備

空調装置形式/質量(㎏) AU732A / 475方式 天井集中式容量(kW) 38.4

暖房装置容量(kW) 複数使用形式/質量(㎏) 複数使用

標識灯前部標識灯 LED後部標識灯 LEDその他 -

その他

空気ブレーキ設備

電動空気圧縮機

形式/質量(㎏) C600N圧縮機容量 610 ㍑/min圧縮機方式 往復単動、2 段圧縮

空気タンク元空気タンク 168 ㍑供給空気タンク 165 ㍑

ブレーキ装置 形式/質量(㎏) C162

台   車

形式動台車 DT75B付随台車 TR260B

支持装置車体 ボルスタレス式軸箱 軸はり式

けん引装置 一本リンク式ばね方式 空気ばね、コイルばね

ばね定数

(N/㎜)

まくらばね

軸ばね

コイルばね総合防振ゴム

リンクばね -軸距(㎜) 2 100台車最大長さ(㎜)

動台車 3 290付随台車 3 290

車輪径(㎜) 860基礎ブレーキ

動台車 踏面片押しブレーキ付随台車 踏面片押しブレーキ

ブレーキ倍率 3.2

制輪子動台車 焼結合金付随台車 焼結合金

ブレーキシリンダ×個数

動台車 4付随台車 4

駆動方式 平行カルダン歯数比(減速比) 99:14=7.07継手 TD 継手軸受 密封複式円すいころ軸受

質量(㎏)動台車

先頭車 6 045中間車 5 932

付随台車先頭車 4 129中間車 4 009

その他

車体の構造・主要寸法

構体材料 / 構造ステンレス鋼製

(前頭部は FRP 製)車両の前面形状 貫通形運転室 半室構造

長さ(㎜)先頭車 19 570中間車 -

連結面間距離(㎜)

先頭車 20 000中間車 -

心皿間距離(㎜) 13 800車体幅(㎜) 2 950

高さ(㎜)屋根高さ 3 620屋根取付品上面 4 046(空調装置きせ上部)

床面高さ(㎜) 1 130

車体特性・構造及び主要設備

相当曲げ剛性(MNm2)相当ねじり剛性(MNm2/rad)曲げ固有振動数(Hz)ねじり固有振動数(Hz)内装材 メラミン化粧板ほか側窓構造 固定式 / 上部開閉式妻引戸 自然閉式引戸

側扉構造 両引戸片側数 3

戸閉め装置形式 TK122A方式 直動空気式

腰掛方式 セミクロス方式

車体連結装置

先頭車自動解結付き密着連結器(電気連結器付)半永久連結器

空調換気システム

冷房方式 集中式暖房方式 シーズ線式(腰掛下つり下げ形ほか)換気方式 強制換気配風方式 天井ダクト

車内主要設備

照明方式 LED 式移動制約者設備

電動車椅子対応大形洋式便所、車椅子・ベビーカースペース

便所 洋式トイレ汚物処理 真空式

その他

その他の主要設備

主幹制御器形式/質量(㎏) MEC10方式 左手操作ワンハンドル

速度計装置 直動式指示計車両情報制御システム

モニタ装置 MON18A、B、Cモニタ表示器 10.4 インチ TFT カラー LCD

非常通報装置 通話形(モニタ表示機能付き)

行先表示器前面 LED側面 LED

車内案内表示 LED

放送車内向け あり車外向け あり

車両間連結電気系 電気連結器、ジャンパ連結器空気管系 密着連結器、空気ホース

Page 4: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

2015- 9「車両技術 250 号」26

図1 

編成

Page 5: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 27

図2-

1 形

式図

 H

B-E

211

Page 6: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

2015- 9「車両技術 250 号」28

図2-

2 形

式図

 H

B-E

212

Page 7: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 29

図3 

車体

断面

  

  

  

  

  

  

  

a) 

ロン

グシ

ート

部及

び側

出入

口部

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

 b)

 ク

ロス

シー

ト部

Page 8: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

2015- 9「車両技術 250 号」30

環境負荷の低減を図っているほか、車体幅の拡大や空調装置の能力向上などによるサービス向上、モニタ装置の導入による乗務員や検修作業の支援、機器のメンテナンス軽減など最新の技術成果を採り入れた車両となっている。

2 編成及び車両性能と主な特徴HB-E210 系は、仙台寄りの便所付き先頭車 HB-E211 と

石巻寄りの便所なし先頭車 HB-E212 との 2 両編成を基本として、2 両編成又は HB-E210 系同士の 4 両編成での運転を基本としているが、救援時などは、最大 8 両までの併結 可 能 と し て い る。HB-E211 の 定 員 は 128 名( 座 席 42名)、HB-E212 の定員は 134 名(座席 48 名)とした。運転最高速度は 100 ㎞/h とし、加速度はキハ 110 系と同等の0.64 m/s2(2.3 ㎞/h/s)とキハ 40 系と同等の 0.50 m/s2(1.8㎞/h/s)との切換えを可能としている。また、減速度は0.97 m/s2(3.5 ㎞/h/s)としている。

HB-E210 系は、2 両単位で電源誘導を行う機能を設け、補助電源の容量は、HB-E300 系と同様に 70 kVA としている。また、検修作業時の安全性を向上するため、新たに主回路蓄電池用開閉器を設けた。屋根上には、中央に集中形の空調装置を搭載し、空調装置の前又は後に主回路用蓄電池及び元空気タンクの一部を搭載した。

3 デザイン3.1 エクステリアデザイン

HB-E210 系の走行する仙石東北ラインは、東北本線(仙台-塩釜間)と仙石線(高城町-石巻間)とを接続線を経由して相互に走行するため、仙石線を走行する車両のラインカラーである“青”と仙台エリアを走行する車両のラインカラーである“緑”に加え、東北本線沿線には塩

し お

竈が ま

神社の塩竈ザクラ(天然記念物)などの桜の名所があることから“桜色”を配色した。3.2 インテリアデザイン

客室は、東北本線を走行している E721 系一般形交流電車(編集部注:本誌 233 号 2007 年 3 月参照)と同様に片側3 扉車のセミクロスシート配置としているが、室内中央部に機器室を設けているため、ロングシート部の配置が異なっている。腰掛の色及び形状は、E721 系をベースとした。腰掛の表地の色は、優先席以外の腰掛の背ずり及び座ぶとんを青系とし、優先席の背ずりを赤系としている。3.3 シンボルマーク

助士側の前面窓下部には、“青”と“緑”の二つの四角形を重ねて並べ、重なり部に“桜色”を配したマークを表示して、仙台エリアと石巻エリアとをつなぐ車両であることを表現している。また、運転士側の前面窓下部及び車端寄りの側腰板部には、“HYBRID TRAIN”のロゴを入れてハイブリッド車両であることを表現した。

4 車体構造4.1 主要寸法

車体構造は、同時期に製作した E129 系一般形直流電車(編集部注:本誌 3 ページ参照)と共通化を図っており、軽量ステンレス構体の拡幅車体とした。床面高さをレール面上から 1 130 ㎜とし、震災後、2012 年 3 月 17 日に部分開業した仙石線の陸前小野-矢本間で使用していたキハ

110 系と比べて 45 ㎜低くしている。車体断面形状は、定員増による混雑緩和を図るため、側基準面間(図 3 参照)を2 950 ㎜とし、腰部から下を絞った裾絞り形状とした。この車体断面形状は、基本的にはE233系一般形直流電車(編集部注:本誌 233 号 2007 年 3 月参照)などの電車と共通である。また、連結面間距離及び車体長さは、それぞれ20 000 ㎜及び 19 500 ㎜とした。台車中心間距離は、13 800㎜となっている。4.2 構体

構体及び台枠の主構造は、ステンレス鋼を用いた軽量構造としており、外板の板厚は、先頭部が E721 系の衝撃吸収構造に合わせて 2.0 ㎜、側出入口間は 1.5 ㎜としている。また、側面からの衝撃に対する安全性向上を目的として、台枠横はり、側柱及び垂木の位置を極力一致させたリング構造とするとともに、補強材を追加することで E233系と同等の構体結合部の強化を図った。

ハイブリッドシステム搭載に伴う車体質量増加に対しては、EV-E301 系蓄電池駆動電車(編集部注:本誌 248 号2014 年 9 月参照)と同等の手法によって、側窓などの開口部の周囲に 1.5 ㎜又は 3 ㎜のせん断板を追加するとともに、車体中央部の出入口の側はりに補強を追加することによって、強度及び剛性の強化を図っている。

屋根構体は、高さ 40 ㎜の垂木、板厚 0.6 ㎜のプレス成形製屋根外板(SUS304)及び板厚 1.5 ㎜の歩み板と雨どいとを一体成形したロールフォーミング材で構成している。なお、屋根中央付近に設置した集中式空調装置の取付箇所は、厚さ 1.2 ㎜の平板張りである。

5 客室5.1 客室構造

天井は、中央部に空調風道及びスピーカを、側天井部にロールフィルタを取り付けている。空調装置からの配風は、ラインフロー吹出方式とし、その側寄りに設けたつり手棒受けとの間に LED 式の天井灯を取り付けている。なお、横流ファンは、空調装置に十分な風量と容量とが期待できることから設けていない。

天井厚さは、車体中心部で 220 ㎜とし、客室天井高さは、2 270 ㎜とした。中央天井及び側天井は、表面に印刷焼付塗装アルミニウム板、心材にペーパーハニカムを用いた複合パネルを使用して、冷房風道、吹出部、スピーカ取付部までを含めた一体形としている。

断熱材は、屋根部は厚さ 50 ㎜、側窓の上下部は厚さ 25㎜のポリエステル繊維を接着し、スペースに余裕のない側下降窓部、側戸袋部及び妻部には、瀝

れ き

青せ い

系さび止め絶縁塗料を 1 ㎜の厚さで塗布した。

床厚は、25 ㎜とし、台枠上面のダブテイル形状の厚さ0.6 ㎜のキーストンプレートの上に合成樹脂系床充填材を塗り固め、その上に厚さ 2.0 ㎜の塩化ビニル製の床敷物を貼りつけた構造である。なお、軽量化を考慮して、動台車の直上と機関直上とを除いた部位は、合成樹脂系床充填剤の代わりに、面板にアルミニウム合金を採用した厚さ 9.0㎜の軽量床パネルを用いている。5.2 室内設備

座席は、セミクロスシート配置とし、クロスシート部は、片側 2 列とした。また、客室内には、機器室を配置し

Page 9: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 31

て、ハイブリッドシステム、ブレーキ制御装置、エンジンコントローラなどが格納されている。機器室の壁面には、ハイブリッドシステムの作動状況を表示する液晶モニタを設け、エネルギーの流れが乗客にも分かるようにした(写真 3)。排気管は、排気ダクト及び車内きせの内部に設けてあり、床下から屋根上まで貫通している(写真 4)。

バリアフリーに対する機能の拡充として、各側引戸かもい部には、次駅名などを表示する車内案内表示器及び扉の開閉時に赤色のLEDが点滅する扉開閉表示灯を設置した。5.3 窓及び扉

側窓は、各車に 1 両当たり 6 箇所の上段下降・下段固定式の開閉可能な大窓(下降寸法:1 200 ㎜×315 ㎜)を設け、袖窓及び車端部の窓は固定窓としている。窓ガラスは、可視光線、日射熱線及び紫外線の透過率の低い乗用車用の汎用ガラス(グリーン色)をベースにした IR(赤外線)カット(吸収)ガラスを採用して、客室カーテンを省略している。

側窓きせは、汚れ対策を目的として、つやありのゲルコート仕上げ(室内近似色)の FRP 製を採用した。また、クロスシート部の窓きせは、350 ㎖缶程度の大きさの飲料物を置けるようにテーブル状の突起を設けたほか、窓きせの下部にドリンクホルダを設置した。

側引戸は、内外板にステンレス鋼板を使用し、ハニカム心材を用いた軽量化構造となっている。窓ガラスの固定は、ガラス押え面を用いずに弾性接着剤のみで室内側から固定するダイレクトグレージング構造とした。さらに、戸袋への指巻き込みに対する安全策として、ガラスの表面が引戸内板の表面と同一面となるように取り付けている。なお、側引戸の有効幅は 1 300 ㎜となっている。側引戸の窓ガラスは、室内側ガラスへの結露防止を目的として、複層ガラスを採用した。また、視認性を考慮して室内側のガラスは、側窓よりも薄い色の熱線吸収ガラスを使用した。

運転室仕切り引戸及び妻引戸は、内外板にステンレス鋼板を使用し、ペーパーハニカムの心材を用いた軽量構造となっている。また、両引戸は、ブレーキ機能を有する水平式戸閉め装置を装備して、自然閉機能をもたせている。なお、運転室仕切り引戸の有効幅は 585 ㎜、妻引戸の有効幅は 900 ㎜である。5.4 バリアフリー・ユニバーサルデザイン対応設備

HB-E211 の 4 位側には、車椅子及びベビーカー使用者

が利用できる車椅子・ベビーカースペースを設けた。同スペースには、車椅子に着座したままで使用可能な高さに非常通話装置を設けている。また、優先席部のスタンションポールは、E233 系と同様に曲線形状を採用するとともに、表面を滑り止め加工することによって、より扱いやすい構造としている。

つり手の高さは、ロングシート部の標準高さを 1 630㎜、優先席部は 1 580 ㎜とした。また、荷物棚についても、優先席及び車端部の荷物棚の高さを、一般部と比較して 50 ㎜下げることで低い身長のお客様に対応している。ロングシート部には、中間にもスタンションポールを設け、背の低いお客様のつかみ棒や立ち座りの手がかりとするとともに、着席区分を明確にしている。

優先席スペースは、首都圏の E233 系と同様に優先席エリアの壁面、床及びつり手の色を変えることによって、優先席であることを明確にしている。また、出入口部の床敷物及び側引戸の室内側には、黄色を配し、注意喚起を促すデザインとしている。なお、半自動ドアの開閉ボタンは、“開”側を目立たせ、“閉”側を目立たなくさせるため、ボタンの周囲をグレーにするとともに、“閉”ボタンのランプを点灯させないようにしている。5.5 便所・洗面所設備 

HB-E211 の 3 位側には、車椅子対応大形洋式便所を設置している。この便所は、JIS T 9201 及び JIS T 9203 に適合した車椅子に乗ったままで、使用可能な内部の空間を確保するとともに、客室内の見通しを妨げないように、車体の幅方向(枕木方向)の寸法をできるだけ抑えた構成とした。汚物処理装置は、真空吸引式を採用して臭気対策を図り、扉はボタン操作で開閉する自動扉とした。また、扉の施錠は、便所内の開閉ボタン近くに設けたロックボタンで操作ができるほか、便器に近い位置にもロックボタンを設け、施錠し忘れた場合でも速やかに施錠できるようにした。手洗いは、便座に着座している状態で使用できる位置に設置した。また、便所の入口付近には、手荷物が置けるようにテーブルを設けている。便所内に設置した非常通報装置は、お客様が転倒した場合でも使用できるようにと、足元にも通報ボタンを設けている。

写真 3  液晶モニタ ハイブリッドシステムの作動状況の表示例

写真 4  室内(HB-E212) 手前左側の張り出し部は排気管の車内きせ

Page 10: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

2015- 9「車両技術 250 号」32

図4 

運転

室機

器配

写真

5 運

転台

Page 11: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 33

a) 

床下

機器

配置

 H

B-E

211

b) 

床下

機器

配置

 H

B-E

212

図5 

床下

機器

配置

Page 12: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

2015- 9「車両技術 250 号」34

6 運転室設備運転室は、E721 系同様の半室構造の運転台で、乗務員

の居住空間及び視野角の確保に努めるとともに、E721 系にはないディーゼルハイブリッド車両に特有のスイッチなどを配置したほか、ワンマン運転対応の準備工事を考慮した機器配置としている。また、衝突時における乗務員の保護のため、車体前面部の構造強化を図るとともに、運転席背面には救出口を設けている。助士側は、半仕切り構造とし、仕切窓には大形の窓ガラスを採用して客室と一体感をもたせている。

主幹制御器は、左手操作のワンハンドル形を採用し、右手の手掛内に勾配起動スイッチを設置している。主幹制御器卓内には、リセットスイッチ、システム停止及び定速スイッチを取り付けている(写真 5)。

LED 式の前部標識灯及び後部標識灯は、前面窓ガラス内に配置している。前部標識灯の LED 灯は、拡散用及び集光用がそれぞれユニットになっている。ワイパは、補助アーム付きの電動式で、常にブレードが垂直方向となっており、運転台側と車掌台側とを対称に配置している。なお、予備ワイパは、設けていない。

7 機器配置7.1 床下機器配置

HB-E211 は、前位(先頭寄り)に動台車、後位(連結妻寄り)に付随台車を配置し、HB-E212 は、前位(先頭寄り)に付随台車、後位(連結妻寄り)に電動台車を配置している。台車間には、動台車寄りから、主変換装置(CI)、放熱器(ラジエータ)、電動空気圧縮機、除湿装置、車体中央か

ら付随台車寄りに燃料タンク、発電装置(ディーゼル機関及び発電機)、蓄電池箱、冷却系及び吸排気系の部品、整流装置箱、S 抑圧装置、主回路蓄電池開閉器、直通予備空気タンクを配置している。また、HB-E211 は、妻面床下に汚物タンクを配置した。

燃料タンクは、飛石などからの影響を防ぐため、今回始めて、燃料タンク中腹から下部にかけて、厚さ 4 ㎜の防爆塗料を塗布している。また、燃料タンクの吸い込む空気の流速を測定して、燃料漏れを判断する燃料漏れ検知装置用のセンサを床下に装備している。なお、HB-E210 系から主回路用蓄電池と主断路器との間に主回路蓄電池用開閉器を設けているが、これは、感電事故の防止を目的として、主回路を遮断するためのものである(図 9 参照)。7.2 屋根上機器配置

屋根上には、中央部に空調装置を設け、HB-E211 の前位寄り及び HB-E212 の後位寄りには、主回路用蓄電池箱を 2 箱設置した。また、HB-E211 の後位寄り及び HB-E212 の前位寄りには、42 ㍑の元空気タンクを 3 本配置している。広帯域空中線(列車無線アンテナ)は、空中線性能と打上げ角を確保するために、一辺 400 ㎜の正方形の接地板を設け、運転室上部及び連結妻上部に配置している。また、運転室上部には、AW-2 空気笛及び信号炎管装置を配置した。なお、HB-E210 系は、直流架線下を走行するため、全ての屋上機器は、車体と絶縁又は絶縁カバーを設けて取り付けている。7.3 車両間設備

HB-E211 と HB-E212 との間に取り付けた貫通ほろは、耐久性向上及び下部の垂下防止を図ったものである。HB-

図 6-2 屋根上機器配置 HB-E212

図 6-1 屋根上機器配置 HB-E211

Page 13: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 35

E212 の後位には、他編成と連結する際に使用するほろを搭載しているが、併結時の扱いを考慮して、軽量化ほろを採用している。また、HB-E211 と HB-E212 との間には、ホームから車両連結面間への転落事故防止の目的で、合成ゴム製の外ほろ(連結面間転落防止装置)を設けているが、外ほろ部へのカラー帯は省略した。なお、運転室下に配置した電子笛は、警笛としての機能のほかに、併結運転時に先頭車同士の連結部の隙間を乗降口と勘違いして転落する事故を防ぐため、側引戸が開いている間は、転落防止の注意を喚起する転落防止放送が可能となっている。

8 主要機器8.1 ハイブリッドシステムの概要

ハイブリッドシステムには、ディーゼル機関(エンジン)出力と主電動機(モータ)出力とを動力分配して車輪に伝達する“パラレル・ハイブリッド方式”と、ディーゼル機関出力を発電によって、電気エネルギーに変換し、このエネルギーを基に主電動機を駆動して出力を得る“シリーズ・ハイブリッド方式”があるが、HB-E210 系では、“シリーズ・ハイブリッド方式”を採用した。シリーズ・ハイブリッド方式の特長は、駆動系を機械的に直結していないため、車両の速度と関係なくディーゼル機関の回転数を制御できることである。このため、最も燃料消費率が低い回転速度でディーゼル機関を定速運転することで、低燃費と排出ガス低減とを両立できるなどの利点がある。8.2 発電装置

発電機は、HB-E300 系及びキハ E200 形で使用しているものと同じ DM113 形を採用した。発電機は、ディーゼル機関に直結駆動され、車両運行に必要な電力を発電する。発電機のメンテナンス(保全)周期は、ディーゼル機関のメンテナンス周期に合わせることとしているが、非解体走行期間の延長を目的に、軸受部は中間給油可能な構造とするとともに、絶縁軸受を採用している。

ディーゼル機関は、キハ E120・キハ E130 系から採用している DMF15HZ 形を基本とした DMF15HZB-G 形を採用した。総排気量 15.24 ㍑の 4 サイクル直列 6 気筒横形直接噴射式のターボチャージャ及びアフタークーラを装備した機関である。スタータがないこと及び過給機が水冷式であることが DMF15HZ との相違点である。定格出力/回転数は、331 kW(450 PS)/2 100 min-1 である。この機関は、燃料噴射系に高圧電子制御システム(コモンレール・高圧フューエルサプライポンプ)を採用することで、クリーンな排出ガス性能と低騒音とを実現した次世代の環境に優しいディーゼル機関となっている。なお、抑速ブレーキとして、排気ブレーキを使用している。8.3 主変換装置(CI)

主変換装置は、主電動機 2 台を制御するインバータ、主発電機 1 台を制御するコンバータ及び補助電源装置(SIV)から構成する CI24 形を搭載している。インバータ、コンバータ及び SIV の入力段には、それぞれ断流器を設けており、個々に制御されている。また、2 台の主回路蓄電池を各々独立して制御するために、各回路には断流器及びバッテリトランジスタ(BTr)を設けている。

CI24 形主変換装置の特徴は、次の通りである。(1)  コンバータ、インバータの主回路機器のほかに、

SIV、交流フィルタ(ACC)及び SIV 用出力トランス(IvTR)の補助電源回路機器も含めて一体箱に収納し、床下占有面積の小形化を図った。

(2)  主スイッチング素子に、安定した耐圧特性を有し、高熱疲労耐量を確保した車両用 1.7 kV 1 200 A IGBTモジュールを採用して信頼性の向上を図っている。

(3)  主回路電圧を定格 DC 680 V に設定したことによって、主回路方式を 2 レベルスナバレス方式として、シンプルかつ小形・軽量なパワーユニットを実現している。また、コンバータ、インバータ、SIV の全てについてパワーユニットの共通化を図り、保守性の向上を図っている。

(4)  主スイッチング素子の冷却方式に、純水を冷媒としたヒートパイプによる自然空冷方式を採用しており、保守性の向上と無公害化を図っている。

(5)  主電動機及び主発電機の制御方式に、全 PWM モード対応形単一制御系ベクトル制御方式を採用しており、全運転領域にわたって制御モードの切換えなしに、トルク制御の高精度化及び応答性の向上を図っている。

(6)  主回路用非常蓄電池ユニットを搭載しているため、主回路蓄電池開放運転中に機関が停止状態となったときでも、運転台の“エンジン非常始動”スイッチを扱うことで、非常蓄電池の出力で機関を始動して、コンバータ発電を確立し、通常走行を可能とする。

(7)  主回路用非常蓄電池ユニットを搭載したにも関わらず、SIV 出力用トランスにリーケージトランスを採用することで、従来必要であった交流リアクトル(ACL)を省略でき、HB-E300 系に搭載の CI20 形と同等寸法を実現している。

8.4 主回路用蓄電池箱主回路用蓄電池箱は、主回路蓄電池モジュール、冷却フ

ァン、バッテリコントローラ、電源装置、バッテリスイッチ、抵抗器及びヒューズを収納し、主回路エネルギーの充電及び放電を行う。蓄電池箱は、2 重系となっており、冗長性をもたせている。8.5 主電動機

主電動機は、HB-E300 系及びキハ E200 形で使用している MT78 形を採用して、軽量化及び低騒音化と保守の省力化とを実現した。また、新保全体制の 240 万㎞走行非解体使用を目標に絶縁軸受及び中間給油可能な構造を採用したほか、低騒音化を目的に排気方向を下方向のみとするなど の 特 徴 が あ る。 出 力 は、95 kW で 定 格 回 転 速 度 は5 800 min-1 である。8.6 ブレーキ装置

ブレーキ制御装置は、ブレーキ制御器、ブレーキコード変換器、圧力変換器及び空気ブレーキ関連弁をユニット化した床上置き形の C213 形で、各車に 1 台を搭載している。床上配置となるため、多段式中継弁に防音カバーを設けている。なお、HB-E210 系では、HB-E300 系と比較して、次の変更を行っている。

(1) 搭載箇所を床下から床上に変更した。(2)  調圧器と耐雪ブレーキ回路とを個別にカットできる

ようにコックを追加している。(3)  ちりこし及びコックをリングガスケットタイプに変

Page 14: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

2015- 9「車両技術 250 号」36

図7 

動台

車(D

T75B

写真

6

Page 15: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 37

図8 

付随

台車(

TR26

0B)

写真

7

Page 16: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

2015- 9「車両技術 250 号」38

図9 

主回

路つ

なぎ

Page 17: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

JR 東日本 HB-E210 系一般形ディーゼルハイブリッド車両 39

図 10 カ行性能曲線

図 11 ブレーキ指令曲線

Page 18: JR東日本 HB-E210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 · 2015. 9. 25. · jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両 23 jr東日本 hb-e210系一般形ディーゼルハイブリッド車両

2015- 9「車両技術 250 号」40

更した。8.7 電動空気圧縮機

電動空気圧縮機は、変位容積 600 ㍑/min 級の MH3125-C600N 形を採用した。この空気圧縮機は、小形軽量、低騒音、低振動及び保守低減を目的として開発したもので、当社にて実績を持つ往復形単動 2 段圧縮機を採用し、誘導電動機にて駆動する。ぎ装は、防振ゴムを介して車体につり下げている。8.8 制御用蓄電池

制御用蓄電池は、公称電圧 7.2 V の単位電池(モノブロック蓄電池)を接続導体で直列に接続している。単位電池は、単電池 6 セルで構成され、正極板、負極板、セパレータ、モノブロック電槽及びふた、液口栓ふた、電池カバー、電解液、極柱、座金、ボルトなどからなるもので、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して内部に貯えておき、使用時に直流電力を供給するものである。8.9 空調装置及び暖房装置

空調装置は、冷房能力 38.4 kW(33 000 kcal/h)の集中式クーラー AU732A 形を屋根上に 1 台搭載した。客室側には、車内全長に引通した冷風吹出し口及び車内空気を吸込むグリルをもつリターン吸込口を装備する。客室内の空気は、リターン吸込口から吸い込まれ、熱交換器で冷やされた空気は、ダクトの長手方向に 2 本配置されたライン状の吹出し口から客室内へ吹き出される。

暖房装置は、客室内のクロスシートの下部に 480 W シーズ線式ヒータをつり下げ方式で搭載したほか、ロングシート部は、500 W シーズ線式ヒータをけ込み部に内蔵している。また、車椅子スペースには、450 W 壁掛け式シーズ線式ヒータを設置した。腰掛の温度が異常上昇することを防止するために、ハイリミットセンサを各車に 1 台搭載している。運転室内は、運転士側に 1 700 W、助士側に860 W のファン付きヒータを各 1 台搭載している。8.10 戸閉め装置

戸閉め装置は、E721 系同様の直動空気式 TK122A を採用している。この装置は、半自動機能のほか、万が一、荷物や体の一部などがドアに挟まった場合でも容易に脱出できるように、ドアが閉まった後に、一旦、戸閉め力を弱める戸閉め力弱め機構を設けている。8.11 車両情報制御システム

モニタ装置 MON18 形は、各車両に搭載されているモニタ制御装置、モニタ表示器、モニタ装置運転状況記録装置間をシリアル伝送路にて結合し、機器動作情報の収集及び授受を行い、これらの情報を基に運転士支援、車掌支援、検修支援などを行う機能を有している。また、乗客に対するサービス向上を図るため、前面及び側面の行先表示器、車内案内表示装置などへの指令機能をもっている。8.12 車内案内表示装置

車内案内表示装置 IES93-G2 形は、各車両の側かもい点検ふた部に設置した。この装置は、モニタ装置からの受信データによって、64 ㎜角 16 ドットの 3 色 LED を用いて、現在駅、次停車駅、行先駅、各種案内文章などを表示する。また、ドア信号の入力によって、ドア開閉時に注意喚

起用のチャイム音を出力する。8.13 行先表示器

行先表示器は、前面及び側面の 4 位側に各々 1 箇所ずつ設置した。前面行先表示器は、96 ㎜ 16 ドットルーバ付きの高輝度 3 色 LED を使用して、運転路線名、列車種別及び行先駅名を表示する。側面行先表示器は、64 ㎜角であるほかは、前面行先表示器と同じである。8.14 放送装置及び非常通報装置

放送・連絡・非常通報装置は、乗務員から乗客への放送(車内、車外、車内+車外)、乗務員間連絡通話、乗務員

と客室間の非常通報通話が行える。車内、車外、車内+車外放送の切替えは、E721 系と同じく、速度条件(5 ㎞/h)及び車外スイッチのオン/オフによって行う。非常通話押しボタンは、HB-E211 は、車椅子・ベビーカースペース及び車椅子対応大形洋式便所内に各々 1 箇所ずつ、HB-E211 は、後位側機器室の 1 箇所に設置している。

9 台車台車は、HB-E300 系用台車を基本とし、極力部品を共

通化できるように設計したボルスタレス台車であるが、軸ばねに EX ばね(JR 東日本のばねの形式名称)を用いた点が HB-E300 系 台 車 と 異 な る。 台 車 形 式 は、 動 台 車 がDT75B、付随台車が TR260B である。HB-E300 系と同様に雪かき、フランジ塗油装置、セラジェット噴射装置を装備可能であるが、新製時は全て準備工事である。

車輪は、動台車用が B 形波打車輪(油圧抜き穴付き)、付随台車用が N-A 形波打車輪(油圧抜き穴付き)で、車輪径は、いずれも 860 ㎜とした。車軸は、動台車用及び付随台車ともに HB-E300 系用と共通品である。車軸軸受は、HB-E300 系、E129 系 で 使 用 し て い る 円 す い こ ろ 軸 受JT12H を採用した。軸箱支持装置の構造は、軸はり式で各台車共通である。軸箱体は、一体形で HB-E300 系用と基本構造は同じあるが、速度発電機を取り付ける軸箱は、車輪転削時のチャッキング性を考慮して、従来の軸箱寸法よりも枕木方向へ 7 ㎜延長させた点が HB-E300 系用と異なる。軸箱支持ゴム(軸はりゴム)は、ばね定数を見直したもので、HB-E300 系と同じ部品である。軸ばねは、HB-E300 系用の EP ばねよりも硬い新設計の EX ばねを用いている。なお、軸ダンパは設けていない。

歯車装置は、HB-E300 系を基本とし、歯数比を 7.07 とした。小歯車軸受は、HB-E300 系と同じ QT9A であるが、大歯車軸受については、従来の QT29 から、ころ形状をパーシャルクラウニング化した QT29A とした。TD 継手については、HB-E300 系用と同じ部品である。

10 おわりにHB-E210 系は、交流電化の東北本線、直流電化の仙石

線及び非電化の接続線に対応する本格的な通勤用ハイブリッド車両となった。2015 年 5 月 30 日から運転を開始し、仙台-石巻間を最速 52 分で結ぶ。仙台地区の利便性を向上させ、東日本大震災の復興支援の一助になる事を期待している。