19
JR 北海道 789 系 1000 番代特急形交流電車 22 1.はじめに 1.1 投入目的 1000 番代は、1978(昭和 53)年の量産先行試作車投入以 来、旭川方面及び室蘭方面のL特急として運用してきた 781 JR 北海道 789 系 1000 番代特急形交流電車 ※鬼 とう とも あき 写真1 外観 要旨 北海道旅客鉄道株式会社(JR 北海道)では、旭川方面及び室蘭方面へのL特急として運用してきた 781 系特急形交 流電車の置換え用に、789系1000番代特急形交流電車(以下「1000番代」という。)を開発した。1000番代は、函館 ~八戸間を「スーパー白鳥」として運行している789系0番代(以下「0番代」という。)を基本に構造や設備を変更 しており、折返し頻度が高く乗降人員の多い札幌圏での運転を考慮して、先頭部への貫通路を省略した高運転台非貫 通構造とした上で運転室側開戸を設け、全車片側2箇所の乗降口を設ける構造とした。また、耐寒耐雪構造は0番代 を踏襲している。2007(平成 19)年 10 月のダイヤ改正に合わせて「スーパーカムイ」及び「エアポート」用に7編成 35両を投入した。(編集部注: 789 系0番代車両は、本誌 225号- 2003 年9月参照) ※ 北海道旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸部 運用車両課 写真2 室内(u シート車) 写真3 室内(普通車)

JR北海道 789系1000番代特急形交流電車...22 JR北海道 789系1000番代特急形交流電車 1.はじめに 1.1 投入目的 1000番代は、1978(昭和53)年の量産先行試作車投入以

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JR北海道 789系1000番代特急形交流電車22

1.はじめに1.1 投入目的

1000番代は、1978(昭和53)年の量産先行試作車投入以

来、旭川方面及び室蘭方面のL特急として運用してきた781

JR北海道 789系1000番代特急形交流電車

※鬼き

頭とう

知とも

彰あき

写真1 外観

要旨

北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)では、旭川方面及び室蘭方面へのL特急として運用してきた781系特急形交

流電車の置換え用に、789系1000番代特急形交流電車(以下「1000番代」という。)を開発した。1000番代は、函館

~八戸間を「スーパー白鳥」として運行している789系0番代(以下「0番代」という。)を基本に構造や設備を変更

しており、折返し頻度が高く乗降人員の多い札幌圏での運転を考慮して、先頭部への貫通路を省略した高運転台非貫

通構造とした上で運転室側開戸を設け、全車片側2箇所の乗降口を設ける構造とした。また、耐寒耐雪構造は0番代

を踏襲している。2007(平成19)年10月のダイヤ改正に合わせて「スーパーカムイ」及び「エアポート」用に7編成

35両を投入した。(編集部注:789系0番代車両は、本誌225号-2003年9月参照)

※ 北海道旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸部 運用車両課

写真2 室内(uシート車) 写真3 室内(普通車)

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2008 - 3「車両技術235号」 23

図1 編成図

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JR北海道 789系1000番代特急形交流電車24

会社・車両形式�

使用線区�

基本編成�

用途�

車体製作会社�

台車製作会社�

主回路装置製作会社

個別の車種形式�

車種記号(略号)�

空車質量(t)�

運転整備質量(t)�

定員(人) �

うち座席定員(人)�

特記事項�

北海道旅客鉄道㈱・789系1000番代�

函館線・千歳線�

5両(2M3T)�

特急列車・快速列車等�

川崎重工業㈱�

川崎重工業㈱�

㈱日立製作所�

軌間(㎜)�

許容軸重(kN)�

電気方式�

製造初年�

1次製作両数�

車両技術�

1 067�

交流20 000 V - 50 Hz�

2007�

35両�

235

クハ789-1000�

Tc1�

39.0�

39.0�

52�

52

モハ789-1000�

M�

40.5�

40.5�

64�

64

モハ789-2000�

Mu�

42.0�

42.0�

49�

49

クハ789-2000�

Tc2�

39.0�

39.0�

50�

50

� � � �

車両性能�

電気駆動系主要設備�

最高運転速度(㎞/h)�

加速度(m/s2)�

減速度�

(m/s2)�

ユニット当りの定格出力(kW)�

定格速度(㎞/h)�

ユニット当りの引張力(kN)�

動力伝達方式�

�ブレーキ制御方式��

制御回路電圧(V)�

こう配条件�

抑速制御�

車軸配置�

運転保安装置�

列車無線�

非常時運転条件�

130(設計最高:140)�

0.67 (2.4 ㎞/h/s)�

0.69 (2.5 ㎞/h/s)�

1.39 (5.0 ㎞/h/s)�

1 840(1時間定格)�

178�

平行カルダンTD継手式�

回生ブレーキ併用電気指令式空

気ブレーキ、直通予備ブレーキ、

耐雪ブレーキ(応荷重、滑走再

粘着、遅れ込め、全電気制御付)�

DC100�

20 ‰�

-�

2軸ボギー�

ATS-SN�

C形列車無線�

1M車カット(1M4T)で20

‰の上りこう配で起動可能�

N-PS785�

シングルアーム式�

N-CI789A�

3レベルPWMコンバータ・

2レベルPWMインバータ�

N-TM789A-AN・2 580 ㎏�

1 280�

-�

N-CI789A・2 812 ㎏�

N-MT731・640 ㎏�

かご形三相誘導電動機�

230 kW�

2 180�

210 kW

常用�

非常�

TA

MTr

�集電装置�

�制御装置�

�制御方式�

主変圧器�

�主整流器�

主変換装置�

主回路標�

準限流値�

形式・質量�

方式�

1時間定格�

回転数(�-1)�

連続定格�

力行(A)�

ブレーキ(A)�

主電動機�

サハ788-1000�

TA�

41.0�

41.0�

68�

68

M

CI

Tc2

CP,SIV

Mu

CI

Tc1

CP,SIV●;駆動軸�○;付随軸�

←旭川� 小樽→�

MTr:主変圧器 CI:主変換装置 CP:空気圧縮機 SIV:補助電源装置�

形式・質量�

方式�

形式・質量�

形式・質量�

定格容量(kVA)�

形式・質量�

形式・質量�

表1 JR北海道 789系1000番代特急電車 車両諸元

Page 4: JR北海道 789系1000番代特急形交流電車...22 JR北海道 789系1000番代特急形交流電車 1.はじめに 1.1 投入目的 1000番代は、1978(昭和53)年の量産先行試作車投入以

2008 - 3「車両技術235号」 25

車体の構造・主要寸法�

車体特性・構造及び主要設備�

その他の主要設備�

構体材料/構造�

車両の前面形状�

運転室 �

長さ�

(㎜)�

連結面間�

距離(㎜)�

心皿間距離(㎜)�

車体幅(㎜) �

高さ�

(㎜)�

床面高さ(㎜)�

ステンレス�

非貫通形�

高運転台�

21 200�

20 800�

21 670�

21 300�

14 400�

2 812(出入台部)�

3 970�

4 020�

1 150

相当曲げ剛性(MN㎡)�

相当ねじり剛性(MN㎡/rad)�

曲げ固有振動数(Hz)�

ねじり固有振動数(Hz)�

内装材�

側窓構造�

妻引戸�

�側扉�

戸閉装置�

�腰掛方式�

車体連結�

装置�

空調換気�

システム�

車内主要�

設備�

アルミ化粧板、FRPなど�

固定式・ポリカ-ガラス複層ユニット�

片引式�

片引式�

2�

TK-107B�

直動空気式�

回転リクライニングシート�

密着連結器�

半永久連結器�

屋根上集中式�

シーズ線式(座席取付)�

強制換気�

天井ダクト�

直接照明・蛍光灯�

車いすスペース、車いす対応便所�

共用洋式、男子小便所�

真空式�

その他の主要設備�

補助電源�

装置�

�蓄電池�

空調装置�

�暖房装置�

�空気圧縮�

機�

空気タンク�

�前照灯�

尾灯�

N-APS789�

混合ブリッジ+IGBTインバータ�

7.5 kVA(AC100 V 50 Hz)、�

2 kW(DC100 V)�

シール鉛蓄電池�

50�

N-AU789A・800 ㎏�

34.9�

6�

MH1785・C2000ML・535 ㎏�

2 000 ㍑/min�

単相誘導全閉形�

先頭車:165+85 ㍑、中間車:85 ㍑�

245 ㍑�

HID、ハロゲン、シールドビーム�

LED

台     車�

�形式�

支持装置�

�けん引装置�

ばね方式�

軸距(㎜)�

ばね�

定数�

(N/㎜)�

台車最大長さ(㎜)�

車輪径(㎜)�

基礎ブレ�

ーキ�

ブレーキ倍率�

�制輪子��

ブレーキシリ�

ンダ・個数�

駆動方式�

歯数比(減速比)�

継手�

軸受�

質量�

(㎏)�

N-DT789A�

N-TR789A�

ボルスタレス式�

軸はり式�

一本リンク方式�

空気ばね(まくら)、コイルばね(軸)�

2 100�

370�

1 212�

Tc前位:4 831、その他:3 706�

810�

踏面両抱き�

踏面両抱き、軸ディスク併用�

M:8.33、T踏面:5.99、Tディスク:2.42�

合金鋳鉄制輪子�

合金鋳鉄制輪子�

4�

4�

平行カルダン�

93:21=4.43�

TD継手�

密封複式円すいころ軸受�

7 080�

Tc前位:5 640、その他:5 420

M台車�

T台車�

車体�

軸箱�

まくらばね�

コイルばね�

防振ゴム�

M台車�

T台車�

M台車�

T台車�

M台車�

T台車�

M台車�

T台車�

ブレーキ�

ブレーキチョッパ�

ブレーキ抵抗器�

ブレーキ装置�

形式・質量�

形式・質量�

形式・質量�

-�

-�

N-C789

屋根上面�

屋根取付品上面�

構造�

片側数�

形式・質量�

方式�

先頭車�

中間車�

冷房方式�

暖房方式�

換気方式�

配風方式�

照明方式�

移動制約者設備�

便所�

汚物処理�

主幹制御器(質量)�

速度計装置�

車両情報制�

御システム�

非常通報装置�

行先表示�

器�

車内案内表示�

列車情報装置�

�放送��

車両間連�

結�

ワンハンドルマスコン・53 ㎏�

電気式速度計�

N-789LON�

TFTカラーLCD(640×480)�

通話形�

96×192フルカラーLED�

64ドット3色LED(8列×3段)�

16ドット3色LED(12列×2段)�

-�

あり�

-�

先頭:NKE96,中間:NKE104�

連結器�

モニタ装置�

モニタ表示器�

前面�

側面�

車内向け�

車外向け�

電気系�

空気管系�

軸ばね� 総合�

形式・質量�

方式�

�容量��

種類・質量�

容量(Ah)�

形式/方式/質量�

容量(kW)�

容量(kW)�

形式・質量�

圧縮機容量�

電動機方式�

元空気タンク�

供給空気タンク�

先頭車�

中間車�

先頭車�

中間車�

Page 5: JR北海道 789系1000番代特急形交流電車...22 JR北海道 789系1000番代特急形交流電車 1.はじめに 1.1 投入目的 1000番代は、1978(昭和53)年の量産先行試作車投入以

JR北海道 789系1000番代特急形交流電車26

系特急形電車の置換え用に製作したものであり、2007年6

月から7編成(35両)が順次落成し、同年10月のダイヤ改

正から785系との共通運用で札幌~旭川間のL特急「スーパ

ーカムイ」及び札幌~新千歳空港間の快速「エアポート」

用車両として投入した。車体の基本構造や主要機器の考え

方は、函館~八戸間を「スーパー白鳥」として運用してい

る「0番代」に準じているが、札幌圏での運用に向けて

様々な改良を加えたことから車両形式を1000番代としてい

る。

1.2 主な特徴

1000番代は、0番代をベースに、空港アクセス(快速)

運用に伴う頻度の高い折返し運転や乗客の乗降性を考慮し

た構造に変更を行った。さらに、共通運用を行う785系特急

形交流電車(以下「785系」という。)と客室レイアウトや

客室設備をできるだけ合わせたものとした。

大きな変更点は、先頭部の貫通路を省略し、運転室側開

戸を設けた高運転台構造としたことである。0番代や281系

特急形気動車などでは、高速走行における運転士の安全性

確保と運用効率を両立した高運転台貫通形構造、運転室側

開戸を設けない構造としていることが最大の特徴であるが、

それに対し、今回は5両固定編成で増結や併結運用がない

ことと乗降客の多い札幌駅で行う折返し運転とを考慮した

からである。また、快速運用における乗客の乗降時間の短

縮を目的に、1両当たり片側2箇所の出入口を設けた。

耐寒耐雪構造は、0番代を踏襲しており、同区間を共通

運用する785系よりも性能を強化している。785系で冬期間

に開閉不良などのトラブルが多発した出入口は、261系特急

形気動車及び0番代で採用し、冬期間の開閉動作にも実績

のある押付シリンダ式高気密側引戸を採用した。また、床

下機器フルカバー構造にして着雪量の抑制を図り、バラス

ト飛散による事故の防止や融雪作業の低減に努めた。

2.編成及びレイアウト2.1 ユニット構成

0番代では、増結運用を可能とするため2両又は3両ユ

ニットの組合せで組成していたが、1000番代では、785系と

同様に5両固定ユニットとした。785系では3M2Tのユニッ

ト構成であるが、1000番代は主回路構成の見直しによって

2M3Tを実現した。

従来からJR北海道の電車や新形式気動車はユニット名を

つけて管理をしているが、1000番代は、781系の「L」を受

け継いで「HL」(Hokkaido Limited express)とした。今

回は7編成を投入するので、ユニット名は「HL-1001~

1007」となる。(参考:785系は「NE」、0番代は「HE」、

261系0番代は「SE」、261系1000番代は「ST」)

2.2 編成レイアウト

編成は、旭川方から、Tc1車・M車・TA車・Mu車・

Tc2車の構成とした。

Tc1車,Tc2車のそれぞれ後位側に共用便所、男子用小便

所、洗面所を、M車の後位側に飲料の自動販売機を、TA車

の前位側出入台にはカード専用電話を後位側にはリネン庫

を設けた。Mu車はuシート(ユーシート:普通車の座席指

定席)車両であり、前位側に車いすスペースや車いす対応

便所を設けた。後位出入台付近には車掌室及び業務用室と

して車掌業務に必要な設備を設けた。Tc2車の客室後位側

には一人掛腰掛を2席設けているが、これは快速「エアポ

ート」区間での優先席となり、車いすのお客様にもご利用

頂けるような設備とした。

3.車両性能3.1 力行性能

共通運用の785系と同等の性能とし、設計最高速度は140

㎞/hで営業最高運転速度は130 ㎞/hとした。力行性能は空

車から200 %乗車までの応荷重機能をもっており、起動加

速度(0→71 ㎞/h)は、0.67 m/s2(2.4 ㎞/h/s)である。

また、新千歳空港駅からの上りこう(勾)配を考慮し、1M

車カットの状態(1M4T)で20 ‰の上りこう配での起動が

可能な性能とした。

3.2 回生性能

回生性能は、引張力と同程度の回生ブレーキ力をもって

おり、200 %乗車時のT車遅れ込め制御ありで最大、減速

度0.62 m/s2(2.22 ㎞/h/s)分を負担する性能とした。

3.3 曲線通過性能

785系の曲線通過性能と同等とし、振子や車体傾斜機能は

設けていない。曲線半径Rにおける通過速度は、R<400

m:本則+10 ㎞/h、400 m≦R<600 m:本則+15 ㎞/h、

600 m≦R<700 m:本則+20 ㎞/h、700 m≦R:本則+25

㎞/hである。

4.車体4.1 車体構造

車体は、0番代と同様に軽量ステンレス構造で、両先頭

車の先頭部は鋼製とした。側構体は、JR北海道では初めて

レーザ溶接を使用しており、外板の歪みを今までのスポッ

ト溶接よりも抑えている。また、台枠横はり、側柱、屋根

たるきの位相をできるかぎり一致させたリング構造として、

理想的なセミモノコック構体としたことによって側面強度

を向上している。

車体断面は、車体傾斜制御機能はもっていないが731系近

郊形電車や201系近郊形気動車から使用している3°傾斜を

考慮した断面を踏襲した。

先頭車の先頭部は、281系特急形気動車から採用している

高運転台構造で、0番代と外形が同一ではあるが貫通扉は

設けていない。また、先頭部には愛称表示用のLED表示器

を設けており、その上にダミー窓を設けている。愛称表示

器の横に設けた前照灯は、装置及び配列は0番代と同一で

あるが、前照灯窓の切欠き形状を若干変更しており、多少

異なった印象を与えるようにしている。スカート形状は0

番代と同様、排雪機能向上形とした。

床面高さは、レール面から1 150 ㎜であり0番代と同様と

している。客室床構造は、床根太と床板(アルミ板4.0 ㎜)

の間に新幹線車両などで採用実績がある厚さ4.0 ㎜の極難燃

性のゴムマットを取付け、防振や防音効果をねらった簡易

な浮床構造とした。

客室側窓は、冬期の窓ガラス破損を防止するため、ポリ

カーボネートと強化ガラスの複層一体構造を採用した。こ

れは、耐擦傷性コーティングを施している8㎜のポリカー

ボネート板と4㎜の強化ガラスを11 ㎜の空気層を介してユ

ニット化した構造で(PC8A11TP4)、0番代のような複層

ガラスと外側のポリカーボネートをアルミ形材の枠で囲ん

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2008 - 3「車両技術235号」 27

図2-1 形式図(Tc1)

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JR北海道 789系1000番代特急形交流電車28

図2-3 形式図(TA)

図2-2 形式図(M)

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2008 - 3「車両技術235号」 29

図2-5 形式図(Tc2)

図2-4 形式図(Mu)

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JR北海道 789系1000番代特急形交流電車30

図3 カ行特性

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2008 - 3「車両技術235号」 31

図4 回生ブレーキ特性

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JR北海道 789系1000番代特急形交流電車32

でユニット化したポリカガード方式とは異なる構造として

いる。

そのほか、側引戸や乗務員用側開戸、前面の愛称表示器

などの窓には単板のポリカーボネートを使用した。

出入口は、エアポート運用にも使用されるため、できる

だけ短時間で乗降できるように全車片側2箇所ずつ設置し

ており、Tc1、Tc2車の後位、M、Mu車の前位出入口は有

効開口900 ㎜、それ以外は700 ㎜とした。また、785系と共

通運用となるため、できるかぎりドア位置を合わせるよう

にした。

各車両間には、ホームからの転落防止用にゴム製の転落

防止ほろを取付けた。

4.2 エクステリア

エクステリアデザインは、清潔感があり都会的でクール

な印象のシルバーメタリックのボディに、伸びやかな横方

向の流れを基調としたラインを加えてスピード感を表現し

た。ラインは、JR北海道のコーポレートカラーのライトグ

リーンと、ライラックやラベンダの香りを感じさせるバイ

オレットをアクセントとした。

5.客室設備5.1 室内構造

腰壁、窓きせは不燃性のFRPで、小天井は新火災対策に

適合したメラミン化粧板、天井も新火災対策に適合した

FRP製とした。また、荷棚は0番代を基本にしているが、

溶融滴下対策のため忘れ物防止用ののぞ(覗)き部は、透

明なアクリルを廃止し、照明カバーとデザインを統一した

アルミの打抜き材を使用した。

床敷物は塩ビ床敷物で、腰掛下部は通常タイプの床敷物、

通路部は平滑であるがノンスリップタイプの床敷物とした。

図5 車体断面図

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2008 - 3「車両技術235号」 33

uシート車は、上質感の演出と吸音のために、腰掛下部を

タイルカーペットとした。

照明は、0番代ではハロゲンランプと昼白色蛍光灯を組

合わせたものであったが、1000番代では、普通車は電球色

蛍光灯のみとし、uシート車は電球色蛍光灯とLED照明を

組み合わせて、普通車と差別化を図ったものとしている。

LED照明は当社として初めての採用で、ハロゲンランプの

置換えとして省エネ化とメンテナンスの軽減を図った。

出入台、通路は明るいオフホワイトを基調とし、引戸や

折戸は機能に合わせて色を変えて明確化を図った。

5.2 uシート席

uシート車は、アースカラーを基調として腰掛形状に丸

みをもたせてラウンドフォルムとすることで、優しさを感

じられるデザインとし、快適性と機能性を融合させた空間

とした。普通席に対して幅及び全高を拡大した腰掛を採用

し、シートピッチは1 050 ㎜とした。可動式ヘッドレスト

を設け、腰掛背面にはパソコン用コンセント、チケットホ

ルダ及びドリンクホルダを装備した。そのほか、室内に大

形荷物置場を設置した。また、窓きせは内帯中央部をくぼ

めた形状とし、窓側ひじ掛上のスペースをできるかぎり広

くするようにし、窓側の座席にお座り頂いた場合でもゆと

りを感じて頂けるようにした。

5.3 普通席

普通車は、uシートより少しカジュアルな印象で、赤みが

あるブラウン系の腰掛を採用し、電球色の照明とすること

で暖かみがあり安らぎが感じられるデザインとした。シー

トピッチは960 ㎜であるが、腰掛の取付け構造を見直しす

ることでお客様が前席の腰掛の下に脚を伸ばせるような構

造とした。

5.4 その他設備

Mu車の便所は車いす対応であるが、更に当社として初め

てオストメイト用簡易形設備を設置し、多目的便所とした。

Tc1,Tc2車に一般の共用便所及び男子用小便所を設けた。

また、小便所の横に設置した洗面所は、個室構造の部屋に

洗面台を設置したほか、着替えなどで使用できる足載せ台

を設置し、多目的な用途に使用できる多機能化粧室とした。

そのほか、各車の出入台の通路にびん・缶・ペットボト

ルとそれ以外の一般ごみを分離したごみ箱を設置し、分別

回収とリサイクル率向上など、環境へ配慮したものとした。

さらに、このごみ箱は、ごみ箱内に危険物がないか確認で

きるように長穴形状ののぞき窓を設けた構造とした。

6.運転台運転操作機器及び計器関係は、721系近郊形電車以降で採

用している左手ワンハンドルマスコンを踏襲しており、従

来車両と大きな変更は行っていない。主幹制御器は、力行

6N、常用ブレーキ7N+非常ブレーキの操作を行うものと

した。正面の計器台には、各表示灯、圧力計、速度計、車

両情報制御装置(モニタ)のタッチパネル式画面などを設

けた。

なお、速度計の上部には、福知山線脱線事故に伴う技術

基準(省令)の改正に対応する新ATSの表示器類の増設

を考慮したスペースなどを設けている。

7.主要電気機器

7.1 主回路

1000番代の主回路構成は、785系に対して主回路機器の高

効率化やモータ出力を向上するとともに、主回路構成を見

直し、2M3T化を実現し、省メンテナンス化及びライフ

サイクルコストの低減を実現した。この主回路構成の見直

しによって1パンタ化を図ったが、VCB以下の主回路構成

をすべて2系統化することで冗長性を高めたシステムとし

ている。

回生ブレーキは、停止まで有効となる全電気ブレーキを

採用した。また、高速域での加速時のエネルギー損失を低

減する高効率運転制御(100 ㎞/h以上で走行中に力行4ノ

ッチをとった場合、2M車のうち片方の主変換装置を停止

し、1M車のみの効率の良い出力状態で走行をするもの)

を採用した。

主変圧器は、外鉄形で2次巻線×2、3次巻線×1の走

行風自冷式のN-TM789A-ANであり、各編成ともTA車に

2台搭載した。

主変換装置は、N-CI789Aで、制御方式は、新3レベル単

相電圧形PWMコンバータ、2レベル三相電圧形PWMイ

ンバータの2個モータ(台車)制御2群構成で、直流回路

電圧は1 800 Vまでの可変方式として、1パルスモード運転

率を向上し高効率化を図った。

主電動機は、731系以降採用している三相かご形誘導電動

写真4 多目的便所 写真5 のぞき窓付ごみ箱

写真6 運転台

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図6 主回路つなぎ

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図7-1 床下機器配置(その1)

Tc1 M

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図7-2 床下機器配置(その2)

Mu

TA

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図7-3 床下機器配置(その3)

Tc2

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図8 電動台車

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図9 付随台車

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機N-MT731(230 kW)とした。雪切室からの冷却風(夏

期:18 m3/min,冬期:14.5 m3/min)による強制冷却方式

としている。

7.2 補助電源装置

静止形インバータ方式(SIV)とし、0番代と同じN-

APS789を採用した。主変圧器の3次巻線のAC400 Vを入

力として、コンバータ部ではサイリスタ+ダイオード混合

ブリッジでDC100 V・12 kWを、インバータ部ではIGBT

をPWM制御してAC100 V・15 kVAを出力している。走

行時に故障が発生した場合の輸送障害を最小限に食い止め

るため、電源誘導を運転室に居ながらモニタ画面を介して

遠隔操作できるシステムとした。

7.3 空調装置

インバータ制御圧縮機を採用し、室内送風機で代用する

ことによって新鮮外気ファンを省略した屋根上集中式ユニ

ット形空調装置で、各車両に1台ずつ搭載した。冷房時の

能力は34.9 kW(30 000 kcal/h)とした。モニタ装置から送

信される制御指令、設定温度、外気温度を取り込み、これ

らのデータと各車両の温湿度センサの検出値によって、圧

縮機の運転周波数可変による冷房制御と稼働率可変による

暖房制御を行う。

8.床下ぎ装床下機器は、着雪防止を目的に全車フルカバー方式を採

用した。このフルカバー方式は、785系中間増備車(M1,

M1'車)以降0番代でも採用している方式と同様である。従

来の機器箱はそのまま車体にぎ装し、その機器箱間をふさ

ぎ板で覆うことで床下の機器が大きな一つの機器箱となる

ような構造にしている。

床下機器配置の基本的な考え方は、札幌在姿場面で海側

(Tc1,M,TA,Mu車の2-4位側、Tc2車の1-3位側)

に補助電源装置や主変換装置の無接点制御装置などの電子

機器を配置し、山側(Tc1,M,TA,Mu車の1-3位側、

Tc2車の2-4位側)にブレーキ制御装置などの空制関係

の機器を配置した。さらに、制御関係の引通し及び制御ジ

ャンパを海側に配置した。

9.台車9.1 基本構造

1000番代の台車は、0番代の台車をベースに走行速度の

違いや不具合などの対策を反映した軽量ボルスタレス軸は

り方式である。電動台車(M台車)はN-DT789A、付随台

車(T台車)はN-TR789Aと称する。

車輪径はφ810 mmの小径車輪とし、一体圧延車輪(M

台車:B種、T台車:A種)で修正円弧踏面とした。

9.2 基礎ブレーキ装置

電動台車は踏面両抱き方式で、ブレーキシリンダは径φ

160×ストローク160 ㎜のダイヤフラム式とし、ブレーキて

こ比を8.33(合金鋳鉄制輪子使用)とした。

付随台車はディスクブレーキ併用踏面両抱き方式で、踏

面ブレーキのシリンダは径φ160×ストローク160 ㎜のダイ

ヤフラム式とし、ブレーキてこ比を5.99(合金鋳鉄制輪子

使用)とした。ディスクブレーキは、1軸に1枚のディス

クを取付け、ブレーキシリンダは径φ200×100 ㎜のダイヤ

フラム式とし、ブレーキてこ比を2.42とした。

9.3 駆動装置

歯車装置の形式はKD521-A-Mで、駆動方式はTD継手式

平行カルダン軸駆動方式、減速方式ははすば歯車による一

段減速、歯車比は4.43(大歯車93:小歯車21)とした。

TD継手の形式はTD282-N2H-Mであり、CFRP製1枚タ

イプのたわみ板を使用し、たわみ板及び中間継手の締結に

はハードロックナットを使用した。また、TD継手カバーで

完全に覆う構造とした。

10.ブレーキ装置1000番代のブレーキシステムは、731系や0番代と同様の

電空変換比例弁を用いた電気指令式空気ブレーキ方式とし

た。

省エネルギー及び省力化を目的に回生ブレーキとしてい

るが、更にT車遅れ込め制御及び速度0㎞/hまでの全電気

ブレーキ制御を採用した。T車遅れ込め制御は「Tc1-

M-TA」「Mu-Tc2」のユニット構成とした。

2M3T化による回生ブレーキのT車負担率の低下から、

高速域からのブレーキによるT車の踏面ブレーキへの負担

を軽減するために、T台車には1軸に1枚ディスクブレー

キを取付けたディスク踏面併用式とした。

11.おわりに1000番代は札幌運転所所属であり、2007(平成19)年6

月から各種の性能確認試験、養成及び訓練運転を実施し、

同年10月のダイヤ改正で、785系との共通運用で、旭川~

札幌~新千歳空港間の「スーパーカムイ」及び「エアポー

ト」としてデビューを果たした。併せて、785系の一部が札

幌~室蘭間の「すずらん」として運行を開始した。これに

伴い、30年近く北海道で活躍してきた781系はすべて引退

し廃車となった。

新千歳空港に降り立った多くのお客様に、札幌や旭川へ

の移動の足として1000番代にお乗り頂くことを願っている。

さらに、極寒の厳しい気象条件にある旭川方面でこれまで

活躍してきた781系の代わりとして、冬期間も安定した運行

を確保するよう引き続き努力する所存である。

最後に、今回の車両開発にあたり、多数の関係者にお世

話になったことをこの場を借りて感謝申し上げる。写真7 床下機器フルカバー