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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title グローバルな投下労働量の計測(The Measurement of Global Labor Value) 著者 Author(s) 萩原, 泰治 掲載誌・巻号・ページ Citation 国民経済雑誌,189(2):17-31 刊行日 Issue date 2004-02 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/00055906 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00055906 PDF issue: 2020-12-25

Kobe University Repository : Kernel義し,(2)「 マルクスの基本定理」の成立の可否を論じ,(3)国 際産業連関表を用いて,グ ローバルな投下労働量を算出し,どの国に剰余労働が存在しているかを示すことである。ユ

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Page 1: Kobe University Repository : Kernel義し,(2)「 マルクスの基本定理」の成立の可否を論じ,(3)国 際産業連関表を用いて,グ ローバルな投下労働量を算出し,どの国に剰余労働が存在しているかを示すことである。ユ

Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le

グローバルな投下労働量の計測(The Measurement of Global LaborValue)

著者Author(s) 萩原, 泰治

掲載誌・巻号・ページCitat ion 国民経済雑誌,189(2):17-31

刊行日Issue date 2004-02

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/00055906

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00055906

PDF issue: 2020-12-25

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グ ローバ ル な投 下労働量 の計測*

萩 原 泰 治

グローバルな投下労働量を定義し,世 界全体での利潤の存在条件であるいずれか

の国で搾取が存在するという世界レペルでの 「マルクスの基本定理」を示した。国

際産業連関表を用いて計測した結果,単 純集計や教育水準の差を考慮 した場合,ア

ジアの労働だけが搾取されているという結果となった。貨幣賃金率をウェイトとす

るとその他世界を除く全ての国・地域での搾取の存在が示された。

キー ワー ド グ ローバル な投 下労 働量,搾 取,マ ル クス の基 本 定理

1.は じ め に

労働の提供に対 してその報酬 として得 られる賃金財に投下された労働量が小さいこと(剰

余労働の存在)と,利 潤が存在することが同値であることは 「マルクスの基本定理」 として

知 られている。本稿の目的は,(1)国 際分業 を考慮 したときのグローバルな投下労働量を定

義 し,(2)「 マルクスの基本定理」の成立の可否 を論 じ,(3)国 際産業連関表 を用いて,グ

ローバルな投下労働量 を算出し,ど の国に剰余労働が存在 しているかを示すことである。ユ

置塩[1957コ は投下労働量により労働価値 を定義 した。投下労働量は, t・=

iZ.1ai」ti+T」 ま た はt=:tA+・(1)

 

で 与 え られ る。 こ こで,α`5:第 ノ財1単 位 の 生 産 に 必 要 な 第i財 の量,む:第 ノ財 の 生 産 に 直

接 投 入 され た 労 働 量,ち:第 ノ財 の生 産 に直 接 ・間接 投 入 され た労 働 量 。A,t,τ は 行 列 表 現 で,

そ れ ぞ れ,

alla120●Oaln

a21a22`66a2n

A=,t=(tlt2…tn),τ=(τ1τ2… τn)

anlan2●'Oann

を意味する。nは 部門の数である。(1)式 の右辺第2項(τ)はMarxの 用語では 「生 きた労

働」,第1項(tA)は 生産財の価値であ り 「死んだ労働」にあたる。

置塩は,投 下労働量の概念 を用いて,利 潤の存在 と搾取の存在が同値であることを証明 し

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18 第189巻 第2号

た。この命題 は 「マルクスの基本定理」と呼ばれ,次 の ように導出される。すなわち,第 ブ財

の価格 をp,,全 ての部門に共通な貨幣賃金率をwと す るとき,利 潤が全ての部門で存在する

ことは,

カPj>Σ αガρf+ω τゴ ま た はp>PA+zvτ(2)

i=1

と表せる(利 潤存在の条件)。労働者が労働 と引き替えに獲得 した賃金で購入する消費財バス

ケッ トを(b,,b2.…bD「 とす ると,労 働者が最大限購入で きる消費財はねω=ΣbiP,ま た はw=Pb(3)

i-1

とな る。 労 働 者 が(3)式 を満 た した 消 費 財 を購 入 す る と利 潤 存 在 条件((2)式)は

P(1-A-~ 》τ)>0(4)

とな る。3

(1-A-bτ)が ホー キ ンス ・サ イ モ ン条 件 を満 たす と き,正 の価 格 と正 の 利 潤 が 両 立 す る。

(1-A一 ろτ)に 生 産 量 ベ ク タ ー(x)を 右 か らか け る と,

(1-A-bτ)x>0(5)

(5)式 は剰 余 生 産 物 が 全 て の部 門 に存在 して い るこ と を示 す 。(1-A-bτ)が ホ ー キ ンス ・サ

イ モ ンの 条 件 を満 た す と き,(1-A)も ホー キ ン ス ・サ イ モ ン の条 件 を満 たす の で,t>0と

な る。(5)式 にtを 左 か らか けて,

0<t(1一 ノ4-bτ)x=t(1-A)x-tbTX=cr-tbTX=(1-tb)τ κ(6)

総 雇 用 量 が 正(0<切 の た め,0〈1-tbで な け れ ば な らな い。 内積tbは1単 位 の 労 働 の提 供

に よ り労 働 者 が獲 得 で き る消 費 財 バ ス ケ ッ トb=(b、.b2,… ろD'に 投 下 され た労 働 量 の 和

(tb=t,b,+t2b2+…+t。b∂ を 意 味 す る。0く1-tbは,提 供 し た労 働 よ り少 な い価 値 の 賃 金 し

か得 て い な い こ と(tb<1>,す な わ ち搾 取 が 存 在 して い るこ と を示 す。この よ うに して,「マ ルる

クスの基本定理」は証明される。

(1)式 の定義に基づいた投下労働量を計測するためには,い くつかの間題が存在する。 ま

ず指摘 しておく必要があるのは,投 下労働量は物量単位での計測を前提 にしているが,利 用

可能なデータは金額単位であることである。すなわち,自 動車1台 に投下された労働量は何

人(あ るいは何時間)で あるかを投下労働量 と考 えている。そのためには,投 入係数(砺)

は自動車1台 を生産するために必要な鋼材の重量等の物量単位 で計測 されていなければなら

ない。 しかし,産 業連関表 において利用 されるデータは自動車百万円分 を生産す るために必

要な鋼材の金額である。

物量単位の投入係数(砺,τ,)と 金額単位の投入係数(α も,τの の聞には

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グローバルな投下労働量の計測 19

*PiXijPi*Njl%冒 璃 菖耳σ酌 冒璃5瓦 ち

と い う関係 が あ る。 こ こで,

ず一ゑ弼 ・ず・ゑ鴫%・ かぼ

ρ∫ら*謬、ζ ρ・彦・*%+ち

であり,(1)式 が同時に成立 しているので,p,t:ニ ちでなければならない。したがって,金 額

単位の投入係数で測 られた投下労働量は,物 量単位の投入係数で測 られた投下労働量 と価格

の鰍 鴨)を 示す・とがわかる・

第二に,投 下労働量の計算には,産 業連関表 における中間投入だけでな く資本減耗 に相 当

す る投入 も追加されなければな らない。全産業の投資の構成が共通であると仮定 して,産 業

別の減価償却費を固定資本形成のシェァで按分する。すなわち,

輔x・+歳 賜}歳∫

である。

第三に,貿 易の取 り扱 いの問題がある。外国製品が投入されるとき,外 国製品の直接 ・間

接投下労働量が計算 されなければ,投 下労働量の計算ができないからである。置塩[1977]

は,輸 入品の投下労働量はそれを獲得するために必要な輸出品の投下労働量で定義 されると

考 えた。すなわち,輸 出に占め る各産業の金額ではかったシェアをeiと すると,輸 出金額1

単位 に投下された労働量は,

e=Σeitii

である。輸入財 を1単 位獲得するためには輸 出を1単 位行わなければならない。各産業にお

いて1単 位の生産に輸入財が 〃Zj単位必要であるとき,各 産業の生産物 に含 まれる輸入財の

投下労働量は

解∫・=苧解幽

で あ る。 した が っ て,輸 入 品 を考 慮 に 入 れ た と き,(1)式 は,

ら=、駐(%+・ μ ∫)`鵡

と修正される。

(7)

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20 第189巻 第2号

このような貿易 に関する処理は,一 国内で投下労働量を計算できるという意味で優れたも

のであるが,

(1)輸 出額の構成に影響される

(2)交 易条件に依存する

という点で問題があると思われる。一国単位での産業連関表 しか利用できなかった時代にお

いてはやむを得ない処理であったが,国 際産業連関表が作成 される現在では,別 の方法 も検5

討 されなければならない。

以下,第2節 で,国 際産業連関表 における投下労働量の理論的展開を行い,第3節 で,投

下労働量計算のためのデータ整備 について説明 し,第4節 で計算結果を述べる。

2.国 際投下労働量とマルクスの基本定理

勉国存在 し,相 互 に非競争的 〈非代替的)な 産業が各国に%産 業 あるとする。世界全体で

(mn)産 業存在 している。第1国 第ブ産業が1単 位生産するために必要 とされる第k国 第i産

業の財の投入量を 婿 とする。第1国 第 ノ財の雇用係数を τ5とする。世界共通の通貨(た と

えば,米 ドル)で 測った第1国 の貨幣賃金率を ω1,第9国 第 ノ財の価格を 拷 とする。各国,

各産業で利潤が正であるためには,一 国経済 における(2)式 と同 じように,

ののρ1・

、ζ1、Σ1・露+ω'考(8)

が成立 していなければならない。行列表示では,

P>PA+ω τ

となる。記号はそれぞれ,投 入係数行列

撚 ㌶!-i{ii鷺労 働 投 入 係 数 行 列

τ1τ1… τlo…o

oτ1τ 舞 … τ蓋 …oτ=

00… τIltτ穿 … τ∬

国 ・地 域 別 賃 金 ベ ク タ ー と価格 ベ ク タ ー

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グローバルな投下労働量の計測 21

w・=(wlω2… ω耀)

P==(P}pl…pAplpl…pl…pTρ 『 … ρ浬)

これは,見 か け上(2)式 と同 じであるが,各 国で貨幣賃金率が異なることを反映 して,w

はスカラー変数ではなく,吻 次元の行ベクターであ り,そ れに対応 して,τ も行ベ クターでは

なく,(m×mn)の 行列である。一国経済 を考 えている場合は,,ほぼ同一の賃金が支払われて

いるため,異 なる産業で雇用 されていても同一の労働であると解釈することができた。 しか

し,様 々な国を含む世界経済 を対象 とする場合,国 ・地域間での貨幣賃金率の格差が存在 し

ている。労働の質自体の格差 を反映する部分 も存在するか もしれないが,賃 金水準の差はそ

れを説明する以上の格差であると考えられ る。そこで,労 働 自体は均質であるが,異 なる賃 

金水準で雇用 されている点を明確 にするために,形式的に国・地域ごとに異なる労働が雇用さ

れていると考える。各国の労働者の消費バスケッ ト(δ)は,世 界通貨単位で測った貨幣賃金

率の格差 と生活習慣の相違を反映 してそれぞれに異なる。

 じ け

ω 霜々 Σ Σ うタ'ρlzσ=ρ ∂1貫1ゴ=1

(9)

はk国 労働者が購入する1国 第i財 の量 を示す。

直接労働投入係数が行列で表示 されるの にあわせて,直 接 ・間接投下労働量 も行ベクター

ではな く,〃吻×彿(財 の数 ×国の数)の サイズの行列で表示 される。

'=

tlit杢it毒it}2tl2

tlltl1…'釜1tl2'釜2

t望i'牙1…t望1理2t『2

tl2

tl2

'72

tlmtlm…tAm

tlmt3m…'許

'野朋'野 …'裂 ㎜

謬 は,第1国 第ブ財1単 位に直接・間接投下 された第k国 労働の量を示す。 この直接 ・間接投

下労働量は,

  ゆ

ぢL蔦、ζ'拷+づま た はt=tA+τ(10)

れ ロ'タLご

1、ζ ∫鰭forle≠1

 

を満 たす ように決定 される。

(10)式 により決定 される投下労働量 を 「グローバルな投下労働量」,(7)式 により決定 され

る投下労働量 を 「一国の投下労働量」と呼ぶ。両者の相違点は,輸 入財の投下労働量の評価

である。一国の投下労働量では,輸 入財の投下労働量はそれに対応する金額の輸 出財に投下

された自国労働で与えられ,グ ローバルな投下労働量では,輸 入財に投下 された各国の投下

労働量で与えられる。自国財及び輸入財に投下 された自国及び外国の労働が輸入財 と自国財

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22 第189巻 第2号

の区別を明らかにするために,(10)式 を書 き換えた,

だ れ

4L浮 謁'1「曜 ちζ'1'・3+ぢ

あ り

t;1=Σ Σ 磨 曜+Σ 班 嬬 ノ'orleSlr≠'ド1 ド1

(10-a)

(10-b)

を考 え る。(10-a)式 の右 辺 第2項 と第3項 は,貿 易 を無 視 した投 下 労 働 量(形 式 的 に は(1)

式 に よ り表 され る)に 等 しい 。 第1項 は,自 国 生 産 物 が 再 輸 入 され る こ とに よ る追 加 分 で あ

る。(10-b)式 の右 辺 第1項 は輸 入 され た外 国 財 に含 まれ る外 国 労 働 の投 下 労 働 の 部 分,第2

項 は 自国 財 に含 まれ る外 国 労働 の 投 下労 働 の 部 分 で あ る。

一 国経 済 の 場 合 と同様 に利 潤 存 在 の 条 件 は,(8)式 よ り

p(1-A-bτ)>0(11)

で あ り,mn行mn列(1-A-bτ)の 行 列 が ホ ー キ ンス ・サ イ モ ンの 条 件 を満 た さな け れ ば

な らな い 。 この と き,全 て の 国 ・地 域 の 産 業 に つ い て正 の剰 余 生 産 物 を生 産 で き る よ うな生

産 の 構 成(x>0)が 存 在 す る。 す な わ ち,

0<(1-A一 拗 κ(12)

両 辺 に投 下 労 働 量 行 列tを 左 か らか け る と

0<彦(1・-A-bτ)x=t(1-A)x-tbtX=cr-tbTX

(13)=(1-tb)TX

各 国 の 雇 用 量 ベ ク ター(切 が 正 で あ る た め,m×m行 列

(1-tb)(14)

はホーキンス・サイモンの条件を満たす・行列tbの 第fe行 第1列@・ 細 は,第1国 の労

働者がその労働1単 位の提供 に対 して受 け聖 る賃金バスケッ トに含まれる第姻 の労働の量

で あ る。

行(1-tb)列 が ホ ー キ ンス ・サ イ モ ンの 条 件 を満 た す こ との 意 味 を考 え て み る。 まず ,(13)

式は識 国において投入された総労働量僻 苧・殉 より洛 国の労瀦 の受臓 った賃

金財に含 まれる第 々国の労働量が少 ないことを示 している。

¥(多 苧糊 κぎくNk(15)

こ れ は,各 国 で 正 の 剰 余 生 産 物 が 生 産 され て い る とい う(12)式 か ら導 か れ た もの で あ る。

(15)式 は,行 列(1-tb)の 右 側 か ら各 国 の 総 労 働 投 入 量 ベ ク タ ー をか け て評 価 した もの だ

が,次 に行 列(1-tb)の 左 側 か ら正 の ベ ク タ ー を か け た 場 合 の 経 済 学 的 な 意 味 に つ い て考 え

て み よ う。 行 列(1-tb)が ホー キ ンス ・サ イ モ ンの 条 件 が 満 た さ れ る こ と は,適 当 な正 ペ ク

タ ー(μ>0,μ:(1×m))を 選 び,左 か らか け て

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グローバルな投下労働量の計測 23

;(苧 写 姻 μ々<・1・f・ ・1-1・ …m・ ・μ(・一・b>(16)

を満 たすことができることを意味する。ここで,ベ クター μは各国の労働 を共通の労働 に換8

算する換算比率 と解釈で きる。(16>式 の左辺は,第1国 の労働者がその労働1単 位(共 通の労

働 μ`単位)の 提供に対 して受け取る賃金財バスケッ トに含 まれる各国の(共 通単位ではかっ

た)労 働量の合計 を示 している。(16)式 は,「全ての国の労働者が自己の提供 した労働 より少

ない労働量が投下された消費財 しか受け取れないような(す なわち搾取が存在する)換 算比

率が存在する」 ことを示 している。 しかし,そ の換算比率は必ず しも妥当な比率であるとは

限 らない。労働の質に違いがあるとしても,そ の換算比率が(16)式 を満たす とは限らない。

すなわち,労 働者がその労働の提供 に対 してそれ以上の労働が投下された賃金財を受 け取 る

国が存在 しうる。 しか し,す べての国で労働者が自己の労働以上の労働 を投下 した賃金財 を

受け取ることはあり得ない。ホーキンス ・サイモンの条件が成立 しているときに(16)式 です

べての符号が逆になるのは,換 算比率(μ り がすべてマイナスである場合に限 られる。 した

がって,各 国の労働をどのように換算 して も,す べての不等号が逆になることはあり得ない。

すなわち,労 働者がその労働の提供に対 してそれ以下の労働が投下された賃金財 を受け取 る

(搾取が存在する)国 が少な くとも一国存在する。「マルクスの基本定理」はこのような意味

で成立 している。

(16)式 の両辺を1国 の換算比率で割った

?(苓 多姻 μ々/・t,forl・1,…m(17)

は,1国 の労働者が1単 位の労働 を提供 した報酬 として受け取る賃金 により購入される消費

財に投下 された労働量 を1国 の労働で測ったものであり,搾 取率は

θ'=

?(苓 多糊 μ々 /・t

と して 定 義 さ れ る。

1-¥(写 写糊 μ々 /・t

(18)

3.国 際産業連関表によるデータ作成

本節及び次節では,グ ローバルな投下労働量を計測 し,各 国で利潤が存在す るための条件 

が どの よ う に成 立 して い るか を調 べ る。グ ローバ ル な投 下 労 働 量 を計 測 す る こ とに よ り,国 際

分 業 の状 態 を 明 らか にす る こ とが で きる。 また,「 マ ル ク ス の基 本 定 理 」 に つ い て,一 国 モデ

ル に お い て は剰 余 労 働 の存 在(0<1-tb)は 自 明 で あ り,搾 取 率((1-tb)/tb)の 水 準 だ けが

問 題 で あ る。 一 方,グ ロ ー パ ル モデ ル に お い て は,他 国 の 労働 の 搾 取 に よ り利 潤 を得 るが 自

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24 第189巻 第2号

国 の 労 働 に つ い て は搾 取 が 存在 しな い国 が 存 在 しう る く(17)式 の値 が1以 上,(18)式 の値 が

ゼ ロ また は マ イナ ス)。 そ の よ うな ケ ー ス が あ るか 否 か を調 べ る こ とは重 要 で あ る。

国 際 労 働 価値 の 計 測 に は,世 界 各 国 の 産業 連 関表 及 び 貿 易 マ ト リック ス が 必 要 と され る 。

この 目 的 に も っ と も近 い デ ー タ と して通 商産 業 省(現 経 済 産 業 省)に よ り作 成 され た 「1985

年 日 ・米 ・EC・ ア ジア4国 ・地 域 国 際 産 業 連 関表 」,「1990年 日 ・米 ・EU・ ア ジア4国 ・地 域

国 際 産 業 連 関表 」 が あ る。 日本(J),米 国(U)の2力 国 と英 国,フ ラ ンス,ド イ ツ の3力 国

か らな る ヨー ロ ッパ 地 域(E),韓 国,中 国,台 湾,イ ン ドネ シ ア,マ レー シ ア,フ ィ リ ッ ピ

ン,シ ンガ ポ ー ル,タ イ の8力 国 か らな るア ジ ア地 域(A)と その 他 世 界(R)の 地 域 間 表 で あ

る。 同 表 をべ 一 ス に して,デ ー タ の利 用 可 能 な範 囲 で,投 下 労 働 量 を算 出 し,(17)式 の 条 件

の 成 立 を吟 味 す る。 同 表 は各 国 ・地 域(J,U,E,A)37部 門 か ら な り,第1表 の よ うな構 成 と

な っ て い る。

第1表 国際産業連関表の構成

X"Xノ ひX凋Xμ

xのxび σx㏄x㎝

X理XEびX館X崩

x41x測x超x朋

C/Z/E/

Cひ1びE/

Cβ1EE/

CA/4Eノ

px/

pxひ

px8'

px4'

x砂XRσx姻x瑚 CR∫R

瑠V/1切 〉σ 嗣>8切V4

ヱ)蜴P/D帰Pひ1)面P亙DEP乃

X/XひXEX4

ここで,

{X:・・1}:(37×37),forle=J,U,E,A,1;J,U,E,A

x々L{Xタ」}:(1×37),ノbrle=1~,lr7,U,E,.A

耐 一{曜LD砂L{ρ 曙LX'一{xl}・(1x37),f・ ・1-」,U,E,A

c・-ll:1::::驚傑 譜 ②1A

{、苧'}:(37×4),ノ'or陀,1=.LU,E,A

1々=

{llt}:(1×4),ノbr々 胃R,1=/,こ1,E,A

Ek={Eタ'〕:(37×4),ノbr々,1== .1,こ;,E,A

原データ利用上の問題 とそれに対する対応は,下 記の通 りである。(1)内 生部門に38番 目

の産業 として 「家計外消費」が含 まれている。 この項 目は通常付加価値部門 と最終需要部門

に位置づけ られている。この部門は,日 本で しか利用可能でないということ,ま た産業部門

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グローバルな投下労働量の計測 25

としての意味があまりないと考えられることか ら,除 去する。(2)原 データにおいて,自 国

自産業に対する自己投入は,ゼ ロとなっている(aS・S・=0)。統計作成上の問題からくる処理で

あるが,こ れについての修正は行わない。(3)そ の他世界(ROW:RestoftheWorld)か ら

の輸入は,37部 門に分割 されているが,ROWは1部 門 として集計量のみを利用す る。(4)運

賃・保険の項目は無視す る。(5)減 価償却費が米国とECで 不完全である。(6)そ の他世界の

データが不完全である。(7)雇 用データが利用できない。最後の3つ の問題(5),(6),(7)

に対 しては,以 下の処理を行った。

減価償却費 について,「国際産業連関表」において,日 本 とアジアの減価償却項 目は整備 さ

れているが,米 国,ECで は,不 完全である。まず,英 仏独三国からなるECで は ドイツの減

価償却 しか示 されていない。そこで国民経済計算における3国 の減価償却費を用いて,ド イ

ツの産業別減価償却費(1)EP多)に(3力 国のマクロ減価償却費合計÷ ドイツのマクロ減価償

却費)を かけて修正 した。次に米国の産業別減価償却費は 「国際産業連関表」では全 く利用

できないeそ こで,ま ず,日 本,EC(修 正済み),ア ジアについて産業別に減価償却費一総生

産額比率を計算 し,日,EC,ア ジアの産業別平均値

吻(ブ)一÷{響 ・穿 ・勤 一 …37

を計算する。碗ρ(ノ)を米国の総生産額にかけて減価償却額の一次推計値 を出す。この合計値

が米国の国民経済計算の減価償却額(DEPMACRou)に 等 しくなるように調整する。

瞬 吻(ゴ)xダo鍔 綴s

次 に,そ の他世界(ROW)は,行 部門としては存在するが,列 部門としては,ROWに 対

す る輸出 として しか扱われていない。そこで,ROWは1部 門からなると考える。表 を完結 さ

せるためにはROWの 投入係数 と最終需要構成比率を与えなければならない。「国際産業連

関表」におけるその他世界(ROW)は,カ ナダ,イ タ リア等の先進国,ア フ リカなどの途上

国,旧 ソ連な ど多様な国々を含んでいる。そこで,第 一次接近 として 「国際産業連関表」に

おける4国 ・地域の平均的な係数であると考える。利用可能なデータは,4国 ・地域か らそ

の他世界(ROW)に 対する輸出だけである。その他世界(ROW)の 自国依存度が4国 ・地域

の平均 と同 じであるという仮定をお く。すなわち,4国 ・地域について,自 国 ・自地域に対

する自己投入比率(α`)と 他国地域投入比率(β`)

ゴー響 β一響

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を計算 し,そ れぞれの平均値(a,β)を その他世界(ROW)の 値 とする。これを用いて,中

間 財 投 入 係 数 を

瑳α磐 一βferle=去U,E,A,fori=1,ΣΣ

忍`'rs

RR_α 一α

..。37

とする。消費,固 定資本形成についても同 じような手続 きを経て,そ の他世界(ROW)の 係

数を作成する。減価償却一総生産額比率(DEPR/XR),雇 用者所得一総生産額比率(WNR/XR)

は,日 ・米 ・EC・ アジアの平均値を用いる。

最後に,雇 用者データと貨幣賃金率について述べる。日本については,(旧)経 済企画庁 『国

民経済計算年報』の経済活動別就業者数,雇 用者数を用いる。米国については,米 国商務省

のSuweyofCui7rentBtcsz'ness記 載のGDPbyIndustryの 産業別フルタイム換算雇用者数

(FTE)と 就業者数(PEP)を 用いる。英独仏,ア ジア,そ の他世界はILOy勿 γBoo々of

LabourStatisticsか ら各国・地域の産業別就業者数 と雇用者数を採 る。ILOの データは,農 林

水産業,鉱 業,製 造業,電 気 ・ガス ・水道,建 設,商 業,運 輸 ・通信,そ の他サービスの8

産業に分類 されている。

国際連関表及び日本,米 国の労働データは,製 造業の産業 も細分化 されているが,紙 数の

制約 もあ り,農 林水産業,鉱 業,製 造業,建 設業,サ ービス業の5部 門に集計す る。各国 ・

地域の貨幣賃金率は,総 雇用者所得を総雇用者数で除 した ものを用いる。

以上の手続 きにより,分 析に用 いる国際産業連関表の準備 はできた。最後 に,マ クロデー

タによる比較 を行 う。国・地域別のGDP,就 業者数,雇 用者数,貨 幣賃金率を表2に 示 して

いる。

第2表 概 観

就業者数 雇用者数 雇用者所得 貨幣賃金率 一人あた りGDP 為 替(百万人) (百万人) (十億USド ル) (千USド ル/人) (千USド ル/人) レ ー ト

85年90年 85年90年 85年90年 85年90年 85年90年 90年

日 本 5659 4246 7191,604 16,9934.86 13,2225.91 0.67

米 国 103115 94105 2,3703,260 25.2831.05 17.6723.22 1.00

英 独 仏 7177 6267 8751,988 14.1129.65 10.8420.50 0.66

ア ジ ア 637731 533611 326548 0,610.90 0,440.62 1.06

そ の 他 世 界 573672 347397 2,1683,971 6,259.99 1,372.35 0.90

為替 レー ト変化率は,地 域通貨/USド ルの対85年 変化率 を示 す

先進諸国(日,米,英 独仏)は,GDPで は世界の60%を 占めているが,就 業者数で世界の

約10%,雇 用者数で世界の約25%で ある。これに対 して,ア ジアはGDPに ついては3%に 過

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グローバルな投下労働量の計測 27

ぎないが,就 業者,雇 用者それぞれ,約35%,約25%を 占めており大 きな労働供給源 となっ 

ている。その他世界(ROW)は,GDPで30%,就 業者数,雇 用者数で約50%を 占めている。

一方 ,貨 幣賃金率は,先 進諸国(日,米,英 独仏)に 比べて,ア ジアは約10分 の1で あり,

その他世界(ROW)も 半分以下の水準にある。米国 ドル建ての貨幣賃金率は85年 から90年の

変化率は国 ・地域ごとに差があるが,為 替 レー トの変動を考慮 して自国通貨建て貨幣賃金率

の変化率を見るとかな り格差が縮小することがわかる。

雇用者 と就業者の比率を見 ると,先 進諸国は,約70-80%程 度であるのに対 して,ア ジア と

その他世界(ROW)は,約30%で ある。就業者 と雇用者の差は,自 営業者,家 族労働などの

賃金支払いを受けない労働者である。財の生産にどれだけの労働が投下されたかを考える上

では,就 業者データを利用することが望ましい。一方,データとして観測されている賃金(雇 用

者所得/雇 用者数)は,雇 用者概念である。本稿では,賃 金支払いを受けていない労働者(un-

paidworker)も 雇用者 と同 じ賃金 を支払われているもの として計算を行 う。

4.実 証 分 析

第3節 で作成されたデータを用いて,グ ローバルな投下労働量((10)式)の 計測結果 とさ

まざまな労働換算比率のもとでの搾取率((17)式,(18)式)の 算出結果 を示す。

各国・地域の財 を千USド ル生産するために直接 ・間接必要 とされる各国 ・地域の労働を図

示 したものが第1図 である。5つ の点を結んだ線は,左 から日本の製品,米 国の製品,英 独

第1図 投下労働量の計測

1000.00

oo隠1

oon

不等価交換

(t/

P)対数軸

ooL

10α

0,01

国 ・地域 と産業

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仏の製品,ア ジアの製品を,右 端の点は,そ の他世界を示 している。その他世界を除 く4つ

の国 ・地域 に関する点はそれぞれ左か ら農林水産業,鉱 業,製 造業,建 設業,サ ービス業 を

示 している。縦軸 は不等価交換(t/P)を 対数軸で示 してお り,そ れぞれの財 を生産す るため

に必要 とされた各国・地域の労働が線で結ばれている。

自国 ・地域の生産物に最 も投下 された労働は,自 国 ・地域の労働であり,外 国の労働はそ

れに比べ ると平均10%程 度の大 きさである。その中で大きいのは,英 独仏の鉱業 と製造業 に

投下 されたその他世界の投下労働量が英独仏の投下労働量の70%台 であること,日 本の製造

業に投下 されたアジアの投下労働量が日本の投下労働量の61%(85年),74%(90年)で ある

こと,米 国の製造業に投下されたアジア,そ の他世界の投下労働量が40%台 であることが注

目される。 ここで指摘 された比率は85年 より90年に大 きくなってお り,そ れぞれの国 ・地域

との関係が強化されている。

不等価交換の程度(ガ ρ)は,そ の他世界を除 くと,ア ジアが最 も高 く,日 本,英 独仏,米

国の順であり,90年 には後三者は平均化 している。産業別には,農 林水産業が最 も高い。製

造業,建 設業,サ ービス業の違いは大 きくない。鉱業 に関 しては,日 本だけ農林水産業に次

いで高いが,米 国,英 独仏,ア ジアは最 も低い値を示 している。

次に,(16)式 の計算を行 うための労働の換算比率について検討 しよう。労働の換算比率 と

して,4種 類の換算比率 を用いる。第一 に全ての国 ・地域の労働は共通であると考えて,換

算比率を1と する。第二に教育水準 を基準にして考える。労働力人口に占める初等教育卒業

者,中 等教育卒業者,高 等教育卒業者の比率を,仮 に1:2:3の ウェイ トをつけ て換算 す 

る。第三に米国 ドル表示の貨幣賃金率を換算比率として用いる。第四に全ての国・地域の搾取

率が等 しくなるような換算比率を用いる。(16)式 を基に した固有値問題(0=μ(λ1-tb))の

固有ベクターである。 日本 を1と した換算比率は第3表 に示されている。いずれの換算方式

の下で も,先 進国である日本,米 国,英 独仏はほぽ同 じ値 を示 している。アジアは,教 育水

準では,0.6程 度だが,貨 幣賃金率,同 一搾取率をもた らす換算率の もとでは,約30分 の一 と

なっている。

第3表 換 算 比 率

単純合計 教 育 水 準 貨 幣賃金 率 固有ペ クターウ ェ イ ト

85年=90年 85年90年 85年90年 85年 90年

日 本 の 労 働

米 国 の 労 働

英 独 仏 の 労 働

ア ジ ア の 労 働

その他世界の労働

1,000

1,000

1,000

1,000

1,000

1.0001,000

1.1841,184

0.9050,905

0.6840,684

0.8020,802

1.0001,000

1.4880,891

0.8300,851

0.0360,026

0.3680,287

1,000

1,186

1,328

0,039

1,045

1,000

0,725

1,247

0,030

0,858

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グローバルな投下労働量の誹測 29

第3表 に示された代替的な換算比率の もとで,各 国 ・地域の労働者が受け取 る賃金 により

購入される消費財に投下された各国 ・地域の労働量(行 列tb)を 示 した ものが第4表 の上段

である。消費パ ターンと投下労働量 により行列tbの 各要素は決定されるが,第1図 と同 じ傾

向を示 し,投 下労働量の影響 を反映 しているようである。

第4表 行列tbと 搾 取率

日本の賃金 米国の賃金 英独仏の賃金 アジアの賃金そ の 他世界の賃金

85年90年 85年90年 85年90年 85年90年 85年90年

行 列 め

日 本 の 労 働 0.7270,736 0.0200,012 0,0070,008 0.0010,001 0.0060,004

米 国 の 労 働 0.0090,013 0.6740,661 0,0080,011 0.0000,001 0.0080,010

英 独 仏 の 労 働 0.0060,009 0.0150,009 0,6140,616 0.0010,000 0.0210,017

ア ジ ア の 労 働 0.3080,477 0.2620,301 0.1180,226 0.6390,611 0.0930,120

そ の 他 世 界 の 労 働 0。1780,221 0.2590,215 0.3990,473 0.0090,010 0.8990,919

換 算 集 計 値(4)

単 純 合 計 1.2281,456 1.2301,198 1.1461,335 0.6500,623 1.0271,069

教 育 水 準 に よ る 換 算 合 計 1.0961,263 LO290,997 1.0751,230 0.6520,626 1.0211,059

貨 幣 賃金 率 に よ る換算 合計 0.8220,831 0.7660,761 0.8190,804 0.7960,796 1.0051,024

固有 ベ クターに よる換算合計 0.9440,960 0.9440,960 0.9440,960 0.9440,960 0.9440,960

搾 取 率(1-a)/σ

単 純 合 計 一〇.186-0.313

一〇.187-0.165 一〇.127-0.251 0.5390,604 一〇,026-0.065

教 育 水 準 に よ る 換 算 合 計 一〇.088-0,208

一〇.0280.003

一〇.070-0.187 0.5330,597 一〇

,021-0.056

貨 幣 賃 金 率 に よ る換 算 合 計 0.2170,203 0,3050,314 0.2210,243 0.2570,256 一〇.005-0,024

固有 ペ クター に よる換算 合計 0.0590,041 0.0590,041 0.0590,041 0,0590,041 0.0590,041

第4表 中段の数値は第3表 の換算率によって集計 した値((ユ7)式)で あ り,下 段の数値は,

中段の数値 を下 に計算された搾取率である。単純集計 をした場合,ア ジア以外の国 ・地域は  

提供 した労働量以上の労働が投下された賃金財を受け取 っていることになる。教育水準を反

映 させた換算率 も同 じ傾向を示 している。一方,貨 幣賃金率をウェイ トとした場合 には,そ13

の他世界のみ負の搾取 となっているが,か な り平準化 され,固 有ベクターによる均一搾取率

の結果に近 い値 となる。教育水準による労働の質の格差を考慮 に入れても,ア ジアの労働 を

搾取す ることにより世界全体の剰余労働が存在 し,利 潤が正 となっていることが示 された。

アジアの賃金水準が約2.2倍 に上昇 し,現 在の投入係数が変化 しなければ,利 潤の存在条件

が満た されな くなる。現実に世界の賃金格差が縮小 した場合,各 国で採用 される技術の変化

により,利 潤率の低下は緩和 されることが予想 される。

5.結 論

本稿では,グ ローバルな投下労働量を定義 し,世 界全体での利潤の存在条件であるいずれ

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30 第189巻 第2号

かの国で搾取が存在するという世界レペルでの 「マルクスの基本定理」 を示 した。これは,

搾取が存在 しな くて も利潤の存在する国がある可能性を意味する。国際産業連関表 を用いて

計測 した結果,単 純集計や教育水準の差を考慮 した場合,ア ジアの労働だけが搾取 されてい

るという結果 となった。貨幣賃金率をウェイ トとするとその他世界を除 く全ての国・地域での

搾取の存在が示 された。

この結論は,雇 用者以外の就業者 と雇用者 を労働時間などの観点で同 じウェイ トで換算す

ることの妥当性の検討,ア ジア諸国の労働データやその他世界(ROW)に 関するデータ作成

についての改善が必要であるなどの問題があり,あ くまで も暫定的なものである。

*本 研 究 は科 学 研究 費補助 金(課 題 番 号13430003「 直接 投 資が雇 用 ・所得分 配 ・産 業構 造 に及ぼ

す効 果の研 究:日 本 とア ジア を中心 に」代表 萩原 泰治)の 支援 を受 け た。

本稿 の もとにな った研究 は,1999年 環 太平 洋産 業連 関学会,2000年 進化経 済 学会 制度 部会 で報

告 され た。 コメ ン トを項 い た藤森 頼 明氏(早 稲 田大学)を 始 め とす る多 くの 方 々に感謝 す る。 い

うまで もな く,本 稿 に含 まれ る誤 りは筆 者 の責任 で あ る。

1本 稿 で展 開 され る議 論 は置 塩[1977],森 嶋[1973],中 谷[1994]に お いて,よ り詳 細 に議 論

され て い る。 国際労 働価値 に関す る展 開 は,中 谷[1994]の 第3章 第3節 を参照 。 また,異 質労

働 に関す る議 論(同 書 第3章 第2節)も 関係 す る。

2置 塩 は,aiiを 第i財1単 位 生産 す るため に必 要な ノ財 の量 と定 義 し,産 業連 関 分析 において使

用 され る投 入係 数行 列 の転置 行列 を用 い てい る。 本稿 で は,産 業 連 関表 の慣例 に従 って いる。

3非 負行列Aに 関 して,1-Aの すべ ての首座 小行列 式 が正 で あ るこ とをホー キ ンス ・サ イモ ン

の条 件 とい う。これ は,連 立方程 式(1-A)x=bに 関 して,(1)あ るb>0に 対 して,x≧0,(2)

任意 のb≧0に 対 して,x≧0,(3)(1-A)の 逆 行列 は正行 列 で ある こ とと同値 であ る。例 えば,

二 階堂[1961]を 参照 。

41-tbは,労 働1単 位 あた りの剰 余労 働 であ る。搾取 率 は(1-tb)/tbで 定 義 され る。

5片 野[1984〕 は,筆 者の 知 る限 り,最 初 の 試み で あ る。

6「 異質 労働 」 に関す る議 論 と してBowlesニGintis[1977],中 谷[1994]を 参 照 。

7投 下 労働量 は,そ の財 に関す る雇用 誘 発係 数で もあ る。 当該財 に1単 位 の最終 需 要(労 働 者 の

消 費 を除 く)が 生 じた と き,雇 用 が どの程 度増加 す るか を示 して い る。第1国 第 ブ財 に対 す る1単

位 の最終 需要 の増 加 は,第 々国 の雇用 を 理 人増 加 させ る。

・ 先に述べたように・行列 肋 第 ・欄 列(写 多糊 は・第 ・国の蠣 都 その労働 ・単位の

提供 に対 して受 け取 る賃 金バ ス ケ ッ トに含 まれ るegfe国 の労 働の 量 であ るため,隣 国の 労働]/[1

国 の労働]と い う単位 を持 って い る。 ウ ェイ ト μ勘に よる集計 が経 済 的 に意味 を持 つ ため に は,

μhは1/[k国 の労働]と い う単位 を もたな ければ な らない。 したが って,μkは 共 通 の労働 へ の換

算 率 と考 え るこ とが で きる。

9一 国 の投下 労働 量 の計測 は これ まで に も存在 して い る。中谷[1994]p.63-4に 挙 げ てい る参 考

文献 を参照 。 また,Nakajima=lzumi[1995]は,一 国労働 の モデル((7)式)に 基 づ いて,二 国

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グローバルな投下労働量の計測 31

間 の貿 易 につ いて不等 価交 換 の動 向 を調べ てい る。

10そ の他 世界(ROW)の ウ ェイ トが この ように大 きい こ とは,グ ローバル な 問題 を考 える上 で,

日 ・米 ・欧 ・ア ジア 国際産 業連 関表 といえ ど も十分 で ない こ とを示唆 してい る。

11ウ ェイ トを例 えば,1:10:100と 変 えて も,換 算 率 はLOO:1.70:0.73:0.58:0.74に 変 わ る

程 度 で あ る。 また,識 字率 を指標 とす る と,各 国 の単純 平均 で ア ジアが0.86,そ の他 世界 が0.68

で あ る。 先進 国 を1と した と きの格差 はそれ ほ ど変 わ らな い。労働 の質 とい う点 では,せ いぜ い

2/3程 度 の換 算率 とな る。

12当 初,労 働投 入 量 を雇 用 者べ 一 スで計算 を行 ってい たが,就 業 者デ ー タ を用 い なけれ ばな らな

いこ とを,泉 弘志(大 阪経済 大 学),中 島章子(福 岡大学)の 両氏 か ら指 摘 を受 け た。雇 用者 ペ ー

ス では単純 集計 の も とで は,日 本(90年),米 国(85年,90年)に1を 超 え るが,教 育水 準 を考慮

した 場 合 は,全 て の 国 ・地 域 で1以 下 と な っ て い る。 本稿 で は,雇 用 者 と非 雇 用 者(unpaid

worker)を 同 じウ ェイ トで合 計 したが,労 働時 間 な どの考 慮 に よ り非雇 用者 の ウ ェイ トが小 さ く

なれ ば,結 果 は変 わ る と思 われ る。

13賃 金 率格 差 に よるウ ェ イ トの もとでその他 世 界(ROW)の 搾取 率 がマ イナ ス とな る理 由 と し

て,貨 幣賃 金 率の推 計値 が 過大 で ある こ と,就 業 者 と雇用 者 の ギャ ップ が大 きい こ との2点 が挙

げ られ る。 その他 世界 のデ ー タの精緻 化が 必要 で あ る。

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