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L 7 ED 日亜化学工業のある - Shikoku University€¦ · バレイ構想」を策定しています。 アメリカのサンフランシスコにある 半導体産業 や

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日亜化学工業のあるLED王国徳島

◉LEDの歴史と日亜化学工業(株)

 

LEDという言葉は、すっかり日常的に使われるようになりました。

 

LEDとは、Light

(光)、E

mitting

(出す)、D

iode

(ダイオード)の頭文字で、発

光ダイオードと訳され、電気を流すと発光する半導体を意味します。半導体とは、温度や

光、磁気といった物理的な条件を変えることなどで電気を通したり、通さなかったりする

性質をもった物質のことです。そしてLEDは、①エネルギー効率が高い、②応答速度

が速い、③波長の選択性がある、④長寿命、⑤有害物質を含まず、省エネルギーや環境問

題の観点からも優れた性質を有しています。

 

最近は非常に幅広い分野でLEDが使われていますが、それには、徳島県阿南市に本

社のある日亜化学工業(株)(以下「日亜化学」とします)が大きく貢献しています。

 

LEDの歴史は意外と古く、半導体からの発光現象が発見されたのは20世紀初めごろ

です。1960年代後半にアメリカで赤色のLEDが商品化され、その後も黄、橙、黄

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緑と開発されてきましたが、青色LEDの開発だけは「20世紀中には不可能」とされて

いました。ところが、日亜化学は1993年、従来の明るさの100倍という高輝度の

青色LEDを開発し、それは世界中から「世紀の大発明」と絶賛されたのです。

 

ちなみに、2014年のノーベル物理学賞は、「明るく省エネ型の白色光源を可能に

した青色LEDの発明」で、「20世紀は白熱灯が照らし、21世紀はLEDが照らす」と

して、赤崎勇、天野浩、中村修二の3氏に贈られましたが、中村氏は日亜化学に在籍中の

業績が評価されたものです。青色LEDが安定的に工業生産できるようになったことも

併せて、この受賞は多くの技術者の叡智と努力の賜です。

◉世界一のLED企業、日亜化学工業(株)

 

現在、白色LEDのシェア世界一の企業である日亜化学は、創業者の小川信雄さんが

戦地から復員後の1948年に、郷里の新野(阿南市新野町)に創った協同医薬研究所

が出発点で、社名からもわかるように、化学製品(カルシウム塩など)を製造する会社と

して、1956年に設立されました。

 

日亜の亜というのは、アジア、アメリカ、オーストラリアの亜(頭文字A)を表して

おり、当時から世界を視野に入れる思想が込められているところに、志の高さと先見の明

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がうかがわれます。小川さんは「どうせ吹くなら大きなホラを吹け。吹いたホラは吹き当

てろ」とよく口にされていたそうです。

 

その後、リン酸カルシウムなどが蛍光灯用蛍光体の原料になるということで蛍光体の生

産を始め、阿南市辰巳に世界一の蛍光体の工場を建設し、世界の市場を相手にするという

姿勢を鮮明にしました。創業時の理念を実践に映したのです。

 

蛍光体を作ることによって、当時、赤色LEDで先駆的なメーカーであった松下電器

産業(今のパナソニック)や東芝といった大手との付き合いがあり、その中でLEDの

材料を手がけてみようということになりました。世はまさにバブル期でしたが、小川英治

社長(当時、現会長)は、蛍光体事業もいつかは他の製品に取って代わられる可能性があ

るので二つ目の種を育てたい、との想いで、それまで蓄えた収益をLEDの研究・開発

に投じました。この英断が実を結び、世紀の大発明と言われる高輝度青色LEDの開発

につながったのです。

 

青色LED開発から3年後の1996年には、青色LEDと黄色蛍光体(YAG)

の組み合わせという、蛍光体製造会社ならではの発想で白色LEDの開発に成功しまし

た。これにより、LEDの市場はディスプレイなどの表示分野をはじめ、照明、農業や

漁業などあらゆる分野へ急速に拡大しました。照明分野においては、性能の向上と価格

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の低下が急速に進んできたところに、東日

本大震災後の節電意識の高まりが加わって

LED電球の需要が急伸し、LED照明

は省エネ指向というイメージが定着しまし

た。さらに最近は、器具に組み込んだ際の発

光効率が蛍光ランプを超す勢いで改善が進

み、光の強さや色の調節も自由なことから、

LED照明は普及段階から今や主流となり、

住宅や店舗・設備照明ではLED照明が当

たり前になってきました。そして、名所旧跡

などのライトアップはもとより、サッカーや

野球のスタジアム照明にもLEDが使われ

始め、自動車のヘッドランプにもLEDの

採用が拡がってきています。

 

韓国などアジア企業の市場参入で年々競争

は激しくなっていますが、同社は他に先んじ

日亜化学工業本社 ©日亜化学工業(株)

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た商品開発を追究し、より付加価値の高いものを作っていくと同時に、普及品についても

しっかり世界のシェアを取っていく方針です。

 

最近リチウムイオン電池という言葉をよく耳にするでしょう。正極と負極の間をリチウ

ムイオンが移動することで充電や放電が行われることから、何度でも繰り返し使うことが

できる電池で、スマートフォンやノートパソコン、電動工具、エコカーなどに使われてい

ます。このリチウムイオン電池の正極材料も製造しており、LEDや蛍光体と同様、世

界シェア1位となっています。

 

日亜化学の売上げはグループ全体で約3400億円(2015年12月期)、従業員数

は8400人(2015年末時点)、欧米、アジア、オーストラリアなどにも拠点を置

いて世界的な事業展開を行っており、徳島や日本のみならず世界有数の企業の一つとなっ

ています。LEDの増産などに対応するため設備投資も旺盛ですが、主力工場は徳島県

内に設置されており、地域雇用の創出にも貢献しています。

 

「愛するふる里の地に近代的精密化学工場を建て、真面目な良い職場としたい。それが

会社や従業員のためにも地域社会のためになると信じて努力する」という創業者の思いが

脈々と引き継がれていると言えるでしょう。

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7 日亜化学工業のあるLED王国徳島

◉LEDと言えば徳島〜LEDバレイ構想〜

 

徳島県は、日亜化学という圧倒的な世界シェアを持つLEDメーカーが立地する優位

性を生かし、「LEDと言えば徳島」という地域ブランドを確立し、関連産業の集積を

目指した「LEDバレイ構想」を策定しています。

 

アメリカのサンフランシスコにある半導体産業やIT企業などが集中した渓谷地域の

ことを、半導体の代表的な素材であるシリコンにちなんでシリコンバレイと言いますが、

これから連想してLEDバレイと名付けています。

 

構想実現に向け、有識者をメンバーとするLEDバレイ構想推進協議会がまとめた行

動計画の提言に沿って、地域ブランド化と産業振興の両面から、地域が一体となって取り

組んできました。

 

地域ブランド化の例としては、LEDを効果的に利用した景観照明やモニュメントな

どを設置した場所を「光の八十八ヶ所」として認定し、PRする事業を実施してきまし

た。

 

また徳島市では、2010年から3年ごとにLED技術とアートが出逢う「徳島

LEDアートフェスティバル」を開催し、LEDに彩られた街の魅力を発信していま

す。LEDをイルミネーションなどに使う光のイベントは全国各地で行われていますが、

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LEDを素材にした作品をアーティストに自由な発想で制作してもらい、それを「街

中」に展開するというのは、ほかにはない徳島ならではのイベントです。水都・徳島市

はLEDの光がよく映えることもあり、約10日間で20万人以上の方が来場していますが、

国内外からより多くの方に来て頂けるよう、さらに発信力を高めていく必要があるでしょ

う。

 

産業振興面では、産業界と行政、大学等の研究機関、いわゆる産官学の連携・協力が不

可欠です。

 

徳島大学では、学内・学外と連携して、がん治療、歯科応用、植物育成、水産資源増殖

など、医療・農業・漁業の分野にもLEDを活用する研究を進めるとともに、技術相談

や共同研究を行う窓口として研究支援・産官学連携センターを置いています。そして、阿

南工業高等専門学校は、LED関連技術者養成講座を設置するなど、優秀な人材の育成

に貢献しています。

 

また、トータルサポート拠点である徳島県立工業技術センターは、光の明るさを測定す

る直径3メートルの全光束測定装置や光の拡がりを測定する配光測定装置をはじめ、最先

端の研究機器を配備し、1か所で用が足るワンストップLED性能評価体制を構築してい

ます。さらに産官学が連携して技術力やデザイン力向上のセミナーを開催したり、試作品

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の開発や斬新なアイデアの商品化を支援しています。

 

そして、徳島産LED応用製品販路の拡大と製品の普及のために、徳島県は優れた応

用製品を認証したり、県が率先購入する制度を設けているほか、新宿に県産LED応用

製品の常設展示場を設置し、海外での展示会への出展も支援しています。こうした中で徳

島県は2013年、全国の都道府県で初めて歩行者用信号機の完全LED化を実現しま

した。

 

LED関連企業は、2015年末時点で132社となっていますが、素材や特定の機

能をもった電子部品(デバイス)の分野

を除けば、特殊な用途の照明装置など大

企業があまり乗り出さないような「すき

間市場」を狙った製品を扱っている企業

も多いのが実状です。開発した製品を売

上げや雇用の増加に結びつけること、さ

らに、急速にグローバル化する世界市場

に挑戦していくことなどが、今後の重要

な課題です。

全光束測定装置 ©徳島県立工業技術センター