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2016 年伊藤孝行研究室の研究概要 エージェント技術に基づく新しい社会システムの創成に向けて 研究メンバー:伊藤孝行 1 はじめに インターネットとスマートフォンの急激な発展と普及 により,人々は常に繋がっている. Twitter Facebook で情報をやりとりし,居場所も共有され,日々の購買 活動も記録されている.これまでになく繋がる世界で は,いかに繋がって,いかに振る舞うかが非常に重要 である. 生物の世界ではお互いの繋がりを高度化させること で優位に進化している種がある.例えば,魚の群は全 体としては知的に見えるが,個々の個体は全体の振る 舞いを知らない.鳥の群では,お互いに隣の数匹の鳥 のみを見て群として振舞っているという研究結果もあ る.アリやハチのような昆虫は,高度な巣の構造をも ち,餌の組織的な探索行動は極めて洗練されている. 以上のような群としての知性を,「コレクティブインテ リジェンス」と呼ぶ.コレクティブインテリジェンス とは,群として活動していて,全体的に知的に見える もの,と定義することができる. インターネットやスマートフォンの発展は,人間の コレクティブインテリジェンスを実現し発展させてお り,人間のコレクティブインテリジェンスをどのように 支援していくかが重要である.人間のコレクティブイ ンテリジェンスをクラウドインテリジェンス(Crowd Intelligence)と呼ぶこともある.人間のコレクティブ インテリジェンスのあり方は,人間の社会システムそ のものに影響を与える. 以上のような人間のコレクティブインテリジェンス を支援する方法論として,マルチエージェントシステ ムというコンセプトがある.マルチエージェントシステ ムは分散人工知能と呼ばれることもある.マルチエー ジェントシステムとは,複数の知的な主体(エージェ ント)が分散または共有された問題を解くためのアル ゴリズム,ルール,システム,もしくは,そのシミュ レータを指す.マルチエージェントシステムの分野で は,複数のエージェントの,インタラクションのルー ル,全体の制御・管理手法,シミュレーションなど様々 な角度から研究を行う.マルチエージェントシステム を考える場合には,非集中性,プライバシー,および利 己主義エージェントという仮定がよく使われる.これ は人間の社会を対象としていると言える.つまり,社 会では,知的な主体としての人間が、非集中的に存在 し,それぞれ自分のプライバシーをもち,そして利己 主義的に意思決定を行う. 人工知能(Artificial Intelligence)は,一人の人間 (知的な主体)の推論,学習,記憶などの知的活動を計 算機上で実現したり,もしくは支援できるようなプロ グラムやシステムを指す.一方マルチエージェントシ ステムでは,複数の人間(知的な主体)からなる社会 の知性を対象としている.複数の人間による「文殊の 知恵」がどのように現れるのか,どのように利用でき るのか,そのためのソフトウェアやシステムはありえ るのかと言ったことを研究する分野である. 本研究の目標は,マルチエージェントシステムの考 え方や情報技術を用いて,人間のコレクティブインテ リジェンスを活性化し活用できるような,社会のシス テムや仕組みを実装していくことである.本稿では,第 2章でエージェント技術による新しい社会システムの 創世についてのビジョンを示す.第3章で本研究活動 で行われている研究プロジェクトについて概観し,第 4章でまとめる. 2 エージェント技術による新しい社会シス テムの創成 マルチエージェントシステムの考え方や人工知能の 技術(エージェント技術)を用い,新しい社会システ ムを創成するのが本研究のビジョンである [11, 12].図 1 に示すように,実世界の情報をセンシングしたりス マートフォンによって集める.集めたデータや情報を, マルチエージェントシミュレーションによって予測す る.その際に,マルチエージェントアルゴリズムを用 いて,社会にとってより良い方向性となるような解つ まりガイドを生成する.このガイドや予測を実世界に 示すことで社会をより良い方向に進めていくことがで きる.様々な分野でこのようなビジョンを応用するこ とができる.例えば,交通管理,医療介護,電力ネト ワークなどがある.ポイントは,遠い未来を予測する のではなく,近い将来の予測とガイダンスによって,少 しでも社会がよくなるようにできる可能性があること である. 本研究では,本ビジョンの元で様々なフィールドで 研究を進めている.本ビジョンを構成する要素技術や (1)

lab intro2016 content - Nagoya Institute of Technology · 特に,理論・モデルと実践フィールドの両方を注意深 く扱うことが極めて重要である.数理モデルに基づく

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2016年伊藤孝行研究室の研究概要エージェント技術に基づく新しい社会システムの創成に向けて

研究メンバー:伊藤孝行

1 はじめにインターネットとスマートフォンの急激な発展と普及により,人々は常に繋がっている.TwitterやFacebook

で情報をやりとりし,居場所も共有され,日々の購買活動も記録されている.これまでになく繋がる世界では,いかに繋がって,いかに振る舞うかが非常に重要である.生物の世界ではお互いの繋がりを高度化させることで優位に進化している種がある.例えば,魚の群は全体としては知的に見えるが,個々の個体は全体の振る舞いを知らない.鳥の群では,お互いに隣の数匹の鳥のみを見て群として振舞っているという研究結果もある.アリやハチのような昆虫は,高度な巣の構造をもち,餌の組織的な探索行動は極めて洗練されている.以上のような群としての知性を,「コレクティブインテリジェンス」と呼ぶ.コレクティブインテリジェンスとは,群として活動していて,全体的に知的に見えるもの,と定義することができる.インターネットやスマートフォンの発展は,人間のコレクティブインテリジェンスを実現し発展させており,人間のコレクティブインテリジェンスをどのように支援していくかが重要である.人間のコレクティブインテリジェンスをクラウドインテリジェンス(Crowd

Intelligence)と呼ぶこともある.人間のコレクティブインテリジェンスのあり方は,人間の社会システムそのものに影響を与える.以上のような人間のコレクティブインテリジェンスを支援する方法論として,マルチエージェントシステムというコンセプトがある.マルチエージェントシステムは分散人工知能と呼ばれることもある.マルチエージェントシステムとは,複数の知的な主体(エージェント)が分散または共有された問題を解くためのアルゴリズム,ルール,システム,もしくは,そのシミュレータを指す.マルチエージェントシステムの分野では,複数のエージェントの,インタラクションのルール,全体の制御・管理手法,シミュレーションなど様々な角度から研究を行う.マルチエージェントシステムを考える場合には,非集中性,プライバシー,および利己主義エージェントという仮定がよく使われる.これは人間の社会を対象としていると言える.つまり,社

会では,知的な主体としての人間が、非集中的に存在し,それぞれ自分のプライバシーをもち,そして利己主義的に意思決定を行う.人工知能(Artificial Intelligence)は,一人の人間

(知的な主体)の推論,学習,記憶などの知的活動を計算機上で実現したり,もしくは支援できるようなプログラムやシステムを指す.一方マルチエージェントシステムでは,複数の人間(知的な主体)からなる社会の知性を対象としている.複数の人間による「文殊の知恵」がどのように現れるのか,どのように利用できるのか,そのためのソフトウェアやシステムはありえるのかと言ったことを研究する分野である.本研究の目標は,マルチエージェントシステムの考

え方や情報技術を用いて,人間のコレクティブインテリジェンスを活性化し活用できるような,社会のシステムや仕組みを実装していくことである.本稿では,第2章でエージェント技術による新しい社会システムの創世についてのビジョンを示す.第3章で本研究活動で行われている研究プロジェクトについて概観し,第4章でまとめる.

2 エージェント技術による新しい社会システムの創成

マルチエージェントシステムの考え方や人工知能の技術(エージェント技術)を用い,新しい社会システムを創成するのが本研究のビジョンである [11, 12].図1に示すように,実世界の情報をセンシングしたりスマートフォンによって集める.集めたデータや情報を,マルチエージェントシミュレーションによって予測する.その際に,マルチエージェントアルゴリズムを用いて,社会にとってより良い方向性となるような解つまりガイドを生成する.このガイドや予測を実世界に示すことで社会をより良い方向に進めていくことができる.様々な分野でこのようなビジョンを応用することができる.例えば,交通管理,医療介護,電力ネトワークなどがある.ポイントは,遠い未来を予測するのではなく,近い将来の予測とガイダンスによって,少しでも社会がよくなるようにできる可能性があることである.本研究では,本ビジョンの元で様々なフィールドで

研究を進めている.本ビジョンを構成する要素技術や

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都市環境、交通状況、在宅介護、電力需給、災害状況、駐車場などデバイスセンサー

ヒューマンセンサー 予報・ガイドド

環境モデルに基づいて計算機上でシミュレート都市交通モデル、在宅介護モデル、災害避難モデル、駐車場モデル、など

マルチエージェントアルゴリズムで全体をハーネスオークション,市場メカニズム、自動交渉機構、スコアリングルールなど

予測

意見

好み

センサ

社会システムをスマートに

社会システムの中枢神経システム 「少し先」を予測

図 1: エージェント技術による新しい社会システムの創成

要素概念を切り出し,具体的なフィールドに応用することを心がけている.特に,理論・モデルと実践フィールドの両方を注意深く扱うことが極めて重要である.数理モデルに基づく解析的な仕組みは,極めて理想的な社会システムのあり方や本質的な仕組みをシンプルかつ効率的に表すことができる.数理モデルによってシンプルかつ効率的な洗練されたアイデアを実践フィールドに応用し,実践フィールドで現実的に人間の世界で必要な仕組みや実行プロセスを与え,洗練されたアイデアを社会において実際に動くように実装するのが重要である.次の章では具体的な関連プロジェクトについて紹介する.

3 新しい社会システムを提案する関連プロジェクト

3.1 大規模合意形成支援システムスマホ,Facebook,Twitterなどが流行しているように,大規模な人数の意見交換が可能になっている.意見の交換は可能であるが,集約・合意を形成するという方法論はまだない.一方で,公共政策などの専門家による高度な意思決定においても,多数の市民からの意見を聴取し勘案することが必須になってきている.しかし,既存の方法論による,閉じた空間かつ限られた時間でのワークショップでは,多数の意見を集約することは非常に困難である.大規模な人数による意見を集約し合意を得る方法論や支援システムは強く求められているにも関わらずまだ確立されていない.そこで本研究では知能処理技術やマルチエージェント技術による大規模な意見集約・合意形成支援およびその自動化を目指す [1, 2, 5, 7, 8, 9, 10] .

課題は,ネット上の議論でよく発生する「炎上」と呼

ばれるような議論の無政府状態をどのように防ぐかである.また,サイレントマジョリティと呼ばれる何も発言しない参加者のモチベーションをどのように刺激するかなどがある.近年のMITのCenter for Collective

Intelligenceでの集合的知性(Collective Intelligence)の研究では,Wikipediaや Linuxのようなオープンで大規模な参加者を前提としたボランタリな活動では,一部のマネジメント層による管理や整理が極めて重要であることが指摘されている.このマネジメント層は群衆の活動に対して最低限の管理や整理を行っているのである.そこで本研究では,炎上のような無秩序な状況に陥ることを未然に防ぎ,かつより良い議論を導くために,ネット上の大規模な議論におけるファシリテーションの支援技術やインセンティブ技術を確立する.ファシリテーションは人間による仲介を基本として,人工知能技術やマルチエージェント技術を用いて,ファシリテーション自体を円滑に行えるような支援機構を実現する.さらに,ファシリテーション自体を自動化し,迅速な合意形成,およびグループの意思決定を支援できる知的情報処理技術の確立を目指す.研究は,2010 年前後から開始されており,事前実

験として3度の社会実験をおこなっている.1度目は,2012年 11月に意見集約支援システムCollagreeを開発し,100名以上の名古屋の市民による協力を得て,名古屋の観光を改善するためのアイデアや意見の抽出の実験を行っている.2度目は,2013年 12月にCollagree

システムを用いて,名古屋市長をはじめ,名古屋市やそのほかの町づくりに関わる団体,および日本ファシリテーション協会などの協力により,名古屋市次期総合計画に関する意見を集めるためのネット上のタウンミーティングとして意見の集約の実験を行っている(図2).3度目は 2015年 1月に愛知県および愛知県各市町村と協力しまちづくりに関する大規模オンライン議論を「愛知デザインリーグ」と称するイベントを行うことで実現し,本システムの有用性を確認している.

図 2: 名古屋市次期総合計画における意見集約

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以上のように実際に多人数の参加者により実験を行うことで,大規模意見集約と合意形成に関する実験の実現性を確認している.また,事前実験では,多様な世代・職種の人が被験者として議論に参加していたことから“”誰でも”参加できる議論の場を提供することが可能であることがわかっている.また,本支援システムでは広く意見を募ることによって,通常のワークショップでは発生し得ない案を広範囲に渡って取り扱うことが可能であることを確認している.実験して明らかになってきたことは,大規模な議論では,参加者にとって,現在の議論の状況の把握,議論の内容に関する理由付け,さらに議論の内容に関する不整合など,議論の構造を適切に管理し,見える化することが重要である.そしてその構造を用いて,ファシリテータは適切に議論を整理でき,参加者も議論の内容を把握できる.さらには様々な人工知能技術を応用することで知的な議論支援が可能になる.本プロジェクトは JST CRESTにも採用され,今後はさらに,議論構造の可視化機構,エージェントの自動交渉機構,インセンティブ機構を発展させ,大規模議論を支援するためのツールとして開発し導入していく予定である.3.2 マルチエージェント社会シミュレータ本研究では,社会全体をシミュレートするための階層型のマルチエージェントシミュレータを提案している[3].マルチエージェントシミュレータの特徴は,個々のエージェントの個性ある振る舞いを実現しながら,どのように全体が振る舞うかを観察することができる点にある.これは既存の少数の物理モデルから全体を表現するようなシミュレータとは異なるアプローチである.個々のエージェントの振る舞いを記述できることから人間がベースとなるような社会シミュレーションに向いていると言われる.特に,任意の都市において天候により影響を受ける交通状況をシミュレート可能なマルチエージェントシミュレータを提案する.提案シミュレータではドライバーの振る舞いを現実的にエミュレートするために複数レイヤから成るエージェントベースの行動モデルを用いる.階層型,つまり,複数のレイヤを用いる狙いとして複雑なシステムを複数の異なるレイヤの重ね合わせで表現する(図 3).各レイヤは内部のスレッド,エージェント,グラフィカルオブジェクト,およびデータなどをもって自立的に動作する.車両の移動は特定の地理情報システム (GIS)で表現されるわけではなく,複数のGISを利用可能とすることを前提としている.特

にシミュレーションと結果を描画するGISレンダリングとの間には独立性がある.

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図 3: 40台のクラスタにおいて動作しているマルチエージェントシミュレータ

現在のシミュレータの構成要素をいかに示す.• Weather Manager Module: 天気の監視レーダー(Weather Surveillance Radar; WSR) による検出を模した降水を作り出す.

• OSM Rendering Module: OSM(OpenStreetMap)

タイルをダウンロードおよび更新し, 地図を描画する.

• Traffic Module:歩行者の移動の生成および衝突の検出.

• Physics Engine::交通,車両や人の移動,およびエージェント同士の相互作用(主に衝突検出)に影響を与える物理学の近似的なシミュレーションを行う.

• Driving Behavioral Models: 車両や歩行者の行動を決定するシナリオを提供する.

図 4: 3Dビューワー

3.3 知的ワイアレスセンサーネットワークIoT(Internet of Things)を目指し,ネットワークで

繋がれたセンサー群から情報を常時獲得し,ドメイン

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に特化したモデルから異常検知アルゴリズムによって異常を検知する仕組みをハードウェアとソフトウェアの両面から研究開発しフィールドにて実装を行なっている [6].以下は国土交通省の中部地方整備局他との共同研究の一つである.

図 5: 計測ノードの外観

近年,豪雨による河川の氾濫による土砂崩れや,家屋の浸水などの件数が増加している.広域浸水に関しては,河川の構造や,海抜及び,埋立地である箇所など,浸水を完全に防ぐ方法は困難である.現状では,浸水箇所に対しポンプ車を代表とする排水機器を稼働させるという対処のみ可能である.しかし,可能な限り迅速に排水作業を行うためには,浸水箇所全域の水位データによる浸水全水量の把握が必要である.そのために我々は,国土交通省 中部地方整備局,日本工営株式会社と共同で現場での設置を目的とした移動式アドホック簡易水位計の試作を行っている.特に,移動式のワイアレスセンサネットワークでは,移動による周囲の環境要因によって通信信頼性が大きく左右される.そのため,固定式のワイアレスセンサネットワークとは異なり,移動により変化する周辺の電波状況や建築物,植物などの影響を定量化し,計測ノードの移動による電波品質を考慮したな設置パターンを決定する必要がある.本論文では,特に無線通信の信頼性に焦点を当て,実フィールドにおいて,種々の環境要因ごとに,通信モジュール同士の電波状況を測定することで,移動式のセンサネットワークに最適な設置パターンの提案を行い,設置場所の選定時間の短縮手法についても研究を行っている.

3.4 自動交渉エージェント交渉(Negotiation)は,人間の社会生活の基盤とな

る根源的な活動である.人間は社会に属すと互いに競合する目的や興味を持つ.つまり,社会において人間は根源的に交渉を行うニーズを持っている.マルチエージェントの分野では,エージェント間の相互作用の分析に関して多くの研究がなされている.交渉は相互作用の中の一つである.交渉とは,互いに競合する目的や興味(Conflicting

goals or interests)を持つエージェント間の相互作用(Interaction)の形体の一つである.交渉を通して,エージェントはお互い合意できる結果(Outcome)を得ようとする.結果は,リソース(サービス,時間,お金,商品,効用,など)をどのように割り当てるかのように表現される場合が多い.ここで,エージェント同士は競合している(Conflicting)ことが仮定される.つまり,エージェント同士は,同時に満たされるようなことが部分的にでも全体的にでもできない状況にある.自動交渉(Automated negotiation)の研究では,情

報技術や計算論的な観点から交渉に関する研究が進められる [4, 13, 14].自動交渉エージェントの研究分野は,人間の交渉を支援もしくは代行する計算機プログラムを実現することを目標としている.実際の交渉を分析することで,社会や世界のさまざまな課題に対して人類がどのように合意形成をなし得るのかについて示唆を与えることができる.例えば,エージェントプログラムによる完全な自動交渉の方法や,人間の交渉を計算機プログラムで仲介する方法などがある.N. R.

Jenningsらのグループは,マルチエージェントの自動交渉の分野を世界で最も早く確立したグループの一つである.彼らによれば,交渉(Negotiation)とは,可能な合意(候補)の空間の分散探索と見ることができる(Negotiation can be viewed as a distributed search

through a space of potential agreements).可能な合意点の集合が探索問題空間であり,個々のエージェントがなるべく合意を得るように分散探索するのである(図 6).図 6では,3つのエージェントA1,A2,およびA3

の交渉空間の直感的な例を示している.初期の状態では,提案(Offer)を受け入れ可能な領域(Region of

acceptability)は狭いが,提案を繰り返しながら,受け入れ可能な領域を広くしていくプロセスを示している.ここでは,交渉において基本的には交渉者が自分の利益だけに固執せず「妥協」をする必要性が示唆されている.

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図 6: N.R.Jennings らの交渉の定義(文献 [16] より抜粋)

3.5 メカニズムデザイン理論メカニズムデザイン(制度設計)理論は,ミクロ経済学やゲーム理論の分野の一つである.メカニズムデザインは,逆ゲーム理論(inversed game theory)と考えることもできる.すなわち,ゲーム理論ではルールが与えられた上で結果を分析するが,メカニズムデザインではある望ましい結果を得ることができるようなルールを設計する.メカニズムは,個人的な情報を持つ利己的なエージェントが,集団としての意思決定をするためのルールやプロトコルである.ここでは,システムとしていかにして社会的に望ましい解を実現するかが課題である.AIに関連して注目すべきは,メカニズムデザインに計算機科学の問題意識や計算機科学のアプローチを取り入れた計算論的メカニズムデザインやアルゴリズミックゲーム理論という分野である[15].社会的に望ましいとされる性質として最も重要な性質が誘引両立性(Incentive Compatibility; Truthfulness;

Strategy proofness)である.誘引両立性とは,真の評価値を正しく表明することが他の評価値(偽った評価値や間違った評価値)を表明するよりも最善の戦略になるということである.単純に言えば,『正直が最良の策』となるということである.理論的には「正直が最良の策」となるようなオークションを設計可能である.メカニズムデザインでは,特に,メカニズムが誘引両立性を満たすかどうかをメカニズムを比較検討する上での理論的な指標とする.その他にも,経済的効率性(パレート最適性),個人合理性,予算制約などがある.例えば,シンプルな第2価格オークションを示す.第2価格オークションでは『正直が最良の策』となる.図7に示すように,ある商品に対して3人の入札者A,B,及び Cが,それぞれ 3000円,1500円,及び 1000円を入札しているとする.この時,第2価格オークションのルールでは,勝者を最も高い評価をしている入札

者 Aとし,支払額を第2価格の 1500円とする.

第1価格

第2価格

3000円

1500円

1000円=クリティカル値

評価額

A B C

Aが勝者になる区間

図 7: 第二価格オークション

評価額が最も大きいAを勝者とすることで効率性を満足する.また,支払額を第2価格とすることで誘引両立性を満足している.すなわち,入札者は真の評価値を入札(申告)することが支配戦略となる.証明としては,あなたが正直な価格より高く入札した場合と低く入札した場合にそれぞれ得があるのか損をしてしまうのかを考えてみると良い.

4 おわりに本研究の目標は,マルチエージェントシステムの考

え方や情報技術を用いて,人間のコレクティブインテリジェンスを活性化し活用できるような,社会のシステムや仕組みを実装していくことである.本稿では,エージェント技術による新しい社会システムの創世についてのビジョンを示した.そして,ビジョンを達成するための個別の研究プロジェクトについて概説を行なった.参考文献[1] Akihisa Sengoku, Takayuki Ito, Kazumasa Taka-

hashi, Shun Shiramatsu, Takanori Ito, EizoHideshima and Katsuhide Fujita,Discussion Tree forManaging Large-Scale Internet-based Discussions,Collective Intelligence 2016,2016.

[2] Kazumasa Takahashi, Takayuki Ito, Takanori Ito,Eizo Hideshima, Shun Shiramatsu, Akihisa Sengokuand Katsuhide Fujita,Incentive mechanism based onqualit of opinion for Large-Scale discussion support,Collective Intelligence 2016,2016.

[3] Rafik Hadfi and Takayuki Ito.“Multilayered Multi-agent System for Traffic Simulation”. InternationalConference on Autonomous Agents and MultiagentSystems (AAMAS2016).

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[4] 藤田桂英,森顕之, 伊藤孝行, ”ANAC:Automated Ne-gotiating Agent Competition(国際自動交渉エージェント競技会),” 人工知能, Vol.31, No.2, 2016.

[5] Takayuki Ito, Yuma Imi, Motoki Sato, TakanoriIto, and Eizo Hideshima, Incentive Mechanism forManaging Large-Scale Internet-Based Discussions onCOLLAGREE, Collective Intelligence 2015.

[6] 大塚孝信,鳥居吉高,伊藤孝行,伊藤孝紀,秀島栄三,”災害被害把握を目的とした自律分散WSN の課題と実装”,人工知能学会 論文誌 Vol.31 No.6 (2015, 10) 人工知能学会 30周年記念特集号

[7] 伊藤孝紀,深町駿平,田中恵,伊藤孝行,秀島栄三,「ファシリテータに着目した合意形成支援システムの検証と評価ーオフィス家具の商品開発を事例とする」,日本デザイン学会,2015

[8] 伊美裕麻,伊藤孝行,伊藤孝紀,秀島栄三,”オンラインファシリテーション支援機構に基づく大規模意見集約システム COLLAGREE - 名古屋市次期総合計画のための市民議論に向けた社会実装”,情報処理学会論文誌, 2015.

[9] 伊藤孝行,奥村命,伊藤孝紀,秀島栄三,”多人数ワークショップのための意見集約支援システム Collagree の試作と評価実験 - 議論プロセスの弱い構造化による意見集約支援- ”, 日本経営工学会論文誌,Vol.66, No.2,2015

[10] Takayuki Ito, Yuma Imi, Takanori Ito, and EizoHideshima,“ COLLAGREE: A Faciliator-mediatedLarge-scale Consensus Support System”, CollectiveIntelligence 2014, June 10-12, 2014.

[11] 伊藤孝行,金森亮,Shantanu Chakraborty,大塚孝信,原圭佑,未来の社会システムを支えるマルチエージェントシステム研究(1)―経済パラダイム,交渉エージェント,交通マネージメント―,人工知能学会誌,Vol.28,No. 3,pp. 360-367,2013.

[12] 伊藤孝行,Shantanu Chakraborty,大塚孝信,金森亮,原圭佑,未来の社会システムを支えるマルチエージェントシステム研究(2)―電力システムおよびワイヤレスセンサネットワークへの応用―,人工知能学会誌,Vol.28,No. 3,pp. 368-379, 2013.

[13] 伊藤孝行,”マルチエージェントの自動交渉機構と集合的コラボレーション支援への応用”, 経営システム,日本経営工学会,Vol.20, No.5, pp. 255-262,2010.

[14] 伊藤孝行,”マルチエージェントの自動交渉モデルとその応用”, 知能と情報(日本知能情報ファジィ学会誌),Vol.22, No.3, pp.295-302, 2010.

[15] 伊藤孝行,”計算論的メカニズムデザイン ”,コンピュータソフトウェア(日本ソフトウェア科学会論文誌),日本ソフトウェア科学会,Vol. 25, No.4, pp.20-32, 2008.

[16] Nicholas R. Jennings, Payman Faratin, Allecio R.Lomuscio, Simon Parsons, Michael Wooldridge, andCarles Sierra. Automated negotiation: Prospects,methods, and challenges. Group Decision and Ne-gotiation, 10:199–215, 2001.

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大規模コラボレーションエージェント技術に基づく大規模意見集約支援システム

研究メンバー:仙石 晃久,伊藤 孝行

1 Web上での大規模意見集約近年,Web上での大規模な意見集約を実現する研究に注目が集まってます.例えば,都市開発での市民参画の分野において,強い民主主義や効率的な都市計画の実現を目指し,市民から直接的により多くの意見を集める議論システムの実現が求められています.しかし,現在普及しているような意見を交換する場としての既存システム(Twitterや Facebook等)では,意見を共有することは可能でも,大規模な意見の収束や集約には多数の問題が存在します.本研究では,Web上での大規模な意見集約を目的とした大規模意見集約システム COLLAGREEを開発しています.COLLAGREEでは,掲示板のような議論プラットフォームをベースにしており,自由に意見を投稿することが可能であり,意見の発散,収束,および集約を支援します.また,ファシリテータによる適切な議論プロセスの進行,インセンティブ機構による議論の活性化,および議論ツリーによる議論の可視化により大規模意見集約の実現を目指します.本研究では,2013年に名古屋市とファシリテータを導入した COLLAGREE上で,名古屋市と名古屋市次期総合計画について議論を行いました.名古屋市との社会実験では 264 名が参加し,意見投稿数 1,151 件,訪問数 3,072件,およびページビュー数 18,466ビューもの閲覧と投稿を得た.また,COLLAGREEによる大規模意見集約の実現可能性を確認し,Web上での議論におけるファシリテータの有用性を確認した.また,2015年にインセンティブ機構の有用性を評価するため,愛知県との社会実験や研究室内での評価実験を行なった.評価実験の結果,Web上での議論においてインセンティブ機構が参加者の行動の活性化につながることを示しました.

2 大規模意見集約支援システム COLLA-

GREE

本システムは主にテーマ画面と議論画面の 2つの画面に分かれています.本システムのテーマ画面を図 1

に示す.テーマ画面では,現在議論されているテーマを一覧で確認することが可能です.本システムの議論画面を図 2に示します.議論画面では,フォームに意見を入力し,投稿します.投稿さ

図 1: トップ画面(テーマ一覧)

図 2: 議論画面

れた意見はタイムラインに表示され,他のユーザーが閲覧,返信,および賛同を行うことで議論が進行します.以下に実装した支援機能を示します.【実装した支援機能】• 議論インセンティブ機能• 議論ツリー機能• ファシリテータ投稿支援機能• 賛成/反対の自動判定機能• キーワード提示機能• 論点タグ付加機能• リマインダー機能実装した機能の一部について以下で説明します.

【議論インセンティブ機構】 大規模意見集約システムCOLLAGREEでは,インセンティブ機構として,議論ポイント機能を導入しています.議論ポイント機能は,議論の参加に対して仮想の資財である議論ポイン

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トを付与することで,ユーザに議論参加のインセンティブを与えます.議論ポイントとして,参加者の活動のインセンティブとなる活動ポイント,および,有益な発言を促すインセンティブとなる評価ポイントが設定されています.さらに,意見内容や投稿タイミングを考慮して意見投稿の質を評価し,評価値に基づいた議論ポイントを付与します [1].投稿意見のタイミングでは,議論のフェイズごとに質の高い意見投稿の条件を定義し,条件に合致する意見投稿に高い議論ポイントを付与します.質の高い意見投稿の条件は,日本ファシリテーション協会のファシリテータにヒアリングを行いながら定義しています.本機能の表示画面を図 3

に示す.本機能の表示画面では,ユーザの順位,アイコン,名前,および獲得ポイントを,順位の高い順に表示する.

図 3: 獲得ポイントランキング表示画面

【議論ツリー機能】 議論ツリーとは,議論を円滑に進めるために,議論の返信関係を元に議論の流れを樹形図で可視化したものです [2].議論ツリーにより,参加者は議論の全体像や論点が把握でき,議論内容の把握を支援できます.また,議論ツリーは議論の各意見の位置付けや相互の関係を参加者に提供することでき,合意案を作成しやすくなります.さらに,議論の進行役のファシリテータへの利点として,議論構造を共有することで参加者の認識を統一することができることがあげられます.本システムの議論ツリーを図 4に示します.図 4の各番号は各機能を示しています.議論ツリーを COLLAGREEの各テーマごとにシステムによって自動で作成されます.また,ファシリテータは自動で作成された議論ツリーを修正することで,正確な議論ツリーを作成でき,参加者は修正された議論ツリーを見ながら円滑に議論することができます.

図 4: COLLAGREE上での議論ツリー

3 社会実験:愛知県デザインリーグ 2016

【実験設定】共催:愛知県都市整備課,参加者数:136

人,意見数:490 件,実施期間:2016 年 10 月 28 日(火)午後 4時~11月 4日(金)午後 6時,議論テーマ:20年後の街づくりについて,ファシリテータ:専門家 1名.2016年 10月に愛知県都市整備課の共催により,COLLAGREE上で市の職員さんと名古屋工業大学の学生で街づくりについての議論を実施した.本実験は,学生が愛知県の街づくりに関して,市の職員と議論を通して考える場を実現し,愛知県の街づくりにも貢献しました.

4 まとめ伊藤孝行研究室では,Web上における多人数での議

論の実現を目指し, 大規模合意形成プロジェクトを行っています.本稿では,本研究プロジェクトの目的,実装したシステム COLLAGREEの概要,社会実装について述べました.実装した機能としては,参加者の議論活動を促進させる議論インセンティブ機構や議論内容の把握を支援する議論ツリー機能があります.現在はオンライン空間とリアル空間の議論の同時支援やプロジェクトベースの市民共創知支援なども本プロジェクトの技術ベースに行っています.参考文献[1] Kazumasa Takahashi and Takayuki Ito and Takanori

Ito and Eizo Hideshima and Shun Shiramatsu andAkihisa Sengoku and Katsushide Fujita,”IncentiveMechanism based on quality of opinion for Large-Scalediscussion support” Proceedings of the 4nd CollectiveIntelligence Conference,2016.

[2] Akihisa Sengoku and Takayuki Ito and Takanori Itoand Eizo Hideshima and Shun Shiramatsu and Kazu-masa Takahashi and Katsushide Fujita,”DiscussionTree for Managing Large-Scale Internet-based Discus-sions” Proceedings of the 4nd Collective IntelligenceConference,2016.

(8)

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次世代IoTシステムの研究開発多様なセンサ接続可能な自律分散 IoTシステム

研究メンバー:大塚孝信,鳥居義高

1 はじめに皆さんの周りには数多くのセンサが使用されていることをご存知だろうか. 例えばエアコンの中には温度センサ, 玄関には人感センサといったセンサが搭載されています. センサとは, 環境情報を電気信号に変換するものであり, 身の回りに多く存在している. 近年, 耳にする単語で IoTがあります. IoTとは, センサの情報をネットワーク化することで, あらゆる情報を基に人間へフィードバックする技術です. 私は, 様々なセンサを接続可能な IoTシステムを開発するとともに, データを用いた予測を実現する「知的 IoTシステム」を研究しています. 近年, 農業や災害状況の把握のためのセンサネットワークや IoTシステムが存在する. しかし, 用途によって使用するセンサが異なる問題点があります. センサには電圧や通信方法の違いがあり, センサの追加や変更にはハードウェアとソフトウェアの大幅な変更が必要です. 我々の開発したシステムは, ミドルウェアにより電源電圧と通信方法の制御を行うことで, 多くのセンサの接続を可能とします. ミドルウェアとは, パソコンで言うなればオペレーティングシステムのようなソフトウェアです. 各センサ毎に必要な電圧や通信形式などを設定ファイルとして読み込むことで, ミドルウェアが接続されたセンサ情報を取得します. 本システムは既に実証実験を行っており, 河川の水位監視システムや近海養殖分野において応用されています. 本技術を利用することにより, 従来は別々のシステムとして導入しなければならなかった問題を解決し, 多様な分野のデータ収集を可能としました. さらに, 取得したデータを用いることにより, 近い未来の予測が可能となります. 具体的には, 機械学習や深層学習といった人工知能技術を用いることにより, 降雨量から河川水位の上昇量を予測したり, 海水温の変動を予測可能です. 現在は, 農業やプラント管理へのシステム応用を進めており, より多くのフィールドでの運用を目指しています. さらに, 多くの分野のセンサ情報を収集し, 予測を行うことで, 人間が安全・安心できる社会システムの実現を目指し, 研究を行っています.

2 WSNにおける異種センサ接続の課題2.1 異種センサ接続の重要性近年,IoT(Internet of Things)やM2M(Machine to

Machine) と呼ばれる,現実世界に存在するあらゆる物体をネットワーク化し,相互に作用させることを目的とした研究が行われている.そのなかでも,IoTやM2Mの根幹をなす技術であるワイヤレスセンサネットワーク (Wireless Sensor Network : WSN)の研究が広く行われています.しかし,多くのWSNや IoT製品や研究においては

サービス指向,すなわち,ユーザーの必要とする目的に応じて容易にセンサの追加や削除を行うことが困難です.特に,目的に応じてセンサの追加や変更を行う場合,ハードウェアの変更やソフトウェアの書き換えが必要であり,汎用性が確保されていることが少ない.そのため,それぞれのWSNシステムにはあらかじめ指定されたセンサのみ接続可能であり,汎用性に乏しい.汎用性が確保できていないため,ユーザは使用するセンサに合わせてシステム全体を入れ替える必要があり,現実的に使用することは困難です.また,WSN

を活用可能なフィールドとして,農業分野や海産養殖の環境モニタリングが挙げられる.これらの分野においては,研究分野において研究が進められており,農業分野ではカメラやセンサ機器を内蔵したWSNシステムによるモニタリングシステム [1]や,海産養殖の安定供給を目的とした海洋環境情報のモニタリングデバイス [2]などが挙げられます. しかし,これらのデバイスは用途ごとにカスタマイズされており,センサ接続の汎用性が確保されていません.つまり,同じシステムで多様なセンサを接続することが可能であれば,他用途に使用することができるため,WSNを利用した環境情報収集がより広く利用できます.我々は,1つのWSNシステムに多様なセンサを接続

可能な汎用WSNシステムを実装することで,平常時には農業や他用途のセンシングを行い,災害発生時には水位計をはじめとするセンサを接続することで,災害情報の収集を支援可能なシステムを実装しています.以上のように,WSNにおける環境情報収集の一般化,災害時の情報収集支援において,異種センサの接続を可能とするWSNシステムは重要です.

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2.2 異種センサ接続における課題センサ供給電圧の課題 近年,MEMS[3]デバイスの発達,スマートフォンを代表とするデバイスの発達により,センサデバイスの低価格化が進んでいます.多くのMEMSセンサデバイスは非接触でのセンシング用途を目的とした製品が多い.特に,温湿度センサや気圧センサ,イメージセンサに関しては MEMSセンサデバイスにより劇的な低価格化が実現しています.しかし,農業用途や海産養殖向けのセンサデバイスは被観測物に対して接触して測定するセンサが大半です.これらのセンサは産業用途を目的として製造されており,大量に生産されてはいるが,未だ高価格です.また,センサデバイスは多くの企業が製造しており,モデルごとにセンサが必要とする供給電圧が異なります.特に,産業用途のセンサデバイスに関しては,製造業者の提供する測定装置と組み合わせて使用することが想定されており,製造業者ごとに供給電圧やインターフェースが異なります.しかし,FA (Factory Automation) 用途のセンサと同じく,多くのセンサは 12Vや 6Vといった標準的な供給電圧が多い.また,MEMSセンサにおいては,マイコン系の信号レベルと合致させていることが多く,多くのセンサデバイスは 5Vもしくは 3.3Vを必要とします.センサ通信形式の課題 電源供給の課題と同じく,センサとマイコン間の通信に関して,標準化されてはいるがセンサ毎に異なります.マイコンによるセンサ値の読み取りに関しては,大別するとアナログ値を読み取るアナログ式.ディジタル通信により値を読み取るディジタル式が存在します.そのなかでも,アナログ式においては電圧値を読み取る形式,電流値を読み取る形式があります.ディジタル式に関しては,規格でいえば, フィリップス社により開発されたシリアル通信形式である I2C

通信 [4],モトローラ社によるシリアル通信形式であるSPI通信 [5],及びマイコン間の標準的なシリアル通信形式である UART に大別されます. これらのディジタル通信方式の特徴として,2本から 4本の通信線のみで接続可能であり,かつデイジーチェーン接続が可能です.しかし,各センサ毎にデータのアドレス位置が異なり,かつ生データから実データへの変換式が異なります.さらに,センサ毎にデータ送受信コマンド,スリープからの復帰コマンド等も異なるため,命令信号をセンサ毎に用意する必要があります.

3 異種センサ接続を可能とするWSNシステムの実装

3.1 システム概要本分野における多くの研究が室内空間などの電源供

給可能な場所に設置されることを前提としており,使用するセンサ類の変更を前提とした設計をしていません.我々は,真に屋外において汎用的に使用出来るWSN

システムのために,ハードウェア,ソフトウェア双方を統合して開発しています.システムの概要を 1に示します.

��������

��

図 1: システムの概要

本システムは,異種センサ接続を可能とするため,電力供給の問題についてはハードウェア側により解決し,ディジタル接続形式センサの汎用性についてはソフトウェア側にて解決しています.センサとの接続に関してはマイコンと外部センサコネクタに接続し,電源供給に関しては DC-DCコンバータにより供給電圧を変更します.また,屋外における継続的な動作を可能とするため,太陽電池による自律的な稼動を可能としています.ハードウェアの構成部品は以下としています.

• マイコン: NXP社製 ARM mbed LPC 1768

• 電流・電圧センサ : Texas Instruments社製 ina 226

• GPSモジュール : JRC社製 CCA-705JZ

• 充電管理 IC : LINEAR TECHNOLOGY社製 LT3652

• DC-DC コンバータ : LINEAR TECHNOLOGY

社 LT1086

• 蓄電池 : A123 Technology社製 AMR26650 リチウムリン酸鉄電池

• 太陽光パネル : 12V 8W 汎用品• 通信モジュール : 佐鳥電機社製 LPR9204 920Mhz

帯モジュールハードウェアに関しては,電力効率の良いものを搭

載することで消費電力量を削減しています.また,マイコンの消費電力に関しては,イーサネットや mbed

インターフェースの停止とともに, クロック周波数を下げることで消費電力量の削減を実現しています.以上

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により,ハードウェアのみの消費電力は,通常時 5mA

です.また,マイコンの消費電力量は省電力処理実施前が 135mAであるのに対し,省電力処理実施後 35mA

と大幅に改善しました.

試作した回路基板を 2に示します.

図 2: 実際の回路基板

以上により屋外における自律稼動が可能でありながらも,異種センサに対応する電源供給可能なハードウェアを実装しました.ソフトウェアについては, 通信ノードには,NXP社製 mbed LPC1768が搭載されています.mbed上には,ノード全体を管理するためのミドルウェアであるバイナリファイル,webインターフェースからOTA (Over The Air)の書き換えが可能な OTA profile.txtがあります.ミドルウェアについては C言語にて開発され,NXP社の提供するオンライン開発環境 [9]を利用して実装しました.ミドルウェアには,オンボードのセンサの通信を管理するプロファイルが,センサ毎のクラスファイルとして格納されており,センサ毎に定義することで異種センサのデータ読み込みに対応出来ます.また,webインターフェースからの書き換え可能なプロファイルである OTA profile.txt は,webサーバから各通信ノード個別にアクセスし,サンプリングレートをはじめとした設定を変更可能です.センサデータの閲覧に使用する web-UIについては Ruby on RailsとMySQLにより実装しました.以上により,I2C及び SPIに接続されたセンサの通信については通信ノード内のセンサ毎のプロファイルにより定義され,容易に変更が可能でです.また,ミドルウェアを改良することにより,センサプロファイルを OTAで書き換えることも可能なため,異種センサの接続に対応可能なシステムを実装しました.

4 評価実験4.1 異種センサ接続試験実フィールド実験に先立ち,基本的要件の確認のた

め試験を行っています.オンボードセンサに加え,以下のセンサを接続し,センシングデータが正常に送信されるかどうかについて確認しました.

• センシズ社製 圧力式水位センサ HM-500

表1に接続試験の結果を示します.

表 1: 接続センサの試験結果

Sensor Name Type of connection Voltage On-board Function

CCA-705JZ UART 3.3V Yes OK

ina226 -1 I2C 3.3V Yes OK

ina226 -1 I2C 3.3V Yes OK

HM500 Analog(V) 6V No OK

以上の結果により,オンボード及び外部センサについて接続を確認するとともに,サーバに対し正常にデータが送られていることを確認しています.

4.2 実フィールドを想定した検証試験本研究では,実フィールドを想定した試験も行って

います.本試験では,本システムの主目的である災害時のセンシングを対象として試験を行いました.2016

年 3月 9日に,愛知県名古屋市にある,国土交通省 中部技術事務所の試験水槽にて以下の項目について確認しています.• 現地到着後,即座に運用が可能であるかの確認• 水位計を用いた実水位精度の確認• ポンプ車排水負圧による水位センサ誤差の確認試験における通信ノードの外観を 3に示し,水位計

による水位計測について 4に示します.

図 3: 通信ノードの外観

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図 4: 試験の様子

現地にはポンプ車搭載を前提とした 3G通信回線網に接続された親機を設置し,webサーバにデータを送信しています. 送信されたデータはサーバー上で処理され,可視化を行うことで計測ノードの位置及び,水位情報を可視化しました. サーバソフトウェアによって可視化されたデータはタブレット端末などを用いて閲覧することができ,リアルタイムに内水被害の状況を確認することが可能です.実際の運用実験で得られたデータ表示例を 5に示します.

試験結果により,屋外において実フィールドを想定した試験を行うことにより,屋外での正常な通信が可能であり,汎用的に使用が可能であることを示しました.

現在,システムの継続的な運用試験を行っており,2016年 3月より設置位置が固定された状態ですが,静岡県三島市御園地区にて,本研究で開発したノードを用いて,継続的に水位データを測定し続けています. 継続試験の結果により,ハードウェアとソフトウェアの長期動作における信頼性について引き続き検証を行っています.

図 5: webUIによるデータ表示

5 まとめと今後の課題我々は,異種センサ接続を可能とするWSNシステ

ムについて,ハードウェアとソフトウェアの双方について研究を進めています.特に,汎用性を確保したWSN

においては,ハードウェアとソフトウェアの融合が重要でです.すなわち,ハードウェアだけが優れていてもソフトウェアとして完成していなければ使用に耐えないということです.そのため,ソフトウェアだけではなく,ハードウェア自体をソフトウェアにより制御することを示すとともに,ソフトウェア制御に適したハードウェアアーキテクチャについても実装しました.本研究は既に屋外でのWSNに関するさまざまな知

見 [6][7][8]の収集が完了しており,実装を進めています.参考文献[1] 平藤雅之, et al. ”オープン・フィールドサーバ及びセンサクラウド・システムの開発.” 農業情報研究 22.1 (2013):60-70.

[2] 吉田将司, 千葉元, and 北條晴正. ”富山湾における環境観測用センサネットワークの構築-III.―海水温観測システムの運用と課題―.” 日本航海学会論文集 128.0(2013): 153-159.

[3] Saxena, Vishal, et al. ”Design and fabrication of aMEMS capacitive chemical sensor system.” Micro-electronics and Electron Devices, 2006. WMED’06.2006 IEEE Workshop on. IEEE, 2006.

[4] Semiconductors, Philips. ”The I2C-bus specifica-tion.” Philips Semiconductors, 2000

[5] Zhiming, Yi. ”The realization of SPI serial bus inter-face [J].” Automation and Instrumentation 6, 2006

[6] Takanobu Otsuka, Yoshitaka Torii, Takayuki Ito,“Anomaly Weather Information Detection usingWireless Pressure-Sensor Grid”, Journal of Infor-mation Processing (JIP), Vol.23, No.6, InformationProcessing Society of Japan (IPSJ), 2015

[7] Otsuka, Takanobu, Yoshitaka Torii, and TakayukiIto. ”Challenges and implementation of ad-hoc watergauge system for the grasp of internal water dam-age.” 14th International Conference on Computerand Information Science (ICIS), 2015 IEEE/ACIS .IEEE, 2015

[8] Takanobu Otsuka, Yoshitaka Torii, and Takayuki Ito.”A proto-type of a portable ad hoc simple watergauge and real world evaluation.” The Proceedingsof the 2nd International Workshop on Smart Simu-lation and Modelling for Complex Systems, 2015

[9] ARM mbed, https://www.mbed.com/en/, 2016.3.20閲覧

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計算論的メカニズムデザインマルチエージェントシステムの中核理論

研究メンバー:伊藤孝行他

1 計算論的メカニズムデザインって?計算論的メカニズムデザイン [4]は,分散された個人情報を持つ自律的意思決定主体(エージェント)の社会的決定と,計算量や通信コストといった計算機科学の概念を同時に扱う新しい分野である.例えば,電子市場や自動交渉システムを構築するために,各エージェントのインセンティブ,計算量,通信コストなどの制約をもとに,理論的に望ましいプロトコルやメカニズムを設計する.計算論的メカニズムデザインは,情報学の観点から経済学,特にミクロ経済学,ゲーム理論,メカニズムデザイン (制度設計)といった分野を研究することを目的とした新しい分野である.近年のインターネットの発展と情報財などの普及により,ネット上の商取引に関して新たな経済的解析が必要とされているためである.また,伝統的な経済学では,解概念や均衡概念は多くあるものの,その計算アルゴリズムに基づく解析が欠けていた.マルチエージェントシステムの分野でも,古くからゲーム理論やメカニズムデザインを用いて多くのエージェントの交渉や協調の理論が提案されている.計算論的メカニズムデザインは,マルチエージェントシステムの交渉や協調の計算モデルの理論的アプローチの一つであると言える.さらに,計算論的メカニズムデザインは,古典的なメカニズムデザインでは扱わない概念,もしくは,計算量やネットワークの通信コストといった計算機科学の問題意識を取り入れている.メカニズムデザイン(制度設計理論)は,ミクロ経済学やゲーム理論の分野の一つである.メカニズムデザインの分野では,最近(2007年)に Leonid Hurwicz,Eric Maskin,及び Roger Myersonがノーベル賞を受賞しており,注目を集めている.メカニズムデザインは,逆ゲーム理論(inversed game theory)と考えることもできる.すなわち,ゲーム理論ではルールが与えられた上で結果を分析するが,メカニズムデザインではある望ましい結果を得ることができるようなルールを設計する.メカニズムは,個人的な情報を持つ利己的なエージェントが,集団としての意思決定をするためのルールやプロトコルである.ここでは,プライバシーを守りながら,システムとしていかにして望ましい解を実現するかが課題である.計算機科学の問題

意識を取り入れていないメカニズムデザインを,古典的メカニズムデザインと呼ぶ.計算論的メカニズムデザインでは,古典的メカニズ

ムデザインに対して,計算機科学の問題意識や計算機科学のアプローチを取り入れる.例えば,マルチエージェントシステムにおいて,利己的なエージェントを仮定する状況では,システムとして全体を制御するために最低限のルールやプロトコルを設計する必要がある.設計されるルールやプロトコルは,なんらかの望ましい理論的性質を持つべきであり,古典的メカニズムデザインの理論を応用することができる.また,電子市場の設計や電子制度の設計においては,古典的なメカニズムデザインを理論的ツールとして用いながら,実装において計算アルゴリズムや暗号化などの技術と効果的に融合することが必要となる.さらに,古典的なメカニズムデザインの解概念は,計算機科学が当然問題としているような計算量の問題などがほとんど反映されていない.そこで古典的メカニズムデザインにおける解概念に対する計算量の分析や近似アルゴリズムの設計も行われている.ここでは各主体にとって真実の申告が最良になる

Truthfulメカニズムの設計が主な課題である.真実の申告が最良であるため,各エージェントは,他のエージェントの申告を探ってみたり,偽りの申告をするためのコストを考えなくても良い.従って,Truthfulメカニズムを設計することで,超広域ネットワーク上で頑健かつ安定的に運用することが可能になる.応用としては eBayの評判システムと競上げ式オークションから成る電子マーケット, 第2価格オークションに基づく Google電子広告メカニズム(キーワードオークション),米国連邦航空局の空港離発着計画メカニズムがある.

2 具体的な研究内容本研究室では以下の3つについて、理論的な側面か

ら計算論的メカニズムデザインを進めている。

【相互依存価値オークション】参加者の価値が相互に依存する状況での,望ましいオークションを設計している [1][2][3].例えば,ネット書店で,私がある本に対して持つ価値は,批評やランク付けに依存する。価値の相互依存は一般に広く見られる状況であ

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り、その状況における取引や市場に関する研究の一つである.米国ハーバード大学や英国サザンプトン大学との共同研究である.詳細を次章にて述べる.

【オンラインメカニズム】メカニズムデザイン研究の一つとして,ダイナミックな環境において社会的決定を逐次的に行うオンラインメカニズムデザイン [6, 7]が注目を集めている.基本的なオンラインメカニズムデザインでは,時間の経過を前提とし,新しいエージェントが到着したり,出発したりするような状況で,財の割り当てや支払いを逐次的に決定する.オンラインメカニズムでは,将来に到着するタイプを知ることなしに現在の決定を行う必要があり,なるべく経済効率性が高くなり,かつ真実申告が最良になるようなメカニズムの設計を目標にしている.すなわち,オンラインメカニズムデザインでは,財に対する価値だけではなく,到着時間と出発時間に関しても正直な申告をするように動機付けると同時に,なるべく経済的な効率性を高めることが期待される.オンラインメカニズムデザインは,真実申告を目指すメカニズムデザインと,将来に対する不確実性を扱うオンラインアルゴリズムの両方の問題を統合しており,それだけ困難な問題と言われている.本研究では,オンラインメカニズムデザインを,駐車場管理問題や電力マーケットへ応用することで,より安定的な社会システムの実現を目指している.

【極めて大規模な組合せオークション】組合せオークションとは,入札の対象として単一の財に対してでなく,複数の財の組み合わせに対して入札が可能なオークションである.組み合わせオークションには,すでに電子商取引で広く普及している単一財を対象としたオークションなどに置き換わる新たなオークションメカニズムとして,広く普及する可能性がある.米国 FCCによる周波数帯域割り当てへの適用が検討された例も報告されている.同時に,他の多くの複雑な組み合わせ最適化問題の近似にも適用できることが明らかにされつつある.例えば,チリにおける給食の配分効率化問題への適用事例が報告されている.組み合わせオークションの勝者決定問題に対しては,最適解を高速に求めるアルゴリズムについての研究が進んでいるが,この問題は NP-hard であることが知られており,特に入札数の増加に対して爆発的に計算が複雑になる.例えば,良く知られた非近似の CASS アルゴリズムでは,我々が試した限りでは,1つのオークショ

ンに対する入札数がおおよそ 3000 を超えると,最適解を求めることが非常に困難になる.一方で,組み合わせオークションにおける入札数は,代替可能財を扱おうとすると,爆発的に増加してしまう.さらに,ユビキタスコンピューティング環境などで、エージェント(プログラム)による入札の自動生成を考えると,入札者の持つ選好関数などからそれを満たす(人手では到底不可能な)大量の入札を作り出すことができるため,エージェントが参加可能な組み合わせオークションでは,非常に大量の入札を前提とした高速な勝者決定が求められます.Zurel

が現在報告されている中ではもっとも高速な近似解アルゴリズムの一つである.我々のアルゴリズム XHC-3-para は,最適性(Opt.)および計算時間 (Time)において格段に優れた結果を得ることができている.また、商用で最高速の最適化ソフトウェアである CPLEXが,計算できない大規模な問題に対しても,本アルゴリズムは解を得ることに成功している.勝者価格単調性は「勝者は必ずある組合せに関して,ほかの入札者よりも多い金額を入札している」ということを示している.これはきわめて単純な性質だが,近似解アルゴリズムではランダムウォークが頻繁に使われるため本性質を満たさない場合が多くある.本研究で提案するアルゴリズムは,条件により勝者価格単調性または弱勝者価格単調性を満たすことが証明されている.静岡大学との共同研究である.

以下では,相互依存価値オークションに関する詳細を示す.

3 相互依存価値オークション3.1 自分の価値は他の人が持つ価値にも依存するワインやお酒を買う時、ボトルのラベルを見ること

で、それに対する価値が変化することがある。相互依存価値モデルは、自分の価値が、自身の個人的価値だけでなく、他の人の価値にも依存し得るという自然な状況をモデル化している。本研究では,プレイヤの価値が他のプレイヤの価値に

依存するという相互依存価値を想定した場合のオークションを設計する.本オークションでは,Dasgupta& Maskin [5]による不確定入札(Contingent Bids)モデルを採用する.不確定入札モデルでは,「もしプレイヤ1が財Aに対してx円入札するなら,私はy円入札する」というような入札形式を用いる.本研究の貢献は,第1に,相互依存価値を前提とした,単一財の取引において線形の相互に依存する評価関数モデル (式 (1))

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を提案した点である.

bi(v−i) = vi0 +∑j �=i

αijvj , (1)

第2に,線形の相互依存価値モデルが単一財第二価格オークションにおいて経済的に効率的(Efficient)なオークションが存在するような条件を示した点である.本オークションは勝者と支払額を不確定入札によって定義される評価関数の写像の不動点を用いて計算することによって,真実申告最良(Truthful)で効率的となる.第3の貢献は,上記の提案オークションよりも,収益を改善できる単一財オークションを探索によって発見する手法を提案した点である.以下に,本線形モデルの具体例を示す.3つの企業,

{1, 2, 3},があるオークションに参加しているとする.これらの企業の価値は相互に依存する.例えば,企業1は,企業 2と企業 3の持つ価値に注目している.

b1(v2, v3) = 50 + 0.3v2 + 0.5v3 (2)

式 (2)では,企業 1は,企業 2の価値に 0.3の重み(α重み)を置いており,企業 3の価値に 0.5の重み(α

重み)を置いている.同じように,企業 2と企業 3は以下の(正直な)不確定入札を持つ.

b2(v1, v3) = 60 + 0.4v1 + 0.4v3 (3)

b3(v1, v2) = 70 (4)

つまり,1と 2は,他の企業の価値に注意を払っているが,3は他の企業の価値は無視している.各企業の α重みの合計は 1.0以下である.これによって,評価値均衡の一意性が保証される(この結果の詳細は??

章で示されている).以上の入札に基づいて,各企業の価値は,写像(式(2),式(3),及び式(4))の不動点 (v◦1 , v

◦2 , v

◦3)として計算される.本ケースでは,不

動点は以下を解く事で得られる:

v◦1 = 50 + 0.3v◦2 + 0.5v◦3

v◦2 = 60 + 0.4v◦1 + 0.4v◦3

v◦3 = 70

従って,(v◦1 , v◦2 , v

◦3) = (126.6, 138.6, 70.0).

本不動点では,企業 2 が最大値を持つので,企業2が勝者となり,支払額は次の v′2 として計算される.v′2 = max{v∗1 , v∗3}.ここで,v∗1 = b1(v

′2, v

∗3)かつ v∗3 =

b3(v′2, v

∗1) (つまり,2 の入札が b2(v1, v3) = v′2 の時

に他の企業に関して更新した不動点値である).v∗1 =

b1(v′2, v

∗3) = 50+0.3v′2+0.5v∗3かつ,v∗3 = b3(v

′2, v

∗1) =

70であるため,v∗1 = 85+ 0.3max{v∗1 , v∗3}となる.したがって,v∗1 > v∗3 となる.これより,v∗1 = 85+0.3v∗1かつ,v′2 = v∗1 となる.従って v∗1 = 850/7 ≈ 121.4を得る.従って,企業 2は 121.4の価格で勝つ.ここで,v◦1 より小さいことに注意されたい.なぜなら,この企業 1の不確定価値も,2がちょうど勝つような閾値となる入札を決める場合に減少するからである.3.2 利益の最大化、組合せオークションへの拡張、依

存関係の分析課題は,相互依存価値オークションにおいて,いか

に利益を最大化するか,組合せオークションに拡張するか,また,依存関係の分析もある.本研究では,以上の課題に対していくつかのアプローチを示している.本テーマは,米国ハーバード大学との共同研究であ

り,国際的に最も質の高い会議の一つである自律エージェントとマルチエージェントに関する国際合同会議AAMAS2006に採録され,最優秀論文賞を受賞しているなど,高い評価を得ている.また近年,人工知能に関する国際合同会議 IJCAI2013[8] において,ある種の階層的な相互依存関係では,Truthfulな組み合わせオークションが可能であることを示している.参考文献[1] Takayuki Ito, David C. Parkes, ” Instantiating the

Contingent Bids Model of Truthful InterdependentValue Auctions”, In AAMAS2006.(最優秀論文賞)

[2] 伊藤孝行, David C. Parkes, ”相互依存価値モデルに基づく不確定入札を用いた真実申告最良な組合せオークションの設計”, 電子情報通信学会論文誌 (2007).

[3] 伊藤孝行, David C. Parkes, ”不確定入札に基づく真実申告最良な相互依存価値オークション”, 電子情報通信学会論文誌 (2007).

[4] 伊藤孝行, ”計算論的メカニズムデザイン”, 日本ソフトウェア科学会論文誌, Vol. 25, pp. 20–32 (2008).

[5] P. Dasgupta and E. Maskin: “Efficient auctions”, TheQuarterly Journal of Economics, CXV, pp. 341–388(2000).

[6] Friedman, E. J. and Parkes, D. C.: Pricing WiFiat Starbucks: issues in online mechanism design, inEC03, pp. 240–241 (2003)

[7] Parkes, D. C.: Chapter 16: Online Mechanism De-sign, in Nisan, N., Roughgarden, T., Tardos, E., andVazirani, V. V. eds., Algorithmic Game Theory, pp.411–439, Cambridge University Press (2007)

[8] Valentin Robu, David Parkes, Takayuki Ito, Nick Jen-nings, ”Efficient Interdependent Value Combinato-rial Auctions with Single-Minded Bidders”, In IJCAI2013.

(15)

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自動交渉エージェント効用モデル,自動交渉メカニズム,および国際競技会

研究メンバー:伊藤孝行,遠山 竜也, 森 顕之, Rafik Hadfi

1 自動交渉エージェント近年のWWWの普及と,光ファイバーによるネットワーク帯域の増加により,スケーラブルでスピーディな協調や交渉が可能になった.例えば,ビデオ会議,Twitter,ネットオークション,ウィキペディア,予測市場,ソーシャルネットワーク,ソーシャルレンディングなど,多くの具体的な活動が活発になっている.世界中の人々がお互いに協調したり交渉したりするニーズを持っていることが分かる.以上のようなグローバルで大規模な参加者がいる状況で,協調や交渉を効果的に進めるには,計算機による支援は効果的である.エージェントが,協調や交渉のプロセスにおいて,人間が煩雑だと思える作業や,人間ではできないような大量の情報処理を代行するのである.エージェントとは,ネットワーク上で,人間の代理で煩雑な作業を代行するプログラムである.

【自動交渉(Automated Negotiation)とは】 Nicholas

R. Jenningsらのグループは,マルチエージェントの自動交渉の分野を世界で最も早く確立したグループの一つである.彼らによれば,交渉(Negotiation)とは,可能な合意(候補)の空間の分散探索と見ることができる(Negotiation can be viewed as a distributed search

through a space of potential agreements)[1].可能な合意点の集合が探索問題空間であり,個々のエージェントがなるべく合意を得るように分散探索するのである.本稿では,自動交渉エージェントについて伊藤研究室で行っている複数論点交渉機構,動的な効用関数,および国際自動交渉エージェント競技会について紹介する.

2 複数論点交渉機構複数論点交渉問題の合意形成支援に関して,多くの研究が行われているが ([13] etc.), 既存の多くの研究では論点の独立性が仮定されており,エージェントの効用は線形の効用関数として表現可能であった.現実世界の交渉では各論点が独立している場合は稀であり,大きさが変化すれば価格が変化するなど各論点が互いに依存関係である場合が多い.さらに,論点の独立性が仮定された交渉問題において良質な合意案が発見できる手法でも,各論点が相互依存関係にある場合には

図 1: 複雑な効用関数と効用空間の例

有効に働かないと示されている [2].ここでは,より現実的かつ計算量が膨大である,複数の論点が相互依存関係にある複雑な交渉問題に注目する.各論点が相互依存関係にある場合に有効な効用関数

として制約に基づく効用関数が考えられる [3, 9].各論点が独立している場合,効用関数は単純な線形関数で表現できたが,各論点が相互依存関係の場合は複雑で非線形な効用関数を定義する必要がある.制約とは,図1の効用関数Aが示すように,論点1が 3-7,論点2が 4-6の時に効用 55をもつように表現される.エージェントはこのような多数の制約を独自に持っている.また,各エージェントがもつ効用関数をすべて集積させ,効用空間を表現する.図 1の効用空間が示すように,エージェントは複雑な効用空間をもつ.制約に基づく効用関数に対して有効な手法としてオー

クションに基づく交渉手法およびが提案されている [3,

9].オークションに基づく交渉プロトコルでは,エージェント自身がサンプリングを行い自身が合意したい入札情報を生成するフェーズ,そして,中間で交渉を管理するメディエータ(中間人)がエージェントからの入札情報から合意案を発見する合意案の発見のフェーズからなる.オークションに基づく交渉手法はエージェントがもつすべてのプライバシー情報を公開することなく,各論点が相互依存関係の場合でも良い合意案を発見できることが示されている.しかし,各論点が相互依存関係である複数論点交渉

プロトコルに対して,2つの重要な課題が存在する.(i)交渉の参加者がプライバシー情報を公開することで被る不利益を考慮する必要がある.交渉において自身

(16)

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の効用情報などプライバシー情報を他者に公開することは次回以降の交渉で不利益を被る可能性がある.また,セキュリティの観点からみてもプライバシー情報の公開は危険である.(ii) 交渉プロトコルに対してスケーラビリティの高さが求められる.交渉における論点数やエージェント数が大きい場合,計算量が莫大である.(i)のプライバシーに関する課題に対して取り組んだ手法として,閾値調整メカニズムがある [4].閾値調整メカニズムでは,まず,エージェントは共通の初期閾値を用いてオークションに基づく交渉手法を行う.ここでいう閾値とは今回の交渉で公開する入札の評価値の最低ラインである.もし合意案が得られない場合,各エージェントは自分の入札の際の閾値を下げ,再交渉を行う.下げ幅は各エージェントがどれほどプライバシー情報を公開したかによって調整され,プライバシー情報の公開が不平等にならないように決定する.一連の操作は合意案が発見される,もしくは全エージェントが下げることを拒むまで繰り返す.閾値調整メカニズムはオークションに基づく交渉手法と比較してプライバシー情報の公開率を削減することに成功している.また,暗号理論の分野で開発されたマルチパーティプロトコル [5]と近傍探索手法 [6]を組み合わせた分散メディエータに基づく交渉手法 [8]が提案されている.本手法では,プライバシー情報の完全非公開およびスケーラビリティの大幅向上を実現している.分散メディエータに基づく交渉手法では,まず,エージェントがシェアとよばれる暗号を作成する.次にメディエータがエージェントから受け取ったシェアの和を計算する.その後,交渉の管理者が復号を行うことで,各エージェントの効用値の和を求める.マルチパーティプロトコルを用いることで,シェアのやり取りだけで合意形成に必要な効用値の和を取得できる.(ii)のスケーラビリティに関する課題に取り組んだ手法として,効用空間の絞り込みに基づく交渉手法 [10]

が提案されている.効用空間の絞り込みに基づく交渉手法 [10]では,メディエータは,クラスター入札,最大制約入札そしてピーク入札を行なうことで,ラウンドごとに合意形成を探索する範囲を絞りこみながら交渉を行っていく.本文献で提案されているメカニズムが論点数 10のような効用空間が大きな範囲においても実行可能であり高い最適率と低い合意形成失敗率であることが示されている.また,オークションに基づく交渉プロトコルに対して,

Q-Factorという入札のもつ効用値と合意形成のしやす

さを考慮した指標を導入した手法も存在する [11, 12].具体的な Q-Factorの式は Q = uα ∗ vβ(u: 効用値, v:

入札がもつ範囲)で表現される.Q-Factorに基づく手法では,入札に基づく交渉手法と比較してスケーラビリティが高いだけでなく,合意案の質と合意のしやすさを Q-Factorによって調整できる.各論点の相互依存度に基づき論点グループを決定し,

論点グループごとに合意形成を行なう手法を提案している [7].論点グループを決定することで,論点数が多く計算量が莫大な問題を,論点数が少なく小規模な交渉へ分割することができる.本手法では,まず,エージェントはすべての制約情報を調査し,正確な相互依存関係グラフを生成する.次に,メディエータはエージェントの相互依存関係グラフに基づいて存在する相互依存度が最大になるように,論点グループを決定する.その後,エージェントはグループごとに入札を生成し,それぞれの入札に評価値を設定する.さいごに,メディエータは入札情報をもとに組み合わせ最適解を求め,最終的にグループごとに生成された合意案を統合して最終合意案を求める.

3 動的に変化する効用関数はじめにマルチエージェントシステムの研究分野において,複

数論点交渉問題 (Multi-issue negotiation)が注目を集めている. これまでに複雑な効用空間を対象とする交渉問題に関する研究 [?, ?]が行われているが, 既存の研究は全て効用空間の経時的変化を考慮していない. しかし, 経済学では, 動的に変化する効用関数が仮定される事が多い. 例えば,[?]に代表される動学的非整合性モデルでは, 個人の選好が時間を通じて変化すると考え,

現在の個人は, 将来の自分の選好変化を予想した上で現在の意思決定をするというのが基本的な考え方である. [?]は誘惑の特定化の下で現在バイアスとして知られている異時点間の選好逆転現象を説明している. [?]

では, 時間によるリスク態度の変化を報告している. そこで本研究では, 経時的に変化する複雑な効用空間と,

効用の経時的変化を考慮したメディエータ主導の交渉手法を提案する. 本研究では, いくつかの論点のみを割引または割増しすることで, 一様な効用空間の変化だけではなく, 効用空間の形状の変化にも着目して議論する.

また交渉問題において, パレートフロントを求めることが重要である. パレートフロントとは, パレート最適な合意点集合のことを言う. パレートフロントを求めるには, 単一解を求める Simulated Annealingな

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どの最適化手法よりも, 複数解を同時に扱う GAの方が親和性が良い. 多目的最適化の分野でも, 各目的関数に対するパレートフロントを求める際にGAが用いられる. 従って, 本研究では SAなどの単一解を求める最適化手法は使用しない.

4 経時的に変化する効用関数

図 2: 論点が相互に依存し合う効用グラフ

図 3: 論点1のみを割引した場合

エージェント間合意形成において, エージェント数が増加するほど交渉時間が通信遅延などで必然的に長くなることが予想されるので, 効用の経時的変化の影響を考慮することは非常に重要である. また, 交渉問題において論点同士は相互依存関係にある場合が多く,

効用の経時的変化は論点に依存する. 本研究では, 前節で示した効用グラフに基づいて, 各論点に変化率(割引率または割増率)を導入することで, 論点に依存した効用の経時的変化を考える [?, ?, ?]. 変化させる論点数及び変化率を適切に設定することで, 様々な交渉問題を取り扱うことが可能である. 例えば,「期限」という論点に割増率を設定することで, 時間が経過するほど, 「期限」に対する重要性が高まるという状況を表現可能である. 図 3に図 2の論点 1を割引したものを示す. 論点 1を割引すると, 論点 1に関する制約 (太

い線) から得られる効用が減少する. 本例では, 割引率を 0.8とし, 割引回数を 1回としている. 図 2と図 3を比較すると, 論点 1に関する制約から得られる効用は,

100から 80に減少している. 一方で, 論点 1が関わらない制約から得られる効用は 100のままで変化していない. このモデルにより, 論点毎の効用の経時的変化を表現する.

図 4: 効用空間全体が一様に変化する場合

各エージェントの効用空間が経時的に変化している様子をパレートフロントの変化として図 3と図4に示す. 横軸がエージェントAの効用値 (UA), 縦軸がエージェント Bの効用値 (UB)を表す. 濃い灰色の部分と,

薄い灰色の部分は, それぞれ交渉可能領域を示しており, 割引するたびに描写の色を交互に変えている. 交渉可能領域とは, 合意点として取り得る点を網羅的にプロットした点である.

図 4はすべての論点を割引した場合である. この場合, 効用空間全体が一様に変化するため, 交渉可能領域は単純に一様に変化する. 論点間の独立を仮定している多くの研究では, 図 4のような単純な変化しか考えることができない. 一方本研究では, 各論点の重要性が選好情報に基づいて複雑に変化するという状況を想定する.

図 5は, 論点 1のみを割引した場合である. 本研究では, 各エージェントはそれぞれの効用空間を持っており, 論点に対する依存度, すなわち, 論点に対する制約数が異なる. 従って, 効用空間は, 各エージェントの論点に対する依存度に応じて経時的に変化する. 図 5

は, エージェント Bの方が論点1に関する制約数が多い場合であり, エージェント Bの方が効用値の減少幅が大きく, パレートフロントはエージェント Bに偏っ

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て変化する.

図 5: 効用空間の形状が変化する場合

以下にパレート支配, パレート最適, 及びパレートフロントについての一般的な定義を示す.

【パレート支配】 2つの利得ベクトルx = (x1, ..., xn), y =

(y1, ..., yn) について, すべての i = 1, ..., n に対して, xi > yiとなるとき, xは yをパレート支配するという. すべての iについて xi ≥ yi であり, 少なくとも一つの iについて xi ≥ yiとなるとき, xは y

を弱パレート支配するという.

【パレート最適】 利得ベクトル xがいかなる yによっても弱パレート支配されないとき, xはパレート最適であると言う. パレート支配されない場合は, 弱パレート最適であると言う.

【パレートフロント】 パレート最適解の集合をパレートフロントと言う.

GAに基づくメディエータ主導の交渉メカニズムの提案GAを用いたエージェント間の合意形成手法は, [?]

により示されている. 表 1に示すように, エージェント間の交渉に GAを適用する場合, 交渉における合意点を染色体, 合意点の論点を遺伝子座, 論点の値を遺伝子とすることが可能である.

表 1: 交渉問題と GAのマッピング交渉 合意点 論点 論点の値GA 染色体 遺伝子座 遺伝子

提案アルゴリズムでは,メディエータが各エージェントの選好をランキング情報として受け取り交渉を進め,

なるべく効用の高い合意点を得ることを試みる [?, ?].

図 6にアルゴリズムの概要を示す.

図 6は, 2エージェントの場合を記述しているが, n

図 6: アルゴリズムの概要

エージェントに容易に拡張可能である. まずメディエータが染色体集合を各エージェントに分配する. 各エージェントは染色体を, 自分自身の効用空間に基づいてソートする. すなわち, 合意点が各エージェントの効用値の大きい順でソートされることになる. そして, 各エージェントは, メディエータに上位半分の染色体集合と, 各染色体のランキング情報を提出する. メディエータはパレート支配関係を計算し, パレート支配されていない染色体 (より良い染色体) のコピーを作成し, 必ず次の世代に残すように保存する. そして, メディエータによって交叉と突然変異が行われる. 以上が, 最初に定義した回数だけ, 繰り返される.

特徴は, 各エージェントが染色体にランキング情報を付加情報としてメディエータに送付することで, パレート支配している合意点 (染色体) を, 後の世代に引き継ぐ (優性遺伝) ことを可能にしている点である. これにより, メディエータは各染色体の具体的な効用値を知ることなしに, 染色体同士のパレート支配関係を判定することが可能となる.

本研究では, 論点に依存して経時的に変化する複雑な効用空間と,効用の経時的変化を考慮したメディエータ主導の交渉メカニズムを提案した. 本研究では, 効用の経時的変化を考慮する際に, 変化率を用いて, 論点に依存して変化する複雑な効用空間を表現した. しかし, 人間の効用の経時的変化のメカニズムは複雑なので, 議論を深めることが今後の課題である.

5 最大効用値の推定と対立度を用いた合意案候補の探索

はじめに交渉という行為は,主体同士の利害関係を解消し,

合意形成を図るために必要とされる行為です.合意形成のためには,交渉相手とある特定の妥結点でお互いが合意をする必要があるため,交渉相手の嗜好がどのようなものであるのかを汲み取り,相手の嗜好に合わせて譲歩を行うことが重要です.しかし,自身の嗜好

(19)

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を無視した安易な譲歩は,自身の不満を高める結果となるため,必要最小限な譲歩を行う必要があります.本研究では,現実世界の交渉をモデル化した交渉環境のもと,知的エージェント同士が交渉を行う場合に,交渉相手に対してどのような譲歩を行うべきか分析します.具体的には,本エージェントが最低限譲歩すべきと考えられる値として,過去の入札を用いて相手から引き出せる最大効用値を推定します.そして,相手の譲歩姿勢や互いの効用情報の違いから,本エージェントと相手との間にどれほど対立が存在するかを分析します.相手から引き出せる最大効用値の推定交渉相手の過去の入札から,自身の効用値の統計情報を用いて,今後相手から引き出せる最大効用値を推定します.具体的には,以下の式から推定最大効用値を求めます.

emax(t) = μ(t) + (1− μ(t))d(t) (1)

式 (1)中の μ(t)は時刻 tにおける相手の入札に対する自身の効用値の平均値を示し,d(t)は時刻 tまでの入札から,今後の相手の入札に対する自身の効用値の出現幅を二分割一様分布に基づいて推定したものです.

d(t) =

√3σ(t)√

μ(t)(1− μ(t))(2)

式 (2) 中の σ(t) は時刻 t における相手の入札に対する自身の効用値の標準偏差です.以上から emax(t)によって計算される推定最大効用値は,平均から出現幅d(t)を加味して相手からどこまで自身にとって高い効用値が獲得できるかを考慮しています.交渉相手との対立度指標対立度について 多者間交渉問題では交渉相手が複数存在し,それぞれに合った効用情報を持ち,それぞれの交渉戦略を有しています.交渉参加者全員が,特定の入札で受け入れるという過程を経て合意形成を行う場合,自身に有利な入札ばかりでは合意形成に失敗する可能性が高い.一方で,合意形成を為すために,交渉相手全員に対して妥協するという戦略をとると,合意形成が成功した場合に得られる自身の効用値が小さくなる可能性が高い.自身の獲得効用を高めつつ,合意形成を促すため譲歩戦略をとる場合,複数いる交渉相手の中でより譲歩を行う必要がある相手を選定し,選択した相手に優先的に譲歩を行うことで,必要最小限で効率的な譲歩を行うことができると経験則から考えられます.

表 2: 合意形成の難易度の要素交渉相手の譲歩姿勢

交渉相手の 消極的 積極的効用情報との 低い 難しい類似度 高い    易しい

5.1 対立度に用いられる要素表 2に示すように,交渉相手がそれぞれ有している

効用情報と交渉戦略の違いから生じる合意形成の難易度から,対立度という指標を定めます.各々の交渉相手の持つ効用情報に基づいて,入札の

効用値が計算されているため,効用情報の類似度が高い相手とは,自身の選好に合わせた入札をしながら相手の選好にも同時に合わせやすいため,合意形成が容易になります.一方で,効用情報の類似度が低い相手との交渉では,互いが有している選好が大きく異なり,合意形成が難しい.また,譲歩に積極的な相手は,相手から高い効用値を持つ入札をしてくる可能性が高いため,合意形成は容易です.一方で,譲歩に消極的な相手は,相手の選好に合わせた入札を繰り返すため,合意形成は困難です.推定最大効用値と対立度指標を基にした自動交渉エージェントエージェントの概要 自動交渉エージェントの国際競技会である The 7th International Automated Nego-

tiating Agents Competition (ANAC2016)では,推定最大効用値と対立度指標を基にした交渉戦略を有した自動交渉エージェント Farma [14]を開発しました.本エージェントの譲歩戦略は,推定最大効用値 emax(t)

を用いて,以下のような譲歩関数 Th(t) を設計しました.

C(t) = 1− (1− δ) log(1 + (e− 1)t) (3)

Th(t) =

⎧⎨⎩1− (1− emax(t))tα (δ = 1.0)

max{C(t), emax(t)} (δ �= 1.0)(4)

式 (3)中の eはネイピア数,式 (3)(4)中の δは割引係数を示します.また,合意案候補の探索として,相手の過去の入札

との類似度が高い入札を行います.類似度の計算は以下のように定義されます.

sim(v1,v2) =

m∑i=0

wi · isEqual(v1i, v2i) (5)

isEqual(v1i, v2i) =

⎧⎨⎩1 (v1i = v2i)

0 (v1i �= v2i)(6)

(20)

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表 3: ANAC2016 Finals

Rank Name 獲得効用値

1 Caduceus 0.7574

2 YXAgent 0.7435

2 ParsCat 0.7435

4 Farma (Our Agent) 0.7283

5 MyAgent 0.7236

6 Atlas3 0.7186

7 Ngent 0.6972

8 Granma 0.6929

9 AgentHP2 0.6894

10 Terra 0.6828

式 (5)は,ANAC2013 [15]の決勝大会に進出しました.エージェント AgentKF [16]も同様な類似度の定式化をしています.さらに,相手の過去の行動における Accept回数を相手の譲歩姿勢の推定に用い,また,相手の初回の入札における自身の効用値の大きさから効用情報の差とした上で,相手の対立度を推定し,式 (5)に重み付けることで最終的な入札に対する評価値として定めます.5.2 ANAC2016の結果ANAC2016決勝大会の結果を表 3に示します.本研究で開発した Farmaエージェントは決勝大会において4位の順位を獲得し,複雑な交渉戦略を有したエージェント同士の交渉においても有効な交渉戦略であることが示されました.また,ANAC2015にて優勝したAtlas3 [17]エージェントが 6位に位置しているのは,予選ラウンドにおける選抜用のエージェントとして利用されると競技会参加者に事前に周知されていたため,対策が取られていたという側面もありますが,ANAC2016 の参加エージェントが前年度のエージェントより高い平均獲得効用値であったという結果でもあります.まとめと今後の課題本研究では,自動交渉において自身がどのような譲歩を行うべきかという分析を,自動交渉エージェントを用いた競技会の結果を用いて行い,提案した交渉戦略は一定の有効度を持つことがわかりました.また,分析に用いた譲歩手法は,最低限の譲歩で合意形成を図りながら自身の高い効用値を求めるという目的から,交渉相手の過去の入札から自身の効用値の統計情報を用いた推定最大効用値による譲歩関数と,交渉相手がそれぞれ有している効用情報と交渉戦略の違いに着目した対立度指標に基づく合意案候補の探索を組み合わ

せました.今後は,ANAC2016に用いられた他のエージェント

の交渉戦略の分析により,競技会で得られた結果のより詳細な考察をする必要があります.また,対立度指標の定式化により,経験則を用いた交渉戦略をより厳密に実行し,定量的に評価を行う必要があります.

6 推定期待効用値に基づく自動交渉エージェント

第 7回目の国際自動交渉エージェント競技会(Au-

tomated Negotiating Agents Competition 2016:ANAC2016)がマルチエージェントシステムの国際会議である AAMAS2016(the international joint con-

ference on Autonomous Agents and Multi-Agent Sys-

tems)において開催されました [19].ANAC2016では,自身以外の交渉参加者の効用情報が未知である状況を想定した多者間複数論点交渉問題を対象としています.私達は ANAC2016に自動交渉エージェント Atlas3を提出しました.Atlas3は私達がANAC2015に提出するために開発したエージェントであり,ANAC2015では,Atlas3は個人効用とナッシュ積(個人効用の積)の両部門において最も良い成績を収め,総合優勝しました[18].Atlas3は交渉参加者の提案した合意案候補の要素を分析し,その提案頻度に基づく入札戦略を採用しています.また,Atlas3は交渉指針として譲歩の大きさを決定する譲歩関数を定義しています.Atlas3は譲歩関数のパラメータとして,交渉の最終段階に得られる推定期待効用値を用いています.ANAC2015と ANAC2016

は同一の交渉ルールであり,私達は ANAC2015において最も良い結果を残したAtlas3であれば,同一の交渉ルールである ANAC2016においても良い結果を得ることを期待しました.しかし,私達の期待に反して,私達の提出した Atlas3は,ANAC2016において 6位となりました.本稿において,私達はANACに提出されたエージェ

ントの交渉結果について分析し,交渉者の戦略が交渉結果に与える影響を調べます.調査のために,私達はANAC2015と ANAC2016の上位エージェントを用いた交渉シミュレーションを行います.そして,交渉シミュレーションの結果をもとに,私達はAtlas3の課題点を示します.ANAC2015と ANAC2016の上位エージェントとの交渉シミュレーション私達はANAC2015とANAC2016のエージェントを

使用して,Atlas3を評価します.評価実験では,Atlas3を除く,ANAC2015とANAC2016の上位 2エージェン

(21)

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トをそれぞれ使用します.本実験では,ANAC2015とANAC2016で使用された交渉問題を用います.ANAC2015では 10問,ANAC2016では 16問の交渉問題がそれぞれ使用されました.本実験では,ANAC2015は 10問を 1つのゲームとみなし,ANAC2016は 16問を 1つのゲームとみなし,各ゲームの平均個人効用値を分析します.本実験では,それぞれのプレイヤー(交渉者)は一つのエージェントのみを使用可能であるものと仮定します.例えば,プレイヤー iがある交渉問題でエージェント xを使用した場合,プレイヤー iはすべての交渉問題において,エージェント xを使用します.また,それぞれの交渉問題は,プレイヤーの選好を定義する ID付きの効用情報を 3つ持っています.本実験では,効用情報の IDをプレイヤー iと関連付け,プレイヤー iの効用情報は ID=iとします.本実験における交渉の制限時間は 180秒で,評価対象のエージェントは,全ての効用情報の組み合わせで一度だけ交渉をおこないます.本実験設定は ANAC2016に基づくものですが,ANACでは,各エージェントの全ての組み合わせにおける平均個人効用値でエージェントの評価を行うのに対し,本稿では,エージェントの組み合わせごとの平均個人効用値に着目した分析を行います.本稿では,ANAC2015をベースとした交渉シミュレーション,ANAC2016をベースとした交渉シミュレーション,そして,ANAC2015で最も良い結果を得たエージェントAtlas3を ANAC2016で最も良い結果を得たエージェントCaduceusに入れ替えた場合のANAC2015をベースとした交渉シミュレーションの結果を紹介します.表 4は,ANAC2015で使用された交渉問題における,交渉シミュレーションによって得られた平均個人効用値に基づく利得行列です.表 4から,(player 1, player 2,

player 3) = (ParsAgent, Atlas3, Atlas3)が strictナッシュ均衡となっていることがわかります.ナッシュ均衡は,すべてのプレイヤーが他の戦略に変更する誘引を持たない状態です.strictナッシュ均衡はナッシュ均衡よりも制約が厳しい均衡です.strictナッシュ均衡は,全てのプレイヤーがそれぞれ他の戦略に変更した場合に損失を被る状態です.進化ゲーム理論のように動学的な分析を行った場合,strictナッシュ均衡は漸近安定な状態であることが示されています [21].したがって,動学的には (player 1, player 2, player 3) = (ParsAgent, Atlas3,

Atlas3)が本実験における漸近安定な組み合わせとなります.(player 1, player 2, player 3) = (ParsAgent,

Atlas3, Atlas3)の場合,ParsAgentは 2体のAtlas3から譲歩を引き出すことに成功しています.ParsAgent

は,(player 1, player 2, player 3) = (Atlas3, Atlas3,

ParsAgent)と (player 1, player 2, player 3) = (Atlas3,

ParsAgent, Atlas3)の際にも,Atlas3から譲歩を引き出しており,ParsAgentが 2体のAtlas3から譲歩を引き出しているのは,プレイヤー間の選好情報の差に起因するものではないことがわかります.各交渉問題には,合意が遅れた場合に発生する遅延コスト(割引効用)がそれぞれ定義されています.Atlas3が ParsAgentに対して譲歩するのは,遅延コストを軽減するためであると考えられます.一方で,表 4から,(player 1, player 2,player 3) = (Atlas3, Atlas3, Atlas3) の場合, (player

1, player 2, player 3) = (RandomDance, Random-

Dance, RandomDance) と (player 1, player 2, player

3) = (ParsAgent, ParsAgent, ParsAgent) と比べて,社会的余剰(全プレイヤーの個人効用の総和)が大きいことがわかります.したがって,全プレイヤーが同一のエージェントを使用した場合の交渉(セルフプレイネゴシエーション)において,Atlas3はANAC2015

の上位エージェントの中で最も良い成績を得ることがわかります.次に,表 5は,ANAC2016で使用された交渉問題に

おける,交渉シミュレーションによって得られた平均個人効用値に基づく利得行列です.表 5 から,(player

1, player 2, player 3) = (Atlas3, ParsCat, Atlas3)がstrictナッシュ均衡となっていることがわかります.したがって,動学的には (player 1, player 2, player 3) =

(Atlas3, ParsCat, Atlas3) が本実験における漸近安定な組み合わせとなります.(player 1, player 2, player

3) = (Atlas3, Atlas3, ParsCat), (player 1, player 2,

player 3) = (Atlas3, ParsCat, Atlas3) および (player

1, player 2, player 3) = (Atlas3, Atlas3, ParsCat)において,ParsCatが 2体のAtlas3から譲歩を引き出していることから,Atlas3は遅延コストを避けるために,早期に譲歩を行っていると考えられます.2つの実験結果から,Atlas3はその他のANACの上位エージェントと比較して,相対的に譲歩的であると考えられます.一方で,表 5から,(player 1, player 2, player 3) = (Atlas3,

Atlas3, Atlas3) では (player 1, player 2, player 3) =

(ParsCat, ParsCat, ParsCat) and (player 1, player 2,

player 3) = (Caduceus, Caduceus, Caduceus)よりも,社会的余剰が大きいことがわかります.したがって,2

つの実験結果から,Atlas3はセルフプレイネゴシエーションにおいて,その他のANACの上位エージェントと比較して,有効に働くことがわかります.最後に,表 6 はAtlas3をCaduceusに入れ替えた場

(22)

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合の,ANAC2015で使用された交渉問題における平均個人効用値に基づく利得行列です.表 6から,(player 1,player 2, player 3) = (Caduceus, ParsAgent, ParsAgent)

と (player 1, player 2, player 3) = (RandomDance,

Caduceus, ParsAgent)が strictナッシュ均衡となることがわかります.したがって, 動学的には (player 1,

player 2, player 3) = (Caduceus, ParsAgent, ParsAgent)

と (player 1, player 2, player 3) = (RandomDance,

Caduceus, ParsAgent) が本実験における漸近安定な組み合わせとなります.表 4 と 表 6 から,(player

1, player 2, player 3) = (Atlas3, Atlas3, Atlas3) は(player 1, player 2, player 3) = (Caduceus, Caduceus,

Caduceus) と比べて,社会的余剰が大きいことがわかります.したがって,Atlas3はセルフプレイネゴシエーションにおいて,Caduceusよりも良い結果を得ることができることがわかります.まとめと今後の課題本稿では,私達の開発した自動交渉エージェントAt-

las3 の課題点を示しました.Atlas3 はセルフプレイネゴシエーションにおいて,その他の ANAC2015とANAC2016の上位エージェントと比較して,最も社会的余剰が大きくなることが確認できました.しかしながら,課題点として,他のエージェントに対して,一方的に譲歩してしまう場合があることがわかりました.本稿で示した課題点をもとに,私達はより実用的な自動交渉エージェントの開発に取り組みます.

7 国際自動交渉エージェント競技会ANAC

ANAC

マルチエージェントシステムの研究分野において自動交渉エージェントが注目されており,多くの研究が行われている [?, ?].特に複数の論点が存在する交渉問題が重要な研究課題となっており,これらの問題を対象とした国際自動交渉エージェント競技会(Automated

Negotiating Agents Competition(ANAC))が,国際学会 AAMAS において 2010 年より開催されている.本研究では ANACにおける自動交渉エージェントを開発し,結果を解析することで,実際の交渉問題に適用することを目的としている.7.1 ANACにおける交渉問題ANACでは効用情報が非公開下での二者間の複数論点交渉交渉問題を対象としている.交渉は一対一で行われ,自身の嗜好情報は相手には公開されない状況で交渉を行う.ANACにおける交渉では複数の論点を持つ交渉ドメインが使用される(図 7).交渉ドメインは売買の値段交渉や電力売買など現実世界の交渉に近い

交渉ドメインが採用されており,実際の運用環境の作成に活用できると考えられる.

図 7: ANACにおける交渉ドメイン

7.2 交渉プラットフォームANACではGeniusというシステムを用いて交渉の

シミュレーションを行う(図 8).Geniusのツールを用いることで,異なったエージェント戦略の評価を客観的な指標において評価することが可能である.Genius

はオープンソフトウェアであり,交渉エージェントの開発を目的としている.具体的には (1)交渉ドメインおよび効用データの作成 (2)自動交渉エージェントにおける二者間交渉のシミュレーション (3)交渉の過程や結果の解析が主な機能である.特に,解析ツールにより様々な交渉設定における,パレートフロント,ナッシュ交渉解など交渉において重要な解を計算し表示するため,容易に解析が可能である(図 8).また,自動交渉エージェントの開発のための Java APIが標準で用意されており,Javaプログラミングの基礎的な知識さえあれば自動交渉エージェントを作成できる.本研究では自動交渉エージェント AgentMRを開発

し,ANAC2012予選大会において高いスコアを得て,決勝大会に進出している.また,ANAC2013では既存エージェントAgentK2の戦略を組み込み,様々な問題設定において交渉可能なエージェントAgentMRK2を開発した.そして ANACにおける交渉結果を分析することで,エージェントの特徴や問題設定が与える影響を導出する.分析の結果,多くのエージェントが探索や交渉時間において類似した戦略を持っており,交渉戦略モデルの傾向が得られた.また,交渉を重ねるごとに平均交渉数および平均獲得効用値は減少するが,さらに交渉を重ねると再び増加することが分かった [?].7.3 ANAC2015-2016のまとめ国際自動交渉エージェント競技会(ANAC)におけ

る概要を示し,その後エージェントの解析と分析結果

(23)

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表 4: ANAC2015 で使用された交渉問題における平均個人効用値に基づく利得行列(Atlas3,RandomDance,ParsAgent)

player 3�����������player 1

player 2Atlas3 RandomDance ParsAgent

Atlas3 (0.682,0.748,0.773) (0.497, 0.589, 0.536) (0.573,0.723,0.636)Atlas3 RandomDance (0.579, 0.580, 0.611) (0.512, 0.595, 0.528) (0.532, 0.607, 0.465)

ParsAgent (0.692,0.651,0.550) (0.555, 0.514, 0.437) (0.517, 0.519, 0.442)

Atlas3 (0.579, 0.683, 0.720) (0.588, 0.460, 0.490) (0.468, 0.603, 0.564)RandomDance RandomDance (0.515, 0.597, 0.570) (0.419,0.458,0.533) (0.452, 0.553, 0.500)

ParsAgent (0.623, 0.498, 0.495) (0.573, 0.422, 0.392) (0.394, 0.416, 0.418)

Atlas3 (0.607,0.588,0.746) (0.503, 0.576, 0.653) (0.434, 0.597, 0.572)ParsAgent RandomDance (0.426, 0.464, 0.530) (0.429, 0.462, 0.549) (0.380, 0.452, 0.449)

ParsAgent (0.541, 0.569, 0.548) (0.382, 0.434, 0.388) (0.402,0.447,0.423)

表 5: ANAC2016で使用された交渉問題における平均個人効用値に基づく利得行列(Atlas3,ParsCat,Caduceus)

player 3

�����������player 1player 2

Atlas3 ParsCat Caduceus

Atlas3 (0.701,0.710,0.773) (0.593,0.796,0.738) (0.540, 0.727, 0.515)Atlas3 ParsCat (0.782,0.633,0.697) (0.555, 0.597, 0.569) (0.595, 0.537, 0.520)

Caduceus (0.798, 0.531, 0.561) (0.504, 0.535, 0.486) (0.496, 0.510, 0.450)

Atlas3 (0.668,0.632,0.813) (0.589, 0.646, 0.632) (0.396, 0.495, 0.516)ParsCat ParsCat (0.571, 0.586, 0.625) (0.523,0.533,0.588) (0.477, 0.450, 0.478)

Caduceus (0.615, 0.385, 0.609) (0.507, 0.466, 0.542) (0.439, 0.443, 0.474)

Atlas3 (0.608, 0.493, 0.806) (0.427, 0.507, 0.552) (0.383, 0.547, 0.563)Caduceus ParsCat (0.611, 0.446, 0.586) (0.444, 0.451, 0.503) (0.428, 0.417, 0.468)

Caduceus (0.618, 0.364, 0.556) (0.433, 0.468, 0.490) (0.433,0.441,0.456)

表 6: ANAC2015で使用された交渉問題における平均個人効用値に基づく利得行列(Caduceus,RandomDance,ParsAgent)

player 3

�����������player 1player 2

Caduceus RandomDance ParsAgent

Caduceus (0.407,0.459,0.410) (0.382, 0.412, 0.395) (0.400, 0.449, 0.418)Caduceus RandomDance (0.443, 0.544, 0.498) (0.429, 0.507, 0.614) (0.463, 0.542, 0.501)

ParsAgent (0.393, 0.456, 0.424) (0.406, 0.479, 0.429) (0.413, 0.452, 0.421)

Caduceus (0.374, 0.389, 0.381) (0.568, 0.361, 0.401) (0.386, 0.422, 0.419)RandomDance RandomDance (0.428, 0.684, 0.467) (0.424,0.497,0.502) (0.441, 0.552, 0.505)

ParsAgent (0.399, 0.428, 0.416) (0.592, 0.370, 0.364) (0.400, 0.420, 0.417)

Caduceus (0.384, 0.451, 0.428) (0.378, 0.425, 0.388) (0.404,0.455,0.430)ParsAgent RandomDance (0.429,0.520,0.516) (0.415, 0.491, 0.555) (0.393, 0.456, 0.434)

ParsAgent (0.416, 0.464, 0.432) (0.377, 0.432, 0.390) (0.390,0.451,0.431)

について述べた.今後の課題としては,分析によって得られた戦略モデルの妥当性の検証や,実際の交渉問題への適用が挙げられる.伊藤研究室では,毎年新人のプログラミングの課題としてANACの自動交渉エージェントを練習で作成し,ANACに参加している.参考文献[1] Nicholas R. Jennings, Payman Faratin, Allecio R. Lo-

muscio, Simon Parsons, Michael Wooldridge, and Car-les Sierra. Automated negotiation: Prospects, meth-ods, and challenges. Group Decision and Negotiation,10:199–215, 2001.

[2] Mark Klein, Peymen Faratin, Hiroki Sayama, and Ya-neer Bar-Yam. Negotiating complex contracts. GroupDecision and Negotiation, 12(2):58–73, 2003.

[3] Takayuki Ito, Hiromitsu Hattori, and Mark Klein.

Multi-issue negotiation protocol for agents : Explor-ing nonlinear utility spaces. In Proc. of 20th Inter-national Joint Conference on Artificial Intelligence(IJCAI-2007), pages 1347–1352, 2007.

[4] 藤田 桂英, 伊藤 孝行, and 服部 宏充. 複数論点交渉問題におけるエージェントの効用空間の公開範囲に基づく交渉手段の実現. コンピュータソフトウェア(日本ソフトウェア科学会論文誌)「ソフトウェアエージェントとその応用特集号」, 25(4):167–180, 2008.

[5] Adi Shamir. How to share a secret. Commun. ACM,22(11):612–613, 1979.

[6] Stuart J. Russell and Peter Norvig. Artificial Intelli-gence : A Modern Approach. Prentice Hall, 2002.

[7] 藤田 桂英, 伊藤 孝行, and Mark Klein. 複数論点交渉問題における論点間の依存関係を考慮した合意形成機

(24)

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図 8: Geniusのインタフェイス

構. In 合同エージェントワークショップ&シンポジウム(JAWS2009), pages 202–209, 2009.

[8] Katsuhide Fujita, Takayuki Ito, and Mark Klein. Se-cure and efficient protocols for multiple interdepen-dent issues negotiation. Journal of Intelligent andFuzzy Systems, 21(3):175–185, 2010.

[9] 服部宏充,伊藤孝行, and Mark Klein.非線形効用関数を持つエージェントのためのオークションに基づく交渉プロトコル. 電子情報通信学会論文誌 D-I, J89-D(12):2648–2660, 2006.

[10] 服部宏充, 伊藤孝行, and Mark Klein. 複数論点交渉問題のための効用空間の絞り込みに基づくマルチエージェント交渉手法. 電子情報通信学会論文誌D-I,「ソフトウェアエージェントとその応用特集号」, J90-D(9):2336–2348,2008.

[11] Ivan Marsa-Maestre, Miguel A. Lopez-Carmona,Juan R. Velasco, and Enrique de la Hoz. Effective bid-ding and deal identification for negotiations in highlynonlinear scenarios. In Proc. of The 8th Interna-tional Joint Conference on Autonomous Agents andMulti-agent Systems (AAMAS-2009), pages 1057–1064, 2009.

[12] Ivan Marsa-Maestre, Miguel A. Lopez-Carmona,Juan R. Velasco, Takayuki Ito, Katsuhide Fujita, andMark Klein. Balancing utility and deal probabilityfor negotiations in highly nonlinear utility spaces. InProc. of Twenty-first International Joint Conferenceon Artificial Intelligence (IJCAI-09), pages 214–219,2009.

[13] Peyman Faratin, Carles Sierra, and Nicholas R. Jen-nings.

[14] 遠山竜也, 伊藤孝行: “自動交渉エージェントの歩み寄り妥協戦略のための二分割一様分布に基づく最大効用値の推定”, 平成 28年度 電気・電子・情報関係学会東海支部連合大会, (2016)

[15] Yaakov, G., and L. Ilany: “The fourth automated ne-gotiation competition”, Next frontier in agent-basedcomplex automated negotiation. Studies in computa-tional intelligence 596 (2015): 129-136.

[16] Fujita, K.: “Automated Negotiating Agent withStrategy Adaptation for Multi-times Negotiations”, inRecent Advances in Agent-based Complex AutomatedNegotiation, pp. 21–37, Springer (2016)

[17] 森顕之, 伊藤孝行: “推定期待効用に基づく自動交渉エージェントの提案”, 情報処理学会論文誌, Vol. 56, No. 10,pp. 1968–1976 (2015)

[18] R. Aydogan, T. Baarslag, K. Fujita, K. Hin-driks, T. Ito, and C. Jonker. The sixth interna-tional automated negotiating agents competition,2015. http://web.tuat.ac.jp/ katfuji/ANAC2015/.

[19] R. Aydogan, T. Baarslag, K. Fujita, K. Hin-driks, T. Ito, and C. Jonker. The seventh inter-national automated negotiating agents competition,2016. http://web.tuat.ac.jp/ katfuji/ANAC2016/.

[20] A. Mori and T. Ito. Atlas3:a negotiating agent basedon expecting lower limit of concession function. InModern Approaches to Agent-based Complex Auto-mated Negotiation. Springer, 2016.

[21] J. W. Weibull. Evolutionary game theory. MIT press,1997.

Using similarity criteria to make issue trade-offs in au-tomated negotiations. In Artificial Intelligence, pages142:205–237, 2002.

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河川管理プロジェクト河川情報管理システム

研究メンバー:早川 知道

1 河川管理プロジェクトの概要河川周辺地域では、事故、不法投棄、浸水等などの様々な問題点を解決するため、河川環境管理手法の新たな方法論にチャレンジするとともに、膨大な河川管理情報を用いた潜在的投棄発生箇所の予測手法の開発、監視員の最適な自動監視活動計画の策定手法の開発、および住民からの情報提供を促進するためのインセンティブ設計を行い、さらに、それらを基盤とした実証実験を実施し、効果の検証を通して河川環境管理の実現手法を確立することを目的としています。データの効果的利用を通した業務活動の効率的計画手法と情報提供に関する制度設計に関する学術的貢献だけではなく、実社会において解決が急務とされる問題に取り組んでいます。本研究は、国土交通省中部地方整備局庄内川河川事務所の開発業務委託により行っております。

2 河川投稿管理システム河川事務所では、巡視員により巡視業務が日々行われていますが、河川管理において、不法投棄やゴミの情報管理は未だにほとんど手作業で行われています。そこで、効率的に不法投棄やゴミの情報を集約し管理することが求められています。これらの課題に取り組むため、庄内川河川事務所との研究を通して、スマートフォンを用いて不法投棄やゴミの情報収集し管理する河川情報管理システムを試作しました (図 1, 図 2)。

図 1: 投稿管理システム

図 2: 河川管理 SNSアプリケーション iOS版

3 河川環境管理手法の新たなチャレンジ本研究では、河川環境管理手法の新たな方法論にチャ

レンジするため、次の3つを行います。1. 膨大な河川管理情報を用いた潜在的投棄発生箇所の予測手法の開発

2. 監視員の最適な自動監視活動計画の策定手法の開発3. 住民からの情報提供を促進するためのインセンティブ設計

さらに、これらに基づく実証実験を実施し、効果の検証を通して河川環境管理の実現手法を確立します。具体的には、河川周辺では、早急に解明、解決すべ

き以下のような課題が認識されています。1. 住民による河川環境情報の提供の効率性の向上2. 河川環境の巡視の効率化とフレキシビリティ向上3. 情報端末を用いた効果的な巡視活動の実現そして、次の手法により課題解決を目指します。1. 不法投棄情報提供を促進するインセンティブの設計とモデルの考案

2. 動的監視箇所調整機構の構築と巡視計画モデルの評価

3. 社会実験を通した不法投棄抑制手法の確立

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電力マネジメント提携構築手法および電力融通手法の提案

研究メンバー:新美 真,柴田 大地,伊藤 孝行

1 はじめにスマートグリッドの導入が世界的に進められています.スマートグリッドとは通信機能および制御機能を付加した電力網のことです.スマートグリッドを介することで電力事業所から末端の電力機器までを高機能な電力制御端末同士によって結び合わせ,自律分散的な制御方式を可能とします.スマートグリッドによって,従来型の中央制御では達成不可能である需給バランスの調整や再生可能エネルギーの導入によって 環境に配慮した社会の構築が実現できます.しかし,再生可能エネルギーには天候によって発電できる量が変動し,電気系統が不安定になるというデメリットが存在するため,電力需給の平準化や発生する余剰電力の処理が課題となっております.

2 本研究室の取り組み本研究室では,「はじめに」で取り上げた課題を解決するために,複数のモデルおよび手法を提案しました.川口ら [1]は,複数の家庭によって構成されるコミュニティに大型の蓄電池を運用し,家庭で共用するモデルを提案しました.マルチエージェントシミュレーションによって,家庭とコミュニティの大型蓄電池の両者が相互に協調し合うことで,より良いマネジメントを行えることを示しました.吉村ら [2]は,大規模蓄電池を必要としない,複数家庭の蓄電池を共有化するためのコミュニティを提案しました.マルチエージェントシミュレーションによって,提案手法,コミュニティが存在しない電力ネットワークモデル,および大規模蓄電池を所有するコミュニティを導入した電力ネットワークを比較した際に,電力事業所の総発電量が最も小さくなる結果を得ることができることを示しました.榎ら [3]は,動的にコミュニティを形成する電力融通手法を提案しました.提案手法によってコミュニティ内の余剰電力量および不足電力量を抑制することで電力事業所への負担を軽減することを実験によって示しました.さらに,家庭の利得が増加することを示し,提携を組むことに対するインセンティブを示しました.上記の通り,多くの方々が継続して研究をなされており,今年度は論文誌にも採択され,益々発展することが期待できます.

3 研究紹介本章では,現在私たちが取り組んでいる研究につい

て紹介いたします.3.1 提携構築手法の提案【背景】著者らは榎ら [3]の電力マネジメントで用いられている提携構築プロトコルであるDNPK-CFM[4]に着目しました.DNPK-CFMでは逐次的に提携を大きくするため,利得の大きな提携を構築できない場合が存在します.DNPK-CFMは,組みたい提携に対してメッセージを送り,互いに送りあった場合に提携を拡張する手法です.計算量を抑えるために,閉区間 [K1,K2]で超過要求を計算する提携の大きさを限定しています.超過要求とは,提携相手のエージェントを除いた他の任意のエージェントと組んだ時に得られる利得から個人が獲得する利得を差し引いた値です.【目的】本研究の目的は,家庭の利得がより大きくなる提携構築手法の考案です.DNPK-CFMでは逐次的に提携を大きくするために,提携同士が衝突してしまい,利得が大きくなる提携を構築できない場合が存在します.本提案手法ではエージェントを小さなまとまりとして扱い,部分解を求めることで解決します.【提案手法】提案手法では,以下の 2ステップからなります.1. システム設計者が事前に与えたエージェント集合について利得が最大となる部分解を求める

2. 得られた部分解をもとに利得が増加する提携を結合し拡張する

【実験結果】本提案手法を実験し,既存手法であるDNPK-CFM[4]

を人工的なデータで比較しました.エージェント数を20,DNPK-CFMのパラメータはK1 = 5,K2 = 10としました.利得の設定は Farinelliらの問題設定を参考にしました [7].以下に得られた利得を比較した図を示します.提案手法の利得がDNPK-CFMと比較して増加して

いることから,改善されていることが確認できます.

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図 1: 実験結果:利得の比較

3.2 電力融通手法の提案【背景】提携内で電力融通を行う際,供給と需要の割当と送電量を決定する必要があります.送電を行う際には,送電ロスが発生するため,損失を小さくし需要を満たすように電力融通を行うことが望ましいです.しかし送電ロスが最小となるように,電力融通を行うことは計算量的に困難であるために,高速に動作するヒューリスティクな仮定に基づいた,電力融通手法の開発が必要となります.提携内の送電手法として,GreedEnEx[5]といったアルゴリズムがあります.Greedy energy exchange

within a coalition(GreedEnEx)とは,提携内の送電先と送電量を貪欲法的に決定するアルゴリズムです.需要が最大のエージェントから電力需給を満たします.

【目的】本研究では,ネットワークの特徴量を用いてより損失の少ない電力融通手法を開発することが,目的となります.

【提案手法】先に電力需要の満たされるエージェントは,供給エージェントの選択肢が多く存在しますが,最後に需要の満たされるエージェントは,供給エージェントの選択肢が少なくなり,送電ロスの増大が考えられます.そのため送電ロスを軽減するためには,送電ロスの増大が大きくなる可能性の高いエージェントに優先度を設けることで,送電ロスを抑制します.

具体的には以下の式に基づいて,エージェントの優先度を決定します.

zi =di

Σ∈Ddj∗ Li

Σ∈DLi

di は需要エージェント i の需要量,Li は需要エージェントから供給エージェントまでの平均距離を表します.

【実験結果】本提案手法を実装し,既存手法である GreedEnExと比較を行いました.ネットワークにはランダムネットワークとスモールワールド・ネットワーク [6]の 2種

類を用意しました.

図 2: 実験結果:利得の比較

提案手法の方が,送電ロスを抑制する事ができている事が確認できます.さらにランダムネットワークよりも,スモールワールド・ネットワークを用いたほうが,送電ロスの抑制できた幅が大きいことから,ネットワークの特徴量を活用することができていると考えられます.

4 まとめ本概要では,スマートグリッドの導入によって再生

可能エネルギーが導入可能になることを背景に,電気系統が不安定になるデメリットを改善するためのこれまでの研究室の取り組みを紹介しました.さらに,著者らが取り組んでいる研究について二つ紹介しました.どちらの手法も実験によって良い結果を示すことができました.今後の課題は,より効率的な電力マネジメントを行えるように提案手法を改良することが挙げられます.参考文献[1] 川口将吾,金森亮,伊藤孝行,”エージェントシミュレーションによるコミュニティに基づく電力マネージメントに関する研究.” 研究報告知能システム (ICS),2013.

[2] 吉村卓也,金森亮,伊藤孝行,”複数の家庭用蓄電池の共有化によるコミュニティ型電力マネジメントの提案”,人工知能学会全国大会 (JSAI2014),2014.

[3] 榎優一,伊藤孝行,”提携ゲームに基づく動的なコミュニティ形成による電力マネジメント”,情報処理学会第 78回全国大会,2016.

[4] Onn Shehory and Sarit Kraus. ”Feasible formationof coalitions among autonomous agents in non-super-additive environments. ” Computational Intelligence,Vol. 15, No. 3, pp. 218-251, 1999.

[5] Real-time energy exchange strategy of optimallycooperative microgrids for scale-flexible distribu-tion system,Chakraborty, Shantanu and Nakamura,Shin and Okabe, Toshiya,Expert Systems withApplications,42,10,4643–4652,2015,Pergamon

[6] Watts, D. J. and Strogatz, S. H.,1580006,Nature, phd-draft,6684, 409–10,2007-08-21 13:45:44, 2, Collectivedynamics of’small-world’networks, 393,1998

[7] Farinelli, Alessandro, et al. ”C-link: A hierarchicalclustering approach to large-scale near-optimal coali-tion formation.” AAAI Press/International Joint Con-ferences on Artificial Intelligence, 2013.

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回転翼無人自律飛行システムの研究災害時の早期情報収集,自律分散センシングユニットの開発

研究メンバー:大塚孝信,ThinkDronesチーム

1 はじめに近年,携帯電話やスマートフォン等の情報機器の小型化が進むとともに,3軸加速度センサや地磁気センサ,GPSセンサ等の小型化が進み,気軽に入手できるようになりました.それに伴い,従来は安定性にかけていた無線操縦ヘリコプター等の小型玩具の性能が飛躍的に向上し,初心者でも容易に飛行できます.また,プロセッサの進歩やブラシレス DCモータ,リチウムイオンポリマー電池等の登場により,従来のプロペラのピッチを変更することにより推力を制御する方式から,固定ピッチのプロペラを用い,モータの出力を直接制御することで,推力を細かに制御することが可能です.これらの技術により,複数のプロペラ回転数を制御して自律飛行を行うマルチコプター型の開発が容易になり,現在では多くの研究分野でマルチコプター型無人機を用いた研究が広く行われています.本研究では,マルチコプター型無人機を用いて,災害時の被害を早期に把握するシステムの研究を行うとともに,将来的には人間と協調して建築を行う自律無人機の開発を目指しています.

2 無人機の構造と応用2.1 無人機の基本構造自律飛行をする無人機は,飛行制御や自律航法を制御する演算ユニット,機体の角度や方位及び座標位置を把握するセンサ,演算ユニットによって制御される推力発生装置を備える.機体を飛行させる推力の発生方式により,無人機には大きく分けて固定翼機と回転翼機の 2つの種類が存在します.以下に特徴を示します.• 固定翼機

1. 動力源を内燃機関にでき,航続距離が長い2. 離陸及び着陸に広い空間が必要3. 空中での静止は不可能4. 一定以上の速度が必要なため,細かな位置指定や転舵が困難

5. 急な高度変更が困難• 回転翼機

1. 航続距離が比較的短い2. 狭いエリアでの離陸及び着陸が可能3. 空中での静止が可能

4. 飛行速度,角度を任意に指定可能5. 任意の高度を自由に飛行できる

以上のように,航続距離を除けば回転翼機のメリットのほうが多いことがわかっていただけたと思う.固定翼機の主な用途は軍事用途で言えば偵察業務,民間用途で言えば広い範囲の空撮で用いられることが多い.特に日本国内では,研究に用いることができる広いフィールドが少ないため,狭いエリアでの離着陸や室内での飛行が求められます.本研究においても,回転翼機を用いたマルチロータ型の無人機を用いているため.以降はマルチロータ型無人機に特化して記述します.2.2 姿勢制御と自動航法装置マルチロータ型無人機の最も重要な装置は姿勢制御

装置である.従来の 1軸テールロータ型の模型とは異なり,マルチロータでは,機体姿勢の傾きに応じて 3

から 12個のモータの出力を細かに制御する必要があるが,それらのコントロールは人間には不可能です.姿勢制御装置は,機体に取り付けられた 3軸加速度センサによって検知した機体の傾きにより,モーターの出力を制御することにより機体の安定飛行を制御するものです.これにより,従来の無線操縦玩具と同じ 4チャンネル(前後方向,左右方向,回転方向,スロットル)を操作するだけで思いのままに操作ができます.また,自律航法装置の入力には自機の向き(方位)を検知する地磁気センサと,機体の高さ(高度)を検知する気圧センサ,及び地球上での座標位置を検知するGPSモジュールが必要となります.これらのセンサ群は SPI

や I2C,シリアル通信でプロセッサと接続されており,プロセッサに書き込まれたプログラムにより姿勢制御を行うとともに,あらかじめ決められたルートを飛行することが可能です.一般的な自律無人機における構成図を図 1に示します.プロセッサにはARM系とArduino系があり,ユー

ザーは使用目的に応じてコントロールユニットを選択できるが,安価なものでは任天堂Wiiに用いられる 3

軸加速度センサを用いた”MultiWii”プラットフォーム[3]があり,3000円台から購入することができます.高性能なものでは 3DRobotics社の製造する”APM”[4]があり,双方ともArduinoプロセッサを用いている.しかし,マルチエージェント技術を用いたアルゴリズム

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プロセッサ

3軸加速度

センサ

気圧センサ

地磁気

センサ

GPS

モジュール

電圧/電流

センサ

バッテリー

テレメトリ

通信ユニット

無線操縦

通信ユニット

モーター

(推進装置)モーター

(推進装置)モーター

(推進装置)モーター

(推進装置)モーター

(推進装置)モーター

(推進装置)モーター

コントローラ

モーター

(推進装置)モーター

(推進装置)モーター

(推進装置)モーター

(推進装置)モーター

(推進装置)モーター

(推進装置)モーター

(推進装置)

推進装置

1~12個 用途に応じて増減

通信装置

センサ類

図 1: 一般的な無人機の構成図

を用いて,無人機に搭載されたレーザーレンジファインダを用いて自己位置を推定する研究 [1]や周囲の画像を認識して障害物を避ける研究 [2],処理速度を増加させる必要が生じているため,ARM系への移行が進んでいます.またDJI社が製造する”NAZA”, ”WooKong”[5]

などもあるが,独自規格であり,高価なことから本冊子では扱いません.以上のように,プロセッサにより姿勢制御をコントロールしているため,設定さえ行えば初心者でも容易に制御できることが特徴です.2.3 機体の種類と飛行特性一般的に,無人機の機体には様々な種類があるが,基本的にはプロセッサユニットとそれに繋がるプロペラ数によって分けられており,用途によってプロペラ数を増減させています.一般的向けには 4枚のプロペラによって飛行するクアッドコプタが最も販売されており,AR.Droneを代表として,だれでも一般の小売店で購入可能なものもあります.クアッドタは,プロペラ数が少ないため軽量かつ安価であるが,ペイロード(離陸重量)が低く,横風にも弱いといった特徴があります.屋外での飛行を想定した場合,横風に流されない程度の性能が必要となります.そのため,研究用途に用いられる無人機は,6枚のプロペラを持つヘキサコプタや 8枚の羽を持つオクトコプタが用いられています.これらはプロペラ数が増加するに従い,横風には強くなり,ペイロードは増加することが特徴です.また,近年では上下逆ピッチのプロペラを同軸上に配置することで機体を大型化せずにペイロードを増やす Y6や X8と呼ばれるマルチロータ機も登場しています.他にも,同軸機は機体あたりの推力を大きくできることから横風に強く,通常のマルチロータ機よ

りも高速に飛行できるというメリットがあります.当研究室で研究に用いているヘキサコプタと Y6コプタを図 2に示します.

図 2: 左:ヘキサコプタ 右:Y6コプタ

また,従来の無線操縦式ヘリコプタと異なり,機構部分が少ないため,フレームはある程度強度が確保できるものであれば制作は容易です.当研究室では,フレームを 3Dプリントした機体の開発も行っています.実際に当研究室で設計及び 3Dプリントした機体を図3に示します.

図 3: 3Dプリントフレーム

3 自律ルート飛行による災害規模早期把握3.1 自律航法の設定本研究室では,自律航法の基本ソフトウェアとして

MIssionPlannner を用いています.MIssionPlannner

は有志によって開発されるフリーソフトウェアであり,コミュニティに属することで誰でもソースコードの追加や変更が可能です.基本的な機能として,APM自律航法装置の設定や,自動飛行のためのルート設定が可能です.また,制御系とは別に無線モジュールを搭載することで,リアルタイムの機体情報(テレメトリ)や追加センサ情報を取得することも可能です.ルートの設定はMap上で直接編集が可能であり,離着陸や静止及び高度の設定ができます.ルート設定画面のGUI

を図 4に,リアルタイムテレメトリ画面を図 5に示します.リアルタイムテレメトリ画面では,機体の飛行

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WayPointピン

機体位置

飛行ルート

高度指定,離着陸,静止コマンドの設定

図 4: ルート設定画面

状況を把握することができます.表示可能な情報を以下に示します.• GPS座標位置• 進行向き• 対地速度• 高度• バッテリ電圧• 機体方位以上に加え,プロセッサに接続された各種センサ情報や,外部接続された温度や湿度センサ等のデータ取得も可能です.

速度

高度

機体姿勢

バッテリ電圧

機体位置

機体向き

方位

図 5: テレメトリ画面

また,テレメトリデータの情報をGoogleEarth等のkmzエディタで処理することにより詳細なミッションの解析を行うことが可能である.これらの機能により機体が不安定な際の原因究明や,墜落の原因を解明することができます.実際の飛行データをGoogleEarth

上に表示させた例を図 6に示します.3.2 自動ルート飛行による空撮本研究室では,災害時の被害状況の把握を迅速に行うことを目的として,自動ルート飛行による空撮の事前実験を行っています.具体的には,ビデオカメラを搭載した無人機により,低高度での撮影を自動で行うものです.航空写真や衛星写真の撮影には,多額のコストが必要であり,かつ高高度からの撮影となるため,

図 6: GoogleEarthによるミッション軌跡表示

倒壊した建物の状況や,道路の通行可否などの高さ方向の被害状況が把握しづらいといった問題点があります.本研究では,特に倒壊した建物によって道路が寸断されていないか等の低高度でのみ把握可能な情報を迅速に把握することで,支援車両の通行をサポートすることを目的としています.また,飛行ルートを低高度に設定した場合,ルート上の障害物が問題となるが,回転翼無人機の場合は障害物を発見しても,その場で静止可能なため危険が少ないメリットがあります.また,機体に環境測定用のセンサを搭載することで,放射線量や高温地帯など,人間が測定しに行くには危険な状況でも測定が可能です.本機体には,機体の姿勢が横風等により斜めになった際にもカメラの水平を保持するカメラジンバルを搭載しています.この技術により,取得した動画を組み合わせて地図にする等の加工が容易です.カメラジンバルには,3軸加速度センサとプロセッサユニット,及びブラシレス DCモータが搭載されており,急な機体の姿勢変更に対しても常にカメラの水平を保つことができます,また,指定した角度へカメラを回転させることができ,その角度のまま静止が可能なため,高品質な動画撮影が可能となっています.実際にカメラジンバルを搭載して飛行している例を図 7に示します.3.3 GPSロックによる半自動飛行本研究では,研究内容を市民の皆様へ公開すること

を目的とした市民参加型のデモ飛行を研究の一環として行っています.自律無人機の機能として,指定したGPS座標での静止飛行が可能となっており,操縦者はスロットルの出力変更を行うのみで機体の高度を変更することが可能です.そのため,操縦者は高度のコントロールとカメラのコントロールのみに集中することができるため,比較的経験の浅い操縦者でも制御可能です.本機能の一番のメリットは,ある程度の飛行エリアを確保できれば安全に空撮を行うことができるため,広大な飛行エリアを用いたデモ飛行エリアを用意

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カメラジンバル,

アクションカム

図 7: カメラジンバルを搭載して飛行中の実機

する必要がありません.現状,風速 10m 程度でも安全に飛行することができ,自動での着陸も半径 2m程度の誤差で実現しています.本デモ飛行では,実際に撮影した動画を上映するとともに,空中から撮影した写真を印刷したものを配布することで,市民の皆様にわかりやすく最新技術に触れて頂いています.実際に,2013年秋に愛・地球博記念公園で行ったデモ飛行の様子を図 8に示します.

4 今後の課題無人飛行システムの研究は全世界で広く行われるようになっています.多くの研究は軍事目的での使用を想定した研究が行われています.しかし,技術のほとんどは社会生活を楽にする目的に使用可能であり,近年になって最低限の飛行安全が実現できるようになりました.本研究では,無人機の自律飛行の安全性を高めるために以下の研究を進めています.• 超音波センサによる障害物の自動回避• 高精度GPSとターゲットによるピンポイント離着陸• 機体間通信による群れでの飛行• ダクデットファンによる自律飛行体の開発これらの研究を実現することで,人間の介在を最小限にした飛行を実現できます.特に,飛行中の墜落や人間への接触は絶対に避けなければならないため,”なにがあっても安全第一” なシステムを構築する必要があります.無線操縦機の歴史を見てきても,回転翼のローターブレードによる死亡事故や,落下してきた飛行物体による死亡事故が数多く起きており,研究中の事故を起こせば本分野の研究そのものができなくなります.そのため,我々のような飛行システムの研究に携わる者以外でも,これから飛行システムを開発しようとする者すべてにおいて,飛行安全を確実に履行でき

図 8: 市民参加型イベントでのデモ飛行

るよう気を配る必要があります.これらの研究は,最終的な目標としている無人機を用いた郵便の配達や建築の支援のために必要であり,容易ではないが,よりよい社会システムの実現のために引き続き研究を進めています.参考文献[1] Fossel, J.; Hennes, D.; Claes, D.; Alers, S.; Tuyls, K.,

”OctoSLAM: A 3D mapping approach to situationalawareness of unmanned aerial vehicles,” UnmannedAircraft Systems (ICUAS), 2013 International Con-ference on , vol., no., pp.179,188, 28-31 May 2013.

[2] 満武 勝嗣, 東野 伸一郎, ”障害物回避を考慮したリアルタイム 3次元飛行経路生成法の高速化”, 日本航空宇宙学会論文集, 2010, Vol.58, No.677, pp153-163.

[3] MultiWii, ”http://www.multiwii.com/”

[4] 3DRobotics.inc, ”http://3drobotics.com/”

[5] Dji Inovetions, ”http://www.dji.com/”

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減災IoTシステムプロジェクト河川管理のための移動式水位センサネットワークの開発

研究メンバー:大塚孝信,鳥居義高

1 はじめに豪雨による河川の氾濫による土砂崩れや,家屋の浸水などの件数が増加しています.また, 東海地域に関しては海抜 0m以下の地域が多く, 南海トラフ地震による津波の影響が懸念されています. 広域浸水に関しては,河川の構造や,海抜及び,埋立地である箇所など,浸水を完全に防ぐ方法は困難です.現状では,浸水箇所に対しポンプ車を代表とする排水機器を稼働させるという対処のみ可能です.しかし,可能な限り迅速に排水作業を行うためには,浸水箇所全域の水位データによる浸水全水量の把握が必要となります.そのために我々は,国土交通省 中部地方整備局,日本工営株式会社と共同で現場での設置を目的とした移動式アドホック簡易水位計の試作を行っています.特に,移動式のワイアレスセンサネットワークでは,移動による周囲の環境要因によって通信信頼性が大きく左右されます.そのため,固定式のワイアレスセンサネットワークとは異なり,移動により変化する周辺の電波状況や建築物,植物などの影響を定量化し,計測ノードの移動による電波品質を考慮したな設置パターンを決定する必要があります.我々は,特に無線通信の信頼性に焦点を当て,実フィールドにおいて,種々の環境要因ごとに,通信モジュール同士の電波状況を測定することで,移動式のセンサネットワークに最適な設置パターンの提案を行い,設置場所の選定時間の短縮手法についても研究を行っています.

2 設置の容易な簡易水位計の開発2.1 開発の主目的本研究は,国土交通省様のプロジェクトである「濃尾平野の排水システム検討業務」の一部分であり,大型台風による高潮・洪水,及び南海トラフの巨大地震による津波の発生による広域浸水被害の早期復旧を目的とした研究です.浸水時には,浸水地域の排水のために,ポンプ車を効率良く稼働させることで迅速な排水作業を行う必要があるが,そのためには排水状況を可視化することで,各地点の水位の状況や,ポンプ車の稼働状況を統合し,情報共有する必要があります.そのため,我々はアドホック通信が可能なワイアレスセンサネットワーク技術を用いて,ポンプ車に搭載する親機,任意の場所に設置し,水位を取得する計測ノー

ドによって構成される移動式のワイアレスセンサネットワーク水位計を開発しています.システムの概要を図??に示します.

図 1: 排水作業情報共有システム全体図

本研究で開発しているワイアレスセンサネットワークは,太陽電池と蓄電池により外部電力供給を必要とせず,継続して計測可能であり,任意の計測箇所の水位情報を統合してセンシング可能です.計測ノードのシステムブロック図を図 2に示します.

図 2: 計測ノードシステムブロック図

計測ノードは,以下により構成されており,モジュール交換により,様々なセンサの接続を可能としています.• 通信モジュール:東京コスモス社 TWE-Strong

• GPS : GlobalTop Tech社 MTK3329

• 水位センサ:センシズ社 HM-500

• 電流・電圧センサ:TI社 INA226

• 蓄電池:3.7V 6600mAh Li-Ion

• 太陽電池 : 6V 5W太陽電池パネル

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• 充放電コントローラ IC :リニアテクノロジ社 LT3652

特に,通信モジュールであるTWE-Strongは,2.4GHz

帯 Zigbeeでありながら最長 3kmの長距離通信が可能であり,マイコン及びメモリを内蔵していることからXbeeを代表とする他者の通信モジュールのように,外付けマイコンを必要とせず,通信モジュール内にプログラムを書き込むことによって,外部センサとの直接通信が可能です.更に,マイコンのスリープや通信モジュールの省電力設計も統合して行うことができるため,市街地に設置され,設置場所により自動車や建物などの外的要因が変化する移動式のセンサネットワークに適しています.開発中の計測ノードの外観を図 3

に,内部の回路基板を図 4に示します.

図 3: 計測ノードの外観

図 4: 試作中の計測ノード内部

計測ノードは,以下の情報を親機へ送信し,親機から携帯電話網,もしくはインターネット回線を用いてクラウド上のサーバに送信されます.• 計測ノードの固有識別番号

• 水位計測データ• GPS座標位置• アドホック通信の Hop数• 通信品質値• 電源の電圧及び,電力消費量• 太陽電池による電圧,電力供給量サーバーアプリケーションは,Ruby on Railsによっ

て開発されており,ノード情報を地図上にマッピングすることにより各地点の水位情報を表示したり,ノード個別での水位の変化状況を時系列によってグラフ表示することも可能です. また,あらかじめ警報水位を設定することにより,閾値を超えた水位を観測した場合には,e-mailによる通報も可能としています.サーバーアプリケーションの画面例を図 fig:UIに示します.

以上のように,ハードウェアとソフトウェア双方を開

図 5: サーバーアプリケーションの画面例

発することにより,浸水箇所を代表とする過酷な環境下でも,安定して計測が可能な移動式ワイアレスセンサネットワークの開発を行っています. さらに,2014

年度に行われる実証実験結果を基に,設置場所が変化する移動式センサネットワークのための設置支援システムの開発を行っています.特に,移動式のワイアレスセンサネットワークでは,移動による周囲の環境要因によって通信信頼性が大きく左右されます.そのため,固定式のワイアレスセンサネットワークとは異なり,移動により変化する周辺の電波状況や建築物,植物などの影響を定量化し,計測ノードの移動による電波品質を考慮したな設置パターンを決定する必要があります.そのため,得られた実データを基に,安定した通信状況が得られる設置位置を提案するシステムを開発することで,設置コストの削減と,安定した計測を継続して行うことが可能な移動式センサネットワークの統合管理を目指しています.

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グローバルな研究協力に向けて伊藤研究室の国際研究協力体制

研究メンバー:伊藤孝行

伊藤孝行研究室では,グローバルな研究協力が,先端的研究を進める上で重要と認識し,以下のような国際学術活動を行なっています.• 著名研究者の招聘• 国際共同博士課程• 国際学会への貢献1 著名研究者の招聘伊藤孝行研究室は,情報科学フロンティア研究院に属しており,研究者の招聘に力を入れています.2017

年 2~3 月には,MIT の Mark Klein 博士,CMU のKatia Sycara教授など,人工知能やマルチエージェントシステムの分野では超一流の研究者を招聘しアイデアの交換を行なっています.以下にこれまで招聘した先生方のリストを示します.

• Mark Klein博士, MIT (United States): エージェント間の交渉機構やソーシャルコンピューティングについての研究を進めています。これらのテーマは,大規模交通シミュレーション(NICTによる支援)や大規模合意形成支援(JST CRESTによる支援)などの大型プロジェクトの基礎になっております。Klein博士はMITの研究者で、伊藤やその学生らとすでに10年以上の共同研究を進めています。Mark先生には名工大における講義もご担当いただき、最先端の研究内容についてご紹介いただいています。

図 1: Mark博士による講義

• Fernandez Susel Fernandez助教, University of Al-

cara (Spain): 大規模な交通シミュレーションにお

けるオントロジーの構築と、オントロジーマッチングの方式について研究を進めています。特に、自動運転車や IoT(Internet of Things)などのインフラを想定した上でのスマートシティのシミュレーションにおけるオントロジーについては初めての試みです。名工大と協定を結んだアルカラ大学の研究者で、平成28年度には Suselの上司や仲間もユニット招致として名工大に滞在が予定されています。

• Kwei-Jay Lin教授, University of California, Irvine

(United States): IoT(Internet of Things)に基づくスマートホームやスマートビルディングにおける、最適な環境設定システムや、日常的かつ継続的な合意形成支援の方法について研究を進めております。また IoTデバイスのハードウェアとミドルウェアの構築に関する知見は、河川監視の大規模センサーネットワーク(国土交通省との共同研究)にもつながっています。Lin教授とは IEEEの国際会議を共同開催やUCIの学生交換なども行っています。Kwei-Jay教授には IoTに関する最新の研究についてご講義頂きました。

図 2: Kwei-Jay教授による講義

• Minjie Zhang教授,University of Wollongong (Aus-

tralia):マルチエージェントシステム全般について共同研究を進めており、特に平成27年度の滞在では災害時のレスキューシミュレーションや交通渋滞緩和シミュレーションなどについて研究を進めました。これらの研究は、極めて競争率の高いオーストラリア研究評議会(ARC:Australian Resarch

Counsil)の研究費も獲得するなどしております。

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Minjie Zhangグループとは、学生交換、共同国際会議開催などを含め10年以上の共同研究活動を続けており、さらには、名工大とウロンゴン大学のJoint Degreeの設立についても活動しております。

• Fenghui Ren博士,University of Wollongong (Aus-

tralia):上記のMinjie Zhang教授のグループの博士研究員で、平成27年度はユニット招致として短期間名工大にて滞在しました。短い間ではありましたが、上記の交通渋滞緩和シミュレーションを行い、この共同研究は、平成27年度の伊藤孝行研究室の卒論(谷文君)の1つにまとめられました。Minjie

Zhang教授と同様、ウロンゴン大学との共同研究活動全般について強く協力を頂いております。

• Milind Tambe教授,University of Southern Cali-

fornia (United States):マルチエージェントシステム全般について共同で研究を進めています。Tambe

教授はマルチエージェントシステムにおけるゲーム理論の均衡解アルゴリズムの実世界応用について行っています。ここでは、施設のセキュリティのための監視・管理業務における、侵入者の予測行動に基づく最適見回り・配置アルゴリズムを実装しています。平成27年度の滞在は短い滞在でしたが、Multi-Armed Bandit問題を、大規模合意形成におけるファシリテータの問いかけアルゴリズムに応用できることについて新しいアイデアを議論しており、現在その実現に向けて共同研究を進めています。Millind教授には全学講演として, セキュリティ分野へのゲーム理論の応用についてお話いただきました。

図 3: Milind教授による講演

• Bo An 助教:Nanyang Technological University

(Singapore):マルチエージェントシステム全般について共同で研究を進めています。Bo An助教は、上

記の Tambe教授の元博士研究員で、現在もセキュリティについての研究を進めています。平成27年度は、Tambe教授、An助教と我々のグループとしてマルチエージェントシステムに関する研究を進めています。また、Nanyang Technological Univer-

sity (南洋工科大学)と名工大の協定締結についても活動を行っています。

• Chunsheng Yang博士,Canada Research Counsil

(Canada):知的情報処理技術の実世界応用について研究を進めています。Yang教授は、特に強化学習や事例ベース推論の実世界応用について業績があり、平成27年度の滞在では、伊藤研究室の具体的な応用システムに対する応用について共同研究を進めています。例えば、大規模センサーネットワークのための異常検知アルゴリズムの洗練化や、強化学習と事例ベース推論による大規模合意形成における効率的なファシリテーション支援などが応用としてあげられます。

• Tim Baarslag博士,Centrum Wiskunde & Infor-

matica (UK):Tim Baarslag先生は、自動交渉エージェントやANAC(交渉エージェント競技会)について、2010年頃から共同研究を行っています。名工大には、すでに3回滞在しておられ、数回のセミナーおよび授業も担当していただいております。現在は、パンドラ・アルゴリズムを用いた、逐次意思決定アルゴリズムについて共同研究を深めています。

2 国際共同博士課程オーストラリアのウロンゴン大学と国際共同博士課

程の設立に向けて活動を行なっています.共同博士号は,名古屋工業大学とウロンゴン大学の両大学により1つの学位記を授与するというプログラムです.名古屋工業大学の得意とする人工知能,マルチエージェントシステム,及び IoTなどの分野の研究開発と,ウロンゴン大学の得意とするスマートシティ,防災,及びソフトウェア工学などの分野の研究開発を 融合することで,情報学の先端的研究を目指します.

3 国際学会への貢献本研究室では国際学会への貢献が重要な学術活動で

あると考え,国際会議の開催や国際学術委員会への貢献を積極的に行なっています.伊藤孝行教授は,非常に多くの国際会議の委員長を努めております.特に,最難関国際会議 AAMAS2013では Program Chairを努めました.PRIMA2009,IEEE ICA2016,その他の国際会議においてもGeneral Chairや Program Chairを

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務めています.また 2020年には,人工知能の国際会議 IJCAI(International Joint Conference on Artificial

Intelligence)をローカルアレンジメントチェアとして招致に成功しています.その他の国際会議KICSS2017

も名古屋で開催が決まっています.国際学会として,IEEE Technical Committee on In-

telligent Informatics(IEEE知的情報学に関する技術委員会)にて委員として参加していたり,IFAAMAS

(国際自律エージェントとマルチエージェントシステム財団)の理事として携わるなどしております.今後も国際会議の開催や運営を通して,先端的な研究の動向について調査するとともに,海外の研究者ネットワークを広げていきたいと思っています.

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海外留学と国際連携体制伊藤孝行研究室における海外研究留学

石田健太,仙石晃久,林政行,早川浩平,坪井辰之助,大塚孝信

1 伊藤孝行研究室の国際連携体制当研究室は国内外問わず,多くの研究機関と共同研究を行っており,毎年多くの学生が海外留学を経験している.代表的な共同研究機関として,ハーバード大学,マサチューセッツ工科大学,カリフォルニア大学(米国),ウーロンゴン大学,シドニー工科大学(オーストラリア),アルカラ大学(スペイン),デルフト工科大学(オランダ)が挙げられる.当研究室では国際的な交流を推奨しており,国際会議での発表や留学などで海外出張の機会も数多くある.今年度も多くの学生が留学及び国際会議発表を経験している.本稿では以下の留学・国際交流記をまとめる.

• アルカラ大学(スペイン)• ウーロンゴン大学大学(オーストラリア)• シドニー工科大学(オーストラリア)• デルフト工科大学(オランダ)• ESIGELEC(フランス)• カリフォルニア大学(アメリカ)• 学会活動における国際交流(全世界)2 アルカラ大学留学記 - 石田健太2.1 アルカラ大学アルカラ大学(Universidad de Alcala) は,スペインのマドリード州アルカラ・デ・エナーレスに位置する公立大学である.大学には約 26,000人の学生と 1750

人の教授が所属している.また,アルカラ大学は大学規模に対する留学生受け入れ数がスペイン第 1位であり,毎年 5000人以上の留学生がアルカラ大学に入学している.さらには世界最上位 200の大学の中に含まれており,世界的にも評価が高い大学である.アルカラ大学では芸術,人文学,社会科学,法学,教育学,自然科学,健康科学,工学,および建築の領域で学位を取得することができ,全ての領域の課程で学生の実社会への参入と就労機会の獲得に資することを目的として,学外での企業研修が盛んに行われている.また,アルカラ大学は 1499年に誕生するという非常に古い歴史を持っており,ヨーロッパ最古の大学の1つと見なされ,1998年にはユネスコの世界遺産に指定されている.図 1はサン・イルデフォンソ学院であり,内部にはアルカラ大学の本部や大講堂などがある.

図 1: サン・イルデフォンソ学院

2.2 研究環境私はアルカラ大学の工学科(Escuela Politecnica Su-

perior)のMiguel Angel Lopez Carmona教授の下で2ヶ月間研究活動を行った.Miguel Angel Lopez Car-

mona教授と伊藤孝行研究室とは長年交流を行っており,毎年のように伊藤研究室の学生が Miguel Angel

Lopez Carmona教授の研究室の下で共同研究を行っている.自分の行った研究は,確率モデルを使った交通シミ

ュレーションの改良である.既存の研究では,シミュレーションモデルは全車両の動きをトレースする car

following modelと,道路に対する車両の密度を考慮する cell transmission modelの二つのモデルに分けられる.今回は,二つのモデルの良いところを組み合わせるというコンセプトで研究を進め,関連論文の調査およびアルゴリズムの再現を行った.2.3 生活私がスペインに訪れたのは 9,10月である.9月中は

昼間は暑いが乾燥しているためジメジメはしておらず,また朝晩は涼しかった.10月に入ると,日中は過ごしやすいが,朝晩の冷え込みが激しかった.また朝の 7

時でも外が真っ暗で,夜の 20時でも外が明るいことに驚いた.スペインでは食事を1日に5回取る文化があり,その影響で食事の時間が遅めであった.昼食は午後 2時,夕食は午後 9時前後に食べることが多かった.また,現地の飲み会は日付が変わってからが本番であるとも言われており,金曜の夜などはかなり遅く

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まで飲むこともあった.私が滞在した時は,大学から徒歩 10分程度の場所にある寮で 2ヶ月間暮らしていた.寮ではスペイン人の 20代の学生が多いが,30,40代の方や韓国人や中国人の留学生など様々な人が滞在していた.寮の周りは都会ではないので,コンビニや遊べる施設などはなくスーパーや病院などの必要最低限度の施設しかないが,アルカラ大学の各学科の校舎が立ち並んでおり,アクセスが非常に便利である.また,寮の近くの駅から電車 1本でサン・イルデフォンソ学院のあるアルカラ・デ・エナーレスの街やマドリッドの中心部などの観光地へも簡単に行くことができる.マドリッドの中心部にはプラド美術館,国立ソフィア王妃芸術センター,またティッセン・ボルネミッサ美術館など,多くの有名な美術館がある.図 2はピカソのゲルニカがある国立ソフィア王妃芸術センターである.マドリッドに訪れた際は是非立ち寄ってほしい.

図 2: 国立ソフィア王妃芸術センター

スペイン人は陽気な性格であり,基本的におしゃべりが好きな人が多い印象を受けた.研究室では,毎朝みんなでカフェテリアへ行き,大勢の友達で集まりコーヒーを飲みながらおしゃべりを楽しむなど,本当に楽しく過ごすことができた.中にはスペイン語しか話せない人もいたが,大抵は英語が通じるので安心できる.2.4 まとめスペインのアルカラ大学という文化・歴史的にも素晴らしく世界遺産に選ばれた大学で色々な経験ができて本当に良かった.伊藤研究室とも交流が深いMiguel

Angel Lopez Carmona教授の下で 2ヶ月間研究できとても有意義であった.2ヶ月間という長い期間,海外でこのような体験をすることは滅多にない機会である.今回の留学は学んだこと・経験したことは,私の今後の研究や人生に大いに役立つことであろう.

3 ウーロンゴン大学留学記 - 仙石晃久3.1 ウーロンゴン大学ウーロンゴン大学はオーストラリアのニューサウス

ウェールズ州ウーロンゴン市にある総合公立大学でる.1951 年創立で, 学生数は海外キャンパスを含め約3万人, うち 11.000 人以上が約 70ヶ国からの留学生で, 非常に国際色が豊かである. 大学のキャンパスは,

ウーロンゴン市の中心から5キロ、海岸からは2キロの所にある. 82ヘクタールもの広さを誇る広大なキャンパスは豊かな自然に恵まれ, 小さな森やいくつもの池が点在している.

私が感じたウーロンゴンの良いところは, 1) 自然が綺麗, 2) 親切な人が多い, 3) 治安が良い. 休日には,

現地の方々と様々なスポーツをしたり, シドニーなどに観光に行くことが可能である. シドニーへは電車で1時間程度で行けるので, シドニーの街やオペラハウスも気軽に楽しむことができる.

図 3: UOW周辺図

3.2 研究環境大学キャンパス内は緑豊かでとても綺麗な景観であ

り, キャンパス内に日本人好みのレストランも沢山ある. また, ウーロンゴン大学には世界中から留学生が来ているので, 様々な国の文化や習慣を体験することが可能である. 国際交流イベント, 研究会, および勉強会が毎週開催されており交流がしやすく, 現地の人たちとの繋がりを作りやすい. 現地の研究室の方々もとても親切で, 研究に関することから日常生活に関することまで, 様々なことを支援してもらえる. 研究室では毎週 2回ミーティングがあり, 積極的に発表や意見が求められ, 英語力はもちろんのことディベートの能力を付けることができる.

3.3 留学の良いところ留学の良いところは沢山あるが, 私が感じたものを

3つ述べる1. 多様な価値観. 特にオーストラリアは多民族国家な

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ので, 様々な文化を持つ方々と接することが可能であり, 客観的に見た日本を知ることができる. 日本の常識と世界の常識は異なる点が多く, 研究や語学力以外においても多くのことを学べる.

2. 様々な初体験. 異国の土地で, 言語も文化も異なる人達とシェアハウスやスポーツをするなど, 日本では経験できないことが非常に多い. また, 研究においても, 国際学会での発表とは異なり, 英語で議論をしてアイデアを共有していく必要があるので, 簡単ではないがとても貴重な経験となる.

3. 語学力. 毎日英語を通じて様々な国の方々とコミュニケーションをとるので, 英語に対する苦手意識は無くなる. また, 日本にいる外国人と違い, 現地の方々は日本語訛りの英語に聞き慣れていないので,

カタカナ英語で発音するとほとんど伝わらず, 発音やアクセントに注意する必要があると身をもって実感できる.

図 4: 現地で仲良くなった人達とビーチバレー

3.4 まとめ自然溢れるウーロンゴンで,様々な文化や人と触れ合いながら日々を過ごすことは一生の思い出となる. 海外での研究では, 日本では身につけることが難しい英語力, コミュニケーション能力, ディベート能力を身につけることができる. 留学支援を積極的にしてくれる研究室は幸せである.

4 シドニー工科大学留学記 - 林 政行4.1 シドニー工科大学とはシドニー工科大学(University of Technology, Syd-

ney、略称: UTS) は,オーストラリアニューサウスウェールズ州シドニーにある公立大学である. シドニー市の中心部にメインキャンパスが存在する唯一の大学であり,人文・社会科学,ビジネス,デザイン・建築・建築物,工学・情報技術,法,看護・産科・保健,薬学, 科学の 8つの学科を有する.

図 5: UTSの様子

図 6: UTSでの研究仲間

4.2 学習・生活環境今回の留学では,UTSのリサーチセンターの1つで

ある The Centre for Quantum Computation & Intel-

ligent Systems(QSIS)で Dr. Ivor Tsang の指導のもと,機械学習について学ぶことができた. 研究室では隔週の個人ミーティングと輪講を通して,親密な指導をして頂いた.

今回は 3ヶ月の短期留学であるため,UTSの学生寮を利用することはできなかったが,シドニーで盛んなシェアハウスを利用した. UTSの立地する CBDの付近では,安価で住みやすいシェアハウスを探すのは難しいかもしれない. 早めに,少し離れた場所でも良い物件を確保することをおすすめする.

またオーストラリアは移民国家であるため,さまざまな国から来た人達と出会うことができ,多くの文化に触れることができた. 同様にさまざまな国のレストランがあり,各国の料理を食べることができる. 2ヶ月で食事に飽きることはない.

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4.3 休日の過ごし方UTSはシドニーの中心部にあり,シティはもちろん,有名な観光名所であるオペラハウスやハーバーブリッジなどともとても近い. 加えて,CBDでは毎週のごとく何かしらイベントが開かれている. そのため休日には,現地で知り合った多くの人達とイベントに参加したり,観光したり,夜楽しんだりなどといったさまざまなアクティビティをすることができ,交友関係も深まった. また,LCCを使えば 2時間程度で近くの大都市に移動することができ,大学で知り合った友人とメルボルンまで行ってドライブを楽しむことができた.

日本で免許を持っている人は国際免許証を取得することをおすすめする.

図 7: メルボルンの名所

4.4 まとめ今回の留学では,3ヶ月間の充実した研究生活を送れた上,友人と共に大変貴重な経験をすることができた.伊藤研究室は,世界の多くの大学と繋がりがあり,海外経験のチャンスがとても大きい研究室である.

図 8: デルフト工科大学

5 デルフト工科大学留学記 - 早川浩平5.1 デルフト工科大学デルフト工科大学(英語: Delft University of Tech-

nology: TU Delft)は,オランダのデルフトに位置するオランダの公立大学である.図 8にキャンパス風景を示す.学部ごとに個性豊かな建物をもちまた,図書館は非常に特徴的で優れたデザインとなっており,キャンパス内を散策するのもおもしろい.また,緑にあふれており,陽気のいい日には芝生で読書やスポーツをする学生も多い.デルフト工科大学はオランダで最古の工科大学であり,多くの高等機関において高い評価を得ているヨーロッパ屈指の名門校の 1つである.最新の THE世界大学ランキングにおいて工学部門では第 19位を記録している.ちなみに日本で最高位であった東京大学は第 25位であった.デルフト工科大学はチューリッヒ工科大学やインペリアル・カレッジ・ロンドンなどで構成される IDEAリーグのメンバーでもある.校訓は”Challenge the Future”.電子数理情報工学科,航空宇宙科学部,建築学部,土木工学部などの学部から構成されている.5.2 研究私は電子数理情報工学科の Interactive Intelligence

Group で研究活動を行った.Interactive Intelligence

GroupはCatholijn M. Jonker教授が率いる研究グループであり,伊藤孝行研究室との交流も深い.両グループは 5年以上国際共同研究を行っており,例えば,2013年度は Interactive Intelligence Groupに所属する博士課程学生が伊藤孝行研究室に 1ヶ月滞在し共同研究を行っている.私は Interactive Intelligence Groupに 2ヶ月間所属し,自動交渉に関する研究を行った.研究は主に2014年度自動交渉エージェント競技会(ANAC2014)に関するものであった.大きく以下の 4つの活動を行った.詳細については紙面の都合上割愛する.• 非線形効用ドメインとANAC2014のエージェントを用いた交渉の結果分析

• 非線形効用の論点分解,単一論点交渉,交渉結果の結合及び分析

• ドメインの複雑度計算• 多様性を持った新たなシナリオの生成及び実験上に挙げたような自動交渉に関する研究は伊藤孝行研究室でも盛んに行われている.5.3 生活以下ではオランダの気候,働き方,観光などについ

て主観を交えつつ紹介する.

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私が滞在した 8,9月のオランダは日本の夏とは異なりとても涼しかった.寒いと感じる日もあるので,防寒対策が必要である.また,風が強くにわか雨が多い印象を受けた.デルフトのレストランや土産屋ではクレジットカードは使用できることが多いが,スーパーや衣服店などでは使えないことが多いので現金を多めに持って行くなり海外キャッシングを利用できるようにするなりしておいたほうが良いだろう.オランダの働き方は日本とは異なる点も多い.基本的には夜遅くまで研究室に残ることはなく,17時ごろには多くの人が帰宅する.また,週 5日のうち,3~4

日しかオフィスに来ない人もいるが,咎められることはない.自宅から Skypeでミーティングに参加することも可能である.しかし仕事はしっかりこなし,手を抜くことはない.仕事もプライベートも大切にし,両者にメリハリをもたせた良い生活スタイルと感じた.平日の夜には Jonker教授宅にてホームパーティを行った.各人が持ち寄った様々な料理で食事をした後にはボードゲームやダイスゲームなどのゲームで盛り上がった.図 9はダイスゲームをしている様子である.このように上下関係も厳しすぎず,先生や学生と交流することができる.

図 9: Jonker教授宅でのホームパーティ

休日には観光をした.アムステルダムにはアムステルダム国立美術館やゴッホ美術館などの観光名所があり,休暇を利用して何度か訪れることができた.ゴッホの他にもフェルメール,レンブラント,エッシャーなど数々の有名な画家がオランダ出身である.絵画だけでなく音楽も盛んである.アムステルダムには格式の高いコンサートホールとして知られているコンセルトヘボウがあり,クラシック,ジャズなどを楽しむことができる.私はモーツァルトのクラリネット協奏曲やドヴォルザークの交響曲第 7番を鑑賞することができた.また,キンデルダイクにはユネスコの世界遺産にも登録されている風車網があり,その景観はすばらしい.私が滞在したデルフトも良い町である.今でも

運河が古い町並みを写している,ひっそりとしたたたずまいのチャーミングな町であった.5.4 まとめオランダ,そしてデルフトは気候や文化に恵まれた

すばらしい場所であった.世界的に非常に評価が高く,ヨーロッパ屈指の工科大学として知られるデルフト工科大学では自動交渉に関する研究を行った.研究のなかでは先生や学生と英語で議論をし,負けて悔しい思いをしたり,試行錯誤で自分の考えを伝える貴重な経験をした.また,2ヶ月間異国の地に身を置いて生活することも自らの見識を深化させるに当たって非常に重要な体験となった.デルフト工科大学への留学はこれからの私の研究活動あるいは人生にとっての大きな糧である.

6 ESIGELEC留学記 - 坪井辰之助フランスのグラン・ゼコールの一つである ESIG-

ELEC(Ecole superieure d’ingenieurs en genie electrique)への留学について紹介する.6.1 学校と滞在先について留学先の ESIGELECはフランスの北西部に位置す

るルーアン市内にあり,フランスでもトップクラスのエンジニアリング教育を行うグラン・ゼコールである.全校生徒は 1700名,内 4割が他の国からの留学生という環境である.留学の期間は 8月末から 9月末頃までの約 1ヶ月間になる.気候は朝,夜は 16度ほどまで冷え込み,昼は晴れて

いると 20度後半まで上がるなど寒暖の差が激しい.また 9月は小雨が振り続ける.滞在先はルーアン市内の市街にあるユースホステルで学校まではバスとメトロを乗り継いで 40分ほどかかる.またトイレ,シャワーは共用だが設備は清潔であるし,受付も英語が通じるなど環境は良い.

食事は朝食はユースホステルで,昼食は学校のカフェテリアで取る.朝食代はホテルの代金に含まれており,昼食は 1回 3.8ユーロから 4.8ユーロかかる.ユースホステルでは夕食はつかないが,キッチンスペースは貸し出されるので市街のスーパーマーケットで購入してきた物を調理することは出来る.ESIGELEC留学プログラムでは 2つのテクニカル

コースとフランス語の授業を英語で受講し,2つのフランスを代表する企業の工場見学を行う.テクニカルコースは,Meta-heuristics for combinatorial optimization

とDatabase modeling and queryの 2つのコースを受講する.メタヒューリスティクスのコースではグループで,授業で紹介された NP 問題から一つを選択し,

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メソッドの実装,改良などを行い最後にプレゼン発表をする.データベースのコースでは,実際に企業の研修で使われている事例を用いてグループでデータベースモデリングを行い最後にプレゼン発表をする.6.2 観光平日は学校の授業,コースの課題,洗濯や夕食の準備に追われるが,休日は自分たちで旅行を企画できる.ルーアン市はパリまで電車で 1時間の距離なので日帰り旅行も企画しやすい,またフランス北部の観光要所へも電車が便利である.また ESIGELEC側が平日に観光を企画している.今年はモンサンミッシェルとジヴェルニーに行った.学校のコース終了から帰国まで4日ほど間が空いているので,長期の旅行を企画することが可能である.今年はブリュッセル,アムステルダム,ボルドー等に行った.6.3 留学プログラムの利点長年行われいるプログラムなので受け入れ体制が整っている.ほとんどの手配を留学生支援室とESIGELEC

側のスタッフが行ってくれる.フランスの正規の学生扱いになるので,公立の美術館,博物館の入館料が無料になる.名工大の情報工学部の演習と遜色ない内容で全て英語で行われるといった点が挙げられる.また留学プログラムは情報工学専攻が主催しているが,産業戦略専攻の伊藤研究室からも参加できる.

図 10: モンサンミッシェルにて

図 11: レストランでの食事

7 カリフォルニア大学留学記 - 大塚孝信7.1 カリフォルニア大学カリフォルニア大学はアメリカ西海岸に点在する大

学郡であり,バークレー校,サンフランシスコ校,ロスアンゼルス校,サンディエゴ校の全 9校から為る大学群である.馴染みはなくともUCLAと書いたTシャツなどを見たことはあると思うが,カリフォルニア大学ロスアンゼルス校のことである.私が留学したアーバイン校 (以下 UCI)は,工学の分野で特に有名なカリフォルニア工科大学(CALTEC),南カリフォルニア大学(USC)とも近接しており,南カリフォルニアテックコーストの一部に数えられている.以下に独断と偏見ではあるが,アメリカの中でのアーバインの環境について述べる.• 一年中春のような気候• 治安が良い• 観光地が近い特に,アメリカ中西部では寒すぎたり暑すぎたりする気候が多い中,南カリフォルニアは一年中春のような気候であり,雨が降ったとしても寝ている間しか降らなかったりすることが多く,理想的である.また,治安に関してもアーバイン市内であれば日本と変わらないくらい治安が良い.休日などの観光であるが,ロスアンジェルスまでバスで 1.5時間,ラスベガスまでバスで 3時間,サンディエゴまで電車で 1時間と観光したい向きには最適な場所である.7.2 研究環境研究内容については,本誌”センサネットワーク”に

て詳しく述べているので,本章ではUCIの研究環境について述べる.まず,UCIのあるアーバイン市が研究都市として建設されており,UCIを中心とした都市整備がなされている.UCIの周辺地図を図 12に示す.例を挙げるとすれば,全面芝生の鶴舞公園の周りに名工大が広がっているようなイメージである.図書館もほぼ 24時間開館しており,気候と相まって研究環境としては非常に良い.7.3 休日の過ごし方文頭でも述べたが,観光地が近いため休日を楽しむ

場所も近い.今回は 2ヶ月間の留学であり,サンディエゴの空母ミッドウェー博物館や航空宇宙博物館で休日を過ごした.また,サンフランシスコにも行くことができ,Apple本社と Google本社,インテル博物館に行くことができた.特に西海岸はシリコンバレーを始めとして,心躍る企業が多いため,情報工学専攻の人であれば楽しむことができる.

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図 12: UCI周辺図

図 13: カリフォルニア州マウンテンビューGoogle本社

7.4 まとめカリフォルニアの光を浴びて出勤する毎日を経験することは素晴らしい体験である.センサネットワークでの共同研究はまだまだ継続しており,カリフォルニアでの研究生活を送るチャンスはまだまだある.言語の問題は努力すれば解決するが,IoTにおける世界を牽引する研究室と交流を持っているのも本研究室の特色である.

8 学会参加における国際交流・研究室全メンバー

本研究室では学生の国際会議における発表や交流を推奨しています. 特に, 国際会議においては著名な研究者の方々と直接お話をする機会が得られるとともに,お互いの研究内容についてざっくばらんに議論を行うことができます. 本章では国際会議に参加した際の楽しい交流記録について少しご紹介したいと思います. まずはじめに, 2016年にアメリカ,ニューヨークにて開催された集合知に関する会議であるCollective Intelligence2016

では, ハーバード大学の David教授とその生徒さんと交流しました. David教授とは NYのバーでお酒を酌み交わし, 研究内容について楽しくお話しました. 次

図 14: NYにて David教授らと

は, アメリカ, カリフォルニアにて開催された会議に出席した際の写真です. カリフォルニアでは, 名工大出身の博士である Joaquin博士と交流しました. Joaquin

博士は現在 Verizonというアメリカ有数の通信会社においてケーブル TVにおける効果的な広告の出し方について研究を行ってらっしゃいます. カリフォルニアでは, 休日を利用してナパバレーなどを案内していただき, とても楽しい交流となりました. 最後に, 南カリ

図 15: カリフォルニアにて Joaquin博士らと

フォルニア大学の教授であり, ゲーム理論を警備に応用し, 世界的に著名なMillind Tambe教授を名工大にお招きした際の写真です. 近くの定食屋にて, なごやめしを堪能されつつも研究について深く議論することができました. 以上のように, 本研究室では多くの国際会議にて発表・交流を行うことで, 最先端の研究について知ることができるとともに, 現地ならではの場所で, 多くの研究者たちとの交流を行っています.

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図 16: 名工大にて Tambe教授と

9 まとめ本稿では研究室における国際連携である海外留学について紹介した.国内での研究交流だけではなく,海外の研究者との交流を行うことで研究分野における自分の立ち位置を再認識したり,様々な意見交換を行うことで,公私を問わず広い視野で考えることができると考えている.また,英語についても留学生と英語でディスカッションを行うことや,招待講演者とのミーティングなど,英語で会話をすることも多く,普段から国際交流を重視しているのも当研究室の特色である.

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主な学術論文1. Akihisa Sengoku, Takayuki Ito, Katsuhide Fujita, Shun Shiramatsu, Takanori Ito and Eizo

Hideshima, ”Towards Intelligent Crowd Decision Support: A Preliminary Result on Large-

scale Discussion Suppor based on the Discussion Tree”, International Conference on Crowd

Science and Engineering (ICCSE2016), Vancouver, Canada, July 27-30, 2016.

2. Keisuke Hara, Takayuki Ito, A Scoring Rule-based Truthful Demand Response Mechanism,

International Journal of Networked and Distributed Computing ISSN (print): 2211-7938/

ISSN (on-line): 2211-7946, Volume 4, Issue 3, pp. 182 - 192, July 2016.

3. Susel Fernandez, Rafik Hadfi, Takayuki Ito, Ivan Marsa, Juan R. Velasco Ontology-based

architecture for Intelligent Transportation Systems using a Traffic Sensor Network Special

Issue ”Sensors for Autonomous Road Vehicles”, Sensors (IF=2.437), 2016 (accepted).

4. Sho Tokuda, Ryo Kanamori, and Takayuki Ito, ”A Modification of the Stochastic Cell

Transmission Model for Urban Networks”, International Journal of Intelligent Transporta-tion Systems Research, 2016 (accepted).

5. 新美真,榎優一,伊藤孝行,”動的なコミュニティ形成に基づく電力融通手法:カーネルに基づく提携形成プロトコル DNPK-CFMの具体化”,情報処理学会論文誌,2016(採択済)

6. 大塚孝信,鳥居吉高,伊藤孝行,伊藤孝紀,秀島栄三,”災害被害把握を目的とした自律分散WSNの課題と実装”,人工知能学会 論文誌 Vol.31 No.6 (2015, 10) 人工知能学会 30周年記念特集号

7. 藤田桂英,森顕之, 伊藤孝行, ”ANAC:Automated Negotiating Agent Competition(国際自動交渉エージェント競技会),” 人工知能, Vol.31, No.2, 2016.

8. 伊藤孝行,マルチエージェントによる社会推論,エネルギーレビュー,Vol.422, 2016.03.

9. 早川知道, 伊美裕麻, 伊藤孝行,“東日本大震災のクライシスマッピングの調査分析による日本の OpenStreetMapの発展のための課題”,情報処理学会論文誌 特集号”創造する時代のコラボレーション支援とネットワークサービス”

10. 伊藤孝紀,深町駿平,田中恵,伊藤孝行,秀島栄三,「ファシリテータに着目した合意形成支援システムの検証と評価ーオフィス家具の商品開発を事例とする」,日本デザイン学会,2015

11. 早川知道, 伊美裕麻, 伊藤孝行,“日本の OpenStreetMapにおけるコミュニティ発展と継続のための分析と課題”,日本工業経営学会論文誌 集合知メカニズムとコミュニケーション場の設計と応用 特集号, Vol.66, No.4 , 2015

12. 伊美裕麻,伊藤孝行,伊藤孝紀,秀島栄三,”オンラインファシリテーション支援機構に基づく大規模意見集約システム COLLAGREE - 名古屋市次期総合計画のための市民議論に向けた社会実装”,情報処理学会論文誌, 2015.

13. 新美真,伊藤孝行,“動的報酬予算制限多腕バンディット問題とアルゴリズムの提案”, 情報処理学会 論文誌 2015年 10月号 E-Service and Knowledge Management toward Smart

Computing Society特集

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14. 森 顕之,伊藤 孝行,”推定期待効用に基づく自動交渉エージェントの提案”, 情報処理学会論文誌 2015年 10月号 E-Service and Knowledge Management toward Smart Computing

Society特集, 2015.

15. 奥原俊,朝日大貴,伊藤孝行,“敬語習熟度に基づく学習支援システムの実装”,コンピュータ&エデュケーション Vol.38 (一般社団法人 CIEC:コンピュータ利用教育学会),2015.

16. 伊藤孝行,奥村命,伊藤孝紀,秀島栄三,”多人数ワークショップのための意見集約支援システム Collagree の試作と評価実験- 議論プロセスの弱い構造化による意見集約支援-”, 日本経営工学会論文誌,Vol.66, No.2,2015.

17. 伊藤孝行,”マルチエージェントの自動交渉モデルとその応用”,情報処理学会学会誌,Vol.55,No.6, pp563-571, 2014-5-15.

18. 大塚孝信,Deyue Deng,伊藤孝行,”3単語共起フィルタリングによる有害文書分類手法と大規模データ処理”,電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌),Vol. 134,pp.168-175,

2014.1.1.http://dx.doi.org/10.1541/ieejeiss.134.168.

19. Takanobu Otsuka, Yoshitaka Torii, Takayuki Ito,“ Anomaly Weather Information De-

tection using Wireless Pressure-Sensor Grid”, Journal of Information Processing (JIP),

Vol.23, No.6, Information Processing Society of Japan (IPSJ), 2015.

20. Tim Baarslag, Reyhan Aydogan, Koen V. Hindriks, Katsuhide Fuijita, Takayuki Ito,

and Catholijn M. Jonker, ”The Automated Negotiating Agents Competition 2010-2015”,pp.115-118, AI Magazine, Winter, 2015.

21. Rafik Hadfi and Takayuki Ito, ”Complex Multi-Issue Negotiation using Utility Hyper-

graphs”, Journal of Advanced Computational Intelligence and Intelligent Informatics (JACIII),

Vol.19 No.4, 2015 (in press).

22. Rafik Hadfi and Takayuki Ito. ”An Agent-mediated Architecture for Collective Collabo-

rative Design”. International Journal of Electronics Communication and Computer Engi-

neering (IJECCE), , 6(2), 210-216,2015.

23. Rafik Hadfi and Takayuki Ito. ”Low-Complexity Exploration in Utility Hypergraphs’”,

Journal of Information Processing. Vol. 23, No. 2 pp. 176-184, 2015.

国際・国内会議における発表論文1. 遠山竜也, 伊藤孝行, ”自動交渉における交渉相手との対立度に基づく譲歩の実証的分析”, 第

1回市民共創知研究会, 2016月 11月 25-27日, 遠野ふるさと村川前別家, 岩手県遠野市

2. 藤原愛衣, 遠山竜也, 伊藤孝行, ”岩手県遠野市を例とした地域教育のあり方の提案”, 第 1回市民共創知研究会, 2016月 11月 25-27日, 遠野ふるさと村川前別家, 岩手県遠野市

3. 西田智裕, 伊藤孝紀, 深町駿平, 杉山弓香, 秀島栄三, 伊藤孝行,“全天球カメラを用いた視覚シミュレーションによる合意形成の検証”, 第 39回情報・システム・利用・技術シンポジウム, 日本建築学会, 2016年 12月 8-9日, 建築会館, 東京都港区

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4. 大塚孝信,鳥居義高,伊藤孝行,“多様なセンサ接続を可能とするWSNシステムの実装と社会応用”, 第 14回情報学ワークショップWiNF2016, 2016/11/27 愛知県立大学, 長久手キャンパス.

5. 河瀬諭, 伊藤孝行, 大塚孝信, 仙石晃久, 白松俊, 松尾徳朗, 福田直樹, 藤田桂英,“現実空間の議論場面にオンライン議論システムが与える影響”, 第 14回情報学ワークショップWiNF2016,

2016/11/27 愛知県立大学, 長久手キャンパス.

6. Takayuki Ito, Takanobu Otsuka, Satoshi Kawase, Akihisa Sengoku, Shun Shiramatsu,

Tokuro Matsuo, Tetsuya Oishi, Rieko Fujita, Naoki Fukuta, Katsuhide Fujita,“ Prelimi-

nary Results on A Large-scale Cyber-Physical Hybrid Discussion Support Experiment”, heEleventh 2016 International Conference on Knowledge, Information and Creativity Support

Systems, Yogyakarta, Indonesia, 10 - 12 November 2016

7. Tokuro Matsuo, Takanobu Otsuka, Tetsuya Oishi Rieko Fujita, Takayuki Ito, Shun Shira-

matsu, Naoki Fukuta, Katsuhide Fujita, Hidekazu Iwamoto,“ A Novel Model of Convention

Management Research and Business Process”, International Conference on Applied Com-

puting & Information Technology (ACIT2016), December 12-14, 2016, Las Vegas, USA

8. Pankaj Mishra, Rafik Hadfi and Takayuki Ito. “ Approach to Discover Correlation with

Social Affinity and Emotions”, IEEE International Conference on Agents(IEEE ICA 2016),

Sept. 28 -.30, 2016

9. Susel Fernandez and Takayuki Ito.“Using SSN ontology for Automatic Traffic Light Set-

tings on Inteliigent Transportation Systems”, IEEE International Conference on Agents(IEEE

ICA 2016), Sept. 28 -30, 2016

10. 早川知道, 伊藤孝行,“多選択問題のためのランダムなノイズ付加に基づくプライバシ保護手法”, 合同エージェントワークショップ&シンポジウム 2016 (JAWS2016), 2016 年 9 月15-16日

11. 大塚孝信,鳥居義高,伊藤孝行,”異種センサ接続を可能とするWSNシステムの実装と社会応用”, 合同エージェントワークショップ&シンポジウム 2016 (JAWS2016), 2016年 9月15-16日

12. 遠山竜也,伊藤孝行,”多者間交渉における交渉相手の対立度に基づく合意案候補の探索手法を用いた交渉戦略”,合同エージェントワークショップ&シンポジウム 2016 (JAWS2016),

2016年 9月 15-16日

13. 河瀬諭,伊藤孝行,大塚孝信,仙石晃久,白松俊,松尾徳朗,福田直樹,藤田桂英, ”COLLA-

GREEによる現実場面の議論支援”, 合同エージェントワークショップ&シンポジウム 2016

(JAWS2016), 2016年 9月 15-16日

14. 石田健太, 早川知道, 伊藤孝行, ”参加型センシングによる河川情報管理システムにおけるインセンティブ機構の設計”, 平成 28年度 電気・電子・情報関係学会東海支部連合大会 , 2016

年 9月 12-13日

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15. 遠山竜也,伊藤孝行,”自動交渉エージェントの歩み寄り妥協戦略のための二分割一様分布に基づく最大効用値の推定”, 平成 28年度 電気・電子・情報関係学会東海支部連合大会 , 2016

年 9月 12-13日

16. 柴田大地,伊藤孝行,”交渉の段階分けに基づく自動交渉エージェントの試作”, 平成 28年度電気・電子・情報関係学会東海支部連合大会 , 2016年 9月 12-13日

17. 奥原俊,伊藤孝行“ブレインストーミングにおける発話の可視化の影響に関する探索的な研究”,第 19回人工知能学会知識流通ネットワーク研究会, 2016年 9月 20日

18. Pankaj Mishra, Rafik Hadfi and Takayuki Ito. “ Adaptive Model for Traffic Congestion

Prediction”. The 29th International Conference on Industrial, Engineering & Other Ap-

plications of Applied Intelligent Systems, 2 4 August 2016, Morioka, Japan

19. Pankaj Mishra, Rafik Hadfi and Takayuki Ito.“Role of Human Emotions in Social Influence

”. International Conference on Crowd Science and Engineering 2016 , 27-30 July 2016,

Vancover, Canada

20. Akihisa Sengoku, Takayuki Ito, Katsuhide Fujita, Shun Shiramatsu, Takanori Ito and Eizo

Hideshima, ”Towards Intelligent Crowd Decision Support: A Preliminary Result on Large-

scale Discussion Suppor based on the Discussion Tree”, International Conference on Crowd

Science and Engineering (ICCSE2016), Vancouver, Canada, July 27-30, 2016.

21. Pankaj Mishra, Rafik Hadfi and Takayuki Ito.“Role of Facial Emotion in Social Correlation

”. International Conference on Principles and Practice of Multi-Agent Systems , 22 26

August 2016, Phuket, Thailand

22. Wen Gu and Takayuki Ito.“Optimization of Road Distribution for Traffic System Based

on Vehicle ’s Priority” 14th Pacific Rim International Conference on Artificial Intelli-

gence(PRICAI2016),22 -26 August, Phuket, Thailand, 2016

23. Susel Fernandez, Takayuki Ito, Driver Classification for Intelligent Transportation Sys-

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Janeiro, Brazil, November 1-4, 2016.

24. Pankaj Mishra, Rafik Hadfi and Takayuki Ito.“ Social Influence Analysis based on Facial

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July 2016, New York, USA

25. Rafik Hadfi, Takayuki Ito. “ Holonic Multiagent Simulation of Complex Adaptive Sys-

tems”. The 14th International Conference on Practical Applications of Agents and Multi-

Agent Systems (PAAMS/CNSC2016), Sevilla (Spain), June 3-6, 2016

26. Pankaj Mishra, Rafik Hadfi, Takayuki Ito.“Multiagent Social Influence Detection based on

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of Agents and Multi-Agent Systems (PAAMS/CNSC2016), Sevilla (Spain) , June 3-6, 2016

27. Rafik Hadfi and Takayuki Ito.“Multilayered Multiagent System for Traffic Simulation”.International Conference on Autonomous Agents and Multiagent Systems (AAMAS2016),

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Page 50: lab intro2016 content - Nagoya Institute of Technology · 特に,理論・モデルと実践フィールドの両方を注意深 く扱うことが極めて重要である.数理モデルに基づく

28. Akihisa Sengoku, Takayuki Ito, Kazumasa Takahashi, Shun Shiramatsu, Takanori Ito, Eizo

Hideshima and Katsuhide Fujita,Discussion Tree for Managing Large-Scale Internet-based

Discussions,Collective Intelligence 2016,Stern School of Business New York University,June 1-3, 2016

29. Kazumasa Takahashi, Takayuki Ito, Takanori Ito, Eizo Hideshima, Shun Shiramatsu, Ak-

ihisa Sengoku and Katsuhide Fujita,Incentive mechanism based on qualit of opinion for

Large-Scale discussion support,Collective Intelligence 2016,Stern School of Business New

York University,June 1-3, 2016.

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agement System According to the Participatory Sensing.”, 15th IEEE/ACIS International

Conference on Computer and Information Science (ICIS 2016) Special Session on Internet

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31. Yoshitaka Torii, Takanobu Otsuka, Takayuki ito,“ A diversity Sensor connection capa-

bility WSN for Disaster Information Gathering System”15th IEEE/ACIS International

Conference on Computer and Information Science (ICIS 2016) Special Session on Internet

of Things for Smart Society (IoTSS 2016), 26 -29 June, 2016, Okayama, Japan

32. Susel Fernandez and Takayuki Ito, Improving Driving Environment through a Multi-agent

Architecture Using Sensor Information in a General Traffic Ontology, In the Proceedings

of the Tenth International Conference on Knowledge, Information and Creativity Support

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33. Tomomichi Hayakawa, Takayuki Ito, Measures for the Development of OpenStreetMap of

Japan by the Analysis of the 2011 Tohoku Earthquake Crisis Mapping, In the Proceedings

of the Tenth International Conference on Knowledge, Information and Creativity Support

Systems, Phuket, Thailand, November 12-14, 2015.

34. Takanobu Otsuka, Yoshitaka Torii, Takayuki Ito, A Innovative Outdoor IoT System Ar-

chitecture for Service Oriented Things,In the Proceedings of the Tenth International Con-

ference on Knowledge, Information and Creativity Support Systems, Phuket, Thailand,

November 12-14, 2015.

35. Takanobu Otsuka, Yoshitaka Torii, Takayuki Ito,“ Autonomous Full-Mesh Network for

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Computing & Applications(SOCA2015),Rome, Italy, 19-21 October 2015

36. Ryo Kanamori, Satoshi Takahira, Takayuki Ito Accuracy Verification of Event Data of

Scheduling Support System for Agent-based Simulator, the 8th IEEE International Con-

ference on Service Oriented Computing & Applications(SOCA2015),Rome, Italy, 19-21

October 201

37. Susel Fernandez, Takayuki Ito, Driver Behavior Model Based on Ontology for Intelligent

Transportation Systems, the 8th IEEE International Conference on Service Oriented Com-

puting & Applications(SOCA2015),Rome, Italy, 19-21 October 2015

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38. Takanobu Otsuka, Yoshitaka Torii, Takuma Inamoto, Takayuki Ito,“A High-Speed Sensor

Resources Allocation method for Distributed WSN”, the 8th IEEE International Confer-

ence on Service Oriented Computing & Applications(SOCA2015/KASTLES2015),Rome,

Italy, 19-21 October 2015

39. Takayuki Ito, Yuma Imi, Motoki Sato, Takanori Ito, and Eizo Hideshima,“Incentive Mech-

anism for Managing Large-Scale Internet-based Discussions on COLLAGREE”, CollectiveIntelligence 2015, May 31 - June 2, 2015@the Marriott Santa Clara in Santa Clara, CA,

USA.

40. Yuichi Enoki, Ryo Kanamori, Takayuki Ito,“Pricing Procedure in Accordance with Char-

acteristic of Parking Utilization - Analysis Example of Massive Parking Accounting Data”,AI for Transportation (WAIT-15): Advice, Interactivity and Actor Modelling (AAAI2015

WorkShop) Austin, Texas, January 25-29, 2015

41. Takanobu Otsuka, Yoshitaka Torii and Takayuki Ito,”A proto-type of a portable ad hoc

simple water gauge and real world evaluation”,The 2nd International Workshop on Smart

Simulation and Modelling for Complex Systems (SSMCS2015), Buenos Aires, 25 - 31 July

2015

42. Susel Fernandez, Rafik Hadfi, and Takayuki Ito, Architecture for intelligent transportation

system based in a general traffic ontology, In the Proceedings of the 14th IEEE/ACIS

International Conference on Computer and Information Science (ICIS2015), June 28 - July

1, Las Vegas, U.S.A.

43. Keisuke Hara and Takayuki Ito, A Scoring Rule-based Truthful Demand Response Mech-

anism, In the Proceedings of the 14th IEEE/ACIS International Conference on Computer

and Information Science (ICIS2015), June 28 - July 1, Las Vegas, U.S.A.

44. Takanobu Otsuka, Yoshitaka Torii, Takayuki Ito,”Challenges and implementation of ad-

hoc water gauge system for the grasp of internal water damage”, 14th IEEE/ACIS Inter-

national Conference on Computer and Information Science (IEEE/ACIS ICIS 2015) June

28 - July 1, 2015 Las Vegas, USA

45. Akiyuki Mori, Takayuki Ito, ”Automated Negotiating Agent based on Estimated Expected

Utility of Evolutionary Stable Strategies”, 14th IEEE/ACIS International Conference on

Computer and Information Science (IEEE/ACIS ICIS 2015) June 28 - July 1, 2015 Las

Vegas, USA.

46. Akyuki Mori, Shota Morii, Takayuki Ito. A Dependency-based Automated Negotiation

Mechanism for a Hypergraph Utility Model. In 4th International Congress on Advanced

Applied Informatics. July 12-16, 2015, Okayama Convention Center, Okayama, Japan.

47. Makoto Niimi, Takayuki Ito. Budget-limited multi-armed bandit problem with dynamic

rewards and proposed algorithms. In 4th International Congress on Advanced Applied

Informatics. July 12-16, 2015, Okayama Convention Center, Okayama, Japan.

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48. Akiyuki Mori, Takatuki Ito,“ A Compromising Strategy based on Expected Utility of

Evolutionary Stable Strategy in Bilateral Closed Bargaining Problem”, ACAN 2015, May

4, 2015 - May 5, 2015, Istanbul.

49. Akiyuki Mori, Shota Morii and Takayuki Ito. ”A Dependency-based Mediation Mechanism

for Complex Negotiations and Preliminary Experimental Results”, ACAN 2015, May 4,

2015 - May 5, 2015, Istanbul.

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