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LD通級指導対象児の適応・指導効果・予後に影響を及ぼす要因に関する検討 ―WISC-Ⅲプロフィールと環境的要因の視点から― 今西満子 (奈良市立鳥見小学校) 小山ありさ・玉村公二彦 (奈良教育大学) What are the developmental characters of students referred to the LD resource room and how are they supported? ー Consideration of WISC-Ⅲ profiles and environmental factors ー Mitsuko IMANISHI (Torimi Elementary School) Arisa KOYAMA, Kunihiko TAMAMURA (Nara University of Education) 要旨:LD通級指導教室においては、個々の児童のニーズに応じた形で指導を行っているが、対象児への指導の効果 や予後については個人差が大きく、対象児らの発達的な経過には、発達上の困難や障害そのものに加え、環境に関連 した要因など、多様な要因が絡み合いながら影響を及ぼしていると考えられる。本研究においては、LD通級指導教 室における通級指導もしくは教育相談を利用した児童のWISC-Ⅲプロフィールのタイプ分類を群指数間の差に基づい て行い、適応・指導効果・予後に影響を及ぼす要因について検討を行ったところ、各要因間の関連性とともに、早期 対応の重要性、学校や家庭における環境の整備の重要性と、それらを支える制度的基盤の拡充の必要性が示唆された。 キーワード:通級指導教室 Resource Room     WISC-Ⅲプロフィール WISC-Ⅲ profile 環境要因 Environmental Factor 1 問題と目的 1 1 LD通級指導教室における指導 2006年度より、通級指導教室における対象拡大が実 施され、新たに学習障害者、注意欠陥多動性障害者が 通級指導の対象となっている。発達障害のある児童生 徒を対象とする通級指導教室(以下LD通級)の増設 が各都道府県で行われており、それに伴い、指導担当 者の専門性の確保や指導方法の開発・充実も課題とな っているといえる(小澤・高橋, 2007、計良, 2008)。 また、相談・指導の方法や形態については、開発・構 築の段階にある教室も多いと考えられ、奈良市での状 況については今西・玉村(2010)において報告してい る。LD通級においては、その性質上、通常学級にお ける子どもの状況に関する担任等からの報告と、保護 者との面談、子どもの行動観察、心理アセスメント等 から、対象児の状況とニーズを把握し、個々の子ども に応じた形での指導を行うことになると考えられる。 また、対象となる児童らの障害の性質上、指導中の経 過や新たに把握された状態像、子どもの発達的経過の 中での変化等から、より柔軟な対応をとることも必要 であるといえる(木谷ら, 2009)。対象児らの発達的な 経過には、多様な要因が絡み合いながら影響を及ぼし ていると考えられる。以下に、対象児の発達的経過や 後の状況に影響しやすいと考えられる要因をあげる。 1 1 1 対象児の認知プロフィールおよび発達上 の障害の傾向による影響 児童のもつ発達上の困難や障害そのもの、例えば認 知の偏りや総体としての知的能力等は、根源的な問題 として大きく影響すると考えられる。対象児の多くは、 認知上の諸能力の偏りや落ちこみを抱えており、それ らはWISC-ⅢやK-ABC等の心理アセスメントから把 握される。 さらに、学習上の困難を主訴として通級してきてい る児童であっても、医学的診断の有無にかかわらず、 145

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LD通級指導対象児の適応・指導効果・予後に影響を及ぼす要因に関する検討―WISC-Ⅲプロフィールと環境的要因の視点から―

今西満子(奈良市立鳥見小学校)小山ありさ・玉村公二彦

(奈良教育大学)

What are the developmental characters of students referred to the LD resource room and how are they supported?ー Consideration of WISC-Ⅲ profiles and environmental factors ー

Mitsuko IMANISHI(Torimi Elementary School)

Arisa KOYAMA, Kunihiko TAMAMURA (Nara University of Education)

要旨:LD通級指導教室においては、個々の児童のニーズに応じた形で指導を行っているが、対象児への指導の効果や予後については個人差が大きく、対象児らの発達的な経過には、発達上の困難や障害そのものに加え、環境に関連した要因など、多様な要因が絡み合いながら影響を及ぼしていると考えられる。本研究においては、LD通級指導教室における通級指導もしくは教育相談を利用した児童のWISC-Ⅲプロフィールのタイプ分類を群指数間の差に基づいて行い、適応・指導効果・予後に影響を及ぼす要因について検討を行ったところ、各要因間の関連性とともに、早期対応の重要性、学校や家庭における環境の整備の重要性と、それらを支える制度的基盤の拡充の必要性が示唆された。

キーワード:通級指導教室 Resource Room     WISC-Ⅲプロフィール WISC-Ⅲ profile      環境要因 Environmental Factor

1 .問題と目的

1 . 1 .LD通級指導教室における指導 2006年度より、通級指導教室における対象拡大が実施され、新たに学習障害者、注意欠陥多動性障害者が通級指導の対象となっている。発達障害のある児童生徒を対象とする通級指導教室(以下LD通級)の増設が各都道府県で行われており、それに伴い、指導担当者の専門性の確保や指導方法の開発・充実も課題となっているといえる(小澤・高橋, 2007、計良, 2008)。また、相談・指導の方法や形態については、開発・構築の段階にある教室も多いと考えられ、奈良市での状況については今西・玉村(2010)において報告している。LD通級においては、その性質上、通常学級における子どもの状況に関する担任等からの報告と、保護者との面談、子どもの行動観察、心理アセスメント等から、対象児の状況とニーズを把握し、個々の子どもに応じた形での指導を行うことになると考えられる。

また、対象となる児童らの障害の性質上、指導中の経過や新たに把握された状態像、子どもの発達的経過の中での変化等から、より柔軟な対応をとることも必要であるといえる(木谷ら, 2009)。対象児らの発達的な経過には、多様な要因が絡み合いながら影響を及ぼしていると考えられる。以下に、対象児の発達的経過や後の状況に影響しやすいと考えられる要因をあげる。

1 . 1 . 1 .対象児の認知プロフィールおよび発達上      の障害の傾向による影響 児童のもつ発達上の困難や障害そのもの、例えば認知の偏りや総体としての知的能力等は、根源的な問題として大きく影響すると考えられる。対象児の多くは、認知上の諸能力の偏りや落ちこみを抱えており、それらはWISC-ⅢやK-ABC等の心理アセスメントから把握される。 さらに、学習上の困難を主訴として通級してきている児童であっても、医学的診断の有無にかかわらず、

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傾向として他の発達障害の特質を併せもっている場合も多い。こだわりや対人関係上の困難等から推定される自閉症スペクトラム障害(以下ASD)に関連する傾向や、多動性や衝動性、注意集中の困難や不注意という形で表れる、注意欠如・多動性障害(ADHD及びADD)等に関連する傾向、手先の不器用さや粗大運動での困難等から推定される、発達性協調運動障害(以下DCD)に関連する傾向等、発達障害に関連した傾向は、対象児の学習のみならず日常生活の様々な面に影響を及ぼすため、対象児の発達的経過への影響は大きいと考えられる。 しかし、類似した発達や障害の傾向をもつ児童であっても、指導の効果や後の状況には個人差が大きく、その背景にある多様な要因について丁寧に吟味しつつ、柔軟に指導や支援を展開していく必要がある。その中でも、通常学級における状況や家庭環境等の環境に関連した要因は、特に重要なものであると考えられる。

1 . 1 . 2 .通常学級での状況等の学校内の環境要因      の影響 通級指導を受けている児童らにとって、生活の拠点、通級で学んだ内容の般化の場は、通常学級である。通常学級が、ルールが守られ、いじめのない落ちついた状況であることは重要である。担任教諭の性格や子ども観、障害に関する考え方、年齢や経験、性別、通級に対する理解や考え方等も指導効果を左右する。担任教諭やクラスの児童とその児童との相性のように、時間の経過の中でしか把握できない事項もあるが、前提としての基礎的な状況が整備されていることは、必要不可欠である。

1 . 1 . 3 .家庭環境等の学校外の環境要因の影響 発達障害の傾向のある児童の場合、診断や判定が行われる以前から、養育者は漠然とした育て難さを感じていることが多い。そして、診断後には、育て難さの理由がやっとわかったとほっとする養育者もいる反面、障害特性の理解が困難であったり、障害を受け容れ難い親としての思いが強く表れたりする場合もある。その結果、障害の特性に則しないかかわり方や過度に厳しいしつけや虐待的なかかわり、一方で過保護等、適切ではない養育のあり方が生じてしまう場合もある。 また、養育者自身の性格傾向や発達的特性の影響もある。例えば、養育者の性格的特性から、毎日こつこつと子どもと一緒に取り組むことがし難かったり、留意点をすぐに忘れてしまったり、すぐに子どもに対して感情的になってしまったりする場合や、養育者自身にASD等の発達障害の傾向が疑われる場合もある。そうした場合、養育者の特質が子どもに影響を及ぼす

だけでなく、学級担任等の学校関係者との協働が図り難い場合もある。 その他、家庭の事情から転居が多かったり、単親による養育で子どもへの配慮がし難い状況であったりする場合や、経済的な状況等、多様な要因が、子どもの発達の経過に影響を及ぼし得ると考えられる。

1 . 2 .本研究の目的 これらの諸要因に関して、本稿では、WISC-Ⅲ検査によって示される認知プロフィール及びその他の情報から、対象児の状態像を示し、様々な特性や状況について、その相互の関わりを示しつつ、対象児らの適応の状況・通級指導の効果・後の経過について検討する。そして、これらを通して、LD通級における指導のあり方や、適切な条件整備等について検討することを目的とする。

2.方  法

2 . 1 .研究の方法 LD通級における指導を受けた児童及びLD通級における教育相談を利用した児童について、指導担当者から、WISC-Ⅲ検査結果及び同時期のその児童の臨床的情報(障害やそれに関連する特性の状況、学習面の困難の有無、不登校傾向の有無、家庭環境等に関連する困難の有無、その他の適応状況に関する情報等)を収集し、これらに基づいて対象児らの全体像を示す。 次に、対象児らのWISC-Ⅲプロフィールを分析して、タイプ分類を行う。タイプ分類に際しては、対象児らの検査結果の 4 つの群指数間相互の差について、WISC-Ⅲにおける各群指数間の差として全年齢群において15%水準で有意であるといえる値以上の差をもつものともたないものに分類し、それらの有意差の有無の組み合わせが完全に一致するものを 1 群とする。 3名以上の一致で 1 群として扱うため、群として取り上げない偏りの組み合わせもある。また、FIQ値の差等の影響で子どもの姿としての類似性に乏しい群は割愛する。 そして、同一群の児童らについて、検査結果から推定される子ども像を記述したのち、指導担当者からの情報に基づいて、実際の学校生活の中でみられる姿(指導担当者の所感)、子どもの障害像の分析、指導上の課題、予後(相談・指導後の経過の傾向)について記述し、適応・指導効果・予後に影響を及ぼす要因について検討する。

2 . 2 .対象児について 検討の対象とするのは、A小学校LD通級指導教室での通級指導もしくは教育相談を利用したことのある児童のうち、WISC-Ⅲの検査結果を検討可能な児童

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100名(男児84名女児16名)である。また、通級指導教室については、教室設置数の少なさから、在籍学校以外の学校の通級指導教室に通わざるを得ない児童が多くいるが、自校通級児と他校通級児では、通常学級担任との連携等を含めた総合的支援の体制に差異が大きくなることも課題となっている。本研究における対象児の状況は表 1 の通りである(教育相談の後に通級指導を受けることになった児童は通級指導のうちに含めている)。なお、自校通級の児童の中には、特別支援学級担任との合同の指導の中でSST等の指導を受けたA小学校特別支援学級在籍の児童を含んでいる。

2 . 3 .WISC-Ⅲデータについて 分析の対象としたWISC-Ⅲデータは、主に通級指導教室で実施した検査のものであるが、過去の検査データや外部機関で実施した検査の結果について、保護者等から提供を受けたものもある。検査の実施時期は2000年10月~2010年 7 月であり、就学前のデータから小学校 6 年生までのデータを含む。実施時の年齢は 5歳 5 か月~ 12歳 1 か月である。100名の児童についての126件の検査データであり、24名の対象児の 2 回分の検査結果、1 名の対象児の 3 回分の検査結果を含む。

2 . 4 .同一対象児に関する複数のデータの取り扱い     に関する問題 本研究で取り扱ったデータは126件、100名分であり、同じ対象児に関する複数のデータが含まれている。しかしながら、年齢や発達段階、環境等の多様な要因によって、児童の示す障害の特性等も変化しており、多動の収束と共にASDの特性が顕著になってきた児童等、同じ対象児に関するデータであっても、発達や障害の様態が異なっている場合も多く、そのどちらがその児童の本質を示す姿であるというような断定を行うことも、適切ではない。従って、本研究では、特に断りのない限り、同じ対象児に関する複数のデータもそれぞれ別のデータと捉え、データの件数を数として示す。なお、同一の児童のデータが複数件、同一の群指数グループ内に含まれる場合はなかったため、同じ対象児に関する複数のデータがグループ像に大きな影響を与えている場合はない。 2 . 5 .児童の障害や困難の状況とそのみたてについ    て 児童らのもつ障害については、診断名が医療機関から告げられている場合には、保護者からその旨報告があることも多い。しかし、医療機関での診断を受けていない児童の存在や、機関ごとの診断のあり方の差異

に関する問題等もあって、指導に際しても、障害の状況に配慮するためには、診断名だけを参考にするのでは充分とはいえない。指導担当者が子どもの状況からみたてを行い、指導に反映させているのが実情である。従って、対象児らについて検討する際にも、診断名の集約だけでは児童の実態を反映したものとならない。 よって本稿では、指導を行う担当者のみたて([傾向あり][傾向なし]という判断)から、対象児の障害の状態を分類して、特徴の分析を行った。なお、これらの行動上の特徴は、他の疾患等や環境上の要因等からも生じている場合があり、さらに、診断基準上では、他の障害や疾患の状態のある場合には除外となっているもの(ADHD・ADDとDCDにおけるPDDの診断等)もある。しかし、学校生活の中での教育的支援を検討する際には、臨床的な状況そのものが大きく影響することも踏まえ、こうした問題と関連しての除外は行わずに判断されている。 但し、一般に学習障害(以下LD)と呼ばれる傾向については、通級指導の場においては、その原因が、LDそのものにあるのか、二次的な問題による不適応行動の結果なのか、環境要因の影響が強いのか、発達面での全体的な遅れ(以下MR)にあるのか等について、他の発達的な困難以上に判然としない部分が大きい。従って、LDの傾向の有無という形での判断はせず、学習面での遅れが顕著にみられるかどうかについてを分析の対象とした。 また、これら以外にも、発達障害に関連した適応の困難につながるような特徴をもつ児童も多くいる。それらについても、分析の対象とした。 これらについて、指導担当者がどのような特徴をみたての基準としているかを、以下に記述する。

2 . 5 . 1 .自閉症スペクトラム障害(ASD)の傾向 ASDの傾向については、広汎性発達障害(PDD)についてDSM-ⅣTR等の医学的診断基準に定められるいわゆる「三つ組」の障害の特徴のうちのいくつかがみられるかどうかを基調に判断されている。(1)対人的相互反応における質的な障害については、場面や相手の表情が読めない、相手の様子を気にせず延々と話し続ける、適切に表情を作れない、等が臨床的に目立つ特徴である。(2)コミュニケーションの質的な障害については、発達の遅れの大きい児童は含まれていないため、言葉の遅れの目立つ児童は少ないが、言葉を字義通り捉えてしまう、冗談や皮肉が通じない、等が臨床的に目立つ特徴である。(3)活動と興味の限局性については、こだわりの強さや、○○博士ともいえるような極端に偏った知識等があげられる。

表 1  児童数の内訳

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すい印象がある。具体的な像としては、騒音に対して、耳を塞ぐ等のはっきりとした反応を示す児童ら以外にも、表情がこわばる、不機嫌になる等、その音響との関係が見え難くとも、負の反応を示す児童らも多い。その他、外見的には把握し難くとも過敏である事例、本人の意識的な自覚がない事例等もあると思われるが、日常的な行動観察から聴覚過敏があると判断できるかどうかを基準とした。

2 . 5 . 5 . 2 .眼球運動の問題 北出らは、眼球運動は、 6 歳くらいまでにほぼ完成すると述べているが、小学校入学時点では発達途上の児童らも存在しているとみられる。しかし、成長とともに眼球運動の統合が進み、多くの児童については困難が生じることはない。ところが、発達障害のある児童らについては、そうした発達について、遅れが目立ちやすく、特にDCD傾向がある児童の場合、困難が大きい印象がある。また、こうした傾向には、視覚的認知の問題が重なっていることも多い。そしてこうした問題の結果、板書が写せない、教科書の文字を目で追えない等、読み書き障害の特徴につながっていくと考えられる。 これらの問題については、通級指導教室において実施している眼球運動(追視・跳躍・両眼視)のテストの結果を基準として傾向の有無を判断した。

2 . 5 . 6 .その他の関連する状況2 . 5 . 6 . 1 .不登校の傾向 発達障害の傾向と不登校の関連性は高いと考えられ(加茂・東條, 2010)、LD通級での状況を検討する上でも不登校は無視することのできない問題である。この群の児童らについては、登校渋りの傾向がある児童、短期的・単発的な不登校の時期があった児童らを含めている。

2 . 5 . 6 . 2 .保護者や家庭環境に関連する事項 1.1.3.であげたことから、保護者が子どもの障害や支援の必要性について受けとめられない、家庭学習をサポートできない、かかわりが過度に厳しかったり虐待的であったりする、等の事例や、その他の家庭の事情によって、特に配慮が必要な状況が生じていると考えられる事例を含んでいる。

3 .結果及び考察

3 . 1 .対象児らの全体像3 . 1 . 1 .WISC-Ⅲの結果の全体的特徴 126件のデータについて、平均値を算出したところ、VIQ97.3、PIQ90.4、FIQ93.4で、PIQが低めの結果となった(表 2 )。また、群指数については、言語理解

2 . 5 . 2 .注意欠如・多動性障害(ADHD及びADD)      の傾向 注意欠如・多動性障害の傾向については、ADHD-RS-Ⅳ-Jの項目を参考にみたてを行っている。発達年齢に比して多動・衝動性の傾向が目立つ、もしくは多動・衝動性の傾向と不注意の傾向の両方が目立つ対象児らをADHD傾向群とし、多動・衝動性の傾向はみられないが不注意の傾向が目立つ対象児らをADD傾向群とした。

2 . 5 . 3 .発達性協調運動障害(DCD)の傾向 DCDの傾向については、粗大運動を伴う活動の際の目立った不器用さや、手先の極端な不器用さに加え、日常的な場面で外見的に違和感があるような全身の動きのぎこちなさがある事例についても含めて、DCD傾向群としている。ぎこちなさのある事例については、極度の不器用とはいえないが、新しく習得する動作や活動において配慮が必要であったり、身体を使う活動への取り組み姿勢に影響していたりする事例や、身体面の成長の中で困難が強まったりする事例があるため、群に含めている。

2 . 5 . 4 .学習面での顕著な遅れ 学習面での遅れがみられる児童らについては、LD、MR、環境要因や意欲の問題、二次的な問題等、多様な背景が推定できる。これらの状況に対し、通級指導教室では、必要に応じて各教科の補充指導を行っているが、当該学年の学習内容、特に現在通常学級において指導されている内容について、より丁寧に指導すればよい状況にある児童と、それ以前の学習内容や、前の学年の学習内容についての補充をしなければ、当該学年の現在の学習内容に入れない状況の児童がいる。この差異は、通級指導の場面においてよりも、通常学級に戻った際により顕著に表面化することとなる。後者の児童らは、通常学級での学習に、全くついていけないという困難に直面することになるからである。これらから、前の学年以前の学習内容のフォローが必要である児童、もしくは、当該学年の学習内容を一旦理解したように思われても定着せず混乱しがちであり、結局その後再度の補充学習を必要とする児童について、学習面での顕著な遅れがみられると判断することとした。

2 . 5 . 5 .障害に関連するその他の特徴2 . 5 . 5 . 1 .聴覚過敏 ASDに関して、聴覚を初めとする感覚の過敏が伴うことが多いことはよく知られている。また、ASDに限らず、発達障害の傾向のある児童については、感覚過敏が伴うことは珍しくない。そして、特に聴覚の過敏については、学校生活の中での不適応に繋がりや

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98.1、知覚統合91.2、注意記憶95.2、処理速度96.3と、知覚統合が低めであった。理論上の正規分布と比較したところ、IQ・群指数ともに、70 ~ 79(境界域)のデータが多く、特にPIQ及び知覚統合において、正規分布とのずれが大きい。評価点については、言語性下位検査では、単語(10.0)が最も高く類似(9.1)が最も低い。動作性下位検査では、記号探し(10.1)が最も高く、組合せ(8.1)が最も低い。

3 . 1 . 2 .対象児にみられる障害の傾向1 )ASD傾向について ASD傾向のある児童のデータは80件(63.5%)であった。ASD傾向のある対象児について特徴的な点としては、非ASD傾向群と比較して、全体としてIQ及び群指数が高いことがあげられる。特にVIQ・言語理解について高く、評価点では知識・類似・算数・単語・積木模様・記号探しについて、非ASD群よりも平均で 2 ~ 3 点高い。また、学習面での遅れやADD傾向がみられる児童は少なく、ADHD傾向やDCD傾向、聴覚過敏がみられる児童は多い。

2 )ADHD傾向・ADD傾向について ADHDもしくはADDの傾向のある児童のデータは114件(90.5%)であり、うちADHD傾向群52件、ADD傾向群62件であった。ADHD・ADD傾向群の対象児について特徴的な点としては、非ADHD・ADD傾向群と比較して、全体としてIQ及び群指数が低いことがあげられる。特にPIQ・注意記憶について低く、評価点では算数・絵画配列について、それ以外の群よりも平均値が 2 ~ 3 点低い。IQや群指数における落ちこみはADD傾向群の方が顕著であり、評価点についてはさらに類似・数唱・符号にも落ちこみがある。一方ADHD傾向群では、迷路が低い。その他の状況との関係については、DCD傾向や眼球運動の問題や学習面での遅れがみられる児童が多いこと、環境面での困難のある児童が多いこと等があげられる。

3 )DCD傾向について DCDの傾向のある児童のデータは89件(70.6%)で

あり、うち32件が粗大運動レベルでの困難、23件が微細運動レベルでの困難、34件が全身の動きのぎこちなさが目につく状況であった。DCD傾向のある対象児について特徴的な点としては、非DCD傾向群と比較して、VIQ・言語理解について高く、処理速度が低いことがあげられる。評価点では類似が高い。また、その他の障害や特性との関係については、ASD傾向の児童が多く、眼球運動の問題や聴覚過敏をもつ児童が多いこと等があげられる。

3 . 1 . 3 .学習面での顕著な遅れについて 学習面での遅れが顕著な児童のデータは50件(39.7%)であった。これらの対象児らについて特徴的な点としては、それ以外の対象児と比較して、全体としてIQ及び群指数が低いことがあげられる。特にVIQ・注意記憶について低く、評価点では知識・類似・算数・単語・数唱・積木模様について、それ以外の群よりも平均値が 2 ~ 3 点低い。また、その他の障害や特性との関係については、ADD傾向の児童が多く、ASD傾向の児童は少ない。また、環境面での困難のある児童が多く、不登校傾向のある児童も多い。

3 . 1 . 4 .障害に関連するその他の特性について1 )聴覚過敏のある児童 聴覚過敏のみられる児童のデータは27件(21.4%)であった。聴覚過敏のある対象児について特徴的な点としては、それ以外の対象児と比較して、全体としてIQ及び群指数が高いことがあげられる。評価点では知識と積木模様がそれ以外の群よりも平均値が 2 ~ 3点高い。また、その他の状況との関係については、ASD傾向・ADHD傾向・DCD傾向及び眼球運動の問題がみられる児童が多く、不登校傾向がある児童も多い。

2 )眼球運動の問題がみられる児童 眼球運動の問題がみられる児童のデータは31件(24.6%)であった。これらの対象児について特徴的な点としては、それ以外の群と比較して、ADHD傾向・DCD傾向の児童や聴覚過敏のある児童が多いことがあげられる。また、環境面での困難のある児童も多い。

3 . 1 . 5 .不登校の傾向のみられる児童 不登校傾向のある児童のデータは17件(13.5%)であった。これらの対象児らについて特徴的な点としては、それ以外の対象児と比較して、VIQ・言語理解が高く、評価点では単語が高いことがあげられる。その他の特性との関係については、学習面での遅れが目立つ児童、聴覚過敏をもつ児童、環境面での困難のある児童が多いこと等があげられる。

表 2  IQ・群指数の分布(%)

今西 満子・小山 ありさ・玉村 公二彦 LD通級指導対象児の適応・指導効果・予後に影響を及ぼす要因に関する検討

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1 )WISC-Ⅲ検査結果から推定される子ども像 言語理解<{知覚統合・注意記憶・処理速度}であり、言語理解以外の群指数の間には有意差がないタイプの児童らである。評価点の共通項としては、 3 事例について単語が低い。検査結果から読み取れることとしては、言葉で理解したり話したりする能力が落ちこんでいるため、言葉でのコミュニケーションや言語的な概念の学習に困難を抱えている可能性がある。

2 )実際の学校生活の中でみられる姿 行動面の問題からトラブルが生じることが多いが、その際に言葉での表現が上手くできず手が出てしまうことが、年齢に比して多い子どもたちである。本人なりの理由があってのことであるが、心の中には思いがたくさんあってもそれが上手く言えず、相手を傷つけてしまうので、親や教員も頭を悩ませることになる。

3 )子どもの障害像の分析  4 事例に共通してADHDの傾向がみられ、 3 事例がASD傾向、 2 事例がDCD傾向、 2 事例が学習面の遅れを示しており、 1 事例で眼球運動の問題と聴覚過敏がみられる。児童の発達の問題に早期に気付き、早期支援を行うことが必要な群であるが、実際には、通常学級でトラブルが続き、児童だけでなく、保護者・担任も疲弊した状態で相談に訪れることが多い。

4 )指導上の課題 通級では、小集団での学習から始めた方が効果が出やすいと判断して、小集団で集団のルールを学ぶとともに、言語コミュニケーション力を育てている。 在籍学級の他の児童の状態に左右されやすい児童らであるため、通常学級担任には、児童の特性をしっかりと理解した上で、学習活動に参加できるように配慮するよう伝えている。また、担任の目の届かない状況時には、支援員等が通訳役として児童の思いを代弁したり、一方で衝動的な行動を予想した支援をしたりすることが有効であると思われる。しかし現実には、各学校に配当された支援員は少なく、常駐していないので、このような支援を実際に行える学校は少ない。

5 )予後(相談・指導後の経過の傾向) 二次的な問題(反抗挑戦性障害の傾向等)が顕著に表れて、担任の指導が入らなくなってしまっている場合や、通常学級の状況が悪くトラブルが多発してしまったりする場合は、生活の基盤を通常学級以外に置いて、より落ち着いた状況で丁寧な指導を行えるようにする方が適切である場合が多い。情緒障害という視点から特別支援学級に入級してしまうケースもある。早期支援を行い、環境を整えることができれば、これらの児童の適応状態をより安定させていける可能性を拡

3 . 1 . 6 .保護者や家庭環境に関する困難のある児      童 家庭環境等に関連する困難があり特に配慮が必要な児童のデータは32件(25.4%)であった。これらの対象児について特徴的な点としては、注意記憶の低さ、学習面の遅れ及び眼球運動の問題のみられる児童の多さ、不登校傾向のある児童の多さがあげられる。

3 . 1 . 7 .対象児らの全体像に関する考察 通級指導教室における指導や相談の対象となっている児童らの多くは、(1)学習面での困難、(2)行動面での問題が主訴となっている。(1)は主に、MRやLDに加えて、ADD等による授業参加の困難と関連していると思われる。(2)については、ASD及びADHDとの関連が推定できる。また、(1)と(2)双方の問題を重篤なレベルで併せもつ児童らについては、特別支援学級での指導の必要性が早期に指摘される場合が多く、通級指導教室での支援の対象となり難い。さらに、障害の重なりとして、ASDの児童にDCD等の重なりが大きいこと等を踏まえると、IQや群指数に関する傾斜は概ね説明できると思われる。また、ADDにおける注意集中の困難やADHDにおける衝動性、DCDにおける不器用さなど、障害を直接連想させるようなWISC-Ⅲ結果での落ちこみがみられる。 さらに、認知面での落ちこみと学習面での遅れの関係性が示唆される一方で、環境面での困難も関わって、結果として不登校傾向につながっていたり、あるいは不登校傾向ゆえのさらなる学力不振等を生み出している可能性が指摘できる。また、聴覚の過敏と不登校傾向の関連性についても、二次的な問題ゆえに過敏性が強くなっている児童がいる可能性とともに、聴覚の過敏が学校での居づらさとなって影響している可能性も指摘できる。さらに、家庭環境等との関連については、注意記憶の低い児童の場合、日常の家庭教育やしつけの内容が子どもに伝わり難く「何度言ったらわかるの」という形で関係の悪化に繋がりやすいことが指摘できる一方で、家庭での学習やトレーニングが適切に実施され難い結果、学習面の困難や眼球運動の問題等について、改善され難い可能性が指摘できる。

3 . 2 .群指数の傾向からみた分析3 . 2 . 1 .言語理解だけが低く他に差がない群

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っている言葉の力ではあるが、却って周囲との摩擦を招いている場合があるといえる。また、知覚統合の弱さが、学習面だけではなく、対人関係においても影響している場合がある。

4 )指導上の課題 通級では、主に学習支援と視覚トレーニング、感覚統合訓練の要素をとり入れた全身を動かす活動、及びSSTを行った。通級指導を希望してくる児童は、学習面のつまずきだけでなく、二次的な問題として対人関係(友人や教員)に行き詰まっていることが多い。特に、学習面での困難が小さい児童については、対人関係に関する課題に関する支援が中心となる。この群の児童の場合、支援を始める年齢が遅くなると、対人関係について「自分ルール」を構築してしまっていることが多く、また、一度身につけてしまったルールや価値観を修正するのが難しい。そこで、SSTを行い、適切なスキルの向上を図っている。 学習面については、言語理解以外の群指数が90以上の群(E ~ H)と70 ~ 80の群(I ~ K)で対応が異なり、前者の群には学習支援は行っていない。後者の群については、短期記憶に課題があるので、学習支援の効果が表れ難い。読み書きの困難が大きい事例については、その原因が、知覚統合(視覚的認知)の弱さにあると推測できるので、視覚トレーニングをとりいれている。また、算数の力に弱さのある事例についても、大きく算数障害という括りではなく、計算と推論に分けて考えてみると、計算だけでもできればself-esteemの低下を防ぐことができると捉え、支援を展開している。

5 )予後(相談・指導後の経過の傾向) 児童の発達の特性や特徴を保護者や担任が理解し配慮すれば、安定して生活していくことができるようになり、他の群と比しても経過は良好であるといえる。一方で、言葉の力と学力のアンバランスさの中で周囲の理解が伴わない場合、不登校や反社会的な行動に発展してしまうリスクも、ある程度大きい児童らであると感じられる。 また、学年が上がるにつれ、前の学年以前の学習内容について困難がみられるようになった場合は、通級だけでの支援では対応しきれない部分が大きいため、特別支援学級での支援を視野に入れる必要が出てくる。

げられるといえる。

3 . 2 . 2 .言語理解だけが高く他に差がない群

1 )WISC-Ⅲ検査結果から推定される子ども像 言語理解>{知覚統合・注意記憶・処理速度}であり、言語理解以外の群指数の間には有意差がないタイプの児童らである。評価点の共通項としては、 4 事例について単語が高く、 5 事例について数唱が低い。検査結果から読み取れることとしては、言葉で理解したり話したりする能力は高いが、作業能力や記憶、また視覚的な認知等については、問題を抱えている可能性があり、そこから学習上の困難が生じている可能性がある。

2 )実際の学校生活の中でみられる姿 常に言葉が先行し、自分なりのものごとの理解で行動することが多かったり、他者視点が育っていなかったりするために、結果として対人関係には小さな摩擦を多く抱えているような場合が多く、友人が少なめのことも多い。また、叱られたときにも自分に都合の良いように言い訳したり、嘘をついたり、開き直って多弁に反論してしまうことが多く、周りから疎外されやすい傾向がある。 学習面では、作業能力に困難を抱えていることも多く、話し言葉と比して学力はあまり高くない、等の姿もある。しかし一方で、学習以外の日常生活の様々なことに広く興味をもっており、雑学的な知識が豊富で、大人との会話も豊かに交わすことができる児童らである。 二次的な問題から反抗的な態度を示すようになってしまっている場合等には特に、真のつまずきが見え難いため、担任教諭からだけでなく、保護者からも障害を理解されず、「なまけている」と評価されてしまうことも多い。

3 )子どもの障害像の分析  4 事例がADHD傾向、 3 事例がADD傾向、 5 事例がASD傾向、 5 事例がDCD傾向、 3 事例が学習面の遅れを示しており、 2 名に眼球運動の問題と聴覚過敏がともにみられる。LDや全体的な発達の遅れも含め、多様な問題が交じり合ってこうした姿を示している子どもたちといえる。生き難さに対して、強みとしても

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いて、被害者意識をもっていることが多いので、視点を変えて状況を捉えられるようにしている。狭い視野で物事を捉えてしまうため、友人関係の中で疎外感をもったり勘違いしたりすることが多いので、配慮が必要である。 視覚認知の困難な事例では、漢字の指導については、色鉛筆を使い、線の交差を見えやすくしたり、聴覚記憶の強さを活用し、部首の足し算クイズ等を通じて学習したりすることで、「漢字が見えた」という感想を聞くことがある。また、様々な視覚トレーニングを取り入れているが、毎日10分間行うことが必要といわれているので、家庭の協力が不可欠である。 通常学級担任に対しては、視覚認知の状況に合わせ、具体的な配慮の必要性を伝えている。特に、図形の学習の際には、立体図形の見取り図が本児らには三次元には見えないこと等も、配慮すべきことの一つである。

5 )予後(相談・指導後の経過の傾向) 保護者が、家庭学習や視覚トレーニングを辛抱強く継続的に取り組めるかどうかが、後の経過の違いに大きな影響を与えているという印象がある。また、几帳面で真面目なタイプの児童が多いので、障害も含めた自己理解ができた事例では、自分なりの学習方法を見つけて、自分の課題にこつこつと取り組むことができている。  5 年生のときに二次的な問題の出現から指導を始めた事例では、指導後、自己理解を深められ、卒業後の現在は、気の合う友人を上手く見つけられるようになり、教師や友だちの性格を分析して良好な関係を保ちながら、自分の特技(スポーツや趣味)を見つけ、クラブ活動や余暇活動を楽しんだりしているという。

3 . 2 . 4 .知覚統合だけが高く他に差がない群

1 )WISC-Ⅲ検査結果から推定される子ども像 知覚統合>{言語理解・注意記憶・処理速度}であり、知覚統合以外の群指数の間には有意差がないタイプの児童である。評価点の共通項としては、 2 事例で絵画配列が高く、 3 事例ともに符号が低い。検査結果から読み取れることとしては、視覚的な情報の読みとりには強さがあるが、それを記憶として保持することや、言葉でのコミュニケーションを使いこなし周囲の状況と調和させていく際には困難がみられる可能性がある児童らである。

3 . 2 . 3 .知覚統合だけが低く他に差がない群

1 )WISC-Ⅲ検査結果から推定される子ども像 知覚統合<{言語理解・注意記憶・処理速度}であり、知覚統合以外の群指数の間には有意差がないタイプの児童らである。評価点については評価点平均との有意な差に関する共通項はあまりみられないが、絵画完成と絵画配列で 8 事例、積木模様で 7 事例、組合せで 6 事例が、動作性検査評価点平均と比較した際に低めの値を示しており、全体として知覚統合に関わる下位検査項目で低得点であったといえる。検査結果から読み取れることとしては、視覚的な認知に弱さがあるため、読み書き等における困難が生じやすいと考えられる。

2 )実際の学校生活の中でみられる姿 書字に困難のある児童が多い。空間的な概念に弱く、図形や立体等の学習の際には困難がみられやすい。一方で、言葉の力が高いためか、対人関係においては自分から過度で不適切なかかわりをしてしまい他児とのトラブルが目立つケースも多い。例えば、自分ができないことがあるにもかかわらず、他児の非やできていないことをみんなの前で指摘してしまう等の姿がみられる児童がいる。こうした中で親しい友人ができ難く、被害者意識を強くもつ等、ストレスを抱えることになってしまいやすい。また、通常学級の人間関係において、低位に置かれやすい児童らであるといえる。

3 )子どもの障害像の分析  5 事例がADHD傾向、 4 事例がADD傾向、 5 事例がASD傾向、 9 事例がDCD傾向、 4 事例が学習面の遅れを示しており、 5 事例に眼球運動の問題、 1 事例に聴覚過敏、 1 事例に不登校傾向がみられた。多様な困難の混じり合った姿のみられる児童らであるが、DCD傾向や眼球運動の問題とも関わる形で、書字障害等のLDの状態を示している児童らが多い。

4 )指導上の課題 通級指導教室では、主にSSTと視覚トレーニングと漢字の指導を行う。また、図形の単元は、個別指導で学習補充する必要がある。知覚統合が90以上あれば、学習には大きな支障はないような印象がある。 SSTでは、身近に起きた対人関係上のトラブルにつ

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1 )WISC-Ⅲ検査結果から推定される子ども像 注意記憶<{言語理解・知覚統合・処理速度}であり、注意記憶以外の群指数の間には有意差がないタイプの児童である。評価点の共通項としては、算数の大きな落ちこみが 3 事例ともにみられ、言語性検査評価点平均から3.8~5.7点低い。検査結果から読み取れることとしては、聴覚的な認知や記憶に弱さがあり、人の話が聞き取れない、覚えていられない、等の姿がみられる可能性がある。

2 )実際の学校生活の中でみられる姿 対人関係や行動面では大きな問題がみられないことが多いが、学習面での遅れは目立ちやすい。理解力等はしっかり備えていると思われる児童であっても、定着がし難い、勉強してもなかなか伸びない、という姿がある。他児と上手くいっていることも多いことから、単に話を聞いていないためにすべきことができていない児童と捉えられやすく、困難に早めに気付き対応しないと、self-esteemの低下を招きやすい。

3 )子どもの障害像の分析  3 事例ともにADD傾向があり、2 事例でASD傾向、1 事例でDCD傾向・学習面での遅れ・聴覚過敏・不登校傾向がみられる。不登校の例については、環境要因との絡みもあって二次的な困難が大きくなっている事例といえる。

4 )指導上の課題 通級では、この群の児童らに対しては、個別指導を重視している。言葉の音韻と文字と実物のマッチングをさせながら、未学習の語彙を丁寧に拾っていく必要がある。つまずきを丁寧に指導し、毎日繰り返し指導すれば、当該学年の学習についていけると思われる。そのため、通級だけでの指導では補いきれないので、保護者の協力は不可欠である。発音に問題がある事例では、入学前に保護者が発達の問題にも気付きやすいので、通級等の支援を受けながら、保護者も家庭学習を丁寧に行った。このような保護者の理解と協力で、発達の状況は違ってくると思われる。また、通級による支援で対応するためには、 2 年以上は必要であると感じている。変化したといっても、障害が消えたわけではないので、環境の調整が必要になってくる。通常学級担任には、指示を与える際の配慮の必要性を伝えている。

5 )予後(相談・指導後の経過の傾向) 障害の発見の時期や保護者・通常学級担任の対応によって、self-esteemの状況が変わり、後の経過に影響すると思われる。発音に問題がなかったこともあって5 年生まで注意記憶の問題に気付かれず、叱責だけが

2 )実際の学校生活の中でみられる姿 周囲の状況を気にかけられず、自分の思いのままに行動してしまっていることの多い児童らである。自分の意図の中で楽しげに行動していても、周囲から見ると大変なことをしてしまっている場合もあり、落ち着きのなさや幼さも感じさせる。

3 )子どもの障害像の分析  3 事例ともにADHD傾向があり、 1 事例がASD傾向、 2 事例がDCD傾向、 2 事例が学習面での遅れを示している。ADHD傾向のある児童らの中でも、気質そのものにADHDらしさを感じさせる児童らという印象がある。行動面の幼さが感じられ、検査上の数値からの印象よりも、実際の姿からの印象の方が気がかりな点が多い。言語理解だけが低い群(3.2.1.)よりも更に環境要因に左右されやすい児童らであるといえる。

4 )指導上の課題 視覚的な認知は強いものの、注意記憶の弱さがあるので、一斉指導では指示が聞けないタイプといえる。しかし、視覚的な支援があれば一人で学習できる面もあるので、周りの児童が落ち着いた学級では、比較的安定して活動できると思われる。静かな環境で、視覚的な支援を活用しながら、集団のルールや学習のルールを身につけられるようにすることが、有効であると考えられ、それが困難な通常学級の状態であれば、早期に、小集団でのSSTを通じて、学習のルールを獲得させることが望ましいといえる。しかし、集中して学習ができる時間を延ばしていくためには、毎日の指導が必要であるので、週1回の指導だけでは効果が出難く、通級による支援だけでは困難な面がある。

5 )予後(相談・指導後の経過の傾向) 通常学級の状態が、騒然として、行動面が幼い児童が多くいるような環境では、二次的な困難に陥りやすいため、環境の整備が重要なポイントとなる児童らであるといえる。環境が合わず、特別支援学級に移籍する場合もある。

3 . 2 . 5 .注意記憶だけが低く他に差がない群

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大きな問題行動がみられる時期もあった。

4 )指導上の課題 通級においては、SSTを行うことを通して、対人関係において、適切なかかわりと自己表現力を身につけさせている。自分の考えをみんなにわかるように発表する等を通して、self-esteemを高めるように心がけている。

5 )予後(相談・指導後の経過の傾向) 小学校で自信をもって過ごしていた事例についても、中学での学力の伸びは、それほど大きくない様子がみられた。対人関係においても、言葉づかいに柔軟さを欠いたり、人見知りが強くなったりして、ぎこちなさが生じてしまっていた。小学校卒業後にも、継続した通級指導が必要であったと思われる。

3 . 2 . 7 .処理速度が高い群

1 )WISC-Ⅲ検査結果から推定される子ども像 処理速度>{言語理解・知覚統合・注意記憶}であり、また注意記憶<知覚統合で、それ以外には有意な差はない児童である。評価点の共通項は特にみられない。検査結果から読み取れることとしては、聴覚的な処理よりも視覚的な処理に強さがあり、その中でも具体的な作業等では強さがみられる可能性が高い児童らである。

2 )実際の学校生活の中でみられる姿 クラスの中では、学習面で多少困難がみられる場合もあるということ以外には、行動面でのトラブルもなく、困難が目立ち難い児童らである。教員の話等は聴けていないことが多いが、他の児童の姿を見てついていくことができている。しかし、一見うまくいっているにもかかわらず、詳しく尋ねてみると善悪の判断等での理解の弱さがある場合も多い。

3 )子どもの障害像の分析  3 事例ともにADD傾向がみられ、2 事例でASD傾向、また、DCD傾向と学習面での遅れがそれぞれ 1事例でみられる。評価点のばらつきもあり、応用の苦手さのある事例、漢字を覚えるのが得意な事例、計算のやり方はわかるが文章題(意味を捉えた上での推

繰り返されてきた事例では、宿題をやってこない理由や忘れ物の多さを「無責任」「なまけている」と評価されてきていた。しかしそれでも、小学校では、担任がほとんどの授業を行うことや「わからないときはすぐに尋ねる」という学習のルールが明文化されていたこともあり、授業中に聞き逃したことをすぐに尋ねることができる雰囲気があった。しかし、中学校では、授業者が教科ごとに替わることや人間関係が築き難かったこと、家庭学習の習慣が定着していなかったこと等が重なってしまい、不登校になってしまった。

3 . 2 . 6 .注意記憶だけが高く他に差がない群

1 )WISC-Ⅲ検査結果から推定される子ども像 注意記憶>{言語理解・知覚統合・処理速度}であり、注意記憶以外の群指数の間には有意差がないタイプの児童である。評価点の共通項としては、 3 事例で理解が落ちこんでいる。検査結果から読み取れることとしては、聴覚的な情報の入力には強さがあるものの、その蓄積は上手くいかない場合も多く、視覚的な情報処理には困難を抱えている可能性がある。

2 )実際の学校生活の中でみられる姿 行動がゆっくりでおとなしいが、特に問題がないとみられることが多い児童らである。集団指導では上手く習得できないことであっても、個別に指導すれば、何時間かけてでもすべきことをきちんとこなすような、辛抱強さのある児童が多い。また、プロフィールとの直接の結びつきが薄いため丁寧な検討が必要ではあるが、臨床像としては本児らは、自己表現力が乏しく自信のなさも見える児童らであった。 保護者が発達上の困難にいつの時点で気付き、適切な支援を行ってきたかで、児童の状態像の差が大きい印象がある。特に、入学前に保護者が教育相談に訪れた事例等では、保護者が柔軟に対応できるようになっているため、児童の状態は安定している。

3 )子どもの障害像の分析  1 事例にADHD傾向、 3 事例にADD傾向、 3 事例にASD傾向、 1 事例に眼球運動の問題がみられ、 4事例ともにDCD傾向がある。多動さのある事例でもあまり強いものではない(着席していても手足が動く程度)。一方で、虐待等の問題との関連のある事例では、

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での遅れが 1 事例でみられる。聴覚過敏が 2 事例でみられるが、その 2 事例ともに不登校の傾向がある。言葉に強さをもつアスペルガータイプのASD圏の児童らであり、言語的な理解力は高いが、相手の気持ちやその場でとるべき行動について、丁寧に指導していく必要性が強く感じられる児童らである。また、保護者の適切な対応の重要性も高い児童らである。

4 )指導上の課題 通級で行うSSTの授業では、理解も早く、正しい意見をすらすら発表できるが、日常生活での般化が難しいタイプの児童らであるといえる。個人差はあるが、2 年以上のSSTを行わないと効果をあげ難いという印象がある。 言葉の力の高さもあって高い課題設定をされ、幼少期から失敗経験を積み重ねている場合も多く、self-esteemが極度に低下しているケースでは、不登校傾向に陥っていることもある。そうした事例に対しては、通級において、自信を回復しやすい異年齢小集団で上級生とともに学習することを取り入れている。自分の得意な学び方を使って当該学年以上の学習に参加することによって、self-esteemの向上を図る。併せて、自分に苦手なことがあることを理解すること、SSTやゲーム等を通して自己調整力を身につけることにも取り組んでいる。徐々に通常学級で学習できるようになっていくが、対人関係については不満がたまっていくので、通級では、具体的にそのできごとの捉え方(認知の仕方)を指導している。

5 )予後(相談・指導後の経過の傾向) 学級の中で学習活動に参加することのストレスが理解され難いため、不登校傾向が収まると、通級する必要がないと判断されやすい。しかし、高い言葉の力と弱さのある対人関係の力とのギャップが大きいため、丁寧な指導を行って力をつけていく必要性が高いという印象がある。

3 . 2 . 9 .群指数間に有意な差のない群

1 )WISC-Ⅲ検査結果から推定される子ども像  4 つの群指数間に有意な差のない児童である。評価点の共通項は特にみられない。聴覚的・視覚的な情報処理の間に差がみられず、全体として同じような水準の力をもっていると考えられる。しかし、評価点で知

論・思考)ができない事例等、背景には多様さがみられる。

4 )指導上の課題 通級では、個別で算数の学習補充を中心に指導した。SSTは、聴覚的な処理とイメージ力が必要であるので、小集団であっても、学習に積極的に参加し内容を理解するのが難しかった。

5 )予後(相談・指導後の経過の傾向) 学習面での多少のつまずきはあるものの、担任の配慮があれば、通常学級で元気に過ごしている。

3 . 2 . 8 .言語性の能力が優位な群

1 )WISC-Ⅲ検査結果から推定される子ども像 {言語理解・注意記憶}>{知覚統合・処理速度}であり、言語性の能力が優位なタイプの児童である。評価点の共通項は特にみられない。検査結果から読み取れることとしては、聴覚的な情報処理に強さがあり、逆に視覚的な情報処理には全体として弱さがある可能性がある。

2 )実際の学校生活の中でみられる姿 耳で聞き、頭でわかっていることが、実際に作業に入ろうとすると、わからない、不器用さもあってできない、という姿があり、プライドが高い傾向もあるため、他児から弱さを指摘されると、回復できないくらい落ち込んでしまうことが多く、self-esteemが極度に低下しやすい児童らであるといえる。周囲との摩擦もあるが、暴力を他人に向けたりするよりも、自分が泣き出してしまう等、自分を責めていってしまっているようにみえるタイプの児童が多い。友人をつくりたいと願って行動するが、一方で自分の思いを通したいという葛藤があって、相手に合わせられず、上手くいかない、というような姿がある。大きなトラブルを起こすこともなく、学習面で問題がないことも多いので、担任からは、「わがままな子」という評価をされやすい。

3 )子どもの障害像の分析  5 事例ともにASD傾向があり、ADHD傾向とADD傾向がそれぞれ 2 事例、DCD傾向が 4 事例、学習面

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ばせたいという希望が強く出されたため、特別支援学級に在籍している。

3 . 2 .10.群指数の傾向からの考察 126件のデータについて、WISC-Ⅲの群指数の傾向のみで分類を行ったが、児童の実態像としては同一群において重なる部分が多く、特に、知覚統合だけが低い群(10件)のように、LD通級における指導や相談の対象となる児童の中に多くみられる偏りの傾向もあり、群ごとの検討の成果を今後の指導に活かしていくべきであるといえる。 また、どの群にも共通していえることとしては、第一に、早期の対応の重要性があげられる。例えば、学習に困難が生じやすい傾向の児童については、通級を開始した年齢と保護者との関係の状況で指導の効果の違いが出やすい。通級開始の年齢が低いほど、学習の遅れが少ないので、認知の特性に合わせた指導を行うことで、当該学年の課題に遅れることなく学習を進めていける。加えて、保護者との関係も含めた二次的な困難も重篤化していないので、効果が出やすいといえる。第二に、通常学級の状況の整備や通常学級担任との連携の重要性が指摘できる。通級児に対する通常学級担任による具体的な指導上の配慮はもちろん重要であるが、例えば、担任の障害観や通級指導に関する考え方は、他児の対象児らに対するまなざしに影響を及ぼしやすい。一方で、特に他校の通級児の場合、連携がより図り難いという状況があり、今後の課題となっている。第三に、家庭との連携の重要性があげられる。家庭学習を習慣づけるだけでなく、通級指導教室での指導内容を定着させるためのトレーニング等に関しては、家庭の担う役割が大きい。例えば、眼球運動や視知覚に関する困難をもつ児童らについては、アセスメントを行いトレーニング内容を設定しても、保護者の協力が得られない場合は訓練を毎日続けることが難しく、そうした事例では、週 1 回の通級指導だけでは効果があがり難い。保護者の協力が得られる場合は、視覚トレーニングを継続できるだけでなく、その日の学習の復習(宿題)が家庭で行える。その結果、視覚認知の改善を図りながら、通常学級の学習についていくことができる。 こうしたことから、児童の指導のみならず、発達上の困難の早期の把握や支援の早期開始、通常学級との連携、保護者との連携や保護者支援等、地域や校内の体制としての整備が重要であることが指摘できる。また、予後についても、卒業後に支援の体制が整わずより大きな困難に陥ってしまった事例もあることを踏まえ、早期からの継続した支援を一貫して行うための条件整備は、喫緊の課題であると考えている。

識15点に対し理解 5 点の事例、数唱12点に対し算数 6点の事例、絵画配列14点に対し組合せ 6 点の事例、絵画配列13点に対し絵画完成 5 点の事例、記号探し18点に対し符号 2 点の事例等、同じ群指数に対応する下位検査項目の中でのばらつきが他の群と比較しても非常に大きい事例もみられ、丁寧な検討が必要であるといえる。

2 )実際の学校生活の中でみられる姿 認知の偏りが比較的小さいこともあってか、他の群の児童らと比較すると、学習面で困難が目立つことは少なく、友だち関係も良好にみえることが多い児童らである。しかし、そうした中で突然の爆発的なパニックや周囲を驚かせるような行動等を含む周囲とのトラブルや、不登校傾向(登校渋り)が出始めたことによって、相談や通級につながってきた児童らである。

3 )子どもの障害像の分析  2 事例にADHD傾向、 5 事例にADD傾向、 6 事例にASD傾向、 5 事例にDCD傾向、 1 事例に学習面での遅れ、1 事例で眼球運動の問題、2 事例に聴覚過敏、1 事例に不登校の傾向がみられる。様々な障害の傾向が重なり合っているが、強い傾向として問題行動に発展することが少ない。

4 )指導上の課題 群指数間の有意差がみられないため、児童が感じている生きづらさや違和感が見落とされがちであるが、評価点間に大きな差がある事例では、それらを考慮しながら指導を行う必要がある。そうした点から、機関間の申し送りで下位検査評価点なしに所見が出される場合では、十分な検討がし難い。 対人関係に蓄積的な混乱を抱えている事例も多いが、能力面での落ちこみが小さいため、通級してSSTを受けると早期に効果が出ることも期待できる。学習に問題が出難い上に、二次的な問題が生じていても大きなトラブルに発展することが稀であるため、各種のトラブルに対しても、その都度担任が個別指導していることが多い。また、眼球運動に問題がある事例では、専門機関で訓練を受ける等、個々の状況に合わせた対応も必要である。

5 )予後(相談・指導後の経過の傾向) ほとんどのケースでは、配慮の必要な児童という形で、通常学級で学んでいる。また、課題が多く生じていたため通級指導が必要と判断されて指導を受けた児童も、小学校を卒業後中学校では、個別の支援を受けることなく、元気に過ごしている。発達面でややゆっくりめであり不登校傾向がみられた児童については、保護者の不安が高く、その子のペースでゆっくりと学

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4 .今後の研究課題

 本稿においては、LD通級における児童らの状況について、横断的な検討を行ったが、実際の指導の効果の検討や、更なる指導方法の開発等のためには、縦断的な分析・検討を行うことが必要である。指導内容としては、自己・他者の理解やルールの学習を含むSSTや、視覚・聴覚等の認知上の問題に対応する指導、学習面での補充など、児童らの個々の状況に対応する指導内容を組み合わせて行ってきているが、指導の効果を適切に測定する手段についても、更なる検討が必要であると考えている。 また、本稿においてはWISC-Ⅲに関しては群指数を主に扱ったが、群指数間に有意な差のない群(3.2.9.)でも取り上げたようにして、群指数だけでは見えてこない偏りや困難もある。こうしたことから、下位検査項目の評価点レベルからの丁寧な検討の必要性も指摘できる。 さらに、通級指導の時間数等の形態については、自校の通級児と他校の通級児で異なり、通常学級担任との連携や保護者との関係性も、自他校での差異が大きい。臨床的な印象としてはそれが指導の効果と関係しているように感じているが、それらについての検討も、今後の課題であるといえる。

倫理的配慮について・謝辞

 本研究において、対象児となっている児童らに関連する情報の使用に際しては、WISC-Ⅲ検査結果を含め、個人が特定されないようにした上で使用することを、論文執筆に際して、対象となっている児童らの保護者に個別に要請し承諾を得ています。ご協力くださいましたA小学校LD通級指導教室の通級児童保護者の皆様、及びその他関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。

参考文献

本多和子・北出勝也(2003) 「見る」ことは「理解する」こと―子どもの視覚機能の発達とトレーニング. 山洋社

今西満子・玉村公二彦(2010) 奈良市におけるLD通級指導教室の現状と指導の展開. 奈良教育大学教育実践総合センター研究紀要 第19号. pp.167-172

加茂聡・東條吉邦(2010)発達障害と不登校の関連と支援に関する現状と展望. 茨城大学教育学部紀要(教育科学)59号. pp.137-160

計良由香(2008)軽度発達障害児の指導および特別支援教育について. 特殊教育学研究46(1). pp.11-18

今西 満子・小山 ありさ・玉村 公二彦 LD通級指導対象児の適応・指導効果・予後に影響を及ぼす要因に関する検討

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